説明

裏面入射型半導体受光素子、光受信モジュール、光トランシーバ

【課題】組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る、裏面入射型半導体受光素子、それを内蔵する光受信モジュールおよび光トランシーバを提供する。
【解決手段】裏面入射型半導体受光素子18は、矩形状のFeドープInP基板1と、基板表面における1辺(上辺)側の中央部に形成された、基板裏面から入射される光を受光するPN接合部を有する受光メサ部2と、受光メサ部2の上面に形成された、PN接合部の一方側に導通するP型電極4と、基板表面における1辺(上辺)側の1隅部に形成されたN型電極メサ部9と、N型電極メサ部9の上面まで引き出された、PN接合の他方側に導通するN型電極5と、基板表面における他の3つの隅部を含む領域に形成されたP型電極メサ部8およびダミー電極メサ部10と、ダミー電極メサ部10の上面に形成されたダミー電極6と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面入射型半導体受光素子、それを内蔵する光受信モジュールおよび光トランシーバに関する。
【背景技術】
【0002】
裏面入射型半導体受光素子は、半導体基板とその半導体基板の表面に形成された受光部とを含み、半導体基板の裏面から入射される光を受光部で受光する光電変換素子である。
【0003】
一般に、裏面入射型半導体受光素子は、半導体基板の裏面から入射する光を受光しやすいように、裏面が上に表面が下になるよう上下逆さにしてたとえばセラミック製のキャリアに搭載される。具体的には、PN接合部を有する受光メサ部の上面に形成されPN接合の一方側に導通する第1導電型の電極(たとえばP型電極)と、基板表面上の受光部が形成された領域とは異なる領域に形成されたメサ部の上面まで引き出されPN接合の他方側に導通する第2導電型の電極(たとえばN型電極)と、が、キャリア表面に形成された2つ電極にそれぞれはんだで接続される。
【0004】
しかし、第1導電型の電極が形成される受光メサ部の上面は、通常、第2導電型の引き出し電極が形成される台座の上面に比べて面積が狭いため、受光メサ部の上面側に集中する圧力によって受光メサ部が破損することがある。
【0005】
この点、特許文献1には、受光メサ部(動作領域)を挟んで第2導電型の電極が形成されたメサ部の反対側に、そのメサ部と同形状のメサ部を形成することにより、配線基板などに熱圧着する際に受光メサ部の上面にかかる圧力を低減し、受光メサ部の破損や素子の接着不足を防ぐようにした半導体受光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−349113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された半導体受光素子は、横長形状の半導体基板の長手方向に沿って3つのメサ部が中央部に一列に形成されているため、取り扱いが難しい。たとえば、このような構造を有する受光素子をキャリアに搭載する場合、コレットで受光素子を真空吸着する際に短手方向のあおりが生じやすいため、組み立て作業性が著しく低下してしまう。
【0008】
ただし、単に半導体基板の縦横比を1対1に近づけると(半導体基板の形状を正方形に近づける)と、受光素子の取り扱いは容易になるものの、今度は光受信モジュール内部に実装する場合にPN接合部から前置増幅回路の接続端子への接続配線長が長くなるため、光送信モジュールの周波数特性が悪化してしまう。
【0009】
図6は、光送信モジュール内部に実装された、正方形状の基板を有する裏面入射型半導体受光素子の一例である裏面入射型半導体受光素子40を示す図である。図6に示す通り、受光素子の取り扱いが容易になるよう裏面入射型半導体受光素子40の半導体基板41の形状を正方形に近づけた場合、それに合わせて受光メサ部42の両側に形成されるメサ部43,44の形状を縦長にすれば受光メサ部42の上面にかかる圧力を低減することはできる。しかし、半導体基板41の中央部に形成された受光メサ部42の上面に形成された信号電圧用電極と前置増幅回路48の信号電圧用端子49とを接続する配線(サブマウント45上に形成された信号電圧用膜状配線46とパターン接続用ワイヤ50)の長さが長くなる。また、メサ部43の上面に形成された引き出し電極とバイアス電源電極51とを接続する配線(サブマウント45上に形成されたバイアス電圧用膜状配線47とパターン接続用ワイヤ52)の長さも若干長くなる。このため、光送信モジュールの周波数特性を悪化してしまう。
