説明

薄膜トランジスタ基板の製造方法及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物

【課題】非晶質シリコン膜をレーザー照射により多結晶シリコン膜に変化させる際に、非晶質シリコン膜上に形成された自然酸化膜が多結晶化に及ぼす悪影響を防ぐことができる薄膜トランジスタ基板の製造方法及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物を提供する。
【解決手段】基板10上に非晶質シリコン膜21aを形成する非晶質シリコン膜形成工程と、非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30を形成する酸化保護膜形成工程と、酸化保護膜30上からレーザー22を照射して非晶質シリコン膜21aを多結晶シリコン膜21pに変化させる多結晶シリコン膜形成工程とを少なくとも有する。この方法では、非晶質シリコン膜形成工程と酸化保護膜形成工程とが、非晶質シリコン膜形成工程で使用されるチャンバー内で連続して行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ基板の製造方法及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物に関し、更に詳しくは、非晶質シリコン膜をレーザー照射により多結晶シリコン膜に変化させる際に、非晶質シリコン膜上に形成された自然酸化膜が多結晶化に及ぼす悪影響(例えば白濁化等)を防ぐことができる薄膜トランジスタ基板の製造方法及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタやフォトダイオード等の半導体素子の材料としては、今日、シリコンが最も多用されている。例えば、多くの大規模集積回路では単結晶シリコン基板を利用した半導体素子が形成されており、アクティブマトリックス駆動型の表示パネル等では、ガラスや合成樹脂等からなる絶縁性基板上に設けられた非晶質シリコン膜又は多結晶シリコン膜を利用した半導体素子が形成されている。
【0003】
高性能の半導体素子を形成するためには単結晶シリコンを利用することが好ましいが、耐熱性の低い絶縁性基板上に単結晶シリコン膜を形成することは困難であるので、このような絶縁性基板上に高性能の半導体素子を形成しようとする場合には、多結晶シリコン膜が利用される。
【0004】
絶縁性基板上に高品質の多結晶シリコン膜を形成する方法としては、減圧化学的気相蒸着法(LPCVD)、プラズマCVD(PECVD)法、スパッタリング法等によって先ず非晶質シリコン膜を成膜し、この非晶質シリコン膜に熱アニール又はレーザーアニールを施して多結晶化するという方法が知られている。特に、絶縁性基板の耐熱温度が550℃程度より低い場合は、絶縁性基板上にPECVD法又はスパッタリング法によって非晶質シリコン膜を成膜し、この非晶質シリコン膜にレーザーアニールを施して多結晶化する方法が採用されている。
【0005】
非晶質シリコン膜を400℃未満の成膜温度のPECVD法で成膜した場合、比較的多量の水素を含有する水素化非晶質シリコン膜が得られる。得られた非晶質シリコン膜は、水素によってダングリングボンドが終端されているので化学的に安定で酸化しにくいという点では好ましい。こうした非晶質シリコン膜にレーザーアニールを施すと、レーザーアニール時に水素が放出して膜表面が荒れるため、膜中の水素を放出させる脱水素処理(例えば、非酸化性雰囲気下で400℃〜500℃程度の熱アニールによる脱水素処理等)が予め行われている。しかし、水素を放出した後の非晶質シリコン膜はダングリングボンドが終端されていないため化学的活性が高く、酸化し易いという問題がある。
【0006】
一方、スパッタリング法で成膜した非晶質シリコン膜は、200℃以下の低温で成膜しても水素等が含有していない膜であり、脱水素処理が必要ないという点では好ましい。しかし、得られた非晶質シリコン膜は、ダングリングボンドが終端されていない化学的に活性な膜であり、上記同様、酸化し易いという問題がある。
【0007】
化学的に活性の高い非晶質シリコン膜(ダングリングボンドが終端されていない非晶質シリコン膜)を多結晶化するにあたっては、この非晶質シリコン膜を結晶化装置(アニール装置)内まで搬送する過程で酸化が進行しないように、例えば、非晶質シリコン膜の成膜装置又は脱水素処理装置と、結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶ等の方策がとられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−64453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非晶質シリコン膜の成膜装置又は脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶためには多大の投資が必要であり、生産コストの上昇に繋がるという問題がある。そのため、低コスト化を実現できる生産性の高い方法が望まれている。
【0010】
一方、非晶質シリコン膜の成膜装置又は脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ばない場合においては、PECVD法で成膜した非晶質シリコン膜を脱水素処理した後の膜や、スパッタリング法で成膜した非晶質シリコン膜は、上記のように化学的活性が高いので、結晶化装置に移動する際に大気などの酸素雰囲気に晒されることで、非晶質膜であるシリコン膜の膜中に酸素が容易に進入し、シリコン膜中で部分的な自然酸化が容易に生じる。そして、その自然酸化が生じた非晶質シリコン膜に対してレーザーアニールを施すと、非晶質シリコン膜に酸化シリコンの凝集による白濁が生じ、所望の多結晶化を実現することができないことがある。なお、部分的な酸化とは、膜中に酸素が含まれている状態、およびその酸素がシリコンのダングリングボンドと結合している状態であり、化学量論組成では、SiOでなく、SiO(xは2未満)になっている状態である。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、非晶質シリコン膜をレーザー照射により多結晶シリコン膜に変化させる際に、非晶質シリコン膜中で酸化シリコンの凝集を生じてシリコン膜の多結晶化に及ぼす悪影響を防ぐようにした薄膜トランジスタ基板の製造方法、及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第1の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法は、基板上に非晶質シリコン膜を形成する非晶質シリコン膜形成工程と、前記非晶質シリコン膜上に酸化保護膜を形成する酸化保護膜形成工程と、前記酸化保護膜上からレーザーを照射して前記非晶質シリコン膜を多結晶シリコン膜に変化させる多結晶シリコン膜形成工程と、を少なくとも有し、前記非晶質シリコン膜形成工程と前記酸化保護膜形成工程とを、該非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行うことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、非晶質シリコン膜形成工程と酸化保護膜形成工程とを、非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行うので、仮にその非晶質シリコン膜が化学的活性の高い未終端非晶質シリコン膜であっても、その非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じない。その結果、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射したレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きないので、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じない。その結果、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。
