説明

車速制御装置、車速制御方法

【課題】先行車両との関係に応じて上限車速が可変に設定される車速制御装置及び車速制御方法を提供すること。
【解決手段】先行車両が補足された場合は予め定められたセット車速31を上限に追従走行する追従走行手段24、25と、アクセルペダル14が踏み込まれても予め設定した上限車速により車速を制限する上限車速制限手段23と、を有する車速制御装置100であって、アクセルペダル14の操作を検出するアクセルペダル操作検出手段19と、先行車両との相対速度を検出する相対速度検出手段12と、自車両の車速を検出する自車両速度検出手段11と、相対速度から先行車両に接近していると判定され、かつ、アクセルペダル14の操作が検出された場合、上限車速32を先行車両の車速以下に設定する上限車速変更手段21と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセルペダルが踏み込まれても予め設定した上限車速により車速を制限する車速制御装置及び車速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の車速を運転者が設定したセット車速に保つクルーズコントロールや先行車両との車間距離を車速に応じて調整しながら追従走行するアダプティブクルーズコントロールが知られている(以下、両者を区別せずACCという)。ACCではセット車速を設定しておくことができ、レーダなどで先行車両が補足されている間はセット車速を超えない範囲で先行車に追従走行し、先行車両が補足されない場合や先行車が加速してセット車速を超えると追従走行を終了しセット車速一定で定速走行する。
【0003】
セット車速の設定には種々の方法が提案されており、実用化されている方法には例えばレバー状の設定手段を操作した時の車速がセット車速に設定される方法等がある。また、このセット車速を可変にする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、アクセル操作によりACCが解除された後、一定車速が保持された場合は解除前のセット車速を自動的に復帰させるACCが提案されている。さらに特許文献1記載のACCは、セット車速を超えて運転者がアクセル操作してもセット車速は所定の上限以下に設定することで、セット車速が過大になることを防止している。
【0004】
しかし、アクセル操作の後にセット車速が所定以下に設定されても、アクセル操作中は運転者の操作が優先され車速が過大になるおそれがある。このような不都合を回避するため、アクセル操作されても車速が所定の上限車速を超えないように車速を制御するスピードリミッタが実用化されている(例えば、特許文献2,3参照。)。特許文献2には、先行車が加速して車間距離が大きくなった場合、上限車速を大きくするスピードリミッタが開示されている。また、特許文献3には、停車時には事前に設定しておいた上限車速を設定し、不感帯速度では上限車速の設定を禁止し、それ以外の場合は設定手段を操作した際の車速を上限車速に設定するスピードリミッタが開示されている。
【特許文献1】特開2003−63272号公報
【特許文献2】特開2006−248295号公報
【特許文献3】特開2007−153147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2記載のスピードリミッタのように上限車速を大きくしてしまうと、自車両の車速が大きくなっても車速を制限できず、本来のスピードリミッタの作用が失われてしまう。
【0006】
また、特許文献3記載のスピードリミッタはACC作動中の先行車両との関係が考慮されておらず、運転者がアクセルペダルを操作して加速すると上限車速未満の範囲では車速制限が機能せず、先行車両に異常接近するおそれがある。すなわち、スピードリミッタの上限車速は、ACCにおける先行車両の補足の有無、先行車両の車速、アクセルペダルの操作の有無等を考慮して設定されることが好ましい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、先行車両との関係に応じて上限車速が可変に設定される車速制御装置及び車速制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、先行車両が補足された場合は予め定められたセット車速を上限に追従走行する追従走行手段と、アクセルペダルが踏み込まれても予め設定した上限車速により車速を制限する上限車速制限手段と、を有する車速制御装置であって、アクセルペダルの操作を検出するアクセルペダル操作検出手段と、先行車両との相対速度を検出する相対速度検出手段と、自車両の車速を検出する自車両速度検出手段と、相対速度から先行車両に接近していると判定され、かつ、アクセルペダルの操作が検出された場合、前記上限車速を先行車両の車速以下に設定する上限車速変更手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
