説明

車両の下部車体構造

【課題】乗員の足元スペースが狭められる等の問題を生じることなく、車体後部にハーネス部材を容易かつ適正に配設できるようにする。
【解決手段】車室の底部を形成するフロアパネル1と、このフロアパネル1に沿って車体の前後方向に延びるように設置された内側レール9等からなるシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド可能に支持された乗員用シート2,3とを具備した車両において、上記フロアパネル1上を車体の前後方向に延びるように設置されたハーネス部材13の少なくとも一部がシートスライドレールに沿って配設され、このシートスライドレールにより上記ハーネス部材13が隠蔽された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド可能に支持された乗員用シートとを具備した車両の下部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、フロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置された左右一対のシートスライドレールを有する車両において、このシートスライドレールに沿って第1後部座席および第2後部座席等からなる複数の乗員用シートをスライド自在に支持することにより、この乗員用シートの配列パターンを多様に変化させ得るように構成された自動車のシートスライド装置が知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、車体後部のフロアパネルに形成されたスペアタイヤ収容部の下方にバッテリ収容室を連設し、このバッテリ収容室内にバッテリを偏平に倒伏させた状態で収容することにより、複数のバッテリをフロアパネルの下部に効率よく収容するように構成されたバッテリの取付構造が知られている。
【特許文献1】特開2003−146120号公報
【特許文献2】特開2005−93299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2に開示されているように、車体後部に形成されたバッテリ収容室内にバッテリを収容するように構成した場合には、車体前部のエンジンルーム内等にバッテリを収容する場合に比べ、スペース的に余裕があるので大容量かつ高電圧のバッテリを収容することができる。このため、定格電圧の高い車載補機類の使用が可能になるとともに、エンジンと電気モータとの両方を駆動源としたハイブリッド車両用における電気モータ用の駆動電源として上記バッテリを使用可能であるという利点がある。
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示されているように、フロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように複数本のシートスライドレールが設置された車両において、上記車体後部のバッテリ収容室内にバッテリを収容するように構成した場合には、このバッテリに接続されるハーネス部材を、上記シートスライドレールに沿って前後移動する乗員用シート等に邪魔されることなく適正に配設する必要がある。上記ハーネス部材は、その組み付け性を考慮してフロアパネル上に配設されるとともに、その上にフロアマットが敷設されることが一般的であるが、図13に示すように、上記ハーネス部材13の存在に起因してフロアマット31に部分的な膨出部31aが形成され、乗員用シートに着座した乗員の足置き性が悪化する等の問題がある。
【0006】
なお、上記ハーネス部材の存在に起因してフロアパネルに部分的な膨出部が形成されるのを防止するため、図14に示すように、フロアマット32の厚みを大きくするとともに、このフロアマット32にハーネス部材13を収容するための空間部32aを形成することも考えられるが、このように構成した場合には、フロアマット32の厚みが大きくなることに起因して足元スペースが狭められるとともに、フロアマット32の製造コストが高く付く等の問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、乗員の足元スペースが狭められる等の問題を生じることなく、車体後部にハーネス部材を容易かつ適正に配設することができる車両の下部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置されたシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド可能に支持された乗員用シートとを具備した車両において、上記フロアパネル上を車体の前後方向に延びるように設置されたハーネス部材の少なくとも一部がシートスライドレールに沿って配設され、このシートスライドレールにより上記ハーネス部材が隠蔽されたