説明

被加工物の加工方法

【課題】溶接によって、被加工物の加工精度を向上させることができる被加工物の加工方法を提供する。
【解決手段】第1部材110及び第1部材110に組み付けられる第2部材120に対して溶接する被加工物100の加工方法において、第2部材120を基準軸として被加工物100を回転させた際に生じる第1部材110の最大振れ位置を検出する振れ測定工程S3、最大振れ位置と第1部材110に相当する部材と第2部材120に相当する部材との偏位発生傾向位置を予め設定した偏位発生傾向位置データとを対比して第1部材110と第2部材120の接合部に溶接開始位置Sを設定する溶接開始位置設定工程S5、溶接開始位置Sを溶接始点として第1部材110と第2部材120との接合部を溶接する溶接工程S6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工方法に関し、特に、第1部材の組付孔に第2部材の組付部を嵌挿して互いに接合する接合部を連続する環状に溶接する被加工物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の自動変速機や無段変速機に組み込まれるクラッチは、例えばクラッチハブ、及びクラッチハブを嵌合収容するクラッチドラムを備える。クラッチハブとクラッチドラムとの間には、複数のクラッチプレートが組み込まれており、クラッチドラムには油圧ピストンが摺動自在に収容されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このようなクラッチドラム100は、例えば、図6で示すように、組付孔113が中央部分に形成された円板状の底壁部111及び底壁部111の外周縁に形成された円筒状の周壁部112を有するドラム本体部110と、軸部121及び軸部121の基端側に大径の外周面122aを有する円筒状の組付部122が形成された円柱状のシャフト120とを備える。
【0004】
このようなクラッチドラム100は、ドラム本体部110の底壁部111に形成された組付孔113に、シャフト120の組付部122を圧入して組付孔113の内周面113aと組付部122の外周面122aとを接合して組み立てられる。この互いに嵌合する組付孔113の内周面113aと組付部122の外周面122aとの間を、その接合部に沿って電子ビーム溶接等によって環状に溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−208732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ドラム本体部110の底壁部111に設けられた組付孔113が底壁部111に対して芯ズレ等が生じている場合や、組付孔113の内周面113aや組付部122の外周面122aの加工精度が低い場合に、シャフト120の組付部122をドラム本体部110の組付孔113に圧入して組み付けると、シャフト120の軸心とドラム本体部110の軸心とがずれて、シャフト120がドラム本体部110に対して偏位して組み付けられる。
【0007】
一方、ドラム本体部110及びシャフト120の接合部に電子ビーム溶接を行うと、ビームの照射された部位の熱的影響によってドラム本体部110に対してシャフト120が偏位または傾倒して、ドラム本体部110の軸心とシャフト120の軸心とがずれることが知られている。
【0008】
ここで、本発明者の鋭意研究の結果によって、このようなドラム本体110とシャフト120とを嵌合してその接合部を溶接始点と溶接終点とをオーバーラップさせて環状に溶接した際に、溶接始点位置とドラム本体110に対するシャフト120の傾倒発生方向に一定の傾向が存在することが確認された。また、他の互いに嵌合する部材間を環状に溶接した際にもその溶接始点位置と部材の相互間に一定の偏位発生傾向があることが確認された。
【0009】
本発明は溶接始点位置と部材の偏位発生傾向位置に一定の相関関係があることに着目してなされたもので、その目的は、溶接によって被加工物の加工精度を向上させることができる被加工物の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明による被加工物の加工方法は、第1部材の組付孔に第2部材の組付部を嵌挿して互いに接合する前記組付孔の内周面と組付部の外周面との間をその接合部に沿って連続する環状に溶接する被加工物の加工方法において、前記第1部材の組付孔に第2部材の組付部を嵌挿した被加工物を、前記第2部材を基準軸として回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の前記基準軸に対する最大振れ位置を検出する振れ測