説明

車両用情報処理装置および車両制御装置

【課題】車輪の滑りによる車両の挙動を精度よく判定することができる車両用情報処理装置および車両制御装置を提供すること。
【解決手段】車両100のヨーレートを検出するヨーレート検出部38によって検出されたヨーレートの向きに基づいて、車両の車輪の滑りによる車両の挙動を判定する車両用情報処理装置1、および車両用情報処理装置を備える車両制御装置1−1。車両用情報処理装置は、例えば、ヨーレートの向きが所定時間変化しない場合に上記挙動が生じていると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用情報処理装置および車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の姿勢変化を検出する技術が提案されている。特許文献1には、ヨーレートセンサで検知される車両の角速度と姿勢変化検出しきい値との比較結果から坂路をずり落ちる車両の姿勢変化を検出する車両制御装置の技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、坂路をずり落ちる車両の姿勢変化を検出すると、制動保持制御による制動状態の保持を解除し、さらに、車両を変化前の姿勢に戻す操舵方向にステアリングホイールを回転させる車両制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−237910号公報
【特許文献2】特開2007−237908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪の滑りによる車両の挙動に対する判定精度を向上できることが望まれている。例えば、車両の小さな挙動を判定しようとする場合に、センサの検出精度によっては捉えたい挙動を精度よく判定できないことがある。
【0006】
本発明の目的は、車輪の滑りによる車両の挙動を精度よく判定することができる車両用情報処理装置および車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用情報処理装置は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部によって検出された前記ヨーレートの向きに基づいて、前記車両の車輪の滑りによる前記車両の挙動を判定することを特徴とする。
【0008】
上記車両用情報処理装置において、前記ヨーレートの向きが所定時間変化しない場合に前記挙動が生じていると判定することが好ましい。
【0009】
上記車両用情報処理装置において、前記所定時間は、前記車両の固有振動数に基づいて定められていることが好ましい。
【0010】
上記車両用情報処理装置において、前記ヨーレートの大きさが増加し続ける場合に前記挙動が生じていると判定することが好ましい。
【0011】
上記車両用情報処理装置において、前記ヨーレートにおいて所定以上の度合の変化が検出された場合に前記挙動が生じていると判定することが好ましい。
【0012】
上記車両用情報処理装置において、前記挙動の判定を前記車両の停車時に行うことが好ましい。
【0013】
上記車両用情報処理装置において、前記挙動の判定を、前記車両において停車状態を維持できる制動力を保持する制御がなされているときに行うことが好ましい。
【0014】
本発明の車両制御装置は、上記車両用情報処理装置を備え、前記挙動が生じていると判定された場合に、前記制動力の保持を終了することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる車両用情報処理装置は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部によって検出されたヨーレートの向きに基づいて、車両の車輪の滑りによる車両の挙動を判定する。よって、本発明にかかる車両用情報処理装置によれば、車輪の滑りによる車両の挙動を精度よく判定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施形態にかかる車両用情報処理装置の判定方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態の車両用情報処理装置および車両制御装置が搭載された車両を示す図である。
【図3】図3は、ワイパー挙動を示す図である。
【図4】図4は、車両の横揺れを示す図である。
【図5】図5は、ヨーレートセンサによって検出されるヨーレートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態にかかる車両用情報処理装置および車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
(実施形態)
図1から図5を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両用情報処理装置および車両制御装置に関する。図1は、本実施形態にかかる車両用情報処理装置の判定方法を示すフローチャート、図2は、本実施形態の車両用情報処理装置および車両制御装置が搭載された車両を示す図、図3は、ワイパー挙動を示す図である。
【0019】
本実施形態では、坂路などで車両が横滑りする現象をワイパー挙動と記載する。ワイパー挙動は、ヨーレートセンサによって検出されるヨーレートの大きさに基づいて判定可能ではあるものの、ある程度大きな挙動となるまでは精度よく判定できない。ワイパー挙動によるヨーレートは、例えば、1deg/s程度であるが、これに対して、ヨーレートセンサの設計値におけるばらつきが、例えば4deg/s程度であるとすると、停止中のワイパー挙動を捉えるには大きすぎるため、そのままでは使えない。
【0020】
