説明

補機駆動制御装置

【課題】車両に搭載された補機を駆動するモータの小型化を図る。
【解決手段】補機駆動制御装置(100)は、優先順位が夫々設定された複数の補機(22a、22b、22c、22d、22e)と、該複数の補機を夫々駆動可能なモータ(21)と、を備える車両(1)に搭載される。補機駆動制御装置は、モータと、複数の補機各々との間の回転動力の伝達を断接可能な係合手段(C1、C2、C3、C4、C5)と、複数の補機のうち少なくとも一つの補機の要求パワーが増大した場合に、複数の補機のうち優先順位の比較的低い補機と、モータとの間の回転動力の伝達を切断するように係合手段を制御する制御手段(18)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド自動車等の車両における、例えば冷却水のポンプ等の複数の補機各々の駆動を制御する補機駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、エンジン始動・発電モータと、補機駆動用のモータとの各々に複数の補機が接続されている装置が提案されている。ここでは特に、最大負荷となるシーンが夫々異なる複数の補機を一つのモータに接続することによって、各モータの最大出力と各動作シーンでの補機要求出力との差である余剰出力を最小限に抑えること、及び、複数の補機各々を、クラッチを介してモータに接続することによって、不要時にクラッチを解放して補機をモータから切り離し、モータの付加の軽減を図ることが記載されている(特許文献1参照)。
【0003】
或いは、車両の冷凍サイクルのコンプレッサの駆動軸が、クラッチを介して、エンジン又は電動モータに選択的に接続される装置において、必要冷凍能力が所定の必要能力より小さいと判定された場合は、電動モータによりコンプレッサが駆動され、必要冷凍能力が所定の必要能力より大きいと判定された場合は、エンジンによりコンプレッサが駆動される装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
或いは、カーエアコン用の冷凍サイクルを構成するコンプレッサが、電磁クラッチを介して、エンジンのクランクシャフトに接続されている装置が提案されている。ここでは特に、バッテリが満充電であり、且つ、エアコン用液状冷媒を冷媒タンクに蓄積可能である場合、コンプレッサとクランクシャフトとが電磁クラッチにより係合されることが記載されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−155719号公報
【特許文献2】特開平10−291415号公報
【特許文献3】特開2008−114709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、補機が全て起動している場合、各補機が要求する出力を全て賄うことが可能なモータが必要となり、モータが大型化する可能性があるという技術的問題点がある。特許文献2及び3には、複数の補機を一つのモータ又はエンジンにより駆動する技術は開示されていないという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、補機を駆動するモータの小型化を図ることができる補機駆動制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の補機駆動制御装置は、上記課題を解決するために、優先順位が夫々設定された複数の補機と、前記複数の補機を夫々駆動可能なモータと、を備える車両に搭載され、前記モータと、前記複数の補機各々との間の回転動力の伝達を断接可能な係合手段と、前記複数の補機のうち少なくとも一つの補機の要求パワーが増大した場合に、前記複数の補機のうち前記優先順位の比較的低い補機と、前記モータとの間の回転動力の伝達を切断するように前記係合手段を制御する制御手段と、を備える。
【0009】
本発明の補機駆動制御装置によれば、当該補機駆動制御装置は、優先順位が夫々設定された複数の補機(例えばオイルポンプ、ウォータポンプ、コンプレッサ等)と、該複数の補機を夫々駆動可能なモータと、を備える車両に搭載されている。ここで、「優先順位」とは、モータが出力可能な回転動力の最大値よりも、複数の補機各々の要求パワーの合計値が大きい場合に、どの補機を優先的に駆動するかを定める値である。
【0010】
「優先順位」は、固定値であってもよいし、例えば車両の挙動に応じた可変値であってもよい。また、「優先順位」は、例えば1、2、3、…、と細かく序列が定められていてもよいし、例えば優先駆動されるものと、それ以外というような分類であってもよい。このような「優先順位」は、経験的若しくは実験的に、又はシミュレーションによって、複数の補機各々について、例えば、補機が停止された場合に、車両の性能等にどの程度の影響があるのかを求めて、該求められた影響に基づいて設定すればよい。
【0011】
尚、車両は、エンジンのみを駆動力とする車両であってもよいし、エンジン及びモータを駆動力とするハイブリッド車両であってもよい。
【0012】
例えばクラッチ等である係合手段は、モータと、複数の補機各々との間の回転動力の伝達を断接可能に構成されている。ここで特に、係合手段は、複数の補機のうち一の補機と、モータとの間の回転動力の伝達を、他の補機から独立して、断接可能に構成されている。
