説明

車両の輪荷重検出装置

【課題】精度良く各車輪の輪荷重を検出することができる車両の輪荷重検出装置を提供する。
【解決手段】車輪の上下変位により生じるコイルスプリング12の反力Fsを、変位センサ22で検出したサスペンション変位と、予め格納されたサスペンション変位−スプリング反力特性マップとから算出すると共に、車輪の上下変位により生じるバンパーラバー14の反力Frを、バンパーラバー14と車体10との間に設けられた荷重センサ21で検出する。そして、スプリング反力Fsとバンパーラバー反力Frとを加算することで、車輪の荷重Fを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の各車輪にかかる荷重を検出する輪荷重検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の輪荷重検出装置としては、各車輪に設けられた荷重センサにより輪荷重を直接検出したり、車体左右方向加速度と車体前後方向加速度センサとの検出値に基づいて、計算式により輪荷重を算出したりするというものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3132018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の輪荷重検出装置にあっては、荷重センサにより直接検出する場合、1G荷重(通常の車両では1輪あたり400kg程度)を検出した上で更に、それに加えて荷重変動分を検出するため、特に旋回横Gが比較的小さい領域などでは荷重変動分(数kgから20〜30kg程度)が所謂ノイズレベルになってしまい、精度の良いデータが得られないという未解決の課題がある。
【0004】
また、計算式により算出する場合には、車両諸元から演算して輪荷重を求めるため、演算に時間を要し、輪荷重検出の応答性が悪くなるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、精度良く各車輪の輪荷重を検出することができる車両の輪荷重検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、バンパーラバーと上下遥動を懸架する弾性部材とを有する車輪懸架機構を備える車両の車輪荷重検出に際し、第一反力検出手段で車輪の上下変位により生じる前記弾性部材の反力を検出し、第二反力検出手段で車輪の上下変位により生じる前記バンパーラバーの反力を検出し、前記第一反力検出手段で検出された弾性部材の反力、及び前記第二反力検出手段で検出されたバンパーラバーの反力とを加算することで、輪荷重算出手段で車輪の荷重を算出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車輪の上下変位により生じる弾性部材の反力と、車輪の上下変位により生じるバンパーラバーの反力とを個別に検出し、両者を足し合わせることにより車輪の荷重を求めるため、低横G旋回時であっても高精度で輪荷重を検出することができると共に、演算により輪荷重を算出しないため、高応答で輪荷重を検出することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を、駆動力源としてモータを搭載した電動車両に適用した場合の実施形態を示す概略構成図であり、図中1は駆動力制御コントローラであって、図示しない各車輪2FL〜2RRの各駆動モータ3FL〜3RRを駆動制御するように構成されている。
また、この車両には、運転者のアクセル操作量として、例えばアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ4と、車両の旋回状態量として、例えば車両の横加速度及び前後加速度を検出する加速度センサ5と、各輪2FL〜2RRの輪荷重を検出する輪荷重検出装置6とが設けられており、これらの検出信号は駆動力制御コントローラ1に出力される。
【0008】
そして、駆動力制御コントローラ1では、アクセル操作、車両旋回状態及び各輪の輪荷重に基づいて、駆動モータ3FL〜3RRを駆動制御するための駆動指令信号を生成し、この駆動指令信号を駆動モータ3FL〜3RRへ出力する。
具体的には、車両に要求される駆動力の信号であるアクセル操作量に基づいて、基本駆動力指令値を算出すると共に、車両旋回状態及び各輪の輪荷重に基づいて左右輪の駆動力配分を決定し、この駆動力配分に基づいて各輪の駆動モータ3FL〜3RRを駆動する。これにより、車両の走行状態に応じた安定走行を実現することができる。
【0009】
次に、輪荷重検出装置6の詳細を、図2に示すサスペンション構成図をもとに説明する。本実施形態では、懸架機構としてストラット式サスペンションを適用している。
図2において、符号10は車体であり、ショックアブソーバ11と上下遥動を懸架する弾性部材としてのコイルスプリング12とが同軸に配置され、コイルスプリング12のアッパーシート13の下方には、緩衝部材としてのバンパーラバー14が、ショックアブソーバ11のピストンロッド11aを囲むように配置されている。このような構成により、上下変位入力時には、この入力に対するストローク変位の変化を小さく抑えるようになっている。
【0010】
また、バンパーラバー14と車体10との間には、コイルスプリング12に接触しないように、歪ゲージ等で構成された荷重検出手段としての荷重センサ21が設けられており、この荷重センサ21によって、車輪の上下変位により生じるバンパーラバー14の反力Frが検出される。
