説明

衝撃吸収装置の製造方法

【課題】骨格フレームと表皮からなるロボットアームの衝撃吸収装置のバリを大幅に低減すると共に、安価に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】マスターモデル3の表面の第1領域3´に柔軟素材の薄膜4を形成したマスターモデル3を注型用型枠5に設置してゴムまたは樹脂を注型、硬化させることにより注型型6を製作する。その注型型6からマスターモデル3を取り外すことにより第1領域3´の薄膜4を注型型6の対向面に転移させる。その後骨格フレーム1を薄膜4に密着するよう注型型6に設置し、表皮2となる素材を注型することにより衝撃吸収装置を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格フレームの外周に人や物が接触したときの衝撃を吸収する表皮を有する衝撃吸収装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少子高齢化に伴い、労働力不足を補うため、医療介護の分野や家庭内での軽作業、第一次産業分野での高負荷作業などに携わるサポートロボットやサービスロボットの普及が進んでいくことが予測されている。このように人と同じ空間で作業を行うロボットについては、緊急停止スイッチや人体を検出する非接触センサ、接触を検知する接触センサなどの安全機能が重要視されている。また、ロボットアームに人や物が接触した際、外部からの応力を緩和できる衝撃吸収性表皮を備えることも安全対策の重要なポイントとなっている。物を掴んで運ぶなどの作業を行うロボットの場合、ロボットアームはモータや減速機などのアクチュエータを内蔵しており、金属や強化樹脂製などの骨格フレームでこれらをカバーしている。またロボットアームの骨格フレームは、メンテナンス作業を容易にするため分割できる構造となっており、アームの分割される部位毎に衝撃吸収性表皮を骨格フレームと固着させておく必要がある。
【0003】
衝撃吸収性表皮と骨格フレームを固着する場合、良好な外観品質を維持することと相反し生産効率が低下する。そのため、表皮と骨格フレームとの固着力が弱くても許容される玩具などでは、伸縮性の表皮と非伸縮性の表皮を組み合わせて、脱着可能な構造とする製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、高速で高負荷作業を行うロボットアームについては、円滑かつ100mm/秒以上の手先動作速度が要求されるため、表皮と骨格フレームとは強固に固着されることが要求される。そこで、注型型に予め製作した骨格フレームを所定の位置に設置し、表皮の素材を注型することにより表皮と骨格フレームを固着させる製造方法が提案されている。なお、ロボットアームの骨格フレームは、構造が複雑で多品種少量生産であるため、一般には、鋳鉄やアルミニウム合金などの砂型鋳物で骨格フレームを製作することにより低コスト化が図られている。また、注型型もシリコーンゴムなどの安価な材料が使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−117254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、砂型鋳造された骨格フレームは寸法にバラツキが生じやすい。また、安価なシリコーンゴムなどによる注型型も寸法のバラツキが生じやすく、このような骨格フレームとシリコーンゴム製の注型型を用いた場合、寸法誤差の大きい部分は骨格フレームと注型型との間に空間が生じ、この中に表皮の素材の一部が入り込みやすくなる。その結果、表皮の素材が硬化した後、注型型と対向する骨格フレームの表面や、骨格フレームと表皮との境界付近の表面にバリが多く発生する原因となる。表皮の素材で生じたバリは柔らかいため、バリ取り加工などの後仕上げが難しく、多大な手間と作業時間を要する。また、バリの発生を低減するために、寸法のバラツキが生じにくい金型などを用いた骨格フレームの製作や、寸法精度の高い材料を用いた注型型を使用すると、生産コストが大幅に上昇するといった問題が生じる。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、寸法のバラツキが生じやすい砂型鋳造された骨格フレームを、シリコーンゴムなどの注型型内に設置し、表皮となる素材を注型することにより表皮と骨格フレームを固着成型しても、注型型と対向する骨格フレームの表面や、骨格フレームと表皮との境界付近の表面にバリが発生することを大幅に低減し、外観品質に優れるとともに、安価なコストで衝撃吸収装置を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、鋭意工夫を重ね、次のようにしたのである。
(1)マスターモデル表面の第1領域に柔軟素材を付着させて薄膜を形成する工程と、前記薄膜を付着させた前記マスターモデルを注型用型枠内に設置してゴムまたは樹脂を注型して硬化させ注型型を製作する工程と、前記第1領域の前記薄膜を、前記第1領域に対向する前記注型型の対向面に転移させるように前記マスターモデルを前記注型型から取り外す工程と、骨格フレームを前記注型型に転移した薄膜に密着させて設置する工程と、前記骨格フレームを設置した前記注型型に、衝撃吸収性を有する表皮となる硬化性素材を注型し、前記骨格フレームと前記表皮を固着させる工程とからなるものである。