【0013】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる制御手段は、複数の補機のうち少なくとも一つの補機の要求パワーが増大した場合に、該複数の補機のうち優先順位の比較的低い補機と、モータとの間の回転動力の伝達を切断するように係合手段を制御する。
【0014】
このように構成すれば、モータの回転動力の最大値が比較的小さくても、少なくとも一つの補機の要求パワーを満たす回転動力を、該少なくとも一つの補機に供給することができる。この結果、補機を駆動するモータの小型化を図ることができる。加えて、モータの小型化に伴い、例えば車両全体の重量が低減されるので、燃費の向上も図ることができる。
【0015】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る補機駆動制御装置の一部としてのECUが実行する補機駆動制御処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態の変形例に係る補機駆動制御装置の概念を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の補機駆動制御装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
先ず、本実施形態に係る補機駆動制御装置が搭載される車両について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両の構成を示すブロック図である。図1において、実線は、機械的な接続を示しており、二重線は、電気的な接続を示しており、点線は、信号を示している。尚、図1では、本実施形態に直接関連のある部材のみを示し、その他の部材については図示を省略している。
【0019】
図1において、ハイブリッド車両1は、エンジン11と、入力軸が該エンジン11に連結されているトランスアクスル(T/A)12と、該トランスアクスル12の出力軸に連結された車輪13と、例えばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池等であるバッテリ14と、直流電流及び交流電流を適切に制御可能なPCU(Power Control Unit)15と、各種電子制御用のECU(Electronic Control Unit)18とを備えて構成されている。
【0020】
トランスアクスル12は、典型的には、ハイブリッド車両1の駆動源としてのモータ(不図示)と、発電機(不図示)とを備えて構成されている。該モータ及び発電機の各々は、PCU15を介して、バッテリ14に電気的に接続されている。尚、該モータ及び発電機は、モータ・ジェネレータにより実現されていてもよい。
【0021】
バッテリ14は、トランスアクスル12を構成するモータ及び発電機の各々に対して電力を供給可能、且つ、モータ及び発電機各々の回生電力により充電可能に構成されている。
【0022】
ハイブリッド車両1は、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両であってもよいし、シリーズ方式のハイブリッド車両であってもよいし、パラレル方式のハイブリッド車両であってもよい。或いは、ハイブリッド車両1は、外部電源により充電可能な、所謂プラグインハイブリッド車両であってもよい。
【0023】
補機駆動制御装置100は、複数の補機22a、22b、22c、22d及び22eと、該複数の補機22a、22b、22c、22d及び22eを夫々駆動可能な統合モータ21と、該モータ21と複数の補機22a、22b、22c、22d及び22e各々との間の回転動力の伝達を断接可能なクラッチC1、C2、C3、C4及びC5と、DCDCコンバータ16を介してバッテリ14に電気的に接続され、統合モータ21に電力を供給する補機電源17と、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5各々を制御するECU18とを備えて構成されている。
【0024】
統合モータ21は、その駆動軸に連結されたプーリ211を有している。該プーリ211には、電磁クラッチC11を介してエンジン11に選択的に連結されるプーリ111、及びベルト212を介して、エンジン11の回転動力が伝達される。このため、エンジン11の動作時には、統合モータ21から出力される回転動力に加えて又は代えて、エンジン11から出力される回転動力の少なくとも一部により、複数の補機22a、22b、22c、22d及び22eを駆動可能である。
【0025】
ここで、補機は、例えば、エンジン11の冷却水ポンプ、バッテリ14及びPCU15の冷媒ポンプ、エアコンのコンプレッサ、真空ポンプ、車両安定制御(Vehicle Stability Control:VSC)装置、エンジン11のオイルポンプ、トランスアクスル12のオイルポンプ、パワーステアリングのオイルポンプ等である。
【0026】