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の下部車体構造において、ハーネス部材がシートスライドレール内に配設されたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の車両の下部車体構造において、シートスライドレールとフロアパネルとの間に形成された配設空間内に上記ハーネス部材が配設されたものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の下部車体構造において、シートスライドレールの設置部に沿って下方に凹入する凹溝部がフロアパネルに形成され、この凹溝部とシートスライドレールとの間にハーネス部材の配設空間が構成されたものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、車体の前後方向に延びる左右複数本のシートスライドレールを有し、複数本のハーネス部材が上記シートスライドレールに沿ってそれぞれ別々に配設されたものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、フロアパネルの後部に下方に凹入した荷室収納部が形成されるとともに、荷室収納部内に車両用バッテリが収容され、シートスライドレールに沿って配設されたハーネス部材が上記車両用バッテリに接続されたものである。
【0014】
請求項7に係る発明は、上記請求項6に記載の車両の下部車体構造において、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールが設置されるとともに、この左右一対のロングレールの間に左右一対のショートレールが設置され、この左右のショートレールに沿ってそれぞれハーネス部材が配設されたものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、フロアパネル上を車体の前後方向に延びるように設置されたハーネス部材の少なくとも一部をシートスライドレールに沿って配設し、この内側レールによって上記ハーネス部材を隠蔽するように構成したため、乗員の足置き性が悪化し、あるいは足元スペースが狭められる等の問題を生じることなく、車体後部にハーネス部材を容易かつ適正に配設できるという利点がある。
【0016】
請求項2に係る発明では、シートスライドレールの内部にハーネス部材を配設したため、ハーネス部材の組み付け性を考慮してフロアパネルの車室内側にハーネス部材を設置したにも拘わらず、その一部を上記シートスライドレールにより保護することができ、荷物や乗員の足等が上記ハーネス部材に当接してその断線や漏電等が生じるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0017】
請求項3に係る発明よれば、シートスライドレールとフロアパネルとの間に形成された配設空間内に上記ハーネス部材を配設することにより、上記シートスライドレールをフロアパネルに取り付けるのと同時に、上記配設空間内にハーネス部材を配設して密封した状態に保持することができるため、このハーネス部材の配設作業を容易に行うことができるとともに、上記シートスライドレールおよびフロアパネルによりハーネス部材を効果的に保護してその損傷を防止できるという利点がある。
【0018】
請求項4に係る発明では、シートスライドレールの設置部に沿って下方に凹入する凹溝部をフロアパネルに形成し、この凹溝部とシートスライドレールとの間にハーネス部材の配設空間にハーネス部材を配設するよう構成したため、このハーネス部材を効果的に保護することができるとともに、上記凹溝部がビードの役目を果たすことによりフロアパネルを効果的に補強できるという利点がある。
【0019】
請求項5に係る発明では、車体の前後方向に延びる左右複数本のシートスライドレールを有する車両において、複数本のハーネス部材をシートスライドレールに沿ってそれぞれ別々に配設したため、一本のシートスライドレール内に複数本のハーネス部材を配設するように構成した場合のように、狭いスペース内で複数本のハーネス部材を絡ませることなく適正に設置するという繁雑な作業を要することなく、上記ハーネス部材を容易に設置できるという利点がある。
【0020】
請求項6に係る発明では、車体前部のエンジンルーム内等にバッテリを収容する場合に比べ、スペース的に余裕がある車体の後部に形成された荷室収納部に上記車両用バッテリを収容するように構成したため、大容量かつ高電圧のバッテリを設置することが可能であるとともに、この車両用バッテリに上記シートスライドレールに沿ってハーネス部材を配設することにより、このハーネス部材を効果的に保護してその損傷を抑制することができる。
【0021】
