説明

車両用スイッチ装置

【課題】 車両用スイッチ装置の小型化を図る。
【解決手段】
スイッチケース(5)に対して操作アーム(9)の後退復帰方向と略同方向に復帰可能に後退可能となるようにケース内部に並列配置した一対の摺動部材(21L,21R)と、当該操作アームと当該摺動部材各々との間に形成したカム機構(31)と、当該摺動部材各々を復帰方向に付勢するための一対の付勢部材(13L,13R)と、当該摺動部材各々の摺動によって開閉されるスイッチ群(41L,41R,51)と、を含めて車両用スイッチ装置(1)を構成する。摺動部材が後退復帰方向に摺動するため後退復帰方向を横切る方向のスペースを省略することができ、少なくともその分だけスイッチ装置全体を小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オートバイやスクーターのような自動二輪車や原動機付自転車等の主としてウインカー用に使用される車両用スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用スイッチ装置として、たとえば、特許文献1に記載された装置(以下、適宜「従来装置」という)がある。図22を参照しながら、従来装置について説明する。従来装置101は、ノブ102を倒すことによって支軸103を中心として揺動させられる揺動板104を備えている。揺動板104は、その開放端に鯨の尾に類似した形状の揺動尾部105を有していて、その揺動によって図外の電気的接点をオンオフさせるように、さらに、揺動させられた揺動板104は、図外のスプリング等によって中立位置に自動復帰させられるようになっている。オン状態にされた電気的接点は、揺動板104の自動復帰とは無関係にそのままオン(閉鎖)状態が継続され、中立状態にあるノブ102の押し込みによってオフ(開放)となるように構成されている。特許文献2にも、上記揺動板104と類似する形状のスイッチ操作アームが開示されている。
【特許文献1】実公平6−9410号公報(第3頁右欄第3行目以下、第1図、第3図参照)
【特許文献2】実公昭64−4601号公報(第3頁左欄第16行目以下、第5図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来装置は、市場に投入され好評を博してはいるが、車両の種類が増え様々な形状の装置が求められるようになったことや装置の多機能化が図られたこと等によって、より小型化の要請を受けるようになった。この点、従来装置は、揺動板104を揺動させる必要があったため、揺動分だけ揺動板104の占有面積を大きく取らざるを得なかった。符号Sは、揺動板104を揺動させるために必要な領域を示している。特に、車両スイッチをバーハンドル(棒状ハンドル)に取り付ける場合に、上記揺動領域Sが問題となる。すなわち、バーハンドルには、たとえば、グリップその他の部材を取り付ける場合がある。この場合、バーハンドルには車両用スイッチ装置の取付スペースとともに、上記他の部材や装置の取付スペースも必要となる。このため、バーハンドルの長さ方向における車両用スイッチ装置の寸法はできるだけ小さくする必要がある。上記揺動板104の揺動方向は、バーハンドルの長さ方向と略一致するから、揺動板104の揺動領域Sを小さくすることは、たいへん重要である。さらに、バーハンドルは、機能性やデザイン性を重視したために途中を湾曲させる場合が多い。車両用スイッチ装置を含めた部材や装置を湾曲部分に取り付けることは取付方向や取付方法の点で不都合が生じやすいため、直線部分のスペースはさらに小さくなり、車両用スイッチ装置の小型化が益々求められる。本発明が解決しようとする課題は、車両用スイッチ装置全体の小型化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した課題を解決するために開発を進めた発明者は、揺動領域を必要とする揺動板の代わりにスイッチケースに対して摺動する摺動部材を採用した。摺動部材は、スイッチケースのケース内部に対して摺動するものであるから、少なくとも摺動方向を横切る方向のスペースを省略することができ、さらに、摺動方向のストロークを可及的に小さくすれば車両用スイッチ装置全体を小型化することができるからである。本発明の詳しい構成は、項を改めて説明する。なお、何れかの請求項記載の発明の構成を説明するに当たって行う用語の定義等は、その性質上可能な範囲において、記載順番等に関わらず他の請求項にも適用されるものとする。
【0005】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項1の装置」という)は、ケース内部を有するスイッチケースと、当該スイッチケースに設けた枢軸と、当該枢軸を中心として中立位置両側の第1又は第2揺動位置まで往復揺動可能な操作アームと、当該スイッチケースに対して当該操作アームの後退復帰方向と略同方向に復帰可能に後退可能となるように当該ケース内部に並列配置した一対の摺動部材と、当該操作アームと当該摺動部材各々との間に形成したカム機構と、当該摺動部材各々を復帰方向に付勢するための一対の付勢部材と、当該摺動部材各々が第1後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される第1スイッチ及び第2スイッチと、を含めて構成してある。ここで、当該カム機構が、当該操作アームを第1揺動位置又は第2揺動位置まで揺動させることによって対応する摺動部材を対応する付勢部材の付勢力に抗しながら当該第1後退位置まで復帰可能に後退させられるように構成してある。なお、本願において「車両」とは、主として自動二輪車や原動機付自転車のことを意味するが、車輪数や原動機の種類や有無に関わらず、たとえば、モータ補助のついた自転車、倉庫などで使用されるフォークリフト、さらには、お年寄りなどが使用する電動車椅子等のウインカーを必要とするもの全てが含まれる。枢軸は、スイッチケースに直接固定(スイッチケースと一体に構成する場合を含む)してもよいし、何らかの部材を介して間接固定してもよい。付勢部材は、コイルスプリング(つる巻きバネ)によって構成するのが小型化を図る上で好ましいが、コイルスプリング以外の部材、たとえば、板バネやエラストマー材を採用することを妨げるものではない。さらに、「第1」と「第2」と記載したが、これは、第1又は第2のうち何れかを特定する趣旨ではなく単に両者を区別するためだけの記載である。したがって、上記「第1」と「第2」を入れ替えたとしても入れ替え前の構成と異なる点はない。
【0006】
