説明

車両用フレーム構造

【課題】
車両に必要な剛性を充分に確保でき、且つ、衝突時に発生するフレームに生じる後半減速度を充分に低減することで、車室内の空間圧迫を抑制する車両用フレーム構造を提供すること。
【解決手段】
本発明の車両用フレーム構造は、車体の前部でパワーユニット(10)の左右両側に配設される一対のフロントサイドフレーム(2)と、車両衝突時に上記パワーユニットに作用する車体前後方向の荷重を車幅方向の荷重に変換して上記フロントサイドフレームに伝達する荷重伝達手段(8)とを備え、上記パワーユニットが後方に移動した際に、上記荷重伝達手段が上記パワーユニットとの当接により、上記フロントサイドフレームに上記車両の進行方向に対して略直交する方向への変形を促すことで、衝突時に発生するフレームに生じる後半減速度を低減させ、車室内の空間圧迫を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に必要な剛性を充分に確保でき、且つ、衝突時に発生する車両に生じる後半減速度を低減する車両用フレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に使用される車体には、フレームとしてプレス成形等によって所望の形状に加工された複数のパネル部品が組付けられている。また、このフレームは、車重、パワーユニットなどを支持する車体の骨格となっている。
【0003】
特に、フロント部のフロントサイドフレームは、重量の大きいパワーユニットを支持するため充分な剛性を備える必要がある。さらに、フロントサイドフレームは、サスペンションと連結されるサスペンションクロスメンバを支持するものであるため、車両の操縦安定性、乗り心地、振動対策などに大きく寄与する。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1には、フロントサイドフレームの剛性を向上させる技術として、軸線方向に延在し、かつ内側に凸状をなすビードを形成する技術が開示されており、さらに、ビードの数や深さ(高さ)の設定により、強度バランスを確保すると共に、衝突時の座屈強度を確保する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平08‐108863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、車両の衝突時、特に、衝突後半に発生する減速度が高くなり、衝突エネルギをフロントサイドフレームで充分に吸収することが困難となる虞がある。そのため、衝突によるエネルギを受けたパワーユニットが後退して、車室内の空間を圧迫してしまう虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑み、剛性を充分に確保した場合にも、衝突時にフレームに生じる後半減速度を充分に低減して、車室内の空間圧迫を抑制する車両用フレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用フレーム構造は、車体の前部でパワーユニットの左右両側に配設される一対のフロントサイドフレームと、車両衝突時に上記パワーユニットに作用する車体前後方向の荷重を車幅方向の荷重に変換して上記フロントサイドフレームに伝達する荷重伝達手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両に必要な剛性を充分に確保でき、且つ、衝突時に発生するフレームに生じる後半減速度を充分に低減することで、車室内の空間圧迫を抑制する車両用フレーム構造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1〜図8は、本発明の第1実施形態に係わり、図1はボディーシェルの概要を説明する全体斜視図、図2は車体前部を上方から見た平面図、図3はフロントサイドフレームに設けられる接触部を説明する斜視図、図4はパワーユニット、及びフロントサイドフレームに設けられる接触部を車体上方から見た平面図、図5は前面前面(フルラップ)衝突後0mmsec時における車体前部を上方から見た平面図、図6は前面(フルラップ)衝突後30mmsec時における車体前部を上方から見た平面図、図7は前面(フルラップ)衝突後60mmsec時における車体前部を上方から見た平面図、図8は図5〜図7に対応した前面(フルラップ)衝突時の減速度−移動量(フロントサイドフレーム先端部の変位)の関係を示すGS線図である。
【0011】
