説明

複合金属箔とその製造方法及び回路基板

【課題】アルミニウムを基体とし、該基体の表裏面に容易に銅又は銅を主成分とする銅合金をメッキし、該メッキ表面に熱加工時の耐熱性に優れる防錆処理層を設けた複合金属箔を提供することにある。
【解決手段】アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層がこの順で設けられている複合金属箔である。また、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層、シランカップリング剤保護層がこの順で設けられている複合金属箔である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、民生用や産業用の電子部分を構成する回路基板、或いはハイブリット自動車や電気自動車に搭載される回路基板に適した複合金属箔、及びその製造方法に関するものである。
また本発明の前記複合金属箔を絶縁基板に積層した回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
民生用、産業用、ハイブリット自動車や電気自動車用の回路基板には、高発熱性電子部品や高発熱性制御回路電子部品等が高密度に実装されるために、高い耐熱性、放熱性と耐熱衝撃性に優れ、高信頼性を有する回路基板の提供が望まれている。
このような要望に対し、銅−アルミニウム銅複合金属箔からなる回路基板が特許文献1で提案されている。しかし、特許文献1に開示されている銅−アルミニウム銅複合金属箔はアルミニウムの両面に銅メッキしたもの、或いはアルミニウム箔と銅箔とを圧延法により複合したもので、具体的にはアルミニウムの厚み(10μm以上500μm未満)、銅箔の厚み(1μm以上)についてのみ開示され、その製造方法、防錆方法についての具体的な開示はなされていない。
【0003】
アルミニウム箔表面に銅メッキを施す従来の一般的な方法は、先ずアルミニウム箔表面を強アルカリ域(pH12以上)に処方された苛性ソーダ浴および亜鉛メッキ溶液でジンケート処理後、銅層をメッキで形成する。
しかし、このジンケート処理溶液は硫酸亜鉛等の化合物を高濃度苛性ソーダに溶解するので、陰イオン系不純物質(硫酸痕など)が混在し、電解メッキ効率が低下する不具合があり、また、亜鉛含有の高濃度アルカリ廃液は他に使用用途がないため廃水処理に大きな負担がかかる等の不具合があった。
【0004】
また、銅箔表面には防錆処理がなされている。例えば金属クロムメッキ処理に代表されるようなクロメート防錆処理、ベンゾトリアゾールやその誘導体に代表される有機防錆処理剤による防錆処理がなされている。これらの防錆処理は電子回路基板に大きな影響を与えるものではないが、前者は防錆効果には優れるが他の機器との接続を超音波溶接で行うときに、超音波接合性に高エネルギーを要し生産コストに影響を与えるとの指摘がなされている。また、後者は他の部品等との密着性や超音波溶接性に不具合を起すことはないが防錆力効果、特に樹脂基板や電子部品搭載時の熱処理工程で稀に防錆被膜が破壊され長期の使用で腐食による回路不具合を発生する等の指摘がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−196738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記技術上の不具合(課題)を解消し、アルミニウムを基体とし、該基体の表裏面に容易に銅又は銅を主成分とする銅合金をメッキし、該メッキ表面に熱加工時の耐熱性に優れる防錆処理層を設けた複合金属箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合金属箔は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層がこの順で設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の複合金属箔は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層、シランカップリング剤保護層がこの順で設けられていることを特徴とする。
【0009】
前記シランカップリング剤保護層の付着珪素量は0.001〜0.015mg/dmであることが好ましい。
【0010】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上に銅メッキで銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設けることを特徴とする。
