説明

走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法

【課題】 測定対象が変わっても測定対象の反射率などの光学特性、あるいは形状や機械的特性に依存せずに検出感度やノイズの割合が調整可能で、測定対象への照射光による測定対象の熱変形の影響が小さくでき、最適な条件下で測定精度を確保することが可能な光学式変位検出方法を提供する。
【解決手段】 測定対象となるカンチレバー6に光を照射する光源10と、光源10を駆動する光源駆動回路21と、光源10からカンチレバー6に照射した後の光を受光し、光強度を検出する光検出器16と、光検出器16の検出信号を所定の増幅率で増幅する増幅器22から構成される光学式変位検出機構において、光強度調整器28と増幅率調整器27を設けカンチレバー6への照射光強度や光検出器16の増幅率を調整できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に光源からの光を照射し、照射後の光の強度を光検出器で検出する光学式変位検出機構に係わる変位検出方法に関するものであり、特にサンプル表面の形状情報や、様々な物理情報(例えば、誘電率、磁化状態、透過率、粘弾性や摩擦係数等)を計測する走査型プローブ顕微鏡、表面粗さ計、硬度計や電気化学顕微鏡等の表面情報計測装置の変位検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、半導体、セラミック、樹脂、高分子、生体材料、絶縁物等のサンプルを微小領域にて測定し、試料表面の凹凸像や物性情報の観察等を行う装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が知られている。
【0003】
これら走査型プローブ顕微鏡では、サンプルが載置されるサンプルホルダと、先端にプローブを有し、サンプルの表面に近接させるカンチレバーを備えたものが周知となっている。そして、これらサンプルとプローブとをサンプル面内(XY平面)で相対的に走査させ、この走査中にカンチレバーの変位量を変位検出機構により測定しながら、サンプルまたはプローブをサンプル表面と直交する方向(Z方向)に動作させて、サンプルとプローブの距離制御を行うことにより、表面形状や各種物性情報を測定するようになっている。
【0004】
ここで、従来の典型的な光学式変位検出機構を用いた走査型プローブ顕微鏡の概略構成図を図6に示す(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図6の走査型プローブ顕微鏡201は、先端にサンプル211を載せるサンプルステージ212を有し、末端がベース215上に固定された円筒型の圧電素子より構成される3軸微動機構(スキャナ)213によりサンプルがサンプル面内(XY平面)で走査されながら、サンプル面と垂直な方向(Z方向)に微動される。
【0006】
また、先端にプローブ209を有するカンチレバー207が、剛性の高いアーム205を介してベース215に固定された支柱203に保持されている。カンチレバー207の先端部下面には、プローブ209が下方に突出するように形成されており、Z方向に動作可能な粗動機構(図示せず)により、プローブ209の先端をサンプル211表面に近接させる構成である。
【0007】
カンチレバー207上方には、半導体レーザ(LD)221と半導体を材料とした光検出器235より構成され、一般に光てこ方式と呼ばれる光学式変位検出機構が設けられている。
【0008】
ここで、この光てこ方式の光学式変位検出機構の動作原理を詳細に説明する。(例えば、非特許文献1参照)
図7は、(a)が光学式変位検出機構200の概略構成図、(b)が半導体を材料とする光検出器235に接続される電気回路図である。この光学式変位検出機構200では、カンチレバー207の上方に設置され半導体レーザからなる光源221からレーザ光(入射光231)をレンズ240によりカンチレバー207の背面に集光して照射する。この入射光231は、カンチレバー207の背面で反射し、反射光233がカンチレバー207の斜め上方に設置され半導体により構成された光検出器235に当る。この光検出器235は受光面が上下に2分割された構成で反射光233の入射位置を検出することができる。
【0009】
この光検出器235の上側の受光面の領域Aと、下側の受光面の領域Bに入射する光の強度差を測定することでカンチレバー207のたわみ量を測定することが可能となる。光検出器235に光が入射すると、光信号が電気信号に変換されて、それぞれの受光面A、Bから電流iA、iBが発生する。この電流は、それぞれの受光面に接続されたオペアンプ245とフィードバック抵抗RIVにより構成される電流/電圧変換回路242により、電圧信号vA、vBに変換される。このとき、電流/電圧変換回路242のフィードバック抵抗値をRIVとすると、vA=RIV×iA、vB=RIV×iBの関係がある。このように、電流/電圧変換回路242は増幅率RIVで電流信号を電圧信号に変換する初段の増幅器として作用する。
【0010】
これらの電圧信号vA、vBは、オペアンプ246と抵抗R2,R3により構成される差動増幅回路243に送られて、電圧の差信号vA−Bを検出する。ここで、図7のようにオペアンプと抵抗値R2、R3で差動増幅回路を構成した場合、vA−B=(R3/R2)×(vA−vB)の関係が成り立ち、差動増幅回路243は増幅率R3/R2で電圧信号を増幅する増幅器として作用し、電圧信号vA−Bを出力する。
【0011】
ここで、図6、図7においてプローブ209とサンプル211を近接させた場合には、はじめ原子間力が作用し、さらに接近させると接触力が作用し、カンチレバー207にたわみが生じる。カンチレバー207がたわむと、光検出器235の受光面上のスポット241が上下に動く。ここで、上下の受光面の差の電圧信号vA−Bを差動増幅回路243で検出することで、カンチレバー207のたわみ量を測定することが可能となる。なお、差動増幅回路243の後ろ側には測定に使用する帯域以外の周波数成分をカットしノイズを抑制するために通常バンドパスフィルター244が設けられ、このバンドパスフィルター244を通った信号が、Zフィードバック回路251に送られる。
【0012】
カンチレバー207のたわみ量は、プローブ209とサンプル211表面間の距離に依存するため、カンチレバー207のたわみ量を光検出器235の出力電圧vA−Bで検出し、Zフィードバック回路251に入力し、たわみ量が一定、すなわち出力電圧vA−Bが一定となるように、Z微動機構213によりプローブ209とサンプル211表面間の距離を制御し、XYスキャナ213でサンプルを走査することで、サンプル表面の凹凸像が得られる。これらの制御は制御部257で行われ、XYZスキャナドライバ253により3軸微動機構213が駆動される。得られた凹凸像は表示部255に表示される。
