説明

荷電性粉末、および多層セラミック電子部品の製造方法

【課題】多層セラミック電子部品を製造するに当たり、荷電性粉末を用いてセラミックグリーンシート上に電子写真法によって回路パターンを印刷したとき、荷電性粉末の塗膜について良好な定着性が得られず、また、塗膜の強度が十分でなく、層剥がれが生じることがある。
【解決手段】荷電性粉末1において、導電性金属粉末2を被覆する熱可塑性樹脂層3を、内層部4と外層部5との2層構造とし、内層部4を構成する熱可塑性樹脂として、その軟化点が150〜210℃の範囲のものを用い、外層部5を構成する熱可塑性樹脂として、その軟化点が110〜140℃の範囲のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真法により回路パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末、および荷電性粉末を用いて実施される多層セラミック電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば多層セラミック配線基板のような多層セラミック電子部品を製造しようとする場合、複数のセラミックグリーンシートが用意され、セラミックグリーンシート上に回路パターンが印刷され、次いで、複数のセラミックグリーンシートが積層され、それによって生の積層体が得られ、この生の積層体を焼成することが行なわれる。上述の回路パターンの印刷工程では、通常、導電性ペーストを用いたスクリーン印刷法が適用されている。
【0003】
しかしながら、スクリーン印刷法を適用する場合、印刷されるべき回路パターンの種類に応じてスクリーン印刷版を用意しなければならず、また、回路パターンが変更されるたびに、スクリーン印刷版を交換しなければならない。このため、スクリーン印刷版の製造のためのコストや交換に要する時間が多層セラミック電子部品のコストに反映して、好ましくない状況を招いている。特に、多品種少量生産の場面では、上述したスクリーン印刷版製造のためのコストや交換に要する時間についての負担がより大きくなる。
【0004】
そこで、近年、回路パターンの印刷に際して、電子写真法を適用することが検討されるようになってきている。回路パターンは、導電性を有するものであるので、電子写真法において用いるトナーすなわち荷電性粉末は、たとえば特開平11−265089号公報(特許文献1)または特開2000−98655号公報(特許文献2)に記載されるように、導電性金属粉末と、この導電性金属粉末を被覆する熱可塑性樹脂層とを備えるものである。また、特許文献1および2には、荷電性粉末として、導電性金属粉末を被覆する熱可塑性樹脂層が内層部と外層部との2層構造を有している実施例が開示されている。
【0005】
しかしながら、上述したような荷電性粉末を用いて電子写真法によってセラミックグリーンシート上に回路パターンを印刷した場合、セラミックグリーンシート上での荷電性粉末の定着性が必ずしも良好ではないという課題に遭遇することがある。なお、定着性が良好であるとは、電子写真法において、感光体からセラミックグリーンシートへ荷電性粉末が転写された後、熱および圧力の少なくとも一方によって定着させる定着工程が実施されるが、この定着工程の結果、荷電性粉末同士および荷電性粉末とセラミックグリーンシートとが互いに良好な密着状態となることである。定着性を良好なものとするには、上述の定着工程で付与される熱および/または圧力によって、荷電性粉末に含まれる樹脂が十分に変形かつ流動することが必要である。
【0006】
荷電性粉末の定着性が良好でないと、セラミックグリーンシートを次の工程へ供給するために搬送したとき、荷電性粉末によって与えられるパターンが崩れたり、複数のセラミックグリーンシートを積層して得られた生の積層体をカットする際、生の積層体において層剥がれが生じたりすることがある。この層剥がれは、焼成後においてデラミネーションを招く原因となる。
【0007】
なお、上述した定着性の問題は、荷電性粉末の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の軟化点に大いに関連するものと考えられるが、前述した特許文献1および2には、樹脂の軟化点に関する開示はない。
【0008】
軟化点に関する開示があるものとして、たとえば特開平6−286334号公報(特許文献3)があるが、特許文献3には、熱転写記録媒体再生用粉末トナーであって、50〜80℃の軟化点のワックスおよび熱可塑性樹脂からなる芯材を、軟化点80℃以上の樹脂でカプセル化したものが開示されているに過ぎない。上述のカプセル化するための軟化点80℃以上の樹脂は、使用時のトナー間の溶着防止を目的とするものであり、定着性の向上には何ら寄与するものではない。また、特許文献3に記載されるトナーは、導電性金属粉末を含むものではなく、したがって、所望のパターンを形成した後、焼成されるものではない。