請求項1の装置によれば、操作者(運転者)が操作アームを、たとえば第1揺動位置まで揺動させると、カム機構を介して、一対ある摺動部材のうち対応する摺動部材がケース内部の第1後退位置まで後退させられる。このとき、他方の摺動部材は、操作アームの作用を受けずそのままの位置にある。後退させられる摺動部材には、一対ある付勢部材のうち対応する付勢部材の付勢力が復帰方向に作用しており、その付勢力はカム機構を介して操作アームにも及んでいる。つまり、操作アームの揺動は、付勢部材の付勢力に抗しながら行われ、操作者が操作アームを放したとき上記付勢力により摺動部材及び操作アームが元の位置に復帰する。上記した対応摺動部材の後退は、第1スイッチを閉鎖(オン)させる。上記手順は第1スイッチについて説明したが、第2スイッチについても操作アームの揺動方向が異なるだけで他は同じである。摺動部材は、スイッチケースのケース内部に対して摺動するものであるから、少なくとも摺動方向(後退復帰方向)を横切る方向のスペースを省略することができる。たとえば、請求項1の装置の用途に限定はないが、たとえば、第1スイッチを左ウインカー点灯用とするとともに第2スイッチを右ウインカー用とすれば、請求項1の装置をウインカースイッチとして好適に用いることができる。第1スイッチをヘッドライト点灯用、第2スイッチを消灯用に用いることも可能である。
【0007】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項2の装置」という)には、請求項1の装置の基本構成を備えさせてあり、好ましい態様として、さらに、前記操作アームが、中立位置にあるときに、前記往復揺動可能に併せて当該ケース内部に復帰可能に後退可能となるように構成してあり、当該操作アームを後退させることによって前記摺動部材両者を前記付勢部材両者の付勢力に抗しながら前記第1後退位置よりも浅い第2後退位置まで後退可能に構成してある。これらに加え、当該摺動部材両者が当該第2後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される第3スイッチを設けてある。
【0008】
請求項2の装置によれば、請求項1の装置の作用効果に加え、操作アームの後退復帰によって第3スイッチの閉鎖開放を行うことができる。すなわち、請求項2の装置は請求項1の装置よりも第3スイッチの分だけ多機能化している。第3のスイッチは、たとえば、点灯中のウインカーを途中消灯させるためのキャンセルスイッチとして使用したり、ハザード点灯用のスイッチとして使用したりすることができる。
【0009】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項3の装置」という)には、好ましい態様として、請求項2の装置の基本構成に若干の改良を加えてある。すなわち、前記枢軸が、前記スイッチケースの代わりに前記操作アームに設けてあり、当該スイッチケースが、当該操作アームを、中立位置両側の第1揺動位置又は第2揺動位置まで往復揺動可能、かつ、中立位置にあるときに当該ケース内部に復帰可能に後退可能となるように保持可能に構成してある。請求項1の装置は、枢軸に対して操作アームが往復揺動可能及び後退復帰可能に構成してあるのに対し、請求項2の装置は、操作アームと枢軸が一体となってスイッチケースに対し往復揺動可能及び後退復帰可能に構成してある点で両者が異なっている。
【0010】
請求項3の装置によれば、請求項2の装置の作用効果と基本的に異ならない。ただ、請求項2の装置の操作アームが単独で往復揺動可能及び後退復帰可能であるのに対し、請求項3の装置の操作アームは枢軸と一体で往復揺動可能及び後退復帰可能である点が異なっている。他の作用効果については、請求項2の装置と請求項3の装置との間で異なる点はない。
【0011】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項4の装置」という)には、請求項2又は3の装置の基本構成を備えさせてあり、好ましい態様として、前記摺動部材各々には、並列配置したときに前記操作アームに向かって開口するV字類似形状を形成可能なテーパカム面を形成してあり、当該操作アームには、当該テーパカム面と接触可能に構成した接触子を設けてあり、当該テーパカム面及び当該接触子によって前記カム機構を構成してある。つまり、テーパカム面を操作アームから見ると、一方のテーパカム面と他方のテーパカム面とにより挟まれた領域が、枢軸から遠のくに従って狭くなっている。なお、テーパカム面は、必ずしも平面である必要はなく、曲面等であってもよい。
【0012】
請求項4の装置を採用した場合、たとえば上記構成によって請求項2又は3の装置の作用効果を生じさせることができる。すなわち、操作アームをいずれかの方向(ここでは第1揺動位置方向)に揺動させると、接触子が一対の摺動部材のうち対応する摺動部材のテーパカム面を押して対応する摺動部材を後退させる。操作アーム揺動によって接触子は円弧運動をするが、その揺動力は当接したテーパカム面によって分割され、この分割によって生じた後退方向の分力が一対の摺動部材のうち対応する付勢部材の付勢力に抗しながら対応する摺動部材を後退させる。操作者が操作アームを放すと、対応する付勢部材の付勢力が対応する摺動部材を反後退方向に復帰させ、対応する摺動部材の復帰がテーパカム面と接触子を介して操作アームを中立位置に復帰させる。上記作用効果は第1揺動方向への揺動について説明したが、第2揺動方向への揺動についても揺動方向が異なるだけで他は同じである。請求項4の装置によれば、接触子の揺動範囲が上記V字類似形状の領域、すなわち、摺動部材両者のテーパカム面各々に挟まれた領域に限られるから、摺動部材各々の幅寸法を超えて接触子が揺動することはない。このことは、スイッチ装置全体の小型化に大きく貢献する。
【0013】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項5の装置」という)には、請求項2又は4の装置の基本構成を備えさせてあり、好ましい態様として、前記操作アームには、前記枢軸を貫通させるための長孔を形成してあり、当該長孔が、当該操作アームが当該枢軸に対して後退復帰方向に移動可能に形成してあり、かつ、前記摺動部材両者が前記第2後退位置を超えて後退不能となるように当該操作アームの後退移動量を規制可能に構成してある。
【0014】
請求項5の装置を採用した場合、上記構成によって請求項2又は4の装置の作用効果を生じさせることができる。すなわち、操作アームに形成した長孔は、枢軸に対する操作アームの移動を許容する。操作アームには両摺動部材を介して両付勢部材の付勢力が働いているので反後退方向(復帰方向)に付勢されている。このため、長孔を介した支持であっても、操作者による後退方向の力を受けない限り枢軸に対して操作アームが不安定になることはない。このとき、長孔周縁のうち摺動部材に最も近い部分が枢軸と当接している。他方、後退方向の力を受けたときは、摺動部材に最も遠い部分の長孔周縁が枢軸と当接する。摺動部材と最も遠い部分の長孔周縁の当接が、操作アームのそれ以上の後退を阻止する。つまり、摺動部材が第2後退位置を超えて後退させないようにする働きを、長孔に持たせてある。
