説明

複層成形品の製造方法及びそれによって得られる複層成形品

【課題】象嵌細工品の如き美麗で且つ高級感に富んだ複層成形品を有利に製造する技術を提供する。
【解決手段】樹脂フィルム16の表面に、それよりも小さな加飾材24を固着して、表皮材12を形成した後、少なくとも一部が平滑部44とされたキャビティ面42を有する成形キャビティ46内に、表皮材12の表面のうち、加飾材24の表面とそれを取り囲む樹脂フィルム16の加飾材包囲部分26の表面とを含む部分が、キャビティ面42の平滑部44に接触乃至は対向せしめられた状態で、表皮材12を収容配置し、その後、成形キャビティ46内に、基材を与える樹脂材料54を射出、充填して、目的とする複層成形品を成形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層成形品の製造方法とそれによって得られる複層成形品に係り、特に、樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が一体的に積層形成される一方、その表面に、加飾材が固着されてなる複層成形品の有利な製造方法と、それによって得られる複層成形品とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定の意匠が施された樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品が、様々な装置や設備の意匠パネル等として広く利用されており、例えば、自動車等では、コンソールアッパーパネルやラジオケースカバー、インストルメントパネル等の内装用パネルとして、多く用いられてきている。
【0003】
そして、そのような複層成形品を製造する際には、通常、先ず、樹脂フィルムとして、目的とする複層成形品の表面形状に対応した形状に成形されると共に、必要に応じて、一方の面の全面に、所望の意匠を表現する各種の模様等が、例えば公知の印刷手法等により印刷形成されたものが、準備される。次いで、この樹脂フィルムが、射出成形金型に形成される成形キャビティ内にセットされた後、かかる成形キャビティ内に、所定の樹脂材料が、溶融状態で射出、充填される。そして、その後、成形キャビティ内の樹脂材料が冷却固化されることにより、樹脂フィルムの裏面に対して、基材が一体的に積層形成される。かくして、上記せる構造の複層成形品は、従来、所謂フィルムインモールド成形手法を利用して、製造されているのである(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
ところで、かかる複層成形品の中には、意匠性の更なる向上や使用性の向上等を目的として、表面に、それよりも小さな模様や図柄、或いは文字や目印等が付与されて、表面の一部が加飾されてなるものがある。そして、この表面が部分的に加飾された複層成形品の多くは、樹脂フィルムとは別個の部材からなる、樹脂フィルムの表面よりも小さな加飾材を、フィルムインモールド成形によって得られる成形品の表面の所定部位に固着することで、製造されている。
【0005】
ところが、そのような従来手法にて、表面が部分的に加飾された複層成形品を製造する際には、通常、フィルムインモールド成形品の表面に位置決め凹部が設けられて、加飾材が、かかる位置決め凹部内に嵌入乃至は収容された状態で固着されるところから、最終的に得られる複層成形品の表面における加飾材の外周面と位置決め凹部の内周面との間に、微細な隙間が形成されることが、避けられなかった。また、位置決め凹部を形成することなく、フィルムインモールド成形品の表面に加飾材を固着した場合、加飾材の周囲に、微細な隙間が何等形成されないものの、目的とする複層成形品の表面と加飾材との間に、加飾材の厚さに応じた段差が、不可避的に形成されるようになっていた。
【0006】
このため、かくの如き従来手法にて製造された、表面が部分的に加飾された複層成形品においては、例えば、所定の素材表面に設けた凹所内に、素材とは異なる物品を隙間や段差なく嵌入する、所謂象嵌細工によって得られる細工品の如き美麗で且つ高級感に富んだ印象を得ることが、到底出来なかったのである。
【0007】
なお、表面の一部に加飾層が予め印刷形成された樹脂フィルムを用いて、フィルムインモールド成形を行うことより、表面が部分的に加飾された複合成形品を得る方法も、一部で採用されている。かかる手法によれば、加飾材を樹脂フィルムの表面に固着する前述の如き手法とは異なって、加飾層と樹脂フィルムの表面との段差が実質的に無くされ得る。しかしながら、よく知られているように、所定の被印刷面に形成される印刷層と被印刷面との境界部分を美麗に為すには、印刷層の周囲に、見切りのための微細な溝を形成する必要があり、従って、樹脂フィルムの表面に加飾層を印刷形成する場合にあっても、加飾層の周囲に形成される隙間(溝)を省略することが出来ず、結局、最終的に得られる複合成形品において、象嵌細工品の如き優れた印象を得ることが不可能であったのである。