【0014】
また、この発明によれば、非晶質シリコン膜上に酸化保護膜を形成したので、酸化保護膜を形成した後の中間構造物が大気雰囲気に曝された場合であっても、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じない。その結果、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になり、非晶質シリコン膜の成膜装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となるので、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。
【0015】
上記第1の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法において、前記非晶質シリコン膜をスパッタリング法又は400℃以上の成膜温度で行う減圧若しくはプラズマCVD法で形成することが好ましい。
【0016】
この発明によれば、非晶質シリコン膜をスパッタリング法又は400℃以上の成膜温度で行う減圧若しくはプラズマCVD法で形成するので、非晶質シリコン膜は水素の含有量が少ない化学的活性の高い未終端非晶質シリコン膜となる。本発明では、非晶質シリコン膜形成工程と酸化保護膜形成工程とを、非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行うので、非晶質シリコン膜形成工程後の高活性な未終端非晶質シリコン膜であっても、その膜中に部分的な酸化を生じさせない。
【0017】
上記第1の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法において、前記基板が樹脂基板であり、前記非晶質シリコン膜及び前記酸化保護層をスパッタリング法で形成することが好ましい。
【0018】
この発明によれば、非晶質シリコン膜と酸化保護層を低温成膜できるスパッタリング法で形成するので、樹脂基板を適用した場合であっても、非晶質シリコン膜形成工程後の高活性な未終端非晶質シリコン膜中に部分的な酸化を生じさせない。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の第2の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法は、基板上に非晶質シリコン膜を減圧若しくはプラズマCVD法で形成する非晶質シリコン膜形成工程と、前記非晶質シリコン膜を400℃以上に加熱して非晶質シリコン膜の水素含有量を減少させる脱水素工程と、前記非晶質シリコン膜上に酸化保護膜を形成する酸化保護膜形成工程と、前記酸化保護膜上からレーザーを照射して前記非晶質シリコン膜を多結晶シリコン膜に変化させる多結晶シリコン膜形成工程と、を少なくとも有し、前記非晶質シリコン膜脱水素工程と前記酸化保護膜形成工程とを、該非晶質シリコン膜脱水素工程で使用するチャンバー内で連続して行うことを特徴とする。
【0020】
比較的多量の水素を含有する化学的に安定な水素化非晶質シリコン膜を脱水素処理することにより活性な非晶質シリコン膜が得られるが、この発明によれば、非晶質シリコン膜脱水素工程と酸化保護膜形成工程とを、非晶質シリコン膜脱水素工程で使用するチャンバー内で連続して行うので、活性な非晶質シリコン膜は大気等に晒されるのを防ぐことができ、その非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じない。その結果、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射したレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きないので、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じない。その結果、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。
【0021】
また、この発明によれば、非晶質シリコン膜の脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となるので、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。
【0022】
本発明の第2の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法において、前記酸化保護膜をスパッタリング法で形成することが好ましい。
【0023】
この発明によれば、酸化保護膜をスパッタリング法で形成するので、減圧若しくはプラズマCVD法で形成した膜に脱水素処理を行った後の化学的活性の高い非晶質シリコン膜であっても、その脱水化処理工程で使用するチャンバー内で連続して酸化保護膜を形成することができる。その結果、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じにくく、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物は、基材と、該基材上に形成された非晶質シリコン膜と、該非晶質シリコン膜上に形成された酸化保護膜とを少なくとも有することに特徴を有する。
【0025】
この発明によれば、非晶質シリコン膜上に酸化保護膜が形成されているので、酸化保護膜が形成された後の中間構造物が大気雰囲気に曝された場合であっても、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じない。その結果、その後に行われるレーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射されたレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きないので、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じない。その結果、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。
【0026】
本発明の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物において、前記酸化保護膜が酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜又は酸化アルミニウム膜であることが好ましい。