請求項7に係る発明では、フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールと、左右一対のロングレールの間に左右一対のショートレールとが設置された車両において、上記左右のショートレールに沿ってそれぞれハーネス部材を配設するように構成したため、車体の後部中央近傍に形成された荷室収納部内に収容された車両用バッテリの電極に対し、上記ハーネス部材を容易かつ適正に接続できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1および図2は、本発明に係る車両の下部車体構造の実施形態を示している。この車両の車室底部を形成するフロアパネル1上には、互いに独立した左側シート2aおよび右側シート2bからなる中列の乗員用シート2が配設されているとともに、その後方側には、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたいわゆるベンチシートタイプからなる後列の乗員用シート3が配設されている。上記中列の乗員用シートト2は、図示を省略した運転席シートおよび助手席シートからなる前列シートの後方側に配設されている。
【0023】
また、上記フロアパネル1の下面には、その左右両側辺部に沿って前後方向に延びるようにリヤサイドフレームからなる車体フレーム4が設置されている。図3は、上記乗員用シート2,3を取り外した状態におけるフロアパネル1を上側から見たものである。この図3に示すように、後部車体の側方部には、車室内側に膨出するリヤホイールハウス5が設けられるとともに、その前方側には、車体の前後方向に延びるサイドシル6が設置されている。また、上記フロアパネル1の後方部には、下方に向けて凹入する荷室収納部7が形成され、この荷室収納部7内に車両用バッテリ10が収容されている。
【0024】
上記フロアパネル1上には、左右一対の外側レール(ロングレール)8,8と、この外側レール8,8の間において前後方向に延びる左右一対の内側レール9,9(ショートレール)とからなるシートスライドレールが設置されている。上記外側レール8および内側レール9は、図4および図5に示すように、上面が開口した所定の強度を有する断面C字状の溝型鋼等からなり、その左右両側壁部が取付ブラケット12を介してフロアパネル1の上面に固定されている。上記取付ブラケット12は、例えば図6に示すように、内側レール9等からなるシートスライドレールの側壁面に溶接等の手段で固着された起立板12aと、取付ボルト26によりフロアパネル1に取り付けられる取付基板12bとを備えたアングル材等からなっている。
【0025】
上記外側レール8は、前列シートの設置部に近接した位置から車体の後端部、具体的にはリヤバンパレインフォースメント11の設置部まで延設され、上記外側レール8の後端部がリヤバンパレインフォースメント11に接続されている。一方、上記内側レール9は、前列シートの設置部に近接した位置から荷室収納部7の設置部近傍まで延設され、その全長が上記外側レール8よりも短く設定されている。また、上記外側レール8および内側レール9は、水平線Hに対して後上がりに傾斜した状態で設置され、中列の乗員用シート2を構成する左側シート2aが、車体左側の外側レール8およびこれに隣接した内側レール9に沿ってスライド可能に支持されるとともに(図4参照)、右側シート2bが、車体右側の外側レール8およびこれに隣接した内側レール9に沿ってスライド可能に支持され、かつ後列の乗員用シート3が、左右一対の外側レール8,8に沿ってスライド可能に支持されている(図5参照)。
【0026】
上記車体フレーム4は、上面が開口した断面コ字状のフレーム本体4aと、その内側辺部および外側辺部の上端に突設された上部フランジ4b,4cとを有し、上記外側レール8の設置部に対応する側方位置でフロアパネル1の下面に沿って車体の前後方向に延びるように設置されている。そして、上記外側レール8の取付ブラケット12と、車体フレーム4の上部フランジ4b,4cとが、上記フロアパネル1を挟んで上下に相対向して設置された状態で取付ボルトにより一体に締結されている。
【0027】
また、図示を省略したインストルメントパネルの内部等に配設された配電ボックス等から、左右のサイドシル6に沿ってフロアパネル1上を車体の後方側に延びるように左右一対のハーネス部材13が設置されている(図3参照)。このハーネス部材13は、上記外側レール8および内側レール9の前方に設けられたフロアパネル1のキックアップ部1aの前面を通って車幅方向の内方側に案内されるとともに、左右の内側レール9の前端開口部から内側レール9の内部に導入されている。そして、図6に示すように、取付金具14を介して内側レール9の底壁部に係止されるとともに、この内側レール9に沿って車体の後方側に延出されるように構成されている。なお、図6において、符号19は、フロアパネル1の上面に止着されたフロアマットである。
【0028】
