車両用ブレーキ装置
【課題】車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、ブレーキペダルが急踏みされた場合に基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与する。
【解決手段】車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダ23の第1液圧室23dに設けられてリザーバタンク24と連通する第1ポート23hを、同ポート23hを閉塞する第1ピストン23bの閉塞端の踏み込み開始状態に対応した第1位置から第1ピストン23bの増圧方向に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に設けるようにしている。第1ポート23hには、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスが設けられている。
【解決手段】車両用ブレーキ装置において、マスタシリンダ23の第1液圧室23dに設けられてリザーバタンク24と連通する第1ポート23hを、同ポート23hを閉塞する第1ピストン23bの閉塞端の踏み込み開始状態に対応した第1位置から第1ピストン23bの増圧方向に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に設けるようにしている。第1ポート23hには、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作状態に応じて車両に付与する目標制動力を液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力とによって達成する車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用ブレーキ装置としては、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置は知られている。
【0003】
この車両用ブレーキ装置は、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通するポートを、同ポートを閉塞するピストンの閉塞端がブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生を制限し、ピストンの閉塞端が第2位置を越えた場合に、基礎液圧制動力の発生の制限を解除する基礎液圧制動力発生制限手段を備えている。
【0004】
車両用ブレーキ装置は、第2位置は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けられるとともに、ピストンの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した前記車両制動力を前記車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4415379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルが急踏みでない非急踏み時においては(通常の踏みこみ速度で踏み込む場合)、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。しかし、ブレーキペダルの急踏み時においては、高回生効率・高燃費の達成より基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与したいという要請がある。
【0007】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、ブレーキペダルが急踏みされた場合に基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通するポートを、同ポートを閉塞するピストンの閉塞端がブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は、マスタシリンダの液圧室がポートを介してリザーバタンクに連通され、ピストンの閉塞端が第2位置を越えた場合に、マスタシリンダの液圧室がリザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、ポートに設けたことである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に、リザーバタンクと連通するマスタシリンダ側ポートが設けられ、液圧室を摺動するピストンに、マスタシリンダ側ポートに臨む第1ピストン側ポートと、第1ピストン側ポートよりもピストンの増圧方向に所定距離だけ離れてマスタシリンダ側ポートに臨む第2ピストン側ポートとが設けられ、ブレーキペダルの踏み込み前には、液圧室が第1ピストン側ポートおよび第2ピストン側ポートを介してリザーバタンクと連通し、ブレーキペダルの踏み込み開始に伴って、液圧室の第2ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を遮断し、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間は、液圧室の第1ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を維持し、ピストンが所定距離を越えた場合、液圧室の第1ピストン側ポートおよび第2ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を遮断する車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、第1ピストン側ポートに設けたことである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通する第1ポートに臨みかつ液圧室内を摺動するピストンに設けられた第2ポートを、ピストンがブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置にあるとき、第1ポートの閉塞端からピストンの減圧方向に所定距離だけ離れた位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンが第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置となるまでの間は、マスタシリンダの液圧室が第1ポートおよび第2ポートを介してリザーバタンクに連通され、ピストンが第2位置を越えた場合に、マスタシリンダの液圧室がリザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、第2ポートに設けたことである。
【0011】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0012】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0013】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンが第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0014】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項4において、ブレーキペダルは、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0015】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項2または請求項5において、ブレーキペダルは、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0016】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項3または請求項6において、ブレーキペダルは、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0017】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項7乃至請求項9の何れか一項において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態において非線形であることである。
【0018】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項10において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通していない状態において線形であり、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下であることである。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れがポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置との協調動作によって、回生ブレーキ装置が車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補うことにより、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0020】
基礎液圧制動力の不足を回生制動力により補う構成としては、例えば、第2位置を、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、ピストンの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与することが考えられる。
【0021】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れがポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダの液圧室内に基礎液圧が形成されることで、ピストンによりポートが閉塞される前に、すなわちピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができ、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0022】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0023】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間は、基礎液圧制動力の発生が制限される。したがって、請求項1に係る発明と同様に、この間においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0024】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、第1ピストン側ポートの背圧が上昇することで、第1ピストン側ポートが閉塞される前に、すなわちブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、請求項1に係る発明と同様に、この間においては、ブレーキペダルの急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0025】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0026】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第2ポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。例えば、第2位置を回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、ピストンが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。したがって、請求項1に係る発明と同様に、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0027】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第2ポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、第2ポートの背圧が上昇することで、第1ポートの閉塞端により第2ポートが閉塞される前に、すなわちピストンが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、請求項1に係る発明と同様に、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0028】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0029】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0030】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項2において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0031】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項3において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンが第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0032】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1または請求項4において、ブレーキペダルは、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0033】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項2または請求項5において、ブレーキペダルは、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0034】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項3または請求項6において、ブレーキペダルは、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンが第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0035】
非急踏み時において、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態では、マスタシリンダ圧によるブレーキペダル反力が得られない。また一般に、ブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)は、非線形である。
【0036】
そこで、上記のように構成した請求項10に係る発明においては、請求項7乃至請求項9の何れか一項において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態において非線形としている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンが第1位置から第2位置となるまでの間、運転者に対しより良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0037】
一般に、所定踏力(例えば、500N)に対し所定範囲(例えば、0.25G以上)の減速度が得られることが望まれる。一方、踏力は、マスタシリンダ圧による反力と反力用スプリングによる付勢力の総和である。
【0038】
そこで、上記のように構成した請求項11に係る発明においては、請求項10において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通している状態において非線形とするとともに、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通していない状態において線形とし、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加を、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下としている。このように、反力用スプリングによる付勢力を制限することにより、所定踏力に対し所定範囲の減速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み前の状態を示す図である。
【図3】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み中の状態を示す図である。
【図4】図2に示す第1ポートの部分拡大断面図である。
【図5】図1に示す液圧ブレーキ装置のブレーキアクチュエータの概要を示す概要図である。
【図6】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の実施形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図7】図1に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図8】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の実施形態における負圧式ブースタを示す断面図である。
【図9】図8に示す負圧式ブースタの部分拡大断面図である。
【図10】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の実施形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図11】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第3の実施形態におけるマスタシリンダの断面図である。
【図12】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第4の実施形態におけるマスタシリンダの部分拡大断面図であり、(a)は、基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み前の状態(第1位置)を示す図であり、(b)はブレーキ踏み込み中の状態(特に第2位置)を示す図である。
【図13】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの一例を示す図であり、(a)は、自然長の状態を示し、(b)は伸びた状態を示す図である。
【図14】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの他の一例を示す図であり、(a)は、自然長の状態を示し、(b)は伸びた状態を示す図である。
【図15】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの作用を示すペダルストローク−踏力特性を示す図である。
【図16】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第6の実施形態における反力用スプリングの作用を示す踏力−減速度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
1)第1の実施形態
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第1の実施形態を図面を参照して説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は車両用ブレーキ装置の基礎液圧制動力発生装置の構成を示す概要図である。ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪FL,FRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本第1の実施形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11はモータ12への電力供給源として作用する。
【0041】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車は、エンジン11およびモータ12を備えている。エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本第1の実施形態では左右前輪FL,FR)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0042】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0043】
本第1の実施形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置Aは、ペダルストロークセンサ21a(または圧力センサP)によって検出されたブレーキ操作状態(後述する)に基づいた回生制動力を各車輪FL,FR,RL,RRの何れか(本第1の実施形態では駆動源であるモータ12によって駆動される左右前輪FL,FR)に発生させるものである。
【0044】
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。ハイブリッドECU19は、インバータ16が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。また、ハイブリッドECU19はバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0045】
また、ハイブリッド車は、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、図4に示すように、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダ23にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダ23と液圧制御弁31,41をそれぞれ介在した油経路Lf,Lrによって連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FL,FR,RL,RRに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させるとともに、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成される制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生可能に構成されたものである。
【0046】
この液圧ブレーキ装置Bは、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成してホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC1〜WC4との間に設けられて制御液圧を形成するブレーキアクチュエータ(制御液圧制動力発生装置)25を備えている。なお、ブレーキペダル21、負圧式ブースタ22、マスタシリンダ23、リザーバタンク24によって基礎液圧制動力発生装置が構成されている。
【0047】
図2および図3に示すように、ブレーキペダル21はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に接続され、負圧式ブースタ22はプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に接続されており、ブレーキペダル21に作用されたブレーキ操作力はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に入力され、倍力されてプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に入力されるようになっている。