【0027】
本発明の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物において、前記非晶質シリコン膜がスパッタリング法又は400℃以上の成膜温度で行う減圧若しくはプラズマCVD法により形成された未終端非晶質シリコン膜であることが好ましい。
【0028】
本発明の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物において、前記基板が樹脂基板であり、前記非晶質シリコン膜及び前記酸化保護層がスパッタリング法により形成された膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法によれば、仮にその非晶質シリコン膜が化学的活性の高い未終端非晶質シリコン膜であっても、その非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射したレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きない。その結果、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じないので、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。また、この発明によれば、酸化保護膜を形成した後の中間構造物が大気雰囲気に曝された場合であっても、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になり、非晶質シリコン膜の成膜装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となる。その結果、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。
【0030】
本発明の第2の観点に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法によれば、活性な非晶質シリコン膜は大気等に晒されるのを防ぐことができ、その非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射したレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きない。その結果、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じないので、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。また、この発明によれば、非晶質シリコン膜の脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となるので、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。
【0031】
また、本発明の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物によれば、酸化保護膜が形成された後の中間構造物が大気雰囲気に曝された場合であっても、非晶質シリコン膜中に部分的な酸化が生じないので、その後に行われるレーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜上から照射されたレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きない。その結果、非晶質シリコン膜に所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、レーザーアニールを施した場合であっても、形成される多結晶シリコン膜に白濁が生じないので、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の薄膜トランジスタ基板の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の薄膜トランジスタ基板の他の例を示す模式断面図である。
【図3】本発明の薄膜トランジスタ基板の製造工程を示す説明図である。
【図4】本発明の薄膜トランジスタ基板の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法及び薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する範囲において、以下の説明及び図面の形態に限定されるものではない。
【0034】
[薄膜トランジスタ基板]
最初に、本発明に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法により製造される薄膜トランジスタ基板について説明する。図1は、本発明に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法により製造される薄膜トランジスタ基板のTFT素子部1の一例を示す模式断面図である。薄膜トランジスタ基板は、図1に示すTFT素子部1を含むものであって、絶縁性基板10と、絶縁性基板10上に必要に応じて形成された下地膜11及びバッファ膜12と、絶縁性基板10上(又は必要に応じて形成された下地膜11、バッファ膜12上)に形成された多結晶シリコン膜13(ソース側拡散領域13s、チャネル領域13c及びドレイン側拡散領域13d)と、多結晶シリコン膜13上に形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上に、又は絶縁膜14のコンタクトホールを介して形成された電極15(ソース電極15s、ゲート電極15g及びドレイン電極15d)と、電極15等を覆う保護膜18とを有している。なお、図1に示すように、絶縁性基板10と多結晶シリコン膜13との間には、密着性等を向上させるための下地膜11や、非晶質シリコン膜を多結晶化する際のレーザー照射時の熱を緩衝するバッファ膜12等が任意に設けられているものであってもよい。また、絶縁膜14は、ゲート絶縁膜を含む意味で用いている。こうした薄膜トランジスタ基板は、例えばアクティブマトリックス駆動型の表示装置を構成するディスプレイパネルとして利用可能である。
【0035】
以下においては、図1に示すプレーナー型トップゲート構造からなるTFT素子部1の構造形態を例にして、図3及び図4に基づいた製造工程順にその詳細を説明するが、本発明の製造方法で製造される薄膜トランジスタ基板は、図示の例に限定されず、図2(A)に示す逆スタガ型ボトムゲート構造、図2(B)に示すボトムゲート・ボトムコンタクト構造、図2(C)に示す順スタガ型トップゲート構造に対しても適用できる。
【0036】
[薄膜トランジスタ基板の製造方法]
図3及び図4は、図1に示す薄膜トランジスタ基板の製造工程を示す説明図である。本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法(「第1の製造方法」ともいう。)は、図3及び図4に示すように、絶縁性基板10上(又は必要に応じて設けられた下地膜11、バッファ膜12上)に非晶質シリコン膜21aを形成する非晶質シリコン膜形成工程(図3(B)参照)と、非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30を形成する酸化保護膜形成工程(図3(C)参照)と、酸化保護膜30上からレーザー22を照射して非晶質シリコン膜21aを多結晶シリコン膜21pに変化させる多結晶シリコン膜形成工程(図3(D)参照)と、を少なくとも有している。