本実施形態では、ヨーレートの変化量に基づいて、ヨーレートセンサの精度以上の挙動を捉える。以下に説明するように、本実施形態では、ワイパー挙動の出だしを捉えるために、車両の停止判定後にヨーレートの変化速度によるプレ判定を行う。ワイパー挙動は横滑りであり、ヨーレート(図5の符号C1参照)は一方向にしか振れないため、プレ判定(図5の時刻t2)後に更にヨーレートの挙動を監視する。プレ判定後に、ヨーレートがプレ判定前と同一方向で推移すれば、ワイパー挙動発生の判定を確定させる。本実施形態のワイパー挙動の判定によれば、検出されるヨーレートがヨーレートセンサのばらつきの範囲内の値であってもワイパー挙動を判定することができる。
【0021】
図2に示すように、車両100は、車両制御装置1−1を備える。車両制御装置1−1は、車両100の制動制御を行う制動制御装置1および車両100の駆動制御を行う駆動制御装置2を備える。制動制御装置1は、車両100の各車輪に制動力を発生させるものである。車両100は、制動装置として、ブレーキペダル20、制動力発生手段41FR,41FL,41RR,41RL、制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL,42FR,42RL,42RR、ブレーキブースタ43、マスタシリンダ44およびブレーキアクチュエータ50を備える。なお、本実施形態において、添字FLは車両100の左前輪、FRは車両100の右前輪、RLは車両100の左後輪、RRは車両100の右後輪にかかる構成要素であることをそれぞれ示す。
【0022】
制動制御装置1が各車輪に発生させる制動力は、機械的な制動力、具体的には摩擦力を利用した制動力である。制動制御装置1は、作動流体としてのブレーキ液の圧力(以下、単に「液圧」あるいは「ブレーキ液圧」とも記載する)により、各車輪に摩擦による機械的な車輪制動トルクを付与し、各車輪に車輪制動力を発生させる。この車輪制動力により、車両100が制動される。
【0023】
制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRは、機械式かつ摩擦式の制動手段であり、例えば、ブレーキパッドとディスクローターとの間に発生する摩擦力で制動力(摩擦制動力)を発生させる、摩擦制動装置である。制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRは、供給される作動流体の液圧によって車両100を制動する制動力を発生させる。
【0024】
ブレーキブースタ43は、運転者によりブレーキペダル20に入力されたペダル踏力を増加させる。ここで、ブレーキペダル20は、ブレーキブースタ43を介して運転者の踏力をマスタシリンダ44へ伝えるペダルアーム20Aと、ペダルアーム20Aに取り付けられて運転者の踏力をペダルアーム20Aへ伝達するペダル本体20Pを有する。運転者の踏力は、各車輪に車輪制動力を発生させるための力となる。マスタシリンダ44は、ブレーキブースタ43によって増加された踏力を、ブレーキ液圧へと変換する。ブレーキアクチュエータ50は、変換されたブレーキ液圧をそのまま、または調節してそれぞれの制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRに伝える。
【0025】
ブレーキアクチュエータ50と、それぞれの制動力発生手段41FL、41FR、41RL、41RRとは、制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRによって接続される。また、ブレーキアクチュエータ50とマスタシリンダ44とは、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45Aおよびマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bによって接続されている。
【0026】
マスタシリンダ44、制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RR、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bおよびブレーキアクチュエータ50内に設けられるブレーキ液通路には、ブレーキ液が満たされている。
【0027】
本実施形態において、ブレーキアクチュエータ50は、それぞれの制動力発生手段側ブレーキ液配管42FL、42FR、42RL、42RRのブレーキ液圧を個別に調節する機能を有する。ブレーキアクチュエータ50は、それぞれの車輪に対して、それぞれ独立した大きさの車輪制動力を発生させることができる。制動制御装置1が、ブレーキアクチュエータ50を駆動制御することによって、いわゆるABS制御やブレーキアシスト制御、ヒルスタートアシスト制御等が行われる。
【0028】
ブレーキアクチュエータ50は、制動制御装置1によってその動作が制御され、目標とする車両の制動力(目標車両制動力)に応じた車輪制動力を各車輪に発生させる。制動制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータやメモリ等を組み合わせて構成され、各車輪に対する車輪制動力を制御する。制動制御装置1には、ブレーキの操作状態、すなわち、車両100の運転者によるブレーキペダル20の操作状態を検出する手段(ブレーキ操作検出手段)として、マスタシリンダ圧力センサ31、ストロークセンサ32、踏力検出スイッチ33が接続されている。車両用制動装置1−1は、少なくとも1つのブレーキ操作検出手段を備える。
【0029】
ブレーキアクチュエータ50は、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧を制動力発生手段41FR、41RLへ伝達する第1液圧伝達系統51Aと、制動力発生手段41FL、41RRへ伝達する第2液圧伝達系統51Bとを備える。第1液圧伝達系統51Aは、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45Aによってマスタシリンダ44と接続され、第2液圧伝達系統51Bは、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bによってマスタシリンダ44と接続される。
【0030】
