説明

車両の制御装置および制御方法

【課題】変速段の変更の可否を予測した充電量に基づいて適切に判定でき、ひいては、車両の燃費を向上させることができる車両の制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】車両の減速走行中、変速段を保持した状態で車両の停止まで回生を行ったと仮定した場合における充電量である第1充電量CH1が推定され(ステップ1)、車両の停止までに変速段を目標変速段に変更するとともに車両の停止まで回生を行ったと仮定した場合における充電量である第2充電量CH2を推定し(ステップ3)、第1および第2充電量CH1、CH2を用いて変速段を保持すべきかまたは変更すべきかを判定した(ステップ4)結果に基づいて、変速段が設定される(ステップ5、6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された動力を複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な変速機構を有する車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この車両は、動力源として内燃機関を備えており、内燃機関の動力は、変速機構により複数の変速段のいずれか1つで変速され、車両の駆動輪に伝達される。
【0003】
また、制御装置では、車両の走行中、変速機構の変速段が現在のもとの変速段から他の変速段に変更され、さらにもとの変速段に復帰するか否かを予測する。そして、もとの変速段に復帰すると予測されたときには、もとの変速段から他の変速段を介してもとの変速段に復帰するまでの時間である変速所要時間を算出する。また、算出された変速所要時間が経過するまでに内燃機関で消費される燃料消費量として、変速段を他の変速段に変更せずに保持したと仮定した場合の第1燃料消費量と、もとの変速段に復帰すると仮定した場合の第2燃料消費量とを、算出する。そして、内燃機関の良好な燃費を得るために、算出された第1燃料消費量と第2燃料消費量との比較結果に基づいて、変速段の変更の可否が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/131367号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、動力源として内燃機関および発電可能な電動機を備えるハイブリッド車両が周知である。この種のハイブリッド車両では、内燃機関の負荷が低いことにより内燃機関の燃料消費率が大きくなるようなときには、車両の燃費を向上させるために、電動機のみが用いられる。また、ハイブリッド車両の走行中、内燃機関の動力を最小の燃料消費率が得られるように制御するとともに、そのように制御される内燃機関の動力が駆動輪に要求される要求駆動力よりも大きいときには、要求駆動力に対する内燃機関の動力の余剰分を用いて、電動機で発電が行われ、発電した電力がバッテリに充電される(回生)。さらに、ハイブリッド車両の減速走行中、駆動輪の動力を用いて電動機で回生が行われる。車両の走行中や減速走行中におけるバッテリの充電量を増大させることは、電動機のみを動力源とする車両の走行期間が長くなるため、ひいてはハイブリッド車両の燃費の向上につながる。
【0006】
これに対して、前述した従来の制御装置では、内燃機関を動力源とした車両の走行中における変速段の変更の可否を第1および第2燃料消費量に基づいて判定しているにすぎないので、バッテリの充電量を増大させることができず、ひいては、良好な燃費を得ることができない。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、変速段の変更の可否を予測した充電量に基づいて適切に判定でき、それにより、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費を向上させることができる車両の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、動力源としての発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、入力された動力を複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DW、DWに伝達可能な変速機構71とを有する車両の制御装置において、変速段を保持した状態で電動機4により所定の回生時間、回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量である第1充電量を推定する第1充電量推定手段と、回生時間内に変速段を目標変速段に変更するとともに電動機4による回生を回生時間が経過するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量である第2充電量を推定する第2充電量推定手段と、推定された第1および第2充電量に基づいて、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段と、変速判定手段による判定結果に基づいて、変速段を設定する変速段設定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電動機の動力が、変速機構により、複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で駆動輪に伝達される。すなわち、電動機と駆動輪の間での動力の伝達が、変速機構を介して行われる。変速段を変更するタイプの変速機構では、変速段の変更が開始されてから完了するまでの間(以下「変速段変更期間」という)、動力の伝達が遮断される。以下、このように動力の伝達が遮断される事象を「変速抜け」という。このため、車両の走行中、電動機に伝達される動力を用いて回生を行う場合、上記の変速段変更期間においては、上記の変速抜けによって、電動機による回生を行うことができず、蓄電器を充電することができない。したがって、車両の走行中、所定の回生時間内に変速機構の変速段を変更するとともに回生時間が経過するまで回生を行おうとしても、変速段の変更が完了した後でなければ、変更先の変速段での回生を有効に行うことができない。
【0010】
これに対して、前述した構成によれば、回生時間内に変速段を目標変速段に変更するとともに回生時間が経過するまで回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量の予測値である第2充電量が、第2充電量推定手段によって推定される。
【0011】
また、変速段を保持した状態で電動機により回生時間、回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量の予測値である第1充電量が、第1充電量推定手段によって推定される。さらに、推定された第1および第2充電量に基づき、変速判定手段によって、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかが判定される。これにより、変速段を保持した場合の予測値である第1充電量と変更した場合の予測値である第2充電量とに基づき、変速段の変更の可否を、より大きな充電量が得られることを条件として適切に判定することができる。また、当該判定結果に基づき、変速段設定手段によって、変速段を設定するので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費を向上させることができる。
【0012】
前記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有する車両の制御装置において、変速段を保持した状態で電動機4により所定の回生時間、回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量である第1充電量CH1を推定する第1充電量推定手段(ECU2、ステップ1)と、回生時間内に変速段を目標変速段に変更するとともに電動機4による回生を回生時間が経過するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量である第2充電量CH2を推定する第2充電量推定手段(ECU2、ステップ3)と、推定された第1および第2充電量CH1、CH2に基づいて、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段(ECU2、ステップ4)と、変速判定手段による判定結果に基づいて、変速段を設定する変速段設定手段(ECU2、ステップ5、6)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が、第1クラッチによって互いに係合するとともに、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチによって解放されているときには、内燃機関の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、機関出力軸と第1入力軸との係合が第1クラッチで解放されるとともに、機関出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合しているときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0014】
さらに、電動機の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。すなわち、電動機と駆動輪の間での動力の伝達が、第1変速機構を介して行われる。請求項1に係る発明の説明で述べたように、変速段を変更するタイプの変速機構では、変速段変更期間(変速段の変更が開始されてから完了するまでの間)では、変速抜けが生じ、動力の伝達が遮断される。このため、車両の走行中、電動機に伝達される動力を用いて回生を行う場合、第1変速機構での変速段変更期間においては、上記の変速抜けによって、電動機による回生を行うことができず、蓄電器を充電することができない。したがって、車両の走行中、回生時間内に変速段を変更するとともに回生時間が経過するまで回生を行おうとしても、変速段の変更が完了した後でなければ、変更先の変速段での回生を有効に行うことができない。
【0015】
これに対して、前述した構成によれば、回生時間内に変速段を目標変速段に変更するとともに回生時間が経過するまで回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量の予測値である第2充電量が、第2充電量推定手段によって推定される。
【0016】
また、変速段を保持した状態で電動機により回生時間、回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量の予測値である第1充電量が、第1充電量推定手段によって推定される。さらに、推定された第1および第2充電量に基づき、変速判定手段によって、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかが判定される。これにより、変速段を保持した場合の予測値である第1充電量と変更した場合の予測値である第2充電量とに基づき、変速段の変更の可否を、より大きな充電量が得られることを条件として適切に判定することができる。また、当該判定結果に基づき、変速段設定手段によって、変速段を設定するので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費を向上させることができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置1において、第1充電量CH1は、車両の減速走行中、変速段を保持した状態で電動機4による回生を車両が停止するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量であり、第2充電量CH2は、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともに電動機4による回生を車両が停止するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量であることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第2充電量は、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともに電動機による回生を車両が停止するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量である。
