説明

車両制御装置

【課題】自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明による車両制御装置1は、自車両が前方対象物と衝突不可避であるかどうかを判定する衝突不可避判定手段5bと、自車両の車高を調整する車高調整手段5eとを備え、衝突不可避判定手段5bが、自車両が前方対象物と衝突不可避であると判定する場合には、車高調整手段5eが車高を自車両の保護に適した車高(Dの絶対値<δ)とすることを特徴とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前方対象物への衝突不可避であるかどうかを判定し、その判定結果に基ついて自車両の車高を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両が前方の車両や構造物及び障害物等の前方対象物に衝突した場合には、自車両の車体には非常に大きな衝突エネルギーが入力されて、車体が大きく変形し、自車両及び車室内の乗員に与える衝撃が大きくなるおそれがある。このような衝撃が乗員に及ぶことを極力防止するための技術としては、特許文献1に記載されたような技術がある。この特許文献1に記載の技術においては、衝突の際の衝撃を、自車両のフロントバンパー及びフロントサイドメンバから車輪へ伝達し、さらに車輪から自車両の床面の両側に位置して車両前後方向に延在する車両前後方向補強部材であるロッカに伝達させて、ロッカの前後方向の圧縮変形により衝撃吸収を行い、床面やドア、ルーフ等の変形を防止して、自車両及び乗員の保護を行っている。
【特許文献1】特開平7−25357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来技術によっては、衝突の際の衝撃をロッカに伝達するにあたって、車輪の路面からの高さと、ロッカの路面からの高さに差違が生じているかどうかについては配慮がなされておらず、この差違が大きい場合においては、効率的に車輪からロッカに衝撃を伝達して、衝撃吸収を十分に行うことが出来ず、自車両及び乗員の保護が十分に確保されなくなるという問題が生じる。
【0004】
本発明は、上記問題に鑑み、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するため、本発明による車両制御装置は、
自車両が前方対象物と衝突不可避であるかどうかを判定する衝突不可避判定手段と、自車両の車高を調整する車高調整手段とを備え、前記衝突不可避判定手段が、前記自車両が前記前方対象物と衝突不可避であると判定する場合には、前記車高調整手段が前記車高を自車両の保護に適した車高とすることを特徴とする。
【0006】
ここで、前記車両制御装置において、
前記前方対象物が保護対象であるかを判定する前方対象物判定手段を備え、前記前方対象物判定手段が、前記前方対象物が保護対象でないと判定する場合に、前記車高調整手段が前記車高を自車両の保護に適した車高とすることが好ましい。
【0007】
なお、前記前方対象物が保護対象であるとは、例えば、前記前方対象物が、歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物等の比較的重量の小さな物体であって、衝突時に自車両に与えられる衝撃により自車両に損傷が与えられる度合が小さく、衝突された側の前方対象物に損傷が与えられる度合が大きいと考えられる場合である。
【0008】
また、前記前方対象物が保護対象でないとは、例えば、前記前方対象物が、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等の比較的重量の大きな物体であって、衝突時に自車両に与えられる衝撃により自車両に損傷が与えられる度合が大きく、衝突された側の前方対象物に損傷が与えられる度合が小さいと考えられる場合である。
【0009】
このような場合において、前記前方対象物が保護対象でない場合にのみに、前記車高調整手段が前記車高を自車両の保護に適した車高とすることにより、必要な場合のみに衝突時における自車両の保護を行うことができる。
【0010】
なおここで、前記車両制御装置において、
前記自車両の保護に適した車高は、前記自車両の車輪中心の路面からの高さと、前記自車両の車体床面両側に配置された車両前後方向補強部材の断面中心の路面からの高さとの差違を、所定範囲以内とする車高である。ここで、前記断面中心とは前記車両前後方向補強部材の車両前後方向に垂直な断面内における重心である。また、前記所定範囲とは、前記車輪中心の路面からの高さと前記断面中心の路面からの高さとが一致する場合を含み、前記差違が前記所定の範囲にあれば、前記衝突時において前記自車両の前端部後方部分すなわちフロントノーズから車輪へ伝達された衝撃が、さらに前記車輪から前記車両前後方向補強部材に効率的に伝達されて、前記衝撃の入力に起因して前記車両前後方向補強部材が曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止できるものとする。