【0008】
【特許文献1】特開平 9−109179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、樹脂フィルムの表面に、それよりも小さな加飾材が固着される一方、樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品を、象嵌細工品の如き美麗で且つ高級感に富んだ印象が得られるような構造をもって製造することが出来る方法と、そのような優れた印象を有する複層成形品とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、複層成形品の製造方法に係る課題の解決のために、その要旨とするところは、樹脂フィルムの表面に、該表面よりも小さな加飾材が固着される一方、該樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品の製造方法であって、(a)前記樹脂フィルムと前記加飾材とをそれぞれ準備する工程と、(b)該樹脂フィルムの表面に、該加飾材を固着して、表皮材を形成する工程と、(c)少なくとも一部が平滑部とされたキャビティ面を有する成形キャビティ内に、前記表皮材を収容せしめて、該表皮材の表面のうち、少なくとも前記加飾材の表面と該加飾材を取り囲む前記樹脂フィルムの加飾材包囲部分の表面とを含む部分を、前記キャビティ面の平滑部に接触乃至は対向させると共に、該表皮材の裏面を該成形キャビティ内に露呈させた状態で、配置する工程と、(d)前記成形キャビティ内に、前記基材を与える前記樹脂材料を射出、充填して、該樹脂材料の射出圧によって、該表皮材の前記表面部分の全体を前記キャビティ面の平滑部に密接させると共に、該表皮材の裏面に、前記基材を一体的に積層形成する工程とを含むことを特徴とする複層成形品の製造方法にある。
【0011】
なお、かかる本発明に従う複層成形品の製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂材料を用いて形成される。
【0012】
また、本発明に従う複層成形品の製造方法の望ましい別の態様の一つによれば、前記樹脂フィルムの表面に、位置決め凹部が設けられて、前記加飾材が、該位置決め凹部内に収容された状態で、固着される。
【0013】
そしてまた、本発明は、複層成形品に係る課題を解決するために、樹脂フィルムの表面に、該表面よりも小さな加飾材が固着される一方、該樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品であって、上記せる製造方法によって製造されてなることを特徴とする複層成形品をも、その要旨とするものである。
【0014】
なお、本発明は、前記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、上記に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、上記に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、上記に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【発明の効果】
【0015】
すなわち、本発明に従う複層成形品の製造方法にあっては、樹脂フィルムの表面に加飾材が固着された表皮材を成形キャビティ内に収容した状態で、かかる成形キャビティ内に樹脂材料を射出、充填したときに、射出圧に基づく押圧力が、表皮材に対して、その裏面側から作用せしめられ、それにより、加飾材の表面と、この加飾材を取り囲む樹脂フィルムの加飾材包囲部分の表面とを含む表皮材の表面部分が、成形キャビティにおけるキャビティ面の平滑部に対して、射出圧にて密接せしめられるようになる。このため、例えば、準備された表皮材において、加飾材の表面と樹脂フィルムの加飾材包囲部分の表面との間に段差が形成されていても、表皮材の裏面に基材が一体的に積層形成された後には、そのような段差が効果的に消失され、それによって、表皮材の表面において、加飾材の表面と樹脂フィルムの加飾材包囲部分の表面とが、面一と為され得る。
【0016】
また、仮に、加飾材が、樹脂フィルムの表面に設けられた位置決め凹部内に嵌入乃至は収容された状態で固着されてなる表皮材が準備されて、かかる表皮材における加飾材の外周面と位置決め凹部の内周面との間に微細な隙間が形成されていたとしても、表皮材の裏面への基材の射出成形時に、表皮材の裏面側に作用せしめられる射出圧に基づく押圧力により、樹脂フィルムが、その裏面側から均等に押圧されて、位置決め凹部の内周面が、加飾材の外周面に密接せしめられ、以て、それら加飾材と位置決め凹部との間の隙間が、有利に消失され得るようになる。
【0017】