【0019】
また、第1充電量として、車両の減速走行中、変速段を保持した状態で電動機による回生を車両が停止するまで行ったときに蓄電器に充電される充電量が推定される。そして、推定された第1および第2充電量に基づいて、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかが判定される。したがって、減速走行中においても、変速段を保持した場合の予測値である第1充電量と変更した場合の予測値である第2充電量とに基づき、変速段の変更の可否を、より大きな充電量が得られることを条件として適切に判定することができる。また、当該判定結果に基づいて変速段を設定するので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費をさらに向上させることができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の車両の制御装置1において、車両の減速走行中で、かつ、変速段設定手段による目標変速段への変速段の変更中に、車両を減速させるために、車両のブレーキBの動作を制御するブレーキ制御手段(ECU2)をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
周知のように、電動機では、回生に伴って制動力が発生し、この制動力は、変速機構または第1変速機構(請求項1については前者、請求項2については後者)を介して駆動輪に伝達される。一方、請求項1および2に係る発明の説明で述べたように、変速段変更期間では、動力の伝達が遮断される(変速抜け)ことによって、回生を行うことができず、回生に伴う制動力が発生しないので、この制動力によって車両を減速することができない。
【0022】
上述した構成によれば、車両の減速走行中で、かつ、目標変速段への変速段の変更中に、車両を減速させるために、車両のブレーキの動作をブレーキ制御手段によって制御するので、ショックを発生させないように、車両を適切に減速することができる。
【0023】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の車両の制御装置1において、ブレーキBが作動可能か否かを判定するブレーキ判定手段(ECU2)をさらに備え、変速段設定手段は、ブレーキBが作動可能と判定されたときに、目標変速段への変速段の変更を開始する(ステップ6)ことを特徴とする。
【0024】
車両のブレーキには、その作動開始までに若干時間がかかるものがあるのに対し、上述した構成によれば、ブレーキが作動可能か否かが、ブレーキ判定手段によって判定されるとともに、ブレーキが作動可能と判定されたときに、目標変速段への変速段の変更が開始される。したがって、請求項4に係る発明による前述した効果、すなわち、ショックを発生させないように車両を適切に減速することができるという効果を、確実に得ることができる。
【0025】
前記目的を達成するために、請求項6に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有する車両の制御装置1において、車両の減速走行中、変速段を保持した状態で電動機4により車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量である第1充電量CH1を推定する第1充電量推定手段(ECU2、ステップ1)と、第1変速機構11の変速段の所定の目標変速段への変更が開始されてから完了するまでに要する時間である変速所要時間TIMを推定する変速所要時間推定手段(ECU2、ステップ2)と、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともに電動機4による回生を車両が停止するまで行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量である第2充電量CH2として、算出された変速所要時間TIMが経過してから車両が停止するまでの間、変速段を目標変速段に変更した状態で電動機4による回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量を推定する第2充電量推定手段(ECU2、ステップ3)と、推定された第1および第2充電量CH1、CH2に基づいて、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段(ECU2、ステップ4)と、変速判定手段による判定結果に基づいて、変速段を設定する変速段設定手段(ECU2、ステップ5、6)と、を備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が、第1クラッチによって互いに係合するとともに、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチで解放されているときには、内燃機関の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、機関出力軸と第1入力軸との係合が、第1クラッチによって解放されるとともに、機関出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合しているときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0027】
さらに、電動機の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。すなわち、電動機と駆動輪の間での動力の伝達が、第1変速機構を介して行われる。請求項1に係る発明の説明で述べたように、変速段を変更するタイプの変速機構では、変速段変更期間(変速段の変更が開始されてから完了するまでの間)では、変速抜けが生じ、動力の伝達が遮断される。このため、車両の減速走行中、駆動輪から電動機に伝達される動力を用いて回生を行う場合、第1変速機構での変速段変更期間においては、上記の変速抜けによって、電動機による回生を行うことができず、蓄電器を充電することができない。したがって、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において第1変速機構の変速段を変更するとともに車両が停止するまで回生を行おうとしても、変速段の変更が完了した後でなければ、変更先の変速段での回生を有効に行うことができない。
【0028】
これに対して、前述した構成によれば、変速段の所定の目標変速段への変更が開始されてから完了するまでに要する時間である変速所要時間が、変速所要時間推定手段によって推定される。また、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともに車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量の予測値である第2充電量として、算出された変速所要時間が経過してから車両が停止するまでの間、変速段を目標変速段に変更した状態で電動機による回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量が推定される。したがって、変速段を変更した場合の充電量である第2充電量を、上述した変速抜けに応じて精度良く予測することができる。
【0029】
また、車両の減速走行中、変速段を保持した状態で電動機により車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量の予測値である第1充電量が、第1充電量推定手段によって推定される。さらに、推定された第1および第2充電量に基づき、変速判定手段によって、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかが判定される。これにより、車両の減速走行中、変速段を保持した場合の予測値である第1充電量と変更した場合の予測値である第2充電量とに基づき、変速段の変更の可否を、より大きな充電量が得られるように適切に行うことができる。また、当該判定結果に基づき、変速段設定手段によって、変速段を設定するので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費を向上させることができる。
【0030】
請求項7に係る発明は、請求項3または6に記載の車両の制御装置1において、蓄電器の充電状態SOCが上限値以上であるという第1条件、および蓄電器の温度(バッテリ温度TB)が所定温度以上であるという第2条件の一方が成立しているか否かを判定する蓄電器状態判定手段(ECU2)と、第1および第2条件の一方が成立していると判定されているときに、電動機4による回生を禁止する回生禁止手段(ECU2)と、車両の減速走行中、回生禁止手段により電動機4による回生が禁止されているときに、車両を減速するために、車両のブレーキBの動作を制御するブレーキ制御手段(ECU2)と、をさらに備えることを特徴とする。
【0031】
蓄電器の充電状態が比較的大きいときや、蓄電器の温度が比較的高いときに、蓄電器を充電すると、蓄電器が過熱するおそれがある。上述した構成によれば、蓄電器の充電状態が上限値以上であるという第1条件、および蓄電器の温度が所定温度以上であるという第2条件の一方が成立しているか否かが、蓄電器状態判定手段によって判定されるとともに、第1および第2条件の一方が成立していると判定されているときに、電動機による回生が、回生禁止手段によって禁止される。したがって、上述した蓄電器の過熱を防止することができる。
【0032】
また、車両の減速走行中、回生禁止手段により電動機による回生が禁止されているときに、車両を減速するために、車両のブレーキの動作をブレーキ制御手段によって制御するので、ショックを発生させないように、車両を適切に減速することができる。
【0033】
請求項8に係る発明は、請求項1または2に記載の車両の制御装置1において、車両には、車両が走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステム68が設けられており、カーナビゲーションシステム68に記憶されたデータに基づき、車両の走行状況を予測する予測手段(ECU2)をさらに備え、予測された車両の走行状況に応じて、車両の走行モードが選択されることを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、車両の走行状況が、車両が走行している周辺の道路情報を表すデータに基づき、予測手段によって予測されるとともに、予測された車両の走行状況に応じて、車両の走行モードが選択される。これにより、車両の走行状況に適した走行モードを選択することができる。例えば、動力源として電動機に加え、内燃機関を備える場合において、車両が下り坂を走行すると予測されているときには、下り坂の走行中に電動機による回生により蓄電器の充電量が増大することが予想されるので、内燃機関のみを動力源とするENG走行モードを選択したり、上り坂を走行すると予測されているときには、電動機による内燃機関のアシストが必要になると予想されるので、前もって蓄電器を充電するために、内燃機関の動力の一部を用いて電動機で発電するとともに、発電した電力を蓄電器に充電する充電走行モードを選択したりすることができる。
【0035】
請求項9に係る発明は、請求項3または6に記載の車両の制御装置1において、変速段設定手段は、車両の減速走行中、変速段を目標変速段に変更すべきと判定されているときに、車両のブレーキペダルBの操作量(ブレーキ踏力BP)が所定値以上、減少したタイミングで、目標変速段への変速段の変更を開始する(ステップ6)ことを特徴とする。
【0036】
周知のように、電動機では、回生に伴って制動力が発生し、この制動力は、変速機構または第1変速機構(請求項1については前者、請求項2および6については後者)を介して駆動輪に伝達される。一方、請求項1および2に係る発明の説明で述べたように、変速段変更期間では、動力の伝達が遮断される(変速抜け)ことによって、回生を行うことができず、回生に伴う制動力が発生しない。
【0037】
