説明

走行車線推定装置及び走行車線推定方法

【課題】走行中の車線を適正に検出することのできる「走行車線推定装置及び走行車線推定方法」を提供する。
【解決手段】カーブなどの道路屈曲区間走の行601を行っている期間において(a)、地走行軌跡曲率曲線611の現在の時点に対応するポイント621の走行軌跡曲率Kcが表す曲率半径Rc=(1/Kc)と、地図データから求めた現在位置が位置する道路曲線曲率520上のポイント622の道路曲率Krが表す曲率半径Rr(Rr=1/Kr)との差ΔRは、自車の現実の位置651の、道路中央位置652からの道幅方向の距離を表す(c、d)。そこで、このお曲率半径の差ΔRと、道幅Wと車線数から、現在走行中の車線を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の走行車線を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行車線を推定する技術に関連する技術としては、自動車に搭載したカメラで撮影した道路上の白線の曲率と、自動車に搭載した各種センサで計測した自動車の挙動より求まる自動車の走行軌跡の曲率との整合/不整合に基づいて、自動車の車線変更の有無を検出する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平7-306996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
さて、前述した車線変更の有無を検出する技術によれば、自動車の車線変更は検出することができるが、自動車が複数の車線を有する道路区間を走行している場合に、複数の車線のうちのどの車線を当該自動車が走行しているのかは検出することはできない。
そして、このために、この技術を経路案内を行うナビゲーション装置に適用し、ナビゲーション装置において、案内中経路に従った走行車線の変更の案内などを、走行中の車線に応じて行うことができなかった。
そこで、本発明は、走行中の道路を構成する複数の車線のいずれの車線を自動車が走行しているのかを検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される走行車線推定装置を、直線であるリンクを用いて道路を表現した地図を定義する地図データを記憶した地図データ記憶部と、前記自動車の現在の位置に対応するリンク上の位置を現在位置として算出する現在位置算出手段と、前記自動車が道路が屈曲している区間を走行している期間中の時点である推定時点において前記現在位置算出手段が現在位置として算出した前記リンク上の地点に対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を道路曲率半径として、前記地図データに基づいて算定する道路曲率半径算定手段と、前記自動車の車速と前記自動車の進行方位変化速度を表す角速度より求まる当該自動車の走行軌跡上の、前記推定時点における自動車の位置に対応する位置における、当該走行軌跡の曲率半径を走行軌跡曲率半径として算定する走行軌跡曲率半径算定手段と、前記道路曲率半径算定手段が算定した道路曲率半径と前記走行軌跡曲率半径算定手段が算定した走行軌跡曲率半径との差分に基づいて、前記推定時点において前記自動車が走行している車線を推定する車線推定手段とを含めて構成したものである。
【0005】
このような走行車線推定装置によれば、カーブなどの道路屈曲区間走行時には、地図データにおいて道路を表すリンクより推定される道路の曲率半径と、走行軌跡の曲率半径との間に、走行車線に応じた相違が生じることを利用して、適正に自車が走行している車線を算定することができるようになる。
【0006】
ここで、このような走行車線推定装置には、さらに、前記自動車が道路が直進している区間を走行している期間に発生した前記自動車の車線変更の方向を、前記自動車の挙動より検出する車線変更検出手段を設け、前記車線推定手段において、前記車線変更検出手段が前記自動車の車線変更を検出した場合に、直前に前記自動車が走行している車線として推定した車線と、検出された車線変更の方向とに基づいて、当該発生した車線変更の後に前記自動車が走行している車線を推定するようにしてもよい。
【0007】
このようにすることにより、前記自動車が道路が直進している区間を走行している期間中も自動車が走行している車線を推定できるようになる。
