説明

被着体の剥離方法、及び、該被着体の剥離方法に使用される加熱剥離型粘着シート

【課題】 本発明は、任意の被着体を、より迅速に、且つ、選択的に剥離、回収することができる被着体の剥離方法、及び、被着体の剥離方法に使用する加熱剥離型粘着シートを提供する。
【解決手段】 本発明の被着体の剥離方法は、発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着体のうち一部の被着体を選択的に剥離する方法であって、発泡剤の一部を膨張又は発泡させて、粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させる第1加熱工程と、粘着力を消失させて被着体を選択的に剥離する第2加熱工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の被着体を、より迅速に、且つ、選択的に剥離、回収することができる被着体の剥離方法、及び、被着体の剥離方法に使用する加熱剥離型粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素等を材料とする半導体ウェハは、大径の状態で製造された後、所定量の厚さになるように裏面研削(バックグラインド)を施し、更に、必要に応じて裏面処理(エッチング、ポリッシング等)を施し、切断加工(ダイシング)することにより半導体チップが製造される。より詳細には、半導体ウェハの裏面に仮固定用粘着シートが貼着され(マウント工程)、素子小片(チップ)に切断分離(ダイシング工程)され、続いて、洗浄工程、エキスパンド工程を経て、ピックアップ工程により仮固定用粘着シートから半導体チップが剥離、回収されて半導体チップ製造工程が終了する。半導体チップ製造工程において、仮固定用粘着シートにより半導体ウェハを接着固定することで、欠けが発生したり(チッピング)、チップが飛び散ることを抑制することができ、且つ、半導体ウェハが破損することを抑制することができる。
【0003】
半導体チップを仮固定用粘着シートから剥離する方法としては、特開平11−3875号公報等に、基材を収縮させて半導体チップを仮固定用粘着シートから剥離する方法が記載されている。しかし、この方法では仮固定用粘着シートの粘着力を消失するのは難しい。また、基材が収縮する際、基材の縦と横を同率に収縮させるのは難しく、そのため、半導体チップが、位置ズレを起こし、隣接する半導体チップに接触し、破損する場合があった。
【0004】
そこで、各種分野において使用されている熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着剤層を備えた加熱剥離型粘着シート(例えば、商品名「リバアルファ」、「リバクリーン」、日東電工(株)社製)が使用されている。加熱剥離型粘着シートによれば、半導体ウェハを仮固定して、切断加工を施すことができると共に、切断加工後は、加熱することにより、熱膨張性微小球を膨張させて粘着力を低下、又は、消失させて半導体チップを剥離することができる。
【0005】
このような加熱剥離型粘着シートでは、被着体と加熱剥離型粘着シートとを剥離させる際、通常、被着体が貼着している全面に加熱処理を施して被着体すべてを一度に剥離させるのであるが、最近、加熱剥離する際、加熱剥離型粘着シートに貼着している複数個の被着体のうち一部の被着体のみを剥離し、残りは加熱剥離型粘着シートに貼着した状態を保持したいという要求が増えている。なぜなら、半導体ウエハーのダイシング工程において、ダイシング加工後、複数個の半導体チップを保持している加熱剥離型粘着シートを加熱して半導体チップを剥離させる際、複数個の半導体チップを一度に剥離すると、剥離後の半導体チップを移動させる際に生じる振動によって、半導体チップ同士が接触して破損するなどの問題が生じたためである。
【0006】
そこで、複数個の半導体チップが貼着した加熱剥離型粘着シートを部分的に加熱して、複数個の半導体チップのうち、任意の半導体チップのみを選択的に剥離するという方法が採用されたが(特願文献1参照)、半導体チップを剥離、回収するのに多くの時間がかかり、生産性が低下する結果となった。近年、半導体チップの大きさは、ますます小型化する傾向にあり、一度に大量の半導体チップを切断加工することが可能となっているため、半導体チップの剥離、回収に要する時間が律速段階となり、生産性の向上を図る上で、如何に迅速に回収できるかが課題となっている。すなわち、任意の半導体チップを選択的に、且つ、より迅速に剥離、回収することができる剥離方法及びその剥離方法に使用される粘着シートが見いだせていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2002-322436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、加熱により粘着シートから被着体を剥離する際に、複数個の被着体のうち所望する一部の被着体のみを選択的に、且つ、より迅速に剥離することができ、残りの被着体は粘着シートに貼着した状態を保持することができる被着体の剥離方法、及び、被着体の剥離方法に使用する粘着シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、被着体加工時は粘着シートから被着体を脱落させることなく保持することができ、加工後には被着体に損傷や位置ずれを生じることなく、該粘着シートから複数個の被着体のうち所望する一部の被着体を選択的に、且つ、より迅速に剥離することができる被着体の剥離方法、及び、被着体の剥離方法に使用する粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートを被着体の仮固定用粘着シートとして使用し、被着体の切断加工後は、2段階の加熱工程を設け、第1加熱工程において、加熱剥離型粘着シートのうち、少なくとも剥離すべき被着体の貼着部位を含む領域を加熱し、発泡剤の一部を膨張又は発泡させて、当該貼着部位の粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させて、第2