【0013】
この光学式変位検出機構では、変位検出機構の検出感度(単位長さあたりの出力電圧量)と光学式変位検出機構の信号に混ざっているノイズ成分の大きさにより、測定データの高さ方向の分解能が決まる。
【0014】
ここで、光学式変位検出機構のノイズの要因としてはいくつかの理由が考えられる。
【0015】
(1)光検出器のショットノイズ
(2)光検出器のジョンソンノイズ(熱雑音)
(3)光源の量子ノイズ
(4)光源の戻り光ノイズ、モードホップノイズ
(5)カンチレバーの熱揺らぎ
(6)光の干渉ノイズ
このうち通常の走査型プローブ顕微鏡で使用される周波数帯域で最も依存度が高いのは、(1)の光検出器のショットノイズであり、検出感度に対するショットノイズの割合は受光面での光量Pの平方根に反比例して小さくなる。
【0016】
また、測定時の周波数が高い領域になると、(2)のジョンソンノイズの依存度も増してくるようになり、検出感度に対するジョンソンノイズの割合は受光面での光量Pに反比例して小さくなる。
【0017】
ここで、受光面での光量Pは光源の出力P0、光源から測定対象を経て光検出器に至る光路上での光の伝達効率をαとすると、P=αP0で表される。
【0018】
このように、ショットノイズやジョンソンノイズは光検出器の受光面上での強度Pが増えると、検出感度に対するノイズの量が減少し、その結果、測定データの分解能が向上する。すなわち、光源の出力P0を大きくするか、または光路上での伝達効率を向上させることが、検出感度に対するノイズの割合を下げるに有効である。
【0019】
一方、従来の光学式変位検出機構で最も一般的に使用されている光源である半導体レーザの光源側のノイズについて考えてみると、半導体レーザは、低パワーの領域では、素子内部で自然放出光の割合が多くなり(3)の量子ノイズを呼ばれるノイズが発生する。パワーを上げるにしたがって誘導放出光の割合が支配的となって、量子ノイズの割合は減少する。しかしながら、半導体レーザは、出力を大きくするほど量子ノイズが減る一方で、高出力で駆動した場合、(4)に示したようにカンチレバーやサンプルあるいは光路中に配置された光学素子などで反射して半導体レーザに戻ってくる戻り光ノイズや、温度や光出力変動時に発生するモードホップノイズが発生する。このため、光源側の出力には最適値が存在し従来技術では2mW以下で駆動を行っていた。このように、光検出器の量子ノイズレベルを下げるためには光源側の出力を大きくする必要があるが、光源側の戻り光ノイズやモードホップノイズの発生を抑えるために出力には限界があった。
【0020】
また、モードホップノイズや戻り光ノイズを低減させるためには、光源のコヒーレンシーを下げることが有効である。言い換えれば光源の波長に対する強度のスペクトルにおいて、強度が最大となる部分のスペクトル幅が広い光源を使用することが好ましく、この目的で、半導体レーザに高周波変調が掛けられていた。また、測定対象や光路中の部材などによる戻り光を防止するために入射光と反射光の偏光状態を変えて、半導体レーザに反射光が戻らない光学系を用いるなどの工夫が行われていた。ただし、これらの工夫を行っても、モードホップノイズや戻り光ノイズは完全には排除できないため、光源側の光強度を2mW以下で駆動を行っていた。
【0021】
また、半導体レーザはコヒーレンシーが高く可干渉性に優れた光源であるため、例えば走査型プローブ顕微鏡ではカンチレバーでの反射光と、カンチレバーをはみ出してサンプルから反射してくる光が干渉して、凹凸像やプローブとサンプルの距離に対する物性測定時のデータに(6)干渉ノイズが生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平10−104245号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Takeshi Fukuma et al, 泥evelopment of low noise cantilever deflection sensor for multienvironment frequency-modulation atomic force microscopy・ REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS, 76,053704(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
以上のように、光源の出力を最適化して光学式変位検出機構の検出感度に対するノイズの割合が小さくなるように光源の出力の最適化を行っていたが、従来の光学式変位検出機構では光源側の光強度と、光検出器側の増幅器の増幅率を固定していたので、以下のような問題があった。(1)測定対象の反射率などの光学特性や測定対象の形状により、光検出器の受光面での光強度が変わってしまうため、測定対象によって検出感度やノイズの割合が異なってしまう。
(2)光源から測定対象への照射光により測定対象が加熱され、測定対象が変形する場合がある。
(3)光てこ方式の光学式変位検出機構などでは測定対象の長さなどの形状やバネ定数などの機械的特性により検出感度が変わってしまう。
【0025】
特に、走査型プローブ顕微鏡では、検出感度の低下やノイズの増加を防ぐために測定対象であるシリコンまたはシリコンナイトライド製のカンチレバーにアルミニウムや金などをコートして反射率を稼ぐ工夫が行われている。また、走査型プローブ顕微鏡でサンプルの電気的な特性を測定する場合には、カンチレバーに金や、ロジウムなどの導電体をコートしてカンチレバーに導電性を持たしている。また、測定するサンプルによりバネ定数や共振周波数などの機械的な特性や形状が異なるカンチレバーが選択される。
【0026】
したがって、走査型プローブ顕微鏡ではカンチレバーにより反射率が大きく異なり、測定対象によって検出感度やノイズの割合が異なってしまう。
【0027】
また、カンチレバーへコートされた膜の材質と、カンチレバーの母材の線膨張係数の差により光源からの照射光によりカンチレバーの温度が上昇しカンチレバーがたわみ変形が生じてしまう。検出感度に対するノイズの割合を考慮した場合には、高い強度でカンチレバーに光を照射するため、バネ定数の小さいカンチレバーでは熱変形の影響が大きい。
【0028】
また、形状の異なるカンチレバーを選択した場合には、光てこのてこ比が変わってしまうため検出感度が変化してしまう。
【0029】
以上のような問題によって、従来の光学式変位検出機構による変位検出方法では測定精度が悪化してしまう場合があった。
【0030】