第1液圧伝達系統51Aでは、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧は、マスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、流量制御弁である第1マスタカット弁52A、ブレーキ液通路である第1高圧ブレーキ液配管58A、保持ソレノイド弁53FR、53RLを介して、制動力発生手段41FR、41RLへ伝えられる。保持ソレノイド弁53FR、53RLと制動力発生手段41FR、41RLとの間には、減圧ソレノイド弁54FR、54RLが接続されている。
【0031】
保持ソレノイド弁53FR、53RLおよび減圧ソレノイド弁54FR、54RLを動作させることにより、制動力発生手段41FR、41RLに作用するブレーキ液圧を増減させて、右前輪および左後輪の制動力がそれぞれ調整される。例えば、保持ソレノイド弁53FR、53RLおよび減圧ソレノイド弁54FR、54RLの開時間と閉時間とのデューティー比を変更することにより、制動力発生手段41FR、41RLに作用するブレーキ液圧を増減させる。
【0032】
第2液圧伝達系統51Bでは、マスタシリンダ44からのブレーキ液圧は、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B、流量制御弁である第2マスタカット弁52B、ブレーキ液通路である第2高圧ブレーキ液配管58B、保持ソレノイド弁53FL、53RRを介して、制動力発生手段41FL、41RRへ伝えられる。保持ソレノイド弁53FL、53RRと制動力発生手段41FL、41RRとの間には、減圧ソレノイド弁54FL、54RRが接続されている。
【0033】
保持ソレノイド弁53FL、53RRおよび減圧ソレノイド弁54FL、54RRを動作させることにより、制動力発生手段41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を増減させて、左前輪および右後輪の制動力がそれぞれ調整される。例えば、保持ソレノイド弁53FL、53RRおよび減圧ソレノイド弁54FL、54RRの開時間と閉時間とのデューティー比を変更することにより、制動力発生手段41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を増減させる。
【0034】
流量制御弁である第1マスタカット弁52Aおよび第2マスタカット弁52B(以下、必要に応じてマスタカット弁52と記載する)は、リニアソレノイドおよびスプリングを有している。そして、マスタカット弁52は、ソレノイドが非通電時には開いた状態となり、また、ソレノイドへ供給する電流を調整することで、開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。マスタカット弁52は、リニアソレノイドを用いることにより、開度がリニアに変化する。マスタカット弁52は、開度を調整することにより、出口のブレーキ液圧Peと入口のブレーキ液圧Piとの間に差圧(マスタカット弁差圧)ΔP_SMC(=Pe−Pi)を作り出すことができると共に、当該差圧ΔP_SMCをリニアに変化させることができる。
【0035】
ここで、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの出口側のブレーキ液圧は、それぞれ第1高圧ブレーキ液配管58A、第2高圧ブレーキ液配管58Bの内部におけるブレーキ液圧である。また、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの入口側のブレーキ液圧は、それぞれマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45A、マスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45B内部におけるブレーキ液圧である。
【0036】
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bの入口側の圧力は、マスタシリンダ圧力センサ31によって検出され、制動制御装置1に取得される。また、第1高圧ブレーキ液配管58A、第2高圧ブレーキ液配管58Bの内部におけるブレーキ液圧は、これらに取り付けられる第1出口側ブレーキ液圧センサ36A、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bによって検出されて、制動制御装置1に取得される。なお、マスタカット弁差圧は、マスタカット弁52に供給する制御電流から求めることもできる。
【0037】
減圧ソレノイド弁54FR、54RLの出口およびマスタシリンダ側第1ブレーキ液配管45Aは、それぞれ第1ブレーキ液リザーバ57Aに接続されている。また、減圧ソレノイド弁54FL、54RRの出口およびマスタシリンダ側第2ブレーキ液配管45Bは、それぞれ第2ブレーキ液リザーバ57Bに接続されている。
【0038】
ブレーキアクチュエータ50は、第1液圧伝達系統51Aの液圧を調整するため、第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧する第1ポンプ56Aを備え、また、第2液圧伝達系統51Bの液圧を調整するため、第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧する第2ポンプ56Bを備える。第1ポンプ56Aが第1液圧伝達系統51A内のブレーキ液を加圧することにより、制動力発生手段41FR、41RLへ与えられるブレーキ液の圧力、すなわち液圧が上昇する。同様に、第2ポンプ56Bが第2液圧伝達系統51B内のブレーキ液を加圧することにより、制動力発生手段41FL、41RRへ与えられる液圧が上昇する。
【0039】
第1ポンプ56Aおよび第2ポンプ56Bは、ポンプ駆動用電動機55によって駆動される。制動制御装置1は、電流計34から検出されるポンプ駆動用電動機55の駆動電流や、レゾルバ35から検出されるポンプ駆動用電動機55の回転角度に基づいて、ポンプ駆動用電動機55の動作を制御する。
