説明

触媒CVD方法及び触媒CVD装置

【課題】大面積で質の良い薄膜を低コストの装置構成で形成することのできる触媒CVD方法及び触媒CVD装置を提供する。
【解決手段】反応室2を活性室21と成膜室22とに隔絶すると共に該活性室と該成膜室とを連通させる複数のオリフィス51が形成された仕切り板5を用い、成膜室に備えられた基板保持台6に成膜用基板Kを保持する基板保持ステップと、活性室に備えられた触媒用フィラメント4を通電により高温に加熱する加熱ステップと、反応室内を真空排気する真空排気ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを活性室に導入する第1原料ガス導入ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを成膜室に導入する第2原料ガス導入ステップとを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒反応を利用して成膜用基板上に薄膜を形成する触媒CVD方法及び触媒CVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒CVD法(触媒−化学気相成長法)とは、真空排気される反応室内に導入された原料ガスを、高温に加熱した触媒用フィラメントにより活性化させてこの原料ガス中の成分を成膜用基板上に堆積させることで成膜用基板上に薄膜を形成するCVD法である。
【0003】
この方法によると、通常の熱CVD法よりも低温で薄膜の形成が可能であると共に、プラズマCVD法に見られる基板または膜のプラズマ損傷がないため、質の良い薄膜形成体を得ることができる。また、原料ガスを活性化する手段としての触媒用フィラメントは、プラズマCVD装置において用いられるプラズマ発生手段と違って、大型化が容易であるため、比較的大面積の薄膜を形成することができる。
【0004】
この方法を用いた従来の触媒CVD装置として、図2に示すものを挙げることができる(特開平10−83988号公報参照)。図2に示すように、従来の触媒CVD装置10は、反応室12、原料ガス導入部13、触媒用フィラメント14、基板保持台16及び真空排気部17を備える。
【0005】
触媒CVD装置10において、原料ガス導入部13から導入された原料ガスは、通電により高温に加熱した触媒用フィラメント14と反応して分解される。分解された原料ガスの成分は、基板保持台16上に保持された成膜用基板K上に堆積する。これにより成膜用基板K上に薄膜が形成される。目的とする薄膜が、例えば絶縁膜であるシリコン窒化膜である場合には、原料ガスとしてシラン(SiH)とアンモニア(NH)の混合ガスを使用する。
【0006】
【特許文献1】特開平10−83988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、シランガスには爆発性があるため、原料ガスとしてシランガスを使用する場合には、耐爆設備を別途設ける必要があり、装置の製造コストが高くつくという問題があった。そこで、シリコン窒化膜の形成に際し、シランガスを使用することなく、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)とアンモニアの混合ガスを使用する方法が提案されている。ヘキサメチルジシラザンガスは、シリコン窒化膜を形成する際のシリコン源及び窒素源とされ、シランガスと違って爆発性がない。これにより、大面積のシリコン窒化膜の形成が、爆発の虞れなしに安全に実現できる。
【0008】
しかし、この場合、ヘキサメチルジシラザンガスはアンモニアガスと同時に触媒用フィラメント14に曝されるため、触媒用フィラメント14の周辺でヘキサメチルジシラザンが分解反応を起こし、その結果、炭素(C)が発生し炭素が混入したシリコン窒化膜が形成されてしまう。炭素が混入することにより、シリコン窒化膜の絶縁性や緻密性が失われてしまい、膜質が低下するという問題がある。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、大面積で質の良い薄膜を低コストの装置構成で形成することのできる触媒CVD方法及び触媒CVD装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、請求項1の発明は、真空排気される反応室2内に導入された原料ガスを、高温に加熱した触媒用フィラメント4により活性化させてこの原料ガス中の成分を成膜用基板K上に堆積させることで成膜用基板K上に薄膜を形成する触媒CVD方法において、前記反応室2を活性室21と成膜室22とに隔絶すると共に該活性室21と該成膜室22とを連通させる複数のオリフィス51が形成された仕切り板5を用い、前記成膜室22に備えられた基板保持台6に成膜用基板Kを保持する基板保持ステップと、前記活性室21に備えられた触媒用フィラメント4を通電により高温に加熱する加熱ステップと、前記反応室2内を真空排気する真空排気ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを前記活性室21に導入する第1原料ガス導入ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを前記成膜室22に導入する第2原料ガス導入ステップとを備える。