この構成によれば、車両の減速走行中、車両のブレーキペダルの操作量が所定値以上、減少したタイミングで、すなわち、運転者による減速要求が減少したタイミングで、目標変速段への変速段の変更を開始するので、運転者に大きな違和感を与えることなく、変速段を変更することができる。
【0038】
前記目的を達成するため、請求項10に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有する車両の制御装置1において、車両の減速走行中、第1変速機構11の変速段を変更するとともに電動機4による回生を行ったと仮定した場合に、当該変速段の変更に伴う第1変速機構11における動力の伝達の遮断により回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギLREを、車両のブレーキペダルBの踏力(ブレーキ踏力BP)および車両の速度VPに応じて予測する損失回生電気エネルギ予測手段(ECU2、ステップ11)と、車両の減速走行中、電動機4による回生を行う場合において、予測された損失回生電気エネルギLREが所定値LREREFよりも大きいときに、変速段の変更を禁止する変速段変更禁止手段(ECU2、ステップ12、13)と、を備えることを特徴とする。
【0039】
この構成によれば、内燃機関の機関出力軸と第1変速機構の第1入力軸が第1クラッチによって互いに係合するとともに、機関出力軸と第2変速機構の第2入力軸との係合が第2クラッチで解放されているときには、内燃機関の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。また、機関出力軸と第1入力軸の係合が第1クラッチで解放されるとともに、機関出力軸と第2入力軸が第2クラッチによって互いに係合するときには、内燃機関の動力は、第2変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。
【0040】
さらに、電動機の動力は、第1変速機構の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪に伝達される。すなわち、電動機と駆動輪の間での動力の伝達が、第1変速機構を介して行われる。請求項1に係る発明の説明で述べたように、変速段を変更するタイプの変速機構では、変速段変更期間(変速段の変更が開始されてから完了するまでの間)では、変速抜けが生じ、動力の伝達が遮断される。このため、車両の減速走行中、駆動輪から電動機に伝達される動力を用いて回生を行う場合、第1変速機構での変速段変更期間においては、上記の変速抜けによって、電動機による回生を行うことができず、蓄電器を充電することができない。
【0041】
これに対して、前述した構成によれば、車両の減速走行中、第1変速機構の変速段を変更するとともに電動機による回生を行ったと仮定した場合に、当該変速段の変更に伴う第1変速機構における動力の伝達の遮断により回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギが、損失回生電気エネルギ予測手段によって予測される。また、車両の減速走行中、電動機による回生を行う場合において、予測された損失回生電気エネルギが所定値よりも大きいときには、変速段の変更が、変速段変更禁止手段によって禁止される。これにより、変速抜けにより回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギが比較的大きいときに、変速段の変更を禁止し、変速段を保持した状態で回生を行うことができるので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、車両の燃費を向上させることができる。
【0042】
また、周知のように、電動機では、回生に伴い、発電した電力に応じた制動力が発生する。一般に、この制動力は、車両の減速走行中、車両の減速に利用され、車両のブレーキペダルの踏力に応じた電動機での発電電力の制御によって、制御される。この場合、ブレーキペダルの踏力は、電動機で発電され、蓄電器に充電される電力に相関する。さらに、車両の速度は、駆動輪から電動機に伝達される動力に相関するので、同様に蓄電器に充電される電力に相関する。これに対して、前述した構成によれば、損失回生電気エネルギを予測するためのパラメータとして、これらのブレーキペダルの踏力および車両の速度を用いるので、この予測を適切に行うことができる。
【0043】
前記目的を達成するため、請求項11に係る発明は、内燃機関3と、発電可能な電動機4と、電動機4との間で電力の授受が可能な蓄電器(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ52)と、内燃機関3の機関出力軸(クランク軸3a)および電動機4からの動力を第1入力軸13で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪DWに伝達可能な第1変速機構11と、機関出力軸からの動力を第2入力軸32で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第2変速機構31と、機関出力軸と第1変速機構11との間を係合可能な第1クラッチC1と、機関出力軸と第2変速機構31との間を係合可能な第2クラッチC2とを有する車両の制御方法において、車両の減速走行中、変速段を保持した状態で電動機4により車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量である第1充電量CH1を推定し(ステップ1)、第1変速機構11の変速段の所定の目標変速段への変更が開始されてから完了するまでに要する時間である変速所要時間TIMを推定し(ステップ2)、車両の減速走行中、車両が停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともに電動機4による回生を車両が停止するまで行ったと仮定した場合に蓄電器に充電される充電量である第2充電量CH2として、算出された変速所要時間TIMが経過してから車両が停止するまでの間、変速段を目標変速段に変更した状態で電動機4による回生を行ったときに蓄電器に充電される充電量を推定し(ステップ3)、推定された第1および第2充電量CH1、CH2に基づいて、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかを判定し(ステップ4)、当該判定結果に基づいて、変速段を設定する(ステップ5、6)ことを特徴とする。
【0044】
この構成によれば、請求項6に係る発明による効果を同様に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態による制御装置を適用したハイブリッド車両を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態による制御装置のECUなどを示すブロック図である。
【図3】ハイブリッド車両の減速回生モード中に第1変速機構の変速段を設定する処理を示すフローチャートである。
【図4】変換効率マップの一例である。
【図5】減速回生モード中に第1変速機構の変速段を3速段から1速段に変更した場合における制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【図6】減速回生モード中に第1変速機構の変速段を3速段に保持した場合における制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【図7】減速回生モード中に第1変速機構の変速段を設定する処理の他の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明による制御装置を適用した、図1とは異なるハイブリッド車両を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、この実施形態により限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが、含まれる。図1に示すハイブリッド車両Vは、一対の駆動輪DW(一方のみ図示)および一対の従動輪(図示せず)などから成る四輪車両であり、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3および発電可能な電動機(以下「モータ」という)4を備えている。エンジン3は、複数の気筒を有するガソリンエンジンであり、クランク軸3aを有している。エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期などは、図2に示す制御装置1のECU2によって制御される。
【0047】
モータ4は、いわゆるモータジェネレータである、一般的な1ロータタイプのブラシレスDCモータであり、固定されたステータ4aと、回転自在のロータ4bを有している。このステータ4aは、回転磁界を発生させるためのものであり、鉄心や三相コイルで構成されている。また、ステータ4aは、ハイブリッド車両Vに固定されたケーシングCAに取り付けられるとともに、パワードライブユニット(以下「PDU」という)51を介して、充電および放電可能なバッテリ52に電気的に接続されている。このPDU51は、インバータなどの電気回路によって構成されており、ECU2に電気的に接続されている(図2参照)。上記のロータ4bは、磁石などで構成されており、ステータ4aに対向するように配置されている。
【0048】
以上の構成のモータ4では、ECU2によるPDU51の制御によって、バッテリ52からPDU51を介してステータ4aに電力が供給されると、回転磁界が発生し、それに伴い、この電力が動力に変換され、ロータ4bが回転する。この場合、ステータ4aに供給される電力が制御されることによって、ロータ4bの動力が制御される。
【0049】
また、ステータ4aへの電力供給を停止した状態で、動力の入力によりロータ4bが回転しているときに、ECU2によるPDU51の制御によって、回転磁界が発生し、それに伴い、ロータ4bに入力された動力が電力に変換され、発電が行われるとともに、発電した電力がバッテリ52に充電される。また、ステータ4aを適宜、制御することによって、ロータ4bに伝達される動力が制御される。
【0050】
さらに、ハイブリッド車両Vは、エンジン3およびモータ4の動力をハイブリッド車両Vの駆動輪DWに伝達するための駆動力伝達装置を備えており、この駆動力伝達装置は、第1変速機構11および第2変速機構31などから成るデュアルクラッチトランスミッションを有している。
【0051】
第1変速機構11は、入力された動力を、1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの1速段〜7速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第1変速機構11は、エンジン3のクランク軸3aと同軸状に配置された第1クラッチC1、遊星歯車装置12、第1入力軸13、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16を有している。
【0052】
第1クラッチC1は、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC1aと、第1入力軸13の一端部に一体に取り付けられたインナーC1bなどで構成されている。第1クラッチC1は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第1入力軸13を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者13、3aの間を遮断する。
【0053】
遊星歯車装置12は、シングルプラネタリ式のものであり、サンギヤ12aと、このサンギヤ12aの外周に回転自在に設けられた、サンギヤ12aよりも歯数の多いリングギヤ12bと、両ギヤ12a、12bに噛み合う複数(例えば3つ)のプラネタリギヤ12c(2つのみ図示)と、プラネタリギヤ12cを回転自在に支持する回転自在のキャリア12dとを有している。
【0054】
サンギヤ12aは、第1入力軸13の他端部に一体に取り付けられている。第1入力軸13の他端部にはさらに、前述したモータ4のロータ4bが一体に取り付けられており、第1入力軸13は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。以上の構成により、第1入力軸13、サンギヤ12aおよびロータ4bは、互いに一体に回転する。
