説明

車両空気力算出装置、車両運動解析装置及び車両サスペンション制御装置

【課題】車両が受ける空気力の作用について、さらに適切な解析を可能とすることである。
【解決手段】車両空気力算出装置10は、コンピュータで構成され、その記憶部18には風洞実験等によって得られた加速度項係数のデータ20等が記憶される。CPU12は、解析条件を取得する条件取得処理部24と、記憶部18に記憶される加速度項係数を用いて車両に作用する空気力の動的空力モデル化を行うモデル化処理部26と、車両に作用する空気力を外力としてその変動成分に関する算出を行う変動成分算出処理部28と、算出された変動成分に基づいて、車両に作用する外力をそれぞれ算出する作用量算出処理部30を含む。さらに、算出された空気力による外力を車両の運動方程式に組み込み車両の運動解析を行うこともでき、車両サスペンション制御を行うこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両空気力算出装置、車両運動解析装置及び車両サスペンション制御装置に係り、特に、走行中の車両に作用する空気力を算出する車両空気力算出装置およびこれを用いる車両運動解析装置と車両サスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗り心地あるいは操縦安定性の改善等のために、車両の走行中の運動解析が行われ、これに基づいてサスペンション機構の制御等が行われる。車両は走行中に空気力の作用を受けるので、その影響も考慮される。
【0003】
例えば、特許文献1には、能動型サスペンションとして、走行中の空気抵抗によって車体に発生する上下方向の力を推定し、推定値に応じて圧力制御弁に対する指令値を補正することが開示されている。これにより、車体に与えられる空気抵抗力が変化して各車輪に加えられる上下方向の力が変動しても、車高の変動を防止でき、良好な車体姿勢を維持することができると述べられている。
【0004】
また、特許文献2には、車両のサスペンション制御装置として、車両の揚力係数およびピッチングモーメント係数に対するヒービング方向、ピッチング方向の空力微係数を考慮した車両の運動方程式を立てて、これによって車両速度の増加減少による車両のサスペンションの見かけのバネ定数および減衰定数の変化量を演算することが述べられている。
【0005】
具体的には、ヒービング運動方向の外力とピッチング運動方向の外力を、ヒービング変位量、ピッチング角変位量、ヒービング変位速度、ピッチング角変位速度に比例するものとして求めることが述べられている。そして、求められたヒービング運動方向の外力を並進運動の運動方程式の外力に組み込み、ピッチング運動方向の外力を回転運動の運動方程式の外力に組み込み、得られた演算結果を車両速度がゼロ、つまり空気力が作用しないときの演算結果と等価になるように、車両のサスペンションの見かけのばね定数を算出して、実際のばね定数との差を、空気力の作用による見かけのばね定数の変化量とすることが述べられている。
【0006】
また、非特許文献1には、緩やかな姿勢変化に対する準定常空力モデル、および急激な姿勢変化に対する空力弾性係数モデルを、汎用機構解析ソフトADAMSに組み込んで、車両運動解析を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2503244号公報
【特許文献2】特許第3863197号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】エフ・チェリ等,車両操作における非定常空力の影響,2000 インターナショナルADAMSユーザコンファレンス・オーランド,2000年6月,p1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来技術において、車両の運動解析に際し、走行中に受ける空気力の影響を考慮することが行われている。特許文献1では、車体に作用する上下力として車体に発生する揚力を推定するときに車両の姿勢変化を考慮していない。特許文献2では車両の姿勢変化として姿勢と姿勢変化速度を考慮しているが、姿勢変化加速度は考慮していない。非特許文献1における準定常空力モデル、空力弾性係数モデルも変位と変位速度、変位角と変位角速度の関数でとどまっている。
【0010】
このように従来技術においては、空気力による外力が、変位と比例関係にあるとする定常空力モデル、変位と変位速度との比例関係にあるとする準定常空力モデル等に基づいている。
【0011】
流体関連振動を取り扱う分野では、従来から変位加速度に比例する項として、流体力によって対象物に仮想的な質量が加わったものと考えたときのその付加質量の影響が考慮されており、また、非定常翼理論からも平板翼に作用する流体力が変位加速度にも比例関係とするモデルの導出がされている。この場合でも、構造物が水中で振動する場合のように流体の密度が空気の1000倍程度大きい場合、飛行船等のように空気の質量が機体質量に比較して無視できない場合を除いて、付加質量項は余り取り上げられていない。また、大気中を走行する車両についても、付加質量、すなわち変位加速度の影響は無視されてきているのが現状である。
【0012】
今回、風洞実験および数値シミュレーションによる結果と従来モデルによる計算結果との比較から、車両が加速度運動、特に上下加速度運動する場合には、加速度の影響として付加質量を考慮することが実験結果とよく適合することが見出された。これは、固体壁面としての地面の影響により、大気中を巡航する航空機の場合よりも、付加質量の影響が大きくなるためと考えられる。しかし、上記のように、従来技術では、付加質量の影響を取り入れた動的空力モデルの検討がなされていない。
【0013】
本発明の目的は、走行中の車両に作用する空気力をさらに適切に算出できる車両空気力算出装置を提供することである。他の目的は、その車両空気力算出装置を用いる車両運動解析装置及び車両サスペンション制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車両空気力算出装置は、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、を備え、モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る車両空気力算出装置は、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、車両の基準姿勢における基準横力係数からの変動成分である横力係数変動成分をΔCYとし、車両の基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数からの変動成分であるヨーイングモーメント係数変動成分をΔCMZとして、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZのそれぞれを、横変位yとヨー変位角βを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、算出された横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZとに基づいて、車両に作用する横力とヨーイングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、を備え、モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る車両空気力算出手段において、線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る車両空気力算出装置において、条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことが好ましい。
【0018】
本発明に係る車両空気力算出装置において、条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る車両空気力算出装置において、条件取得手段は、揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る車両空気力算出装置において、条件取得手段は、横力係数変動成分ΔCYの速度項に含まれる特性半径RY12、またはヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの速度項に含まれる特性半径RY22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ヨー変位角βを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZを算出することが好ましい。
【0021】
本発明に係る車両運動解析装置は、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、算出された上下力とピッチングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する運動方程式解析手段と、を備え、モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る車両運動解析装置は、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、車両の基準姿勢における基準横力係数からの変動成分である横力係数変動成分をΔCYとし、車両の基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数からの変動成分であるヨーイングモーメント係数変動成分をΔCMZとして、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZのそれぞれを、横変位yとヨー変位角βを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、算出された横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZとに基づいて、車両に作用する横力とヨーイングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、算出された横力とヨーイングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する運動方程式解析手段と、を備え、モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る車両運動解析装置において、線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る車両運動解析装置において、条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る車両運動解析装置において、条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの加速度項の効果を車両の加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る車両運動解析装置において、条件取得手段は、揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る車両運動解析装置において、条件取得手段は、横力係数変動成分ΔCYの速度項に含まれる特性半径RY12、またはヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの速度項に含まれる特性半径RY22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ヨー変位角βを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZを算出することが好ましい。
【0028】
本発明に係る車両サスペンション制御装置は、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、算出された上下力とピッチングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、空気力が作用しないときの運動方程式との比較に基いて車両のサスペンション要素の制御を行うサスペンション制御手段と、を備え、モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る車両サスペンション制御装置において、線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る車両サスペンション制御装置において、条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことが好ましい。
【0031】
また、本発明に係る車両サスペンション制御装置において、条件取得手段は、揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
上記構成の少なくとも1つにより、車両空気力算出装置は、車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとして動的空力モデル化する。このときに、少なくも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有するものとしてモデル化が行われる。そしてそのモデル化に基づき、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する。
【0033】
ここで、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの算出には、zについてのCZ,CMYの偏微分、θについてのCZ,CMYの偏微分、つまり空力微係数が必要となる。また、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの算出に基づいて車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出するには、基準姿勢における基準揚力係数
【数1】