定工程と、該振れ測定工程で検出された前記第1部材の最大振れ位置と、予め前記第1部材に対応する部材の組付孔に前記第2部材に対応する部材の組付部を嵌挿して互いに接合する組付孔の内周面と組付部の外周面との間をその接合部に沿って連続する環状に溶接した際に生じる溶接始点位置に対する前記第1部材に対応する部材と第2部材に対応する部材の偏位発生傾向位置を設定した偏位傾向位置データとを対比して、前記第1部材と前記第2部材の接合部に溶接開始位置を設定する溶接開始位置設定工程と、該溶接開始位置設定工程で設定された前記溶接開始位置を溶接始点として前記第1部材の組付孔と前記第2部材の組付部との接合部に沿って連続する環状に溶接する溶接工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、振れ測定工程において第1部材に発生する振れの回転周方向上の最大振れ位置を測定し、溶接開始位置設定工程において、この最大振れ位置と、第1部材に対応する部材と第2部材に対応する部材との偏位発生傾向位置を予め設定した偏位傾向位置データとが対比されて、第1部材と第2部材の接合部に溶接開始位置を設定し、この設定された溶接開始位置を溶接始点として第1部材と第2部材との接合部に沿って連続して環状に溶接することで、溶接によって第1部材の最大振れが補正されて製品の品質が向上する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の被加工物の加工方法であって、前記振れ測定工程は、前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の振れ位置を検出する位相検出装置で前記第1部材の最大振れ位置を検出し、前記溶接開始位置設定工程は、前記最大振れ位置と前記偏位傾向位置データとを対比して前記第1部材と前記第2部材との接合部に前記溶接開始位置を前記位相検出装置で設定し、前記第1部材と前記第2部材との接合部を溶接する溶接装置の溶接部に対応する前記位相検出装置上の基準位置に、前記位相検出装置で前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させて前記溶接開始位置を位置決めし、前記溶接工程は、前記溶接開始位置が前記基準位置に位置決めされた状態で、前記被加工物を該被加工物の前記第1部材と前記第2部材との前記接合部を溶接する溶接装置に搬送して前記溶接開始位置を前記溶接装置の溶接部に位置決めする、ことを特徴とする。
【0013】
この発明によると、位相検出装置で振れ測定工程及び溶接開始位置設定工程が実行されると共に、被加工物を回転させて溶接装置の溶接部に対応する位相検出装置上の基準位置に溶接開始位置を位置決めし、この位置決めされた状態のままで被加工物を溶接装置に搬出して溶接開始位置を溶接装置の溶接部に位置決めする。従って、被加工物を位相検出装置から溶接装置にその状態のまま移動することで、被加工物における溶接開始位置を溶接装置の溶接部に容易に位置決めすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の被加工物の加工方法であって、前記振れ測定工程は、前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の振れ位置を検出する位相検出装置で前記第1部材の最大振れ位置を検出し、前記溶接開始位置設定工程は、前記最大振れ位置と前記偏位傾向位置データとを対比して前記第1部材と前記第2部材との接合部に前記溶接開始位置を前記位相検出装置で設定し、前記溶接工程は、前記被加工物を該被加工物の前記第1部材と前記第2部材との前記接合部を溶接する溶接装置に搬送して配置し、前記位相検出装置で設定された前記溶接開始位置に基づいて前記溶接装置において該溶接装置の溶接部に前記溶接開始位置を位置決めする、ことを特徴とする。
【0015】
この発明によると、位相検出装置で検出された第1部材の最大振れ位置と予め設定された偏位傾向位置データとが対比されて、位相検出装置で溶接開始位置が設定される。一方、被加工物を溶接装置に搬送して被加工物を溶接装置に配置し、位相検出装置で設定された溶接開始位置に基づいて、被加工物における溶接開始位置に溶接装置の溶接部を位置決めする。従って、溶接装置で被加工物の溶接開始位置に溶接装置の溶接部を容易に位置決めすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明による被加工物の加工方法は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法であって、前記振れ測定工程は、予め設定された許容振れ量判定データに基づいて、前記第1部材の最大振れが許容振れ量の範囲内にあるか否かを判定することを特徴とする。