したがって、本発明の目的は、測定対象が変わっても測定対象の反射率や形状や機械的特性に依存せずに検出感度やノイズの割合が調整可能で、測定対象への照射光による測定対象の熱変形の影響が小さくでき、最適な条件下で測定精度を確保できるような変位検出方法およびそれを採用した走査型プローブ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するために、本発明では以下の光学式変位検出機構における変位検出方法を構成した。
【0032】
測定対象に光を照射する光源と、光源を駆動する光源駆動回路と、光源から測定対象に照射した後の光を受光し光強度を検出する光検出器と、光検出器の検出信号を所定の増幅率で増幅する増幅器とを含む光学式の変位検出機構に係わる変位検出方法において、光源から測定対象への照射光強度を任意に変更する手段(光強度可変手段)による光強度の調整及び/又は増幅器の増幅率を任意に変更する手段(増幅率可変手段)による検出信号強度の調整を行なう強度調整を経ることにより、測定対象によらず前記光検出器での一定精度の光検出を可能にするようにした。
【0033】
また、光強度可変手段を光源と測定対象間の光路上に備えられた光の強度を調整する光学フィルターとした。
【0034】
光源からの光を測定対象に照射し、測定対象からの反射光を光検出器で受光し、測定対象の反射率に応じて、測定対象に照射される光強度を調整し、測定対象を反射後の反射光強度が所定の値になるようにした。
【0035】
また、測定対象の反射率の違いによる受光強度の違いに応じて、光検出器での検出感度が所定の値となるように検出信号を増幅するようにした。
【0036】
以上の変位測定方法とすることで、測定対象の形状や反射率によらず、光検出器の受光面での強度を調整することができるようにした。その結果、検出感度やノイズの割合を最適な状態に任意に設定することが可能となる。
【0037】
また、本発明では、前記光源からの光を前記測定対象に照射した際に、前記照射光による前記測定対象が加熱され、前記測定対象が変形する場合、変形量が所定の値に納まるように、前記測定対象に照射する光強度を調整するようにした。
【0038】
このように構成することで、測定対象の熱変形で測定精度に影響が出ないように光強度の調整を行うことが可能となる。
【0039】
また、本発明の変位検出方法は、走査型プローブ顕微鏡の光学式変位検出機構の変位検出方法として適用した。
【0040】
この場合、光源としては、スーパールミネッセンスダイオード、発光ダイオード又は,高周波変調又は光学系による偏光によって戻り光を防止した半導体レーザのいずれかであるようにした。
【0041】
走査型プローブ顕微鏡に本発明の光学式変位検出機構を適用した場合には、前記光源を半導体レーザまたはスーパールミネッセンスダイオードはたは発光ダイオードとし、前記光源駆動回路の電流値により、前記光源の光強度を調整するようにした。
【0042】
また、本発明の変位検出方法は、プローブを有し、その位置情報を検出することによりサンプルの形状情報とする表面形状測定装置の変位検出機構の変位検出方法として適用した。
【0043】
以上にように本発明を走査型プローブ顕微鏡や表面情報計測装置に適用することで、走査型プローブ顕微鏡や表面情報計測装置に用いられるカンチレバーやプローブの反射率などの光学的特性や形状や機械的特性の影響により、検出感度やノイズの悪化あるいは熱変形が防止でき、最適な光強度と増幅率で検出を行うことが可能であるため、走査型プローブ顕微鏡や表面情報計測装置の測定を最適な条件下で行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明の変位検出機構及びそれを用いた表面情報計測装置では、測定対象に照射される光強度を調整する光強度可変手段をにより光強度を調整し、また、光検出器に設けられた増幅器に設けた増幅率可変手段により検出信号の強度を調整することで、測定対象が変わっても測定対象の反射率などの光学特性、あるいは形状、バネ定数などの機械的特性に依存せずに検出感度やノイズの割合が調整可能で、測定対象への照射光による測定対象の熱変形の影響が小さくでき、最適な条件下で測定精度を確保することが可能である。
【0045】
特に、本発明の光学式変位検出機構を走査型プローブ顕微鏡や表面情報計測装置に適用することで走査型プローブ顕微鏡や表面情報計測装置の測定を最適な条件下で行うことが可能となり、高精度での測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡用の変位検出方法の第1実施例および第2実施例を示す概観図である。
【図2】図1中に記載されている増幅器の回路図である。
【図3】本発明に係る溶液中で用いられる走査型プローブ顕微鏡用の変位検出方法の第2実施例を示す概観図である。
【図4】本発明に係る走査型近接場顕微鏡用の変位検出方法の第3実施例を示す概観図である。
【図5】本発明に係る走査型プローブ微鏡用の変位検出方法の第4実施例を示す概観図である。
【図6】従来の走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図7】従来の走査型プローブ顕微鏡用の光学式変位検出機構の概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の光学式変位検出機構を走査型プローブ顕微鏡に適用した場合について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0048】
本発明に係る第1の実施例の変位検出方法の概略図を図1、図2に示す。図1は走査型プローブ顕微鏡に光学式変位検出機構を適用した場合の概観図である。なお、図1は正面図で示しているが光検出器の部分について斜視図で記載している。また、図2は図1の増幅器22の回路図の概略図である。
【0049】
本実施例では先端にサンプルホルダ1が固定され、末端が粗動機構2上に固定された円筒型圧電素子からなる3軸微動機構4を有する。3軸微動機構4は、サンプルホルダ1上に置かれたサンプル5をサンプル面内(XY平面)方向に走査するXYスキャナ部4aと、サンプル面内と垂直な方向(Z方向)に微動するZ微動機構4bを有している。
【0050】
サンプル5の上方には、カンチレバー部6aの先端に先鋭化されたプローブ6bを有する、カンチレバー6が、カンチレバーホルダ7を介してベース8に固定されている。カンチレバー6の上方には光学式変位検出機構9が配置される。
【0051】
ここで、本実施例での走査型プローブ顕微鏡の動作原理を説明する。本実施例は走査型プローブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡であり、サンプル表面の凹凸像の測定を行うために用いられる。本実施例では一般にコンタクト方式原子間力顕微鏡と呼ばれている方式と振動方式による原子間力顕微鏡が併用できる構成となっている。
