説明

複合ブレーキの協調制御装置

【課題】制動初期における摩擦制動の応答遅れを補う回生制動が中止された場合でも、違和感を伴う減速度の急変を生じないようにする。
【解決手段】マスターシリンダ圧が発生させ始める瞬時t1より、目標制動トルクtTtotalはブレーキペダルの踏み込み応じて図示のごとくに立ち上がる。瞬時t1より、マスターシリンダ圧が設定値以上になる瞬時t2までの間、目標制動トルクtTtotalを発生可能最大回生制動トルクで賄い得てtTm=tTtotalにすべきところながら、目標回生制動トルクtTmに対し、制限された早期回生制動トルクを設定すると共に、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する。この制限された早期回生制動トルクは、回生制動を中止せざるを得なくなって回生制動トルクが早期回生制動トルクから一気に0になった場合でも、車両の減速度が運転者に違和感を与えることのない値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動操作に応じた液圧力や電磁力で摩擦式ブレーキユニットを作動させる摩擦制動と、回転電機の発電負荷を用いた回生制動との2種類のブレーキシステムを併設した複合ブレーキの協調制御装置に関し、特に、制動操作が開始された直後における制動初期の協調制御技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合ブレーキの協調制御装置は、制動操作などの運転状態や、自車周辺の走行状態に応じて要求される目標制動トルクを、回生制動と摩擦制動との組み合わせにより実現するような協調制御を旨とする。
【0003】
この協調制御に際しては、回生制動を優先的に利用し、回生制動だけでは目標制動トルクを実現し得ない場合に、不足分を摩擦制動で補うことにより目標制動トルクを実現するという協調制御方式を採用するのが一般的である。
【0004】
かようにすることで、可能な限り回生制動が利用され、摩擦制動の利用を必要最小限に抑え得ることとなり、
摩擦制動が車両の運動エネルギーを熱として消失させてしまうのを最小限にしつつ、回生制動が車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収するエネルギー量を最大にすることができる。
その結果、エネルギー効率が向上し、燃料消費率や電気消費率を向上させるできることができる。
【0005】
かかる一般的な協調制御によれば、制動操作が開始された直後の制動初期においては、大抵の場合、目標制動トルクそのものが小さいこともあって、回生制動のみで目標制動トルクを実現可能であることから、摩擦制動が行われない。
その後、制動操作力の増大で目標制動トルクが大きくなる等により、回生制動のみでは目標制動トルクを実現できなくなった時、回生制動のみによる制動状態から、回生制動および摩擦制動による制動状態へと切り替わる。
【0006】
ところで摩擦制動は、例えば液圧式のものについて述べると、制動操作によりマスターシリンダのピストンが押し込みストロークによりブレーキ液内蔵リザーバとの連通ポートを通過してこれを遮断した後に前記の液圧力を発生することから、制動力を発生するまでの応答遅れが、回生制動に較べて大きくなる傾向にある。
【0007】
このため、制動初期において回生制動のみによる制動状態から、摩擦制動をも用いた制動状態へ切り替わるとき、摩擦制動の上記した応答遅れ中に、摩擦制動力の発生遅れに伴って一時的な制動力不足を生ずる。
【0008】
かかる摩擦制動の応答遅れに起因した一時的な制動力不足に関する問題を解消する技術としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られている。
この特許文献1に記載されている複合ブレーキの協調制御技術は、制動初期に回生制動を優先的に用い、これのみを用いて目標制動トルクを実現するのではなく、制動初期から回生制動および摩擦制動の双方を用いて制動を行うというものである。
【0009】
かかる制動初期の協調制御技術によれば、摩擦制動の前記した応答遅れにより摩擦制動力の発生遅れがあっても、この発生遅れ分を高応答な回生制動により補うことができ、摩擦制動の応答遅れに伴う一時的な制動力不足の問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−196924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし上記した従来の協調制御では、制動初期における回生制動トルクが摩擦制動の応答遅れによる摩擦制動力の発生遅れ分を補う大きなものとなり、以下のような別の問題を生ずる。
【0012】
つまり回生制動は、その制御因子に係わる状態量を検出するセンサが故障したり、回生制動により発生した電力を蓄電する蓄電器が充電不能な満蓄電状態になったりしたとき、中止する必要がある。
【0013】
従来のように制動初期から回生制動および摩擦制動の双方を用いた制動を行っていて、この時における回生制動トルクが摩擦制動の応答遅れによる摩擦制動力の発生遅れ分を補う大きなものである場合、当該制動初期に上記した原因などで回生制動を中止せざるを得なくなった時、回生制動トルクが上記の大きな値から一気に0になる。
かように回生制動トルクが大きな値から一気に0になると、摩擦制動が制動初期はこれを補い得るほど高応答に制動トルクを発生し得ないことから、減速度が急減して一時的に車両が空走するような違和感を運転者に与えるという問題を生ずる。
【0014】
本発明は、摩擦制動の応答遅れ分を高応答な回生制動により補う必要があるため、制動初期から回生制動および摩擦制動の双方を用いた協調制御を踏襲するが、
制動初期に回生制動の中止で回生制動トルクが一気に0になっても、違和感を伴うほどに大きく減速度が急減することのないようにした複合ブレーキの協調制御装置を提案し、
もって上述の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のため、本発明による複合ブレーキの協調制御装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる複合ブレーキの協調制御装置を説明するに、これは、
制動操作に応じた目標制動トルクを、回生制動の優先利用により実現し、不足分を、上記制動操作に応動する摩擦制動により実現するようにしたものである。
【0016】
本発明は、かかる複合ブレーキの協調制御装置を、以下のごとく構成した点に特徴づけられる。
つまり、上記制動操作が開始された直後の制動初期は、上記回生制動の優先利用に代わる制限された回生制動トルクと、上記摩擦制動による摩擦制動トルクとを用いて制動を行うよう構成したものである。
【発明の効果】
【0017】
かかる本発明の協調制御装置によれば、通常は目標制動トルクを、回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により実現するという協調制御を行うが、制動操作が開始された直後の制動初期は、上記回生制動の優先利用に代わる制限された回生制動トルクと、摩擦制動による摩擦制動トルクとを用いて制動を行うため、制動初期において以下の作用効果が奏し得られる。
【0018】
つまり制動初期において、一方では、摩擦制動の応答遅れ分を上記の制限された回生制動トルクによる高応答な回生制動により補って、摩擦制動の応答遅れに伴う一時的な制動力不足に関する前記の問題を解消することができ、