図3および図7に示すように、上記荷室収納部7内の底壁部には、バッテリ収容皿15が取付ボルト等により固定されるとともに、このバッテリ収容皿15内に車両用バッテリ10が収容された状態で、バッテリ収容皿15に下端部が係止された前後一対の固定用ステー16と、その上端部に螺着されたナット17により係止された押え板18とを介して上記車両用バッテリ10が荷室収納部7内に固定されている。そして、上記左右の内側レール9の後端開口部から荷室収納部7内に導出された一対のハーネス部材13が、車両用バッテリ10に両電極10a,10aにそれぞれ接続されるようになっている。なお、図7において、符号20は、上記荷室収納部7の上面を覆うように設置された合成樹脂材等からなるトランクボードである。
【0029】
上記のように車室の底部を形成するフロアパネル1と、このフロアパネル1に沿って車体の前後方向に延びるように設置された内側レール9からなるシートスライドレールとを具備した車両において、上記フロアパネル1上を車体の前後方向に延びるように設置されたハーネス部材13の少なくとも一部を上記内側レール9に沿って配設し、この内側レール9によって上記ハーネス部材13を隠蔽するように構成したため、乗員の足置き性が悪化し、あるいは足元スペースが狭められる等の問題を生じることなく、車体後部にハーネス部材13を容易かつ適正に配設できるという利点がある。
【0030】
すなわち、上記実施形態では、内側レール9の前端開口部からその内部にハーネス部材13を導入し、上記内側レール9の内部を通って車体の後方側にハーネス部材13を延出するように構成したため、ハーネス部材13の組み付け性を考慮してフロアパネル1の車室内側、つまりフロアパネル1の上面側にハーネス部材13を設置したにも拘わらず、その一部を上記内側レール9により保護することができ、荷物や乗員の足等が上記ハーネス部材13に当接してその断線や漏電等が生じるのを効果的に防止することができる。
【0031】
しかも、図13に示すように、フロアパネル1上にハーネス部材13を設置するとともに、その上面をフロアマット31で覆った場合のように、このフロアマット31に部分的な膨出部31aが形成されて乗員の足置き性が悪化したり、あるいは図14に示すように、厚みの大きいフロアマット32に形成された空間部32a内にハーネス部材13を収容した場合のように、フロアマット32の厚みが大きくなることに起因して乗員の足元スペースが狭められたりする等の問題を生じることなく、上記ハーネス部材13を内側レール9に沿って容易かつ適正に設置することができる。
【0032】
なお、上記内側レール9の前端開口部からその内部にハーネス部材13を導入し、内側レール9内を通って車体の後方側にハーネス部材13を延出させるように構成した上記実施形態に代え、内側レール9からなるシートスライドレールとフロアパネル1との間に形成された配設空間内に上記ハーネス部材13を配設した構造としてもよい。例えば、図8に示すように、内側レール9の設置部に沿って下方に凹入する凹溝部23をフロアパネル1に形成し、この凹溝部23と内側レール9の下面との間に形成された配設空間内にハーネス部材13を配設した構造とし、あるいは図9に示すように、上方に膨出する膨出部24が底壁部に形成された内側レール9を使用し、上記膨出部24とフロアパネル1との間に形成された配設空間内にハーネス部材13を配設した構造としてもよい。
【0033】
上記のように内側レール9からなるシートスライドレールとフロアパネル1との間に形成された配設空間内に上記ハーネス部材13を配設した場合には、上記内側レール9をフロアパネル1に取り付けるのと同時に、上記配設空間内にハーネス部材13を配設して密封した状態に保持することができるため、このハーネス部材13の配設作業を容易に行うことができるとともに、上記内側レール9およびフロアパネル1によりハーネス部材13を効果的に保護してその損傷を防止できるという利点がある。特に、図8に示すように、内側レール9の設置部に沿って下方に凹入する凹溝部23をフロアパネル1に形成した場合には、この凹溝部23がビードの役目を果たすためにフロアパネル1を効果的に補強することができる。
【0034】
また、上記実施形態では、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対の外側レール8,8からなるロングレールと、左右一対のロングレール8,8の間に左右一対の内側レール9,9からなるショートレールとが設置された車両において、上記左右の内側レール(ショートレール)9,9に沿ってそれぞれハーネス部材13をそれぞれ個別に配設したため、一本のシートスライドレール内に複数本のハーネス部材13を配設するように構成した場合のように、狭いスペース内で複数本のハーネス部材13を絡ませることなく適正に設置するという繁雑な作業を要することなく、各内側レール9内にハーネス部材13を容易に設置できるという利点がある。