【0015】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項6の装置」という)には、請求項1の装置の基本構成を備えさせてあり、好ましい態様として、左折用ウインカー及び右折用ウインカーを少なくとも制御するために点灯制御ユニットと電気的接続可能に構成してある。ここで、当該点灯制御ユニットが、前記第1スイッチの閉鎖が当該左折用ウインカー点灯の、前記第2スイッチの閉鎖が当該右折用ウインカー点灯の、それぞれ契機となるように構成してある。なお、本願において「点灯制御ユニット」とは、車両用スイッチ装置が操作されたときに、主としてウインカーを点灯消灯等の制御を行うためのユニットのことをいう。ウインカーの点灯消灯以外の機能(たとえば、駐車を示すハザード機能)を受け持つこともある。車両用スイッチ装置に組み込まれる場合と、別体として構成される場合とがある。
【0016】
請求項6の装置によれば、請求項1の装置の作用効果に加え、点灯制御ユニットとの協働によって左折用ウインカー及び右折用ウインカーの点灯制御を行うことができる。点灯させたウインカーの消灯は、点灯制御ユニットに予めプログラムされた手順で行われる。たとえば、タイマー計測に基づいて所定時間経過後に消灯したり、ステアリングセンサーが左折行為を感知したときに消灯したり、さらに、バンクアングルセンサーが車体の傾きを感知したときに消灯したり、することが、上記手順として考えられる。ウインカー消灯を操作者の意思によって行えるように構成することもできる。
【0017】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項7の装置」という)には、好ましい態様として、請求項2乃至5何れかの装置の基本構成を備えさせた上で、左折用ウインカー及び右折用ウインカーを少なくとも制御するために点灯制御ユニットと電気的接続可能に構成してある。ここで、当該点灯制御ユニットが、前記第1スイッチの閉鎖が当該左折用ウインカー点灯の、前記第2スイッチの閉鎖が当該右折用ウインカー点灯の、それぞれ契機となるように、かつ、前記第3スイッチの閉鎖が点灯中の左折用ウインカー又は右折用ウインカーの点灯制御をキャンセル可能に構成してある。
【0018】
請求項7の装置によれば、請求項1の装置の作用効果に加え、点灯制御ユニットとの協働によって左折用ウインカー及び右折用ウインカーの点灯制御及び点灯制御のキャンセルを行うことができる。そもそも点灯させたウインカーの消灯は、点灯制御ユニットに予めプログラムされた手順で行われる。たとえば、タイマー計測に基づいて所定時間経過後に消灯したり、ステアリングセンサーが左折行為を感知したときに消灯したり、さらに、バンクアングルセンサーが車体の傾きを感知したときに消灯したり、することが、上記手順として考えられる。本発明では、次に述べるように、操作者の意思でウインカーを消灯させることもできる。一端点灯させた左折用ウインカー(右折用ウインカー)を、操作者の意思でキャンセル(消灯)する手順について説明する。元の位置、すなわち、中立位置に復帰した操作アームは、操作者が両付勢部材の付勢力に抗しながら押し込むことによってケース内部に後退させることができる。操作アームの後退はカム機構を介して左折用及び右折用の両摺動部材を一緒に第2後退位置まで後退させ、この後退によってキャンセルスイッチを閉鎖(オン)させる。つまり、操作アームが中立位置にあるときのカム機構は、両摺動部材に対して作用可能な状態にある。第2後退位置は第1後退位置よりもケース内部に対して浅いから、摺動部材は左折用スイッチや右折用スイッチを閉鎖する位置まで後退しない。つまり、キャンセルスイッチは、閉鎖されても左折用スイッチ又は右折用スイッチが閉鎖されることはない。第2後退位置まで後退させられたキャンセルスイッチの閉鎖によって、点灯制御ユニットは当該車両の点灯中の左折用ウインカーを消灯させる。操作者が操作アームを放したとき、両付勢部材の付勢力により両摺動部材及び操作アームが元の位置に復帰する。上記手順は左折用について説明したが、右折用についても左と右が異なるだけで他は同じである。
【0019】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係る車両用スイッチ装置(以下、適宜「請求項8の装置」という)は、点灯制御ユニットと電気的に接続して右折用ウインカー及び左折用ウインカーを少なくとも制御するための車両用スイッチ装置である。請求項8の装置は、ケース内部を有するスイッチケースと、当該スイッチケースに設けた枢軸と、当該枢軸を中心として中立位置両側の左折用又は右折用揺動位置まで往復揺動可能、かつ、中立位置にあるときに当該ケース内部に復帰可能に後退可能な操作アームと、当該スイッチケースに対して当該操作アームの後退復帰方向と略同方向に復帰可能に後退可能となるように当該ケース内部に並列配置した一対の摺動部材と、当該操作アームと当該摺動部材各々との間に形成したカム機構と、当該摺動部材各々を復帰方向に付勢するための一対の付勢部材と、当該摺動部材各々が第1後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される左折用スイッチ及び右折用スイッチと、当該両摺動部材が当該第1後退位置よりも浅い第2後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放されるキャンセルスイッチと、を含めて構成してある。ここで、当該カム機構が、当該操作アームを左折用揺動位置又は右折用揺動位置まで揺動させることによって対応する摺動部材を対応する付勢部材の付勢力に抗しながら当該第1後退位置まで復帰可能に後退させ、かつ、中立位置にある当該操作アームを後退させることによって当該摺動部材両者を当該付勢部材両者の付勢力に抗しながら当該第2後退位置まで後退させられるように構成してある。
【0020】