他方では、回生制動の中止により回生制動トルクが一気に0になって、摩擦制動が制動初期の応答遅れによりこれを補い得るほど高応答に制動トルクを発生し得なくても、かかる回生制動トルクの低下が上記の制限された回生制動トルクから0への落差の小さい低下であるため、違和感を伴うほどに大きく減速度が急減するという前記の問題を生ずることもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例になる協調制御装置を具えた複合ブレーキの制御システムを、車両の上方から見て示す概略系統図である。
【図2】図1におけるブレーキ液圧制御装置のシステム図である。
【図3】図1における統合コントローラが実行する制動力協調制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】図3に示す制動力協調制御の動作タイムチャートである。
【図5】本発明の第2実施例になる協調制御装置の制動力協調制御プログラムを示す、図3と同様なフローチャートである。
【図6】図5に示す制動力協調制御の動作タイムチャートである。
【図7】本発明の第3実施例になる協調制御装置の制動力協調制御プログラムを示す、図3と同様なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる協調制御装置を具えた複合ブレーキの制御システムを、車両の上方から見て示す概略系統図である。
図1において、1L,1Rはそれぞれ左右前輪を示し、また2L,2Rはそれぞれ左右後輪を示す。
【0021】
図1における車両は、回転電機としてのモータ3により、ディファレンシャルギヤ装置を含む減速機4を介し左右後輪2L,2Rを駆動することで走行可能な電気自動車とする。
モータ3の制御に際しては、モータコントローラ5が、バッテリ(蓄電器)6の電力をインバータ7により直流−交流変換して、またこの交流電力をインバータ7による制御下でモータ3へ供給することで、モータ3のトルクが統合コントローラ8からの目標モータトルクtTmに一致するよう、当該モータ3の制御を行うものとする。
【0022】
なお、統合コントローラ8からの目標モータトルクtTmが、モータ3に回生制動作用を要求する負極性のものである場合、モータコントローラ5はインバータ7を介し、バッテリ6が過充電とならないような発電負荷をモータ3に与え、
この時モータ3が回生制動作用により発電した電力を、インバータ7により交流−直流変換してバッテリ6に充電する。
【0023】
図1における電気自動車は、上記の回生制動のほかに、以下の摩擦制動によっても制動可能とし、回生制動システムおよび摩擦制動システムの双方を併設した複合ブレーキを搭載する。
摩擦制動システムは、以下のような周知の液圧式ディスクブレーキ装置とし、以下にその概略を説明する。
このディスクブレーキ装置は、左右前輪1L,1Rと共に回転するブレーキディスク10L,10R、および、左右後輪2L,2Rと共に回転するブレーキディスク9L,9Rを具え、これらブレーキディスク10L,10Rおよび9L,9Rをそれぞれ、個々の液圧ブレーキユニット(キャリパ)11L,11Rおよび12L,12Rにより軸線方向両側から挟圧することで摩擦制動可能なものとする。
【0024】
ブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rは、ブレーキ液圧制御装置13からのブレーキ液圧により上記の作動を行う。
ブレーキ液圧の制御に際しては、液圧ブレーキコントローラ14が統合コントローラ8からの目標摩擦制動トルクtTbに応動し、車両全体の摩擦制動トルクが目標摩擦制動トルクtTbに一致するようブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rへのブレーキ液圧(目標マスターシリンダ圧tPmc)を決定し、このように決定したブレーキ液圧がブレーキユニット11L,11Rおよび12L,12Rに供給されるようブレーキ液圧制御装置13を作動させる。
【0025】
統合コントローラ8は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、この目的に叶うよう、上記した液圧ブレーキコントローラ14への目標摩擦制動トルクtTb、および、前記したモータコントローラ5への目標モータトルクtTm(負極性が回生制動トルク)を決定する。
【0026】
そのための演算を行い得るよう統合コントローラ8には、モータ3の回転数Nmを検出するモータ回転センサ21からの信号と、
4輪1L,1R,2L,2Rの各車輪速Vwを検出する車輪速センサ群22からの信号と、
車両前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ23からの信号と、
アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ24からの信号と、
バッテリ6の蓄電状態SOCを検出する蓄電状態センサ25からの信号と、
ブレーキペダルストローク量Bstを検出するブレーキペダルストロークセンサ26からの信号と、
マスターシリンダ圧Pmcを検出する液圧センサ27からの信号とを入力する。
【0027】
ブレーキ液圧制御装置13は、その全体を示した図2から明らかなように、運転者が操作するブレーキペダル31の踏み込みストロークの応動するマスターシリンダ32を具える。
このマスターシリンダ32は有底マスターシリンダ本体32aを具え、有底マスターシリンダ本体32aの開口端から順次、セカンダリピストン32bおよびプライマリピストン32cを摺動自在に嵌合して、セカンダリピストン室32dおよびプライマリピストン室32eを画成する。
【0028】
セカンダリピストン32bおよびプライマリピストン32cにはそれぞれ、セカンダリピストン室32dおよびプライマリピストン室32e内に収納したリターンスプリング32f,32gのバネ反力を作用させて、図2の右方向へ附勢する。
これらリターンスプリング32f,32gによるセカンダリピストン32bおよびプライマリピストン32cのストロークを、これらピストンに同軸に設けたマスターシリンダ圧制御機構(ブレーキ倍力装置)33のボールネジ軸33aで、図2に示すごとくに制限する。
【0029】
マスターシリンダ圧制御機構33の中心部にインプットロッド34を貫通させて設け、マスターシリンダ圧制御機構33から突出する該インプットロッド34の外端をブレーキペダル31に連結し、反対側における該インプットロッド34の内端34bをプライマリピストン32cに液密封止下で摺動自在に貫通させる。
インプットロッド34には更に、その内端34bに近い内端部に大径部34cを設定し、この大径部34cに外周フランジ34dを設定する。
外周フランジ34dの径方向両側にスプリング35,36の一端を着座させ、スプリング35の他端をプライマリピストン32cに、またスプリング36の他端をマスターシリンダ圧制御機構33のボールネジ軸33aに着座させる。
【0030】
これによりインプットロッド34は常態で、マスターシリンダ圧制御機構33のボールネジ軸33aに当接したプライマリピストン32cに対し、スプリング35,36のバネ力が釣り合う中立位置に弾支される。
この弾支位置でインプットロッド34の大径部34cと、プライマリピストン32cとの間には、L1のストローク隙間を設定し、セカンダリピストン32bと、プライマリピストン32cとの間には、L2のストローク隙間を設定する。
【0031】
プライマリピストン室32eは液路37を経てリザーバタンクRESに通じさせると共に、液路38を経てブレーキユニット11L,12Rに通じさせ、
セカンダリピストン室32eは液路39を経てリザーバタンクRESに通じさせると共に、液路40を経てブレーキユニット12L,11Rに通じさせる。
