説明

試験装置

【課題】双方向差動インタフェースを有するDUTの試験装置を提供する。
【解決手段】第1抵抗R1は、第1入出力端子P1と電源端子VTTの間に設けられる。第2抵抗R2は、第2入出力端子P2と電源端子VTTの間に設けられる。第1切り換えスイッチ10は、パターンデータPATの値に応じて第1入出力端子P1側と第2入出力端子P2側のいずれかを第1電流源12と結合する。第3抵抗R3は、第2入出力端子P2に接続される。第4抵抗R4は、第1入出力端子P1に接続される。第2切り換えスイッチ20は、パターンデータPATの値に応じて第1入出力端子P1側と第2入出力端子P2側のいずれかを第2電流源22と結合する。レベルシフト回路30は、第3抵抗R3の第2端子の電位Vlpおよび第4抵抗R4の第2端子Vhpの電位を、所定レベルだけシフトする。比較回路40は、電位VhpをVhnと比較し、電位VlpをVlnと比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置に関し、特に差動信号を送受信する被試験デバイスを試験する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス間で信号を送受信するために、差動信号が利用される。たとえばXDR−DRAM(eXtreme Data Rate Dynamic Random Access Memory)は、単一の差動伝送線路を利用して差動信号を双方向で高速伝送する。こうした双方向差動インタフェースを有するデバイスを試験する場合、被試験デバイス(DUT)から出力される差動信号の振幅を測定し、良否を判定する試験が行われる。
【0003】
双方向差動インタフェースを有するDUTを検査する試験装置について検討する。試験装置には、共通の差動伝送線路対(以下、単に差動伝送線路ともいう)に接続されたトランスミッタとレシーバが設けられる。トランスミッタは、DUTにテストパターンを送信し、レシーバは、DUTから出力された差動信号対(以下、単に差動信号ともいう)の論理値を判定し、あるいは差動信号対の差電圧の振幅を検査する。
【0004】
試験装置のレシーバは、差動伝送線路対を介してDUTと接続されるとともに、試験装置側のトランスミッタとも接続されている。したがって双方向差動インタフェースを備えるDUTの試験装置は、そのレシーバが隣接するトランスミッタの出力の影響を受けないように配慮して設計する必要がある。特許文献1から3には関連技術が記載される。特に特許文献1には、双方向通信において、自らの送信信号をキャンセルして相手側からの信号のみを受信する回路(ハイブリッド回路)が開示されている。
【特許文献1】特開昭47−11702号公報
【特許文献2】特開平8−23354号公報
【特許文献3】特開2006−23233号公報
【特許文献4】米国特許第6,573,764B1号明細書
【特許文献5】米国特許第7,190,194B2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、その包括的な目的は、双方向差動インタフェースを有するDUTの試験装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、被試験デバイスとの間で差動伝送線路を介して差動信号を双方向伝送し、被試験デバイスを検査する試験装置に関する。この試験装置は、差動伝送線路に接続される第1、第2入出力端子と、第1入出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1抵抗と、第2入出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第2抵抗と、所定の第1テール電流を生成する第1電流源と、被試験デバイスに送信すべきパターンデータを受け、その値に応じて第1入出力端子側と第2入出力端子側のいずれかを選択し、第1電流源と結合する第1電流切り換えスイッチと、第1端子が第2入出力端子に接続された第3抵抗と、第1端子が第1入出力端子に接続された第4抵抗と、所定の第2テール電流を生成する第2電流源と、パターンデータを受け、その値に応じて第1入出力端子側と第2入出力端子側のいずれかを選択し、第2電流源と結合する第2電流切り換えスイッチと、第3抵抗の第2端子および第4抵抗の第2端子の電位を、所定レベルだけシフトするレベルシフト回路と、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第3抵抗の第2端子の電位を、第4抵抗の第2端子の電位と比較し、比較結果に応じた第1比較信号を生成し、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第4抵抗の第2端子の電位を、第3抵抗の第2端子の電位と比較し、比較結果に応じた第2比較信号を生成する比較回路と、を備える。
