説明

蒸着用素材及び情報記録媒体

【課題】スプラッシュ数やスカム率が低く、コンピュータのデータ等の情報を記録する媒体としても利用可能な高品質の蒸着テープを得ることができる蒸着用 素材を提供する。
【解決手段】コバルト系蒸着用素材に含まれる炭素、マグネシウム、珪素、マンガン、アルミニウム、およびチタンの濃度を、合計で42〜71ppmとなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着テープの製造に好適に使用できる蒸着用素材、及びこの素材を用いた情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着テープは、従来の塗布型磁気テープをはるかに上回る高性能を示す磁気記録媒体として、デジタルビデオテープ用として既に実用化されている。蒸着テープは、強磁性金属からなる蒸着用素材を、ポリエチレンテレフタレート等のベースフィルムに蒸着することにより製造される。蒸着用素材としては、鉄、コバルト、ニッケルの3つの強磁性金属か、その合金が選ばれる。そのうち、コバルト、又は、コバルトを主成分としてニッケル等を含むコバルト系の蒸着用素材が、もっとも一般的に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年蒸着テープは、高密度の記録が可能なことから、コンピュータのデータ等の情報を記録する媒体としても注目されている。しかし、データ等の情報記録媒体として使用するためには、デジタルビデオ等の用途で求められる以上に高い信頼性が求められる。
【0004】
蒸着テープを製造する上で特に問題となるのは、蒸着時に介在する不純ガス・介在物等が、高真空中でエネルギー密度の高い電子ビームにより溶解される際に、スプラッシュと呼ばれる所望粒子径を越えたハネを発生し、ベースフィルムに穴をあけたり蒸着ムラを起こしたりする原因となる。
また、発生する介在物がコパルト/アルミニウムを主体としたスピネル構造の酸化物の場合には、溶解面に浮上し表面を覆うことから、蒸着ムラを起こしたり、飛散して磁気記録面に異常を発生する等の不具合を生じていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、不純物の影響を評価し、スプラッシュやスカムの発生を少なく信頼性に優れる蒸着テープの製造が可能な蒸着素材、及びこの素材を用いた情報記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願は以下の発明を提供する。
[1] 炭素、マグネシウム、珪素、マンガン、アルミニウム、およびチタンを、合計で42〜71ppm含有させた、コバルト系蒸着用素材。
[2] 炭素を6〜20ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[3] マグネシウムを1〜6ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[4] 珪素を10〜20ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[5] マンガンを5〜10ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[6] アルミニウムを5〜10ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[7] チタンを5〜10ppm含有させた[1]に記載のコバルト系蒸着用素材。
[8] [1]から[7]のいずれかに記載の蒸着用素材をベースフィルムに蒸着した情報記録媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蒸着用素材によれば、介在物、特にスピネル系介在物を適切に抑えているので、スプラッシュやスカムの発生を非常に小さくすることができる。また、かかる蒸着用素材を用いれば、信頼性の高い情報記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明により、溶解時に溶解表面を覆う介在物の面積が、溶解表面全体の面積の10%以下であることを特徴とする蒸着用素材を提供する。なお、介在物とは、溶解した金属素材が酸化物や硫化物などの不純物のために汚され、凝固後、素材全体に分散し、スカムやスプラッシュの最大原因となるものである。本発明の蒸着用素材によれば、これら蒸着時の問題が軽減されテープ品質の信頼性が高くなり、製造歩留まり等が大きく向上する。
【0009】
また、本発明により、溶解時に溶解表面を覆うスピネル系介在物の面積が、溶解表面全体の面積の10%以下であることを特徴とする蒸着用素材を提供する。なお、スピネル系介在物とは、スピネル構造をもつ介在物である。また、スピネル構造とは、XY24の組成をもつ酸化物(X:マグネシウム、鉄、亜鉛、又はマンガン,Y:アルミニウム又は鉄)によく見られる結晶構造で尖晶石MgAl24は代表的なものである。等軸晶系で単位格子中には8X,16Y,32Oだけのイオンがあり、酸素イオンはだいたい面心立方格子を作り、その間にXとYが入る。この構造の結晶は安定で分解しにくい。
【0010】
溶解材料や使用する耐火物等に含まれるAl23が、ルツボ材のMgOやCoと反応してCo・Mg・Al23等のスピネル系酸化物となり、蒸着面を被覆し、均一な蒸着膜の生成を妨げたり飛散付着し記録面を汚染し品質を低下させることがわかっている。
【0011】
また、本発明の蒸着用素材を製造するための蒸着用素材の製造方法としては、原料を真空溶解法にて2回以上溶解することを特徴とする蒸着用素材の製造方法が好ましい。本方法によれば、溶解を繰り返すことにより蒸着に悪影響を及ぼすと考えられる不純成分や介在物を効果的に除去することができる。なお、具体的な溶解法に特に限定はなく、真空高周波溶解の繰り返し、電子ビームによる溶解の繰り返し、真空高周波溶解と電子ビームによる溶解の組み合わせ等を適宜採用できる。
【0012】
また、本発明の蒸着用素材を製造するための蒸着用素材の製造方法としては、連続鋳造法により、直接製品や近似製品素材を作り加工工程を短縮することを特徴とする蒸着用素材の製造方法が好ましい。本方法によれば、インゴット鋳造時に関連部材から耐火物等の異物を巻き込まなくてよい。また、加熱冷却が繰り返される塑性加工段階を省略できるので、ガス吸収等による素材の劣化を防ぐことができる。
【0013】
上記蒸着用素材を用いることにより、信頼性の高い蒸着テープ、特にデータストリーマ等のコンピュータ用途に適した蒸着テープを製造することができる。
【実施例】
【0014】
コバルト系蒸着用素材を用いた蒸着テープについて、図1のようにスプラッシュとスカムの確認試験を行った。まず銅製の蒸着ハース1内に上記各素材2のペレットを入れ、シヤッター4を閉じた状態で電子銃で加熱・溶解させた。完全に溶解するまでの間、溶解ハース1の上面はシャッター4で遮蔽したままとした。
そして、完全に溶解後、30秒間シャッターを開放して、上方のガラス基板3に蒸着を行った。その後、ガラス基板3を取り出し、溶解ハース1の素材2の液面中央の直上の評価面5において、100mm四方(10000mm2)あたりに発生しているスプラッシュ6の数を、100倍の実体顕微鏡を用いて計測した。
【0015】
さらに、試験後に冷却したハース1の残湯8より試片を取り出し、表面に発生しているスカムの大きさと試片の大きさを測定し、素材平面積に占めるスカムの面積をスカム率として併せ測定した。具体的には、水冷銅ハース1上で試験片を電子ビームで溶解後電子ビームの電流を徐々に絞り介在物を試験片中央に凝集させ、次いで電流を遮断し30分間前記試験片を冷却させて自由凝固させた後試験片を取り出しこの試験片の面積に対する介在物の面積比を計測することにより求めた。
【0016】
図2に示すように、スカム率が10%以下(Zone1)になると、スプラッシュ数が急激に減少することが明らかとなった。なお、スカム率は低ければ低い程良いが、加工性・コスト・安定性等製造不可避の要因を考慮すると、実用上、0.1〜10%の範囲とすることが望ましい。
【0017】
(実施例1)
原料を真空中で高周波溶解してインゴットとしたものを再度真空高周波溶解して再びインゴットとした。そして、このインゴットに熱間加工を施し、表面を研磨し黒皮を除去し、φ10mm×25mmに切断加工しペレットとしたものを実施例1の蒸着用素材として得た。
【0018】
(比較例1)
原料を真空中で高周波溶解してインゴットとしたものをインゴットとした。そして、このインゴットに熱間加工を施し、表面を研磨し黒皮を除去し、φ10mm×25mmに切断加工しペレットとしたものを比較例1の蒸着用素材として得た。
【0019】
(実施例2)
図3の連続鋳造装置を用いて連続鋳造を行った。図3において、原料11は高周波コイル12を備えた溶解槽13に入れられる。銅製の溶解槽13の下部に設けられた出口管14には、ジャケット構造の水冷式冷却装置15が取り付けられている。冷却された鋳造品16はロール17によって引き出されるようになっている。この鋳造品16を実施例2の蒸着用素材とした。
【0020】
本装置では、高周波溶解された原料11に介在物が混入していても、介在物は溶解した段階で比重差から上部に浮上するので、排出口14からは介在物がかなりの程度除去された原料が排出される。排出された原料は冷却装置15により半凝固状態となるが、水冷銅鋳型と接触した面では凝固が完了している。これを、対をなすロール17を回転させることにより連続的に引き抜き直ちにニアネットや直接使用可能な素材形状の鋳造品とするものである。この間、耐火物からなる鋳型を用いないので、耐火物を不純物として巻き込んだりスピネル系介在物を生成したりしない。また、インゴットからペレット等に熱間加工をする行程もかなり省略できるので、加熱冷却の繰り返しに伴うガス吸収等による素材の劣化も回避できる。
【0021】
(実施例3)
図3の装置の高周波コイル12に代えて電子銃を用い、電子ビームにより溶解させた素材について同様に冷却装置15による冷却、ロール17による引き抜きを行い、実施例3の蒸着用素材として鋳造品16を得た。この製造方法では、高周波コイルではなく電子銃により溶解させるので、より高温で溶解させることができる。そのため、不純物を高温で飛散させることができるので、より高純度とすることが期待できる。
【0022】
(比較例2)
比較例として、従来どおり、高周波溶解後に耐火物の鋳型に鋳造し、凝固・冷却することによる蒸着用素材も得た。
【0023】
上記各蒸着用素材について。成分分析置及び評価結果を表1に示す。その結果いずれの実施例についても、スプラッシュ数、スカム率共に低い値が得られた。
特に、電子銃を用いた連続鋳造法が介在物の低減に効果のあることが確認された。
【0024】
【表1】