先行車両との関係に応じて上限車速が可変に設定される車速制御装置及び車速制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車速制御装置100による車速制御を模式的に説明する図の一例である。
(1)まず、先行車両が補足されていない場合、車両は運転者が設定したセット車速により定速走行する(アダプティブクルーズコントロール(以下、ACC(Adaptive Cruise Control)という)。また、車速制御装置100は可変スピードリミッタ(以下、ASL(Adaptive Speed Limiter)という)を備え、運転者が設定した上限車速が設定されている。一般にはセット車速よりも大きな上限車速が設定されている。
(2)先行車両が補足された場合、本実施形態の車速制御装置100は、先行車両との相対速度及びアクセル操作の有無に応じてASLの上限車速を変更する。この条件からは走行状況は4つに分けられる。なお、相対速度がゼロ場合は、相対速度が正の場合に含めて扱うこととする。
2−1)相対速度が正の場合(両者が接近している場合)、かつ、アクセル操作がない場合
2−2)相対速度が正の場合(両者が接近している場合)、かつ、アクセル操作がある場合
2−3)相対速度が負の場合(両者が離れている場合)、かつ、アクセル操作がない場合
2−4)相対速度が負の場合(両者が離れている場合)、かつ、アクセル操作がある場合
ここで、2−4)ではアクセル操作があっても両者が離れていくので、両者が異常接近するおそれはなく、自車両の車速はすでに設定してある上限車速により制限される。
(3)一方、2−2)のように運転者がアクセル操作して両者が接近する場合は、両者が異常接近するおそれが生じる。アクセル操作して自車両が加速しても上限車速になるまではASLの車速制限機能が働かないからである。
【0011】
そこで、本実施形態の車速制御装置100は、2−2)の場合、先行車両の車速に応じて上限車速を変化させる。上限車速を例えば先行車両の車速程度に設定すれば、アクセル開度100%までアクセル操作しても、自車両の車速は先行車両の車速を超えないので、異常接近することを防止できる。なお、この場合、上限車速に達するまで加速度はアクセル開度に応じるが、車速が上限車速になると先行車両と同じ車速になるので、自動制動により車両を制動させる必要はない。
(4)また、運転者がアクセル操作を中断しアクセル開度がゼロになると、ASLよりもACCが有効になる。したがって、2−1)、2−3)の場合は、従来のACCにより車速を制御すればよい。この場合はセット車速を超えない範囲で、先行車両の車速に応じて先行車両との車間距離が調整される。車間を開ける必要があれば、自動制動により制動してもよい。
【0012】
したがって、本実施形態の車速制御装置100は、ACCが作動中に運転者がアクセル操作して自車両が加速しても上限車速が先行車両の車速に応じて調整されるので、先行車両と異常接近することを確実に防止できる。
【0013】
図2は、車速制御装置100のブロック図の一例を示す。車速制御装置100は、主にエンジンECU(Electronic Control Unit)15により制御され、エンジンECU15には、CAN(Controller Area Network)やFlexRay等の車載LAN及び専用線を介して、車間距離制御ECU13、メータECU16、電子スロットル17、アクセルペダルストロークセンサ19が接続されている。各ECUは車載LANの多重通信機能を利用して必要な情報を相互に通信する。
【0014】
車間距離制御ECU13は、レーダセンサ12の検出信号に基づき先行車両を検出し、先行車両との相対速度及び車間距離を検出する。レーダセンサ12は、例えばミリ波帯のレーダ送受信装置をフロントグリル内に配置したもので、送信波が先行車両に反射して受信されるまでの時間により車間距離を、車間距離の時間的な変化(微分値等)から相対速度を検出する。同程度の車間距離として検出された一連の反射波をグルーピング化することで、先行車両を特定できる。先行車両の方向は、例えば送信波の送信方向を走査して検出する。車長方向を中心に左右方向の所定角度範囲(例えば、左右に30度の範囲)を走査しながらパルス状に送信波を照射する。照射方向に前方車両が存在すれば反射波が受信される。車間距離、相対速度はCANを介してエンジンECU15に送信される。