【0011】
このように前記自車両の車輪中心を前記車両前後方向補強部材の断面中心を位置させることにより、前記衝突時において前記自車両の前端部後方部分から車輪へ伝達された衝撃が、さらに前記車輪から前記車両前後方向補強部材に効率的に伝達されて、前記衝撃の入力に起因して前記車両前後方向補強部材が曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止して、圧縮変形させることができ、これにより、前記車両前後方向補強部材により前記衝撃を効率的に負担させて吸収し、自車両の乗員の安全確保に必要な空間を確保し、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる。
【0012】
なお、前記車両前後方向補強部材とはロッカに相当し、前記前端部とはフロントバンパーに相当し、前記前端部後方部分とはフロントノーズに相当する。ロッカに前記衝撃を負担させることにより、フロアやサイドドア、サイドメンバアウタ、ルーフ、フロントガラス等の他の構成部材に衝撃が伝達されることを防止でき、これらのロッカ以外の構成部材を補強する必要性を廃することができる。
【0013】
これに加えて、前記車両制御装置において、
前記前方対象物判定手段が、前記前方対象物を保護対象であると判定する場合に、前記車高調整手段が前記車高を前記前方対象物の保護に適した車高とすることが好ましい。
【0014】
これによれば、前記前方対象物が保護対象である場合においては、前記車高調整手段が前記車高を前記前方対象物の保護に適した車高とすることにより、前記前方対象物の保護を積極的に行うことができる。
【0015】
ここで、前記車両制御装置において、
前記前方対象物の保護に適した車高は、前記自車両の前端部が最も低くなる車高である。
【0016】
このように、前記車高を前記自車両の前端部すなわちフロントバンパーが最も低くなる車高とすることにより、前記前方対象物が保護対象である場合には、衝突時において前記前方対象物が前記自車両の前端部後方部分すなわちフロントノーズに乗り上げるようにして、前記前方対象物に損傷が与えられることを極力防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる車両制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る車両制御装置の一実施形態を示すブロック図である。図2は、本発明に係る車両制御装置の一実施形態の設置形態を示す模式図である。
【0020】
車両制御装置1は、ミリ波レーダーセンサ2と、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3と、近赤外線投光器4と、車両制御ECU5と、ブザー6と、警告ランプ7と、エアサスペンション8を備えて構成される。車両制御ECU5はCAN(Controller Area Network)等の通信規格によりエアサスペンション8と、エンジンECU9と、ブレーキECU10と、変速機ECU11に接続される。
【0021】
ミリ波レーダーセンサ2は、自車両の前方に位置する前方対象物と自車両との距離を測定するものであり、図2に示すように、自車両のフロントグリル又はフロントバンパーに設けられる。なお、ミリ波レーダーセンサ2は、レーザレーダでも代用可能である。
【0022】
オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3は、例えばCCDカメラあるいはCMOSカメラであり、例えば図2に示すように、車両室内のウインドシールド中央上部に、車両前方に光軸が合致するように配設され、車両の前方の前方対象物、すなわち、歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等を撮像する。
【0023】
近赤外線投光器4は、投光部と受信部と信号処理部を備え、自車両の前方に位置する前方対象物の温度を主に測定するものであり、図2に示すように、自車両のフロントグリル又はフロントバンパーに設けられる
車両制御ECU5(Electronic Control Unit)も例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが以下に述べる所定の処理を行うものであり、検出手段5aと、衝突不可避判定手段5bと、前方対象物判定手段5cと、車両制御手段5dと、車高調整手段5eとを構成するものである。
【0024】
エアサスペンション8は、自車両の車輪毎に、車体と車輪との間に設けられて、車輪と車体との相対変位に基づく衝撃を空気バネの作用により緩衝及び減衰させるものであり、この空気バネは内部圧力の調整により車体と車輪との相対位置を調整する機能を備えており、この空気バネの内部圧力は車両制御ECU5の車高調整手段5eの指令に基づいて制御されて、車体と車輪との相対変位すなわち車高が調整される。