【0007】
第1、第2トランジスタ、第1、第2抵抗および第1電流源が、メインの電流ドライバアンプを形成し、第3、第4トランジスタ、第3、第4抵抗および第2電流源が、第2の電流ドライバアンプを形成する。この態様によると、第2の電流ドライバを設けることにより、メインドライバアンプの出力が比較回路の入力電圧に及ぼす影響をキャンセルして、被試験デバイスからの差動信号の振幅判定を行うことができる。なお、本明細書において、ある回路素子の第1端子は、高電位側の端子を指し、第2端子は、低電位側の端子を指す。
【0008】
また、通常の差動レシーバは、差動入力信号のペアの差を増幅してシングルエンド信号に変換する差動アンプ(アナログ減算器)を必要とするが、この態様によれば、レシーバに差動アンプが不要となる。
【0009】
第1、第2抵抗の抵抗値をRaと書くとき、第3、第4抵抗の抵抗値は略等しくα・Ra(αはパラメータ)で与えられてもよい。
【0010】
第2テール電流の電流値をIb、第1テール電流の電流値を(Ia+Ib)と書くとき、Ib=Ia/(2・α)が成り立つよう構成されてもよい。
この場合、メインドライバアンプの出力が比較回路の入力電圧に及ぼす影響を好適にキャンセルできる。
【0011】
レベルシフト回路は、第1端子が第3抵抗の第2端子と接続された第5抵抗と、第5抵抗の第2端子と接続され、所定の電流を生成する第3電流源と、第1端子が第4抵抗の第2端子と接続された第6抵抗と、第6抵抗の第2端子と接続され、所定の電流を生成する第4電流源と、を含み、第5、第6抵抗それぞれの第2端子の電位を出力してもよい。
この場合、第5、第6抵抗の抵抗値をRc、第3、第4電流源により生成される電流をIcと書くとき、試験装置は、Vth=2×Rc×Icで与えられるしきい値電圧にもとづく振幅マージン試験を行うことができる。
【0012】
比較回路は、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第3抵抗の第2端子の電位を、第4抵抗の第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第4抵抗の第2端子の電位を、第3抵抗の第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、を含んでもよい。試験装置は、第1コンパレータの一方の入力端子と、第4抵抗の第2端子の間に設けられた第7抵抗と、第2コンパレータの一方の入力端子と、第3抵抗の第2端子の間に設けられた第8抵抗と、をさらに備えてもよい。
【0013】
第5抵抗および第3電流源の容量がフィルタを形成し、同様に第6抵抗と第4電流源の容量がフィルタを形成する場合があり、各コンパレータの一方の入力信号のみが遅延され、もしくは波形がなまってしまう。この場合に、第7、第8抵抗を設けることにより、各コンパレータの2つの入力信号が受ける遅延もしくは波形なまりを均一化できる。
【0014】
比較回路は、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第3抵抗の第2端子の電位を、第4抵抗の第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第4抵抗の第2端子の電位を、第3抵抗の第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、を含んでもよい。試験装置は、第1コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、第2コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、をさらに備えてもよい。
この場合も、各コンパレータの2つの入力信号が受ける遅延もしくは波形なまりを均一化できる。
【0015】
比較回路は、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第3抵抗の第2端子の電位を、第4抵抗の第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、レベルシフト回路によりレベルシフトされた第4抵抗の第2端子の電位を、第3抵抗の第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、を含んでもよい。試験装置は、第1コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられ、第3電流源と同様に構成され、電流値が0に設定された第1ダミー電流源と、第2コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられ、第4電流源と同様に構成され、電流値が0に設定された第2ダミー電流源と、をさらに備えてもよい。