なお、以上の走行車線推定装置において、前記道路曲率半径算定手段は、前記対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を算定する前記リンク上の地点を推定地点として、当該推定地点周辺のリンクの平均的な長さに応じて定まる距離を参照距離として設定すると共に、設定した推定地点からのリンクに沿った道のり距離が参照距離となる二つの地点を第1参照地点と第2参照地点として設定し、第1参照地点から推定地点に向かう方向と、推定地点から第2参照地点に向かう方向との方位差を求め、前記参照距離に対して求めた方位差が生じるものとして、当該推定地点に対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を算定するようにしてもよい。より具体的には、前記道路曲率半径算定手段において、前記推定地点が長さLaの第1のリンクをt(ただし、0<t<1):(1-t)に内分する位置に存在する場合には、推定地点で分割される第1のリンクの二つの部分のうちの、長さがtLaである部分に連結する第2のリンクの長さをLb、長さが(1-t)Laである部分に連結する第3のリンクの長さをLcとして、{(1-t)(Lb+La)+t(La+Lc)}/2によって求まる長さに応じて、前記参照距離を設定するようにしてもよい。
【0008】
これらのように推定地点周辺のリンクの平均的な長さに応じて参照距離を設定することにより、推定地点と同じリンク上に第1参照地点及び第2参照地点が設定されてしまって曲率を求めることができなくなってしまったり、推定地点が位置するリンクと大きく離れたリンク上に第1参照地点や第2参照地点が設定されてしまって推定地点に対応する現実の道路上の地点の曲率とかけはなれた曲率が算出されてしまうことを抑制することができる。
【0009】
なお、以上の各走行車線推定装置は、ナビゲーション装置における車線案内などに利用することができる。すなわち、この場合には、以上の走行車線推定装置と、前記地図データに基づいて、設定された目的地までの経路を案内経路として探索し設定する案内経路設定手段と、前記案内経路設定手段が設定した案内経路に従った経路案内を行う経路案内手段とを含めてナビゲーション装置を構成し、前記経路案内手段において、前記案内経路設定手段が設定した案内経路に従って進行するために走行すべき車線と、前記走行車線推定装置が前記自動車が走行している車線として推定した車線とに基づいて、当該案内経路に従って進行するために走行すべき車線の案内を行うようにすればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、走行中の道路を構成する複数の車線のいずれの車線を自動車が走行しているのかを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るナビゲーションシステムの構成を示す。なお、本ナビゲーションシステムは自動車に搭載されるものである。
図示するように、ナビゲーションシステムは、ナビゲーション装置1と、スピーカ2と、操作部3と、表示装置4と、GPS受信機5と、車速センサ6と、角速度センサ7を備えて構成される。ここで、車速センサ6は車速パルスセンサなどの自動車の車速を検出するセンサであり、角速度センサ7は角加速度や地磁気方向などより自動車の進行方位角変更速度を検出するセンサである。
【0012】
そして、ナビゲーション装置1は、地図を表す地図データを記憶したDVDドライブやHDDなどの記憶装置である地図データ記憶部11、現在位置算出部12、走行軌跡算出部13、ルート探索部14、案内音声を生成しスピーカ2に出力する案内音声生成部15、メモリ16、制御部17、案内画像生成部18、操作部3や表示装置4を用いたGUIをユーザに提供するGUI制御部19とを有する。
【0013】
但し、以上のナビゲーション装置1は、ハードウエア的には、マイクロプロセッサや、メモリや、その他のグラフィックプロセッサやジオメトリックプロセッサ等の周辺デバイスを有する一般的な構成を備えたCPU回路であって良く、この場合、以上に示したナビゲーション装置1の各部は、マイクロプロセッサが予め用意されたプログラムを実行することにより具現化するプロセスとして実現されるものであって良い。また、この場合、このようなプログラムは、記録媒体や適当な通信路を介して、ナビゲーション装置1に提供されるものであって良い。
【0014】
次に、地図データ記憶部11に記憶された地図データには、図2に示すように、区画毎に対応して設けた区画データと、各区画の地理的範囲と区画データの対応や、各区画と区画の識別子となる区画番号の対応などを記述した区画管理データを含む。