【0048】
ブレーキペダル21は、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態であるブレーキペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ21aが設けられている。このペダルストロークセンサ21aはブレーキECU60に接続されており、検出信号がブレーキECU60に送信されるようになっている。さらに、ブレーキペダル21は、ブレーキ操作状態が所定状態(後述する)となるまでのブレーキペダル21のペダル反力を形成するペダル反力形成手段である反力用スプリング21bが備えられている。反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向(ブレーキペダル21が踏み込み前の元の位置に戻る方向)に付勢するようになっている。この反力用スプリング21bの付勢力は、マスタシリンダ23のハウジング23aの内径、倍力比などを考慮して設定されるのが望ましい。
【0049】
負圧式ブースタ22は、一般によく知られているものであり、負圧取入れ口22aがエンジン11の吸気マニホールドに連通しており、この吸気マニホールドの負圧を倍力源としている。
【0050】
マスタシリンダ23は、図2および図3に示すように、タンデム式のマスタシリンダであり、有底筒状に形成されたハウジング23aと、ハウジング23a内を液密かつ摺動可能に並べて収納された第1および第2ピストン23b,23cと、第1ピストン23bと第2ピストン23cとの間に形成される第1液圧室23d内に配設された第1スプリング23eと、第2ピストン23cとハウジング23aの閉塞端との間に形成される第2液圧室23f内に配設された第2スプリング23gとから構成されている。これにより、第2ピストン23cは第2スプリング23gによって開口端側(第1ピストン23b側)に付勢され、第1ピストン23bは第1スプリング23eによって開口端側に付勢されて、第1ピストン23bの一端(開口端側端)がプッシュロッド27の先端に押圧されて当接するようになっている。
【0051】
マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dとリザーバタンク24とを連通するための第1ポート23hと、第2液圧室23fとリザーバタンク24とを連通するための第2ポート23iとが設けられている。第1ポート23hは、ブレーキペダル21から運転者の足が離れている状態すなわちブレーキペダル21が踏み込まれていない状態である第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第1ピストン23bの同ポート23hを閉塞する閉塞端から第1ピストン23bの増圧方向(閉塞端側の方向:図2において左方向)に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に配設されている。第2ポート23iは、第1ピストン23bと同様に第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第2ピストン23cの第2ポート23iを閉塞する閉塞端が第2ポート23iの開口端に一致する位置(すなわち第2ピストン23cの閉塞端が第2ポート23iの開口を塞ぎ始める直前位置)に配設されている。
【0052】
なお、所定状態は、基礎液圧制動力の発生制限が解除されて、基礎液圧制動力がブレーキ操作状態に対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。また、所定距離Sは、ブレーキ操作状態が所定状態であるときに回生ブレーキ装置Aが最大回生制動力を発生するように設定されることが望ましい。これにより、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合に、マスタシリンダ23は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生する。
【0053】
また、図4に示すように、第1ポート23hには、オリフィス23h1が設けられている。オリフィス23h1は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように構成されている。なお、オリフィス23h1の内径は第3ポート23jの内径より小径に設定されている(流路断面積は小さく設定されている)。
【0054】
さらに、マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dと後輪系統を構成する油経路Lrとを連通するための第3ポート23jと、第2液圧室23fと前輪系統を構成する油経路Lfとを連通するための第4ポート23kとが設けられている。図4に示すように、油経路Lrは、第1液圧室23dと左右後輪RL,RRのホイールシリンダWC3,WC4とをそれぞれ連通するものであり、油経路Lfは、第2液圧室23fと左右前輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2とをそれぞれ連通するものである。
【0055】
各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4は、マスタシリンダ23から油経路Lf,Lrを介して液圧(基礎液圧、制御液圧)が供給されると、各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対応してそれぞれ設けられた各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4を作動させて各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力(基礎液圧制動力、制動液圧制動力)を付与する。各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制するようになっている。
【0056】
上述したマスタシリンダ23の作動を図2および図3を参照して説明する。図2に示すように、ブレーキペダル21が踏まれていない状態では、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されないため移動されず、したがって第1ピストン23bおよび第2ピストン23cも押されていないため、第1および第2液圧室23d,23fに基礎液圧は発生していない。
【0057】
しかし、踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21(図2参照)が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン23bが押される。このとき、第1ピストン23bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ポート23hは第1ピストン23bの閉塞端による閉塞が開始されない。さらに、第1ポート23hのオリフィス23h1によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧(第1ポート23h内におけるブレーキ液圧のことである。)が上昇することなく第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。また、第1ピストン23bの移動によって第1スプリング23eが押されて圧縮されるが、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しないため、第2ピストン23cは図面左方向(増圧方向)に押されないで第1位置に停止したままであり、第2ポート23iは第2ピストン23cの閉塞端による閉塞が開始されないので、第2液圧室23f内にも基礎液圧は発生しない。
【0058】
第1ピストン23bが図面左方向に所定距離Sに第1ポート23hの直径を加算した値だけ移動すると第1ポート23hが第1ピストン23bの閉塞端によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。また、第2ピストン23cは、第1液圧室23d内に発生した基礎液圧によって図面左方向に押されて瞬時に閉塞端によって第2ポート23iを閉塞するため、第2液圧室23f内のブレーキ液は第2ポート23iを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第2液圧室23f内は密閉状態となるので、第2液圧室23f内にも基礎液圧の形成が開始される。
【0059】
このように第1および第2液圧室23d,23fにて基礎液圧の形成が開始される状態からさらにブレーキペダル21が踏まれて図3に示す踏み込み状態となると、基礎液圧形成開始状態から図3に示す踏み込み状態までの間は(基礎液圧形成開始状態以降においては)、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧が第1および第2液圧室23d,23fに発生するようになっている。なお、第1および第2液圧室23d,23fにそれぞれ発生する各基礎液圧は同一圧となるようになっている。なお、図3に示す踏み込み状態にあるブレーキペダル21から足を離すと、第1および第2ピストン23b,23cはそれぞれ第1および第2スプリング23e,23gの付勢力および各油経路Lr,Lf内圧力によって元の位置(第1位置)に戻るようになっている。
【0060】
上述したマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。
【0061】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン23bが押される。このとき、第1ピストン23bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ポート23hは第1ピストン23bの閉塞端による閉塞が開始されない。しかし、第1ポート23hのオリフィス23h1によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。また、第2ピストン23cは、第1液圧室23d内に発生した基礎液圧によって図面左方向に押されて瞬時に閉塞端によって第2ポート23iを閉塞するため、第2液圧室23f内のブレーキ液は第2ポート23iを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第2液圧室23f内は密閉状態となるので、第2液圧室23f内にも基礎液圧の形成が開始される。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0062】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0063】
さらに、第1ピストン23bが図面左方向に所定距離Sに第1ポート23hの直径を加算した値だけ移動すると第1ポート23hが第1ピストン23bの閉塞端によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0064】
上述したマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0065】
また、急踏み時の基礎液圧制動力と非急踏み時の基礎液圧制動力の傾きは、マスタシリンダ23や負圧式ブースタ22の特性によって決定されるものであり、同一の特性を有する。また、踏み込み開始時点から第1ピストン23bが押されるため、急踏み時の基礎液圧制動力の立上り時点は、非急踏み時に比べて早くなっている。
【0066】
次に、ブレーキアクチュエータ25について図5を参照して詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁31,41、ABS制御弁を構成する増圧制御弁32,33,42,43および減圧制御弁35,36,45,46、調圧リザーバ34,44、ポンプ37,47、モータMなどを一つのケースにパッケージすることにより構成されている。
【0067】
まず、ブレーキアクチュエータ25の前輪系統の構成について説明する。油経路Lfには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁31が備えられている。この液圧制御弁31は、ブレーキECU60により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁31は通常連通状態とされているが、差圧状態にすることによりホイールシリンダWC1,WC2側の油経路Lf2をマスタシリンダ23側の油経路Lf1よりも所定の差圧分高い圧力に保持することができる。この差圧はブレーキECU60により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0068】
油経路Lf2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC1へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁32が備えられ、他方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁33が備えられている。これら増圧制御弁32,33は、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、これら増圧制御弁32,33が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧または/およびポンプ37の駆動と液圧制御弁31の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWC1,WC2に加えることができる。また、増圧制御弁32,33は減圧制御弁35,36およびポンプ37とともにABS制御を実行することができる。
【0069】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧制御弁32,33は常時連通状態に制御されている。また、増圧制御弁32,33には、それぞれ安全弁32a,33aが並列に設けられており、ABS制御時においてブレーキペダル21を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWC1,WC2側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0070】
また、増圧制御弁32,33と各ホイールシリンダWC1,WC2との間における油経路Lf2は、油経路Lf3を介して調圧リザーバ34に連通されている。油経路Lf3には、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁35,36がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁35,36はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ34へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWC1,WC2におけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0071】
さらに、液圧制御弁31と増圧制御弁32,33との間における油経路Lf2と調圧リザーバ34とを結ぶ油経路Lf4にはポンプ37が安全弁37aと共に配設されている。そして、調圧リザーバ34を油経路Lf1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lf5が設けられている。ポンプ37は、ブレーキECU60の指令によりモータMによって駆動されるものである。ポンプ37は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ液または調圧リザーバ34に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁31を介してマスタシリンダ23に戻している。また、ポンプ37は、VSC制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの車両の姿勢を安定に制御するための制御液圧を形成する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁31に差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lf1,Lf5および調圧リザーバ34を介して吸い込んで油経路Lf4,Lf2および連通状態である増圧制御弁32,33を介して各ホイールシリンダWC1,WC2に吐出して制御液圧を付与している。なお、ポンプ37が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lf4のポンプ37の上流側にはアキュムレータ38が配設されている。
【0072】
また、油経路Lf1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lr1に設けるようにしてもよい。
【0073】
さらに、ブレーキアクチュエータ25の後輪系統も前述した前輪系統と同様な構成であり、後輪系統を構成する油経路Lrは油経路Lfと同様に油経路Lr1〜Lr5から構成されている。油経路Lrには液圧制御弁31と同様な液圧制御弁41、および調圧リザーバ34と同様な調圧リザーバ44が備えられている。ホイールシリンダWC3,WC4に連通する分岐した油経路Lr2,Lr2には増圧制御弁32,33と同様な増圧制御弁42,43が備えられ、油経路Lr3には減圧制御弁35,36と同様な減圧制御弁45,46が備えられている。油経路Lr4には、ポンプ37、安全弁37aおよびアキュムレータ38と同様なポンプ47、安全弁47aおよびアキュムレータ48が備えられている。なお、増圧制御弁42,43には、それぞれ安全弁32a,33aと同様な安全弁42a,43aが並列に設けられている。
【0074】
これにより、ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成された制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生させることができる。
【0075】
そして、車両用ブレーキ装置は、主として図1に示すように、ペダルストロークセンサ21a、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度をそれぞれ検出する各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srr、圧力センサP、各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46,モータMに接続されたブレーキECU(電子制御ユニット)60を備えている。ブレーキECU60は、これら各センサによる検出及びシフトスイッチの状態に基づき、液圧ブレーキ装置Bの各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46の状態を切り換え制御または通電電流制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する制御液圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制御液圧制動力を制御する。
【0076】
さらに、ブレーキECU60はハイブリッドECU19に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ12が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU60は運転者の制動要求すなわち制動操作状態に対して、ハイブリッドECU19に全制動力のうち回生ブレーキ装置の負担分である回生要求値を回生ブレーキ装置の目標値すなわち目標回生制動力として出力する。ハイブリッドECU19は、入力した回生要求値(目標回生制動力)に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる実回生実行値を導出しその実回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、導出した実回生実行値をブレーキECU60に出力している。
【0077】
さらに、ブレーキECU60は、基礎液圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されたとき、ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4が車輪FL,FR,RL,RRに付与する基礎液圧制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60は、ブレーキペダルのストローク(またはマスタシリンダ圧)であるブレーキ操作状態に応じて車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60には、図7に示す協調制御プログラム(車両用ブレーキ制御プログラム)が記憶されている。
【0078】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ装置の作動を図7のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU60は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。ブレーキECU60は、ブレーキペダル21の操作状態であるペダルストロークをペダルストロークセンサ21aから入力し(ステップ102)、入力したペダルストロークに応じた目標回生制動力を演算する(ステップ104)。このとき、ブレーキECU60は、予め記憶しておいたペダルストロークすなわちブレーキ操作状態と車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を使用する。
【0079】
目標回生制動力が0より大きい場合には、ステップ104にて演算した目標回生制動力をハイブリッドECU19に出力するとともに、ブレーキアクチュエータ25に対して制御を行わない(ステップ106,108)。したがって、ブレーキペダル21が踏まれている場合、前述した場合と同様に、液圧ブレーキ装置Bは車輪FL,FR,RL,RRに基礎液圧制動力(静圧ブレーキ)のみを付与する。また、ハイブリッドECU19は、目標回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、実回生実行値をブレーキECU60に出力している。したがって、ブレーキ操作がされて、かつ目標回生制動力が0より大きい場合には、車輪FL,FR,RL,RRには基礎液圧制動力に回生制動力が上乗せされて付与される。このように回生協調制御が実行されるが、このとき基礎液圧制動力と回生制動力はブレーキ操作力に応じているので、その一例が図6に示されている。図6には、回生協調制御時のブレーキ操作力と、基礎液圧制動力と回生制動力との総和を示す制動力との相関関係が示されている。
【0080】
すなわち、本第1の実施形態によるマスタシリンダ23によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、図6の破線で示すように、踏み込み開始状態から所定状態までの間は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限されるので、この間回生制動力のみがブレーキ操作状態に応じて付与される。また、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生するので、最大回生制動力のみが付与される。さらに、ブレーキ操作状態が所定状態より踏み込み状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限の解除が維持されて、液圧ブレーキ装置Bと回生ブレーキ装置Aとを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力(基本的には最大回生制動力である。)に基づいてブレーキ操作状態に対応した車両制動力が付与される。
【0081】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時には、基礎液圧制動力の発生を制限することなく、図6の実線で示すように、踏みこみ開始時点から基礎液圧制動力が付与される。
