説明

表面改質プロセスおよび装置

本発明は、カーボンの基材上に耐摩耗層を備えた基材をコーティングするための、下記ステップi)カーボンに対する親和性を有する物質を含む基材を準備し、ii)該基材の表面を洗浄し、iii)該基材上に金属含有層を堆積し、iv)該コーティングされた表面にイオン衝撃を加え、v)表面上にカーボン層を堆積する、を備えたプロセスに関する。さらに、本発明は、基材表面上にダイヤモンドライクカーボンコーティングを備えた基材、および該発明を実施するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空におけるコーティング用途、特に、導電性物質のプラズマを生成する装置に対して好適な用途に関する。該装置は、ダイヤモンドライクカーボンのコーティングにより、硬度、切断性能および耐摩耗性が改良された基材を提供するプロセスを実施するために使用される。さらに、本発明は、Al、Cu等、および非鉄金属の機械類のためのみならず、印刷回路基板上の経路指定、穿孔およびこれに類似するプロセスが行われる穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボンのコーティングは、当該分野において公知のものである。
WO2004/083484A1は、ナノ結晶質のダイヤモンドライク物質を、CVD技術によって基材上に堆積させる可能性、特に、印刷回路基板用フライスの表面に、これらのスタンダードライクカーボン層を得るための化学蒸着技術を開示している。
【0003】
印刷回路基板製造における主要な課題は、生産性の増大に関する恒常的な要請と、印刷回路基板の機械加工コストを削減することである。ダイヤモンドの優れた硬度のおかげで、DLCコートされたフライスもまた、機械加工用の高硬度部材および優れた耐熱性の高Tg物質(ガラス転移点(Tg)が170℃から180℃の)に極めて好適である。
【0004】
ウラジミール I.ゴロコフスキー(Vladimir I. Gorokhovsky)によるUS5435900、US6663755およびUS6617057は、単一の反応チャンバー内において、濾過陰極アーク堆積によって真空下における堆積コーティングの可能性を開示している。ここでは、真空下において、磁気偏向システムによって囲まれたプラズマアークが、第一プラズマ源およびコーティングチャンバーとともに、装置として使用されている。
【0005】
EP1186683B1は、時計工業において、部品上にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層を適用するために、濾過されたアークカーボン源を用いることが開示されている。
【0006】
印刷回路基板(PCB)のためのダイヤモンドライクカーボン(DLC)フライスは、極めて研磨性のある材料が使用されているために通常のカーバイド工具より優れており、例えば、CVD技術によって得られるDLC層がUS5653812に開示されている。
【0007】
一般的に、微細工具、特に、微細ドリル、エンドミル等は、マイクロエレクトロニクスおよびマイクロ技術において、益々重要なものとなっている。微細機械のための微細工具や、一般的な、微細化学部材には、低粗度であり高品質なコーティングが求められる。さらに、堆積途中の低温も、しばしば重要となる。微細工具の比較においては、微細工具の超微細寸法に起因して、微細工具コーティング特性およびコーティング作製方法に対する新しい要求が多数存在する。特に、微細工具のコーティングは抵抗が小さく硬いのみならず、スムースで良く制御された厚みを有するべきである。一般的な微細工具の切断エッジの寸法や“点”の半径の曲率は、1ミクロンよりも小さい。主要な問題の一つは、堆積プロセス中の微細工具の鋭利なエッジおよび“点”の熱し過ぎである。堆積中の高温および“バイアス”は、一般的には、基材への良好なコーティングの付着性のために、好ましいものである。しかしながら、微細工具においては、熱し過ぎは、大きな問題となる。鋭利な“点”の周囲には高いプラズマ濃度が存在し、その“先端”上での高い電流(イオン)密度は過熱を招くこととなる。例えば、切断エッジの過熱は、機械的特性を失う結果となる。
【0008】
注意すべきことは、現在、市場において、コートされた微細工具、特に、直径<0.2mmの微細ドリルは、出願人が知らないということである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PCBフライスおよびドリルを用いてより深い穿孔穴を形成するという傾向は、良質な穴であると同時により深い穴(穿孔の全長)を形成することを、より一層困難なものとしている。その結果、基材の形態およびコーティングは、本出願がまさに適用されるものである。例えば、粗いコーティングが使用された、標準的な工具は、これらの負荷および特性を取り扱うことができず、また、該装置の出力を、切断性能に転換することがしばしば不可能となる。
【0010】
従って、本発明に内在する課題の一つは、コーティング基材のための、更なるより優れた工程、特に、コートされた長寿命の工具で良質な穴を形成するダイアモンドライクカーボン層を備えた穿孔および切断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、下記ステップ
i)カーボンに対する親和性を有する物質を含む基材を準備し、
ii)該基材の表面を洗浄し、
iii)金属界面層を堆積し、実質的に金属イオンを含む濾過イオン源によって前記表面上に層を形成し、
iv)該コーティングされた表面にイオン衝撃を加え、
v)チタンコートされた表面上にカーボンDLC層を堆積する、
を備え、カーボンの基材上に耐摩耗層を備えた基材をコーティングするためのプロセスによって解決される。
【0012】
本発明に係るプロセスは、低温下で基材上に優れた付着性を有し、非常に高硬度(>40GPa、好ましくは45〜60GPa、特にHv=5130)であり、自己潤滑性で比較的厚く、低温で堆積されたDLCコーティングを提供する。さらに、該コーティングは、好ましくは、ヤング率が400〜700GPaである。
【0013】
“カーボンに対する親和性”なる用語は、該物質が、熱力学的に安定な複合物及び/又はカーボン相を形成しうることを意味するものである。
【0014】
好ましくは、ステップi)の前に加熱ステップが行われ、そこでは、該基材は、少なくとも20分間、200℃〜300℃に加熱される。
【0015】
該DLC層の耐久性と同様に、予測できない効果および硬度もまた、比較的低温(200℃よりも低く、より好ましくは120℃よりも低く、最も好ましくは70℃よりも低い)において該表面上におけるDLCの優れた付着性を提供するチタン界面層の供給において与えられる。カーボンとチタンの部分的な重複は、本発明によるプロセスに用いられるイオン移植技術によるものであり、前記基材表面の前記2つのコーティングの追加的な強度および優れた付着性を提供するものである。
【0016】
ステップiii)の前に、例えば、Arイオンを用いたイオン衝撃を付加的に行うことによって、例えば、ドリルの切断エッジのように、前記基材の端部を鋭利にすることが得られるようにしてもよい。
