説明

車両用ブレーキ液圧発生装置

【課題】 回生協調ブレーキ制御に適用し得る安価なブレーキ液圧発生装置を提供する。
【解決手段】 液圧式倍力装置HBを備え、液圧源PSの出力液圧を調圧弁RGによってブレーキ操作に応じた液圧に調圧してパワー室C8に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する。液圧源の出力液圧を電気的手段(比例電磁弁SV1及びSV2)により調圧して反力室C7に導入して反力を付与する。更に、ブレーキ液吸収装置ABを備え、液圧調整手段の出力液圧に応じてマスタシリンダMCの出力ブレーキ液を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧発生装置に関し、特に、回生協調ブレーキ制御に適用し得る車両用ブレーキ液圧発生装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ液圧発生装置として、例えば、下記の特許文献1には、マスタシリンダに加え補助液圧源、調圧手段及びパワーピストンを備えた液圧ブレーキ装置が開示されている。また、下記の特許文献2には、更に、回生協調ブレーキ制御時に補助ピストンが不必要に前進作動されにくい、若しくは前進作動されない車両用液圧ブレーキ装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−37052号公報
【特許文献2】特開2003−81081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1に記載の液圧ブレーキ装置は、ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧を調圧弁によってブレーキ操作に応じた液圧に調圧して出力し、前記調圧弁の出力液圧をパワー室に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えているということができる。しかし、この装置はブレーキ操作に応じたブレーキ液圧を発生するのみであり、回生協調ブレーキ制御を行うことはできない。
【0005】
一方、前掲の特許文献2に記載においては、上記の液圧式倍力装置等に加え、ブレーキ操作部材の操作力に応じたストロークをブレーキ操作部材に付与する所謂ストロークシミュレータを備え、更に、ブレーキ操作に応じて調圧した液圧を液圧調整装置によって調圧して出力室に導入するように構成された装置が開示されており、この装置によれば回生協調ブレーキ制御を行うことができる。
【0006】
一般的に、エンジンと電気モータを併用するハイブリッド車に適用される回生協調ブレーキ制御においては、回生制動力を利用しているときには、この制動力に相当するブレーキ液圧が付与されないように液圧調整を行なう必要があるが、その液圧調整必要範囲はブレーキ液圧制御の一部である。然し乍ら、特許文献2に記載の装置によれば、ブレーキ操作開始時から、高い制動力を発生させるために高い液圧を出力するまでのブレーキ操作フィーリングをストロークシミュレータでつくり出すこととしているので、ストロークシミュレータが大掛かりなものとなり、必然的に高価な装置となる。また、万一液圧源が失陥し、ブレーキ操作力のみによってマスタシリンダからブレーキ液圧を発生させる必要が生じたときには、ストロークシミュレータにおけるストロークが無効ストロークとなる。
【0007】
そこで、本発明は、回生協調ブレーキ制御に適用し得る安価な車両用ブレーキ液圧発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧をブレーキ操作に応じた液圧に調圧してパワー室に導入し、ブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えた車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記液圧源の出力液圧を電気的手段により調圧して出力する液圧調整手段と、該液圧調整手段の出力液圧を反力室に導入して前記液圧式倍力装置に対し反力を付与する反力付与手段と、前記液圧調整手段の出力液圧に応じて、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段とを備えることとしたものである。
【0009】
上記車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記反力室は、請求項2に記載のように、前記マスタシリンダを構成するマスタピストンを、前記液圧式倍力装置に対し反力を付与する方向に、付勢するように形成するとよい。