それ故、このような本発明手法では、樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が一体的に積層形成される一方、その表面に、加飾材が、樹脂フィルム表面に設けた凹所内に、隙間や段差なく、ぴったりと嵌入せしめられた如き状態において固着され得るようになる。
【0018】
従って、かくの如き本発明に従う複層成形品の製造方法によれば、樹脂フィルムの表面に、それよりも小さな加飾材が固着されてなる、目的とする複層成形品が、従来のフィルムインモールド成形を利用した手法では到底得られない、象嵌細工品の如き美麗で且つ高級感に富んだ印象をもって、極めて有利に製造され得ることとなるのである。
【0019】
また、このような製造方法によって製造される、本発明に従う複層成形品においては、意匠性の更なる向上や高級感の向上が有利に図られ得、それによって、例えば高級感が不足するために使用が困難であった用途等に対しても、広く利用され得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
先ず、図1及び図2には、本発明手法に従って製造された複層成形品の一例として、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネル(蓋体)が、その正面形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、カバーパネル10は、その表面側部分を構成する表皮材12と、裏面側部分を構成する基材14とを一体的に有している。
【0022】
そして、表皮材12は、全体として、略薄肉の矩形筐体形状を呈する樹脂フィルム16を更に有している。この樹脂フィルム16は、図3に示されるように、例えば、アクリル樹脂等の熱可塑性を有する透明な合成樹脂材料を用いて形成されたベース層18の一方の面の全面に、所定の模様(例えば、木目模様等)を有する印刷層20が、公知の印刷手法により印刷形成されてなる積層体として、構成されている。このように、樹脂フィルム16の表面、つまりカバーパネル10の表面が、アクリル樹脂製のベース層18にて構成されていることで、カバーパネル10表面の耐候性や耐衝撃性が高められて、かかるカバーパネル10の表面に疵が付き難くなっている。
【0023】
また、図1及び図2に示される如く、そのような積層体からなる樹脂フィルム16の略中央部の表面(ベース層18の印刷層20側とは反対側の面)には、細長い矩形の位置決め凹部22が、裏面側に所定高さ突出位置する底部を有して、形成されている。つまり、かかる位置決め凹部22は、樹脂フィルム16の略中央部分が、薄肉化されることなく、裏面側に突出するように凹まされてなる形態を呈し、底部と側壁部のそれぞれの肉厚が、樹脂フィルム16の位置決め凹部22の形成部位以外の部位と略同一の肉厚とされているのである。
【0024】
そして、このような樹脂フィルム16の位置決め凹部22内には、その内周面形状に対応した細長い矩形状のアルミニウム片からなる加飾材24が、位置決めされて、隙間なくぴったりと、しかも表面を、樹脂フィルム16の表面と面一と為した状態で、嵌め込まれて、固着されている。
【0025】
かくして、ここでは、表皮材12が、樹脂フィルム16の表面に加飾材24が固着されてなる樹脂成形体として、構成されている。そして、そのような表皮材12の表面の全面に、樹脂フィルム16を構成する透明なベース層18の裏面の全面に形成された印刷層20にて、木目模様が付与され、また、表皮材12の表面の一部には、樹脂フィルム16の表面よりも小さな加飾材24にて、所定の目印が付与されているのである。
【0026】
一方、カバーパネル10の裏面側部分を構成する基材14は、全体として、表皮材12よりも厚肉で且つそれよりも一周り小さな矩形筐体形状を呈している。また、ここでは、この表皮材12が、例えばABS樹脂等、表皮材12のベース層18を構成するアクリル樹脂よりも融点の低い熱可塑性樹脂材料を用いて、形成されている。
【0027】
そして、そのような基材14が、表皮材12の裏面の全面に対して一体的に積層形成されており、以て、カバーパネル10が、それら表皮材12と基材14との一体的な積層品として、構成されているのである。
【0028】
ところで、かくの如き構造とされたカバーパネル10は、例えば、以下の如き手順に従って、製造されることとなる。
【0029】
すなわち、先ず、樹脂フィルム16と加飾材24とが、それぞれ準備される。そして、ここでは、樹脂フィルム16として、図3及び図4に示される如く、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂からなるベース層18と、かかるベース層18の全面に印刷形成された木目模様を呈する印刷層20とからなり、全体として、略薄肉の矩形筐体形状を呈すると共に、表面の略中央部に、細長い矩形の位置決め凹部22が設けられてなるものが、準備される。一方、加飾材24としては、かかる位置決め凹部22の内側形状よりも僅かに小さな形状と、位置決め凹部22の深さよりも僅かに大きな厚みとを有するアルミニウム片が、準備される。