なお図示を省略したが、プライマリピストン室32eからブレーキユニット11L,12Rに至る液路38、および、セカンダリピストン室32eからブレーキユニット12L,11Rに至る液路40にはそれぞれ、アンチスキッド制御などを実行するための各種バルブや、モータポンプや、アクチュエータが介挿されている。
【0032】
マスターシリンダ32の作用を説明するに、室32e,32dには液路37,39を経てリザーバタンクRES内のブレーキ液が供給され、このブレーキ液は更に液路38,40およびブレーキユニット11L,12Rおよび12L,11R内を満たしている。
ブレーキペダル31を踏み込む制動操作時は、インプットロッド34が押し込まれてプライマリピストン32cおよびセカンダリピストン32bを対応方向へストロークさせる。
【0033】
これらピストン32c, 32bが当該ストロークにより、室32e,32dとリザーバタンクRES(液路37,39)との間における連通ポートを通過する時より、これら連通ポートを遮断して室32e,32d内にマスターシリンダ液圧Pmcを発生させる。
このマスターシリンダ液圧Pmcは液路38,40を経てブレーキユニット11L,12Rおよび12L,11Rへ供給され、これらブレーキユニット11L,12Rおよび12L,11Rが、対応するブレーキディスク10L,9Rおよび9L,10Rを軸線方向両側から強圧するよう作動することで所定の摩擦制動を行うことができる。
なお摩擦制動力は、ブレーキユニット11L,12Rおよび12L,11Rの作動液圧(上記ではマスターシリンダ液圧Pmc)によって決まる。
【0034】
マスターシリンダ圧制御機構(ブレーキ倍力装置)33は、上記のマスターシリンダ液圧Pmcを倍力してブレーキペダル31の踏力を軽減したり、運転者の制動操作から切り離してマスターシリンダ液圧Pmcを制御し得るようになすためのもので、以下のごとくに構成する。
マスターシリンダ圧制御機構33は、マスターシリンダ本体32aの開口端に同軸に順次突き合わせて設けた第1ハウジング41および第2ハウジング42を具える。
【0035】
第1ハウジング41内にプライマリピストン32cの前記外端を同軸に収納し、第2ハウジング42の中心部に前記のボールネジ軸33aを回転不能にして軸線方向へ変位可能に挿置する。
図2の左側におけるボールネジ軸33aの端面にバネ座43を介してスプリング44の一端を着座させ、スプリング44の他端を第1ハウジング41に着座させることで、ボールネジ軸33aを図2の右方へ附勢する。
【0036】
ボールネジ軸33aの外周にボールを介してボールネジナット33bを螺合し、ボールネジナット33bの外周をベアリング45により、軸線方向変位不能にして第2ハウジング42の内周に回転自在に支承する。
ボールネジナット33bは、マスターシリンダ圧制御モータ46により回転駆動し得るようになす。
このためボールネジナット33bとマスターシリンダ圧制御モータ46との間を減速機構47により駆動結合する。
減速機構47は、マスターシリンダ圧制御モータ46の出力軸に固着した小径の駆動プーリ48と、ボールネジナット33bの外周に固着した大径の従動プーリ49と、これらプーリ48,49間に掛け渡したベルト50とで構成する。
【0037】
マスターシリンダ圧制御機構33の作用は以下の通りである。
マスターシリンダ圧制御モータ46により減速機構47を介して従動プーリ49が回転されるとボールネジナット33bが一体的に回転し、このボールネジナット33bの回転運動によりボールネジ軸33aがその軸線方向に並進運動する。
【0038】
ボールネジ軸33a が図2の左方へ並進運動する場合、その推力によりプライマリピストン32cが同方向へ押し込まれてマスターシリンダ圧Pmcを上昇させ、
ボールネジ軸33a が図2の右方へ並進運動する場合、プライマリピストン32cが同方向への戻しストロークによりマスターシリンダ圧Pmcを低下させる。
なお図2は、ブレーキペダル31が押し込まれていないのに呼応して、ボールネジ軸33aが図2の最も右方向位置にストロークした初期位置にある状態を示す。
【0039】
ところでボールネジ軸33aには、スプリング44による戻し力が常に作用しており、以下のフェールセーフ機能を達成し得る。
つまり、ブレーキペダル31の踏み込みによる制動操作中(マスターシリンダ圧Pmcの発生中)にマスターシリンダ圧制御モータ46が故障して停止し、ボールネジ軸33aの戻しストローク制御が不能となった場合でも、ボールネジ軸33aがスプリング44により押し戻され、図2の初期位置に戻り得る。
このため、ブレーキペダル31の釈放により制動操作を止めると、マスターシリンダ圧Pmcをゼロまで低下させることができ、摩擦制動力の残存による引きずりの発生を防止することができる。
【0040】
ボールネジ軸33a の上記した並進運動を介してマスターシリンダ圧Pmcを加減するためのモータ46の回転位置制御は、マスターシリンダ圧制御装置51によってこれを遂行する。
これがため、マスターシリンダ圧制御装置51には、図1につき前述したブレーキペダルストロークセンサ26からの信号、および目標マスターシリンダ圧tPmcに係わる信号のほかに、
モータ46の回転角を検出するレゾルバ等のモータ回転角検出センサ46aからの信号と、
液路38,40内におけるブレーキユニット作動圧を検出する液圧センサ52,53からの信号とを入力する。
マスターシリンダ圧制御装置51は、モータ回転角検出センサ46aで検出したモータ46の回転角に基づき、ボールネジ軸33aのストローク位置を算出する。
【0041】
マスターシリンダ圧制御装置51は、上記した入力情報を基に、インプットロッド34の推力を如何に増幅すべきか(マスターシリンダ圧Pmcを如何に制御すべきか)を決定し、これが実現されるようモータ46の回転角を制御する。
この制御に際しマスターシリンダ圧制御装置51は、モータ46により、インプットロッド34のストロークに応じたプライマリピストン32cのストローク変位、すなわちインプットロッド34とプライマリピストン32cとの相対変位を制御する。
【0042】
つまりマスターシリンダ圧制御装置51は、図1につき前述した目標摩擦制動トルクに対応する目標マスターシリンダ圧tPmcに応じ、モータ46を介してプライマリピストン32cを、ブレーキペダル31による制動操作位置から変位させ、
これによりマスターシリンダ圧Pmcを目標マスターシリンダ圧tPmcに一致させることができる。
【0043】
この時におけるインプットロッド34の推力増幅比、つまり液圧倍力比αは、プライマリピストン室32eにおけるインプットロッド34およびプライマリピストン32cの受圧面積AIRおよびAPPの比等により、以下のように決まる。
Pmc=(FIR+K×△x)/AIR=(FPP−K×△x)/APP …(1)
ただし、
Pmc:プライマリピストン室32eの液圧(マスターシリンダ圧)
FIR:インプットロッド34の推力
FPP:プライマリピストン32cの推力
AIR:インプットロッド34の受圧面積
APP:プライマリピストン32cの受圧面積(AIR <APP)
K:スプリング35,36のバネ定数
Δx:インプットロッド34とプライマリピストン32cとの相対変位量
【0044】
なお上記の相対変位量Δxは、インプットロッド34の変位(インプットロッドストローク)をXi、プライマリピストン32cの変位(ピストンストローク)をXbとして、Δx=Xb−Xiと定義する。
よって、Δxは、相対移動の中立位置では0、インプットロッド34に対してプライマリピストン32cが押し込み方向へ前進(図2の左方へストローク)するとき正極性、逆方向の戻し方向へ後退(図2の右方へストローク)するとき負極性となる。