【0011】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上に銅メッキで銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設けることを特徴とする。
【0012】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に銅メッキで銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設けることを特徴とする。
【0013】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に銅メッキで銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設けることを特徴とする。
【0014】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴にてヤケメッキ処理層を設け、該ヤケメッキ処理層上に銅メッキで銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設けることを特徴とする。
【0015】
本発明の複合金属箔の製造方法は、アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴にてヤケメッキ処理層を設け、該ヤケメッキ処理層上に陰極電解メッキ処理で銅層を設け、該銅層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設けることを特徴とする。
【0016】
本発明の回路基板は、前記複合金属箔を絶縁基板と積層したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、アルミニウムを基体とし、該基体の表裏面に銅層又は銅を主成分とする銅合金層が設けられ、該銅または銅合金層表面にインジウム防錆層が設けられているので、民生用、産業用、ハイブリット自動車や電気自動車用の回路基板素材として、高発熱性電子部品や高発熱性制御回路電子部品等を高密度に実装することができ、高い耐熱性、放熱性と耐熱衝撃性に優れ、高信頼性を有する回路基板に適した複合金属箔を提供することができる。
【0018】
本発明回路基板は、アルミニウムを基体とし、該基体の表裏面に銅層又は銅を主成分とする銅合金層が設けられ、該銅または銅合金層表面にインジウム防錆層が設けられている複合金属箔を絶縁基板に積層しているので、民生用、産業用、ハイブリット自動車や電気自動車用の回路基板として、高発熱性電子部品や高発熱性制御回路電子部品等を高密度に実装することができ、高い耐熱性、放熱性と耐熱衝撃性に優れ、高信頼性を有する回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明複合金属箔の製造工程の一実施形態を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先ず、図1により本発明複合金属箔の製造工程を簡単に説明する。
基体となるアルミニウム箔1表面を表面洗浄および活性化処理槽10に通し、該表面に洗浄および活性化処理を施す。洗浄および活性化処理槽10の浴組成は希硫酸と硝酸の混酸である。
洗浄および活性化されたアルミニウム箔2は水洗槽9で水洗され、封孔処理槽20に導かれて封孔処理される。封孔処理槽20には高温の苛性ソーダ溶液が充填されている。
封孔処理されたアルミニウム箔3は水洗槽9で水洗され、亜鉛メッキ処理槽30に導かれてジンケート処理される。亜鉛メッキ処理槽30には酸化亜鉛溶液が充填されている。
【0021】
ジンケート処理された箔4は水洗槽9で水洗され、一次薄銅処理槽40へ導かれて薄い銅層が施される。一次薄銅処理槽40にはピロリン酸銅溶液が充填され、箔4の表面に極薄い銅メッキ層が施される。
薄い銅メッキ層が施された箔5は水洗槽9で水洗され、二次薄銅処理槽50へ導かれて銅メッキ層が施される。二次薄銅処理槽50には硫酸銅溶液が充填され、所定厚さの銅層が施される。
銅層が施された箔6は水洗槽9で水洗され、インジウム防錆槽60に導かれ、防錆被膜が施される。インジウム防錆槽60には硫酸インジウム溶液が充填されて、銅層表面に防錆層が施される。
