説明

誘電体磁器組成物及び電子部品

【課題】 高い誘電率と良好な温度特性を確保し、しかもTCバイアス特性が改善された積層セラミックコンデンサを提供すること。
【解決手段】 誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層2と、内部電極層3とが交互に積層してあるコンデンサ素子本体10を有する積層セラミックコンデンサ1であって、前記誘電体磁器組成物が、実質的に主成分で構成されたコア22aの周囲に、副成分が主成分に拡散されたシェル24aを持つ複数の誘電体粒子2aを有する誘電体磁器組成物であって、平均粒径の値を示す誘電体粒子を対象とした場合に、前記シェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)が、前記誘電体粒子の半径Rの6〜60%に制御されている誘電体磁器組成物で構成されている積層セラミックコンデンサ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば積層セラミックコンデンサの誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高い誘電率と良好な温度特性を確保するためには、電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの誘電体層を、主成分であるチタン酸バリウムに対し副成分が拡散した領域のシェルが、副成分が拡散していない実質的にチタン酸バリウムからなるコアの表面に存在するコアシェル構造の誘電体粒子(結晶粒)で形成することが有効であると考えられている。結晶粒にコアシェル構造を持たせる技術については、従来から様々な提案がある。
【0003】
たとえば、特許文献1では、主成分であるチタン酸バリウムに副成分としてMgを加え、焼成温度や焼成時間などを調整することによって、Mgが結晶粒表面から内部に向けて拡散する深さ(つまりシェルの厚み)を所定範囲に制御する技術が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、誘電体層を構成する誘電体粒子の粒径がほぼ均一であり、しかもその誘電体粒子中に存在するシェルの厚みが均一であるため、静電容量の温度特性は良好であるが、誘電率が小さくなる傾向があった。
【0005】
そこで、この問題を解決するために、特許文献2では、シェルの厚みを誘電体粒子の粒径に応じて異ならせる技術が提案されている。また、特許文献2には、存在する誘電体粒子は、コアの表面がすべてシェルで被覆されていなくてもよく、コアが部分的に露出し、剥き出しになっている誘電体粒子が存在していてもよい旨も記載されている。
【0006】
このコアの一部が剥き出しになっている誘電体粒子を含むことに関しては、特許文献3にも開示されている。特許文献3では、コアの一部を剥き出しにした誘電体粒子を含むことで、コアの全体がシェルで覆われている誘電体粒子と比較して、シェル全体の容積を小さくでき、セラミック焼結体全体の誘電率を高くできる。その結果、静電容量を減少させることなく誘電体層の厚みをできるだけ厚くできるので、薄層大容量化の要請と、信頼性及び寿命確保の要請という相反する要請を両立することができる、という作用効果を奏する旨が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2,3のごときコアが部分的に剥き出しになっている誘電体粒子を含むと、TCバイアス特性が悪化することがあった。その理由は、必ずしも明らかではないが、強誘電体であるコアに電圧がかかることによるものと考えられる。TCバイアス特性が悪化すると、実際の使用時に静電容量が低下する不都合を生じ、製品価値を著しく低下させてしまう。
【特許文献1】特開平10−308321号公報
【特許文献2】特開2004−111951号公報
【特許文献3】特開2001−313225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い誘電率と良好な温度特性を確保し、しかもTCバイアス特性が改善された、たとえば積層セラミックコンデンサの誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、誘電体粒子(結晶粒)のコアシェル構造について鋭意検討したところ、誘電体粒子中のシェルの厚みが均一でなく、シェルが部分的に欠けてコアの一部が剥き出しているものでもなく、コアがシェルで完全に覆われているがシェルの厚みが不均一な誘電体粒子とすることで、高い誘電率と良好な温度特性を確保しながらもTCバイアス特性を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
実質的に主成分で構成されたコアの周囲に、副成分が主成分に拡散されたシェルを持つ複数の誘電体粒子を有する誘電体磁器組成物であって、
平均粒径の値を示す誘電体粒子を対象とした場合に、前記シェルの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)が、前記誘電体粒子の半径Rの6〜60%に制御されていることを特徴とする誘電体磁器組成物が提供される。
【0011】
好ましくは、前記主成分は、チタン酸バリウムを含む。
【0012】
好ましくは、前記副成分は、Mgの酸化物、希土類元素の酸化物及びアルカリ土類金属元素(但し、Mgを除く)の酸化物を含む。
【0013】
好ましくは、前記副成分は、
第1副成分としてMgO,CaO,BaO及びSrOから選択される少なくとも1種と、
第2副成分として酸化シリコンと、
第3副成分としてV,MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第4副成分としてR1の酸化物(但し、R1はSc,Er,Tm,Yb及びLuから選択される少なくとも1種)と、