なお、上記の圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。
またプライマリピストン32cの推力FPPは、モータ46の電流値から推定可能である。
【0045】
一方で倍力比αは、下記の式(2)のように表すことができる。
α=Pmc×(APP+AIR)/FIR …(2)
よって、式(2)に上記式(1)のPmcを代入すると、倍力比αは下記の式(3)のようになる。
α=(1+K×Δx/FIR)×(AIR+APP)/AIR …(3)
【0046】
倍力制御では、目標のマスターシリンダ圧特性が得られるように、モータ46(ピストンストロークXb)を制御する。
ここでマスターシリンダ圧特性とは、インプットロッドストロークXiに対するマスターシリンダ圧Pmcの変化特性を指す。
インプットロッドストロークXiに対するピストンストロークXbを示すストローク特性と、上記目標マスターシリンダ圧特性とに対応して、インプットロッドストロークXiに対する相対変位量Δxの変化を示す目標変位量算出特性を得ることができる。
検証により得られた目標変位量算出特性データに基づき、相対変位量Δxの目標値(以下、目標変位量Δx*)を算出する。
【0047】
すなわち目標変位量算出特性は、インプットロッドストロークXiに対する目標変位量Δx*の変化の特性を示し、インプットロッドストロークXiに対応して1つの目標変位量Δx*が定まる。
検出したインプットロッドストロークXiに対応して決定される目標変位量Δx*を実現するようにモータ46の回転(プライマリピストン32cの変位量Xb)を制御することで、目標変位量Δx*に対応する大きさのマスターシリンダ圧Pmcをマスターシリンダ32で発生させることができる。
【0048】
なお、上記のようにインプットロッドストロークXiはブレーキペダルストロークセンサ26により検出することができ、ピストンストロークXbはモータ回転角センサ46aの信号に基づき算出することができ、相対変位量Δxは上記検出(算出)した変位量の差により求めることができる。
更に具体的に説明すると倍力制御では、上記検出した変位量Xiと目標変位量算出特性とに基づいて目標変位量Δx*を設定し、上記検出(算出)された相対変位量Δxが目標変位量Δx*と一致するようにモータ46を制御(フィードバック制御)する。
【0049】
一定倍力制御では、インプットロッド34およびプライマリピストン32cが一体的に変位する、すなわち、インプットロッド34に対してプライマリピストン32cが常に上記中立位置となり、相対変位量Δx=0を保って変位するようにモータ46を制御することとなる。
このようにΔx=0となるようにプライマリピストン32cをストロークさせた場合、上記式(3)により、倍力比αは、α=(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。
よって、必要な倍力比に基づいてAIRおよびAPPを設定し、変位量XbがインプットロッドストロークXiに等しくなるようにプライマリピストン32cを制御することで、常に一定の(上記必要な)倍力比を得ることができる。
【0050】
<第1実施例の制動力協調制御>
図1における統合コントローラ8は、図3の制御プログラムを実行して、本発明が狙った通りの制動力協調制御を遂行するべく、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを以下のように求める。
【0051】
先ずステップS101において、センサ26で検出したブレーキペダルストロークBstを取得する。
次のステップS102においては、当該ブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になったか否かをチェックする。
ここで設定ストロークは、マスターシリンダ32のプライマリピストン32cおよびセカンダリピストン32dが、プライマリピストン室32eおよびセカンダリピストン室32dとリザーバタンクRES(液路37,39)との間における連通ポートに達し、これら連通ポートを遮断することにより室32e,32d内にマスターシリンダ液圧Pmcを発生させ始めるときのブレーキペダルストロークに対応させる。
【0052】
ステップS102でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になったと判定するまでの間、つまりマスターシリンダ液圧Pmcが発生し始めたと判定するまでの間は、制御をステップS101に戻してブレーキペダルストロークBstを取得し直しつつ、ブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になるまで待機する。
ステップS102でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になったと判定する場合、つまりマスターシリンダ液圧Pmcが発生し始めたと判定する場合は、制御をステップS103に進めて、以下のような早期回生制動トルクの出力を開始するよう、目標回生制動トルクtTmに早期回生制動トルクを設定する。
【0053】
早期回生制動トルクを説明する前に、先ず通常の回生制動協調制御、つまり回生制動と摩擦制動との協調制御を説明する。
この協調制御に際しては、ブレーキペダルストロークBstから運転者が要求している目標制動トルクtTtotalを求め、この目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現すべく、目標回生制動トルクtTmを決定する。
【0054】
つまり、車速やバッテリ蓄電率SOCなどから決まる発生可能な最大回生制動トルクが目標制動トルクtTtotal以上である場合、目標回生制動トルクtTmを目標制動トルクtTtotalと同じ値にし、回生制動のみにより目標制動トルクtTtotalを実現する。
しかし発生可能な最大回生制動トルクが目標制動トルクtTtotal未満である場合、目標回生制動トルクtTmを発生可能最大回生制動トルクと同じ値にし、回生制動のみでは足りない制動トルク不足分を摩擦制動により補うよう、目標摩擦制動トルクtTbを制動トルク不足分と同じ値にすることで、回生制動と摩擦制動とで目標制動トルクtTtotalを実現する。
【0055】
かかる協調制御によれば、可能な限り回生制動が利用され、摩擦制動の利用を必要最小限に抑え得ることとなり、
摩擦制動が車両の運動エネルギーを熱として消失させてしまうのを最小限にしつつ、回生制動が車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収するエネルギー量を最大にすることができる。
その結果、エネルギー効率が向上して、燃料消費率や電気消費率を向上させることができる。
【0056】
しかし、かかる通常の協調制御によれば、ブレーキペダル31の踏み込みによる制動操作が開始された直後の制動初期においては、目標制動トルクtTtotalそのものが小さいこともあって、回生制動のみで目標制動トルクtTtotalを実現可能であることから、摩擦制動が行われない。
その後、ブレーキペダル踏力(制動操作力)の増大で目標制動トルクtTtotalが大きくなる等により、回生制動のみでは目標制動トルクtTtotalを実現できなくなった時、回生制動のみによる制動状態から、回生制動および摩擦制動による制動状態へと切り替わる。
【0057】
ところで摩擦制動は、上記したようにマスターシリンダ32のピストン32c, 32bが押し込みストロークにより、室32e,32dとリザーバタンクRES(液路37,39)との間における連通ポートを通過して遮断した後でないとマスターシリンダ液圧Pmcを発生させ得ないこともあって、制動力を発生するまでの応答遅れが、回生制動に較べて大きい。