【0017】
ステップiv)およびv)は、表面上により厚みのある、即ち、1ミクロン(mkm)よりも厚いDLC層を得るために、複数回繰り返し行っても良い。
【0018】
基材が金属でコートされる、金属層の堆積が行われた後の、選択的な冷却ステップが実施され、例えば、チタン層は100℃未満、好ましくは70℃未満に冷却される。この冷却は、金属表面上へのDLCの優れた付着性さえも提供する。該金属は、Ti、W、Crおよびそれらの混合物(合金のような)の1又はそれ以上とすることができる。説明を容易にするため、以下ではチタンを使用するが、上述したような他の金属および混合物に対しても、同様に有効である。
【0019】
前記金属の堆積は、良好な付着性を得るためには、好ましくは200℃以上で行われる。該金属“界面”層は、0〜100Vの“バイアス”(該基材へ適用される電圧)で基材上に堆積される。しかし、堆積されたカーボンの効果的な付着性のためには、70℃未満が必要である。該基材の冷却時間は、インライン配置によって、10分未満に低減しうる。本発明との関連において、インライン配置とは、各プロセスステップが特定の領域/場所、例えば、異なる場所に位置し、ラインに沿って次々に配置されるような反応チャンバー内において実施されることを意味する。
【0020】
希ガス、特に、Arによるコートされた表面の前記イオン衝撃は、チタン層上へのカーボン層の付着性に影響を及ぼしうる不純物を除去するものであり、特に、カーボン堆積ステップが実施される場合には、複数回実施してもよい。
【0021】
さらに、最適条件、つまり、バイアス電圧、電流、イオンおよび基材の種類で、前記イオン衝撃は、工具の切断エッジの鋭さを増すものであり、上述したように、付加的にステップiii)に先立って実施されるものである。
【0022】
好ましくは、前記基材は金属を含有した基材であり、ここで、該基材の金属は、鉄、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタル、これらの合金、炭化物、酸化物、ホウ化物、窒化物、チタン化物の群から選択される1又はそれ以上である。ここで、カッター、ドリルなど、公知の如何なる工具も、その表面又は切断エッジが、高硬度化され、鋭利とされる基材として使用されうる。好ましいドリルは、0.3mm未満の直径を有する微細ドリルである。前記基材の特に好ましい物質は、4%から12%のCoを含有するWC−Coである。
【0023】
表面硬度、摩擦係数、および耐焼付き性を改良するためにDLCコーティングを用いることは公知である。これらの特徴は、機械工具や、マイクロエレクトロ機械システム(MEMS)における他の機能部品の性能を改善するための、DLCの主たる特性であると考えられる。しかしながら、小さい寸法の微細工具、すなわち、一般には、直径が0.2mm未満の円筒状の基材や、それに相当する厚みの基材(特に、多結晶の物質)は、非常に脆いものである。そのような基材の主要な欠陥は、クラックの成長を介して破損と関係するものである。該クラックは、通常、表面の微細(ナノ)破壊から始まり、バルク物質の粒子境界を介して広がる。
【0024】
本発明に係るプロセスの利点の一つは、コーティングを適用することで表面の微細(ナノ)クラックを“治療”することにより、クラック成長を抑制することである。
【0025】
本発明による前記イオンビーム処理および前記多層コーティング技術は、予想外に基材の弾性的な領域を増大させ、破壊抵抗および(微細)基材の強靭性をかなり改善する。さらに、驚くことに、基材である如何なるバルク物質の弾性特性に対する本発明に係るコーティングの効果は、基材の直径又は厚みが小さくなればなるほど、より一層目立ったものとなり、微細工具のように、基材の物質の粒子サイズ(すなわち、結晶又は非晶質の結晶粒子)に匹敵するとき、限界となる。従って、本発明に係るプロセスにおいては、DLCコーティングを成長させることは、技術的に可能な可及的高硬度を得るのみならず、表面の微細(ナノ)クラックを“閉じる”コーティング構造を提供するという利点がある。
【0026】
本発明の更なる態様は、該基材がシリコン又はセラミック基材であり、よって、特有の基材および工具へのアクセスを与える。この場合において、該基材は、好ましくは、鉄、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタルの1又はそれ以上の酸化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、タンタル化物を含むものである。
【0027】
前記洗浄ステップは、好ましくは、イオンビームスパッタリングにより、好ましくは、真空中で実施される。同様に、環境測定が適用されうるものと理解される。
【0028】
前記カーボン堆積に先立ち、実質的に金属イオン、好ましくは、W、Cr,Ti−イオンを含む濾過イオンビームにより、金属堆積が実施される。該堆積は、濾過アークにより、好ましくは150V未満の、より好ましくは80V未満の低いバイアスによって実施される。
【0029】
斯かる金属堆積の後、希ガスイオン、好ましくはアルゴンイオンによるイオン衝撃が実施される。該金属のイオン衝撃の間の基材温度は、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下であり、例えば、250V以下の低エネルギーイオン銃が用いられる。さらに、好ましい低エネルギー銃の更なるパラメータは、アノード電流が3Aから10A、より好ましくは約5Aで、カソード電流が0Aから30Aであり、ガス圧が10-2から10-4Torrである。該カソードは、好ましくはタングステンフィラメントで作製され、ホール加速器の原理に基づくものである。
【0030】
最後のカーボン堆積は、実質的にカーボンイオンを含むパルス濾過アークイオンビームによって実施される。その周波数は、好ましくは1Hzから15Hzの間である。該イオンビームは、本発明の具体例の一つであり、従来技術の他の手法のようにC−H化合物を含むものではない。したがって、従来技術のように、滑らかなC−H化合物や移植生成物が形成されるものではない。好ましくは、該コーティングは、100℃未満、より好ましくは70℃未満の温度で実施される。さらに、該堆積は、70〜140eVで実施される。このカーボンの堆積のためのカソードは、好ましくは高密度であり、低粒子サイズであり、高圧で作成されたカソードである。
【0031】
このアーク放電のパルスモードは、放電数を計数することにより、膜厚の制御が非常に便利である。
【0032】
カーボン移植領域の厚みは、好ましくは、カーボン原子濃度が0から100%への一定の勾配を有するような、5から50ナノメートルの範囲である。カーボン移植は前記基材中で、例えば、チタンのような前記金属の移植よりもより深く到達し、それゆえ、両移植領域はある程度の重なりを有するものと理解される。
【0033】