【0017】
この発明によると、組み付け誤差に基づく第1部材の最大振れが許容振れ量の範囲外の被加工物と許容振れ量の範囲内の被加工物とを、予め選別することができる。従って、許容振れ量の範囲外の被加工物をその時点で除去することができ、許容振れ量の範囲外の被加工物に対して溶接を行うことによる溶接加工ロスを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、第1部材の最大振れ位置と、第1部材に対応する部材と第2部材に対応する部材とを溶接した際の偏位発生傾向位置を設定した偏位傾向位置データとが対比されて、第1部材と第2部材の接合部に溶接開始位置が設定されることから、溶接開始位置を溶接始点として第1部材と第2部材との接合部に沿って連続して環状に溶接することで最大振れが補正されて製品の品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施の形態に係る加工方法に用いられる位相検出装置の概略を説明する要部断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本実施の形態に係る工程図である。
【図4】同じく、本実施の形態に係る加工方法の作用を説明する図である。
【図5】第2実施の形態に係る加工方法の概略を説明する図である。
【図6】被加工物であるクラッチドラムの概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の被加工物の加工方法の実施の形態について、溶接方法が電子ビーム溶接である場合であって、溶接される被加工物が変速機のクラッチドラムである場合を例として説明する。
【0021】
(第1実施の形態)
本発明の第1実施の形態について、図1乃至4に基づいて説明する。なお、図1乃至図4において、図6と同様の構成には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る加工方法に用いられる位相検出装置の概略を説明する図であり、図2は、図1のA部拡大図である。
【0023】
この位相検出装置10は、第1部材となるドラム本体部110の組付孔113に第2部材となるシャフト120の組付部122が圧入されて組み付けられたクラッチドラム100を、シャフト120を基準軸として回転させた際に発生する回転周方向上のドラム本体部110の最大振れ位置を検出するものである。最大振れ位置が検出されたクラッチドラム100は、搬送手段となるローダハンド130によって、位相検出装置10に隣接して配置された図示しない溶接装置に搬送されてドラム本体110の組付孔113とシャフト120の組付部122との接合部を溶接する。
【0024】
図1及び図2に示すように、位相検出装置10は、下部支持部11aに立設して上下方向に伸長する基部11b、基部11bの上部から下部支持部11aと対向して突出する上部支持部11cを有する側面視略コ字状に形成された本体部11を備える。下部支持部11aには、中心線Lを回転中心として回転可能に形成されるとともにクラッチドラム100のシャフト120の基端側を支持するマウント12が配設される。
【0025】
マウント12は、下部支持部11aに配設される円筒状のベース部12a、及びベース部12aにベアリング等を介して回転自在に支持されてシャフト120の組付部122に形成される中空内周面122bに嵌合してシャフト120の基端をセンタリングすると共に支持する座部12bを有する。
【0026】
上部支持部11cには、マウント12と対向してセンタ機構13が配設されている。このセンタ機構13は、ロータリボールスプライン13dを介して回転可能に上部支持部11cに軸支されるとともに、エアシリンダ13bによって上下方向の上限位置と下限位置との間で往復移動するスプラインシャフト13aを備える。スプラインシャフト13aには、シャフト120の軸部121に形成されたセンタ孔121aに嵌合するセンタ13eが設けられている。
【0027】
このスプラインシャフト13aには、タイミングプーリ13cが設けられている。このタイミングプーリ13cと、基部11bに配設されたステップモータ14の回転軸14aに設けられたタイミングプーリ14bとの間にタイミングベルト14dが巻回され、ステップモータ14の回転力が、タイミングプーリ14b、タイミングベルト14d及びタイミングプーリ13cを介してスプラインシャフト13aに伝達され、スプラインシャフト14aが中心線Lを回転中心として回転する。
【0028】