【0010】
請求項2の発明では、前記オリフィス51は、前記活性室21から前記成膜室22に向かう方向に先窄状とされてなる。
【0011】
請求項3の発明は、前記第2の原料ガスがヘキサメチルジシラザンガスである。
【0012】
請求項4の発明は、真空排気される反応室2内に導入された原料ガスを、高温に加熱した触媒用フィラメント4により活性化させてこの原料ガス中の成分を成膜用基板K上に堆積させることで成膜用基板K上に薄膜を形成する触媒CVD装置1において、前記反応室2を活性室21と成膜室22とに隔絶すると共に該活性室21と該成膜室22とを連通させる複数のオリフィス51が形成された仕切り板5を備え、前記活性室21には、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを導入するための第1原料ガス導入部3と、通電により高温に加熱可能な触媒用フィラメント4とを備え、前記成膜室22には、前記成膜用基板Kを保持するための基板保持台6と、前記反応室2内を真空排気するための真空排気部7と、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを導入するための第2原料ガス導入部8とを備える。
【0013】
請求項5の発明では、前記オリフィス51は、前記活性室21から前記成膜室22に向かう方向に先窄状とされてなる。
【0014】
請求項6の発明は、前記第2の原料ガスがヘキサメチルジシラザンガスである。
【0015】
本発明に係る触媒CVD方法によると、仕切り板5として、反応室2を活性室21と成膜室22とに隔絶すると共に該活性室21と該成膜室22とを連通させる複数のオリフィス51が形成されたものを用いている。そして、基板保持ステップにおいて、成膜室22に備えられた基板保持台6に成膜用基板Kを保持する。加熱ステップにおいて、活性室21に備えられた触媒用フィラメント4を通電により高温に加熱する。真空排気ステップにおいて、反応室2内を真空排気する。第1原料ガス導入ステップにおいて、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを活性室21に導入する。第2原料ガス導入ステップにおいて、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを成膜室22に導入する。仕切り板5が上記構成であるため、反応室2内のガスはオリフィス51を通って活性室21から成膜室22の方向に流れ、この反対方向には流れない。したがって、第2の原料ガスは成膜室22から活性室21に流れ込むことがなく、第2の原料ガスが触媒用フィラメント4によって分解されることがない。これにより、第2の原料ガスの分解によって生じる物質を不純物として混入した薄膜が形成されることが防止でき、絶縁性及び緻密性に優れた質の良い大面積の薄膜が形成できる。また、触媒用フィラメント4が第2の原料ガスに曝されないので、触媒用フィラメント4の劣化も防止することができる。更に、仕切り板5が成膜用基板9を輻射熱から保護するので、成膜用基板K及びそこに形成される薄膜がダメージを受けることが抑制される。
【0016】
本発明に係る触媒CVD装置によると、仕切り板5は、反応室2を活性室21と成膜室22とに隔絶すると共に、該活性室21と該成膜室22とを連通させる複数のオリフィス51が形成されている。そして、活性室21には、第1原料ガス導入部3と触媒用フィラメント4とを備え、成膜室22には、基板保持台6と真空排気部7と第2原料ガス導入部8とを備えるので、反応室2内のガスはオリフィス51を通って活性室21から成膜室22の方向に流れ、この反対方向には流れない。したがって、第2の原料ガスは成膜室22から活性室21に流れ込むことがなく、第2の原料ガスが触媒用フィラメント4によって分解されることがない。これにより、第2の原料ガスの分解によって生じる物質を不純物として混入した薄膜が形成されることが防止でき、絶縁性及び緻密性に優れた質の良い大面積の薄膜が形成できる。
【0017】