【0030】
なお、樹脂フィルム16は、例えば、それを与える熱可塑性樹脂材料(ここでは、アクリル樹脂)からなる薄肉矩形平板状の原料フィルムに対する加圧成形や真空成形等を行うことにより、或いはかかる熱可塑性樹脂材料を用いたスタンピング成形等を行うことにより、位置決め凹部22を有するように形成されたベース層18に対して、印刷層20が、例えばスクリーン印刷手法等により印刷形成されることで、容易に得られることとなる。
【0031】
次に、図5に示される如く、上記のようにして準備された樹脂フィルム16の位置決め凹部22内に、加飾材24が、収容配置されて、位置決めされると共に、かかる位置決め凹部22の底面に対して、接着剤を用いた接着により固着される。これによって、表皮材12が形成される。
【0032】
なお、かくして形成される表皮材12においては、加飾材24の大きさが位置決め凹部22よりも僅かに小さくされているところから、図6に示されるように、加飾材24の外周面と位置決め凹部22の側面(内周面)との間に、僅かな隙間25が、全周に亘って連続して延びるように形成されている。また、加飾材24の厚さが位置決め凹部22の深さよりも僅かに大きくされているため、位置決め凹部22内に収容されて、固着された加飾材24の表面部分が、その全面に亘って、位置決め凹部22内から、僅かな高さだけ突出位置せしめられている。そして、それにより、表皮材12において、加飾材24の表面と、位置決め凹部22を取り囲む加飾材包囲部分26の表面との間に、僅かな高さの段差:Dが形成されている。
【0033】
また、かくして表皮材12が形成される一方で、例えば、図7に示される如き公知の構造を有する射出成形用金型27が、準備される。この射出成形用金型27は、位置固定の固定盤28に取り付けられた固定型30と、固定盤28に対して接近/離隔移動可能とされた可動盤32に取り付けられて、固定型30と対向配置された可動型34とを有している。
【0034】
また、かかる射出成形用金型27における固定型30の可動型34との対向面には、略矩形状のキャビティ形成凸部36が、一体的に設けられ、そして、このキャビティ形成凸部36の外面の全面が、目的とするカバーパネル10の内面形状に対応した形状を有する固定型側キャビティ面38とされている。一方、可動型34の固定型30との対向面には、キャビティ形成凸部36が突入可能で、それよりも一周り大なる大きさの矩形凹所からなるキャビティ形成凹部40が設けられている。そして、このキャビティ形成凹部40の内面の全面が、目的とするカバーパネル10の外面形状に対応した形状を有する可動型側キャビティ面42とされており、また、この可動型側キャビティ面42のうち、キャビティ形成凹部40の底面からなる部分が、平滑面からなる平滑部44とされている。
【0035】
かくして、かかる射出成形用金型27にあっては、可動盤32の固定盤28への接近移動に伴う固定型30と可動型34との型閉めにより、キャビティ形成凸部36がキャビティ形成凹部40内に突入せしめられることで、固定型側キャビティ面38と可動型側キャビティ面42との間に、目的とするカバーパネル10の外形形状に対応した成形キャビティ(46)が形成されるようになっている(図9参照)。
【0036】
また、このような射出成形用金型27では、固定盤28に、図示しない射出成形機のノズルが接触せしめられるスプルーブッシュ48が設けられていると共に、固定型30に対して、スプルーブッシュ48のスプルー50に連通して、前記キャビティ形成凸部36の固定型側キャビティ面38において開口するサブスプルー52が形成されている。これによって、固定型30と可動型34とが型閉めされて、成形キャビティ(46)が形成された状態下で、図示しない射出成形機のノズルから射出される合成樹脂材料が、スプルー50とサブスプルー52とを通じて、成形キャビティ(46)内に導かれ得るようになっている(図11参照)。
【0037】
そして、かくの如き構造を有する射出成形用金型27が準備されたら、図8に示されるように、固定型30と可動型34との型開き状態で、表皮材12が、可動型34のキャビティ形成凹部40内にセットされる。その後、図9に示される如く、固定型30と可動型34とが型閉めされることによって、キャビティ形成凸部36の固定型側キャビティ面38とキャビティ形成凹部40の可動型側キャビティ面42との間に、成形キャビティ46が形成されると共に、かかる成形キャビティ46内に、表皮材12が、その裏面を固定型側キャビティ面38に対向させて、成形キャビティ46内に露呈せしめられた状態で、収容、配置される。
【0038】