【0015】
また、各車輪には車輪速センサ11a〜11d(以下、単に車輪速センサ11という)が配設されており、車輪速センサ11は、車輪の回転に応じて検出される単位時間当たりのパルス状の信号をカウントして、これに車輪の半径等の定数をかけて得られた車速情報を取得する。車速情報は例えばブレーキECUを介してCAN上に送出され、エンジンECU15等が受信する。
【0016】
メータECU16は、メータパネルにACCのセット車速31や上限車速32を表示して、乗員に現在の値を提供する。また、操作レバー18の操作によりACCのセット車速31及びASLの上限車速32の入力を受け付ける。セット車速31の設定方法の一例は、例えば、操作レバー18の操作によるものであり、所定の車速範囲で操作レバー18を下方向に操作し中立位置に戻した時の車速を取得し、これをエンジンECU15に送信するというものである。また、メータECU16は操作レバー18を下方向に操作した操作時間をエンジンECU15に送信するので、下方向への操作時間に応じてセット車速31を低減することができる。同様に、操作レバー18が上方向に操作されると、エンジンECU15は操作時間に応じてセット車速31を増加させる。
【0017】
上限車速32の設定方法の一例は、同様に操作レバー18を操作するものである。操作レバー18を共用する場合、例えばACCのセット車速31とASLの上限車速32の設定を切り替える切り替えボタンを押下する。押下したまま操作レバー18を下方向に操作し中立位置に戻すと、その時の車速が上限車速32に設定される。また、切り替えボタンを押下したまま操作レバー18を下方向に操作した操作時間に応じて、エンジンECU15は上限車速32を低減する。切り替えボタンを押下したまま操作レバー18が上方向に操作されると、エンジンECU15は操作時間に応じて上限車速32を増加させる。なお、上限車速32は、それ以上には加速したくない車速であるので、実際の車速を上限車速32に設定する方法では、一度はその車速まで加速する必要がある。このため、上限車速32は例えばタッチパネルから数値で入力したり、停止した状態で操作レバー18を上下に操作させることで設定可能としてもよい。
【0018】
ACCは、操作レバー18の端部に設けられたスイッチによりオン/オフされ、ASLは所定のボタンにより速度制限機能がオン/オフされる。また、ACCは操作レバー18を手前側に引き起こすこと又はブレーキペダルの操作、により追従走行を一時的にキャンセルし、上方向に操作すると追従走行に復帰する(レジューム)。また、ACCは追従走行の際の車間距離を設定するボタンを有し、ボタンを押下する毎に例えば「距離大」、「距離中」、「距離小」の三段階から車間距離を選択できる。なお、車間距離は自車両の車速に応じて可変となる。
【0019】
エンジンECU15は、ROMに記憶されたプログラムをRAMを作業メモリにして実行するCPU、所定のロジック回路を実装したASIC(Application Specific Integrated Circuit)、不揮発メモリ、CAN通信部、センサやアクチュエータと接続された入出力インターフェイス、クロック等を備えたコンピュータを実体とする。エンジンECU15には電子スロットル17が接続されている。電子スロットル17は、エンジンの燃焼室内に導入される吸入空気量を調整するスロットル弁であり、エンジンECU15が演算した電子スロットル17の要求開度に応じてアクチュエータを制御してスロットル弁の開度を調整する。電子スロットル17には、スロットル弁の開度を検出するセンサ(例えば、ポテンショメータ)が配置されており、電子スロットル17は、センサが検出した開度が要求開度に等しくなるようフィードバック制御する。
【0020】
電子スロットル17の開度が増加されると、エンジンの燃焼室内へ導入される吸入空気量が増加し車両は加速する。電子スロットル17の開度が減少されると、エンジンの燃焼室内へ導入される吸入空気量が減少し、車両が減速する。したがって、電子スロットル17の開度により車両の加減速度を制御できる。
【0021】
なお、エンジンECU15は、エアフローセンサにより吸入空気量を検出し、エンジンの燃焼室内への吸入空気量(スロットル開度)に応じて燃料噴射弁の開閉時間を制御する。これにより、燃焼室内の空燃比が最適とすること、具体的には、エンジン始動時、アイドリング時、定速走行時、加速時、アクセル開度全開時、等のそれぞれに最適な空燃比を実現する。