図1において、車体1の前部には、左右一対のフロントサイドフレーム2がそれぞれ前後方向に沿って延設されている。また、フロントサイドフレーム2の後方には、左右一対のフロントピラー3,センタピラー5、及び、リヤピラー7が順次配設され、これらの上端部が、車体1の上部で左右のルーフレール6を介してそれぞれ一体に連結されている。また、左右の各ピラー3,5,7の下端部は、車体1の下部に配設される左右のサイドシル4を介してそれぞれ一体に連結され、さらに、車幅方向に架設する各種クロスメンバ等を介して、フロントサイドフレーム2に連結されている。そして、各ピラー2,5,7、サイドシル4、及び、ルーフレール6等の連結により、フロントサイドフレーム2の後方には、車室を形成するボディーシェルが構成されている。
【0012】
図2に示すように、左右のフロントサイドフレーム2間には、パワーユニット10が配設されている。本実施形態において、パワーユニット10は、例えば、水平対向型のエンジン10aとトランスミッション10bとが車体1の前後方向に一体的に配設される所謂縦置き式のパワーユニットで構成され、エンジン10aは、フロントサイドフレーム2間に架設するサスペンションクロスメンバに、図示しない一対のエンジンマウントを介して支持されている。ここで、本実施の形態において、エンジン10aの左右各バンクの後部には、車両の衝突時に後述する加重伝達手段である接触部8と当接する当接面10cが配設されている。
【0013】
図3に示すように、各フロントサイドフレーム2は、プレス成形等によって例えば断面ハット形状に形成された少なくとも2枚の板金部材(アウタパネル2d及びインナパネル2e)を有し、これらパネル2d,2eは、各々に形成されるフランジ2b同士が複数のスポット溶接部2cで溶着されることにより接合されている。なお、本実施形態において、パネル2d,2e間には、図示しないリンフォースメント等が介装されており、これにより、フロントサイドフレーム2の剛性が確保されている。 各フロントサイドフレーム2の前部には、車両の衝突時に車体前方から作用する衝突エネルギを圧潰により吸収するためのクラッシュフレーム部2aが設定されている。本実施形態において、クラッシュフレーム部2aは、例えば、フロントサイドフレーム2の周方向に沿う複数のビード(図示せず)を、アウタパネル2d或いはインナパネル2eの何れかの部位に形成し、その部分のみ強度を局所的に低下させることにより設定されている。
【0014】
また、クラッシュフレーム部2aの後方において、各フロントサイドフレーム2には、エンジン10aの後部にそれぞれ対向する荷重伝達手段としての接触部8が設けられている。この接触部8は、例えば、図3に示すように、各フロントサイドフレーム2の車幅方向内側に突設される略三角柱形状をなす張高力鋼などの硬質な金属部材からなり、エンジン10aの当接面10cに当接可能に対向する当接面8aと、この当接面8aよりも車体後方側でフロントサイドフレーム2に圧接可能なフレーム圧接部8bと、フロントサイドフレーム2の上下面に夫々延出する2つのアーム部8cとを有している。
【0015】
接触部8は、アーム部8cがフロントサイドフレーム2に対してボルトなどの固定部材9により回動支持されている。また、フレーム圧接部8bは、接触部8の上面から見たときの2つの側面の成す角が鋭角な楔形状に設定されている。
【0016】
以上の構成において、車両が、オフセット衝突、或いは前面衝突(フルラップ衝突)すると、後退するパワーユニット10(エンジン10aの当接面10c)が接触部8の当接面8aに当接し、該パワーユニット10に作用する荷重が接触部8に伝達される。これにより、接触部8は、固定部材9の軸回りに回動し、フレーム圧接部8bを通じてフロントサイドフレーム2の内側面を押圧する。すなわち、接触部8は、パワーユニット10に作用する車体1前後方向の荷重を車幅方向外側への荷重に変換してフロントサイドフレーム2に伝達する。そして、この車幅方向外側の荷重によって、フロントサイドフレーム2の中途は、外側に拡開する方向に折曲する。このように、接触部8は、車両衝突時にパワーユニット10から伝達される荷重によって、フロントサイドフレーム2に対し、所謂ベンダとして機能する。
【0017】
詳述すると、図4に示すように、車両の衝突時において、衝突エネルギを受けたパワーユニット10は、車体1の後方である矢印A1方向に移動する。そして、接触部8は、パワーユニット10(エンジン10a)の当接面10cが当接面8aに当接し、後方側へのエネルギを受けることによって固定部材9の軸回りである矢印R1方向へ回動する。