そして、各区画データは、対応する区画内の地図を表す。ここで、この区画データでは、直線であるリンクを用いて、道路を、ノードで連結するリンクの集合として定義している。また、各リンクは方向を持ち、ある路線のある道路区間に対しては、その道路区間が一方通行である場合にはその通行方向に順次リンクを連結したリンク列のみが設けられるが、その道路が双方向である場合には相互に逆方向に順次リンクを連結した二つのリンク列が設けられる。
【0015】
そして、区画データは、このようなリンク毎に設けたリンクデータレコードを含む。各リンクデータレコードは、リンクの識別子となるリンク番号、リンクが表す道路区間が含まれる路線の識別子である路線番号、リンクの両端のノードの座標を表す始点ノード座標と終点ノード座標、リンクが表す道路区間の道幅を表す道幅、リンクが表す道路区間の車線数を表す車線数、車線情報とを有する。そして、車線情報には、リンクが表す道路区間に含まれる車線毎に設けた車線データレコードを有し、各車線データレコードには車線の識別子となる車線番号と、当該車線から進行することのできるリンクのリンク番号の一覧を表す進行可能リンク番号リストが格納される。ここで、あるリンクに対応する道路区間のある車線から進行することのできるリンクとは、その車線が右折専用レーンであれば、そのリンクに対応する道路区間の右折専用レーンを通って次に進むことのできる他のリンクを指し、その車線が直進専用レーンであれば、そのリンクに対応する道路区間の直進レーンを通って次に進むことのできる他のリンクを指し、その車線が左折専用レーンであれば、そのリンクに対応する道路区間の左折専用レーンを通って次に進むことのできる他のリンクを指し、その車線が左折及び直進の専用レーンであれば、そのリンクに対応する道路区間の左折及び直進のレーンを通って次に進むことのできる他のリンクを指す。
【0016】
なお、ある道路のある道路区間が双方向である場合にも、当該道路区間に対して、順次リンクを連結した一つのリンク列のみを設けることもでき、この場合には、リンクデータレコードの道幅、車線数、車線情報は、当該リンクが表す道路区間の上り方向の道路区間と、下り方向の道路区間のそれぞれについて設けるようにする。
【0017】
また、本実施形態では、リンクに対応する道路区間に含まれる各車線の車線番号は、左の車線から右の車線に向かって、順次、1から与えるものとする。すなわち、リンク方向に向かって左からn番目の車線の車線番号はnとする。
さて、このような構成において、走行軌跡算出部13は、車速センサ6が検出した車速と角速度センサ7が検出した角速度より自車の走行軌跡を算出し保持する。
また、現在位置算出部12は、以下の処理を繰り返し行う。
すなわち、現在位置算出部12は、GPS受信機5の出力から推定される現在の自動車の位置や、車速センサ6や角速度センサ7の出力から推定される現在の自動車の位置と、地図データ記憶部11から読み出した地図データを用いたマップマッチング処理を行って、現在位置として最も確からしい座標と、現在の進行方向として最も確からしい方向とを、それぞれ現在位置、現在進行方位として算定し、メモリ16に設定する
また、制御部17は、ユーザの目的地設定要求に応じて、ユーザから操作部3、GUI制御部19を介して目的地の設定を受け付け、これをメモリ16にセットし、目的地までの推奨ルートをルート探索部14に探索させる。ルート探索部14は、地図データ記憶部11から読み出した地図データに基づいて、メモリ16に設定されている現在位置から目的地までの最小コストの経路を、距離最小などの所定のコストモデルに基づいて推奨ルートとして算出し、算出した推奨ルートのデータを、メモリ16にセットする。
【0018】
また、制御部17は、メモリ16にセットされた現在位置が目的地近傍となったならば、目的地到着と判定し、メモリ16にセットされている推奨ルートをクリアする処理も行う。
また、制御部17は、以下の案内画像生成処理を繰り返す。
すなわち、制御部17は、現在位置またはユーザより指定された位置を基準位置として設定し、メモリ16にセットされた現在進行方位またはユーザによって選定された方位が上になるように表示方位を設定し、予め成されたユーザ設定や初期設定に応じて地図縮尺を設定する。そして、基準位置周辺の、表示方位と地図縮尺とに応じて定まる所定の大きさの地理的範囲を地図表示範囲として決定する。
【0019】