【0025】
エンジンECU9(Electronic Control Unit)は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、車両制御ECU5の車両制御手段5dからの指令に基づき、エンジンのスロットルバルブの開度及び回転数の制御を行うものである。
【0026】
ブレーキECU10(Electronic Control Unit)は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、車両制御ECU5の車両制御手段5dからの指令に基づき、車両の各車輪に設けられたブレーキ装置を制御して車両の制動を行うものである。
【0027】
変速機ECU11(Electronic Control Unit)は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、車両制御ECU5の車両制御手段5dからの指令に基づき、ここでは図示しない変速機の変速比のシフト制御を行うものである。
【0028】
車両制御ECU5の検出手段5aは、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3の撮像した画像から前方対象物の形状と移動速度を検出し、近赤外線投光器4により前方対象物の温度を検出し、ミリ波レーダーセンサ2により前方対象物と自車両との距離を検出し、エンジンECU9又はブレーキECU10から自車両の車速を検出する。
【0029】
車両制御ECU5の衝突不可避判定手段5bは、自車両と前方対象物との距離と、自車両の減速度に基づき、ブレーキ操作により前方対象物の手前で停止して衝突を回避できるかどうかと、ステアリング操作により衝突を回避できるかどうかを判定して、自車両が前方対象物に対して衝突不可避であるかどうかを判定する。
【0030】
車両制御ECU5の車両制御手段5dは、衝突不可避判定手段5bが衝突不可避であると判定した場合には、エンジンECU9によりエンジンのスロットルバルブの開度を小さくして回転数を下げ、ブレーキECU10によりブレーキを動作させ、変速機ECU11によりシフトダウンを行い、自車両の速度を減少させるように車両制御を行う。加えて、車両制御ECU5の車両制御手段5dは運転台に設けられたブザー6を鳴動させて警告ランプ7を点灯させることにより運転者に警報を行う。
【0031】
車両制御ECU5の前方対象物判定手段5cは、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3の撮像した画像から前方対象物の形状と移動速度を取得し、近赤外線投光器4により検出した前方対象物の温度を取得して、これらの前方対象物の形状及び移動速度と温度から、前方対象物が歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等のいずれであるかを特定する。
【0032】
これとともに、前方対象物判定手段5cは、この前方対象物が歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物等の概ね500kg以下の保護対象となるものであるかどうかと、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等の概ね500kg以上の保護対象とならないものであるかどうかを判定する。
【0033】
車両制御ECU5の車高調整手段5eは、前方対象物判定手段5cが、前方対象物が保護対象であると判定する場合には、自車両の車高を前方対象物の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御し、前方対象物判定手段5cが、前方対象物が保護対象とならないものであると判定する場合には、自車両の車高を自車両の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御する。
【0034】
なおここで、自車両の保護に適した車高とは、図3に示すように、自車両の車輪すなわちホイール中心C1の路面からの高さH1と、自車両の車体床面両側に配置されたロッカの断面中心C2の路面からの高さH2との差違Dを、所定範囲以内(Dの絶対値<δ、DはC1がC2に対して高い方を正値とする。)とする車高である。なお、車輪とはタイヤの装着されたホイールを示す。
【0035】
ここで、所定範囲とは、ホイール中心C1の路面からの高さH1とロッカの断面中心C2の路面からの高さH2とが一致する場合を含み、これらの高さの差違が所定の範囲にあれば、自車両と前方対象物との衝突時において自車両のフロントノーズから車輪へ伝達された衝撃が、さらに車輪からロッカに効率的に伝達されて、衝撃の入力に起因してロッカが曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止できるものとする。
