説明

車輪速検出装置及び車輪速検出方法

【課題】サスペンション装置に起因する外乱が入力されても、車輪速を適切に検出することができる車輪速検出装置及び車輪速検出方法を提供すること。
【解決手段】本発明による車輪速検出装置1は、車両の車輪を回動自在に支持する支持手段に設けられて車輪の車輪速ωを検出する車輪速検出手段2と、車輪速検出手段の車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転θを検出する回転角検出手段3と、車輪速ωを回転角θに基づいて補正する補正手段4aを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両に適用して好適な車輪速検出装置及び車輪速検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の制動時のスリップを防止するためのABS(Anti-Lock Brake System)や車両の横滑りを防止するためのVSC(Vehicle Stability Control)、駆動時のスリップを防止するためのTRC(Traction Control)が、車両安定性を高める目的で使用されている。さらに、近年では、運転者のアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作量に基づいて運転者の意図する車両の挙動を予測して、ABS、VSC、TRCを統合的に制御するVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)が採用されることもある。これらのシステムにおいては、制御パラメータとして車輪速度と車体速度が用いられている。車輪速度から車体速度を求める従来技術としては例えば特許文献1のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平04−098670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなシステムにおいては、車体速度に対して車両の前後左右の各車輪の車輪速度が制御用の閾値を超えて離隔した場合に、ABSであれば制動力を緩め、VSCであれば車輪毎に制動力を変更し、TRCであれば駆動力を緩める制御を行うが、いずれも車体速度を基準にする点は共通している。この車体速度をより実態に即したものとするために、ヨーレートや横加速度、操舵角等の旋回状態から、各車輪に対応する車両の前後左右の部位の車体速度を推定して、この推定車体速度を基準として車輪速度の偏差を求めた上で上述したような制御を行うことも行われている。
【0005】
しかしながら、このような従来技術においては、車輪速及び車輪速に基づいて演算される車輪速度、車輪速度に基づいて演算される車体速度、推定車体速度が正確であることが前提にシステムが構成されている。このため、サスペンション装置の型式や挙動特性により車輪速にある程度大きな外乱が入力される条件においては、車輪速の検出の正確性を十分に担保できず、車輪速に基づいて演算される車輪速度や車体速度、推定車体速度等の他のパラメータについても十分な正確性が担保できない。
【0006】
より具体的には例えば、ABSであれば制動力を緩めるタイミングがずれる、VSCであれば制動力を変更するタイミングがずれる、TRCであれば駆動力を緩めるタイミングがずれるという等の問題が生じる。すなわち、車輪速に基づいた制御を行うシステムの動作の適切性が担保されず、従来技術においてはこれらの問題に対処できていないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、サスペンション装置に起因する外乱が入力されても、車輪速を適切に検出することができる車輪速検出装置及び車輪速検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するため、本発明による車輪速検出装置は、
車両の車輪を回動自在に支持する支持手段に設けられて前記車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、
前記車輪速検出手段の前記車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転を検出する回転角検出手段と、
前記車輪速を前記回転角に基づいて補正する補正手段を、
含むことを特徴とする。
【0009】