なお、前述せる如く、樹脂フィルム16の位置決め凹部22内に固着された加飾材24の表面部分が、その全面に亘って、位置決め凹部22内から突出位置せしめられて、かかる加飾材24の表面と前記加飾材包囲部26の表面との間に段差:Dが形成されている。そのため、本工程で、表皮材12が成形キャビティ46内に収容配置された際には、図9及び図10から明らかな如く、キャビティ形成凹部40の可動型側キャビティ面42における平滑部44に対して、表皮材12の表面(印刷層20の形成側とは反対側の面)が、部分的に接触して、或いは対向して、位置せしめられるようになる。
【0039】
つまり、表皮材12の表面のうち、位置決め凹部22内に固着された加飾材24の表面(位置決め凹部22の底面への固着側とは反対側の面)の全面が、可動型側キャビティ面42の平滑部44に接触位置せしめられるようになる。また、表皮材12における加飾材包囲部分26の表面、換言すれば、樹脂フィルム16における矩形筐体形状の天板部位のうちの位置決め凹部22形成部位を除く部位の表面が、可動型側キャビティ面42の平滑部44に対して、段差:Dの高さに対応した、僅かな距離を隔てて対向配置されるようになるのである。なお、このような表皮材12の成形キャビティ46内への収容配置状態下においても、加飾材24の位置決め凹部22内への固着によって、加飾材24の外周面と位置決め凹部22の側面との間に形成された前記隙間25は、そのまま維持されている。
【0040】
さらに、本工程では、表皮材12が成形キャビティ46内に収容配置された状態において、表皮材12の表面のうち、樹脂フィルム16における矩形筐体形状の側壁部位の表面部分が、全周に亘って、キャビティ形成凹部40の側面を構成する可動型側キャビティ面42部分に接触するように配置される。これによって、後述する如く、成形キャビティ46内に樹脂材料が射出された際に、かかる樹脂材料が表皮材12の表面側に回り込むことが阻止され得るようになっている。
【0041】
そうして、表皮材12が成形キャビティ46内に収容配置されたら、図11に示されるように、表皮材12の樹脂フィルム16よりも融点の低い、例えば熱可塑性樹脂(ここでは、ABS樹脂が用いられる)からなる溶融樹脂54が、図示しない射出成形機のノズルから、スプルー50とサブスプルー52とを通じて、所定の射出圧をもって成形キャビティ46内に射出されて、成形キャビティ46内の、固定型側キャビティ面38と成形キャビティ46内に収容配置された表皮材12の裏面との間に充填される。
【0042】
このとき、表皮材12の樹脂フィルム16が、高温の溶融樹脂54との接触により加熱されて、軟化せしめられ、また、そのような樹脂フィルム16の軟化状態下で、表皮材12の裏面に対して、溶融樹脂54の射出圧に基づく押圧力が作用せしめられて、表皮材12の裏面が、可動型側キャビティ面42側に向かって略均等に押圧されるようになる。これにより、表皮材12が塑性変形せしめられて、図12に示されるように、表皮材12の加飾材包囲部分26の表面が、可動型側キャビティ面42の平滑部44に密接せしめられて、段差:Dが消失されると共に、位置決め凹部22の側面の全面が、加飾材24の外周面の全面に密接せしめられて、それらの間の隙間25が、完全に消失せしめられる。そうして、加飾材24が、位置決め凹部22内に、隙間なくぴったり嵌め込まれ、しかも表面が、加飾材包囲部分26の表面と面一とされた状態となる。
【0043】
そして、そのような状態下において、所定時間が経過すると、成形キャビティ46内の溶融樹脂54が冷却固化せしめられ、それによって、表皮材12の裏面の全面に対して、基材(14)が一体的に積層形成されて、それら表皮材12と基材(14)との一体的な積層成形品(複層成形品)が形成される。その後、固定型30と可動型34とが型開きされて、かかる積層成形品が、離型せしめられ、以て、図1及び図2に示される如き構造を有する、目的とするカバーパネル10が得られることとなるのである。
【0044】
このように、本実施形態では、基材14が裏面に形成される前の表皮材12において、位置決め凹部22の側面と加飾材24の外周面との間に微小な隙間25が形成されると共に、加飾材24の表面と樹脂フィルム16における加飾材包囲部分26の表面との間に段差:Dが存在せしめられているにも拘わらず、単に、かかる表皮材12を成形キャビティ46内の所定位置に、収容配置した状態で、一般的な射出成形(フィルムインモールド成形)を行うだけで、かかる隙間25や段差:Dが消失されて、加飾材24が、位置決め凹部22内に、隙間なくぴったり嵌め込まれ、しかも加飾材24の表面と加飾材包囲部分26の表面とが面一とされたカバーパネル10が、製造されることとなる。
【0045】