【0040】
第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bを開いた状態とすると、第1ポンプ56Aおよび第2ポンプ56Bから吐出されるブレーキ液は、マスタカット弁52と第1ブレーキ液リザーバ57A、第2ブレーキ液リザーバ57Bとの間を循環する。このため、マスタカット弁差圧は発生しない。一方、第1マスタカット弁52A、第2マスタカット弁52Bへ制御電流を流し、これらの開度を小さくすると、マスタカット弁差圧が発生する。これによって、制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を、マスタシリンダ44内のブレーキ液圧以上に増圧できる。
【0041】
また、第1ポンプ56Aおよび第2ポンプ56Bが作動していない状態であっても、第1マスタカット弁52Aおよび第2マスタカット弁52Bの開度を小さくすることで、制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を保持することができる。マスタシリンダ44内のブレーキ液圧が低下したとしても、マスタシリンダ44内のブレーキ液圧の変化に応じてマスタカット弁52の開度を小さくすることで、マスタカット弁差圧を発生させて制動力発生手段41FR、41RL、41FL、41RRに作用するブレーキ液圧を保持することができる。
【0042】
制動制御装置1には、電流計34と、レゾルバ35と、第1出口側ブレーキ液圧センサ36Aと、第2出口側ブレーキ液圧センサ36Bと、傾斜角度センサ37とが接続されている。傾斜角度センサ37は、車両100が走行または停止している路面の傾斜を求めるための情報を検出する路面勾配検出手段であり、本実施形態では、上記情報として、車両100が走行または停止している路面の勾配を検出する。なお、傾斜角度センサ37が検出する傾斜角度は、前後方向における車両100の傾斜角度でもある。また、制動制御装置1には、ヨーレートセンサ38が接続されている。ヨーレートセンサ38は、車両100のヨーレートを検出するヨーレート検出部である。
【0043】
制動制御装置1は、ブレーキアクチュエータ50の動作を制御して、各車輪の目標とする車輪制動力である目標車輪制動力を発生させる。制動制御装置1は、目標車両制動力に基づいて、各車輪の目標車輪制動力を決定する。ここで、目標車両制動力とは、例えば、運転者によるブレーキペダル20の操作状態量に応じた、車両100の制動に要する目標値のことである。ブレーキペダル20の操作状態量とは、例えば、ペダルストローク量、ペダルストローク位置、踏力、ペダル操作速度等である。また、目標車輪制動力とは、目標車両制動力を車両100に働かせるためにそれぞれの車輪に分担させる制動力のことである。
【0044】
また、制動制御装置1は、車両100の走行制御によって要求される車両100に対する要求制動力を目標車両制動力とすることが可能である。例えば、先行車に追従して走行する追従制御において車両100に対して要求される要求制動力や、プリクラッシュブレーキ制御において車両100に対して要求される要求制動力が目標車両制動力とされることができる。
【0045】
また、制動制御装置1は、ブレーキ液圧を保持するブレーキホールド制御(ホールド制御)を実行することができる。ブレーキホールド制御とは、車両100の停車状態を維持できる制動力を保持する制御である。本実施形態のブレーキホールド制御は、車両100を停車させておくことができる圧力にブレーキ液圧を保持する制御であり、例えば、車両100の停車中に開始される。ブレーキホールド制御において、制動制御装置1は、第1マスタカット弁52Aおよび第2マスタカット弁52Bを制御して、第1マスタカット弁52Aおよび第2マスタカット弁52Bの出口のブレーキ液圧Peを制御する。以下の説明において、マスタカット弁52A,52Bの出口のブレーキ液圧Peを単に「出口側ブレーキ液圧Pe」とも記載する。また、マスタカット弁52A,52Bの入り口のブレーキ液圧Piを単に「入口側ブレーキ液圧Pi」とも記載する。
【0046】
ブレーキホールド制御は、例えば、運転者のスイッチ操作によって実行される。運転者によってブレーキホールド制御の実行を指示する操作がなされており、かつ車速が停車状態を示す値である場合に、制動制御装置1はブレーキホールド制御を実行する。なお、ブレーキホールド制御は、運転者の指示によらず停車中に自動的に実行されてもよい。例えば、傾斜角度センサ37によって検出された路面の傾斜に基づいて、車両100が登坂路や降坂路に停車したときにブレーキホールド制御が自動的に実行されてもよい。
【0047】
ブレーキホールド制御における出口側ブレーキ液圧Peの目標値は、例えば、運転者によるブレーキペダル20の操作状態量や運転者のブレーキ操作によって発生したブレーキ液圧に応じて定められる。一例として、ブレーキホールド制御を開始するときの入口側ブレーキ液圧Piに基づいて、ブレーキホールド制御における出口側ブレーキ液圧Peの目標値が定められる。出口側ブレーキ液圧Peの目標値は、運転者のブレーキ操作により停車しているときの入口側ブレーキ液圧Piと等しい圧力や、これよりも少し低い圧力とされてもよい。
【0048】
制動制御装置1は、決定した出口側ブレーキ液圧Peの目標値に基づいて、マスタカット弁52を制御する。なお、ブレーキホールド制御では、保持ソレノイド弁53FR,53FL,53RR,53RLは開とされ、減圧ソレノイド弁54FR,54FL,54RR,54RLは閉とされる。
【0049】
ブレーキホールド制御がなされることで、運転者がブレーキペダル20からアクセルペダルに踏み換える場合など、ブレーキOFFされたときにも車両100の停止状態が維持される。よって、登坂路においても車両100が後退することなく、余裕のあるスムーズな発進が可能となる。
【0050】