そして、案内画像生成部18に、決定した地図表示範囲内の地図を含む案内画像の描画を指示する。案内画像生成部18は、制御部17から案内画像の描画の指示を受けると、地図データ記憶部11に記憶されている地図データ基づいて、地図表示範囲の地図を表す、設定された表示縮尺の表示方位を上とする地図画像を描画する。また、案内画像生成部18は、メモリ16にセットされた現在位置が地図表示範囲に含まれる場合には、現在位置を地図画像上で表す、メモリ16にセットされた現在進行方位を向いた現在位置マークを、地図画像上に描画する。また、案内画像生成部18は、推奨ルートのデータがメモリ16にセットされている場合には、地図表示範囲中の、推奨ルートの現在位置より目的地側の部分を表す推奨ルート図形を地図画像上に描画する。また、案内画像生成部18は、メモリ16にセットされた目的地が地図表示範囲に含まれる場合、目的地の位置を示す目的地マークも地図画像上に描画する。
【0020】
そして、案内画像生成部18は、以上の各描画を行った画像を案内画像とし、GUI制御部19を介して表示装置4に表示する。
図3は、このようにして表示された案内画像の例を示すものであり、図示するように案内画像は、地図画像301上に、現在位置マーク302や推奨ルート図形303や目的地マーク304が表示されたものになる。
ここで、制御部17は、後述する走行車線推定処理を行って、自車が走行中の車線を識別する。そして、識別した走行中の車線に基づいて各種処理を行う。
識別した走行中の車線に基づいて行う処理としては、たとえば、走行車線案内処理を行う。ここで、この走行車線案内処理において、制御部17は、推奨ルートがメモリ16にセットされているかどうかを調べ、推奨ルートがセットされている場合には、推奨ルートに従って進むために特定の車線の走行を開始しているべき地点(たとえば、次交差点で右折すべき推奨ルートが設定されており、当該交差点に右折専用車線が設定されている場合における、当該右折専用車線が設定されている交差点進入道路区間の開始地点)に接近しているかどうかを地図データのリンクデータレコードに基づいて判定する処理を繰り返す。そして、特定の車線の走行を開始しているべき地点に接近したならば、自車が走行中の車線として識別されている車線とに応じて、案内音声生成部15に、当該接近している地点で走行を開始しているべき車線の走行を促す音声の生成とスピーカ2への出力を行わせる。すなわち、たとえば、当該接近している地点で走行を開始しているべき車線と、自車が走行中の車線として識別されている車線とが等しければ、「このままの車線を維持して下さい」といった音声を案内音声生成部15にスピーカ2に出力させ、当該接近している地点で走行を開始しているべき車線と、自車が走行中の車線として識別されている車線とが異なっており、当該走行を開始しているべき車線が走行中の車線の左側の車線であれば「左の車線に車線を変更してください。」といった音声を案内音声生成部15にスピーカ2に出力させる。
【0021】
以下、自車が走行中の車線を識別するために前記制御部17が行う前述した走行車線推定処理について説明する。
図4に、この走行車線推定処理の手順を示す。
図示するように、制御部17は、この処理において、まず、走行中の道路区間が複数の車線を含むかどうかを調べる(ステップ402)。ここで、メモリ16にセットされている現在位置が位置するリンクのリンクデータレコードの車線数が複数であった場合に、走行中の道路区間が複数の車線を含むと判定する。
【0022】
そして、走行中の道路区間が複数の車線を含まない場合、すなわち、単一の車線より構成されている場合には、走行中車線を車線番号1の車線とし(ステップ412)、ステップ402からの処理に戻る。
一方、走行中の道路区間が複数の車線を含む場合には、現在走行中の道路の現在位置周辺の区間を表すリンク上の各地点の道路曲率を算出する(ステップ404)。現在走行中の道路の現在位置周辺の区間は、メモリ16にセットされている現在位置が位置するリンクのリンクデータレコードの路線番号と同じ路線番号がセットされているリンクデータレコードのリンクのうちの、現在位置が位置するリンク及びその周辺のリンクより構成される区間として求まる。
【0023】
ここで、このリンク上の地点の道路曲率とは、当該リンク上の地点に対応する現実の道路上の地点の曲率の推定値を表すものであり、以下のようにして算出する。
すなわち、いま、図5aのように3車線を有する道路500は、図5bに示すように、道路500の道幅方向の中央位置に道のり方向に間隔をおいて配置したノード501と、配置した各ノード間を連結するリンク502によって定義されることが一般的である。
