説明

自己過熱保護機能を備えた電動モータおよびこの電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置

【課題】過熱保護機能を備えた電動モータにおいて、外部への配線および外部モニタ装置を不要とするとともに、過熱保護機能を電動モータの内部で自立的に作動させる。
【解決手段】電子制御ユニット70に設けられた第1スイッチング素子74を介して電源78に接続される電動モータ30のモータケーシング30a内に第1抵抗76と第2抵抗77を設ける。第2スイッチング素子は電動モータおよび電源と直列に接続され、モータケーシング30a内の温度が所定温度よりも高くなれば遮断されて電動モータを停止させ、所定温度よりも低くなれば導通されて電動モータを作動させる。電源は直流電源とし、第2スイッチング素子は電界効果トランジスタよりなるものとし、第1抵抗76はサーミスタとするのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が所定値以上となれば自立的に作動を停止する自己過熱保護機能を備えた電動モータおよびこの電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用ブレーキ制御装置で油圧を生成するポンプを駆動する電動モータでは、車両の使用条件によっては長時間連続して運転されることがあり、また電動モータを駆動するスイッチング素子が導通したままとなる故障が生じた場合にも電動モータが停止しなくなることがあり、そのような事態が生じると電動モータが過熱されて悪影響を与えるおそれが生じる。このような問題を回避する技術としては、例えば特許文献1(特開平11−234964号公報)に示す技術がある。この特許文献1では、電動モータの過熱を防ぐために、電動モータの発熱部位付近であるケース本体の一端側に設けられた絶縁基板にサーミスタを取り付け、サーミスタにより検出した温度をリード線を介して外部の制御装置に送信し、検出温度が予め設定されている設定温度を越えれば電動モータの駆動を停止するようにしている。
【特許文献1】特開平11−234964号公報(段落〔0002〕〜〔0003〕、段落〔0020〕、段落〔0029〕〜〔0030〕、図1〜図4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1では、サーミスタにより検出した温度をリード線(配線)を介して外部の制御装置(外部モニタ装置)に送信して、検出温度が予め設定されている設定温度を越えれば電動モータの駆動を停止するようにしており、送信のための配線および外部モニタ装置を必要とするので、構造が複雑化し、製造コストが上昇するという問題がある。
【0004】
本発明はこのような配線および外部モニタ装置を不要とし、電動モータの過熱保護装置の構造を簡略化して製造コストを低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、電子制御ユニットに設けられた第1スイッチング素子を介して直流電源に接続されて給電される電動モータにおいて、電動モータのモータケーシングに設けられ、電動モータおよび直流電源と直列に接続された電界効果トランジスタよりなり、電動モータへの導通、遮断を切り替える第2スイッチング素子と、モータケーシング内に設けられ、互いに直列接続された電動モータと第2スイッチング素子に対し並列に接続され、該モータケーシング内の温度に応じて抵抗値が変化する第1抵抗と、モータケーシングに設けられ、第1抵抗と直列に接続されかつ互いに直列接続された電動モータと第2スイッチング素子に対し並列に接続された第2抵抗と、を備え、第1抵抗と第2抵抗の中間部を第2スイッチング素子のゲートに接続し、第1スイッチング素子が導通された状態では、モータケーシング内の温度が所定温度よりも高くなれば第2スイッチング素子が遮断され、所定温度よりも低くなれば導通されることである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、第1抵抗はモータケーシングの給電側となるカバー内に設けたことである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、第2スイッチング素子および第2抵抗はモータケーシング内に設けたことである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、第1抵抗は所定温度を越える温度−抵抗値勾配が所定温度未満の温度−抵抗値勾配より