ブレーキホールド制御の実行中に、ブレーキホールド制御の終了条件が成立すると、制動制御装置1は、ブレーキホールド制御を終了する。ブレーキホールド制御の終了条件は、例えば、アクセルONが検出されるなど、運転者による加速要求が検出されることである。ブレーキホールド制御の終了条件が成立すると、制動制御装置1は、マスタカット弁52A,52BをOFF(開)とする。これにより、出口側ブレーキ液圧Peは解放され、各車輪に対する制動が解除される。
【0051】
駆動制御装置2は、車両100の動力源や変速機構を制御することができる。駆動制御装置2は、各駆動輪に伝達する動力を独立して制御できるものであってもよい。駆動制御装置2は、制動制御装置1と接続されている。制動制御装置1と駆動制御装置2とは、相互に通信して車両100を協調して制御することができる。例えば、制動制御装置1および駆動制御装置2は、車両100の各車輪の目標制駆動力に基づいて、それぞれの車輪の制動力および駆動力を協調して制御することができる。
【0052】
ここで、車両100の停車中に、車両100が横滑りすることがある。例えば、坂路などで車両100が停止した後に、何かのきっかけで車輪が滑り出すことがある。車両100の横滑りでは、例えば、図3に示すように、1つの車輪と路面との接地面を回転中心として車両100が車両100の鉛直軸周りに回転するなど、車両100のヨーレートが発生することがある。なお、以下の説明では、特に記載しない限り、車両100の回転とは、車両100の鉛直軸周りの車両100の回転(ヨー方向の回転)を示すものとする。本実施形態では、車輪の滑りによる車両100の挙動(姿勢の変化)であって、車両100の回転を伴う挙動を「ワイパー挙動」と記載する。言い換えると、ワイパー挙動とは、車輪の滑りによる車両100のヨー方向の姿勢の変化を含む車両100の姿勢の変化である。
【0053】
車両100の停車中にワイパー挙動が発生した場合、速やかにワイパー挙動の発生を検知できることが望ましい。また、ワイパー挙動が発生した場合、車両100の挙動を安定させるために、車輪と路面との間の滑りを低減させ、車輪のグリップを回復させることが望ましい。例えば、ブレーキホールド制御の実行中にワイパー挙動が発生した場合、保持していた制動力を解放し、車輪が自在に回転できるようにすることが好ましいと考えられる。
【0054】
本実施形態の制動制御装置1は、以下に説明するように、ヨーレートセンサ38によって検出されたヨーレートの向きに基づいてワイパー挙動を判定する。これにより、ヨーレートセンサ38の精度以上の挙動を捉え、ワイパー挙動の発生初期にワイパー判定を行うことができる。また、制動制御装置1は、ワイパー挙動が発生したと判定されると、ブレーキホールド制御を終了する。これにより、ワイパー挙動が発生したときに早期に車両100の挙動を安定させることが可能となる。本実施形態の制動制御装置1は、車輪の滑りによる車両100の挙動を判定する車両用情報処理装置としての機能を有する。
【0055】
停車中の車両100にヨーレートが発生する原因は、ワイパー挙動の他にも、車両100の揺れなどがある。図4は、車両100の横揺れを示す図である。図4に示すように車両100に車幅方向の揺れ(横揺れ)が生じた場合、ヨーレートセンサ38はヨーレートを検出する。
【0056】
図5は、ヨーレートセンサ38によって検出されるヨーレートの一例を示す図である。図5において、横軸は時間、縦軸はヨーレートセンサ38によって検出されたヨーレート(deg/s)を示す。図5において、符号C1は、ワイパー挙動が発生したときのヨーレート、符号C2は、車両100の横揺れが発生したときのヨーレートをそれぞれ示す。ここで、ヨーレートにおいて、正の値は車両100の一方向(例えば、時計回り方向)の回転を示し、負の値は他方向(例えば、反時計回り方向)の回転を示す。
【0057】
ワイパー挙動が発生する場合、それまでほぼ一定の値で推移していたヨーレートC1が時刻t1において立上がり、時間の経過と共に値が増加していく。つまり、時刻t1において車輪の滑りが発生して車両100が回転しはじめると、その回転における回転角速度が次第に増加していく。
【0058】
一方、車両100の横揺れでは、ヨーレートC2は正弦波のようになり、周期的に増減を繰り返す。また、ヨーレートC2において、正の値となる期間と負の値となる期間とが交互に繰り返される。
【0059】
本実施形態では、制動制御装置1は、ワイパー挙動の出だしを捕まえることができるように、ヨーレートの変化速度ΔYrに基づいてワイパープレ判定を立てる。制動制御装置1は、ワイパープレ判定が立てられた後に、ヨーレートの向きが所定時間変化しない場合にワイパー挙動が生じていると判定する。ここで、ヨーレートの向きが変化しないとは、ワイパープレ判定が立てられたときのヨーレートが正の値であれば、ヨーレートが負の値に変化しないことを意味し、ワイパープレ判定が立てられたときのヨーレートが負の値であれば、ヨーレートが正の値に変化しないことを意味する。言い換えると、ヨーレートが立上がってから正の値で推移し続けるか、あるいは負の値で推移し続けた場合にワイパー判定が確定される。一方、所定時間の間にヨーレートが正から負に、あるいは負から正に逆転した場合には、ヨーレートの原因が、車両100の横揺れなど、ワイパー挙動以外の要因であると判定することができる。
【0060】
図1を参照して、本実施形態の車両用情報処理装置によるワイパー判定について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、車両100の停車中であって、ブレーキホールド制御がなされているときに繰り返し実行される。
【0061】
まず、ステップS1では、制動制御装置1により、ワイパー判定許可条件が成立しているか否かが判定される。ワイパー判定許可条件とは、ワイパー挙動が生じていると判定することを許可できるための条件であり、例えば、以下の(i)から(iv)の全ての条件を満たしているときにワイパー判定許可条件が成立する。
(i)アイドルON。
(ii)減圧中でない。
(iii)ヨーレートセンサ38が有効状態。
(iv)車速が0である。
【0062】