一方、マウント12に隣接して、振れ検出手段となる測定ゲージ15が配設される。測定ゲージ15は、ゲージ本体部15a、ゲージ本体部15aに支持される接触端子15bを有し、エアシリンダ15cによって接触端子15bが被測定部に接触する測定位置と被測定物から離反する退避位置とに移動する。ドラム本体部110の振れ測定を行う場合は、接触端子15bがドラム本体部110の底壁部111と周壁部112とのコーナ部の内周面に沿って接触する測定位置に切り替えられ、クラッチドラム110を位相検出装置10に配置する際及び位相検出装置1から取り外す場合は、ドラム本体部110の内周面から離反する退避位置に切り替えられる。
【0029】
この位相検出装置10は、測定ゲージ15によるクラッチドラム100の振れ測定の結果に基づいて、ドラム本体部110の最大振れ量が許容振れ量範囲内であるか否かを判定する許容振れ量範囲判定データが格納された図示しない制御部を備える。この制御部には、更に、ドラム本体部110とシャフト120との接合部の周方向上における溶接始点からその接合部に沿って環状に溶接する際に生じるドラム本体部110とシャフト120との偏位発生傾向位置を予め設定した偏位発生傾向位置データが格納されている。
【0030】
この偏位発生傾向位置データは、予め溶接対象となるドラム本体110に対応する部材の取付孔に、シャフト120に対応する部材の取付部を圧入し、これら嵌合する取付孔と取付部との接合部を環状に溶接した際に発生する溶接始点位置に対する変位発生傾向位置が、予め実験或いはシミュレーション等に基づいて設定される。例えば、本実施の形態では図4(a)に示すように、ドラム本体部110とシャフト120との接合部を周方向に溶接する際に、溶接始点Sに対して軸心Oを中心に溶接方向Tに角度θずれた方向にドラム本体部110が偏位するものと仮定し、その偏位発生方向を偏位発生傾向位置Aと設定する。
【0031】
次に、本実施の形態に係る加工方法について説明する。図3に示す工程図を参照して説明する。
【0032】
図3で示すように、加工方法は、圧入工程S2、振れ測定工程S3、振れ量判定工程S4、溶接開始位置設定工程S5及び溶接工程S6を主要構成として備える。
【0033】
まず、機械加工されたドラム本体110及びシャフト120の組み付けにあたり、予め洗浄して切削油や切粉等の付着物を除去する(洗浄工程S1)。
【0034】
洗浄工程S1で洗浄されたドラム本体部110及びシャフト120は、エアブロ等で乾燥された後に圧入装置に搬送されて、圧入装置によってドラム本体部110の組付孔113にシャフト120の組付部122が嵌合乃至圧入されて組み付けられる(圧入工程S2)。
【0035】
ドラム本体部110とシャフト120とが一体に組み付けられたクラッチドラム100は、位相検出装置10に搬入されて振れ測定工程S3に移行する。振れ測定工程S3では、位相検出装置10の測定ゲージ15を退避位置に保持するとともに、エアシリンダ13bによりセンタ機構13のセンタ13eを上限位置まで上昇させた退避状態でシャフト120の組付部122に形成された中空内周面122bを、マウント12の座部12bに嵌合させるとともに、エアシリンダ13bによってセンタ13eを下降させてセンタ13eをシャフト120に形成されたセンタ孔121aに嵌合させてマウント12及びセンタ13eによってクランプ保持し、クラッチドラム100の軸心が中心線Lと同軸となるように位置決めする。
【0036】
その後、退避位置に保持されている測定ゲージ15をエアシリンダ15cによって測定位置に移動し、接触端子15bを測定位置となるドラム本体部110の内周面に接触させる。
【0037】
この状態で、ステップモータ14によりセンタ13dを回転駆動してクラッチドラム100を回転させる。このとき、中心軸Lに保持されたシャフト12に対してドラム本体部110が偏位しているクラッチドラム100にあっては、ドラム本体部110が中心軸Lに対して振れを発生させながら回転することから、ドラム本体部110における内周面に接触した測定ゲージ15の接触端子15bがドラム本体部110の振れ回転に追従してゲージ本体部15aに対して揺動し、この揺動幅によってドラム本体部110の最大振れが測定され、更にステップモータ14の回転位置によってクラッチドラム100の回転周方向上の最大振れ位置が測定される。
【0038】
この振れ測定工程S3で測定されたドラム本体100の振れ量と許容振れ量判定データを比較し、最大振れ量が許容範囲内か否か判断する(振れ量判断工程S4)。振れ量が許容範囲内と判断された場合(振れ量判断工程S4でYの場合)は、溶接開始位置設定工程S5に移行する。
【0039】