第1、第2ダミー電流源をそれぞれ第3、第4電流源と同じ構成にしているため、容量値が等しくなり、各コンパレータの2つの入力信号が受ける遅延もしくは波形なまりを、より好適に均一化できる。
【0016】
レベルシフト回路は複数並列に設けられており、比較回路は、複数のレベルシフト回路ごとに複数設けられてもよい。
この場合、レベルシフト回路ごとに異なるレベルシフトを与えることにより、差動信号の振幅を複数の異なるしきい値と同時に比較できる。
【0017】
第1切り換えスイッチ回路は、第1端子が第1入出力端子に接続された第1トランジスタと、第1端子が第2入出力端子に接続され、第2端子が第1トランジスタの第2端子と共通に接続された第2トランジスタと、を含む差動トランジスタ対であり、第2切り換えスイッチ回路は、第1端子が第3抵抗の第2端子と接続された第3トランジスタと、第1端子が第4抵抗の第2端子と接続され、第2端子が第3トランジスタの第2端子と共通に接続された第4トランジスタと、を含む差動トランジスタ対であってもよい。
【0018】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる試験装置によれば、双方向差動インタフェースを有するDUTを試験できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
本明細書において、「部材Aが部材Bに接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
以下で説明する実施の形態は、双方向差動インタフェースを有する被試験デバイス(DUT)を試験する自動検査装置(ATE:Automatic Test Equipment)に関する。図1は、実施の形態に係るATE100の構成を示す回路図である。ATE100はDUT102と差動伝送線路104を介して接続され、DUT102に対して差動信号を出力し、あるいはDUT102から出力される差動信号を受信する。
【0023】
DUT102は、送信アンプAMP3、受信アンプAMP4、出力抵抗Rtu1、Rtu2を備える。受信アンプAMP4は、差動伝送線路104を介して入力された差動信号の差電圧(差動成分)を生成し、内部回路(不図示)へと転送する。送信アンプAMP3から出力される差動信号は、差動伝送線路104を介してATE100へと入力される。送信アンプAMP3には出力抵抗Rtu1、Rtu2が設けられる。差動伝送線路104の特性インピーダンスZoは、DUT102の出力抵抗Rtu1、Rtu2とマッチングがとれている。
【0024】
ATE100は、差動伝送線路104の一方が接続される第1入出力端子P1と、他方が接続される第2入出力端子P2を備える。さらにATE100は、メインドライバアンプAMP1、キャンセル用ドライバアンプAMP2、レベルシフト回路30、比較回路40を備える。
【0025】
メインドライバアンプAMP1およびキャンセル用ドライバアンプAMP2は、DUT102に送信すべきパターンデータPATにもとづいて差動信号Vdを生成する。以下、差動信号Vdの2つの信号のポジ側、ネガ側を表す添え字p、nを付してVdp、Vdnのように記し、また必要に応じて添え字p、nを省略して総称する。その他の差動信号についても同様である。
【0026】
メインドライバアンプAMP1は差動型電流ドライバであり、第1抵抗R1、第2抵抗R2、第1切り換えスイッチ10、第1電流源12を備える。
【0027】
第1抵抗R1は、第1入出力端子P1と固定電圧端子(以下、電源端子という)VTTの間に設けられる。第2抵抗R2は、第2入出力端子P2と電源端子VTTの間に設けられる。
【0028】
第1電流源12は、所定の第1テール電流It1を生成する。第1切り換えスイッチ10は、DUT102に送信すべきパターンデータPATを受け、その値(つまり1または0)に応じて第1入出力端子P1側と第2入出力端子P2側のいずれかを選択し、第1電流源12と結合する。言い換えれば、PAT=1のとき、第1抵抗R1側に第1テール電流It1が流れ、PAT=0のとき第2抵抗R2側に第1テール電流It1が流れる。
【0029】
図2(a)、(b)は、第1切り換えスイッチ10の構成例を示す回路図である。図2(a)、(b)に示すように、第1切り換えスイッチ10は、差動トランジスタ対で構成することができ、メインドライバアンプAMP1は、オープンコレクタ(またはオープンドレイン)出力型の差動ドライバとして構成される。
【0030】