【0082】
ブレーキECU60は、回生ブレーキ装置Aによって実際に生成された回生制動力の変動を検出する(ステップ110〜114)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置Aが実際に車輪FL,FR,RL,RRに付与した実回生制動力を示す実回生実行値を入力し(ステップ110)、ステップ104にて演算された目標回生制動力とステップ110にて入力された実回生制動力の差を演算し(ステップ112)、この演算された差が所定値aより大きければ、回生制動力が変動したことを検出する(ステップ114)。
【0083】
そして、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出すると、ステップ114にてYESと判定し、液圧ブレーキ装置Bのポンプ37,47を駆動させるとともに液圧制御弁31,41を制御することによって制御液圧を形成して車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧に基づく制御液圧制動力を付与することにより、上述のように検出された回生制動力の変動による制動力の不足を補償する(ステップ116)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標際動力と、ステップ110にて入力された実回生制動力との差、すなわちステップ112にて演算された差に相当する液圧となるように制御液圧を制御する。ブレーキECU60は、モータMを起動してポンプ37,47を駆動し、ポンプ37,47からホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されるブレーキ液の液圧が制御液圧となるように差圧制御弁31,41のリニアソレノイドに電流を印加する。このとき、リニアソレノイド33は液圧センサ40により検出されたホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧が制御液圧となるようにフィードバック制御されるのがより好ましい。一方、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出しない場合には、ステップ114にてNOと判定し、ブレーキアクチュエータ25の制御を停止する(ステップ118)。
【0084】
上述した説明から明らかなように、本第1の実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限されない。よって、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。
【0085】
詳述すると、第2位置を、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン23bの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン23bの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0086】
したがって、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0087】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダ23の第1液圧室23d(液圧室)内に基礎液圧が形成されることで、第1ピストン23dにより第1ポート23hが閉塞される前に、すなわち第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0088】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0089】
また、ブレーキペダル21は、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0090】
なお、上述した第1の実施形態において、ブレーキ操作状態は、マスタシリンダ23のストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサ23zによって検出するようにしてもよい。
また、オリフィス23hと同様のオリフィスを第2ポート23iに設けるようにしてもよい。
【0091】
2)第2の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第2の実施形態を図面を参照して説明する。上述した液圧ブレーキ装置Bの負圧式ブースタ22には、ブレーキアシスト装置は備えられていなかったが、本第2の実施形態に係る液圧ブレーキ装置Bの負圧式ブースタ122には、ブレーキアシスト装置が備えられている。ブレーキアシスト装置は、小さい踏力を補助して大きな制動力を形成して付与する装置である。
【0092】
図8において、負圧式ブースタ122は、前方シェル81aと後方シェル81b及び可動壁82とから構成され、内部が可動壁82によって定圧室R1と変圧室R2とに分割されるハウジング81を備える。ハウジング81内の可動壁82は、金属製のプレート82aとゴム製のダイアフラム82bとから成り、ハウジング81に対して前後方向移動可能に設置されている。
【0093】
定圧室R1は、負圧源であるエンジンインテークマニホールド(図示せず)に連通され、エンジン作動中は常に負圧に保たれる。変圧室R2は、通路83及び弁機構84を介して定圧室R1と連通、遮断されるとともに、弁機構84を介して大気とも連通、遮断される。
【0094】
図9に示すように、負圧式ブースタ122においては、運転者が慌ててブレーキペダル21を踏み込む急踏み時において、オペレーティングロッド26とパワーピストン85との相対移動量が所定値Aより大きくなると、プランジャ86の斜面部86bが、保持部材87のテーパ部87aに当接するとともに、リング状弾性体88により縮径する方向に付勢されている保持部材87を半径方向に拡径させる。
【0095】
テーパ部87aの最小内径部87a1がプランジャ86の段部86dに乗り上げると、弁座部材89の被係合部89cと保持部材87の係合部87bとの係合が解徐される。弁座部材89は、スプリング91により後方に付勢されているため、被係合部89cの係合が解徐されると直ちに、スプリング91の付勢力により後方に移動する。
【0096】
弁座部材89が後方に移動すると、弁座部材89の第2負圧弁座92は、弁機構84の可動部93を構成する弁93aに当接し、定圧室R1と変圧室R2との連通を遮断する。このとき、プランジャ86は、オペレーティングロッド26と一体で前方へ移動中であり、弁座部材89が弁機構84の可動部93を後方へ推し戻しているため、プランジャ86の大気弁座86aと弁機構84の可動部93を構成する弁93bとが急速に離間し、変圧室R2が大気と連通する。その結果、通常ブレーキ動作に比べ、定圧室R1と変圧室R2との連通遮断及び変圧室R2が大気との連通が急速に行われるとともに、実質的に、パワーピストン85の反力部材94への当接面85dと第1負圧弁座95との距離、及びパワーピストン85の反力部材94への当接面85dと大気弁座86aとの距離を拡大することになり、ジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくすることが可能となる。
【0097】
本実施形態の負圧式ブースタの緊急ブレーキ特性は、ジャンピング特性を変化させて、通常ブレーキ時より大きな推進力が出力部材に印加されることによって達成されるものである。ジャンピング特性を変化させるためには、図9において、当接部材96と反力部材94との間隙Bを大きくすればよい。間隙Bの拡大は、パワーピストン85の反力部材94への当接面85dと第1負圧弁座95との距離、及びパワーピストン85の反力部材94への当接面85dと大気弁座86aとの距離を拡大することと同じである。すなわち、負圧弁座38と大気弁座86aとを後方に移動させることにより間隙Bを拡大し、当接部材96が反力部材94から反力を受けるまでの出力を大きくして、入力に対する出力の比率が無限大になるいわゆるジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくしたものである。
【0098】
通常ブレーキ特性と上記緊急ブレーキ特性とを図10に示す。図10において、通常ブレーキにおけるジャンンピングは、F1の大きさの出力しか得られないが、緊急ブレーキ時のジャンピングは、F2にまで増大し、小さなペダル踏力で十分な大きさのブレーキ液圧を発生させることができる。
【0099】
なお、本第2の実施形態に係る負圧式ブースタにおいては、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置までの間に、ブレーキアシストが開始されるようになっている。また、後述する第3実施形態では、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されている。
【0100】
上述した説明から明らかなように、本第2の実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限されない。よって、上述した第1の実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0101】
一方、ブレーキペダル21が急踏みされる場合には、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダ23の第1液圧室23d(液圧室)内に基礎液圧が形成される。すなわち、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0102】
この液圧ブレーキ装置Bによって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図10の太い実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からブレーキアシストが開始されるブレーキアシスト開始位置(以下、BA開始位置という。)までの間に位置する場合は、第1の実施形態に係る急踏み時の基礎液圧制動力と同様に、基礎液圧は発生が制限されないでペダルストロークに応じて発生する。さらに、ブレーキペダルストロークが、BA開始位置を越える位置に位置する場合は、ブレーキアシスト装置による基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応して付与される。
【0103】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時にはブレーキアシスト装置による比較的大きな基礎液圧制動力を早期かつ確実に付与することができる。
【0104】
なお、上述した第2の実施形態において、ブレーキアシスト装置をいわゆるメカ式ブレーキアシストで構成するようにしたが、電磁弁で構成された大気圧弁を別に設けこの弁を開閉制御するようにしてもよく、また制御液圧を発生できるブレーキアクチュエータ15で構成するようにしてもよい。この場合、ブレーキ液圧装置Bには、高圧なブレーキ液を蓄圧できるアキュムレータを備えるのが好ましい。これにより、高い圧力の制御液圧を早期に付与することができる。
【0105】
3)第3の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第3の実施形態を図11を参照して説明する。上述した第1および第2の実施形態においては、オリフィス23h1をマスタシリンダ23側に設けるようにしたが、本第3の実施形態では、オリフィスをピストン側に設けるようにした。なお、第1の実施形態に係るマスタシリンダ23と同様な構成部品については、同一符合を付してその説明を省略する。
【0106】
具体的には、図11に示すように、第1ピストン223bには、第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2が形成されている。第1ピストン223bは、有底筒状(カップ状)に形成されている。第1ピストン223bは、開口部側が第1液圧室23dに開口し(第2ピストン23cに向けて開口し)、底部の外壁面がプッシュロッド27に当接するようになっている。第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2は、ブレーキペダル21が踏み込み開始前(図11参照)においてマスタシリンダ23に形成された第1ポート23h(マスタシリンダ側ポート)に臨むように配設されている。これにより、リザーバタンク24は、第1ポート23hならびに第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2を介して第1液圧室23dに連通するようになっている。なお、図11では、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態であり、第1ピストン223bは、踏み込み開始状態に位置する第1位置にある。
【0107】
第1ピストン側ポート223b1は、第1ピストン223bが第1位置にあるとき、第1ポート23hの閉塞端23h2から第1ピストン223bの減圧方向(図11にて右方向)に所定距離Sだけ離れた位置に設けられている。
【0108】
また、第1ピストン側ポート223b1には、オリフィス223b3が設けられている。オリフィス223b3は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように設定されている。なお、オリフィス223b3の内径は第3ポートの内径より小径に設定されている。また、第1液圧室23dには第3ポート23jと同様な後輪系統を構成する油圧経路と連通するポート(図示省略)が形成され、第2液圧室23fには第4ポート23kと同様な前輪系統を構成する油圧経路と連通するポート(図示省略)が形成されている。
【0109】
第2ピストン側ポート223b2は、第1ピストン側ポート223b1よりも第1ピストン223bの増圧方向(図11にて左方向)に所定距離Sだけ離れて設けられている。また、第1ピストン223bが第1位置にあるとき、第2ピストン側ポート223b2は、第1ポート23hの閉塞端23h2と一致しており、閉塞される直前状態にある。また、第2ピストン側ポート223b2の内径は、第1ピストン側ポート223b1の内径より大きく設定されており、ブレーキペダル21の急踏み時においても、ほとんど背圧が増大しないようになっている。
【0110】
次に、本第3の実施形態による作用・効果を説明する。踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン223bが押される。ブレーキペダル21の踏み込み開始に伴って、第2ピストン側ポート223b2が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され始め、第2ピストン側ポート223b2を介する第1液圧室23dとリザーバタンク24との連通が遮断され始める。
【0111】
さらに、第1ピストン223bが押されて、第2ピストン側ポート223b2の内径分だけ移動されると、第2ピストン側ポート223b2は閉塞されて第2ピストン側ポート223b2を介しての連通は遮断される。
【0112】
ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間は、第1液圧室23dの第1ピストン側ポート223b1を介するリザーバタンク24との連通は維持される。すなわち、第1ピストン側ポート223b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。
【0113】
また、第1ピストン側ポート223b1のオリフィス223b3によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧が上昇することなく第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2ならびに第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。なお、第1位置から所定距離Sだけ増圧方向に離れた位置が第2位置である。
【0114】
第1ピストン223bが図面左方向に所定距離Sに第1ピストン側ポート223b1の内径を加算した値だけ移動して、すなわち第1ピストン223bが所定距離Sを越えた場合、第1ピストン側ポート223b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって完全に閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ピストン側ポート223b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。
【0115】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。なお、回生制動力は上述した第1の実施形態と同様に付与される。
【0116】
このように、非急踏み時では、第2位置(所定距離S)は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設定されている。また、第1ピストン223bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。また、第1ピストン223bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。さらに、第1ピストン223bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0117】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン223bが押される。このとき、第1ピストン223bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ピストン側ポート223b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。しかし、第1ピストン側ポート223b1のオリフィス223b3によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、第1ピストン側ポート223b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0118】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0119】
さらに、第1ピストン223bが図面左方向に所定距離Sに第1ピストン側ポート223b1の直径を加算した値だけ移動すると第1ピストン側ポート223b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0120】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで(発生制限が解除されて)、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0121】
本実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポート223b1に設けたオリフィス223b3により制限されない。よって、第1ピストン223bが第1位置から第2位置となるまでの間(ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間)は基礎液圧制動力の発生が制限される。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン223bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0122】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポート223b1に設けたオリフィス223b3により制限される。よって、第1ピストン側ポート223b1の背圧が上昇することで、第1ポート23hの閉塞端23h2により第1ピストン側ポート223b1が閉塞される前に、すなわち第1ピストン223bが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン223bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0123】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0124】
また、ブレーキペダル21は、ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間において当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
また、第2液圧室23fの第2ピストンを、第1ピストン223bと同様に構成し、その第2ピストンに第1および第2ピストン側ポート223b1,223b2と同様な第1および第2ピストン側ポートを形成し、第1ピストン側ポートにオリフィス223b3と同様なオリフィスを設けるようにしてもよい。
【0125】
4)第4の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第4の実施形態を図12を参照して説明する。上述した第1および第2の実施形態においては、オリフィス23h1をマスタシリンダ23側に設けるようにしたが、本第4の実施形態では、オリフィスをピストン側に設けるようにした。
【0126】
具体的には、図12に示すように、第1ピストン123bには、ピストン側ポート123b1(第2ポート)が形成されている。第1ピストン123bは、有底筒状(カップ状)に形成されている。第1ピストン123bは、開口部側が第1液圧室23dに開口し(第2ピストン23cに向けて開口し)、底部の外壁面がプッシュロッド27に当接するようになっている。ピストン側ポート123b1は、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態(図12(a)参照)においてマスタシリンダ23に形成された第1ポート23hに臨むように配設されている。これにより、リザーバタンク24は、第1ポート23hおよびピストン側ポート123b1を介して第1液圧室23dに連通するようになっている。なお、図12(a)では、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態であり、第1ピストン123bは、踏み込み開始状態に位置する第1位置にある。
【0127】
ピストン側ポート123b1は、第1ピストン123bが第1位置にあるとき、第1ポート23hの閉塞端23h2から第1ピストン123bの減圧方向(図12にて右方向)に所定距離Sだけ離れた位置に設けられている。
【0128】
また、ピストン側ポート123b1には、オリフィス123b2が設けられている。オリフィス123b2は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように構成されている。なお、オリフィス123b2の内径は第3ポート23jの内径より小径に設定されている。また、図12において、第1スプリング23e、第2ピストン23cは省略している。
【0129】
次に、本第4の実施形態による作用・効果を説明する。踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン123bが押される。このとき、第1位置にある第1ピストン123bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S(上述した第1の実施形態の所定距離Sと同様である。)以上移動するまではピストン側ポート123b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。さらに、ピストン側ポート123b1のオリフィス123b2によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧が上昇することなくピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。なお、第1位置から所定距離Sだけ増圧方向に離れた位置が第2位置(図12(b)参照)である。
【0130】