従って、かくの如き本実施形態によれば、従来のフィルムインモールド成形手法を実施する場合と比べて、特殊な操作や余分な作業を何等行うことなく、象嵌細工品の如き美麗で且つ高級感に富んだ印象を備えたカバーパネル10が、極めて容易に且つ有利に製造され得ることとなるのである。そして、そのようにして得られたカバーパネル10を、例えば高級感が不足するために、従来では使用が困難であった用途等に対しても、広く適用することが可能となるのである。
【0046】
また、本実施形態では、樹脂フィルム16として、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂材料を用いて形成されたものが用いられていることで、表皮材12が収容配置された成形キャビティ46内に溶融樹脂54を射出した際に、樹脂フィルム16が軟化されて、容易に塑性変形可能な状態と為され得るようになっており、それによって、表皮材12の裏面に基材14が一体的に積層形成されると同時に、前記隙間25や段差:Dが、より容易に且つ一層確実に消失せしめられ得る。
【0047】
さらに、本実施形態では、樹脂フィルム16の表面に位置決め凹部22が設けられて、この位置決め凹部22内に、加飾材24が収容された状態で固着されているため、加飾材24を、最終的に得られるカバーパネル10の予め定められた位置に、確実に形成できるといった利点がある。
【0048】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0049】
例えば、前記実施形態では、樹脂フィルム16の表面に、加飾材24の位置決めを行うための位置決め凹部22が形成されて、かかる位置決め凹部22内に、加飾材24が収容された状態で、固着されていたが、この位置決め凹部22を省略して、加飾材24を、樹脂フィルム16の表面に固着するように為しても、何等差し支えない。そして、そのように、位置決め凹部22を省略した場合には、樹脂フィルム16の成形時に使用される金型等の構造が簡略化され得て、樹脂フィルム16、ひいてはカバーパネル10の製造設備の低コスト化等が有利に図られ得るといった利点がある。
【0050】
なお、位置決め凹部22を省略した場合には、表皮材12が収容配置された成形キャビティ46内への溶融樹脂54の射出圧による表皮材12(樹脂フィルム16)の変形によって、樹脂フィルム16の表面と加飾材24の表面との間の段差:Dが消失され得るように、樹脂フィルム16の厚さや材質、加飾材24の厚さ、溶融樹脂54の射出圧の大きさ等が、適宜に設定されることとなる。
【0051】
また、樹脂フィルム16や基材14を構成する樹脂材料の種類、形状、厚さ等は、例示のものに、特に限定されるものでないことは、勿論である。
【0052】
さらに、樹脂フィルム16は、少なくとも樹脂材料からなるベース層18を有しておれば良く、従って、かかるベース層18のみにて構成されたものであっても良い。また、ベース層18に印刷層20が二層以上積層形成されたもの、或いはかかる印刷層20に代えて若しくはそれに加えて、ベース層18とは別の樹脂層が、一層以上積層形成されたものであっても良いのである。
【0053】
さらに、加飾材24の材質も、例示のものに限定されるものではなく、例えば、加飾材24を樹脂材料にて構成しても良い。なお、樹脂材料の中でも、アクリル樹脂を用いて加飾材24を構成する場合、加飾材24表面の耐候性や耐衝撃性が高められて、かかる加飾材24の表面に疵が付き難くなるといった利点が得られる。また、加飾材24を、複数の樹脂層が一体的に積層形成されてなる複層品にて構成したり、或いは樹脂材料と金属材料等、互いに異なる種類の材料を用いて形成された複合成形品にて構成することも出来る。
【0054】
更にまた、加飾材24の形状や大きさは、樹脂フィルム16よりも小さいものであれば、何等限定されるものではない。
【0055】
また、前記実施形態では、表皮材12の成形キャビティ46内への配置状態下で、樹脂フィルム16(表皮材12)における加飾材包囲部分26の表面が、可動型側キャビティ面42の平滑部44に対して、僅かな距離を隔てて対向位置せしめられていたが、それら加飾材包囲部分26の表面と平滑部44とが接触位置せしめられるようになっていても良い。また、加飾材24の表面が、かかる平滑部44に対して、僅かな距離を隔てて対向位置せしめられていても良い。
【0056】
さらに、平滑部44の全体形状や形成位置は、最終的に得られる、複層成形品としてのカバーパネル10の形状等によって、適宜に変更され得るものである。
【0057】
更にまた、前記実施形態においては、目的とする複層成形品としてのカバーパネル10の製造に際して、キャビティ形成凸部36が設けられた固定型30と、キャビティ形成凹部40が設けられた可動型34とを有する射出成形用金型27が用いられていたが、かかる構造とされた射出成形用金型27の代わりに、キャビティ形成凹部40が設けられた固定型30と、キャビティ形成凸部36が設けられた可動型34とを有する射出成形用金型27を用いることも出来る。
