説明

薄膜製造装置

【課題】ドーパント濃度を精度よく検出でき、製品管理能力が高い薄膜製造装置を提供すること。
【解決手段】この薄膜製造装置1は、フィルム基板10の搬送方向の上流側から下流側に向けて設けられ、減圧条件下でフィルム基板10上に薄膜を形成する第1成膜室13a〜第3成膜室13cと、第1成膜室13a〜第3成膜室13cの下流側に隣接して設けられた第1サンプリング室14a及び第2サンプリング室14bとを備える。第1サンプリング室14aには、第1成膜室13aで第1薄膜層41が形成されたフィルム基板10が搬入され、減圧条件下でフィルム基板10から試料を採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル性を有するフィルム基板などに薄膜を形成する薄膜製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機トランジスタ、有機ELディスプレイ、薄膜太陽電池などの分野でフィルム基板への薄膜の成膜やデバイス形成により得られる薄膜デバイスが注目を集めている。フィルム基板を用いた薄膜デバイスは、薄型で軽量であり、高いフレキシブル性を有することから、大面積化が容易になると共に、製造コストを低減でき、量産化の点で有利となる。
【0003】
フィルム基板を用いた薄膜デバイスは、フィルム基板上にナノオーダーの薄膜を積層し、それぞれの薄膜層に所望の電子デバイス特性に応じて微量の不純物(ドーパント)を注入して製造される。フィルム基板を用いた薄膜デバイスの一例としては、ステッピングロール方式により製造される薄膜太陽電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
かかる薄膜太陽電池は、ロール・ツー・ロール方式で10以上の成膜室にフィルム基板を搬送して連続的に成膜する薄膜製造装置で製造される。薄膜製造装置の各成膜室は、それぞれ異なる条件での成膜及び微量ドーパントの注入ができるように構成されている。特許文献1記載の薄膜太陽電池は、ガラス基板上に一層ずつ成膜層を積層する従来のガラス基板型太陽電池と比較し、連続生産による大量生産が可能であり、幅50センチ、長さ1キロメートル〜2キロメートルの大面積の薄膜太陽電池が製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−318425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、薄膜デバイスは、製膜された薄膜層の膜厚、組成、膜構造(結合状態、結晶構造)、微量ドーパント濃度などにより、電子デバイス特性が変化する。このため、電子デバイス特性が安定した薄膜デバイスの量産化のためには、薄膜製造装置における製品管理が重要となる。特に、薄膜デバイスの各薄膜層のドーパント濃度は、薄膜デバイスの電子デバイス特性を左右する主因子の一つであり、薄膜製造装置においては、各薄膜層への設計規格内の微量ドーパント注入の成否が薄膜デバイスの製品管理上重要となる。
【0007】
一般的に薄膜デバイスの各薄膜層の微量ドーパント濃度の検出には、数keVの細束一次イオンビームを試料表面に照射し、スパッタ現象に伴い放出される試料の二次イオンを質量分析(MS)するSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:2次イオン質量分析法)が用いられている。薄膜デバイスは、このSIMSにより、ppm〜ppbのオーダーで各薄膜層の微量ドーパントの各元素の濃度が測定されている。
【0008】
しかしながら、複数の薄膜層が積層された薄膜デバイスでは、高ドーパント濃度の薄膜層と低ドーパント濃度の薄膜層とが積層されている場合、高ドーパント濃度の薄膜層の分析値が低ドーパント濃度の薄膜層の分析値に影響し、低ドーパント濃度の薄膜層のドーパント濃度を正確に測定できない問題があった。
【0009】
一方、複数の薄膜層を積層する薄膜製造装置では、各薄膜層の成膜条件をフィルム基板上に単層膜を形成する条件で個別に検討し、所望のドーパント濃度が得られる成膜条件を組み合わせて薄膜デバイスを製造することも検討されている。しかしながら、複数の薄膜層を積層する場合において、単層膜単位で求めた成膜条件を積層膜の各薄膜層にそれぞれ適用したのでは、製造される薄膜デバイスの各薄膜層を必ずしも適切なドーパント濃度に制御できず、薄膜デバイスの製品管理が困難であった。
【0010】