第1ピストン123bが図面左方向に所定距離Sにピストン側ポート123b1の直径を加算した値だけ移動するとピストン側ポート123b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって完全に閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液はピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。
【0131】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。なお、回生制動力は上述した第1の実施形態と同様に付与される。
【0132】
このように、非急踏み時では、第2位置(所定距離S)は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設定されている。また、第1ピストン123bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。また、第1ピストン123bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。さらに、第1ピストン123bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0133】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン123bが押される。このとき、第1ピストン123bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまではピストン側ポート123b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。しかし、ピストン側ポート123b1のオリフィス123b2によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、ピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0134】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0135】
さらに、第1ピストン123bが図面左方向に所定距離Sにピストン側ポート123b1の直径を加算した値だけ移動するとピストン側ポート123b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0136】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで(発生制限が解除されて)、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0137】
本実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れがピストン側ポート123b1(第2ポート)に設けたオリフィス123b2により制限されない。よって、第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。
【0138】
詳述すると、第2位置を回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、第1ピストン123bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン123bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン123bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0139】
したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン123bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0140】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れがピストン側ポート123b1(第2ポート)に設けたオリフィス123b2により制限される。よって、ピストン側ポート123b1の背圧が上昇することで、第1ポート23hの閉塞端23h2によりピストン側ポート123b1が閉塞される前に、すなわち第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン123bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0141】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0142】
また、ブレーキペダル21は、第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
また、第2液圧室23fの第2ピストンを、第1ピストン123bと同様に構成し、その第2ピストンにピストン側ポート123b1と同様なピストン側ポートを形成し、ピストン側ポートにオリフィス123b2と同様なオリフィスを設けるようにしてもよい。
【0143】
5)第5の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第5の実施形態を図13を参照して説明する。上述した第1の実施形態では反力用スプリング21bは線形ばねで構成されていたが、本第5の実施形態では反力用スプリング121bは非線形特性を有している。
【0144】
具体的には、反力用スプリング121bは、図13に示すように、複数の線形ばねを組み合わせて構成されている。反力用スプリング121bは、異なるばね定数を有する複数(本実施形態では3個)の線形ばねを備えている。すなわち、反力用スプリング121bは、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3が直列に連結されて構成されている。ばね定数は、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3の順番に大きくなるようになっている。第1ばね121b1は第1ケース121b4内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S1伸びると第1ケース121b4によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。第2ばね121b2も第2ケース121b5内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S2伸びると第1ケース121b4によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。
【0145】
図13(a)は、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3が自然長の状態を示している。反力用スプリング121bに伸びる方向の力が作用すると、ばね定数の小さい第1ばね121b1から順番に伸び始める。図13(b)に示すように、第1ばね121b1の伸びが第1ケース121b4により規制され、次に第2ばね121b2の伸びが第2ケース121b5により規制される。
【0146】
ところで、非急踏み時において、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とがポート(第1の実施形態では第1ポート23hであり、第3の実施形態では第1ポート23hならびに第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2)を介して連通している状態では、マスタシリンダ圧によるブレーキペダル反力が得られない。また一般に、ブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)は、非線形である。
【0147】
そこで、このように構成された本実施形態による反力用スプリング121bによれば、図15で太い実線で示すように、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが第1ポート23h(またはピストン用ポート123b1および第1ポート23h)を介して連通している状態において、すなわちペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉鎖する位置までの間において、反力用スプリング121bの撓みに対する荷重の特性を非線形としている。また、一般のブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)を細い実線で示す。図15に示すように、ブレーキ特性(F−S特性)は非線形である。本実施形態による反力用スプリングの特性は、踏み込み開始位置から閉塞位置までにおいては、通常のブレーキ特性と同様であり、閉塞位置以降においては線形である。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン23b(または第1ピストン123b)が第1位置から第2位置となるまでの間(ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間)、運転者に対しより良好なペダルフィーダを付与することができる。
【0148】
なお、反力用スプリング221bは、図14に示すように、線形ばねと非線形ばねを組み合わせて構成されるようにしてもよい。
【0149】
具体的には、反力用スプリング221bは、非線形ばねである第1ばね221b1と、線形ばねである第2ばね221b2が直列に連結されて構成されている。ばね定数は、第1ばね221b1、第2ばね221b2の順番に大きくなるようになっている。第1ばね221b1は第1ケース221b3内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S1伸びると第1ケース221b3によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。
【0150】
図14(a)は、第1ばね221b1、第2ばね221b2が自然長の状態を示している。反力用スプリング221bに伸びる方向の力が作用すると、ばね定数の小さい第1ばね221b1から順番に伸び始める。図14(b)に示すように、第1ばね221b1の伸びが第1ケース221b3により規制される。
【0151】
6)第6の実施形態
さらに、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第6の実施形態を図16を参照して説明する。本第6の実施形態では、反力用スプリング21bの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通していない状態において線形であり、その線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下である。
【0152】
一般に、所定踏力F1(例えば、500N)に対し所定範囲(例えば、0.25G以上)の減速度が得られることが望まれる。一方、踏力は、マスタシリンダ圧による反力と反力用スプリングによる付勢力の総和である。
【0153】
そこで、本実施形態による反力用スプリング21bによれば、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通している状態において非線形とするとともに、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通していない状態において線形とし、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加(図16にて細い実線で示す通常のブレーキ特性(踏力−減速度特性))を、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加(図16にて太い実線で示す本実施形態によりブレーキ特性(踏力−減速度特性))以下としている。このように、反力用スプリングによる付勢力を制限することにより、所定踏力に対し所定範囲の減速度を得ることができる。
【0154】
また、上述した各実施形態においては、ブレーキ配管系は前後分割方式にて構成されているが、X配管方式にて構成されるようにしてもよい。
【0155】
また、上述した各実施形態においては、ブレーキ操作状態が所定状態以降において、ブレーキ操作状態としてペダルストロークおよびマスタシリンダ圧の大きいほうを選択して制御に使用するようにしてもよい。
【0156】
また、上記実施形態では、倍力装置として負圧式ブースタを用いているが、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧をピストンに作用させてブレーキペダル21に作用するペダル踏力を倍力してもよい。
【0157】
また、本発明は、ハイブリッド車だけでなく、駆動源としてモータのみを搭載するとともに負圧式ブースタ付きのマスタシリンダを有する車両用ブレーキ装置を搭載した車両にも適用可能である。この場合、負圧源が必要となる。
【符号の説明】
【0158】
11…エンジン、12…モータ、13…動力分割機構、14…動力伝達機構、15…発電機、16…インバータ、17…バッテリ、18…エンジンECU、19…ハイブリッドECU、21…ブレーキペダル、21a…ペダルストロークセンサ、21b,121b,221b…反力用スプリング、22,122…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、23a…ハウジング、23b,123b…第1ピストン、123b1…ピストン用ポート(第1ポート)、123b2…オリフィス、23c…第2ピストン、23d…第1液圧室、23e…第1スプリング、23f…第2液圧室、23g…第2スプリング、23h…第1ポート、23h1…オリフィス、23i…第2ポート、23j…第3ポート、23k…第4ポート、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、26…オペレーティングロッド、26a…第1オペレーティングロッド(第1ロッド)、26b…第2オペレーティングロッド(第2ロッド)、27…プッシュロッド、31,41…液圧制御弁、32,33,42,43…増圧制御弁、35,36,45,46…減圧制御弁、34,44…調圧リザーバ、37,47…ポンプ、60…ブレーキECU、A…回生ブレーキ装置、B…液圧ブレーキ装置、BK1,BK2,BK3,BK4…ブレーキ手段、FL,FR,RL,RR…車輪、Lf,Lr…油経路、M…モータ、P…圧力センサ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WC1,WC2,WC3,WC4…ホイールシリンダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作状態に応じて車両に付与する目標制動力を液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力とによって達成する車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用ブレーキ装置としては、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置は知られている。
【0003】
この車両用ブレーキ装置は、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通するポートを、同ポートを閉塞するピストンの閉塞端がブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生を制限し、ピストンの閉塞端が第2位置を越えた場合に、基礎液圧制動力の発生の制限を解除する基礎液圧制動力発生制限手段を備えている。
【0004】
車両用ブレーキ装置は、第2位置は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けられるとともに、ピストンの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した前記車両制動力を前記車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4415379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルが急踏みでない非急踏み時においては(通常の踏みこみ速度で踏み込む場合)、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。しかし、ブレーキペダルの急踏み時においては、高回生効率・高燃費の達成より基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与したいという要請がある。
【0007】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、ブレーキペダルが急踏みされた場合に基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通するポートを、同ポートを閉塞するピストンの閉塞端がブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は、マスタシリンダの液圧室がポートを介してリザーバタンクに連通され、ピストンの閉塞端が第2位置を越えた場合に、マスタシリンダの液圧室がリザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、ポートに設けたことである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に、リザーバタンクと連通するマスタシリンダ側ポートが設けられ、液圧室を摺動するピストンに、マスタシリンダ側ポートに臨む第1ピストン側ポートと、第1ピストン側ポートよりもピストンの増圧方向に所定距離だけ離れてマスタシリンダ側ポートに臨む第2ピストン側ポートとが設けられ、ブレーキペダルの踏み込み前には、液圧室が第1ピストン側ポートおよび第2ピストン側ポートを介してリザーバタンクと連通し、ブレーキペダルの踏み込み開始に伴って、液圧室の第2ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を遮断し、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間は、液圧室の第1ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を維持し、ピストンが所定距離を越えた場合、液圧室の第1ピストン側ポートおよび第2ピストン側ポートを介するリザーバタンクとの連通を遮断する車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、第1ピストン側ポートに設けたことである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキペダルの踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダにて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与することにより、同各車輪に基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、を備えており、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力に基づいてブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、マスタシリンダの液圧室に設けられてリザーバタンクと連通する第1ポートに臨みかつ液圧室内を摺動するピストンに設けられた第2ポートを、ピストンがブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置にあるとき、第1ポートの閉塞端からピストンの減圧方向に所定距離だけ離れた位置に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に、ピストンが第1位置からピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置となるまでの間は、マスタシリンダの液圧室が第1ポートおよび第2ポートを介してリザーバタンクに連通され、ピストンが第2位置を越えた場合に、マスタシリンダの液圧室がリザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの急踏み時においては、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、流れが制限されないように構成されたオリフィスを、第2ポートに設けたことである。
【0011】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0012】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0013】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンが第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることである。
【0014】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項4において、ブレーキペダルは、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0015】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項2または請求項5において、ブレーキペダルは、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0016】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項3または請求項6において、ブレーキペダルは、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることである。
【0017】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項7乃至請求項9の何れか一項において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態において非線形であることである。
【0018】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項10において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通していない状態において線形であり、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下であることである。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れがポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置との協調動作によって、回生ブレーキ装置が車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補うことにより、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0020】
基礎液圧制動力の不足を回生制動力により補う構成としては、例えば、第2位置を、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、ピストンの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与することが考えられる。