第5副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOと、
第6副成分としてR2の酸化物(但し、R2はY、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選択される少なくとも1種)と、
第7副成分としてMnOとを含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1〜3モル、
第2副成分:2〜10モル、
第3副成分:0.01〜0.5モル、
第4副成分:0.5〜7モル(但し、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)、
第5副成分:0<第5副成分≦5モル、
第6副成分:9モル以下(但し、第6副成分のモル数は、R2単独での比率である)、
第7副成分:0.5モル以下、である。
【0014】
好ましくは、前記副成分は、
第1副成分としてAEの酸化物(但し、AEはMg、Ca、Ba及びSrから選択される少なくとも1種)と、
第2副成分としてRの酸化物(但し、RはY、Dy、Tm、Ho及びErから選択される少なくとも1種)と、
第3副成分としてMxSiO(但し、Mは、Ba、Ca、Sr、Li、Bから選択される少なくとも1種であり、M=Baの場合にはx=1、M=Caの場合にはx=1、M=Srの場合にはx=1、M=Liの場合にはx=2、M=Bの場合にはx=2/3である)と、
第4副成分としてMnOと、
第5副成分としてV、MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第6副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOとを含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0〜0.1モル(但し、0モルと0.1モルを除く)、
第2副成分:1〜7モル(但し、1モルと7モルを除く)、
第3副成分:2〜10モル、
第4副成分:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)、
第5副成分:0.01〜0.5モル、
第6副成分:0〜5モル(但し、0モルと5モルを除く)、である。
【0015】
本発明に係る電子部品は、誘電体層を有する電子部品であれば、特に限定されず、たとえば誘電体層と共に内部電極層とが交互に積層してあるコンデンサ素子本体を有する積層セラミックコンデンサ素子である。本発明では、前記誘電体層が、上記いずれかの誘電体磁器組成物で構成してある。内部電極層に含まれる導電材としては、特に限定されないが、たとえばNiまたはNi合金である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、誘電体粒子が、実質的に主成分としてのチタン酸バリウムで構成されたコアの周囲に、副成分がチタン酸バリウムに拡散されたシェルを持つコアシェル構造を有するので、高い誘電率と良好な温度特性を確保し、しかもTCバイアス特性が改善された、たとえば積層セラミックコンデンサの誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品とを、提供することができる。
【0017】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品などが例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図、図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図、図3はシェル厚が不均一な本発明の実施例(試料4)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真、図4はシェルの一部が欠け、コアが剥き出しになっている本発明の比較例(試料9)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真、図5はシェル厚が均一な本発明の比較例(試料8)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真、図6は図3のTEM写真を模式的に表した図、図7は図4のTEM写真を模式的に表した図、図8は図5のTEM写真を模式的に表した図、図9は実施例においてシェルの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)の算出方法を説明する概念図、である。
【0019】
本実施形態では、電子部品として図1に示される積層セラミックコンデンサ1を例示して説明する。
【0020】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層されたコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0021】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0022】
誘電体層
誘電体層2の組成は、本発明では特に限定されないが、たとえば以下の誘電体磁器組成物で構成される。
【0023】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウム(好ましくは、組成式(BaO)・TiOで表され、前記式中のモル比mがm=0.990〜1.035)を主成分として含有する。
【0024】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、前記主成分と共に副成分も含有する。副成分としては、Mgの酸化物、希土類元素の酸化物及びアルカリ土類金属元素(但し、Mgを除く)の酸化物を含むものが例示される。副成分を添加することにより、還元雰囲気焼成においてもコンデンサとしての特性を得ることができる。なお、不純物として、C,F,Li,Na,K,P,S,Clなどの微量成分が0.1重量%以下程度、含有されてもよい。ただし、本発明では、誘電体層2の組成は、上記に限定されるものではない。