前記車輪速検出装置によれば、サスペンション装置における前記支持手段の上下方向の変位に伴って、前記支持手段及び前記車輪速検出手段が前記ピッチング方向に回転して回転角に変化つまり回転角速度が生じて、前記回転角速度が外乱として前記車輪速検出手段の検出する前記車輪速に入力されても、前記補正手段による補正により当該外乱を除去して、補正された後の前記車輪速である補正後車輪速をより正確なものとすることができる。
【0010】
なお、前記支持手段はサスペンション装置におけるナックルを示し、前記車輪速検出手段は当該ナックルに設置されるレゾルバやエンコーダ等を示す。前記車輪速は前記車輪の周速でも角速度でもよい。但し、前記補正手段により前記車輪速を前記回転角に基づいて補正するにあたっては、後者の前記角速度を用いた方が、演算において前記車輪の車輪径を考慮する必要がないため演算及び使用する演算式を簡便なものとすることができる。
【0011】
すなわち、前記車輪速検出装置において、
前記車輪速は角速度であって、
前記補正手段は、前記角速度から前記回転角の微分値である回転角速度を減じて補正後車輪速を演算することが好ましい。
【0012】
なお、前記回転角速度はサスペンション装置を構成する前記支持手段の、車幅方向から視た場合のサスペンション装置のジオメトリにより決定される前記回転中心の前記車輪の車輪中心に対する位置により、適宜正負の符号を有するものとする。
【0013】
例えば、前記回転中心が、前記車輪の車輪中心よりも前方に位置する場合には、前記車輪が上方から下方に移動した場合に前記車輪速検出手段が車幅方向視において回転又は傾斜する方向を正の値とし、これとは逆に前記回転中心が、前記車輪の車輪中心よりも後方に位置する場合には、前記車輪が下方から上方に移動した場合に車幅方向視において前記車輪速検出手段が回転又は傾斜する方向を正の値とする。また、前記角速度は、例えば前進方向を正の値とし、後退方向を負の値とする。
【0014】
ここで、前記車輪速検出装置において、
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する連結点において前記回転角検出手段が前記回転角を検出することができる。
【0015】
前記車輪速検出装置によれば、前記支持手段及び前記車輪速検出手段のピッチング方向の回転角を直接的に検出することが可能である場合には直接的に検出することができる。
【0016】
あるいは、前記車輪速検出装置において、
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する相対変位を検出する相対変位検出手段を含み、検出された前記相対変位に基づいて前記回転角検出手段が前記回転角を検出することとしてもよい。
【0017】
前記車輪速検出装置によれば、前記支持手段及び前記車輪速検出手段のピッチング方向の回転角を直接的に検出することが難しい場合に、前記回転角に対して線形の特性を有しかつ比較的検出が容易な前記相対変位を検出して、検出した前記相対変位により前記回転角を換算して求めて検出することができる。
【0018】
加えて、前記車輪速検出装置において、
前記連結手段の延在方向が前記車体の前後方向であってもよい。
【0019】
なお、前記連結手段の延在方向が前記前後方向であるとは、サスペンション装置の型式が所謂トレーリングアーム又はセミトレーリングアームである場合を指す。前記車輪速検出装置によれば、種々のサスペンション装置の型式において、前記支持手段の上下方向の変位つまりバウンド、リバウンドに起因する前記回転角が比較的大きい型式がトレーリングアーム式又はセミトレーリングアーム式であることを考慮して、本発明をトレーリングアーム式又はセミトレーリングアーム式に適用可能なものとすることができる。
【0020】
この場合においては、前記車輪速検出装置において、
前記車輪速検出手段の前記回転中心が、前記連結手段の前記車体への連結点であることとなる。
【0021】
さらに、前記車輪速検出装置においては、
前記回転角が前記連結手段の前記連結点周りの揺動角と一致することとなる。
【0022】
あるいは、前記車輪速検出装置は、
前記連結手段が車幅方向に延びる一以上の連結部材により構成されるとともに、前記車輪速検出手段の前記回転中心が、前記一以上の連結部材のジオメトリにより予め定まることを特徴としてもよい。
【0023】
前記車輪速検出装置によれば、本発明をトレーリングアーム式又はセミトレーリングアーム式以外の型式、例えば、マクファーソンストラット式、ダブルウィッシュボーン式、マルチリンク式に適用可能なものとすることができる。この場合においては、前記回転中心は仮想的な回転中心を構成する。
【0024】
ここで、前記車輪速検出装置において、
