説明

船外機の制御装置

【課題】内燃機関の駆動力を適切なタイミングで低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させると共に、レイアウトの自由度を向上させるようにした船外機の制御装置を提供する。
【解決手段】シフトポジションが前後進ギヤに係合させられて内燃機関の駆動力をプロペラに伝達するインギヤ位置と駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在な船外機において、内燃機関のスロットル開度THと機関回転数(エンジン回転数)NEを検出し(S108)、検出された機関回転数の変化量DNEを算出すると共に(S112)、スロットル開度THと機関回転数NEと機関回転数の変化量DNEに基づいて内燃機関の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する(S106,S110,S114,S116)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船外機の制御装置に関し、詳しくは船外機に搭載された内燃機関の駆動力を制御してシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させるようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機の制御装置において、操船者によるシフトレバーの操作に応じてクラッチを変位させることで、シフトポジションを前後進ギヤに係合させられて内燃機関の駆動力をプロペラに伝達するインギヤ位置と、前記係合が解除されて駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在とした技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1記載の技術にあっては、シフトレバーに接触スイッチを設けると共に、シフトレバーがインギヤ位置からニュートラル位置に向けて操作されて所定の操作位置に到達したことがスイッチによって検出されるとき、内燃機関の点火カットを行って駆動力の低下制御を開始することで、クラッチと前後進ギヤの係合(インギヤ)を解除し易くし、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−79496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術の如く構成した場合、スイッチをシフトレバーに精度良く取り付けてスイッチの作動点を適正に設定するのが難しく、結果として駆動力の低下制御が適切なタイミングで開始されないという不具合が生じていた。また、スイッチを配置するためのスペースも必要となるため、レイアウトの自由度が制限されるという不都合もあった。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、内燃機関の駆動力を適切なタイミングで低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させると共に、レイアウトの自由度を向上させるようにした船外機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、シフトポジションが前後進ギヤに係合させられて内燃機関の駆動力をプロペラに伝達するインギヤ位置と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在な船外機において、前記内燃機関のスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、前記内燃機関の機関回転数を検出する機関回転数検出手段と、前記検出された機関回転数の変化量を算出する機関回転数変化量算出手段と、前記検出されたスロットル開度と機関回転数と前記算出された機関回転数の変化量に基づいて前記内燃機関の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する駆動力低下制御手段とを備える如く構成した。
【0008】
請求項2に係る船外機の制御装置にあっては、前記駆動力低下制御手段は、前記検出されたスロットル開度が全閉開度付近にあると共に、前記検出された機関回転数が所定回転数以下で、かつ前記算出された機関回転数の変化量が所定値以下のとき、前記駆動力低下制御を実行する如く構成した。
【0009】
請求項3に係る船外機の制御装置にあっては、前記駆動力低下制御手段は、前記駆動力低下制御を所定回以上実行した場合、あるいは前記シフトポジションが前記ニュートラル位置に切り替えられた場合、前記駆動力低下制御を終了する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る船外機の制御装置にあっては、前記駆動力低下制御手段は、前記内燃機関の点火カットと点火時期の遅角と燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを介して前記内燃機関の駆動力を低下させる如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る船外機の制御装置にあっては、内燃機関のスロットル開度と機関回転数と機関回転数の変化量に基づいて内燃機関の駆動力を低下させるように構成したので、内燃機関の駆動力を適切なタイミングで低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。