大きいものであり、第2スイッチング素子は中間部の電圧であるゲート電圧が正の所定電圧しきい値より小さいと遮断され、正の所定電圧しきい値より大きいと導通されることである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の自己過熱保護機能を備えた電動モータにより、車両用ブレーキ制御装置で油圧を生成するポンプを駆動する過熱保護装置を備えた電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、モータケーシング内に設けられて温度に応じて抵抗値が変化する第1抵抗が、電動モータと直列に接続された電界効果トランジスタである第2スイッチング素子のゲート電圧を変化させている。モータケーシングに設けられて電動モータと直列に接続された第2スイッチング素子は、モータケーシング内の温度が所定温度よりも高くなれば遮断されて電動モータを停止させ、所定温度よりも低くなれば導通されて電動モータを作動させるので、第1スイッチング素子が導通された状態でも、電動モータは自立的に間欠作動され、過熱されることはない。また送信のための配線や外部モニタ装置を必要としないので、この電動モータを使用する機器の構造が簡略化され、製造コストを低下させることができる。電界効果トランジスタのゲート電圧を変化させる回路はきわめて簡単なものとなるので電動モータの過熱保護装置の構造はさらに一層簡略化され、製造コストをさらに一層低下させることができる。
【0011】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、電動モータの発熱部となるブラシが収められているモータケーシングの給電側となるカバー内に第1抵抗を設けたことで、温度検出部である第1抵抗がブラシの近傍に配置されかつ電気的にも接続されるので、モータケーシング内の高温部分となるブラシの温度を検出することができる。
【0012】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、第2スイッチング素子および第2抵抗は、第1抵抗と同じくモータケーシング内に設けたので、これら部品を予めユニットとして製造し、さらにモータケーシング内に一辺に容易に取り付けることができる。
【0013】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、第1抵抗は所定温度を越える温度−抵抗値勾配が所定温度未満の温度−抵抗値勾配より大きいものであり、第2スイッチング素子は中間部の電圧であるゲート電圧が正の所定電圧しきい値より小さいと遮断され、正の所定電圧しきい値より大きいと導通されるので、第2スイッチング素子のゲート電圧−ドレイン電流特性と第1抵抗の温度特性を適切に利用して簡単な回路構成で自立した電流遮断機能を得ることができる。
【0014】
車両用ブレーキ制御装置で油圧を生成するポンプを駆動する電動モータは、車両の使用条件によっては長時間連続して作動されることがあり、また電動モータを駆動するスイッチング素子が導通したままとなる故障が生じた場合にも電動モータが停止しなくなることがあり、そのような事態が生じると電動モータが過熱されてモータ不作動といった悪影響を与えるおそれが生じる。しかし上記のように構成した請求項5に係る発明においては、そのような事態が生じても、車両用ブレーキ制御装置のポンプを駆動する電動モータのモータケーシングに設けられた第2スイッチング素子は、同じくモータケーシング内に設けられた第1抵抗によってモータケーシング内の温度が所定温度よりも高くなれば遮断されて電動モータを停止させ、所定温度よりも低くなれば導通されて電動モータを作動させるので、電動モータは自立的に間欠作動し、モータは停止することもなく過熱されることもない。また送信のための配線や外部モニタ装置を必要としないので、この電動モータを使用したブレーキ制御装置の構造が簡略化され、製造コストを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による自己過熱保護機能を備えた電動モータおよびこの電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置Aの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1に示すブレーキ制御装置Aは、いわゆる液圧式の車両用ブレーキ制御装置において、液圧供給源からの液圧によってマスタシリンダ内のブレーキ油を昇圧させる液圧ブースタタイプのものである。