【0036】
また、前方対象物の保護に適した車高とは、図4に示すように、自車両の前端部すなわちフロントバンパーFBが最も低くなる車高であって、フロントバンパーFBの路面からの高さが、歩行者の膝の高さよりも低くなることが好ましい。
【0037】
以下、本実施例の車両制御装置1の制御内容をフローチャートを用いて説明する。図5は、本発明による車両制御装置1の車両制御ECU5の制御内容を示すフローチャートである。
【0038】
S1において、車両制御ECU5の検出手段5aが、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3により撮像された画像に基づいて前方対象物の形状と移動速度を検出し、S2において、検出手段5aは、ミリ波レーダーセンサ2により、前方対象物との距離を検出し、近赤外線投光器4により前方対象物の温度を検出する。S3において車両制御ECU5の検出手段5aは、自車両の車速を検出する。
【0039】
S4において、車両制御ECU5の衝突不可避判定手段5bは、S2において取得した自車両と前方対象物との距離と、S3において取得した自車両の車速と、予め定められた自車両の減速度に基づき、ブレーキ操作により前方対象物の手前で停止して衝突を回避できるかどうかと、ステアリング操作により衝突を回避できるかどうかを判定して、自車両が前方対象物に対して衝突不可避であるかどうかを判定し、衝突不可避であると判定した場合にはS5にすすみ、判定されない場合には制御を終了する。
【0040】
S4において、衝突不可避と判定された場合には、車両制御ECU5の車両制御手段5dは、エンジンECU9によりエンジンのスロットルバルブの開度を小さくして回転数を小さくし、ブレーキECU10によりブレーキを動作させ、変速機ECU11によりシフトダウンを行い、自車両の速度を減少させるように車両制御を行い、車両制御ECU5の車両制御手段5dは運転台に設けられたブザー6を鳴動させて警告ランプ7を点灯させることにより運転者に警報を行う。
【0041】
S5において、車両制御ECU5の前方対象物判定手段5cは、前方対象物の形状及び移動速度と温度から、前方対象物が歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等のいずれであるかを特定する。
【0042】
さらにS5において、前方対象物判定手段5cは、この前方対象物が歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物等の概ね500kg以下の保護対象となるものであるかどうかと、先行車両、家屋、ガードレール、立木、電柱等の概ね500kg以上の保護対象とならないものであるかどうかを判定する。前方対象物が保護対象であると判定する場合には、S6にすすみ、前方対象物が保護対象でないと判定する場合には、S7にすすむ。
【0043】
S6においては、前方対象物判定手段5cが、前方対象物が保護対象であると判定する場合であるので、車両制御ECU5の車高調整手段5eは、自車両の車高を前方対象物の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御する。S7においては、前方対象物判定手段5cが、前方対象物が保護対象とならないものであると判定する場合であるので、車両制御ECU5の車高調整手段5eは、自車両の車高を自車両の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御する。
【0044】
以上述べた制御内容により実現される本実施例1の車両制御装置1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、前方対象物が保護対象でない場合にのみに、車両制御ECU5の車高調整手段5eが自車両の車高を自車両の保護に適した車高とすることにより、必要な場合のみに衝突時における自車両の保護を行うことができる。
【0045】
また、自車両のホイール中心C1の路面からの高さH1と、ロッカの断面中心C2の路面からの高さH2を、前述した所定範囲以内に位置させることにより、自車両と前方対象物との衝突時において自車両のフロントノーズから車輪へ伝達された衝撃が、さらに車輪からロッカに効率的に伝達されて、衝撃の入力に起因してロッカが曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止して、ロッカに圧縮変形させることができる。これにより、ロッカにより衝撃を効率的に負担させて吸収し、自車両の乗員の安全確保に必要な空間を確保し、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる。
【0046】
これに加えて、車両前後方向に延在する補強部材であるロッカに、自車両と前方対象物との衝突に起因する衝撃を負担させることにより、フロアやサイドドア、サイドメンバアウタ、ルーフ、フロントガラス等の自車両の他の構成部材に衝撃が伝達されることを防止でき、これらのロッカ以外の構成部材を補強する必要性を廃することができる。