そして、図5cに示すように、道路曲率を求める地点Xが、長さLaのリンク513をt:(1-t)に内分する位置である場合には(ただし、0<t<1)、まず、リンク513の地点Xで分割される二つの部分のうちの、長さがtLaである部分に連結するリンク512の長さをLb、長さが(1-t)Laである部分に連結するリンク514の長さをLcとして、
{(1-t)(Lb+La)+t(La+Lc)}/2
を、参照距離Lとして求める。なお、地点Xがリンク513とリンク512を連結するノード上にあれば、t=0として、上式を適用し参照距離Lを求めればよい。
【0024】
そして、地点Xからのリンクに沿った道のり距離が参照距離Lとなる地点Pと地点Qを設定し、地点Pから地点Xに向かうベクトルと、地点Xから地点Qに向かうベクトルとの方位差θを求め、θ/Lを、地点Xに対応する現実の道路上の地点5132の曲率を表す地点Xの道路曲率とする。
【0025】
ここで、上記のように設定した参照距離Lは、地点X周辺のリンクの平均的な長さを表しており、このように地点X周辺のリンクの平均的な長さに応じて参照距離Lを設定することにより、地点Xと同じリンク上に地点Pや地点Qが設定されてしまって曲率を求めることができなくなってしまったり、地点Xが位置するリンクと大きく離れたリンク上に地点Pや地点Qが設定されてしまって地点Xに対応する現実の道路上の地点の曲率とかけはなれた道路曲率が算出されてしまうことを抑制することができる。
【0026】
ここで、図5dの道路曲率曲線520は、図5bに示したリンク列に対して求めた道路曲率と、道路曲率の算出を開始した地点(自車の現在進行方位に整合する方向に走行する場合に、道路曲率を算出する道路区間の始点)からのリンク列に沿った道のり距離の関係を表したものである。
【0027】
さて、図4に戻り、以上のようにして、現在走行中の道路の現在位置周辺の区間を表すリンク上の各地点の道路曲率を算出したならば(ステップ404)、次に、走行軌跡算出部13が算出している自車の最近の走行軌跡を取得し、走行軌跡上の各地点の曲率を走行軌跡曲率として算出する(ステップ406)。
【0028】
ここで、図5aに示した右曲がりカーブを有する道路500を、図6aに示すように車線番号3の車線(右側の車線)601を通って走行する場合の走行軌跡曲率と走行距離との関係は図6bの走行軌跡曲率曲線611のようになり、車線番号2の車線(中央の車線)602を通って走行する場合の走行軌跡曲率と走行距離との関係は図6bの走行軌跡曲率曲線612のようになり、車線番号1の車線(左側の車線)603を通って走行する場合の走行軌跡曲率と走行距離との関係は図6bの走行軌跡曲率曲線613のようになる。
【0029】
ここで、図示するように、カーブ区間などの道路が屈曲している区間を走行した場合の走行軌跡の曲率と走行距離との関係は、当該区間に複数の車線を存在する場合には走行した車線によって異なったものとなる。
さて、図4に戻り、走行軌跡曲率を算出したならば(ステップ406)、ステップ404で算出した道路曲率より、現在、カーブなどの屈曲のない直進路区間を走行中であるかどうかを判定する(ステップ408)。ここでは、現在位置周辺のリンク上の地点の道路曲率の最大値が所定のしきい値以下であれば直進路区間を走行中であると判定する。
【0030】
そして、直進路区間を走行中でない、すなわち、カーブ区間などの道路が屈曲している区間を走行中であると判定された場合には(ステップ408)、走行軌跡曲率と道路曲率との差に応じて走行中車線を設定し(ステップ410)、ステップ402からの処理に戻る。
【0031】
ここで、このステップ410における走行中車線の設定は次のように行う。
すなわち、いま、図6aに示した右曲がりカーブを有する道路500を車線番号3の車線(右側の車線)601を通って走行した場合を例にとり説明すると、この場合、道路曲線曲率520と、走行軌跡曲率曲線611は図6cに示すようになる。
そこで、現在の時点が走行軌跡曲率曲線611上のポイント621に対応する時点であれば、走行軌跡曲率が値0からポイント621の曲率値方向への変化を開始したポイント631の走行距離と現時点に対応するポイント621の走行距離の間の区間について、走行軌跡曲率を積分し進行方向変化量とする。この積分によって求まる値は、図中の斜線で示した領域641の面積に相当し、走行軌跡曲率が値0からポイント621の曲率値方向への変化を開始したポイント631に対応する時点から現時点までの自車進行方位の変化量を表す。すなわち、自車が方向転換動作を開始してから現在までの進行方位の変化量を表す。なお、この進行方向変化量は、ポイント631に対応する時点から現時点までの角速度の時間積分として求めることもできる。