【0022】
電子スロットル17の要求開度は、運転者によるアクセルペダル14の操作量に応じて決定される場合と、ACC又はASLにより決定される場合がある。ACCによる追従走行の作動中は運転者のアクセルペダル14が優先され、ASLについてはアクセルペダル14の操作に優先して車速を制限する。アクセルペダル14の操作量はアクセルペダルストロークセンサ19により検出される。
【0023】
図3は、エンジンECU15の機能ブロック図の一例を示す。エンジンECU15は、CPUがプログラムを実行するか又はASIC等のハードウェアにより実現される、機能ブロックを有する。すなわち、目標車間距離を決定する目標車間距離決定部24、電子スロットル17の要求開度を決定する要求開度決定部25、要求開度に応じてスロットル開度を制御するスロットル開度制御部26、車両をセット車速31で定速走行させる定速走行部22、上限車速32よりも車速が大きくなることを禁止する加速禁止部23及び上限車速32を変更する上限車速変更部21を有する。以下、それぞれについて詳述する。なお、エンジンECUのRAM又は不揮発メモリにはセット車速31又は上限車速32が記憶される。
【0024】
〔ACCについて〕
エンジンECU15によるACCについて説明する。目標車間距離決定部24は、追従した先行車両の車速に応じて目標車間距離を決定する。図4(a)は、目標車間距離を決定するためのマップの一例である。先行車両の車速が速いほど車間距離を開けることで十分な制動距離が確保できるため、先行車の車速が速いほど目標車間距離も漸増する。また、上記のように、運転者の好みの車間距離を設定できる場合は、図示するように「距離大」、「距離中」、「距離小」のそれぞれの目標車間距離が登録されている。なお、定常状態では、先行車両の車速と自車両の車速は等しいので、図4(a)の先行車両の車速は、自車両の車速とみなしてもよい。
【0025】
目標車間距離は、例えば「距離大」、「距離中」、「距離小」のそれぞれにおいて車間時間が一定となるよう決定される。車間時間とは、先行車両が停止した場合に先行車両に到達するまで時間(「目標車間距離/先行車両の車速」)であるので、図4(a)の各ライン上はこの値が一定になる。例えば、「距離大」の場合で7秒程度、「距離中」の場合で5秒程度、「距離小」の場合で3秒程度である。
【0026】
要求開度決定部25は、電子スロットル17の要求開度を決定する。先行車両に追従する際の電子スロットル17の要求開度は、目標車間距離を保つ制御から決定される。レーダセンサ12で検出した車間距離が目標車間距離よりも大きければ加速して車間距離を縮めるべきであり、車間距離が目標車間距離よりも小さければ減速して車間距離を広げるべきである。したがって、車間距離を保つ制御において、電子スロットル17の要求開度は次式から算出される。
要求開度Md=M(元)+Gd(目標車間距離−車間距離) …(1)
なお、Gdはゲイン、M(元)はサイクル時間毎に制御する際の直前の電子スロットル17の要求開度のである。したがって、目標車間距離>車間距離であれば要求開度Mdは増大し、目標車間距離<車間距離であればMdは減少する。
【0027】
そして、車間制御に加え、相対速度を一定(例えばゼロ)にする制御を加えることが好ましい。これにより、定速制御への移行、車間維持の応答性の向上が期待できる。相対速度をゼロにする制御には目標加減速度を利用する。図4(b)は相対速度と目標加減速度の関係を登録したマップの一例である。相対速度がゼロの場合(定常的に追従走行している場合)は目標加減速度もゼロとなり、相対速度が正(接近側)の場合には目標加減速度は負(減速度)が、相対速度が負(離間側)の場合には目標加減速度は正(加速度)が、対応づけられている。
【0028】
そして、電子スロットル17の要求開度は、目標加減速度と自車両の加減速度から決定される。車両の加減速度は、車輪速センサ11が検出する自車両の速度を例えば微分することで得られる。以上から、相対速度をゼロに保つ制御において、電子スロットル17の要求開度は次式から算出される。Gsはゲインである。
要求開度Ms=M(元)+Gs(目標加減速度−自車両の加減速度) …(2)
したがって、式(1)と(2)から、要求開度決定部25は次式に基づき最終的な要求開度Mを決定する。なお、式(2)において目標加減速度と自車両の加減速度の代わりに、目標車速と自車両の車速(すなわち相対速度)を用いてもよい。
要求開度M=M(元)+Gd(目標車間距離−車間距離)+ Gs(目標加減速度−自車両の加減速度) …(3)