前記連結部材の前記車体に対する相対変位と前記回転角との相関関係が実験又はシミュレーションにより予め定まることが好ましい。
【0025】
前記車輪速検出装置によれば、トレーリングアーム式又はセミトレーリングアーム式以外の型式においては特に、前記支持手段及び前記車輪速検出手段のピッチング方向の回転角を直接的に求めることが難しいことを考慮して、前記回転角に対して線形の特性を有しかつ比較的検出が容易な前記相対変位を検出して、検出した前記相対変位により前記回転角を換算して求めて検出することができる。
【0026】
なお上述した課題を解決するため本発明の車輪速検出方法は、
車両の車輪を回動自在に支持する支持手段に設けられた車輪速検出手段により前記車輪の車輪速を検出する車輪速検出ステップと、
前記車輪速検出手段の前記車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転を検出する回転角検出ステップと、
前記車輪速を前記回転角に基づいて補正する補正ステップを含むことを特徴とする。
【0027】
前記車輪速検出方法によれば、サスペンション装置における前記支持手段の上下方向の変位に伴って、前記支持手段及び前記車輪速検出手段が前記ピッチング方向において回転して回転角に変化つまり回転角速度が生じて、前記回転角速度が前記車輪速検出ステップにおいて検出する前記車輪速に外乱として入力されても、前記補正ステップにおける補正により当該外乱を除去して、補正された後の前記車輪速である補正後車輪速をより正確なものとすることができる。
【0028】
前記車輪速検出方法においても、上述した前記車輪速検出装置と同様に、
前記車輪速は角速度であって、
前記補正ステップにおいて、前記角速度から前記回転角の微分値である回転角速度を減じて補正後車輪速を演算することが好ましい。
【0029】
同様に、前記車輪速検出方法においても、
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する相対変位を検出する相対変位検出ステップを含み、前記回転角検出ステップにおいて前記相対変位検出ステップで検出された前記相対変位に基づいて前記回転角を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、サスペンション装置に起因する外乱が入力されても、車輪速を適切に検出することができる車輪速検出装置及び車輪速検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態による作用効果を示す模式図である。
【図5】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態を示す模式図である。
【図6】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態を示す模式図である。
【図8】本発明に係る車輪速検出装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本実施例1の車輪速検出装置1の一実施形態を示す模式図である。図2は、本実施例1の車輪速検出装置1のECU4を除く構成の配置態様と挙動を示す模式図である。なお、図中において、UPは上方を指し、Fは車両の前方を指し、Lは車幅方向の左方を指す。但し、図1中のECU4とレゾルバ2及びレゾルバ3のブロックについては制御ブロックを示すものであって、方向は車両の向きに規定されない。
【0034】
本実施例1の車輪速検出装置1は、図1に示すように、車両の車輪Wを回動自在に支持するナックルN(支持手段)に設けられて車輪Wの車輪速ωを検出するレゾルバ2(車輪速検出手段)と、ナックルNを車体B側に車幅方向を中心として揺動自在に連結する車両の前後方向に延びるトレーリングアームTD(連結手段)の車体B側の連結点φに設けられて、連結点φにおいてレゾルバ2の車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転を検出するレゾルバ3(回転角検出手段)と、車輪速ωを回転角に基づいて補正して補正後車輪速γを求める補正手段4aを構成するECU4を含む。
【0035】
ECU4は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが以下に述べる所定の処理を行うものである。
【0036】
本実施例1においては、車輪速ωは車輪Wの角速度であって、ECU4の補正手段4aは、角速度である車輪速ωから回転角θの微分値である回転角速度Δθを減じて補正後車輪速γ=ω−Δθを演算する。なお、車輪速ωに円周率πと車輪径Dを乗じて求まる車輪Wの周速については、実施例中においては区別のため車輪速度Vと呼称している。