図2(a)、(b)の第1切り換えスイッチ10a、10bは、第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2を含む。図2(a)のトランジスタTr1、Tr2はNPN型バイポーラトランジスタである。第1トランジスタTr1の第1端子(コレクタ)は、第1入出力端子P1に接続され、第1抵抗R1によって電源端子VTTにプルアップされる。第2トランジスタTr2は、第1端子(コレクタ)が第2入出力端子P2に接続され、第2抵抗R2によって電源端子VTTにプルアップされる。第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2の第2端子(エミッタ)は、共通に接続され、テール電流It1を供給する電流源と接続される。第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2の制御端子(ベース)には、パターンデータPATが入力される。
【0031】
図2(b)の第1切り換えスイッチ10bは、トランジスタTr1、Tr2をNチャンネルMOSFETに置換した構成であり、第1端子をドレイン、第2端子をソース、制御端子をゲートと読み替えればよい。
【0032】
ただし第1切り換えスイッチ10、第2切り換えスイッチ20の構成は図2(a)、(b)に示す差動トランジスタ対に限定されず、トランジスタ以外のスイッチング素子を利用してもよい。
【0033】
図1に戻る。キャンセル用ドライバアンプAMP2は、メインドライバアンプAMP1と同様に差動型電流ドライバであり、第3抵抗R3、第4抵抗R4、第2切り換えスイッチ20、第2電流源22を備える。
【0034】
第3抵抗R3は、その第1端子が第2入出力端子P2に接続される。第4抵抗R4はその第1端子が第1入出力端子P1に接続される。第2電流源22は、所定の第2テール電流It2を生成する。第2切り換えスイッチ20は、パターンデータPATを受け、その値に応じて第1入出力端子P1側と第2入出力端子P2側のいずれかを選択し、第2電流源22と結合する。
【0035】
言い換えれば、PAT=1のとき、第3抵抗R3側に第2テール電流It2が流れ、PAT=0のとき第4抵抗R4側に第2テール電流It2が流れる。
【0036】
第2切り換えスイッチ20も、第1切り換えスイッチ10と同様に、図2(a)、(b)のような差動トランジスタ対で構成することができる。つまり、第2切り換えスイッチ20は、第3トランジスタ(図2(a)、(b)の第1トランジスタTr1に対応する)と第4トランジスタ(図2(a)、(b)の第2トランジスタTr2に対応する)を含んで構成される。第3トランジスタの第1端子(コレクタ)は、第3抵抗R3の第2端子と接続される。第4トランジスタは、第1端子(コレクタ)が第4抵抗R4の第2端子と接続される。第3トランジスタおよび第4トランジスタの第2端子(エミッタ)は共通に接続され、テール電流It2を供給する電流源と接続される。
【0037】
言い換えれば、第3トランジスタのコレクタは、第3抵抗R3および第2抵抗R2を介して電源端子VTTにプルアップされる。また第4トランジスタのコレクタは、第4抵抗R4および第1抵抗R1を介して電源端子VTTにプルアップされる。
【0038】
レベルシフト回路30は、第3抵抗R3の第2端子および第4抵抗R4の第2端子の電位Vlp、Vhpを、所定レベルΔVだけ低電位側にシフトする。
【0039】
図1のレベルシフト回路30は、第5抵抗R5、第6抵抗R6、第3電流源32a、第4電流源32bを含む。
【0040】
第5抵抗R5の第1端子は、第3抵抗R3の第2端子と接続される。第3電流源32aは、第5抵抗R5の第2端子と接続され、所定の電流Icを生成する。第6抵抗R6の第1端子は、第4抵抗R4の第2端子と接続される。第4電流源32bは、第6抵抗R6の第2端子と接続され、所定の電流Icを生成する。
【0041】
図1のレベルシフト回路30においては、第5抵抗R5、第6抵抗R6の抵抗値を等しくRcと書くとき、レベルシフト量は、ΔV=Rc×Icで与えられる。
【0042】
図1の構成に代えて、レベルシフト回路30をソースフォロア回路、あるいはエミッタフォロア回路で構成してもよい。この場合シフト量ΔVが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のしきい値電圧、あるいはバイポーラトランジスタのダイオード順方向電圧に設定される。
【0043】
比較回路40は、レベルシフト回路30によりレベルシフトされた第3抵抗R3の第2端子の電位Vhnを、第4抵抗R4の第2端子の電位Vhpと比較し、比較結果に応じた第1比較信号FAIL_Hを生成する。また比較回路40は、レベルシフト回路30によりレベルシフトされた第4抵抗R4の第2端子の電位Vlnを、第3抵抗R3の第2端子の電位Vlpと比較し、比較結果に応じた第2比較信号FAIL_Lを生成する。