【0018】
これにより、フレーム圧接部8bは、フロントサイドフレーム2の側面を矢印A2方向へ押圧する。こうして、このフレーム圧接部8bの押圧荷重がきっかけとなって、フロントサイドフレーム2は、前方からフロントサイドフレーム2に作用している衝突エネルギにより、車幅方向外側へ折曲変形し、衝突エネルギを吸収する。
【0019】
更に詳しく、図5〜図8を参照して、所定の速度で走行する車両の前面(フルラップ)衝突(以下、単に衝突という場合もある)時における、フロントサイドフレーム2の変形状態例を例えば、0mmsec〜60mmsecまでの時系に沿って説明する。尚、図8に示す実線が本願のフロントサイドフレーム2の減速度−移動量を示し、破線が接触部8を持たないフロントサイドフレームの減速度−移動量を示している。
【0020】
図5、及び図6に示すように、例えば、衝突後0mmsec時から衝突後30mmsecでは、フロントサイドフレーム2のクラッシュフレーム部2aが前方からの衝突エネルギを吸収しながら圧潰される。尚、フロントサイドフレーム2には、クラッシュフレーム部2aの後部に、該クラッシュフレーム部2aが安定して圧潰できるだけの支持抗力が設定されている。
【0021】
この衝突後0mmsec〜30mmsecでは、図8に示すように、フロントサイドフレーム2の先端部(クラッシュフレーム部2aの先端)が車体前後方向に沿った移動量0mm〜移動量S1まで移動(変位)する過程で、車体には移動量S1で最大の減速度G1が発生する(図中の点P1)。
【0022】
その後、クラッシュフレーム部2aの圧潰が限界に達すると、パワーユニット10が衝突部から直接的に衝突エネルギを受けて圧潰減速度が低下すると共に、パワーユニット10が後退し始める。このとき、エンジン10aの当接面10cが接触部8の当接面8aに当接し、フロントサイドフレーム2は、図7に示すように、車幅方向外側へ折れ曲がるように変形する。
【0023】
この衝突後60mmsecでは、図8に示すように、フロントサイドフレーム2の先端部が移動量S2まで移動する過程で、車両には移動量S2で減速度G2が発生する(図中の点P2)。この減速度G2は、移動量S1での減速度G1よりも小さい(G2>G1)。その後、減速度が低下して、車両が停止する。
【0024】
つまり、フロントサイドフレーム2は、接触部8により車幅方向外側へ折れ曲がるきっかけが与えられ、前方からの衝突エネルギを外側方向への変形により吸収することができる。その結果、フロントサイドフレーム2は、後方部分が突っ張ることがなく効率よく衝突エネルギを吸収しながら変形し、衝突後期において車体1にかかる減速度の急激な増加を抑制することができる。尚、以上の説明は、車両の前面(フルラップ)衝突について言及したが、車両のオフセット衝突においても同じ効果を得ることができる。
【0025】
その一方で、図8に破線で示すように、接触部8を設けていないフロントサイドフレームでは、衝突前期の減速度は接触部8を備えたフロントサイドフレーム2と略同じ軌跡を辿るものの、衝突後期においては、フロントサイドフレームが突っ張ってしまい衝突エネルギが効率よく吸収されないため、移動量S2での減下速度G3が移動量S1での減下速度G1よりも上回ってしまう。その結果、衝突エネルギを受けたパワーユニット10が後方の車室側へ移動する移動量が大きくなり、車室内の空間を圧迫する原因となる。
【0026】
以上のように、本実施形態の車両用フレーム構造は、フロントサイドフレーム2に接触部8を設けることで、衝突後期に発生する減速度の急増を充分に抑制しつつ衝突エネルギを効率よく吸収することができ、車室内の空間圧迫を抑制することができる。
【0027】
特に、フロントサイドフレーム2の剛性を高く設定した場合にも後方部分が衝突時に接触部8によって容易に変形し衝突エネルギを吸収できる構造であるため、高レベルな操縦安定性、乗り心地、及び振動性能と、衝突時の的確な車室内空間の確保とを両立することができる。
【0028】
また、固定部材9によって接触部8をフロントサイドフレーム2に回動自在に支持するとともに、フレーム圧接部8bを鋭角な楔形状に設定することにより、衝突時にパワーユニット10から接触部8に入力される荷重を効率よくフロントサイドフレーム2に伝達することができ、フロントサイドフレーム2を確実に折曲させることができる。
【0029】
