説明

複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子の電圧分担のばらつき低減方法

【課題】電力変換装置を構成する各アームが、複数の電圧駆動型半導体素子の直列接続回路で構成される場合に、各素子とこれに逆並列接続されるFWDの電圧分担にアンバラスが生じないようにする。
【解決手段】複数の電圧駆動型半導体素子Q1,Q2の電圧バランスを図るために設けられるテイル期間バランス回路の抵抗Rs1,Rs2と並列に、コンデンサCds1,Cds2を接続することにより、素子Q1,Q2と逆並列に接続されているFWDの過渡動作が速い領域での電圧アンバランスも抑制(低減)できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子(以下、単に素子とも略記する)と、これに並列に接続されるダイオードの過渡時および定常時の電圧分担のばらつきを抑制または低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、特許文献1に開示されたこの種の従来例を示す。同図において、Q1,Q2は素子(ここでは、IGBT:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)で、電力変換装置を構成する或るアームに、2つの素子を直列接続した例である。GDU1,GDU2はそれぞれゲート駆動回路、Tcは各ゲート線を磁気結合して各素子のスイッチングタイミングやゲートタイミングを一致させるためのコア(ゲート線に流れる電流が異なれば、その差分に応じてゲート線のインピーダンスが瞬時に変化し、各ゲート電流が一致してばらつきが抑制される)、コンデンサCs1と抵抗Rs1およびコンデンサCs2と抵抗Rs2の直列回路BT1,BT2は、素子のテイル期間に発生する電圧アンバランスを抑制するテイル期間バランス回路、抵抗Rd1,Rd2はQ1,Q2が定常オフ時に発生する電圧アンバランスを抑制する定常電圧バランス回路BV1,BV2である。
【0003】
図4に素子ターンオフ時の各部波形を示す。VCE(Q1),VCE(Q2)はそれぞれ素子Q1,Q2の電圧、Ic(Q1),Ic(Q2)はそれぞれ素子Q1,Q2の電流、破線は電圧バランス回路が接続されていないときの波形を示す。
図4のように、ターンオフ時の動作をモード1,モード2およびモード3の3つのモードに分けると、モード1はスイッチング直後の電流変化が大きい過渡動作期間、モード2は素子のテイル電流が非常に小さい電流変化率で流れる過渡動作期間、またモード3は素子がオフとなる定常動作期間となる。
【0004】
モード1での電圧アンバランスは、ゲート駆動回路からの信号のタイミングばらつき、または、ゲートしきい値のばらつきであり、これらは図3に示すコアTcによって電圧アンバランスを抑制することができる。
一方、モード2での電圧アンバランスは、テイル電流値のばらつきによるものである。ここで、図4のようにQ2のテイル電流の方がQ1のテイル電流よりも大きいと仮定し、このときの図3の等価回路を図5に示す。Ic(Q1),Ic(Q2)はそれぞれQ1,Q2のテイル電流、Coes1,Coes2はそれぞれQ1,Q2の出力容量を示す。図5の回路において、Ic(Q1)<Ic(Q2)となると、差分の電流はCoes1に流れるため、図4のようにVCE(Q1)がVCE(Q2)よりも上昇し、電圧アンバランスが発生する。
【0005】
ここで、テイル期間バランス回路を接続すると、コンデンサCs1とCs2によって見かけ上のQ1,Q2の入力容量が増えるため、アンバランスを抑制することができる。しかし、これらのコンデンサはターンオフ・オン時に充放電されるため振動が発生し、電流容量が大きくなってしまうので、これを防止するために抵抗Rs1,Rs2を接続する。このとき、テイル期間バランス回路の動作が先のモード2の電圧アンバランスに追従するように、時定数Cs・Rs(ここに、Cs=Cs1=Cs2,Rs=Rs1=Rs2)を、電圧アンバランスとなる時定数τよりも小さくなるように設定する。また、上記の振動が発生しないようにRsを設定する。
【0006】
図6に、テイル期間バランス回路の等価回路を示す。
図示のように、配線インダクタンスLs,Cs,RsおよびIGBTから構成される回路となる。この回路において、IGBTがオンしたときの動作を説明する。この場合、Csの電荷は、図の一巡の経路で放電される。いま、この経路の制動係数ζを1以上とすれば、電流を振動させることなく放電することができる。ζは次式で示される。
ζ=Rs√(Cs/Ls)/2≧1
これより、
Rs≧2×√(Ls/Cs)
となるので、これらの式を満たすようにRs(Rs1,Rs2)を決定する。
【0007】
また、モード3において素子Q1,Q2の漏れ電流が異なると、図5と同様な原理で電圧アンバランスが生じる。そこで、これらの漏れ電流よりも大きな電流を流すことができるRs1,Rs2を接続することで、モード3での電圧アンバランスを抑制する。
【0008】
【特許文献1】特開2005−167535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、特許文献1に開示された図3の構成により、素子に対する電圧アンバランスを全モードにおいて抑制することができる。
しかし、素子と並列に接続されているフリーホイールダイオード(FWD)が、ターンオフする(逆回復)際に発生する電圧アンバランスの抑制効果は、テイル期間と定常期間(モード2とモード3)である。モード1での電圧アンバランスは、FWDの特性をあわせ込むことで抑制できるが、逆回復時の過渡動作は非常に速くなる(電圧変化率が大きい)電流値の特異点があり、電圧アンバランスが発生する傾向にある。
【0010】
その電圧アンバランスをテイル期間バランス回路で吸収させることもできるが、上記の非常に速い過渡動作に効果を持たせるためには、テイル期間バランス回路を構成している抵抗Rs1,Rs2の抵抗値を非常に小さくする必要があり、上記のような振動が発生してCs1,Cs2の実効電流値が増加する。