【0044】
比較回路40は、第1コンパレータCMP1、第2コンパレータCMP2を含む。第1コンパレータCMP1の反転入力端子には、レベルシフトされた第3抵抗R3の第2端子の電位Vhnが入力され、その非反転入力端子には、第4抵抗R4の第2端子の電位Vhpが入力され、2つの電位VhnとVhpを比較する。
【0045】
第2コンパレータCMP2の反転入力端子には、レベルシフトされた第4抵抗R4の第2端子の電位Vlnが入力され、その非反転入力端子には、第3抵抗R3の第2端子の電位Vlpが入力され、2つの電位VhnとVhpを比較する。
【0046】
以上がATE100の基本的な構成である。次に、ATE100の動作を説明する。
【0047】
第1比較信号FAIL_Hは、Vhp>Vhnのときハイレベル、Vhp<Vhnのときローレベルとなる。ここでVhn=Vlp−ΔVである。したがって第1比較信号FAIL_Hの論理値は、ΔV>Vlp−VhpのときFAIL_H=1、ΔV<Vlp−VhpのときFAIL_H=0となる。つまり、差動信号VlpとVhpの電位差が、しきい値ΔVに満たないときにハイレベルとなり、エラー判定がなされる。
【0048】
第2比較信号FAIL_Lは、Vlp>Vlnのときハイレベル、Vlp<Vlnのときローレベルとなる。ここでVln=Vhp−ΔVである。したがって第2比較信号FAIL_Lの論理値は、ΔV>Vhp−VlpのときFAIL_L=1、ΔV<Vhp−VlpのときFAIL_L=0となる。つまり、差動信号VhpとVlpの電位差が、しきい値ΔVに満たないときにハイレベルとなり、エラー判定がなされる。
【0049】
実施の形態に係るATE100によれば、キャンセル用ドライバアンプAMP2を設けることにより、メインドライバアンプAMP1の出力が、比較回路40の入力電圧Vlp、Vhp、Vhn、Vlnに及ぼす影響を低減することができる。つまり、純粋にDUT102から出力される差動信号の成分のみを抽出して、振幅マージンの試験を行うことができる。以下、この理由について説明する。
【0050】
考察を簡略化するため、第1抵抗R1、第2抵抗R2の抵抗値を等しくRaとし、第3抵抗R3、第4抵抗R4の抵抗値を等しくRbとする。また、第1テール電流It1=Ia+Ibとし、第2テール電流It2=Ibであるものとする。さらにDUT102の出力抵抗Rtu1、Rtu2の抵抗値を等しくRtuとする。その他の電気信号、あるいは抵抗、キャパシタなどの回路素子に付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値、あるいは抵抗値、容量値を表すものとする。
【0051】
図1の回路図から、以下の式(1)〜(4)を得る。
Vhp=Vdn−Rb・{(1−PAT)・Ib+Ic} …(1a)
Vlp=Vdp−Rb・{PAT・Ib+Ic} …(1b)
Vhn=Vlp−Rc・Ic …(2a)
Vln=Vhp−Rc・Ic …(2b)
Vdp=VTT−Ra・{(1−PAT)・(Ia+Ib)+PAT・Ib+Iup+Ic} …(3a)
Vdn=VTT−Ra・{PAT・(Ia+Ib)+(1−PAT)・Ib−Iun+Ic} …(3b)
Iup=(Vdp−Vup)/Rtu …(4a)
Iun=(Vun−Vdn)/Rtu …(4b)
【0052】
ここで、電源電圧VTTを、仮想的な電圧VTを導入して以下のように定義する。
VTT=VT+Ra・(Ib+Ic) (5)
【0053】
また、DUT102側とATE100側でインピーダンス整合がとれていると仮定すれば、式(6)が成り立つ。
Rtu=Ra …(6)
【0054】
式(3a)、(3b)に、式(4a)、(4b)、(5)、(6)を代入すると、以下の式を得る。
Vdp=1/2・{VT−Ra・(1−PAT)・Ia+Vup} …(7a)
Vdn=1/2・{VT−Ra・PAT・Ia+Vun} …(7b)
【0055】
次に、第1コンパレータCMP1、第2コンパレータCMP2の入力電圧を求める。式(1a)(1b)に式(7a)、(7b)を代入すると、下記の式(8a)、(8b)を得る。
【0056】
Vhp=1/2・{VT−Ra・PAT・Ia+Vun}−Rb・{(1−PAT)・Ib+Ic} …(8a)
Vlp=1/2・{VT−Ra・(1−PAT)・Ia+Vup}−Rb・{PAT・Ib+Ic} …(8b)
【0057】
ここで、パラメータαを導入し、回路定数の比率を定義する。
Rb=α・Ra …(9a)
Ib=Ia/(2・α) …(9b)
【0058】
式(9a)、(9b)を式(8a)、(8b)に代入すると、式(10a)、(10b)を得る。