【0058】
このため、制動初期において回生制動のみによる制動状態から、摩擦制動をも用いた制動状態へ切り替わるとき、摩擦制動の上記した応答遅れ中に、摩擦制動力の発生遅れに伴って一時的な制動力不足を生ずる。
【0059】
かかる摩擦制動の応答遅れに起因した一時的な制動力不足に関する問題を解消するため、本実施例においては制動初期といえども、ステップS103で目標回生制動トルクtTmに早期回生制動トルクを設定して、回生制動と摩擦制動との共働により目標制動トルクtTtotalを実現するようになす。
かかる制動初期の協調制御によれば、摩擦制動の上記した応答遅れにより摩擦制動力の発生遅れがあっても、この発生遅れ分を高応答な回生制動により補うことができ、摩擦制動の応答遅れに伴う一時的な制動力不足の問題を解消することができる。
【0060】
しかし、上記の早期回生制動トルクが摩擦制動の応答遅れによる摩擦制動力の発生遅れ分を補うような大きなものであるのでは、
回生制動制御に用いるセンサが故障したり、バッテリ蓄電率SOCが充電不能な満蓄電状態になったりしたことで、回生制動を中止せざるを得なくなった時、回生制動トルクが上記の大きな値から一気に0になる。
ところで制動初期の摩擦制動は応答遅れが大きくて、かかる回生制動トルクの急低下を補い得ないことから、かかるかかる回生制動トルクの急低下により車両の減速度が急減して、一時的に車両が空走するような違和感を運転者に与えるという別の問題を生ずる。
【0061】
そこで、ステップS103において目標回生制動トルクtTmに設定する早期回生制動トルクは、回生制動を中止せざるを得なくなって回生制動トルクが早期回生制動トルクから一気に0になった場合でも、車両の減速度が急減して一時的に車両が空走するような違和感を運転者に与えることのない、制限された回生制動トルク値に定める。
このように制限された早期回生制動トルクとしては、目標制動トルクtTtotalに対し所定割合の制動トルク量と、目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量との小さい方に相当する制動トルク値を用いるのが良い。
【0062】
なお目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量は、前記アンチスキッド制御装置の作動時である場合、このアンチスキッド制御装置が作動初期に低減する制動トルク低減量に対応させ、回生制動の中止によりアンチスキッド制御による制動トルクの初期低減を実現することで、高応答なアンチスキッド制御が行われるようにするのがよい。
【0063】
また目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量は、回生電力を蓄電するバッテリ6の蓄電状態SOCに応じて変化させ、
バッテリ6が過充電により破損されることのないようにしたり、バッテリ6の満充電による回生制動トルクの低下で車両減速度が変化することのないようにするのがよい。
【0064】
ステップS104においては、ブレーキペダル31が十分に踏み込まれてマスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になったか否かをチェックする。
ここにおけるマスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)の設定値は、制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったか否かを判定するための設定値とし、液圧センサ52,53(図2参照)の分解能や性能のばらつきを含む誤差を考慮して確実に摩擦制動の応答遅れの完了を判定可能な値に定める。
【0065】
ステップS104でマスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値未満である、つまり未だ制動初期を脱しておらず、摩擦制動の応答遅れが問題になる制動初期であると判定する間は、制御をステップS103に戻して、
制限された目標回生制動トルクtTm(早期回生制動トルク)と、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する協調制御を継続的に行う。
【0066】
ステップS104でマスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上である、つまり制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったと判定する場合は、制御をステップS105に進め、上記した通常の回生制動協調制御、つまり目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により補うという協調制御により、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを決定する。
【0067】
ステップS106においては、ブレーキペダルストロークBstがステップS102におけると同じ設定ストローク未満になったか否かにより、ブレーキペダル31が戻されたか否かをチェックする。
ステップS106でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク未満でない(ブレーキペダル31が戻されておらず、未だ制動中であると判定する間は、制御をステップS105に戻して通常の回生制動協調制御を継続する。
ステップS106でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク未満である(ブレーキペダル31が戻され、制動操作が行われていないと判定する間は、図3のループから離れて制動力の協調制御を終了する。
【0068】
図3による上記の協調制御を、図4のタイムチャートに基づき付言する。
ブレーキペダルストロークBstがマスターシリンダ圧Pmcを発生させ始める設定ストローク以上になる瞬時t1より(ステップS102)、目標制動トルクtTtotalはブレーキペダル31の踏み込み応じて図4の時系列変化で示すごとくに立ち上がる。
【0069】
瞬時t1より、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になる瞬時t2までの間は(ステップS104)、つまり未だ摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期である間は、
目標制動トルクtTtotalを発生可能最大回生制動トルクで賄い得てtTm=tTtotalにすべきところながら、目標回生制動トルクtTmに対し、前記のごとく制限された早期回生制動トルクを設定すると共に、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する協調制御を行う(ステップS103)。
【0070】
この制限された早期回生制動トルクは前記した通り、回生制動を中止せざるを得なくなって回生制動トルクが早期回生制動トルクから一気に0になった場合でも、車両の減速度が運転者に違和感を与えることのない値とし、
例えば図4の瞬時t1〜t2間における目標回生制動トルクtTmの時系列変化により示すごとく、目標制動トルクtTtotalに対し所定割合の制動トルク量と、目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量との小さい方に相当する制動トルク値である。