【0010】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る、裏面入射型半導体受光素子、それを内蔵する光受信モジュールおよび光トランシーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る裏面入射型半導体受光素子は、矩形状の半導体基板と、前記半導体基板の表面における1辺側の中央部にあって、前記1辺からの距離が前記1辺に隣接する他の2辺の長さの1/2より短い位置に形成された、前記半導体基板の裏面から入射される光を受光するPN接合部を有するメサ状の受光部と、前記受光部の上面に形成された、前記PN接合部の一方側に導通する第1導電型の電極と、前記半導体基板の表面における前記1辺側の1隅部に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する主メサ部と、前記主メサ部の上面まで引き出された、前記PN接合の他方側に導通する第2導電型の電極と、前記半導体基板の表面における他の3つの隅部を含む領域に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する1または複数の副メサ部と、前記副メサ部の上面に形成された電極と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記受光部中心から前記1辺までの距離が0.1mm以下であってもよい。
【0013】
また、前記主メサ部の高さおよび前記副メサ部の高さは、前記受光部の高さ以上であってもよい。
【0014】
また、前記半導体基板の表面における他の3つの隅部を含む領域に複数の副メサ部が形成される場合に、前記複数の副メサ部の1つは、前記半導体基板の表面における前記1辺側の他の1隅部に形成され、該副メサ部の上面まで前記第1導電型の電極が引き出されており、前記複数の副メサ部における他の副メサ部の上面には、前記PN接合部から絶縁されたダミー電極が形成されてもよい。
【0015】
また、本発明に係る光受信モジュールは、矩形状の半導体基板と、前記半導体基板の表面における1辺側の中央部にあって、前記1辺からの距離が前記1辺に隣接する他の2辺の長さの1/2より短い位置に形成された、前記半導体基板の裏面から入射される光を受光するPN接合部を有するメサ状の受光部と、前記受光部の上面に形成された、前記PN接合部の一方側に導通する第1導電型の電極と、前記半導体基板の表面における前記1辺側の1隅部に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する主メサ部と、前記主メサ部の上面まで引き出された、前記PN接合の他方側に導通する第2導電型の電極と、前記半導体基板の表面における他の3つの隅部を含む領域に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する1または複数の副メサ部と、前記副メサ部の上面に形成された電極と、を含む裏面入射型半導体受光素子を内蔵することを特徴とする。
【0016】
また、上記光受信モジュールは、前記裏面入射型半導体受光素子の電気信号出力を増幅する前置増幅回路と、前記第1導電型の電極が接続される信号電圧用配線と、前記第2導電型の電極が接続されるバイアス電圧用配線と、前記副メサ部の上面に形成された電極が接続される配線と、が形成された、前記裏面入射型半導体受光素子をその表面側から保持する保持部材と、を含み、前記保持部材の上面は前記前置増幅回路の近傍に位置し、前記保持部材の上面の高さと前記前置増幅回路の上面の高さとが略同一であり、前記信号電圧用配線のうち前記保持部材の上面まで延伸した部分は、前記前置増幅回路の上面に形成された信号電圧用端子に導体ワイヤを介して接続されてもよい。
【0017】
また、上記光受信モジュールにおいて、前記受光部中心から前記信号電圧用端子までの接続配線長が1mm以下であってもよい。
【0018】
また、本発明に係る光トランシーバは、上記光受信モジュールを備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る、裏面入射型半導体受光素子、それを内蔵する光受信モジュールおよび光トランシーバが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子の受光メサ部近傍の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光受信モジュール主要部の斜視図である。
