説明

車両用エンジン始動制御装置

【課題】エンジンと電動機とを備えた車両用駆動装置において、エンジン始動のために必要とされる電動機の最大出力トルクを低減することができる車両用エンジン始動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン始動制御手段180は、エンジン10を始動するために電動機MGでエンジン回転速度Neを引き上げるクランキング制御を行い、そのクランキング制御では、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRSで電動機トルクTmgを脈動させる。そして、その共振周波数fRSは少なくとも電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて予め求められる。従って、前記クランキング制御において、前記電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振により電動機トルクTmgが増幅されてエンジン10に伝達されるので、エンジン始動のために必要とされる電動機MGの最大出力トルクを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを備えた車両用駆動装置においてそのエンジンを始動する制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと電動機とを備えた車両用駆動装置において、そのエンジンを始動するための車両用エンジン始動制御装置がよく知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用エンジン始動制御装置がそれである。その特許文献1に開示された車両用駆動装置では、エンジン、トルクコンバータ、及び電動機の順に直列に配設されている。また、そのトルクコンバータの入力側回転部材であるポンプインペラにはエンジンが連結され、そのトルクコンバータの出力側回転部材であるタービンランナには電動機が連結されており、トルクコンバータはそのポンプインペラとタービンランナとを選択的に直結するロックアップクラッチを備えている。このように構成された車両用駆動装置において、特許文献1の車両用エンジン始動制御装置は、エンジンを始動する際には、前記ロックアップクラッチを係合し前記ポンプインペラとタービンランナとを直結した上で、前記電動機によりエンジン回転速度を引き上げてエンジンに点火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−55186号公報
【特許文献2】特開2006−306207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン始動に際しエンジン回転速度を電動機により引き上げる場合、エンジンの回転抵抗に打ち勝つトルクを電動機に出力させる必要があり、そのエンジンの回転抵抗はエンジンの温度等に応じて大きく変動するものである。例えば、エンジンの回転抵抗は極低温下では極めて大きくなる。そのため、特許文献1の車両用エンジン始動制御装置では、前記電動機は、エンジンの回転抵抗が最大である場合においてその最大のエンジンの回転抵抗に打ち勝つトルクを出力できる能力を備える必要がある。従って、特許文献1の車両用エンジン始動制御装置においては、電動機に最大のエンジンの回転抵抗に打ち勝つ高トルクが要求され、その電動機が大型化しその電動機のコストアップにつながるという課題があった。なお、このような課題は未公知である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと電動機とを備えた車両用駆動装置において、エンジン始動のために必要とされる電動機の最大出力トルクを低減することができる車両用エンジン始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、伝達トルクに応じたねじりを生じるダンパを介してそのエンジンに連結された電動機とを備えた車両用駆動装置において、前記エンジンを始動するために前記電動機でそのエンジンの回転速度を引き上げるクランキング制御を行う車両用エンジン始動制御装置であって、(b)前記クランキング制御では、前記電動機から前記エンジンまでの動力伝達系の共振周波数でその電動機の出力トルクを脈動させ、(c)その共振周波数は、少なくとも前記電動機の回転軸心まわりにおけるその電動機の慣性モーメントと前記ダンパの単位ねじれ量当たりの前記伝達トルクの大きさであるねじり弾性定数とに基づいて予め求められることにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記クランキング制御において、前記電動機からエンジンまでの動力伝達系の共振により電動機の出力トルクが増幅されてエンジンに伝達されるので、エンジン始動のために必要とされる電動機の最大出力トルクを低減することができる。その結果として、上記電動機の小型化やコスト低減を図ることが可能である。
【0008】
ここで、好適には、前記共振周波数は、更に前記エンジンの回転軸心まわりにおけるそのエンジンの慣性モーメントを加味して求められる。このようにすれば、上記エンジンの慣性モーメントが加味されない場合と比較して、上記共振周波数をより正確に求めることが可能である。
【0009】
また、好適には、(a)前記エンジンの温度が予め定められたエンジン温度判定値未満である場合には、前記共振周波数を、そのエンジンを固定端とみなし前記電動機の慣性モーメントと前記ダンパのねじり弾性定数とに基づいて求められたものとし、(b)前記エンジンの温度が前記エンジン温度判定値以上である場合には、前記共振周波数を、前記エンジンの回転軸心まわりにおけるそのエンジンの慣性モーメントと前記電動機の慣性モーメントと前記ダンパのねじり弾性定数とに基づいて求められたものとする。ここで、エンジンの温度が低いほどエンジンの回転抵抗は高くなり、エンジンの回転抵抗が高いほど、エンジンは回り難く上記固定端に一層近いものとなる。従って、上記のようにすれば、エンジンの温度に応じてエンジンを固定端とみなすか否かが選択され、上記共振周波数が正確に求められる。
【0010】
また、好適には、前記エンジンと前記電動機との間にエンジン断続用クラッチが介装されている。このようにすれば、エンジンと電動機とを切り離すことが可能である。例えば、前記電動機からエンジンまでの動力伝達系に過度なトルクがかかった場合にエンジン断続用クラッチがスリップするように設定しておけば、上記電動機からエンジンまでの動力伝達系を構成する回転部材にかかるトルクを制限しその回転部材の保護を図ることが可能である。
【0011】
また、好適には、前記エンジン断続用クラッチの動力伝達可能なトルク容量を、前記エンジンの回転速度をエンジン始動のために引き上げることが可能なエンジン始動可能トルク以上で、且つ、前記電動機から前記エンジンまでの動力伝達系の許容トルク以下に設定する。このようにすれば、前記電動機からエンジンまでの動力伝達系を構成する回転部材を保護するためのトルクリミッタとして前記エンジン断続用クラッチを機能させることが可能となり、その動力伝達系を構成する回転部材を保護しつつ前記クランキング制御でその動力伝達系を共振させることが可能である。
【0012】
また、好適には、前記エンジンの温度に基づいて前記エンジン始動可能トルクを推定する。このようにすれば、エンジンの回転抵抗はエンジンの温度に応じて変化するものであり、エンジンの温度を温度センサ等によって容易に検出することができるので、そのエンジン始動可能トルクの推定が容易である。
【0013】
また、好適には、(a)前記車両用駆動装置は、前記ダンパから駆動輪までの動力伝達経路の一部を構成する変速機を備えており、(b)前記電動機は前記ダンパと前記変速機との間に連結されている。このようにすれば、上記電動機を車両走行用とエンジン始動用との両方に共用することができる。
【0014】
また、好適には、(a)前記変速機はその変速機内の動力伝達を遮断する動力断続装置を含んでおり、(b)その動力断続装置によってその変速機内の動力伝達が遮断されている場合に前記クランキング制御を実行する。このようにすれば、そのクランキング制御において共振によるトルク変動が駆動輪に伝達されないので、エンジン始動時のショックを軽減することが可能である。
【0015】
また、好適には、前記クランキング制御で前記エンジンの回転速度が予め定められたエンジン回転速度判定値以上になった場合には、前記電動機の出力トルクを脈動させる周波数を前記共振周波数よりも低くする。このようにすれば、前記電動機からエンジンまでの動力伝達系の共振による振動が発散することを防止できる。
【0016】
また、好適には、車両走行中に前記電動機の出力トルクは駆動輪に伝達される。このようにすれば、電動機の出力トルクで駆動輪を駆動し走行することが可能である。
【0017】
また、好適には、前記エンジン、前記流体伝動装置、及び前記電動機は、前記駆動輪に連結され且つその駆動輪を回転駆動する駆動車軸の軸方向と前記一軸心とが互いに平行になるように配設されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の構成を説明するための骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置から駆動輪までの動力伝達経路を表した図である。
【図3】図1の車両用駆動装置の要部、すなわち、その車両用駆動装置が備える自動変速機、トルクコンバータ、及び電動機等を表した断面図である。
【図4】図1の車両用駆動装置が備える自動変速機において複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図5】図1の車両用駆動装置が備える電動機連結用回転要素及びその近傍を詳細に説明するための断面図であって、図3のV部を抜き出した断面図である。
【図6】図1の車両用駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図7】図6の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図1の車両用駆動装置において、電動機からエンジンまでの動力伝達系を、エンジンを固定端とみなした1マス−バネ系として模式的に表示した概念図である。
【図9】図1の車両用駆動装置において、電動機からエンジンまでの動力伝達系を、電動機慣性モーメントだけでなくエンジン慣性モーメントをも加味した2マス−バネ系として模式的に表示した概念図である。
【図10】図7のクラッチ係合制御手段がエンジン温度に基づいてエンジン始動可能トルクを推定する際に用いる、エンジン温度とエンジン始動可能トルクとの予め設定された関係を例示した図である。
【図11】図1の車両用駆動装置でエンジン始動の際に実行されるクランキング制御において電動機トルクを脈動させる周波数の変化を説明するためのタイムチャートである。