Vhp=1/2・{VT−Ra・Ia+Vun}−Rb・Ic …(10a)
Vlp=1/2・{VT−Ra・Ia+Vup}−Rb・Ic …(10b)
【0059】
第1コンパレータCMP1、第2コンパレータCMP2に着目すると、比較信号はそれぞれ、
Vhp>VhnのときFAIL_H=1
Vhp<VhnのときFAIL_H=0
Vlp>VlnのときFAIL_L=1
Vlp<VlnのときFAIL_L=0 …(11)
となる。
【0060】
以下の2つの不等式を、式(2a)、(2b)、(10a)、(10b)を用いて解くと、式(13a)、(13b)を得る。
Vhp>Vhn …(12a)
Vlp>Vln …(12b)
【0061】
Vup−Vun<2・Rc・Ic …(13a)
Vup−Vun>−2・Rc・Ic …(13b)
【0062】
ここで、電圧VOを式(14)で定義すると、式(15a)、(15b)を得る。
VO=2・Rc・Ic …(14)
Vup−Vun<VO …(15a)
Vup−Vun>−VO …(15b)
【0063】
つまり、第1コンパレータCMP1、第2コンパレータCMP2の比較信号は、
Vup−Vun<VOのとき、FAIL_H=1
Vup−Vun>VOのとき、FAIL_H=0
Vup−Vun>−VOのとき、FAIL_L=1
Vup−Vun<−VOのとき、FAIL_L=0 …(16)
で与えられる。
【0064】
以上の考察から、以下の効果が明らかとなる。
式(16)の比較信号FAIL_H、FAIL_Lの値に着目すると、DUT102から送信される差動信号Vup、Vunにのみ依存しており、パターンデータPATに応じてメインドライバアンプAMP1により生成される差動信号の影響がキャンセルされていることがわかる。
【0065】
また、通常の差動レシーバは、差動入力信号のペアの差を増幅してシングルエンド信号に変換する差動アンプ(アナログ減算器)を必要とするが、この実施の形態によれば、レシーバに差動アンプが不要となるという利点がある。高速でリニアリティの優れた差動アンプの設計は困難であるため、図1のATE100は設計が容易であり、あるいは高速な差動信号の試験に適用することができる。
【0066】
本実施の形態に係るATE100の構成および動作を説明した。上記実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0067】
図3は、第1の変形例に係るATE100aの構成を示す回路図である。ATE100aは、図1のATE100の構成に加えてさらに、第7抵抗R7、第8抵抗R8、第1キャパシタC1、第2キャパシタC2を備える。
【0068】
第7抵抗R7は、第1コンパレータCMP1の非反転入力端子と、第4抵抗R4の第2端子の間に設けられる。第8抵抗R8は、第2コンパレータCMP2の非反転入力端子と、第3抵抗R3の第2端子の間に設けられる。
【0069】
第1キャパシタC1は、第1コンパレータCMP1の非反転入力端子と固定電圧端子(接地端子)の間に設けられる。第2キャパシタC2は、第2コンパレータCMP2の非反転入力端子と接地端子の間に設けられる。
【0070】
第7抵抗R7、第8抵抗R8および第1キャパシタC1、第2キャパシタC2は、第1コンパレータCMP1および第2コンパレータCMP2の入力端子の時定数を揃える目的で設けられる。つまり、第3電流源32a、第4電流源32bの寄生容量が、第5抵抗R5、第6抵抗R6とともにローパスフィルタを構成するところ、図3の構成とすることにより、ローパスフィルタの影響をキャンセルすることができる。
【0071】
さらに図3の変形例として、第1キャパシタC1に代えて第3電流源32aと同様に構成され、電流値が0に設定された第1ダミー電流源を設けてもよい。同様に第2キャパシタC2に代えて第4電流源32bと同様に構成され、電流値が0に設定された第2ダミー電流源を設けてもよい。この場合、容量値を高い精度で揃えることができる。
【0072】
また、図3の変形例として、第1キャパシタC1、第2キャパシタC2のみを設ける構成であってもよいし、第7抵抗R7、第8抵抗R8のみを設ける構成であってもよい。
【0073】
図4は、第2の変形例に係るATE100bの構成を示す回路図である。ATE100bは、複数N個(Nは2以上の整数)のレベルシフト回路30_1〜30_Nと、レベルシフト回路30_1〜30_Nごとに設けられたN個の比較回路40_1〜40_Nを備える。
【0074】
各レベルシフト回路30_1〜30_Nの第5抵抗R5および第6抵抗R6の抵抗値は等しく設定し、第3電流源32a、第4電流源32bにより生成される定電流が異なっている。
【0075】
この変形例によれば、複数のレベルシフト回路30_1〜30_Nごとで、レベルシフト量ΔV_1〜ΔV_Nを異なる値にすることにより、差動信号の振幅Vup−Vunを、複数のしきい値レベルVO1〜VONと比較することができる。