【図4A】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの、接続配線長Lに対する周波数応答特性の計算結果を示す図である。
【図4B】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの、接続配線長Lに対する3dB遮断周波数の計算結果を示す図である。
【図5A】本発明の他の実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子の斜視図である。
【図5B】本発明の他の実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子の斜視図である。
【図5C】本発明の他の実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子の斜視図である。
【図6】従来技術に係る裏面入射型半導体受光素子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子18の斜視図である。裏面入射型半導体受光素子18およびこれを内蔵する光受信モジュールは、たとえば、伝送速度が44.6Gbpsといった高速で信号を伝送する高速・広帯域の光受信器に備えられる。
【0023】
図1に示す通り、裏面入射型半導体受光素子18は、半絶縁性のFeドープInP基板1と、受光メサ部2と、受光領域メサ部3と、P型電極4と、N型電極5と、ダミー電極6と、P型電極メサ部8(副メサ部の1つ)と、N型電極メサ部9(主メサ部)と、ダミー電極メサ部10(副メサ部の1つ)と、を含んで構成される。
【0024】
FeドープInP基板1は、矩形状の半導体基板である。FeドープInP基板1の表面における1辺(ここでは上辺)側の中央部には、受光メサ部2およびそれを含む受光領域メサ部3が形成されている。
【0025】
受光メサ部2は、FeドープInP基板1の裏面から入射される光を受光するPN接合部を有するメサ状の受光部である。
【0026】
FeドープInP基板1の表面における上記1辺(上辺)側の1隅部(ここでは右上隅部)には、P型電極メサ部8が形成されており、他の1隅部(ここでは左上隅部)には、N型電極メサ部9が形成されている。つまり、FeドープInP基板1の表面には、その1辺に沿って、N型電極メサ部9、受光メサ部2(受光領域メサ部3)、およびP型電極メサ部8が形成されている。
【0027】
受光メサ部2の上面には、PN接合部の一方側(ここではP型コンタクト層)に電気的に接続する(導通する)P型電極4が形成されている。なお、本実施形態では、P型電極4が、受光メサ部2の上面からP型電極メサ部8の上面まで引き出されている。また、受光メサ部2のPN接合の他方側(ここではN型コンタクト層)にスルーホール7を介して電気的に接続するN型電極5は、N型電極メサ部9の上面まで引き出されている。
【0028】
FeドープInP基板1の表面は、横長形状ではなく縦横比が1対1に近い形状を有しており、上記1辺(上辺)に隣接する他の2辺(左辺と右辺)は、受光メサ部2とN型電極メサ部9とを含む領域の長手方向の長さより長い。つまり、裏面入射型半導体受光素子18の受光に係る主要な構成要素は、FeドープInP基板1の表面の上記1辺(上辺)側に集中するよう形成されている。これは、裏面入射型半導体受光素子18が光受信モジュールに内蔵される場合に、P型電極4から前置増幅回路上に形成された信号電圧用端子(後述)までの接続配線長が長くなることを防ぐためである。
【0029】
これに対し、上記1辺(上辺)に対向する辺(ここでは下辺)側には、FeドープInP基板1の表面の隅部の一方(左下隅部)と他方(右下隅部)とを含む領域に、ダミー電極メサ部10が形成されている。このダミー電極メサ部10の上面には、受光メサ部2のPN接合部から電気的に独立した(絶縁された)ダミー電極6が形成されている。
【0030】
このように、本実施形態では、P型電極メサ部8およびダミー電極メサ部10を、FeドープInP基板1の表面における、主メサ部であるN型電極メサ部9が形成された隅部(左上隅部)を除く3つの隅部(右上隅部、左下隅部、右下隅部)を含む領域に形成される副メサ部としている。