【0010】
上記車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項3に記載のように、ブレーキ液吸収ピストンと、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液が導入され、前記ブレーキ液吸収ピストンの移動に応じて容積が増減するブレーキ液吸収室と、前記パワー室の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を圧縮する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第1液圧室と、前記液圧調整手段の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を拡張する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第2液圧室を備えたものとするとよい。
【0011】
上記車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項4に記載のように、ブレーキ非操作時に前記ブレーキ液吸収室の容積が最大となるように前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する弾性部材を備え、前記液圧式倍力装置は、ブレーキ操作開始時において、前記マスタシリンダにブレーキ液圧が発生する前に、前記パワー室の液圧が所定液圧上昇するように構成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の装置においては、液圧調整手段の出力液圧に応じてマスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段を備えており、このブレーキ液吸収手段により、最大回生制動力を発生させる程度のブレーキ操作ストロークを作り出すことができるので、装置が大掛かりなものとならず、安価なものとなる。
【0013】
更に、前記反力室は、請求項2に記載のように形成すれば、コンパクトに構成することができる。また、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項3に記載のように構成すれば、簡単且つ安価な装置とすることができる。更に、前記ブレーキ液吸収手段は、請求項4に記載のように構成すれば、液圧源の失陥時においてもブレーキ液吸収手段の存在による無効ストロークが発生することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態における車両用ブレーキ液圧発生装置は、図1に示すように、ブレーキペダルBPによるブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源PSと、この液圧源PSの出力液圧を調圧弁RGによってブレーキ操作に応じた液圧に調圧してパワー室C8に導入することによりブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置HBと、この出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダMCとを備えている。尚、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液圧は、二つのブレーキ液圧系統H1及びH2の各車輪に装着されたホイールシリンダ(図示せず)に供給される。
【0015】
更に、反力室C7と液圧源PSとの間に、液圧調整手段を構成する電気的手段たる比例電磁弁SV1及びSV2が介装され、これらの比例電磁弁SV1及びSV2によって反力室C7内の液圧が調圧されるように構成されている。このように、本実施形態のブレーキ液圧発生装置は、液圧調整手段によってブレーキ液圧を電気的に制御し得るもので、特にエンジン(図示せず)と電気モータ(図示せず)を併用するハイブリッド車の回生協調ブレーキ制御に好適である。この回生協調ブレーキ制御においては、回生制動力を利用しているときには、回生制動力に相当するブレーキ液圧が付与されないように液圧調整を行なう必要があり、そうすると、この液圧低減分に相当するブレーキペダルBPのストロークが少なくなる。このような場合にも、回生制動力分を含めたブレーキペダルBPのストロークを確保すべく、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段が設けられ、本実施形態では、後述するブレーキ液吸収装置ABが配設されている。