防錆被膜が施された箔7は水洗槽9で水洗され、第一シランカップリング剤槽71、第二シランカップリング剤槽72に導かれ、シランカップリング剤保護層が施される。シランカップリング剤保護層が施された箔8は乾燥装置80で乾燥し、巻取り装置90に巻き取られる。
【0022】
個々の工程につき詳細に説明する。
本発明は基体となるアルミニウム箔の表面に薄い銅メッキ層を設ける。
先ず、アルミニウム箔1の表裏面に前処理として希薄な硫酸−硝酸混合液により表面洗浄と表面活性化処理を施す。表面洗浄および活性化処理槽10は、例えば0.5規定濃度の硫酸と1.0規定濃度の硝酸とを混合した混酸浴で、浴温は常温〜35.0℃、陽極電解電流密度は0.5〜3.5A/dmの適宜値を選択し、アルミニウム箔1表面の洗浄(脱脂)と活性化処理とを同時に行う。
【0023】
次に活性化されたアルミニウム箔2表面を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)70.0〜120.0g/l、浴温85.0〜95.0℃の封孔処理槽20で封孔処理を施す。封孔処理によりアルミニウム箔表面はポーラス(浸透可能な空隙孔又はマイクロポロシテー)状な柱状くぼみ(凹形状)が塞がれ、かつ平滑均一化される。このような封孔処理は次工程での酸化亜鉛(ジンケートメッキ処理)による金属亜鉛層の形成を容易にする。
【0024】
本発明では、酸化亜鉛によるメッキ層の形成(ジンケートメッキ処理)は、酸性域で電解メッキ処理による金属亜鉛メッキ手法による。酸性域での電解メッキ処理手法とは、汎用のジンケート処理の浴条件が強アルカリ域(pH12以上)に処方されているのに対して、ベースとなる浴を予め酢酸酸性(pH2.5〜3.8範囲)に調整し、該酢酸酸性メッキ液中に亜鉛を溶解する。
亜鉛メッキ処理槽30の浴組成は、酢酸を用いてpHを2.5〜3.8、浴温を18.5〜28.5℃の範囲に設定し、酸化亜鉛を5.0〜30.0g/l溶解する。
酸性領域で電解メッキする理由は、金属亜鉛濃度維持の簡便さと電流効率が安定することによるメッキ層の均一化を図るためである。因みに電流密度は、0.5〜5.5A/dmの範囲で適宜値を選択する。陰極電解メッキでは高電流値域を選択し、パルス電解メッキでは低電流値を選択することが好ましい。
なお、酸化亜鉛以外に塩化亜鉛、硫酸亜鉛も選択できるがメッキ層内に塩素や硫黄が取り込まれることがあり、金属結晶間に膨れ(カーケンダルボイド)が発生する不具合が懸念されるので好ましいものではない。
【0025】
公知の強アルカリ域(pH12以上)に処方された酸化亜鉛メッキ浴でのジンケート処理は、高濃度苛性ソーダの濃度管理を怠ると陽極の不動態化をまねく恐れがある。一方酢酸酸性メッキ液に金属亜鉛又は酸化亜鉛を溶解すると、メッキ液の亜鉛濃度管理が最適となり、電解メッキによる亜鉛付着量を容易にコントロールでき、次工程の亜鉛メッキ層上に設ける薄銅メッキ層形成処理をより容易にするばかりか、アルミニウム箔表面と銅層との界面の密着性を強固なものとする。
また、公知のジンケート処理溶液は硫酸亜鉛等を苛性ソーダに溶解するので、浴中に陰イオン系不純物質(硫酸痕など)が混在し、電解メッキ効率を低下させたが、酢酸酸性メッキ液に金属亜鉛又は酸化亜鉛を溶解すると、浴中に陰イオン系不純物質(硫酸痕など)の混在がなく電解メッキ効率は安定する。
【0026】
酢酸酸性メッキ液に金属亜鉛又は酸化亜鉛を溶解した電解廃液は、簡便な水処理工程に供する場合には蒸発濃縮乾固が容易であり、希薄な水洗洗浄液中に溶解する亜鉛化合物は容易に酸性側のpH値に調整することが容易なために、RO(逆浸透膜式水処理フィルター)設備での処理やイオン交換式処理設備での水処理が容易に行なえ、廃水処理の負担が軽減される。
【0027】
銅層の製膜条件として、ジンケート処理層上に直接銅層を設けることも可能であるが、好ましくは、ジンケート処理層上に銅の下地層を設ける。銅下地層はピロリン酸銅ストライクメッキで施す。ピロリン酸銅ストライクメッキは一次薄銅処理槽40で施す。ピロリン酸銅ストライク浴の浴組成は、ピロリン酸銅10.0〜150.0g/l、ピロリン酸カリウム250.0〜400.0g/l、アンモニア水1.0〜5.0ml/l、pH10.0〜12.0、浴温20〜60℃で、電流密度1.0〜8.0A/dmで陰極電解メッキ法、パルス電解メッキ法等で1.0μm程度の厚さに銅層を設ける。
【0028】
