説明

車両用発電サスペンションダンパ装置

【課題】車両のロール共振周波数付近でもオイルダンパと同程度以上のダンパ性能を発揮するとともに走行路面の凹凸に対しては必要以上にダンパが硬くならないダンパ性能が制御される車両用発電サスペンションダンパ装置を得る。
【解決手段】車両用発電サスペンションダンパ装置は、路面の凸凹に伴う車輪の振動を車体に伝えないように振動を緩衝する車両用発電サスペンションダンパ装置において、Duty比100%で動作されるとき車両のロール共振周波数付近でオイルダンパと同程度以上にサスペンション軸を伝搬する振動を緩衝する発電機と、上記発電機をDuty比が0%から100%の間で動作させる発電回生制御装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車における操縦安定性と乗り心地を両立する自動車のサスペンションにおけるダンパ装置であり、特に発電機によりエネルギ回収を出来る発電サスペンションダンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費向上技術開発の一環として、サスペンションダンパを従来のオイルダンパから電磁モータに置き換えるとともに電流検出器を用いて走行路面の荒さを判定し、その判定結果に基づいて電磁モータを発電機として活用してダンパ作用を与えるモードと、電磁モータをモータとして給電してダンパ作用を与えるモードを切り替えることにより、走行中の車両振動の一部を電気エネルギとして回収する方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−274575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来の技術では、走行路面が荒い場合に発生する概ね10Hz以上の車体振動エネルギの回収を狙いとしているため、必要以上にダンパ定数を大きくして乗り心地を低下させないよう、電磁モータでの発電量を小さく設計している。アクティブサスペンションのように乗り心地と操縦安定性向上の両立をするために、操縦安定性に関わる車両のロール共振周波数である概ね1Hz付近では、電磁モータに給電しモータとして作用させている。そのため、エネルギ回収の観点では望ましくない。
また、走行路面の荒さを判定することにより、発電/給電の制御切り替えを行っており、誤判定の可能性があり、その際運転者に違和感を与える可能性がある。
【0005】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、車両のロール共振周波数付近でもオイルダンパと同程度以上のダンパ性能を発揮するとともに走行路面の凹凸に対しては必要以上にダンパが硬くならないダンパ性能が制御される車両用発電サスペンションダンパ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、路面の凸凹に伴う車輪の振動を車体に伝えないように振動を緩衝する車両用発電サスペンションダンパ装置において、Duty比100%で動作されるとき車両のロール共振周波数付近でオイルダンパと同程度以上にサスペンション軸を伝搬する振動を緩衝する発電機と、上記発電機をDuty比が0%から100%の間で動作させる発電回生制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、発電機に誘起された逆起電力をバッテリに回生することにより車両のロール共振周波数付近の姿勢変動をオイルダンパと同程度以上のダンパ性能で抑制することができるとともに、走行路面の凹凸が荒い場合に車体に発生する概ね10Hzの振動に対しては、必要以上にダンパが硬くなり乗り心地を低下させないように、発電機のDuty比を小さくして逆起電力を低下させる構成としたので、発電機に給電して回収エネルギを小さくすること無く、操縦安定性向上と乗り心地向上を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車両用発電サスペンションダンパ装置の構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る発電回生制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る発電回生制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】Duty比変更器でDuty比を変更するときに使用する逆起電圧信号の絶対値の平均値とDuty比との関係を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態2に係る車両用発電サスペンションダンパ装置の構造図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る発電回生制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る発電回生制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用発電サスペンションダンパ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る車両用発電サスペンションダンパ装置の構造を示す図である。
この発明の実施の形態1に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、図示しないサスペンションバネの伸縮方向に配されたサスペンション軸1と結合したボールねじ2、ボールねじ2が図示した矢印方向に動くと図示しないロータが回転し逆起電力を発生する発電機3、発電機3に発生した逆起電力をバッテリ5に回生する発電回生制御装置4、及び、発電機3に発生された逆起電力の電圧を検出する逆起電圧検出器8を備える。
発電機3の外殻は図示しない固定具により回転しないよう固定されており、ロータのみが回転する。