ブレーキ制御装置Aは、ブレーキペダル11の踏み込み操作に応じて第1および第2出力ポート10a,10bからブレーキ油を圧送する液圧ブースタ付きのマスタシリンダ10を備えている。マスタシリンダ10の第1出力ポート10aは、電磁弁12,13が非通電状態(図示状態)にあるときは第1油路L1および電磁弁12,13を介し左前輪FL用のホイールシリンダWCflに連通しているとともに、電磁弁14,15が非通電状態(図示状態)にあるときは第1油路L1および電磁弁14,15を介して右前輪FR用のホイールシリンダWCfrに連通している。電磁弁12,14は、後述するECU(電子制御ユニット)70からの指令に基づく通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCfl,WCfrに連通する油路を第1油路L1と後述する高圧油路LHとの間で切り換えるものである。また電磁弁13,15は、同様の通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCfl,WCfrに対して第1油路L1又は高圧油路LHを連通および遮断するものである。
【0017】
マスタシリンダ10の第2出力ポート10bは、電磁弁16,17が非通電状態(図示状態)にあるときは第2油路L2および電磁弁16,17を介して左後輪RL用のホイールシリンダWCrlに連通しているとともに、電磁弁16,18が非通電状態(図示状態)にあるときは第2油路L2および電磁弁16,18を介して右後輪RR用のホイールシリンダWCrrに連通している。電磁弁16は、ECU70からの指令に基づく通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCrl,WCrrに対して第2油路L2を連通および遮断するためのものである。また電磁弁17,18は、同様の通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCrl,WCrrに対して第2油路L2又は高圧油路LHを連通および遮断するものである。
【0018】
また、ブレーキ制御装置Aは、電動モータ30により駆動されるポンプ19を備えている。ポンプ19は、リザーバタンク20内のブレーキ油を吸入してアキュムレータ21に圧送し、液圧供給源としてのアキュムレータ21内は常に一定の油圧に保たれている。。アキュムレータ21は、高圧油路LHを介して電磁弁22に接続されている。電磁弁22は、非通電状態(図示状態)にあるときは高圧油路LHを閉止するとともに通電状態にあるときは高圧油路LHを電磁弁12,14,17,18に連通させるものである。アキュムレータ21は、電磁弁22,12が通電状態となりかつ電磁弁13が非通電状態にあるときは高圧油路LHおよび電磁弁22,12,13を介して左前輪FL用のホイールシリンダWCflに連通し、電磁弁22,14が通電状態となりかつ電磁弁15が非通電状態にあるときは高圧油路LHおよび電磁弁22,14,15を介して右前輪FR用のホイールシリンダWCfrに連通し、電磁弁22が通電状態となりかつ電磁弁17が非通電状態にあるときは高圧油路LHおよび電磁弁22,17を介して左後輪RL用のホイールシリンダWCrlに連通し、電磁弁22が通電状態となりかつ電磁弁18が非通電状態にあるときは高圧油路LHおよび電磁弁22,18を介して右後輪RR用のホイールシリンダWCrrに連通する。
【0019】
また、アキュムレータ21は、高圧油路LHを介して、マスタシリンダ10の入力ポート10cに連通している。入力ポート10cから導入された高圧ブレーキ油はマスタシリンダ10に内蔵のレギュレータ10dおよびブースタ室10eを通って第2出力ポート10bから導出される。ブースタ室10eに圧力が導入されるとブレーキペダル11の踏力が助勢される。
【0020】
各電磁弁13,15,17,18とホイールシリンダWCfl〜WCrrの間からは、電磁弁23〜26を介して、リザーバタンク20に接続された低圧油路LLが分流している。電磁弁23〜26は、ECU70からの指令に基づく通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCfl〜WCrrに対して低圧油路LLを連通および遮断するものである。
【0021】