このようにして決定された要求開度はスロットル開度制御部26に送出され、スロットル開度制御部26は、サイクル時間毎に電子スロットル17のスロットル開度をフィードバック制御する。なお、次述するように、定速走行部22は、先行車両に追従走行していても自車両の車速がセット車速31と同程度となると、セット車速31で定速走行させる。また、先行車両が補足されない場合も、セット車速31にて定速走行させる。
【0029】
・加速の場合
加速の場合の制御例について図5に基づき説明する。図5(a)(b)は自車両と先行車両の車間距離を模式的に示し、図5(c)(d)は自車両と先行車両の車速の時間的な変化を、図5(e)は車間距離の時間的な変化をそれぞれ示す。目標車間距離を保ち相対速度がゼロの状態で先行車両に自車両が追従走行していたが、先行車両が加速したため、車間距離が目標車間距離よりも大きくなった。先行車両の加速により車間距離が目標車間距離よりも大きくなるので、式(3)の第2項は正となる。また、先行車両が加速すると相対速度が負になるので図4(b)の目標加減速度は正(加速側となる)となり、これは直前の自車両の加速度(例えばゼロ)よりも大きいので、式(3)の第3項も正となる。したがって、電子スロットル17の要求開度Mは増加し自車両は加速することができる。
【0030】
車間距離が目標車間距離に接近するほど(3)式の第2項は小さくなり、自車両の加速により相対速度がゼロに近づくほど目標加減速度が小さくなるため第3項は小さくなる。したがって、やがて目標車間距離と車間距離は等しくなり、先行車両と自車両は同じ車速V2にて定速走行する。
【0031】
セット車速31による定速走行について説明する。図5(f)はセット車速31による加速の制限を、図5(g)は車間距離の時間的変化をそれぞれ示す。加速の際、定速走行部22は、自車両の車速を監視し、セット車速31と同程度となるとそれ以上の加速を禁止し、セット車速一定で定速走行するよう要求開度決定部25に要求する。この場合、セット車速が先行車両の車速に置き換わることになるので、自車両の車速とセット車速31の相対速度に応じて要求開度を決定すればよい。また、車速に応じた車間距離を保つ制御は不要となる。したがって、自車両の車速とセット車速31がほぼ等しくなると、要求開度決定部25は、次式から要求開度Mを決定する。
要求開度M=M(元)+ Gs(セット車速31と自車両の車速から決定した目標加減速度−自車両の加減速度) …(4)
セット車速31と自車両の車速の相対速度はほぼゼロなので、自車両の加減速度が正の間(加速してきた場合)、要求開度は徐々に小さくなり、自車両の加減速度はゼロに近づき、セット車速31で定速走行するようになる。なお、セット車速31による車速調整のショックを低減するため、セット車速31よりも低い車速から徐々に加速度を調整することが好ましい。
【0032】
・減速の場合
一方、先行車両が減速した場合や他車線から割込みがあった場合、自車両が減速することになるが、減速の場合の追従走行においても電子スロットルの要求開度は同様に決定できる。先行車両の減速により車間距離が目標車間距離よりも短くなるので、式(3)の第2項は負となる。また、先行車両が減速すると相対速度が正になるので図4(b)の目標加減速度は負(減速側となる)となり、これは直前の自車両の加速度(例えばゼロ)よりも小さいので、式(3)の第2項も負となる。したがって、電子スロットル17の要求開度Mは減少し自車両は減速することができる。
【0033】
なお、相対速度により決定された目標加減速度が所定値以上の場合(大きく減速する場合)、スロットル開度の低減による減速だけでなく自動制動される。また、TTC(Time To Collision)が所定値以下になると、シートベルト巻き上げ、警告、自動制動の一連のプリクラッシュセーフティ制御が実行される。
【0034】
〔上限車速32による車速制限〕
加速禁止部23は、例えばアクセルペダル14が操作されている場合、自車両の車速が上限車速32と同程度となるとそれ以上の加速を禁止する。したがって、加速禁止部23の制御により、アクセル開度が100%(全開)でも自車両の車速が、上限車速32を超えることを防止できる。なお、上限車速32は運転者が可変に設定できるだけでなく、上限車速変更部21が先行車両の車速に応じて変更することができる。
【0035】
