説明

車両用自動変速機の制御装置

【課題】変速段の切り換えによるハンチング現象が起こらず、ドライバビリティを損なうこともなく、ギヤのフレッティング磨耗を抑制することができるようにする。
【解決手段】現在の変速段が直結段であると判定された場合に、該現在の変速段を設定するためのクラッチの係合状態を維持したままその係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行い、これにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせ、フレッティング磨耗の発生を抑制する。自動変速モードの場合は直結段と判定されてから所定時間経過後に前記制御を行い、手動変速モードの場合は該所定時間の経過を待たずに前記制御を行う。また、少なくとも車両が加速状態で無いと判定された場合に前記制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に搭載される自動変速機の制御装置に関し、特に、遊星歯車機構を用いた自動変速機におけるギヤの磨耗を抑制する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車(プラネタリギヤ)機構を用いた自動変速機においては、遊星歯車機構内のギヤが相対回転しない「直結段」といわれる変速段が存在する。「直結段」においては、遊星歯車機構内のギヤ同士が同じ位置で噛み合ったままの状態となっている。この状態のままで長時間連続運転を行うと、エンジントルク変動などの影響により各ギヤの歯面にフレッティング磨耗による凹面が発生する。このようなフレッティング磨耗による凹面が発生すると、ギヤの歯当りが悪化してギヤノイズによる商品性の悪化をもたらし、また、耐久性も悪化する。
【0003】
このような問題に対処するために、ギヤの表面に耐磨耗性の表面処理を施す、あるいはギヤの材質を耐磨耗性のものに変更する、あるいは歯面に潤滑油を供給するための潤滑油孔を歯底に設けることで潤滑油最適化を図る、等の工夫が従来よりなされている。しかし、これらの処理はコストの増大を招くという欠点がある。この点に鑑みて下記特許文献1においては、遊星歯車機構内のギヤ同士が同じ位置で噛み合ったままの状態となるギヤ段が選択されている場合、所定の条件が成立したならば(例えば、該状態が所定時間続く、あるいはトルクダウンがなされる等)、一時的に別のギヤ段に切り換える制御を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された技術においては、ギヤ段の一時的な切り換えが繰り返されるとハンチング現象を引き起こすおそれがあるという問題がある。また、ドライバーによるブレーキ操作あるいはスロットル閉操作などによってトルクダウンがなされたような場合、減速を意図しているドライバーの意図に対して、ギヤ段を切り換えることによりエンジンブレーキの効き具合が変動してしまうので、ドライバビリティを損なうという問題がある。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ギヤ段の頻繁な切り換えによるハンチング現象が起こらず、また、ドライバビリティを損なうこともなく、ギヤのフレッティング磨耗を抑制することができるようにした車両用自動変速機の制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、自動変速機の変速段を、車両の走行状態に応じて所定の変速段に設定する自動変速制御手段(11)と、前記自動変速機の変速段を、運転者が選択した変速段に設定する手動変速制御手段(12)とを備えた車両用自動変速機の制御装置において、前記自動変速機の現在の変速段が、該現在の変速段を構成する歯車同士が相対回転することなく相互に噛み合った状態を維持する噛み合い形態からなる直結段であるか否かを判定する直結段判定手段(13)と、前記車両が加速状態であるか否かを判定する車両加速状態判定手段(14)と、前記自動変速機の現在の変速制御モードが、前記自動変速制御手段によって変速制御される自動変速モードと前記手動変速制御手段によって変速制御される手動変速モードのどちらであるかを判定する変速モード判定手投(15)と、前記自動変速機の現在の変速段が前記直結段であると判定された場合に、該現在の変速段を設定するための摩擦係合要素の係合状態を維持したままその係合力を弱める制御を行い、これにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせる係合制御手段(16)であって、少なくとも前記車両加速状態判定手段で車両が加速状態で無いと判定された場合に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、かつ、前記自動変速モードの場合は前記直結段と判定されてから所定時間経過後に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、前記手動変速モードの場合は前記直結段と判定された後所定時間の経過を待たずに前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行う前記係合制御手段(16)とを具備することを特撤とする。なお、括弧内の参照番号は、本発明の各構成要素に対応する後述する実施例における各要素の参照番号を単なる参考のために示すものである。