【0055】
また、リングギヤ12bには、ロック機構BRが設けられている。このロック機構BRは、電磁式のものであり、ECU2によりON/OFFされ、ON状態のときに、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、OFF状態のときに、リングギヤ12bの回転を許容する。なお、ロック機構BRとして、シンクロクラッチを用いてもよい。
【0056】
キャリア12dは、中空の回転軸17に一体に取り付けられている。回転軸17は、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。
【0057】
3速ギヤ14は、回転軸17に一体に取り付けられており、回転軸17およびキャリア12dと一体に回転自在である。また、5速ギヤ15および7速ギヤ16は、第1入力軸13に回転自在に設けられている。さらに、これらの3速ギヤ14、7速ギヤ16、および5速ギヤ15は、遊星歯車装置12と第1クラッチC1の間に、この順で並んでいる。
【0058】
また、第1入力軸13には、第1シンクロクラッチS1および第2シンクロクラッチS2が設けられている。第1シンクロクラッチS1は、スリーブS1a、シフトフォークおよびアクチュエータ(いずれも図示せず)を有している。第1シンクロクラッチS1は、ECU2による制御により、スリーブS1aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、3速ギヤ14または7速ギヤ16を、第1入力軸13に選択的に係合させる。
【0059】
第2シンクロクラッチS2は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されており、ECU2による制御により、スリーブS2aを第1入力軸13の軸線方向に移動させることによって、5速ギヤ15を第1入力軸13に係合させる。
【0060】
また、3速ギヤ14、5速ギヤ15、および7速ギヤ16には、第1受動ギヤ18、第2受動ギヤ19および第3受動ギヤ20がそれぞれ噛み合っており、これらの第1〜第3受動ギヤ18〜20は、出力軸21に一体に取り付けられている。出力軸21は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第1入力軸13と平行に配置されている。また、出力軸21には、ギヤ21aが一体に取り付けられており、このギヤ21aは、差動装置を有するファイナルギヤFGのギヤに噛み合っている。出力軸21は、これらのギヤ21aやファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに連結されている。
【0061】
以上の構成の第1変速機構11では、遊星歯車装置12、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18によって1速段および3速段のギヤ段が構成され、5速ギヤ15および第2受動ギヤ19によって5速段のギヤ段が、7速ギヤ16および第3受動ギヤ20によって7速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第1入力軸13に入力された動力は、これらの1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0062】
前述した第2変速機構31は、入力された動力を、2速段、4速段および6速段のうちの1つにより変速して駆動輪DWに伝達するものである。これらの2速段〜6速段の変速比は、その段数が大きいほど、より高速側に設定されている。具体的には、第2変速機構31は、第2クラッチC2、第2入力軸32、第2入力中間軸33、2速ギヤ34、4速ギヤ35、および6速ギヤ36を有しており、第2クラッチC2および第2入力軸32は、クランク軸3aと同軸状に配置されている。
【0063】
第2クラッチC2は、第1クラッチC1と同様、乾式多板クラッチであり、クランク軸3aに一体に取り付けられたアウターC2aと、第2入力軸32の一端部に一体に取り付けられたインナーC2bで構成されている。第2クラッチC2は、ECU2によって制御され、締結状態では、クランク軸3aに第2入力軸32を係合させる一方、解放状態ではこの係合を解除し、両者32と3aとの間を遮断する。
【0064】
第2入力軸32は、中空状に形成され、第1入力軸13の外側に相対的に回転自在に配置されるとともに、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されている。また、第2入力軸32の他端部には、ギヤ32aが一体に取り付けられている。
【0065】
第2入力中間軸33は、軸受け(図示せず)に回転自在に支持されており、第2入力軸32および前述した出力軸21と平行に配置されている。第2入力中間軸33には、ギヤ33aが一体に取り付けられており、ギヤ33aには、アイドラギヤ37が噛み合っている。アイドラギヤ37は、第2入力軸32のギヤ32aに噛み合っている。なお、図1では、図示の便宜上、アイドラギヤ37は、ギヤ32aから離れた位置に描かれている。第2入力中間軸33は、これらのギヤ33a、アイドラギヤ37およびギヤ32aを介して、第2入力軸32に連結されている。
【0066】
2速ギヤ34、6速ギヤ36、および4速ギヤ35は、第2入力中間軸33に回転自在に設けられ、この順で並んでおり、前述した第1受動ギヤ18、第3受動ギヤ20および第2受動ギヤ19にそれぞれ噛み合っている。さらに、第2入力中間軸33には、第3シンクロクラッチS3および第4シンクロクラッチS4が設けられている。両シンクロクラッチS3およびS4は、第1シンクロクラッチS1と同様に構成されている。
【0067】
第3シンクロクラッチS3は、ECU2による制御により、そのスリーブS3aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、2速ギヤ34または6速ギヤ36を、第2入力中間軸33に選択的に係合させる。第4シンクロクラッチS4は、ECU2による制御により、そのスリーブS4aを第2入力中間軸33の軸線方向に移動させることによって、4速ギヤ35を第2入力中間軸33に係合させる。
【0068】
以上の構成の第2変速機構31では、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18によって2速段のギヤ段が構成され、4速ギヤ35および第2受動ギヤ19によって4速段のギヤ段が、6速ギヤ36および第3受動ギヤ20によって6速段のギヤ段が、それぞれ構成されている。また、第2入力軸32に入力された動力は、ギヤ32a、アイドラギヤ37およびギヤ33aを介して第2入力中間軸33に伝達され、第2入力中間軸33に伝達された動力は、これらの2速段、4速段および6速段のうちの1つによって変速され、出力軸21、ギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して駆動輪DWに伝達される。
【0069】
以上のように、第1および第2変速機構11、31では、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されている。
【0070】
また、駆動力伝達装置には、リバース機構41が設けられており、リバース機構41は、リバース軸42と、リバースギヤ43と、スリーブS5aを有する第5シンクロクラッチS5を備えている。ハイブリッド車両Vを後進させる場合には、ECU2による制御により、スリーブS5aをリバース軸42の軸線方向に移動させることによって、リバースギヤ43をリバース軸42に係合させる。
【0071】
さらに、ハイブリッド車両Vには、ハイブリッド車両Vを減速するためのブレーキBが設けられている。ブレーキBは、電動サーボブレーキであり、その動作がECU2によって制御される。
【0072】
また、図2に示すように、ECU2には、クランク角センサ61から、CRK信号が入力される。このCRK信号は、エンジン3のクランク軸3aの回転に伴い、所定のクランク角ごとに出力されるパルス信号である。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン回転数NEを算出する。また、ECU2には、電流電圧センサ62から、バッテリ52に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が、入力される。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ52の充電状態SOCを算出する。
【0073】
さらに、ECU2には、バッテリ温度センサ63から、バッテリ52の温度(以下「バッテリ温度」という)TBを表す検出信号が入力される。また、ECU2には、アクセル開度センサ64からハイブリッド車両Vのアクセルペダル(図示せず)の操作量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車速センサ65から車速VPを表す検出信号が、入力される。さらに、ECU2には、ブレーキ踏力センサ66からハイブリッド車両Vのブレーキペダル(図示せず)の踏み込み力であるブレーキ踏力BPを表す検出信号が、トルクセンサ67から、駆動輪DWのトルク(以下「駆動輪トルク」という)TDWを表す検出信号が、入力される。また、ECU2には、カーナビゲーションシステム68に記憶された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータが適宜、入力される。
【0074】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ61〜67からの検出信号や、カーナビゲーションシステム68からのデータに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両Vの動作を制御する。
【0075】
以上の構成のハイブリッド車両Vの走行モードには、ENG走行モード、EV走行モード、アシスト走行モード、充電走行モード、および減速回生モードが含まれる。各走行モードにおけるハイブリッド車両Vの動作は、ECU2によって制御される。以下、これらの走行モードについて順に説明する。
【0076】
[ENG走行モード]
ENG走行モードは、エンジン3のみを動力源として用いる走行モードである。ENG走行モードでは、エンジン3の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期を制御することによって、エンジン3の動力(以下「エンジン動力」という)が制御される。また、エンジン動力は、第1または第2変速機構11、31により変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0077】
まず、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つでエンジン動力を変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、上記のいずれの変速段においても、第1クラッチC1を締結状態に制御することによって、第1入力軸13をクランク軸3aに係合させるとともに、第2クラッチC2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第2入力軸32の係合を解除する。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0078】
1速段の場合には、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0079】
以上により、エンジン動力は、第1クラッチC1、第1入力軸13、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、上記のようにリングギヤ12bが回転不能に保持されているため、第1入力軸13に伝達されたエンジン動力は、サンギヤ12aとリングギヤ12bとの歯数比に応じた変速比で減速された後、キャリア12dに伝達され、さらに、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比に応じた変速比で減速された後、出力軸21に伝達される。その結果、エンジン動力は、上記の2つの変速比によって定まる1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0080】