【0052】
コンタクト方式の場合には、粗動機構2によりサンプル5をプローブ6bに接近させていくと、プローブ6bとサンプル5の間に原子間力が作用し、プローブ6bは引力を受ける。さらに接近させていくとプローブ6bは斥力を受けるようになり、最後はプローブ6bとサンプル5が接触する。このとき、プローブ6bが受ける力に応じて、カンチレバー6aにたわみが生じる。プローブ6bが受ける力、すなわちカンチレバー6aのたわみ量は、プローブ6bとサンプル5の表面間の距離に依存する。
【0053】
したがって、カンチレバー6aのたわみ量が一定となるようにZ微動機構4bでプローブ6bとサンプル5の間の距離を変化させながら、XYスキャナ部4aでサンプル5をラスタースキャンすることでサンプル5の表面の凹凸形状を得ることができる。
【0054】
また、振動方式の場合には、カンチレバー6を圧電素子よりなる加振器41により共振周波数近傍で加振する。光学式変位検出機構9によりカンチレバー6aの振幅や位相を計測しながら、プローブ6bをサンプル5に近接させていくと、原子間力や間欠的な接触量が作用して振幅や位相が変化する。この変化量はプローブ6bとサンプル5の間の距離に依存するため、振幅や位相が一定となるようにプローブ6bとサンプル5の間の距離を制御することでプローブ6bとサンプル5の間距離を一定に保つことが可能となる。
【0055】
次に、本実施例の光学式変位検出機構9の構成と動作原理について述べる。
【0056】
この光学式変位検出機構9は、一般に光てこ方式と呼ばれるものであり、光源10に波長670nm、最大出力5mWの半導体レーザを使用し、光源10から発光されるレーザ光を集光レンズ11で集光し、ビームスプリッタ12で入射光13の光路を曲げて測定対象であるカンチレバー6aの背面に直上(Z方向)から照射する。光源10の光の強度は光源駆動回路21により設定される。
【0057】
カンチレバー6はXY平面に対して傾けられて配置されており、反射光14は入射光13の光軸とは異なる方向に反射される。反射光14はミラー15で曲げられて、光検出器16上に入射する。
【0058】
光の光路はカンチレバー6aの背面で一端結像し光検出器16の受光面上では有限の大きさを持ったスポット20を形成するように構成される。光検出器16は、半導体を材料として製作されたフォトダイオードであり、受光面が4分割(A1、A2、B1、B2)された構成となっている。
【0059】
光検出器16に光が入射すると、光検出器16を構成する半導体から電流信号が発生し、光検出器16の後端に設けられた電流/電圧変換回路を備えた増幅器22により、4つの受光面ごとに所定の増幅率で電圧信号に変換される。このときの出力は電圧モニター23で表示される。
【0060】
ここで、カンチレバー6aがZ方向にたわんだ場合には、光検出器16上のスポット20は受光面上で上下に動作する。
【0061】
したがって4分割された受光面(A1、A2、B1、B2)のうち、上側の2つの受光面の領域A(A1+A2)と、下側の2つの受光面の領域B(B1+B2)に入射する光の強度差A−Bを測定することでカンチレバー6aのたわみ量を測定することが可能となる。
【0062】
ここで、図2により増幅器22の回路構成を説明する。本実施例の光学式変位検出機構9では、光検出器16を用いて、光検出器16の上側の受光面の領域Aと、下側の受光面の領域Bに入射する光の強度差を測定することでカンチレバー6aのたわみ量を測定することが可能となる。ここで、各受光面に入射する光の強度をPa1、Pa2、Pb1、Pb2とする。各受光面にPa1、Pa2、Pb1、Pb2の強さの光が入射すると、光検出器16により光信号が電気信号に変換されて、それぞれの受光面A1、A2、B1、B2から電流Ia1、Ia2、Ib1、Ib2が発生する。本実施例の光検出器の受光感度は受光感度0.65A/Wである。この電流は、それぞれの受光面に接続されたオペアンプ31と抵抗R1により構成される電流/電圧変換回路30により、電圧信号Va1、Va2、Vb1、Vb2に変換される。このとき、電流/電圧変換回路30のフィードバック抵抗値をR1とすると、Va1=R1×Ia1、Va2=R1×Ia2、Vb1=R1×Ib1、Vb2=R1×Ib2の関係がある。このように、初段の電流/電圧変換回路30では増幅率R1で増幅されて、電流信号が電圧信号に変換される。これらの電圧信号は、加算回路34に入力されて、上側2つの受光面の光量の和Va=Va1+Va2、下側2つの受光面の光量の和Vb=Vb1+Vb2が出力される。これらの信号は、オペアンプ32と抵抗R2,R3により構成される差動増幅回路33に送られて、電圧の差信号Va−bを検出する。ここで、図のようにオペアンプと抵抗値R2、R3で差動増幅回路を構成した場合、Va−b=(R3/R2)×(Va−Vb)の関係が成り立ち、差動増幅器により増幅率R3/R2で増幅されて、Va−bが出力される。このように、電流/電圧変換回路30と差動増幅回路33は増幅器として作用する。このVa−bを検出することでカンチレバー6aのたわみ量を測定することができる。
【0063】
この、A−Bの電圧信号Va−bを制御回路24に送り、あらかじめ設定した動作点と比較してその差分に応じた信号によりスキャナ駆動回路25からZ微動機構4bを動作させて、サンプル5とプローブ6b間の距離を一定に保つように制御を掛ける。さらに、スキャナ駆動回路25により、XYスキャナ部4aを動作させサンプル5をラスタースキャンさせる。
【0064】
このとき、3軸微動機構4に掛けた電圧信号を表示部26で表示させることで、サンプル5の表面の凹凸像が得られる。
【0065】
本実施例では、光源駆動回路21に光強度調整器28を設けて光源10に用いた半導体レーザへの電流値を調整することで、光源の出力を調整できるようにした。
【0066】
また、増幅器22には増幅率調整器27を設けた。この増幅率調整器27により差動増幅回路33の抵抗値R3を調整して増幅率を調整できるようにした。
【0067】
ここで、これらの光強度調整器28と増幅率調整器27により測定対象であるカンチレバーに応じて条件の最適化を行うようにした。
【0068】
まず、振動方式の原子間力顕微鏡でシリコンウェハ表面などの観察を行う場合には、シリコンを材料し、カンチレバー6aの背面に反射率を高めるためにアルミニウムがコートされ、長さ125μm、幅30μm、厚さ4μmでバネ定数が約40N/mのカンチレバーを使用する。この場合、バネ定数が比較的硬く、振動方式であるため、レーザを照射した場合、カンチレバー6aが加熱されて熱変形が生じる影響は測定精度に大きな影響を及ぼさない。したがって、検出感度に対するノイズの割合を低下させるために、モードホップノイズや戻り光ノイズが発生しない範囲で、光強度調整器28を用いて光源10の光強度を高めて、強い光をカンチレバー6aに照射して、光検出器16への入射光量を大きくして、測定精度を高めるようにした。本実施例では、光源10の出力を1.5mWとし、電流/電圧変換回路30のフィードバック抵抗値R1は100kΩに設定し。また、差動増幅回路33の抵抗値はR2=10kΩ,R3=20kΩに設定した。すなわち増幅器の増幅率は、初段の電流/電圧変換回路30で100000倍、後端の差動増幅回路33で2倍に設定した。