【0008】
摩擦係合要素の係合状態を維持したままその係合力を弱めるとは、摩擦係合要素(クラッチ)の係合状態を維持したままその係合力を弱めることで該摩擦係合要素(クラッチ)に滑りを生じさせることである。これによって、該摩擦係合要素(クラッチ)の入出力軸にそれぞれ連結される歯車間(直結状態の噛み合いをしている歯車間)に微妙な回転差が生じ、現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に微妙な滑りを生じさせることができる。
【0009】
本発明によれば、自動変速機の現在の変速段が直結段であると判定された場合に、該現在の変速段を設定するための摩擦係合要素の係合状態を維持したままその係合力を弱めることにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせるように制御しているため、動力伝達を行う歯面の噛み合い箇所を微妙に変化させることができることとなり、フレッティング磨耗を防止することができる。その際に、少なくとも車両が加速状態で無いと判定された場合に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うように制御しているため、加速状態において不用意に摩擦係合要素の係合力を弱める制御が行われることがなく、ドライバビリティを損なうおそれがない。また、自動変速モードと手動変速モードとで開始条件を異ならせて前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うようにしているので、手動変速モードにおいては直結段への変速操作に即応して摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うことができる。これは、手動変速モードによって直結段への変速操作がなされた場合は、当該変速段(直結段)の状態が或る程度持続されることが予測されるからである。一方、自動変速モードにおいては、直結段への変速があっても摩擦係合要素の係合力を弱める制御をすぐに行わずに、所定時間の経過を待って行うようにするのがよい。これは、摩擦係合要素の係合力を弱める制御は該摩擦係合要素の滑り摩擦による磨耗と発熱をもたらすおそれがあるため、直結段への締結が所定時間以上維持されない場合はフレッティング磨耗の影響が出ないことを考慮し、摩擦係合要素の保守に有利なように構成しているためである。また、本発明においては、一時的に別の変速段に切り換えられることなく現在の変速段が維持されるので、変速段の頻繁な切り換えによるハンチング現象が起こらず、また、ドライバビリティを損なうこともない。
【0010】
一実施態様において、前記係合制御手段(16)は、更に、前記車両加速状態判定手段(14)で車両が加速状態であると判定された場合にあっては、前記車両の駆動源から前記自動変速機に入力される駆動力が所定の閾値未満であることを条件に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うことを特徴とする。ここで所定の閾値とは、加速の程度を区別することを意図するものであり、自動変速機に入力される駆動力が所定の閾値以上であれば強い加速、閾値未満であれば弱い加速、と言うことができる。そして、この実施態様においては、弱い加速状態であれば、加速状態で無い場合と同様に、摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、こうしてフレッティング磨耗を防止するための措置がとられる。また、強い加速に対しては応答性を維持することができるので、ドライバビリティを確保することができる。
【0011】
更なる実施態様において、前記車両が登坂路を走行しているか否かを判定する登坂路判定手段(17)を更に備え、前記係合制御手段(16)は、前記車両加速状態判定手段(14)で車両が加速状態にあると判定され、かつ、前記登坂路判定手段で登坂路を走行していると判定された場合は、前記所定の閾値をそれより小さな第2の閾値に切り換え、前記車両の駆動源から前記自動変速機に入力される駆動力が該第2の閾値未満であることを条件に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うことを特徴とする。この実施態様においては、登坂状態においては、閾値が下げられるため、自動変速機に入力される駆動力が平地走行時に比べてより小さな領域でのみ、摩擦係合要素の係合力を弱める制御が行われる。これによって、登坂時のドライバビリティを確保する一方で、フレッティング磨耗を防止するための措置も適切にとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御装置を備えた車両の動力伝達系統及び制御系統の概略を示すブロック図。
【図2】同実施形態における自動変速機の動力伝達構成の一例を示すスケルトン図。
【図3】図2に示す動力伝達構成において各クラッチ及びブレーキの係合、解放の組み合わせにより達成される変速段を一覧する表。