と基準ピッチングモーメント係数
【数2】

とが必要である。これらを考慮して、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとして動的空力モデル化が行われる。
【0034】
このように、車両が空気力の作用によって受ける外力としての上下力とピッチングモーメントについて、少なくとも上下変位zに対する揚力係数変動成分ΔCZの加速度項を考慮できる。このように、空気力の作用としての上下力およびピッチングモーメントの算出に動的空力モデルを適用できるので、従来の準定常空力モデルに比較し、一段と適切な解析が可能となる。
【0035】
また、同様にして、車両が空気力の作用によって受ける外力としての横力とヨーイングモーメントについて、少なくとも横変位yに対する横力係数変動成分ΔCYの加速度項を考慮できる。このように、空気力の作用としての横力およびヨーイングモーメントの算出に動的空力モデルを適用できるので、従来の準定常空力モデルに比較し、一段と適切な解析が可能となる。
【0036】
この場合も、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの算出には、βについてのCY,CMZの偏微分、つまり空力微係数が必要となる。また、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの算出に基づいて車両に作用する横力とヨーイングモーメントをそれぞれ算出するには、基準姿勢における基準横力係数
【数3】

と基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数
【数4】

、すなわち空力係数が必要である。これらを考慮して、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとして動的空力モデル化が行われる。
【0037】
また、線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得するので、実際の車両の状態に近い空気力の算出が可能となる。
【0038】
また、上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項係数、または横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの加速度項係数は、付加質量係数と車両の代表体積との積として扱う。付加質量係数は無次元値であるが、車両形状、位置、車速、振動振幅、振動数に依存する。特に、壁面に直角方向の運動に対しては位置、つまり車両の場合の地面との間の距離に依存する。この場合でも、後述する無次元周波数の範囲が同等であり、模型形状、模型と地面との間の距離、加振振幅等が実車スケールとほぼ相似の関係にあるときには、模型を用いた風洞実験、または数値シミュレーションから得られた付加質量係数を用いることができる。また、文献等で既に知られている付加質量係数を用いることも可能である。したがって、このようにして得られる付加質量係数と車両の代表体積とを用いることで、加速度項係数を考慮した空気力の算出が容易となる。
【0039】
また、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの速度項、ピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項にそれぞれ含まれる特性半径の少なくともいずれか一方を、風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する。従来技術では特性半径を車両の半車長、車両の重心位置から車両のボデー先端までの長さとしているが、上記構成により、さらに実車両の状態に近い値を用いることができ、一段と適切な解析が可能となる。
【0040】
同様に、ヨー変位角βを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの速度項、ヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの速度項にそれぞれ含まれる特性半径の少なくともいずれか一方を、風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得するので、一段と適切な解析が可能となる。
【0041】
また、このようにして算出された空気力を車両に作用する外力として、車両の並進運動の運動方程式、回転運動の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行することで、車両の運動解析装置とすることができる。
【0042】
また、このようにして算出された空気力を車両に作用する外力として、車両の並進運動の運動方程式、回転運動の運動方程式に組み込み、空気力が作用しないときの運動方程式と比較して、車両のサスペンション制御を行う装置とすることができる。例えば、空気力を組み込んだ運動方程式と空気が作用しないときの運動方程式とが等価になるように、車両の見かけのばね定数、減衰定数を算出して、実際のばね定数、減衰定数との差を空気力の作用による見かけのばね定数の変化量、減衰定数の変化量とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来技術の準定常空力モデルによる予測値を、ピッチ正弦加振時の揚力係数のゲインについて、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図2】図1に対応して、従来技術の準定常空力モデルによる予測値を、ピッチ正弦加振時の揚力係数の位相について、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図3】従来技術の準定常空力モデルによる予測値として、上下正弦加振時の揚力係数のゲインについて、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図4】図3に対応して、従来技術の準定常空力モデルによる予測値を、上下正弦加振時の揚力係数の位相について、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態における車両空気力算出装置の構成を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において用いた単純化された車両模型であるアーメドモデルの様子を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の動的空力モデルによる計算値を、ピッチ正弦加振時の揚力係数のゲインについて、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図8】図7に対応して、本発明に係る実施の形態の動的空力モデルによる予測値を、ピッチ正弦加振時の揚力係数の位相について、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態の動的空力モデルによる予測値を、上下正弦加振時の揚力係数のゲインについて、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図10】図9に対応して、本発明に係る実施の形態の動的空力モデルによる予測値を、上下正弦加振時の揚力係数の位相について、風洞実験等で得られたデータと比較する図である。
【図11】従来技術の準定常空力モデルの上下変位に対する揚力係数のリサージュ曲線を実験で得られたデータと比較する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態の動的空力モデルの上下変位に対する揚力係数のリサージュ曲線を実験で得られたデータと比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。なお、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0045】
走行中に空気力が車両に作用するときのモデルとして、最初に従来技術としての特許文献1の内容を簡単に説明する。特許文献2では、走行中に車両に作用する空気力としてよく知られている式(5)を用い、準定常空力モデルとしてモデル化を行っている。
【数5】