【0012】
即ち、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングを、スロットル開度と機関回転数と機関回転数の変化量に基づいて正確に検出(検知)することが可能となり、その検出された適切なタイミングで内燃機関の駆動力の低下制御を開始させることで、前後進ギヤの係合(インギヤ)を解除し易くなり、よってシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。また、操船者のシフトレバーに対する操作を検出するためのスイッチ(またはセンサ)を不要にできるため、装置のレイアウトの自由度を向上させることができると共に、コスト的にも有利である。
【0013】
請求項2に係る船外機の制御装置にあっては、駆動力低下制御手段は、スロットル開度が全閉開度付近にあると共に、機関回転数が所定回転数以下で、かつ機関回転数の変化量が所定値以下のとき、駆動力低下制御を実行するように構成したので、上記した効果に加え、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングをより正確に検出でき、そのタイミングで駆動力低下制御を開始させることで、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を確実に低減させることができる。
【0014】
請求項3に係る船外機の制御装置にあっては、駆動力低下制御手段は、駆動力低下制御を所定回以上実行した場合、駆動力低下制御を終了するように構成したので、上記した効果に加え、例えばシフトレバーがインギヤ位置からニュートラル位置に向けてゆっくり操作される場合であっても、内燃機関の運転が不安定になる前に駆動力低下制御を終了することが可能、換言すれば、駆動力低下制御が不要に長く実行されることがなく、よって駆動力低下制御を適切に実行できると共に、内燃機関の運転が不安定になるのを防止することができる。
【0015】
また、駆動力低下制御手段は、シフトポジションがニュートラル位置に切り替えられた場合、駆動力低下制御を終了するように構成、即ち、シフトポジションがニュートラル位置に切り替えられて駆動力低下制御が不要になったタイミングで終了するように構成したので、駆動力低下制御をより適切に実行することができる。
【0016】
請求項4に係る船外機の制御装置にあっては、駆動力低下手段は、内燃機関の点火カットと点火時期の遅角と燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを介して内燃機関の駆動力を低下させるように構成したので、上記した効果に加え、内燃機関の駆動力を確実に低下できると共に、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を効率良く低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す船外機の部分断面拡大側面図である。
【図3】図1に示す船外機の拡大側面図である。
【図4】図1に示す電子制御ユニットのエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。
【図5】図4に示すシフト荷重低減制御判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図6】図4,5のフロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0019】
図1はこの発明の実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図、図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は船外機の拡大側面図である。
【0020】
図1から図3において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、船体12の後尾(船尾)12aに取り付けられる。
【0021】
図1に示すように、船体12の操縦席14の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール16が配置される。ステアリングホイール16のシャフト(図示せず)には操舵角センサ18が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール16の操舵角に応じた信号を出力する。
【0022】