加熱工程において、加熱剥離型粘着シートのうち前記剥離すべき被着体の貼着部位のみを更に加熱し、残りの発泡剤を膨張又は発泡させて当該貼着部位の粘着力を消失させることで、任意の被着体を選択的に、且つ、より迅速に剥離、回収することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、基材の少なくとも一方の面に発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着体のうち一部の被着体を選択的に剥離する方法であって、加熱剥離型粘着シートのうち、少なくとも剥離すべき被着体の貼着部位を含む領域を加熱し、発泡剤の一部を膨張又は発泡させて、当該貼着部位の粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させる第1加熱工程と、加熱剥離型粘着シートのうち前記剥離すべき被着体の貼着部位を更に加熱し、残りの発泡剤を膨張又は発泡させ、当該貼着部位の粘着力を消失させて被着体を選択的に剥離する第2加熱工程とを含む被着体の剥離方法を提供する。
【0011】
前記被着体の剥離方法について、第1加熱工程において加熱することで、加熱剥離型粘着シートのうち、剥離すべき被着体の貼着部位における粘着力(JIS Z 0237に準拠)を加熱前の粘着力の10〜35%とすることが好ましく、第2加熱工程において、剥離すべき被着体の形状に対応して加熱することが可能な加熱手段により加熱することが好ましい。
【0012】
また、前記複数個の被着体が、加熱剥離型粘着シートに貼着した被着体を切断して個片化した複数個の切断片であることが好ましい。
【0013】
前記発泡剤は、熱膨張性微小球であることが好ましく、更に、膨張又は発泡開始温度の異なる2種類以上の熱膨張性微小球であることが好ましい。
【0014】
更にまた、前記被着体の剥離方法に使用される加熱剥離型粘着シートであって、第1加熱工程で膨張又は発泡する熱膨張性微小球と、第2加熱工程で膨張又は発泡する熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着剤層を有する粘着シートを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の被着体の剥離方法によれば、被着体に粘着シートを貼着して被着体の切断加工をした後に、まず、粘着シートのうち、剥離すべき被着体切断片の貼着部位を含む領域を第1加熱し、続いて剥離すべき被着体切断片の貼着部位のみを第2加熱することにより、個片化した被着体切断片を選択的に剥離することができ、その他の被着体切断片は、粘着シートに貼着した状態を保持することができる。その上、第1加熱工程により粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させるため、第2加熱工程では短時間加熱することで被着体の切断片を剥離することができ、個片化した被着体の切断片1つ1つの剥離に要する時間を短縮することができる。更に、第1加熱により被着体の貼着が維持されるため、剥離した被着体切断片同士が位置ズレを起こして接触し、破損するということを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を、必要に応じて図面を参照しつつ、詳細に説明する。図1は、本発明の粘着シートの一例を示す概略断面図であり、図2は、本発明の被着体の剥離方法の一例を示す側面図である。
【0017】
本発明の粘着シートは、基材層の少なくとも一方の面に発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートであり、更に、必要に応じて、ゴム状有機弾性層、下塗り層や接着剤層などのその他の層を有していてもよい。また、本発明の粘着シートは、使用までの間、粘着剤層面にセパレータ(剥離ライナー)が貼着され、保護されていてもよい。
【0018】
図1の例では、本発明の粘着シート5は、基材層1上に、ゴム状有機弾性層2を介して熱膨張性粘着剤層3が設けられ、さらに熱膨張性粘着剤層3上にセパレータ4が積層された構成を有する。
【0019】
図2の例では、本発明の粘着シート5は、固定リング9で固定され、粘着シート5上に被着体6が貼着されている。粘着シート5は、下方から加熱部7で部分的に加熱され、加熱膨張した粘着シート部分5aから剥離した被着体6aは吸着ノズル8で回収される。
【0020】
[粘着シート]
本発明に係る粘着シートは、基材層の少なくとも一方の面に、発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートであり、発泡剤としては、良好な剥離性を安定して発現させることができる点で、熱膨張性微小球が好ましい。
【0021】
[熱膨張性粘着剤層]
一般的に、熱膨張性粘着剤層は、加熱する前は強接着力を有し、加熱することにより、含有する発泡剤が膨張又は発泡し、熱膨張性粘着剤層自体が三次元的に構造変化することにより、被着体と熱膨張性粘着剤層の接着面積が減少し、粘着力が急激に低下する。これにより、熱膨張性粘着剤層を有する粘着シートにおいては、強接着性と易剥離性の相反する性質を併せ持つことが可能となる。本発明に係る熱膨張性粘着剤層においては、2段階の加熱工程により段階的に粘着力を低下、消失させることを特徴とし、第1加熱工程により粘着力が被着体の貼着が維持される範囲で低下し、その後、第2加熱工程により粘着力が消失することを特徴とする。
【0022】
また、第1加熱工程においては、加熱することで、熱膨張性粘着剤層の粘着力(JIS Z 0237に準拠)が加熱前の粘着力の10〜35%に低下することが好ましい。
【0023】
本発明の熱膨張性粘着剤層は粘着シートの表層(最表層)に位置することが好ましいが、表層以外の内層に位置していてもよい。その場合には、熱膨張性微小球を含有しており、且つ、シートの最表層に熱剥離性を与える役割を有する層であれば、本発明の熱膨張性粘着剤層とする。
【0024】