【0021】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れがポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダの液圧室内に基礎液圧が形成されることで、ピストンによりポートが閉塞される前に、すなわちピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができ、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0022】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0023】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間は、基礎液圧制動力の発生が制限される。したがって、請求項1に係る発明と同様に、この間においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0024】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、第1ピストン側ポートの背圧が上昇することで、第1ピストン側ポートが閉塞される前に、すなわちブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、請求項1に係る発明と同様に、この間においては、ブレーキペダルの急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0025】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0026】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、ブレーキペダルの非急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第2ポートに設けたオリフィスにより制限されない。よって、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。例えば、第2位置を回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、ピストンが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置が発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、ピストンが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置が発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力とによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。したがって、請求項1に係る発明と同様に、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0027】
一方、ブレーキペダルの急踏み時において、マスタシリンダからリザーバタンクへのブレーキ液の流れが第2ポートに設けたオリフィスにより制限される。よって、第2ポートの背圧が上昇することで、第1ポートの閉塞端により第2ポートが閉塞される前に、すなわちピストンが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、請求項1に係る発明と同様に、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0028】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダルの踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0029】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0030】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項2において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0031】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項3において、車両用ブレーキ装置はブレーキアシスト装置を備え、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ピストンが第1位置から第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されている。これにより、ピストンが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダルの急踏み時には、ブレーキアシスト装置により基礎液圧制動力の早期付与を確実に図ることができる。
【0032】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1または請求項4において、ブレーキペダルは、ピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0033】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項2または請求項5において、ブレーキペダルは、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0034】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項3または請求項6において、ブレーキペダルは、ピストンが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリングを備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンが第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリングの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0035】
非急踏み時において、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態では、マスタシリンダ圧によるブレーキペダル反力が得られない。また一般に、ブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)は、非線形である。
【0036】
そこで、上記のように構成した請求項10に係る発明においては、請求項7乃至請求項9の何れか一項において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダとリザーバタンクとがポートを介して連通している状態において非線形としている。これにより、ブレーキペダルが踏み込まれてピストンが第1位置から第2位置となるまでの間、運転者に対しより良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0037】
一般に、所定踏力(例えば、500N)に対し所定範囲(例えば、0.25G以上)の減速度が得られることが望まれる。一方、踏力は、マスタシリンダ圧による反力と反力用スプリングによる付勢力の総和である。
【0038】
そこで、上記のように構成した請求項11に係る発明においては、請求項10において、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通している状態において非線形とするとともに、マスタシリンダとリザーバタンクとが連通していない状態において線形とし、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加を、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下としている。このように、反力用スプリングによる付勢力を制限することにより、所定踏力に対し所定範囲の減速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み前の状態を示す図である。
【図3】図1に示す基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み中の状態を示す図である。
【図4】図2に示す第1ポートの部分拡大断面図である。
【図5】図1に示す液圧ブレーキ装置のブレーキアクチュエータの概要を示す概要図である。
【図6】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第1の実施形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図7】図1に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図8】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の実施形態における負圧式ブースタを示す断面図である。
【図9】図8に示す負圧式ブースタの部分拡大断面図である。
【図10】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第2の実施形態によるブレーキ操作力と制動力の相関関係図である。
【図11】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第3の実施形態におけるマスタシリンダの断面図である。
【図12】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第4の実施形態におけるマスタシリンダの部分拡大断面図であり、(a)は、基礎液圧制動力発生装置のブレーキ踏み込み前の状態(第1位置)を示す図であり、(b)はブレーキ踏み込み中の状態(特に第2位置)を示す図である。
【図13】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの一例を示す図であり、(a)は、自然長の状態を示し、(b)は伸びた状態を示す図である。
【図14】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの他の一例を示す図であり、(a)は、自然長の状態を示し、(b)は伸びた状態を示す図である。
【図15】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第5の実施形態における反力用スプリングの作用を示すペダルストローク−踏力特性を示す図である。
【図16】本発明による車両用ブレーキ装置を適用した第6の実施形態における反力用スプリングの作用を示す踏力−減速度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
1)第1の実施形態
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第1の実施形態を図面を参照して説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図であり、図2は車両用ブレーキ装置の基礎液圧制動力発生装置の構成を示す概要図である。ハイブリッド車は、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪FL,FRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本第1の実施形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11はモータ12への電力供給源として作用する。
【0041】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車は、エンジン11およびモータ12を備えている。エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本第1の実施形態では左右前輪FL,FR)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0042】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0043】
本第1の実施形態においては、これらモータ12、インバータ16およびバッテリ17から回生ブレーキ装置Aが構成されており、この回生ブレーキ装置Aは、ペダルストロークセンサ21a(または圧力センサP)によって検出されたブレーキ操作状態(後述する)に基づいた回生制動力を各車輪FL,FR,RL,RRの何れか(本第1の実施形態では駆動源であるモータ12によって駆動される左右前輪FL,FR)に発生させるものである。
【0044】
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットルに開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。ハイブリッドECU19は、インバータ16が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。また、ハイブリッドECU19はバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0045】
また、ハイブリッド車は、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Bを備えている。液圧ブレーキ装置Bは、図4に示すように、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダ23にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダ23と液圧制御弁31,41をそれぞれ介在した油経路Lf,Lrによって連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FL,FR,RL,RRに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させるとともに、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成される制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生可能に構成されたものである。
【0046】
この液圧ブレーキ装置Bは、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成してホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24と、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC1〜WC4との間に設けられて制御液圧を形成するブレーキアクチュエータ(制御液圧制動力発生装置)25を備えている。なお、ブレーキペダル21、負圧式ブースタ22、マスタシリンダ23、リザーバタンク24によって基礎液圧制動力発生装置が構成されている。
【0047】
図2および図3に示すように、ブレーキペダル21はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に接続され、負圧式ブースタ22はプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に接続されており、ブレーキペダル21に作用されたブレーキ操作力はオペレーティングロッド26を介して負圧式ブースタ22に入力され、倍力されてプッシュロッド27を介してマスタシリンダ23に入力されるようになっている。
【0048】
ブレーキペダル21は、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態であるブレーキペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ21aが設けられている。このペダルストロークセンサ21aはブレーキECU60に接続されており、検出信号がブレーキECU60に送信されるようになっている。さらに、ブレーキペダル21は、ブレーキ操作状態が所定状態(後述する)となるまでのブレーキペダル21のペダル反力を形成するペダル反力形成手段である反力用スプリング21bが備えられている。反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向(ブレーキペダル21が踏み込み前の元の位置に戻る方向)に付勢するようになっている。この反力用スプリング21bの付勢力は、マスタシリンダ23のハウジング23aの内径、倍力比などを考慮して設定されるのが望ましい。
【0049】
負圧式ブースタ22は、一般によく知られているものであり、負圧取入れ口22aがエンジン11の吸気マニホールドに連通しており、この吸気マニホールドの負圧を倍力源としている。
【0050】
マスタシリンダ23は、図2および図3に示すように、タンデム式のマスタシリンダであり、有底筒状に形成されたハウジング23aと、ハウジング23a内を液密かつ摺動可能に並べて収納された第1および第2ピストン23b,23cと、第1ピストン23bと第2ピストン23cとの間に形成される第1液圧室23d内に配設された第1スプリング23eと、第2ピストン23cとハウジング23aの閉塞端との間に形成される第2液圧室23f内に配設された第2スプリング23gとから構成されている。これにより、第2ピストン23cは第2スプリング23gによって開口端側(第1ピストン23b側)に付勢され、第1ピストン23bは第1スプリング23eによって開口端側に付勢されて、第1ピストン23bの一端(開口端側端)がプッシュロッド27の先端に押圧されて当接するようになっている。
【0051】
マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dとリザーバタンク24とを連通するための第1ポート23hと、第2液圧室23fとリザーバタンク24とを連通するための第2ポート23iとが設けられている。第1ポート23hは、ブレーキペダル21から運転者の足が離れている状態すなわちブレーキペダル21が踏み込まれていない状態である第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第1ピストン23bの同ポート23hを閉塞する閉塞端から第1ピストン23bの増圧方向(閉塞端側の方向:図2において左方向)に所定距離Sだけ離れた所定状態に対応した第2位置に配設されている。第2ポート23iは、第1ピストン23bと同様に第1位置(戻り位置:図2の図示状態)にある第2ピストン23cの第2ポート23iを閉塞する閉塞端が第2ポート23iの開口端に一致する位置(すなわち第2ピストン23cの閉塞端が第2ポート23iの開口を塞ぎ始める直前位置)に配設されている。
【0052】
なお、所定状態は、基礎液圧制動力の発生制限が解除されて、基礎液圧制動力がブレーキ操作状態に対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。また、所定距離Sは、ブレーキ操作状態が所定状態であるときに回生ブレーキ装置Aが最大回生制動力を発生するように設定されることが望ましい。これにより、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合に、マスタシリンダ23は基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生する。
【0053】
また、図4に示すように、第1ポート23hには、オリフィス23h1が設けられている。オリフィス23h1は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように構成されている。なお、オリフィス23h1の内径は第3ポート23jの内径より小径に設定されている(流路断面積は小さく設定されている)。
【0054】
さらに、マスタシリンダ23のハウジング23aは、第1液圧室23dと後輪系統を構成する油経路Lrとを連通するための第3ポート23jと、第2液圧室23fと前輪系統を構成する油経路Lfとを連通するための第4ポート23kとが設けられている。図4に示すように、油経路Lrは、第1液圧室23dと左右後輪RL,RRのホイールシリンダWC3,WC4とをそれぞれ連通するものであり、油経路Lfは、第2液圧室23fと左右前輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2とをそれぞれ連通するものである。
【0055】
各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4は、マスタシリンダ23から油経路Lf,Lrを介して液圧(基礎液圧、制御液圧)が供給されると、各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対応してそれぞれ設けられた各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4を作動させて各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力(基礎液圧制動力、制動液圧制動力)を付与する。各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制するようになっている。
【0056】
上述したマスタシリンダ23の作動を図2および図3を参照して説明する。図2に示すように、ブレーキペダル21が踏まれていない状態では、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されないため移動されず、したがって第1ピストン23bおよび第2ピストン23cも押されていないため、第1および第2液圧室23d,23fに基礎液圧は発生していない。
【0057】
しかし、踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21(図2参照)が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン23bが押される。このとき、第1ピストン23bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ポート23hは第1ピストン23bの閉塞端による閉塞が開始されない。さらに、第1ポート23hのオリフィス23h1によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧(第1ポート23h内におけるブレーキ液圧のことである。)が上昇することなく第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。また、第1ピストン23bの移動によって第1スプリング23eが押されて圧縮されるが、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しないため、第2ピストン23cは図面左方向(増圧方向)に押されないで第1位置に停止したままであり、第2ポート23iは第2ピストン23cの閉塞端による閉塞が開始されないので、第2液圧室23f内にも基礎液圧は発生しない。
【0058】
第1ピストン23bが図面左方向に所定距離Sに第1ポート23hの直径を加算した値だけ移動すると第1ポート23hが第1ピストン23bの閉塞端によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。また、第2ピストン23cは、第1液圧室23d内に発生した基礎液圧によって図面左方向に押されて瞬時に閉塞端によって第2ポート23iを閉塞するため、第2液圧室23f内のブレーキ液は第2ポート23iを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第2液圧室23f内は密閉状態となるので、第2液圧室23f内にも基礎液圧の形成が開始される。
【0059】
このように第1および第2液圧室23d,23fにて基礎液圧の形成が開始される状態からさらにブレーキペダル21が踏まれて図3に示す踏み込み状態となると、基礎液圧形成開始状態から図3に示す踏み込み状態までの間は(基礎液圧形成開始状態以降においては)、ブレーキ操作状態に対応した基礎液圧が第1および第2液圧室23d,23fに発生するようになっている。なお、第1および第2液圧室23d,23fにそれぞれ発生する各基礎液圧は同一圧となるようになっている。なお、図3に示す踏み込み状態にあるブレーキペダル21から足を離すと、第1および第2ピストン23b,23cはそれぞれ第1および第2スプリング23e,23gの付勢力および各油経路Lr,Lf内圧力によって元の位置(第1位置)に戻るようになっている。