3速段の場合には、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。
【0081】
以上により、エンジン動力は、第1入力軸13から3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。この場合、上記のように3速ギヤ14が第1入力軸13に係合しているため、サンギヤ12a、キャリア12dおよびリングギヤ12bは一体に空転する。このため、3速段の場合には、1速段の場合と異なり、エンジン動力は、遊星歯車装置12で減速されることなく、3速ギヤ14と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0082】
以下、同様に、5速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、5速ギヤ15のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から5速ギヤ15および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ15、19の歯数比によって定まる5速段の変速比で変速される。
【0083】
7速段の場合には、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、7速ギヤ16のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、エンジン動力は、第1入力軸13から7速ギヤ16および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ16、20の歯数比によって定まる7速段の変速比で変速される。
【0084】
次に、エンジン動力を第2変速機構31により2速段、4速段および6速段のうちの1つで変速する場合の動作について、順に説明する。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1クラッチC1を解放状態に制御することによって、クランク軸3aへの第1入力軸13の係合を解除するとともに、第2クラッチC2を締結状態に制御することによって、第2入力軸32をクランク軸3aに係合させる。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0085】
2速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、2速ギヤ34のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2クラッチC2、第2入力軸32、ギヤ32a、アイドラギヤ37、ギヤ33a、第2入力中間軸33、2速ギヤ34および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達され、さらにギヤ21aおよびファイナルギヤFGを介して、駆動輪DWに伝達される。その際、エンジン動力は、2速ギヤ34と第1受動ギヤ18との歯数比によって定まる2速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0086】
以下、同様に、4速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、4速ギヤ35のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から4速ギヤ35および第2受動ギヤ19を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ35、19の歯数比によって定まる4速段の変速比で変速される。
【0087】
6速段の場合には、第3および第4シンクロクラッチS3、S4の制御によって、6速ギヤ36のみを第2入力中間軸33に係合させる。これにより、エンジン動力は、第2入力中間軸33から6速ギヤ36および第3受動ギヤ20を介して、出力軸21に伝達され、両ギヤ36、20の歯数比によって定まる6速段の変速比で変速される。
【0088】
[EV走行モード]
EV走行モードは、モータ4のみを動力源として用いる走行モードである。EV走行モードでは、バッテリ52からモータ4に供給される電力を制御することによって、モータ4の動力(以下「モータ動力」という)が制御される。また、モータ動力が、第1変速機構11により1速段、3速段、5速段および7速段のうちの1つで変速され、駆動輪DWに伝達される。この場合、これらのいずれの変速段においても、第1および第2クラッチC1、C2を解放状態に制御することによって、クランク軸3aに対する第1および第2入力軸13、32の係合を解除する。これにより、モータ4および駆動輪DWとエンジン3との間が遮断されるので、モータ動力がエンジン3に無駄に伝達されることがない。また、第5シンクロクラッチS5の制御によって、リバース軸42に対するリバースギヤ43の係合を解除する。
【0089】
1速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをON状態に制御することによって、リングギヤ12bを回転不能に保持するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、第1入力軸13に対する3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16の係合を解除する。
【0090】
以上により、モータ動力は、第1入力軸、サンギヤ12a、プラネタリギヤ12c、キャリア12d、回転軸17、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、1速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0091】
3速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様、ロック機構BRをOFF状態に制御することによって、リングギヤ12bの回転を許容するとともに、第1および第2シンクロクラッチS1、S2の制御によって、3速ギヤ14のみを第1入力軸13に係合させる。これにより、モータ動力は、第1入力軸13から、3速ギヤ14および第1受動ギヤ18を介して、出力軸21に伝達される。その結果、モータ動力は、ENG走行モードの場合と同様、3速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0092】
5速段または7速段の場合には、ENG走行モードの場合と同様にして、ロック機構BR、第1および第2シンクロクラッチS1、S2を制御する。これにより、モータ動力は、5速段または7速段の変速比で変速され、駆動輪DWに伝達される。
【0093】
なお、EV走行モード中、第1変速機構11の変速段は、モータ4の高い駆動効率が得られるように、設定される。
【0094】
[アシスト走行モード]
アシスト走行モードは、エンジン3をモータ4でアシストする走行モードである。アシスト走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジン3のトルク(以下「エンジントルク」という)を制御する。また、運転者から駆動輪DWに要求されるトルク(以下「要求トルク」という)TRQに対するエンジントルクの不足分が、モータ4のトルク(以下「モータトルク」という)によって補われる。要求トルクTRQは、検出されたアクセル開度APに応じて算出される。
【0095】
アシスト走行モード中、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11で設定されている変速段の変速比と同じになる。一方、エンジン動力を第2変速機構31によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0096】
また、アシスト走行モード中、例えば、エンジン動力を2速段で変速しているときには、プレシフトにて第1変速機構11の変速段を選択し、モータ動力を、第1変速機構11を介して出力軸21に伝達する。この場合、出力軸21の第1〜第3受動ギヤ18〜20は、奇数段の変速段の歯車および偶数段の変速段の歯車の両方と噛み合った状態にあり、偶数段で変速されたエンジン動力と、奇数段で変速されたモータ動力とを、合成することが可能である。なお、第1クラッチC1は解放状態に制御され、それにより、エンジン動力は、第1変速機構11を介しては駆動輪DWに伝達されない。また、プレシフトする第1変速機構11の変速段は、ハイブリッド車両Vの走行状態に応じて、自由に選択することができる。
【0097】
[充電走行モード]
充電走行モードは、エンジン動力の一部をモータ4で電力に変換し、発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ52に充電する走行モードである。充電走行モードでは、基本的に、エンジン3の良好な燃費が得られるように、エンジントルクを制御する。また、要求トルクTRQに対するエンジントルクの余剰分を用いて、モータ4で発電が行われ、発電した電力がバッテリ52に充電される(回生)。
【0098】
アシスト走行モードの場合と同様、充電走行モード中、エンジン動力を第1変速機構11によって変速しているとき(奇数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の変速段の変速比と同じになる。また、エンジン動力を第2変速機構12によって変速しているとき(偶数段のとき)には、モータ4と駆動輪DWとの変速比は、第1変速機構11の1速段、3速段、5速段または7速段のいずれかの変速比を選択することが可能である。
【0099】
[減速回生モード]
減速回生モードは、ハイブリッド車両Vが減速走行中であると判定されているときに、駆動輪DWの動力を用いてモータ4で発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ52に充電する走行モードである。以下、モータ4で発電した電力をバッテリ52に充電することを適宜、「回生」という。なお、ハイブリッド車両Vが減速走行中であるか否かは、アクセル開度APに基づいて判定される。
【0100】
減速回生モードでは、エンジン3への燃料の供給が停止(フューエルカット)される。また、第1および第2クラッチC1、C2は、EV走行モードの場合と同様にして制御され、それにより、モータ4および駆動輪DWとエンジン3との間が遮断されるので、駆動輪DWの動力がエンジン3に無駄に伝達されることがない。さらに、駆動輪DWの動力は、ファイナルギヤFGや、ギヤ21a、出力軸21、第1変速機構11を介して、変速された状態でモータ4に伝達される。モータ4に伝達された駆動輪DWの動力は、電力に変換され、バッテリ52に充電される(回生)。それに伴い、モータ4から駆動輪DWに、発電した電力に応じた制動力が伝達される。
【0101】
なお、減速回生モード中、モータ4による制動力が十分に得られないときには、エンジンブレーキによる制動力を得るために、第1クラッチC1を締結することも可能である。
【0102】
以下、減速回生モードにおけるモータ4の動作および第1変速機構11の変速段の選択動作の制御について説明する。減速回生モード中、基本的には、モータ4の発電電力は、検出されたブレーキ踏力BPに応じて制御される。これにより、モータ4から駆動輪DWに作用する制動力が、ブレーキ踏力BPに見合った大きさに制御される。
【0103】
また、図3は、減速回生モード中において第1変速機構11の変速段を選択するための処理を示しており、本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、第1充電量CH1を算出する。この第1充電量CH1は、第1変速機構11の変速段を現在の変速段に保持した状態でモータ4による回生を現時点からハイブリッド車両Vが停止するまで行ったと仮定した場合にバッテリ52に充電される充電量の予測値である。