上記のようにジンケート処理層上に銅の下地層を設け、該下地層上に銅層を設けるが、好ましくはピロリン酸銅ストライク浴にて設けた銅下地層上に、陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴(図示せず)にてヤケメッキ処理層を設け、該ヤケメッキ処理層上に銅メッキで銅層を設ける。
ヤケメッキによる銅層形成のヤケメッキ浴は、例えば硫酸浴とし、硫酸濃度100g/lに、金属銅として23.5g/lを溶解させたものが好ましく、更に砒素を0.150g/l、塩素イオンを0.002g/l添加することで健全なヤケメッキが達成できる。このときのメッキ条件は、浴温度を25.5℃、電解メッキ電流密度を28.5A/dmとすることで、0.5〜1.5μm程度の厚さに製膜できる。この場合ヤケメッキ処理層が容易に脱落しない様に、硫酸−銅浴による平滑メッキによるカプセルメッキを施すことで、1.0〜2.5μm程度の粗化粒を有する銅層が完結する。
【0029】
二次薄銅処理槽50は硫酸銅からなる電解液を用いるのが好ましく、浴条件は、硫酸80.0〜110.0g/l、硫酸銅200.0〜250.0g/l、浴温50℃、陰極電解電流密度20A/dmで、2.0〜7.5μm程度の厚さの薄銅電解メッキ層を陰極電解メッキ法、パルス電解メッキ法等で施す。
なお、この電解メッキ工程で電解液に必要に応じてメッキ硬度を高めるために金属成分としてタングステン、錫を、メッキ均一性を促すために塩素化合物を若干量添加することも好ましい。
タングステンあるいは錫の組成は、化合物の物性にもよるがそれぞれ金属成分として250ppm程度を添加する。また、塩素化合物は遊離塩素イオンとして0.5〜2.5ppm範囲で処方することが好ましい。この処方により電解メッキされた銅層の硬度は、取り込まれる金属量によって差異はあるが、0.05%程度の共析(合金化)により、30%以上の硬度増加が達成される。因みに0.15%の錫を含有する銅合金箔の場合には、通常の銅箔が80〜95Hv(ビッカース硬度値)に対し、125〜150Hvの硬度となる。
【0030】
防錆被膜を施すインジウム防錆処理槽60は、硫酸インジウム(III)が1.0〜3.0g/lの水溶液(浸漬処理の場合には3.0g/l、陰極電解処理の場合には1.0g/l)が充填され、陰極電解処理の場合には電流密度を1.0A/dmで処理し、インジュウム付着量として浸漬処理でも電解処理の場合でも0.003〜0.025mg/dm付着させることが好ましい。
【0031】
防錆処理層の表面に必要によりシランカップリング剤からなる保護層を設ける。シランカップリング剤保護層は単一保護層であっても複数(図1は2層の場合を例示している。)からなる保護層であってもよく、シランカップリング剤の付着量は珪素として0.001〜0.015mg/dmとすることが望ましい。
シランカップリング剤による保護層の形成は回路基板を構成する絶縁板(絶縁基板)との関係で任意に選択する。即ち、防錆層上に設ける絶縁基板との密着性が十分に得られる場合はシランカップリング剤保護層の形成は不必要である。しかし、防錆層と絶縁基板との密着性が十分に得られない場合はシランカップリング剤保護層を設け、絶縁基板との密着性の向上を図る。シランカップリング剤保護層として異なるシランカップリング剤を複数層重ね塗工することにより絶縁基板との密着性をより高めることができる。この場合のシランカップリング剤の選択は、銅箔面側には最外層のインジウム防錆層との親和性に優れる例えばメトキシ基やエトキシ基を有するエポキシ系のカップリング剤を、樹脂側には同様にメトキシ基やエトキシ基を有する例えばビニル系やアミノ系のカップリング剤を選択して組み合わせることが好ましい。
【0032】
本発明の複合金属箔の製造方法は、圧延や電解により製造された公称8〜20μm厚みのアルミニウム箔を希酸浴で洗浄処理、活性化処理し、次いでポーラス状の表裏面を高温高濃度の苛性ソーダ浴中に浸漬させて該表面を封孔処理する。
次いで該表裏表面に酢酸酸性メッキ浴で亜鉛メッキを施し、導電性を高める効果を有する0.1〜1.0μm厚みの金属亜鉛層を設ける。更に、該金属亜鉛層の表面に必要により一次薄銅層をストライクメッキし、次いで別組成の銅メッキ浴において銅層のビルドアップメッキを行ない表裏面に健全な薄銅層(厚さ1.0〜9.5μm)を設ける。上述したように亜鉛層は酢酸酸性浴で付着される。酢酸酸性浴で亜鉛層を付着することで理論的には不明であるがその上に設ける銅層との密着性が強固なものとなる。
仕上げとして銅層の表面にインジウムを主成分とする防錆処理を施し、必要に応じてシランカップリング剤による保護層を設ける。
【0033】