【0037】
そして、本発明の製造方法は、第1の態様として、非晶質シリコン膜形成工程で化学的活性が高く酸化しやすい未終端非晶質シリコン膜が形成される場合には、図3(B)に示す非晶質シリコン膜形成工程と、図3(C)に示す酸化保護膜形成工程とを、非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行う方法である。一方、第2の態様として、非晶質シリコン膜形成工程で化学的活性が低く安定な水素化非晶質シリコン膜が形成される場合には、その水素化非晶質シリコン膜の水素含有量を減少させる脱水素工程(図示しない)と、図3(C)に示す酸化保護膜形成工程とを、脱水素工程で使用するチャンバー内で連続して行う方法である。
【0038】
以下、各工程を順次説明する。
【0039】
(非晶質シリコン膜形成工程)
非晶質シリコン膜形成工程は、図3(A)(B)に示すように、絶縁性基板10上に非晶質シリコン膜21aを非酸化性雰囲気下で形成する工程である。絶縁性基板10としては、石英、単成分ガラス、多成分ガラス、樹脂(プラスチック)等からなる絶縁性の基板を用いることができる。どのような材質の絶縁性基板を用いるかは、非晶質シリコン膜21aの形成方法(プロセス温度を含む。)や製造コスト、又は、製造しようとする多結晶シリコン膜13やその多結晶シリコン膜13を有する薄膜トランジスタ基板の用途等を考慮して適宜選択される。多結晶シリコン膜13の製造コストや、その多結晶シリコン膜13を有する薄膜トランジスタ基板の製造コストを抑えるという観点からは、耐熱温度が300℃程度の多成分ガラス又は樹脂によって形成された絶縁性基板を用いることが好ましい。
【0040】
絶縁性基板10の形態は、製造しようとする多結晶シリコン膜13の用途等に応じて、板状、シート状、フィルム状等、適宜選定可能である、本発明においては、絶縁性材料によって形成された板状物の他に、絶縁性材料によって形成されたフレキシブルなシート状物やフィルム状物等や、導電性基板上に十分な絶縁性を持った絶縁層を形成し、表面が絶縁性を有する基板も「絶縁性基板」と称するものとする。
【0041】
また、樹脂製の絶縁性基板10としては、例えば、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリノルボルネン系樹脂、ポリサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、又は熱可塑性ポリイミド等からなる有機基材、又はそれらの複合基材を挙げることができる。樹脂製の絶縁性基板10は、その厚さによってはフレキシブル基板とすることもできるので好ましく用いることができる。
【0042】
絶縁性基板10上には、図3(A)に示すように、密着性等を向上させるための下地膜11や、非晶質シリコン膜21aを多結晶化する際のレーザー照射時の熱を緩衝するバッファ膜12等を必要に応じて任意に設けることができる。こうした下地膜11やバッファ膜12は、DCスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法等のスパッタリング法、プラズマCVD法等の各種の方法で形成することができるが、実際には、膜を構成する材質に応じた好ましい方法が採用される。通常は、DCスパッタリング法やRFマグネトロンスパッタリング法等のスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0043】
下地膜11やバッファ膜12が任意に設けられた絶縁性基板10上には、図3(B)に示すように、ノンドープの非晶質シリコン膜21aを形成する。この非晶質シリコン膜21aは、その成膜方法によって、ダングリングボンドを有する非晶質シリコン膜(以下「未終端非晶質シリコン膜」という。)、又は、比較的多量の水素を含有する非晶質シリコン膜(以下「水素化非晶質シリコン膜」という。)に大別できる。なお、両者を総称するときは、非晶質シリコン膜21aという。
【0044】
未終端非晶質シリコン膜は、ダングリングボンドが終端されていない化学的に活性な膜であり、酸化しやすい膜である。こうした未終端非晶質シリコン膜は、例えばスパッタリング法や、400℃以上の成膜温度で行う減圧CVD法(LPCVD法)若しくはプラズマCVD法で成膜することができる。特に耐熱温度が300℃程度以下の樹脂製の絶縁性基板10上に成膜する場合には、200℃以下の成膜温度で未終端非晶質シリコン膜を成膜できるスパッタリング法を好ましく適用できる。なお、400℃以上の成膜温度で行う減圧CVD法やプラズマCVD法では、絶縁性基板10の種類はある程度制限される。得られた未終端非晶質シリコン膜は酸化しやすい化学的に活性な膜であるので、ここでの非晶質シリコン膜形成工程とその後の酸化保護膜形成工程とを、非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行うようにする。
【0045】
一方、水素化非晶質シリコン膜は、比較的多量の水素を含有し、その水素によってダングリングボンドが終端された化学的に安定で酸化しにくい膜である。こうした水素化非晶質シリコン膜は、例えば400℃未満の成膜温度で行う減圧CVD法(LPCVD法)やプラズマCVD法で成膜することができる。水素化非晶質シリコン膜は、化学的に比較的安定であるため、成膜後の取り扱いは容易に酸化しやすい未終端非晶質シリコン膜ほど厳格でなくてもよく、大気下に晒しても大きな問題は生じない。しかし、水素化非晶質シリコン膜は、400〜500℃程度の熱アニールを非酸化性雰囲気下で連続して施す脱水素処理を行うことが望ましく、脱水素処理後においては、含有する水素を放出して未終端非晶質シリコン膜と同様の酸化しやすい化学的に活性な膜となる。そのため、脱水素処理後においては、ここでの脱水素工程(図示しない)とその後の酸化保護膜形成工程とを、脱水素工程で使用するチャンバー内で連続して行うようにする。
【0046】
脱水素処理は、真空中で加熱するだけの処理であるので、通常の結晶化装置が有するロードロック室に加熱機構を付加すれば、そのロードロック室で加熱して脱水素処理を行うことができる。こうした装置構成は、その後の酸化保護膜の形成、レーザー照射、レジストプロセス、イオン注入、レジストアッシング、レーザー活性化等を行う装置と組合せ易いという利点があり、脱水素処理を一連の工程として組み入れ易い。また、こうした装置構成とした場合、非晶質シリコン膜の酸化を抑止できるので、後述する酸化防止膜の厚さを薄くしたり、酸化防止性は低いが成膜が容易な膜を選択して形成することも可能となるので、より便利である。
【0047】
非晶質シリコン膜21aの厚さは、製造しようとする多結晶シリコン膜13の用途等に応じて、0.01〜1.0μm程度の範囲内で適宜選定可能である。なお、非晶質シリコン膜21aが未終端非晶質シリコン膜であるか水素化非晶質シリコン膜であるかは、ESR測定を行うことによって確認することができる。
【0048】