【0058】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネルとその製造方法に適用したものの具体例を示したが、本発明は、他の自動車用内装部品や自動車用内装部品以外の部品乃至は部材を構成する複層成形品とその製造方法の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0059】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に従う構造を有する複層成形品の一実施形態を示す正面説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面説明図である。
【図3】図2におけるIII部拡大説明図である。
【図4】本発明に従って、図1に示された複層成形品を製造するのに準備された樹脂フィルムを示す縦断面説明図である
【図5】本発明に従って、図1に示された複層成形品を製造する際の一工程例を示す説明図であって、樹脂フィルムに加飾材を固着して、表皮材を形成した状態を示している。
【図6】図5におけるVI部拡大説明図である。
【図7】本発明に従って、図1に示された複層成形品を製造するのに準備された射出成形用金型を示す縦断面説明図である
【図8】図5に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、射出成形用金型の可動型に対して、表皮材をセットした状態を示している。
【図9】図8に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、射出成形用金型を型閉めして、成形キャビティを形成すると共に、かかる成形キャビティ内に表皮材を収容配置した状態を示している。
【図10】図9におけるX部拡大説明図である。
【図11】図9に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内に溶融樹脂を射出、充填した状態を示している。
【図12】図11におけるXII部拡大説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 カバーパネル 12 表皮材
14 基材 16 樹脂フィルム
22 位置決め凹部 24 加飾材
25 隙間 26 加飾材包囲部分
27 射出成形用金型 42 可動型側キャビティ面
44 平滑部 46 成形キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの表面に、該表面よりも小さな加飾材が固着される一方、該樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品の製造方法であって、
前記樹脂フィルムと前記加飾材とをそれぞれ準備する工程と、
該樹脂フィルムの表面に、該加飾材を固着して、表皮材を形成する工程と、
少なくとも一部が平滑部とされたキャビティ面を有する成形キャビティ内に、前記表皮材を収容せしめて、該表皮材の表面のうち、少なくとも前記加飾材の表面と該加飾材を取り囲む前記樹脂フィルムの加飾材包囲部分の表面とを含む部分を、前記キャビティ面の平滑部に接触乃至は対向させると共に、該表皮材の裏面を該成形キャビティ内に露呈させた状態で、配置する工程と、
前記成形キャビティ内に、前記基材を与える前記樹脂材料を射出、充填して、該樹脂材料の射出圧によって、該表皮材の前記表面部分の全体を前記キャビティ面の平滑部に密接させると共に、該表皮材の裏面に、前記基材を一体的に積層形成する工程と、
を含むことを特徴とする複層成形品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂材料を用いて形成されている請求項1に記載の複層成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの表面に、位置決め凹部が設けられて、前記加飾材が、該位置決め凹部内に収容された状態で、固着されるようになっている請求項1又は請求項2に記載の複層成形品の製造方法。
【請求項4】
樹脂フィルムの表面に、該表面よりも小さな加飾材が固着される一方、該樹脂フィルムの裏面に、樹脂材料からなる基材が、射出成形により一体的に積層形成されてなる複層成形品であって、請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の製造方法によって製造されてなることを特徴とする複層成形品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−49602(P2008−49602A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228778(P2006−228778)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】