本発明の複合金属箔は銅−アルミニウム銅で構成されるので、必要とされる導電性、耐熱性、熱伝導性等の特性を維持しつつ重量軽減になり、EV,HEV自動車の車両重量に対する回路部品の占める割合を大幅に軽減でき、エネルギーの有効活用の観点からも好ましい。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
公称厚み18μm(単重量で48.6g/m)の脱脂済みの圧延アルミニウム箔で、その表裏の形状がJIS−B−0601に規定のRz値が0.35μm前後のアルミニウム箔(古河スカイ株式会社製造の圧延アルミニウム箔)を用いて以下の条件で表面処理を施した。
【0035】
〔洗浄および活性化浴組成と処理条件〕
硫酸・・・・・・・・24.5 g/l
硝酸・・・・・・・・63.0 g/l
浴温度・・・・・・・23.5 ℃
処理方法・・・・・・・浸漬
【0036】
〔封孔処理浴組成と処理条件〕
水酸化ナトリウム・・・・・・・・110.0 g/l
浴温度・・・・・・・・・・・・・・90.0 ℃
処理方法・・・・・・・・・・・・・浸漬
【0037】
〔金属亜鉛メッキ浴と処理条件〕
酸化亜鉛(金属亜鉛として)・・・・・・20.0 g/l
酢酸酸性浴のpH・・・・・・・・・・・・2.8
浴温度・・・・・・・・・・・・・・・・23.5 ℃
陰極パルス電解メッキ平均電流密度・・・・0.5 A/dm
オンタイム(通電)設定・・・・・・・・・・10 ms
オフタイム(非通電)設定・・・・・・・・・60 ms
【0038】
〔一次薄銅メッキ浴組成と処理条件〕
ピロリン酸銅・・・・・・・・・・・・110.0 g/l
ピロリン酸カリウム・・・・・・・・・350.0 g/l
アンモニア水・・・・・・・・・・・・・・3.0 ml/l
pH・・・・・・・・・・・・・・・・・11.8
浴温度・・・・・・・・・・・・・・・・40.0 ℃
陰極電解メッキ電流密度・・・・・・・・・5.5 A/ddm
【0039】
〔二次薄銅メッキ浴組成と処理条件〕
硫酸銅(金属銅として)・・・・・・・・・52.5 g/l
硫酸として・・・・・・・・・・・・・・100.0 g/l
塩酸(塩素イオンとして)・・・・・・・・・2.0 mg/l
浴温度:・・・・・・・・・・・・・・・・45.5 ℃
陰極電解メッキ電流密度・・・・・・・・・18.5 A/dm
【0040】
〔防錆被膜浴組成と処理条件〕
硫酸インジウム(III)9水和物(金属インジウムとして)・・1.0 g/l
浴温・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23.5 ℃
pH・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.5
陰極電解メッキ処理電流密度・・・・・・・・・・・・・1.0 A/dm
付着量は0.003〜0.025mg/dm
【0041】
〔シランカップリング剤保護層浴組成と処理条件〕
エポキシ系のシランカップリング剤(チッソ製サイラエースS−510)
・・・・・・・・・・・・・・0.5 wt%
浴温・・・・・・・・・・・23.5 ℃
処理方法・・・・・・・・・・浸漬
【0042】
得られた複合金属箔につき、銅−アルミニウム界面の金属間剥離と金属間膨れの有無を観察・評価し、その結果を表1に記載した。
〔金属間剥離の評価〕
金属間剥離有無の評価は、複合金属箔の一方の面と市販のFR4規格のガラスエポキシ系樹脂基板(日立化成工業株式会社製LX-67Nプリプレグ使用)とを加熱プレス積層(180〜205℃*25Kgf/cm*60〜90min)して張り合わせた積層板とし、複合金属箔を硬化エポキシ基板面より10.0m/m幅で適宜な強度で引き剥がし、その時の界面がエポキシ面とであった場合を「○」、銅層とアルミニウム面であった場合を「×」とした。
【0043】
〔金属間膨れの評価〕
金属間での膨れの有無評価は、前記積層板を50mm角に切断して試験片とし、PCT(プレッシャークッカーテスト)試験条件(相対湿度100%、2気圧、121℃、120分)下で前処理を行い、次いでその試験片を265℃に設定された半田浴に30秒浸漬させて、膨れの発生有無を観察し、膨れの生じなかった試験片は「◎」、膨れたものは「●」とし、更に膨れた試験片の界面がエポキシ面とであった場合は「○」、銅−アルミニウム面であった場合を「×」とした。
【0044】
〔銅−アルミニウム銅複合金属箔の防錆効果の測定〕