【0047】
さらに、車両制御ECU5の前方対象物判定手段5cが、前方対象物を保護対象であると判定する場合に、車両制御ECU5の車高調整手段5eが車高を前方対象物の保護に適した車高とすることにより、前方対象物が保護対象である場合においては、前方対象物の保護を積極的に行うことができる。
【0048】
加えて、車高を自車両の前端部すなわちフロントバンパーFBがもっと低くなる車高とすることにより、前方対象物が保護対象である場合には、衝突時において歩行者等の前方対象物が自車両の前端部後方部分であるフロントノーズに乗り上げるようにして、衝突時において前方対象物に損傷が与えられることを極力防止することができる。
【0049】
なお、本実施例1においては、自車両の前方の前方対象物を判定するにあたり、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3により撮像された画像に基づく前方対象物の形状及び移動速度と、近赤外線投光器4により測定した前方対象物の温度を用いたが、ミリ波レーダーセンサ2を複数個設けて、前方対象物に向け発射した複数のミリ波の反射波を計数することで前方対象物の大きさと形状から保護対象であるか否かを推定することにより、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3及び近赤外線投光器4を省略することもできる。
【実施例2】
【0050】
上述した実施例1に示した車両制御装置1においては、前方対象物が保護対象であるか否かにより場合分けして、保護対象でない場合に、自車両の車高を自車両の保護に適した車高に調整したが、前方対象物を他のデバイスにより保護して、前方対象物と衝突不可避である場合には、常に、自車両の車高を自車両の保護に適した車高に調整する構成とすることもできる。以下にそれについての実施例2について述べる。
【0051】
図6は、本発明に係る車両制御装置の一実施形態を示すブロック図である。なお、図1に示した車両制御装置1の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明は割愛する。
【0052】
車両制御装置21は、ミリ波レーダーセンサ2と、車両制御ECU5と、ブザー6と、警告ランプ7と、エアサスペンション8と、歩行者保護エアバッグ12を備えて構成される。車両制御ECU5はCAN(Controller Area Network)等の通信規格によりエアサスペンション8と、エンジンECU9と、ブレーキECU10と、変速機ECU11と、歩行者保護エアバッグ12に接続される。
【0053】
車両制御ECU5(Electronic Control Unit)も例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが以下に述べる所定の処理を行うものであり、検出手段5aと、衝突不可避判定手段5bと、車両制御手段5dと、車高調整手段5eとを構成するものである。
【0054】
歩行者保護エアバッグ12は、自車両のフロントグリル近傍に設けられ、車両制御ECU5の衝突不可避判定手段5bが、自車両が前方対象物に対して衝突不可避と判定した場合に、車両制御手段5dの制御に基づいて、内蔵するインフレータが着火されて、エアバッグが展開して、歩行者、自転車、オートバイ、小中型動物等の比較的重量の小さい前方対象物に対して、衝突時に損傷を与えることを防止するものである。
【0055】
車両制御ECU5の検出手段5aは、ミリ波レーダーセンサ2により前方対象物との距離を検出し、エンジンECU9又はブレーキECU10から自車両の車速を検出する。
【0056】
車両制御ECU5の衝突不可避判定手段5bは、自車両と前方対象物との距離と、自車両の減速度に基づき、ブレーキ操作により前方対象物の手前で停止して衝突を回避できるかどうかと、ステアリング操作により衝突を回避できるかどうかを判定して、自車両が前方対象物に対して衝突不可避であるかどうかを判定する。
【0057】
車両制御ECU5の車両制御手段5dは、衝突不可避判定手段5bが衝突不可避であると判定した場合には、エンジンECU9によりエンジンのスロットルバルブの開度を小さくして回転数を小さくし、ブレーキECU10によりブレーキを動作させ、変速機ECU11によりシフトダウンを行い、自車両の速度を減少させるように車両制御を行う。加えて、車両制御ECU5の車両制御手段5dは運転台に設けられたブザー6を鳴動させて警告ランプ7を点灯させることにより運転者に警報を行う。
【0058】
車両制御ECU5の車高調整手段5eは、衝突不可避判定手段5bが、自車両が前方対象物に対して衝突不可避であると判定する場合には、自車両の車高を自車両の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御し、これに加えて、車両制御ECU5の車両制御手段5dは、歩行者保護エアバッグ12を展開するように歩行者保護エアバッグ12を制御する。