(2)前記薄膜の柔軟素材の硬度は、前記注型型の素材の硬度よりも小さく、アスカーC硬度において、前記薄膜素材の硬度は30以下、及び前記注型型素材の硬度は45以上とするものである。
(3)前記衝撃吸収装置は、ロボットアームに供するものである。
(4)前記衝撃吸収装置は、衝撃吸収用ダンパに供するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、注型型のマスターモデルとの対向する領域に柔軟素材による薄膜が形成され、骨格フレームが薄膜に密着されて設置されることにより、注型型と骨格フレームの間に空間が生じにくくなるため、衝撃吸収性を有する表皮となる硬化性素材を注型・硬化後に注型型を取り外した際、注型型と対向する骨格フレームの表面や、フレームと表皮との境界付近の表面におけるバリの発生を大幅に低減することができる。また、砂型鋳造された寸法のバラツキが生じやすい骨格フレームや、安価なシリコーンゴムなどの注型型で容易に製造することができる。このため、外観品質に優れた製品を安価に製造することができるようになる。
請求項2に記載の発明によれば、アスカーC硬度において、薄膜素材の硬度を30以下、及び注型型となる素材の硬度を45以上とする組み合わせにすることにより、バリの発生を抑制し、さらに安定した品質を保持することができるとともに作業効率が向上する。
請求項3に記載の発明によれば、ロボットの動作時にアームに人やものが接触した際にも、より高い安全性を確保したロボットアームを提供することができる。
請求項4に記載の発明によれば、品質の高い衝撃用ダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の衝撃吸収装置の製造方法を示す製造物断面の概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図に基づいて説明する。本実施形態で参酌する図面では、発明の理解を容易にするため、各要素が模式的に示されている。
【0012】
図1は、本発明の衝撃吸収装置の製造方法を示す製造物断面の概略図である。図1(a)は、ロボットアームの骨格フレーム1の外周に衝撃吸収性のある表皮2を有する円弧状のロボットアーム部品のマスターモデル3を示している。図1(b)は、マスターモデル3の表面の第1領域3´に柔軟素材を付着させて薄膜4を形成した状態である。
図1(c)は、マスターモデル3を注型用型枠5の内部に設置して注型型6を製作した後、注型型6を分割面7から分割して、マスターモデル3を取り外した状態である。また、マスターモデル3の表面の第1領域3´と対向する注型型6の薄膜転移領域6´には薄膜4が転移されていることを示している。なお、分割面7は、注型型6を分割する際の代表的な分割面を示すものであり、衝撃吸収性を有する表皮となる硬化性素材(以下、表皮素材)の注型硬化後、注型型を取り外す際に分割する分割面はこの部分のみに限らない。
図1(d)は、注型型6に骨格フレーム1を設置し、表皮素材を注型して表皮2が形成された状態を示している。注型型6には、表皮素材を注入する注入口8がある。
【0013】
次に、製造方法について図面を参照して説明する。
(1)図1(a)において、マスターモデル3を、CADデータを基にポリプロピレン樹脂を用い光造形により製作する。なお、マスターモデル3は、後工程で形成する薄膜分の厚さを考慮し、骨格フレーム1の厚さ寸法の5/1000程度を差し引いて製作する。
(2)図1(b)において、製作したマスターモデル3の表面全体に離型剤を塗布した後、
後工程の図1(d)で骨格フレーム1と注型型6とが対向する領域となるマスターモデル3の表面の第1領域3´に柔軟性のシリコーンゴム素材をスプレーにより付着させて加熱硬化を行う。このような付着と加熱硬化を数回繰り返すことにより、上記領域には、シリコーンゴムの薄膜4が形成される。なお、本実施例については、注型された表皮2と骨格フレーム1間において薄膜分の寸法誤差が生じないようにするため、骨格フレーム1と注型型6とが対向する領域を超えて表皮2と注型型6が対向する部分においても薄膜4の形成を行っている。また、シリコーンゴム素材を付着させる方法は、液状のシリコーンゴム素材に浸漬する方法でも構わない。薄膜の素材については、硬化時のシリコーンゴムの硬度が、アスカーC硬度計で30以下の硬度が確保できるシリコーンゴム素材を選定している。
(3)図1(c)において、前述の薄膜4を形成したマスターモデル3を注型用型枠5の内部に設置し、注型型となるシリコーンゴム素材を注型して、常温硬化により注型型6を製作する。このときに用いるシリコーンゴム素材は、硬化時の硬度がアスカーC硬度計で45以上の硬度が確保できるシリコーンゴム素材を選定している。また、注型型となるシリコーンゴムが硬化した後、分割面7で注型型を分割してマスターモデル3を取り除くと、
マスターモデル3の表面の第1領域3´に形成された薄膜4は、対向する注型型6の薄膜転移領域6´に転移されている。