また、通常薄膜製造装置では、減圧条件、高温下でナノオーダーの薄膜層を成膜する。このため、薄膜製造装置内を常温常圧に戻した場合、大気開放に伴う微量の酸素による薄膜層の劣化、及び温度変化によるドーパントの拡散により、薄膜層のドーパント濃度に濃度勾配が発生し、ドーパント濃度を正確に測定することが困難であった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ドーパント濃度を精度よく検出でき、製品管理能力が高い薄膜製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の薄膜製造装置は、フィルム基板の搬送方向の上流側から下流側に掛けて複数設けられ、それぞれ減圧条件下で前記フィルム基板上に薄膜を形成する成膜室と、前記成膜室の下流側に隣接して設けられたサンプリング室とを備え、前記サンプリング室は、当該サンプリング室に対応する前記成膜室から搬入されるフィルム基板から減圧条件下で試料を採取するサンプリング機構を備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、薄膜デバイスの各薄膜層のドーパント濃度を所望の成膜工程ごとに検出できるので、薄膜層間のドーパント濃度差による分析値への影響が低減され、各薄膜層のドーパント濃度を精度よく検出することができる。また、実際の薄膜製造装置における各薄膜層の成膜条件と同一条件で形成される薄膜層のドーパント濃度を検出できるので、各薄膜層の成膜条件を正確かつ容易に調整することができる。さらに、減圧条件下でフィルム基板上に形成された薄膜を、大気開放することなくフィルム基板から試料として採取できるので、大気開放に伴うフィルム基板の薄膜層の劣化を抑制でき、製品管理能力が高い薄膜製造装置を実現することができる。
【0014】
また本発明は、上記薄膜製造装置において、前記サンプリング機構は、打抜穴を有し前記サンプリング室内に配置されたダイと、前記サンプリング室内の前記打抜穴に対向する位置に設けられ前記ダイに載置された前記フィルム基板を打抜くパンチ刃と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、フィルム基板の打抜き加工により、分析試料を容易に採取することができる。また、フィルム基板からの試料の採取に伴う粉塵の発生を抑制できる。
【0016】
また本発明は、上記薄膜製造装置において、前記サンプリング室は、開口端と空洞部とを有し、前記開口端側から一部が前記サンプリング室内に挿入されて前記開口端が前記打抜穴に対向配置され、前記開口端の他端側が前記サンプリング室外に配置された取出し部と、前記取出し部内において、前記サンプリング機構によって採取された試料を保持する保持位置より前記開口端側に設けられた第1のバルブと、前記第1のバルブとの間で前記サンプル保持位置を挟んで試料取出し室を形成する第2のバルブと、前記第1のバルブと前記第2のバルブとの間に設けられ、前記試料取出し室内の空気を排出する排気手段と、を備え、前記第1のバルブは、前記試料を取込み可能に開くと共に、前記サンプリング室の雰囲気を気密維持可能に閉じることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、サンプリング室で採取した試料を試料取出し室へ取り込み、第1のバルブを閉じてから試料を取出すことができ、これによりサンプリング室内を大気開放することなく試料を取り出すことができる。また、サンプリング室を大気開放することなく試料を取り出すことができるので、フィルム基板の製造を止めることなく試料を分析でき、作業効率を改善できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ドーパント濃度を精度よく検出でき、製品管理能力が高い薄膜製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置のサンプリング機構の概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置に用いられるパンチ刃の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置を用いた薄膜デバイス製造工程を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置を用いて製造した薄膜デバイスの第1薄膜層及び第2薄膜層のSIMS分析値を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置を用いて製造した薄膜デバイスの第1薄膜層のSIMS分析値を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置の他の例を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る薄膜製造装置のサンプリング機構の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るステッピングロール方式の薄膜製造装置の概略図である。