前記基材表面上の全DLC層は、厚みが1から1000ナノメートル以上、より具体的には1500ナノメートルであり、よって、種々の用途が可能となっている。より好ましくは、400から700ナノメートルの厚みである。好ましくは、該ダイヤモンドライクカーボン層は、非晶質のカーボンマトリックス、またはダイヤモンドナノクラスターを備えた非晶質マトリックスである。“ナノクラスター”なる用語は、“Raman spectroscopy of amorphous,nanostructured, diamond−like carbon, and nanodiamond”by A.C.Ferrari and J.Robertson in“Phil.Trans.R.Soc.Land.A(2004)362,2477−2512.の記述に従って理解されるものである。
【0034】
本発明に内在する課題は、基材上に金属の、特にチタン、クロム又はタングステンの層と、該金属層上のダイヤモンドライクカーボンの層とを備えた基材であって、該カーボン層および該金属層が部分的に重複し、且つ、該カーボン層が0〜100%のカーボン原子の濃度勾配を有するものによって解決される。
【0035】
該金属層の堆積厚みは、好ましくは50から250ナノメートルである。
【0036】
該ダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、20から1500ナノメートルである。より好ましくは400から700ナノメートルの厚みである。
【0037】
好ましい具体例において、該基材は、ドリル、フライス、ブレード等である。
【0038】
前記濾過アーク金属堆積、および前記濾過パルスアークカーボン堆積は、共に、好ましくは、例えば上述した好ましい低エネルギーイオン銃により生成される低エネルギーイオンによって補助されるものである。該堆積は、前記低エネルギーイオン銃と、指定された堆積手法との組み合わせにで達成される、70℃以下で好適に実施される。
【0039】
前記粗度(Ra)は、好ましくは30ナノメートル以下である。
【0040】
クラックが前記基材表面に対して垂直に広がることを阻害し抑制するために、前記コーティングの基本構造は非晶質である。ミクロ構造、膜厚、硬度を含めたDLCコーティングの最適設計は、意図される具体的な用途に依存する。
【0041】
驚くことに、本発明に係る上記プロセスは、一つの単一コーティングにおいてカーボンフィルムの異なる特性の更なる結合を組み合わせることができ、その場合、後述するように、異なる比率のsp3/sp2カーボンを有する幾つかのカーボン層が、該コーティング中に備えられる。各層が異なるsp3/sp2のカーボン比率を有するような、これらの“多層構造”は、クラック生成をより効果的に抑制するものである。
【0042】
最終的な微細構造は、基材の表面特性のみならずコーティングプロセスにも依存し、平滑表面又は鋭利なエッジの“とがった”表面に依存する。コートされた基材表面領域が、それらの領域内で異なる局部的なsp3/sp2カーボンにより、異なる硬度、比率等を有するようにすることもできる。
【0043】
本発明に内在する問題は、さらに、
i) 金属濾過アークイオン源;
ii)カーボンイオン濾過アーク源、好ましくは、電気的な又はレーザーの着火を備えたもの;
iii)イオン銃、好ましくは低エネルギーイオン銃;
iv)赤外線加熱器;
v)冷却チャンバー、
を含む複数の機器を備え、基材をダイヤモンドライクカーボン層でコーティングするための装置によって解決される。
【0044】
この単一機器は、好ましくはインラインに、それぞれ別個の反応チャンバーに配置される。幾つかのイオン衝撃のために、上記パラメータは、該装置においても同様に適用することができる。
【0045】
各々が単一チャンバー中にある機器のインライン配置は、金属で一旦コートされた基材の冷却のための時間を、特に、大きく削減しうるものである。
【0046】
例えば、同様の手法のために従来用いられていたような単一チャンバー装置に関しては、200℃以上でコーティングを実施しなければならないような金属/チタンのコートされた基材の冷却時間は、約1から2時間である。本発明に係るインライン方式では、各機器は、他のチャンバーから離れ、基材が一つのチャンバーから次のチャンバーへと移動されてコートされるような移送機器によって連結された単一のチャンバー内に配されており、チタンコートされた基材の冷却時間は、約10分間である
【0047】
これは、本発明によるプロセスを実施する際の非常に大きな時間的利益である。
【0048】
さらに、インライン配置は、複数の基材の使用を許容するものであり、使用したサンプル容器によれば、数百又は数千の小さい基材が同時にコートされ、本発明に係るプロセスの出力を劇的に増加させるものである。
【0049】
本発明の装置は、同時に複数のサンプル容器の使用を許容し、好ましくはカセットの形であり、例えばドリル、切断エッジ等がコートされる。本発明に係る装置の各チャンバー内で、サンプル容器は、本発明に係るプロセスの特定のステップにおいて正確に取り扱われるものである。
【0050】
このような利点は、各プロセスステップが実施される従来の単一のチャンバーに対して、およそ500%の係数によりプロセスの出力を増加させる。
【0051】
前記カソードが金属またはその合金で作られる場合に、均一な密着層を得るためには、前記金属源、特にチタン、は濾過アークイオン源である。さらに、該金属源は、直流金属堆積を用いる。
【0052】
基材上にダイヤモンドライクカーボンを形成するためには、カーボン源は、パルス、濾過、又は非濾過のアーク源、若しくは黒鉛ターゲットをスパッタするためのレーザーアブレーション源である。
【0053】
本発明に係るDLCコーティングは、好ましくは硬度HがH=45〜60GPa、(Hv=5130)を有するものであり、弾性係数が400〜700GPaを有するものである。
【0054】
カーボンの堆積は、80eVおよびフローティングポテンシャルによって起こる。非晶質カーボンフィルムは、T<70℃、1〜15Hzの可変アークパルス周波数で堆積される。DLCフィルムが成長する際には、該DLCフィルムへの高い圧縮応力を避けることが重要である。応力のレベルは、堆積中のパルス周波数を変えることによって制御できる。5Hzより長い周波数では、よりSP2の“スムースな”グラファイトライクなカーボン層が得られ、1〜5Hzより低い周波数では、より“硬い”SP3−ダイヤモンドライクなカーボン層が得られる。従って、異なるSP2/SP3比を有する異なる“カーボン層”を含むコーティングが得られる。前記応力は、本発明の装置により、濾過レベルを変化させることによっても緩和されうる。
【0055】
堆積率を増加させるためには、炭化水素(C22、CH4、C66)含有ガス、好ましくは純粋アセトン、が10-3〜10-5Torrの真空チャンバー内へと導入されうる。カーボンパルスアークプラズマ中で、該炭化水素分子の解離とイオン化が起こる。該プロセス中に開放された少量の水素が、DLCフィルム表面上およびSP3とSP2のクラスター界面上でのダングリングボンドの結合に有効である。98%に及ぶプラズマの高いイオン化率、および高密度のカーボン粒子流は、基材上での高い核生成をもたらす。基材上の準−中性のプラズマ流は、誘電性基材の使用を許容し、基材上に、複雑な3D表面形態を有する均一厚みによって特徴づけられるDLCフィルムの堆積の可能性を許容する。実際、低圧下のアセトン蒸気の存在下におけるパルスアークによって、ほとんど同一のDLC特性を維持しつつ、DLCフィルムの堆積率が3倍およびそれ以上となる。