【0025】
本実施形態では、誘電体層2として、以下の組成のものを用いることが好ましい。
その組成は、主成分として組成式(BaO)・TiOで表され、前記式中のモル比mがm=0.990〜1.035のチタン酸バリウムを含有し、
第1副成分としてMgO,CaO,BaO及びSrOから選択される少なくとも1種と、
第2副成分として酸化シリコンと、
第3副成分としてV,MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第4副成分としてR1の酸化物(但し、R1はSc,Er,Tm,Yb及びLuから選択される少なくとも1種)と、
第5副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOと、
第6副成分としてR2の酸化物(但し、R2はY、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選択される少なくとも1種)と、
第7副成分としてMnOとを含有するものである。そして、チタン酸バリウムを[(BaO)0.990〜1.035 ・TiO]に換算したとき、[(BaO)0.990〜1.035 ・TiO]100モルに対する比率が、
第1副成分:0.1〜3モル、
第2副成分:2〜10モル、
第3副成分:0.01〜0.5モル、
第4副成分:0.5〜7モル(但し、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)、
第5副成分:0<第5副成分≦5モル、
第6副成分:9モル以下(但し、第6副成分のモル数は、R2単独での比率である)、
第7副成分:0.5モル以下、である。
【0026】
また、別の組成は、主成分として組成式(BaO)・TiOで表され、前記式中のモル比mがm=0.990〜1.035のチタン酸バリウムを含有し、
第1副成分としてAEの酸化物(但し、AEはMg、Ca、Ba及びSrから選択される少なくとも1種)と、
第2副成分としてRの酸化物(但し、RはY、Dy、Tm、Ho及びErから選択される少なくとも1種)と、
第3副成分としてMxSiO(但し、Mは、Ba、Ca、Sr、Li、Bから選択される少なくとも1種であり、M=Baの場合にはx=1、M=Caの場合にはx=1、M=Srの場合にはx=1、M=Liの場合にはx=2、M=Bの場合にはx=2/3である)と、
第4副成分としてMnOと、
第5副成分としてV、MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第6副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOとを含有するものである。そして、チタン酸バリウムを[(BaO)0.990〜1.035 ・TiO]に換算したとき、[(BaO)0.990〜1.035 ・TiO]100モルに対する比率が、
第1副成分:0〜0.1モル(但し、0モルと0.1モルを除く)、
第2副成分:1〜7モル(但し、1モルと7モルを除く)、
第3副成分:2〜10モル、
第4副成分:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)、
第5副成分:0.01〜0.5モル、
第6副成分:0〜5モル(但し、0モルと5モルを除く)、である。
【0027】
上述した組成とすることで、静電容量の温度特性がEIAJ規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足することができる。
【0028】
誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、誘電体層2の厚みは、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは4μm以下と薄層化されている。本実施形態では、このように誘電体層2の厚みを薄層化したときでも、コンデンサ1の各種電気特性、特に十分な誘電率を有しつつもTCバイアス特性が改善される。
【0029】
誘電体層の微細構造
図2に示すように、誘電体層2は、複数の誘電体粒子(結晶粒)2aと、隣接する複数の誘電体粒子2a間に形成された粒界相2bとを含んで構成される。
【0030】
誘電体粒子(結晶粒)2aは、実質的に主成分としてのチタン酸バリウムで構成されたコア22aの周囲に、副成分がチタン酸バリウムに拡散されたシェル(副成分拡散層)24aを持つコアシェル構造を有する。
【0031】
誘電体粒子2aのコアシェル構造とは、誘電体粒子の中心部であるコア(核)22aと、該コア22aの表面を被覆するシェル(殻)24aとが、物理的・化学的に異なる相を形成している構造をいう。実際には、副成分元素が、誘電体粒子2a中心に比して粒子表面側に多く拡散して、シェル24aを形成しているものと考えられる。
【0032】
そして、平均粒径の値を示す誘電体粒子2aを対象とした場合に、前記シェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)が、誘電体粒子2aの半径(平均粒径の半分の値に相当する)Rの6〜60%、好ましくは10〜40%に制御されている。このような範囲でシェル24aが形成されていることにより、高い誘電率と良好な温度特性を確保しながらTCバイアス特性を改善することができる。
【0033】
つまり、本実施形態では、誘電体粒子2a中のシェル24bの厚みが均一でもなく、シェル24aが部分的に欠けてコア22aの一部が剥き出しているものでもない。なお、このような粒子が本発明の目的を阻害しない程度の少量であれば含まれていても良い。
【0034】