本実施の形態に係る薄膜製造装置1では、ロール・ツー・ロール方式でフィルム基板10を上流側から下流側へ搬送して薄膜デバイスが製造される。また、薄膜製造装置1は、内部が隔壁によって複数の部屋に区切られ、密閉可能に構成されている。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係る薄膜製造装置1は、フィルム基板10を送り出す巻出し室11と、巻出し室11から送り出されるフィルム基板10を巻き取る巻取り室12とを備える。巻出し室11と巻取り室12との間には、フィルム基板10の搬送方向の上流側から下流側に向けて、フィルム基板10上に薄膜を成膜する第1成膜室13a、第2成膜室13b及び第3成膜室13cが順に設けられている。第1成膜室13aと第2成膜室13bとの間には、第1サンプリング室14aが設けられ、第2成膜室13bと第3成膜室13cとの間には、第2サンプリング室14bが設けられている。複数設けられた成膜室のうち、他の薄膜層を積層前に分析するため、成膜を行う各成膜室に対してサンプリング室をそれぞれ設置している。尚、図1では、最終段となる第3成膜室13cの下流側にはサンプリング室が設けられていない。
【0022】
巻出し室11内には、薄膜形成前のフィルム基板10を巻出す巻出しロール15と、巻出しロール15から巻出しされたフィルム基板10を搬送する搬送ロール16と、が設けられている。巻出しロール15は、フィルム基板10の搬送方向に合わせてその回転軸が水平になるように巻出し室11内に設置される。搬送ロール16は、巻出しロール15と回転軸が平行になるように設置され、フィルム基板10を下面から支持して第1成膜室13aへ搬送する。巻出し室11の内壁には、真空ポンプなどの排気手段が接続される真空ライン17aが設けられ、巻出し室11内を減圧可能に構成されている。
【0023】
巻取り室12内には、フィルム基板10を搬送する搬送ロール18と、フィルム基板10を巻き取る巻取りロール19と、が設けられている。搬送ロール18は、回転軸が水平に設置され、最終段に位置する第3成膜室13cから搬送されるフィルム基板10を下面から支持して巻取りロール19へ搬送する。巻取りロール19は、搬送ロール18から搬送されるフィルム基板10を巻取りできるように、巻出しロール15と同様に回転軸が水平に設置される。巻取り室12の内壁には、真空ポンプなどの排気手段が接続される真空ライン17bが設けられ、巻取り室12内を減圧可能に構成されている。
【0024】
本実施の形態では、巻出し室11から送り出されたフィルム基板10を巻取り室12に向けて複数の成膜室13a〜13c及びサンプリング室14a、14bを介して搬送する。そのため、巻取り室12内には、巻取りロール19を回転させるモータと、巻取りロール19を一定の速度で回転させる減速機と、を備える駆動機構(不図示)が設けられ、この駆動機構によりフィルム基板10を一定の速度で搬送するように構成されている。また、巻取り室12内には、フィルム基板10上の任意の成膜位置に薄膜デバイスを形成するため、フィルム基板10の搬送を任意の位置で停止できるように、巻取りロール19を停止させる制御機構(不図示)が設けられている。尚、薄膜製造装置1には、駆動機構に対応してフィルム基板10が一定の張力を保持した状態で引き出されるように、巻出し室11に巻出しロール15に一定の制動を加える機構を設けてもよい。
【0025】
第1成膜室13aには、高電圧電極20a及び接地電極21aが設けられている。高電圧電極20aは、フィルム基板10の上面に対向する位置に設けられ、接地電極21aがフィルム基板10の下面に対向する位置に設けられている。この高電圧電極20a及び接地電極21aにより、フィルム基板10の上面にスパッタリング、真空蒸着などにより任意の組成の薄膜の成膜及びドーパントの注入ができるように構成されている。第1成膜室13aの内壁には、真空ライン17cが設けられ、第1成膜室13a内を減圧可能に構成されている。
【0026】
第1サンプリング室14aには、フィルム基板10を載置するダイと、フィルム基板10から試料を採取するパンチ刃と、を備えるサンプリング機構22aが設けられている。本実施の形態では、このサンプリング機構22aにより、第1成膜室13aで薄膜が成膜されたフィルム基板10から試料を採取できるように構成されている。第1サンプリング室14aの内壁には、真空ライン17dが設けられ、第1サンプリング室14a内を任意の減圧度に減圧可能に構成されている。
【0027】