操縦席14付近にはリモートコントロールボックス20が配置され、そこには操船者によって操作自在なシフトレバー(シフト・スロットルレバー)22が設けられる。シフトレバー22は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード(前進)/リバース(後進)/ニュートラル(中立)切り替え指示)と、エンジンに対する加速/減速指示を含むエンジン回転数(機関回転数)の調節指示を入力する。リモートコントロールボックス20の内部にはレバー位置センサ24が取り付けられ、シフトレバー22の位置に応じた信号を出力する。
【0023】
操舵角センサ18とレバー位置センサ24の出力は、船外機10に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)26に入力される。ECU26はCPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなる。
【0024】
船外機10は、図2に良く示す如く、スイベルケース30、チルティングシャフト32およびスターンブラケット34を介して船体12に装着される。
【0025】
スイベルケース30の上部には、スイベルケース30の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるスイベルシャフト36を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ。図3にのみ示す)40が配置される。転舵用電動モータ40の回転出力は減速ギヤ機構(図示せず)、マウントフレーム42を介してスイベルシャフト36に伝達され、よって船外機10はスイベルシャフト36を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
【0026】
船外機10の上部には、複数の気筒(正確には6気筒)を有する内燃機関(原動機。以下「エンジン」という)44が搭載される。エンジン44は火花点火式のV型多気筒(6気筒)ガソリンエンジンで、排気量3500ccを備える。エンジン44は水面上に位置し、エンジンカバー46によって覆われる。
【0027】
エンジン44の吸気管50には、スロットルボディ52が接続される。スロットルボディ52はその内部にスロットルバルブ54を備えると共に、スロットルバルブ54を開閉駆動するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)56が一体的に取り付けられる。
【0028】
スロットル用電動モータ56の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ54に接続され、スロットル用電動モータ56を動作させることでスロットルバルブ54が開閉され、エンジン44の吸気量が調量されてエンジン回転数が調節される。尚、船外機10はエンジン44に取り付けられたバッテリなどの電源(図示せず)を備え、それから各電動モータ40,56などに動作電源が供給される。
【0029】
船外機10は、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト60と、水平軸回りに回転自在に支持されると共に、その一端にプロペラ62が取り付けられるプロペラシャフト64とを備える。尚、ドライブシャフト60とプロペラシャフト64の付近は、図2に矢印で示すように、エンジン44の排気管66から放出された排気が通過し、その排気はプロペラ62の後方の水中へと排出される。
【0030】
ドライブシャフト60の上端にはエンジン44のクランクシャフト(図示せず)が接続される一方、下端にはピニオンギヤ68が設けられる。ピニオンギヤ68には回転自在に設けられた前進ギヤ(前進ベベルギヤ)70と後進ギヤ(後進ベベルギヤ)72が係合(噛合)され、前後進ギヤ70,72はピニオンギヤ68によって相反する方向に回転させられる。また、前進ギヤ70と後進ギヤ72の間には、プロペラシャフト64と一体に回転するクラッチ74が配置される。
【0031】
クラッチ74は、シフトレバー22の操作に応じて変位させられ、例えば前進ギヤ70に係合させられるとき、ドライブシャフト60の回転がピニオンギヤ68と前進ギヤ70を介してプロペラシャフト64に伝達され、プロペラ62が回転して船体12を前進させる方向の推力(推進力)を生じる。これにより、フォワード位置が確立される。
【0032】
一方、クラッチ74が後進ギヤ72に係合させられると、ドライブシャフト60の回転がピニオンギヤ68と後進ギヤ72を介してプロペラシャフト64に伝達され、プロペラ62が前進時とは逆方向に回転して船体12を後進させる方向の推力を生じる。これにより、リバース位置が確立される。また、クラッチ74が前進ギヤ70および後進ギヤ72のいずれとも係合させられなければ、ドライブシャフト60の回転のプロペラシャフト64への伝達が遮断され、これによりニュートラル位置が確立される。
【0033】
このシフトポジションを切り替える構成について具体的に説明すると、クラッチ74は、鉛直方向と平行に回転自在に支持された第1のシフトシャフト76の下端にシフトスライダ80を介して接続される。第1のシフトシャフト76の上端は、エンジンカバー46の内部空間に位置させられると共に、その上端付近には、鉛直方向と平行に回転自在に支持された第2のシフトシャフト82が配置される。