以上述べた本実施形態の車両用フレーム構造は、フロントサイドフレーム2に設けられる接触部8を変形、或いは変更して、図9〜図18に示すような構成としても良い。尚、図9は、第1の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部、及びパワーユニットを車体上方から部分的に見た平面図、図10は第2の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接続ワイヤ、及びパワーユニットを車体上方から部分的に見た平面図、図11は第3の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図、図12第4の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図、図13は第5の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図、図14は第6の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図、図15、及び図16は第7の変形例に係るクロスメンバと一体的に設けられる接触部を示す斜視図、図17は第8の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図、図18は第9の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【0030】
図9に示すように、第1の変形例となる車両用フレーム構造において、エンジン10aの当接面10c、及びフロントサイドフレーム2に設けられる接触部8の当接面8aには、キャッチャ構造となる鉤状の凹凸10d,8dが夫々形成されていている。これにより、当接面10c、及び当接面8aは、凹凸10d,8dにより、衝突時に確実に掛合する。従って、衝突エネルギが与えられたパワーユニット10により接触部8を確実に干渉することができ、衝突時に発生する衝突エネルギを吸収すべくフロントサイドフレーム2を外側方向に変形させるきっかけを確実に与えることができる。
【0031】
図10に示すように、第2の変形例となる車両用フレーム構造において、フロントサイドフレーム2には、接触部8に代えて、該フロントサイドフレーム2とエンジン10aの後端部とを連結する荷重伝達手段としての接続ワイヤ12が設けられている。この接続ワイヤ12のフロントサイドフレーム2との接続位置は、パワーユニット10との接続位置よりも前方に設定されている。
【0032】
これにより、衝突エネルギが与えられたパワーユニット10が後方に移動した際には、接続ワイヤ12はフロントサイドフレーム2を車幅方向内側に牽引し、フロントサイドフレーム2の横方向への変形のきっかけを付与する。すなわち、本変形例において、接続ワイヤ12は、車両衝突時にパワーユニット10に作用する車体1前後方向の荷重を車幅方向内側の荷重に変換してフロントサイドフレーム2に伝達する
図11に示すように、第3の変形例となる車両用フレーム構造において、荷重伝達手段としての接触部13は、衝突時にパワーユニット10(エンジン10a)の当接面10cと当接する当接面13aと、スポット溶接などの溶着部14aによりフロントサイドフレーム2の上下面と接合される接合面13bと、当接面13aの縁辺部に設けられるスポット溶接などの溶着部14bによりフロントサイドフレーム2のパワーユニット10側の側面と接合されるフランジ13cと、を有している。すなわち、接触部13は、板金部品をプレス成形などにより、略コの字状に形成した部材であって、フロントサイドフレーム2と一体的に接合されている。
これにより、接触部13を、板金部品により安価に構成することができる。
【0033】
図12に示すように、第4の変形例において、荷重伝達手段としての接触部15は、フロントサイドフレーム2に一体形成されている。具体的に説明すると、この接触部15は、フロントサイドフレーム2のパワーユニット10側の内側面(すなわち、インナパネル2e)にプレスなどにより一体的に突出成形され、パワーユニット10(エンジン10a)との対向面が接触面15aとして設定されている。
このように構成された第4の変形例の車両用フレーム構造においては、接触部15の強度をより高めることができ、フロントサイドフレーム2の外側方向への変形のきっかけがより確実に与えられる構成となっている。
【0034】