第2成膜室13b、第3成膜室13cは、第1成膜室13aと同様に構成されている。第2の成膜室13bには、高電圧電極20b及び接地電極21bが設けられ、第2成膜室13bの内壁には、真空ライン17eが設けられている。第3の成膜室13cには、高電圧電極20c及び接地電極21cが設けられ、第3成膜室13cの内壁には、真空ライン17gが設けられている。尚、本実施の形態では、第2成膜室13bでは、第1成膜室13aよりドーパント濃度が高い薄膜が成膜される。
【0028】
第2サンプリング室14bは、第1サンプリング室14aと同様にサンプリング機構22bが設けられ、第1成膜室13a及び第2成膜室13bで薄膜が成膜されたフィルム基板10から試料を採取できるように構成されている。第2サンプリング室14bの内壁には、真空ライン17fが設けられている。
【0029】
薄膜製造装置1の巻出し室11、第1成膜室13a〜第3成膜室13c、第1サンプリング室14a、第2サンプリング室14b及び巻取り室12の間には、それぞれ隔壁23a〜隔壁23fが設けられている。隔壁23a〜隔壁23fには、それぞれ連通孔が設けられ、この連通孔にフィルム基板10を挿通することにより、フィルム基板10を巻出し室11から巻取り室12へ搬送可能に構成されている。
【0030】
本実施の形態では、各真空ライン17a〜17gに用いられる排気手段は、薄膜製造装置1内を減圧できる排気手段であれば特に限定されず、真空ポンプ、エゼクターなど各種排気手段を用いることができる。また、同一の排気手段を用いても異なる排気手段を混合して用いてもよい。
【0031】
次に、図2を参照して、本実施の形態に係る薄膜製造装置1の第1サンプリング室14a及び第2サンプリング室14bについて詳細に説明する。尚、以下の説明では、第1サンプリング室14aを例に説明するが、第2サンプリング室14bも第1サンプリング室14aと同様に構成されている。
【0032】
図2に示すように、第1サンプリング室14aには、サンプリング機構22aが設けられている。このサンプリング機構22aは、第1サンプリング室14a内において、フィルム基板10の下面側に配置されるダイ24と、フィルム基板10の上面側に設けられるパンチ刃25と、を備える。ダイ24は水平に配置され、その主面上にフィルム基板10を載置可能に構成されている。ダイ24の主面には、当該主面と直交する方向に貫通する打抜穴26が形成され、フィルム基板10の上面側の打抜穴26に対向する位置にパンチ刃25が設けられている。
【0033】
本実施の形態では、サンプリング機構22aによるフィルム基板10からの試料採取時に薄膜が形成されたフィルム基板10をダイ24上へ載置する。フィルム基板10のダイ24への載置は、例えば、図示しない駆動機構により、ダイ24を上側に移動させてフィルム基板10と接触させて行われる。尚、フィルム基板10のダイ24への載置は、巻出しロール15と巻取りロール19との間に張架されるフィルム基板10の張力を調整して、フィルム基板10とダイ24が接触するようにしてもよい。
【0034】
パンチ刃25は、フィルム基板10の上面側にフィルム基板10との間に所定の間隔を空けて配置され、フィルム基板10をパンチングできるように、上下方向に駆動可能に構成されている。また、パンチ刃25は、フィルム基板10の搬送時には、第1サンプリング室14a内のフィルム基板10の上面側に退避できるように構成されている。
【0035】
ここで、図3を参照して、パンチ刃25について説明する。図3に示すように、パンチ刃25は、たとえば直径6mmの円筒形状に形成され、縦断面視において、高さ方向に3mmの切り欠きを有する半円弧状形状に形成されている。尚、パンチ刃25の形状は、フィルム基板10の打抜き加工ができるものであれば、特に限定されず種々の形状のものを用いることができる。例えば、縦断面視において、U字型形状、V字型形状、横断面視において、円形、楕円形、矩形、三角形、多角形状などのパンチ刃25を用いることができる。これらの中でもフィルム基板10の打抜き性及びフィルム基板10の打抜き加工に伴う粉塵の発生を抑制する観点から、本実施の形態では、縦断面しにおいて半円弧形状、横断面視において略円筒形状のパンチ刃25を用いる。
【0036】
再び図2を参照して、試料取出し部27について説明する。第1サンプリング室14aには、円筒形状に形成され、一端が開口された試料取出し部27がダイ24の下側に設けられている。試料取出し部27は、開口端側が第1サンプリング室14a内に挿入されてダイ24の打抜穴26に対応する位置に配置され、他端側が第1サンプリング室14a外に配置される。
【0037】
試料取出し部27の空洞部内には、試料保持部28が設けられている。試料保持部28とダイ24側の開口端との間には、第1ゲートバルブ29が設けられ、この第1ゲートバルブ29との間で試料保持部28を挟むように第2ゲートバルブ30が設けられている。試料取出し部27には、真空ライン17hが接続され、試料取出し部27内を減圧可能に構成されている。尚、真空ライン17hは、真空ライン17a〜17gと同様に構成され、同一の排気手段に接続されていても異なる排気手段に接続されていてもよい。