上限車速32による車速の制限は、セット車速31によるものと同様であり、セット車速31が上限車速32に置き換えられたものとして扱うことができる。アクセルペダル14が踏まれた状態の加速の際、加速禁止部23は、自車両の車速を監視し、上限車速32と同程度となるとそれ以上の加速を禁止し、上限車速一定で定速走行するよう要求開度決定部25に要求する。すなわち、自車両の車速と上限車速32の相対速度に応じて要求開度を決定すればよい。また、車速に応じた車間距離を保つ制御は不要となる。したがって、自車両の車速と上限車速32がほぼ等しくなると、要求開度決定部25は、次式から要求開度Mを決定する。
要求開度M=M(元)+ Gs(上限車速32と自車両の車速から決定した目標加減速度−自車両の加減速度) …(5)
〔上限車速32の変更〕
上限車速変更部21はこの上限車速32を先行車両の車速に応じて変更する。変更には増大することと低減することが含まれるが、まず上限車速32の低減について説明する。
【0036】
・上限車速32の低減
図6は、上限車速32の変更を模式的に説明する図の一例である。図6(a)では、先行車両の車速より大きな上限車速32が設定されている。アクセルペダル14の踏み込みはACCよりも優先されるので、アクセルペダル14の踏み込みにより自車両の車速が先行車両の車速を超えることがあり(相対速度が正になり)、車間距離が縮まる。このため、両者が異常接近するおそれがある。そこで、図6(a)のように上限車速32が先行車両の車速よりも大きい場合、上限車速変更部21は上限車速32を低減する。
【0037】
図6(b)は、変更後の上限車速32の一例を示す図である。先行車両との異常接近を回避するには、上限車速32が先行車両の車速と同程度以下であればよいので、上限車速変更部21は先行車両の車速以下に上限車速32を変更する。先行車両の車速は、レーダセンサ12による相対速度と自車両の車速から既知である。
【0038】
なお、上限車速32は必ずしも先行車両の車速以下である必要はなく、相対速度を極端に小さくした上限車速32も含まれる。
【0039】
上限車速32は一度に変更するのでなく、図6(c)に示すように、先行車両の車速まで段階的に低減することができる。これは、先行車両を認識している運転者の意志で車間を詰めたい場合などに、上限車速32を制限するとドライバビリティが低下する場合があるからである。したがって、上限車速変更部21は、例えば先行車両との車間距離に応じて徐々に上限車速32を低減する。最小限の車間距離にて上限車速32を先行車両の車速に設定すれば、運転者の意志による車間距離の調整を制約しにくいため、操作性に違和感を与えることも少ない。低減された後の上限車速32はRAMや不揮発メモリに記憶される。
【0040】
上限車速32の変更条件(低減の場合)について説明する。先行車両との車間を保つべきなのは、a)ACCにより先行車両が補足されていること、b)相対速度が正の場合(接近している場合)、c)アクセルペダル14が操作されている場合、の条件を全て満たす場合である。a)が条件となるのは、先行車両が存在しなければ上限車速32を変更する必要はないからであり、b)が条件となるのは先行車両が補足されても接近していなければ異常接近するおそれもないからであり、c)を条件とするのはアクセルペダル14が操作されていなければACCにより追従走行されるからである。
【0041】
なお、上限b)は、上限車速32が先行車両の車速より大きい、という条件と置き換えてもよい。上限車速32が先行車両の車速より大きくなければ、アクセルペダル14を操作した際に車速が制限され先行車両に接近できないためである。
【0042】
・上限車速32の増加
上限車速変更部21が自動的に低減した上限車速32は、元に戻しておくことが好ましい。これは、先行車両が補足されてない状態で、運転者がアクセルペダル14を操作した際に、変更後の上限車速32により車速が制限されるのを防止するためである。したがって、例えば、上記a)〜c)の条件のいずれか1以上が満たされなくなると、上限車速変更部21は運転者が操作レバー18で設定した上限車速32に戻す。これにより、運転者が上限車速32を設定し直す必要をなくし利便性を向上できる。
【0043】
〔車速制御装置100の動作手順〕
以上の構成に基づき、車速制御装置100の動作手順について図7のフローチャート図を用いて説明する。上限車速32はASLの機能であるため上限車速32を変更するのはASLがオンの場合である。このため、図7のフローチャート図は、ASLがオンである場合に所定のサイクル時間毎に繰り返し実行される。なお、ACCはオンであるものとするが、これは先行車両の補足にレーダセンサ12が必要であるためで、必ずしも追従走行している必要はない。
【0044】