また、ブレーキ制御装置Aは、第1油路L1、第2油路L2および高圧油路LHの油圧をそれぞれ検出する液圧計27,28,29を備えている。なお、電磁弁13,15,17,18は各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに対する増圧手段であり、電磁弁23〜26は同じく減圧手段であり、電磁弁12,14は切換手段であり、電磁弁22は高圧開閉弁手段であり、電磁弁16は後輪切換手段である。また、切換手段、後輪切換手段、高圧開閉手段は、増圧手段および減圧手段とマスタシリンダ10との間に設けられて、ホイールシリンダWCfl〜WCrrとマスタシリンダ10とを連通しホイールシリンダWCfl〜WCrrとアキュムレータ21とを遮断する状態と、ホイールシリンダWCfl〜WCrrとマスタシリンダ10とを遮断しホイールシリンダWCfl〜WCrrとアキュムレータ21とを連通する状態とに切り換えるものである。また、本実施の形態においては減圧手段である電磁弁23〜24が排出手段である。
【0022】
さらに、ブレーキ制御装置Aは車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrを備えている。車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、車輪FL,FR,RL,RRに付設されており、各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度を検出して制御装置70に送信している。
【0023】
さらに、ブレーキ制御装置Aは、例えば車両のダウンヒルアシスト制御をオン・オフするためのスイッチであるダウンヒルアシスト制御スイッチ81を備えている。ダウンヒルアシスト制御スイッチ81のオン・オフ信号は制御装置70に送信されるようになっている。ダウンヒルアシスト制御は、ダウンヒルアシスト制御スイッチ81がオン状態にある時、ブレーキ制御を実施して降坂時の車速を一定速度(例えば5km/h)にコントロールする制御である。
【0024】
そして、ブレーキ制御装置Aは、上述した電動モータ21、各電磁弁12〜18,22〜26、油圧計28〜29、および車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrに接続された制御装置70を備えている。制御装置70には、車両の操舵角を検出するステアリングセンサ、アクセルペダルに組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセルセンサ、および車両の実際のヨーレートYを検出するヨーレートセンサも接続されている(いずれも図示省略)。制御装置70は、これら各センサからの検出信号に基づき、電動モータ21、ブレーキ制御装置Aの各電磁弁12〜18,22〜26を制御し、ホイールシリンダWCfl〜WCrrに付与する油圧ひいては各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を制御する。なお、本実施の形態においては液圧計27がブレーキペダル11の踏込状態としてのマスタシリンダ圧を検出するもの(踏込状態検出手段)である。
【0025】
ECU(電子制御ユニット)70は、図2に示すように、マイクロプロセッサ71、モータ制御部72およびモータ駆動回路73を備えている。モータ制御部72は、マイクロプロセッサ71からの制御指令信号(駆動要求)を入力し、その制御指令信号に応じて制御対象の電動モータ30に供給する駆動電流(駆動電圧)をオン・オフ制御するものである。モータ制御部72は、マイクロプロセッサ71からの駆動要求に応じたオン・オフ信号(所定のデューティ比のPWM信号でもよい。)を第1スイッチング素子74に送信して電動モータ30への通電・非通電を制御する。電動モータ30については後述する。
【0026】
モータ駆動回路73は、電動モータ30を回転・停止させる回路である。この実施形態の電動モータ30はブラシを有する直流モータであり、モータ駆動回路73は電動モータ30の正極端子aと直流電源(例えば+12Vのバッテリ)78の正極の間に設けられ、モータ制御部72から供給されるオン・オフ信号に応じて導通および遮断される第1スイッチング素子74よりなるものである。電動モータ30の負極端子cとバッテリ78の負極の間には、第2スイッチング素子75が設けられている。
【0027】
第1スイッチング素子74はMOS型電界効果トランジスタよりなる第1スイッチング部74aと、これと並列接続された第1寄生ダイオード74bにより構成されている。第1MOS型電界効果トランジスタ74aのドレインはバッテリ78の正極に接続され、ソースは電動モータ30の正極端子aに接続され、ゲートにはモータ制御部72からのオン・オフ信号が入力される。第1寄生ダイオード74bのカソードおよびアノードは、それぞれ第1電界効果トランジスタ74aのドレインおよびソースに接続となるように形成されている。