【0069】
次に、同じ形状で、製造コスト削減や、あるいは先端のプローブ6bへコート膜が付着し分解能が低下するのを防ぐ目的でコートが施されていないカンチレバー6を使用して振動方式の原子間力顕微鏡で測定を行った。この場合、アルミニウムによる反射膜がコートされていないので、測定対象であるカンチレバー6bの反射率が低下し光検出器16の受光面へ入射する光強度が減って検出感度の低下やノイズの増大を引き起こす。そのため、本実施例では光源10として半導体レーザを用いて、光強度調整器28により光源10を駆動する電流値を増加させ、反射率の減少分をカンチレバー6aへの入射光量の増加で補って、光検出器16の受光面の入射光量をカンチレバー6aにアルミニウムがコートされている場合と同じように調整した。これによりコートありの場合と同等の検出感度とノイズの割合を確保することができた。
【0070】
次に、シリコンを材料しカンチレバー6aの背面のみに反射率を高めるためにアルミニウムがコートされ、長さ225μm、幅30μm、厚さ5μmでバネ定数が約13N/mのカンチレバーを使用する。この場合も、バネ定数が比較的硬く、振動方式であるため、レーザを照射した場合、カンチレバー6aが加熱されて熱変形が生じる影響は測定精度に大きな影響を及ぼさない。したがって、検出感度に対するノイズの割合を低下させるために、モードホップノイズや戻り光ノイズが発生しない範囲で、光強度調整器28を用いて光源10の光強度を高めて、強い光をカンチレバー6aに照射して、測定精度を高めるようにした。
【0071】
しかしながら、光てこ方式の変位検出機構の場合、カンチレバー6aの長さとカンチレバー6aの光の照射位置から光検出器16までの距離により決まるてこ比により検出感度が変わり、検出感度はカンチレバーの長さに反比例する。したがって、前記一例のバネ定数が40N/mのカンチレバーと比較した場合には、カンチレバー6aの長さが1.8倍長いので、検出感度は40N/mのカンチレバーの場合に比べて0.56倍に低下する。そこで、検出感度を高めるために光源10の出力を上げてもよいが、光源10として半導体レーザを用いているために、モードホップノイズや戻り光ノイズの発生が問題とされるので、本実施例では、増幅率調整器27により光検出器に設けられた増幅器の増幅率を調整して検出感度の低下分を補った。
【0072】
なお、万一、熱変形の影響が出てしまう場合には、カンチレバー6aの両面に同じ材質で同じ膜厚のコートを施すことで、両面の線膨張係数が等しくなるため熱変形はほとんど起きない。
【0073】
次にコンタクト方式の原子間力顕微鏡で測定を行う場合について述べる。コンタクトモードを行う場合には、プローブ先端の摩耗の影響を小さくするため、バネ定数の小さいカンチレバーが使用される。本実施例では、シリコンナイトライド製で、長さ200μm、厚さ0.4μmで片面に下地をクロムとし金がコートされたバネ定数が0.02N/mのカンチレバーを使用した。このカンチレバー6aでは、バネ定数が小さいので、光照射によってカンチレバー6aの温度が上がり、金属コート部分の線膨張係数と、シリコンナイトライド基材部分との線膨張係数の差によってカンチレバー6aに反りが生じて測定精度が悪化してしまう。そこで、本実施例では、光強度調整器28により半導体レーザ10を駆動する電流値を振動方式で40N/mのアルミコートを施した場合に比べて1/3の大きさである0.5mWまで低下させ、発熱を小さくした。また、光出力の減少による検出感度の低下を補うため、増幅率調整器27により光検出器に設けられた増幅器の増幅率を3倍大きくした。
【0074】
以上のように光強度調整器28や増幅率調整器27でカンチレバー6aに照射される光強度や増幅率の最適化を行うことで、使用するカンチレバーの形状や反射率やバネ定数などの機械的特性の違いによらず適切な検出感度とノイズの割合を確保できる。また、母材とコートされた薄膜との線膨張率の差による熱変形の影響を小さくでき、最適な条件下で走査型プローブ顕微鏡の測定を行うことが可能となった。
【実施例2】
【0075】
本発明に係る、第2の実施例を図3により説明する。図3は溶液中で動作させる走査型プローブ顕微鏡用の概観図である。基本構成は第1の実施例と同じであるため、重複する部分の説明は省略する。
【0076】
本実施例では、本実施例では振動方式の原子間力顕微鏡を使用しており、本実施例の溶液測定用のカンチレバーホルダ35は、実施例1の大気中での測定時に使用されるカンチレバーホルダ7と交換可能な構成とした。
【0077】
溶液測定用のカンチレバーホルダ35は金属ベースブロック36とガラスベースブロック37とからなる構造となっている。ガラスベースブロック37にはカンチレバー加振用の圧電素子よりなる振動子41とカンチレバー固定部42がガラスベースブロック37に接着固定されている。カンチレバー固定部42にはカンチレバー6が固定されている。振動子41は溶液中で用いるため、シリコンシール剤で周囲を防水処理し、電気的なショートを防止している。
【0078】
ガラスのベースブロック37には先端が平面に加工された突起部38が設けられる。一方、円筒型圧電素子で構成される3軸微動機構4のサンプルホルダ1にはシャーレ44が載せられており、シャーレ44の中に溶液46に浸された細胞などの生体や有機薄膜などのサンプル45が固定されている。
【0079】
サンプル45とプローブ6bを接近させていくと、突起部38の平面部39がシャーレ内の液面と表面張力により接触し、液体層46が形成されて溶液中にカンチレバー6とサンプル45が浸った状態となる。
【0080】