【図4】本発明に係る制御装置が実行する制御をコンピュータに実行させるプログラムの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置を備えた車両の動力伝達系統及び制御系統の概略を示すブロック図である。車両の動力伝達系統は、動力源であるエンジン1と、エンジン1の回転出力を変速ギア機構3に伝達するための流体継手であるトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2の回転出力を入力して設定された速度比で変速して出力する変速ギア機構3と、変速ギア機構3の出力回転を左右の車輪(例えば後輪)5に分配するディファレンシャルギア機構4とを含む。トルクコンバータ2及び変速ギア機構3に付属して油圧制御装置6が設けられており、この油圧制御装置6はトルクコンバータ2及び変速ギア機構3内に設けられている油圧制御型の係合要素(クラッチなど)を所定の組み合わせで締結又は解放することにより、トルクコンバータ2のロックアップや、該変速ギア機構3における入出力速度比を所要の変速段に設定することを行う。車両の自動変速機は、これらのトルクコンバータ2、変速ギア機構3、油圧制御装置6などによって構成される。
【0014】
車両の自動変速機を制御するための制御系統は、車両の各部に設けられた各種センサ11と、該各種センサの出力が入力される電子制御ユニット(ECU)10と、該電子制御ユニット10によって制御される前記油圧制御装置6などで構成される。シフトレバーポジションセンサ12は、運転者によって操作されるシフトレバーのポジションを検出する。シフトレバーのポジションには、公知のように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(自動変速モードでの前進走行)などがあり、更に、3速、2速、1速等の特定の変速段を手動で指定するための手動変速用ポジションがある。公知のように、手動変速モードのための手動変速操作手段としては、シフトレバーに附属しているタイプに限らず、ハンドル等適宜の箇所に附属して設けられたシフトアップスイッチ及びシフトダウンスイッチ(パドルスイッチ)等からなるものであってもよい。
【0015】
図1に示した車両の動力伝達系統及び制御系統の具体的構成は、公知の構成を適宜採用してよい。本発明に係る自動変速機の制御装置は、電子制御ユニット10に含まれるものであり、該電子制御ユニット10が実現可能な種々の制御機能のうちの一つとして実施される。電子制御ユニット10によって実現される本発明に関連する機能(手段)について説明すると次の通りである。
【0016】
自動変速制御手段11:自動変速機の変速段を、車両の走行状態に応じて所定の変速段に設定する。公知のため、これ以上の詳細説明を省略する。
【0017】
手動変速制御手段12:自動変速機の変速段を、運転者が選択した変速段に設定する。公知のため、これ以上の詳細説明を省略する。
【0018】
直結段判定手段13:自動変速機の現在の変速段が、該現在の変速段を構成する歯車同士が相対回転することなく相互に噛み合った状態を維持する噛み合い形態からなる直結段であるか否かを判定する。公知であるが、本発明の理解のために重要であるから、追って一例を説明する。
【0019】
車両加速状態判定手段14:車両が加速状態であるか否かを判定する。車速センサ出力の変化あるいはアクセルペダル開度などに基づき、公知の手法で加速状態であるか否かを判定するようにしてよい。
【0020】
変速モード判定手投15:自動変速機の現在の変速制御モードが、自動変速制御手段11によって変速制御される自動変速モードと手動変速制御手段12によって変速制御される手動変速モードのどちらであるかを判定する。公知の手法に従い、シフトレバーのポジション及び上記手動変速操作手段の操作状態などに基づいて判定するようにしてよい。
【0021】
係合制御手段16:自動変速機の現在の変速段が前記直結段であると判定された場合に、該現在の変速段を設定するための摩擦係合要素(クラッチ)の係合状態を維持したままその係合力を弱める制御を行い、これにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせる。ここで、少なくとも車両が加速状態で無いと判定された場合に摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、かつ、自動変速モードの場合は前記直結段と判定されてから所定時間経過後に前記摩擦係合要素(クラッチ)の係合力を弱める制御を行うが、手動変速モードの場合は前記直結段と判定された後所定時間の経過を待たずに前記摩擦係合要素(クラッチ)の係合力を弱める制御を行う。この係合制御手段16は本発明の要旨に関連するもので、詳細は後述する。
【0022】
登坂路判定手段17:車両が登坂路を走行しているか否かを判定する。水平面に対する車体の傾斜角を検出する、あるいはアクセルペダルの踏み込み量と車速加速度検出値との相関性等、公知の手法に従い、登坂路走行を判定するようにしてよい。
【0023】
図2は、上記変速ギア機構3の動力伝達構成の一例を示すスケルトン図である。図において、自動変速機の変速ギア機構3は、入力軸の回転を増速して出力する増速用プラネタリ機構G1と、増速用プラネタリ機構G1からの増速回転を入力として変速回転を出力する変速用プラネタリ機構G2とを備え、これら増速用プラネタリ機構G1と変速用プラネタリ機構G2とによって、前進6速後進1速の変速段を達成する自動変速機を構成している。
【0024】