【0060】
上述したマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。
【0061】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン23bが押される。このとき、第1ピストン23bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ポート23hは第1ピストン23bの閉塞端による閉塞が開始されない。しかし、第1ポート23hのオリフィス23h1によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。また、第2ピストン23cは、第1液圧室23d内に発生した基礎液圧によって図面左方向に押されて瞬時に閉塞端によって第2ポート23iを閉塞するため、第2液圧室23f内のブレーキ液は第2ポート23iを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第2液圧室23f内は密閉状態となるので、第2液圧室23f内にも基礎液圧の形成が開始される。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0062】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0063】
さらに、第1ピストン23bが図面左方向に所定距離Sに第1ポート23hの直径を加算した値だけ移動すると第1ポート23hが第1ピストン23bの閉塞端によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0064】
上述したマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークが第1ポート23hを閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0065】
また、急踏み時の基礎液圧制動力と非急踏み時の基礎液圧制動力の傾きは、マスタシリンダ23や負圧式ブースタ22の特性によって決定されるものであり、同一の特性を有する。また、踏み込み開始時点から第1ピストン23bが押されるため、急踏み時の基礎液圧制動力の立上り時点は、非急踏み時に比べて早くなっている。
【0066】
次に、ブレーキアクチュエータ25について図5を参照して詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁31,41、ABS制御弁を構成する増圧制御弁32,33,42,43および減圧制御弁35,36,45,46、調圧リザーバ34,44、ポンプ37,47、モータMなどを一つのケースにパッケージすることにより構成されている。
【0067】
まず、ブレーキアクチュエータ25の前輪系統の構成について説明する。油経路Lfには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁31が備えられている。この液圧制御弁31は、ブレーキECU60により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁31は通常連通状態とされているが、差圧状態にすることによりホイールシリンダWC1,WC2側の油経路Lf2をマスタシリンダ23側の油経路Lf1よりも所定の差圧分高い圧力に保持することができる。この差圧はブレーキECU60により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0068】
油経路Lf2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC1へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁32が備えられ、他方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁33が備えられている。これら増圧制御弁32,33は、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、これら増圧制御弁32,33が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧または/およびポンプ37の駆動と液圧制御弁31の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWC1,WC2に加えることができる。また、増圧制御弁32,33は減圧制御弁35,36およびポンプ37とともにABS制御を実行することができる。
【0069】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧制御弁32,33は常時連通状態に制御されている。また、増圧制御弁32,33には、それぞれ安全弁32a,33aが並列に設けられており、ABS制御時においてブレーキペダル21を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWC1,WC2側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0070】
また、増圧制御弁32,33と各ホイールシリンダWC1,WC2との間における油経路Lf2は、油経路Lf3を介して調圧リザーバ34に連通されている。油経路Lf3には、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁35,36がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁35,36はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ34へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWC1,WC2におけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0071】
さらに、液圧制御弁31と増圧制御弁32,33との間における油経路Lf2と調圧リザーバ34とを結ぶ油経路Lf4にはポンプ37が安全弁37aと共に配設されている。そして、調圧リザーバ34を油経路Lf1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lf5が設けられている。ポンプ37は、ブレーキECU60の指令によりモータMによって駆動されるものである。ポンプ37は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ液または調圧リザーバ34に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁31を介してマスタシリンダ23に戻している。また、ポンプ37は、VSC制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの車両の姿勢を安定に制御するための制御液圧を形成する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁31に差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lf1,Lf5および調圧リザーバ34を介して吸い込んで油経路Lf4,Lf2および連通状態である増圧制御弁32,33を介して各ホイールシリンダWC1,WC2に吐出して制御液圧を付与している。なお、ポンプ37が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lf4のポンプ37の上流側にはアキュムレータ38が配設されている。
【0072】
また、油経路Lf1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lr1に設けるようにしてもよい。
【0073】
さらに、ブレーキアクチュエータ25の後輪系統も前述した前輪系統と同様な構成であり、後輪系統を構成する油経路Lrは油経路Lfと同様に油経路Lr1〜Lr5から構成されている。油経路Lrには液圧制御弁31と同様な液圧制御弁41、および調圧リザーバ34と同様な調圧リザーバ44が備えられている。ホイールシリンダWC3,WC4に連通する分岐した油経路Lr2,Lr2には増圧制御弁32,33と同様な増圧制御弁42,43が備えられ、油経路Lr3には減圧制御弁35,36と同様な減圧制御弁45,46が備えられている。油経路Lr4には、ポンプ37、安全弁37aおよびアキュムレータ38と同様なポンプ47、安全弁47aおよびアキュムレータ48が備えられている。なお、増圧制御弁42,43には、それぞれ安全弁32a,33aと同様な安全弁42a,43aが並列に設けられている。
【0074】
これにより、ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成された制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生させることができる。
【0075】
そして、車両用ブレーキ装置は、主として図1に示すように、ペダルストロークセンサ21a、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度をそれぞれ検出する各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srr、圧力センサP、各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46,モータMに接続されたブレーキECU(電子制御ユニット)60を備えている。ブレーキECU60は、これら各センサによる検出及びシフトスイッチの状態に基づき、液圧ブレーキ装置Bの各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46の状態を切り換え制御または通電電流制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する制御液圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制御液圧制動力を制御する。
【0076】
さらに、ブレーキECU60はハイブリッドECU19に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ12が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU60は運転者の制動要求すなわち制動操作状態に対して、ハイブリッドECU19に全制動力のうち回生ブレーキ装置の負担分である回生要求値を回生ブレーキ装置の目標値すなわち目標回生制動力として出力する。ハイブリッドECU19は、入力した回生要求値(目標回生制動力)に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる実回生実行値を導出しその実回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、導出した実回生実行値をブレーキECU60に出力している。
【0077】
さらに、ブレーキECU60は、基礎液圧がホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されたとき、ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4が車輪FL,FR,RL,RRに付与する基礎液圧制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60は、ブレーキペダルのストローク(またはマスタシリンダ圧)であるブレーキ操作状態に応じて車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU60には、図7に示す協調制御プログラム(車両用ブレーキ制御プログラム)が記憶されている。
【0078】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ装置の作動を図7のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU60は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。ブレーキECU60は、ブレーキペダル21の操作状態であるペダルストロークをペダルストロークセンサ21aから入力し(ステップ102)、入力したペダルストロークに応じた目標回生制動力を演算する(ステップ104)。このとき、ブレーキECU60は、予め記憶しておいたペダルストロークすなわちブレーキ操作状態と車輪FL,FR,RL,RRに付与する目標回生制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を使用する。
【0079】
目標回生制動力が0より大きい場合には、ステップ104にて演算した目標回生制動力をハイブリッドECU19に出力するとともに、ブレーキアクチュエータ25に対して制御を行わない(ステップ106,108)。したがって、ブレーキペダル21が踏まれている場合、前述した場合と同様に、液圧ブレーキ装置Bは車輪FL,FR,RL,RRに基礎液圧制動力(静圧ブレーキ)のみを付与する。また、ハイブリッドECU19は、目標回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、実回生実行値をブレーキECU60に出力している。したがって、ブレーキ操作がされて、かつ目標回生制動力が0より大きい場合には、車輪FL,FR,RL,RRには基礎液圧制動力に回生制動力が上乗せされて付与される。このように回生協調制御が実行されるが、このとき基礎液圧制動力と回生制動力はブレーキ操作力に応じているので、その一例が図6に示されている。図6には、回生協調制御時のブレーキ操作力と、基礎液圧制動力と回生制動力との総和を示す制動力との相関関係が示されている。
【0080】
すなわち、本第1の実施形態によるマスタシリンダ23によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時に、ブレーキ操作状態が踏み込み開始時点の状態である踏み込み開始状態から所定状態となるまでの間は基礎液圧制動力が所定値以下となるようにその発生を制限する。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、図6の破線で示すように、踏み込み開始状態から所定状態までの間は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限されるので、この間回生制動力のみがブレーキ操作状態に応じて付与される。また、ブレーキ操作状態が所定状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限を解除するとともに、回生ブレーキ装置Aは最大回生制動力を発生するので、最大回生制動力のみが付与される。さらに、ブレーキ操作状態が所定状態より踏み込み状態となった場合においては、基礎液圧制動力の発生の制限の解除が維持されて、液圧ブレーキ装置Bと回生ブレーキ装置Aとを協調動作させて基礎液圧制動力と回生制動力(基本的には最大回生制動力である。)に基づいてブレーキ操作状態に対応した車両制動力が付与される。
【0081】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時には、基礎液圧制動力の発生を制限することなく、図6の実線で示すように、踏みこみ開始時点から基礎液圧制動力が付与される。
【0082】
ブレーキECU60は、回生ブレーキ装置Aによって実際に生成された回生制動力の変動を検出する(ステップ110〜114)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置Aが実際に車輪FL,FR,RL,RRに付与した実回生制動力を示す実回生実行値を入力し(ステップ110)、ステップ104にて演算された目標回生制動力とステップ110にて入力された実回生制動力の差を演算し(ステップ112)、この演算された差が所定値aより大きければ、回生制動力が変動したことを検出する(ステップ114)。
【0083】
そして、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出すると、ステップ114にてYESと判定し、液圧ブレーキ装置Bのポンプ37,47を駆動させるとともに液圧制御弁31,41を制御することによって制御液圧を形成して車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧に基づく制御液圧制動力を付与することにより、上述のように検出された回生制動力の変動による制動力の不足を補償する(ステップ116)。具体的には、ブレーキECU60は、ステップ104にて演算された目標際動力と、ステップ110にて入力された実回生制動力との差、すなわちステップ112にて演算された差に相当する液圧となるように制御液圧を制御する。ブレーキECU60は、モータMを起動してポンプ37,47を駆動し、ポンプ37,47からホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給されるブレーキ液の液圧が制御液圧となるように差圧制御弁31,41のリニアソレノイドに電流を印加する。このとき、リニアソレノイド33は液圧センサ40により検出されたホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧が制御液圧となるようにフィードバック制御されるのがより好ましい。一方、ブレーキECU60は、回生制動力の変動を検出しない場合には、ステップ114にてNOと判定し、ブレーキアクチュエータ25の制御を停止する(ステップ118)。
【0084】
上述した説明から明らかなように、本第1の実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限されない。よって、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力が所定値以下に強制的に制限される。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。
【0085】
詳述すると、第2位置を、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン23bの閉塞端が第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン23bの閉塞端が第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0086】
したがって、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0087】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダ23の第1液圧室23d(液圧室)内に基礎液圧が形成されることで、第1ピストン23dにより第1ポート23hが閉塞される前に、すなわち第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダル21を踏み込むと、第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが前記車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、第1ピストン23dの閉塞端が第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0088】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0089】
また、ブレーキペダル21は、第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン23bの閉塞端が第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
【0090】
なお、上述した第1の実施形態において、ブレーキ操作状態は、マスタシリンダ23のストロークを検出するマスタシリンダストロークセンサ23zによって検出するようにしてもよい。
また、オリフィス23hと同様のオリフィスを第2ポート23iに設けるようにしてもよい。
【0091】
2)第2の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第2の実施形態を図面を参照して説明する。上述した液圧ブレーキ装置Bの負圧式ブースタ22には、ブレーキアシスト装置は備えられていなかったが、本第2の実施形態に係る液圧ブレーキ装置Bの負圧式ブースタ122には、ブレーキアシスト装置が備えられている。ブレーキアシスト装置は、小さい踏力を補助して大きな制動力を形成して付与する装置である。
【0092】
図8において、負圧式ブースタ122は、前方シェル81aと後方シェル81b及び可動壁82とから構成され、内部が可動壁82によって定圧室R1と変圧室R2とに分割されるハウジング81を備える。ハウジング81内の可動壁82は、金属製のプレート82aとゴム製のダイアフラム82bとから成り、ハウジング81に対して前後方向移動可能に設置されている。
【0093】
定圧室R1は、負圧源であるエンジンインテークマニホールド(図示せず)に連通され、エンジン作動中は常に負圧に保たれる。変圧室R2は、通路83及び弁機構84を介して定圧室R1と連通、遮断されるとともに、弁機構84を介して大気とも連通、遮断される。
【0094】
図9に示すように、負圧式ブースタ122においては、運転者が慌ててブレーキペダル21を踏み込む急踏み時において、オペレーティングロッド26とパワーピストン85との相対移動量が所定値Aより大きくなると、プランジャ86の斜面部86bが、保持部材87のテーパ部87aに当接するとともに、リング状弾性体88により縮径する方向に付勢されている保持部材87を半径方向に拡径させる。
【0095】
テーパ部87aの最小内径部87a1がプランジャ86の段部86dに乗り上げると、弁座部材89の被係合部89cと保持部材87の係合部87bとの係合が解徐される。弁座部材89は、スプリング91により後方に付勢されているため、被係合部89cの係合が解徐されると直ちに、スプリング91の付勢力により後方に移動する。
【0096】
弁座部材89が後方に移動すると、弁座部材89の第2負圧弁座92は、弁機構84の可動部93を構成する弁93aに当接し、定圧室R1と変圧室R2との連通を遮断する。このとき、プランジャ86は、オペレーティングロッド26と一体で前方へ移動中であり、弁座部材89が弁機構84の可動部93を後方へ推し戻しているため、プランジャ86の大気弁座86aと弁機構84の可動部93を構成する弁93bとが急速に離間し、変圧室R2が大気と連通する。その結果、通常ブレーキ動作に比べ、定圧室R1と変圧室R2との連通遮断及び変圧室R2が大気との連通が急速に行われるとともに、実質的に、パワーピストン85の反力部材94への当接面85dと第1負圧弁座95との距離、及びパワーピストン85の反力部材94への当接面85dと大気弁座86aとの距離を拡大することになり、ジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくすることが可能となる。
【0097】
本実施形態の負圧式ブースタの緊急ブレーキ特性は、ジャンピング特性を変化させて、通常ブレーキ時より大きな推進力が出力部材に印加されることによって達成されるものである。ジャンピング特性を変化させるためには、図9において、当接部材96と反力部材94との間隙Bを大きくすればよい。間隙Bの拡大は、パワーピストン85の反力部材94への当接面85dと第1負圧弁座95との距離、及びパワーピストン85の反力部材94への当接面85dと大気弁座86aとの距離を拡大することと同じである。すなわち、負圧弁座38と大気弁座86aとを後方に移動させることにより間隙Bを拡大し、当接部材96が反力部材94から反力を受けるまでの出力を大きくして、入力に対する出力の比率が無限大になるいわゆるジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくしたものである。