【0034】
第1のシフトシャフト76の上端には第1のギヤ84が取り付けられる一方、第2のシフトシャフト82の下端には第2のギヤ86が取り付けられると共に、第1のギヤ84と第2のギヤ86は噛合される。
【0035】
第2のシフトシャフト82の上端付近にはシフトアーム90が固定して取り付けられる。シフトアーム90は、図示しないリンク機構やプッシュプルケーブルなどを介して前記した船体12のシフトレバー22に接続される。
【0036】
上記の如く構成することで、操船者によってシフトレバー22が操作されると、シフトアーム90などによって第2のシフトシャフト82が回動させられ、第2のシフトシャフト82の回動は第2のギヤ86、第1のギヤ84を介して第1のシフトシャフト76に伝達されて回動させる。第1のシフトシャフト76の回動に伴ってシフトスライダ80およびクラッチ74は適宜に変位させられ、それによって前述の如く、シフトポジションがフォワード位置、リバース位置、ニュートラル位置の間で切り替えられる。
【0037】
このように、船外機10は、操船者のシフトレバー操作に応じてシフトポジションを前後進ギヤ70,72に係合させてエンジン44の駆動力(出力)をプロペラ62に伝達するインギヤ位置(具体的には、フォワード位置およびリバース位置)と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在とされる。
【0038】
図3に示す如く、スロットルバルブ54の付近にはスロットル開度センサ(スロットル開度検出手段)92が配置され、スロットル開度TH[度]を示す出力を生じる。エンジン44のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ(機関回転数検出手段)94が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。
【0039】
また、第2のシフトシャフト82の付近にはニュートラルスイッチ(接触スイッチ)96が配置され、シフトポジションがニュートラル位置であるときにオン信号を、フォワード位置あるいはリバース位置、即ち、インギヤ位置であるときにオフ信号を出力する。上記した各スイッチやセンサの出力は、ECU26に入力される。
【0040】
ECU26は、入力されたセンサ出力に基づいて転舵用電動モータ40の動作を制御し、船外機10の転舵を行う。また、ECU26は、レバー位置センサ24の出力などに基づいてスロットル用電動モータ56の動作を制御し、スロットルバルブ54を開閉させてスロットル開度THを調整する。
【0041】
さらに、ECU26は、入力された各センサ出力およびスイッチ出力に基づいてエンジン44の燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ100(図3に示す)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置102(図3に示す)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
【0042】
このように、この実施例に係る船外機の制御装置は、シフトチェンジを除き、操作系(ステアリングホイール16やシフトレバー22)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の制御装置である。
【0043】
図4は、ECU26のエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU26によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
【0044】
以下説明すると、先ずS(ステップ)10において、スロットル開度THをスロットル開度センサ92の出力から検出(算出)し、S12に進んで検出されたスロットル開度THの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量DTHを算出する。
【0045】
次いでS14に進み、シフトポジションがフォワード位置またはリバース位置にあるときにエンジン44に対して操船者によって減速(正確には急減速)が指示されたか否か、換言すれば、エンジン44が船舶1を減速(正確には急減速)させる運転状態にあるか否か判定する。
【0046】
詳しくは、S12で算出されたスロットル開度の変化量DTHと減速判定用の既定値DTHaとを比較すると共に、変化量DTHが既定値DTHa以下のとき、スロットルバルブ54が閉弁方向に急速に駆動されている、即ち、急減速が指示されたと判定する。従って、既定値DTHaは急減速の指示がなされたと判定できるような値(負値)、例えば−20度に設定される。
【0047】
S14で否定されるときはS16に進み、エンジン44の駆動力を低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させるシフト荷重低減制御を行うか否か判定するシフト荷重低減制御判定処理を実行する。
【0048】