増速用プラネタリ機構G1は、入力軸に連結された入力要素としてのキャリアCzを有し、このキャリアCzには複数のピニオンギアPzが配置されており、該ピニオンギアPzがサンギヤSz及びリングギヤRzに噛み合い、反力要素であるサンギヤSzを固定することにより出力要素であるリングギヤRzに増速回転を出力するようになっている。リングギヤRzは、クラッチC2を介して変速用プラネタリ機構G2のキャリアCrに連結されている。クラッチC2の係合によって、増速用プラネタリ機構G1の出力が変速用プラネタリ機構G2に入力される。
【0025】
変速用プラネタリ機構G2は、径の異なる2つのサンギヤすなわち大径サンギヤSL及び小径サンギヤSsと、大径サンギヤSLに噛合するロングピニオンPL及び小径サンギヤSsに噛合するショートピニオンPsを支持するキャリアCrとからなるラビニオ型遊星歯車機構で構成されている。ロングピニオンPLは、大径サンギヤSLに噛合するとともにリングギヤRrに噛合し、ショートピニオンPsは、小径サンギヤSsに噛合している。キャリアCrは、クラッチC2を介して増速用プラネタリ機構G1のリングギヤRzの回転が伝達されるようになっていると共に、ブレーキB2により変速機ケースに対して係止可能である。F1はワンウェイクラッチである。なお、変速回転の出力要素としてのリングギヤRzは、出力軸に連結される。
【0026】
大径サンギヤSLは、小径サンギヤSsと同軸上で回転可能に設置されている。大径サンギヤSLと小径サンギヤSsは、変速用プラネタリ機構G2における非増速回転(増速用プラネタリ機構G1を経由しない入力回転)の入力要素として機能する。小径サンギヤSsは、クラッチC1に連結され、入力軸からの入力がクラッチC1を介して小径サンギヤSsに伝達される。大径サンギヤSLは、クラッチC3に連結され、入力軸からの入力がクラッチC3を介して大径サンギヤSLに伝達される。また、大径サンギヤSLは、ブレーキB1は変速機ケースに対して固定されるようになっている。
【0027】
上記構成の変速ギア機構3において、前記電子制御ユニット10の自動変速制御手段11又は手動変速制御手段12によって指示された変速段を達成するように、クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の係合及び解放を行う。図3は、クラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の係合、解放の組み合わせにより達成される各変速段を示す表であり、○印は係合、無印は解放を示す。このような変速ギア機構3は公知であるため、本発明に関係する「直結段」について次に説明し、その他の各変速段についての説明は省略する。
【0028】
図2及び図3に示す構成からなる変速ギア機構3においては、変速段を構成する歯車同士が相対回転することなく相互に噛み合った状態を維持する噛み合い形態からなる「直結段」に相当するのは「第3速段(3rd)」である。この第3速段(3rd)は、クラッチC1とクラッチC3の同時係合で達成される。この場合、入力軸の非増速回転がクラッチC1とクラッチC3経由で同時に変速用プラネタリ機構G2の小径サンギヤSsと大径サンギヤSLに入力され、変速用プラネタリ機構G2が直結状態となる。そのため、小径サンギヤSs及び大径サンギヤSLへの入力回転と同回転であるリングギヤRrの回転が出力軸に出力される。このリングギヤRrの回転は、入力軸の回転と同じ回転となっている。なお、第3速段では、クラッチC2が係合していないため、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への増速回転の入力は無い。
【0029】
前述の直結段判定手段13では、自動変速制御手段11又は手動変速制御手段12が変速ギア機構3において「第3速段(3rd)」を達成するように指示を発したとき、自動変速機の現在の変速段として「直結段」に相当する変速段が指示されたと判定する。
【0030】
図4は、電子制御ユニット10が具備するコンピュータに本発明に従う処理・制御を実行させるためのコンピュータプログラムの一例を示す概略フローチャートである。このフローチャートは前述の手段11〜17が行う処理・制御を該コンピュータプログラムに従って電子制御ユニット10が具備するコンピュータに実行させるようにしたものである。しかし、本発明に係る制御装置は、コンピュータプログラムに限らず、専用の電子回路ハードウェアで構成してもよいのは勿論である。
【0031】
図4は、電子制御ユニット10が具備するコンピュータによって所定周期で繰り返し実行される自動変速制御処理ルーチンの過程で実行される。ステップS1では、自動変速機の現在の変速段が前記「直結段」(この例では第3速段)であるか否かを判定する(前記直結段判定手段13の判定動作に相当)。NOであれば、ステップS2に行き、所定のタイマTIMEのカウント値を0にリセットする。YESであれば、ステップS3に行き、手動変速モードであるかを判定する(前記変速モード判定手段15の判定動作に相当)。
【0032】
自動変速モードであれば、ステップS3のNOからステップS4に行き、タイマTIMEのカウント値が所定の設定値TIMEs以上になったかを判定する。タイマTIMEのカウント値が所定の設定値TIMEsに達していなければ、ステップS5に行き、タイマTIMEのカウント値をインクリメントする。これに対して、タイマTIMEのカウント値が所定の設定値TIMEs以上になった場合は、ステップS4のYESからステップS7に進む。なお、この所定の設定値TIMEsとは、直結段と判定されてから所定時間経過後にクラッチの係合力を弱める制御を開始するために、該所定時間を設定するものである。