【0104】
第1充電量CH1は、次のようにして算出される。すなわち、まず、検出された車速VP、駆動輪トルクTDWおよび現在の変速段に応じ、図4に示す変換効率マップを検索することによって、電気エネルギ変換効率を算出する。この電気エネルギ変換効率は、ハイブリッド車両Vの走行エネルギをバッテリ52に充電される電気エネルギに変換するときの変換効率(電気エネルギ/走行エネルギ)である。また、変換効率マップは、電気エネルギ変換効率を、車速VPおよび駆動輪トルクTDWに対して変速段ごとに規定したものであり、第1変速機構11のそれぞれの変速段の動力伝達効率、モータ4の発電効率およびバッテリ52の充電効率に応じて、予め設定される。
【0105】
ここで、動力伝達効率は、第1変速機構11から出力されるトルクと第1変速機構11に入力されるトルクとの比であり、発電効率は、モータ4で発電される電気エネルギとモータ4に入力されるトルクとの比、充電効率は、バッテリ52に充電された電気エネルギとバッテリ52に供給された電気エネルギとの比である。また、図4では、ハッチングによって、電気エネルギ変換効率の高低を示している。
【0106】
次に、ブレーキ踏力BPおよび現在の変速段に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、モータ4に伝達されるトルク(以下「モータ伝達トルク」という)を算出するとともに、算出された電気エネルギ変換効率、モータ伝達トルクおよび車両停止時間に応じて、第1充電量CH1を算出する。この車両停止時間は、現時点からハイブリッド車両Vが停止するまでに要する時間の予測値であり、車速VPおよびブレーキ踏力BPに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。なお、以上の第1充電量CH1の算出は、ブレーキ踏力BPが変化しないものと仮定して行われる。
【0107】
上記ステップ1に続くステップ2では、変速所要時間TIMを算出する。この変速所要時間TIMは、現在の変速段から目標変速段に変速段を変更するに際し、当該変更が開始されてから完了するまでに要する時間である。ここで、目標変速段は、車速VPおよび駆動輪トルクTDWに応じ、上述した変換効率マップ(図4)を検索することによって、設定される。具体的には、変換効率マップに基づき、電気エネルギ変換効率を変速段ごとに算出し、算出された複数の電気エネルギ変換効率のうちの最も高い電気エネルギ変換効率に対応する変速段を、目標変速段として設定する。基本的に、モータ4の回転数が高いほど、モータ4の発電効率がより高く、それにより電気エネルギ変換効率もより高いので、目標変速段は、低速側の変速段に設定され、その結果、変速段はダウンシフトされる。
【0108】
また、上記の変速所要時間TIMは、現在の変速段および目標変速段に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。なお、現在の変速段が目標変速段である場合には、後述するステップ5が実行され、それにより、変速段が現在の変速段に保持される。
【0109】
次いで、第2充電量CH2を算出する(ステップ3)。この第2充電量CH2は、ハイブリッド車両Vが停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともにハイブリッド車両Vが停止するまで回生を行ったと仮定した場合にバッテリ52に充電される充電量の予測値である。第2充電量CH2の算出は、次のようにして行われる。
【0110】
すなわち、まず、車速VP、駆動輪トルクTDWおよび目標変速段に応じ、発電効率マップ(図4)を検索することによって、電気エネルギ変換効率を算出する。次に、ブレーキ踏力BPおよび目標変速段に応じたマップ検索によってモータ伝達トルクを算出するとともに、算出された電気エネルギ変換効率、モータ伝達トルクおよび変速完了後停止時間に応じて、第2充電量CH2を算出する。この変速完了後停止時間は、ステップ2の説明で述べた車両停止時間から、ステップ2で算出された変速所要時間TIMを減算することによって算出される。
【0111】
以上により、第2充電量CH2は、現時点から変速所要時間TIMが経過してからハイブリッド車両Vが停止するまでの間、変速段を目標変速段に変更した状態で回生を行ったときにバッテリ52に充電される充電量に算出される。なお、以上の第2充電量CH2の算出は、ブレーキ踏力BPが変化しないものと仮定して行われる。
【0112】
ステップ3に続くステップ4では、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかを判定する。具体的には、前記ステップ1で算出された第1充電量CH1がステップ3で算出された第2充電量CH2よりも大きいか否かを判別する。この答がYES(CH1>CH2)で、変速段を保持したと仮定した場合の充電量である第1充電量が、変速段を目標変速段に変更したと仮定した場合の充電量である第2充電量CH2よりも大きいときには、変速段を現在の変速段に保持すべきと判定する。そして、この判定結果を受けて、第1変速機構11の変速段を現在の変速段に保持し(ステップ5)、本処理を終了する。
【0113】
一方、上記ステップ4の答がNOで、第1充電量CH1が第2充電量CH2以下のときには、変速段を目標変速段に変更すべきと判定する。そして、この判定結果を受けて、変速段を目標変速段に変更し(ステップ6)、本処理を終了する。
【0114】
また、目標変速段への変速段の変更中、当該変更が開始されてから完了するまでの間、すなわち、前述した第1および第2シンクロクラッチS1、S2が解放されてから係合するまでの間は、第1変速機構11において、駆動輪DWとモータ4の間での動力の伝達が遮断され、その結果、モータ4による回生を行うことができず、当該回生に伴ってモータ4で発生する制動力が駆動輪DWに伝達されなくなる。
【0115】
このため、ECU2は、ブレーキBが作動可能か否かを判定するとともに、ブレーキBが作動可能と判定したときに、ステップ6による目標変速段への変速段の変更を開始する。さらに、当該変速段の変更中、ハイブリッド車両Vを減速させるために、ブレーキ踏力BPに基づいて、ブレーキBの動作を制御する。
【0116】
なお、上記のようにブレーキBの状態に応じて目標変速段への変速段の変更を開始する場合、現時点からブレーキBが作動可能となるまでに要する時間分、変速段の変更の開始タイミングが遅れるので、変速所要時間TIMは、より長い時間に補正される。
【0117】
さらに、ECU2は、ハイブリッド車両Vの減速走行中、算出された充電状態SOCが上限値以上であるという第1条件、および、検出されたバッテリ温度TBが所定温度以上であるという第2条件の一方が成立している否かを判定する。そして、成立していると判定されているときには、減速回生モードでのモータ4による回生を禁止する。当該回生の禁止中、ハイブリッド車両Vを減速するために、ブレーキ踏力BPに基づいて、ブレーキBの動作を制御する。
【0118】
また、ECU2は、前述したカーナビゲーションシステム68に記憶された、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報に基づいて、ハイブリッド車両Vの走行状況を予測する。そして、予測されたハイブリッド車両Vの走行状況に応じて、ハイブリッド車両Vの走行モードが選択される。これにより、例えば、ハイブリッド車両Vが下り坂を走行すると予測されているときには、下り坂の走行中に減速回生モードによりバッテリ52の充電量が増大することが予想されるので、ENG走行モードが選択され、上り坂を走行すると予測されているときには、上り坂の走行中にアシスト走行モードが選択されると予想されるので、前もってバッテリ52を充電するために、充電走行モードが選択される。
【0119】
また、図5および図6は、減速回生モードにおける制御装置1の動作例を示している。より具体的には、図5は、第1変速機構11の変速段を3速段から1速段に変更した場合について、図6は、3速段に保持した場合について、それぞれ示している。
【0120】
図5および図6において、NMotは、モータ4の回転数(以下「モータ回転数」という)であり、MotTrqは、モータトルク(モータ4のトルク)、DwTrqは、モータ4から駆動輪DWに作用する制動トルク(以下「駆動輪制動トルク」という)である。モータトルクMotTrqは、モータ4において回生による制動力が発生しているときには負値(−)で示されており、電力の供給により動力を出力しているときには正値(+)で示されている。また、「変速段」は、第1変速機構11の変速段であり、3rdは3速段、Nはニュートラル(ロック機構BR:OFF状態、3速ギヤ14、5速ギヤ15および7速ギヤ16:係合解除)、1stは1速段である。なお、図5および図6はいずれも、所定時間が経過するまでの間、モータ4による回生を行った場合の動作例について示しており、この所定時間は、現時点から車速VPが所定速度に低下するまでの時間として設定される。
【0121】
図5に示すように、減速回生モード中、駆動輪DWからモータ4に伝達される動力を用いて、モータ4による回生が行われる。これに伴い、モータ4において回生による制動力が発生し、モータトルクMotTrqが負値になるとともに、モータ4から駆動輪DWに駆動輪制動トルクDWTrqが作用する。それにより、車速VPが低下し、それに伴って、モータ回転数NMotが低下する。
【0122】
そして、変速段を3速段から1速段に変更すべきと判定されると(ステップ4、6、時点t1)、当該変更による変速ショックを抑制するために、負値であるモータトルクMotTrqは、値0になるように制御される。それにより、駆動輪制動トルクDWTrqも値0になるように変化し、車速VPは、変速段を3速段に保持した場合(図5に破線で図示)よりも小さな傾きで低下する。
【0123】
そして、モータトルクMotTrqが値0になると(時点t2)、変速段を1速段に変更するために、変速段がニュートラルに制御される。この場合、第1シンクロクラッチS1の応答遅れにより、変速段がすぐにはニュートラルにならない。その後、変速段がニュートラルになると(時点t3)、モータ回転数NMotを、そのときの車速VPと1速段の変速比で定まる変速用回転数に合わせる(以下「変速用回転数合わせ」という)ために、バッテリ52からモータ4に電力が供給される。それにより、モータトルクMotTrqが正値になり、モータ回転数NMotが上昇する。さらに、変速段がニュートラルのときには、駆動輪DWとモータ4の間が第1変速機構11によって遮断されるので、駆動輪DWとモータ4との間でトルクの伝達が行われず、その結果、駆動輪制動トルクDWTrqおよび車速VPは、ほぼ一定の状態で推移する。
【0124】
そして、モータ回転数NMotが上記の変速用回転数に達し、変速用回転数合わせが完了すると(時点t4)、モータ4への電力供給が停止され、それによりモータトルクMotTrqが値0になるとともに、モータ4が惰性で回転する。その後、変速段をニュートラルから1速段に変更する際には、ロック機構BRの応答遅れにより、変速段がすぐには1速段にならない。そして、変速段が1速段になると(時点t5)、モータ4による回生が再開され、モータトルクMotTrqが負値になり、その絶対値が増大する。それにより、駆動輪制動トルクDWTrqが増大するとともに、車速VPが低下し、それに伴ってモータ回転数NMotが低下する。この場合、変速段を3速段に保持した図6の場合と比較して、モータ回転数NMotが高い状態で、回生を行うことができる。
【0125】
一方、図6に示すように、変速段を3速段に保持した場合には、モータ4による回生に伴う制動力によって、車速VPはほぼ一定の傾きで低下し、それに伴い、モータ回転数NMotもほぼ一定の傾きで低下する。また、モータトルクMotTrqは、負値になり、車速VPの低下に伴ってモータ4で発電される電力量が減少することにより、モータトルクMotTrqの絶対値が減少する。それにより、駆動輪制動トルクDWTrqも減少する。
【0126】