シェル24aの最大厚みt1は、通常0.01〜0.1μm、好ましくは0.03〜0.05μmであり、最小厚みt2は、通常0.001〜0.009μm、好ましくは0.003〜0.007μmである。
【0035】
なお、誘電体粒子2a全体の平均粒径D50(単位:μm)は、コンデンサ素子本体10を誘電体層2及び内部電極層3の積層方向に切断し、図2に示す断面において誘電体粒子2aの200個以上の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値である。本実施形態では、誘電体粒子2a全体の平均粒径D50は、誘電体層2の厚みを上限とし、好ましくは誘電体層2の厚みの25%以下、より好ましくは15%以下であることが望ましい。
【0036】
上記(t1−t2)の値を所定範囲に制御する方法は、特に限定されないが、その一例については後述する。
【0037】
粒界相2bは、通常、誘電体材料あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分としている。
【0038】
内部電極層
図1に示す内部電極層3は、実質的に電極として作用する卑金属の導電材で構成される。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、Co、Al、Ru、Rh、Ta、Re、Os、Ir、Pt及びWなどから選ばれる1種以上とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P、C、Nb、Fe、Cl、B、Li、Na、K、F、S等の各種微量成分が0.1重量%以下程度含まれていてもよい。本実施形態では、内部電極層3の厚さは、好ましくは2μm未満、より好ましくは1.5μm以下と薄層化されている。
【0039】
外部電極
図1に示す外部電極4としては、通常Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種又はそれらの合金を用いることができる。通常は、Cu,Cu合金、Ni又はNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。外部電極4の厚さは用途に応じて適時決定されればよいが、通常10〜200μm程度であることが好ましい。
【0040】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1を製造する方法の一例を説明する。
【0041】
(1)本実施形態では、焼成後に図1に示す誘電体層2を形成するための焼成前誘電体層を構成することとなる誘電体層用ペーストと、焼成後に図1に示す内部電極層3を形成するための焼成前内部電極層を構成することとなる内部電極層用ペーストを準備する。また、外部電極用ペーストも準備する。
【0042】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0043】
(1−1)本実施形態で用いる誘電体原料は、上述した誘電体磁器組成物を構成する各原料を所定の組成比で含有する。このため、まずは、主成分原料としてのチタン酸バリウム原料と、各種副成分原料を準備する。
【0044】
各原料の添加量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0045】
(1−2)第1の観点では、まずチタン酸バリウム原料に対して副成分原料の一部を添加して第1仮焼をし、チタン酸バリウム原料粒子の表面に薄いシェルを形成する。
【0046】
第1仮焼時に添加する副成分原料の量(添加量)が、上述したシェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)を制御する一要因となる。第1仮焼時に添加する副成分原料の量(添加量)は、それぞれの副成分原料の最終的な添加量の40%以下(但し、0%は含まない)とすることが好ましく、より好ましくは10〜30%である。第1仮焼時での副成分添加量が多すぎると、シェル厚が均一になり、誘電率が低下し、少なすぎるとシェルが剥き出しになりTCバイアスが低下する。
【0047】
具体的には、BaTiO100モルに対する最終的な添加量が、たとえば、0.9モルのMgOと、0.37モルのMnOと、0.1モルのVと、4.5モルの(Ba0.6 Ca0.4 )SiOと、3モルのYと、1.75モルのYbと、1.5モルのCaZrOとを例示し、これら最終添加量の30%を添加する場合、第1仮焼時に添加する副成分原料は、0.27モルのMgOと、0.111モルのMnOと、0.03モルのVと、1.35モルの(Ba0.6 Ca0.4 )SiOと、0.9モルのYと、0.525モルのYbと、0.45モルのCaZrOとする。
【0048】
第1仮焼の保持温度も、上述したシェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)を制御する一要因となる。第1仮焼の保持温度は、好ましくは600℃以上、より好ましくは700〜900℃である。ここでの仮焼温度が低いとチタン酸バリウム原料粒子の表面に薄いシェルを形成できないおそれがある。
【0049】
第1仮焼の上記保持温度の保持時間は、好ましくは0.5〜10、より好ましくは1〜4時間である。ここでの仮焼保持時間が短すぎるとチタン酸バリウム原料粒子の表面に薄いシェルを形成できない。その一方で、仮焼保持時間が長すぎるとシェル厚が均一になり、誘電率が低下する。
【0050】
その他の第1仮焼の条件は、昇温速度:50〜400℃/時間、特に100〜300℃/時間、雰囲気:空気中および窒素中、である。
【0051】
第1仮焼後にチタン酸バリウム原料粒子の表面に形成される薄いシェルの厚さは、通常0.001〜0.009μm、好ましくは0.003〜0.007μm程度である。
【0052】
次に、第1仮焼後のチタン酸バリウム原料粒子に対して副成分原料の残りを添加し、低温による第2仮焼をして仮焼済み粉体を形成する。得られた仮焼済み粉体は、シェルの厚みが不均一とされている。