【0046】
ここで、Uは車両速度、zは上下変位、θはピッチ変位角である。また、ΔCZは、式(1)で示される基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分を示す。また、ΔCMYは式(2)で示される車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分である。また、sはラプラス演算子である。
【0047】
このように式(5)では、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれが、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の速度項と変位項と線形比例関係にあるとして、いわゆる準定常空力モデル化を行っている。したがって、このモデルでは加速度項であるs2に関する項を含んでいない。
【0048】
また、特許文献2においては、式(5)の特性半径Rを、車両の重心位置から車両のボデー先端までの長さとしている。
【0049】
次に、適当な車両模型を用い、風洞実験と数値シミュレーションによって得られた値と、式(5)の空力モデルで予測した値とを比較した結果を図1から図4を用いて説明する。
【0050】
図1は、風洞実験と数値シミュレーションによって得られたピッチ正弦加振時の揚力係数のゲインを式(5)の空力モデルで予測した値と比較したものである。図2は、図1に対応して、風洞実験と数値シミュレーションによって得られたピッチ正弦加振時の揚力係数の位相を式(5)の空力モデルで予測した値と比較したものである。
【0051】
ピッチ正弦加振時の揚力係数のゲインと位相とは、入力変数をピッチ変位角θとし、出力をΔCZとして、式(5)の2行2列の行列の右上の式について周波数伝達関数を求め、そのゲインと位相ずれの周波数応答を計算することで得ることができる。ここで、周波数としては、無次元周波数f*=fL/Uを用いることができる。ここで、fはピッチ正弦加振の周波数である。
【0052】
上記の方法によって、従来技術の空力モデルの式(5)に基づいてゲインと位相についての周波数特性を求めることができる。一方、風洞実験または数値シミュレーションによれば、変位と空力係数の時間波形のそれぞれ、あるいは変位角と空力係数の時間波形のそれぞれに対し、加振周波数の正弦波をフィッティングさせ両者の振幅比からゲインを求め、また両者の時間差から位相差をそれぞれ求めることができる。このように、モデルからの予測値と、風洞実験または数値シミュレーションから得られる値との比較で、従来技術のモデルの正確性を評価できる。
【0053】
図1は、横軸に無次元周波数f*をとり、縦軸にピッチ正弦加振時の揚力係数のゲイン
【数6】

をとり、図2は横軸が図1と同じで、縦軸にピッチ正弦加振時の揚力係数の位相∠G12がとられている。ここで、風洞実験によって得られた値は、白抜マーク、つまり中空シンボルで示され、数値シミュレーションによって得られた値は、黒塗マーク、つまり中実シンボルで示され、式(5)による予測値は実線で示されている。
【0054】
ここで特に図2に示されるように、風洞実験および数値シミュレーションでは、ピッチ変位角に対する揚力係数が位相進みの傾向を示すのに対し、式(5)のモデルによる予測値では位相遅れの傾向を示す。このように、式(5)のモデルでは、ピッチ変位角に対する揚力係数の位相特性を正しく表現できていないことが分かる。この原因は、後述するように、式(5)のモデルにおいて特性半径Rを半車長としたことに起因するものと考えられる。
【0055】
図3は、風洞実験と数値シミュレーションによって得られた上下正弦加振時の揚力係数のゲインを式(5)の空力モデルで予測した値と比較したものである。図4は、図3に対応して、風洞実験と数値シミュレーションによって得られた上下正弦加振時の揚力係数の位相を式(5)の空力モデルで予測した値と比較したものである。
【0056】
ここで上下正弦加振時の揚力係数のゲインと位相とは、ピッチ正弦加振時のときに説明したのと同様に、入力変数を上下変位zとし、出力をΔCZとして、式(5)の2行2列の行列の左上の式について周波数伝達関数を求め、そのゲインと位相ずれの周波数応答を計算することで得ることができる。また、上記のように、このようにして得られる予測値と、風洞実験または数値シミュレーションから得られる値との比較によって、従来技術のモデルの正確性を評価できる。
【0057】
図3は、横軸に無次元周波数f*をとり、縦軸に上下正弦加振時の揚力係数のゲイン
【数7】

