説明

車両用電波透過カバーの製造方法

【課題】製造コストを効果的に低減させる。
【解決手段】最終の外形形状にトリミングしされた加飾体300の両面に透明樹脂層200と基材層400とを射出成形することでミリ波レーダ用カバー100が製造される。つまり、最終工程で外形形状をトリミングする必要がない。よって、例えば、フィルムの両面に透明樹脂層と基材層とを射出成形した後に、全体を削って(切断して)最終の外形形状にトリミングする製造工程が不要とされるので、製造工程が簡略化される。したがって、製造コストが効果的に低減する。また、ミリ波レーダ用カバー100の製品外周面をより綺麗に仕上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電波透過カバーの製造方法、特に、ミリ波レーダ装置やマイクロ波レーダ装置等の電波レーダ装置から出射されるレーダ波の経路に配置される車両用電波透過カバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントグリルには、所定の意匠形状を有するエンブレム部品が設けられることが多い。
【0003】
また、近年、フロントグリルの背面側に、車間距離や障害物との距離を計測する等の目的で電波レーダ装置(例えば、ミリ波レーダ装置やマイクロ波レーダ装置)が設けられることがある。よって、電波レーダ装置から出射されるレーダ波の経路に配置され、レーダ波が透過するエンブレム部品(車両用電波透過カバー)が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2004−251868号公報
【特許文献2】特開2007−13722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両用電波透過カバーは、最終工程で最終の外形形状になるように不要な部分を省いて外形を整える必要がある。よって、製造工程を簡略化し、車両用電波透過カバーの製造コストを効果的に低減することが求められている。
【0005】
本発明は、上記を考慮し、製造コストを効果的に低減することができる車両用電波透過カバーの製造方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、所定の意匠を形成する凹凸形状をフィルムに賦形する賦形工程と、前記フィルムを最終の外形形状に成形して加飾体を形成する加飾体形成工程と、前記加飾体の表面に射出成形によって透明樹脂層を形成する透明樹脂層形成工程と、前記加飾体の裏面に射出成形によって基材層を形成する基材層形成工程と、を有することを特徴としている。
【0007】
請求項1の発明では、加飾体形成工程において最終の外形形状に成形された加飾体の両面に透明樹脂層と基材層とを射出成形することで電波透過カバーが製造されるので、最終工程(例えば、透明樹脂層と基材層とを射出成形した後)で、不要な部分を取り除いて、最終の外形形状に成形する工程が不要とされる。よって、製造工程が簡略化され、その結果、車両用電波透過カバーの製造コストが効果的に低減する。
【0008】
なお、透明樹脂層形成工程と基材層形成工程は、どちらを先に行なってもよい。つまり、透明樹脂層形成工程を行なってから基材層形成工程を行なってもよいし、基材層形成工程を行なってから透明樹脂層形成工程を行なってもよい。また、上記工程以外の工程を含んでもよい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用電波透過カバーの製造方法において、前記フィルムには金属膜が蒸着されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明では、フィルムに金属膜が蒸着されているので、金属光沢が得られる。その結果、例えば、高級感が得られる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用電波透過カバーの製造方法において、前記フィルムには印刷が施されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明では、フィルムに印刷が施されているので、凹凸形状(凹凸意匠)のみで意匠を形成するよりも複雑な意匠が得られる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、製造コストを効果的に低減することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、金属光沢を得ることができ、この結果、例えば、高級感を得ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、複雑な意匠を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る車両用電波透過カバーの製造方法について説明する。なお、本実施形態は、車両の前端部に取り付けられると共に、車両前部に搭載されたミリ波レーダ装置(電波レーダ装置)から射出されるミリ波レーダ(レーダ波)の経路に配置されたミリ波レーダ用カバー(車両用電波透過カバー)に本発明を適用したものである。