【0053】
第2仮焼時に添加する副成分原料の量(添加量)は、それぞれの副成分原料の最終的な添加量の残部である。上の例に従えば、0.63モルのMgOと、0.259モルのMnOと、0.07モルのVと、3.15モルの(Ba0.6 Ca0.4 )SiOと、2.1モルのYと、1.225モルのYbと、1.05モルのCaZrOをここでは添加する。
【0054】
第2仮焼の保持温度も、上述したシェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)を制御する一要因となる。第2仮焼の保持温度は、好ましくは800℃以下、より好ましくは400〜750℃である。ここでの仮焼温度が高いと最終的に形成されるシェル24aの厚みが不均一とはならない。
【0055】
第2仮焼の保持時間は、好ましくは0.5〜10、より好ましくは1〜4時間である。ここでの仮焼保持時間が短すぎるとシェルが剥き出しになりTCバイアスが低下する。その一方で、仮焼保持時間が長すぎるとシェル厚が均一になり誘電率が低下する。
【0056】
その他の第2仮焼の条件は、昇温速度:50〜400℃/時間、特に100〜300℃/時間、雰囲気:空気中および窒素中、である。
【0057】
(1−3)第2の観点では、前記第1の観点で行った第1仮焼をせず、チタン酸バリウム原料に対して副成分原料の一部をコーティングすることにより、チタン酸バリウム原料粒子の表面に薄いシェルを形成し、その後、上述した第1の観点の第2仮焼を行い、仮焼済み粉体を形成する。得られた仮焼済み粉体は、第1の観点と同様にシェルの厚みが不均一とされる。
【0058】
副成分原料の一部をコーティングするには、添加物を有機金属などを用いて液相にし、主成分であるチタン酸バリウムと混合した後、仮焼きする方法が採用される。
【0059】
(1−4)次に、得られた仮焼済み粉体をアルミナロールなどで粗粉砕した後、必要に応じて、ボールミルなどで純水などの分散媒とともに混合し、乾燥することによって、誘電体原料を得る。
【0060】
なお、上記成分で構成される誘電体原料は、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0061】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0062】
塗料化する前の状態で、誘電体原料の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは0.1〜1μm程度とされる。
【0063】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂などの通常の各種バインダを用いることができる。溶剤も、特に限定されるものではなく、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、キシレン、エタノールなどの有機溶剤が用いられる。
【0064】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と、水中に水溶性バインダを溶解させたビヒクルを混練して、形成することもできる。水溶性バインダは、特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョンなどが用いられる。
【0065】
内部電極層用ペーストは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。
【0066】
外部電極用ペーストも、この内部電極層用ペーストと同様にして調製される。
【0067】
各ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。
【0068】
(2)次に、上記誘電体原料を含有する誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストとを用いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とが積層されたグリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素子本体10に、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0069】
特に、グリーンチップの焼成時間については、上述したシェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)を制御する一要因となるので、適正に制御することが好ましい。
【0070】
本実施形態では、好ましくは1180〜1320℃、より好ましくは1200〜1300℃の焼成保持温度で、好ましくは0.5〜4時間、より好ましくは1〜2.5時間、保持することにより、上述した(t1−t2)の値を適正範囲に制御することが可能である。焼成保持時間が短いと(t1−t2)値は大きくなる(シェルの一部が欠け、コアが剥き出しになる方向に近づく)傾向があり、長いと(t1−t2)値は小さくなる(シェル厚が均一になる方向に近づく)傾向がある。
【0071】
他の焼成条件としては、昇温速度が、好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間である。降温速度は、好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間である。焼成雰囲気は、還元雰囲気であることが好ましい。還元雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。焼成雰囲気中の酸素分圧は、好ましくは6×10−8〜10−4Paである。
【0072】