図5はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0049】
図5に示す如く、S100においてニュートラルスイッチ96の出力に基づき、現在のシフトポジションがニュートラル位置か否か判断する。S100で否定されるときはS102に進み、シフト荷重低減制御終了フラグのビットが0か否か判断する。
【0050】
このフラグは初期値が0に設定されると共に、後述するようにシフト荷重低減制御を終了させるべきときに1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされる。従って、最初のプログラムループにおいてS102の判断は通例肯定されてS104に進み、シフト荷重低減制御開始フラグ(後述)のビットが0か否か判断する。
【0051】
シフト荷重低減制御開始フラグのビットも初期値が0に設定されるため、最初のプログラムループにおいてS104の判断は通例肯定されてS106に進み、スロットル開度THが全閉開度(0度)付近にあるか否か判断する。
【0052】
S106で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS108に進み、クランク角センサ94の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)する。
【0053】
次いでS110に進み、検出されたエンジン回転数NEが所定回転数NEa以下か否か判断する。この所定回転数NEaは、シフトレバー22の操作によってエンジン44が比較的低回転の状態になったと判断可能な値とされ、例えば2000rpmに設定される。
【0054】
S110で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS112に進み、エンジン回転数NEの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量DNEを算出する。
【0055】
次いでS114に進み、エンジン回転数NEが安定しているか否か判断、換言すれば、エンジン44が安定した運転状態であるか否か判断する。この判断は、エンジン回転数の変化量DNEの絶対値を所定値DNEaと比較することで行われ、変化量DNEの絶対値が所定値DNEa以下の場合にエンジン回転数NEが安定していると判断する。従って、所定値DNEaはエンジン回転数NEが安定して、変化量DNEが比較的少ないと判断できるような値、例えば300rpmに設定される。
【0056】
S114で否定されるときはそのままプログラムを終了する一方、肯定されるときはS116に進み、エンジン44の駆動力を低下させてシフトレバー22の操作荷重を低減させるシフト荷重低減制御(駆動力低下制御ともいう)を実行(開始)する。
【0057】
S106〜S116の処理について詳説すると、先ずスロットル開度THとエンジン回転数NEとエンジン回転数の変化量DNEに基づいて、シフトレバー22が操船者によって操作されてシフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置へ切り替えられるタイミングか否か推定、別言すれば、前後進ギヤ70,72の係合が解除される直前の運転状態か否か判断する。
【0058】
具体的には、スロットル開度THが全閉開度付近にあると共に、エンジン回転数NEが所定回転数NEa以下で、かつエンジン回転数の変化量DNEが所定値DNEa以下のとき、シフトポジションをインギヤ位置からニュートラル位置へ切り替えるシフトレバー操作がなされたと推定すると共に、そのタイミングでシフト荷重低減制御を実行する。
【0059】
シフト荷重低減制御(駆動力低下制御)は具体的には、エンジン44の点火カット、点火時期の遅角(例えば10度の遅角化)、燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを行い、それを介してエンジン44の駆動力を低下、より具体的にはエンジン回転数NEを変動させつつ徐々に低下させるようにする。これにより、クラッチ74と前後進ギヤ70,72の係合を解除し易くなり、よって操船者のシフトレバー22の操作荷重が低減される。
【0060】
尚、S116において点火カットおよび点火時期の遅角を行う場合は次回点火を予定していた気筒から実施し、燃料噴射量を低減する場合は次回噴射を予定していた気筒から行うようにする。
【0061】
また、点火カットなどのシフト荷重低減制御は、複数(6個)ある気筒のうち半分にあたる3気筒に対して行う。詳しくは、エンジン44はV型6気筒タイプであるが、シフト荷重低減制御を行う3気筒については、最初に低減制御を実行した気筒と同一バンクにある3気筒となるようにする。例えば最初に右バンクにある気筒で低減制御が行われた場合、同じ右バンクの3気筒について低減制御を実施する一方、左バンクの3気筒は通常制御とする。さらには、例えば右バンクで点火時期を遅角してシフト荷重低減制御を行った場合、左バンクにおいては点火時期を進角化させるようにしても良い。
【0062】