【0017】
まず、ミリ波レーダ用カバー(車両用電波透過カバー)について、図1〜図3を用いて説明する。なお、図中の矢印UPは車両上方向を示し、矢印FRは車両前方向を示し、矢印OUTは車両幅方向外側方向を示す。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の製造方法によって製造されたミリ波レーダ用カバーが前端部に取り付けられた車両を示す斜視図である。図2は車両前部におけるミリ波レーダ用カバーが取り付けられた部位近傍を模式的に示す水平断面図である。図3(A)は、ミリ波レーダ用カバーを示す部分断面斜視図であり、(B)は(A)のB線矢視部の拡大断面図である。
【0019】
図1に示すように、車両10の車両前端部のフロントグリル12の中央部分の開口部14に車両用電波カバーとしてのミリ波レーダ用カバー(エンブレム部品)100が取り付けられている(図2も参照)。ミリ波レーダ用カバー100には、会社のシンボルマーク等のエンブレムが形成されている。
【0020】
図2に示すように、ミリ波レーダ用カバー100は、車両前部に搭載された電波レーダ装置としてのミリ波レーダ装置20の車両前方側のミリ波レーダLの経路に配置されている。なお、図2では、ミリ波レーダ用カバー100は断面を図示されていない。
【0021】
ミリ波レーダ装置20は、ミリ波レーダLを車両前方に向けて出射し、車両前方の車両や障害物等の距離を計測するため等に設けられている。
【0022】
図3(A)に示すように、ミリ波レーダ用カバー100の全体形状は、正面視略楕円形状の板状とされている(図1と図2も参照)。また、図3(A)と図3(B)とに示すように、ミリ波レーダ用カバー100は、加飾体300の両面が透明樹脂層200と基材層400とで挟まれた三層構造とされている。
【0023】
なお、ミリ波レーダ用カバー100は、車外側(車両前方側)、すなわち表面(おもてめん)が透明樹脂層200とされ、車内側(車両後方側)、すなわち裏面が基材層400とされている。また、透明樹脂層200と基材層400の外表面(ミリ波レーダ用カバー100の外表面)は、それぞれ略平滑とされており、ミリ波レーダ装置20(図2参照)から出射されるレーダ波L(図2参照)が透過しやすい面形状とされている。
【0024】
本実施形態では、透明樹脂層200はアクリル樹脂によって構成されており、基材層400はAES樹脂(Acrylonitrile-Ethylene-Styrene resin、アクリロニトリルエチレンプロピレンジエンスチレン共重合体)によって構成されている。なお、これら以外の樹脂で成形されていてもよい。例えば、ABS樹脂やポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0025】
加飾体300は、本実施形態では透明なPET樹脂製のフィムル250(図4、図5(A)参照)よって構成されると共に、所定の意匠を形成する凹凸形状(凹凸意匠)304が賦形されている(凹凸形状を形成することによって所定の意匠が表現されている)。また、加飾体300(フィルム250)の表面における凹凸形状304の凸以外の部位に黒色面(印刷面)302が印刷されている(図5を参照)。更に、加飾体300(フィルム250)の裏面全面に金属光沢が得られるようにインジウム等の金属膜が蒸着されている。このようにして、加飾体300は前述した会社のシンボルマーク等のエンブレム(意匠)が形成されている。
【0026】
つぎに、ミリ波レーダ用カバー100の製造方法について図4〜図6を用いて説明する。なお、図4は裏面に金属膜が蒸着された長尺帯状のフィルム250に印刷を施した後に真空成形し、所定の意匠を形成する凹凸形状304を賦形する工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。図5(A)はフィルム250が真空成形された後を示す平面図であり、(B)は最終の外形形状にトリミングして形成された加飾体300を示す平面図である。言い換えると、トリミング工程を(A)〜(B)へと順番に示す工程図(加飾体成形工程)である。図6は、加飾体300の両面に透明樹脂層200と基材層400とを射出成形によって形成し、ミリ波レーダ用カバー100を製造する工程を(A)〜(I)へと順番に示す工程図である。また、図7は、裏面に金属膜が蒸着されたシート状のフィルム251に印刷を施した後に真空成形し、所定の意匠を形成する凹凸形状304を賦形する工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【0027】