【0038】
次に、図1〜図4を参照して、本実施の形態に係る薄膜製造装置1の動作について説明する。図1に示すように、まず、フィルム基板10が巻き付けられた巻出しロール15を巻出し室11に設置し、フィルム基板10を巻出しロール15〜巻取りロール19間に設置する。次いで、薄膜製造装置1全体を真空ライン17a〜17gにより減圧して真空状態にする。この状態で、巻き取りロール19を駆動してフィルム基板10を巻出しロール15から第1成膜室13aに搬送する。
【0039】
第1成膜室13aに搬送されたフィルム基板10は、フィルム基板10の成膜位置に合わせて搬送が停止される(図4(a))。次に、スパッタリングにより、フィルム基板10上に第1薄膜層41を成膜する。まず、高電圧電極20aへ高周波電圧を印加することにより、プラズマを第1成膜室13aに発生させる。次いで、導入管(不図示)から導入された原料ガスを分解してフィルム基板10の表面に第1薄膜層41を成膜する(図4(b))。
【0040】
次に、減圧状態を維持したままフィルム基板10を第1サンプリング室14aに搬送する。次いで、図2に示すように、フィルム基板10をダイ24の上に載置する。次に、試料取出し部27内を真空ライン17hにより減圧し、真空状態としてから第1ゲートバルブ29を開ける。
【0041】
次に、パンチ刃25により、フィルム基板10のサンプリング位置をパンチングする(図4(c))。パンチングにより打ち抜かれたフィルム基板10(分析試料A)は、ダイ24の打抜穴26を介して試料保持部28へ落下する。次いで、第1ゲートバルブ29及び真空ライン17hを閉じた後、第2ゲートバルブ30を開放して試料保持部28内を大気圧に戻して分析試料Aを取り出す。
【0042】
次に、第1ゲートバルブ29を閉じてフィルム基板10を第2成膜室13bに搬送する。次いで、フィルム基板10上の成膜部位に応じた位置でフィルム基板10の搬送を停止する。次に、フィルム基板10上にスパッタリングにより第2薄膜層42を成膜する(図4(d))。
【0043】
次に、減圧状態を維持したままフィルム基板10を第2サンプリング室14bに搬送する。次いで、図2に示すように、フィルム基板10をダイ24の上に載置する。次に、試料取出し部27内を真空ライン17hにより減圧し、真空状態としてから第1ゲートバルブ29を開ける。
【0044】
次に、パンチ刃25により、フィルム基板10のサンプリング位置をパンチングする(図4(e))。パンチングにより打ち抜かれたフィルム基板10(分析試料B)は、ダイ24の打抜穴26を介して試料保持部28へ落下する。次いで、第1ゲートバルブ29及び真空ライン17hを閉じた後、第2ゲートバルブ30を開放して試料保持部28内を大気圧に戻して分析試料Bを取り出す。
【0045】
以上の工程により、第1薄膜層41のみが成膜された分析試料Aと第1薄膜層41及び第2薄膜層42が積層された分析試料Bとがそれぞれ減圧条件下で採取される。ここで、得られた分析試料Aには、フィルム基板10上に第1薄膜層41のみが成膜されているので、第1成膜室13aの成膜条件で形成される第1薄膜層41のドーパント濃度を検出することができる。また、分析試料Bは、後述する第3薄膜層43の成膜前に採取されるので、第3薄膜層43のドーパント濃度に影響されずに第2成膜室13bの成膜条件で形成される第2薄膜層42のドーパント濃度を検出することができる。
【0046】
次に、第1ゲートバルブ29を閉止してフィルム基板10を第3成膜室13cに搬送し、フィルム基板10上の成膜部位に応じた位置でフィルム基板10の搬送を停止する。次いで、フィルム基板10上の成膜部位に応じた位置でフィルム基板10の搬送を停止する。
【0047】
次に、フィルム基板10上にスパッタリングにより第3薄膜層43を成膜する(図4(f))。次いで、減圧状態を維持したままフィルム基板10を巻取り室12に搬送する。巻取り室12に搬送されたフィルム基板10は、巻取りロール19により巻取りされる。
【0048】
次に、巻取り室12内に乾燥空気を導入して大気開放する。最後に、巻出しロール15と巻き取りロール19との間の張力を解放し、巻出し室11内、及び巻取り室12内でフィルム基板10を切断して薄膜デバイスを取り出す。
【0049】
尚、本実施の形態においては、フィルム基板10からの試料採取は、フィルム基板10に形成される薄膜デバイス周辺部のサンプリングスペース(テスト用スペース)を設けて行う。サンプリングスペースを設けることにより、薄膜デバイスの性能へ影響を与えることなく分析試料を採取できる。
