説明

誘電体磁器及びそれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】CaZrOを主成分とする誘電体磁器を用い、内部電極としてCuを用いた積層セラミックコンデンサの寿命特性を改善する誘電体器及びそれを用いた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】CaZrO+aMn+bLi+cB+dSiで表され、CaZrO(但し、1.00≦x≦1.10)100molに対して、0.5≦a≦4.0mol、6.0≦(b+c+d)≦15.0molを含有し、0.15≦(b/(c+d))≦0.55、0.20≦(d/c)≦3.30であることを特徴とする誘電体磁器である。また、それを用いた積層セラミックコンデンサである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaZrOを主成分とする誘電体磁器及びそれを用いた寿命特性に優れる積層セラミックコンデンサに関し、特に、Cu若しくはCu合金からなる内部電極を含む積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体磁器及びそれを用いた積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、誘電体磁器は、高周波用の誘電体共振器、フィルタ又は積層コンデンサ等に用いられていたが、この積層コンデンサ等は、近年の機器の高周波数化(100MHz〜2GHz程度)に対応すべく、より誘電率の温度係数が小さいことが望まれている。積層コンデンサの内部電極としては、ESR(等価直列抵抗)が低いこと、高周波領域における損失が小さいこと(Q値が高いこと)、及び低コスト化の面から、比抵抗が小さい卑金属を選択する必要があり、Ni、Pdの代わりにCuが用いられている。また、誘電体としては、Q値が高く、誘電率の温度係数が小さく、かつ、高信頼性であるものが要求され、さらに、Cuを内部電極に用いることから、低温焼成(1080℃以下)であり、Cuの酸化を防止するために非還元性材料であることが要求されている。また、環境側面から、PbやBiを含まない誘電体が望まれている。
このような要求を満たす誘電体磁器組成物の発明が公知であり(特許文献1及び2参照)、これらの発明には、誘電体磁器組成物を積層セラミックコンデンサに用いることが示されている。
【特許文献1】特開平5−217426号公報
【特許文献2】特開平11−106259号公報
【0003】
特許文献1には、主成分としての(Ca1−xSr(Zr1−yTi)O−zMnO−wSiOと添加剤としてのa(LiO1/2−RO)−(1−a)(BO3/2−SiO)(但し、ROがSrO、BaO及びCaOのうち少なくとも1種)を含む非還元性誘電体磁器組成物が示され、この非還元性誘電体磁器組成物は、「約1000℃以下の低温で焼成することができ、従って銅を電極材料として用いることができ、しかもQ値及び誘電率が高く、かつ誘電率の温度特性も安定な誘電体磁器を得ることを可能とする」(段落[0005])ものであるが、Cuを内部電極とする積層セラミックコンデンサの寿命特性の改善については、十分に検討されていない。
【0004】
特許文献2には、「(CaO)(Zr1−y・Ti)Oで表される複合酸化物とMn化合物と(aLiO−bB−cCaO)で表されるガラス成分を含む誘電体磁器組成物が示され、この誘電体磁器組成物は、「1000℃以下の還元性雰囲気でも焼結可能で、かつ誘電率が高く、しかも、誘電率の温度特性が安定し、高周波領域(GHz帯)でのQ値がQfで10000以上となり、特に高周波領域でのQ値が大幅に向上される」(段落[0015])ものであるが、Cuを内部電極とする積層セラミックコンデンサの寿命特性の改善については、十分に検討されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術で十分に検討されていない課題を解決しようとするものであり、CaZrOを主成分とする誘電体磁器を用い、内部電極としてCuを用いた積層セラミックコンデンサの寿命特性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)CaZrO+aMn+bLi+cB+dSiで表され、
CaZrO(但し、1.00≦x≦1.10)100molに対して、
0.5≦a≦4.0mol、
6.0≦(b+c+d)≦15.0molを含有し、
0.15≦(b/(c+d))≦0.55、
0.20≦(d/c)≦3.30