さらに、車輪の上下動に追従するサスペンションアームと車体との間隔を検出する変位検出手段としての変位センサ22が設けられている。この変位センサ22の本体22aは車体10に固定され、本体22aの中心軸には、その直角方向にリンク22bが連結されている。そして、このリンク22b端部は、ターンバックル22cの一端に回動自在に連結され、ターンバックル22cの他端はサスペンションアームの一部に回動自在に連結されている。この変位センサ22には、周知のロータリエンコーダが内蔵され、車高の変位をディジタル信号として出力するように構成されている。
【0011】
そして、輪荷重検出装置6は、前記荷重センサ21及び前記変位センサ22の検出信号に基づいて、図3のブロック図に示すように、各輪の輪荷重Fを検出する。
輪荷重検出装置6は、車輪の上下変位(サスペンション変位)に対応したコイルスプリング12のスプリング反力Fsの特性を格納した特性格納部6aを有する。このサスペンション変位−スプリング反力特性は、予め静的に求めたものであり、その測定値は、図2の状態からバンパーラバー14を取り外した状態での車輪位置における値である。
【0012】
このように、バンパーラバー14を取り外した状態での車輪位置における荷重−撓み特性を用いて、コイルスプリング12のサスペンション変位−スプリング反力特性を求めるので、高精度な特性を得ることができる。
本実施形態のように、懸架装置に設けられた弾性部材がコイルスプリングである場合、サスペンション変位−スプリング反力特性は図4に示すように略線形となる。
【0013】
なお、サスペンション変位−スプリング反力特性は略線形であるため、例えば、図4の各点のように、大まかにマップを用意しておき、その途中は補間して求めるようにしてもよい。
そして、スプリング反力算出部6bで、変位センサ22の検出値に基づいて、特性格納部6aに格納されたサスペンション変位−スプリング反力特性マップを参照し、スプリング反力Fsを出力する。
【0014】
また、バンパーラバー反力算出部6cでは、荷重センサ21の検出値に基づいて、バンパーラバー反力Frを出力する。荷重センサ21で検出される値は、ストラット部での値であるため、これをタイヤ位置に換算して最終的なバンパーラバー反力Frを算出する。具体的には、荷重センサ21の検出値に対してレバー比(ストラットタイプの場合、1/0.98)を乗算して、最終的なバンパーラバー反力Frを算出する。
【0015】
最後に、輪荷重算出部6dで、前記スプリング反力算出部6bから出力されるスプリング反力Fsと、前記バンパーラバー反力算出部6cから出力されるバンパーラバー反力Frとを加算することで、輪荷重Fを出力する(F=Fs+Fr)。
図3において、特性格納部6aが特性提供手段に対応し、スプリング反力算出部6bが第一反力検出手段に対応し、バンパーラバー反力算出部6cが第二反力検出手段に対応し、輪荷重算出部6dが輪荷重算出手段に対応している。
【0016】
ところで、従来の輪荷重検出装置のように、サスペンションと車体との間に設けられた荷重センサにより直接輪荷重を検出する場合、1G荷重W0(通常の車両では1輪あたり400kg程度)を検出した上で更に、それに加えて荷重変動分ΔFを検出するため、図6に示すように、特に車線変更時や低横G旋回時などでは荷重変動分ΔF(数kgから20〜30kg程度)が所謂ノイズレベルになってしまい、精度の良いデータが得られないという問題があった。
【0017】
また、車体左右方向加速度と車体前後方向加速度センサとの検出値に基づいて、計算式により算出する場合、乗車人員や積載荷重の変動に伴い重心点の前後位置や高さが変動してしまうため、精度の良いデータが得られないという問題があった。さらに、上記のように計算式により算出する場合、旋回Gが上昇するにつれ車両の向きと進行方向とが一致しなくなると検出精度が劣る。また、車両諸元から演算して求めるため、輪荷重検出に時間を要し、応答性が悪くなるという問題があった。
これに対して、本実施形態では、上述したように、車輪の上下変位により生じるコイルスプリング12の反力と、バンパーラバー14の反力とを個別に検出し、両者を足し合わせることにより輪荷重を求めるため、高精度且つ高応答で輪荷重を検出することができる。
【0018】
次に、本実施形態の動作について、図5をもとに説明する。
図5において、横軸はサスペンション変位、縦軸は輪荷重である。バンパーラバー14は、ショックアブソーバ11やコイルスプリング12が吸収しきれない急激な又は強い衝撃力が加えられた場合、ショックアブソーバ11とピストンロッド11aとの大きな相対変位に起因してショックアブソーバ11と当接し、この当接時に、バンパーラバー14の弾性変形に基づく緩衝作用により、車体10にショックアブソーバ11の衝撃が直接伝達されるのを有効に阻止すべく機能する。
【0019】
そのため、図中Aの領域では、サスペンション変位に伴ってコイルスプリング12の反力Fsが発生するが、バンパーラバー14については、領域Bでバッファークリアランスが存在し、サスペンション変位の大きい領域Cで反力Frが発生することになる。
今、サスペンション変位がバウンド側のb点にあるものとする。この場合には、先ず、図4のスプリング反力算出部6bで、変位センサ22の検出値に基づいて、予め格納されたサスペンション変位−スプリング反力特性を参照し、b点におけるスプリング反力Fsが算出される。次に、バンパーラバー反力算出部6cで、荷重センサ21の検出値に基づいて、バンパーラバー反力Frが算出される。そして、このスプリング反力Fsとバンパーラバー反力Frとを加算した値が、輪荷重Fとして算出される。
【0020】