【0035】
なお、上記のようにフロアパネル1上に左右一対の外側レール8,8および左右一対の内側レール9,9からなる複数本のシートスライドレールを有する車両において、複数本のハーネス部材13を上記左右一対の外側レール8,8および左右一対の内側レール9,9からなる複数本のシートスライドレールの全部または一部に沿ってそれぞれ別々に配設した構成としてもよい。上記外側レール8,8に沿ってハーネス部材13を配設した場合には、内側レール9,9に沿ってハーネス部材13を配設した場合のように、左右のサイドシル6に沿って設置されたハーネス部材13を大きく内側に屈曲させることなく、上記外側レール8の前端開口部からその内部にハーネス部材13を導入することができる。さらに、上記左右一対の外側レール8,8および左右一対の内側レール9,9の内部にそれぞれハーネス部材を配設した場合には、多数本のハーネス部材13を絡ませることなく容易かつ適正に設置できるという利点がある。
【0036】
また、上記実施形態に示すように、車体前部のエンジンルーム内等にバッテリを収容する場合に比べ、スペース的に余裕がある車体の後部に位置するフロアパネル1の一部を下方に凹入させることにより荷室収納部7を形成し、その内部に上記車両用バッテリ10を収容するように構成した場合には、大容量かつ高電圧のバッテリを設置することが可能であるため、定格電圧の高い車載補機類の使用が可能になるとともに、エンジンと電気モータとの両方を駆動源としたハイブリッド車両用における電気モータ用の駆動電源として上記バッテリを使用できるという利点がある。そして、上記内側レール9からなるシートスライドレールに沿って配設されたハーネス部材13を上記車両用バッテリ10に接続するように構成すれば、インストルメントパネルの内部等に配設された配電ボックス等と上記車両用バッテリ10とを接続するために、上記フロアパネル1上を車体の前後方向に延びるように設置された上記ハーネス部材13を内側レール9により効果的に保護してその損傷を抑制することができる。
【0037】
特に、上記実施形態では、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対の外側レール8,8からなるロングレールと、左右一対のロングレール8,8の間に左右一対の内側レール9,9からなるショートレールとが設置された車両において、上記左右の内側レール(ショートレール)9,9に沿ってそれぞれハーネス部材13を配設したため、車体の後部中央近傍に形成された上記荷室収納部7内に収容された車両用バッテリ10の両電極に対し、上記ハーネス部材13を容易かつ適正に接続できるという利点がある。
【0038】
なお、上記内側レール9等からなるシートスライドレールに沿って配設されたハーネス部材13を、フロアパネル1の後部に形成された荷室収納部7内に収容された車両用バッテリ10に接続してなる上記実施形態に代え、車室後部の側壁部等に設置されたオーディオ機器、リヤエアコン用のブロア装置もしくはコンセント器具等に接続されるハーネス部材を、上記外側レール8,8等からなるシートスライドレールに沿って配設してシートスライドレールにより隠蔽した構造としてもよい。
【0039】
上記実施形態では、左右一対の外側レール8,8および左右一対の内側レール9,9からなるシートスライドレールを水平線Hに対して後上がりの傾斜状態で設置するとともに、外側レール8および内側レール9に沿って乗員用シート2,3をスライド可能に支持した構成したため、シートの多様な配列パターンが得られるとともに、快適な車室内の居住空間が得られるという利点がある。
【0040】
例えば、図10および図11に示すように、車室の前面およびルーフ部の前部に、フロントガラス42およびルーフガラス43が連続して設置されたいわゆるパノラマルーフタイプの車両において、上記のように外側レール8および内側レール9からなるシートスライドレールを後上がりの傾斜状態で設置した場合には、運転席および助手席からなる最前列の乗員用シート41の設置高さH1に比べ、その後方側に位置する中列の乗員用シート2および後列の乗員用シート3の設置高さH2およびH3を順次大きく設定することにより、中列および後列の乗員用シート2,3に着座した乗員の視界、つまり上記フロントガラス42およびルーフガラス43等を介して外部を視認する際の視界を充分に確保することができる。
【0041】
また、上記中列の乗員用シート2を最前列の乗員用シート41に近接した位置までスライド変位させるとともに、後列の乗員用シート3を最後部までスライド変位させることにより、後列の乗員用シート3に着座した乗員の前方部に広い空間を確保することができる。さらに、中列の乗員用シート2に着座した乗員の前方部に広い空間を確保するために、中列および後列の乗員用シート2,3をそれぞれ後方にスライド変位させる等により、シートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【0042】