【0098】
通常ブレーキ特性と上記緊急ブレーキ特性とを図10に示す。図10において、通常ブレーキにおけるジャンンピングは、F1の大きさの出力しか得られないが、緊急ブレーキ時のジャンピングは、F2にまで増大し、小さなペダル踏力で十分な大きさのブレーキ液圧を発生させることができる。
【0099】
なお、本第2の実施形態に係る負圧式ブースタにおいては、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置までの間に、ブレーキアシストが開始されるようになっている。また、後述する第3実施形態では、ブレーキアシスト装置は、ブレーキペダルの急踏み時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されている。
【0100】
上述した説明から明らかなように、本第2の実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限されない。よって、上述した第1の実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0101】
一方、ブレーキペダル21が急踏みされる場合には、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ポート23h(ポート)に設けたオリフィス23h1により制限される。よって、背圧が増大するため、マスタシリンダ23の第1液圧室23d(液圧室)内に基礎液圧が形成される。すなわち、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、第1オペレーティングロッド26aが踏み込み開始位置から当接位置までの間を位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0102】
この液圧ブレーキ装置Bによって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は図10の太い実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からブレーキアシストが開始されるブレーキアシスト開始位置(以下、BA開始位置という。)までの間に位置する場合は、第1の実施形態に係る急踏み時の基礎液圧制動力と同様に、基礎液圧は発生が制限されないでペダルストロークに応じて発生する。さらに、ブレーキペダルストロークが、BA開始位置を越える位置に位置する場合は、ブレーキアシスト装置による基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応して付与される。
【0103】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時にはブレーキアシスト装置による比較的大きな基礎液圧制動力を早期かつ確実に付与することができる。
【0104】
なお、上述した第2の実施形態において、ブレーキアシスト装置をいわゆるメカ式ブレーキアシストで構成するようにしたが、電磁弁で構成された大気圧弁を別に設けこの弁を開閉制御するようにしてもよく、また制御液圧を発生できるブレーキアクチュエータ15で構成するようにしてもよい。この場合、ブレーキ液圧装置Bには、高圧なブレーキ液を蓄圧できるアキュムレータを備えるのが好ましい。これにより、高い圧力の制御液圧を早期に付与することができる。
【0105】
3)第3の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第3の実施形態を図11を参照して説明する。上述した第1および第2の実施形態においては、オリフィス23h1をマスタシリンダ23側に設けるようにしたが、本第3の実施形態では、オリフィスをピストン側に設けるようにした。なお、第1の実施形態に係るマスタシリンダ23と同様な構成部品については、同一符合を付してその説明を省略する。
【0106】
具体的には、図11に示すように、第1ピストン223bには、第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2が形成されている。第1ピストン223bは、有底筒状(カップ状)に形成されている。第1ピストン223bは、開口部側が第1液圧室23dに開口し(第2ピストン23cに向けて開口し)、底部の外壁面がプッシュロッド27に当接するようになっている。第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2は、ブレーキペダル21が踏み込み開始前(図11参照)においてマスタシリンダ23に形成された第1ポート23h(マスタシリンダ側ポート)に臨むように配設されている。これにより、リザーバタンク24は、第1ポート23hならびに第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2を介して第1液圧室23dに連通するようになっている。なお、図11では、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態であり、第1ピストン223bは、踏み込み開始状態に位置する第1位置にある。
【0107】
第1ピストン側ポート223b1は、第1ピストン223bが第1位置にあるとき、第1ポート23hの閉塞端23h2から第1ピストン223bの減圧方向(図11にて右方向)に所定距離Sだけ離れた位置に設けられている。
【0108】
また、第1ピストン側ポート223b1には、オリフィス223b3が設けられている。オリフィス223b3は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように設定されている。なお、オリフィス223b3の内径は第3ポートの内径より小径に設定されている。また、第1液圧室23dには第3ポート23jと同様な後輪系統を構成する油圧経路と連通するポート(図示省略)が形成され、第2液圧室23fには第4ポート23kと同様な前輪系統を構成する油圧経路と連通するポート(図示省略)が形成されている。
【0109】
第2ピストン側ポート223b2は、第1ピストン側ポート223b1よりも第1ピストン223bの増圧方向(図11にて左方向)に所定距離Sだけ離れて設けられている。また、第1ピストン223bが第1位置にあるとき、第2ピストン側ポート223b2は、第1ポート23hの閉塞端23h2と一致しており、閉塞される直前状態にある。また、第2ピストン側ポート223b2の内径は、第1ピストン側ポート223b1の内径より大きく設定されており、ブレーキペダル21の急踏み時においても、ほとんど背圧が増大しないようになっている。
【0110】
次に、本第3の実施形態による作用・効果を説明する。踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン223bが押される。ブレーキペダル21の踏み込み開始に伴って、第2ピストン側ポート223b2が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され始め、第2ピストン側ポート223b2を介する第1液圧室23dとリザーバタンク24との連通が遮断され始める。
【0111】
さらに、第1ピストン223bが押されて、第2ピストン側ポート223b2の内径分だけ移動されると、第2ピストン側ポート223b2は閉塞されて第2ピストン側ポート223b2を介しての連通は遮断される。
【0112】
ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間は、第1液圧室23dの第1ピストン側ポート223b1を介するリザーバタンク24との連通は維持される。すなわち、第1ピストン側ポート223b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。
【0113】
また、第1ピストン側ポート223b1のオリフィス223b3によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧が上昇することなく第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2ならびに第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。なお、第1位置から所定距離Sだけ増圧方向に離れた位置が第2位置である。
【0114】
第1ピストン223bが図面左方向に所定距離Sに第1ピストン側ポート223b1の内径を加算した値だけ移動して、すなわち第1ピストン223bが所定距離Sを越えた場合、第1ピストン側ポート223b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって完全に閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ピストン側ポート223b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。
【0115】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。なお、回生制動力は上述した第1の実施形態と同様に付与される。
【0116】
このように、非急踏み時では、第2位置(所定距離S)は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設定されている。また、第1ピストン223bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。また、第1ピストン223bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。さらに、第1ピストン223bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0117】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン223bが押される。このとき、第1ピストン223bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまでは第1ピストン側ポート223b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。しかし、第1ピストン側ポート223b1のオリフィス223b3によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、第1ピストン側ポート223b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0118】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0119】
さらに、第1ピストン223bが図面左方向に所定距離Sに第1ピストン側ポート223b1の直径を加算した値だけ移動すると第1ピストン側ポート223b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0120】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで(発生制限が解除されて)、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークが第1ピストン側ポート223b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0121】
本実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポート223b1に設けたオリフィス223b3により制限されない。よって、第1ピストン223bが第1位置から第2位置となるまでの間(ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間)は基礎液圧制動力の発生が制限される。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン223bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0122】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが第1ピストン側ポート223b1に設けたオリフィス223b3により制限される。よって、第1ピストン側ポート223b1の背圧が上昇することで、第1ポート23hの閉塞端23h2により第1ピストン側ポート223b1が閉塞される前に、すなわち第1ピストン223bが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン223bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0123】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0124】
また、ブレーキペダル21は、ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間において当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離だけ移動するまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
また、第2液圧室23fの第2ピストンを、第1ピストン223bと同様に構成し、その第2ピストンに第1および第2ピストン側ポート223b1,223b2と同様な第1および第2ピストン側ポートを形成し、第1ピストン側ポートにオリフィス223b3と同様なオリフィスを設けるようにしてもよい。
【0125】
4)第4の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第4の実施形態を図12を参照して説明する。上述した第1および第2の実施形態においては、オリフィス23h1をマスタシリンダ23側に設けるようにしたが、本第4の実施形態では、オリフィスをピストン側に設けるようにした。
【0126】
具体的には、図12に示すように、第1ピストン123bには、ピストン側ポート123b1(第2ポート)が形成されている。第1ピストン123bは、有底筒状(カップ状)に形成されている。第1ピストン123bは、開口部側が第1液圧室23dに開口し(第2ピストン23cに向けて開口し)、底部の外壁面がプッシュロッド27に当接するようになっている。ピストン側ポート123b1は、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態(図12(a)参照)においてマスタシリンダ23に形成された第1ポート23hに臨むように配設されている。これにより、リザーバタンク24は、第1ポート23hおよびピストン側ポート123b1を介して第1液圧室23dに連通するようになっている。なお、図12(a)では、ブレーキペダル21が踏み込み開始状態であり、第1ピストン123bは、踏み込み開始状態に位置する第1位置にある。
【0127】
ピストン側ポート123b1は、第1ピストン123bが第1位置にあるとき、第1ポート23hの閉塞端23h2から第1ピストン123bの減圧方向(図12にて右方向)に所定距離Sだけ離れた位置に設けられている。
【0128】
また、ピストン側ポート123b1には、オリフィス123b2が設けられている。オリフィス123b2は、ブレーキペダル21の急踏み時においては、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、ブレーキ液の流れが制限されないように構成されている。なお、オリフィス123b2の内径は第3ポート23jの内径より小径に設定されている。また、図12において、第1スプリング23e、第2ピストン23cは省略している。
【0129】
次に、本第4の実施形態による作用・効果を説明する。踏み込まれていない状態であるブレーキペダル21が、運転者によって非急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン123bが押される。このとき、第1位置にある第1ピストン123bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S(上述した第1の実施形態の所定距離Sと同様である。)以上移動するまではピストン側ポート123b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。さらに、ピストン側ポート123b1のオリフィス123b2によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限されない。よって、第1液圧室23d内のブレーキ液は、背圧が上昇することなくピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するため、第1液圧室23d内には基礎液圧は発生しない。なお、第1位置から所定距離Sだけ増圧方向に離れた位置が第2位置(図12(b)参照)である。
【0130】
第1ピストン123bが図面左方向に所定距離Sにピストン側ポート123b1の直径を加算した値だけ移動するとピストン側ポート123b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって完全に閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液はピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内には基礎液圧の形成が開始される。
【0131】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の破線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧は0に制限されるため、基礎液圧制動力の発生も0に制限されている。そして、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、前述した基礎液圧の発生制限が解除されて、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。なお、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置に位置する状態が所定状態であり、基礎液圧制動力がブレーキペダルストロークに対応した昇圧を開始するブレーキ操作状態である。したがって、図6の破線にて示すように、基礎液圧をホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、同各車輪FR,FL,RR,RLに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させることができる。なお、回生制動力は上述した第1の実施形態と同様に付与される。
【0132】
このように、非急踏み時では、第2位置(所定距離S)は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設定されている。また、第1ピストン123bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。また、第1ピストン123bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。さらに、第1ピストン123bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0133】
一方、ブレーキペダル21が運転者によって急踏みされると、オペレーティングロッド26およびプッシュロッド27は押されて、これにより第1ピストン123bが押される。このとき、第1ピストン123bがプッシュロッド27に押されて図面左方向(増圧方向)に所定距離S以上移動するまではピストン側ポート123b1は第1ポート23hの閉塞端23h2による閉塞が開始されない。しかし、ピストン側ポート123b1のオリフィス123b2によって、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れが制限される。よって、背圧が上昇するため、第1液圧室23d内のブレーキ液は、ピストン側ポート123b1および第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ流出するのが抑制される。したがって、第1液圧室23d内には基礎液圧が発生する。これにより、運転者がブレーキペダル21を急踏みすると、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は基礎液圧制動力を積極的に発生させることができる。
【0134】
また、この間はブレーキ操作状態に対応した車両制動力を達成するための液圧ブレーキ装置Bとの協調動作によって、回生ブレーキ装置Aが車両制動力に対する基礎液圧制動力の不足分を回生制動力によって補う。したがって、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0135】
さらに、第1ピストン123bが図面左方向に所定距離Sにピストン側ポート123b1の直径を加算した値だけ移動するとピストン側ポート123b1が第1ポート23hの閉塞端23h2によって閉塞され、第1液圧室23d内のブレーキ液は第1ポート23hを通ってリザーバタンク24へ完全に流出できなくなり第1液圧室23d内は密閉状態となるので、第1液圧室23d内に発生する基礎液圧の増大量はより大きくなる。
【0136】
本実施形態によるマスタシリンダ23によって形成される基礎液圧による基礎液圧制動力は、上述した第1の実施形態と同様に、図6の実線にて示すようになる。すなわち、ブレーキペダルストロークが踏み込み開始位置からピストン側ポート123b1を閉塞する位置までの間に位置する場合は、第1および第2液圧室23d,23fに発生する基礎液圧の発生は制限されないで(発生制限が解除されて)、ペダルストロークに応じて発生する。よって、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。そして、ブレーキペダルストロークがピストン側ポート123b1を閉塞する位置を越える位置に位置する場合は、基礎液圧はブレーキペダルストロークに対応したものとなるため、基礎液圧制動力もブレーキペダルストロークに対応したものとなる。
【0137】
本実施形態によれば、ブレーキペダル21の非急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れがピストン側ポート123b1(第2ポート)に設けたオリフィス123b2により制限されない。よって、第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間は基礎液圧制動力の発生が制限される。
【0138】
詳述すると、第2位置を回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力に基づいて設けた場合において、第1ピストン123bが第1位置と第2位置との間に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力のみによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン123bが第2位置に位置する場合は、回生ブレーキ装置Aが発生可能な最大回生制動力によりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与し、第1ピストン123bが第2位置を越える位置に位置する場合は、液圧ブレーキ装置Bが発生させる基礎液圧制動力と回生ブレーキ装置Aが発生させる回生制動力とによりブレーキペダル21の操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する。
【0139】
したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン123bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、回生制動力を積極的に利用することになり、高回生効率、すなわち高燃費を達成することができる。