銅−アルミニウム銅複合金属箔の防錆効果の測定は、JIS-Z−2371に規定される塩水噴霧試験(塩水濃度:5%−NaCl、温度35℃)条件下で、24時間後に該処理箔の表裏表面が酸化銅に変色しない場合を「○」、多少でも酸化銅変色が見られた場合を「△」、顕著な変色を呈した場合「×」とした。
【0045】
〔表面張力の測定〕
更に、防錆被膜形成後の表面張力の測定は、JIS−K−6768に規定されるJIS濡れ試薬(和光純薬工業株式会社製)にて該表面の濡れ性を測定した。測定結果を、数値22.6mN/m〜73.0mN/m(数値が小さい程疎水性を示し、数値が大きい程親水性で濡れ易い)の範囲で比較し、その結果を表1に記載した。
【0046】
〔防錆被膜と絶縁基板との密着性〕
前記「金属間剥離の評価」で作成した積層板に、複合金属箔側を1mm幅で深さを該箔以上とした溝を10mm間隔で加工し、該JIS測定対応の引っ張り強度試験器を用いて、引張速度50mm/分、引張角度90°で該10mm幅の複合金属層を引き剥がし、この際の引き剥がし強度を、剥離強度として測定し、その結果を表1に記載した。
【0047】
〔クロスカット試験〕
クロスカット試験の目的は、回路基板における銅箔と絶縁基板との間の剥離(密着耐性)を評価する。評価はJIS−K5600に規定する測定手段で行った。なお、このJISには「この方法を付着性を測定手段とみなしてはならない」と書かれてあるため、あくまで本試験は、実施例および比較例との相対的な「良・否」を判定する定性的試験方法として用いた。この試験において、全く剥がれのなかった場合を「◎」、5ケ以下の場合を「○」、10ケ以下の場合を「△」、30ケ以下を「×」、30ケを超える場合を「■」として表1に記載した。
【0048】
〔防錆被膜の耐薬品性〕
複合金属箔を絶縁基板に貼り付けた後に、複合金属箔表面に10mm間隔で1mm幅のサーキットテープ(株式会社 寺岡製作所製)を用い5本の直線回路を作製した後、塩化銅エッチング液で、ラインとスペース10mm間隔(L/S=1mm/10mm)の簡易回路を加工し、試薬塩酸1に対して純水1の(1+1)塩酸水溶液(室温)中に30分浸漬させた後に、該細線回路箔を引き剥がし、その引き剥がされた側のエッジ部分を実体光学顕微鏡にて目視観察し、薬品による侵食(アンダーカット)程度を、全く侵食が見られず剥離面が直線的であるものを「○」、部分的に侵食がみられ、剥離面の一部に変色が見られるものを「△」、剥離面に顕著に侵食がみられ直線的に変色部が見られるものを「×」、剥離面に幅方向に貫通する侵食が見られるものを「■」と評価し、その結果を表1に記載した。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1で用いたアルミニウム箔を実施例1の一次薄銅メッキ後に陰極電解粗化銅ヤケメッキ処理工程を追加した以外は、二次薄銅メッキ工程以降は実施例1と同様の処理を行い、処理後の表裏の表面粗度がRz値で2.5μmとした。実施例1と同様の評価測定を行った結果を表1に併記する。
【0050】
〔陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴組成と処理条件〕
硫酸銅(金属銅として)・・・・・・・・・・・・ 23.5 g/l
硫酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110.0 g/l
モリブデン酸ナトリウム(モリブデンとして)・・・ 0.25 g/l
硫酸第二鉄(金属鉄として)・・・・・・・・・・ 0.20 g/l
硫酸クロム(三価クロムとして)・・・・・・・・ 0.20 g/l
塩酸(塩素イオンとして)・・・・・・・・・・・ 1.5 mg/l
浴温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23.5 ℃
陰極電解メッキ電流密度・・・・・・・・・・・・28.5 A/dm
【0051】
〔比較例1〕
実施例1で用いたアルミニウム箔に代えて公称厚み10μm(単重量で89.3g/m)の両面光沢形状でクロメート防錆処理が施されている両面光沢電解銅箔(古河電気工業株式会社製のNC-WS箔)を用いて、実施例1と同様の評価測定を行った結果を表1に併記する。尚、該両面光沢電解箔の表裏の形状はJIS−B−0601に規定のRz値で0.95〜1.15μmであった。
【0052】
〔比較例2〕