【特許文献1】特開平11−265089号公報
【特許文献2】特開2000−98655号公報
【特許文献3】特開平6−286334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明の目的は、電子写真法によってセラミックグリーンシート上に印刷されたとき、良好な定着性を与えることができるとともに、セラミックグリーンシートを積層して得られた多層セラミック電子部品において構造欠陥を生じさせにくくすることができる、荷電性粉末を提供しようとすることである。
【0010】
この発明の他の目的は、上述の荷電性粉末を用いて実施される多層セラミック電子部品の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、電子写真法によって被印刷物上に回路パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末にまず向けられる。この荷電性粉末は、導電性金属粉末と、導電性金属粉末を被覆する熱可塑性樹脂層とを備えている。このような導電性粉末において、前述した技術的課題を解決するため、この発明では、熱可塑性樹脂層は、内層部と外層部との2層構造を有し、内層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点が150〜210℃の範囲にあり、外層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点が110〜140℃の範囲にあることを特徴としている。
【0012】
上述の内層部を構成する熱可塑性樹脂および/または外層部を構成する熱可塑性樹脂はアクリル樹脂であることが好ましい。
【0013】
この発明は、また、多層セラミック電子部品の製造方法にも向けられる。この発明に係る多層セラミック電子部品の製造方法は、上述した荷電性粉末を用意する工程と、セラミックグリーンシートを用意する工程と、荷電性粉末を用いてセラミックグリーンシート上に電子写真法によって回路パターンを印刷する工程と、次いで、複数のセラミックグリーンシートを積層し、それによって生の積層体を得る工程と、生の積層体を焼成する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る荷電性粉末によれば、まず、熱可塑性樹脂層の外層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を110〜140℃の範囲とすることにより、定着時の圧力および熱などにより十分変形することができ、被印刷物への不十分な定着を防止することができる。また、荷電性粉末の保存時における荷電性粉末同士の付着を防止することができる。
【0015】
また、この発明に係る荷電性粉末によれば、熱可塑性樹脂層の内層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を150〜210℃の範囲としているので、たとえば多層セラミック基板の製造に適用されたとき、生の積層体をカットする工程において70℃程度の温度が付与されるが、このような熱によっても印刷された回路パターンの強度が低下せず、剥がれが生じにくいので、焼成後においてデラミネーションを生じさせにくくすることができる。
【0016】
このようなことから、この発明に係る荷電性粉末を用いて多層セラミック電子部品を製造すれば、デラミネーションなどの構造欠陥が生じにくくすることができる。
【0017】
この発明に係る荷電性粉末において、内層部を構成する熱可塑性樹脂および/または外層部を構成する熱可塑性樹脂がアクリル樹脂であれば、熱分解性が良好で、焼成時において、400℃程度の低温で消失し、残渣が残りにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明の一実施形態による荷電性粉末1を構成する1個の粒子を拡大して図解的に示す断面図である。
【0019】
荷電性粉末1は、核となる導電性金属粉末2と、導電性金属粉末を被覆する熱可塑性樹脂層3とを備えている。導電性金属粉末2は、回路パターンにおいて導電性を与えるためのものである。他方、熱可塑性樹脂層3は、荷電性粉末1において、摩擦帯電電荷を保持し、また、被印刷物への定着作用を果たす。
【0020】