まず加飾体300を製造する工程について説明する。
【0028】
図4(A)に示すように、金属光沢が得られるように裏面にインジウム等の金属膜を蒸着したPET製の長尺帯状のフィルム250の表面に黒色面302を印刷する。なお、黒色面302は、凹凸形状304に対応する部分は白抜きされている。また、金属膜を蒸着してもミリ波は透過可能とされている。
【0029】
つぎに、図4(B)に示すように、印刷されたフィルム250を真空成形型262、264に装着し、図4(C)に示すように真空成形装置240によって黒色面302の白抜き部分に凹凸形状(凹凸意匠)304を賦形する(真空成形する)。つまり、フィルム250に印刷と蒸着とがさされると共に凹凸形状(凹凸意匠)304が付与されることで、三次元的(立体的に)に視認される意匠となる。
【0030】
そして、図5(A)に示すように、黒色面302が印刷され且つ凹凸形状304が形成されたフィルム250を、図5(B)に示すように、最終の外形形状(図3示す外形形状)になるように不要な部分を省いて形を整え、つまり、トリミングして加飾体300を形成する。
【0031】
なお、フィルム250は、PET樹脂以外に、PMMA,ポリアミドなど一般的な樹脂材料を用いることができる。また、印刷はグラビア印刷等の一般的な印刷方法で行なうことができる。また、金属材料の蒸着も真空蒸着等の一般的な蒸着方法で行なうことができる。更に、フィルムへの印刷と蒸着はどちらを先に行っても良いが、蒸着の際には印刷部分をマスクするなどの工程を適宜追加することが好ましい。また、印刷面と蒸着意匠面とはフィルム250の同一面に設けてもよいし、本実施形態のようにフィルム250を透明樹脂とする場合には対向する両面に設けてもよい。
【0032】
また、凹凸形状304の賦形は本実施形態のように真空成形でなく、圧空成形やプレス成形等の他の成形方法で行なってもよい。
【0033】
なお、長尺帯状のフィルム250でなく、図7に示すように、シート状のフィルム251を用いてもよい。
【0034】
すなわち、図7(A)に示すように、裏面に金属膜を蒸着したPET製のシート状(一枚)のフィルム251の表面に黒色面302を印刷する。つぎに、図7(B)に示すように、印刷されたフィルム251を真空成形型262、264に装着する。このとき真空成形型264に設けられた位置決ピン263、265によって位置決めされる。そして、図7(C)に示すように真空成形装置240によって黒色面302の白抜き部分に凹凸形状(凹凸意匠)304を賦形する(真空成形する)。
【0035】
つぎに、加飾体300の両面に透明樹脂層200と基材層400とを射出成形によって形成しミリ波レーダ用カバー100を製造する工程について説明する。
【0036】
図6(A)に示すように、加飾体300を射出成形装置280の射出成形型272、274に装着し、図6(B)と図6(C)に示すように加飾体300の表面側に透明樹脂層200を射出成形する。つぎに、図6(C)に示すように、裏面側の型を射出成形型276に替え、図6(D)と図6(E)に示すように加飾体300の裏面側に基材層400を射出成形する。
【0037】
このようにして、凸凹形状(凹凸意匠)304が賦形された加飾体300両面の凹凸間に透明樹脂層200と基材層400が充填されて両面が略平面状のミリ波レーダ用カバー100が形成される。
【0038】
そして、図6(E)に示すように、成形型からミリ波レーダ用カバー100を取り出し、ゲート190の切断やバリ取りなどの仕上げを行なう。
【0039】
その後、図6(F)に示すミリ波レーダ用カバー100のアニーリング、すなわち加温し内部応力の除去を行う。図6(G)に示すミリ波減衰量測定等の検査を行い、検査結果に問題がなければ、図6(H)と図6(I)に示すように、各ミリ波レーダ用カバー100にシリアルナンバーなどの履歴(トレーサビリティ)を記入したのち、袋詰め及び箱詰めを行なう。
【0040】
つぎに本実施形態の作用について説明する。
【0041】
図5に示すよう、フィルム250を最終の外形形状にトリミングして加飾体300とし、図6に示すように、加飾体300の両面に透明樹脂層200と基材層400とを射出成形することでミリ波レーダ用カバー100が製造される。つまり、最終工程で外形形状をトリミングする必要がない。
【0042】
よって、例えば、フィルムの両面に透明樹脂層と基材層とを射出成形した後に、外周全体を削って(切断して)最終の外形形状にトリミングする製造工程が不要とされるので、製造工程が簡略化される。したがって、製造コストが効果的に低減する。また、ミリ波レーダ用カバー100の製品外周面をより綺麗に仕上げることができる。