【0037】
本実施例1のトレーリングアームTDは、延在方向が車体Bの前後方向に一致しており、車輪速検出手段を構成するレゾルバ2の車幅方向視における回転中心が、トレーリングアームTDの車体Bへの連結点φに一致していて、連結点φつまり回転中心は車輪Wの回転中心Cの前方に位置している。このことにより、回転角θはトレーリングアームTDの連結点φ周りの揺動角と一致する。
【0038】
なお、本実施例1においては、回転中心である連結点φが、車輪Wの車輪中心Cよりも前方に位置しているので、図2に示すように、車輪Wが上方から下方に移動してリバウンドした場合にレゾルバ2が車幅方向視において回転又は傾斜する方向、つまり、図1及び図2中においては時計回り方向を正の値とし、反時計回り方向を負の値としている。車輪速ωつまり角速度は、前進方向、つまり図1及び図2中においては反時計回りを正の値とし、後退方向を負の値としている。
【0039】
次に本実施例1における車輪速検出装置1の制御内容について図を用いて説明する。図3は本実施例1の車輪速検出装置1の制御内容を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS1において、レゾルバ2の検出した車輪速ωをECU4は取得し、ステップS2において、レゾルバ3の検出した回転角θをECU4は取得して、ステップS3において、ECU4の補正手段4aは、回転角θを微分して回転角速度Δθを演算し、ステップS4において、ECU4の補正手段4aは、補正後車輪速γ=ω−Δθを演算する。
【0041】
図3に示したフローチャートの、ステップS1において、本発明の車輪速検出方法の車輪速検出ステップが実行され、ステップS2において、回転角検出ステップが実行され、ステップS3〜S4において、補正ステップが実行される。
【0042】
本実施例1の車輪速検出装置1によれば、トレーリングアーム式のサスペンション装置におけるナックルNの上下方向の変位つまりバウンド、リバウンドに伴って、ナックルN及びレゾルバ3が車幅方向を中心とするピッチング方向において回転して回転角θに変化が生じて回転角速度Δθが生じて、回転角速度Δθが外乱つまりノイズとしてレゾルバ2の検出する車輪速ωに加えられて入力されても、回転角速度Δθを検出して車輪速ωから減じる補正を補正手段4aにより行って外乱を除去することによって、補正された後の車輪速である補正後車輪速γをより正確なものとすることができる。
【0043】
以下、本実施例1による効果について図を用いて説明する。図4は、本実施例1における車輪速検出装置1の補正による外乱除去の効果を示す模式図である。図4は、蒲鉾形状の突部を路面に載置して段差を設けて車両を走行させた場合の車輪速ωと補正後車輪速γの時間変化を示す。
【0044】
図4中上段に示すように突部のある路面を車両が走行した場合には、突部を車輪Wが乗り越えるタイミングにおいてナックルNがバウンド、リバウンドの挙動を示し、レゾルバ3に例えば正弦波状の回転角速度Δθが生じて、この回転角速度Δθは外乱として車輪速ωに入力される。本実施例1の車輪速検出装置1においてはこの回転角速度Δθをリアルタイムで検出して同時に車輪速ωから減算しているので、補正後の補正後車輪速γにおいては図4中下段に示すように、段差に起因する外乱を除去することができる。
【0045】
また、本実施例1においては、車輪速ωとして角速度を用いているので、上述した補正に伴う演算において車輪Wの車輪径Dを考慮する必要がないため、演算及び使用する演算式を簡単なものとして、ECU4の処理負荷を軽減することができる。
【0046】
また、補正演算で扱う物理量である車輪速ωと回転角速度Δθがともに角速度であることから、トレーリングアームTDのアーム長も演算において考慮する必要がないため、これによっても、演算及び使用する演算式を簡単なものとして、ECU4の処理負荷を軽減することができる。
【0047】
なお、本実施例1における車輪速検出装置1は、ナックルNを車体側に連結する連結手段の延在方向を車体Bの前後方向とする、所謂トレーリングアーム式のサスペンション装置に適用している。トレーリングアーム式においては他の型式のサスペンション装置に較べて、ナックルNのバウンド、リバウンドにより発生する回転角θ及び回転角速度Δθが比較的大きいため、車輪速ωに対する回転角速度Δθの比率が大きくなり、外乱の影響割合が大きくなる。このため、本発明は種々のサスペンション装置の型式の中でも、特にトレーリングアーム式に用いてより効果的なものである。
【0048】