【0071】
マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になった瞬時t2以降は(ステップS104)、つまり制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなった後は、
通常の回生制動協調制御、つまり目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により補うという協調制御により、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを決定する(ステップS105)。
【0072】
従って瞬時t2以降は目標回生制動トルクtTmが、上記の制限された早期回生制動トルクから発生可能最大回生制動トルクへと(発生可能最大回生制動トルクが目標制動トルクよりも大きい場合は目標制動トルクへと)増大するが、
この時における目標回生制動トルクtTmの増大を、図4に例示するごとく所定の時間変化割合ΔtTmで徐々に行わせるようにすることで、高応答な回生制動トルクの急変によるショックの発生を緩和するのがよい。
【0073】
上記通常の協調制御(ステップS105)は、ブレーキペダルストロークBstが設定ストローク未満になって、ブレーキペダル31の戻り、つまり制動操作の終了が確認されるまで(ステップS106)継続し、かかる制動操作の終了時に上記通常の協調制御(ステップS105)を終える。
【0074】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例の協調制御装置によれば、
通常は目標制動トルクtTtotalを、回生制動(tTm)の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動(tTb)により実現するという協調制御を行うが、
ブレーキペダルストロークBstがマスターシリンダ圧Pmcを発生させ始める設定ストローク以上になる時から(ステップS102)、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になる時までの間(ステップS104)、つまり摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期の間は、
前記のごとくに制限された早期回生制動トルクと、摩擦制動トルクとを用いて制動を行うため、制動初期において以下の作用効果を奏し得る。
【0075】
つまり制動初期において、一方では、摩擦制動の応答遅れ分を上記の制限された早期回生制動トルクによる高応答な回生制動により補って、摩擦制動の応答遅れに伴う一時的な制動力不足に関する問題を解消することができる。
また他方では、回生制動の中止により回生制動トルクが、上記制限された早期回生制動トルクから一気に0になって、摩擦制動が制動初期の応答遅れによりこれを補い得るほど高応答に制動トルクを発生し得なくても、当該回生制動トルクの低下が上記の制限された回生制動トルクから0への落差の小さい低下であるため、違和感を伴うほどに大きく減速度が急減するという問題を生ずることもない。
【0076】
そして、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になった時をもって、摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期が終わったと判定するため、この判定が正確になって、上記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【0077】
なお本実施例においては、上記の制限された早期回生制動トルクを、目標制動トルクtTtotalに対し所定割合の制動トルク量と、目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量との小さい方に相当する制動トルク値としたことで、
回生制動の中止により回生制動トルクが一気に0になった時における車両減速度が違和感を伴うほど大きなものにならないようにするという効果を一層確実に達成することがである。
【0078】
また、上記目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量を、アンチスキッド制御装置の作動時である場合は、このアンチスキッド制御装置が作動初期に低減する制動トルク低減量に対応させ、回生制動の中止によりアンチスキッド制御による制動トルクの初期低減を実現するようにしたことで、高応答なアンチスキッド制御を行うことができることになる。
【0079】
更に目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量を、回生電力を蓄電するバッテリ6の蓄電状態SOCに応じ変化させるようにしたため、
バッテリ6が過充電により破損されるのを防止したり、バッテリ6の満充電による回生制動トルクの低下で車両減速度が変化するのを回避することができる。
【0080】
加えて、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上になった時(摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期が終わった時)以降、目標回生制動トルクtTmを上記の制限された早期回生制動トルクから通常の協調制御値へと増大させるに際し、
この目標回生制動トルクtTmの増大を、図4に例示するごとく所定の時間変化割合ΔtTmで徐々に行わせるようにしたため、高応答な回生制動トルクの急変によるショックの発生を緩和することができる。
【0081】
<第2実施例の制動力協調制御>
図5は、本発明の第2実施例になる協調制御の制動力協調制御プログラムを示し、本実施例においても車両のブレーキシステムは、図1,2におけると同様なものとし、
図1における統合コントローラ8が、図3に代え図5の制御プログラムを実行して、本発明が狙った通りの制動力協調制御を遂行すべく、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを以下のように求める。
【0082】
図5の制御プログラムは、図3の制御プログラムと略同じもので、図3におけると同様な処理を行うステップを同一符号により示し、重複説明を避けた。
相違点のみを説明すると、ステップS102でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になった(マスターシリンダ液圧Pmcが発生し始めた)と判定する間、ステップS103で実行される早期回生制動トルクの出力(目標回生制動トルクtTmに早期回生制動トルクを設定し、目標制動トルクtTtotalに対する不足分を目標摩擦制動トルクtTbに割り当てる)制御の終了タイミングを、第1実施例(図3のステップS104)と違って、ステップS204で以下のごとくに決定する。
【0083】
図5のステップS204においては、インプットロッド34とプライマリピストン32cとの相対変位量Δx(前記した処から明らかなごとく実摩擦制動トルクに相当)の、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTbに相当)に対する偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になったか否かをチェックする。
ここにおける設定偏差は、制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったか否かを判定するための設定値とし、相対変位量Δxに係わるセンサの分解能や性能のばらつきを含む誤差を考慮して確実に摩擦制動の応答遅れの完了を判定可能な値に定める。