また、非晶質シリコン膜21aには、必要に応じて、ドナー又はアクセプタとして機能する不純物が添加されていてもよい。このような非晶質シリコン膜21aは、例えば、上記の不純物を含有したシリコン化合物を蒸着材料やターゲット等として用いた一元のPVD法により、又は、シリコンと上記の不純物とを蒸着材料やターゲット等として別々に用いた多元のPVD法により、成膜することが可能である。
【0049】
この非晶質シリコン膜形成工程では、非晶質シリコン膜21aの成膜が非酸化性雰囲気中で行われる。具体的には、上記の各成膜方法のように、酸素分圧が1×10−4Pa程度の非酸化性雰囲気下で行われる。
【0050】
(酸化保護膜形成工程)
酸化保護膜形成工程は、図3(C)に示すように、非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30を形成する工程である。上記第1の態様においては、酸化保護膜30を非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して形成する。こうすることで、非晶質シリコン膜形成工程で成膜された化学的活性の高い未終端非晶質シリコン膜上への酸化保護膜30を、大気等に晒さないで形成することができ、その未終端非晶質シリコン膜の酸化を防止することができる。一方、上記第2の態様においては、酸化保護膜30を脱水素処理工程で使用するチャンバー内で連続して形成する。こうすることで、水素化非晶質シリコン膜を脱水素処理して化学的活性が高まった非晶質シリコン膜上への酸化保護膜30を、大気等に晒さないで形成することができ、その非晶質シリコン膜の酸化を防止することができる。
【0051】
酸化保護膜30は、後述する多結晶シリコン膜形成工程のレーザーアニールで適用されるエキシマレーザーを透過する性質も有する。このとき、透過するエキシマレーザーの種類としては、例えば波長308nmのXeClエキシマレーザーを挙げることができるが、他の波長のエキシマレーザーであってもよい。例えば波長308nmのXeClエキシマレーザーに対しては、酸化ケイ素膜を酸化保護膜30として採用することが好ましい。この酸化ケイ素膜は、対応する波長の光を100%の透過率で透過することができるので、非晶質シリコン膜21aに所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。酸化ケイ素膜と同様の作用を奏する酸化保護膜30としては、耐熱性の高い透明膜(対応する波長の光に対して「透明」であるという意味。)であれば特に限定されないが、例えば酸化アルミニウム膜、窒化ケイ素膜、窒化アルミニウム膜等を挙げることができる。
【0052】
酸化保護膜30は、上記第1の態様では未終端非晶質シリコン膜の形成工程で使用されるチャンバー内で連続して形成され、一方、上記第2の態様では水素化非晶質シリコン膜の脱水素処理工程で使用されるチャンバー内で連続して形成される。いずれの場合も、非酸化性雰囲気を保持した状態で酸化保護膜30が形成されるので、スパッタリング法で成膜された化学的活性の高い未終端非晶質シリコン膜21aや、減圧化学的気相蒸着法で形成された水素化非晶質シリコン膜に脱水素処理を行った後の化学的活性の高い非晶質シリコン膜が部分的な酸化を生じない。その結果、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜21a上から照射されたレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きないので、非晶質シリコン膜21aに所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。さらに、酸化保護膜30が非晶質シリコン膜21a上に形成されているので、非晶質シリコン膜21aに部分的な酸化が生じない。そのため、その後にレーザーアニールを施した場合であっても、非晶質シリコン膜21aに白濁が発生するのを防ぐことができる。その結果、レーザーアニールによる所望の多結晶化を実現することができる。
【0053】
前記のように酸化保護膜30は、第1の態様では非晶質シリコン膜21aの形成工程で使用されるチャンバー内で連続して形成され、一方、第2の態様では脱水素処理工程で使用されるチャンバー内で連続して形成されるが、具体的には、RFマグネトロンスパッタリング法等のスパッタリング法で形成されることが好ましい。特に非晶質シリコン膜21aをスパッタリングで形成した場合には、酸化保護膜30を同じ手段で成膜できるので効率的であるという利点がある。
【0054】
酸化保護膜30の厚さとしては、10〜200nm程度であることが好ましい。こうして形成された酸化保護膜30は、後述のレーザー照射、レジストプロセス、イオン注入、レジストアッシング、レーザー活性化等の工程において、非晶質シリコン膜21a又は多結晶シリコン膜21pの酸化を防ぎ、また、特性を維持するように作用する。
【0055】
なお、この酸化保護膜30は、多結晶シリコン膜13に対して欠陥処理を施す場合には、欠陥処理工程前に、例えば2%HF溶液を用いたウエットエッチングにより除去されることが好ましい。
【0056】
しかし、酸化保護膜30が後述するゲート絶縁膜14と同じ材質、例えば酸化シリコンの場合には、酸化保護膜30をゲート絶縁膜14として使用することが可能である。酸化保護膜30をゲート絶縁膜14として使用する場合には、酸化保護膜30を除去する工程が不要となり、全体の工程を短縮することができる。また、その場合には、酸化保護膜30としての機能とゲート絶縁膜14としての機能が両立するような膜厚や膜質に設定する必要があり、また、多結晶シリコン膜13の欠陥処理工程を多結晶シリコン膜13がむき出しでない状態で施す必要があり、むき出しの多結晶シリコン膜13に対する欠陥処理工程と条件を変更する必要がある。
【0057】
酸化保護膜形成工程で酸化保護膜30が形成された後の構造物(本願では、中間構造物ともいう。)は、それが大気雰囲気に曝された場合であっても、非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30が形成されているので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になり、非晶質シリコン膜21aの成膜装置又は脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となる。その結果、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。
【0058】
(多結晶シリコン膜形成工程)
多結晶シリコン膜形成工程は、図3(D)に示すように、前記の酸化保護膜30上からレーザーを照射して非晶質シリコン膜21aを多結晶シリコン膜21pに変化させる工程である。従来の製造方法では、非酸化性雰囲気下でレーザー照射を行うことにより、化学的活性の高い非晶質シリコン膜21aが酸化するのを防いでいたが、本発明では化学的活性の高い非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30が形成されているので、大気雰囲気中で多結晶シリコン膜形成工程を行うことが可能となる。すなわち、本発明では、酸化防止層が形成されたシリコン膜を大気雰囲気下でレーザー結晶化させることが可能な大気雰囲気下レーザー結晶化工程(大気雰囲気下多結晶シリコン膜形成工程)、と言い換えることができる。
【0059】