【図12】図6の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、クランキング制御を実行する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図13】図12のSA6で実行されるサブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明が好適に適用される車両用駆動装置8(以下、「駆動装置8」という)の構成を説明するための骨子図である。図2は、駆動装置8から駆動輪28までの動力伝達経路を表した図である。図3は、駆動装置8の要部、すなわち、自動変速機18、トルクコンバータ14、及び電動機MG等を表した断面図である。なお、自動変速機18及びトルクコンバータ14等は中心線(第1軸心RC1)に対して略対称的に構成されており、図1,図3,図5ではその中心線の下半分が省略されている。図1,図3,図5において第1軸心RC1はエンジン10およびトルクコンバータ14の回転軸心であり、第2軸心RC2は電動機MGの回転軸心である。
【0021】
図1に示すように、駆動装置8は、車体にボルト止め等によって取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース(T/Aケース)12(以下、「ケース12」という)を有し、そのケース12内において、エンジン10側から、エンジン断続用クラッチK0、トルクコンバータ14、油圧ポンプ16、及び自動変速機18を、第1軸心RC1上において順番にすなわち直列に備え、且つ、その第1軸心RC1と平行な第2軸心RC2まわりに回転駆動される電動機MGを備えている。更に、図2に示すように、駆動装置8は、ケース12内において、自動変速機18の出力回転部材である出力歯車88と噛み合うカウンタドリブンギヤ22、ファイナルギヤ対24、及び、そのファイナルギヤ対24を介してカウンタドリブンギヤ22に連結された差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26を備えている。このように構成された駆動装置8は、例えば前輪駆動すなわちFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両6の前方に横置きされ、駆動輪28を駆動するために好適に用いられるものである。駆動装置8において、エンジン10の動力は、エンジン断続用クラッチK0が係合された場合に、エンジン10とエンジン断続用クラッチK0とを連結するエンジン連結軸32から、エンジン断続用クラッチK0、トルクコンバータ14、自動変速機18、カウンタドリブンギヤ22、ファイナルギヤ対24、差動歯車装置26、および1対の駆動車軸30等を順次介して1対の駆動輪28へ伝達される。
【0022】
エンジン10は、駆動装置8に備えられており、クランク軸が第1軸心RC1まわりに回転駆動されるガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。
【0023】
図3において、駆動装置8が有するエンジン連結軸32は、ケース12に対して第1軸心RC1まわりに回転可能で且つ第1軸心RC1方向に移動不能に設けられている。エンジン連結軸32は、その一端でエンジン10のクランク軸(エンジン出力軸)に対し相対回転不能に連結されており、他端には径方向外側に向けて突設したクラッチ連結部34を備えている。そして、そのクラッチ連結部34は、エンジントルクTeの脈動を抑制しつつエンジントルクTeをエンジン断続用クラッチK0に伝達するダンパ36を含んでいる。そのダンパ36は入力部材と出力部材との間に介装されたバネやゴム等であるダンパ弾性部材を備えており、ダンパ36が伝達する伝達トルクTDP(以下「ダンパ伝達トルクTDP」という、単位は例えばNm)に応じたねじりを上記入力部材と上記出力部材との間に生じる緩衝装置である。そのダンパ36のねじれ量(単位は例えばrad)は所定限度まではダンパ伝達トルクTDPが大きいほど大きくなり、そのダンパ36の単位ねじれ量当たりのダンパ伝達トルクTDPの大きさであるねじり弾性定数kDP(単位は例えばNm/rad)は、ダンパ36の構造および前記ダンパ弾性部材の特性から予め定まっている。そのねじり弾性定数kDPは前記ダンパ弾性部材がバネであれば、ねじりばね定数と称しても差し支えない。
【0024】
エンジン断続用クラッチK0は、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置であり、油圧ポンプ16が発生させる油圧を元圧とし駆動装置8が有する油圧制御回路166によって係合解放制御される。そして、その係合解放制御においてはエンジン断続用クラッチK0の動力伝達可能なトルク容量すなわちエンジン断続用クラッチK0の係合力が、上記油圧制御回路166内のリニヤソレノイドバルブ等の調圧により例えば連続的に変化させられる。エンジン断続用クラッチK0は、それの解放状態において第1軸心RC1まわりに相対回転可能な1対のクラッチ回転部材(クラッチハブ及びクラッチドラム)を備えており、そのクラッチ回転部材の一方(クラッチハブ)は前記クラッチ連結部34の径方向外周端部に相対回転不能に連結されている一方で、そのクラッチ回転部材の他方(クラッチドラム)はトルクコンバータ14のトルクコンバータケース14dを介してポンプ翼車14aに相対回転不能に連結されている。このような構成から、エンジン断続用クラッチK0は、係合状態では、エンジン連結軸32を介してポンプ翼車14aをエンジン10と一体的に回転させる。すなわち、エンジン断続用クラッチK0の係合状態では、エンジン10からの駆動力がポンプ翼車14aに入力される。一方で、エンジン断続用クラッチK0は解放状態では、ポンプ翼車14aとエンジン10との間の動力伝達を遮断する。
【0025】
トルクコンバータ14は、エンジン10と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成し、第1軸心RC1まわりに回転するように配設された流体伝動装置であり、ポンプ翼車14aとタービン翼車14bとステータ翼車14cとトルクコンバータケース14dとを備えている。そして、トルクコンバータ14は、ポンプ翼車14aに入力された駆動力を自動変速機18へ流体を介して伝達する。このトルクコンバータ14のポンプ翼車14aはトルクコンバータケース14dの内側に固定されており、トルクコンバータケース14dを介してエンジン断続用クラッチK0に連結されている。すなわち、ポンプ翼車14a及びトルクコンバータケース14dはエンジン断続用クラッチK0とエンジン連結軸32とを順次介してエンジン10に連結されており、ポンプ翼車14a及びトルクコンバータケース14dは、エンジン10からの駆動力が入力され且つ第1軸心RC1まわりに回転可能な入力側回転要素である。タービン翼車14bはトルクコンバータ14の出力側回転要素であり、自動変速機18の入力軸である変速機入力軸86にスプライン嵌合等によって相対回転不能に連結されている。ステータ翼車14cは、ケース12にボルト止めされた油圧ポンプ16のポンプボディー16aに一方向クラッチ40を介して連結されている。すなわち、ステータ翼車14cは、一方向クラッチ40を介して非回転部材に連結されている。トルクコンバータケース14dは、ポンプ翼車14a、タービン翼車14b、ステータ翼車14c、及びエンジン断続用クラッチK0を収容しており、ケース12に対して第1軸心RC1まわりに回転可能で且つ第1軸心RC1方向に移動不能に設けられている。そして、トルクコンバータケース14dは、その内側に固定されたポンプ翼車14aと共に第1軸心RC1まわりに一体回転する。
【0026】
また、トルクコンバータ14は、ロックアップクラッチ42と緩衝装置44とをトルクコンバータケース14d内に収容して備えている。そのロックアップクラッチ42は、ポンプ翼車14aとタービン翼車14bとの間に設けられた直結クラッチであり、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。ロックアップクラッチ42が係合状態とされることにより、厳密に言えば、完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車14a及びタービン翼車14bが第1軸心RC1まわりに一体回転させられる。また、緩衝装置44は、前述したダンパ36と同様の機能を備え、ロックアップクラッチ42とタービン翼車14bとの間に介装されている。
【0027】
電動機MGは、第1軸心RC1とは異なる第2軸心RC2を回転軸心としており、駆動力を出力するモータ機能と共に蓄電装置144に充電する発電機能をも有する所謂モータジェネレータである。電動機MGは、ケース12の内側にボルト止め等により固定された電動機ステータ50と、その電動機ステータ50の内周側に設けられており電動機ステータ50に対して第2軸心RC2まわりに回転可能な電動機出力軸52と、電動機ステータ50の内周側に設けられて電動機出力軸52の外周に固定された電動機ローター54とを、備えている。
【0028】
また、駆動装置8には、第2軸心RC2方向を長手方向とする軸部56aとその軸部56aから径方向外側に円板状に突設し外周に歯車の外周歯を有するギヤ部56bとを含む電動機出力ギヤ56が、電動機MGと直列に設けられている。上記軸部56aは、その両端でケース12に対してボールベアリング58,60を介し、第2軸心RC2まわりに回転可能で且つ第2軸心RC2方向に移動不能に支持されている。そして、電動機出力軸52の一端はスプライン嵌合により上記軸部56aの一端に相対回転不能に連結されると共に、電動機出力軸52の他端はボールベアリング62を介しケース12に対して第2軸心RC2まわりに回転可能に支持されている。このような構成から、電動機出力軸52、電動機ローター54、及び電動機出力ギヤ56は、ケース12に対して第2軸心RC2方向に移動不能であり、且つ、その第2軸心RC2まわりに一体的に回転する。
【0029】
また、駆動装置8は、第1軸心RC1上において、電動機出力ギヤ56とトルクコンバータケース14dとの間を動力伝達可能に連結する電動機連結用回転要素66を備えている。電動機連結用回転要素66は、電動機出力ギヤ56と相互に噛み合い電動機MGからの駆動力をポンプ翼車14aに伝達するための外周歯122を外周に有する電動機連結ギヤ68と、その電動機連結ギヤ68とトルクコンバータケース14dとの間に介装されたフランジ状の連結部材70とを有する。その電動機連結ギヤ68は、ケース12に対してボールベアリング72を介し、第1軸心RC1まわりに回転可能で且つ第1軸心RC1方向に移動不能に支持されている。ボールベアリング72は内輪と外輪とが第1軸心RC1方向に相対移動不能な複列のアンギュラコンタクト軸受である。そして、連結部材70は、その内周端においてトルクコンバータケース14dとスプライン嵌合等により相対回転不能に連結されると共に、外周端において電動機連結ギヤ68とスプライン嵌合等により相対回転不能に連結されている。すなわち、電動機連結用回転要素66は、トルクコンバータケース14d及びそれに固定されたポンプ翼車14aに対し第1軸心RC1まわりに相対回転不能に連結されている。このようにして、電動機MGは、電動機出力ギヤ56と電動機連結用回転要素66とを介して作動的にポンプ翼車14aに連結されており、電動機MGからの駆動力は、電動機出力ギヤ56、電動機連結用回転要素66、及びトルクコンバータケース14dを順次介してポンプ翼車14aに伝達される。そして、図3から判るように、電動機出力ギヤ56のピッチ円直径は電動機連結ギヤ68のピッチ円直径よりも小さい。すなわち、電動機出力ギヤ56の歯数は電動機連結ギヤ68の歯数よりも少ないので、電動機MGの回転は減速されてポンプ翼車14aに伝達される。言い換えれば、電動機MGの出力トルクTmg(以下、「電動機トルクTmg」という)は増幅されて電動機MGからポンプ翼車14aに伝達される。なお、電動機連結ギヤ68および連結部材70の詳細な形状等については図5を用いて後述する。