本実施形態で得られる積層セラミックコンデンサ1は、上述したように、実質的に主成分としてのチタン酸バリウムで構成されたコア22aの周囲に、副成分がチタン酸バリウムに拡散されたシェル24aを持つコアシェル構造を有する誘電体粒子2aを含む誘電体層2を有しているので、高い誘電率と良好な温度特性を確保しながらTCバイアス特性が改善されるとともに、信頼性も改善されている。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0074】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0076】
実施例1
誘電体原料の作製
まず、チタン酸バリウム原料及び副成分原料を用意した。チタン酸バリウム原料としては、平均粒径0.25μmのBaTiO(以下、BTともいう)を用いた。副成分原料としては、平均粒径が0.01〜0.1μmの、MgOと、MnOと、Vと、(Ba0.6 Ca0.4 )SiO(以下、BCGともいう)と、Yと、Ybと、CaZrOとを用いた。BCGは、BaCO,CaCO及びSiOをボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより100時間湿式粉砕することにより製造した。CaZrOは、CaCO及びZrOをボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより24時間湿式粉砕することにより製造した。
【0077】
次に、これらの原料を、焼成後の組成が、主成分であるBT100モルに対して、0.9モルのMgOと、0.37モルのMnOと、0.1モルのVと、4.5モルのBCGと、3モルのYと、1.75モルのYbと、1.5モルのCaZrOとなるように秤量した。各副成分原料については、ここで秤量した量が最終的な添加量となる。
【0078】
次に、100モルのBTに対して、上記副成分原料の最終添加量の30%(0.27モルのMgOと、0.111モルのMnOと、0.03モルのVと、1.35モルのBCGと、0.9モルのYと、0.525モルのYbと、0.45モルのCaZrO)を添加し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合して、第1仮焼前粉体を準備した。
【0079】
次に、得られた第1仮焼前粉体を700℃で、3時間、空気中で第1の仮焼し、第1仮焼済粉体を得た。この第1仮焼済粉体を電子顕微鏡にて観察したところ、チタン酸バリウム原料粒子の表面に薄いシェル(厚み0.003μm)を確認できた。
【0080】
次に、第1仮焼済粉体に対して、上記副成分原料の最終添加量の残り(0.63モルのMgOと、0.259モルのMnOと、0.07モルのVと、3.15モルのBCGと、2.1モルのYと、1.225モルのYbと、1.05モルのCaZrO)を添加し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合して、第2仮焼前粉体を準備した。
【0081】
次に、得られた第2仮焼前粉体を、表1に示す温度で、3時間、空気中で第2の仮焼し、第2仮焼済粉体を得た。この第2仮焼済粉体を電子顕微鏡にて観察したところ、チタン酸バリウム原料粒子の表面に形成されたシェルの厚みが不均一であることが確認された。
【0082】
次に、第2仮焼済粉体をアルミナロールで粉砕し、最終組成の誘電体原料を得た。誘電体原料は、100モルのBTに対して、0.9モルのMgOと、0.37モルのMnOと、0.1モルのVと、4.5モルのBCGと、3モルのYと、1.75モルのYbと、1.5モルのCaZrOとが含有してあった。
【0083】
各種ペーストの作製
次に、得られた誘電体原料にポリビニルブチラール樹脂およびエタノール系の有機溶媒を添加し、再度ボールミルで混合し、ペースト化して誘電体層用ペーストを得た。
【0084】
次に、Ni粒子44.6重量部と、テルピネオール52重量部と、エチルセルロース3重量部と、ベンゾトリアゾール0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極用ペーストを得た。
【0085】
焼結体の作製
得られた誘電体層用ペーストを用いてドクターブレード法により、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により印刷した。その後、ふたとなるグリーンシートをPETフィルムから剥離し、厚さが約300μmとなるように複数枚積層し、その上に内部電極用ペーストを印刷したシートをPETフィルムから剥離しつつ所望の枚数(この場合は5枚)積層し、更に再びふたとなるグリーンシートを積層し、圧着して、グリーンチップを得た。なお、このとき、グリーン状態の誘電体層の厚みは3.5μmとした。
【0086】
次に、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、チップ焼結体を得た。脱バインダ処理条件は、昇温速度:60℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1240℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガスとした。アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウェッターを用いた。
【0087】
得られた焼結体のサイズは、縦3.2mm×横1.6mm×高さ0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は5であった。
【0088】
焼結体(誘電体磁器組成物)の構造
得られた焼結体を厚み10μmまで加工した後、イオンミリングにより試料をさらに薄片化した。その後、走査型透過電子顕微鏡(TEM)にて観察を行い、結晶粒(グレイン)2aと粒界相2bにより構成されていることを確認した。
【0089】
焼結体中の結晶粒の平均粒径