実施例1で用いたアルミニウム箔に代えて公称厚み10μm(単重量で89.3g/m)の両面光沢形状で有機防錆処理が施されている電解銅箔(古河電気工業株式会社製のNB-WS箔)を用いて、実施例1と同様の評価測定を行った結果を表1に併記する。尚、該両面光沢電解箔の表裏の形状はJIS−B−0601に規定のRz値で0.95〜1.15μmであった。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1〜2の複合金属箔は、アルミニウム基体と銅メッキ界面で剥離を発生させることなく健全に均一電解メッキが完結されていた。絶縁基板を対象にした密着性は、実施例1が比較例に対して若干の優位性がみられたが、実施例2は、それらを遥かに凌ぐものであった。
防錆効果は、比較例の評価結果が実用上で問題ないことから実施例1と2の評価結果を以ってしても、実用性に支障なく満足するものであった。
また、耐薬品性、クロスカット試験、絶縁基板との密着性についても遜色のない結果となった。
【0055】
上述したように本発明の「銅−アルミニウム−銅」からなる複合金属箔は、従来汎用的に採用されている回路基板用銅箔と遜色のない特性を有し、使用用途によっては軽量化が同時に達成できる優れた効果を有するものである。
【0056】
また、本発明銅箔の製造方法によれば、一貫した工程で製造できるので、該銅−アルミニウム−銅からなる複合金属箔を安価に製造することができ、今後産業用や民生用の回路基板としての供給面でも特性面でも十分に対応することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 アルミニウム箔
10 洗浄および活性化処理槽
20 封孔処理槽
30 亜鉛メッキ処理槽
40 一次薄銅処理槽
50 二次薄銅処理槽
60 インジウム防錆槽
70 第一シランカップリング剤槽
80 第二シランカップリング剤槽
9 水洗槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層がこの順で設けられている複合金属箔。
【請求項2】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に亜鉛層、銅層、インジウム防錆層、シランカップリング剤保護層がこの順で設けられている複合金属箔。
【請求項3】
前記銅層は電解メッキ層と平滑メッキ層(カプセルメッキ層)とで構成されている請求項1又は2に記載の複合金属箔。
【請求項4】
前記シランカップリング剤保護層の付着珪素量は0.001〜0.015mg/dmである請求項1又は2に記載の複合金属箔。
【請求項5】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上に銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上に銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項7】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解メッキ処理で銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解メッキ処理で銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項9】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴にてヤケメッキ処理層を設け、該ヤケメッキ処理層上に陰極電解メッキ処理で銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム箔の少なくとも一方の表面に酢酸浴で亜鉛メッキ層を設け、該亜鉛メッキ層上にピロリン酸銅ストライク浴にて銅下地層を設け、該下地層上に陰極電解粗化銅ヤケメッキ浴にてヤケメッキ処理層を設け、該ヤケメッキ処理層上に陰極電解メッキ処理で銅メッキ層を設け、該銅メッキ層上にインジウム防錆層を設け、該防錆層上にシランカップリング剤保護層を設ける複合金属箔の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の複合金属箔を回路導体とし、該回路導体を絶縁基板に積層してなる回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−57207(P2012−57207A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200569(P2010−200569)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】