請求項8の装置によれば、操作者(運転者)が操作アームを、たとえば左折用揺動位置まで揺動させると、カム機構を介して、左折用摺動部材がケース内部の第1後退位置まで後退させられる。このとき、他方の右折用摺動部材は、操作アームの作用を受けずそのままの位置にある。後退させられるときの左折用摺動部材には、付勢部材の付勢力が復帰方向に作用しており、その付勢力はカム機構を介して操作アームにも及んでいる。つまり、操作アームの揺動は、付勢部材の付勢力に抗しながら行われ、操作者が操作アームを放したとき上記付勢力により摺動部材及び操作アームが元の位置に復帰する。左折用摺動部材の後退は、左折用スイッチを閉鎖(オン)させる。左折用スイッチの閉鎖は、接続された点灯制御ユニットを稼動させ、点灯制御ユニットは当該車両の左折用ウインカーを点灯させる。点灯させたウインカーの消灯は、点灯制御ユニットに予めプログラムされた手順で行われる。たとえば、タイマー計測に基づいて所定時間経過後に消灯したり、ステアリングセンサーが左折行為を感知したときに消灯したり、さらに、バンクアングルセンサーが車体の傾きを感知したときに消灯したり、することが、上記手順として考えられる。本発明では、次に述べるように、操作者の意思でウインカーを消灯させることもできる。一端点灯させた左折用ウインカー(右折用ウインカー)を、操作者の意思でキャンセル(消灯)する手順について説明する。元の位置、すなわち、中立位置に復帰した操作アームは、操作者が両付勢部材の付勢力に抗しながら押し込むことによってケース内部に後退させることができる。操作アームの後退はカム機構を介して左折用及び右折用の両摺動部材を一緒に第2後退位置まで後退させ、この後退によってキャンセルスイッチを閉鎖(オン)させる。つまり、操作アームが中立位置にあるときのカム機構は、両摺動部材に対して作用可能な状態にある。第2後退位置は第1後退位置よりもケース内部に対して浅いから、摺動部材は左折用スイッチや右折用スイッチを閉鎖する位置まで後退しない。つまり、キャンセルスイッチは、閉鎖されても左折用スイッチ又は右折用スイッチが閉鎖されることはない。第2後退位置まで後退させられたキャンセルスイッチの閉鎖によって、点灯制御ユニットは当該車両の点灯中の左折用ウインカーを消灯させる。操作者が操作アームを放したとき、両付勢部材の付勢力により両摺動部材及び操作アームが元の位置に復帰する。上記手順は左折用について説明したが、右折用についても左と右が異なるだけで他は同じである。摺動部材は、スイッチケースのケース内部に対して摺動するものであるから、少なくとも摺動方向(後退復帰方向)を横切る方向のスペースを省略することができる。さらに、第1後退位置と第2後退位置との間隔は、左折用スイッチ又は右折用スイッチを閉鎖させずにキャンセルスイッチを閉鎖することのできるだけの寸法があれば足りるから、車両用スイッチ装置全体を小型化することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る車両用スイッチ装置によれば、摺動部材の後退復帰方向を横切る方向のスペースを省略することができるので、少なくともその分だけ装置全体を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
各図を参考にしながら、本発明を実施するための最良の形態(以下、適宜「本実施形態」という)について説明する。以下においては、本実施形態に係る車両用スイッチ装置を、単に「スイッチ装置」と呼ぶ。本実施形態に係るスイッチ装置は、自動二輪車に取り付けてあるが、オートバイやスクーターのような自動二輪車以外の車両、たとえば、原動機付自転車等にも取り付け可能であることは言うまでもない。さらに、本実施形態におけるスイッチ装置は、ウインカーを制御するためのものとしてあるが、ウインカー制御以外の目的にも使用可能であることはいうまでもない。
【0023】
(スイッチ装置の概略構造)
図1乃至3を参照しながら、スイッチ装置の外観構造について説明する。図1は、スイッチ装置の正面図である。図2は、図1に示すスイッチ装置のX−X断面図である。図3は、図2に示すスイッチ装置のY−Y断面図である。符号1は、自動二輪車のハンドルHに取り付けたスイッチ装置を示している。スイッチ装置1は、図20に示すように、点灯制御ユニット81と電気的に接続してあり、ウインカーの点灯消灯等を司る点灯制御ユニット81を制御するための装置である。スイッチ装置1は、合成樹脂性の取付ケース3によって外観構成してあり、取付ケース3に形成した取付孔3hに貫通させたハンドルHにネジ固定してある。取付対象となるハンドルHは、車体の右でも左でもよい。なお、点灯制御ユニット81については後述する。
【0024】
(スイッチ装置の詳細構造)
取付ケース3の内部には、スイッチケース5を固定してある。スイッチケース5には、枢軸5a、一対の摺動部材21L,21R、付勢部材として機能する一対のコイルバネ13L,13R、左折用スイッチ(第1スイッチ)41L、右折用スイッチ(第2スイッチ)41R、及び、キャンセルスイッチ(第3スイッチ)51を、各部材の機能を果たし得る態様で形成又は保持させてある。さらに、操作アーム9から見たスイッチケース5の背面側には、スイッチケース5を閉鎖するための背面カバー6を取り外しできるように取り付けてある。スイッチケース5の上記以外の部材として操作アーム9があるが、操作アーム9の一部は取付ケース3内に位置し、取付ケース3に形成した開口部3a(図2参照)の外部に突き出させてある。突き出させたのは、取付ケース3の外部から操作アーム9を操作できるようにするためである。以下、取付ケース3の内部に収納させた各部材について説明する。なお、取付ケース3、スイッチケース5、その他の部材は、操作者から見たときの状態、すなわち、操作アーム9から見たときの状態を正面とする。
【0025】
(スイッチケースの構造)
スイッチケース5は、上述したように取付ケース3の内部に設置可能に構成してある。スイッチケース5の形態は制限されるものではないことが基本ではあるが、上述した各部材を内蔵したり設置したりするために必要な部位や形状等(たとえば、部材を固定したり収納したりするのに必要な凹凸)を形成した上で可及的に小さく形成することが好ましい。スイッチ装置1全体の小型化を図るためである。スイッチケース5が有すべき部位については、以下に述べる各部材の説明と併せて述べる。スイッチケース5は合成樹脂によって構成した。合成樹脂で構成すれば、上記有すべき部位や形状等を含む複雑な形状を容易に成形可能であり、絶縁性を確保できるためスイッチ等の電気部品を直接設置可能であるからである。
【0026】
(枢軸の構造)