【0050】
次に、図5、図6を参照して上述した薄膜製造工程において採取された分析試料A及び分析試料BのSIMS分析による分析値について説明する。尚、本実施の形態においては、第1薄膜層41のドーパント濃度を5.0E+16に設定し、第2薄膜層42のドーパント濃度を5.0E+20に設定した。
【0051】
図5は、分析試料BのSIMS分析値を示す図である。図5の縦軸は、ドーパントとしての質量数11のホウ素濃度、横軸は表面からの深さを示したものである。ここで示しているホウ素濃度は、濃度が既知の試料から濃度換算した値である。横軸の試料深さ0から12までの範囲R1は、ドーパント濃度の高い第2薄膜層42の分析値を示し、試料深さ12から16までの範囲R2がドーパント濃度の低い第1薄膜層41の分析値を示している。また、試料深さが16より大きい範囲R3は、フィルム基板10の分析値に相当する。図5の実線は、上述した薄膜デバイスの第1薄膜層41及び第2薄膜層42のドーパント濃度の設計値を示し、図5の点線が分析試料Bの分析値を示している。
【0052】
図5に示すように、分析試料Bは、ドーパント濃度が高い第2薄膜層42に相当する範囲R1では、設計値通りのドーパント濃度が得られている。一方、ドーパント濃度の低い第1薄膜層41に相当する範囲R2では、第2薄膜層42のドーパント濃度に影響され、設計値よりドーパント濃度の分析値が高くなる。この結果から、ドーパント濃度が低い第1薄膜層41の上にドーパント濃度が高い第2薄膜層42を積層した状態で分析した場合、ドーパント濃度が薄い第1薄膜層41のドーパント濃度を正確に評価できないことが分かる。
【0053】
尚、図5では、試料深さ15〜17の領域で分析値が1.0E+17〜2.0E+17の範囲で不安定となっている。この範囲は、薄膜層とフィルム基板の界面に相当し、母材成分が変化する領域であり(薄膜層の母材:シリコン、フィルム基板の母材:炭素等)母材成分により2次イオン発生効率が大きく変化する(SIMS分析では、マトリックス効果という)。このように、SIMS分析では、界面付近での濃度の変動は、本来の濃度を反映しないことがあるため、ここでは議論しない。
【0054】
図6は、分析試料AのSIMS分析値を示す図である。図6の縦軸は及び横軸は、図5と同様に、ドーパント濃度及び試料深さを示し、横軸の試料深さ0〜3の範囲R4が第1薄膜層41の分析値を示している。横軸の試料深さ3より大きい範囲R5は、フィルム基板10の分析値に相当する。
【0055】
図6に示すように、分析試料Aは、第1薄膜層41のドーパント濃度を示す範囲R4でドーパント濃度値が約5.0E+16で安定していることが分かる。この結果から、第1薄膜層41の分析値が、ドーパント濃度の設計値と一致することが分かる。尚、図6に示す例においては、範囲R4とR5の界面では、ドーパント濃度が極端に高くなっている。これは、第1薄膜層41の最表面及びフィルム基板10界面による影響のもので、安定した2次イオンが発生していないためである。
【0056】
尚、本実施の形態においては、第3薄膜層43のドーパント濃度は、薄膜デバイスの最上層に形成されるので、薄膜製造装置1から取り出した後の薄膜デバイスのSIMS分析により、検出することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態によれば、減圧条件下でフィルム基板10上から第1薄膜層41のみが形成された分析試料A及び第1薄膜層41及び第2薄膜層42が形成された分析試料Bを採取し、それぞれを個別に分析することにより、第1薄膜層41及び第2薄膜層42のドーパント濃度を正確に検出することができる。このため、第1成膜室13aの成膜条件で第1薄膜層41に注入されるドーパント濃度と第2成膜室13bの成膜条件で第2薄膜層42に注入されるドーパント濃度とをそれぞれ検出できる。また、第3薄膜層43のドーパント濃度は薄膜デバイスの製品分析により検出されるので、第3成膜室13cの成膜条件で注入されるドーパント濃度を測定することができる。このように、薄膜層間のドーパント濃度差に影響されることなく個別に第1薄膜層41〜第3薄膜層43のドーパント濃度を測定できるので、第1成膜室13a〜第3成膜室13cの成膜条件により、それぞれの第1薄膜層41〜第3薄膜層43に注入されるドーパント濃度を管理することができ、製品管理能力が高い薄膜製造装置が実現できる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、減圧条件下でフィルム基板10上から分析試料A及び分析試料Bを採取することができるので、第1薄膜層41及び第2薄膜層42の膜表面の酸化、大気中の不純物の堆積などが発生することなく、第1薄膜層41〜第3薄膜層43のドーパント濃度を正確に分析することができる。