【0030】
本発明の変速機に対応する自動変速機18は、ダンパ36から駆動輪28(図2参照)までの動力伝達経路の一部を構成し、エンジン10および電動機MGからの駆動力が入力される変速機である。そして、自動変速機18は、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)具体的には5つの油圧式摩擦係合装置を備え、その複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる変速機である。端的に言えば、一般的な車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。図1に示すようにその自動変速機18は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置76を主体として構成されている第1変速部78と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置80およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置82を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部84とを同軸線上(第1軸心RC1上)に有し、変速機入力軸86の回転を変速して出力歯車88から出力する。その変速機入力軸86は自動変速機18の入力部材に相当するものであり、本実施例ではトルクコンバータ14のタービン翼車14bによって回転駆動されるタービン軸である。また、上記出力歯車88は自動変速機18の出力部材に相当するものであり、カウンタドリブンギヤ22(図2参照)と相互に噛み合いそのカウンタドリブンギヤ22と共に1対のギヤ対を構成している。また、図2に示すように、出力歯車88の回転は、カウンタドリブンギヤ22、ファイナルギヤ対24、差動歯車装置26、及び一対の駆動車軸30を順次介して一対の駆動輪(前輪)28へ伝達されるので、出力歯車88の回転速度である自動変速機18の出力回転速度Nout(rpm)が高いほど車速V(km/h)も高くなり、出力回転速度Noutは車速Vと一対一で対応する。
【0031】
上記第1変速部78を構成している第1遊星歯車装置76は、第1サンギヤS1と、第1ピニオンギヤP1と、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1と、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1とを備え、第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、および第1リングギヤR1によって各々3つの回転要素が構成されている。第1遊星歯車装置76では、第1サンギヤS1が変速機入力軸86に連結されて回転駆動されるとともに、第1リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース12に固定されることにより、中間出力部材としての第1キャリアCA1が変速機入力軸86に対して減速回転させられる。
【0032】
前記第2変速部84を構成している第2遊星歯車装置80は、第2サンギヤS2と、互いに噛み合い1対を成す第2ピニオンギヤP2および第3ピニオンギヤP3と、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2と、ピニオンギヤP2およびP3を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2とを備えている。また、第2変速部84を構成している第3遊星歯車装置82は、第3サンギヤS3と、第3ピニオンギヤP3と、その第3ピニオンギヤP3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3と、第3ピニオンギヤP3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3とを備えている。そして、第2遊星歯車装置80および第3遊星歯車装置82では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第3遊星歯車装置82の第3サンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置80の第2リングギヤR2および第3遊星歯車装置82の第3リングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置80の第2キャリアCA2および第3遊星歯車装置82の第3キャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置80の第2サンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。上記第2遊星歯車装置80および第3遊星歯車装置82は、第2、第3キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、第2、第3リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第3遊星歯車装置82の第3ピニオンギヤP3が第2遊星歯車装置80の一方のピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0033】
また、上記第1回転要素RM1(第3サンギヤS3)は第1クラッチC1を介して選択的に変速機入力軸86に連結される。第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に変速機入力軸86に連結されると共に、第2ブレーキB2によって選択的にケース12に連結されて回転停止させられる。第4回転要素RM4(第2サンギヤS2)は第1遊星歯車装置76の第1キャリアCA1に一体的に連結されており、第1ブレーキB1によって選択的にケース12に連結されて回転停止させられる。第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は出力歯車88に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。なお、第2回転要素RM2とケース12との間には、第2回転要素RM2の正回転(変速機入力軸86と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する係合要素である一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0034】
上記クラッチC1、C2およびブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単に「クラッチC」、「ブレーキB」という)は、湿式多板型のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合解放制御される油圧式摩擦係合装置(油圧式摩擦係合要素)であり、油圧ポンプ16が発生させる油圧を元圧とし駆動装置8が有する油圧制御回路166によってそれぞれ係合解放制御され、その油圧制御回路166内のリニヤソレノイドバルブ等の調圧によりクラッチCおよびブレーキBのそれぞれのトルク容量すなわち係合力が例えば連続的に変化させられる。そのクラッチCおよびブレーキBのそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図4に示すように前進6段、後進1段の各ギヤ段(各変速段)が成立させられる。図4の「1st」〜「6th」は前進の第1速ギヤ段〜第6速ギヤ段を意味しており、「R」は後進ギヤ段であり、各ギヤ段に対応する自動変速機18の変速比γ(=入力回転速度Nin/出力回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置76、第2遊星歯車装置80、および第3遊星歯車装置82の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。図4の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放を表している。上記入力回転速度Ninは変速機入力軸86の回転速度であり、上記出力回転速度Noutは出力歯車88の回転速度である。
【0035】
図4は、自動変速機18において複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。自動変速機18は、第1変速部78および第2変速部84の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進変速段(前進ギヤ段)が成立させられるとともに、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図4に示すように、たとえば前進ギヤ段では、(1)第1速ギヤ段がクラッチC1及びブレーキB2の係合により成立させられ、(2)その第1速ギヤ段よりも変速比γが小さい第2速ギヤ段が第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により成立させられ、(3)その第2速ギヤ段よりも変速比γが小さい第3速ギヤ段が第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により成立させられ、(4)その第3速ギヤ段よりも変速比γが小さい第4速ギヤ段が第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により成立させられ、(5)その第4速ギヤ段よりも変速比γが小さい第5速ギヤ段が第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により成立させられ、(6)その第5速ギヤ段よりも変速比γが小さい第6速ギヤ段が第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により成立させられるようになっている。また、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3の係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態「N」となるように基本的に構成されている。例えば、駆動装置8のシフトポジションPSHがNポジションまたはPポジションである場合には自動変速機18はニュートラル状態とされるので、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の全てが解放される。本実施例の自動変速機18では、所定のギヤ段を達成させるために2つの油圧式摩擦係合装置が係合させられるようになっており、その2つの油圧式摩擦係合装置の一方が解放されるとその所定のギヤ段が不成立とされ、自動変速機18内の動力伝達経路が解放されてニュートラル状態となる。
【0036】