図4及び16を参照しながら、枢軸の構造について説明する。枢軸5aは、スイッチケース5の取付ケース3の開口部3aに近い部位から下方へ突き出すように一体成形してある(図2参照)。枢軸5aは、操作アーム9の長孔9h(後述)を貫通して操作アーム9の後述する往復揺動及び後退復帰を可能とする円柱状に形成してある。符号7は、ボルト本体7aと、ボルト本体7aの一端に位置するヘッド部7bからなる固定ボルトを示している。固定ボルト7は、操作アーム9を枢軸5aに固定するための部材であり、ボルト本体7aの開放端は枢軸5aの下端面にねじ込めるように構成してある。固定ボルト7のヘッド部7bと操作アーム9との間には、座金7cを介在させてある。座金7cは、ヘッド部7bが長孔9hから抜けて操作アーム9を落下させないようにする機能と、ヘッド部7bと操作アーム9との間の摩擦を軽減する機能と、を有している。なお、枢軸は、図19に符号5´aで示すように、操作アーム9´と一体に形成することもできる。長孔9´hに枢軸5´aを貫通させることによって、操作アーム9´を往復揺動可能、かつ、復帰可能に後退可能な状態で図外のスイッチケースに設置することができる。
【0027】
(摺動部材の構造)
図4乃至12を主として参照しながら、摺動部材の構造について説明する。図4は、取付ケース3を省略したスイッチ装置の分解斜視図である。図5及び6は、摺動部材の拡大斜視図である。図7は、スイッチ装置の左側面図であり、図8は、図7に示すスイッチ装置のN―N断面図である。図9は、スイッチ装置の右側面図であり、図10は、図9に示すスイッチ装置のE−E断面図である。図11は、図9に示すスイッチ装置のI−I断面図である。図12は、スイッチ装置の正面図(操作レバーのノブ側から見た図)である。前述したように摺動部材には、摺動部材21Rと摺動部材21Lとがある。摺動部材21Rは右折用、摺動部材21Lは左折用であり、両者は左右対称となる以外は共通の構造を有している。このため、以下の説明は、左折用の摺動部材21Lについて行い、右折用の摺動部材21Rについては必要な場合にだけ行うことにする。その場合において、「21L」と「21R」とのように、番号同一で「L」と「R」のみが異なるものについては、Lに係るものが左折用でRに係るものが右折用を示すものとする。
【0028】
摺動部材21L(摺動部材21R)は、対向する摺動部材21R(摺動部材21L)に向かって開口する横向きの角型U字状の摺動部21aLと、摺動部材21Lの後端(図6に右方向)に位置する第1スイッチ保持部21sLと、摺動部21aRと反対側の摺動部21aLの側部に設けた第2スイッチ保持部21cLと、摺動部21aLの下方に設けたカム部21bLと、から概ね構成してある。図6の符号21gLは、摺動部21aLによって三方を囲まれた摺動溝を示している。図4及び5に示すように、第1スイッチ保持部21sLの上面から背面にかかる角部には凹部21dL,21dLを形成してあり、凹部21dL,21dLには可動スイッチ片51mLをはめ込み固定してある。可動スイッチ片51mLは、固定スイッチ片51fL及び共通スイッチ片51eとともにキャンセルスイッチ51Lを構成する。キャンセルスイッチ51Lは、これとキャンセルスイッチ51Rを含めた総体を示すときにキャンセルスイッチ51と表示する場合がある(図5、図10参照)。固定スイッチ片51fL及び共通スイッチ片51eは、いずれもスイッチケース5の天板5c(図4、10、11参照)の可動スイッチ片51mLに対して摺動部材21Lの後退によって接触(閉鎖)が、復帰によって接触解除(開放)が、それぞれ可能な位置に固定してある。共通スイッチ片51eは、左折用である可動スイッチ片51mL及び右折用である可動スイッチ片51mRの両者に共通するスイッチ片である。キャンセルスイッチ51は、可動スイッチ片51mLが固定スイッチ片51fLと共通スイッチ片51eを短絡させるとともに、可動スイッチ片51mRが固定スイッチ片51fRと共通スイッチ片51eとを短絡させ、上記2箇所の短絡によって、固定スイッチ片51fLと固定スイッチ片51fRとを短絡させることによって閉鎖され、短絡解除によって開放されるようになっている。つまり、キャンセルスイッチ51は、可動スイッチ片51mLと可動スイッチ片51mRとが同時に移動させられたときにのみ閉鎖状態になるのであって、いずれか一方のみが移動させられたとしても開放状態のままである。第2スイッチ保持部21cLには、可動スイッチ片41mLを固定してある。可動スイッチ片41mLは、固定スイッチ片41fLとともに左折用スイッチ41Lを構成する。固定スイッチ片41fLは、スイッチケース5が有する側壁5wL内面の可動スイッチ片41mLに対して開閉可能な位置に固定してある(図10参照)。カム部21bLには、若干丸みをつけたテーパカム面21tLを形成してある(図6参照)。テーパカム面21tLは、並列配置した摺動部21aRのテーパカム面21tRとともに操作アーム9に向かって開口するV字類似形状を形成している。テーパカム面21tL及びテーパカム面21tRは、後述するカムピン11とともにカム機構31(カム機構31L,カム機構31R)を構成する(図5参照)。なお、たとえば、図6や図11の符号21jLは、摺動部材21Lの後端部分を構成する背面板を示している。背面板21jLの側端に凹凸を形成したのは、図11が示すように、スイッチケースの側壁5wLの凹凸に合わせるためであって、合わせることによって両者間の防水性を高めるためである。なお、図16に示す5pLは、側壁5wLの操作アーム9側に設けた三角突起を示している。三角突起5pLは、側壁5wLと側壁5wRとの間隔を狭める方向に傾斜する当接斜面5´pLを有している。
【0029】
(スイッチケースと摺動部材との関係)
図2乃至図12を参照しながら、スイッチケース5と摺動部材21Lとの関係について説明する。スイッチケース5には、天板5cの幅方向略中央からケース内部15内に垂下する縦隔壁71を設けてある(図10、11参照)。縦隔壁71は、たとえば図13(a)に示すように、背面カバー6に形成した縦溝6g(図4参照)に嵌め込んであり、これによって、両者間の連結強度と防水性とを高めてある。縦隔壁71は、その両面に断面略矩形の摺動ブロック72L及び摺動ブロック72Rを一体に形成してある。縦隔壁71は、ケース内部15に受け入れた摺動部材21Lと摺動部材21Rとの間に介在しつつ摺動ブロック72L及び摺動ブロック72Rを介して摺動部材21L及び21Rを摺動可能に保持する機能を有している。すなわち、摺動部21aLは、摺動溝21gLの中に受け入れた摺動ブロック72Lによって支持され、摺動ブロック72Lに対して復帰可能に後退できるようになっている。後退方向は、たとえば、図10において紙面表から裏方向であり、復帰方向はその逆方向である。摺動部21aLの摺動復帰は、そのまま摺動部材21L全体の摺動復帰である。上記作用は、摺動部材21Rについても同じであり、摺動部材21Rは摺動部材21Lから独立して後退復帰可能に構成してある。摺動部材21L(カム部21bL)と背面カバー6との間には、付勢部材であるコイルバネ13Lを配してある。カム部21bLは、たとえば、図15(a)に示すように、テーパカム面21tLを含めた逆さU字の左半分に類似した断面形状を有していて、その頂部から折り返し方向(コイルバネの縮む方向)に支持突起21pLを備えている。支持突起21pLは、コイルバネ13Lの一端側中空部にこれを差し込み、他端側中空部に背面カバー6から突き出る支持突起6pL(図4を併せて参照)を差し込むことによってこのコイルバネ13Lを伸縮自在に支持するためのものである。コイルバネ13Lは、摺動部材21Lが後退させられたときに縮み、後退から開放されたときにその復帰力(付勢力)によって摺動部材21Lを元の位置に復帰させる機能を有している。