条件(i)の「アイドルON」は、アイドル状態であることを示す。例えば、アクセル開度あるいはスロットル開度が所定開度未満である場合にアイドルONの条件が満たされる。条件(ii)の「減圧中でない」とは、ブレーキアクチュエータ50においてブレーキ液圧を減圧中でないことを示す。本実施形態では、ブレーキホールド制御を終了させる必要があるか否かを決定するためにワイパー挙動の判定が行われるため、ブレーキ液圧を減圧中であれば、ワイパー挙動の判定は省略される。
【0063】
条件(iii)の「ヨーレートセンサ38が有効状態」とは、ヨーレートセンサ38によって有効にヨーレートを検出できる状態であることを示す。また、条件(iv)の「車速が0である」とは、検出されている車速が0であることを示す。例えば、車両100の4輪の回転速度をそれぞれ検出可能な場合、4輪のうち3番目に高い回転速度が0であるときに車速が0である条件が満たされるとされてもよい。
【0064】
ステップS1の判定の結果、ワイパー判定許可条件が成立していると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)にはステップS3に進む。
【0065】
ステップS2では、制動制御装置1により、ワイパー判定許可状態とされる。制動制御装置1は、ワイパー判定許可フラグをONとする。ステップS2が実行されると、ステップS4に進む。
【0066】
ステップS3では、制動制御装置1により、ワイパー判定許可状態ではないとされる。制動制御装置1は、ワイパー判定許可フラグをOFFとする。ステップS3が実行されると、ステップS4に進む。
【0067】
ステップS4では、制動制御装置1により、ワイパー仮判定条件が成立しているか否かが判定される。制動制御装置1は、例えば、以下の(v)から(vii)の全ての条件を満たしているときにワイパー仮判定条件が成立していると判定する。
(v)ワイパー仮判定状態でない。
(vi)ワイパー判定許可状態である。
(vii)ヨーレートの変化速度ΔYrが所定値よりも大である状態が仮判定時間Tm1継続している。
【0068】
条件(v)の「ワイパー仮判定状態」とは、ワイパー仮判定条件が成立して、ワイパー仮判定フラグがONとされている状態である。条件(vi)の「ワイパー判定許可状態」とは、ワイパー判定許可フラグがONである状態である。条件(vii)のヨーレートの変化速度ΔYrは、ヨーレートセンサ38から所定のサンプリング間隔で取得するヨーレートに基づいて算出される。ヨーレートの変化速度ΔYrは、例えば、48msごとに、96ms前に取得したヨーレートと今回取得したヨーレートとに基づいて算出される。
【0069】
ヨーレートの変化速度ΔYrにおける所定値は、例えば、2deg/s/sとすることができる。この所定値は、例えば、車両100を横揺れさせたときに発生するヨーレートの実測値に基づいて定められてもよい。所定値は、例えば、車両100の横揺れでは到達しないヨーレートの変化速度ΔYrとされることが好ましい。また、ヨーレートの変化速度ΔYrにおける仮判定時間Tm1は、例えば200msとすることができる。
【0070】
ステップS4の判定の結果、ワイパー仮判定条件が成立していると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)にはステップS6に進む。図5では、時刻t2においてワイパー仮判定条件が成立していると判定される。
【0071】
ステップS5では、制動制御装置1により、ワイパー仮判定状態とされる。制動制御装置1は、ワイパー仮判定フラグをONとする。また、制動制御装置1は、ワイパー仮判定Yr記憶値に今回取得したヨーレートを代入する。ここで、ワイパー仮判定Yr記憶値は、ヨーレートの符号が反転したか否かを判定するために利用される。ステップS5が実行されると、ステップS6に進む。
【0072】
ステップS6では、制動制御装置1により、ワイパー仮判定解除条件が成立したか否かが判定される。ワイパー仮判定解除条件とは、ワイパー仮判定を解除する条件であり、例えば、以下の(viii)から(x)のいずれかの条件が満たされる場合にワイパー仮判定状態が解除される。
(viii)ワイパー判定許可状態でない。
(ix)以下の式(1)および式(2)を満たす。
ワイパー仮判定Yr記憶値>0…(1)
ヨーレートYr<(ワイパー仮判定Yr記憶値×0.5)の符号反転値…(2)
(x)以下の式(3)および式(4)を満たす。
ワイパー仮判定Yr記憶値<0…(3)
ヨーレートYr>(ワイパー仮判定Yr記憶値×0.5)の符号反転値…(4)
【0073】
条件(ix)は、正の値で推移していたヨーレートが負の値に変化したことを示す条件である。一方、条件(x)は、負の値であったヨーレートが正の値に変化したことを示す条件である。ステップS6の判定の結果、ワイパー仮判定解除条件が成立したと判定された場合(ステップS6−Y)にはステップS7に進み、そうでない場合(ステップS6−N)にはステップS8に進む。
【0074】
ステップS7では、制動制御装置1により、ワイパー仮判定中ではないとされる。制動制御装置1は、ワイパー仮判定フラグをOFFとする。ステップS7が実行されると、ステップS8に進む。
【0075】
ステップS8では、制動制御装置1により、ワイパー判定条件が成立したか否かが判定される。制動制御装置1は、以下の(xi)の条件が満たされ、かつ(xii)あるいは(xiii)の少なくともいずれか一方の条件が満たされる場合にワイパー判定条件が成立したと判定する。
(xi)ワイパー判定許可状態である。
(xii)ヨーレートの大きさが、予め定められた閾値よりも大である。
(xiii)ワイパー仮判定状態が所定時間継続している。
【0076】
条件(xii)における閾値は、例えば、ヨーレートセンサ38の精度に基づいて定められる。例えば、ヨーレートセンサ38の設計ばらつきが3.42(deg/s)である場合に、閾値を4(deg/s)とすることができる。条件(xiii)の所定時間Tm2は、ワイパー挙動が生じていると判定できるために十分な時間とされる。所定時間Tm2は、例えば、車両100の固有振動数、好ましくは、車両100のばね上の固有振動数に基づいて定められる。つまり、車両100のばね上を自由振動させた場合の車両100のばね上の振動数に基づいて所定時間Tm2が定められる。例えば、車両100のばね上の固有振動数が、1Hzと2Hzとの間の振動数である場合に、所定時間Tm2は500msとされることができる。これにより、車両100の横揺れによるヨーレートC2は、所定時間Tm2の間に符号が反転することとなり、ワイパー挙動によるヨーレートC1と容易に判別することができる。