また、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。また、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、図4に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられる。すなわち、上記第1クラッチC1または第2クラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされており、したがって、本実施例においては、第1クラッチC1または第2クラッチC2がフォワードクラッチ(前進クラッチ)に相当する。また、自動変速機18が有するクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の全部が解放されれば自動変速機18内の動力伝達が遮断されるので、それらクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3は本発明の動力断続装置に対応する。
【0037】
図5は、電動機連結用回転要素66及びその近傍を詳細に説明するための断面図であって、図3のV部を抜き出した断面図である。図5及び図3において、油圧ポンプ16は、トルクコンバータケース14dによって回転駆動される機械式のオイルポンプであり、クラッチやブレーキの油圧制御のための元圧を発生させると共に、潤滑油(作動油)を駆動装置8内のボールベアリング58,60,62,72等の各潤滑部位に供給する。油圧ポンプ16は、ケース12にボルト止めされたポンプ本体である非回転部材としてのポンプボディー16aと、そのポンプボディー16aにボルト止めされた非回転部材としてのポンプカバー16bと、第1軸心RC1まわりに回転するように配設されたポンプロータ16cとを備えている。油圧ポンプ16は、このポンプロータ16cが回転させられることにより油圧を発生する。
【0038】
上記ポンプカバー16bは、その内側にポンプロータ16cを収容してそのポンプロータ16cを覆うカバーとして機能する部材である。ポンプカバー16bは、ポンプボディー16aのトルクコンバータ14側側面であるカバー取付面98からトルクコンバータ14側(エンジン10側)に向けて第1軸心RC1方向に突き出すようにしてポンプボディー16aに取り付けられており、ポンプカバー16bの内側すなわちポンプボディー16a側の壁面99と上記カバー取付面98とでポンプロータ16cを収容するための空間を形成している。ポンプカバー16bは、第1軸心RC1を中心軸とする例えば円形断面のポンプカバー貫通穴100を径方向内側に備えている。ポンプカバー16bがカバー取付面98から第1軸心RC1方向に突き出した突出量は、径方向内側が最も大きく、径方向外側に向かうに従って小さくなっている。
【0039】
上記ポンプロータ16cは、ポンプカバー16bのポンプボディー16a側の壁面99とカバー取付面98とで形成された空間内にポンプボディー16aから第1軸心RC1方向に突き出している。すなわち、ポンプロータ16cは、カバー取付面98から第1軸心RC1方向にトルクコンバータ14側に向けて突き出して配設されているが、そのポンプロータ16cのカバー取付面98からの突出量はポンプカバー16bの突出量と比較して小さくされている。
【0040】
図5に示すように、トルクコンバータ14と油圧ポンプ16との間には、第1軸心RC1上において、変速機入力軸86が挿通された円筒状の非回転連結部材102が配設されている。その非回転連結部材102は、変速機入力軸86に対しては第1軸心RC1まわりに相対回転可能である。また、非回転連結部材102は、一端がトルクコンバータ14のステータ翼車14cに一方向クラッチ40を介して連結されており、その一方向クラッチ40の非回転連結部材102側の要素に対しては第1軸心RC1まわりに相対回転不能とされている。その一方で、非回転連結部材102の他端は、ポンプボディー16aの第1軸心RC1まわりに形成された内径穴104に嵌め入れられており、ケース12に固定されたポンプボディー16aに対して第1軸心RC1まわりに回転不能で且つ第1軸心RC1方向に移動不能に固定されている。このように非回転連結部材102がポンプボディー16aと一方向クラッチ40との間に介装されることにより、ステータ翼車14cは、前述したように一方向クラッチ40を介して非回転部材に連結されることになる。なお、ポンプロータ16cには、非回転連結部材102と干渉しないようにその非回転連結部材102が挿通された貫通穴が設けられている。
【0041】
また、トルクコンバータケース14dは、ポンプロータ16cに連結され且つ前述したように連結部材70に連結されているが、詳細には、それらに連結されるためにトルクコンバータ側連結部106を備えている。そのトルクコンバータ側連結部106は、第1軸心RC1を中心軸とした円筒状であり、トルクコンバータケース14dの油圧ポンプ16側の側壁108の内周端から第1軸心RC1方向にポンプロータ16cに至るまで突き出して設けられている。そのトルクコンバータ側連結部106の内周側には前記非回転連結部材102が挿通されており、トルクコンバータ側連結部106はその非回転連結部材102に対し第1軸心RC1まわりに相対回転可能である。トルクコンバータ側連結部106は、上記側壁108につながる基端部とは反対側すなわち先端部においてポンプロータ16cと共に第1軸心RC1まわりに回転するように連結されている。すなわち、トルクコンバータ側連結部106は、ポンプカバー貫通穴100内にポンプカバー16bと干渉しないように挿通されてポンプロータ16cに連結されている。これにより、トルクコンバータケース14dの回転がポンプロータ16cに伝達される。
【0042】
前述した連結部材70は、電動機連結ギヤ68とトルクコンバータケース14dとの間に介装されそれらを第1軸心RC1まわりに相対回転不能に連結するための部材であるが、詳細には、径方向内側から外側に向けて順に連設された電動機連結用回転要素側連結部110と第1フランジ部112と第2フランジ部114と第3フランジ部116とを備えている。そして、連結部材70は、例えば鋼板をプレス加工で成形したものであり略一定の肉厚を有している。連結部材70は、駆動装置8の軸方向長さを短くするため、油圧ポンプ16具体的にはポンプカバー16bに近接して設けられているが、非回転部材であるポンプカバー16bによって回転が妨げられないように、連結部材70の全体にわたってポンプカバー16bとの間に所定程度以上の間隔を有して配置されている。電動機連結用回転要素側連結部110は、前記入力側回転要素の一部を構成するトルクコンバータケース14dに対する連結部として機能する。電動機連結用回転要素側連結部110は、トルクコンバータ側連結部106と同軸上(第1軸心RC1上)であってそのトルクコンバータ側連結部106の外周側に設けられた円筒状のものであり、トルクコンバータ側連結部106に対してスプライン嵌合により第1軸心RC1まわりに相対回転不能で且つスナップリング118により第1軸心RC1方向に相対移動不能に連結されている。電動機連結用回転要素側連結部110の先端は、ポンプカバー貫通穴100の内側においてポンプロータ16cから第1軸心RC1方向に所定間隔を空けた位置にあり、電動機連結用回転要素側連結部110の基端は、ポンプカバー貫通穴100からトルクコンバータ14側(エンジン10側)に外れた位置にある。すなわち、電動機連結用回転要素側連結部110は、その先端側ではトルクコンバータ側連結部106及びスナップリング118と共にポンプカバー貫通穴100内に挿入されており、その一方で、基端側ではポンプカバー貫通穴100からトルクコンバータ14側に突き出している。表現を変えれば、電動機連結用回転要素側連結部110は、その一部が、ポンプカバー16bに対し、第1軸心RC1と直交する方向に重ねて設けられている。具体的には、図5の軸方向範囲W1において、電動機連結用回転要素側連結部110は、ポンプカバー16bに対し、第1軸心RC1と直交する方向に重ねて設けられている。
【0043】
連結部材70の第1フランジ部112は、ポンプカバー16bのトルクコンバータ14側(エンジン10側)の側面120に対し空隙を有して、電動機連結用回転要素側連結部110の前記基端から径方向外側に突き出された円板状をしている。第2フランジ部114は、第1フランジ部112の外周端から径方向外側に向かうほど第1軸心RC1方向の油圧ポンプ16側に張り出すテーパ状であり、ポンプカバー16bのトルクコンバータ14側の側面120に対し空隙を有してそのトルクコンバータ14側の側面120のテーパ角度に略沿った形状をしている。第3フランジ部116は、ポンプカバー16bのトルクコンバータ14側の側面120に対し空隙を有して、第2フランジ部114の外周端から径方向外側に突き出された円板状をしている。第3フランジ部116は、第2フランジ部114が上記のようなテーパ状であるため、電動機連結用回転要素側連結部110に対しポンプカバー16bの一部を挟んで径方向外側に配設されることになる。
【0044】
前述した電動機連結ギヤ68は、第1軸心RC1を中心軸として、電動機出力ギヤ56と噛み合う前記外周歯122の他に、連結部材70と嵌合する円環状の嵌合部124と、その嵌合部124から第1軸心RC1方向のトルクコンバータ14側(エンジン10側)に延設された支持部126と、嵌合部124及び支持部126よりも径方向外側に設けられた外周歯122と支持部126とを連結する中間フランジ部128とを備えている。嵌合部124は、その内周部で連結部材70の第3フランジ部116の外周端に対しスプライン嵌合しており、それにより、電動機連結ギヤ68は連結部材70に対して第1軸心RC1まわりに相対回転不能に連結されている。そして、スナップリング130が第3フランジ部116の油圧ポンプ16側の側面に当接して、嵌合部124の内周部に設けられたスナップリング溝に嵌め入れられている。
【0045】
電動機連結ギヤ68の支持部126は第1軸心RC1を中心軸とする円筒状をしており、電動機連結用回転要素66(電動機連結ギヤ68、連結部材70)を非回転部材であるケース12に対し第1軸心RC1まわりに回転可能に支持する。また、支持部126はその一部が、ポンプカバー16bに対し、第1軸心RC1と直交する方向すなわち径方向に重ねて設けられている。具体的には、図5の軸方向範囲W2において、支持部126は、ポンプカバー16bに対し、上記径方向に重ねて設けられている。前記ボールベアリング72は、その支持部126の径方向内側であって且つ連結部材70の電動機連結用回転要素側連結部110乃至第2フランジ部114よりも径方向外側に配設されている。そして、支持部126の内周には上記ボールベアリング72の外輪が嵌め入れており、その外輪と支持部126とは第1軸心RC1まわりに一体的に回転する。支持部126は、嵌合部124に対して反対側の端部から径方向内側に向けて、ボールベアリング72の外輪のトルクコンバータ14側(エンジン10側)の端面に沿って突き出した環状のベアリング係止部132を備えている。図5に示すように第1軸心RC1方向において、連結部材70の第3フランジ部116及びボールベアリング72の外輪はベアリング係止部132とスナップリング130との間に挟まれて設けられているので、電動機連結ギヤ68と連結部材70とボールベアリング72とは互いに第1軸心RC1方向に相対移動不能となっている。
【0046】