【0056】
パルス周波数変化、マクロ粒子の濾過、および堆積チャンバーへの炭化水素の導入は、DLC堆積中に周期的に実施されることができ、準−層状のDLC構造および応力緩和をもたらす。
【0057】
カーボン堆積中の、前述したカーボンアークパルス周波数の変化、マクロ粒子濾過のレベル、堆積チャンバーへの最適な炭化水素の導入は、コーティング全体の中の、カーボンのSP3/SP2比、層の密度等に影響を及ぼす。
【0058】
それゆえ、改良された特性のDLCコーティングを構成するカーボンフィルム又は層の準多層構造が、本発明に係るプロセスによって得られる。
【0059】
結果物は、基本的には非晶質のカーボン構造であり、それは、単一の均質なDLC層よりも、基材表面に垂直な方向におけるクラックの広がりを、より効果的に抑制する。
【0060】
核生成、成長およびDLCコーティングの構造は、基材上でのカーボンイオン流の入射角のみならず、基材表面、特に平坦か又は鋭利な表面位置かに依存する。
【0061】
前記イオン銃は、低エネルギーの、好ましくはカウフマン型(Kaufmann-type)の300Vよりも低いイオン銃である。さらに、パラメータは、上記発明のプロセスとの関係により指定される。
【0062】
好ましくは、前記カーボン堆積中のバイアスは、湾曲調波(sinus harmonic)によって変化される。
【0063】
コートされる前記基材は、好ましくは金属含有基材である。さらに、該基材の好ましい特徴は、上述したプロセスとの関係で指定される好ましい特徴と同じ又は近似する。
【0064】
前記基材は、その形態に従い、好ましくは90°未満の角度で、特に、円筒状や、切断エッジ上にコートされるドリルのような細長い基材の場合、最も好ましくは、イオン源からのイオン流に対して平行(即ち、0°)に配置される。
【0065】
好ましくは、これらの円筒状基材は、例えばコートされるドリルであり、回転軸は、好ましくはイオン流と平行とされ、これによって切断工具の端部のみがコートされ、効果的な穿孔および切断工具をえるために使用されるDLCの量の削減に関し、前例のない利点が得られる。円筒状形状の基材は必須ではなく、例えば、ブレード、フォーク、ナイフなど、他の基材も、本発明のプロセスにおいて使用される、
【0066】
該基材の金属は、鋼、鉄、バナジウム、タングステン、コバルト、クロム、ニッケル、ニオブ、タンタル又はこれらの金属酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、タンタル化物、チタン化物の中から選択される1つ又はそれ以上である。
【0067】
本発明に係る装置の鍵となる特徴は、もし例えばドリルのように円筒状又は円錐状の基材であれば、イオン移植、イオン混合、およびシステム中において負にバイアスされた表面の組み合わせによってコートされることであり、PCBフライスへの応用のための非常に硬いDLC層が提供される。
【0068】
好ましくは、前記金属源は、軸方向の磁場を作り出すコイルとは、切り離されたそれ自身のシステムを有する。一般に、金属源には、好ましくは丸いコイルが使用される。
【0069】
本発明に係るプロセスは、限定する意図なしに、ドリルのコーティングに関する更なる詳細において例示的に説明される。
【0070】
具体的な実施例において、基材の固定物は、コートされる穿孔部、電気的に絶縁されたスペーサ、および電気的に接地された遮蔽部材とを含むドリルである。該固定物は、カセット形状又は他の好ましい容器中で、複数個のコートされるべき単一ドリルを、通常、数百含む。該容器は、二重回転サンプル容器(遊星歯車システム)に配される。装着された固定物は、プラズマ堆積真空チャンバー内に載置され、該チャンバー内の空気が排出される。ガスが該真空チャンバーへと添加され、イオンビーム銃が点火され、ドリルの表面がスパッタ−エッチングされ、残った不純物と表面の酸化物が除去され、表面が活性化され、さらに、切断エッジを鋭利にするための最適な条件とされる。その後、チタン含有金属層、好ましくは純粋チタン、がアークプラズマ堆積によって堆積される。このチタン含有金属層は、続くカーボンのようなDLCのための密着層として使用される。該実施例(即ち、ドリル)は、その長手方向がアーク源から来るイオン流の方向と平行に配置され、切断エッジは該イオン流に直接暴露される。この形態は、より高密度のドリルが、該機械の一つのチャンバー内で装填されるため、好ましくは穿孔切断のための機械の堆積の入力を増加させるよう許容する。微細ドリルが円錐形状であり、機能する切断エッジは最もコートされるべき部分であるため、この形態は、好ましいものである。
【発明の効果】
【0071】
概して、本発明は以下のような利点を提供する。
【0072】
− 基材上へ本発明に係るプロセスを適用して得られた、付着性の金属および非晶質のカーボン(DLC)を含む、コーティングの多層構造は、例えば、WO−Co物質(付着性)を備え、優れた表面の完全性を有する。前記コーティングは、裂け目が発展し始める、例えばWO−Coのような、基材表面の物質結晶間の全ての微細クラックを覆う。つまり、本発明に係るプロセスにより得られる該DLCは、表面“接着剤”のように作用する。
【0073】
− 本発明に係るDLCコーティングは、極めて効果的な小片排出を実現する(DLCが非常に低摩擦係数を有するため、切断物質の破片がとても早く排出される)。破片とともに、切断点から温度が除去される。これは、150krpmを越えるPCB(印刷回路基板)において高速で穿孔する間、穴の優れた表面品質を得るため、PCB穿孔における深い穴に非常に重要である。
【0074】
− 該コーティングは、低い摩擦係数を有するので、穿孔の間、非常に高効率で小片を排出することを可能とする。
【0075】
− 該コーティングは、コートされた基材の全体的な強靭性を増加させる。WC−Co基材について実施された曲げ試験は、0.105mmおよび0.05mmのコートされたドリルに対する臨界負荷を、10〜20%増加させることを示している。
【0076】
− 微細工具に対する該コーティングは、該微細工具が寸法の小さいものであるため、表面を改良するのみならず、全体のシステム(コートされた基材)のバルク特性をも改良する。そして、
【0077】
− 該コーティングは、WC−Co微細ドリルのような微細工具の臨界曲げ負荷を、17〜23%の係数で、改良する(180ミクロンの距離の裂け目が生じる同じ曲げに対し、コーティングのない0.1mmのWC−Cドリルに対する裂け目臨界負荷が490mNであり、コーティング有りでは550mNである)。
【0078】
− 該コーティングは、穴の高品質を維持することで、コートされていないドリルに対する微細工具の寿命を5〜10の係数で増加させる。