即ち、V型6気筒エンジンにおいて燃焼行程は、右バンクと左バンクとで交互に行われるため、シフト荷重低減制御を実施する3気筒を上記の如く選択することで、エンジン44においては低減制御の実行のタイミングと不実行のタイミングが交互となり、それによってより急峻なエンジン回転数変動をタイムラグなく発生させることができ、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重をより効果的に低減させることができる。
【0063】
また、エンジン44を直列6気筒タイプとした場合は、第1気筒から第6気筒まで順に並んだ6個の気筒を、第1気筒から第3気筒と第4気筒から第6気筒とにグループ分けすると共に、低減制御を行う3気筒が同じグループとなるようにする。即ち、例えば最初に第1気筒で低減制御が行われたときは、第1気筒を含むグループの3気筒について低減制御を実施する一方、第4から第6気筒のグループは通常制御とする(同様に、第1から第3気筒のグループで点火時期を遅角化させた場合、第4から第6気筒のグループにおいては進角化させるようにしても良い)。これにより、直列6気筒エンジンであっても同様の効果を得ることができる。
【0064】
次いでS118に進み、各気筒ごとにシフト荷重低減制御を実行した回数、具体的には点火カットなどを行った回数をカウントし、S120に進んでシフト荷重低減制御開始フラグのビットを1にセットする。即ち、このフラグは、シフト荷重低減制御が開始されるとき1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされる。
【0065】
シフト荷重低減制御開始フラグのビットが1にセットされた後のプログラムループにあっては、S104で否定されてS122に進む。S122ではエンジン回転数NEを検出し、S124に進み、検出されたエンジン回転数NEが、エンジン44がストールするのを回避できる限界の値(エンスト限界回転数NEb)以下か否か判定する。このエンスト限界回転数NEbは、例えばエンジン44の通常制御時に始動モードから通常モードへの切り替え判定しきい値として用いられる回転数と同じ値、具体的には400rpmに設定される。
【0066】
S124で肯定されるときはS126に進み、シフト荷重低減制御回数のカウンタ値を0にリセットし、S128に進んでシフト荷重低減制御終了フラグのビットを1にセットする。
【0067】
シフト荷重低減制御終了フラグのビットが1にセットされると、次回のプログラムループにあってはS102で否定されてS130に進み、シフト荷重低減制御を終了する。即ち、エンジン回転数NEがエンスト限界回転数NEb以下のときにシフト荷重低減制御、具体的にはエンジン44の点火カットなど駆動力を低下させる制御を継続すると、エンジン44がストールする恐れがあるため、シフトポジションにかかわらず、制御を終了(中止)するようにした。
【0068】
他方、S124で否定されるときはS132に進み、シフト荷重低減制御回数のカウンタ値に基づき、シフト荷重低減制御(駆動力低下制御)を所定回(後述)以上実行したか否か判断する。S132で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるとき(カウンタ値が所定回以上のとき)はS134に進み、前記カウンタ値を0にリセットし、S136に進んでシフト荷重低減制御終了フラグのビットを1にセットする。これにより、次回のプログラムループにおいてS102で否定されてS130に進み、シフト荷重低減制御は終了させられることとなる。
【0069】
このS132からS136は、シフト荷重低減制御が長時間に亘って行われるのを防止するための処理である。即ち、例えばシフトレバー22がゆっくり操作される場合などシフトレバー22の動きによっては、点火カットなどの制御が比較的長い時間継続されて、エンジン44の運転(燃焼状態)が不安定、具体的にはエンジン回転数NEが不安定になるなどの不具合が生じることがある。
【0070】
そこで、この実施例に係る船外機の制御装置においては、上記制御によって操船者のシフトレバー22の操作荷重が十分に低減されたと判断できる時点(具体的には、制御開始から約2秒経過した時点)で制御を終了(中止)するようにした。従って、前記した所定回は、操船者のシフトレバー22の操作荷重が十分に低減されたと判断できると共に、点火カットなどがそれ以上実行されると、エンジン44の運転が不安定になる可能性のある値、例えば10回とされる。
【0071】
シフトレバー22が操船者によって操作されてシフトポジションがニュートラル位置に完全に切り替えられた場合、S100で肯定されてS138に進んでシフト荷重低減制御を終了すると共に、S140,S142に進み、シフト荷重低減制御開始フラグおよびシフト荷重低減制御終了フラグのビットを共に0にリセットしてプログラムを終了する。
【0072】
図4の説明に戻ると、S14で肯定されるときはS18に進み、前述したシフト荷重低減制御の実行を禁止する、即ち、シフトポジションがフォワード位置またはリバース位置にあるときにエンジン44に対して操船者によって減速(正確には急減速)が指示されるときは前記制御を実施しない。これにより、排気管66からの水吸い込みによるウォーターハンマー現象を防止することができる。
【0073】