【0059】
なおここで、自車両の保護に適した車高とは、実施例1に示したものと同様に、図3に示すように、自車両の車輪すなわちホイール中心C1の路面からの高さH1と、自車両の車体床面両側に配置されたロッカの断面中心C2の路面からの高さH2との差違Dを、所定範囲以内(Dの絶対値<δ、DはC1がC2に対して高い方を正値とする。)とする車高である。
【0060】
またここで、所定範囲とは、これも実施例1に示したものと同様に、ホイール中心C1の路面からの高さH1とロッカの断面中心C2の路面からの高さH2とが一致する場合を含み、これらの高さの差違が所定の範囲にあれば、自車両と前方対象物との衝突時において自車両のフロントノーズから車輪へ伝達された衝撃が、さらに車輪からロッカに効率的に伝達されて、衝撃の入力に起因してロッカが曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止できるものとする。
【0061】
以下、本実施例2の車両制御装置21の制御内容をフローチャートを用いて説明する。図7は、本発明による車両制御装置21の車両制御ECU5の制御内容を示すフローチャートである。
【0062】
S11において、車両制御ECU5の検出手段5aが、ミリ波レーダーセンサ2により、前方対象物との距離を検出する。S12において車両制御ECU5の検出手段5aは、自車両の車速を検出する。
【0063】
S13において、車両制御ECU5の衝突不可避判定手段5bは、S11において取得した自車両と前方対象物との距離と、S12において取得した自車両の車速と、予め定められた自車両の減速度に基づき、ブレーキ操作により前方対象物の手前で停止して衝突を回避できるかどうかと、ステアリング操作により衝突を回避できるかどうかを判定して、自車両が前方対象物に対して衝突不可避であるかどうかを判定し、衝突不可避であると判定した場合にはS14にすすみ、判定されない場合には制御を終了する。
【0064】
S14において、車両制御ECU5の車両制御手段5dは、エンジンECU9によりエンジンのスロットルバルブの開度を小さくして回転数を小さくし、ブレーキECU10によりブレーキを動作させ、変速機ECU11によりシフトダウンを行い、自車両の速度を減少させるように車両制御を行い、車両制御ECU5の車両制御手段5dは運転台に設けられたブザー6を鳴動させて警告ランプ7を点灯させることにより運転者に警報を行う。
【0065】
S14において、車両制御ECU5の車高調整手段5eは、自車両の車高を自車両の保護に適した車高とするようにエアサスペンション8を制御して、S15にすすみ、車両制御ECU5の車両制御手段5dは、歩行者保護エアバッグ12を動作させるよう指令を出力し、この指令に基づいて、歩行者保護エアバッグ12は展開する。
【0066】
以上述べた制御内容により実現される本実施例2の車両制御装置21によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、自車両が前方対象物に対して衝突不可避と判定される場合に、車両制御ECU5の車高調整手段5eが自車両の車高を自車両の保護に適した車高とすることにより、衝突時における自車両及び乗員の保護を行うことができる。
【0067】
また、自車両のホイール中心C1の路面からの高さH1と、ロッカの断面中心C2の路面からの高さH2を所定範囲以内に位置させることにより、自車両と前方対象物との衝突時において自車両のフロントバンパーFBから車輪へ伝達された衝撃が、さらに車輪からロッカに効率的に伝達されて、衝撃の入力に起因してロッカが曲げ変形及び座屈変形を起こすことを防止して、圧縮変形させることができ、これにより、ロッカにより衝撃を効率的に負担させ、自車両の乗員の安全確保に必要な空間を確保し、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる。
【0068】
これに加えて、車両前後方向に延在する補強部材であるロッカに、自車両と前方対象物との衝突に起因する衝撃を負担させることにより、フロアやサイドドア、サイドメンバアウタ、ルーフ、フロントガラス等の自車両の他の構成部材に衝撃が伝達されることを防止でき、これらのロッカ以外の構成部材を補強する必要性を廃することができる。
【0069】
加えて、前方対象物が保護対象であるかどうかの判定を行わずに、衝突不可避であると判定される場合には歩行者保護エアバッグ12を展開することにより、衝突時において保護対象となる歩行者等の重量の小さい前方対象物が自車両のフロントバンパーにより損傷が与えられることを極力防止することができる。
【0070】
さらに、実施例1に示した車両制御装置1において必要であった、オブジェクトレコグニッションカメラセンサ3と近赤外線投光器4を省略し、車両制御ECU5においても、前方対象物判定手段5cを廃することができるので、構成と制御内容を簡略化することができる。