電動機連結ギヤ68の中間フランジ部128は、支持部126の外周から径方向外側に向けて円板状に突き出されたものであり、中間フランジ部128の外周端には外周歯122が設けられている。このような電動機連結ギヤ68および連結部材70の構成から、電動機連結ギヤ68の外周歯122は、支持部126と連結部材70の電動機連結用回転要素側連結部110とに対し、第1軸心RC1と直交する方向すなわち径方向に重ねて設けられている。具体的には、上記外周歯122は、支持部126に対し図5の軸方向範囲W3において径方向に重ねて設けられ、電動機連結用回転要素側連結部110に対し図5の軸方向範囲W4において径方向に重ねて設けられている。更に言えば、上記外周歯122は、ポンプカバー16bに対し上記径方向に重ねて設けられている。
【0047】
ケース12は、トルクコンバータケース14dの油圧ポンプ16側の側壁108と電動機連結用回転要素66との間に設けられ第1軸心RC1方向を厚み方向とする隔壁134と、その隔壁134から油圧ポンプ16側に向けて第1軸心RC1方向に突き出た円筒状のベアリング支持部136とを備えている。そのベアリング支持部136の外周にはボールベアリング72の内輪が嵌め入れられている。そのボールベアリング72の内輪の内周面とベアリング支持部136の外周面とのそれぞれには相対向するスナップリング溝が設けられており、スナップリング138が双方のスナップリング溝に嵌め入れられている。このスナップリング138の嵌合により、ボールベアリング72はケース12に対して第1軸心RC1方向に移動不能とされている。
【0048】
以上のように構成された駆動装置8では、例えば、エンジン10を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行う場合には、エンジン断続用クラッチK0を係合させ、それによりエンジン10からの駆動力をポンプ翼車14aに伝達させる。また、電動機MGは電動機出力ギヤ56および電動機連結用回転要素66等を介してポンプ翼車14aに連結されているので、上記エンジン走行においては、必要に応じて電動機MGにアシストトルクを出力させる。一方で、エンジン10を停止させ電動機MGを走行用の駆動力源とするEV走行(モータ走行)を行う場合には、エンジン断続用クラッチK0を解放させ、それによりエンジン10とトルクコンバータ14との間の動力伝達経路を遮断すると共に、電動機MGに走行用の駆動力を出力させる。
【0049】
また、走行中の車両6が一時的に停車する等の車両停止中では、例えば、エンジン断続用クラッチK0を解放させてエンジン10を停止させ、電動機MGに油圧ポンプ16を回転駆動させると共にクリープトルクを出力させる。このクリープトルクを出力させる際には、電動機MGからの駆動力はトルクコンバータ14を介して駆動輪28に伝達されることになるので、乗員の違和感を抑制するようにそのクリープトルクを出力させる制御が容易である。
【0050】
また、車両6の制動時には、例えば電動機MGに回生作動をさせて、車両制動力により電動機MGに発電させ、その発電した電力がインバータ142(図1参照)を介して蓄電装置144(図1参照)に充電される。
【0051】
また、エンジン10を始動させる際には、例えば、エンジン断続用クラッチK0を係合させて電動機トルクTmgによりエンジン10を回転させエンジン始動を行う。EV走行中にエンジン10を始動させる場合も同様であり、その場合には、車両走行のための出力にエンジン始動のための出力を上乗せした電動機出力を電動機MGに出力させる。
【0052】
図6は、本実施例の駆動装置8を制御するための制御装置としての機能を有する電子制御装置150に入力される信号及びその電子制御装置150から出力される信号を例示している。この電子制御装置150は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン10、電動機MGに関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するものであり、エンジン10を始動する車両用エンジン始動制御装置としての機能も備えている。
【0053】
電子制御装置150には、図6に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン10を冷却するエンジン冷却水の温度であるエンジン水温TEMPWを表すエンジン水温センサ152からの信号、駆動装置8のシフトポジションPSHを切り替えるために運転者によって操作されるシフトレバー154の操作位置を表すレバー操作位置センサ156からの信号、電動機MGの回転速度Nmg(以下、「電動機回転速度Nmg」という)を表す信号、エンジン10の回転速度であるエンジン回転速度Neを表すエンジン回転速度センサからの信号、出力歯車88の回転速度Noutに対応する車速Vを表す車速センサからの信号、自動変速機18の作動油温TEMPATを表す作動油温センサからの信号、フットブレーキ操作を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル158の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン10の吸入空気量を調節する電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを表す信号、蓄電装置144(図1参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号等が、それぞれ供給される。
【0054】
また、電子制御装置150からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置への制御信号例えばエンジン10の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ160への駆動信号や燃料噴射装置162による吸気管或いはエンジン10の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置164によるエンジン10の点火時期を指令する点火信号、電動機MGの作動を指令する指令信号、エンジン断続用クラッチK0や自動変速機18のクラッチC及びブレーキBの油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路166に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号等が、それぞれ出力される。なお、電子制御装置150は、例えば、アクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ160を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。このスロットル制御ではアクセル開度Accとスロットル弁開度θTHとは一対一の関係で対応する。
【0055】
本実施例では、運転者によるシフトレバー154の操作によって駆動装置8のシフトポジションPSHが、Pポジション、Nポジション、Dポジション、またはRポジションに択一的に切り替えられる。各シフトポジションPSHについて説明すると、Pポジションは、自動変速機18内の動力伝達経路が遮断され、且つ、パーキングロック装置により駆動輪28の回転を機械的に阻止するパーキングロックが実行される駐車ポジションである。また、Nポジション(ニュートラルポジション)は、上記パーキングロックは実行されずに自動変速機18内の動力伝達経路が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジションである。また、Dポジションは、自動変速機18が第1速ギヤ段〜第6速ギヤ段の何れかに切り替えられ車両6を前進させる駆動力が駆動輪28に伝達される前進走行ポジションである。また、Rポジションは、自動変速機18が後進ギヤ段に切り替えられ車両6を後進させる駆動力が駆動輪28に伝達される後進走行ポジションである。
【0056】
本実施例では、駆動装置8のシフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであるときのエンジン始動では、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振、具体的に言えば電動機MG及びエンジン10を含む電動機MGからエンジン10までの動力伝達経路を構成する各回転部材の共振を利用してエンジン10のクランキングが行われる。その制御機能の要部について図7を用いて以下に説明する。
【0057】
図7は、車両用エンジン始動制御装置として機能する電子制御装置150に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7に示すように、電子制御装置150は、動力伝達状態判断部としての動力伝達状態判断手段172と、エンジン始動判断部としてのエンジン始動判断手段174と、エンジン温度判断部としてのエンジン温度判断手段176と、トルク脈動周波数決定部としてのトルク脈動周波数決定手段178と、エンジン始動制御部としてのエンジン始動制御手段180と、クラッチ係合制御部としてのクラッチ係合制御手段182とを備えている。
【0058】
動力伝達状態判断手段172は、自動変速機18のクラッチC及びブレーキBによって自動変速機18内の動力伝達が遮断されているか否かを判断する。例えば、シフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであれば自動変速機18はクラッチC及びブレーキBの全てが解放されたニュートラル状態とされるので、動力伝達状態判断手段172は、シフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであるか否かを判断する。そして、シフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであれば自動変速機18内の動力伝達が遮断されていると判断する。
【0059】
エンジン始動判断手段174は、エンジン10を始動すべき旨の指令であるエンジン始動指令がなされたか否かを判断する。例えば、そのエンジン始動指令は駆動装置8のハイブリッド駆動制御を行う他の制御手段(制御部)であるハイブリッド制御手段によってなされる。そのエンジン始動指令がなされる場合を例示すれば、蓄電装置144の充電残量SOCが所定値を下回って少ない場合すなわち蓄電装置144に充電する必要性が生じた場合や、エンジン水温TEMPWとして検出されるエンジン10の温度TEMPEG(エンジン温度TEMPEG)が所定温度を下回って低温である場合すなわちエンジン10の暖機が必要である場合などである。
【0060】
エンジン温度判断手段176は、エンジン10が極低温であるか否か、すなわち、エンジン温度TEMPEGが予め定められたエンジン温度判定値TEMP1未満であるか否かを判断する。そのエンジン温度判定値TEMP1は、エンジン10の回転抵抗が極めて大きくなるエンジン10の極低温を判断できるように予め実験的求められ、エンジン温度判断手段176に記憶されている。エンジン温度判断手段176は、エンジン水温センサ152により検出されるエンジン水温TEMPWをエンジン温度TEMPEGとしてそのエンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1未満であるか否かを判断するが、エンジン10の潤滑油すなわちエンジンオイルの油温を温度センサ等により検出しそのエンジンオイルの油温をエンジン温度TEMPEGとしても差し支えない。
【0061】