【0032】
次に、道路曲率が値0からポイント621の曲率値方向への変化を開始したポイント632の走行距離とポイント622までの道のり距離の間の区間について、道路曲率を積分した値である道路方向変化量が、先に求めた進行方向変化量と一致するように、ポイント622を求める。ここで、この積分値は、図中の斜線で表した領域642の面積に相当し、道路曲率が値0からポイント621の曲率値方向への変化を開始したポイント632に対応する地点からポイント622の地点までの道路の方位の変化量を表す。したがって、道路方向変化量が進行方向変化量に一致するポイント622は、自車の現実の位置に対応するリンク上の位置に対応し、ポイント622の道路曲率は、道路の道幅方向についての中央に引いた線の、道路に沿った方向の位置が、自車の現実の位置と等しい位置の曲率を表すことになる。
【0033】
そこで、現時点に対応するポイント621の走行軌跡曲率Kcが表す曲率半径Rc=(1/Kc)と、ポイント622の道路曲率Krが表す曲率半径Rr(Rr=1/Kr)の差Rc-Rrは、自車の現実の位置の道路中央からの道幅方向の距離を表すことになる。
したがって、Rc-RrをΔR、現在位置が位置するリンクのリンクデータレコードが示す道幅と車線数を、それぞれW、Nとして、ΔR+(W/2)が(m-1)W/N以上、mW/N以下となるmを求め、カーブのイン側からm番目の車線として走行中の車線を求めることができる。なお、図6dに示すように、ΔRは道路の道路幅中央位置652のカーブのイン側の端からの道幅方向距離を表し、ΔR+(W/2)は自車の現実の位置651の道路のカーブのイン側の端からの道幅方向距離を表し、(m-1)W/Nはイン側からm番目の車線のカーブのイン側の端の道路のカーブのイン側の端からの道幅方向距離を表し、mW/Nはイン側からm番目の車線のカーブのアウト側の端の道路のカーブのイン側の端からの道幅方向距離を表している。
【0034】
ところで、以上の道路曲率Krを求めるポイント622は、現在位置算出部12がカーブなどの道路の屈曲区間においても正しく自車の現実の位置に対応するリンク上の位置を現在位置として算出できる場合には、現在位置算出部12が算出した現在位置に対応するポイントとしてよい。
【0035】
なお、ここで求めたΔRが所定のレベル以上大きい場合には、制御部17において、自車が道路から逸脱してしまう可能性があるものとして、ユーザに対して警告を出力したり、自車の制動装置を作動させるなどの安全確保のための処理を行うようにしてもよい。
さて、図4に戻り、ステップ408で、現在、直進路区間を走行中であると判定した場合には、最近の走行軌跡曲率の変化内容から自車が車線変更を行ったかどうかを判定し(ステップ414)、車線変更を行っていないと判定された場合にはステップ402からの処理に戻る。一方、車線変更を行ったと判定された場合には(ステップ414)、車線変更の内容に応じて、左側の車線への車線変更が行われたと判定された場合に走行中車線とする車線番号を1減少し、左側の車線への車線変更が行われたと判定された場合に走行中車線とする車線番号を1増加することにより走行中車線とする車線の車線番号を変更し(ステップ416)、ステップ402からの処理に戻る。ただし、走行中車線とする車線番号の最小値は1、走行中車線とする車線番号の最大値は、現在位置が位置するリンクのリンクデータレコードに登録されている車線数と同じ値とする。
【0036】
ここで、このような左側の車線への車線変更や、右側の車線への車線変更の判定は、図7a1に示すように直進路を左側の車線に車線変更したときの走行軌跡曲率曲線は線図7a2のように求まり、図7b1に示すように直進路を左側の車線に車線変更したときの走行軌跡曲率曲線は図7b2のように求まることを利用して行う。すなわち、制御部17は、直進路区間走行中に、ステップ406で算出した走行軌跡曲線に図7a2に示す走行軌跡曲線曲率形状にマッチするパターンが発生していれば左側の車線への車線変更が発生したものと判定し、直進路区間走行中に、ステップ406で算出した走行軌跡曲率曲線に図7b2に示す走行軌跡曲線形状にマッチするパターンが発生していれば右側の車線への車線変更が発生したものと判定する。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ところで、以上では、カーブなどの道路屈曲区間を走行中に、現在走行中の車線を算出したが、カーブなどの道路屈曲区間において走行した車線は、当該道路屈曲区間を走行した後に事後的に求めるようにすることもできる。