をとり、図4は横軸が図3と同じで、縦軸に上下正弦加振時の揚力係数の位相∠G11がとられている。ここで、図1,2と同様に、風洞実験によって得られた値は、白抜マークで示され、数値シミュレーションによって得られた値は、黒塗マークで示され、式(5)による予測値は実線で示されている。
【0058】
ここで特に図4に示されるように、風洞実験および数値シミュレーションでは、上下変位に対する揚力係数における位相遅れが45度付近で飽和する挙動を示すのに対し、式(5)のモデルによる予測値では位相遅れが70度以上に達する。このように、式(5)のモデルでは、上下変位に対する揚力係数の位相特性を正しく把握できていないことが分かる。ここでは、式(5)の2行2列の行列の左上の式に特性半径Rが含まれていないことから、この原因は、後述するように、式(5)のモデルに加速度項がないことに起因するものと考えられる。
【0059】
以上で特許文献2における式(5)の説明を行ったので、次に動的空力モデルを適用できる車両空気力算出装置の内容について説明する。図5は、動的空力モデルを適用できる車両空気力算出装置10の構成を説明する図である。
【0060】
車両空気力算出装置10は、演算処理を実行するCPU12と、キーボード等の入力部14と、ディスプレイ等の出力部16と、ハードディスク等の記憶部18を含んで構成される。これらの各要素は内部バスによって相互に接続される。かかる車両空気力算出装置10としては、演算処理に適したコンピュータで構成することができる。
【0061】
記憶部18は、車両空気力算出に用いられるプログラム等を格納する記憶装置で、ここでは特に、風洞実験および数値シミュレーションによって得られた各種のデータ等が車両に対応付けられて記憶される。記憶される各種のデータの例としては、式(1)から式((4)で示される基準姿勢における空力係数、空力微係数である空力係数勾配、加速度項に関する加速度項係数のデータ20、付加質量係数のデータ、特性半径のデータ22等が含まれる。加速度項係数のデータ20、特性半径のデータ22を得るための手順の詳細については後述する。
【0062】
CPU12は、上記のρ,U,A,L,R等必要な諸条件を解析条件として取得する条件取得処理部24と、車両に作用する空気力の動的空力モデルのモデル化を行うモデル化処理部26と、車両に作用する空気力について、上下力とピッチングモーメントを外力とする場合には揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出し、横力とヨーイングモーメントを外力とする場合には、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZをそれぞれ算出する変動成分算出処理部28と、算出された変動成分に基づいて、車両に作用する外力をそれぞれ算出する作用量算出処理部30を含んで構成される。
【0063】
なお、図5には、車両空気力算出装置10を拡張して車両運動解析装置とする場合に、CPU12が有する機能として、運動方程式解析処理部32が破線枠で示されている。この運動方程式解析処理部32は、車両空気力算出装置10で算出された空気力による外力を車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する処理機能を有する。このように、車両空気力算出装置10に、適当な演算処理機能等を付加することで車両運動解析装置として拡張できる。
【0064】
また、車両空気力算出装置10を拡張して車両サスペンション制御装置とすることもできる。この場合には、図5には図示されていないが、CPU12が有する機能として、車両サスペンション制御処理部が設けられる。ここで車両サスペンション制御処理部は、車両空気力算出装置10で算出された外力を車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、空気力が作用しないときの運動方程式との比較に基いて車両のサスペンション要素の制御を行う処理機能を有する。このように、車両空気力算出装置10に、適当な演算処理機能等を付加することで車両サスペンション制御装置として拡張できる。
【0065】
かかる機能はソフトウェアによって実現され、具体的には、対応する車両空気力算出プログラムを実行することで実現できる。なお、上記の機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。CPU12の各処理部の機能は、この車両空気力算出プログラムをハードウェアとしてのCPU12が実行することで実現される。その意味で、CPU12の各処理部の機能は、車両空気力算出プログラムの各処理手順を示すものである。
【0066】
以下に上記構成の作用について詳細に説明する。最初に、CPU12において用いられる車両に作用する空気力についての動的空力モデルを説明し、次に記憶部18に格納される加速度項係数と特性半径について、それらを風洞実験等から求める手順を説明する。そして、車両の運動解析の手順を説明し、その結果として動的空力モデルを用いることの効果について説明する。
【0067】
車両の運動方程式に組み込む外力としての車両に作用する空気力は、よく知られた式(8),(9)を用いる。
【数8】

【数9】

【0068】
ここで、車両に作用する空気力のうち上下力FZが式(8)で示され、ピッチングモーメントMYが式(9)で示される。
【0069】
式(8)におけるΔCZは、式(1)で説明した車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分である。式(9)におけるΔCMYは、式(2)で説明した車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分である。
【0070】
車両空気力算出装置10では、入力変数である上下変位z、ピッチ変位角θと、出力であるΔCZ、ΔCMYとの関係を、式(5)で説明した準定常空力モデルに付加質量に起因する加速度項を付与した線形システムとして、式(10)で示されるモデル化を行う。
【数10】