【0030】
(操作アームの構造)
図2乃至5を参照しながら、操作アームの構造について説明する。操作アーム9は、細長い板状のアーム本体9aと、アーム本体9aの途中を幅広に構成したフランジ部9bと、アーム本体9aの操作端側に固定したノブ9cと、アーム本体9aの作用端9d側に固定したカムピン11と、から概略構成してある。アーム本体9aの一部とノブ9cは、図2及び3に示すように、外部から操作可能となるように取付ケース3(スイッチケース5)に取り付ける。フランジ部9bには、前述した長孔9hを貫通形成してある。長孔9hは、操作アーム9を揺動させるときの中心となる枢軸5aを貫通させるための孔である。長孔9hは、操作アーム9の長さ方向(後退復帰方向)に長く形成してあり、これが、枢軸5aに対する操作アーム9の後退復帰を許容する。さらに、長孔9h周縁は、操作アーム9の後退復帰量、ひいては、摺動部材の後退復帰量を規制する機能も併せ持つ。アーム本体9aの作用端9dは、操作アーム9を揺動させたときにテーパカム面21tL,21tRと接触しないように先細りさせてある。先細りさせた作用端9dの先端近傍から、上述したカムピン11を下方向に突き出させてある。以上の構成を備える操作アーム9は、スイッチケース5に設けた枢軸5aの周りを往復揺動可能、かつ、長孔9hが許容する範囲でケース内部15内に復帰可能に後退するようになっている。なお、上記した往復揺動及び後退復帰については、常にコイルバネ13L,13Rの付勢力が作用している。付勢力の作用については、後述する本実施形態の作用効果の欄で詳述する。なお、図16に示すように、フランジ部9bの三角突起5pL(前述した摺動部材の構造の欄参照)と対向する部位には、顎部9pLを形成してある。顎部9pLは、中立位置にあるときは当接しないが操作アーム9が左折用揺動位置(左折用スイッチ41Lを閉鎖できる位置)にあるときに角突起5pLの当接斜面5´pLと当接可能な当接斜面9´pLを有している。当接斜面9´pLが当接斜面5´pLとは、両者が当接することによって、操作アーム9を左折用揺動位置を超えて揺動するのを阻止する(換言すれば、左折用揺動位置を決定する)とともに、揺動した操作アーム9をスイッチケース5内に後退することを併せて阻止する機能を有している。詳細な説明は省略するが、操作アーム9が右折用揺動位置(右折用スイッチ41Rを閉鎖できる位置)にあるときの三角突起5pR(当接斜面5´pR)及び顎部9pR(9´pR)についても、上記同様の機能を有している。
【0031】
(カム機構の構造と作用効果)
図5及び図13乃至18を参照しながら、カム機構の構造及び揺動時における作用効果について説明する。図13乃至16は、図12に示すスイッチ装置のA−A、B−B、C−C及びD−D断面図であって、それぞれの操作アームを中立位置(a)から左折用揺動位置(b)まで揺動させた状態を示すものである。図17は、図12に示すスイッチ装置のA−A(a)及びB−B(b)断面図、図18は、同じくC−C(c)及びD−D(d)断面図であって、それぞれ操作アームを後退させた状態(キャンセル状態)を示す図である。なお、以下の説明において図13乃至16を引用する場合は、逐次図面番号を表示せずに、適宜「中立位置」「揺動位置」という。
【0032】
カム機構31L(カム機構31R)は、摺動部材の構造及び操作アームの構造の説明の中で述べたように、テーパカム面21tL(テーパーカム面21tR)と、操作アーム9と一体に動くカムピン11と、により構成してある。ここで、図外の操作者が中立位置から揺動位置まで操作アーム9を揺動させると、接触子であるカムピン11がテーパカム面21tLを押して左折用の摺動部21aL(摺動部材21L)をケース内部15の中に後退させる。操作アーム9の揺動によってカムピン11は円弧運動(図16(b)に示す双方向矢印)をするが、その円周接線方向に作用する揺動力は当接したテーパカム面21tLによって分割され、この分割によって生じた後退方向の分力がコイルバネ13Lの付勢力に抗しながら摺動部材21Lを後退させる。操作者が操作アーム9の操作を止めるとコイルバネ13Lの付勢力が摺動部材21Lを反後退方向に復帰させ、摺動部材21Lの復帰がテーパカム面21tLとカムピン11を介して操作アーム9を中立位置に復帰させる。上記作用効果は左折用について説明したが、右折用についても右と左が異なるだけで他は同じである。上述した説明から理解されるように、カムピン11の揺動範囲がテーパカム面21tL,21tRに挟まれたV字類似形状の領域に限られるから、摺動部材21Lの幅寸法を超えてカムピン11が揺動することはない。このことは、スイッチ装置1全体の小型化のためにたいへん重要である。
【0033】
操作アーム9の揺動に伴う摺動部材21Lの後退は、第1後退位置(図15(b)に示すFirst Position)まで行われる。第1後退位置は、操作アーム9の揺動範囲の設置やカム機構31Lの駆動範囲の設計等を通じて設定する。第1後退位置までの後退によって、図13(a)に示す中立位置では開放状態にあった左折用スイッチ41L(可動スイッチ片41mL,固定スイッチ片41fL)が閉鎖(オン)され(図13(b)参照)、この閉鎖状態は摺動部材21Lの復帰によって再び開放される(図13(a)参照)。上記左折用スイッチの再開放は可動スイッチ片41mLと固定スイッチ片41fLとの接触が解除されるという意味であって、電気的開放(オフ)は後述する点灯制御ユニット81の機能によって行われる。
【0034】