【0016】
マスタシリンダMCについては、図1に示すように、シリンダハウジングHS(以下、単にハウジングHSという)内に、マスタピストンMP1が摺動自在に収容されている。更に、ハウジングHS内に、マスタピストンMP2が摺動自在に収容され、マスタピストンMP1との間に第1マスタ液圧室C1が形成されると共に、ハウジングHSの前端部との間に第2マスタ液圧室C2が形成されている。また、マスタピストンMP1の後端に当接するように、パワーピストンPPがハウジングHS内に摺動自在に収容され、ハウジングHSの後方に液圧式倍力装置HBが構成されている。更に、第1マスタ液圧室C1には上記のブレーキ液吸収装置ABが連通接続されている。
【0017】
ハウジングHSは前方(図1の左方)が閉塞された有底筒体で、凹部B1が形成されると共に、小径孔B2、(段付)中径孔B3、小径孔B4及び大径孔B5に大別される段付孔から成るシリンダ孔(シリンダボア)が形成され、後方に小径の開口B6が形成されている。更に、大径孔B5の長手方向中間部に環状段部B7が形成されている。このシリンダ孔の内面には、断面カップ形状の環状のシール部材S1乃至S4を収容するための環状溝が形成されており、シール部材S1とS2との間に大気圧室C3が形成され、シール部材S3とS4との間に大気圧室C4が形成されるように構成されている。尚、図1では、ハウジングHSは単一の部材で示しているが、実際には複数の部材が組み合わされて成る。
【0018】
マスタピストンMP1は、前方に開口する凹部M1が形成されると共に、マスタピストンMP1の側面には、凹部M1に開口するポートPm1が形成されている。マスタピストンMP1の後方には拡径部MP1sが形成され、その外面には、断面カップ形状の環状のシール部材S5を収容するための環状溝が形成されている。これにより、拡径部MP1sは大径孔B5内に液密的摺動自在に嵌合され、その前方に反力室C7が形成されている。また、マスタピストンMP2は、前方に開口する凹部M2が形成されると共に、マスタピストンMP2の側面には、凹部M2に開口するポートPm2が形成されている。これらのポートPm1及びPm2は、マスタピストンMP1及びMP2が初期位置にあるときには、図1に示すように、夫々大気圧室C4及びC3に開口するように形成されている。更に、マスタピストンMP1の後端部には凹部が形成されており、この凹部に反力ロッドRRが収容されている。
【0019】
そして、図1に示すように、マスタピストンMP1とMP2との間には、復帰スプリングとして機能する圧縮スプリングE1がリテーナRT1を介して装着されており、マスタピストンMP2の凹部M2内にも復帰スプリングとして機能する圧縮スプリングE2がリテーナRT2を介して装着されている。
【0020】
次に、液圧式倍力装置HBは、パワーピストンPPを有し、その中間部の外面にはランド部PPsが形成されており、これにシール部材S6が配置されている。一方、パワーピストンPPの前方は、環状段部B7に配置されたシール部材S7に対して液密的摺動自在に嵌合されている。また、パワーピストンPPの前端部には凹部が形成され、この凹部に例えばゴム製の反力ディスクRDが収容されている。反力ディスクRDの前端面は反力ロッドRRの後端面に当接し、反力ディスクRDの後端面は、パワーピストンPPに摺動自在に支持された伝達ロッドTRに当接するように配置されている。更に、パワーピストンPPは、後方に延出する小径部を有し、シール部材S8を介してハウジングHSの開口部B6に液密的摺動自在に支持されている。而して、シール部材S5とシール部材S7によって郭成されるパワーピストンPPの前方及びこれに連通する内部空間に、大気圧室C5が形成されると共に、シール部材S6とシール部材S7との間に郭成されるパワーピストンPP外周の環状空間及び連通孔に、圧力導入室C6が形成されている。更に、シール部材S6とシール部材S8との間にパワー室C8が形成されている。
【0021】
パワーピストンPP内には、本実施形態の調圧弁RGを構成するスプール弁機構が収容されており、その構成部材であるスプール弁RVの前方に大気圧室C5(の一部)が形成されている。この大気圧室C5内には、スプール弁RVを後方に付勢する圧縮スプリングE3が収容され、図1に示す初期位置においてスプール弁RVの前端面が所定距離を隔てて伝達ロッドTRの後端面と対向するように付勢されている。更に、スプール弁RVの後方のパワーピストンPP内に、シール部材S9を介して入力ロッドIRが液密的摺動自在に嵌合されており、入力ロッドIRの後端は、ブレーキ操作部材たるブレーキペダルBPに連結されている。