したがって、この発明の課題は、素子の電圧アンバランス抑制効果を保持しつつ、FWDの過渡動作の極めて速い領域での電圧アンバランスを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、電圧駆動型半導体素子をスイッチング素子として電力変換装置の各アームにそれぞれ複数個直列接続し、
前記電圧駆動型半導体素子のゲート端子とゲート駆動回路を接続するゲート線を複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子間で互いに磁気結合するコアと、コンデンサと抵抗との直列回路からなり各電圧駆動型半導体素子と並列に接続される第1の電圧バランス回路と、主として抵抗からなり各電圧駆動型半導体素子と並列に接続される第2の電圧バランス回路とを設けるとともに、前記第1の電圧バランス回路の前記抵抗と並列に他のコンデンサを接続することにより、各電圧駆動型半導体素子と、これら各素子にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードの過渡時および定常時の電圧分担のばらつきを低減することを特徴とする。
この請求項1の発明においては、前記第1の電圧バランス回路の前記抵抗として、前記他のコンデンサと同容量の内部寄生容量を持つものを選定することにより、前記他のコンデンサを省略可能にすることができる(請求項2の発明)。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、テイル期間バランス回路を構成している抵抗に対し、小さな静電容量のコンデンサを接続するだけで、スイッチング素子と逆並列接続されているFWDの過渡アンバランスをも抑制することが可能となる利点が得られる。接続するコンデンサの容量は非常に小さくて済むので、回路の大きさも従来と殆ど変わらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1はこの発明の実施の形態を示す回路図で、図3と同様IGBTを2直列接続した例である。
これは、図1からも明らかなように、抵抗Rs1とRs2にそれぞれ並列にコンデンサCds1,Cds2を接続した点が特徴である。
図2にフリーホイールダイオード(FWD)の電圧波形を示す。なお、破線はIGBTのターンオフ波形である。図2のFWDの電圧波形とIGBTのターンオフ波形を比べると、FWDの電圧変化率(dv/dt)の最大値は非常に大きい。そこで、Cds1,Cds2は、FWDのdv/dtを抑制する分だけ(図2の例えば斜線部の範囲のみのdv/dtを抑制)の小さな静電容量とする。
【0014】
これにより、FWD逆回復時の全電流領域で電圧アンバランスを低減することができる。このとき、これらコンデンサの充放電時の、テイル期間バランス回路における振動が問題になるが、静電容量が小さいことや、図2の斜線領域より小さいdv/dt領域では、上記コンデンサの弾圧は素子のdv/dtに応じて充放電されるのみであるため、振動は殆ど発生しない。よって、コンデンサの電流容量も小さくて済む。なお、dv/dtの周波数領域において、Rs1,Rs2の寄生容量がCds1,Cds2と同等以上である場合は、これらのコンデンサを追加する必要は無い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路図
【図2】図1のFWDの電圧波形図
【図3】従来例を示す回路図
【図4】図3の各部波形図
【図5】図3に示す素子の等価回路図
【図6】図3に示すテイル期間バランス回路の等価回路図
【符号の説明】
【0016】
Q1,Q2…スイッチング素子(素子:IGBT)、GDU1,GDU2…ゲート駆動回路、Tc…コア、BT1,BT2…テイル期間バランス回路、BV1,BV2…定常電圧バランス回路。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型半導体素子をスイッチング素子として電力変換装置の各アームにそれぞれ複数個直列接続し、
前記電圧駆動型半導体素子のゲート端子とゲート駆動回路を接続するゲート線を複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子間で互いに磁気結合するコアと、コンデンサと抵抗との直列回路からなり各電圧駆動型半導体素子と並列に接続される第1の電圧バランス回路と、主として抵抗からなり各電圧駆動型半導体素子と並列に接続される第2の電圧バランス回路とを設けるとともに、前記第1の電圧バランス回路の前記抵抗と並列に他のコンデンサを接続することにより、各電圧駆動型半導体素子と、これら各素子にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードの過渡時および定常時の電圧分担のばらつきを低減することを特徴とする複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子の電圧分担のばらつき低減方法。
【請求項2】
前記第1の電圧バランス回路の前記抵抗として、前記他のコンデンサと同容量の内部寄生容量を持つものを選定することにより、前記他のコンデンサを省略可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の複数個直列接続される電圧駆動型半導体素子の電圧分担のばらつき低減方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−89292(P2007−89292A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274349(P2005−274349)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】