また、オリフィス51を活性室21から成膜室22に向かう方向に先窄状とすることにより、オリフィス51内におけるガスの流速が、上記方向に沿って増すので、ガスがオリフィス51を通って成膜室22から活性室21に流れないという効果をより一層上げることができる。
【0018】
また、ヘキサメチルジシラザンガスは、例えばシランガス等の原料ガスと違って爆発性がないので、第2の原料ガスとしてこれを用いることにより、安全性を向上させることができると共に、耐爆設備を別途設ける必要がないため装置コストが低くて済む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、大面積で質の良い薄膜を低コストの装置構成で形成することのできる触媒CVD方法及び触媒CVD装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明に係る触媒CVD装置1の概略を示す正面一部断面図である。図1に示すように、触媒CVD装置1は、反応室2、第1原料ガス導入部3、触媒用フィラメント4、仕切り板5、基板保持台6、真空排気部7及び第2原料ガス導入部8を備える。
【0021】
反応室2は、開閉可能とされたステンレス製の金属製密閉容器であり、仕切り板5を境にして上部に活性室21が形成され、下部に成膜室22が形成される。仕切り板5には活性室21と成膜室22とを連通させる複数のオリフィス51が形成されている。この複数のオリフィス51は、活性室21から成膜室22に向かう方向に先窄状とすることが好ましい。
【0022】
第1原料ガス導入部3及び触媒用フィラメント4は活性室21に備えられ、基板保持台6、真空排気部7及び第2原料ガス導入部8は成膜室22に備えられる。
【0023】
第1原料ガス導入部3は、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを導入するノズルであり、活性室21の上部に設けられ、配管31及び流量調整バルブ32を介して原料ガスタンク33に接続される。第1の原料ガスとして、アンモニアガスまたは窒素ガスが使用される。触媒用フィラメント4は、通電により高温に加熱可能なコイル状のタングステンワイヤであり、その平面視の形状が、例えば直線状、鋸波状、方形波状または螺旋状を呈するように固定配置される。
【0024】
基板保持台6は、成膜用基板Kを載置して保持可能ないわゆるサセプタであり、その内部に加熱用のヒータ61が組み込まれている。真空排気部7は、成膜室22の底部に設けられ、配管71及び流量調整バルブ72を介して真空ポンプ73に接続される。第2原料ガス導入部8は、成膜室22の側部に設けられ、配管81及び流量調整バルブ82を介して第2原料ガスタンク83に接続される。第2原料ガスとしてヘキサメチルジシラザンガスが使用される。
【0025】
次に、以上のように構成された触媒CVD装置1による成膜プロセスについて説明する。まず、基板保持台6上に成膜用基板Kを載置し、真空ポンプ73を用いて反応室2内を真空排気し、1×10−5torr程度の圧力まで減圧する。続いて、触媒用フィラメント4に通電して、この触媒用フィラメント4を1500°C程度の高温に保持する。また、ヒータ61に通電して基板保持台6を加熱することにより成膜用基板Kを加熱する。
続いて、触媒用フィラメント4の温度が一定に保持された後、第1原料ガス導入部3より、目的とする薄膜の第1の原料ガスであるアンモニアガスまたは窒素ガスを活性室21内に導入する。導入されたアンモニアガスまたは窒素ガスは、触媒用フィラメント4の周囲を通過する際に触媒作用を受ける。同時に、第2原料ガス導入部8より、第2の原料ガスであるヘキサメチルジシラザンガスを成膜室22内に導入する。
【0026】
活性室21内で触媒作用を受けたアンモニアガスまたは窒素ガスは、目的とする薄膜であるシリコン窒化膜の窒素源とされ、仕切り板5における複数のオリフィス51を通って成膜用基板Kまで到達し、そこで分解反応が行われる。また、第2原料ガス導入部8から導入されたヘキサメチルジシラザンガスは、目的とする薄膜であるシリコン窒化膜のシリコン源及び窒素源とされ、成膜用基板Kに到達し、そこで分解反応が行われる。以上のプロセスを経て、成膜用基板K上にシリコン窒化膜が形成される。
【0027】
触媒CVD装置1において、真空排気部7及び第2原料ガス導入部8は成膜室22に備えられているため、反応室2内のガスはオリフィス51を通って活性室21から成膜室22の方向に流れ、この反対方向には流れない。したがって、ヘキサメチルジシラザンガスは成膜室22から活性室21に流れ込むことがなく、ヘキサメチルジシラザンガスが触媒用フィラメント4によって分解されることがない。これにより、ヘキサメチルジシラザンガスの分解によって生じる炭素が不純物として混入した薄膜が形成されることが防止でき、絶縁性及び緻密性に優れた質の良い大面積のシリコン窒化膜が形成できる。更に、触媒用フィラメント4がヘキサメチルジシラザンガスに曝されないことにより、触媒用フィラメント4の劣化も防止することができる。そして、ヘキサメチルジシラザンガスは、爆発性がないので耐爆設備を別途設ける必要がないため、装置コストが低くて済む。