次は、図13及び17を参照しながら、キャンセル時におけるカム機構の作用効果について説明する。中立位置にある操作アーム9には両摺動部材21L,21R(テーパカム面21tL,21tR)及びカムピン11を介して両コイルバネ13L,13Rの付勢力が働いている。このため、操作アーム9は、常に反後退方向(復帰方向、図15(a)の上方向)に付勢され、長孔9hの後退側周縁部分(摺動部材に最も近い周縁部分)が枢軸5aに押し付けられた状態になっている。このため、長孔9hを介した支持であっても、操作者による後退方向の力を受けない限り枢軸5aに対して操作アーム9が不安定になることはない。他方、後退方向の力を受けたときは、摺動部材21L,21Rに最も遠い部分の長孔9hの周縁が枢軸5aと当接する。摺動部材21L,21Rと最も遠い部分の長孔9h周縁の当接が、操作アーム9のそれ以上の後退を阻止する。長孔9hは、摺動部材21L,21Rを後述する第2後退位置を超えて後退させないようにする働きを担っている。第2後退位置(図18(c) Second Position)とは、中立位置にある操作アーム9を両コイルバネ13L,13Rの付勢力に抗しながら押し込むことによって、両摺動部材21L,21Rが後退できる限界位置のことをいう。操作アーム9から見た第2後退位置は、ケース内部15において第1後退位置よりも浅い位置にある。浅い位置に設定したのは、第1後退位置までの後退を許すと摺動部材21L、21Rが左折用スイッチ41L、右折用スイッチ41Rを閉鎖させてしまうので、第1後退位置まで至らないように、すなわち、後退不能とするためである。両摺動部材21L,21Rが第2後退位置まで後退させられると、キャンセルスイッチ51L(可動スイッチ片51mL、固定スイッチ片51fL)が閉鎖(オン)され(図17(b)参照)、このキャンセルスイッチ51Lは両摺動部材21L,21Rの復帰によって開放(オフ)される。なお、第1後退位置に至るためには第2後退位置を通過することになるから、操作アーム9を、たとえば、左折揺動位置まで揺動させたときの摺動部材21Lはキャンセルスイッチ51Lを閉鎖させてから右折用スイッチ41Lを閉鎖させ、さらに、復帰するときに再度キャンセルスイッチ51Lを稼働させてしまうことになるが、前述した摺動部材の構造の欄で述べたように、キャンセルスイッチ51は、可動スイッチ片51mLと可動スイッチ片51mRとが同時に移動させられたときにのみ閉鎖状態になるのであって、いずれか一方のみが移動させられたとしても開放状態のままである。したがって、操作アーム9を、たとえば、左折用揺動位置まで揺動させれば可動スイッチ片51mLは移動するが可動スイッチ片51mRは移動しないからキャンセルスイッチ51は依然として開放状態にある。よって、キャンセル機能が作動することにはならない。
【0035】
(点灯制御ユニットの構造及び機能)
図20を参照しながら、点灯制御ユニットの構造及び機能について説明する。図20は、スイッチ装置やウインカー等を接続した点灯制御ユニットの概略構成図である。点灯制御ユニット81は、上述したスイッチ装置1と電気的接続可能に構成してある。可能であればスイッチ装置1の内部に組み込んでもよいし、外部に設置してもよい。点灯制御ユニット81には、ワンチップマイコンによって構成した制御部83と、車両の右左折を検知するためのステアリングセンサー(stearing sensor)85を備えている。制御部83は、スイッチ装置1の左折用スイッチ41L,右折用スイッチ41R及びキャンセルスイッチ51の開閉によって、車両の左折用ウインカーWL及び右折用ウインカーWRの点灯消灯を制御するようにプログラムしてある。ステアリングセンサーの変わりにバンクアングルセンサーやタイマー等を使用することも可能である。
【0036】
図21は、点灯制御ユニットの動作手順を示すフローチャートである。同フローチャートにおいては、表示を簡素化するために、左折用スイッチ41LをSW−Lと、右折用スイッチ41RをSW−Rと、キャンセルスイッチ51をSW−Cと、さらに、ステアリングセンサー85をSsと、それぞれ表示してある。プログラムスタートにより制御部83は、SW−Lがオンされているか否かを確認する(S1)。ここで、SW−LがオンされていないときはSW−Rがオンされているかどうかを確認し(S15)、オンされていればWRを点灯させる(S17)。S15における確認の結果、オンされていなければスタートに戻る。S1に戻りSW−LがオンされているときはWLをオンさせる(S3)。S3においてWLを点灯させたとき、又は、S17においてWRを点灯させたときは、Ssからの信号の有無を確認する(S5)。S5において、Ssからの信号によって左折又は右折の完了を確認したときはWL又はWRを消灯させる(S11)。S5においてSsからの信号を確認しなかったときはSW−Cがオンされているか否かを確認する(S7)。S7における確認の結果、オンされていればS9へ進み、そのとき点灯しているWL又はWRを消灯させてから、スタートに戻る。S7における確認の結果、オンされていなければS5へ戻る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スイッチ装置の正面図である。
【図2】図1に示すスイッチ装置のX−X断面図である。
【図3】図2に示すスイッチ装置のY−Y断面図である。
【図4】取付ケース3を省略したスイッチ装置の分解斜視図である。
【図5】摺動部材の拡大斜視図である。
【図6】摺動部材の拡大斜視図である。
【図7】スイッチ装置の左側面図である。
【図8】図7に示すスイッチ装置のN―N断面図である。
【図9】スイッチ装置の右側面図である。
【図10】図9に示すスイッチ装置のE−E断面図である。
【図11】図9に示すスイッチ装置のI−I断面図である。
【図12】スイッチ装置の正面図(操作レバーのノブ側から見た図)である。
【図13】図12に示すスイッチ装置のA−A断面図である。
【図14】図12に示すスイッチ装置のB−B断面図である。
【図15】図12に示すスイッチ装置のC−C断面図である。
【図16】図12に示すスイッチ装置のD−D断面図である。
【図17】図12に示すスイッチ装置のA−A(a)及びB−B(b)断面図である。
【図18】図12に示すスイッチ装置のC−C(c)及びD−D(d)断面図である。
【図19】枢軸の他の形態を示す拡大斜視図である。
【図20】スイッチ装置やウインカー等を接続した点灯制御ユニットの概略構成図である。
【図21】点灯制御ユニットの動作手順を示すフローチャートである。
【図22】従来装置を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 スイッチ装置
3 取付ケース
3a 開口部
3h 取付孔
5 スイッチケース
5a,5´a 枢軸
5c 天板
5pL,5pR 三角突起
5´pL,5´pR 当接斜面
5wL,5wR 側壁
6 背面カバー
6g 縦溝
6pL,6pR 支持突起
7 固定ボルト
7a ボルト本体
7b ヘッド部
7c 座金
9,9´ 操作アーム
9a アーム本体
9c ノブ
9b フランジ部
9d 作用端
9h,9´h 長孔
11 カムピン
13L,13R コイルバネ(付勢部材)
15 ケース内部
21L,21R 摺動部材