【0033】
一方、手動変速モードであれば、ステップS3のYESからステップS6に行き、タイマTIMEのカウント値を0にリセットし、それからステップS7に進む。
【0034】
ステップS7では、車両が加速状態であるか否かを判定する(前記車両加速状態判定手段14の判定動作に相当)。加速状態で無いならば、ステップS8に行き、該現在の変速段を設定するための摩擦係合要素(クラッチ)の係合状態を維持したままその係合力を弱める(クラッチを滑らせる)制御を行い、これにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせる(前記係合制御手段16の制御動作に相当)。ここで、クラッチ係合力を弱める目的は、該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせることであるから、その目的を達成しうるように、必要な箇所でのみ必要な程度でクラッチ係合力を弱める制御を行えばよい。今説明している例の場合、現在の変速段(第3速段=直結段)を設定している締結クラッチはC1とC3であり、そのどちらか一方を滑らせる(係合力を弱める)ようにすればよい。例えば、クラッチC3を滑らせた場合、小径サンギヤSsには入力軸の回転がそのまま伝達されるが、大径サンギヤSLに伝達される回転は入力軸の回転より幾分小さなものとなり、大径サンギヤSLと小径サンギヤSsとの間のわずかな回転差が生じることになる。これにより、現在の変速段を構成している変速用プラネタリ機構G2のギヤ同士の噛み合い面に滑りが生じることとなり、もって、動力伝達を行う歯面の噛み合い箇所を微妙に変化させることができ、噛み合い面が長時間変化しないことによるフレッティング磨耗を防止することができる。一方、クラッチC1を滑らせた場合、大径サンギヤSLにには入力軸の回転がそのまま伝達されるが、小径サンギヤSsに伝達される回転は入力軸の回転より幾分小さなものとなり、この場合も大径サンギヤSLと小径サンギヤSsとの間のわずかな回転差が生じることになり、フレッティング磨耗を防止することができる。
【0035】
以上述べたことを整理すると、S1のYES、S3のNO、S4のYES、S7のNOを通りS8に至る経路の処理により、車両が加速状態で無いと判定された場合において、前記自動変速モードならば、直結段と判定されてから所定時間経過後にクラッチの係合力を弱める制御を行うことが実現される。フレッティング磨耗は、噛み合い面が一定時間以上変化しないときに起きるので、自動変速モードにおいては、直結段と判定されたときに直ちにクラッチの係合力を弱める制御を開始せずに、所定時間待機するようにしており、クラッチを滑らせる制御が余り無駄に行われないようにしている。
【0036】
また、S1のYES、S3のYES、S6、S7のNOを通りS8に至る経路の処理により、車両が加速状態で無いと判定された場合において、手動変速モードならば、直結段と判定された後前記所定時間の経過を待たずに(この例では、直ちに、)クラッチの係合力を弱める制御を行うことが実現される。手動変速モードでは、運転者が意図する一定の変速段を或る程度の時間維持することを意図していると見なせるので、クラッチを滑らせる制御を即座に行ったとして無駄な制御とならず、フレッティング磨耗を効果的に予防できることになる。
【0037】
ところで、ステップS7で車両が加速状態であると判定された場合は、ステップS9に行き、登坂路走行中であるか否かを判定する(前記登坂路判定手段17の判定動作に相当)。登坂路走行中でなければ(平地走行)、S9のYESからステップS11に行き、エンジン1から自動変速機に入力される駆動力(入力トルク)Tinが所定の閾値Ts以上であるか否かを判定する(Tin≧Ts?)。NOであれば、前記ステップS8に行き、前述したクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行う。このS7のYESからS9のNO及びS11のNOを経由してS8に至る経路の処理により、車両が加速状態であっても、自動変速機の入力トルクTinが所定の閾値Tsに満たなければ、運転者は高トルク運転を望んでいないと見なすことができるので、前述したクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行い、フレッティング磨耗を予防する措置を講ずるようにしている。自動変速機の入力トルクTinが所定の閾値Ts以上となった場合は、S11のYESからエンドに行き、ステップS8の処理を実行しないようにしている。この場合は、運転者は高トルク運転を望んでいると見なし、クラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行わないものとし、ドライバビリティを損なわないようにしている。
【0038】