すなわち、この場合には、自車がカーブなどの道路屈曲区間を走行したならば、当該道路屈曲区間について図6cのように求まる走行軌跡曲率曲線611と道路曲率曲線520を取得し、図6eに示すように、道路曲率曲線520の道路曲率の0からの増加/減少開始点に、走行軌跡曲率曲線611の走行軌跡曲率の0からの道路曲率の変化開始方向と同じ方向への変化開始点が一致し、道路曲率曲線520の道路曲率の0への復帰点に当該復帰点に対応して表れる走行軌跡曲率曲線611の走行軌跡曲率の0への復帰点が一致するように、走行軌跡曲率曲線611を走行距離方向に移動、拡大した走行軌跡曲率曲線6111を作成する。
【0038】
そして、道路曲率曲線520上に設定したポイント662の道路曲率Krが表す曲率半径Rr(Rr=1/Kr)と、道路曲率曲線520上に設定したポイント662の道のり距離と等しい走行距離に対応する走行軌跡曲率曲線6111上のポイント661の走行軌跡曲率Kcが表す曲率半径Rc=(1/Kc)の差ΔRを求め、求めたΔRに応じて前述のように、当該道路屈曲区間走行時の車線を算定する。ここで、ポイント662は、道路屈曲区間の中央付近の道路曲率が安定している区間中に設定するようにする。ただし、以上の処理は、道路屈曲区間を、道路曲率が0から増加/減少してから0に復帰するまでの区間として処理を行う。
【0039】
以上のように本実施形態によれば、カーブなどの道路屈曲区間走行時の走行車線の相違による走行軌跡の曲率半径の違いを利用することにより、適正に自車が走行している車線を算定することができる。
なお、以上の実施形態における自車が走行している車線を算定する技術は、ナビゲーション装置1以外の車載装置において自車が走行している車線を算定するために同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置が備える地図データを示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の表示画面例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の走行車線推定処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の走行車線推定処理の処理例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の走行車線推定処理の処理例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係るナビゲーション装置の走行車線推定処理の処理例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…ナビゲーション装置、2…スピーカ、3…操作部、4…表示装置、5…GPS受信機、6…車速センサ、7…角速度センサ、11…地図データ記憶部、12…現在位置算出部、13…走行軌跡算出部、14…ルート探索部、15…案内音声生成部、16…メモリ、17…制御部、18…案内画像生成部、19…GUI制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載される走行車線推定装置であって、
直線であるリンクを用いて道路を表現した地図を定義する地図データを記憶した地図データ記憶部と、
前記自動車の現在の位置に対応するリンク上の位置を現在位置として算出する現在位置算出手段と、
前記自動車が道路が屈曲している区間を走行している期間中の時点である推定時点において前記現在位置算出手段が現在位置として算出した前記リンク上の地点に対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を道路曲率半径として、前記地図データに基づいて算定する道路曲率半径算定手段と、
前記自動車の車速と前記自動車の進行方位変化速度を表す角速度より求まる当該自動車の走行軌跡上の、前記推定時点における自動車の位置に対応する位置における、当該走行軌跡の曲率半径を走行軌跡曲率半径として算定する走行軌跡曲率半径算定手段と、