【0031】
なお、図1に示す通り、FeドープInP基板1の表面の4つの隅部に位置する、P型電極メサ部8、N型電極メサ部9、およびダミー電極メサ部10は、受光メサ部2の上面より広い上面を有している。これは、裏面入射型半導体受光素子18が光受信モジュール内の保持部材に取り付けられる場合に、受光メサ部2の上面に係る圧力を主メサ部および副メサ部の上面に分散させ、受光メサ部2の破損や素子の接着不足を防ぐためである。また、P型電極メサ部8、N型電極メサ部9、およびダミー電極メサ部10は、受光メサ部2の高さ以上(ここでは略同一)の高さを有している。
【0032】
次に、図2を参照して、受光メサ部2近傍の詳細構造および製造プロセスの一例を説明する。図2は、裏面入射型半導体受光素子18の受光メサ部2近傍の断面図である。なお、ここに示す具体的数値は一例に過ぎない。
【0033】
図2に示す通り、半絶縁性のFeドープInP基板1に、分子線エピタキシャル成長法を用いて、順に、不純物濃度5×1018atom/cmで厚さ1μmのn型InPコンタクト層12、不純物濃度3×1017atom/cmで厚さ0.5μmのn型InGaAlAsバッファ層13、不純物濃度2×1015atom/cm以下で厚さ0.8μmのn型InGaAs光吸収層14、不純物濃度3×1017atom/cmで厚さ0.5μmのp型InGaAlAsバッファ層15、不純物濃度5×1019atom/cmで厚さ0.1μmのp型InGaAsコンタクト層16を、形成する。
【0034】
その後、p型InGaAsコンタクト層16の上部に酸化膜のパターニングマスクを形成し、これをマスクとしてp型InGaAsコンタクト層16、p型InGaAlAsバッファ層15、n型InGaAs光吸収層14、n型InGaAlAsバッファ層13、n型InPコンタクト層12、およびがFeドープInP基板1の一部までを非選択性のBr系エッチング液によりエッチングすることにより、受光メサ部2を含む受光領域メサ部3、P型電極メサ部8、N型電極メサ部9、ダミー電極メサ部10を形成する。P型電極メサ部8、N型電極メサ部9は、縦、横とも50μmの正方形、ダミー電極メサ部10は、縦110μm、横220μmの長方形である。
【0035】
次に、受光領域メサ部3のp型InGaAsコンタクト層16の上部で、受光メサ部2を形成する部分に、酸化膜の円形パターニングマスクを形成し、これをマスクとして受光領域メサ部3の、p型InGaAsコンタクト層16、p型InGaAlAsバッファ層15、n型InGaAs光吸収層14、およびn型InGaAlAsバッファ層13をエッチングすることにより、受光メサ部2を形成する。このエッチングは、InGaAlAs系材料に対するエッチングレートがInPに対するエッチングレートより十分大きい選択性のエッチング液、例えば燐酸系のエッチング液を用いることにより、n型InPコンタクト層12の最表面付近でエッチング停止することが可能である。受光メサ部2は直径10μmの円形である。P型電極メサ部8の中心と受光メサ部2の中心間の距離は70μm、N型電極メサ部9の中心と受光メサ部2の中心間の距離は90μmである。
【0036】
円形パターニングマスクを除去した後、表面全体を絶縁性の保護膜11により被膜する。保護膜11は、例えば、厚さ0.2μmのSiN層と厚さ0.3μmのSiO層で構成することが可能であるが、その他の絶縁性材料を適用することも可能である。保護膜11をフォトリソグラフィ技術で加工することによって、n型InPコンタクト層12の一部(スルーホール7)およびp型InGaAsコンタクト層16の一部を露出し、n型InPコンタクト層12に接続するN型電極5、p型InGaAsコンタクト層16に接続するP型電極4、およびダミー電極6を形成する。これら電極は、蒸着法で堆積した膜厚0.5μmのTi/Pt/Au膜(本明細書において、”/”は、基板に近い側、基板に遠い側の順に、配置されていることを記している)を、フォトリソグラフィ技術でパターニングすることによって、形成される。なお、p型InGaAsコンタクト層16に形成したスルーホールは二つの同心円からなるリング形状を有している。この結果、リング形状のスルーホール部以外は、p型InGaAsコンタクト層16の上に光学的に透明な保護膜11、メタライズとしてTi/Pt/Au膜が形成され、鏡(ミラー)を構成する。