熱膨張性粘着剤層を構成する粘着剤としては、加熱時に熱膨張性微小球の膨張又は発泡を可及的に拘束しないものが好ましい。該粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、スチレン−ジエンブロック共重合体系粘着剤、これらの粘着剤に融点が約200℃以下の熱溶融性樹脂を配合したクリ−プ特性改良型粘着剤などの公知の粘着剤を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる(例えば、特開昭56−61468号公報、特開昭63−30205号公報、特開昭63−17981号公報等参照)。粘着剤は、粘着性成分(ベースポリマー)のほかに、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート、アルキルエーテル化メラミン化合物など)、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂など)、可塑剤、充填剤、老化防止剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
一般には、前記粘着剤として、天然ゴムや各種の合成ゴムをベースポリマーとしたゴム系粘着剤;(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、イソデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、ペンタデシルエステル、ヘキサデシルエステル、ヘプタデシルエステル、オクタデシルエステル、ノナデシルエステル、エイコシルエステルなどのC1-20アルキルエステルなど)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系重合体(単独重合体又は共重合体)をベースポリマーとするアクリル系粘着剤などが用いられる。
【0026】
なお、前記アクリル系重合体は、凝集力、耐熱性、架橋性などの改質を目的として、必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体成分に対応する単位を含んでいてもよい。このような単量体成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イコタン酸などの酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルメタクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミドなどの(N−置換)アミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−オクチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクルロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N−ビニルカルボン酸アミド類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレートモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどの複素環、ハロゲン原子、ケイ素原子などを有するアクリル酸エステル系モノマー;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどの多官能モノマー;イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;ビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー等が挙げられる。これらの単量体成分は1種又は2種以上使用できる。
【0027】
なお、加熱処理前の適度な接着力と加熱処理後の接着力の低下性のバランスの点から、より好ましい粘着剤は、動的弾性率が常温から150℃において5千〜100万Paの範
囲にあるポリマーをベースとした感圧接着剤である。
【0028】
本発明に係る熱膨張性粘着剤層において、2段階の加熱工程により段階的に粘着力を低下、消失させる方法としては、例えば、膨張又は発泡開始温度に幅がある熱膨張性微小球を使用する方法や、膨張又は発泡開始温度の異なる熱膨張性微小球を2種類以上使用する方法などが挙げられる。
【0029】
本発明の熱膨張性粘着剤層に用いられる熱膨張性微小球としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの加熱により容易にガス化して膨張する物質を、弾性を有する殻内に内包させた微小球であればよい。前記殻は、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質で形成される場合が多い。前記殻を形成する物質として、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホンなどが挙げられる。熱膨張性微小球は、慣用の方法、例えば、コアセルベーション法、界面重合法などにより製造できる。なお、熱膨張性微小球には、例えば、松本油脂製薬(株)製、商品名「マイクロスフェアー F30D、F50D」や日本フィライト(株)製、商品名「エクスパンセル 461−40DU」などの市販品を使用することも可能である。
【0030】
熱膨張性微小球の膨張又は発泡開始温度は、熱膨張性微小球の種類や粒径分布を調整することなどによって適宜制御することができる。例えば、広い粒径分布を有する熱膨張性微小球を使用することにより、膨張又は発泡開始温度に幅を設けることができ、熱膨張性微小球を分級し、シャープな粒径分布を有する熱膨張性微小球を使用することにより、膨張又は発泡開始温度の幅を狭くすることができる。分級方法としては、公知の方法を用いることができ、乾式・湿式のいずれの方法を用いてもよく、分級装置としては、例えば、重力分級機、慣性分級機、遠心分級機など公知の分級装置を用いることが可能である。
【0031】