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態におけるクランク軸3aおよびバッテリ52が、本発明における機関出力軸および蓄電器にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるECU2が、本発明における第1充電量推定手段、変速所要時間推定手段、第2充電量推定手段、変速判定手段、変速段設定手段、ブレーキ制御手段、ブレーキ判定手段、蓄電器状態判定手段、回生禁止手段および予測手段に相当する。さらに、本実施形態における充電状態SOC、バッテリ温度TBおよびブレーキ踏力BPが、本発明における蓄電器の充電状態、蓄電器の温度およびブレーキペダルの操作量にそれぞれ相当する。
【0127】
以上のように、本実施形態によれば、エンジン3のクランク軸3aと第1変速機構11の第1入力軸13が第1クラッチC1によって互いに係合するとともに、クランク軸3aと第2変速機構31の第2入力軸32との係合が第2クラッチC2で解放されているときには、エンジン動力は、第1変速機構11の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪DWに伝達される。また、クランク軸3aと第1入力軸13との係合が第1クラッチC1で解放されるとともに、クランク軸3aと第2入力軸32が第2クラッチC2によって互いに係合しているときには、エンジン動力は、第2変速機構31の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪DWに伝達される。さらに、モータ動力は、第1変速機構11の複数の変速段のいずれか1つで変速された状態で、駆動輪DWに伝達される。
【0128】
また、減速回生モード中、変速段を保持した状態でモータ4による回生をハイブリッド車両Vが停止するまで行ったと仮定した場合にバッテリ52に充電される充電量の予測値である第1充電量CH1が、算出される(ステップ1)とともに、変速所要時間TIMが算出される(ステップ2)。さらに、ハイブリッド車両Vが停止するまでの間において変速段を目標変速段に変更するとともにハイブリッド車両Vが停止するまで回生を行ったと仮定した場合にバッテリ52に充電される充電量の予測値である第2充電量CH2が、算出される(ステップ3)。この場合、第2充電量CH2として、算出された変速所要時間TIMが経過してからハイブリッド車両Vが停止するまでの間、変速段を目標変速段に変更した状態でモータ4による回生を行ったときにバッテリ52に充電される充電量が、算出される。したがって、変速段を変更した場合の充電量である第2充電量CH2を、変速抜け(第1変速機構11における変速段の変更に伴う動力伝達の遮断)に応じて、精度良く予測することができる。
【0129】
そして、算出された第1および第2充電量CH1、CH2に基づき、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかが判定され(ステップ4)、その結果、CH1>CH2のときには、変速段が現在の変速段に保持される(ステップ5)一方、CH1≦CH2のときには、変速段が目標変速段に変更される(ステップ6)。以上により、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、ハイブリッド車両Vの燃費を向上させることができる。
【0130】
また、減速回生モード中で、かつ、目標変速段への変速段の変更中に、ハイブリッド車両Vを減速させるために、ブレーキBの動作を制御するので、ショックを発生させないように、ハイブリッド車両Vを適切に減速することができる。さらに、減速回生モード中、ブレーキBが作動可能か否かが判定されるとともに、ブレーキBが作動可能と判定されたときに、目標変速段への変速段の変更が開始される。したがって、上述した効果、すなわち、ショックを発生させないようにハイブリッド車両Vを適切に減速することができるという効果を、確実に得ることができる。
【0131】
また、ハイブリッド車両Vの減速走行中、充電状態SOCが上限値以上であるという第1条件、およびバッテリ温度TBが所定温度以上であるという第2条件の一方が成立しているか否かが判定されるとともに、第1および第2条件の一方が成立していると判定されているときに、モータ4による回生が禁止される。したがって、バッテリ52の過熱を防止することができる。さらに、当該回生の禁止中に、ハイブリッド車両Vを減速するために、ブレーキBの動作を制御するので、ショックを発生させないように、ハイブリッド車両Vを適切に減速することができる。
【0132】
また、ハイブリッド車両Vの走行状況が、ハイブリッド車両Vが走行している周辺の道路情報を表すデータに基づいて予測されるとともに、予測されたハイブリッド車両Vの走行状況に応じて、ハイブリッド車両Vの走行モードが選択される。これにより、ハイブリッド車両Vの走行状況に適した走行モードを選択することができる。例えば、ハイブリッド車両Vが下り坂を走行すると予測されているときには、下り坂の走行中に減速回生モードによりバッテリ52の充電量が増大することが予想されるので、ENG走行モードを選択したり、上り坂を走行すると予測されているときには、上り坂の走行中にアシスト走行モードが選択されると予想されるので、前もってバッテリ52を充電するために、充電走行モードを選択したりすることができる。
【0133】
また、図7は、減速回生モード中に第1変速機構の変速段を設定する処理の他の例を示している。本処理では、図3に示す処理と比較して、変速段を保持すべきかまたは目標変速段に変更すべきかの判定を、損失回生電気エネルギLREに基づいて行う点が主に異なっている。この損失回生電気エネルギLREは、減速回生モード中に、変速段を前述した目標変速段に変更するとともにモータ4による回生を行ったと仮定した場合に、当該変速段の変更に伴う第1変速機構11における動力の伝達の遮断により回生不能な電気エネルギである。この場合、本実施形態におけるECU2が、本発明における損失回生電気エネルギ予測手段および変速段変更禁止手段に相当する。
【0134】
まず、図7のステップ11では、ブレーキ踏力BPおよび車速VPに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、損失回生電気エネルギLREを算出する。次いで、算出された損失回生電気エネルギLREが所定値LREREFよりも大きいか否かを判別する(ステップ12)。この答がYESで、損失回生電気エネルギLRE>所定値LREREFのときには、目標変速段への変速段の変更を禁止し、変速段を現在の変速段に保持する(ステップ13)とともに、本処理を終了する。
【0135】
一方、上記ステップ13の答がNOで、損失回生電気エネルギLRE≦所定値LREREFのときには、変速段を目標変速段に変更し(ステップ14)、本処理を終了する。
【0136】
以上のように、本処理によれば、減速回生モード中、第1変速機構11の変速段を変更するとともにモータ4による回生を行ったと仮定した場合に、当該変速段の変更に伴う第1変速機構11における動力の伝達の遮断により回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギLREが予測される。また、減速回生モード中、予測された損失回生電気エネルギLREが所定値LREREFよりも大きいときには、目標変速段への変速段の変更が禁止される。これにより、変速抜けにより回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギLREが比較的大きいときに、目標変速段への変速段の変更を禁止し、変速段を保持した状態で回生を行うことができるので、より大きな充電量を得ることができ、ひいては、ハイブリッド車両Vの燃費を向上させることができる。
【0137】
また、減速回生モード中、ブレーキ踏力BPに応じたモータ4での発電電力の制御によって、回生に伴ってモータ4で発生する制動力が制御される。さらに、損失回生電気エネルギLREを予測するためのパラメータとして、ブレーキ踏力BPおよび車速VPを用いるので、この予測を適切に行うことができる。
【0138】
また、本発明は、図8に示すハイブリッド車両V’にも適用可能である。同図において、図1に示すハイブリッド車両Vと同じ構成要素については、同じ符号を付している。図8に示すハイブリッド車両V’は、ハイブリッド車両Vと比較して、前述した第1および第2変速機構11、31に代えて、変速機構71を備える点が主に異なっている。
【0139】
この変速機構71は、有段式の自動変速機であり、入力軸72および出力軸73を有している。入力軸72は、クラッチCを介してクランク軸3aに連結されており、入力軸72には、モータ4のロータ4bが一体に取り付けられている。クラッチCは、第1および第2クラッチC1、C2と同様の乾式多板クラッチである。
【0140】
また、出力軸73には、ギヤ73aが一体に取り付けられており、このギヤ73aは、前述したファイナルギヤFGのギヤに噛み合っている。出力軸73は、これらのギヤ73aやファイナルギヤFGを介して駆動輪DW、DWに連結されている。以上の構成の変速機構71では、入力軸72には、エンジン動力およびモータ動力が入力されるとともに、入力された動力は、複数の変速段(例えば1速段〜7速段)の1つで変速され、駆動輪DW、DWに伝達される。また、変速機構71の動作は、ECU2によって制御される。
【0141】
このハイブリッド車両V’に本発明による制御装置を適用した場合にも、減速回生モードにおける変速段の設定や走行モードの選択などが、上述した制御装置1の場合と同様にして行われるので、その詳細な説明については省略する。これにより、上述した実施形態による効果を同様に得ることができる。
【0142】
なお、変速機構71を、エンジン動力およびモータ動力の両方を変速した状態で駆動輪DWに伝達するように構成しているが、エンジン動力を変速した状態で駆動輪DWに伝達する変速機構と、モータ動力を変速した状態で駆動輪DWに伝達する変速機構を、それぞれ別個に設けてもよい。また、この場合、動力源としてモータ4のみを備えるハイブリッド車両にも適用可能であり、その場合には、モータ動力は、変速機構71により変速された状態で駆動輪DWに伝達される。
【0143】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、目標変速段への変速段の変更を、ブレーキBが作動可能と判定したときに開始しているが、これに代えて、または、これとともに、ブレーキ踏力BPが所定値以上、減少したときに、そのタイミングで、当該変速段の変更を開始してもよい。これにより、運転者による減速要求が減少したタイミングで、目標変速段への変速段の変更を開始することができるので、運転者に大きな違和感を与えることなく、変速段を変更することができる。また、実施形態では、第1および第2充電量CH1、CH2を、ハイブリッド車両Vが停止するまでの間における充電量の予測値として算出しているが、所定の回生時間が経過するまでの間における充電量の予測値として算出してもよい。この場合、回生時間は、現時点から車速VPが所定速度に低下するまでの時間に設定される。
【0144】
さらに、実施形態では、第1および第2充電量CH1、CH2に基づく変速段の設定(保持・変更)を、減速回生モード中に行っているが、充電走行モード中に行ってもよい。この場合、第1充電量として、充電走行中、変速段を保持した状態でモータ4による回生を所定の回生時間、行ったと仮定した場合にバッテリ52に充電される充電量が算出される。また、第2充電量として、充電走行中、回生時間と変速所要時間TIMとの時間差分、変速段を目標変速段に変更した状態でモータ4による回生を行ったときにバッテリ52に充電される充電量が算出される。なお、回生時間は、適当な時間に設定される。
【0145】
また、実施形態では、車速VPおよび駆動輪トルクTDWに応じて目標変速段を設定しているが、前述したように、基本的には、モータ4の発電効率は、その回転数が高いほど、より高く、より大きな充電量を得ることができるので、目標変速段を、現在の変速段よりも低速側の任意の変速段に設定したり、あるいは、最も低速側の1速段に設定してもよい。さらに、実施形態では、ブレーキペダルの操作量として、ブレーキペダルの踏み込み力であるブレーキ踏力BPを検出しているが、ブレーキペダルの操作量そのものを検出してもよい。また、実施形態では、変速所要時間TIMをマップを用いて算出しているが、所定の数式を用いて算出してもよい。
【0146】