即ち、例えばシフトポジションが前進ギヤ70に係合させられるフォワード位置にあるとき、シフトレバー22がリバース側に急操作される、換言すれば、エンジン44に対して減速(具体的には急減速)が指示されることがあるが、そのときに駆動力を低下させると、前進ギヤ70の係合(インギヤ)が解除され易い状態となるため、シフトポジションがフォワード位置からリバース位置まで一気にシフトチェンジされてしまう。
【0074】
その場合、プロペラ62がフォワード方向に回転したまま後進ギヤ72に係合させられることがあり、それによってエンジン44が逆回転して排気管66から水を吸い込んでしまい、ウォーターハンマー現象が生じてエンジン44に損傷を与える恐れがある。しかしながら、上記の如く駆動力の低下を禁止することで、前進ギヤ70の係合が解除され難くなるため、リバース位置へのシフトチェンジタイミングを遅らせることができ、よって前記したウォーターハンマー現象が発生するのを防止することができる。
【0075】
図6は図4,5のフロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。尚、図6においては、シフトポジションがフォワード位置(インギヤ位置)からニュートラル位置に切り替えられる場合を例にとる。
【0076】
図6に示すように、先ず時刻t0からt1においては、ニュートラルスイッチ96が出力を生じていない(オフされている)ため、シフトポジションはフォワード位置(インギヤ位置)にある(S100)。
【0077】
シフトレバー22がフォワードからニュートラルに向けて操作され、時刻t1でスロットル開度THが全閉開度付近にあると共に(S106)、エンジン回転数NEが所定回転数NEa以下で(S110)、かつエンジン回転数の変化量DTHの絶対値が所定値DTHa以下であると判断されるとき(S114)、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングと推定、換言すれば、前進ギヤ70の係合が解除される直前と推定し、エンジン44の駆動力を低下させるシフト荷重低減制御を開始する(S116)。これにより、エンジン回転数NEは変動しつつ徐々に低下し、よってクラッチ74と前進ギヤ70の係合を解除し易くなり、操船者のシフトレバー22の操作荷重が低減する。
【0078】
次いでシフトレバー22がさらにニュートラルに向けて操作され、時刻t2でニュートラルスイッチ96が出力(オン信号)を生じるとき、即ち、シフトポジションがニュートラル位置に切り替えられたとき、シフト荷重低減制御を終了する(S100,S138)。
【0079】
尚、図示は省略するが、例えば時刻t2でニュートラルスイッチ96がオンされる前に、詳しくは時刻t1とt2の間においてシフト荷重低減制御が所定回以上実行された場合、シフト荷重低減制御を終了するようにする(S132,S136)。
【0080】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、シフトポジションが前後進ギヤ70,72に係合させられて内燃機関(エンジン)44の駆動力をプロペラ62に伝達するインギヤ位置(フォワード位置およびリバース位置)と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在な船外機10において、前記内燃機関44のスロットル開度THを検出するスロットル開度検出手段と(ECU26、スロットル開度センサ92。S10)、前記内燃機関44の機関回転数(エンジン回転数)NEを検出する機関回転数検出手段と(ECU26、クランク角センサ94。S108)、前記検出された機関回転数の変化量DNEを算出する機関回転数変化量算出手段と(ECU26。S112)、前記検出されたスロットル開度THと機関回転数NEと前記算出された機関回転数の変化量DNEに基づいて前記内燃機関44の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する駆動力低下制御手段と(ECU26。S106,S110,S114,S116)を備える如く構成した。
【0081】
これにより、エンジン44の駆動力を適切なタイミングで低下させてシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。即ち、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングを、スロットル開度THとエンジン回転数NEとエンジン回転数の変化量DNEに基づいて正確に検出(検知)することが可能となり、その検出された適切なタイミングでエンジン44の駆動力の低下制御を開始させることで、前後進ギヤ70,72の係合(インギヤ)を解除し易くなり、よってシフトレバー操作時の操船者の操作荷重を低減させることができる。また、操船者のシフトレバー22に対する操作を検出するためのスイッチ(またはセンサ)を不要にできるため、装置のレイアウトの自由度を向上させることができると共に、コスト的にも有利である。
【0082】