熱可塑性樹脂層3は、内層部4と外層部5との2層構造を有している。内層部4を構成する熱可塑性樹脂としては、荷電性粉末1からなる塗膜の強度を確保するため、軟化点が150〜210℃の範囲にあるものが用いられる。他方、外層部5を構成する熱可塑性樹脂としては、荷電性粉末1の定着性を確保するため、軟化点が110〜140℃の範囲にあるものが用いられる。
【0021】
より詳細には、荷電性粉末1が多層セラミック電子部品の製造において適用されるとき、電子写真法によってセラミックグリーンシート上に荷電性粉末1を用いて回路パターンを印刷する工程では、感光体からセラミックグリーンシートへ荷電性粉末1を転写した後、定着工程が実施される。この定着工程において、荷電性粉末1の定着性を向上させるためには、定着時の熱および/または圧力で荷電性粉末1に含まれる樹脂が熱などにより十分に変形かつ流動して、荷電性粉末1同士および荷電性粉末1とセラミックグリーンシートとが密着することが求められる。この要望を満たすためには、熱可塑性樹脂層3において用いられる熱可塑性樹脂の軟化点が低くされなければならない。
【0022】
しかし、このように軟化点が低いと、印刷された後の荷電性粉末1の塗膜の強度が低くなってしまう。特に、生の積層体をカットする工程において、70℃程度の温度が付与されるが、このような熱により、塗膜の強度がより低くなり、カットの応力で塗膜がセラミックグリーンシートから剥がれ、生の積層体において、層剥がれが生じることがある。この層剥がれは、焼成後にデラミネーションを引き起こす原因となる。
【0023】
そこで、前述のように、熱可塑性樹脂層3を内層部4と外層部5との2層構造とし、内層部4において軟化点を150〜210℃の範囲とし、外層部5において軟化点を110〜140℃の範囲とすることにより、塗膜強度を高く維持しながら、定着性を向上させることができる。
【0024】
内層部4を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を150℃以上としたのは、生の積層体をカットする工程において、70℃程度の熱にさらされても、層剥がれを防止するのに十分な塗膜強度を得ることができるためである。一般に、荷電性粉末により形成される塗膜の強度は樹脂の強度に大きく影響される。この発明に係る荷電性粉末では、内層部4を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を150℃以上とすることにより、塗膜において十分な強度を得ることができる。
【0025】
他方、内層部4を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を210℃以下としたのは、軟化点が210℃を超えると、積層された複数のセラミックグリーンシートを互いに圧着させる工程において、樹脂の流動性が悪くなり、荷電性粉末1間に空隙が発生してしまい、緻密な塗膜が得られにくくなるためである。
【0026】
なお、上記の観点から、内層部4を構成する熱可塑性樹脂の軟化点は、180〜210℃の範囲とすることがより好ましい。
【0027】
次に、外層部5を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を110℃以上としたのは、軟化点がこれより低いと、荷電性粉末1の保存時において、荷電性粉末1同士が付着してしまうという問題が発生するおそれがあるためである。
【0028】
他方、外層部5を構成する熱可塑性樹脂の軟化点を140℃以下としたのは、軟化点が140℃を超えると、定着時の熱および/または圧力で外層部5を構成する熱可塑性樹脂が十分に変形または流動せず。定着性が悪化するためである。
【0029】
なお、上記の観点から、外層部5を構成する熱可塑性樹脂の軟化点は、110〜125℃の範囲とすることがより好ましい。
【0030】
内層部4および外層部5をそれぞれ構成する熱可塑性樹脂としては、好ましくは、アクリル樹脂が用いられる。アクリル樹脂は、熱分解性が良好で、焼成時において、400℃程度の低温にて消失し、残渣が残りにくいからである。なお、熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂に限らず、たとえば、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリウレタンなどを用いることもできる。
【0031】
図1では、2層構造を有する熱可塑性樹脂層3を構成する内層部4および外層部5が各々1層ずつ図示されたが、内層部4および/または外層部5が2層以上からなる構造を有していてもよい。たとえば、導電性金属粉末2上に、内層部4として、軟化点204℃の熱可塑性樹脂層を形成した後、外層部5としては、軟化点140℃の熱可塑性樹脂層と軟化点110℃の熱可塑性樹脂層との2層をもって内層部4を被覆するようにしてもよい。また、外層部5を形成するため、たとえば、ともに140℃の軟化点であるというように、互いに同じ軟化点を有するが、互いに異なる組成の2種類の熱可塑性樹脂を用意し、これら2種類の熱可塑性樹脂を用いて2層からなる外層部5を形成してもよい。