図13に示すように、第5の変形例において、フロントサイドフレーム2は、断面略コの字状に形成されたアウタパネル2dと、略平板状に形成されたインナパネル2eとを有する。これら各パネル2d,2eは、各々の縁辺部に形成されたフランジ2b同士が複数のスポット溶接部2cで溶着されることにより接合される。このフロントサイドフレーム2を構成するアウタパネル2dからは、略三角形状をなす上下一対の延出部16が車幅方向内側に延出されている。また、一対の延出部16の間には、パワーユニット10(エンジン10a)の当接面10cに対向する当接板17が配設され、この当接板17は、各延出部16に沿って折曲形成された一対のフランジ17aと、インナパネル2eに沿って折曲形成されたフランジ17bとを備える。
【0035】
そして、当接板17の各フランジ17aがスポット溶接等によって各延出部16に接合され、フランジ17bがスポット溶接等によってインナパネル2eに接合されることにより、フロントサイドフレーム2には、エンジン10aの当接面10cに、当接板17(当接面)が対向する荷重伝達手段としての接触部が一体的に構成される。
また、図14に示すように、第6の変形例において、第5の変形例の当接板17に代えて、2つの延出部16の車両前方となる各一辺部を板面と略直交する方向に溶着、或いはボルトにより固定された荷重伝達手段としての棒部材18を設けても良い。
【0036】
図15に示すように、第7の変形例において、荷重伝達手段としての接触部19は、左右のフロントサイドフレーム2に架設するクロスメンバ20に一体形成されている。この接触部19は、パワーユニット10の当接面10cと当接可能に対向する当接面19aがクロスメンバ20の前端面と同一面上に形成されている。また、接触部19からは、フロントサイドフレーム2に当接するフランジ19bが延設され、各フランジ19bをフロントサイドフレーム2に溶着することで接触部19の強度が確保されている。ここで、図16に示すように、接触部19をクロスメンバ20の上面から突出するように形成し、当接面19aをクロスメンバ20の前端面とは異なる位置に形成しても良い。
【0037】
図17に示すように、第8の変形例において、荷重伝達手段としての接触部22は、パワーユニット10の当接面10cと対向する位置で、フロントサイドフレーム2から車幅方向内側に突設する棒部材で構成されている。この接触部22は、フロントサイドフレーム2を構成するアウタパネル2d及びインナパネル2eの側面に貫通支持され、各パネル2d,2eにそれぞれスポット溶接等により固設する固定部材22a,22bによって強固に固定されている。
【0038】
このような構成により、棒部材をフロントサイドフレーム2に固設するという簡単な構成で、接触部22を実現することができる。
【0039】
図18に示すように、第9の変形例において、フロントサイドフレーム2は、車体前後方向に分割形成されており、これらを一体となるように接合するフランジ23を荷重伝達手段としての接触部として機能させる構成である。すなわち、このフランジ23は、車幅方向内側に突出する領域のフランジ幅が長く設定され、この領域がパワーユニット10の当接面10cと当接可能に対向する当接面23aとして設定されている。
【0040】
(第2実施形態)
図19〜図22は、本発明の第2実施形態に係わり、図19は車両前方から見たパワーユニット、及びフロントサイドフレームを示す平面図、図20はパワーユニットをフロントサイドフレームで支持するエンジンマウントを説明する平面図、図21は車両前方から見たパワーユニット、及びフロントサイドフレームを示す平面図、図22はパワーユニットの動きを抑制するロール抑制部を説明する平面図である。尚、本実施形態は、パワーユニット10を支持する支持部材を荷重伝達手段として機能させる点が上述の第1の実施形態に対して主として異なる。その他、上述の第1実施形態と同様の構成については同じ符号を使用して、それらの構成の詳細説明は省略する。
【0041】
図19に示すように、本実施形態において、パワーユニット10の前部でエンジン10aを支持する支持部材であるエンジンマウント24は、フロントサイドフレーム2に直接的に固設支持されている。この荷重伝達手段としてのエンジンマウント24は、振動を吸収するクッションラバー25と、フロントサイドフレーム2との固定部であるブラケット部24aと、クッションラバー25を保持する受け部24bとを有する。
【0042】
図20に示すように、ブラケット部24aは、フロントサイドフレーム2の前後方向に沿った所定の長さを有し、その前後両端部2点がボルトなどの固定部材26a,26bによりフロントサイドフレーム2に固定されている。また、パワーユニット10は、エンジンマウント24の受け部24b、及びクッションラバー25と図示しない遮熱板を介して固定部材26cにより固定されている。