であることを特徴とする誘電体磁器である。
(2)前記CaZrOのCaの一部をSrで置換したことを特徴とする前記(1)の誘電体磁器である。
(3)前記CaZrOのZrの一部をTiで置換したことを特徴とする前記(1)又は(2)の誘電体磁器である。
(4)さらに、Mg及び/又はAlを含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の誘電体磁器である。
(5)複数の誘電体磁器層と、前記誘電体磁器層間に形成されたCu若しくはCu合金からなる内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えた積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体磁器層が、前記(1)〜(4)のいずれか一項の誘電体磁器で構成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサである。
【発明の効果】
【0007】
CaZrOを主成分とする組成が特定された本発明の誘電体磁器を用いることにより、内部電極としてCuを用いた積層セラミックコンデンサの寿命特性が向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
内部電極としてCuを用いた積層セラミックコンデンサの寿命特性の改善について検討したところ、CaZrO系誘電体磁器のCa/Zr比、Mn、Li、B及びSiの含有量が寿命を決める要因であることを見出し、本発明に到達した。
また、Cu内部電極を用いるために、寿命を低下させないようにLi及びBの含有量を抑えた状態でも、CaZrO系誘電体磁器が1000℃以下で緻密化するCa/Zr比やLi−B−Si組成比の条件を見出した。
【0009】
CaZrO系誘電体磁器のCa/Zr比は、1.00〜1.10の範囲(1.00≦x≦1.10)とすることにより、寿命特性が向上する。1.00より少なくても、1.10より多くても、寿命特性が低下するので、上記の範囲が好ましい。
【0010】
Mnの含有量(a)は、CaZrO100molに対して、0.5≦a≦4.0molの範囲とすることにより、寿命特性が向上する。0.5molより少なくても、4.0molより多くても、寿命特性が低下するので、上記の範囲が好ましい。
【0011】
Li+B+Siのトータル含有量(b+c+d)は、CaZrO100molに対して、6.0≦(b+c+d)≦15.0molの範囲とすることにより、1000℃以下で焼成(緻密化)することができ、また、寿命特性が向上する。6.0より少ないと、1000℃以下で焼成することができず、15.0molより多いと、寿命特性が低下するので、上記の範囲が好ましい。
【0012】
Li/(B+Si)比(b/(c+d)比)は、0.15≦(b/(c+d))≦0.55の範囲とすることにより、1000℃以下で焼成(緻密化)することができる。0.15より少なくても、0.55より多くても、焼成(緻密化)することができないので、上記の範囲が好ましい。
【0013】
Si/B比(d/c比)は、0.20≦(d/c)≦3.30とすることにより、1000℃以下で焼成(緻密化)することができ、また、寿命特性が向上する。0.20より少ないと、寿命特性が低下し、3.30より多いと、1000℃以下で焼成することができないので、上記の範囲が好ましい。
【0014】
誘電特性等を任意に設計するために、誘電体の主成分であるCaZrOの一部をSrやTi等で置換して、(CaySr1−y(ZrTi1−z)O(但し、1.00≦x≦1.10、0<y≦1、0<z≦1)とすることも可能である。すなわち、(Ca0.9Sr0.1ZrO、Ca(Zr0.9Ti0.1等を主成分とすることができる。
また、誘電特性等を任意に設計するために、Mn、Li、B及びSiと共に、Mg、Al等の他の元素を追加することも可能である。
【0015】
積層セラミックコンデンサの製造方法については、限定されるものではないが、以下のような方法を採用することができる。
原料としてCaCO、ZrO、さらに、必要に応じて、SrCO、TiO等を準備し、これらの原料を、所定の組成が得られるように秤量する。その後、これらの原料を湿式混合し、乾燥した後、800〜1200℃にて仮焼し、CaZrOを得る。
上記のように合成したCaZrOに対して、Mn原料(酸化物、炭酸塩等)、Li原料(LiCO等)、B原料(B等)、Si原料(SiO等)、さらに、必要に応じて、Mg原料(MgO)、Al原料(Al)等を所定組成が得られるように秤量する。その後、これらの原料を湿式混合し、乾燥することで、誘電体粉末を得る。