【0022】
尚、ハウジングHSには、第1マスタ液圧室C1に開口するポートP1、第2マスタ液圧室C2に開口するポートP2、大気圧室C3に開口するポートP3、大気圧室C4に開口するポートP4、大気圧室C5に開口するポートP5が形成されており、ポートP3、P4及びP5は大気圧リザーバRSに連通接続されている。更に、後述の液圧式倍力装置HBを構成する部分には、圧力導入室C6に開口するポートP6、反力室C7に開口するポートP7、パワー室C8に開口するポートP8が形成されている。
【0023】
一方、液圧源PSは、電子制御装置ECUによって制御される電動モータMと、この電動モータMによって駆動される液圧ポンプHPを備え、その入力側が大気圧リザーバRSに連通接続され、出力側がアキュムレータACに連通接続されると共に、圧力導入室C6に接続されている。本実施形態では液圧ポンプHPの出力側に圧力センサSpsが接続されており、電子制御装置ECUによって圧力センサSpsの検出圧力が監視される。この監視結果に基づき、アキュムレータACの液圧が所定の上限値と下限値の間の圧力に維持されるように、電子制御装置ECUにより電動モータMが制御される。
【0024】
而して、図1に示すようにスプール弁RVが後端の初期位置にあるときには、パワー室C8はスプール弁RVを介して大気圧室C5に連通し、大気圧リザーバRS内と同様略大気圧となっている。この状態で、圧力導入室C6に液圧源PSの出力液圧が導入されると、パワーピストンPPのランド部PPsを環状の有効面積とした後方への力が付与される。これにより、パワーピストンPPは後方に付勢され、図1に示す初期位置に保持される。この状態から入力ロッドIRが前方に移動し、これに伴いスプール弁RVが前進してパワー室C8が大気圧室C5と遮断された状態となると、パワー室C8内は出力保持状態となる。更にスプール弁RVが前進すると、パワー室C8は、スプール弁RV、パワーピストンPP及び圧力導入室C6を介して液圧源PSと連通するので、液圧源PSの出力液圧がパワー室C8内に供給されて昇圧し、出力増加状態となる。このように、パワーピストンPPに対するスプール弁RVの相対移動の繰り返しによって、パワー室C8が調圧弁RGの連通路を介して大気圧室C5又は圧力導入室C6に連通する。これにより、パワー室C8内の液圧が所定の圧力に調圧される。尚、後述するようにブレーキペダルBPが操作されてパワー室C8内の液圧(パワー液圧)が所定の圧力まで上昇した後は、パワー室C8内の液圧(パワー液圧)とマスタシリンダMCの出力液圧(マスタシリンダ液圧)とが略一対一の関係で上昇するように、パワー室C8、第1マスタ液圧室C1の有効面積や反力ディスクRD、伝達ロッドTRの面積等が設定されている。
【0025】
上記のように形成される第1マスタ液圧室C1及び第2マスタ液圧室C2は、夫々ポートP1及びP2から夫々液圧系H1及びH2を介して、図示しないホイールシリンダに連通するように構成されている。そして、マスタピストンMP1及びMP2が図1に示す初期位置にあるときには、第1マスタ液圧室C1及び第2マスタ液圧室C2はポートPm1及びPm2を介して大気圧室C4及びC3に連通し、ひいてはポートP4及びP3を介して大気圧リザーバRSに連通する。
【0026】
また、マスタピストンMP1が図1に示す初期位置にあるときには、大気圧下の第1マスタ液圧室C1はポートP1(及びP10)を介してブレーキ液吸収装置ABの吸収室C10に連通している。そして、マスタピストンMP2が初期位置からポートアイドル分以上前方に移動したときにはポートPm2の開口部がシール部材S1によって遮蔽され、第2マスタ液圧室C2と大気圧室C3との連通が遮断される。同様に、マスタピストンMP1が初期位置からポートアイドル分以上前方に移動するとポートPm1の開口部がシール部材S3によって遮蔽され、第1マスタ液圧室C1と大気圧室C4との連通が遮断される。
【0027】
更に、反力室C7と液圧源PSとの間には、前述のように比例電磁弁SV1及びSV2が介装されている。具体的には、液圧源PS(及び圧力導入室C6)と反力室C7とを連通する液圧路に常閉型の比例電磁弁SV1が配設されると共に、反力室C7と大気圧リザーバRSとを連通する液圧路に常開型の比例電磁弁SV2が配設され、これらの比例電磁弁SV1及びSV2、電子制御装置ECU、並びに後述のセンサ等によって液圧調整手段が構成されている。而して、液圧源PSの出力液圧が比例電磁弁SV1を介して反力室C7に供給されると共に、比例電磁弁SV2によって減圧され、反力室C7内が所定の圧力に調整される。尚、反力室C7の有効面積は第1マスタ液圧室C1の有効面積より小さく設定されており、反力室C7に供給される液圧の増圧量よりもマスタシリンダ液圧の減圧量は小さくなる。