得られた焼結体を研磨し、エッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて研磨面の観察を行い、コード法によって、結晶粒2aの形状を球と仮定して、該結晶粒の平均粒径を測定した。平均粒径は、測定点数250点の平均値とした。その結果、0.32μmであった。
【0090】
平均粒径の結晶粒の微細構造
上記平均粒径が0.32μmの結晶粒の微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真を図3〜5に、これらを模式的に表したものを図6〜8に示す。
図3,6及び図5,8を見ると、いずれも、誘電体粒子(結晶粒)は、実質的に主成分としてのチタン酸バリウムで構成されたコアの周囲に、副成分がチタン酸バリウムに拡散されたシェル(副成分拡散層)を持つコアシェル構造を有することが確認できるが、図3,6では、シェル厚が不均一になっているのに対し、図5,8ではシェル厚が均一になっている。一方、図4,7を見ると、シェルの一部が欠け、コアが部分的に剥き出しになっていることが確認できる。
【0091】
そして、シェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2を算出し、これらの差(t1−t2)を求め、前記平均粒径の値を示す誘電体粒子の半径R(平均粒径の半分)に対する割合を算出した(表では「拡散領域の差」として示している)。結果を表1に示す。
なお、本実施例では、シェル24aの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)を次のようにして算出した。図9に示すように、上記平均粒径を持つ結晶粒に対して、該結晶粒の略中心を通るように粒の端から端まで一直線になるようにTEMで線分析を行い、その後45度ずらして同一粒径において線分析を行い、拡散領域の差を求め、拡散領域の差の最大値をその粒径での拡散領域の差とした。これをn=10の粒で行い、平均値を算出した(図9参照)。
【0092】
コンデンサ試料の作製
得られたチップ焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0093】
コンデンサ試料の特性評価
得られた各コンデンサ試料について、比誘電率ε、静電容量の温度特性(TC)、TCバイアス及び信頼性を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
比誘電率εは、得られたコンデンササンプルに対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。評価基準は、1300以上を良好とした。
【0095】
容量温度特性(Tc)は、得られたサンプルに対し、−55℃〜150℃の温度範囲で静電容量を測定した。静電容量の測定にはデジタルLCRメータ(YHP製4274A)を用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。そして、これらの温度範囲で最も容量温度特性が悪くなる150℃の温度環境下での静電容量の変化率(△C/C。単位は%)を算出し、X8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足するかどうかを調べた。評価基準は、−15%以上を良好とした。
【0096】
TCバイアスは、得られたサンプルを、デジタルLCRメータ(YHP製4274A)にて、1kHz,1Vrms,7.0V/μmのバイアス電圧(直流電圧)で−55℃から150℃まで温度を変化させて測定し、25℃のバイアス電圧無印加中の測定値からの静電容量の変化率を算出して評価した。なお、静電容量の測定にはLCRメーターを用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。評価基準は、−40%以上を良好とした。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、拡散領域の差が60%を超えると、誘電率は十分であるが、温度特性がX8Rを満足せず、しかもTCバイアスが悪化する。拡散領域の差が6%未満だと、誘電率は十分であり、温度特性はX8Rを満足するが、εが1300以下となり、薄層多層化が困難になる。
これに対し、拡散領域の差が本発明の範囲内(6〜60%)である場合には、誘電率が高く、温度特性がX8Rを満足し、しかもTCバイアス特性に優れることが確認できた。
【0099】
ちなみに、表1の「剥き出し」については、第1仮焼を行わずに、すべての副成分原料をチタン酸バリウム原料の第2仮焼の際に添加することで形成したが、温度特性とTCバイアスが悪化していることが確認できる。
【0100】
実施例2
第1仮焼時に添加する副成分原料の量(添加量)を、それぞれの副成分原料の最終的な添加量の10%、20%、40%と変化させた以外は、実施例1の試料4と同様にして、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【表2】

表2に示すように、いずれの試料も、拡散領域の差が本発明の範囲内(6〜60%)に収まり、同様の結果が得られることが確認できた。
【0101】
実施例3
第1仮焼の保持温度を、400℃、600℃、800℃と変化させた以外は、実施例1の試料4と同様にして、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すように、いずれの試料も、拡散領域の差が本発明の範囲内(6〜60%)に収まり、同様の結果が得られることが確認できた。
【0102】
実施例4
焼成時間を、0.5時間、1時間、3.5時間、4時間、5時間と変化させた以外は、実施例1の試料4と同様にして、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【表4】