【0043】
本実施形態の車両用フレーム構造において、エンジンマウント24は、車両の衝突によりパワーユニット10(エンジン10a)に後方への衝突エネルギが与えられると、パワーユニット10を固定している固定部材26cに矢印A3方向へ力が働く。このとき、エンジンマウント24のブラケット部24aには、フロントサイドフレーム2の後方側を固定している固定部材26aに矢印A5方向、及びフロントサイドフレーム2の前方側を固定している固定部材26bに矢印A6方向へ力が働き、各固定部材26a〜26cを結ぶ領域の略中央回りの回転応力が働く。
【0044】
その結果、フロントサイドフレーム2は、後方側の固定部材26aで外側方向へ折れ曲がるきっかけが与えられ、前方からの衝突エネルギを外側方向への変形により吸収することができる。
【0045】
ここで、図21に示すように、フロントサイドフレーム2にパワーユニット10の車両の進行方向に対する横方向への動きであるローリングを抑制する支持部材であるローリング抑制機構を設け、この荷重伝達手段としてのローリング抑制機構により、衝突時のフロントサイドフレーム2の外側方向へ折れ曲がるきっかけを与えるようにしても良い。
【0046】
詳述すると、ローリング抑制機構は、図22に示すように、略3角形の板部材27と、この板部材27の各角部に設けられる振動を吸収するクッションラバー28a〜28cとを有する。
【0047】
このローリング抑制機構は、板部材27の2点の角部がフロントサイドフレーム2の延設方向に沿った上面にクッションラバー28a,28bを介して固定部材により連結され、板部材27の残りの角部がパワーユニット10とクッションラバー28cを介して固定部材により連結されている。
【0048】
このように構成された車両用フレーム構造において、車両の衝突によりパワーユニット10に後方への衝突エネルギが与えられると、クッションラバー28cが設けられた板部材27の角部に矢印A6方向へ力が働く。このとき、板部材には、残りの2つの角部に夫々、矢印A7、A8方向へ力が働き、略中央部回りの回転応力が働く。すなわち、クッションラバー28bを介して板部材27と連結されたフロントサイドフレーム2の位置で外側方向へ折れ曲がるきっかけが与えられ、前方からの衝突エネルギを外側方向への変形により吸収することができる。
【0049】
以上の結果、本実施形態のエンジンマウント24、或いはローリング抑制機構を有する車両用フレーム構造は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
尚、本発明は、以上述べた実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述の各実施形態においては、縦置き式のパワーユニットを搭載する構成の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、エンジンとトランスミッションが車幅方向に配設される横置き式のパワーユニットを搭載する構成にも適用が可能である。この場合、各フロントサイドフレームに衝突荷重を伝達するパワーユニット側の当接面を、トランスミッション等に設定してもよいことは勿論である。
【0050】
また、荷重伝達手段を車両のステアリングボックス、スタビライザ、タワーバー、バッテリブラケット、各種ブラケットなどに設けて、機能を統合しても良く、更には、エンジン10a側の荷重伝達手段と接触する部分を燃料プロテクタと機能を統合しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る第1実施形態のボディーシェルの概要を説明する全体斜視図である。
【図2】同、車体前部を上方から見た平面図である。
【図3】同、フロントサイドフレームに設けられる接触部を説明する斜視図である。
【図4】同、パワーユニット、及びフロントサイドフレームに設けられる接触部を車体上方から見た部分平面図である。
【図5】同、前面(フルラップ)衝突後0mmsec時における車体前部を上方から見た平面図である。
【図6】同、前面(フルラップ)衝突後30mmsec時における車体前部を上方から見た平面図である。
【図7】同、前面(フルラップ)衝突後60mmsec時における車体前部を上方から見た平面図である。
【図8】同、図5〜図7に対応した前面(フルラップ)衝突時の減速度−移動量(フロントサイドフレーム先端部の変位)の関係を示すGS線図である。