【0028】
本実施形態においては、マスタシリンダMCの出力液圧を検出する圧力センサSmcが配設されると共に、調圧弁RGの出力圧(パワー室C8の液圧)を検出する圧力センサSrcが配設されており、これらの検出信号が電子制御装置ECUに入力するように構成されている。これらのセンサにより、第1マスタ液圧室C1及び調圧弁RGの出力液圧が監視される。尚、本実施形態では、圧力センサSmcは液圧系H1に配設されているが、液圧系H2側に設けてもよいし、両液圧系に設けることとしてもよい。また、反力室C7にも圧力センサSpcが接続されているが、圧力センサSpc及びSmcの何れか一方のみとしてもよい。また、ブレーキペダルBPには、そのストロークを検出するストロークセンサBSが配置される。更に、アンチロック制御等の種々の制御に供される車輪速度センサ、加速度センサ等のセンサ(代表してSNで表わす)が設けられており、これらの検出信号も電子制御装置ECUに入力するように構成されている。
【0029】
そして、図1に示すように、第1マスタ液圧室C1のブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収装置ABが設けられている。ブレーキ液吸収装置ABは、シリンダ状のハウジングAH内に、ピストン部材APがシール部材を介して液密的摺動自在に収容され、ピストン部材APを介して吸収室C10、第1液圧室C11、第2液圧室C12及び大気圧室C13が形成され、吸収室C10内に収容された弾性部材たる圧縮スプリングE4によって、ピストン部材APが第1液圧室C11側に(即ち、第1液圧室C11を縮小する方向に)付勢されるように構成されたものである。更に、ハウジングAHには、吸収室C10を第1マスタ液圧室C1に連通するポートP10が形成されると共に、第1液圧室C11をパワー室C8に連通するポートP11が形成され、第2液圧室C12を反力室C7に連通するポートP12が形成され、大気圧室C13を大気圧リザーバRSに連通するポートP13が形成されている。
【0030】
具体的には、吸収室C10内の液圧(マスタシリンダ液圧)がピストン部材APの一方の小径部APaの端面に付与されると共に、第1液圧室C11内の液圧(パワー液圧)がピストン部材APの他方の小径部APb(小径部APaと同径)の端面に付与されるように構成されている。また、第2液圧室C12内の液圧(液圧調整手段の出力液圧)がピストン部材APの大径環状部APcの一方の端面に付与されると共に、大気圧室C13内の液圧がピストン部材APの大径環状部APcの他方の端面に付与されるように構成されている。
【0031】
尚、ピストン部材APの大径環状部APcの有効面積は小径部APa及びAPbの各有効面積と同一に設定されている。この場合において、前述のようにマスタシリンダ液圧とパワー液圧が略一対一の関係で上昇するように設定されており、また、反力室C7に供給される液圧(液圧調整手段の出力液圧)の増圧量よりもマスタシリンダ液圧の減圧量の方が小さくなるように設定されているので、後述するようにブレーキペダルBPが操作されてピストン部材APが左方に移動した後は、第2液圧室C12内の液圧(液圧調整手段の出力液圧)の増圧量と吸収室C10内の液圧(マスタシリンダ液圧)の減圧量との差圧を大径環状部APcの有効面積に乗じた力及び圧縮スプリングE4の付勢力に応じてピストン部材APが右方に移動する。このように、ピストン部材APが右方に移動すると吸収室C10が拡張し、第1マスタ液圧室C1内のブレーキ液が吸収室C10内に導入される。これにより、マスタピストンMP1ひいてはパワーピストンPPが前進し、(液圧調整手段の出力液圧に応じて)ブレーキペダルBPがストロークすることになる。尚、本実施形態においては、ピストン部材APの大径環状部APcの有効面積が小径部APa及びAPbの各有効面積と同一に設定されているが、大径環状部APcの外径を小さくすればブレーキ液吸収装置ABの小型化が可能となる。このときには、大径環状部APcの有効面積が小径部APa及びAPbの各有効面積より小さくなるが、第2液圧室C12内に供給される液圧(液圧調整手段の出力液圧)を増加させればよく、例えば大径環状部APcの有効面積を3分の1にするときには、第2液圧室C12内に供給される液圧が3倍となるように反力室C7の有効面積等を調整すればよい。
【0032】