なお、従来と同様の非酸化性雰囲気で多結晶シリコン膜形成工程を行っても構わないが、その雰囲気に対する条件制御は極めてラフにすることが可能である。非晶質シリコン膜21aの多結晶化は、絶縁性基板10の耐熱温度を考慮し、熱アニール、レーザーアニール(レーザー照射)、又は電子線アニール等によって行うことができるが、本発明においては、レーザー照射によるレーザーアニールが好ましい。
【0060】
熱アニールでは、非晶質シリコン膜21aを550℃程度以上に加熱することが望まれるので、絶縁性基板10の耐熱温度が熱アニールでの加熱温度に満たない場合には、レーザーアニール又は電子線アニールによって非晶質シリコン膜21aを多結晶化することが好ましい。これらレーザーアニール又は電子線アニールによれば、絶縁性基板10の耐熱温度が400℃程度以下であっても、非晶質シリコン膜21aを多結晶化させて多結晶シリコン膜21pとすることができる。
【0061】
レーザーアニールとしては、レーザー媒質としてXeClガス又はKrFガス等を用いたエキシマパルスレーザー光を照射する方法を好ましく挙げることができる。具体的には、波長308nmのXeClエキシマレーザー、波長258nmのKrFエキシマレーザー、CW(Continuous Wave)レーザー等の種々のレーザーを用いて行うことができ、例えばXeClエキシマレーザーを照射して結晶化を行う場合には、一例として、パルス幅:30nsec、エネルギー密度:300mJ/cm、室温の条件下で行うことができる。なお、上記のバッファ膜12は、この工程で加わるレーザー照射時の熱を緩衝させるのに顕著な効果があり、このレーザー照射時の熱に基づいて絶縁性基板10との間の界面剥離を防ぐことができる。こうしたレーザーアニールを行うことにより非晶質シリコン膜21aへの照射エネルギーの制御が容易になり、更に、非晶質シリコン膜21a上には凹凸が生じ易い自然酸化膜が生じておらず、スパッタリング法により形成された凹凸が殆どない緻密な酸化保護膜30が形成されているので、非晶質シリコン膜21aに所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。その結果として、結晶品質の高い多結晶シリコン膜21pを容易に得ることができる。
【0062】
この多結晶シリコン膜形成工程では、従来は、非晶質シリコン膜21aの多結晶化を例えば酸素分圧が1×10−2Pa程度の非酸化性雰囲気中で行わなければならなかったが、本発明では、必ずしもそうした非酸化性雰囲気で行う必要がなく、大気雰囲気での多結晶化も可能になるので、専用の多結晶化装置等が不要となり、設備コストの点でも有利である。
【0063】
なお、多結晶シリコン膜形成工程には、必要に応じて、イオン注入法等によって非晶質シリコン膜21aにドナー又はアクセプタを添加するサブ工程を含ませることができる。このサブ工程を含ませる場合には、当該サブ工程を行った後に非晶質シリコン膜(ドナー又はアクセプタが添加されたもの)に上述のアニールを施して、添加した不純物(ドナー又はアクセプタ)の活性化とシリコン膜の多結晶化とを行う。
【0064】
(その他の工程)
以下に、多結晶シリコン膜形成工程後について説明するが、必ずしも以下に示す工程に限定されない。多結晶シリコン膜形成工程後においては、図3(E)に示すように、多結晶シリコン膜21p上にレジスト膜23を形成し、その後レジスト膜23をパターニングし、その後、イオン注入24を行い、多結晶シリコン膜21pにソース側拡散領域13s及びドレイン側拡散領域13dを形成し、さらに両膜13s,13dの間に、チャネル領域13cを形成する。ここで、レジスト膜23は、多結晶シリコン膜21pの所定領域に添加される不純物イオンを遮蔽するためのレジスト膜であり、例えば上市されている各種のポジ型フォトレジスト等が好ましく用いられる。また、イオン注入24は、例えば、リン(P)を所定の注入電圧下で所定のドープレベルとなるように注入する。
【0065】
次に、図3(F)に示すように、レジスト膜23をプラズマアッシング法により除去する。プラズマアッシング法は、プラズマ化した酸素ガスとレジスト膜23とを反応させ、有機物であるレジスト膜23を炭酸ガスや水に分解(灰化)して除去する方法である。プラズマアッシング法は、プラズマアッシャと呼ばれる市販の装置(図示しない)を用いて行うことができ、具体的には、チャンバー内を所定の酸素ガス雰囲気とした後、カソード電極板上にTFT素子作製工程中の基板を載せ、そのカソード電極板と、対向するアノード電極との間にRF発信器で高周波電圧を印加することにより、酸素プラズマを発生させる装置を用いる。
【0066】
次に、図3(G)に示すように、形成されたソース側拡散領域13s及びドレイン側拡散領域13dにエネルギービーム25を照射して両膜13s,13dを活性化する。エネルギービーム25としては、上記と同様のエキシマレーザーを用いることができる。また、非晶質シリコン膜21a上に形成される酸化保護膜30は、この活性化処理後で下記の欠陥処理工程前に、ウエットエッチングにより除去されることが望ましい。この活性化処理の後には、通常、多結晶シリコン膜21pの欠陥を低減処理するための酸素プラズマによる欠陥処理が施される。
【0067】
次に、図4(H)に示すように、ドライエッチングを施してアイランドを形成した後、図4(I)に示すように、ソース側拡散領域13s、チャネル領域13c及びドレイン側拡散領域13dを含む全面に、酸化ケイ素等の絶縁膜14を形成する。絶縁膜14の形成方法は、例えばRFマグネトロンスパッタリング装置を用いて行う。
【0068】
次に、図4(J)に示すように、ソース側拡散領域13s及びドレイン側拡散領域13d上の絶縁膜14をレジストプロセスを用いて選択的にエッチングすることにより、コンタクトホール26,26を形成する。例えば、絶縁膜14上にレジスト膜を形成した後、フォトマスクを用いたレジストプロセスにより露光・現像してレジスト膜をパターニングする。そのパターニングにより露出したコンタクトホール形成部の絶縁膜14を、例えば2%HF溶液を用いてウエットエッチングしてコンタクトホール26,26を形成し、その後、上記同様のプラズマアッシング法によりレジスト膜を除去する。
【0069】
次に、図4(K)に示すように、全面に例えば厚さ200nmのアルミニウム(Al)膜を蒸着した後、ウエットエッチングによりパターニングして、ソース電極15s、ドレイン電極15d及びゲート電極15gを形成する。なお、電極材料は、Cu、その他の導電性材料であってもよく、スパッタリング等の他の成膜プロセスにより形成してもよい。次に、図4(L)に示すように、素子全体を覆うように保護膜18を形成する。保護膜18としては、酸化ケイ素膜を好ましく挙げることができる。保護膜18は、例えばRFマグネトロンスパッタリングにより、約20nm程度の厚さで形成することが好ましい。
【0070】
最後に、図4(M)に示すように、水素プラズマ28による処理を行って多結晶シリコン膜のシリコンの欠陥をターミネートする。例えば、水素プラズマ処理により、シリコン表面のダングリングボンドをなくし、多結晶シリコン膜13と絶縁膜14との界面のリークパスをなくす方法がとられる。こうして図4(M)に示す一態様の薄膜トランジスタが製造される。
【0071】