【0071】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0072】
例えば、上述した実施例1及び2においては、車高を調整する具体的手段としてエアサスペンションを用いたが、アクティブサスペンションの油圧シリンダを用いることも可能であるし、電動モータとボールネジ機構を組み合わせた機構を用いることも可能である。また、自車両が衝突する前においては、自車両のフロントノーズが沈み込むすなわちノーズダイブすることを利用して、ショックアブソーバの減衰力を高めて、車高を高くする方向に調整する手段を用いることもできる。
【0073】
また、上述した実施例2においては、衝突時における前方対象物への損傷の付与を防止する手段として、歩行者保護エアバッグ12を用いたが、フロントバンパーFBの路面からの高さを調整可能な手段をフロントノーズに設けて、衝突不可避と判定される場合においては、フロントバンパーFBをフロントノーズに対して下降させて、路面からの高さを低くして、衝突時において前方対象物をフロントノーズに乗り上げるようにして、前方対象物への損傷の付与を防止する構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、自車両及び乗員の保護を十分に確保することができる車両制御装置に関するものであり、車両の乗員の安全性を高めることができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る車両制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両制御装置の一実施形態の設置形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係わる車両制御装置の制御内容を示す模式図である。
【図4】本発明に係わる車両制御装置の制御内容を示す模式図である。
【図5】本発明に係る車両制御装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る車両制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図7】本発明に係る車両制御装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 車両制御装置
2 ミリ波レーダーセンサ
3 オブジェクトレコグニッションカメラセンサ
4 近赤外線投光器
5 車両制御ECU
5a 検出手段
5b 衝突不可避判定手段
5c 前方対象物判定手段
5d 車両制御手段
5e 車高調整手段
6 ブザー
7 警告ランプ
8 エアサスペンション
9 エンジンECU
10 ブレーキECU
11 変速機ECU
12 歩行者保護エアバッグ
21 車両制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が前方対象物と衝突不可避であるかどうかを判定する衝突不可避判定手段と、自車両の車高を調整する車高調整手段とを備え、前記衝突不可避判定手段が、前記自車両が前記前方対象物と衝突不可避であると判定する場合には、前記車高調整手段が前記車高を自車両の保護に適した車高とすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記前方対象物が保護対象であるかを判定する前方対象物判定手段を備え、前記前方対象物判定手段が、前記前方対象物が保護対象でないと判定する場合に、前記車高調整手段が前記車高を自車両の保護に適した車高とすることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記自車両の保護に適した車高は、前記自車両の車輪中心の路面からの高さと、前記自車両の車体床面両側に配置された車両前後方向補強部材の断面中心の路面からの高さとの差違を、所定範囲以内とする車高であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記前方対象物判定手段が、前記前方対象物を保護対象であると判定する場合に、前記車高調整手段が前記車高を前記前方対象物の保護に適した車高とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記前方対象物の保護に適した車高は、前記自車両の前端部が最も低くなる車高であることを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−143435(P2009−143435A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323548(P2007−323548)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】