【0076】
i番目のレベルシフト回路30_iに設けられる第3電流源32a、第4電流源32bにより生成される定電流をIciと書くとき、上述の式(5)は、以下のように修正される。
VTT=VT+Ra・(Ib+ΣIci) …(5’)
この場合のi番目の比較回路40_iに設定されるしきい値レベルVOiは、
VOi=2・Rc・Ici …(14’)
となる。
【0077】
高速な差動増幅器(アナログ減算器)が設計可能な場合、以下の実施の形態が認められる。
図5は、第2の実施の形態に係るATE100cの構成を示す回路図である。図5のATE100cは、図1のレベルシフト回路30および比較回路40に代えて、アナログ減算器42、比較回路40cを備える。アナログ減算器42は、第3抵抗R3の第2端子の電位Vspから、第4抵抗R4の第2端子の電位Vsnを減算し、差に応じた差動電圧Vs=Vsp−Vsnを出力する。
【0078】
比較回路40cは、コンパレータHCpとコンパレータLCpを含む。コンパレータHCpは、差動電圧Vsを、上側のしきい値電圧VO/2と比較する。コンパレータLCpは、差動電圧Vsを、下側のしきい値電圧−VO/2と比較する。
【0079】
図5のATE100cによっても、差動電圧VsからメインドライバアンプAMP1により生成される信号成分をキャンセルすることができ、DUT102から送信される差動信号の振幅を評価対象とすることができる。
【0080】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施の形態に係るATEの構成を示す回路図である。
【図2】図2(a)、(b)は、第1切り換えスイッチの構成例を示す回路図である。
【図3】第1の変形例に係るATEの構成を示す回路図である。
【図4】第2の変形例に係るATEの構成を示す回路図である。
【図5】第2の実施の形態に係るATEの構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0082】
100…ATE、102…DUT、104…差動伝送線路、AMP1…メインドライバアンプ、AMP2…キャンセル用ドライバアンプ、10…第1切り換えスイッチ、12…第1電流源、20…第2切り換えスイッチ、22…第2電流源、30…レベルシフト回路、32a…第3電流源、32b…第4電流源、40…比較回路、R1…第1抵抗、R2…第2抵抗、R3…第3抵抗、R4…第4抵抗、R5…第5抵抗、R6…第6抵抗、R7…第7抵抗、R8…第8抵抗、CMP1…第1コンパレータ、CMP2…第2コンパレータ、P1…第1入出力端子、P2…第2入出力端子、Tr1…第1トランジスタ、Tr2…第2トランジスタ、C1…第1キャパシタ、C2…第2キャパシタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験デバイスとの間で差動伝送線路を介して差動信号を双方向伝送し、前記被試験デバイスを検査する試験装置であって、
前記差動伝送線路に接続される第1、第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1抵抗と、
前記第2入出力端子と前記固定電圧端子の間に設けられた第2抵抗と、
所定の第1テール電流を生成する第1電流源と、
前記被試験デバイスに送信すべきパターンデータを受け、その値に応じて前記第1入出力端子側と前記第2入出力端子側のいずれかを選択し、前記第1電流源と結合する第1電流切り換えスイッチと、
第1端子が前記第2入出力端子に接続された第3抵抗と、
第1端子が前記第1入出力端子に接続された第4抵抗と、
所定の第2テール電流を生成する第2電流源と、
前記パターンデータを受け、その値に応じて前記第1入出力端子側と前記第2入出力端子側のいずれかを選択し、前記第2電流源と結合する第2電流切り換えスイッチと、
前記第3抵抗の第2端子および前記第4抵抗の第2端子の電位を、所定レベルだけシフトするレベルシフト回路と、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第3抵抗の前記第2端子の電位を、前記第4抵抗の前記第2端子の電位と比較し、比較結果に応じた第1比較信号を生成し、前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第4抵抗の前記第2端子の電位を、前記第3抵抗の前記第2端子の電位と比較し、比較結果に応じた第2比較信号を生成する比較回路と、
を備えることを特徴とする試験装置。
【請求項2】