【0037】
次に、FeドープInP基板1の裏面、すなわち、図2の図中下側の面には、厚さ0.2μmのSiNからなる反射防止膜17が被着され、ウエハが完成する。
【0038】
最後に、このウエハは、図1に示す1素子分毎に分割される。素子サイズは、縦横とも0.3mm、厚さ0.12mmである。P型電極メサ部8の中心、受光メサ部2の中心、N型電極メサ部9の中心は、外周縁から0.05mmの距離にある。なお、通常素子サイズは取り扱いの観点から一辺の長さが0.2mm以上あり、受光メサ部2の中心が素子中心にある場合は外周縁から0.1mm以上の距離となる。しかし、受光メサ部2の中心は素子中心より外周縁(上辺)に近くなっている、すなわち、受光メサ部2の中心は左辺と右辺の1/2より短い位置にある、のが望ましく、上記実施例では外周縁から0.05mmの距離とした。尚、我々の実験によれば、この距離は0.05mmに限定されず、0.1mm以下の範囲とすれば充分な特性が得られることを確認している。
【0039】
図3は、上記裏面入射型半導体受光素子18を内蔵する光受信モジュール主要部の斜視図である。この裏面入射型半導体受光素子18が、楔型の窒化アルミニウム製のサブマウント19(裏面入射型半導体受光素子18をその表面側から保持する保持部材)上に搭載されており、さらにサブマウント19が基台部25の段差部に搭載されている。なお、裏面入射型半導体受光素子18は、受光窓20を備えている。ここで裏面入射型半導体受光素子18が搭載されている面をサブマウント19の前面、これと対向する面を背面、基台部25の段差部に接続されている幅が広い面を底面、これと対向する幅が狭い面を上面と定義する。サブマウント19の横幅は2mm、高さは1.1mm、底面の幅は0.8mm、上面の幅は0.55mmである。
【0040】
サブマウント19の上面と前面の一部には、Ti/Pt/Au膜による右基準電圧用膜状配線21、バイアス電圧用膜状配線22、信号電圧用膜状配線23、左基準電圧用膜状配線24が形成されている。サブマウント19の底面は全面にTi/Pt/Au膜が形成されており、これと右基準電圧用膜状配線21、左基準電圧用膜状配線24が電気的に接続されている。サブマウント19の上面において、信号電圧用膜状配線23の一端には、裏面入射型半導体受光素子18のP型電極4のサイズに合わせて、またバイアス電圧用膜状配線22の一端には、N型電極5のサイズに合わせてAuSnはんだ蒸着パターンが形成されている。これらのAuSnはんだ蒸着パターンの中心はサブマウント19の上端から0.23mmの位置にある。さらにこれらと独立に、ダミー電極6のサイズに合わせて、AuSnはんだ蒸着パターンが形成されている。適切な荷重と温度を加え、3箇所の電極を同時にはんだ接続することにより、裏面入射型半導体受光素子18をサブマウント19に搭載することが可能となる。
【0041】
なお、裏面入射型半導体受光素子18は、裏面から入射した受信光をミラーで反射して、p型InGaAs光吸収層14を双方向に通過させてキャリアを発生させることが可能であり、高感度である。また、p型InGaAs光吸収層14を薄くすることが可能となり、キャリア走行時間を短縮し、高速応答特性に優れている。
【0042】
裏面入射型半導体受光素子18をサブマウント19に搭載した状態で行った評価を以下に示す。当該素子に、3Vの逆バイアス電圧を印加し、波長1550nm、強度10μWの光信号を入力したところ、0.8A/Wの受光感度が得られた。3Vの逆バイアス電圧における暗電流は、室温で3nA以下、85℃で30nA以下、と十分に低い値であった。高温逆バイアス通電試験(200℃,6V)では、2000時間後の暗電流は85℃で100nA以下であり、高い信頼性を示した。端子間容量はサブマウント19の寄生容量を含めて40fF、順方向抵抗は20Ωであった。
【0043】
3Vの逆バイアス電圧を印加し、波長1550nm、強度100μWの光信号を入力して、周波数応答特性を測定した結果、85℃にて、3dB遮断周波数は40GHz以上、帯域内偏差は1dB以下が得られた。
【0044】
次に、図3にて、裏面入射型半導体受光素子18を内蔵する光受信モジュールの主要部の構成を説明する。図3に示す通り、基台部25は、金属などの導電性の物質により形成されており、階段状の部分を有している。階段状の部分に裏面入射型半導体受光素子18を配置したサブマウント19は、その底面、背面が基台部25の段差部に接するように配置されている。サブマウント19の上面は、基台部25の上段面よりも高くなっている。