光学式変位検出機構9は、光源10としてピーク波長が830nmで波長に対する光強度のスペクトル幅が17nmのスーパールミネッセンスダイオード(SLD)が用いられている。SLDからの光は集光レンズ11で集光され、ビームスプリッタ12で入射光13の光路を曲げて測定対象であるカンチレバー6aの背面に直上(Z方向)から照射する。光源10の光の強度は光源駆動回路21により設定される。カンチレバーホルダ35のガラスベースブロック35は石英ガラス製で、SLDの波長である830nmを透過させる。入射光は空気層においてビームスプリッタ12で曲げられたあと、ガラスベースブロック37を透過し、液体層46に進んでいきカンチレバー6aの背面に照射される。カンチレバー6aの背面で反射されたレーザ光は、液体層46からガラスベースブロック37を透過した後、ミラー15を経由して受光面が4分割された光検出器16に入射する。光検出器16は増幅器22に接続されている。増幅器22は第1の実施例の図2に示した回路と同一であり電流/電圧変換回路30と差動増幅回路33により構成されている。ここで、特に溶液中でカンチレバー6aを振動させた場合には、後に述べるカンチレバー6aが溶液から受ける粘性抵抗や、光が透過する部材からの散乱光の影響、さらにはカンチレバー6aを加振することに伴う液体層46やガラスベースブロック37の揺れなどにより、振幅の検出信号にカンチレバー6aの共振周波数以外のノイズが載り測定精度を悪化させる場合が多い。このノイズを除去する目的で、差動増幅回路33の後ろ側に、カンチレバー6aの共振周波数の近傍以外の周波数成分を除去するバンドパスフィルターを設ける場合もある。
【0081】
ここで、入射光13は、ガラスベースブロック37と空気層43の界面40と、ガラスベースブロック37と液体層46の界面39でそれぞれ反射するため、第1の実施例の空気中で測定を行う場合よりも光源10側への戻り光が大きくなる。実施例1のように光源10に半導体レーザを用いた場合には、この戻り光により、戻り光ノイズやモードホップノイズが発生するので、光源の出力を大きくできず、そのため検出感度に対する光検出器のノイズを小さくすることができなかった。本実施例のようにスペクトルの半値幅が大きく低コヒーレントな光源であるSLDを用いることで戻り光ノイズやモードホップノイズを抑制でき、光源10の出力を大きくすることができる。
【0082】
本実施例のように、ガラスベースブロック37や液体層46を光が透過する場合、光のロスが生じて、空気中での測定と同じ出力ではカンチレバー6aに光を入射すると光検出器16への入射光の強度が低下し、検出感度の低下やノイズの増加をまねく。本実施例では、光強度調整器28により光源10の強度を4mWまで高めて、これらの光のロスを補って、空気中と同じ入射光強度を確保し検出感度の低下やノイズの増大を抑えるようにした。
【0083】
溶液用のカンチレバーホルダ35を大気中カンチレバーホルダ7に交換して大気中で測定を行う場合には、ガラスベースブロック37や液体層46での光のロスがなくなるので光強度調整器28によりSLD10を駆動する電流値を下げて光源の光強度を1.5mWに戻して使用する。
【0084】
なお、低コヒーレント光源の代わりに半導体レーザを用いて、高周波変調させたり、あるいは偏光を利用して戻り光が減少するように光学系を組むようにしてもよい。この場合、モードホップノイズや戻り光ノイズの発生する光源の出力の限界を少し高めることが可能となる。
【実施例3】
【0085】
本発明の第3の実施例を図4に示す。図4は走査型プローブ顕微鏡の一種である走査型近接場顕微鏡のプローブとプローブの変位検出用の光学式変位検出機構の模式図である。なお、主要部以外の詳細な構成は省略している。
【0086】
本実施例で使用されるプローブ50は光ファイバーの先端を先鋭化し、先端部に開口を設け、開口以外の部分をアルミニウムでコートした構成である。このプローブ50を加振用の圧電素子51が取り付けられたプローブホルダ52に板バネ53で固定し、プローブ50の長軸方向がサンプル54の表面と直交するように配置する。
【0087】
このように配置したプローブ50を、加振用圧電素子51により、サンプル54の表面と平行な方向(図のY軸方向)にプローブ50の共振周波数の近傍で加振する。このときプローブ50の先端とサンプル54の表面を接近させると、サンプル54の表面の吸着層の抵抗力や、摩擦力あるいは原子間力などの力をプローブ先端が受ける。これらの力は総称してシアフォースと呼ばれる。シアフォースを受けるとプローブ50の振幅が減少する。この振幅の減少量はプローブ50の先端とサンプル54の表面の距離に依存する。したがってプローブ50の振幅量や位相の変化を計測しながら、振幅や位相が一定となるようにサンプル54とプローブ50間の距離を制御することで、サンプル54とプローブ50を一定の距離に保つことが可能である。実施例1と同じく、この状態でサンプル54とプローブ50を相対的にラスタースキャンすることでサンプル表面の凹凸像を測定することが可能である。走査型近接場顕微鏡では、プローブ50に光を入射し、プローブ先端の開口部近傍にエバネッセント光を発生させて、サンプル54に照射し、サンプル表面で散乱させて、その散乱光を検出器により検出することで、サンプル54の表面の光学的な特性も同時に測定することが可能である。
【0088】
ここで、本実施例でのプローブ50の振幅量の測定方法を説明する。本実施例の光学式変位検出機構55は、集光レンズと発光ダイオード(LED)が組み込まれた光源部56と、表面が2分割され半導体を材料とする光検出器57から構成される。光源部56からの光は、真横方向(図のX方向)からプローブ50に照射される。このとき光源部56からの光は結像されるが、プローブ50への照射点はプローブ50ですべての光が遮られない程度に結像点からずれた位置で照射される。LEDは、波長700nm、スペクトルの半値幅35nmのものを用いた。LEDは半導体レーザやSLDのようにスポットを小さく絞ることができないが、本実施例で使用した光ファイバープローブは直径がφ125μmと、カンチレバーに比べて大きいので、LEDのスポットの大きさでも十分測定することが可能である。
【0089】
プローブ50に照射された光は、一端結像し、その後、再び広がって、プローブ50に対して光源部56と対向する位置に配置される光検出器57の面内に有限のスポット58を作製するように入射する。
【0090】
このときスポット58内にはプローブ50で遮られた部分が影となって現れる。
【0091】
このように構成された光学式変位検出機構55においてプローブ50が振動すると、2分割された光検出器57の受光面上で影で遮られていない部分の面積差が変化するため2つの分割面の光出力の差分を検出することでプローブ50の振幅量あるいは位相を測定することが可能となる。
【0092】
本実施例においても、第1、第2の実施例と同様に、光源56の光強度を光源駆動回路64に設けられた光強度調整器65で調整できるようにしている。
【0093】
また、増幅器61には増幅率調整器62を設け、増幅率も調整できるようにしている。
【0094】