【0071】
なお、式(10)に代えて、このような速度項の表現も抗力係数
【数11】

を用いた式(12)で示されるモデル化を行うものとしてもよい。基準姿勢における抗力係数も、準定常空力モデルとしてよく知られている定式化の1つである。
【数12】

なお、式(10),(12)における特性半径RP12,RP22は後述のようにフィッティングで同定すべきであるが、場合によって、特許文献2で用いられる「車両の重心位置から車両のボデー先端までの長さ」、あるいは非特許文献1で用いられる「半車長」であってもよい。
【0072】
ここで、s2の項が付加質量に起因する加速度項である。付加質量とは、流体力学で用いられる概念で、この場合、車両の加速度運動に伴って周囲の流体が移動することによる見かけ上の質量増加分である。周囲の流体は、ここでは空気である。
【0073】
次に、式(10)における各係数の算出手順を説明する。各係数は、実車または車両模型を用いた風洞実験あるいは数値シミュレーションによって算出が行われる。実際の各係数の算出には該当する車両あるいは車両模型を使用する必要があるが、以下では、単純化された車両模型の例としてアーメド(Ahmed)模型として知られる図6の3次元模型を用いて解析等を進めた。アーメド模型は、傾斜背面を有する直方体形状で、前面側の4辺に適当な丸みを設けた模型である。ここで、図6には、各式で用いられるX,Y,Zの方向が示されている。このように、X方向は車両の走行方向で、Y方向は車両の車幅方向で、Z方向が車両の上下方向である。
【0074】
式(10)における各係数のうち、zに対するCZの変化勾配、θに対するCZの変化勾配、zに対するCMYの変化勾配、θに対するCMYの変化勾配は、静的空力係数勾配と呼ばれる。これらの算出は、まず、風洞実験あるいは数値シミュレーションによって、上下変位およびピッチ変位角について基準姿勢まわりの予め定めた所定の範囲において複数の静的な揚力係数と静的なピッチングモーメント係数を取得する。所定の範囲としては、上記のアーメド模型を用いた場合に、例えば、上下変位について±8mm、ピッチ変位角について±0.878°等とすることができる。
【0075】
そして、上下変位の所定の範囲で得られた複数の静的揚力係数の上下変位についての勾配を算出してzに対するCZの変化勾配を求め、ピッチ角の所定の範囲で得られた複数の静的揚力係数のピッチ角についての勾配を算出してθに対するCZの変化勾配を求める。同様に、上下変位の所定の範囲で得られた複数の静的ピッチングモーメントの上下変位についての勾配を算出してzに対するCMYの変化勾配を求め、ピッチ角の所定の範囲で得られた静的ピッチングモーメントのピッチ角についての勾配を算出してθに対するCMYの変化勾配を求める。
【0076】
このようにして算出された静的空力係数勾配の例を式(13)に示す。
【数13】

【0077】
式(10)における各係数のうち、特性半径RP12,RP22、加速度項係数αP11,αP12,αP21,αP22は、次のようにして求める。すなわち、風洞実験あるいは数値シミュレーションによって、上下変位およびピッチ変位角について基準姿勢まわりの予め定めた所定の範囲で車両模型を加振する。所定の範囲の加振としては、例えば、上記のアーメド模型を用いた場合に、上下変位について±8mmの正弦加振、ピッチ変位角について±0.878°の正弦加振等とすることができる。そして、この加振に対する揚力係数とピッチングモーメント係数とについて、時系列的な信号を同時に対応付けながら取得する。
【0078】
例えば、式(10)において、上下加振に対する揚力係数変動成分のモデルを抜き出すと式(14)となる。
【数14】

【0079】
そこで、車両模型から上下変位zを取得できるときはこの上下変位zから数値微分によって姿勢変化速度dz/dtと姿勢変化加速度d2z/dt2の時系列信号を求める。あるいは、逆に車両模型の加速度が取得できるときは、この加速度から数値積分によって姿勢変化速度dz/dtと上下変位zの時系列信号を求めるものとしてもよい。
【0080】
ここで、式(14)のAとUは既知であり、静的空力係数勾配は、上記の式(13)に示されるように別途算出できるので、入力データとして、z,dz/dt,d2z/dt2と、出力データとしてのΔCZを与え、一般的に用いられている最適近似法としての曲線近似法あるいはデータ近似法を用いて、式(14)の方程式に最も近似するように係数αP11を同定する。このようにして加速度項係数αP11を求めることができる。
【0081】
同様にして、ピッチ加振に対する揚力係数から、加速度項係数αP12と特性半径RP12を得ることができる。また、上下加振に対するピッチングモーメントから、加速度項係数αP21を求められる。また、ピッチ加振に対するピッチングモーメントから、加速度項係数αP22と特性半径RP22を求めることができる。
【0082】
このように、ある加振周波数での上下加振とピッチ加振に対して風洞実験あるいは数値シミュレーションをそれぞれ最低1回行うことで、式(10)におけるすべての未知数を求めることができる。
【0083】
また、別の実施形態として、ある加振周波数でのピッチ加振に対して特性半径RP12,RP22を同定し、別のある加振周波数でのピッチ加振に対して加速度項係数αP12,αP22を同定するものとしてもよい。さらに別の実施形態として、複数の加振周波数で得られたゲイン、あるいは位相に対して、式(10)から求まる周波数応答のゲイン、あるいは位相をフィッティングして加速度項係数および特性半径を求めてもよい。
【0084】
上下加振の振幅8mm、ピッチ加振の振幅角0.878°、そのときの加振周波数をともに8Hzとして、これら2つのケースの結果を用いて同定して得られた各特性半径、各加速度項係数の例を式(15)に示す。
【数15】