本実施形態では特に、各補機22a、22b、22c、22d及び22eには、優先順位が設定されている。該優先順位は、固定値として予め定められていてもよいし、例えばハイブリッド車両1の挙動等に応じて変化する可変値であってもよい。
【0027】
尚、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5の各々には、公知の車両においてよく用いられる係合要素である油圧式摩擦係合装置、流体クラッチ又は電磁クラッチ等を適用可能である。また、補機電源17には、例えば鉛蓄電池等を適用可能である。
【0028】
本実施形態に係る「統合モータ21」、「クラッチC1、C2、C3、C4及びC5」並びに「ECU18」は、夫々、本発明に係る「モータ」、「係合手段」及び「制御手段」の一例である。本実施形態では、ハイブリッド車両1の各種電子制御用のECU18の機能の一部を、補機駆動制御装置100の一部として用いている。
【0029】
上述の如く構成されたハイブリッド車両1において、補機駆動制御装置100の一部としてのECU18が実行する補機駆動制御処理を、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0030】
図2において、ECU18は、先ず、ハイブリッド車両1に係る情報(例えば、冷却水温度、室内温度、バッテリ14の充電状態、車速等)、及び、操作情報(例えば、エアコンのスイッチのON/OFF等)を取得する(ステップS101)。
【0031】
続いて、ECU18は、取得されたハイブリッド車両1に係る情報及び操作情報に基づいて、各補機22a、22b、22c、22d及び22eの要求を算出する(ステップS102)。
【0032】
この際、本実施形態では、各補機の要求値は、ある程度幅を持った値(例えば、回転数範囲、トルク範囲、時間範囲等)として算出される。このため、補機間の調停を比較的容易に行うことができる。この結果、用途の異なる複数の補機各々の要求全てを、比較的容易に満足することができ、実用上非常に有利である。
【0033】
次に、ECU18は、補機の駆動要求があるか否かを判定する(ステップS103)。複数の補機22a、22b、22c、22d及び22eのうち、一つでも駆動要求があれば、ECU18は、補機の駆動要求があると判定して(ステップS103:Yes)、後述するステップS104の処理を実行する。他方、複数の補機22a、22b、22c、22d及び22e全ての駆動要求がなければ、ECU18は、補機の駆動要求がないと判定して(ステップS103:No)、後述するステップS105の処理を実行する。
【0034】
ステップS104において、ECU18は、複数の補機22a、22b、22c、22d及び22e各々の駆動方法を選択する。この際、ECU18は、補機間の調停を行い、各補機に係る回転数等を決定する。また、優先順位が可変である場合は、この時点で優先順位が決定されてもよい。
【0035】
次に、ECU18は、エンジン11が駆動しているか否かを判定する(ステップS106)。エンジン11が駆動していると判定された場合(ステップS106:Yes)、ECU18は、駆動要求がある補機に対応するクラッチが係合状態となり、駆動要求のない補機に対応するクラッチが解放状態となるように、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5を夫々制御する(ステップS107)。
【0036】
具体的には例えば、補機22a及び22dの駆動要求がある場合には、ECU18は、クラッチC1及びC4が係合状態となり、クラッチC2、C3及びC5が解放状態となるように、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5を夫々制御する。
【0037】
この場合に、何らかの原因により補機の要求値が急増し、各補機の要求値の合計が統合モータ21の最大出力値を超えたときは、ECU18は、電磁クラッチ11が係合状態となるように該電磁クラッチ11を制御する。この結果、統合モータ21及びエンジン11により補機が駆動されることとなり、各補機の要求値を満足することができる。ここで、各補機の要求値の合計が統合モータ21の最大出力値を超えたか否かは、上記ステップS104の処理の際に判定すればよい。
【0038】
尚、統合モータ21及びエンジン11により補機が駆動される場合、ECU18は、統合モータ21の回転数を、エンジン11の回転数に対して所定範囲内にした状態で、電磁クラッチC11を係合状態とする。このように構成すれば、電磁クラッチC11の係合時における振動を低減することができ、実用上非常に有利である。
【0039】
その後、リターンされ処理を停止して待機状態となる。即ち、所定の周期によって一義的に決定される次の処理開始時期に到達するまで、ステップS101の処理の実行を停止して待機状態となる。
【0040】
他方、ステップS106の処理において、エンジン11が駆動していないと判定された場合(ステップS106:No)、ECU18は、駆動要求がある補機に対応するクラッチが係合状態となり、駆動要求のない補機に対応するクラッチが解放状態となるように、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5を夫々制御する(ステップS108)。