【0059】
尚、本実施の形態では、第1薄膜層41〜第3薄膜層43の成膜時の薄膜製造装置1内の減圧度は、133Paより小さいことが好ましい。薄膜製造装置1内の減圧度を133Pa以下にすることにより、第1薄膜層41〜第3薄膜層43の成膜を好適に行うことができる。
【0060】
また、試料取出し部27の減圧度を第1サンプリング室14a、第2サンプリング室14b内より相対的に高くすることが好ましい。試料取出し部27の減圧度を第1サンプリング室14a、第2サンプリング室14bより高くすることにより、試料採取時の酸素及び粉塵の混入を抑制できる。
【0061】
さらに、フィルム基板10を上流側から下流側に搬送し、第1サンプリング室14a、第2サンプリング室14bで順次試料を採取する実施の形態について説明したが、第1サンプリング室14a及び/又は第2サンプリング室14bで採取したサンプルの分析結果に応じて、再度第1成膜室13aまたは第2成膜室13bで薄膜の成膜またはドーパントの注入を行ってもよい。この場合、第1の成膜室13aまたは第2成膜室13bでの薄膜の成膜またはドーパントの注入が不良であった際に、再度薄膜の成膜又はドーパントの注入を行うことができるので、より確実に薄膜デバイスの製品管理を行うことができる。
【0062】
尚、上述した実施の形態においては、フィルム基板の面が水平になるように搬送する薄膜製造装置1について説明したが、フィルム基板の面が垂直に搬送される薄膜製造装置においても適用することができる。図7、図8を参照して、フィルム基板の面を水平面に対して垂直に搬送する薄膜製造装置2について、図1に示した薄膜製造装置1との相違点を中心に説明する。図7は、フィルム基板の面を水平面に対して垂直に搬送する場合の薄膜製造装置2の水平面から見た概略図である。
【0063】
図7に示すように、この薄膜製造装置2は、巻出し室71の巻出しロール72及び巻取り室73の巻取りロール74の回転軸が水平面に対して垂直に配置される。巻出し室71と巻取り室73との間には、第1成膜室75a〜第3成膜室75cが設けられ、各成膜室75a〜75cの間には、第1サンプリング室76a、第2サンプリング室76bが設けられている。各成膜室75a〜75c及び第1サンプリング室76a、第2サンプリング室76bの間には、それぞれ隔壁77a〜隔壁77fが設けられている。隔壁77a〜隔壁77fには、それぞれ連通孔が設けられ、この連通孔にフィルム基板78を挿通することにより、フィルム基板78を巻出し室71から巻取り室72へ搬送可能に構成されている。巻出し室71、巻取り室73、各成膜室75a〜75c及び各サンプリング室76a、76bの内壁には、真空ライン79a〜79gが設けられている。
【0064】
巻出し室71の搬送ロール80及び巻取り室73の搬送ロール81は、フィルム基板78に対して紙面手前側に配置され、フィルム基板78を一方の面側から支持し、フィルム基板78の面が水平面に対して垂直になるように搬送する。
【0065】
各成膜室75a〜75cには、フィルム基板78に対して紙面奥側のフィルム基板78に対向する位置に高電圧電極82a〜82cが配置され、紙面手前側のフィルム基板78の対向する位置に接地電極83a〜83cが配置されている。サンプリング室76a、76bには、サンプリング機構84a、84bが設けられている。
【0066】
次に、図8を参照して、薄膜製造装置2の第1サンプリング室76aのサンプリング機構84aについて説明する。尚、第2サンプリング室76bのサンプリング機構84bも第1サンプリング室76aのサンプリング機構84aと同様に構成されている。
【0067】
図8に示すように、薄膜製造装置2のサンプリング機構84aは、第1サンプリング室76a内において、フィルム基板78の一方の面側に垂直に配置されるダイ85と、フィルム基板78の他方の面側に配置されるフィルム支持機構86とを備える。ダイ85の主面には、当該主面と直交する方向に貫通する打抜穴87が形成され、フィルム基板78の他方の面側の打抜穴87に対向する位置にパンチ刃88が設けられている。フィルム支持機構86は、フィルム基板78の搬送方向において、パンチ刃88の上流側及び下流側のそれぞれに配置され、パンチ刃88による試料採取時にフィルム基板78をダイ85とフィルム支持機構86との間で挟圧できるように構成されている。
【0068】
パンチ刃88は、フィルム基板78の他方の面側にフィルム基板78との間に所定の間隔をあけて配置され、フィルム基板78をパンチングできるように、水平方向に駆動可能に構成されている。このようにして、薄膜製造装置2においては、フィルム基板78を垂直搬送した場合においても重量方向に対するフィルム基板78の撓みを抑制し、フィルム基板78を水平方向に打ち抜き可能に構成されている。