トルク脈動周波数決定手段178は、エンジン始動制御手段180が実行する後述のクランキング制御において脈動(振動)させる電動機トルクTmgの周波数すなわち電動機トルク脈動周波数fTMGを決定する。具体的に、トルク脈動周波数決定手段178は、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系を共振させる共振周波数fRSを電動機トルク脈動周波数fTMGとする。その共振周波数fRSは、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の機械的な構成から定まるものであるので予め算出しておくことが可能である。つまり、上記共振周波数fRSは、少なくとも、第2軸心RC2まわりにおける電動機MGの慣性モーメントIMG(以下、電動機慣性モーメントIMGという)とダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて予め算出されている。更に上記共振周波数fRSは、エンジン10がクランク軸等の回転部材を含むものとして第1軸心RC1まわりにおけるエンジン10の慣性モーメントIEG(以下、エンジン慣性モーメントIEGという)を加味して算出されるのが好ましい。上記電動機慣性モーメントIMGとは詳細に言えば、電動機MGに含まれる回転部材である電動機出力軸52及び電動機ローター54の第2軸心RC2まわりにおける慣性モーメントであり、上記エンジン慣性モーメントIEGとは詳細に言えば、エンジン10に含まれる回転部材であるクランク軸等の第1軸心RC1まわりにおける慣性モーメントである。本実施例では、エンジン10が極低温であればエンジン10の回転抵抗が非常に大きく前記共振周波数fRSはエンジン10を固定端とみなして算出された方が良いので、共振周波数fRSの算出方法がエンジン温度TEMPEGに応じて切り替えられる。
【0062】
具体的には、トルク脈動周波数決定手段178は、エンジン温度判断手段176によってエンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1未満であると判断された場合には、前記共振周波数fRSを、エンジン10を回転しない固定端とみなし電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて算出されたものにする。すなわち、トルク脈動周波数決定手段178は、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系を共振周波数fRSの算出のために、図8の模式的な概念図に示すようなエンジン10を固定端とみなした1マス−バネ系であると仮定する。そして、その1マス−バネ系の固有振動数f(単位は例えばHz)は下記式(1)および下記式(2)によって予め算出されており、トルク脈動周波数決定手段178は、その1マス−バネ系の固有振動数fを上記共振周波数fRSとして採用する。
【0063】
【数1】

【数2】

【0064】
ここで、図8、上記式(1)、及び上記式(2)において、πは円周率であり、ω1(単位は例えばrad)は、1マス−バネ系とみなした電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の固有角振動数である。また、電動機側慣性モーメントIはダンパ36の電動機MG側に連結され電動機MGと共に回転する複数の電動機側回転部材の各々の回転軸心まわりの慣性モーメントの合計である。本実施例では電動機側慣性モーメントIは計算の簡素化のため電動機慣性モーメントIMGと同じとされる(I=IMG)が、トルクコンバータ14や電動機出力ギヤ56や電動機連結用回転要素66も上記電動機側回転部材に相当するので、電動機側慣性モーメントIの正確性を高めるためには、それらの慣性モーメントも足し合わされるのが好ましい。
【0065】
一方で、トルク脈動周波数決定手段178は、エンジン温度判断手段176によってエンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1以上であると判断された場合には、前記共振周波数fRSを、エンジン慣性モーメントIEGと電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて算出されたものにする。すなわち、トルク脈動周波数決定手段178は、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系を共振周波数fRSの算出のために、図9の模式的な概念図に示すような電動機慣性モーメントIMGだけでなくエンジン慣性モーメントIEGをも加味した2マス−バネ系であると仮定する。そして、その2マス−バネ系の固有振動数f(単位は例えばHz)は下記式(3)および下記式(4)によって予め算出されており、トルク脈動周波数決定手段178は、その2マス−バネ系の固有振動数fを上記共振周波数fRSとして採用する。
【0066】
【数3】

【数4】

【0067】
ここで、図9、上記式(3)、及び上記式(4)において前述の図8等と共通の符号はその図8等におけるものと同じ意味であり、ω2(単位は例えばrad)は、2マス−バネ系とみなした電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の固有角振動数である。また、エンジン側慣性モーメントIはダンパ36のエンジン10側に連結されエンジン10と共に回転する複数のエンジン側回転部材の各々の回転軸心まわりの慣性モーメントの合計である。本実施例ではエンジン側慣性モーメントIは計算の簡素化のためエンジン慣性モーメントIEGと同じとされる(I=IEG)が、ダンパ36よりもエンジン10側のエンジン連結軸32も上記エンジン側回転部材に相当するので、エンジン側慣性モーメントIの正確性を高めるためには、それの慣性モーメントも足し合わされるのが好ましい。なお、電動機慣性モーメントIMGは第2軸心RC2を基準としたものである一方でエンジン慣性モーメントIEGは第1軸心RC1を基準としたものであり、共振周波数fRS(固有振動数f,f)を算出するために用いられるそれぞれの慣性モーメントの基準となる回転軸心は相互に異なるが、例えば共振周波数fRSの算出の際には、それぞれの慣性モーメントは第1軸心RC1を基準としたものに換算された上で共振周波数fRSが算出される。
【0068】
エンジン始動制御手段180は、エンジン10を始動するために電動機MGでエンジン回転速度Neを引き上げるクランキング制御を行う。そこで、エンジン始動制御手段180は、動力伝達状態判断手段172によってシフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであると判断され、且つ、前記エンジン始動指令がなされたとエンジン始動判断手段174により判断された場合には上記クランキング制御を実行するのであるが、それに先立って、クラッチ係合制御手段182にエンジン断続用クラッチK0を係合させるクラッチ係合指令を出力する。また、エンジン始動制御手段180は、前記クランキング制御の開始に先立って、ロックアップクラッチ42を解放させる。
【0069】
クラッチ係合制御手段182は、エンジン始動制御手段180から前記クラッチ係合指令を受けた場合、すなわち、動力伝達状態判断手段172によってシフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであると判断され、且つ、前記エンジン始動指令がなされたとエンジン始動判断手段174により判断された場合には、前記クランキング制御の開始に先立って、エンジン断続用クラッチK0を係合させる。そのときのエンジン断続用クラッチK0の係合力は完全係合状態とする一定値であっても差し支えないが、本実施例ではクラッチ係合制御手段182は、エンジン断続用クラッチK0をトルクリミッタ装置として機能させるためエンジン断続用クラッチK0の係合力を調節する。すなわち、クラッチ係合制御手段182は、エンジン断続用クラッチK0のトルク容量を、前記クランキング制御においてエンジン回転速度Neをエンジン始動のために引き上げることが可能なエンジン始動可能トルクTEGST以上で、且つ、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の許容トルクTPM(以下、動力伝達系許容トルクTPMという)以下に設定する。そして、その設定したトルク容量を実現する係合力でエンジン断続用クラッチK0を係合させる。ここで、上記動力伝達系許容トルクTPMとは、電動機MG及びエンジン10を含む電動機MGからエンジン10までの動力伝達経路を構成する各回転部材の耐久性を損なわないように予め実験的にまたは設計上定められた許容トルクであり、換言すれば、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系に伝達させることが可能なトルクの予め設定された上限値である。また、エンジン始動可能トルクTEGSTはどのように推定されても差し支えないが、エンジン始動可能トルクTEGSTはエンジン温度TEMPEGに応じて変化するエンジン10の回転抵抗に影響されるので、クラッチ係合制御手段182は、エンジン温度TEMPEGに基づいてエンジン始動可能トルクTEGSTを推定する。例えば、エンジン始動可能トルクTEGSTはエンジン温度TEMPEGが低いほどエンジン10の回転抵抗と共に大きくなるので、図10の実線L01に示すようなエンジン温度TEMPEG(エンジン水温TEMPW)が低いほどエンジン始動可能トルクTEGSTが大きくなる予め実験的に求められ設定された関係から、エンジン温度TEMPEGに基づいてエンジン始動可能トルクTEGSTを推定する。
【0070】
エンジン始動制御手段180は、ロックアップクラッチ42が解放され且つエンジン断続用クラッチK0が係合された後に前記クランキング制御を実行する。エンジン始動制御手段180は、そのクランキング制御では、トルク脈動周波数決定手段178が決定した電動機トルク脈動周波数fTMGすなわち電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRSで、電動機トルクTmgを脈動させる。そして、エンジン始動制御手段180は、エンジン回転速度Neがエンジン点火を開始する予め実験的に定められたエンジン点火回転速度Nest以上になった場合には、燃料噴射装置162に燃料噴射を開始させエンジン点火を行う。それと共に、エンジン始動制御手段180は、上記クランキング制御においてエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン回転速度判定値Ne1以上になったか否かを判断しており、エンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1以上になった場合には、電動機トルクTmgを脈動させる周波数を上記電動機トルク脈動周波数fTMGすなわち上記共振周波数fRSよりも低くし徐々に零に近付ける。エンジン回転速度判定値Ne1は、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振がエンジン始動後に早期に低減されるように実験的に定められる判定値であり、エンジン点火回転速度Nestより大きくても小さくても差し支えないが、本実施例ではエンジン点火回転速度Nestと同じに設定されている。
【0071】