【0140】
一方、ブレーキペダル21の急踏み時において、マスタシリンダ23からリザーバタンク24へのブレーキ液の流れがピストン側ポート123b1(第2ポート)に設けたオリフィス123b2により制限される。よって、ピストン側ポート123b1の背圧が上昇することで、第1ポート23hの閉塞端23h2によりピストン側ポート123b1が閉塞される前に、すなわち第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間にて基礎液圧制動力を発生させることができる。したがって、上述した第1の実施形態と同様に、第1ピストン123bが第1位置から第2位置までの低踏力領域においては、ブレーキペダル21の急踏み時には、高回生効率・高燃費より優先して基礎液圧制動力の早期付与を図ることができる。
【0141】
以上のように、車両用ブレーキ装置において、ブレーキペダル21の踏み込み開始時点から所定状態となるまでの低踏力領域において、非急踏み時では回生制動力を積極的に利用することにより、高回生効率、高燃費を達成するとともに、急踏み時には基礎液圧制動力をできるだけ早期に付与することの両立を図ることができる。
【0142】
また、ブレーキペダル21は、第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの当該ブレーキペダル21のペダル反力を形成する反力用スプリング21bを備え、当該反力用スプリング21bは、一端が車両の車体に固定されたブラケット10aに接続されたものであり、当該ブレーキペダル21を踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっている。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン123bが第1位置から第2位置となるまでの間、反力用スプリング21bの付勢力によって運転者に対し良好なペダルフィーリングを付与することができる。
また、第2液圧室23fの第2ピストンを、第1ピストン123bと同様に構成し、その第2ピストンにピストン側ポート123b1と同様なピストン側ポートを形成し、ピストン側ポートにオリフィス123b2と同様なオリフィスを設けるようにしてもよい。
【0143】
5)第5の実施形態
次に、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第5の実施形態を図13を参照して説明する。上述した第1の実施形態では反力用スプリング21bは線形ばねで構成されていたが、本第5の実施形態では反力用スプリング121bは非線形特性を有している。
【0144】
具体的には、反力用スプリング121bは、図13に示すように、複数の線形ばねを組み合わせて構成されている。反力用スプリング121bは、異なるばね定数を有する複数(本実施形態では3個)の線形ばねを備えている。すなわち、反力用スプリング121bは、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3が直列に連結されて構成されている。ばね定数は、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3の順番に大きくなるようになっている。第1ばね121b1は第1ケース121b4内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S1伸びると第1ケース121b4によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。第2ばね121b2も第2ケース121b5内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S2伸びると第1ケース121b4によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。
【0145】
図13(a)は、第1ばね121b1、第2ばね121b2、第3ばね121b3が自然長の状態を示している。反力用スプリング121bに伸びる方向の力が作用すると、ばね定数の小さい第1ばね121b1から順番に伸び始める。図13(b)に示すように、第1ばね121b1の伸びが第1ケース121b4により規制され、次に第2ばね121b2の伸びが第2ケース121b5により規制される。
【0146】
ところで、非急踏み時において、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とがポート(第1の実施形態では第1ポート23hであり、第3の実施形態では第1ポート23hならびに第1ピストン側ポート223b1および第2ピストン側ポート223b2)を介して連通している状態では、マスタシリンダ圧によるブレーキペダル反力が得られない。また一般に、ブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)は、非線形である。
【0147】
そこで、このように構成された本実施形態による反力用スプリング121bによれば、図15で太い実線で示すように、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが第1ポート23h(またはピストン用ポート123b1および第1ポート23h)を介して連通している状態において、すなわちペダルストロークが踏み込み開始位置から第1ポート23hを閉鎖する位置までの間において、反力用スプリング121bの撓みに対する荷重の特性を非線形としている。また、一般のブレーキペダルの踏込量(ペダルストローク)に対する踏力の特性(F−S特性)を細い実線で示す。図15に示すように、ブレーキ特性(F−S特性)は非線形である。本実施形態による反力用スプリングの特性は、踏み込み開始位置から閉塞位置までにおいては、通常のブレーキ特性と同様であり、閉塞位置以降においては線形である。これにより、ブレーキペダル21が踏み込まれて第1ピストン23b(または第1ピストン123b)が第1位置から第2位置となるまでの間(ブレーキペダル21の踏み込み開始から増圧方向に所定距離Sだけ移動するまでの間)、運転者に対しより良好なペダルフィーダを付与することができる。
【0148】
なお、反力用スプリング221bは、図14に示すように、線形ばねと非線形ばねを組み合わせて構成されるようにしてもよい。
【0149】
具体的には、反力用スプリング221bは、非線形ばねである第1ばね221b1と、線形ばねである第2ばね221b2が直列に連結されて構成されている。ばね定数は、第1ばね221b1、第2ばね221b2の順番に大きくなるようになっている。第1ばね221b1は第1ケース221b3内に所定距離S1の伸び代をおいて収納されており、所定距離S1伸びると第1ケース221b3によりそれ以上の伸びは規制されるようになっている。
【0150】
図14(a)は、第1ばね221b1、第2ばね221b2が自然長の状態を示している。反力用スプリング221bに伸びる方向の力が作用すると、ばね定数の小さい第1ばね221b1から順番に伸び始める。図14(b)に示すように、第1ばね221b1の伸びが第1ケース221b3により規制される。
【0151】
6)第6の実施形態
さらに、本発明に係る車両用ブレーキ装置をハイブリッド車に適用した第6の実施形態を図16を参照して説明する。本第6の実施形態では、反力用スプリング21bの撓みに対する荷重の特性は、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通していない状態において線形であり、その線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下である。
【0152】
一般に、所定踏力F1(例えば、500N)に対し所定範囲(例えば、0.25G以上)の減速度が得られることが望まれる。一方、踏力は、マスタシリンダ圧による反力と反力用スプリングによる付勢力の総和である。
【0153】
そこで、本実施形態による反力用スプリング21bによれば、反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性を、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通している状態において非線形とするとともに、マスタシリンダ23とリザーバタンク24とが連通していない状態において線形とし、線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加(図16にて細い実線で示す通常のブレーキ特性(踏力−減速度特性))を、非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加(図16にて太い実線で示す本実施形態によりブレーキ特性(踏力−減速度特性))以下としている。このように、反力用スプリングによる付勢力を制限することにより、所定踏力に対し所定範囲の減速度を得ることができる。
【0154】
また、上述した各実施形態においては、ブレーキ配管系は前後分割方式にて構成されているが、X配管方式にて構成されるようにしてもよい。
【0155】
また、上述した各実施形態においては、ブレーキ操作状態が所定状態以降において、ブレーキ操作状態としてペダルストロークおよびマスタシリンダ圧の大きいほうを選択して制御に使用するようにしてもよい。
【0156】
また、上記実施形態では、倍力装置として負圧式ブースタを用いているが、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧をピストンに作用させてブレーキペダル21に作用するペダル踏力を倍力してもよい。
【0157】
また、本発明は、ハイブリッド車だけでなく、駆動源としてモータのみを搭載するとともに負圧式ブースタ付きのマスタシリンダを有する車両用ブレーキ装置を搭載した車両にも適用可能である。この場合、負圧源が必要となる。
【符号の説明】
【0158】
11…エンジン、12…モータ、13…動力分割機構、14…動力伝達機構、15…発電機、16…インバータ、17…バッテリ、18…エンジンECU、19…ハイブリッドECU、21…ブレーキペダル、21a…ペダルストロークセンサ、21b,121b,221b…反力用スプリング、22,122…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、23a…ハウジング、23b,123b…第1ピストン、123b1…ピストン用ポート(第1ポート)、123b2…オリフィス、23c…第2ピストン、23d…第1液圧室、23e…第1スプリング、23f…第2液圧室、23g…第2スプリング、23h…第1ポート、23h1…オリフィス、23i…第2ポート、23j…第3ポート、23k…第4ポート、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、26…オペレーティングロッド、26a…第1オペレーティングロッド(第1ロッド)、26b…第2オペレーティングロッド(第2ロッド)、27…プッシュロッド、31,41…液圧制御弁、32,33,42,43…増圧制御弁、35,36,45,46…減圧制御弁、34,44…調圧リザーバ、37,47…ポンプ、60…ブレーキECU、A…回生ブレーキ装置、B…液圧ブレーキ装置、BK1,BK2,BK3,BK4…ブレーキ手段、FL,FR,RL,RR…車輪、Lf,Lr…油経路、M…モータ、P…圧力センサ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WC1,WC2,WC3,WC4…ホイールシリンダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室(23d)に設けられてリザーバタンク(24)と連通するポート(23h)を、同ポートを閉塞するピストン(23b)の閉塞端が前記ブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置から前記ピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、前記ブレーキペダルの踏み込み時に、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置となるまでの間は、前記マスタシリンダの液圧室が前記ポートを介して前記リザーバタンクに連通され、前記ピストンの閉塞端が前記第2位置を越えた場合に、前記マスタシリンダの液圧室が前記リザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(23h1)を、前記ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室に、リザーバタンク(24)と連通するマスタシリンダ側ポート(23h)が設けられ、
前記液圧室を摺動するピストン(223b)に、前記マスタシリンダ側ポートに臨む第1ピストン側ポート(223b1)と、前記第1ピストン側ポートよりも前記ピストンの増圧方向に所定距離だけ離れて前記マスタシリンダ側ポートに臨む第2ピストン側ポート(223b2)とが設けられ、
前記ブレーキペダルの踏み込み前には、前記液圧室が前記第1ピストン側ポートおよび前記第2ピストン側ポートを介して前記リザーバタンクと連通し、
前記ブレーキペダルの踏み込み開始に伴って、前記液圧室の前記第2ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を遮断し、
前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間は、前記液圧室の前記第1ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を維持し、
前記ピストンが前記所定距離を越えた場合、前記液圧室の前記第1ピストン側ポートおよび前記第2ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を遮断する車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(223b3)を、前記第1ピストン側ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室(23d)に設けられてリザーバタンク(24)と連通する第1ポート(23h)に臨みかつ前記液圧室内を摺動するピストン(123b)に設けられた第2ポート(123b1)を、前記ピストンが前記ブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置にあるとき、前記第1ポートの閉塞端(23h2)から前記ピストンの減圧方向に所定距離だけ離れた位置に設け、前記ブレーキペダルの踏み込み時に、前記ピストンが前記第1位置から前記ピストンの増圧方向に前記所定距離だけ離れた第2位置となるまでの間は、前記マスタシリンダの液圧室が前記第1ポートおよび第2ポートを介して前記リザーバタンクに連通され、前記ピストンが前記第2位置を越えた場合に、前記マスタシリンダの液圧室が前記リザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(123b2)を、前記第2ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ピストンが前記第1位置から前記第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1または請求項4において、前記ブレーキペダルは、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項2または請求項5において、前記ブレーキペダルは、前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項3または請求項6において、前記ブレーキペダルは、前記ピストンが前記第1位置から前記第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9の何れか一項において、前記反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、前記マスタシリンダと前記リザーバタンクとが前記ポートを介して連通している状態において非線形であることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項10において、前記反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、前記マスタシリンダと前記リザーバタンクとが連通していない状態において線形であり、前記線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、前記非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下であることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項1】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室(23d)に設けられてリザーバタンク(24)と連通するポート(23h)を、同ポートを閉塞するピストン(23b)の閉塞端が前記ブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置から前記ピストンの増圧方向に所定距離だけ離れた第2位置に設け、前記ブレーキペダルの踏み込み時に、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置となるまでの間は、前記マスタシリンダの液圧室が前記ポートを介して前記リザーバタンクに連通され、前記ピストンの閉塞端が前記第2位置を越えた場合に、前記マスタシリンダの液圧室が前記リザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(23h1)を、前記ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室に、リザーバタンク(24)と連通するマスタシリンダ側ポート(23h)が設けられ、
前記液圧室を摺動するピストン(223b)に、前記マスタシリンダ側ポートに臨む第1ピストン側ポート(223b1)と、前記第1ピストン側ポートよりも前記ピストンの増圧方向に所定距離だけ離れて前記マスタシリンダ側ポートに臨む第2ピストン側ポート(223b2)とが設けられ、
前記ブレーキペダルの踏み込み前には、前記液圧室が前記第1ピストン側ポートおよび前記第2ピストン側ポートを介して前記リザーバタンクと連通し、
前記ブレーキペダルの踏み込み開始に伴って、前記液圧室の前記第2ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を遮断し、
前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間は、前記液圧室の前記第1ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を維持し、
前記ピストンが前記所定距離を越えた場合、前記液圧室の前記第1ピストン側ポートおよび前記第2ピストン側ポートを介する前記リザーバタンクとの連通を遮断する車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(223b3)を、前記第1ピストン側ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
ブレーキペダル(21)の踏み込みに応じて基礎液圧をマスタシリンダ(23)にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁(31,41)を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に直接付与することにより、同各車輪に前記基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置(B)と、
回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置(A)と、を備えており、
前記液圧ブレーキ装置と前記回生ブレーキ装置とを協調動作させて前記基礎液圧制動力と前記回生制動力に基づいて前記ブレーキペダルの操作状態に対応した車両制動力を車両に付与する車両用ブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダの液圧室(23d)に設けられてリザーバタンク(24)と連通する第1ポート(23h)に臨みかつ前記液圧室内を摺動するピストン(123b)に設けられた第2ポート(123b1)を、前記ピストンが前記ブレーキペダルの踏み込み開始状態である踏み込み開始状態に位置する第1位置にあるとき、前記第1ポートの閉塞端(23h2)から前記ピストンの減圧方向に所定距離だけ離れた位置に設け、前記ブレーキペダルの踏み込み時に、前記ピストンが前記第1位置から前記ピストンの増圧方向に前記所定距離だけ離れた第2位置となるまでの間は、前記マスタシリンダの液圧室が前記第1ポートおよび第2ポートを介して前記リザーバタンクに連通され、前記ピストンが前記第2位置を越えた場合に、前記マスタシリンダの液圧室が前記リザーバタンクに対し閉塞される車両用ブレーキ装置において、
前記ブレーキペダルの急踏み時においては、前記マスタシリンダから前記リザーバタンクへのブレーキ液の流れを制限し、一方非急踏み時においては、前記流れが制限されないように構成されたオリフィス(123b2)を、前記第2ポートに設けたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記車両用ブレーキ装置(図9)はブレーキアシスト装置を備え、前記ブレーキアシスト装置は、前記ブレーキペダルの急踏み時に、前記ピストンが前記第1位置から前記第2位置までの間に位置する場合にブレーキアシストが開始されるように構成されていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1または請求項4において、前記ブレーキペダルは、前記ピストンの閉塞端が前記第1位置から前記第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項2または請求項5において、前記ブレーキペダルは、前記ブレーキペダルの踏み込み開始から増圧方向に前記所定距離だけ移動するまでの間において当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項3または請求項6において、前記ブレーキペダルは、前記ピストンが前記第1位置から前記第2位置となるまでの当該ブレーキペダルのペダル反力を形成する反力用スプリング(21b)を備え、当該反力用スプリングは、一端が車両の車体に固定されたブラケットに接続されたものであり、当該ブレーキペダルを踏み込み方向に対して逆方向である踏み込み解除方向に付勢するようになっていることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9の何れか一項において、前記反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、前記マスタシリンダと前記リザーバタンクとが前記ポートを介して連通している状態において非線形であることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項10において、前記反力用スプリングの撓みに対する荷重の特性は、前記マスタシリンダと前記リザーバタンクとが連通していない状態において線形であり、前記線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加は、前記非線形特性における撓みの増大に対する荷重の増加以下であることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−213242(P2011−213242A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83245(P2010−83245)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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