本発明に係る熱膨張性粘着剤層においては、なかでも、膨張又は発泡開始温度の異なる熱膨張性微小球を2種類以上使用することが好ましい。膨張又は発泡開始温度の異なる熱膨張性微小球を2種類以上使用すると、まず、第1加熱工程において、より低い温度で加熱することにより、より低い温度で膨張又は発泡する熱膨張性微小球のみを膨張又は発泡させて、加熱前の粘着力の10〜35%に低下させ、その後、第2加熱工程において、より高温で加熱することにより、より高い温度で膨張又は発泡する熱膨張性微小球も膨張又は発泡させて、粘着力を消失させることができ、温度を調節することにより、容易に粘着力をコントロールすることができる。
【0032】
さらに、加熱により、含有する2種類以上の熱膨張性微小球が全て同時に膨張又は発泡しないように、膨張又は発泡開始温度の幅が狭い熱膨張性微小球を使用し、熱膨張性微小球の膨張又は発泡開始温度が10度以上、好ましくは20度以上、さらに好ましくは25度以上異なる熱膨張性微小球を2種類以上組み合わせて使用することが好ましい。なお、本発明において、熱膨張性微小球の膨張又は発泡開始温度とは、熱分析装置(商品名「TMA SS6100」、SIIナノテクノロジー社製)を使用し、熱膨張性微小球単体を膨張法(荷重:19.6N、プローブ:3mmφ)により測定したときの熱膨張性微小球の膨張又は発泡が開始した温度である。
【0033】
また、加熱処理により熱膨張性粘着剤層の粘着力を効率よく低下させるため、体積膨張率が5倍以上、なかでも7倍以上、特に10倍以上となるまで破裂しない適度な強度を有する熱膨張性微小球が好ましい。
【0034】
膨張又は発泡開始温度の異なる熱膨張性微小球としては、第1加熱工程により膨張又は発泡する熱膨張性微小球と、第2加熱工程により膨張又は発泡する熱膨張性微小球を含有することが好ましい。2種類以上の熱膨張性微小球の配合比としては、第1加熱工程による粘着力の低下率などにより調整することができ、例えば、より低い温度で膨張又は発泡を開始する熱膨張性微小球の配合量は熱膨張性微小球全体量に対して、10〜70%程度、好ましくは、15〜55%程度である。
【0035】
熱膨張性微小球の配合量は、熱膨張性粘着剤層の膨張倍率や粘着力の低下性などに応じて適宜設定し得るが、一般には熱膨張性粘着剤層を形成するベースポリマー(例えば、アクリル系の粘着剤である場合にはアクリルポリマー)100重量部に対して、例えば1〜150重量部、好ましくは25〜100重量部である。上記熱膨張性微小球の配合量が1重量部未満では、十分な易剥離性を発揮することができない場合があり、一方、配合量が150重量部を超えると、熱膨張性粘着剤層表面の平滑性が失われ、接着性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の熱膨張性粘着剤層の熱膨張開始温度は、含有する熱膨張性微小球により調整することができ、被着体に使用されている部材の耐熱性などに応じて適宜決定され、特に限定するものではないが、一般的には、70〜170℃、好ましくは75〜160℃である。熱膨張開始温度が70℃未満では、例えば半導体ウェハの仮固定用粘着シートとして使用する場合において、半導体ウェハの切断加工時に高温環境に曝された場合に、熱膨張性粘着剤層に熱膨張が生じて粘着力が低下し、半導体ウェハが仮固定用粘着シートから剥離するなど高温環境における接着信頼性が低下する場合がある。一方、熱膨張開始温度が170℃を超えると、仮固定用粘着シートから半導体ウェハを剥離する際に高い温度をかける必要が生じるため、半導体ウェハが熱により変形するなどして、破損する場合がある。
【0037】
熱膨張性粘着剤層は、例えば、必要に応じて溶媒を用いて粘着剤、熱膨張性微小球を含むコーティング液を調製し、これを基材層またはゴム状有機弾性層上に塗布する方法(ドライコーティング法)、適当なセパレータ(剥離紙など)上に前記コーティング剤を塗布して熱膨張性粘着剤層を形成し、これを基材層またはゴム状有機弾性層上に転写(移着)する方法(ドライラミネート法)、基材層の構成材料を含む樹脂組成物と前記熱膨張性粘着剤層形成材を含む樹脂組成物とを共押出しする方法(共押出法)などの適宜な方法で行うことができる。なお、熱膨張性粘着剤層は単層、複層の何れであってもよい。
【0038】
熱膨張性粘着剤層の厚さは、例えば、5〜300μm、好ましくは20〜150μm程度であり、且つ、熱膨張性粘着剤層の厚さは、含有する熱膨張性微小球の最大粒径よりも厚いことが好ましい。厚さが300μmを超えると、被着体を粘着シートから剥離する際に凝集破壊が生じて、被着体に糊残りが発生する場合がある。一方、厚さが5μmを下回ると、加熱処理による熱膨張性粘着剤層の変形度が小さく、粘着力が円滑に低下しにくくなり、添加する熱膨張性微小球の粒径を過度に小さくする必要が生じる場合がある。
【0039】
[基材層]
本発明の粘着シートは、粘着シートの強度母体としての役割を有する基材層を有する。基材層を構成する基材としては、特に限定されず、各種基材を用いることが可能であり、例えば、布、不織布、フェルト、ネットなどの繊維系基材;各種の紙などの紙系基材;金属箔、金属板などの金属系基材;各種樹脂によるフィルムやシートなどのプラスチック系基材;ゴムシートなどのゴム系基材;発泡シートなどの発泡体や、これらの積層体等の適宜な薄葉体を用いることができる。上記プラスチック系基材の材質又は素材としては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートなど)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体など)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、セルロース類、フッ素系樹脂、ポリエーテル、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。なお、基材層は単層の形態を有していてもよく、また、複層の形態を有していてもよい。
【0040】
基材層の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、500μm以下、好ましくは5〜250μm程度である。
【0041】