【0079】
重要な点は、最適値があること、即ち、コーティングの詳細においては、工具の直径やその粒子サイズ等に関係するコーティングの微細構造に対して、基材特性、つまり、最適基材厚み、硬度、粘弾性は等、といった基材特性がこれと相互に関連することである。
【0080】
本発明は、図面を参照しつつさらに詳細に説明される。図中で説明されたことは本発明の範囲を何ら限定するものではないものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、異なるチャンバーを備えた本発明に係る装置の概略図を示す。
【図2】図2は、アークイオン源を備えたチャンバーでコートされるドリルの詳細側面図を示す。
【図3a】図3aは、従来技術による装置の詳細断面図を示す。
【図3b】図3bは、従来技術による装置の正面図を示す。
【図3c】図3cは、従来技術による装置の側面図を示す。
【図4】図4は、本発明の装置の他の好ましい具体例を示す。
【図5】図5は、コートされたものとコートされない微細ドリルについて、曲げ試験における破壊抵抗値の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、幾つかの反応チャンバー101、102、103、104、105、106、および107を有する、本発明に係る装置(100)を示す。
【0083】
一つの基材108又は複数の基材108、例えばドリルは、チャンバー101内のサンプル容器上に載置される。該サンプル容器は、それがチャンバー101からチャンバー107まで移動しうるような位置に配置され、該ドリルは、それらが移動方向に平行となるように、該サンプル容器上に固定される。チャンバー101は、“ローディングチャンバー”と称される。
【0084】
従って、チャンバー101内では、図1には示されていない前記ドリルを備えた該サンプル容器108の充電(charging)が実施される。
【0085】
複数のサンプル(同一の又は異なるもの)に充電が行われた後、該サンプル容器108は、矢印で示したように、アルゴンイオンを用いて250℃の温度での加熱により得られるスパッタ洗浄が実施されるイオン表面研磨チャンバー102へ移動する。
【0086】
該イオン表面研磨、スパッタ洗浄、および加熱の後、サンプル容器108は第一金属堆積チャンバー103へと移動する。
【0087】
該金属堆積チャンバー103では、例えば、図示されていない濾過アーク源からのチタンのような、金属層の堆積と、イオン銃によるビーム混合が実施される。
【0088】
該アークイオン源は、矢印により示されており、該イオンビームを概略的に図示している。
【0089】
前記堆積は、該基材の両側において起こる。第一金属層がコートされた後、該サンプル容器108は冷却チャンバー104に移動し、そこで該サンプル容器108およびコートされた該ドリル又は基材は、約110℃まで冷却される。
【0090】
該冷却チャンバー104を通過した後、該サンプル容器は、さらにカーボン堆積/イオンビーム混合が行われるチャンバー105へと移動する。矢印は、カーボンイオンビームの図解的な概略を示す。
【0091】
カーボンがコートされた後、サンプル容器108は、さらに、サンプルが回収されるチャンバー106および107へと移動する。
【0092】
既に上で説明したように、本発明に係る装置の主要な利点の一つは、本発明のプロセス中で、各チャンバーにおいて、コートされる複数の基材を含む一つのカセットが与えられることである。例えば、図1に示された特定の具体例によれば、同時に7つの基材容器の並行した処理、即ち、数百の異なる又は同一の基材のエッジが連続的にコートされること、を許容する。
【0093】
図2は、前記アークイオン源201の前に置かれた、例えばWC−Co合金で作製されたドリルである、サンプル204の詳細な断面図を示す。
【0094】
堆積のための供給源から来るイオンビームは、矢印202により示されている。該イオンビーム202中のイオンは、特に、区域203、すなわち、コートされるべきドリルの前方部分に到達し、該ドリルの他の垂直でない部分よりも該前方部分の上に、より厚みのあるコーティングを提供する。
【0095】
図3aから3cは、一つのチャンバー装置である従来技術の装置300の詳細な断面図を示す。
【0096】
本発明に係るプロセスのためにバッチ方式の装置を用い、同様の結果をもたらすことは可能であるが、上述したように、本発明に係るインライン方式と比較すると、出力は減少する。
【0097】
該装置300は、上述したようなパルスカーボンプラズマシステム302と金属プラズマシステム303を備えた真空チャンバー301から構成される。金属アーク源304および集束ソレノイドもまた、該チャンバー301に配置される。さらに、ソレノイド306、307、308および309が、システムの安定のために用いられる。低エネルギーイオン銃310が、該真空チャンバー301の一面に配され、同様にして、遮蔽板311、330および真空ポンプシステム312が配される。さらに、システム313および314が、本発明のプロセスから得られる微細粒子の捕捉のために、配置される。真空扉315および316は、該チャンバー301へのアクセスを提供する。更なる集束ソレノイドが、一つの真空チャンバー316に近接して配置される。パルスアークカーボン源のために付加的なアノード319を備えたカーボンプラズマアーク源318が、供給源318のための磁気濾過システム320とともに、基材をカーボンコーティングするため、該機器を提供する。321は、微細粒子の捕捉のためのシステムである。赤外線ヒーター323は、前記低エネルギーイオン銃310の反対側に配置される。サンプル容器324は、いわゆる二重回転軌道(double rotated planetary)のシステムである。プラズマ偏位のための、更なる別のソレノイド326および327が、真空計328および329と共に提供される。この回転は、機器331によって制御される。ターボポンプ332、更なるポンプ333および支持体334が、装置300の更なる詳細である。
【0098】
実施例1
【0099】
5%のコバルトを含みタングステンカーバイドを基本とする合金を含んだドリル(直径0.1mm)が、本発明に係るプロセスによって、チタン/DLC層(Ti:0.1μm、DLC:0.6μm)でコートされた。
【0100】
コートされた後、該ドリルは装置から取り除かれ、穿孔試験に供された。
【0101】
該穿孔試験は、標準的なPCBにおいて、毎分300.000の回転速度、毎分220.000の回転速度、および毎分160.000の回転速度で、それぞれ、直径0.1mmの穴を穿孔することにより実施された。
【0102】
比較物が、コートされていないドリルにより作製された。
【0103】
0.1mmドリルで穿孔する穴において、平均的な増加は、8の係数であった。
【0104】
下記ウェブサイトにより標準的に得られる電子顕微鏡を用いて、該穴の品質が、決定された。
http://www.uniontool.co.jp/English/tech_02.html.