図11は、前記クランキング制御において電動機トルクTmgを脈動させる周波数の変化を説明するためのタイムチャートである。図11の電動機トルクTmgのタイムチャートでは、電動機トルクTmgの脈動を判り易く表示するため敢えて模式的に示している。図11のt1時点は上記クランキング制御の開始時を示しており、エンジン回転速度Neはt1時点から上昇し始めている。また、t2時点はそのエンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1に到達した時点を示している。図11において、エンジン始動制御手段180は、t1〜t2時点の間では、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRS(電動機トルク脈動周波数fTMG)で電動機トルクTmgを脈動させ、t2時点以降では、電動機トルクTmgを脈動させる周波数を上記共振周波数fRSから零に向けて小さくしていく。t1〜t2時点の間での電動機トルクTmgの振幅とt2時点以降での電動機トルクTmgの振幅とは互いに同じであっても差し支えないが、本実施例では、エンジン始動制御手段180は、電動機トルクTmgを脈動させる周波数を小さくするほど電動機トルクTmgの振幅を小さくする。
【0072】
図12は、電子制御装置150の制御作動の要部、すなわち、前記クランキング制御を実行する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図13は、図12のステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA6で実行されるサブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【0073】
先ず、動力伝達状態判断手段172に対応するSA1においては、シフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションであるか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、シフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションである場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0074】
エンジン始動判断手段174に対応するSA2においては、前記エンジン始動指令がなされたか否かが判断される。例えば、蓄電装置144に充電する必要性が生じた場合や、エンジン10の暖機が必要である場合などに、前記エンジン始動指令がなされる。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、前記エンジン始動指令がなされた場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0075】
エンジン温度判断手段176に対応するSA3においては、エンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1未満であるか否かが判断される。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、エンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1未満である場合には、SA4に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、SA5に移る。
【0076】
トルク脈動周波数決定手段178に対応するSA4においては、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系が、図8のようなエンジン10を固定端とみなした1マス−バネ系であると仮定される。そして、その1マス−バネ系であると仮定された動力伝達系を共振させる共振周波数fRS、すなわち前記式(1)及び前記式(2)によって算出される1マス−バネ系の固有振動数fが電動機トルク脈動周波数fTMGとされる。SA4の次はSA6に移る。
【0077】
トルク脈動周波数決定手段178に対応するSA5においては、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系が、図9のような電動機慣性モーメントIMGだけでなくエンジン慣性モーメントIEGをも加味した2マス−バネ系であると仮定される。そして、その2マス−バネ系であると仮定された動力伝達系を共振させる共振周波数fRS、すなわち前記式(3)及び前記式(4)によって算出される2マス−バネ系の固有振動数fが電動機トルク脈動周波数fTMGとされる。SA5の次はSA6に移る。
【0078】
クラッチ係合制御手段182に対応するSA6においては、エンジン断続用クラッチK0の係合力が決定される。すなわち、図13のフローチャートが実行される。SA6の次はSA7に移る。
【0079】
図13のSB1においては、エンジン始動可能トルクTEGSTが、図10に示す予め設定されたエンジン温度TEMPEGとエンジン始動可能トルクTEGSTとの関係からエンジン温度TEMPEGに基づいて推定される。
【0080】
SB1に続くSB2においては、エンジン断続用クラッチK0のトルク容量が、SB1で推定されたエンジン始動可能トルクTEGST以上で、且つ、前記動力伝達系許容トルクTPM以下に設定される。そして、エンジン断続用クラッチK0の係合力が、その設定されたトルク容量を実現する係合力に決定される。なお、SB1およびSB2はクラッチ係合制御手段182に対応する。
【0081】
図12に戻り、クラッチ係合制御手段182に対応するSA7においては、エンジン断続用クラッチK0が、図13のSB2で決定された係合力で係合される。SA7の次はSA8に移る。
【0082】
SA8においては、エンジン10を始動するために電動機MGでエンジン回転速度Neを引き上げる前記クランキング制御が実行される。このSA8では、電動機トルクTmgが、前記SA4またはSA5にて決定された電動機トルク脈動周波数fTMGで脈動させられる。なお、上記クランキング制御の開始に先立ってロックアップクラッチ42が解放される。SA8の次はSA9に移る。
【0083】
SA9においては、エンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1以上になったか否かが判断される。このSA9の判断が肯定された場合、すなわち、エンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1以上になった場合には、SA10に移る。一方、このSA9の判断が否定された場合には、SA1に移る。
【0084】
SA10においては、燃料噴射装置162による燃料噴射と点火装置164によるエンジン点火が開始される。SA10の次はSA11に移る。
【0085】
SA11においては、電動機トルクTmgを脈動させる周波数が、前記SA4またはSA5にて決定された電動機トルク脈動周波数fTMGよりも低くされ徐々に零に近付けられる。すなわち、電動機トルクTmgの脈動が滑らかに終了させられる。そして、エンジン始動が完了すれば前記クランキング制御は終了する。なお、SA8〜SA11はエンジン始動制御手段180に対応する。
【0086】
本実施例によれば、エンジン始動制御手段180は、エンジン10を始動するために電動機MGでエンジン回転速度Neを引き上げる前記クランキング制御を行い、そのクランキング制御では、電動機トルク脈動周波数fTMGすなわち電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRSで、その電動機MGの出力トルクTmgを脈動させる。そして、その共振周波数fRSは、少なくとも電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて予め求められる。従って、前記クランキング制御において、前記電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振により電動機トルクTmgが増幅されてエンジン10に伝達されるので、エンジン始動のために必要とされる電動機MGの最大出力トルクを低減することができる。その結果として、電動機MGの小型化やコスト低減を図ることが可能である。
【0087】
また、本実施例によれば、上記共振周波数fRSはエンジン慣性モーメントIEGを加味して算出されるのが好ましく、そのようにしたとすれば、そのエンジン慣性モーメントIEGが加味されない場合と比較して、上記共振周波数fRSをより正確に求めることが可能である。
【0088】
また、本実施例によれば、トルク脈動周波数決定手段178は、エンジン温度判断手段176によってエンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1未満であると判断された場合には、前記共振周波数fRSを、エンジン10を固定端とみなし電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて算出されたものにする。その一方で、エンジン温度判断手段176によってエンジン温度TEMPEGがエンジン温度判定値TEMP1以上であると判断された場合には、前記共振周波数fRSを、エンジン慣性モーメントIEGと電動機慣性モーメントIMGとダンパ36のねじり弾性定数kDPとに基づいて算出されたものにする。ここで、エンジン温度TEMPEGが低いほどエンジン10の回転抵抗は高くなり、エンジン10の回転抵抗が高いほど、エンジン10は回り難く上記固定端に一層近いものとなる。従って、エンジン温度TEMPEGに応じてエンジン10を固定端とみなすか否かが選択され、上記共振周波数fRSが正確に求められる。
【0089】
また、本実施例によれば、図1,図3に示すようにエンジン断続用クラッチK0がエンジン10と電動機MGとの間に介装されているので、エンジン10と電動機MGとを切り離すことが可能である。例えば、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系に過度なトルクがかかった場合にエンジン断続用クラッチK0がスリップするように設定しておけば、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系を構成する回転部材にかかるトルクを制限しその回転部材の保護を図ることが可能である。
【0090】
また、本実施例によれば、クラッチ係合制御手段182は、エンジン断続用クラッチK0のトルク容量を、エンジン回転速度Neをエンジン始動のために引き上げることが可能なエンジン始動可能トルクTEGST以上で、且つ、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の許容トルクTPM(動力伝達系許容トルクTPM)以下に設定する。従って、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系を構成する回転部材を保護するためのトルクリミッタとしてエンジン断続用クラッチK0を機能させることが可能となり、その動力伝達系を構成する回転部材を保護しつつ前記クランキング制御でその動力伝達系を共振させることが可能である。
【0091】
また、本実施例によれば、クラッチ係合制御手段182は、例えば図10の実線L01に示すような予め設定された関係から、エンジン温度TEMPEGに基づいてエンジン始動可能トルクTEGSTを推定する。また、エンジン10の回転抵抗はエンジン温度TEMPEGに応じて変化するものであり、エンジン温度TEMPEGはエンジン水温センサ152によって容易に検出することができる。従って、エンジン始動可能トルクTEGSTの推定が容易である。