そして、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるように外側レール8および内側レール9からなるシートスライドレールが設置されるとともに、この外側レール8および内側レール9に沿って乗員用シート2,3がスライド可能に支持された車両において、上記フロアパネル1の後端部に沿って車幅方向に延びる設置されたリヤバンパレインフォースメント11の設置部近傍位置まで上記外側レール8からなるシートスライドレールの後端部を延設した場合には、簡単な構成で車体の剛性を充分に確保できるという利点がある。
【0043】
すなわち、上記外側レール8は、乗員用シート3を安定して支持し得るように所定の剛性を有しており、この外側レール8をフロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びるように設置するとともに、その後端部をリヤバンパレインフォースメント11の設置部まで延出した場合には、剛性の高い車体フレーム等からなる別体の補強部材を必要とすることなく、上記外側レール8を利用して車体の剛性を効果的に向上させることができる。したがって、車体重量や製造コストの増大等を防止しつつ、車体の剛性を効果的に向上させることができ、車両の後突時に車体後部に入力された衝撃荷重に応じて車体が変形するのを効果的に防止できるとともに、車両の走行時にリヤサスペンション等から入力される荷重に応じて車体が変形することに起因して走行安定性が損なわれること等を効果的に防止できるという利点がある。
【0044】
また、上記実施形態では、フロアパネル1の左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対の外側レール8(ロングレール)からなるシートスライドレールを設置するとともに、車幅方向に延びる一体のシートクッションを備えたベンチシートタイプの乗員用シート3を上記外側レール8に沿ってスライド自在に支持したため、上記ベンチシートタイプの乗員用シート3を車体の前後方向へ広範囲に亘って移動させることができるとともに、上記外側レール8により車体の前後方向における剛性を効果的に向上させることができる。
【0045】
さらに、上記実施形態では、前後に配列された中列の乗員用シート2および後列の乗員用シート3等からなる複数列の乗員用シートを、それぞれ上記左右一対の外側レール8(ロングレール)に沿ってスライド自在に支持したため、簡単な構成で上記複数の乗員用シート2,3を車体の前後方向にスライド変位させることにより、シートの多様な配列パターンが得られるとともに、上記外側レール8を有効に利用して車体の広範囲を効果的に補強できるという利点がある。
【0046】
なお、上記後列の乗員用シート3と同様に中列の乗員用シートをベンチシートタイプに構成することも可能であるが、上記実施形態に示すように、左右一対の外側レール8からなるロングレールの間に、左右一対の内側レール9からなるショートレールを配設するとともに、上記ベンチシートタイプの乗員用シート3の前方側に、左右に分割された左側シート2aおよび右側シート2bからなるセパレートタイプの乗員用シート2を配設し、上記相隣接するロングレールおよびショートレールに沿って、セパレートタイプの乗員用シート2を構成する上記左側シート2aおよび右側シート2bを、それぞれ個別にスライド自在に支持した場合には、左側シート2aおよび右側シート2bの前後位置を変化させる等により、さらにシートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【0047】
また、上記セパレートタイプの乗員用シート2を構成する左側シート2aおよび右側シート2bと、外側レール8および内側レール9との間に、上記左側シート2aおよび右側シート2bを、それぞれ車幅方向にスライド可能に支持する横スライドレールを設けた構造としてもよい。このように構成した場合には、上記横スライドレールに沿って左側シート2aおよび右側シート2bを車幅方向にスライド変位させることにより、必要に応じて左右両シート2a,2bの設置間隔を変化させることができるため、さらにシートの多様な配列パターンが得られるという利点がある。
【0048】
さらに、図12に示すように、上記取付ブラケット12の設置部に対応する位置において、フロアパネル1の下面に沿って車幅方向に延びるとともに、左右両端部を上記車体フレーム4またはサイドシル6の車室内側壁面に接合された断面コ字状のクロスメンバ本体25aを有するクロスメンバ25を設け、その上端部に設けられた前後一対のフランジ部25b,25cと、上記取付ブラケット12およびフロアパネル1とを取付ボルト26により一体に締結するように構成してもよい。
【0049】