【0105】
更に好ましい実施例においては、コーティングの厚みとドリルの直径とが最適化された。これは、直径とヤング率(粘弾性係数)との関係、すなわち、該ドリルを破壊するために適用される強度によって決定される。直径0.1mmのドリルに対して、硬度45〜60GPaのための粘弾性係数400〜600GPaを得るため、DLC層の最適厚みは0.5から0.8mmである。
【0106】
図5は、コートされたドリル(図5b)とコートされていないドリル(図5a)の曲げ試験の結果を示す。ドリル(その中心)の直径は、105μmであった。Ti層の厚みは0.2μmで、DLC層の厚みは0.6μmであった。横座標は適用された応力をmNで示し、縦座標は変位(標準状態と比較した曲げ)をμmで示す。
【0107】
結果は、コートされたドリルを破壊するに要する臨界負荷が、コートされていないドリルと比べて、15〜20%高くなっていることを示す。コートされたものを破壊するまでに適用される応力の値は551mNであり(図5b)、コートされていないドリルでは481mNである(図5a)。
【0108】
試験パラメータ
試験を実施するため、球形の端部を有するインテンダー(indenter)が、ビデオマイクロスコープを用いてドリルの端部に配置された。累進的な応力“負荷”は、ドリルが破壊されるまで適用された(約20mN/sec)。この期間中、インテンダーの垂直な変位のみならず、作用した応力が、時間の関数として記録された。図5に示されたように、初め、負荷が小さい場合、適用した応力と変位との間には線形的な依存性があり、該基材が変形する弾性的な領域に対応している。その傾斜およびその長さは、該基材の弾性特性に依存する。そして、負荷が増加すると、基材物質の硬化されたワーク(work)に対応して、非線形的な範囲が観測される。可塑性変形に対応する所定の値の後、破壊が起こる。試験雰囲気:空気;温度:24℃;湿度:30%。試験の状況、特に、適用される応力の軸に対するドリルの軸方向の固定位置(溝の位置)が、該試験下の全てのドリルに対して同じとすべきであることに注意することが重要である。
【0109】
さらに、この種の曲げ試験に基づき、コートされたドリルの品質管理の新しい方法が提供される。原則的には、湾曲中に、負荷を適用し、弾性的な部分のみ観測することで十分である。事実、コートされたドリルとコートされないドリルとの間で、適用された応力対湾曲のプロットの傾斜において、差異が生じる。この傾斜の値は、コートされた効果を示す良い指標である。
【0110】
図4には、本発明の他の好ましい実施形態が、図解的に示されている。基材をコートするための、示された装置400は、ローマ数字により示された3つの部分を備え、それらは、以下にそれぞれ説明するような部分である。I:濾過アーク金属イオン源、II:パルス濾過アーク(レーザー点火)カーボン堆積、III:低エネルギーイオン銃。これらの部分は、以下において、上記ローマ数字を用いて説明される。
【0111】
前記濾過金属イオン源(I)は、金属遮蔽板402、金属プラズマアーク源403、404、電磁コイル401、405、508、412、およびマクロ粒子捕捉器406、407を備える。該金属プラズマ源403、404は、軸方向の磁界を生じさせるためのそれ自身のシステムを有する。3つの独立したコイルのシステムと、前記コイル401、405、408、412から生じた磁場と、金属プラズマ源403、404とが存在する。これによれば、濾過システムの調整が、前記コイル401、405、408、412の電流変化のみによらず、コイル401、405、408、412の距離の位置を変化させることによっても、可能となる。該コイル401、405、408、412の位置を変化させるための手段は、概して本発明の好ましい特徴である。コイル401、405のシステムは、コイル408、412と共に、ヘルムホルツコイルシステムに類似したシステムを構成する。コイル408、412は、金属遮蔽板402によって閉じ込められる真空チャンバーの内部の前記プラズマ流れの制御を許容し、これにより、チャンバー中央部近傍でのプラズマ濃縮を達成しうるようになり、又はチャンバー内部の広く均一なプラズマ分散が達成されうる。このプラズマ制御は、複雑な3次元(3D)部品上にイオンの高品質な堆積を許容する。さらに、該チャンバーの内部の磁場は、使用されたプラズマ容量(volume)の中でイオンの再結合を防止し、堆積されたフィルムの優れた品質を得ることができる。前記マクロ粒子捕捉器406、407は、チャンバーから離間され、前記プラズマ流れを制御するための付加的な可能性を提供する。前記コイル401、405、408、412は円形であり、良好な電場を提供する。それゆえ、該コイルの円形形状は、概して本発明の好ましい特徴である。好ましくは、付加的な数のコイルが、プラズマ流の優れた制御のために提供される。複数コイルのシステムは、二重又は一重の回転サンプル容器を一つ用いた1回の充填でコートされるべき目的物の数のかなりの増加を許容する。
【0112】
収率を増加させうる他の重要な詳細は、ドリルのような、コートされるべき対象物が、チャンバー内において、プラズマ流に対して垂直又は直角に載置されるのみならず、コーティングの高品質を維持したまま、プラズマ流れに対して平行に、又は種々の角度で載置されうることである。金属マクロ粒子濾過のための古典的な原理は、磁場中の90°の偏差位置上におかれるものであった。該堆積チャンバーに対し、一つの出口には、1つ又は2つ又は3つもの90°供給源が連結される。図では、二つの供給源が示されている。これは、堆積チャンバー中の金属イオン流れを2倍とするため、又は、Ti,Al、Cr,Wのような異なる金属の組み合わせを堆積するため、窒素、エチレン、アセチレン、メタン、Ar、又はXeのような反応性又は非反応性のガスの存在下において用いられる。
【0113】
広範囲の堆積のためのパルスアークカーボン源(II):
【0114】
広い領域にDLCフィルムを堆積するためのパルスアークプラズマ技術が、二つの選択肢の中で、低温下の真空中でDLCフィルムを堆積するべく開発されてきた。通常、該パルスカーボンプラズマは、真空中で、水冷された黒鉛カソードとプラズマ源のアノードとの間の短時間の電気的アーク放電の結果、形成される。該プラズマ源の機能は、アーク放電が起こる間にカソードスポットから排出される物質の蒸発およびイオン化に基づくものである。主たるキャパシタバンクマガジンの容量は、約2500μF(;初期電圧が200Vから400Vの範囲になる)である。該パルスプラズマは、真空中で、水冷された黒鉛カソードとプラズマ源のリング状アノードとの間の短時間の電気的アーク放電の結果、形成される。真空中でアーク放電を点火させるため、前駆高密度プラズマを生成することが必要となる。この目的のために、該プラズマ源は、特別の点火システムが備えられる。ここで2つの選択肢(IIaおよびIIb)が存在する。:
【0115】
偏向および電気的点火装置を備えたパルスアークカーボン源(IIa)
【0116】
該技術の主たる要素は、黒鉛カソードの電気腐食の結果として、基材に向けてカーボンプラズマ流を生成するべく配置されたホール型のパルスプラズマ源である。点火は、カソードの回りに位置するカーボンリングアノードの内部で接触する絶縁体(insulator)が、回転することによって提供される。ここでは、直径約35mmの円形カソードを備えた“点”のカーボン源が使用される。主たる放電電圧は200から400Vであり、点火放電電圧は約600Vである。該放電インパルス反復率は、1〜10Hzである。広範囲の、すなわち、最大150mm高さの堆積をカバーするために、パルスアーク源に偏向システムが配置される。さらに、広範囲の、すなわち300mmおよび僅かにそれ以上の堆積をカバーするために、二つの供給源が垂直に、一方が他方の上に配置される。この二つの供給源は、周波数が3〜10Hzの間で、平行して作用する。
【0117】
レーザー点火システム(IIb)
【0118】
一般に、カーボン堆積のためのレーザーアークシステムは、シェイベ(Scheibe)(米国特許6231956参照)によって提案され、開発された。ここで使用される該システムは、幾つかの重要な相違点を提供する。特に、該システムは、カソード416とアノード415との間に300〜320Vの電圧を提供し、それは、2000マイクロFの容量を提供する電源に接続される。該レーザービームは、窓417を経由してカソード表面416に導かれる。除去処理(アブレーション)により、カソード416とアノード415との間の空間の導電性が増し、放電電流が非常に早く増加する。黒鉛カソードの“カソードスポット”からの強烈なカーボンイオンの蒸発が起こり、また、急激に増加する。該カーボン流は、高度にイオン化されたものである。該放電時間は、約10マイクロ秒である。この時間は、放電“鎖”に連結された要素の容量および抵抗値によって決定される。パルスが終了した後、該レーザースポットは1mm垂直に移動する。該黒鉛カソードは、円筒形状を有し、軸周りに回転する。
【0119】
調整可能なカーボンマクロ粒子フィルター(III)
【0120】
該フィルターは、古典的な90°曲げ(又は90°に二度曲げされた)フィルターを提供するものではない。実際、実用上の理由のため、それらはDLCコーティングの特性を改善する際に有用であることから、全てのカーボンマクロ粒子を除去する必要性はない。しかし、それを制御することは重要なことである。第一の重要な新しい解決法は、カーボンプラズマがその上で45°向きを変え、チャンバーアース(chamber ground)13とは離間した垂直な導電性銅ワイヤ414を提供し、外側がコイルの垂直スパイラルユニットと接続されるような、フィルタが提供されることである。このコイルを通って、主たる放電電流の如く同じ電流が通過する。該カソードおよび該アノードは、チャンバーアース(chamber ground)とガルバニックに(galvanically)接続されたものではない。該カソードは、直接的に主たるキャパシタに接続され、該アノードは、フィルターのソレノイドを介して接続されている。また、マクロ粒子捕捉器418、419があり、それらは、壁面(ground)からは離間されている。該捕捉器の一部419は、可搬型であり、マクロ粒子の異なる部分を止めるために異なる位置に固定されうるものである。従って、二次的に、該フィルターは、マクロ粒子の濾過レベルを制御できるものである。それは、“調節可能なカーボンマクロ粒子フィルタ”と称することができる。この設計は、非濾過および濾過された調節可能なモードの両方で機能する。これは、工業的な用途に対して譲歩しうる解決策を有した、非常に高効率の分離機を提供する。
【0121】
低エネルギー銃(IV)
【0122】
基材表面の過熱を避けるべく、表面のイオン衝撃においては低エネルギーが適用されることが重要である。しかし、低エネルギーでは、イオン衝撃の効率に影響を及ぼすことができない。それは、ホール加速器の原理に基づくものである(エネルギー:50〜200eV、アノード電流:5A、カソード電流:0〜30A、ガス圧:10-1〜10-5Torr)。前記カソードは、タングステンフィラメントで作製されたものである。前記銃は、円錐形の開口を備え、広く開いたものである(図4参照)。これは、この銃で生成されたイオン流が、堆積チャンバー内の全ての有用なプラズマ容積をカバーすることを許容する。これは、該イオン銃が作動している間、全ての基材がイオン衝撃下に置かれることを意味する。これは、イオンビーム処理の効率を増加させる。該低エネルギーイオン銃は、表面洗浄、研磨、イオンビーム混合およびイオンビーム補助の堆積に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機器、すなわち:
i)金属濾過アークイオン源
ii)カーボンイオンパルス濾過アーク源、又はレーザー点火カーボン源
iii)低エネルギー銃
iv)赤外線加熱器
v)冷却器
を備えた、ダイヤモンドライク層を基材にコーティングするための装置。
【請求項2】
前記金属源が、パルス又は非パルス濾過アークイオン源であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記カーボン源が、パルス濾過又は非濾過アークイオン源であることを特徴とする請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記カーボン源が、マクロ粒子の濾過レベルを調整可能とし、濾過された、部分的に濾過された、又は濾過されないカーボンイオン流が得られるパルスアーク源であることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項5】
前記カーボンイオン流の濾過レベルが、堆積プロセス中に調整されうることを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記カーボン源が、軸回りに回転する円筒形状の黒鉛カソードを含み、該陰極スポットがその周上を垂直に移動可能であることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項7】
前記カーボン源が、1〜15Hz、好ましくは1〜5Hzの周波数範囲であり、電気的に点火されたパルスアークカーボン源であることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項8】
前記カーボン源が、電気的点火を備え、垂直に積み重ねられた少なくとも2つのパルスアーク源であり、堆積領域が最大高さを提供しうるものであることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項9】