【0025】
なお、上記製造方法の他に、1回以上の高周波溶解により製作したインゴットを、熱間加工せずに、再度溶解して連続鋳造してもよい。また、連続鋳造法は、図3のように横から引き抜く装置に限らず、図4のように溶解槽の下から引き抜く形の装置を用いて行ってもよい。なお、図4の詳しい説明は省略するが、図3と同一の構成部材には同一の参照番号を付した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の蒸着用素材について評価する実験方法を説明する図である。
【図2】スカム率とドロップアウト数の関係を示すグラフである。
【図3】連続鋳造装置を示す図である。
【図4】他の連続鋳造装置を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
11 原料 12 高周波コイル 13 溶解槽 14 出口管 15 冷却装置 16 鋳造品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、マグネシウム、珪素、マンガン、アルミニウム、およびチタンを、合計で42〜71ppm含有させた、コバルト系蒸着用素材。
【請求項2】
炭素を6〜20ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項3】
マグネシウムを1〜6ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項4】
珪素を10〜20ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項5】
マンガンを5〜10ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項6】
アルミニウムを5〜10ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項7】
チタンを5〜10ppm含有させた請求項1に記載のコバルト系蒸着用素材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の蒸着用素材をベースフィルムに蒸着した情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−74175(P2009−74175A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251555(P2008−251555)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【分割の表示】特願2000−172360(P2000−172360)の分割
【原出願日】平成12年6月8日(2000.6.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】