【0043】
また、フィルム250(加飾体300)には、金属膜が蒸着されているので、ミリ波レーダ用カバー100に金属光沢が得られ、その結果、高級感が得られる。
【0044】
更に、フィルム250(加飾体300)には、白抜き印刷302が施されているので、凹凸形状(凹凸意匠)304のみで意匠を形成するよりも複雑な意匠が得られる。
【0045】
また、加飾体300に凹凸形状304を形成することで、深彫り意匠を容易に実現することができる。
【0046】
なお、上記実施形態では、フィルム250に凹凸形状304が白抜きされた黒色面302を印刷したが、これに限定されない。黒色以外の色、例えば、濃紺を印刷してもよいし、白抜き以外の他の意匠を印刷してもよい。また、フィルム250に多色印刷を行なうことで、容易にエンブレムの多色化に対応することができる。
【0047】
また、黒色面302の印刷及び金属膜の蒸着は、必ずしも行なわなくてもよい(いずれか一方のみ行なってもよいし、両方とも行なわなくてもよい)。
【0048】
また、透明樹脂層200の成形と基材層400の成形は、どちらを先に行なってもよい。つまり、上記実施形態のように透明樹脂層200を成形してから基材層400を成形してもよいし、逆に基材層400を成形してから透明樹脂層200を成形してもよい。また、本発明による効果を妨げない限り、上記工程以外の工程を含んでもよい。
【0049】
また、例えば、ミリ波レーダ装置20(図2参照)以外の電波レーダ装置、例えば、マイクロ波レーダ装置であってもよい。
【0050】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態の製造方法によって製造されたミリ波レーダ用カバーが車両前端部に取り付けられた車両を示す斜視図である。
【図2】車両前部におけるミリ波レーダ用カバーが取り付けられた部位近傍を模式的に示す水平断面図である。
【図3】(A)は、ミリ波レーダ用カバーを示す部分断面斜視図であり、(B)は(A)のB線矢視部の拡大断面図である。
【図4】裏面に金属膜が蒸着された長尺帯状のフィルムに印刷を施した後に真空成形し凹凸形状を賦形する工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【図5】(A)はフィルムが真空成形された後を示す平面図であり、(B)最終の外形形状にトリミングして形成された加飾体を示す平面図である。
【図6】加飾体の両面に透明樹脂層と基材層とを射出成形し、ミリ波レーダ用カバーを製造する工程を(A)〜(I)へと順番に示す工程図である。
【図7】裏面に金属膜が蒸着されたシート状のフィルムに印刷を施した後に真空成形し凹凸形状を賦形する工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【符号の説明】
【0052】
10 車両
20 ミリ波レーダ装置(電波レーダ装置)
100 ミリ波レーダ用カバー(車両用電波透過カバー)
200 透明樹脂層
250 フィルム
251 フィルム
300 加飾体
304 凹凸形状
400 基材層
L レーダ波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の意匠を形成する凹凸形状をフィルムに賦形する賦形工程と、
前記フィルムを最終の外形形状に成形して加飾体を形成する加飾体形成工程と、
前記加飾体の表面に射出成形によって透明樹脂層を形成する透明樹脂層形成工程と、
前記加飾体の裏面に射出成形によって基材層を形成する基材層形成工程と、
を有することを特徴とする車両用電波透過カバーの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムには金属膜が蒸着されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用電波透過カバーの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムには印刷が施されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用電波透過カバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−111010(P2010−111010A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285499(P2008−285499)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】