更に、ステップS9で登坂路走行中であると判定されたならば、ステップS10に行き、前記所定の閾値Tsを、平地走行用のそれより小さな値(第2の閾値)に切り換える。そして、ステップS11に行き、エンジン1から自動変速機に入力される駆動力(入力トルク)Tinが切り換え後の閾値Ts以上であるか否かを判定する(Tin≧Ts?)。つまり、登坂路走行においては、平地走行時に比べて所定の閾値Tsの値が低くされ、自動変速機の入力トルクTinが該低くされた閾値(第2の閾値)Ts未満であれば、ステップS11のNOからステップS8に行き、前述したクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行い、フレッティング磨耗を予防する措置を講ずる。すなわち、登坂路走行においては、平地走行時に比べて、自動変速機の入力トルクTinがより低い領域でのみ、フレッティング磨耗を予防するための、クラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行い、それよりも高い領域ではクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行わない。これは、登坂路走行においては平地走行時に比べて大きな入力トルクTinを必要とするため、クラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御は、平地走行時に比べてより低い入力トルクの領域でのみ行うようにすることで、適切な運用を図ると共にドライバビリティを確保するためである。
【0039】
なお、上記実施例においては、手動変速モードにおいて直結段に変速されたときは、直ちにクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行うようにしているが、これに限らず、所定の待機時間を設定してもよく、ただし、この所定の待機時間は自動変速モードにおける前記閾値TIMEsよりも小さく設定するものとする。すなわち、手動変速モードにおいては、自動変速モードにおける前記閾値TIMEsによって設定される前記所定時間の経過を待たずにクラッチの係合力を弱める(クラッチを滑らす)制御を行うようになっていればよい。また、ステップS9における「登坂路走行中?」の判定は、登坂中に限らず、降坂中の判定もするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
3 変速ギア機構
10 電子制御ユニット
11 自動変速制御手段
12 手動変速制御手段
13 直結段判定手段
14 車両加速状態判定手段
15 変速モード判定手投
16 係合制御手段16
17 登坂路判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の変速段を、車両の走行状態に応じて所定の変速段に設定する自動変速制御手段と、
前記自動変速機の変速段を、運転者が選択した変速段に設定する手動変速制御手段と
を備えた車両用自動変速機の制御装置において、
前記自動変速機の現在の変速段が、該現在の変速段を構成する歯車同士が相対回転することなく相互に噛み合った状態を維持する噛み合い形態からなる直結段であるか否かを判定する直結段判定手段と、
前記車両が加速状態であるか否かを判定する車両加速状態判定手段と、
前記自動変速機の現在の変速制御モードが、前記自動変速制御手段によって変速制御される自動変速モードと前記手動変速制御手段によって変速制御される手動変速モードのどちらであるかを判定する変速モード判定手投と、
前記自動変速機の現在の変速段が前記直結段であると判定された場合に、該現在の変速段を設定するための摩擦係合要素の係合状態を維持したままその係合力を弱める制御を行い、これにより該現在の変速段を構成している歯車同士の噛み合い面に滑りを生じさせる係合制御手段であって、少なくとも前記車両加速状態判定手段で車両が加速状態で無いと判定された場合に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、かつ、前記自動変速モードの場合は前記直結段と判定されてから所定時間経過後に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行い、前記手動変速モードの場合は前記直結段と判定された後所定時間の経過を待たずに前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行う前記係合制御手段と
を具備することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記係合制御手段は、更に、前記車両加速状態判定手段で車両が加速状態であると判定された場合にあっては、前記車両の駆動源から前記自動変速機に入力される駆動力が所定の閾値未満であることを条件に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記車両が登坂路を走行しているか否かを判定する登坂路判定手段を更に備え、
前記係合制御手段は、前記車両加速状態判定手段で車両が加速状態にあると判定され、かつ、前記登坂路判定手段で登坂路を走行していると判定された場合は、前記所定の閾値をそれより小さな第2の閾値に切り換え、前記車両の駆動源から前記自動変速機に入力される駆動力が該第2の閾値未満であることを条件に前記摩擦係合要素の係合力を弱める制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196430(P2011−196430A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62468(P2010−62468)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】