上述した実施例1においては、レゾルバ3をトレーリングアームTDの車体B側の連結点φに設けているが、車体艤装の都合上、レゾルバ3を連結点φに直接的に設けることが困難である場合も存在する。このような場合には、検出が容易な箇所においてトレーリングアームTDの車体Bに対する相対変位Xを検出して、相対変位Xと回転角θとの相関関係を予め実験又はシミュレーションにより求めておくことにより、上述した実施例1と同様の補正を行うことができる。以下それについての実施例2について述べる。
【実施例2】
【0049】
図5は、本実施例2の車輪速検出装置11の一実施形態を示す模式図である。ここでも図中において、UPは上方を指し、Fは車両の前方を指し、Lは車幅方向の左方を指す。なお、実施例1に示した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付す。
【0050】
本実施例2の車輪速検出装置11は、図5に示すように、車両の車輪Wを回動自在に支持するナックルN(支持手段)に設けられて車輪Wの車輪速ωを検出するレゾルバ2(車輪速検出手段)と、ナックルNを車体B側に車幅方向を中心として揺動自在に連結する車両の前後方向に延びるトレーリングアームTD(連結手段)の車体B側の連結点φ近傍に設けられて、トレーリングアームTDの車体Bに対する相対変位Xを検出するハイトセンサ32(相対変位検出手段)を含む。
【0051】
さらに、車輪速検出装置11は、レゾルバ2の車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転θ(X)をハイトセンサ32の検出した相対変位Xに基づいて検出する回転角検出手段4b及び車輪速ωを回転角θ(X)に基づいて補正して補正後車輪速γを求める補正手段4aを構成するECU4を含む。
【0052】
なお、ハイトセンサ32は、図5に示すように、リンク機構を構成するアームと図示しないレゾルバを組み合わせたものであって、相対変位Xはアーム角速度として検出される物理量である。相対変位Xと回転角θ(X)の相対関係は実験又はシミュレーションにより予め求める。
【0053】
次に本実施例2における車輪速検出装置11の制御内容について図を用いて説明する。図6は本実施例2の車輪速検出装置11の制御内容を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS1において、レゾルバ2の検出した車輪速ωをECU4は取得し、ステップS2−1において、ハイトセンサ32の検出した相対変位XをECU4は取得して、ステップS3−1において、ECU4は相対変位Xから回転角θ(X)を演算する。
【0055】
ステップS3において、ECU4の補正手段4aは、回転角θ(X)を微分して回転角速度Δθを演算し、ステップS4において、ECU4の補正手段4aは、補正後車輪速γ=ω−Δθを演算する。
【0056】
図6に示したフローチャートの、ステップS1において、本発明の車輪速検出方法の車輪速検出ステップが実行され、ステップS2−1において、相対変位検出ステップが実行され、ステップS2−1において、回転角検出ステップが実行され、ステップS3〜S4において、補正ステップが実行される。
【0057】
本実施例2の車輪速検出装置11においては、ナックルNを車両の車体Bに連結するトレーリングアームTDの車体Bに対する相対変位Xを検出する相対変位検出手段としてハイトセンサ32を含み、検出された相対変位Xに基づいてECU4の回転角検出手段4bが回転角θ(X)を検出している。
【0058】
このため、ナックルN及びレゾルバ2のピッチング方向の回転角θ(X)を直接的に検出することが難しい場合においても、回転角に対して予め定められる相関関係を有して比較的検出が容易な相対変位Xを検出して、検出した相対変位Xにより回転角θ(X)を換算して求めて検出することができる。
【0059】
これにより、トレーリングアームTDの車体B側の連結点φにレゾルバ3を設けることが難しい場合においても、回転角速度Δθを正確に検出して、車輪速ωを補正して正確な補正後車輪速γを求めることができる。
【0060】
上述した実施例1及び実施例2においては、本発明をトレーリングアーム式のサスペンション装置に適用する例を示したが、本発明はトレーリングアーム式以外のサスペンション装置に適用することもできる。以下それについての実施例3について述べる。
【実施例3】
【0061】