上記のように構成した場合には、所定の剛性および長さを有する外側レール8および内側レール9を安定した取付状態に保持することができるとともに、上記外側レール8および内側レール9を利用して車体を効果的に補強することができるため、車両の衝突時に入力された大きな衝撃荷重を、上記外側レール8および内側レール9とクロスメンバ25とを介して車体の各部に伝達して分散支持することにより、車体が大きく変形するのを効果的に防止できるとともに、車両の走行時にリヤサスペンション等から入力される荷重に応じて車体が変形することに起因して走行安定性が損なわれること等を効果的に防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る車両の下部車体構造の実施形態を示す側面断面図である。
【図2】車室内の構造を示す平面図である。
【図3】フロアパネルの上部構造を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】レールブラケットの取付構造を示す正面断面図である。
【図7】車両バッテリの取付状態を示す側面断面図である。
【図8】レールブラケットの取付構造の他の例を示す正面断面図である。
【図9】レールブラケットの取付構造の他の例を示す正面断面図である。
【図10】本発明に係る下部車体構造を有する車両の外観図である。
【図11】本発明に係る下部車体構造を有する車両の説明図である。
【図12】レールブラケットの取付構造の他の例を示す側面断面図である。
【図13】ハーネス部材の取付状態の従来例を示す正面断面図である。
【図14】ハーネス部材の取付状態の従来例を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 フロアパネル
2,3 乗員用シート
7 荷室収納部
8 外側レール(ロングレール)
9 内側レール(ショートレール)
10 車両用バッテリ
13 ハーネス部材
23 凹溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の底部を形成するフロアパネルと、このフロアパネルに沿って車体の前後方向に延びるように設置されたシートスライドレールと、このシートスライドレールに沿ってスライド可能に支持された乗員用シートとを具備した車両において、上記フロアパネル上を車体の前後方向に延びるように設置されたハーネス部材の少なくとも一部がシートスライドレールに沿って配設され、このシートスライドレールにより上記ハーネス部材が隠蔽されたことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項2】
ハーネス部材がシートスライドレール内に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の下部車体構造。
【請求項3】
シートスライドレールとフロアパネルとの間に形成された配設空間内に上記ハーネス部材が配設されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の下部車体構造。
【請求項4】
フロアパネルにはシートスライドレールの設置部に沿って下方に凹入する凹溝部が形成され、この凹溝部とシートスライドレールとの間にハーネス部材の配設空間が構成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両の下部車体構造。
【請求項5】
車体の前後方向に延びる左右複数本のシートスライドレールを有し、複数本のハーネス部材が上記シートスライドレールに沿ってそれぞれ別々に配設されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造。
【請求項6】
フロアパネルの後部に下方に凹入した荷室収納部が形成されるとともに、荷室収納部内に車両用バッテリが収容され、シートスライドレールに沿って配設されたハーネス部材が上記車両用バッテリに接続されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造。
【請求項7】
フロアパネルの左右両側辺部に沿って車体の後端部近傍まで延びる左右一対のロングレールが設置されるとともに、この左右一対のロングレールの間に左右一対のショートレールが設置され、この左右のショートレールに沿ってそれぞれハーネス部材が配設されたことを特徴とする請求項6に記載の車両の下部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−110634(P2008−110634A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293669(P2006−293669)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】