前記第1、第2抵抗の抵抗値をRaと書くとき、前記第3、第4抵抗の抵抗値は略等しくα・Ra(αはパラメータ)で与えられることを特徴とする請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記第2テール電流の電流値をIb、前記第1テール電流の電流値を(Ia+Ib)と書くとき、
Ib=Ia/(2・α)
が成り立つことを特徴とする請求項2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記レベルシフト回路は、
第1端子が前記第3抵抗の前記第2端子と接続された第5抵抗と、
前記第5抵抗の第2端子と接続され、所定の電流を生成する第3電流源と、
第1端子が前記第4抵抗の前記第2端子と接続された第6抵抗と、
前記第6抵抗の第2端子と接続され、所定の電流を生成する第4電流源と、
を含み、前記第5、第6抵抗それぞれの前記第2端子の電位を出力することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の試験装置。
【請求項5】
前記比較回路は、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第3抵抗の前記第2端子の電位を、前記第4抵抗の第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第4抵抗の前記第2端子の電位を、前記第3抵抗の第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1コンパレータの一方の入力端子と、前記第4抵抗の前記第2端子の間に設けられた第7抵抗と、
前記第2コンパレータの一方の入力端子と、前記第3抵抗の前記第2端子の間に設けられた第8抵抗と、
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項6】
前記比較回路は、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第3抵抗の前記第2端子の電位を、前記第4抵抗の前記第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第4抵抗の前記第2端子の電位を、前記第3抵抗の前記第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、
前記第2コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項7】
前記比較回路は、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第3抵抗の前記第2端子の電位を、前記第4抵抗の前記第2端子の電位と比較する第1コンパレータと、
前記レベルシフト回路によりレベルシフトされた前記第4抵抗の前記第2端子の電位を、前記第3抵抗の前記第2端子の電位と比較する第2コンパレータと、
を含み、
前記第1コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられ、前記第3電流源と同様に構成され、電流値が0に設定された第1ダミー電流源と、
前記第2コンパレータの一方の入力端子と固定電圧端子の間に設けられ、前記第4電流源と同様に構成され、電流値が0に設定された第2ダミー電流源と、
をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の試験装置。
【請求項8】
前記レベルシフト回路は複数並列に設けられており、
前記比較回路は、複数の前記レベルシフト回路ごとに複数設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の試験装置。
【請求項9】
前記第1切り換えスイッチ回路は、
第1端子が前記第1入出力端子に接続された第1トランジスタと、
第1端子が前記第2入出力端子に接続され、第2端子が前記第1トランジスタの第2端子と共通に接続された第2トランジスタと、
を含む差動トランジスタ対であり、
前記第2切り換えスイッチ回路は、
第1端子が前記第3抵抗の前記第2端子と接続された第3トランジスタと、
第1端子が前記第4抵抗の前記第2端子と接続され、第2端子が前記第3トランジスタの第2端子と共通に接続された第4トランジスタと、
を含む差動トランジスタ対であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−198250(P2009−198250A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38840(P2008−38840)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】