【0077】
ステップS8の判定の結果、ワイパー判定条件が成立したと判定された場合(ステップS8−Y)にはステップS9に進み、そうでない場合(ステップS8−N)にはステップS10に進む。図5では、時刻t3においてワイパー判定条件が成立したと判定される。
【0078】
ステップS9では、制動制御装置1により、ワイパー有りと判定される。制動制御装置1は、ワイパー発生フラグをONとする。ステップS9が実行されると、ステップS10に進む。なお、ブレーキホールド制御がなされていた場合に、ステップS9においてワイパー発生フラグがONとされると、制動制御装置1はブレーキホールド制御を終了し、マスタカット弁52を開放する。これにより、制動力の保持が終了し、車両100の各車輪が自在に回転できる状態となる。また、制動力の保持が終了したときに、運転者がブレーキ操作をしている場合には、制動力が運転者のコントロール下に入る。
【0079】
ステップS10では、制動制御装置1により、ワイパー有りの解除条件が成立したか否かが判定される。制動制御装置1は、以下の(xiv)から(xvi)のいずれかの条件が満たされるとワイパー有りの解除条件が成立したと判定する。
(xiv)ワイパー有り(ワイパー発生フラグがON)。
(xv)アイドルOFF。
(xvi)車速が所定車速以上である。
【0080】
条件(xv)は、例えば、アクセル開度あるいはスロットル開度が所定開度以上である場合に満たされる。また、条件(xvi)の所定車速は、例えば1km/hとすることができる。例えば、4輪のうち最も低い回転速度に基づく車速が所定車速以上である場合に、条件(xvi)が満たされるとすることができる。
【0081】
ステップS10の判定の結果、ワイパー有りの解除条件が成立したと判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS11に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローは終了する。
【0082】
ステップS11では、制動制御装置1により、ワイパーなしとされる。制動制御装置1は、ワイパー発生フラグをOFFとする。ステップS11が実行されると、本制御フローは終了する。
【0083】
このように、本実施形態の車両用情報処理装置として機能する制動制御装置1は、検出されたヨーレートの向き、すなわちヨーレートが示す車両100の回転の向き(時計回りであるか、反時計回りであるか)に基づいて、車輪の滑りによる車両100の挙動を判定する。これにより、ヨーレートセンサ38によって検出されたヨーレートがヨーレートセンサ38のばらつきの範囲内の値であっても、ワイパー判定を行うことが可能となる。ヨーレートセンサ38のばらつきの範囲内のヨーレートであっても、ヨーレートの増減は把握することができる。よって、図5に示すように時刻t1においてヨーレートC1の立上がりが検出された場合には、時刻t1以前のヨーレートC1の値を仮に0として、ヨーレートの向きに基づいてワイパー判定を行うことができる。
【0084】
本実施形態の制動制御装置1によれば、車両100の走行中の挙動を検出するために必要とされる程度の精度のヨーレートセンサ38、すなわち車両100の停車中の挙動を検出できるほど高精度ではないヨーレートセンサ38であっても、ワイパー挙動を判定することができる。よって、コストの増加を抑制しつつ、車輪の滑りによる車両100の挙動を精度よく判定することができる。例えば、VSC(Vehicle Stability Control)装置が備えるヨーレートセンサなど、車両100の既存のヨーレートセンサを活用してワイパー挙動を判定することができる。
【0085】
また、制動制御装置1は、上記条件(vii)を満たす場合、すなわちヨーレートにおいて所定以上の度合いの変化(立上がり)が検出された場合にワイパー挙動が生じていると判定する。制動制御装置1は、ヨーレートの変化速度ΔYrが所定値よりも大である状態が仮判定時間Tm1継続した場合に、ワイパー仮判定フラグをONとして、ワイパー有りの判定を可能とする。これにより、ワイパー挙動によるヨーレートの立上がりに基づいて所定時間Tm2のカウントを開始することができ、ワイパー挙動の出だしを精度よく捕捉することができる。
【0086】
また、制動制御装置1は、上記条件(xiii)を満たす場合、すなわちヨーレートの向きが所定時間Tm2変化しない場合にワイパー挙動が生じている(S8−Y)と判定する。これにより、車両100の横揺れなどと判別してワイパー挙動を精度よく判定することができる。なお、本実施形態では、ヨーレートの符号が反転した場合にワイパー仮判定が解除されたが、これに代えて、ヨーレートが増加から減少に転じた場合や、減少から増加に転じた場合にワイパー仮判定が解除されるようにしてもよい。
【0087】
また、所定時間Tm2は、車両100の固有振動数に基づいて定められている。これにより、制動制御装置1は、車両100の横揺れによるヨーレートを適切に判別してワイパー挙動を精度よく判定することができる。
【0088】
なお、制動制御装置1は、ヨーレートの大きさが増加し続ける場合にワイパー挙動が生じていると判定するようにしてもよい。図5に示すように、ワイパー挙動によるヨーレートC1は、その大きさが増加し続けることがある。これに対して、車両100の横揺れによるヨーレートC2は、増加と減少とが繰り返される。つまり、立上がり後のヨーレートC1の単純増加あるいは単純減少に基づいて、ワイパー挙動が生じていると判定することが可能である。例えば、ヨーレートの単純増加や単純減少の継続時間が、所定時間Tm2に達したときにワイパー有りと判定されてもよい。
【0089】