さらに、実施形態では、第1および第2充電量CH1、CH2を、第1変速機構11の動力伝達効率、モータ4の発電効率およびバッテリ52の充電効率が反映された変換効率マップ(図4)を用いて算出しているが、例えば、次のようにして算出してもよい。すなわち、この変換効率マップを用いずに、これらの動力伝達効率、発電効率および充電効率をリアルタイムで算出するとともに、算出された動力伝達効率、発電効率および充電効率と、前述したモータ伝達トルクなどに応じて、第1および第2充電量CH1、CH2を算出してもよい。この場合、動力伝達効率は、例えば、車速VPおよび駆動輪トルクTDWに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出され、発電効率は、例えば、車速VPおよび第1変速機構11の変速段などで定まるモータ回転数NMotに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、充電効率は、例えば、バッテリ温度TBに応じ、所定の所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、動力伝達効率、発電効率および充電効率の算出にあたって、マップを用いずに所定の数式を用いてもよい。
【0147】
また、実施形態では、第1および第2変速機構11、31のそれぞれの複数の変速段を、奇数段および偶数段に設定しているが、これとは逆に、偶数段および奇数段に設定してもよい。さらに、実施形態では、第1および第2変速機構11、31として、変速された動力を駆動輪DWに伝達するための出力軸21が共用化されたタイプのものを用いているが、出力軸が別個に設けられたタイプのものを用いてもよい。この場合、第1〜第4シンクロクラッチS1〜S4を、第1入力軸13および第2入力中間軸33ではなく、出力軸に設けてもよい。また、実施形態では、クラッチC、第1および第2クラッチC1、C2は、乾式多板クラッチであるが、湿式多板クラッチや、電磁クラッチでもよい。
【0148】
さらに、実施形態では、本発明における電動機として、ブラシレスDCモータであるモータ4を用いているが、発電可能な他の適当な電動機、例えばACモータを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における蓄電器は、バッテリ52であるが、充電および放電可能な他の適当な蓄電器、例えばキャパシタでもよい。さらに、実施形態では、本発明における内燃機関として、ガソリンエンジンであるエンジン3を用いているが、ディーゼルエンジンや、LPGエンジンを用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0149】
V ハイブリッド車両
V’ ハイブリッド車両
1 制御装置
2 ECU(第1充電量推定手段、変速所要時間推定手段、第2充電量推定手段、変 速判定手段、変速段設定手段、ブレーキ制御手段、ブレーキ判定手段、蓄電器状 態判定手段、回生禁止手段、予測手段、損失回生電気エネルギ予測手段、変速段 変更禁止手段)
3 エンジン
3a クランク軸(機関出力軸)
4 モータ
DW 駆動輪
11 第1変速機構
13 第1入力軸
31 第2変速機構
32 第2入力軸
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
B ブレーキ
52 バッテリ(蓄電器)
68 カーナビゲーションシステム
71 変速機構
CH1 第1充電量
TIM 変速所要時間
CH2 第2充電量
SOC 充電状態(蓄電器の充電状態)
TB バッテリ温度(蓄電器の温度)
BP ブレーキ踏力(ブレーキペダルの操作量、ブレーキペダルの踏力)
VP 車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としての発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、入力された動力を複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な変速機構とを有する車両の制御装置において、
前記変速段を保持した状態で前記電動機により所定の回生時間、回生を行ったときに前記蓄電器に充電される充電量である第1充電量を推定する第1充電量推定手段と、
前記回生時間内に前記変速段を前記目標変速段に変更するとともに前記電動機による回生を前記回生時間が経過するまで行ったときに前記蓄電器に充電される充電量である第2充電量を推定する第2充電量推定手段と、
前記推定された第1および第2充電量に基づいて、前記変速段を保持すべきかまたは前記目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段と、
当該変速判定手段による判定結果に基づいて、前記変速段を設定する変速段設定手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有する車両の制御装置において、
前記変速段を保持した状態で前記電動機により所定の回生時間、回生を行ったときに前記蓄電器に充電される充電量である第1充電量を推定する第1充電量推定手段と、
前記回生時間内に前記変速段を前記目標変速段に変更するとともに前記電動機による回生を前記回生時間が経過するまで行ったときに前記蓄電器に充電される充電量である第2充電量を推定する第2充電量推定手段と、
前記推定された第1および第2充電量に基づいて、前記変速段を保持すべきかまたは前記目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段と、
当該変速判定手段による判定結果に基づいて、前記変速段を設定する変速段設定手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1充電量は、前記車両の減速走行中、前記変速段を保持した状態で前記電動機による回生を前記車両が停止するまで行ったときに前記蓄電器に充電される充電量であり、
前記第2充電量は、前記車両の減速走行中、前記車両が停止するまでの間において前記変速段を前記目標変速段に変更するとともに前記電動機による回生を前記車両が停止するまで行ったときに前記蓄電器に充電される充電量であることを特徴とする、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両の減速走行中で、かつ、前記変速段設定手段による前記目標変速段への前記変速段の変更中に、前記車両を減速させるために、前記車両のブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキが作動可能か否かを判定するブレーキ判定手段をさらに備え、
前記変速段設定手段は、前記ブレーキが作動可能と判定されたときに、前記目標変速段への前記変速段の変更を開始することを特徴とする、請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有する車両の制御装置において、
前記車両の減速走行中、前記変速段を保持した状態で前記電動機により前記車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に前記蓄電器に充電される充電量である第1充電量を推定する第1充電量推定手段と、
前記第1変速機構の変速段の所定の目標変速段への変更が開始されてから完了するまでに要する時間である変速所要時間を推定する変速所要時間推定手段と、
前記車両の減速走行中、前記車両が停止するまでの間において前記変速段を前記目標変速段に変更するとともに前記電動機による回生を前記車両が停止するまで行ったと仮定した場合に前記蓄電器に充電される充電量である第2充電量として、前記算出された変速所要時間が経過してから前記車両が停止するまでの間、前記変速段を前記目標変速段に変更した状態で前記電動機による回生を行ったときに前記蓄電器に充電される充電量を推定する第2充電量推定手段と、
前記推定された第1および第2充電量に基づいて、前記変速段を保持すべきかまたは前記目標変速段に変更すべきかを判定する変速判定手段と、
当該変速判定手段による判定結果に基づいて、前記変速段を設定する変速段設定手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
前記蓄電器の充電状態が上限値以上であるという第1条件、および前記蓄電器の温度が所定温度以上であるという第2条件の一方が成立しているか否かを判定する蓄電器状態判定手段と、
前記第1および第2条件の一方が成立していると判定されているときに、前記電動機による回生を禁止する回生禁止手段と、
前記車両の減速走行中、前記回生禁止手段により前記電動機による回生が禁止されているときに、前記車両を減速するために、前記車両のブレーキの動作を制御するブレーキ制御手段と、をさらに備えることを特徴とする、請求項3または6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記車両には、当該車両が走行している周辺の道路情報を表すデータを記憶するカーナビゲーションシステムが設けられており、
当該カーナビゲーションシステムに記憶されたデータに基づき、前記車両の走行状況を予測する予測手段をさらに備え、
当該予測された車両の走行状況に応じて、前記車両の走行モードが選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記変速段設定手段は、前記車両の減速走行中、前記変速段を前記目標変速段に変更すべきと判定されているときに、前記車両のブレーキペダルの操作量が所定値以上、減少したタイミングで、前記目標変速段への前記変速段の変更を開始することを特徴とする、請求項3または6に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有する車両の制御装置において、
前記車両の減速走行中、前記第1変速機構の変速段を変更するとともに前記電動機による回生を行ったと仮定した場合に、当該変速段の変更に伴う前記第1変速機構における動力の伝達の遮断により回生不能な電気エネルギである損失回生電気エネルギを、前記車両のブレーキペダルの踏力および前記車両の速度に応じて予測する損失回生電気エネルギ予測手段と、
前記車両の減速走行中、前記電動機による回生を行う場合において、前記予測された損失回生電気エネルギが所定値よりも大きいときに、前記変速段の変更を禁止する変速段変更禁止手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
内燃機関と、発電可能な電動機と、当該電動機との間で電力の授受が可能な蓄電器と、前記内燃機関の機関出力軸および前記電動機からの動力を第1入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で駆動輪に伝達可能な第1変速機構と、前記機関出力軸からの動力を第2入力軸で受け取り、複数の変速段のいずれか1つで変速した状態で前記駆動輪に伝達可能な第2変速機構と、前記機関出力軸と前記第1変速機構との間を係合可能な第1クラッチと、前記機関出力軸と前記第2変速機構との間を係合可能な第2クラッチとを有する車両の制御方法において、
前記車両の減速走行中、前記変速段を保持した状態で前記電動機により前記車両が停止するまで回生を行ったと仮定した場合に前記蓄電器に充電される充電量である第1充電量を推定し、
前記第1変速機構の変速段の所定の目標変速段への変更が開始されてから完了するまでに要する時間である変速所要時間を推定し、
前記車両の減速走行中、前記車両が停止するまでの間において前記変速段を前記目標変速段に変更するとともに前記電動機による回生を前記車両が停止するまで行ったと仮定した場合に前記蓄電器に充電される充電量である第2充電量として、前記算出された変速所要時間が経過してから前記車両が停止するまでの間、前記変速段を前記目標変速段に変更した状態で前記電動機による回生を行ったときに前記蓄電器に充電される充電量を推定し、
前記推定された第1および第2充電量に基づいて、前記変速段を保持すべきかまたは前記目標変速段に変更すべきかを判定し、
当該判定結果に基づいて、前記変速段を設定することを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52797(P2013−52797A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193018(P2011−193018)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】