【0041】
続いて、ECU18は、各補機の要求値を満足するように統合モータ21の目標回転数を算出して(ステップS109)、該算出された目標回転数となるように統合モータ21を制御する。その後、リターンされ処理を停止して待機状態となる。
【0042】
この場合に、補機の要求値が急増し、各補機の要求値の合計が統合モータ21の最大出力値を超えた場合、ECU18は、各補機に設定された優先順位を参照して、各補機の要求値の合計を統合モータ21の最大出力値以下とすべく、優先順位の低い補機に対応するクラッチが解放状態となるように、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5を夫々制御する。このように構成すれば、統合モータ21が比較的小型であっても(即ち、出力が比較的小さいモータであっても)、補機の要求値の急増に対応することができる。
【0043】
上記ステップS103の処理において、補機の駆動要求がないと判定された場合、ステップS105において、ECU18は、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5が全て解放状態となるように、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5を夫々制御する。その後、リターンされ処理を停止して待機状態となる。
【0044】
尚、ハイブリッド車両1が、例えば連続降坂等を走行しており、回生電力量が制限される場合等の、エンジンブレーキが必要とされる場合、ECU18は、電磁クラッチC11と、クラッチC1、C2、C3、C4及びC5の少なくとも一つのクラッチと、を係合状態にして、エンジン11のクランクシャフトの引き摺りトルクを増大させてもよい。この結果、エンジンブレーキ力を向上させることができる。
【0045】
この場合に、係合状態とされるクラッチを、例えばエアコンのコンプレッサやブレーキ倍力装置の負圧ポンプ等に対応するクラッチとし、ECU18を、例えば外気温度、室内温度、圧力等の環境情報からコンプレッサの負荷を予測したり、ブレーキ倍力装置の圧力情報から負圧ポンプの負荷を予測したりするように構成すれば、補機負荷に起因するエンジンブレーキにより発生可能なトルクを算出することができる。この結果、ドライバビリティの悪化を招くことなく、減速回生可能な制動トルクの値を高精度に算出することができ、燃費の向上とドライバビリティの向上とを図ることができる。
【0046】
<変形例>
次に、本実施形態に係る補機駆動制御装置の変形例について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態の変形例に係る補機駆動制御装置の概念を示す概念図である。
【0047】
図1に示した態様では、複数の補機22a、22b、22c、22d及び22e各々は、統合モータ21の駆動軸上に配置されている。これに対して、本変形例では、図3に示すように、統合モータ21及び複数の補機(ここでは、ウォータポンプ及びエアコンコンプレッサ)が、該統合モータ21の駆動軸と、各補機の駆動軸とが互いに平行になるように配置され、ベルト又はチェーンにより回転動力が伝動される。
【0048】
本実施形態では、ハイブリッド車両1を例に挙げて説明したが、本発明は、例えば、停車時エンジン停止機構(所謂、アイドリングストップ機構)を備える車両、電気自動車や燃料電池車のようなモータのみを動力源とする車両にも、適用可能である。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う補機駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
1…ハイブリッド車両、11…エンジン、12…トランスアクスル、13…車輪、14…バッテリ、15…PCU、16…DCDCコンバータ、17…補機電源、18…ECU、21…統合モータ、22a、22b、22c、22d、22e…補機、100…補機駆動制御装置、C1、C2、C3、C4、C5…クラッチ、C11…電磁クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
優先順位が夫々設定された複数の補機と、前記複数の補機を夫々駆動可能なモータと、を備える車両に搭載され、
前記モータと、前記複数の補機各々との間の回転動力の伝達を断接可能な係合手段と、
前記複数の補機のうち少なくとも一つの補機の要求パワーが増大した場合に、前記複数の補機のうち前記優先順位の比較的低い補機と、前記モータとの間の回転動力の伝達を切断するように前記係合手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする補機駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−106614(P2012−106614A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256797(P2010−256797)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】