溶接開始位置設定工程S5では、振れ測定工程S3で検出されたドラム本体部110の最大振れ位置と、ドラム本体部110の組付孔112とシャフト120の組付部122との接合部の周方向上における溶接始点からドラム本体部110とシャフト120とを溶接する際に生じるドラム本体部110とシャフト120との偏位傾向位置を予め設定した偏位発生傾向位置データとを対比し、ドラム本体部110とシャフト120との接合部における溶接開始位置Sを設定する。
【0040】
本実施の形態では、例えば図4(b)で示すように、回転中心となる中心軸L、即ちシャフト120の中心点Oから最も離れた計測点の方向Iがドラム本体部110における回転周方向R上の最大振れ位置となる。この最大振れ位置Iと偏位発生傾向データを比較し、溶接に伴い最大振れが発生する偏位発生傾向位置Aが中心点Oを介して最大振れ位置Iと対向位置となるように溶接開始位置Sと設定する。即ち、偏位発生傾向位置Aが中心点Oを介して反溶接方向に角度θの位置である最大振れ位置Iに対し反溶接方向に180°+角度θの位置を溶接開始位置Sと設定する。
【0041】
溶接開始位置Sが設定された後、電子ビーム溶接工程S6に移行する。電子ビーム溶接工程S6では、まず、クラッチドラム100における溶接開始位置Sが、位相検出装置10に隣接して配置された溶接装置の溶接部となるビーム照射部が配置されるように制御部がステップモータ15を回転制御して、溶接装置のビーム照射部に対応する位相検出装置10上の基準位置に、溶接開始位置Sを位置決めする。
【0042】
更に、溶接開始位置Sが位相検出装置10の基準位置に位置決めされたクラッチドラム100を、そのままの状態で、ローダハンド130で把持して溶接装置に搬出し、クラッチドラム100における溶接開始位置Sを溶接装置のビーム照射部に位置決めし、クラッチドラム100を溶接装置に配置する
【0043】
溶接装置に配置されたクラッチドラム100は、溶接装置によって電子ビーム溶接が施される。すなわち、クラッチドラム100における溶接開始位置Sからドラム本体部110の組付孔113の内周面113aと組付部122の外周面122aとの間を、その接合部に沿って連続する環状に溶接し、溶接開始位置Sを超えて溶接終了位置までオーバーラップして溶接する。これにより、ドラム本体部110の最大振れ位置が、矢線Bで示す方向に向かってシャフト120が偏位して補正される。
【0044】
このように、組み付けられたクラッチドラム100におけるドラム本体部110とシャフト120の偏位が発生したクラッチドラム100に振れ測定を行って、ドラム本体部110の最大振れ位置Iを検出し、この最大振れ位置Iと偏位傾向位置データとを対比して溶接開始位置Sを設定し、この溶接開始位置Sから電子ビーム溶接を施して溶接始点と溶接終点とをオーバーラップして連続して環状に溶接する。これにより、ドラム本体部110の最大振れ位置が補正されてクラッチドラム100の振れが改善されて製品の品質が向上する。
【0045】
電子ビーム溶接工程S6の後、超音波探傷工程S7に移行する。すなわち、溶接が終了したクラッチドラム100を溶接装置から取り外して、図示しない超音波探傷器に設置してクラッチドラム100の超音波探傷を行い、クラッチドラム100の微小な傷等を検出する。
【0046】
一方、振れ量判定工程S4で振れ測定の結果最大振れ位置が制御装置に予め設定された許容範囲内でないと判断された場合(振れ量判定工程S4でN)は、クラッチドラム100を位相検出装置10から取り外す(取り外しS8)。取り外されたクラッチドラム100は、不良品として回収される。
【0047】
なお、本実施の形態では、溶接開始位置Sを溶接装置のビーム照射部に対応する位相検出装置10の基準位置において位置決めし、位相検出装置10で位置決めした状態のままで溶接装置に搬送して溶接開始位置Sにビーム照射部を位置決めする場合を説明したが、位相検出装置10において溶接開始位置Sにビーム照射部を位置決めせずに、溶接装置において溶接開始位置Sにビーム照射部を位置決めしてもよい。
【0048】
すなわち、位相検出装置10で溶接開始位置Sを設定した後にクラッチドラム100を溶接装置に搬出して溶接装置に配置し、溶接装置において、位相検出装置10で設定された溶接開始位置Sのデータに基づいて、クラッチドラム100の溶接開始位置Sにビーム照射部を位置決めする。例えば、溶接装置の回転機構等によって、溶接装置に配置されたクラッチドラム100における溶接開始位置Sをビーム照射部まで回転させて位置決めしてもよいし、ビーム照射部をクラッチドラム100における溶接開始位置Sまで移動させて位置決めしてもよい。
【0049】