上記のようにして得た誘電体粉末にPVBバインダ(又はアクリルバインダ)、可塑剤、溶媒となる有機溶剤を適宜添加してスラリーを作製し、所定の厚み(5〜50μm)のグリーンシートを作製する。グリーンシートに内部電極用Cuペーストを印刷し、積層・圧着後、所定の形状に切り出す。その後、(Cuが酸化されない)不活性雰囲気下、300〜600℃で脱バインダ処理を行い、還元雰囲気下、900〜1050℃で1〜5時間、焼成を行う。得られた焼結体に端子電極としてCu外電ペーストを塗布した後、N雰囲気で焼き付ける。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
原料としてCaCO、ZrOを準備する。これらの原料を秤量し、表1のようにCa/Zr比を0.98〜1.12の範囲で変化させた。その後、これらの原料をボールミルにて湿式混合し、乾燥した後、1000℃にて仮焼し、CaZrO(0.98≦x≦1.12)を得た。
上記のCaZrO(以下、「CaZrO」と省略)に対して、MnCO、LiCO、B、SiOを秤量し、表1のように、CaZrO100molに対して、Mn含有量を、0〜5.0molの範囲で変化させ、Li/(B+Si)比を0.37、Si/B比を0.61で一定とし、Li+B+Siのトータル含有量を3.0〜18.0molの範囲で変化させた。その後、これらの原料をボールミルにて湿式混合し、乾燥することで、誘電体粉末を得た。
上記の誘電体粉末にPVBバインダ、可塑剤、溶媒となる有機溶剤を適宜添加してスラリーを作製し、ダイ・コーターにて12μm厚みのグリーンシートを作製した。グリーンシートにスクリーン印刷法にて内部電極用Cuペーストを印刷し、電極枚数11層(層間 10層)に積層・圧着後、4.0mm×2.0mmに切り出した。その後、不活性雰囲気下、300〜600℃で脱バインダ処理を行い、還元雰囲気下(窒素−水素混合ガス:水素比率1〜3%)、980℃、2hrで焼成を行った。その後、端子電極としてCuペーストを塗布し、N雰囲気で焼き付けた。
以上のような工程で、積層セラミックコンデンサ(試料番号101〜114)を作製した。
【0017】
上記の積層セラミックコンデンサを用いて、下記の特性について評価をした。
焼結性:980℃で焼成した時の吸水率が0.1%以下を◎、その他を×とした。
信頼性:HALT試験(条件:30V/um,150℃)においてMTTFが100hr以上のものを◎、それ未満を×とした。
試料番号101〜114について、誘電体の組成とコンデンサの特性の評価を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示したように、Ca/Zr比が1.00〜1.10であり、CaZrO100molに対して、Mn含有量が0.5〜4.0molであり、Li+B+Siのトータル含有量が6.0〜15.0molである本発明例の試料番号104〜107、109のコンデンサは、1000℃以下(980℃)で焼成することができ、かつ寿命を100hr以上とすることができた。これに対して、Ca/Zr比が1.00未満の試料番号102のコンデンサ、Ca/Zr比が1.10超の試料番号110、111のコンデンサは、寿命が100hr未満であった。Mnを含有しない試料番号103のコンデンサ、Mnの含有量が4.0molを超える試料番号108のコンデンサも、寿命が100hr未満であった。また、Li+B+Siのトータル含有量が6.0molより少ない試料番号101のコンデンサは、1000℃以下(980℃)で焼成することができず、Li+B+Siのトータル含有量が15.0molを超えるコンデンサは、寿命が100hr未満であった。
【0020】
(実施例2)
Ca/Zr比が1.00のCaZrO100molに対して、Mn含有量を0.5又は4.0molとし、Li+B+Siのトータル含有量を6.0又は15.0molとし、Li/(B+Si)比、Si/B比を表2のように変化させて混合したこと以外は、実施例1と同様にして誘電体粉末を得た。その後、実施例1と同様に、積層セラミックコンデンサ(試料番号201〜217)を作製し、特性について評価をした。