基材層の製膜方法としては、公知慣用の方法を採用することができ、例えば、カレンダー製膜、キャスティング製膜、インフレーション押し出し、Tダイ押し出し等を好適に用いることができる。
【0042】
また、基材層の表面には、必要に応じて、隣接する層(例えば、ゴム状有機弾性層など)との密着性を高めるため、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的方法による酸化処理等が施されていてもよい。
【0043】
[ゴム状有機弾性層]
本発明の粘着シートには、例えば、基材層と熱膨張性粘着剤層との間に、ゴム状有機弾性層を設けてもよい。ゴム状有機弾性層は、粘着シートを被着体に貼着する際に、粘着シートの表面を被着体の表面形状に良好に追従させて、接着面積を大きくするという機能と、被着体を粘着シートから剥離する際に、熱膨張性粘着剤層の膨張に対する拘束を少なくして、熱膨張性粘着剤層が三次元的構造変化することによるうねり構造の形成を助長する機能を有する。
【0044】
ゴム状有機弾性層は、上記機能を具備させるため、例えば、ASTM D−2240に基づくD型シュアーD型硬度が、50以下、特に40以下の天然ゴム、合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂により形成することが好ましい。
【0045】
前記合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂としては、例えば、ニトリル系、ジエン系、アクリル系などの合成ゴム;ポリオレフィン系、ポリエステル系などの熱可塑性エラストマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリブタジエン、軟質ポリ塩化ビニルなどのゴム弾性を有する合成樹脂などが挙げられる。なお、ポリ塩化ビニルなどのように本質的には硬質系のポリマーは、可塑剤や柔軟剤等の配合剤との組み合わせによりゴム弾性が発現し得るため、このような組成物も、前記ゴム状有機弾性層の構成材料として使用できる。また、前述の熱膨張性粘着剤層を構成する粘着剤等の粘着性物質などもゴム状有機弾性層の構成材料として好ましく使用することができる。また、ゴム状有機弾性層は、前記天然ゴム、合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂のほかに、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート、アルキルエーテル化メラミン化合物など)、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂など)、可塑剤、充填剤、老化防止剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
また、ゴム状有機弾性層は、天然ゴムや合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂を主体とする発泡フィルム等で形成されていてもよい。発泡は、慣用の方法、例えば、機械的な攪拌による方法、反応生成ガスを利用する方法、発泡剤を使用する方法、可溶性物質を除去する方法、スプレーによる方法、シンタクチックフォームを形成する方法、焼結法などにより行うことができる。
【0047】
ゴム状有機弾性層の厚さは、一般的には5〜300μm、好ましくは20〜150μm程度である。厚さが、5μmを下回ると、加熱により熱膨張性粘着剤層が三次元的構造変化することによるうねり構造の形成を阻害することとなり、一方、厚さが300μmを上回ると、不経済であり、取扱性にも劣るため好ましくない。
【0048】
ゴム状有機弾性層の形成は、例えば、前記天然ゴム、合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂などのゴム状有機弾性層形成材を含むコーティング剤を、基材層上又は熱膨張性粘着剤層上に塗布する方法(ドライコーティング法)、適当なセパレータ(剥離紙など)上に前記コーティング剤を塗布してゴム状有機弾性層を形成し、これを基材層上又は熱膨張性粘着剤層上に転写(移着)する方法(ドライラミネート法)、基材層の構成材料を含む樹脂組成物と前記コーティング剤とを共押出しする方法(共押出法)などの適宜な方法で行うことができる。なお、ゴム状有機弾性層は単層、複層の何れであってもよい。
【0049】
[粘着シート]
本発明の粘着シートは、基材の少なくとも一方の面に、発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートであり、上記基材層、及び、ゴム状有機弾性層を有していることが好ましい。また、更に、下塗り層や接着剤層などのその他の層を有していてもよい。
【0050】
また、本発明の粘着シートは、ロール状に巻回された形態で形成されていてもよく、シートが積層された形態で形成されていてもよい。すなわち、粘着シートは、シート状、テープ状などの形態を有することができる。なお、ロール状に巻回された状態又は形態の粘着シートとしては、熱膨張性粘着剤層面をセパレータにより保護した状態でロール状に巻回された状態又は形態を有していてもよく、熱膨張性粘着剤層面を基材の他方の面に形成された剥離処理層(背面処理層)により保護した状態でロール状に巻回された状態又は形態を有していてもよい。
【0051】