図7は、本実施例3の車輪速検出装置21の一実施形態を示す模式図である。ここでも図中において、UPは上方を指し、Fは車両の前方を指し、Lは車幅方向の左方を指す。なお、実施例2に示した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、制御ブロックに関する構成要素は同一であるため図示を省略している。また、フローチャートは図6に示したものと同様であるため図示を省略している。
【0062】
本実施例2の車輪速検出装置21は、図7に示すように、車両の車輪Wを回動自在に支持するナックルN(支持手段)に設けられて車輪Wの車輪速ωを検出するレゾルバ2(車輪速検出手段)と、ナックルNを車体B側に車幅方向を中心として揺動自在に連結する車両のほぼ上下方向に延びるストラットST(連結手段)の車体B側の連結点ψ近傍に設けられて、ストラットSTの車体Bに対する相対変位Xを検出するハイトセンサ33(相対変位検出手段)を含む。ストラットSTの上端部はスプリングSを介して車体B側に連結される。
【0063】
さらに、車輪速検出装置21は、レゾルバ2の車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転θ(X)をハイトセンサ33の検出した相対変位Xに基づいて検出する回転角検出手段4b及び車輪速ωを回転角θ(X)に基づいて補正して補正後車輪速γを求める補正手段4aを構成するECU4を含む。
【0064】
なお、ハイトセンサ33は、図7に示すように、リンク機構を構成するアームと図示しないレゾルバを組み合わせたものであって、相対変位Xはアーム角速度として検出される物理量である。相対変位Xと回転角θ(X)の相対関係は実験又はシミュレーションにより予め求める。
【0065】
なお、図7中左上は、車輪W及びナックルNが中立位置にある状態を示し、図7中左下は、車輪W及びナックルNがリバウンドした状態を示し、図7中右はリバウンドした状態におけるハイトセンサ33のリンク機構のアームの態様を示すものである。
【0066】
本実施例3の車輪速検出装置21においては、ナックルNを車両の車体Bに連結するストラットSTの車体Bに対する相対変位Xを検出する相対変位検出手段としてハイトセンサ33を含み、検出された相対変位Xに基づいてECU4の回転角検出手段4bが回転角θ(X)を検出している。
【0067】
すなわち、サスペンション装置がトレーリングアーム式以外のマクファーソンストラット式である場合においても、回転角に対して予め定められる相関関係を有して比較的検出が容易な相対変位Xを検出して、検出した相対変位Xにより回転角θ(X)を換算して求めて検出することができる。これにより、回転角速度Δθを正確に検出して、車輪速ωを補正して正確な補正後車輪速γを求めることができる。
【0068】
上述した実施例3においては、本発明をマクファーソンストラット式のサスペンション装置に適用する例を示したが、本発明はこれ以外のサスペンション装置に適用することもできる。以下それについての実施例4について述べる。
【実施例4】
【0069】
図8は、本実施例4の車輪速検出装置31の一実施形態を示す模式図である。ここでも図中において、UPは上方を指し、Fは車両の前方を指し、Lは車幅方向の左方を指す。なお、実施例3に示した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、制御ブロックに関する構成要素は同一であるため図示を省略している。また、フローチャートについても図6に示したものと同様であるため図示を省略している。
【0070】
本実施例3の車輪速検出装置31は、図8に示すように、車両の車輪Wを回動自在に支持するナックルN(支持手段)に設けられて車輪Wの車輪速ωを検出するレゾルバ2(車輪速検出手段)と、ナックルNを車体B側に車幅方向を中心として揺動自在に連結する車両のほぼ車幅方向に延びる複数のリンクのうち一のリンクL1(連結手段の連結部材)の車体B側の連結点ψ近傍に設けられて、リンクL1の車体Bに対する相対変位Xを検出するハイトセンサ34(相対変位検出手段)を含む。リンクL1の車幅方向内側端部は連結点ψを介して車体B側に連結される。
【0071】
さらに、車輪速検出装置21は、レゾルバ2の車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転θ(X)をハイトセンサ34の検出した相対変位Xに基づいて検出する回転角検出手段4b及び車輪速ωを回転角θ(X)に基づいて補正して補正後車輪速γを求める補正手段4aを構成するECU4を含む。
【0072】
なおここでも、ハイトセンサ34は、図8に示すように、リンク機構を構成するアームと図示しないレゾルバを組み合わせたものであって、相対変位Xはアーム角速度として検出される物理量である。相対変位Xと回転角θ(X)の相対関係は実験又はシミュレーションにより予め求める。