21aL,21aR 摺動部
21bL,21bR カム部
21dL,21dL 凹部
21gL,21gR 摺動溝
21jL,21jR 背面板
21pL,21pR 支持突起
21sL,21sR 第1スイッチ保持部
21cL 第2スイッチ保持部
21tL,21tR テーパカム面
31 カム機構
41L 左折用スイッチ(第1スイッチ)
41R 右折用スイッチ(第2スイッチ)
41mL,41mR 可動スイッチ片
41fL,41fR 固定スイッチ片
51 キャンセルスイッチ(第3スイッチ)
51mL,51mR 可動スイッチ片
51e 共通スイッチ片
51fL,51fR 固定スイッチ片
71 縦隔壁
72L,72R 摺動ブロック
81 点灯制御ユニット
101 従来装置
102 ノブ
103 支軸
104 揺動板
105 揺動尾部
H ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内部を有するスイッチケースと、
当該スイッチケースに設けた枢軸と、
当該枢軸を中心として中立位置両側の第1又は第2揺動位置まで往復揺動可能な操作アームと、
当該スイッチケースに対して当該操作アームの後退復帰方向と略同方向に復帰可能に後退可能となるように当該ケース内部に並列配置した一対の摺動部材と、
当該操作アームと当該摺動部材各々との間に形成したカム機構と、
当該摺動部材各々を復帰方向に付勢するための一対の付勢部材と、
当該摺動部材各々が第1後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される第1スイッチ及び第2スイッチと、を含めて構成してあり、
当該カム機構が、当該操作アームを第1揺動位置又は第2揺動位置まで揺動させることによって対応する摺動部材を対応する付勢部材の付勢力に抗しながら当該第1後退位置まで復帰可能に後退させられるように構成してある
ことを特徴とする車両用スイッチ装置。
【請求項2】
前記操作アームが、中立位置にあるときに、前記往復揺動可能に併せて当該ケース内部に復帰可能に後退可能となるように構成してあり、
当該操作アームを後退させることによって前記摺動部材両者を前記付勢部材両者の付勢力に抗しながら前記第1後退位置よりも浅い第2後退位置まで後退可能に構成してあり、
当該摺動部材両者が当該第2後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される第3スイッチを設けてある
ことを特徴とする請求項1記載の車両用スイッチ装置。
【請求項3】
前記枢軸が、前記スイッチケースの代わりに前記操作アームに設けてあり、
当該スイッチケースが、当該操作アームを、中立位置両側の第1揺動位置又は第2揺動位置まで往復揺動可能、かつ、中立位置にあるときに当該ケース内部に復帰可能に後退可能となるように保持可能に構成してある
ことを特徴とする請求項2記載の車両用スイッチ装置。
【請求項4】
前記摺動部材各々には、並列配置したときに前記操作アームに向かって開口するV字類似形状を形成可能なテーパカム面を形成してあり、
当該操作アームには、当該テーパカム面と接触可能に構成した接触子を設けてあり、
当該テーパカム面及び当該接触子によって前記カム機構を構成してある
ことを特徴とする請求項2又は3記載の車両用スイッチ装置。
【請求項5】
前記操作アームには、前記枢軸を貫通させるための長孔を形成してあり、
当該長孔が、当該操作アームが当該枢軸に対して後退復帰方向に移動可能に形成してあり、かつ、前記摺動部材両者が前記第2後退位置を超えて後退不能となるように当該操作アームの後退移動量を規制可能に構成してある
ことを特徴とする請求項2又は4記載の車両用スイッチ装置。
【請求項6】
左折用ウインカー及び右折用ウインカーを少なくとも制御するために点灯制御ユニットと電気的接続可能に構成してあり、
当該点灯制御ユニットが、前記第1スイッチの閉鎖が当該左折用ウインカー点灯の、前記第2スイッチの閉鎖が当該右折用ウインカー点灯の、それぞれ契機となるように構成してある
ことを特徴とする請求項1記載の車両用スイッチ装置。
【請求項7】
左折用ウインカー及び右折用ウインカーを少なくとも制御するために点灯制御ユニットと電気的接続可能に構成してあり、
当該点灯制御ユニットが、前記第1スイッチの閉鎖が当該左折用ウインカー点灯の、前記第2スイッチの閉鎖が当該右折用ウインカー点灯の、それぞれ契機となるように、かつ、前記第3スイッチの閉鎖が点灯中の左折用ウインカー又は右折用ウインカーの点灯制御をキャンセル可能に構成してある
ことを特徴とする請求項2乃至5何れか記載の車両用スイッチ装置。
【請求項8】
点灯制御ユニットと電気的に接続して右折用ウインカー及び左折用ウインカーを少なくとも制御するための車両用スイッチ装置であって、
ケース内部を有するスイッチケースと、
当該スイッチケースに設けた枢軸と、
当該枢軸を中心として中立位置両側の左折用又は右折用揺動位置まで往復揺動可能、かつ、中立位置にあるときに当該ケース内部に復帰可能に後退可能な操作アームと、
当該スイッチケースに対して当該操作アームの後退復帰方向と略同方向に復帰可能に後退可能となるように当該ケース内部に並列配置した一対の摺動部材と、
当該操作アームと当該摺動部材各々との間に形成したカム機構と、
当該摺動部材各々を復帰方向に付勢するための一対の付勢部材と、
当該摺動部材各々が第1後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放される左折用スイッチ及び右折用スイッチと、
当該両摺動部材が当該第1後退位置よりも浅い第2後退位置まで後退させられることによって閉鎖され、復帰によって開放されるキャンセルスイッチと、を含めて構成してあり、
当該カム機構が、当該操作アームを右折用揺動位置又は左折用揺動位置まで揺動させることによって対応する摺動部材を対応する付勢部材の付勢力に抗しながら当該第1後退位置まで復帰可能に後退させ、かつ、中立位置にある当該操作アームを後退させることによって当該摺動部材両者を当該付勢部材両者の付勢力に抗しながら当該第2後退位置まで後退させられるように構成してある
ことを特徴とする車両用スイッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−91289(P2008−91289A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273735(P2006−273735)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000222934)東洋電装株式会社 (69)
【Fターム(参考)】