本発明の粘着シートによれば、被着体に貼着する場面では柔軟性を有するため、被着体への貼り合わせが容易であり、且つ、被着体に対して十分な粘着力を有する。そして、被着体を切断加工した後、個片化した被着体切断片を剥離する場面では、2段階の加熱工程を設けることにより、選択的に、且つ、より迅速に個片化した被着体切断片を剥離することができる。具体的には、個片化した被着体切断片を剥離する工程において、まず、第1加熱工程で、粘着シートのうち、剥離すべき被着体切断片の貼着部位を含む領域を加熱して粘着力を被着体の貼着を維持できる範囲(例えば、加熱前の粘着力の10〜35%程度)で低下させ、続いて、第2加熱工程を設けるため、第2加熱工程においては、短時間の加熱で粘着力を消失させることができる。そして、第2加熱工程で、粘着シートのうち、剥離すべき被着体の貼着部位のみを加熱することにより、その他の部分へ熱が伝達することなく、剥離すべき被着体のみを剥離することができ、その他の部分は、粘着シートに貼着した状態を保持することができる。従って、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素等を材料とする半導体ウェハ等の被着体にダイシング用粘着シートとして貼り合わされた後(マウント工程)、半導体ウェハを素子小片に切断分離(ダイシング)し、続いて、洗浄工程、エキスパンド工程、被着体をピックアップする工程等の各工程を経てチップ化する際に好適に使用することができ、半導体チップ1つ1つの加熱剥離に要する時間が従来と比較して著しく短縮されるため、作業効率を著しく向上させることができる。
【0052】
[セパレータ]
本発明の粘着シートには、熱膨張性粘着剤層表面の保護、ブロッキング防止の観点などから、熱膨張性粘着剤層表面にセパレータ(剥離ライナー)が設けられていてもよい。セパレータは粘着シートを被着体に貼着する際に剥がされるものである。用いられるセパレータとしては、特に限定されず、公知慣用の剥離紙などを使用できる。例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン系等の剥離剤により表面処理されたプラスチックフィルムや紙等の剥離層を有する基材;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系ポリマーからなる低接着性基材;オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)等の無極性ポリマーからなる低接着性基材などを用いることができる。
【0053】
[被着体の剥離方法]
本発明に係る被着体の剥離方法は、被着体を切断加工する際に被着体を保護するための仮固定用シートを貼着した被着体について、切断加工後に、切断加工により個片化した被着体切断片を剥離する工程に使用される方法である。本発明に係る被着体の剥離方法は、基材の少なくとも一方の面に発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型の粘着シートに貼着した複数個の被着体のうち一部の被着体を選択的に剥離する方法であって、粘着シートのうち、少なくとも剥離すべき被着体の貼着部位を含む領域を加熱し、発泡剤の一部を膨張又は発泡させて、当該貼着部位の粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させる第1加熱工程と、粘着シートのうち前記剥離すべき被着体の貼着部位を更に加熱し、残りの発泡剤を膨張又は発泡させ、当該貼着部位の粘着力を消失させて被着体を選択的に剥離する第2加熱工程とを含むことを特徴とする。
【0054】
本発明において、被着体とは、粘着シートに貼着させて切断加工などの種々の加工を施した後、粘着シートから剥離されるものであればよく、なかでも、粘着シートに貼着した後に切断して得られた、個片化した複数個の切断片であることが好ましい。具体的には、半導体ウエハ(シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素等を材料とする半導体ウェハ)を粘着シートに貼着し、切断加工して得られた半導体チップ等が挙げられる。
【0055】
前記第1加熱工程においては、加熱することで、粘着シートのうち剥離すべき被着体の貼着部位における粘着力(JIS Z 0237に準拠)を加熱前の粘着力の10〜35%とすることが好ましい。第1加熱工程において加熱することにより粘着力が加熱前の粘着力の10%を下回ると、被着体の貼着を維持することができない場合があり、剥離した被着体同士が接触して、破損する場合がある。一方、粘着力が加熱前の粘着力の35%を上回ると、第2加熱工程により、粘着力を消失するまでに長時間の加熱を要し、被着体を迅速に剥離することができない場合がある。
【0056】
前記第2加熱工程においては、剥離すべき被着体の形状に対応して加熱することが可能な加熱手段により粘着シートを加熱して、残りの発泡剤を膨張又は発泡させ、粘着シートのうち、前記被着体の貼着部位の粘着力を消失させることが好ましい。前記加熱手段の形状が、剥離すべき被着体の形状より大きいと、粘着シートのうち剥離すべき被着体の貼着部位を加熱する際に剥離すべき被着体以外の被着体の貼着部位も加熱される場合がある。その場合、剥離すべき被着体と一緒に、その他の被着体が剥離して、剥離した被着体同士が接触し、破損する場合がある。一方、前記加熱手段の形状が、剥離すべき被着体の形状より小さいと、粘着シートのうち剥離すべき被着体の貼着部位の全体を加熱することができず、該貼着部位の粘着力を完全に消失させることができないため、被着体を剥離することができない場合がある。
【0057】
本発明に係る粘着シートの剥離方法において採用される加熱方式としては、本発明に係る粘着シートを加熱することにより粘着力を低下、消失させることができればよく、例えば、電熱ヒーター、誘電加熱、磁気加熱、近赤外線、中赤外線、遠赤外線などの電磁波による加熱方式等を採用することができる。
【0058】
前記第1加熱工程における加熱手段としては、粘着シートのうち、剥離すべき被着体の貼着部位を含む領域を加熱することが可能な加熱手段であれば特に制限されない。また、前記第2加熱工程における剥離すべき被着体の形状に対応して加熱することが可能な加熱手段としては、剥離すべき被着体の貼着部位を加熱することが可能な加熱手段であれば特に制限されないが、なかでも、剥離すべき被着体の形状に対応して加熱することが可能な加熱部を好適に利用することができる。加熱部の材料としては、加熱方式によって適宜選択することができ、例えば、加熱方式として電熱ヒーターを使用する場合、加熱部には熱伝導率の高い材料(例えば金属材料)と、断熱材(例えばアスベスト)などで構成することができる。また、加熱部と被着体との密着性を高める目的で、ゴムなどの弾性体を組み合わせて使用することができる。加熱部を、金属材料と断熱材とゴム等の弾性体(熱伝導性弾性体)との組み合わせで構成すると、粘着シートの熱膨張性粘着剤層をより早く膨張させて被着体を剥離することができる。加熱部の形状や大きさは、剥離すべき被着体の形状に応じて適宜設計することができる。