試料番号201〜217について、誘電体の組成とコンデンサの特性の評価を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示したように、Li/(B+Si)比が0.15〜0.55、かつSi/B比が0.20〜3.30である本発明例の試料番号201、202、204、205、211〜216のコンデンサは、1000℃以下(980℃)で焼成することができ、かつ寿命を100hr以上とすることができた。これに対して、Liを含有しないLi/(B+Si)比が0の試料番号203、206のコンデンサ、Li/(B+Si)比が0.55を超える試料番号208〜210のコンデンサは、1000℃以下(980℃)で焼成することができなかった。また、Siを含有しないSi/B比が0の試料番号207のコンデンサは、寿命が100hr未満であり、Si/B比が3.30を超える試料番号217のコンデンサは、1000℃以下(980℃)で焼成することができなかった。
【0023】
(実施例3)
Ca/Zr比が1.05のCaZrO100molに対して、Mnを2.0mol、Li+B+Siのトータル含有量を12.0mol、Li/(B+Si)比を0.37、Si/B比を0.61で一定(Liを3.24mol、Bを5.45mol、Siを3.31mol)とし、さらに、それぞれ、Mg(MgO)を1.0mol、Mg(MgO)を2.0mol、Al(Al)を0.5mol混合したこと以外は、実施例1と同様にして誘電体粉末を得た。その後、実施例1と同様に、積層セラミックコンデンサ(試料番号301〜303)を作製し、特性について評価をした。
また、CaZrOのCaの一部をSrで置換した(Ca0.9Sr0.1)ZrO又はZrの一部をTiで置換したCa(Zr0.9Ti0.1)Oを用い、(Ca+Sr)/Zr比又はCa/(Zr+Ti)比(A/B比)が1.05の(Ca0.9Sr0.1)ZrO又はCa(Zr0.9Ti0.1)O100molに対して、Mnを2.0mol、Li+B+Siのトータル含有量を12.0mol、Li/(B+Si)比を0.37、Si/B比を0.61で一定(Liを3.24mol、Bを5.45mol、Siを3.31mol)としたこと以外は、実施例1と同様にして誘電体粉末を得た。その後、実施例1と同様に、積層セラミックコンデンサ(試料番号304、305)を作製し、特性について評価をした。
【0024】
【表3】

【0025】
表3に示したように、CaZrOのCaの一部をSrで置換した場合やZrの一部をTiで置換した場合、Mn、Li、B、Si以外のMg、Al等の成分を含有させた場合でも、Ca/Zr比(A/B比)を1.00〜1.10とし、CaZrO100molに対して、Mn含有量を0.5〜4.0mol、Li+B+Siのトータル含有量を6.0〜15.0mol、Li/(B+Si)比を0.15〜0.55、かつSi/B比を0.20〜3.30とすることにより、1000℃以下(980℃)で焼成することができ、かつ寿命が100hr以上である積層セラミックコンデンサが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaZrO+aMn+bLi+cB+dSiで表され、
CaZrO(但し、1.00≦x≦1.10)100molに対して、
0.5≦a≦4.0mol、
6.0≦(b+c+d)≦15.0molを含有し、
0.15≦(b/(c+d))≦0.55、
0.20≦(d/c)≦3.30
であることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
前記CaZrOのCaの一部をSrで置換したことを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
前記CaZrOのZrの一部をTiで置換したことを特徴とする請求項1又は2に記載の誘電体磁器。
【請求項4】
さらに、Mg及び/又はAlを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器。
【請求項5】
複数の誘電体磁器層と、前記誘電体磁器層間に形成されたCu若しくはCu合金からなる内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えた積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体磁器層が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体磁器で構成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【公開番号】特開2009−7209(P2009−7209A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171337(P2007−171337)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】