前記道路曲率半径算定手段が算定した道路曲率半径と前記走行軌跡曲率半径算定手段が算定した走行軌跡曲率半径との差分に基づいて、前記推定時点において前記自動車が走行している車線を推定する車線推定手段とを有することを特徴とする走行車線推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の走行車線推定装置であって、
前記自動車が道路が直進している区間を走行している期間に発生した前記自動車の車線変更の方向を、前記自動車の挙動より検出する車線変更検出手段を有し、
前記車線推定手段は、前記車線変更検出手段が前記自動車の車線変更を検出した場合に、直前に前記自動車が走行している車線として推定した車線と、検出された車線変更の方向とに基づいて、当該発生した車線変更の後に前記自動車が走行している車線を推定することを特徴とする走行車線推定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の走行車線推定装置であって、
前記道路曲率半径算定手段は、前記対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を算定する前記リンク上の地点を推定地点として、当該推定地点周辺のリンクの平均的な長さに応じて定まる距離を参照距離として設定すると共に、設定した推定地点からのリンクに沿った道のり距離が参照距離となる二つの地点を第1参照地点と第2参照地点として設定し、第1参照地点から推定地点に向かう方向と、推定地点から第2参照地点に向かう方向との方位差を求め、前記参照距離に対して求めた方位差が生じるものとして、当該推定地点に対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を算定することを特徴とする走行車線推定装置。
【請求項4】
請求項3記載走行車線推定装置であって、
前記道路曲率半径算定手段は、前記推定地点が長さLaの第1のリンクをt(ただし、tは0以上1以下の値):(1-t)に内分する位置に存在する場合には、推定地点で分割される第1のリンクの二つの部分のうちの、長さがtLaである部分に連結する第2のリンクの長さをLb、長さが(1-t)Laである部分に連結する第3のリンクの長さをLcとして、
{(1-t)(Lb+La)+t(La+Lc)}/2
によって求まる長さに応じて、前記参照距離を設定することを特徴とする走行車線推定装置。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の走行車線推定装置と、
前記地図データに基づいて、設定された目的地までの経路を案内経路として探索し設定する案内経路設定手段と、
前記案内経路設定手段が設定した案内経路に従った経路案内を行う経路案内手段とを有し、
前記経路案内手段は、前記案内経路設定手段が設定した案内経路に従って進行するために走行すべき車線と、前記走行車線推定装置が前記自動車が走行している車線として推定した車線とに基づいて、当該案内経路に従って進行するために走行すべき車線の案内を行うことを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項6】
自動車に搭載された、直線であるリンクを用いて道路を表現した地図を定義する地図データを記憶した車載装置において、前記自動車が走行している車線を推定する走行車線推定方法であって、
前記自動車の現在の位置に対応するリンク上の位置を現在位置として算出するステップと、
前記地図データに基づいて、所定の時点において現在位置として算出した前記リンク上の地点に対応する現実の道路上の地点における道路の曲率半径を道路曲率半径として算定するステップと、
前記自動車の車速と進行方位変化速度を表す角速度より求まる当該自動車の走行軌跡上の、前記所定の時点における自動車の位置に対応する位置における、当該走行軌跡の曲率半径を走行軌跡曲率半径として算定するステップと、
算定した道路曲率半径と算定した走行軌跡曲率半径との差分に基づいて、前記所定の時点において走行している車線を推定するステップとを有することを特徴とする走行車線推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192582(P2007−192582A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9069(P2006−9069)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】