【0032】
また、内層部4および外層部5の少なくとも一方に、ガラス粉末、可塑剤、荷電制御剤、金属酸化物などを含有させてもよい。
【0033】
次に、荷電性粉末1の製造方法について説明する。
【0034】
まず、導電性金属粉末が用意されるとともに、熱可塑性樹脂層における内層部を形成するための内層用熱可塑性樹脂粉末と外層部を形成するための外層用熱可塑性樹脂粉末とが用意される。
【0035】
また、導電性金属粉末を樹脂で被覆した状態とするための被覆装置が用意される。被覆装置は、典型的には、混在させた導電製品粉末と樹脂粉末とに機械的衝撃力を加えることによって、導電性金属粉末の各粒子を樹脂で被覆した状態とするためのものであり、通常、チャンバを備え、このチャンバ内で羽根が回転するように構成されている。
【0036】
上記被覆装置を用いて、まず、導電性金属粉末の各粒子を内層用熱可塑性樹脂で被覆するため、チャンバ内に導電性金属粉末および内層用熱可塑性樹脂粉末が投入され、その状態で、羽根が回転され、導電性金属粉末と内層用熱可塑性樹脂粉末とに機械的衝撃力が加えられる。その結果、導電金属粉末の各粒子が内層用熱可塑性樹脂によって被覆された状態となる。
【0037】
続いて、チャンバ内に外層用熱可塑性樹脂粉末が投入され、その状態で、羽根が回転され、内層用熱可塑性樹脂で被覆された導電性金属粉末と外層用熱可塑性樹脂粉末とに機械的衝撃力が加えられる。その結果、導電性金属粉末を被覆するように、内層部と外層部との2層構造を有する熱可塑性樹脂層が形成された荷電性粉末が得られる。
【0038】
その後、得られた荷電性粉末は、必要に応じて、分級され、微粉と粗粉とが除去される。また、得られた荷電性粉末について、必要に応じて、水を用いたデカンテーションにより、余剰樹脂がさらに分離除去される。
【0039】
また、荷電性粉末は、シリカ粉末と混合処理されることによって、各粒子表面にシリカ粉末を均一に付着させることが好ましい。
【0040】
図2は、荷電性粉末1を用いて電子写真法によって回路パターンを印刷するための電子写真印刷装置11の構成を図解的に示すものである。
【0041】
電子写真印刷装置11は、たとえばセラミックグリーンシートのような被印刷物12を矢印13で示すように搬送するための搬送ベルト14を備えている。搬送ベルト14によって与えられる搬送経路の途中に、感光体15が配置される。感光体15は、矢印16方向に回転するものである。
【0042】
感光体15の周囲には、コロナ帯電器17、レーザ光源18、荷電性粉末1の供給器19およびクリーナ20が配置される。また、感光体15に対して、搬送ベルト14を介在させて対向するように、転写器21が配置される。
【0043】
また、感光体15の下流側の所定の位置には、定着用の熱ロール機22が配置される。熱ロール機22は、両方向矢印23で示すように上下動される熱ロール24と、熱ロール24に対向しながら搬送ベルト14の下面を支えるように配置される定盤25とを備えている。
【0044】
なお、上述した熱ロール機22として、熱ロール24に代えて、平板状のプレス板を有するものを用いてもよい。
【0045】
以上のような構成を有する電子写真印刷装置11を用いて、被印刷物12上に荷電性粉末1による回路パターンを印刷する方法について説明する。
【0046】
まず、コロナ帯電器17によって感光体15の表面を帯電させる、帯電工程が実施される。
【0047】
次いで、矢印16方向に回転する感光体15の表面に、レーザ光源18からレーザ光26を照射する、露光工程が実施される。この露光工程において、レーザ光26が照射された部分においてのみ電荷が消失し、静電的な画像すなわち静電潜像(図示せず。)が形成される。
【0048】
次に、荷電性粉末1を供給器19から感光体15の表面の静電潜像に静電吸着させる、現像工程が実施される。
【0049】
次いで、搬送ベルト14の下面側から転写器21により荷電性粉末1と逆極性の電荷を与え、静電潜像上に現像された荷電性粉末1を被印刷物12上へ転写する、転写工程が実施される。
【0050】
上述の転写工程を終えた後に感光体15の表面に残された荷電性粉末1等は、クリーナ21によって除去される。
【0051】
このようにして現像された荷電性粉末1の塗膜を有する被印刷物12は、熱ロール機22の位置まで、矢印13方向に搬送ベルト14によって搬送される。ここで、熱ロール24によって、被印刷物12および荷電性粉末1の塗膜に対して加圧および加熱を及ぼし、荷電性粉末1の塗膜を定着させる、定着工程が実施される。図2には、定着工程が実施された後の荷電性粉末1の塗膜が回路パターン27を形成している状態が示されている。