【0028】
第2スイッチング素子75は、第1スイッチング素子74と同様、MOS型電界効果トランジスタよりなる第2スイッチング部75aと、これと並列接続された第2寄生ダイオード75bにより構成されている。第2MOS型電界効果トランジスタ75aのソースはバッテリ78の負極に接続されるとともに接地され、ドレインは電動モータ30の負極端子cに接続されている。第1抵抗76と第2抵抗77は互いに直列接続されて、互いに直列接続された電動モータ30と電界効果トランジスタ75aに対し並列に接続され、第1抵抗76と第2抵抗77の中間部dは第2電界効果トランジスタ75aのゲートに接続形成されている。この実施形態の第1抵抗76は、図3に示すように温度がある一定温度を越えると急激に抵抗値が増大する特性を有するものであり、電動モータ30の正極端子aと第2電界効果トランジスタ75aのゲートとの間に接続されている。第2寄生ダイオード75bのカソードおよびアノードは、それぞれ第2電界効果トランジスタ75aのドレインおよびソースに接続されている。第1抵抗76はその置かれた雰囲気温度を検出する温度検出器として機能する。この第1抵抗76はサーミスタで構成されるのが好ましい。
【0029】
なお第1電界効果トランジスタ74aのソースと電動モータ30の端子aの間のECU70内に位置する部分の電圧は、電圧検出回路80を介してマイクロプロセッサ71により検出されるようになっている。
【0030】
この実施形態の電動モータ30は、図4および図5に示すように、略円筒状のモータケーシング30aと、このモータケーシング30aに同軸的に回転自在に支持されたシャフト30bと、このシャフト30bに同軸的に固定されたロータ(図示省略)と、このロータを囲んでモータケーシング30a内に固定されたステータ(図示省略)を備えている。モータケーシング30aは、有底円筒状で金属製の本体ハウジング30a1と、その解放側となる端部を覆う合成樹脂製のリアカバー30a2により構成され、シャフト30bの一端はリアカバー30a2と反対側となる本体ハウジング30a1の底面から外部に突出されている。
【0031】
リアカバー30a2の仕切板30a3は本体ハウジング30a1側に寄せて形成され、従ってキャップ30cにより閉じられるリアカバー30a2の後端側には相当な深さの凹部が形成され、この凹部内に突出するシャフト30bの後端部の外周には、ロータの整流子30hが絶縁体を介して設けられている。この仕切板30a3には、整流子30hを囲むボス部30dと、それから半径方向に互いに逆向きに突出する1対のブラシホルダ支え30eが一体的に立設され、各ブラシホルダ支え30eに半径方向に形成された孔にはそれぞれブラシホルダ30f,30gが保持されている。各ブラシホルダ30f,30g内に摺動自在に保持されたブラシは、スプリングにより整流子30hに押圧されている。この整流子30hおよびブラシホルダ30f,30gが設けられる側が、モータケーシング30aの給電側である。
【0032】
リアカバー30a2には、リアカバー30a2に形成した導入筒部30a4を通してバッテリ78から電動モータ30に給電する給電線79a,79bが連結される端子aおよび端子bと、2つの端子cおよび端子dが設けられている。第1スイッチング素子74は給電線79aの途中に設けられている。図5に示すように、端子aと端子cはそれぞれブラシホルダ30fおよび30gに接続されている。第2スイッチング素子75のソース、ドレインおよびゲートはそれぞれ端子b、端子cおよび端子dに接続し、第1抵抗76は端子aと端子dの間に接続し、第2抵抗77は端子bと端子dの間に接続することにより、各部材75,76,77はリアカバー30a2内に支持されるとともに、図2の二点鎖線30a内に示す配線が完成される。第1抵抗76は、リアカバー30a2の内部で最も発熱する整流子30hとブラシの接触部に接近させて設けている。リアカバー30a2の後端側の凹部内に配置されるこれらの各部材は、ボルト30c1によりリアカバー30a2に取り付けられるキャップ30cにより覆われる。
【0033】