【0045】
ここで、基台部25が基準電圧となっており、左基準電圧用膜状配線24及び右基準電圧用膜状配線21は、それぞれ、基台部25に電気的に接続されている。基台部25が接地される場合、基準電圧は0Vとなる。
【0046】
基台部25の上段面には、段差端の近くに、図中右側から、バイアス電源電極27、前置増幅回路26、基準電圧電極28が、配置される。前置増幅回路26は、裏面入射型半導体受光素子18の電気信号出力を増幅するものであり、その上面には、信号電圧用端子29と基準電圧用端子30が設けられている。左基準電圧用膜状配線24の上面部分が基準電圧電極28とパターン接続用ワイヤ34を介して電気的に接続される。左基準電圧用膜状配線24の上面部分は、信号電圧用膜状配線23の方向に向けて、基準電圧用端子30の近傍まで延伸しており、その先端部と基準電圧用端子30は、パターン接続用ワイヤ32で電気的に接続されている。また、信号電圧用端子29の近傍に、信号電圧用膜状配線23の上面部分が位置しており、パターン接続用ワイヤ31で電気的に接続されている。前置増幅回路26の横には、バイアス電源電極27が配置され、バイアス電圧用膜状配線22の上面部分は、右基準電圧用膜状配線21の方向に向けて、バイアス電源電極27の近傍まで延伸しており、その先端部とバイアス電源電極27は、パターン接続用ワイヤ33で電気的に接続されている。
【0047】
以上の構成により、信号電圧用膜状配線23は、裏面入射型半導体受光素子18のP型電極4と前置増幅回路26とを電気的に接続し、バイアス電圧用膜状配線22は、裏面入射型半導体受光素子18のN型電極5とバイアス電源電極27とを電気的に接続している。当該モジュール内部には、上述の裏面入射型半導体受光素子18を搭載したサブマウント19、前置増幅回路26などの他に、レンズなどの光学系部品(図示せず)、受光素子バイアス回路(図示せず)、受光素子バイアス電源(図示せず)、中継線路(図示せず)などが備えられている。当該モジュールの入力側には光ファイバが接続されており、光信号が入力されると、裏面入射型半導体受光素子18で受光され、電気信号に変換して出力することが可能である。当該モジュールの出力側には、AGC増幅回路などがさらに接続され、その後、増幅されたアナログ信号がデジタル信号に変換などされる。
【0048】
裏面入射型半導体受光素子18では、受光メサ部2の中心を外周縁から0.05mmの距離に配置することにより、P型電極メサ部8の中心と受光メサ部2の中心間の距離は0.07mmと短くしている。この結果、受光メサ部2の中心から、P型電極4、信号電圧用膜状配線23、パターン接続用ワイヤ31を介して信号電圧用端子29までの接続配線長が1mmと短くなり、それらの接続配線により発生する寄生インダクタンスが軽減がされている。
【0049】
ここで、所望の周波数に対して、軽減すべき寄生インピーダンスを求めることにより、受光メサ部2の中心から、P型電極4、信号電圧用膜状配線23、パターン接続用ワイヤ31を介して信号電圧用端子29までの接続配線長が決定される。すなわち接続配線長Lを変化させた場合について、周波数応答特性の1つであるS21特性を、計算機シミュレーションにより得ることが出来る。
【0050】
図4Aは、裏面入射型半導体受光素子18を内蔵する光受信モジュールの、接続配線長Lに対する周波数応答特性の計算結果を示す図である。図4Aには、裏面入射型半導体受光素子18、およびこれを内蔵する光受信モジュールにおいて、上述の接続配線長Lが0.6mm、0.7mm、0.8mm、1.1mmの場合それぞれについて計算したS21特性が示されている。ここで、裏面入射型半導体受光素子18の順方向抵抗は20Ω、端子間容量は40fF、キャリア走行時間は14.8p秒を仮定している。また、前置増幅回路の周波数特性は考慮していない。図4Bは、当該モジュールの、接続配線長Lに対する3dB遮断周波数(f3dB)の計算結果を示す図である。
【0051】