【0052】
なお、本実施形態では、定着工程において加熱と加圧とを併用したが、加圧のみによって定着させてもよい。
【0053】
次に、図3および図4を参照して、この発明に係る荷電性粉末を用いて実施される多層セラミック電子部品の製造方法について説明する。
【0054】
まず、荷電性粉末が用意されるとともに、複数のセラミックグリーンシートが用意される。図3(1)には、特定のセラミックグリーンシート31が示されている。図3(1)に示すように、特定のセラミックグリーンシート31には、ビア導体のための貫通孔32が設けられる。次いで、図3(2)に示すように、貫通孔32に導電性ペーストが充填され、ビア導体33が形成される。
【0055】
次に、図3(3)に示すように、セラミックグリーンシート32上に、荷電性粉末を用いて電子写真法によって回路パターン34が形成される。この回路パターン34の形成には、たとえば図2に示した電子写真印刷装置11が適用される。
【0056】
次に、図3(4)に示すように、上述したセラミックグリーンシート31を含む複数のセラミックグリーンシート31が積層され、それによって生の積層体35が得られる。次いで、生の積層体35は、図3(5)に示すように、圧着される。この圧着工程では、たとえば70℃の温度が付与される。
【0057】
次に、生の積層体35は、1点鎖線で示す所定の切断線36に沿ってカットされる。このカット工程においても、生の積層体35には70℃程度の温度が付与される。このようにして、個々の多層セラミック電子部品のための積層体チップ37の生の状態のものが得られる。
【0058】
次に、積層体チップ37の側面上に、図4に示すように、導電性ペーストを用いて側面電極38が形成され、その後、焼成することによって、目的とする多層セラミック電子部品39が得られる。得られた多層セラミック基板39の側面電極38上には、必要に応じて、めっきが施されてもよく、また、積層体チップ37の外表面上にダイオードやIC等の部品が搭載されてもよい。
【0059】
次に、この発明に係る荷電性粉末による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0060】
まず、内層用熱可塑性樹脂粉末として、平均粒径が0.08μmでガラス転移点が60℃のもので、表1の「内層用樹脂の軟化点」の欄に示す軟化点をそれぞれ有するアクリル樹脂粉末を用意した。また、外層用熱可塑性樹脂粉末として、平均粒径が0.08μmでガラス転移点が60℃のもので、表1の「外層用樹脂の軟化点」の欄に示す軟化点をそれぞれ有するアクリル樹脂粉末を用意した。
【0061】
次に、銅粉末(平均粒径5.5μm)200gと上記内層用熱可塑性樹脂粉末15gとを混合し、被覆装置としてのホソカワミクロン製「メカノフュージョン」を用いて、2000rpmの回転数をもって20分間処理し、続いて、同じ被覆装置に、上記外層用熱可塑性樹脂粉末15gを投入し、さらに2000rpmの回転数をもって20分間処理し、内層部と外層部との2層構造を有する熱可塑性樹脂層が銅粉末を被覆するように形成された表1の試料1〜11の各々に係る荷電性粉末を得た。
【0062】
次に、上記荷電性粉末を分級機(日本ニューマチック製「MDS−II」)によって分級し、微粉および粗粉を除去した。
【0063】
次に、表1の試料1〜11の各々に係る分級処理後の荷電性粉末を300g計量し、容器に入れ、1ヶ月保存した後、荷電性粉末の保存性の評価を行なった。この保存性の評価において、「○」は容器の底部において荷電性粉末同士の付着がほとんど発生していない場合を示し、「×」は容器の底部において荷電性粉末同士の付着が発生し、ほぐしても付着が解消されない場合を示している。
【0064】
次に、上記の各試料の荷電性粉末300gと疎水性シリカ粉末(平均粒径0.07μm)3.0gとを混合し、三井鉱山製「ヘンシェルミキサーMH20」を用いて、5000rpmの回転数で10分間処理し、荷電性粉末の表面にシリカ粉末を均一に付着させた。
【0065】
次に、上記のようにシリカ粉末を付着させた各試料の荷電性粉末300gとフェライトキャリア(平均粒径60μm)700gとを混合し、トナー濃度30重量%の現像剤を得た。
【0066】
次に、図2に示すような電子写真印刷装置11を用いて、セラミックグリーンシート上に、上述の現像剤による回路パターンを形成した。ここで、定着後の回路パターンにつき、その面積を1mm×2mmとし、厚みを20μmとした。
【0067】