【図9】第1の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部、及びパワーユニットを車体上方から部分的に見た平面図である。
【図10】第2の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接続ワイヤ、及びパワーユニットを車体上方から部分的に見た平面図である。
【図11】第3の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図12】第4の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図13】第5の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図14】第6の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図15】第7の変形例に係るクロスメンバと一体的に設けられる接触部を示す斜視図である。
【図16】第7の変形例に係るクロスメンバと一体的に設けられる接触部を示す斜視図である。
【図17】第8の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図18】第9の変形例に係るフロントサイドフレームに設けられる接触部を示す斜視図である。
【図19】第2実施形態に係る車両前方から見たパワーユニット、及びフロントサイドフレームを示す平面図である。
【図20】同、パワーユニットをフロントサイドフレームで支持するエンジンマウントを説明する平面図である。
【図21】変形例となる車両前方から見たパワーユニット、及びフロントサイドフレームを示す平面図である。
【図22】同、パワーユニットの動きを抑制するローリング抑制機構を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・ボディーシェル
2・・・フロントサイドフレーム
8・・・接触部(荷重伝達手段)
8a・・・当接面
10・・・パワーユニット
10a・・・エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部でパワーユニットの左右両側に配設される一対のフロントサイドフレームと、
車両衝突時に上記パワーユニットに作用する車体前後方向の荷重を車幅方向の荷重に変換して上記フロントサイドフレームに伝達する荷重伝達手段と、を備えたことを特徴とする車両用フレーム構造。
【請求項2】
上記荷重伝達手段は、上記パワーユニットに対向して上記フロントサイドフレーム側に配設され、上記パワーユニットが後方に移動した際に該パワーユニットに当接する接触部であって、
上記接触部は、上記パワーユニットが当接した際に伝達される荷重を車幅方向外側への荷重に変換して上記フロントサイドフレームに伝達することを特徴とする請求項1記載の車両用フレーム構造。
【請求項3】
上記接触部は、上記フロントサイドフレームに回動自在に軸着する固定部材と、
上記フロントサイドフレームに圧接可能な楔形状をなすフレーム圧接部と、を備えたことを特徴とする請求項2記載の車両用フレーム構造。
【請求項4】
上記パワーユニット側と上記接触部側の夫々の当接面には、互いに掛合する鉤状の凹凸が形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用フレーム構造。
【請求項5】
上記荷重伝達手段は、上記パワーユニットと上記フロントサイドフレームとを連結する接続ワイヤであって、
上記接続ワイヤは、上記パワーユニットが後方に移動した際の荷重を車幅方向内側の荷重に変換して上記フロントサイドフレームに伝達することを特徴とする請求項1記載の車両用フレーム構造。
【請求項6】
上記荷重伝達手段は、少なくとも上記フロントサイドフレームに前後2点で固設し、上記パワーユニットを上記フロントサイドフレームに直接的に支持する支持部材であることを特徴とする請求項1記載の車両用フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−126093(P2007−126093A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322451(P2005−322451)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】