さらに、二重回転サンプル容器、又は一重回転のサンプル容器を備えることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項10】
前記基材が、前記イオン源からのイオン流に平行に配置され、又は該基材がその長手方向軸を前記イオン流に対して90°未満の角度で配置されることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項11】
前記基材が、鉄、バナジウム、タングステン、クロム、ニッケル、ニオブ、タンタル、シリカ(silicium)又はこれらの合金、酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、チタン化物、および、金属、鋼、セラミックスおよびプラスチックから選択される1又はそれ以上であることを特徴とする上記請求項の何れか1つに記載の装置。
【請求項12】
下記ステップ
i)カーボンに親和性を有する物質を含有した基材の準備
ii)該基材の表面のイオン衝撃
iii)実質的にチタンイオンを含む濾過イオンビームで前記表面上への金属層の堆積
iv)該コートされた表面のイオン衝撃
v)該表面上へのカーボン層の堆積
を備え、カーボンの土台上に耐摩耗性を有する層を備えた、基材をコーティングするためのプロセス。
【請求項13】
前記ステップiv)の前に、前記基材を100℃未満に冷却することを特徴とする請求項12記載のプロセス。
【請求項14】
前記基材が金属性基材又は非金属性基材であることを特徴とする請求項12又は13記載のプロセス。
【請求項15】
前記金属基材の金属が、鉄、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタル、又はその合金の群より選択された1又はそれ以上であることを特徴とする請求項14記載のプロセス。
【請求項16】
前記基材がセラミック基材であることを特徴とする請求項12又は13記載のプロセス。
【請求項17】
前記基材が、鉄、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタルのうち1又はそれ以上の、酸化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、タンタル化物を含むことを特徴とする請求項16記載のプロセス。
【請求項18】
前記イオン衝撃が、希ガスイオンにより実施されることを特徴とする請求項12〜17の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項19】
前記希ガスがアルゴン又はキセノンであることを特徴とする請求項18記載のプロセス。
【請求項20】
前記カーボンの堆積の前に、さらにイオン衝撃が実施されることを特徴とする請求項12〜19の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項21】
前記カーボンの堆積が、実質的にカーボン原子を含む、パルス濾過又は非濾過のイオンビームにより実施されることを特徴とする請求項12〜20の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項22】
前記カーボンの堆積が、一定のパルス、又は1〜15Hzの間で可変の周波数により実施されることを特徴とする請求項12〜21の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項23】
前記カーボン移植領域の厚みが、5〜50ナノメートルであることを特徴とする請求項12〜22の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項24】
前記基材表面上の前記DLC層の厚みが20〜1500ナノメートルであることを特徴とする請求項12〜22の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項25】
さらに、炭化水素含有の気体が、低圧化の前記真空堆積チャンバーに導入されることを特徴とする請求項12〜23の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項26】
堆積の際、カーボンフィルム中の応力緩和を制御するために、前記パルスアークの周波数及び/又はマクロ粒子濾過のレベルが、前記プロセス中で変動されることを特徴とする請求項12〜25の何れか1つに記載のプロセス。
【請求項27】
基材表面上にチタン層と、該チタン層上に配されたダイヤモンドライクカーボンの層とを有し、該カーボン層および該チタン層が部分的に重複し、該カーボン層が、炭素原子濃度0〜100%の勾配を有することを特徴とする基材。
【請求項28】
前記チタン層の厚みが、50から250ナノメートルであることを特徴とする請求項27記載の基材。
【請求項29】
前記ダイヤモンドライクカーボン層の厚みが、20から1500ナノメートルであることを特徴とする請求項27又は28記載の基材。
【請求項30】
前記ダイヤモンドライクカーボン層が、非晶質カーボン複合体(matrix)であることを特徴とする請求項29記載の基材。
【請求項31】
前記ダイヤモンドライクカーボンコーティングが、各単一の層が、異なる又は交互のsp2/sp3炭素比率を有するような複層構造を有するものであることを特徴とする請求項30記載の基材。
【請求項32】
前記ダイヤモンドライクカーボンが、同一基材中の異なる場所に、非晶質;非晶質およびナノダイヤモンド;およびナノグラファイトのクラスターを含んだ異なる微細構造を有することを特徴とする請求項31記載の基材。
【請求項33】
前記基材がドリル、又は時計部品、又は木材や木材派生品の切断工具、又はアルミ、銅、および非鉄材料およびプラスチック機械用の切断工具、又はマイクロエレクトロ機械システム部品であることを特徴とする請求項27から32の何れか一つに記載の基材。
【請求項34】
前記基材が、4%から12%のCoを含むWC−Coの、及び/又は0.3mmよりも小さい直径を有する微細ドリルであることを特徴とする請求項25から29の何れか一つに記載の基材。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−545670(P2009−545670A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522182(P2009−522182)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006892
【国際公開番号】WO2008/015016
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(509032911)
【Fターム(参考)】