上記の段階で、表1に示すように、定着性を評価した。この定着性の評価において、「◎」は、定着後に回路パターンを指で擦っても、回路パターンを構成する荷電性粉末等が全く取れない場合を示し、「○」は、定着後に回路パターンを指で擦ると、回路パターンの実質的な欠落はないが、荷電性粉末等が薄っすらと指に付く場合を示し、「×」は、定着後に回路パターンを指で擦ると、指に荷電性粉末が付着するとともに、回路パターンが欠落する場合を示している。
【0068】
次に、上述のように回路パターンが形成されたセラミックグリーンシート30枚を積層し、70℃の温度を付与しながら圧着し、さらに、70℃の温度を付与しながら、カット工程を実施し、層剥がれの有無を調査した。その結果が表1の「構造欠陥」の欄に示されている。この「構造欠陥」において、「◎」は、層剥がれが全くない場合を示し、「○」は、20%未満の試料について層剥がれが生じた場合を示す、「×」は、20%以上の試料について層剥がれが生じた場合を示している。
【0069】
【表1】

【0070】
表1からわかるように、「内層用樹脂の軟化点」が150〜210℃の範囲を外れたり、「外層用樹脂の軟化点」が110〜140℃の範囲を外れたりした試料8〜11では、保存性または定着性が悪く、また層剥がれが生じた。
【0071】
これらに対して、「内層用樹脂の軟化点」が150〜210℃の範囲にあり、かつ「外層用樹脂の軟化点」が110〜140℃の範囲にある試料1〜7によれば、良好な保存性および定着性を示し、かつ層剥がれといった構造欠陥が発生しなかった。
【0072】
特に、「内層用樹脂の軟化点」が180〜210℃の範囲にある試料1、3、4、6および7では、定着性について、より好ましい結果が得られた。また、「外層用樹脂の軟化点」が110〜125℃の範囲にある試料1、3、4、5および7では、層剥がれ防止について、より好ましい結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この発明の一実施形態による荷電性粉末1を構成する1個の粒子を拡大して図解的に示す断面図である。
【図2】図1に示した荷電性粉末1による回路パターン27を電子写真法によって被印刷物12上に印刷するための電子写真印刷装置11の構成を図解的に示す図である。
【図3】この発明に係る荷電性粉末を用いて回路パターン34が形成された多層セラミック基板を製造する方法を説明するための断面図であり、生の積層体35を得るまでの工程を示している。
【図4】図3に示した生の積層体35を用いて製造される多層セラミック電子部品39を示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 荷電性粉末
2 導電性金属粉末
3 熱可塑性樹脂層
4 内層部
5 外層部
11 電子写真印刷装置
12 被印刷物
27,34 回路パターン
31 セラミックグリーンシート
35 生の積層体
39 多層セラミック電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真法によって被印刷物上に回路パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末であって、
導電性金属粉末と、
前記導電性金属粉末を被覆する熱可塑性樹脂層と
を備え、
前記熱可塑性樹脂層は、内層部と外層部との2層構造を有し、
前記内層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点は150〜210℃の範囲にあり、前記外層部を構成する熱可塑性樹脂の軟化点は110〜140℃の範囲にある、
荷電性粉末。
【請求項2】
前記内層部を構成する熱可塑性樹脂および/または前記外層部を構成する熱可塑性樹脂はアクリル樹脂である、請求項1に記載の荷電性粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の荷電性粉末を用意する工程と、
セラミックグリーンシートを用意する工程と、
前記荷電性粉末を用いて前記セラミックグリーンシート上に電子写真法によって回路パターンを印刷する工程と、
次いで、複数の前記セラミックグリーンシートを積層し、それによって生の積層体を得る工程と、
前記生の積層体を焼成する工程と
を備える、多層セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−242352(P2008−242352A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86458(P2007−86458)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】