また、発電機3は、ON−Duty100%でPWM制御されると、オイルダンパと同程度以上のダンパ性能を発揮する。
【0010】
また、この発明の実施の形態1に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、発電機3に直列にオイルダンパ6が連結されており、発電機3または発電回生制御装置4が故障した場合にもオイルダンパ6が作動して操縦安定性が失われないような構成となっている。
逆起電圧の検出は、例えばブラシ付電動パワーステアリングなどで頻繁に用いられる公知の手法を適用すればよい。
【0011】
図2は、この発明の実施の形態1に係る発電回生制御装置4の制御の構成を示すブロック図である。
発電回生制御装置4は、逆起電圧検出器8から出力される逆起電圧信号から高周波成分を除去するローパスフィルタ11、高周波成分が除去された逆起電圧信号の絶対値を演算する絶対値演算器12、絶対値演算器12から出力される逆起電圧信号を平均化して平均値を算出する平均値演算器13、平均値演算器13から出力される逆起電圧信号の平均値に対応して、発電機3をONするONタイムとOFFするOFFタイムとの比(以下、Duty比と称す)を変更するDuty比変更器14、及び、Duty比変更器14から出力されるDuty比を用いてPWM制御する回生回路15を備える。
ローパスフィルタ11の折点周波数は、車両のロール共振周波数以上且つサスペンションの共振周波数以下とする
【0012】
Duty比変更器14は、平均値演算器13から出力される逆起電圧信号の絶対値の平均値が入力されるので、この逆起電圧信号の絶対値の平均値に対応するDuty比を出力する。このDuty比は、回生回路15に入力され、回生回路15はこのDuty比をON−DutyとしてPWM制御を行う。
【0013】
次に、図3のフローチャートを用いて、発電回生制御装置の動作の説明を行う。
まず、ステップS101において、検出された逆起電圧信号を取込みメモリに記憶する。
次に、ステップS102において、逆起電圧信号の所定の周波数以上の信号を除去するローパスフィルタ演算を行いメモリに記憶する。
次に、ステップS103において、ローパスフィルタ演算により算出された逆起電圧信号の内マイナスの成分の信号をプラスに変換する絶対値演算を行いメモリに記憶する。
次に、ステップS104において、絶対値演算により算出された逆起電圧信号の絶対値を平均化して平均値を算出する平均値演算を行いメモリに記憶する。この平均値演算は、直近の3秒程度の平均とするものであれば、移動平均処理しても、近似的に時定数が3秒より十分長いフィルタで平均値を求めても良い。
次に、ステップS105において、平均値演算により算出された逆起電圧信号の平均値に対応させて、発電機3をONするONタイムとOFFするOFFタイムとのDuty比を算出し、そのDuty比を回生回路15に出力する。
ここで、ローパスフィルタ11の時定数は、車両のロール共振周波数とサスペンションの共振周波数の中間の値に設定される。
【0014】
Duty比変更器14は、図4に示すように、逆起電圧信号の平均値が0のときにはDuty比を0%とし、平均値が所定の閾値のときにはDuty比を100%とし、平均値が0を超え、所定の閾値以下のときには平均値に比例するDuty比を算出する。平均値が閾値を超えるときには発電機3が発生した逆起電力をすべてバッテリ5に回生するように、Duty比を100%に維持する。
【0015】
自動車のサスペンションダンパは、車両のロール方向の安定性を高め、車両の操縦安定性を確保するようにサスペンション軸1の移動速度に比例した抵抗力を発生するよう、両者の比であるダンパ定数を高めに設定するが、高くしすぎると、サスペンションの共振周波数付近で路面の凹凸が車体に伝わりやすくなり乗り心地が低下する。
ところが、この発明の実施の形態1に係る車両用発電サスペンションダンパ装置においては、サスペンション軸1の移動速度が大きいときにDuty比を100%にすることにより発電機3が大きな逆起電力を発生し、その逆起電力全てを回生するので、従来のオイルダンパと同程度以上のダンパ性能を発揮するように設定されたことと同等であり、従って従来のオイルダンパと同程度以上の車両の操縦安定性を確保できる。
【0016】
また、逆起電圧信号の周波数は発電機3の回転周波数に比例するのでサスペンション軸1の移動周波数と比例する。そして、逆起電圧信号に含まれる走行路面の凹凸が荒いときに発生する概ね10Hzの成分がローパスフィルタ11により除去されるので、逆起電圧の平均値が小さくなり、Duty比が0%近くで良く、乗り心地を低下させることが無く、効果的に車両の振動エネルギを電力エネルギとして回収できる。
また、走行路面の凹凸を検知して、発電または給電の制御切り替えを行っていないので、誤判定により運転者に違和感を与えることが無い。
【0017】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2に係る車両用発電サスペンションダンパ装置の構造を示す図である。
この発明の実施の形態2に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、図示しないサスペンションバネの伸縮方向に配されたサスペンション軸1と結合したボールねじ2、ボールねじ2が図示した矢印方向に動くと図示しないロータが回転し逆起電力を発生する発電機3、発電機3に発生した逆起電力をバッテリ5に回生する発電回生制御装置4B、及び、サスペンション軸1のストロークを検出するストローク検出器7を備える。
発電機3の外殻は図示しない固定具により回転しないよう固定されており、ロータのみが回転する。
【0018】
なお、この発明の実施の形態2に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、発電機3のみでダンパ機能を果たしているが、発電機3に直列にオイルダンパ6を連結しても良い。そうすることにより、発電機3または発電回生制御装置4Bが故障した場合にもオイルダンパ6が作動して操縦安定性が失われないようなにすることができる。