【0085】
このようにして得られた各加速度項係数は、加速度項係数のデータ20として、各特性半径は、特性半径のデータ22として、記憶部18に記憶される。
【0086】
以上で、記憶部18に格納される加速度項係数と特性半径について、それらを風洞実験等から求める手順を説明したので、次に、車両の空気力算出の手順を説明する。
【0087】
車両空気力算出装置10が起動すると、記憶部18に格納されている車両空気力算出プログラムが立ち上がる。そこで、ユーザは、入力部14から解析条件として、空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLとを入力する。入力された各条件は、CPU12の条件取得処理部24の機能によって、解析条件として取得される(解析条件取得工程)。
【0088】
解析条件取得としては、これ以外の方法によることもできる。例えば、車両速度Uは車両運動解析プログラムからの出力として逐次更新するものとしてもよい。また、外部接続インターフェースを介して得られるデータを解析条件として取得するものとしてもよい。例えば、実車走行時のオンライン計測データを取得し、これを解析条件として取得するものとできる。また、記憶部18に各種解析条件が記憶されていて、それらを読み出して取得するものとすることもできる。各種解析条件のうち、一部が入力部14から取得され、一部が記憶部18から取得され、一部が外部インターフェースから取得される等のように複数の取得手段を用いることもできる。
【0089】
そして、記憶部18に記憶されている加速度項係数のデータ20と特性半径のデータ22が読み出されて取得され、これを用いて式(10)の線形モデルのモデル化が行われる(モデル化工程)。この工程はCPU12のモデル化処理部26の機能によって実行される。
【0090】
次に、取得された解析条件と、モデル化された線形モデルとを用い、式(10)に基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYがそれぞれ算出される(変動成分算出工程)。この工程は、CPU12の変動成分算出処理部28の機能によって実行される。
【0091】
そして、算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとを用い、空気力によって車両に作用する外力として、式(8)に基づいて上下力FZが算出され、式(9)に基づいてピッチングモーメントMYがそれぞれ算出される(作用量算出工程)。この工程は、CPU12の作用量算出処理部30の機能によって実行される。
【0092】
このようにして、風洞実験等で得られた加速度項係数等を用いた動的空力モデルに基づき、車両に作用する外力としての空気力の算出が行われる。なお、算出された空気力の算出に基づいて車両の運動解析を進めるには、次に、算出された上下力FZとピッチングモーメントMYを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する(運動方程式解析工程)。この工程は、図5に破線枠で示したCPU12の運動方程式解析処理部32の機能によって実行される。このように、車両空気力算出装置10を発展させて、車両に作用する空気力を考慮した車両の運動解析を適切に行うことができる。また、同様に、車両空気力算出装置10を発展させて、車両サスペンション制御を適切に行うこともできる。
【0093】
次に、車両空気力算出装置10による効果を図7から図12を用いて説明する。図7と図8は、図1,2に対応するもので、風洞実験および数値シミュレーションによって得られたピッチ正弦加振時の揚力係数のゲインと位相を、上記の方法で算出した各加速度項係数等を用いて算出した式(10)の動的空力モデルの結果と比較したものである。図7の横軸、縦軸の内容は図1と同じ、図8の横軸、縦軸の内容は図2と同じである。白抜マークの風洞実験の結果、黒塗マークの数値シミュレーションの結果も図1,2と同じである。
【0094】
図7,8における破線が上記の方法で算出した各加速度項係数等を用いて算出した式(10)の動的空力モデルの結果である。実線は、式(10)において加速度項を含まないものとして算出した結果である。図7,8における実線が、図1,2と異なるのは、図1,2においては、特性半径が車両の半車長であるのに対し、図7,8における実線は、特性半径を風洞実験あるいは数値シミュレーションによって同定したものであることである。
【0095】
図7,8において、実線と破線とがあまり相違がないことから、ピッチ正弦加振時の揚力係数に対しては、加速度項の影響が少ないことが分かる。一方で、実線も破線も、風洞実験の結果と数値シミュレーションの結果とよく一致し、図1,2の結果と大きく異なるので、特性半径を風洞実験あるいは数値シミュレーションによって同定することがよいことが分かる。
【0096】
したがって、風洞実験あるいは数値シミュレーションによって同定された特性半径を用いることで、既存の準定常空力モデルでも、ピッチ加振時の揚力係数をより正確に表現できることになる。
【0097】
図9と図10は、図3,4に対応するもので、風洞実験および数値シミュレーションによって得られた上下正弦加振時の揚力係数のゲインと位相を、上記の方法で算出した各加速度項係数等を用いて算出した式(10)の動的空力モデルの結果と比較したものである。図9の横軸、縦軸の内容は図3と同じ、図10の横軸、縦軸の内容は図4と同じである。白抜マークの風洞実験の結果、黒塗マークの数値シミュレーションの結果も図3,4と同じである。
【0098】
図9,10における破線が上記の方法で算出した各加速度項係数等を用いて算出した式(10)の動的空力モデルの結果である。実線は、式(10)において加速度項を含まないものとして算出した結果である。つまり、実線は、図3,4で説明した準定常空力モデルによる結果と同じである。
【0099】
図9,10に示されるように、風洞実験等の結果が破線とよく合い、実線と大きく異なる。このことから、無次元周波数f*が0.05よりも大きい範囲において、付加質量に起因する加速度項が無視できないことが分かる。例えば、時速100km/hで走行する全長4.5mの車両が2Hzで振動する場合の無次元周波数f*は0.324となる。車速が下がれば無次元周波数f*はさらに大きくなる。このことから、一般的な車両の走行環境において、その車両の運動は、付加質量の影響が無視できず、動的空力モデルを適用する必要があることが分かる。
【0100】
図11,12は、上下変位zに対する揚力係数CZのリサージュ曲線を風洞実験の結果と、各空力モデルによる計算結果とで比較したものである。図11は、従来技術の準定常空力モデルによる計算結果との比較、図12は、動的空力モデルによる計算結果との比較である。実験結果において丸マークは加振周波数が2Hz、Xマークは加振周波数が4Hz、△マークは加振周波数が8Hzの場合である。
【0101】
図11,12を比較すると、準定常空力モデルの計算結果は、加振周波数の増加に伴うリサージュ曲線の傾きの増加、すなわち空気ばね定数の増加を適切に表現できないが、付加質量に起因する加速度項を考慮した動的空力モデルではその特性をよく表現できることが分かる。
【0102】
ここで、付加質量を、その物体によって排除される流体の質量で無次元化した値である付加質量係数cP11を用いることで、加速度項係数αP11は式(16)で表すことができる。
【数16】