【0059】
加熱方法としては、本発明に係る粘着シートから個片化された被着体切断片を剥離する際に、被着体を破損しないように剥離することができればよく、例えば、粘着シート面もしくは被着体面の一方から加熱してもよく、また、粘着シート面及び被着体面の両面から加熱してもよい、更に、粘着シート面及び被着体面の両面から加熱する場合は、粘着シート面及び被着体面の両面を同時に加熱してもよく、同時に加熱しなくてもよい。また、第1加熱工程における加熱方法としては、粘着シートのうち、少なくとも剥離すべき被着体の貼着部位を加熱できればよく、例えば、粘着シート全体を均一に加熱してもよく、粘着シートを部分的に加熱してもよい。
【0060】
また、本発明に係る粘着シートは、2段階加熱工程を設けることにより段階的に粘着力を低下、消失させることができ、第1加熱工程で粘着シートの粘着力を加熱前の粘着力の10〜35%に低下させることで、第2加熱工程において、極めて短時間の加熱で粘着シートの粘着力を消失させることができる。本発明における加熱時間としては、含有する熱膨張性微小球の含有量や、粘着力の低下率等により、適宜調整することができ、例えば、第1加熱工程において30〜120秒間、第2加熱工程において0.1〜2.0秒間程度である。
【0061】
加熱温度としては、第1加熱工程においては、被着体の貼付が維持される範囲で粘着力を低下することができればよく、第2加熱工程においては、粘着力を消失させることができればよい。例えば、膨張又は発泡開始温度が異なる2種以上の熱膨張性微小球を含有する粘着シートを使用する場合、第1加熱工程において、より低温で膨張又は発泡を開始する熱膨張性微小球が膨張又は発泡を開始する温度(例えば、70〜120℃程度)で加熱して、第2加熱工程において、残りの熱膨張性微小球も膨張又は発泡を開始する温度(例えば、120〜150℃程度)で加熱してもよい。
【0062】
2段階の加熱工程を経て、切断加工により個片化された被着体切断片が粘着シートから剥離した後は、例えば、吸着ノズルによって被着体切断片を吸引して回収することができる。本発明に係る剥離方法によれば、被着体を、破損、もしくは、汚染することなく、選択的に、且つ、より迅速に剥離することができる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0064】
実施例1
アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸エチル/メチルメタアクリレート(30重量部/70重量部/5重量部)共重合体100重量部、イソシアネート系架橋剤1重量部をトルエンに溶解し、ポリマー溶液1aを得た。
【0065】
得られたポリマー溶液1aを厚さ100μmのポリエステルフィルムに乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布、乾燥し、ゴム状有機弾性層1を得た。
【0066】
次に、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸エチル/メチルメタアクリレート(30重量部/70重量部/5重量部)共重合体100重量部、イソシアネート系架橋剤2重量部、熱膨張性微小球A(商品名「マツモトマイクロスフィアーF−30D」、松本油脂製薬社製:膨張又は発泡開始温度約80℃)15重量部、熱膨張性微小球B(商品名「マツモトマイクロスフィアーF−50D」、松本油脂製薬社製:膨張又は発泡開始温度約100℃)15重量部をトルエンに溶解し、ポリマー溶液1bを得た。
【0067】
得られたポリマー溶液1bをセパレータ上に乾燥後の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥し、熱膨張性粘着剤層1を得た。得られた熱膨張性粘着剤層1を前記ゴム状有機弾性層1上に積層し、粘着シート1を得た。
【0068】
実施例2
実施例1と同様にして、ゴム状有機弾性層1を得た。
【0069】
次に、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸エチル/メチルメタアクリレート(30重量部/70重量部/5重量部)共重合体100重量部、イソシアネート系架橋剤2重量部、熱膨張性微小球A(商品名「マツモトマイクロスフィアーF−30D」、松本油脂製薬社製:膨張又は発泡開始温度約80℃)6重量部、熱膨張性微小球B(商品名「マツモトマイクロスフィアーF−50D」、松本油脂製薬社製:膨張又は発泡開始温度約100℃)24重量部をトルエンに溶解し、ポリマー溶液2bを得た。
【0070】
得られたポリマー溶液2bをセパレータ上に乾燥後の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥し、熱膨張性粘着剤層2を得た。得られた熱膨張性粘着剤層2を前記ゴム状有機弾性層1上に積層し、粘着シート2を得た。
【0071】
比較例1
実施例1と同様にして、ゴム状有機弾性層1を得た。
【0072】
次に、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸エチル/メチルメタアクリレート(30重量部/70重量部/5重量部)共重合体100重量部、イソシアネート系架橋剤2重量部、熱膨張性微小球B(商品名「マツモトマイクロスフィアーF−50D」、松本油脂製薬社製:膨張又は発泡開始温度約100℃)30重量部をトルエンに溶解し、ポリマー溶液3bを得た。
【0073】
得られたポリマー溶液3bをセパレータ上に乾燥後の厚さが30μmとなるように塗布、乾燥し、熱膨張性粘着剤層3を得た。得られた熱膨張性粘着剤層3を前記ゴム状有機弾性層1上に積層し、粘着シート3を得た。
【0074】
上記実施例及び比較例において得られた粘着シート1〜3について、粘着力、並びに、被着体の剥離性を以下の方法によって評価した。
【0075】
[粘着シートの粘着力の測定方法]