【0084】
ステップS204で相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差以上である、つまり未だ制動初期を脱しておらず、摩擦制動の応答遅れが問題になる制動初期であると判定する間は、制御をステップS103に戻して、
制限された目標回生制動トルクtTm(早期回生制動トルク)と、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する協調制御を継続的に行う。
【0085】
ステップS204で相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になった、つまり制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったと判定する場合は、制御をステップS105に進めて通常の回生制動協調制御、つまり目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により補うという協調制御により、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを決定する。
【0086】
図5による上記の協調制御を、図6のタイムチャートに基づき付言する。
図6も、図4と同じブレーキペダル操作が行われ、ブレーキペダルストロークBstがマスターシリンダ圧Pmcを発生させ始める設定ストローク以上になる瞬時t1より(ステップS102)、目標制動トルクtTtotalがブレーキペダル31の踏み込み応じて図4と同様に立ち上がる状況を示す。
【0087】
瞬時t1より、相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になる瞬時t2までの間は(ステップS204)、つまり未だ摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期である間は、
目標制動トルクtTtotalを発生可能最大回生制動トルクで賄い得てtTm=tTtotalにすべきところながら、目標回生制動トルクtTmに対し、制限された早期回生制動トルクを設定すると共に、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する協調制御を行う(ステップS103)。
【0088】
この制限された早期回生制動トルクは、第1実施例につき前記した通り、回生制動を中止せざるを得なくなって回生制動トルクが早期回生制動トルクから一気に0になった場合でも、車両の減速度が運転者に違和感を与えることのない値とし、
図6の瞬時t1〜t2間における目標回生制動トルクtTmの時系列変化により示すごとく、目標制動トルクtTtotalに対し所定割合の制動トルク量と、目標制動トルクtTtotalのうちの設定制動トルク量との小さい方に相当する制動トルク値である。
【0089】
相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になった瞬時t2以降は(ステップS204)、つまり制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなった後は、
通常の回生制動協調制御、つまり目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により補うという協調制御により、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを決定する(ステップS105)。
【0090】
これにより瞬時t2以降、目標回生制動トルクtTmを上記早期回生制動トルクから発生可能最大回生制動トルクへと(発生可能最大回生制動トルクが目標制動トルクよりも大きい場合は目標制動トルクへと)増大させるに際しては、
この目標回生制動トルクtTmがステップ的に増大するのではなく、図6に例示するごとく所定の時間変化割合ΔtTmで徐々に行わせるようにすることで、高応答な回生制動トルクの急変によるショックの発生を緩和するのがよい。
【0091】
上記通常の協調制御(ステップS105)は、ブレーキペダルストロークBstが設定ストローク未満になって、ブレーキペダル31の戻り、つまり制動操作の終了が確認されるまで(ステップS106)継続し、かかる制動操作の終了時に上記通常の協調制御(ステップS105)を終える。
【0092】
<第2実施例の効果>
上記した第2実施例の協調制御装置によっても、ブレーキペダルストロークBstがマスターシリンダ圧Pmcを発生させ始める設定ストローク以上になる時から(ステップS102)、相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になるまでの間(ステップS204)、つまり摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期の間は、
制限された早期回生制動トルクと、摩擦制動トルクとを用いて制動を行うため、制動初期において第1実施例による前記の作用効果を全て奏し得る。
【0093】
そして第2実施例においては特に、相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になった時をもって、摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期が終わったと判定するため、この判定が正確になって、上記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【0094】
<第3実施例の協調制御>
図7は、本発明の第3実施例になる協調制御の制動力協調制御プログラムを示し、本実施例においても車両のブレーキシステムは、図1,2におけると同様なものとし、
図1における統合コントローラ8が、図3,5に代え図7の制御プログラムを実行して、本発明が狙った通りの制動力協調制御を遂行すべく、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを以下のように求める。
【0095】
図7の制御プログラムは、図3,5の制御プログラムと略同じもので、図3,5におけると同様な処理を行うステップを同一符号により示し、重複説明を避けた。
相違点のみを説明すると、ステップS102でブレーキペダルストロークBstが設定ストローク以上になった(マスターシリンダ液圧Pmcが発生し始めた)と判定する間、ステップS103で実行される早期回生制動トルクの出力(目標回生制動トルクtTmに早期回生制動トルクを設定し、目標制動トルクtTtotalに対する不足分を目標摩擦制動トルクtTbに割り当てる)制御の終了タイミングを、第1実施例(図3のステップS104)における要件と、第2実施例(図5のステップS204)における要件との双方が揃った時をとし、ステップS304で以下のごとくに決定する。
【0096】
図7のステップS304においては、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が図3のステップS104におけると同様な設定値以上であり、且つ、インプットロッド34およびプライマリピストン32c間の相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との間における偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が図5のステップS204におけると同様な設定偏差未満であるか否かをチェックする。