【0073】
なお、図8中左上は、車輪W及びナックルNが中立位置にある状態について車幅方向から視て示し、図8中右上は、車輪W及びナックルNが中立位置にある状態におけるハイトセンサ34のアームの態様について車両の後方から視て示し、図8中左下は、車輪W及びナックルNがバウンドした状態を車幅方向から視て示し、図8中右下は車輪W及びナックルNがバウンドした状態におけるハイトセンサ34のリンク機構のアームの態様を示すものである。
【0074】
本実施例4の車輪速検出装置31においては、ナックルNを車両の車体Bに連結するリンクL1の車体Bに対する相対変位Xを検出する相対変位検出手段としてハイトセンサ34を含み、検出された相対変位Xに基づいてECU4の回転角検出手段4bが回転角θ(X)を検出している。
【0075】
すなわち、サスペンション装置がマルチシンク式である場合においても、回転角θ(X)に対して予め定められる相関関係を有して比較的検出が容易な相対変位Xを検出して、検出した相対変位Xにより回転角θ(X)を換算して求めて検出することができる。これにより、回転角速度Δθを正確に検出して、車輪速ωを補正して正確な補正後車輪速γを求めることができる。
【0076】
上述した実施例1〜4においては、車輪速ωを回転角θに基づいて補正して補正後車輪速γを求める処理のみを行う構成を示したが、本発明は、種々の車両の制御に応用することができる。例えば、上述したVSC、ABS、TRCあるいはこれらを統合的に制御するVDIM等のシステムに適用可能である。
【0077】
これらのシステムにおいては、車体速度VB又は推定車体速度VBAに対して車両の前後左右の各車輪の車輪速ωに円周率πと車輪径Dを乗じて求まる各車輪速度Vのいずれかが制御用の閾値を超えて離隔した場合に、ABSにおいては該当する車輪のブレーキ装置の制動力を緩め、VSCにおいては車輪毎に制動力を適宜変更し、TRCであれば車輪毎に駆動力を緩める制御を行う。
【0078】
いずれのシステムにおいても回転角速度Δθを除去した後の補正後車輪速γを用いて、車輪速度V、車体速度VB、推定車体速度等VBAの関連するパラメータを演算している。このため、補正後車輪速γの正確性を高めることによって、上述した関連するパラメータの精度も高めることができる。これによって、制御の安定性、確実性、正確性を高め、システムの動作の適切性を担保することができる。
【0079】
加えて、本発明はカーナビゲーションシステムにおける、GPS(Global Positioning System:全地球方位システム)により検出した車両の位置を補完するINS(Inertial Navigation System)に適用しても有用である。つまり、INSにおいても補正後車輪速γを用いて車両の移動距離が計算されることとなるので、車両の移動距離や計算された車両の位置の精度を高めることができる。
【0080】
さらに、本発明によれば、路面の凹凸等により車輪速検出手段を構成するレゾルバ2が回転した場合においても常に回転角θを検出して車輪速ωから回転角速度Δθを除去した後の補正後車輪速γを制御に用いるので、路面上に異物が存在する場合の走行、路面凹凸を含む不整地の走行、車両の積載荷重の不均一等に起因して、制御に用いる車輪速が不正確となることを常に防止することができ、外乱に対する制御をよりロバストなものとすることができる。
【0081】
加えて、上述したような回転角θ及び回転角速度Δθはサスペンション装置がトレーリングアーム式である場合において、他の型式である場合に較べて比較的大きく、回転角速度Δθによる外乱が大きくなる傾向が大きい。
【0082】
ところが、本発明によれば、トレーリングアーム式のサスペンション装置の有する上述した傾向を打ち消して、制御に用いる補正後車輪速γの正確性を高めることができるので、トレーリングアーム式のサスペンション装置の適用範囲を広げることができる。特にトレーリングアーム式のサスペンション装置は他形式に比較して構造が簡単で製造コストを抑制することができることから、上述したように適用範囲を広くすることにより、車両のコストダウンを図ることができる。
【0083】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0084】