実施例、比較例において得られた粘着シートを幅20mmの大きさに切断し、直径6インチのシリコンウェハ(50μm厚)に気泡なく貼り合わせ、試験体とした。前記試験体を、90℃で1分間加熱し、続いて120℃で10秒間加熱した。加熱前、90℃で1分間加熱後、及び、120℃で10秒間加熱後の各試験体について、JIS Z 0237に準拠し、ピール剥離試験装置の引張り治具を使用して、引張り速度300mm/minで180°方向にシリコンウェハを引張り、シリコンウェハに対する粘着シートの粘着力(N/20mm)を測定した。
【0076】
[被着体の剥離に要する時間の測定方法]
実施例、比較例において得られた粘着シートの熱膨張性粘着剤層面に、直径6インチのシリコンウェハ(50μm厚)に気泡なく貼り合わせて、該シリコンウェハを3mm角に切断加工した。次に、切断加工により得られた複数個のシリコンウェハ切断片が粘着シートに貼着した状態で、予め90℃に温めたガラス板とホットプレートの間に挟んで90℃で1分間加熱した(第1加熱工程)。続いて、剥離すべきシリコンウェハ切断片に、120℃に加熱した加熱部を粘着シート背面から押圧し(第2加熱工程)、吸着ノズルでシリコンウェハ切断片を吸引して回収し、120℃に加熱した加熱部を押圧し始めてから吸着ノズルによりシリコンウェハ切断片を回収するまでに要した時間を測定した。なお、加熱部としては、電熱ヒーターの先端に、3mm角で厚み2mmの金属板(SUS304)を貼り付け、前記金属板の温度が120℃となるように電熱ヒーターで加熱したものを使用した。
【0077】
上記測定結果について、表1にまとめて示す。
【表1】

【0078】
上記表1より、実施例1及び2で得られた粘着シート1及び2は、膨張又は発泡開始温度が80℃及び100℃の2種類の熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着剤層を有し、膨張及び発泡開始温度が80℃の熱膨張性微小球が、含有する熱膨張性微小球中の10〜70%の範囲内であるため、第1加熱工程において90℃に加熱することにより、粘着力が加熱前の粘着力の約10〜35%に低下し、続いて、第2加熱工程において120℃に加熱することにより粘着力を消失した。また、120℃加熱開始からシリコンウェハ切断片を回収するまでに要した時間は、1.5秒以下であった。一方、比較例で得られた粘着シート3は、膨張又は発泡開始温度が100℃の熱膨張性微小球のみを含有する熱膨張性粘着剤層を有し、第1加熱工程において90℃で加熱することによっては粘着力は低下せず、続いて、第2加熱工程において120℃に加熱することにより粘着力が消失した。また、120℃加熱開始からシリコンウェハ切断片を回収するまでに要した時間は、3.5秒であった。つまり、実施例1及び2で得られた粘着シート1及び2は、加熱する前は十分な粘着力でシリコンウェハに貼着し、シリコンウェハを切断加工した後は、2段階の加熱工程において加熱することにより、剥離すべきシリコンウェハ切断片以外のその他のシリコンウェハ切断片が脱落することなく、所望のシリコンウェハ切断片のみを選択的に、且つ、より迅速に剥離することができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の粘着シートの一例を示す概略断面図である
【図2】本発明の被着体の剥離方法の一例を示す側面図である
【符号の説明】
【0080】
1 基材層
2 ゴム状有機弾性層
3 熱膨張性粘着剤層
4 セパレータ
5 粘着シート
5a 加熱膨張した粘着シート部分
6 被着体
6a 剥離した被着体
7 加熱部
8 吸着ノズル
9 固定リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に発泡剤を含有する熱膨張性粘着剤層を有する加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着体のうち一部の被着体を選択的に剥離する方法であって、加熱剥離型粘着シートのうち、少なくとも剥離すべき被着体の貼着部位を含む領域を加熱し、発泡剤の一部を膨張又は発泡させて、当該貼着部位の粘着力を被着体の貼着が維持される範囲で低下させる第1加熱工程と、加熱剥離型粘着シートのうち前記剥離すべき被着体の貼着部位を更に加熱し、残りの発泡剤を膨張又は発泡させ、当該貼着部位の粘着力を消失させて被着体を選択的に剥離する第2加熱工程とを含む被着体の剥離方法。
【請求項2】
第1加熱工程において加熱することで、加熱剥離型粘着シートのうち、剥離すべき被着体の貼着部位における粘着力(JIS Z 0237に準拠)を加熱前の粘着力の10〜35%とする請求項1に記載の被着体の剥離方法。
【請求項3】
第2加熱工程において、剥離すべき被着体の形状に対応して加熱することが可能な加熱手段により加熱する請求項1又は2に記載の被着体の剥離方法。
【請求項4】
複数個の被着体が、加熱剥離型粘着シートに貼着した被着体を切断して個片化した複数個の切断片である請求項1〜3の何れかの項に記載の被着体の剥離方法。
【請求項5】
発泡剤が、熱膨張性微小球である請求項1〜4の何れかの項に記載の被着体の剥離方法。
【請求項6】
発泡剤が、膨張又は発泡開始温度の異なる2種類以上の熱膨張性微小球である請求項1〜4の何れかの項に記載の被着体の剥離方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の被着体の剥離方法に使用される加熱剥離型粘着シートであって、第1加熱工程で膨張又は発泡する熱膨張性微小球と、第2加熱工程で膨張又は発泡する熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着剤層を有する粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40930(P2009−40930A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209029(P2007−209029)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】