以上のように、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法によれば、化学的活性の高い非晶質シリコン膜21aに部分酸化が生じず、酸化保護膜30が形成されているので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことも可能になると共に、多結晶化のために非晶質シリコン膜21a上から照射されたレーザー光には多結晶化を不安定にさせる反射が起きない。その結果、非晶質シリコン膜21aに所定の熱エネルギーを正確に与えることができ、所望の多結晶化を実現することができる。
【0072】
また、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法によれば、酸化保護膜30が形成された後の中間構造物が大気雰囲気に曝された場合であっても化学的活性の高い非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30が形成されているので、レーザー照射による多結晶シリコン膜形成工程を大気雰囲気下で行うことが可能になり、非晶質シリコン膜の成膜装置又は脱水素処理装置と結晶化装置(アニール装置)とを真空ラインで結ぶことが不要となる。その結果、多大の投資が不要となり、低コストで多結晶シリコン膜を製造することができる。特にプラスチック基材を用いたモバイルディスプレイ用の薄膜トランジスタ基板として好ましく適用でき、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等を使用したモバイルディスプレイの低コスト化と信頼性向上に寄与することができる。
【0073】
なお、図3及び図4に示す工程は、プレーナー型トップゲート構造からなる図1のTFT素子部1の製造例であるが、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、図示の工程例に限定されず、種々の変形態様で形成することができる。
【0074】
また、図2(A)に示す逆スタガ型ボトムゲート構造のTFT素子部1Aは、プラスチック基材10と、プラスチック基材10上に必要に応じて形成された下地膜11と、その下地膜11上に形成されたバッファ膜12と、バッファ膜12上に形成されたゲート電極15gと、ゲート電極15gを覆うように形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上で前記ゲート電極15gに対向するように形成された多結晶シリコン膜13と、多結晶シリコン膜13上に離間して形成されたソース電極15s及びドレイン電極15dと、それらを覆うようにして設けられた保護膜18とを有しているが、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、この形態の薄膜トランジスタ基板に対しても適用できる。
【0075】
また、図2(B)に示すボトムゲート・ボトムコンタクト構造のTFT素子部1Bは、プラスチック基材10と、プラスチック基材10上に必要に応じて形成された下地膜11と、その下地膜11上に形成されたバッファ膜12と、バッファ膜12上に形成されたゲート電極15gと、ゲート電極15gを覆うように形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上の離間した凹部に形成されたソース電極15s及びドレイン電極15dと、そのソース電極15s及びドレイン電極15dをまたぐように形成された多結晶シリコン膜13と、それらを覆うようにして設けられた保護膜18とを有しているが、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、この形態の薄膜トランジスタ基板に対しても適用できる。
【0076】
また、図2(C)に示す順スタガ型トップゲート構造のTFT素子部1Cは、プラスチック基材10と、プラスチック基材10上に必要に応じて形成された下地膜11と、その下地膜11上に形成されたバッファ膜12と、バッファ膜12上に離間して形成されたソース電極15s及びドレイン電極15dと、そのソース電極15s及びドレイン電極15dの間を埋めるように形成された絶縁層19と、それらの上に形成された多結晶シリコン膜13と、多結晶シリコン膜13上に形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上に形成されたゲート電極15gと、それらを覆うようにして設けられた保護膜18とを有しているが、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、この形態の薄膜トランジスタ基板に対しても適用できる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例と比較例により本発明を更に詳しく説明する。
【0078】
(実施例1)
まず、絶縁性基板10として厚さ0.7mmのガラス基板を用意し、このガラス基板の片面にバッファ膜12として厚さ500nmの酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法により成膜した。酸化シリコン膜の成膜にあたっては、酸化シリコンをターゲットとして用い、成膜雰囲気はアルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合雰囲気(酸素ガスの割合は25体積%)とした。また、成膜圧力は0.5Paとし、投入電力は2.0kWとし、基板温度は室温とした。
【0079】
次に、酸化シリコン膜が形成された絶縁性基板10をスパッタ装置から取り出すことなく、かつスパッタ装置の成膜チャンバー内を非酸化性雰囲気に保ったまま、そのスパッタ装置を非晶質シリコン膜形成装置としてシリコン製ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング法により上記の酸化シリコン膜上に厚さ50nmの未終端非晶質シリコン膜21aを成膜した。このとき、成膜雰囲気は非酸化性のArガス雰囲気とし、成膜圧力0.2Pa、投入電力2.0kW、基板温度室温の条件の下に成膜を行った。
【0080】
次いで、非酸化性のArガス雰囲気の非晶質シリコン膜形成装置内を大気解放することなく、酸化保護膜30として厚さ100nmの酸化ケイ素膜をRFマグネトロンスパッタリング法により成膜した。この酸化ケイ素膜の成膜にあたっては、酸化シリコンをターゲットとして用い、成膜雰囲気はアルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合雰囲気(酸素ガスの割合は25体積%)とした。また、成膜圧力は0.5Paとし、投入電力は2kWとし、基板温度は室温とした。
【0081】
次いで、未終端非晶質シリコン膜21a上に酸化保護膜30を形成した薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物を、非晶質シリコン膜を形成するスパッタ装置のチャンバーから取り出し、大気環境下で、レーザーアニールにより多結晶化を行う多結晶シリコン膜形成装置内に搬送した。その後、多結晶シリコン膜形成装置内を所定の非酸化性雰囲気(真空雰囲気)にした後、レーザーアニールを行った。
【0082】
レーザーアニールによる多結晶化処理によって、多結晶シリコン膜13を得た。上記の多結晶化処理は、1パルスのエネルギー密度が平均300mJ/cm で、パルス幅が30n秒である波長308nmのXeClエキシマパルスレーザー光を用いて、1照射スポット当たり5パルスのレーザー光を照射することにより行った。このようにして得られた多結晶シリコン膜13は、表面に白濁が認められない良好な膜であり、反射率から求めたその結晶化率は80%であった。