また、前記駆動力低下制御手段は、前記検出されたスロットル開度THが全閉開度付近にあると共に、前記検出された機関回転数NEが所定回転数NEa以下で、かつ前記算出された機関回転数の変化量DNEが所定値DNEa以下のとき、前記駆動力低下制御を実行する如く構成したので(S106,S110,S114,S116)、シフトポジションがインギヤ位置からニュートラル位置に切り替えられるタイミングをより正確に検出でき、そのタイミングで駆動力低下制御を開始させることで、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を確実に低減させることができる。
【0083】
また、前記駆動力低下制御手段は、前記駆動力低下制御を所定回以上実行した場合、あるいは前記シフトポジションが前記ニュートラル位置に切り替えられた場合、前記駆動力低下制御を終了する如く構成した(S100,S130,S132,S136,S138。
【0084】
このように、駆動力低下制御手段は、駆動力低下制御を所定回以上実行した場合、駆動力低下制御を終了するように構成したので、例えばシフトレバー22がインギヤ位置からニュートラル位置に向けてゆっくり操作される場合であっても、エンジン44の運転が不安定になる前に駆動力低下制御を終了することが可能、換言すれば、駆動力低下制御が不要に長く実行されることがなく、よって駆動力低下制御を適切に実行できると共に、エンジン44の運転が不安定になるのを防止することができる。
【0085】
また、駆動力低下制御手段は、シフトポジションがニュートラル位置に切り替えられた場合、駆動力低下制御を終了するように構成、即ち、シフトポジションがニュートラル位置に切り替えられて駆動力低下制御が不要になったタイミングで終了するように構成したので、駆動力低下制御をより適切に実行することができる。
【0086】
また、前記駆動力低下制御手段は、前記内燃機関(エンジン)44の点火カットと点火時期の遅角と燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを介して前記内燃機関44の駆動力を低下させる如く構成したので(S116)、エンジン44の駆動力を確実に低下できると共に、シフトレバー操作時の操船者の操作荷重を効率良く低減させることができる。
【0087】
尚、上記においては、船外機を例にとって説明したが、船内外機についても本発明を適用することができる。また、所定回転数NEa、所定値DNEa、所定回やエンジン44の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0088】
10 船外機、26 ECU(電子制御ユニット)、44 エンジン(内燃機関)、62 プロペラ、70 前進ギヤ、72 後進ギヤ、92 スロットル開度センサ(スロットル開度検出手段)、94 クランク角センサ(機関回転数検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトポジションが前後進ギヤに係合させられて内燃機関の駆動力をプロペラに伝達するインギヤ位置と前記駆動力の伝達を遮断するニュートラル位置との間で切り替え自在な船外機において、前記内燃機関のスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、前記内燃機関の機関回転数を検出する機関回転数検出手段と、前記検出された機関回転数の変化量を算出する機関回転数変化量算出手段と、前記検出されたスロットル開度と機関回転数と前記算出された機関回転数の変化量に基づいて前記内燃機関の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する駆動力低下制御手段とを備えることを特徴とする船外機の制御装置。
【請求項2】
前記駆動力低下制御手段は、前記検出されたスロットル開度が全閉開度付近にあると共に、前記検出された機関回転数が所定回転数以下で、かつ前記算出された機関回転数の変化量が所定値以下のとき、前記駆動力低下制御を実行することを特徴とする請求項1記載の船外機の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力低下制御手段は、前記駆動力低下制御を所定回以上実行した場合、あるいは前記シフトポジションが前記ニュートラル位置に切り替えられた場合、前記駆動力低下制御を終了することを特徴とする請求項1または2記載の船外機の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力低下制御手段は、前記内燃機関の点火カットと点火時期の遅角と燃料噴射量の低減のうちの少なくともいずれかを介して前記内燃機関の駆動力を低下させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の船外機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240545(P2012−240545A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112259(P2011−112259)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】