このように、上記実施形態では、変位センサの検出値から車輪の上下変位により生じるコイルスプリング反力を検出し、荷重センサでは車輪の上下変位により生じるバンパーラバー反力のみを検出し、スプリング反力とバンパーラバー反力とを加算して輪荷重を求めるので、特に旋回中の輪荷重検出の高精度化、高応答性化が可能となる。
また、予め、バンパーラバーを取り外した状態でタイヤ位置における荷重−撓み特性を用いて高精度なサスペンション変位−スプリング反力特性マップを格納しておくので、変位センサで検出されたサスペンション変位から精度良くコイルスプリングの反力を算出することができ、輪荷重をより精度良く求めることができる。
【0021】
さらに、バンパーラバーと車体との間に設けられた荷重センサ値に対してサスペンションレバー比を乗じることでバンパーラバー反力を求めるので、輪荷重をより精度良く検出することができる。
また、上記のように、高精度且つ高応答で輪荷重の検出を行うことができるため、高精度且つ高応答の駆動力制御の実現が可能となる。
【0022】
なお、上記実施形態においては、積載条件の違いに応じて、図4に示すサスペンション変位−スプリング反力特性マップを補正する特性補正手段を追加するようにしてもよい。具体的には、走行直前の車高を検出し、その検出値と所定の基準値(設計標準姿勢での車高)とを比較し、両者が異なる場合に前記マップを補正する。つまり、走行直前の車高検出値が前記基準値と同等である場合には、図4に示すように、マップの基準点を設計標準時の基準点P0のままとする。一方、車高検出値と基準値とが異なる場合には、両者の偏差に基づいてマップの基準点を変更する(例えば、点P1へ変更)。このようにマップを補正することで、積載条件違いでも正確な輪荷重を検出することができる。
【0023】
また、上記実施形態においては、本発明を電動車両に適用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、輪荷重検出が必要な車両であれば、ガソリン車などにも適用することもできる。
さらに、上記実施形態においては、サスペンション装置として、ストラットとコイルスプリングとの組み合わせを適用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、バンパーラバーを有するダブルウィッシュボーンとトーションバーとの組み合わせを適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態のサスペンションの構成図である。
【図3】輪荷重検出装置の詳細を示すブロック図である。
【図4】サスペンション変位−スプリング反力特性である。
【図5】本実施形態の動作を説明する図である。
【図6】従来の輪荷重検出方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
1 駆動力制御コントローラ
2 車輪
3 駆動モータ
4 アクセルペダルセンサ
5 加速度センサ
6 輪荷重検出装置
6a 特性格納部
6b スプリング反力算出部
6c バンパーラバー反力算出部
6d 輪荷重算出部
10 車体
11 ショックアブソーバ
11a ピストンロッド
12 コイルスプリング
13 アッパーシート
14 バンパーラバー
21 荷重センサ
22 変位センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパーラバーと上下遥動を懸架する弾性部材とを有する車輪懸架機構を備える車両の車輪荷重を検出する輪荷重検出装置であって、車輪の上下変位により生じる前記弾性部材の反力を検出する第一反力検出手段と、車輪の上下変位により生じる前記バンパーラバーの反力を検出する第二反力検出手段と、前記第一反力検出手段で検出された弾性部材の反力と前記第二反力検出手段で検出されたバンパーラバーの反力とを加算することで、車輪荷重を算出する輪荷重算出手段とを備えることを特徴とする輪荷重検出装置。
【請求項2】
車輪の上下変位量を検出する変位検出手段と、車輪の上下変位量に対する前記弾性部材の反力の特性を提供する特性提供手段とを有し、前記第一反力検出手段は、前記変位検出手段で検出された上下変位量と前記特性提供手段により提供される反力特性とに基づいて、前記弾性部材の反力を検出することを特徴とする請求項1に記載の輪荷重検出装置。
【請求項3】
前記バンパーラバーと車体との間に前記弾性部材と非接触に配設され、前記バンパーラバーの荷重を検出する荷重検出手段を有し、前記第二反力検出手段は、前記荷重検出手段で検出された検出値に基づいて、前記バンパーラバーの反力を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の輪荷重検出装置。
【請求項4】
前記第二反力検出手段は、前記荷重検出手段で検出された検出値に、サスペンションレバー比を乗じることで、前記バンパーラバーの反力を検出することを特徴とする請求項3に記載の輪荷重検出装置。
【請求項5】
車両走行前の車高と所定の基準値との偏差に基づいて、前記特性提供手段で提供される反力特性を補正する特性補正手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の輪荷重検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−24550(P2007−24550A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203649(P2005−203649)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】