まず、上限車速変更部21は、レーダセンサ12により先行車両が補足されているか否かを判定する(S10)。補足されているか否かは、車間距離制御ECU13から車間距離及び相対速度が送信されるか否かにより判別される。
【0045】
レーダセンサ12により先行車両が補足されている場合(S10のYes)、上限車速変更部21は相対速度が正か否かを判定する(S20)。
【0046】
相対速度が正の場合(S20のYes)、上限車速変更部21は、アクセルペダル14が操作されているか否かを判定する(S30)。アクセルペダル14が操作されている場合(S30のYes)、上限車速変更部21は先行車両の例えば平均的な車速を新たな上限車速32に設定する(S40)。
【0047】
ステップS10に戻り、レーダセンサ12により先行車両が補足されていない場合(S10のNo)、定速走行部22によりセット車速31にて定速走行する(S50)。
【0048】
また、ステップS20に戻り、相対速度が正でない場合(S20のNo)、両者は離間していることになるが、この場合、セット車速31を上限に追従走行し、セット車速31に達すると定速走行部22がセット車速31で定速走行させることになる(S60)。
【0049】
また、ステップS30において、アクセルペダル14が操作されていない場合(S30のNo)、ACCが有効になり両者が接近しているので車間距離を保ちながら先行車両に追従走行する(S70)。
【0050】
したがって、本実施形態の車速制御装置100によれば、ACCによる追従走行からアクセルペダル14の操作により先行車両と接近しても、上限車速32を変更することで先行車両との異常接近を防止できる。すなわち、アクセルペダル14が踏み込まれていない場合はACCにより追従走行ができ、アクセルペダル14が踏み込まれた場合はASLにより異常接近しないように車速を制限できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】車速制御装置による車速制御を模式的に説明する図の一例である。
【図2】車速制御装置のブロック図の一例である。
【図3】エンジンECUの機能ブロック図の一例である。
【図4】目標車間距離、目標減速度を決定するためのマップの一例である。
【図5】自車両と先行車両の関係を模式的に説明する図の一例である。
【図6】上限車速の変更を模式的に説明する図の一例である。
【図7】車速制御装置の動作手順を示すフローチャート図の一例である。
【符号の説明】
【0052】
11 車輪速センサ
12 レーダセンサ
13 車間距離制御ECU
14 アクセルペダル
15 エンジンECU
17 電子スロットル
21 上限車速変更部
22 定速走行部
23 加速禁止部
31 セット車速
32 上限車速
100 車速制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行車両が補足された場合は予め定められたセット車速を上限に追従走行する追従走行手段と、アクセルペダルが踏み込まれても予め設定した上限車速により車速を制限する上限車速制限手段と、を有する車速制御装置であって、
アクセルペダルの操作を検出するアクセルペダル操作検出手段と、
先行車両との相対速度を検出する相対速度検出手段と、
自車両の車速を検出する自車両速度検出手段と、
相対速度から先行車両に接近していると判定され、かつ、アクセルペダルの操作が検出された場合、前記上限車速を先行車両の車速以下に設定する上限車速変更手段と、
を有することを特徴とする車速制御装置。
【請求項2】
アクセルペダルが踏み込まれても予め設定した上限車速により車速を制限する車速制御方法において、
自車両の車速を検出するステップと、
先行車両を補足して相対速度を検出するステップと、
先行車両が補足されない場合はセット車速で定速走行するステップと、
補足された先行車両との相対速度から先行車両に接近しているか否かを判定するステップと、
アクセルペダルの操作を検出するステップと、
相対速度から車間距離が接近していると判定され、かつ、アクセルペダルの操作が検出された場合、前記上限車速を先行車両の車速以下に設定するステップと、
を有することを特徴とする車速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−95220(P2010−95220A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269840(P2008−269840)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】