走査型近接場顕微鏡に用いられるプローブは、直径が通常125μmのものが用いられるが、サンプル54によってプローブの直径が小さいものを使用したり、直径の大きいガラスのピペットを使用することもある。また、プローブ50として金属ワイヤーを先鋭化したものも用いられ、この場合サンプル50の表面にエバネッセント場を発生させて金属ワイヤーからなるプローブ先端でエバネッセント場を散乱させ散乱光を分析することでサンプル表面の光学特性の測定が行われる。このようにプローブ50の直径が変わると、光検出器57の受光面上での影の大きさも変わり、その結果検出感度が変わる。そこで、光強度変換器65により電流値を変化させてLEDの発光強度を変えて、検出感度の違いを補完するようにした。なお、増幅率調整器62側で補完を行ってもよい。
【0095】
以上のように光強度調整器65や増幅率調整器62でプローブ50への照射光強度や増幅率の最適化を行うことで使用するプローブの形状の違いの影響を小さくでき、適切な検出感度を確保して、走査型近接場顕微鏡の測定を行うことが可能となった。
【実施例4】
【0096】
図5は本発明の第4の実施例の走査型プローブ顕微鏡に用いられる光学式変位検出機構の模式図である。本実施例は基本的な構成は図1、図2を用いて第1の実施例で説明した光てこ方式の光学式変位検出機構と同じものであるため、重複する部分の説明は省略する。図1との違いは、光源駆動回路21に光強度調整器を持たない点にある。
【0097】
本実施例では、光源10とカンチレバー6aの間の光路に光の強度を調整する光学フィルター40を挿入してカンチレバー6aに入射する光の強度を調整できるようにした。光学フィルター40は、光の強度を減光させる減光フィルター(NDフィルター)を使用した。
【0098】
これにより、実施例1の光強度調整器28でカンチレバーへの入射光強度を調整するのと同じ効果が得られる。
【0099】
以上、本発明の実施例について述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
例えば、本実施例では受光面が4分割または2分割された半導体製の光検出器を使用したが、光の強度やスポットの位置を検出する任意の検出器を適用可能である。例えば、分割面を持たず、受光面上のスポット位置を検出可能な位置検出素子(Position Sensitive Detector:PSD)と呼ばれる半導体素子などが市販されている。
【0101】
また、光源は、出力も比較的安定して、光強度調整の場合の応答性に優れ、測定対象が微小なプローブの場合に光学レンズで光のスポットを小さく絞れ、また光ファイバーで伝播する場合にはファイバーへのカップリング効率に優れる半導体レーザ(LD)やスーパールミネッセンスダイオード(SLD)、あるいは発光ダイオード(LED)が好ましいが、白色光源など他の光源も本発明に含まれる。特にSLDは高出力で使用してもLDのように特別な装置を用いずモードホップノイズや戻り光ノイズの影響が少なくできるという特徴がある。また、例えば走査型プローブ顕微鏡の場合には、測定対象であるカンチレバーで反射される光とカンチレバーからはみ出して反射した光が干渉して、プローブとサンプル間の距離に対するプローブにかかる力の関係(一般にフォースカーブと呼ばれる)を測定した際に、フォースカーブにうねりが発生する場合がある。また凹凸像を測定した場合にも干渉縞が発生する場合があった。このように干渉が測定データに悪影響を及ぼすことがあったが、SLDは低コヒーレントで可干渉性が小さいので、干渉の影響も防止できる。また、測定対象に照射される光の強度により干渉の影響が大きく現れる場合には光強度可変手段により強度を下げることで、干渉の影響を抑えることが可能となる。
【0102】
また、走査型プローブ顕微鏡で、フォースカーブや凹凸像を測定した場合に、カンチレバーを反射して光検出器に入射する光以外の迷光の影響により、フォースカーブや凹凸像に迷光の影響が現れる場合がある。一般に測定対象に照射される光の強度が大きいほど迷光の影響が大きくなるため、迷光の影響が大きい場合には、光強度可変手段により強度を下げることで、迷光の影響を抑えることが可能となる。
【0103】
また、光学系も本実施例に限定されず、測定対象に光を照射し、測定対象を経由した光を光検出器で受光し、光検出器からの信号により測定対象の変位を測定するものであれば任意の光学式変位検出機構に適用可能である。例えば光源からの光を光ファイバーで伝播して測定対象に照射してもよい。
【0104】
光源の光強度調整器や光検出器側の増幅率調整器も任意の方式のものが使用可能で、例えば、ボリュームツマミを用いて連続的に調整する方式でもよいし、あらかじめ複数の設定値を決めておき、切り替えスイッチにより設定を行う方式でもよい。
【0105】
また、増幅率を変更するために、図2の差動増幅回路の抵抗値R3を変更したが、抵抗値R2を変更してもよい電流/電圧変換回路30の抵抗値R1を変更してもよい。また、差動増幅回路33以降の制御回路内での電気回路内での調整や信号処理系でのソフトウエアの設定で変更してもよい。
【0106】
また、光源の光強度調整に用いられる光学フィルターは光量を調整する目的で用いるものであれば任意のフィルターが使用できる。
【0107】
また、走査型プローブ顕微鏡は、実施例で述べたコンタクト方式や振動方式の原子間力顕微鏡や、走査型近接場顕微鏡に限定されず、カンチレバーやプローブを用いて、これらの変位や振幅を検出しながら、プローブとサンプル表面間の距離の制御を行ったり、プローブにかかる力や相互作用を検出することで、サンプル表面の物性を測定するものはすべて本発明に含まれる。また、プローブによりサンプル表面への加工や、サンプル表面の物質のマニピュレーションを行うものなども、すべて本発明に含まれる。また、必ずしもXYスキャナで走査させる必要はなく、Z微動機構を用いて高さ方向の相互作用を検出する機能のみを有するものも本発明に含まれる。さらに、4分割の光検出器の左右の受光面を用いて、上下の受光面の差信号によりカンチレバーのたわみ量を検出するのに加え、左右の受光面の差信号からカンチレバーのねじれ量を検出し摩擦力を測定することも可能である。この場合には左右の受光面での光強度差の信号に対して増幅率を変更する。
【0108】
また、測定に先立ち、測定対象への光源のスポット光の位置合わせを行う場合には通常光学顕微鏡でスポット光と測定対象を観察しながら、光源を移動させて行うが、測定時の光強度では、観察像のスポット光が散乱してスポット光の中心位置が認識できない。このような場合に本発明の光強度調整器により光強度を落として調整することで視認性も向上し、測定対象に確実にスポット光を位置合わせすることも可能となる。
【0109】
また、光検出器上の所定の位置にスポット光を位置合わせする場合、通常、検出信号を見ながら光検出器を移動させて位置合わせを行うが検出感度が高いとわずかな光検出器の移動量で、検出信号が大きく変わってしまうため、位置合わせが困難である。本発明の光強度調整器や光学フィルターで強度を変えたり、あるいは増幅率調整器で増幅率を下げることにより測定前の光検出器へのスポット光の位置合わせも容易に行うことができる。