【0103】
ここで、Vは車両体積である。車両模型を用いている場合は車両模型体積である。
【0104】
この類推から、他の加速度項係数αP12,αP21,αP22も同様に無次元の係数cP12,cP21,cP22を用いて記述することができる。例えば、式(17)のように示すことができる。
【数17】

【0105】
あるいは、加速度項係数αP12,αP21を、長さの次元を有する係数aP12,aP21を用いて、例えば式(18)のように示すこともできる。
【数18】

【0106】
数値シミュレーションでは、実車走行条件の下での計算結果を用いて加速度項係数αP11,αP12,αP21,αP22を上記のような手順で同定することができるが、実車走行条件での試験が困難なことがある風洞実験では、縮尺模型を用いた実験結果から、上記無次元の係数cP11,cP12,cP21,cP22を同定してもよい。すなわち、無次元の係数cP11,cP12,cP21,cP22は、車両形状、地面からの距離、車速、振動振幅、振動数等に依存するが、無次元周波数の範囲が同等であり、模型形状、模型と地面との間の距離、加振振幅が実車スケールとほぼ相似の関係にある場合には、縮尺模型によって得られた値を実車スケールの問題に適用することが可能だからである。
【0107】
なお、式(10)の行列における非対角成分の加速度項、つまり、ピッチ加振に対する揚力係数の加速度項、上下加振に対するピッチングモーメント係数の加速度項は無視しても差し支えない。すなわち、αP12=αP21=0とできる。
【0108】
一方、対角成分であるαP11とαP22の式に含まれてくるVに空気密度ρを乗じたもの、および式(17)で示される(x2+z2)のdVに対する積分項に空気密度ρを乗じたものは、それぞれ模型が排除した流体である空気の質量と、その慣性モーメントに相当し、これらは汎用的なCADソフト等で容易に算出することができる。このようにして算出された排除空気質量に関する付加質量係数cP11、および排除空気の慣性モーメントに関する無次元の係数である付加慣性モーメント係数cP22を式(19)に示す。
【数19】

【0109】
なお、αP22も全体としての影響が小さいので、場合によっては省略して無視することができる。
【0110】
例えば、無限静止流体中の2次元円柱が並進運動する場合の付加質量係数は1であるが、物体に接近して固定壁が存在するときは壁面に直角な方向の運動に対する付加質量係数が増大することが知られている。車両が道路上を走行する場合は、この固定壁が存在するときに類似し、これらのことから、式(19)のcP11の値が妥当なものであることが分かる。
【0111】
上記では、車両の縦運動に限った実験あるいは数値シミュレーションを行っているが、同様な考えを車両の横運動に対しても拡張できる。すなわち、車両の運動方程式に組み込む外力として、空気力による横力FYを式(20)、ヨーイングモーメントMZを式(21)のように表現できる。
【数20】

【数21】

【0112】
ここで、ΔCYは、式(3)で示される車両の基準姿勢における基準横力係数からの変動成分である横力係数変動成分である。ΔCMZは、式(4)で示される車両の基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数からの変動成分であるヨーイングモーメント係数変動成分である。
【0113】
ここで、入力変数である横変位y、ヨー変位角βと、出力であるΔCY、ΔCMZとの関係を、式(10)と同様に、付加質量に起因する加速度項を付与した線形システムとして、式(22)で示されるモデル化を行うことができる。
【数22】

【0114】
ここで、s2の項が付加質量に起因する加速度項である。なお、式(12)に関連して説明したのと同様に、式(22)に代えて、基準姿勢における抗力係数を用いた式(23)で示されるモデル化を行うものとしてもよい。
【数23】