ここで、L=1.1mmとした場合、信号線路の長さLから起因するインダクタンス成分の増加により、Lが0.8〜0.6mmの場合よりも低い周波数である23GHz付近に、S21特性のピーキングを有するとともに、3dB遮断周波数は約29GHz程度になっている。40Gbps以上の伝送速度、例えば44.6Gbpsの伝送速度が要求される高速・広帯域の光受信器用の光受信モジュールとしてはビットレートの70%を超える32GHz以上の3dB遮断周波数が望ましい。この場合、少なくともLを1mm以下にする必要があるが、本実施形態に係る裏面入射型半導体受光素子18、およびこれを内蔵する光受信モジュールの場合はL=1mmであり、S21特性のピーキングの強度が低く、周波数は高くなっているため、3dB遮断周波数は32GHz以上であり、44.6Gbps以上の伝送速度で信号を伝送する高速・広帯域の光トランシーバ用の光受信モジュールとして適用可能な周波数特性が得られている。前置増幅回路26の周波数特性の制限により光受信モジュールの3dB遮断周波数が不足する場合、サブマウント19の上面の幅、および裏面入射型半導体受光素子18のP型電極4、N型電極5の中心からサブマウント19の上端までの距離を短くすることにより、Lをさらに短くして、図4Bに示す3dB遮断周波数を増加させ、光受信モジュールとして所望の3dB遮断周波数、例えば32GHzを得ることが可能である。例えば、図4Bにて42GHzの3dB遮断周波数が必要な場合、サブマウント19の上面の幅を、ワイヤボンディング可能な最小幅以上、たとえば0.1mmまで短くすることにより、L=0.55mmとすることが可能であり、42GHzの3dB遮断周波数が得られる。
【0052】
さらに、サブマウント19の上面において、信号電圧用膜状配線23は、両側に位置する左基準電圧用膜状配線24及びバイアス電圧用膜状配線22と、高周波伝送線路の1つであるコプレーナ伝送線路に近似される構造となっているため、各膜状配線のパターンを最適化し、高周波伝送線路の観点から、後段にある前置増幅回路26とのインピーダンス整合をとるように、サブマウント19を設計することが可能である。
【0053】
以上説明した裏面入射型半導体受光素子18およびそれを内蔵する光受信モジュールによれば、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させることができる。また、寄生素子を含む受光素子を用いても、より高速の伝送速度に対して十分な応答特性を有し、かつ、後段の前置増幅回路とのインピーダンス整合が実現される光受信モジュールの提供が可能となる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
たとえば、上記実施形態では、P型電極メサ部8およびダミー電極メサ部10を副メサ部とする例を示したが、図5A〜図5Cに示す通り、ダミー電極メサ部だけで副メサ部を構成してもよい。すなわち、図5Aに示すように、図1に示すP型電極メサ部8に代えて、ダミー電極メサ部10A(およびダミー電極6A)を形成してもよい。また、図5Bに示すように、主メサ部であるN型電極メサ部9が形成された隅部を除く3つの隅部それぞれに、ダミー電極メサ部10B−1〜10B−3(およびダミー電極6B−1〜6B−3)を形成してもよい。また、図5Cに示すように、主メサ部であるN型電極メサ部9が形成された隅部を除く3つの隅部を含む鍵型の領域に、その領域の形状に沿う形状を有する1つダミー電極メサ部10C(およびダミー電極6C)を形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態において、伝送速度が44.6Gbpsといった40Gbs帯の伝送速度で信号を伝送する光受信器に備えられる光受信モジュールについて説明したが、伝送速度が40Gbps帯に限定するものでないのは言うまでもない。また、伝送符号形式がいずれかに限定されるものでもない。キャリア上に抵抗やインピーダンスを、さらに接続してもよい。
【0057】
また、本発明は、光送信モジュールと光受信モジュールとを備える光トランシーバにも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 FeドープInP基板、2,42 受光メサ部、3 受光領域メサ部、4 P型電極、5 N型電極、6 ダミー電極、7 スルーホール、8 P型電極メサ部、9 N型電極メサ部、10 ダミー電極メサ部、11 保護膜、12 n型InPコンタクト層、13 n型InGaAlAsバッファ層、14 n型InGaAs光吸収層、15 p型InGaAlAsバッファ層、16 p型InGaAsコンタクト層、17 反射防止膜、18,40 裏面入射型半導体受光素子、19,45 サブマウント、20 受光窓、21 右基準電圧用膜状配線、22,47 バイアス電圧用膜状配線、23,46 信号電圧用膜状配線、24 左基準電圧用膜状配線、25 基台部、26,48 前置増幅回路、27,51 バイアス電源電極、28 基準電圧電極、29,49 信号電圧用端子、30 基準電圧用端子、31,32,33,34,50,52 パターン接続用ワイヤ、41 半導体基板、43,44 メサ部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の半導体基板と、