【0019】
図6は、この発明の実施の形態2に係る発電回生制御装置4Bの制御の構成を示すブロック図である。
発電回生制御装置4Bは、サスペンション軸1の検出されたストロークの信号から高周波成分を除去するローパスフィルタ21、高周波成分が除去されたストロークの信号の絶対値を演算する絶対値演算器22、絶対値演算器22から出力されたストロークの信号の絶対値を平均化して平均値を算出する平均値演算器23、平均値演算器23から出力された平均値に対応して、発電機3をONするONタイムとOFFするOFFタイムとの比(以下、Duty比と称す)を変更するDuty比変更器24、及び、Duty比変更器24から出力されるDuty比を用いてPWM制御する回生回路25を備える。
【0020】
次に、図7のフローチャートを用いて、発電回生制御装置4Bの動作の説明を行う。
まず、ステップS201において、検出されたストローク信号を取込みメモリに記憶する。
次に、ステップS202において、ストローク信号の所定の周波数以上の成分を除去するローパスフィルタ演算を行いメモリに記憶する。
次に、ステップS203において、ローパスフィルタ演算により算出されたストローク信号の内マイナス成分をプラスに変換する絶対値演算を行いメモリに記憶する。
次に、ステップS204において、絶対値演算により算出されたストローク信号の絶対値を平均化して平均値を算出する平均値演算を行いメモリに記憶する。この平均値演算は、直近の3秒程度の平均とするものであれば、移動平均処理しても、近似的に時定数が3秒より十分長いフィルタで平均値を求めても良い。
次に、ステップS205において、平均値演算により算出されたストローク信号の絶対値の平均値に対応させて、発電機3をONするONタイムとOFFするOFFタイムとのDuty比を算出し、そのDuty比を回生回路15に出力する。
なお、本実施の形態2でも、ローパスフィルタ21の時定数は、実施の形態1と同様に定める。
【0021】
この発明の実施の形態2に係る車両用発電サスペンションダンパ装置は、サスペンション軸1のストロークを検出するストローク検出器7が備えられているので、サスペンション軸1の動きを高分解能で的確に検出することができるとともに、ストロークの平均値に対応するDuty比で発電機3を制御するので、サスペンション軸1の移動速度が大きいときにDuty比を100%にすることにより発電機3が大きな逆起電力を発生し、従来のオイルダンパと同程度以上のダンパ性能を発揮するように設定されたことと同等であり、従って従来のオイルダンパと同程度以上の車両の操縦安定性を確保できる。
なお、サスペンション軸1のストロークを検出するストローク検出器の代わりに、発電機3にレゾルバなどの回転角検出器を用いても同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0022】
1 サスペンション軸、2 ボールねじ、3 発電機、4、4B 発電回生制御装置、5 バッテリ、6 オイルダンパ、7 ストローク検出器、8 逆起電圧検出器、11、21 ローパスフィルタ、12、22 絶対値演算器、13、23 平均値演算器、14、24 Duty比変更器、15、25 回生回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面の凸凹に伴う車輪の振動を車体に伝えないように振動を緩衝する車両用発電サスペンションダンパ装置において、
Duty比100%で動作されるとき車両のロール共振周波数付近でオイルダンパと同程度以上にサスペンション軸を伝搬する振動を緩衝する発電機と、
上記発電機をDuty比が0%から100%の間で動作させる発電回生制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用発電サスペンションダンパ装置。
【請求項2】
上記発電機は、誘起する逆起電力の電圧を検出する逆起電圧検出手段が設けられ、
上記発電回生制御装置は、
上記逆起電圧検出手段からの逆起電圧信号の高周波成分を除去するローパスフィルタと、
上記ローパスフィルタからの逆起電圧信号の絶対値を演算する絶対値演算手段と、
上記逆起電圧信号の絶対値を平均化して平均値を算出する平均値演算手段と、
上記逆起電圧信号の絶対値の平均値に対応するDuty比を求めるDuty比変更手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用発電サスペンションダンパ装置。
【請求項3】
上記サスペンション軸のストロークを検出するストローク検出手段を備え、
上記発電回生制御装置は、
上記ストローク検出手段からのストローク信号の高周波成分を除去するローパスフィルタと、
上記ローパスフィルタからのストローク信号の絶対値を演算する絶対値演算手段と、
上記ストローク信号の絶対値を平均化して平均値を算出する平均値演算手段と、
上記ストローク信号の絶対値の平均値に対応するDuty比を求めるDuty比変更手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用発電サスペンションダンパ装置。
【請求項4】
上記ローパスフィルタの折点周波数は、車両のロール共振周波数以上且つサスペンションの共振周波数以下とすることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用発電サスペンションダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−235743(P2011−235743A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108380(P2010−108380)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】