【0115】
なお、式(10)の行列における非対角成分の加速度項等に関連して説明したのと同様に、ここでも、αY12,αY21,αY22を無視することが可能である。また、上下加振時に比べればαY11の影響も小さいものと考えられる。
【0116】
このように、風洞実験等で同定した加速度項係数等を用いて構築される式(10),(22)の動的空力モデルを用いて、姿勢変化を伴う車両に作用する動的な空気力の算出を適切に行うことができる。また、これを発展させ、算出された空気力に基づいて、車両の運動解析を行うことができ、さらに車両のサスペンション制御を行うことができる。なお、上下力、ピッチングモーメント、横力、ヨーイングモーメントの全てを用いて運動解析を行ってもよい。
【0117】
車両空気力算出を車両のサスペンション制御に応用するには、次のようにすることができる。すなわち、動的空力モデルに基づく空気力を車両に作用する外力として、並進運動の運動方程式、回転運動の運動方程式に組み込み、空気力が作用しないときの運動方程式と等価になるように、車両のサスペンションの見かけのばね定数、減衰定数を算出する。そして、算出された見かけのばね定数と減衰定数と、実際のばね定数と減衰定数との差を、空気力の作用による見かけのばね定数の変化量、見かけの減衰定数の変化量とすることができる。なお、正弦振動を仮定することで、付加質量の影響を見かけのばね定数に組み込むことができる。これにより、空気力が作用する車両について、サスペンション制御を適切に行う制御装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係る車両空気力算出装置は、走行する車両に空気力が作用するときの運動状態を解析する装置に利用され、また、空気力を考慮した車両サスペンション制御装置に利用できる。車両サスペンション制御装置においては、空気力の影響を考慮したサスペンションのばね定数設定、減衰定数設定に利用できる。
【符号の説明】
【0119】
10 車両空気力算出装置、12 CPU、14 入力部、16 出力部、18 記憶部、20 加速度項係数データ、22 特性半径データ、24 条件取得処理部、26 モデル化処理部、28 変動成分算出処理部、30 作用量算出処理部、32 運動方程式解析処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、
車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、
条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、
算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、
を備え、
モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項2】
空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、
車両の基準姿勢における基準横力係数からの変動成分である横力係数変動成分をΔCYとし、車両の基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数からの変動成分であるヨーイングモーメント係数変動成分をΔCMZとして、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZのそれぞれを、横変位yとヨー変位角βを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、
条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、
算出された横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZとに基づいて、車両に作用する横力とヨーイングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、
を備え、
モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両空気力算出装置において、
線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、
モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両空気力算出装置において、
条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、
上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、
モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車両空気力算出装置において、
条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、
横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの加速度項の効果を車両の加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、
モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両空気力算出装置において、
条件取得手段は、
揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、
変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項7】
請求項2に記載の車両空気力算出装置において、
条件取得手段は、
横力係数変動成分ΔCYの速度項に含まれる特性半径RY12、またはヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの速度項に含まれる特性半径RY22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、
変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ヨー変位角βを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZを算出することを特徴とする車両空気力算出装置。
【請求項8】
空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、
車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、
条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、
算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、
算出された上下力とピッチングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する運動方程式解析手段と、
を備え、
モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項9】
空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、
車両の基準姿勢における基準横力係数からの変動成分である横力係数変動成分をΔCYとし、車両の基準姿勢における基準ヨーイングモーメント係数からの変動成分であるヨーイングモーメント係数変動成分をΔCMZとして、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZのそれぞれを、横変位yとヨー変位角βを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、
条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、
算出された横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZとに基づいて、車両に作用する横力とヨーイングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、
算出された横力とヨーイングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、車両の運動解析を実行する運動方程式解析手段と、
を備え、
モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項10】
請求8または9に記載の車両運動解析装置において、
線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、
モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項11】
請求項8に記載の車両運動解析装置において、
条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、
上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、
モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項12】
請求項9に記載の車両運動解析装置において、
条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、
横変位yを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYの加速度項の効果を車両の加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、
モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項13】
請求項8に記載の車両運動解析装置において、
条件取得手段は、
揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、
変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項14】
請求項9に記載の車両運動解析装置において、
条件取得手段は、
横力係数変動成分ΔCYの速度項に含まれる特性半径RY12、またはヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZの速度項に含まれる特性半径RY22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、
変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ヨー変位角βを入力変数としたときの横力係数変動成分ΔCYとヨーイングモーメント係数変動成分ΔCMZを算出することを特徴とする車両運動解析装置。
【請求項15】
空気密度ρと、車両速度Uと、車両の前面投影面積Aと、車両の代表長さLと、特性半径Rとを取得する条件取得手段と、
車両の基準姿勢における基準揚力係数からの変動成分である揚力係数変動成分をΔCZとし、車両の基準姿勢における基準ピッチングモーメント係数からの変動成分であるピッチングモーメント係数変動成分をΔCMYとして、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYのそれぞれを、上下変位zとピッチ変位角θを入力変数として、各入力変数の2階微分までの項による線形モデルとしてモデル化するモデル化手段と、
条件取得手段によって取得した条件と、モデル化された線形モデルとに基づいて、揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYをそれぞれ算出する変動成分算出手段と、
算出された揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYとに基づいて、車両に作用する上下力とピッチングモーメントをそれぞれ算出する作用量算出手段と、
算出された上下力とピッチングモーメントを車両に作用する外力として、車両の運動方程式に組み込み、空気力が作用しないときの運動方程式との比較に基いて車両のサスペンション要素の制御を行うサスペンション制御手段と、
を備え、
モデル化手段は、2階微分項として、少なくとも上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZに関する加速度項を有する線形モデルとしてモデル化することを特徴とする車両サスペンション制御装置。
【請求項16】
請求項15に記載の車両サスペンション制御装置において、
線形モデル化されたモデルにおける加速度項の係数を実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する加速度項係数取得手段を備え、
モデル化手段は、取得された加速度項係数を用いて線形モデル化を行うことを特徴とする車両サスペンション制御装置。
【請求項17】
請求項15に記載の車両サスペンション制御装置において、
条件取得手段はさらに車両の代表体積Vを取得し、
上下変位zを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZの加速度項の効果を車両が加速度運動をする際に周囲の空気から受ける付加質量力であると考え、その付加質量を車両によって排除される空気の質量で無次元化した値である付加質量係数について、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションまたは文献値に基いて取得する付加質量係数取得手段を備え、
モデル化手段は、加速度項係数を、付加質量係数と車両の代表体積Vとの積として扱うことを特徴とする車両サスペンション制御装置。
【請求項18】
請求項15に記載の車両サスペンション制御装置において、
条件取得手段は、
揚力係数変動成分ΔCZの速度項に含まれる特性半径RP12、またはピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYの速度項に含まれる特性半径RP22の少なくとも一方を、実車あるいは模型を用いた風洞実験または数値シミュレーションに基づいて取得する特性半径取得手段を含み、
変動成分算出手段は、特性半径取得手段によって取得された特性半径の値を用いて、ピッチ変位角θを入力変数としたときの揚力係数変動成分ΔCZとピッチングモーメント係数変動成分ΔCMYを算出することを特徴とする車両サスペンション制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−223712(P2010−223712A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70426(P2009−70426)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】