前記半導体基板の表面における1辺側の中央部にあって、前記1辺からの距離が前記1辺に隣接する他の2辺の長さの1/2より短い位置に形成された、前記半導体基板の裏面から入射される光を受光するPN接合部を有するメサ状の受光部と、
前記受光部の上面に形成された、前記PN接合部の一方側に導通する第1導電型の電極と、
前記半導体基板の表面における前記1辺側の1隅部に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する主メサ部と、
前記主メサ部の上面まで引き出された、前記PN接合の他方側に導通する第2導電型の電極と、
前記半導体基板の表面における他の3つの隅部を含む領域に形成された、前記受光部の上面より広い上面を有する1または複数の副メサ部と、
前記副メサ部の上面に形成された電極と、
を含むことを特徴とする裏面入射型半導体受光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の裏面入射型半導体受光素子において、
前記受光部中心から前記1辺までの距離が0.1mm以下である、
ことを特徴とする裏面入射型半導体受光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の裏面入射型半導体受光素子において、
前記主メサ部の高さおよび前記副メサ部の高さは、前記受光部の高さ以上である、
ことを特徴とする裏面入射型半導体受光素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の裏面入射型半導体受光素子において、
前記半導体基板の表面における他の3つの隅部を含む領域に複数の副メサ部が形成される場合に、
前記複数の副メサ部の1つは、前記半導体基板の表面における前記1辺側の他の1隅部に形成され、該副メサ部の上面まで前記第1導電型の電極が引き出されており、
前記複数の副メサ部における他の副メサ部の上面には、前記PN接合部から絶縁されたダミー電極が形成されている、
ことを特徴とする裏面入射型半導体受光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の裏面入射型半導体受光素子を内蔵することを特徴とする光受信モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の光受信モジュールにおいて、
前記裏面入射型半導体受光素子の電気信号出力を増幅する前置増幅回路と、
前記第1導電型の電極が接続される信号電圧用配線と、前記第2導電型の電極が接続されるバイアス電圧用配線と、前記副メサ部の上面に形成された電極が接続される配線と、が形成された、前記裏面入射型半導体受光素子をその表面側から保持する保持部材と、
を含み、
前記保持部材の上面は前記前置増幅回路の近傍に位置し、かつ、前記保持部材の上面の高さと前記前置増幅回路の上面の高さとが略同一であり、
前記信号電圧用配線のうち前記保持部材の上面まで延伸した部分は、前記前置増幅回路の上面に形成された信号電圧用端子に導体ワイヤを介して接続されている、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の光受信モジュールにおいて、
前記受光部中心から前記信号電圧用端子までの接続配線長が1mm以下である、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の光受信モジュールを備える光トランシーバ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−4537(P2012−4537A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50848(P2011−50848)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】