(4)図1(d)において、注型型6に表皮素材を注入する注入口8を設置し、注型型6の注型部内壁に離型材を塗布する。その後、予め製作していた砂型マグネシウム合金鋳物製の骨格フレーム1を、薄膜4に押付け密着させて注型型6の所定の位置に設置する。その後、この注型型を真空注型容器に設置し、減圧した状態で注入口8からウレタン樹脂製の表皮素材を注入して常温で硬化させる。この結果、表皮2が骨格フレーム1と固着して衝撃吸収装置が製造される。
【0014】
次に薄膜となるシリコーンゴムの硬度と、注型型となるシリコーンゴムの硬度について評価を行った結果を表1に示す。表1は、薄膜のシリコーンゴムの硬度と注型型のシリコーンゴムの硬度を変更して組み合わせた評価用サンプルを各3個製作し、各サンプルにおけるバリの発生数および表皮の寸法変形数を観測したものである。なお、±10%以上の寸法誤差があったサンプルを寸法変形としてカウントした。
【0015】
アスカーC硬度において、薄膜のシリコーンゴムの硬度を30以下とし、注型型のシリコーンゴムの硬度を45以上とした本発明による条件下で製作したサンプルはバリの発生や寸法変形は認められなかった。
【0016】
一方、それ以外の条件で製作したサンプルでは、バリの発生や寸法変化が認められた。
【0017】
【表1】

【0018】
なお、本実施形態では、骨格フレームの製作に砂型のマグネシウム合金鋳物を用いたが、砂型の鋳鉄やアルミニウム合金鋳物を用いても良い。また、薄膜および注型型にシリコーンゴムを用いたが、ウレタンやPOMなどの低価格の樹脂やゴム素材でも良い。ただし、薄膜と注型型で異なる材質を用いると、薄膜が注型型から容易に剥れる可能性があるため、同種の材質を用いることが好ましい。
【0019】
また、薄膜のシリコーンゴムの硬度は15以上とすることが好ましく、15以下の場合は骨格フレームを押し付けた際に裂けたり潰れたりすることがある。また、薄膜の厚みは表皮や骨格フレームの寸法に対して非常に小さいので、寸法の精度に影響はない。
【0020】
このように、骨格フレームや注型型に寸法のバラツキが生じやすい場合においても、骨格フレームと注型型との対向する領域にシリコーンゴムなどの柔軟素材による薄膜が形成され、骨格フレームが薄膜に押付密着されて設置される。このため、注型型と骨格フレームの間に空間を生じにくくし、表皮素材を注型・硬化後に注型型から取り外した際、注型型と対向する骨格フレームの表面や、フレームと表皮との境界付近の表面におけるバリの発生を大幅に低減することができる。また、安価な砂型鋳造による骨格フレームの製作や、シリコーンゴムなどによる注型型を用いて容易に製造するため、外観品質に優れた製品を安価に製作することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
寸法にバラツキが生じやすい骨格フレームの外周に衝撃吸収性を有する表皮を固着させた衝撃吸収装置の製造方法において、バリの発生を大幅に低減することのできる安価な製造方法であるため、衝撃吸収用のダンパなどの製造用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0022】
1 骨格フレーム
2 表皮
3 マスターモデル
3´第1領域
4 薄膜
5 注型用枠体
6 注型型
6´薄膜転移領域
7 分割面
8 注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターモデル表面の第1領域に柔軟素材を付着させて薄膜を形成する工程と、
前記薄膜を付着させた前記マスターモデルを注型用型枠内に設置してゴムまたは樹脂を注型して硬化させ注型型を製作する工程と、
前記第1領域の前記薄膜を、前記第1領域に対向する前記注型型の対向面に転移させるように前記マスターモデルを前記注型型から取り外す工程と、
骨格フレームを前記注型型に転移した薄膜に密着させて設置する工程と、
前記骨格フレームを設置した前記注型型に、衝撃吸収性を有する表皮となる硬化性素材を注型し、前記骨格フレームと前記表皮を固着させる工程とからなることを特徴とする衝撃吸収装置の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜の柔軟素材の硬度は、前記注型型の素材の硬度よりも小さく、アスカーC硬度において、前記薄膜素材の硬度は30以下、及び前記注型型素材の硬度は45以上とすることを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収装置の製造方法。
【請求項3】
前記衝撃吸収装置は、ロボットアームに供することを特徴とする請求項1または2記載の衝撃吸収装置の製造方法。
【請求項4】
前記衝撃吸収装置は、衝撃吸収用ダンパに供することを特徴とする請求項または2記載の衝撃吸収装置の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−269525(P2010−269525A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123596(P2009−123596)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】