例えば、上述した実施例においては、相対変位Xについてはハイトセンサを用いて検出したが、車両が車高調整装置を含む場合には、車高センサの検出値を相対変位Xとして用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の車輪速検出装置及び車輪速検出方法によれば、サスペンション装置のバウンドリバウンドに起因する外乱が入力されても、車輪速を適切に検出することができ、車輪速を用いた制御をより適切に実行させることができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【符号の説明】
【0086】
1 車輪速検出装置
2 レゾルバ(車輪速検出手段)
3 レゾルバ(回転角検出手段)
4 ECU
4a 補正手段
W 車輪
N ナックル
TD トレーリングアーム
B 車体
φ 連結点(回転中心)
C 車輪中心
ω 車輪速
θ 回転角
X 相対変位
11 車輪速検出装置
2 レゾルバ(車輪速検出手段)
32 ハイトセンサ(相対変位検出手段)
4 ECU
4a 補正手段
4b 回転角検出手段
21 車輪速検出装置
33 ハイトセンサ(相対変位検出手段)
ST ストラット
S スプリング
ψ 連結点
31 車輪速検出装置
34 ハイトセンサ(相対変位検出手段)
L1 リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を回動自在に支持する支持手段に設けられて前記車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、前記車輪速検出手段の前記車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転を検出する回転角検出手段と、前記車輪速を前記回転角に基づいて補正する補正手段を含むことを特徴とする車輪速検出装置。
【請求項2】
前記車輪速は角速度であって、前記補正手段は、前記角速度から前記回転角の微分値である回転角速度を減じて補正後車輪速を演算することを特徴とする請求項1に記載の車輪速検出装置。
【請求項3】
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する連結点において前記回転角検出手段が前記回転角を検出することを特徴とする請求項2に記載の車輪速検出装置。
【請求項4】
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する相対変位を検出する相対変位検出手段を含み、検出された前記相対変位に基づいて前記回転角検出手段が前記回転角を検出することを特徴とする請求項2に記載の車輪速検出装置。
【請求項5】
前記連結手段の延在方向が前記車体の前後方向であることを特徴とする請求項3又は4に記載の車輪速検出装置。
【請求項6】
前記車輪速検出手段の前記回転中心が、前記連結手段の前記車体への連結点であることを特徴とする請求項5に記載の車輪速検出装置。
【請求項7】
前記回転角が前記連結手段の前記連結点周りの揺動角と一致することを特徴とする請求項6に記載の車輪速検出装置。
【請求項8】
前記連結手段が車幅方向に延びる一以上の連結部材により構成されるとともに、前記車輪速検出手段の前記回転中心が、前記一以上の連結部材のジオメトリにより予め定まることを特徴とする請求項4に記載の車輪速検出装置。
【請求項9】
前記連結部材の前記車体に対する相対変位と前記回転角との相関関係が実験又はシミュレーションにより予め定まることを特徴とする請求項8に記載の車輪速検出装置。
【請求項10】
車両の車輪を回動自在に支持する支持手段に設けられた車輪速検出手段により前記車輪の車輪速を検出する車輪速検出ステップと、前記車輪速検出手段の前記車両の車幅方向に平行な回転中心周りの回転を検出する回転角検出ステップと、前記車輪速を前記回転角に基づいて補正する補正ステップを含むことを特徴とする車輪速検出方法。
【請求項11】
前記車輪速は角速度であって、前記補正ステップにおいて、前記角速度から前記回転角の微分値である回転角速度を減じて補正後車輪速を演算することを特徴とする請求項10に記載の車輪速検出方法。
【請求項12】
前記支持手段を前記車両の車体に連結する連結手段の前記車体に対する相対変位を検出する相対変位検出ステップを含み、前記回転角検出ステップにおいて前記相対変位検出ステップで検出された前記相対変位に基づいて前記回転角を検出することを特徴とする請求項11に記載の車輪速検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−106941(P2011−106941A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261736(P2009−261736)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】