これによれば、溶接装置において、位相検出装置10で設定された溶接開始位置Sのデータに基づいて溶接開始位置Sにビーム照射部が位置決めされることから、クラッチドラム100における溶接開始位置Sを設定した後、すなわち、位相検出装置10から溶接装置に搬出する際に、加工作業を一時中断したり、別の作業工程を実行したりしても、溶接開始位置Sにビーム照射部を確実に位置決めすることができる。その結果、作業工程の構築が容易になり、作業効率の向上を図ることができる。
【0050】
(第2実施の形態)
次に、本発明の第2実施の形態について、図5に基づいて説明する。なお、図5において、図1乃至図4及び図6と同様の構成には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0051】
図5は、本実施の形態に係る溶接方法に用いられる位相検出装置の概略を説明する図である。図示のように、本実施の形態では、溶接装置20に、位相検出装置10が組み込まれている。
【0052】
溶接装置20は、位相検出装置10の中心線Lに隣接して配置されるビーム照射部21を備える。位相検出装置10に配置されたクラッチドラム100は、センタ機構13の回転駆動によって、中心線Lを回転中心としてマウント12上で回転し、ビーム照射部21が、回転するクラッチドラム100を溶接する。
【0053】
次に、本実施の形態に係る加工方法について説明する。第1実施の形態と同様の洗浄工程S1、圧入工程S2を経て、振れ測定工程S3、振れ量判定工程S4、溶接開始位置設定工程S5に移行する。これらの工程は第1実施の形態と同様であることから、その説明を省略する。
【0054】
溶接開始位置設定工程S5で溶接開始位置Sが設定された後、電子ビーム溶接工程S6に移行する。
【0055】
電子ビーム溶接工程S6では、クラッチドラム100をにおける溶接開始位置Sに溶接装置20のビーム照射部21が配置されるように、制御部がステップモータ15を回転制御して、溶接装置20のビーム照射部21に溶接開始位置Sを位置決めする。
【0056】
溶接開始位置Sにビーム照射部21が位置決めされたクラッチドラム100は、位相検出装置10に配置された状態で電子ビーム溶接が施される。ビーム照射部21から溶接開始位置Sに照射すると共にステップモータ14によってクラッチドラム100を溶接方向に回転し、溶接開始位置Sからドラム本体部110の組付孔113の内周面113aと組付部122の外周面122aとの間を、その接合部に沿って連続する環状に溶接し、溶接開始位置Sを超えて溶接終了位置Eまで溶接する。
【0057】
このように、本実施の形態では、溶接装置20に位相検出装置10が組み込まれていることから、振れ測定工程S3が実行されたクラッチドラム100を位相検出装置10から溶接装置20に移動させる必要がなく、位相検出装置10上でクラッチドラム100における溶接開始位置Sにビーム照射部21を位置決めすることができ、この状態のまま電子ビーム溶接を行うことができる。すなわち、単一の装置で、振れ測定工程S3、溶接開始位置設定工程S5及び電子ビーム溶接工程S6を連続して実行することから、各工程間のサイクルタイムを短縮化することができるとともに、装置の配置スペースを縮小して作業スペースを確保することができる。
【0058】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上記第1実施の形態では、位相検出装置10で振れ測定及び溶接開始位置の設定を行い、上記第2実施の形態では位相検出装置10で振れ測定を行うとともに溶接装置20のビーム照射部21が溶接開始位置Sに位置決めされる場合を説明したが、例えば、レーザ測定装置等の計測器具によって、クラッチドラム100のドラム本体部110の振れ測定を行ってもよい。
【0059】
また、ドラム本体部110の最大振れ位置にマーキングを付し、このマーキング位置と偏位傾向位置データとを対比して、対比結果に基づいて溶接開始位置を設定する。溶接開始位置には、別個のマーキングを付しておく。溶接開始位置にマーキングを付したクラッチドラム100を、溶接開始位置をビーム照射部に位置決めして溶接装置に設置する。これにより、位相検出装置10を用いることなく、クラッチドラム100の溶接を行うことができる。
【0060】
上記実施の形態では、溶接方法が電子ビーム溶接である場合を説明したが、例えば、レーザ溶接やTIG溶接等、溶接始点と溶接終点とを重ねる溶接方法であれば適用することができる。
【0061】
上記各実施の形態では、被加工物が変速機のクラッチドラム100である場合を例として説明したが、例えば、トルクコンバータのケーシングに軸状のシャフトを組み付ける等、第1部材と軸状の第2部材とを圧入または嵌合して組み付けて、溶接始点と溶接終点とをオーバーラップする溶接が施される被加工物であれば適用することができる。この場合、制御部には、第1部材に相当する部材と第2部材に相当する部材の接合部の周方向上における溶接始点から第1部材に相当する部材と第2部材に相当する部材とを溶接する際に生じる溶接始点に対して第1部材に相当する部材と第2部材に相当する部材との偏位発生傾向位置を予め設定した偏位発生傾向位置データが格納されている。