【0110】
また、本発明の光学式変位検出機構は走査型プローブ顕微鏡への適用に限定されるものではない。例えば、光学式変位検出機構を用いた表面粗さ計、電気化学顕微鏡等の表面情報計測装置や、プローブで試料表面を加工するプローブ加工装置などにも適用することができる。これらの装置でも、被測定サンプルにより形状や光学的特性や機械的特性の異なるプローブが用いられるため、本発明の光学式変位検出機構を適用することでプローブによらず検出感度やノイズを最適な状態に調整することが可能となり装置の測定精度か向上する。
【符号の説明】
【0111】
1 サンプルステージ
2 粗動機構
4 3軸微動機構
5 サンプル
6 カンチレバー(測定対象)
7 大気測定用カンチレバーホルダ
9 光学式変位検出機構
10 光源
11 集光レンズ
12 ビームスプリッタ
15 ミラー
16 光検出器
17 光源用位置決め機構
18 光検出器用位置決め機構
19 光源ユニット
20 スポット
21 光源駆動回路
22 増幅器
23 電圧モニター
29 光学顕微鏡
30 電流/電圧変換回路
33 差動増幅回路
34 加算器
35 溶液用カンチレバーホルダ
36 金属ベースブロック
37 ガラスベースブロック
43 空気層
44 シャーレ
45 サンプル
46 溶液
50 プローブ
52 プローブホルダ
54 サンプル
55 光学式変位検出機構
56 光源部
57 光検出器
58 スポット
59 光源用位置決め機構
60 光検出器用位置決め機構
61 増幅器
64 光源駆動回路
200 光学式変位検出機構
201 走査型プローブ顕微鏡
207 カンチレバー
209 プローブ
211 サンプル
213 3軸微動機構
221 光源(半導体レーザ)
235 光検出器
242 電流/電圧変換回路
243 差動増幅回路
244 バンドパスフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にプローブを有するカンチレバーまたは任意の形状のプローブからなる測定対象に光を照射する光源と、
前記光源を駆動する光源駆動回路と、
前記光源から測定対象に照射した後の光を所定位置にスポット光として位置合わせを経て受光し光強度を検出する受光面の材質が半導体よりなる光検出器と、
前記光検出器の検出信号を所定の増幅率で増幅する増幅器と、
該増幅器の増幅率を任意に調整可能にする増幅器可変手段と、
前記光源から前記測定対象への照射光強度を任意に変更する光強度可変手段と、
を備えた走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法において、
前記光源が、スーパールミネッセンスダイオード(SLD)、発光ダイオード(LED)又は,高周波変調又は光学系による偏光によって戻り光を防止した半導体レーザ(LD)のいずれかを採用し、
前記光強度可変手段により戻り光ノイズあるいはモードホップノイズの発生を抑えつつ前記光源の光強度を高めることにより、前記光検出器での所望の感度及び/又はノイズ精度での光検出を行なうことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。
【請求項2】
前記光検出器のスポット光の位置合わせが、前記増幅器に更に備えた増幅率可変手段によって増幅率を下げて行なうものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。
【請求項3】
先端にプローブを有するカンチレバーまたは任意の形状のプローブからなる測定対象に光を照射する光源と、
前記光源を駆動する光源駆動回路と、
前記光源から測定対象に照射した後の光を所定位置にスポット光として位置合わせを経て受光し光強度を検出する受光面の材質が半導体よりなる光検出器と、
前記光検出器の検出信号を所定の増幅率で増幅する増幅器と、
該増幅器の増幅率を任意に調整可能にする増幅器可変手段と、
前記光源から前記測定対象への照射光強度を任意に変更する光強度可変手段と、
を備えた走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法において、
前記光強度可変手段による前記光源の光強度の変更が、前記測定対象の変形が所定の変形量の値に納める調整と共に、前記増幅率可変手段の増幅率の調整により、前記光検出器での所望の感度での光検出を行なうことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。
【請求項4】
先端にプローブを有するカンチレバーまたは任意の形状のプローブからなる測定対象に光を照射する光源と、
前記光源を駆動する光源駆動回路と、
前記光源から測定対象に照射した後の光を所定位置にスポット光として位置合わせを経て受光し光強度を検出する受光面の材質が半導体よりなる光検出器と、
前記光検出器の検出信号を所定の増幅率で増幅する増幅器と、
該増幅器の増幅率を任意に調整可能にする増幅器可変手段と、
前記光源から前記測定対象への照射光強度を任意に変更する光強度可変手段と、
を備えた走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法において、
前記光強度可変手段による前記光源の光強度の変更が、前記カンチレバーを反射して光検出器に入射する光以外の迷光の影響を除去するように該光強度を下げる調整と共に、前記増幅率可変手段の増幅率の調整により、前記光検出器での所望の感度での光検出を行なうことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。
【請求項5】
前記光強度可変手段が、前記光源から出射される光強度を調整する前記光源に接続された前記光源駆動回路である請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。
【請求項6】
前記光強度可変手段が、前記光源と前記測定対象との間の光路上に備えられた光の強度を調整する光学フィルターである請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡の変位検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−247899(P2011−247899A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160972(P2011−160972)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【分割の表示】特願2006−225731(P2006−225731)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】