表4に示すように、焼成時間が長くなるにつれて拡散領域の差が増加する傾向にあることが確認できた。そして、焼成時間が4時間を超えると、拡散領域の差が6%以下になり誘電率が引くなるが、4時間以下であれば拡散領域の差は本発明の範囲内(6〜60%)に収まることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【図2】図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3はシェル厚が不均一な本発明の実施例(試料4)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真である。
【図4】図4はシェルの一部が欠け、コアが剥き出しになっている本発明の比較例(試料9)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真である。
【図5】図5はシェル厚が均一な本発明の比較例(試料8)に相当する結晶粒の微細構造をTEMにより観察した写真である。
【図6】図6は図3のTEM写真を模式的に表した図である。
【図7】図7は図4のTEM写真を模式的に表した図である。
【図8】図8は図5のTEM写真を模式的に表した図である。
【図9】図9は実施例においてシェルの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)の算出方法を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0104】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
2a… 誘電体粒子(結晶粒)
22a… コア
24a… シェル
2b… 粒界相
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に主成分で構成されたコアの周囲に、副成分が主成分に拡散されたシェルを持つ複数の誘電体粒子を有する誘電体磁器組成物であって、
平均粒径の値を示す誘電体粒子を対象とした場合に、前記シェルの最大厚みt1と最小厚みt2の差(t1−t2)が、前記誘電体粒子の半径Rの6〜60%に制御されていることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、前記副成分は、Mgの酸化物、希土類元素の酸化物及びアルカリ土類金属元素(但し、Mgを除く)の酸化物を含む請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、
前記副成分は、
第1副成分としてMgO,CaO,BaO及びSrOから選択される少なくとも1種と、
第2副成分として酸化シリコンと、第3副成分としてV,MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第4副成分としてR1の酸化物(但し、R1はSc,Er,Tm,Yb及びLuから選択される少なくとも1種)と、
第5副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOと、
第6副成分としてR2の酸化物(但し、R2はY、Dy、Ho、Tb、Gd及びEuから選択される少なくとも1種)と、
第7副成分としてMnOとを含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1〜3モル、
第2副成分:2〜10モル、
第3副成分:0.01〜0.5モル、
第4副成分:0.5〜7モル(但し、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)、
第5副成分:0<第5副成分≦5モル、
第6副成分:9モル以下(但し、第6副成分のモル数は、R2単独での比率である)、
第7副成分:0.5モル以下、である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、
前記副成分は、
第1副成分としてAEの酸化物(但し、AEはMg、Ca、Ba及びSrから選択される少なくとも1種)と、
第2副成分としてRの酸化物(但し、RはY、Dy、Tm、Ho及びErから選択される少なくとも1種)と、
第3副成分としてMxSiO(但し、Mは、Ba、Ca、Sr、Li、Bから選択される少なくとも1種であり、M=Baの場合にはx=1、M=Caの場合にはx=1、M=Srの場合にはx=1、M=Liの場合にはx=2、M=Bの場合にはx=2/3である)と、
第4副成分としてMnOと、
第5副成分としてV、MoO及びWOから選択される少なくとも1種と、
第6副成分としてCaZrOまたはCaO+ZrOとを含有し、
前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0〜0.1モル(但し、0モルと0.1モルを除く)、
第2副成分:1〜7モル(但し、1モルと7モルを除く)、
第3副成分:2〜10モル、
第4副成分:0〜0.5モル(但し、0モルを除く)、
第5副成分:0.01〜0.5モル、
第6副成分:0〜5モル(但し、0モルと5モルを除く)、である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品であって、
前記誘電体磁器組成物が、請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、内部電極層とが交互に積層してあるコンデンサ素子本体を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体磁器組成物が、請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−111466(P2006−111466A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297874(P2004−297874)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】