図2に示す回路において、マイクロプロセッサ71からの制御指令信号により第1電界効果トランジスタ74aが導通された状態では、接地された端子bの電位は0であり、端子aの電位はバッテリ78の電圧とほぼ同じであり、端子dの電位は端子aの電位を第1抵抗76と第2抵抗77の各抵抗値で分圧した電位となる。第1抵抗76は温度がある一定温度(図3に示すt0)を越えると急激に抵抗値が増大する特性を有するもの、すなわち所定温度を越えると温度−抵抗値勾配が所定温度未満の温度−抵抗値勾配より大きいものであるので、第1抵抗76が設けられるモータケーシング30aの給電側となるリアカバー30a2内の温度の上昇につれて端子dの電位が分圧した電位になる結果、第2電界効果トランジスタ75aのソースに対するゲート電位は低くなる。そしてリアカバー30a2内の温度が、第1スイッチング素子74、電動モータ30、第2スイッチング素子75、第1抵抗76、第2抵抗77、バッテリ78などの特性により定められる所定温度よりも高くなれば、ソースに対するゲート電位は第2電界効果トランジスタ75aが遮断される所定電位(正の所定電圧)よりも低くなり、第2電界効果トランジスタ75aは遮断される。またその後にリアカバー30a2内の温度が低下して前述した所定温度よりも低くなれば第2電界効果トランジスタ75aは導通される。
図3に、温度に対する第1抵抗器76の抵抗値、温度に対して分圧した第2電界効果型トランジスタ75aのゲート電位とその遮断される電位の特性を示す。また、図3はMOSFET(電界効果型トランジスタ)の特性として遮断される所定電位のしきい値は温度に対してやや右下がり曲線となり、ゲート電位がその所定電位を下回るとトランジスタ75aが遮断されることを示している。
【0034】
図2から、第2スイッチング素子75、第1抵抗76および第2抵抗77を取り除いた回路において、図6(a) の実線に示すように、モータ制御部72からの制御信号により第1スイッチング素子74を導通された状態に維持すれば、電動モータ30はバッテリ78から連続して給電されて図6(b) の実線に示すように回転駆動され、この給電により電動モータ30は発熱してリアカバー30a2内の温度は図6(c) の実線に示すように上昇する。この温度上昇中で電動モータ30のリアカバー30a2内の温度がH0 に達した時点T0 において、モータ制御部72からの制御信号により第1スイッチング素子74を、図6(a) の二点鎖線に示すように遮断すれば、電動モータ30は、図6(b) の二点鎖線に示すように停止され、電動モータ30のリアカバー30a2内の温度は、図6(c) の二点鎖線に示すように、周囲の高温部からの熱伝導により一時的に多少上方にオーバシュートした後に下降する。
【0035】
次に、第2スイッチング素子75、第1抵抗76および第2抵抗77を備えた図2の回路における電動モータ30の自己過熱保護機能を、図7により説明する。図7(a) に示すように、モータ制御部72からの制御信号により第1スイッチング素子74を導通させてその状態を維持すれば、電動モータ30はそれまで停止されていて低温であり、従って第1抵抗76も低温で抵抗値も低く、第2スイッチング素子75はゲート電圧が高くなっているので、図7(b) に示すように導通される。これにより電動モータ30はバッテリ78から給電されて図7(c) に示すように回転駆動され、この給電により電動モータ30は発熱してリアカバー30a2内の温度は図7(d) に示すように上昇する。この上昇部分のカーブは図6(c) の実線の上昇開始部分と同じである。
【0036】
そしてリアカバー30a2内の温度が、前述のようにして定められる所定温度H1 よりも高くなる時点T1 に達すれば、第2電界効果トランジスタ75aのソースに対するゲート電位は第2電界効果トランジスタ75aが遮断される所定電位よりも低くなるので、第2電界効果トランジスタ75aは、図7(b) に示すように遮断され、電動モータ30は図7(c) に示すように停止される。電動モータ30が停止されれば、リアカバー30a2内の温度は一旦は上方にオーバシュートされるがすぐに低下し始め、所定温度H1 よりも低くなる時点T2 に達すれば、第2電界効果トランジスタ75aのソースに対するゲート電位は第2電界効果トランジスタ75aが遮断される所定電位よりも高くなるので、第2電界効果トランジスタ75aは、図7(b) に示すように導通され、電動モータ30は給電されて図7(c) に示すように再び回転駆動される。これによりリアカバー30a2内の温度は一旦は下方にオーバシュートされるがすぐに上昇し始め、所定温度H1 よりも高くなる時点T3 に達すれば電動モータ30は停止される。第1スイッチング素子74が導通されている間は以上の作動を繰り返して、リアカバー30a2内の温度は所定温度H1 を中心とする狭い温度範囲内に維持される。
【0037】