【符号の説明】
【0062】
10 位相検出装置
11 本体部
12 マウント
13 センタ機構
14 ステップモータ
15 測定ゲージ
20 溶接装置
21 ビーム照射部
100 クラッチドラム(被加工物)
110 ドラム本体部(第1部材)
113 組付孔
113a 内周面
120 シャフト(第2部材)
122a 外周面
S3 振れ測定工程
S5 溶接開始位置設定工程
S6 電子ビーム溶接工程(溶接工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の組付孔に第2部材の組付部を嵌挿して互いに接合する前記組付孔の内周面と組付部の外周面との間をその接合部に沿って連続する環状に溶接する被加工物の加工方法において、
前記第1部材の組付孔に第2部材の組付部を嵌挿した被加工物を、前記第2部材を基準軸として回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の前記基準軸に対する最大振れ位置を検出する振れ測定工程と、
該振れ測定工程で検出された前記第1部材の最大振れ位置と、予め前記第1部材に対応する部材の組付孔に前記第2部材に対応する部材の組付部を嵌挿して互いに接合する組付孔の内周面と組付部の外周面との間をその接合部に沿って連続する環状に溶接した際に生じる溶接始点位置に対する前記第1部材に対応する部材と第2部材に対応する部材の偏位発生傾向位置を設定した偏位傾向位置データとを対比して、前記第1部材と前記第2部材の接合部に溶接開始位置を設定する溶接開始位置設定工程と、
該溶接開始位置設定工程で設定された前記溶接開始位置を溶接始点として前記第1部材の組付孔と前記第2部材の組付部との接合部に沿って連続する環状に溶接する溶接工程と、
を備えることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項2】
前記振れ測定工程は、
前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の振れ位置を検出する位相検出装置で前記第1部材の最大振れ位置を検出し、
前記溶接開始位置設定工程は、
前記最大振れ位置と前記偏位傾向位置データとを対比して前記第1部材と前記第2部材との接合部に前記溶接開始位置を前記位相検出装置で設定し、前記第1部材と前記第2部材との接合部を溶接する溶接装置の溶接部に対応する前記位相検出装置上の基準位置に、前記位相検出装置で前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させて前記溶接開始位置を位置決めし、
前記溶接工程は、
前記溶接開始位置が前記基準位置に位置決めされた状態で、前記被加工物を該被加工物の前記第1部材と前記第2部材との前記接合部を溶接する溶接装置に搬送して前記溶接開始位置を前記溶接装置の溶接部に位置決めする、
ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項3】
前記振れ測定工程は、
前記第2部材を基準軸として前記被加工物を回転させた際に生じる回転周方向上の前記第1部材の振れ位置を検出する位相検出装置で前記第1部材の最大振れ位置を検出し、
前記溶接開始位置設定工程は、
前記最大振れ位置と前記偏位傾向位置データとを対比して前記第1部材と前記第2部材との接合部に前記溶接開始位置を前記位相検出装置で設定し、
前記溶接工程は、
前記被加工物を該被加工物の前記第1部材と前記第2部材との前記接合部を溶接する溶接装置に搬送して配置し、前記位相検出装置で設定された前記溶接開始位置に基づいて前記溶接装置において該溶接装置の溶接部に前記溶接開始位置を位置決めする、
ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の加工方法。
【請求項4】
前記振れ測定工程は、
予め設定された許容振れ量判定データに基づいて、前記第1部材の最大振れが許容振れ量の範囲内にあるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94783(P2013−94783A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236655(P2011−236655)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】