【0083】
(実施例2)
実施例1において、ガラス基板上にバッファ膜12と未終端非晶質シリコン膜21aを形成した後、非酸化性のArガス雰囲気の非晶質シリコン膜形成装置内を大気解放することなく、酸化保護膜30として厚さ100nmの窒化アルミニウム膜をRFマグネトロンスパッタリング法により成膜した。窒化アルミニウム膜の成膜にあたっては、アルミニウムをターゲットとして用い、成膜雰囲気はアルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合雰囲気(窒素ガスの割合は50体積%)とした。また、成膜圧力は0.3Paとし、投入電力は2kWとし、基板温度は室温とした。その後実施例1と同様にエキシマレーザーアニールで多結晶化処理を施したところ、白濁の見られない良好な多結晶シリコン膜13が得られた。
【0084】
(実施例3)
実施例1において、ガラス基板上にバッファ膜12を形成した後、基板をチャンバーから取り出し、非酸化雰囲気のCVD成膜装置に入れ、プラズマCVD法で成膜温度250℃で水素化非晶質シリコン膜を形成した。その後、基板をCVD装置から取り出し、再度スパッタ装置に入れ、非酸化雰囲気にした状態で加熱処理により、水素化非晶質シリコン膜を脱水素処理した。それに引き続き、同じスパッタ装置で、非酸化雰囲気を維持したままで、実施例1と同様に酸化防止膜を形成し、さらにエキシマレーザーアニールで多結晶化処理を施したところ、白濁の見られない良好な多結晶シリコン膜13が得られた。
【0085】
(比較例1)
実施例1において、未終端非晶質シリコン膜21aを形成した後に、非酸化性のArガス雰囲気の非晶質シリコン膜形成装置内を大気解放し、未終端非晶質シリコン膜21aが成膜された基板を非晶質シリコン膜形成装置から取り出し、この基板を、大気環境下で、レーザーアニールにより多結晶化を行う多結晶シリコン膜形成装置内に搬送した。このとき、非晶質シリコン膜21aを形成した非晶質シリコン膜形成装置を大気解放してから、基板を多結晶シリコン膜形成装置内に設置し、その装置内を真空引きするまでの所要時間は3日間であった。その後、実施例1と同様の条件で多結晶化処理を施して、多結晶シリコン膜13を得たがその膜内には白濁化が見られた。
【0086】
(比較例2)
実施例1において、未終端非晶質シリコン膜21aを形成した後に、非酸化性のArガス雰囲気の非晶質シリコン膜形成装置内を大気解放し、その後、酸化防止膜形成装置内に入れ、実施例1と同様に酸化防止膜を形成し、さらにエキシマレーザーアニールで多結晶化処理を施したところ、多結晶シリコン膜13には白濁化が見られた。
【0087】
(比較例3)
実施例3において、脱水素処理した後、非酸化性雰囲気を大気解放して基板を装置内から取り出した。その後、酸化防止膜形成装置内に入れ、実施例1と同様に酸化防止膜を形成し、さらにエキシマレーザーアニールで多結晶化処理を施したところ、多結晶シリコン膜13には白濁化が見られた。
【符号の説明】
【0088】
1,1A,1B,1C TFT素子部
10 プラスチック基材
11 下地膜
12 バッファ膜
13 多結晶シリコン膜
13s ソース側拡散領域
13c チャネル領域
13d ドレイン側拡散領域
14 絶縁膜
15s ソース電極
15g ゲート電極
15d ドレイン電極
18 保護膜
19 絶縁膜
21a 非晶質シリコン膜
21p 多結晶シリコン膜
22 レーザーアニール
23 レジスト膜
24 イオン注入
25 エネルギービーム
26 コンタクトホール
28 高圧水蒸気
30 酸化保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に非晶質シリコン膜を形成する非晶質シリコン膜形成工程と、
前記非晶質シリコン膜上に酸化保護膜を形成する酸化保護膜形成工程と、
前記酸化保護膜上からレーザーを照射して前記非晶質シリコン膜を多結晶シリコン膜に変化させる多結晶シリコン膜形成工程と、を少なくとも有し、
前記非晶質シリコン膜形成工程と前記酸化保護膜形成工程とを、該非晶質シリコン膜形成工程で使用するチャンバー内で連続して行うことを特徴とする薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項2】
前記非晶質シリコン膜をスパッタリング法又は400℃以上の成膜温度で行う減圧若しくはプラズマCVD法で形成する、請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板が樹脂基板であり、前記非晶質シリコン膜及び前記酸化保護層をスパッタリング法で形成する、請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項4】
基板上に非晶質シリコン膜を減圧若しくはプラズマCVD法で形成する非晶質シリコン膜形成工程と、
前記非晶質シリコン膜を400℃以上に加熱して非晶質シリコン膜の水素含有量を減少させる脱水素工程と、
前記非晶質シリコン膜上に酸化保護膜を形成する酸化保護膜形成工程と、
前記酸化保護膜上からレーザーを照射して前記非晶質シリコン膜を多結晶シリコン膜に変化させる多結晶シリコン膜形成工程と、を少なくとも有し、
前記非晶質シリコン膜脱水素工程と前記酸化保護膜形成工程とを、該非晶質シリコン膜脱水素工程で使用するチャンバー内で連続して行うことを特徴とする薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項5】
前記酸化保護膜をスパッタリング法で形成する、請求項4に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項6】
基材と、該基材上に形成された非晶質シリコン膜と、該非晶質シリコン膜上に形成された酸化保護膜とを少なくとも有することを特徴とする薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物。
【請求項7】
前記酸化保護膜が酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜又は酸化アルミニウム膜である、請求項4に記載の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物。
【請求項8】
前記非晶質シリコン膜がスパッタリング法又は400℃以上の成膜温度で行う減圧若しくはプラズマCVD法により形成された未終端非晶質シリコン膜である、請求項6又は7に記載の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物。
【請求項9】
前記基板が樹脂基板であり、前記非晶質シリコン膜及び前記酸化保護層がスパッタリング法により形成された膜である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ基板形成用中間構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−278095(P2010−278095A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127172(P2009−127172)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】