【0069】
次に、試料取出し部89について説明する。試料取出し部89は、一端が開口された円筒形状に形成され、第1サンプリング室76aの側壁に設けられている。試料取出し部89は、開口端側が第1サンプリング室76a内に挿入されてダイ85の打抜穴87に対応する位置に配置され、他端側が第1サンプリング室76a外に配置されている。
【0070】
試料取出し部89の空洞部内には、試料保持部90が設けられている。試料保持部90とダイ85側の開口端との間には、第1ゲートバルブ91が設けられ、この第1ゲートバルブ91との間で試料保持部90を挟むように第2ゲートバルブ92が設けられている。試料取出し部89には、真空ライン79hが接続され、試料取出し部89内を減圧可能に構成されている。その他の構成、及び試料採取時の動作については、薄膜製造装置1と同様のため、説明を省略する。このように、本実施の形態に係る薄膜製造装置2では、フィルム基板78の面が垂直になるように構成した場合においてもフィルム基板78の撓みを抑制でき、薄膜製造装置1と同様に試料採取を行うことができる。
【0071】
本発明は上記実施の形態に限定されず種々変更して実施することが可能である。また、上記実施の形態で説明した数値、寸法、材質については特に制限はない。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、フレキシブル型の薄膜太陽電池、または、その他の各種の薄膜デバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1、2 薄膜製造装置
10、78 フィルム基板
11、71 巻出し室
12、73 巻取り室
13a、75a 第1成膜室
13b、75b 第2成膜室
13c、75c 第3成膜室
14a、76a 第1サンプリング室
14b、76b 第2サンプリング室
15、72 巻き出しロール
16、18、80、81 搬送ロール
17a〜17h、79a〜79h 真空ライン
19、74 巻き取りロール
20a〜20c、82a〜82c 高電圧電極
21a〜21c、83a〜83c 接地電極
22a、22b、84a、84b サンプリング機構
23a〜23f、77a〜77f 隔壁
24、85 ダイ
25、88 パンチ刃
26、87 打抜穴
27、89 試料取出し部
28、90 試料保持部
29、91 第1ゲートバルブ
30、92 第2ゲートバルブ
41 第1薄膜層
42 第2薄膜層
43 第3薄膜層
86 フィルム支持機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基板の搬送方向の上流側から下流側に掛けて複数設けられ、それぞれ減圧条件下で前記フィルム基板上に薄膜を形成する成膜室と、
前記成膜室の下流側に隣接して設けられたサンプリング室と、を備え、
前記サンプリング室は、当該サンプリング室に対応する前記成膜室から搬入される薄膜が形成されたフィルム基板から減圧条件下で試料を採取するサンプリング機構を備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項2】
前記サンプリング機構は、打抜穴を有し前記サンプリング室内に配置されたダイと、前記サンプリング室内の前記打抜穴に対向する位置に設けられ前記ダイに載置された前記フィルム基板を打抜くパンチ刃と、を備えることを特徴とする請求項1記載の薄膜製造装置。
【請求項3】
前記サンプリング室は、開口端と空洞部とを有し、前記開口端側から一部が前記サンプリング室内に挿入されて前記開口端が前記打抜穴に対向配置され、前記開口端の他端側が前記サンプリング室外に配置された取出し部と、
前記取出し部内において、前記サンプリング機構によって採取された試料を保持する保持位置より前記開口端側に設けられた第1のバルブと、
前記第1のバルブとの間で前記サンプル保持位置を挟んで試料取出し室を形成する第2のバルブと、
前記第1のバルブと前記第2のバルブとの間に設けられ、前記試料取出し室内の空気を排出する排気手段と、を備え、
前記第1のバルブは、前記試料を取込み可能に開くと共に、前記サンプリング室の雰囲気を気密維持可能に閉じることを特徴とする請求項1または請求項2記載の薄膜製造装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−127162(P2011−127162A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285019(P2009−285019)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】