ECU70は、車両の作動状態によっては、マイクロプロセッサ71およびモータ制御部72を介して、第1スイッチング素子74に対し長時間にわたり導通された状態を維持するよう指令することがあり、そのような場合にはブレーキ制御装置Aで油圧を生成するポンプ19を駆動する電動モータ30が長時間にわたり連続運転されるので、電動モータ30が過熱されてモータ不作動といった悪影響を生じるおそれがある。しかし上述した実施形態によれば、ブレーキ制御装置のポンプ19を駆動する電動モータ30のモータケーシング30a内に設けられた第2スイッチング素子75は、同じくモータケーシング30a内に設けられた第1抵抗76により検出される温度が予め設定された所定温度よりも高くなれば遮断されて電動モータ30を停止させ、予め設定された所定温度よりも低くなれば導通されて電動モータ30を作動させるので、電動モータ30は自立的に間欠作動されて、過熱されることはなくなる。また、電動モータ30が長時間停止されることもないので、一部の機能が低下することはあっても、失われることはない。
【0038】
また場合によっては、電動モータ30の作動を制御する第1スイッチング素子74が導通したままとなる故障が生じて、電動モータ30が停止しなくなるおそれもあるが、上述した実施形態によればそのような場合でも電動モータ30は自立的に間欠作動されて、過熱されるおそれはなくなる。なお上記実施形態では、第1電界効果トランジスタ74aのソースと電動モータ30の端子aの間のECU70内に位置する部分の電圧は、電圧検出回路80を介してマイクロプロセッサ71により検出されるようになっているので、この電圧の検出結果と、第1スイッチング素子74に対するモータ制御部72からの指令を対比することにより、第1スイッチング素子74が導通したままとなる故障は検出される。またこの実施形態では、電動モータ30の間欠作動はモータケーシング30aのリアカバー30a2内で自立的に処理され、第1抵抗76による温度検出結果を外部に送信するための配線や外部モニタ装置を必要としないので、電動モータを使用したブレーキ制御装置の構造が簡略化され、製造コストを低下させることができる。
【0039】
上述した実施形態では、電動モータ30を間欠作動させる第2電界効果トランジスタ75aのゲート電圧を変化させる回路は、第1抵抗76と第2抵抗77よりなるきわめて簡単なものであるので電動モータ30の過熱保護装置の構造はきわめて簡略化され、製造コストを大幅に低下させることができる。また第1抵抗76は温度に対する抵抗値の変化率が大きいので、第2電界効果トランジスタ75aが遮断および導通される際の温度の精度を高めることができる。
【0040】
また上述した実施形態では、リアカバー30a2の内部で最も発熱する整流子30hとブラシの接触部に接近させて温度を検出する第1抵抗76を設けているので、検出の必要性が高い高温部分の温度を検出することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、第1抵抗76と第2抵抗77は電動モータ30のモータケーシング30a内の適当な場所に設ければよく、それにより電動モータ30は自立的に間欠作動されて、過熱されることはなくなり、また温度検出結果を外部に送信するための配線や外部モニタ装置を必要としないのでブレーキ制御装置の構造が簡略化され、製造コストを低下させることができるという各効果を得ることができる。
【0041】
また上述した実施形態では、第2スイッチング素子75および第2抵抗77は、第1抵抗76と同じくモータケーシング30a内に設けたので、これら部品を予めユニットとして製造し、さらにモータケーシング30a内に一辺に容易に取り付けることができる。
【0042】
また上述した実施形態では、第1抵抗76はその抵抗値は温度がある一定温度を越えると急激に大きくなるものであり、第2スイッチング素子75はゲート電圧が正の所定電圧より小さいと遮断され、正の所定電圧より大きいと導通されるので、第2スイッチング素子75のゲート電圧−ドレイン電流特性と第1抵抗76の温度特性を適切に利用して簡単な回路構成で自立した電流遮断機能を得ることができる。
【0043】
さらに上述した実施形態では、本発明をブレーキ制御装置Aで油圧を生成するポンプ19を駆動する電動モータ30に適用した例につき説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、種々の用途に使用される電動モータに適用することができる。
【0044】