【0097】
図7のステップS304は、これら2要件がともに揃った時、制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったと判定し、これら2要件の一方でも欠ける時、未だ制動初期を脱しておらず、摩擦制動の応答遅れが問題になる制動初期であると判定する。
ステップS304で未だ制動初期を脱しておらず、摩擦制動の応答遅れが問題になる制動初期であると判定する間は、制御をステップS103に戻して、
制限された目標回生制動トルクtTm(早期回生制動トルク)と、不足分を補う目標摩擦制動トルクtTbとにより目標制動トルクtTtotalを実現する協調制御を継続的に行う。
【0098】
ステップS304で制動初期でなくなって摩擦制動の応答遅れが問題にならなくなったと判定するとき、制御をステップS105に進めて通常の回生制動協調制御、つまり目標制動トルクtTtotalを回生制動の優先利用により実現し、不足分を摩擦制動により補うという協調制御により、目標回生制動トルクtTmおよび目標摩擦制動トルクtTbを決定する。
【0099】
<第3実施例の効果>
上記した第3実施例の協調制御装置によっても、ブレーキペダルストロークBstがマスターシリンダ圧Pmcを発生させ始める設定ストローク以上になる時から(ステップS102)、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上であり、且つ、相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との間における偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になるまでの間(ステップS304)、つまり摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期の間は、
制限された早期回生制動トルクと、摩擦制動トルクとを用いて制動を行うため、制動初期において第1実施例による前記の作用効果を全て奏し得る。
【0100】
そして第3実施例においては特に、マスターシリンダ圧Pmc(摩擦制動トルク)が設定値以上であり、且つ、相対変位量Δx(実摩擦制動トルク)と、目標相対変位量Δx*(目標摩擦制動トルクtTb)との偏差(目標摩擦制動トルクtTbに対する摩擦制動トルクの偏差)が設定偏差未満になった時をもって、摩擦制動の応答遅れが問題となる制動初期が終わったと判定するため、この判定が第1実施例および第2実施例よりも正確になって、上記の効果を一層顕著なものにすることができる。
【0101】
なお第1実施例〜第3実施例の何れも、制動初期は目標回生制動トルクtTmに制限された早期回生制動トルクを設定し、これと、目標摩擦制動トルクtTbとの共働により目標制動トルクtTtotalを実現することを趣旨とするが、摩擦制動の応答遅れにより実摩擦制動トルクが目標摩擦制動トルクtTbに追従せず、目標回生制動トルクtTmの上記した制限により、狙い通りに目標制動トルクtTtotalを実現し得ないことがあったとしても、制動初期の時間は極短い一瞬であるため、問題になることはない。
【符号の説明】
【0102】
1L,1R 左右前輪
2L,2R 左右後輪
3 モータ(回転電機)
4 減速機
5 モータコントローラ
6 バッテリ(蓄電器)
7 インバータ
8 統合コントローラ
9L,9R,10L,10R ブレーキディスク
11L,11R,12L,12R ブレーキユニット
13 ブレーキ液圧制御装置
14 液圧ブレーキコントローラ
21 モータ回転センサ
22 車輪速センサ群
23 前後加速度センサ
24 アクセル開度センサ
25 バッテリ蓄電状態センサ
26 ブレーキペダルストロークセンサ
27 マスターシリンダ液圧センサ
31 ブレーキペダル
32 マスターシリンダ
32b セカンダリピストン
32c プライマリピストン
33 マスターシリンダ圧制御機構
33a ボールネジ軸
33b ボールネジナット
34 インプットロッド
46 マスターシリンダ圧制御モータ
47 減速機構
51 マスターシリンダ圧制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動操作に応じた目標制動トルクを、回生制動の優先利用により実現し、不足分を、前記制動操作に応動する摩擦制動により実現するようにした複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制動操作が開始された直後の制動初期は、前記回生制動の優先利用に代わる制限された回生制動トルクと、前記摩擦制動による摩擦制動トルクとを用いて制動を行うよう構成したことを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制限された回生制動トルクは、回生制動の禁止により回生制動トルクが0になっても違和感を与えることのない制動トルク値であることを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制限された回生制動トルクは、前記目標制動トルクに対し所定割合の制動トルク量と、前記目標制動トルクのうちの設定制動トルク量との小さい方に相当する制動トルク値であることを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
摩擦制動システム中におけるアンチスキッド制御装置の作動時は前記目標制動トルクのうちの設定制動トルク量を、アンチスキッド制御装置が作動初期に低減する制動トルク低減量に対応させ、回生制動の中止によりアンチスキッド制御による制動トルクの初期低減を実現するよう構成したことを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記目標制動トルクのうちの設定制動トルク量は、回生電力を蓄電する蓄電器の蓄電状態に応じて変化するものであることを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制動初期は、前記摩擦制動トルクが設定値未満である期間であり、摩擦制動トルクが該設定値以上になった後は、前記回生制動の優先利用と、不足分を補う前記摩擦制動とにより前記目標制動トルクを実現するよう構成したことを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制動初期は、前記摩擦制動トルクと該摩擦制動トルクの制御指令値との間における摩擦制動トルク偏差が設定値以上である期間であり、摩擦制動トルク偏差が該設定値未満になった後は、前記回生制動の優先利用と、不足分を補う前記摩擦制動とにより前記目標制動トルクを実現するよう構成したことを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載された複合ブレーキの協調制御装置において、
前記制動初期の後における、前記制限された回生制動トルクから前記優先利用に基づく回生制動トルクへの回生制動トルクの増大を、所定の時間変化割合で徐々に行わせるよう構成したことを特徴とする複合ブレーキの協調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230528(P2011−230528A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99677(P2010−99677)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】