【0028】
また、仕切り板5がない場合には、成膜用基板Kは触媒用フィラメント4の輻射熱を直接受けるので、その温度が400°C以上の高温に上昇してしまうが、仕切り板5が触媒用フィラメント4と成膜用基板Kとの間に設けられているので、成膜用基板Kの温度は150°C程度に低く保持される。このように、仕切り板5は成膜用基板Kを輻射熱から保護するので、成膜用基板K及びそこに形成される薄膜がダメージを受けることが抑制される。
【0029】
上の実施形態において、触媒CVD装置1の全体または各部の構成、構造、形状、材質、導入する気体の種類、温度及び各種圧力値、成膜プロセスにおける各処理(ステップ)の順序などは、本発明の主旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る触媒CVD装置の概略を示す正面一部断面図である。
【図2】従来の触媒CVD装置の概略を示す正面一部断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 触媒CVD装置
2 反応室
3 第1原料ガス導入部
4 触媒用フィラメント
5 仕切り板
6 基板保持台
7 真空排気部
8 第2原料ガス導入部
21 活性室
22 成膜室
51 オリフィス
K 成膜用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気される反応室内に導入された原料ガスを、高温に加熱した触媒用フィラメントにより活性化させてこの原料ガス中の成分を成膜用基板上に堆積させることで成膜用基板上に薄膜を形成する触媒CVD方法において、前記反応室を活性室と成膜室とに隔絶すると共に該活性室と該成膜室とを連通させる複数のオリフィスが形成された仕切り板を用い、前記成膜室に備えられた基板保持台に成膜用基板を保持する基板保持ステップと、前記活性室に備えられた触媒用フィラメントを通電により高温に加熱する加熱ステップと、前記反応室内を真空排気する真空排気ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを前記活性室に導入する第1原料ガス導入ステップと、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを前記成膜室に導入する第2原料ガス導入ステップとを備えることを特徴とする触媒CVD方法。
【請求項2】
前記オリフィスは、前記活性室から前記成膜室に向かう方向に先窄状とされてなる請求項1記載の触媒CVD方法。
【請求項3】
前記第2の原料ガスがヘキサメチルジシラザンガスである請求項1または請求項2記載の触媒CVD方法。
【請求項4】
真空排気される反応室内に導入された原料ガスを、高温に加熱した触媒用フィラメントにより活性化させてこの原料ガス中の成分を成膜用基板上に堆積させることで成膜用基板上に薄膜を形成する触媒CVD装置において、前記反応室を活性室と成膜室とに隔絶すると共に該活性室と該成膜室とを連通させる複数のオリフィスが形成された仕切り板を備え、前記活性室には、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第1の原料ガスを導入するための第1原料ガス導入部と、通電により高温に加熱可能な触媒用フィラメントとを備え、前記成膜室には、前記成膜用基板を保持するための基板保持台と、前記反応室内を真空排気するための真空排気部と、形成すべき薄膜の種類に応じて選択された第2の原料ガスを導入するための第2原料ガス導入部とを備えることを特徴とする触媒CVD装置。
【請求項5】
前記オリフィスは、前記活性室から前記成膜室に向かう方向に先窄状とされてなる請求項4記載の触媒CVD装置。
【請求項6】
前記第2の原料ガスがヘキサメチルジシラザンガスである請求項4または請求項5記載の触媒CVD装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−173553(P2006−173553A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53004(P2005−53004)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【出願人】(504397309)有限会社魁半導体 (4)
【Fターム(参考)】