なお、第2スイッチング素子75および第2抵抗77は、モータケーシング30a内でなく、それ以外のモータケーシング30aの場所(例えばモータケーシング30aの外壁面)に設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による自己過熱保護機能を備えた電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置の一実施形態の概要を示す流体回路図である。
【図2】図1に示す実施形態の要部を示す電気回路図である。
【図3】図2に示す電気回路図に使用する第1抵抗器(サーミスタ)の温度に対する抵抗値および第2電界効果型トランジスタのゲート電圧とその遮断される所定電位の変化特性を示す図である。
【図4】図1に示す実施形態の電動モータの外形を示す側面図である。
【図5】図4に示す電動モータのキャップを除いた状態の右側面図である。
【図6】図2に示す実施形態の作動を予備的に説明するタイムチャートである。
【図7】図2に示す実施形態の作動を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0046】
19…ポンプ、30…電動モータ、30a…モータケーシング、30a2…カバー(リアカバー)、70…電子制御ユニット(ECU)、74…第1スイッチング素子、75…第2スイッチング素子、75a…電界効果トランジスタ(第2電界効果トランジスタ)、76…第1抵抗(サーミスタ)、77…第2抵抗、78…直流電源(バッテリ)、A…車両用ブレーキ制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子制御ユニット(70)に設けられた第1スイッチング素子(74)を介して直流電源(78)に接続されて給電される電動モータ(30)において、
前記電動モータのモータケーシング(30a)に設けられ、前記電動モータおよび直流電源と直列に接続された電界効果トランジスタよりなり、前記電動モータへの導通、遮断を切り替える第2スイッチング素子(75)と、
前記モータケーシング内に設けられ、互いに直列接続された前記電動モータと前記第2スイッチング素子に対し並列に接続され、該モータケーシング内の温度に応じて抵抗値が変化する第1抵抗(76)と、
前記モータケーシングに設けられ、前記第1抵抗と直列に接続されかつ互いに直列接続された前記電動モータと前記第2スイッチング素子に対し並列に接続された第2抵抗(77)と、を備え、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の中間部を前記第2スイッチング素子のゲートに接続し、
前記第1スイッチング素子が導通された状態では、前記モータケーシング内の温度が所定温度よりも高くなれば前記第2スイッチング素子が遮断され、前記所定温度よりも低くなれば導通されることを特徴とする自己過熱保護機能を備えた電動モータ。
【請求項2】
請求項1において、前記第1抵抗は前記モータケーシングの給電側となるカバー(30a2)内に設けたことを特徴とする自己過熱保護機能を備えた電動モータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記第2スイッチング素子および前記第2抵抗は前記モータケーシング内に設けたことを特徴とする自己過熱保護機能を備えた電動モータ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記第1抵抗は所定温度を越える温度−抵抗値勾配が前記所定温度未満の温度−抵抗値勾配より大きいものであり、前記第2スイッチング素子は前記中間部の電圧であるゲート電圧が正の所定電圧しきい値より小さいと遮断され、前記正の所定電圧しきい値より大きいと導通されることを特徴とする自己過熱保護機能を備えた電動モータ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の自己過熱保護機能を備えた電動モータにより、車両用ブレーキ制御装置(A)で油圧を生成するポンプ(19)を駆動することを特徴とする過熱保護装置を備えた電動モータを使用した車両用ブレーキ制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−194962(P2009−194962A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30690(P2008−30690)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】