なお、ワイパー仮判定条件やワイパー判定条件において、傾斜角度センサ37によって検出された車両100の傾斜角度に応じて成立条件が可変とされてもよい。例えば、同じヨーレートの推移に対して、車両100の傾斜角度が大きい場合には、小さい場合よりもワイパー仮判定条件やワイパー判定条件が成立しやすくされてもよい。
【0090】
(実施形態の変形例)
上記実施形態では、ワイパー挙動の判定が車両100の停車時に行われたが、これには限定されない。ワイパー挙動が生じているか否かを判定するワイパー挙動の判定は、車両100の走行中に行われてもよい。
【0091】
例えば、砂利道などのオフロードの坂道において、自動的に各車輪の制駆動力を制御して走行させる走行制御が検討されている。こうした走行制御において坂道を上るときに、一部の車輪が空転してその車輪の接地力が低下することでワイパー挙動が発生することがある。こうした場合に、制動制御装置1によって、ワイパー挙動を挙動発生の初期に判定することで、速やかに各車輪の制駆動力の配分を調節することが可能となる。例えば、駆動制御装置2によって、空転している車輪の駆動力配分を低下させると共に、ワイパー挙動を打ち消すように各車輪の駆動力配分を変更することが可能となる。
【0092】
また、制動制御装置1による制動制御を行いながらオフロードの坂道を下るときに、一部の車輪がロックしてその車輪の接地力が低下することでワイパー挙動が発生することがある。こうした場合に、制動制御装置1によって、ワイパー挙動を挙動発生の初期に判定することで、速やかに各車輪の制駆動力の配分を調節することが可能となる。例えば、ロックしている車輪の制動力配分を低下させると共に、ワイパー挙動を打ち消すように各車輪の制駆動力配分を変更することが可能となる。
【0093】
また、トラクションコントロールがなされているときのワイパー挙動を判定して運転者に警告する制御がなされてもよい。ワイパー挙動の判定は、例えば、車両100の直進時など、ヨーレートが0であることを前提とできる走行時になされるようにしてもよい。
【0094】
車両100の走行中におけるワイパー挙動の判定は、例えば、車両100が微低速で走行しているときに行われてもよい。一例として、人が歩く速度以下の速度で車両100が走行しているときに、ワイパー挙動の判定がなされてもよい。
【0095】
上記実施形態および本変形例において説明したように、制動制御装置1によるワイパー挙動の判定は、車両100において制駆動力のアシスト制御が行われているときに行われることができる。アシスト制御がなされているときに、ワイパー挙動が生じていると判定された場合、速やかにアシスト制御を終了させることができる。アシスト制御がワイパー挙動を発生させ、あるいはワイパー挙動を促進させている場合に、アシスト制御が終了されることで、ワイパー挙動を解消させ、あるいはワイパー挙動を抑制することができる。
【0096】
また、ワイパー挙動が生じている場合に、アシスト制御あるいはその他の制御によって、ワイパー挙動を解消または抑制できるように運転操作をアシストするようにしてもよい。上記実施形態および変形例の制動制御装置1は、ワイパー挙動の初期における車両100の姿勢の変化を捉えることができるため、ワイパー挙動の解消やワイパー挙動の抑制において有利である。
【0097】
上記の実施形態や変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明にかかる車両用情報処理装置は、車輪の滑りによる車両の挙動を精度よく判定するのに適している。
【符号の説明】
【0099】
1−1 車両制御装置
1 制動制御装置
2 駆動制御装置
37 傾斜角度センサ
38 ヨーレートセンサ
50 ブレーキアクチュエータ
100 車両
ΔYr ヨーレートの変化速度
Tm1 仮判定時間
Tm2 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部によって検出された前記ヨーレートの向きに基づいて、前記車両の車輪の滑りによる前記車両の挙動を判定する
ことを特徴とする車両用情報処理装置。
【請求項2】
前記ヨーレートの向きが所定時間変化しない場合に前記挙動が生じていると判定する
請求項1に記載の車両用情報処理装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記車両の固有振動数に基づいて定められている
請求項2に記載の車両用情報処理装置。
【請求項4】
前記ヨーレートの大きさが増加し続ける場合に前記挙動が生じていると判定する
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用情報処理装置。
【請求項5】
前記ヨーレートにおいて所定以上の度合の変化が検出された場合に前記挙動が生じていると判定する
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用情報処理装置。
【請求項6】
前記挙動の判定を前記車両の停車時に行う
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用情報処理装置。
【請求項7】
前記挙動の判定を、前記車両において停車状態を維持できる制動力を保持する制御がなされているときに行う
請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用情報処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両用情報処理装置を備え、
前記挙動が生じていると判定された場合に、前記制動力の保持を終了する
車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76702(P2012−76702A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225937(P2010−225937)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】