而して、本実施形態においては、ブレーキ液吸収ピストンたるピストン部材APと、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液が導入され、ピストン部材APの移動に応じて容積が増減する吸収室C10と、パワー室C8の出力液圧が導入され、吸収室C10を圧縮する方向にピストン部材APを付勢する第1液圧室C11と、液圧調整手段の出力液圧が導入され、吸収室C10を拡張する方向にピストン部材APを付勢する第2液圧室C12とを備えたブレーキ液吸収装置ABが構成されている。
【0033】
更に、本実施形態においては、ブレーキペダルBPを操作しないときには、ピストン部材APが図1に示す初期位置に復帰するように、圧縮スプリングE4によってピストン部材APが右方に付勢され、この場合に吸収室C10の容積が最大となるように構成されている。換言すれば、ブレーキ非操作時に吸収室C10の容積が最大となるようにピストン部材APを付勢する弾性部材として、圧縮スプリングE4が配設されている。このため、液圧式倍力装置HBは、ブレーキ操作開始時において、マスタシリンダMCにブレーキ液圧が発生する前に、パワー室C8の液圧が所定液圧(例えば、1MPa)上昇するように構成されている。
【0034】
上記の構成に成る本実施形態の車両用ブレーキ液圧発生装置の全体作動に関し、先ず、回生制動が行なわれない状態でのブレーキ操作について説明する。ブレーキペダルBPが操作されると、調圧弁RGが作動する。この場合において、前述のように、パワーピストンPPは液圧源PSの出力液圧により後方に付勢されているため、その付勢力に打ち勝つ液圧(所定液圧)までパワー液圧が上昇する。このパワー液圧により、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APが図1の左方に移動するが、左側の端面には当接しない程度の付勢力が生ずるように圧縮スプリングE4の特性が設定されている。そして、吸収室C10内のブレーキ液はマスタシリンダMCを介して大気圧リザーバRSに排出される。
【0035】
パワー室C8内のパワー液圧が更に上昇してパワーピストンPPが前進し、これに応じてマスタピストンMP1及びMP2が前進すると、大気圧リザーバRSと連通しているポートPm1及びPm2が遮断され、マスタシリンダMCに液圧が発生し出力される。このとき、前述のようにパワー液圧とマスタシリンダ液圧は同等の割合(略一対一の関係)で上昇するように設定されているので、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APは移動しない。
【0036】
一方、回生制動が行なわれる場合には、例えば、ブレーキペダルBPの操作に応じて発生した調圧弁RGの出力液圧、即ちパワー液圧に基づき、ブレーキ操作力が検出される。このブレーキ操作力に応じて回生制動力が付与されると、その回生制動力に応じてマスタシリンダ液圧が非回生時に比して低くなるように、比例電磁弁SV1及びSV2によって調整された液圧が反力室C7に供給される。このとき、マスタシリンダMCと大気圧リザーバRSとを連通しているポートPm1及びPm2が遮断された状態に設定するため、例えばマスタシリンダ液圧の下限値は0.1MPaとなるように制御される。図2において、最大回生制動力を発生しているときのブレーキ操作力―マスタシリンダ液圧特性を一点鎖線で示し、回生制動力が全く得られない場合の同特性を実線で示している。
【0037】
この場合において、弾性部材たる圧縮スプリングE4の付勢力や、第2液圧室C12の有効面積、反力室C7の有効面積等は、第2液圧室C12に導入された液圧調整手段の出力液圧に応じてピストン部材APが右方に移動するように設定されており、また、これに伴いマスタピストンMP1が左方に移動し、ブレーキペダルBPが非回生時と同様にストロークするように設定されている。
【0038】
一方、車体速度が低速になった場合や、電気モータの電源たるバッテリ(図示せず)の充電が充分で(所謂フル充電の状態)回生制動力が減少しあるいは回生制動力が得られない場合には、比例電磁弁SV1及びSV2の電流値を減少させて反力室C7への供給液圧を減少させ、回生制動力の減少に応じてマスタシリンダ液圧が(図2の実線に向かって)上昇するように制御される。このとき、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APは図1の左方に移動するため、マスタピストンMP1はほとんど移動せず、ブレーキペダルBPもほとんど移動しない。
【0039】