【0092】
また、本実施例によれば、図1,図3に示すように駆動装置8は、ダンパ36から駆動輪28までの動力伝達経路の一部を構成する自動変速機18を備えており、電動機MGはダンパ36と自動変速機18との間に連結されている。従って、電動機MGを車両走行用とエンジン始動用との両方に共用することができる。
【0093】
また、本実施例によれば、自動変速機18は、その自動変速機18内の動力伝達を遮断する動力断続装置として機能するクラッチC及びブレーキBを含んでいる。そして、エンジン始動制御手段180は、その動力断続装置(クラッチC,ブレーキB)によって自動変速機18内の動力伝達が遮断されている場合、具体的にはシフトポジションPSHがPポジションまたはNポジションである場合に、前記クランキング制御を実行する。従って、そのクランキング制御において共振によるトルク変動が駆動輪28に伝達されないので、エンジン始動時のショックを軽減することが可能である。
【0094】
また、本実施例によれば、エンジン始動制御手段180は、前記クランキング制御でエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン回転速度判定値Ne1以上になった場合には、電動機トルクTmgを脈動させる周波数をトルク脈動周波数決定手段178が決定した電動機トルク脈動周波数fTMGすなわち前記共振周波数fRSよりも低くする。従って、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振による振動が発散することを防止できる。
【0095】
また、本実施例によれば、車両走行中に電動機トルクTmgは駆動輪28に伝達されるので、電動機トルクTmgで駆動輪28を駆動し走行することが可能である。すなわち、前記EV走行を行うことが可能であると共に、前記エンジン走行中に電動機MGにアシストトルクを出力させることが可能である。
【0096】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0097】
例えば、前述の実施例において、電動機MGはエンジン10の回転軸心(第1軸心RC1)とは異なる第2軸心RC2上に配設されているが、第1軸心RC1上にエンジン10と直列に配設されていても差し支えない。
【0098】
また、前述の実施例において、電動機MGは、電動機連結用回転要素66と電動機出力ギヤ56とによって構成された1対のギヤ対により、トルクコンバータケース14dに連結されているが、そのようなギヤ対に限らず、伝動ベルトやチェーンによってトルクコンバータケース14dに連結されていても差し支えない。
【0099】
また、前述の実施例において、前記式(1)および前記式(2)によって予め算出されている1マス−バネ系の固有振動数fまたは前記式(3)および前記式(4)によって予め算出されている2マス−バネ系の固有振動数fが電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRSとして採用されるが、前記クランキング制御において電動機トルクTmgを脈動させる周波数である上記共振周波数fRSには幅があっても差し支えなく、例えば、採用される上記固有振動数fまたはfを中心値とした所定幅の周波数範囲が上記共振周波数fRSとされても差し支えない。
【0100】
また、前述の実施例では、エンジン温度TEMPEGに応じて固有振動数fまたはfの何れかが、電動機MGからエンジン10までの動力伝達系の共振周波数fRSとして採用されるが、採用される固有振動数fまたはfを切り替えずに、エンジン温度TEMPEGに関わらず何れか一方のみが上記共振周波数fRSとして採用されるものであっても差し支えない。
【0101】
また、前述の実施例において、駆動装置8はトルクコンバータ14を備えているが、そのトルクコンバータ14を備えないことも想定し得る。例えばトルクコンバータ14が無ければ、自動変速機18が備えるクラッチC又はブレーキBをスリップさせてクリープトルクを駆動輪28に伝達することが考えられる。
【0102】
また、前述の実施例において、エンジン断続用クラッチK0はエンジン10と電動機MGとの間に介装されているが、そのエンジン断続用クラッチK0が設けられておらず、エンジン10と電動機MGとの間の動力伝達経路が遮断できない構成であっても差し支えない。
【0103】
また、前述の実施例において、駆動装置8は、FF型の車両6において横置きにされるものであるが、車両6はFR型であってもよいし、駆動装置8は縦置きにされてもよい。
【0104】
また、前述の実施例において、エンジン断続用クラッチK0は湿式多板型の油圧式摩擦係合装置であるが、乾式であってもよいし、電磁クラッチ等の他の作動方式のクラッチであっても差し支えない。また、自動変速機18が有するクラッチC及びブレーキBについても同様である。
【0105】
また、前述の実施例において、ロックアップクラッチ42が設けられているが、ロックアップクラッチ42は必須ではない。
【0106】
また、前述の実施例において、自動変速機18は有段の自動変速機であるが、無段階に変速比γを変更できるCVTであってもよいし、手動変速機に置き換えられても差し支えない。また、自動変速機18を備えない駆動装置8も考え得る。
【0107】
また、前述の実施例において、油圧ポンプ16は電動機MGによって回転駆動される機械式のオイルポンプであるが、電動オイルポンプであっても差し支えない。また、油圧ポンプ16が電動オイルポンプであれば、油圧ポンプ16は第1軸心RC1上とは別個に設けられても差し支えなく、電動機MGによって回転駆動される必要もない。
【0108】
また、前述の実施例において、電動機MGは車両6の走行用駆動力源でもあるが、車両6が、エンジン始動専用のスタータモータと、そのスタータモータとエンジン10との間にスタータ用ダンパとを備えており、前記クランキング制御はそのスタータモータの出力トルクを脈動させてそのスタータモータでエンジン回転速度Neを引き上げるものであっても差し支えない。すなわち、前記クランキング制御でエンジン回転速度Neを引き上げるために駆動される電動機はハイブリッド車両の走行用駆動力源でなくても差し支えない。
【0109】
また、前述の実施例において、エンジン始動制御手段180は、前記クランキング制御においてエンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1以上になった場合には、電動機トルクTmgを脈動させる周波数を前記共振周波数fRSよりも低くするが、そのように電動機トルクTmgを脈動させる周波数を低くしなくても差し支えない。また、エンジン回転速度Neがエンジン回転速度判定値Ne1以上になった場合に電動機トルクTmgの脈動を直ちに止めても差し支えない。
【符号の説明】
【0110】
8:駆動装置(車両用駆動装置)
10:エンジン
18:自動変速機(変速機)
28:駆動輪
36:ダンパ
150:電子制御装置(車両用エンジン始動制御装置)
MG:電動機
C1,C2:クラッチ(動力断続装置)
B1,B2,B3:ブレーキ(動力断続装置)
K0:エンジン断続用クラッチ
RC1:第1軸心(エンジンの回転軸心)
RC2:第2軸心(電動機の回転軸心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、伝達トルクに応じたねじりを生じるダンパを介して該エンジンに連結された電動機とを備えた車両用駆動装置において、前記エンジンを始動するために前記電動機で該エンジンの回転速度を引き上げるクランキング制御を行う車両用エンジン始動制御装置であって、
前記クランキング制御では、前記電動機から前記エンジンまでの動力伝達系の共振周波数で該電動機の出力トルクを脈動させ、
該共振周波数は、少なくとも前記電動機の回転軸心まわりにおける該電動機の慣性モーメントと前記ダンパの単位ねじれ量当たりの前記伝達トルクの大きさであるねじり弾性定数とに基づいて予め求められる
ことを特徴とする車両用エンジン始動制御装置。
【請求項2】
前記共振周波数は、更に前記エンジンの回転軸心まわりにおける該エンジンの慣性モーメントを加味して求められる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの温度が予め定められたエンジン温度判定値未満である場合には、前記共振周波数を、該エンジンを固定端とみなし前記電動機の慣性モーメントと前記ダンパのねじり弾性定数とに基づいて求められたものとし、
前記エンジンの温度が前記エンジン温度判定値以上である場合には、前記共振周波数を、前記エンジンの回転軸心まわりにおける該エンジンの慣性モーメントと前記電動機の慣性モーメントと前記ダンパのねじり弾性定数とに基づいて求められたものとする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項4】
前記エンジンと前記電動機との間にエンジン断続用クラッチが介装されている
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項5】
前記エンジン断続用クラッチの動力伝達可能なトルク容量を、前記エンジンの回転速度をエンジン始動のために引き上げることが可能なエンジン始動可能トルク以上で、且つ、前記電動機から前記エンジンまでの動力伝達系の許容トルク以下に設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの温度に基づいて前記エンジン始動可能トルクを推定する
ことを特徴とする請求項5に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項7】
前記車両用駆動装置は、前記ダンパから駆動輪までの動力伝達経路の一部を構成する変速機を備えており、
前記電動機は前記ダンパと前記変速機との間に連結されている
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項8】
前記変速機は該変速機内の動力伝達を遮断する動力断続装置を含んでおり、
該動力断続装置によって該変速機内の動力伝達が遮断されている場合に前記クランキング制御を実行する
ことを特徴とする請求項7に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項9】
前記クランキング制御で前記エンジンの回転速度が予め定められたエンジン回転速度判定値以上になった場合には、前記電動機の出力トルクを脈動させる周波数を前記共振周波数よりも低くする
ことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の車両用エンジン始動制御装置。
【請求項10】
車両走行中に前記電動機の出力トルクは駆動輪に伝達される
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の車両用エンジン始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−35692(P2012−35692A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176198(P2010−176198)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】