更に、液圧源PSに異常が生じたときには、電子制御装置ECUによる比例電磁弁SV1及びSV2並びに液圧ポンプHPの制御が停止される。この状態で、ブレーキペダルBPが操作されると、その操作に応じて入力ロッドIRが前進しパワーピストンPPに当接して、パワーピストンPPひいてはマスタピストンMP1及びMP2が前進する。この結果、ブレーキペダルBPのストロークに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダMCから出力される。このとき、ブレーキ液吸収装置ABのピストン部材APは吸収室C10の容積が最大となるように圧縮スプリングE4によって図1の右方に付勢されているため、ブレーキ液吸収装置ABにて無効なブレーキ液が消費されることはない。而して、液圧源PSの失陥時においても、ブレーキ液吸収装置ABにより無効ストロークが発生することはない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧発生装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるブレーキ操作力―マスタシリンダ液圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
BP ブレーキペダル
HS シリンダハウジング
MP1,MP2 マスタピストン
C1 第1マスタ液圧室
C2 第2マスタ液圧室
C3,C4,C5 大気圧室
C6 圧力導入室
C7 反力室
C8 パワー室
E1,E2,E3,E4 圧縮スプリング
AB ブレーキ液吸収装置
AP ピストン部材
C10 吸収室
C11 第1液圧室
C12 第2液圧室
C13 大気圧室
SV1,SV2 比例電磁弁
PS 液圧源
RS 大気圧リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧源と、該液圧源の出力液圧をブレーキ操作に応じた液圧に調圧してパワー室に導入し、ブレーキ操作力を助勢して出力する液圧式倍力装置と、該液圧式倍力装置の出力により駆動され、当該液圧式倍力装置の出力に応じたブレーキ液圧を発生し出力するマスタシリンダとを備えた車両用ブレーキ液圧発生装置において、前記液圧源の出力液圧を電気的手段により調圧して出力する液圧調整手段と、該液圧調整手段の出力液圧を反力室に導入して前記液圧式倍力装置に対し反力を付与する反力付与手段と、前記液圧調整手段の出力液圧に応じて、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液を吸収するブレーキ液吸収手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ液圧発生装置。
【請求項2】
前記反力室は、前記マスタシリンダを構成するマスタピストンを、前記液圧式倍力装置に対し反力を付与する方向に、付勢するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ液圧発生装置。
【請求項3】
前記ブレーキ液吸収手段は、ブレーキ液吸収ピストンと、前記マスタシリンダの出力ブレーキ液が導入され、前記ブレーキ液吸収ピストンの移動に応じて容積が増減するブレーキ液吸収室と、前記パワー室の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を圧縮する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第1液圧室と、前記液圧調整手段の出力液圧が導入され、前記ブレーキ液吸収室を拡張する方向に前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する第2液圧室とを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ブレーキ液圧発生装置。
【請求項4】
前記ブレーキ液吸収手段は、ブレーキ非操作時に前記ブレーキ液吸収室の容積が最大となるように前記ブレーキ液吸収ピストンを付勢する弾性部材を備え、前記液圧式倍力装置は、ブレーキ操作開始時において、前記マスタシリンダにブレーキ液圧が発生する前に、前記パワー室の液圧が所定液圧上昇するように構成されていることを特徴とする請求項3記載の車両用ブレーキ液圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−264359(P2006−264359A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81053(P2005−81053)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】