説明

転がり軸受装置の組立て方法

【課題】組立てられる軸受装置の密封部の長期安定化を図るとともに、製造を容易にする。
【解決手段】外輪部材と、内輪部材と、外輪部材側の第1シールリングと、内輪部材側の第2シールリングと、第1シールリングに固定される磁気センサと、第2シールリング側に設けられている多極磁石ロータとを備えた転がり軸受装置の組立て方法であって、多極磁石ロータは環状芯金によって支持されており、環状芯金の円筒部と記第2シールリングの円筒部とを嵌合した状態で、第1シールリングと第2シールリングとを抱き合わせる形に仮組みしておいて、環状芯金および第2シールリングを内輪部材に圧入嵌合するとともに、第1シールリングを外輪部材に圧入嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのシールリングを組み合わせているとともに回転検出器としての磁気センサおよびパルサリングを組み込んだ転がり軸受装置を組み立てる組立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような転がり軸受では、固定側の軌道輪に取り付けられるシールリングに磁気センサを、また、回転側の軌道輪に取り付けられるシールリングにパルサリングをそれぞれ取り付けるようにする。パルサリングは、ゴムに磁性粉を混入して着磁されたものからなる。前記パルサリングの一部分は、シールリングに設けられたゴム製のシール部と接触して軸受内部を密封する密封部の一部を構成している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】フランス特許公報FR2 574 501−A1(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例では、シール部と摺接するパルサリングの一部を磁性粉入りのゴムで形成しているために、磁性粉が研磨粒子となり、その接触相手(固定側のシール部)が摩耗しやすくなるおそれがある。
【0005】
また、従来例では、パルサリングを設ける側のシールリングの製造が難しくなるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外輪部材と、前記外輪部材と同心で転動体を介して回転自在に設けられた内輪部材と、前記外輪部材に固定される第1シールリングおよび前記内輪部材に固定される第2シールリングを組み合わせたシール装置と、前記第1シールリングに固定されている磁気センサと、前記磁気センサと対向するよう前記第2シールリング側に設けられている多極磁石ロータとを備えた転がり軸受装置を組み立てる組立て方法であって、前記多極磁石ロータは、環状芯金によって支持されており、前記環状芯金の円筒部と前記第2シールリングの円筒部とを嵌合して前記多極磁石ロータを前記第2シールリング側に設けた状態で、前記第1シールリングと前記第2シールリングとを抱き合わせる形に仮組みしておいて、前記環状芯金および前記第2シールリングを前記内輪部材に圧入嵌合するとともに、前記第1シールリングを前記外輪部材に圧入嵌合することを特徴とする。
【0007】
第2シールリングには通常、リップが設けられるが、多極磁石ロータは環状芯金に設けられる。このように、第2シールリングのリップと多極磁石ロータとは別の部材に設けられるから、第2シールリングのリップを、多極磁石ロータのような素材、つまり研磨粒子となりうる磁性粉入りのゴムまたは樹脂とせずに、磁性粉を混入していないゴムまたは樹脂で形成することができ、このリップの接触相手である第1シールリングの摩耗が抑制される。
【0008】
また、多極磁石ロータを環状芯金に設けて、第2シールリングと別体にしているから、それらを個別に簡単に製造できるようになる。
【0009】
上記構成の転がり軸受装置の組立て方法において、前記多極磁石ロータよりも軸方向外側において第2シールリングの径方向外方に延びる部分を前記第1シールリングに近接対向させることにより、前記多極磁石ロータの軸方向外側を密封する構成とすることが望ましい。
【0010】
上記の構成によれば、第2シールリングの径方向外方に延びる部分により形成される密封部が、多極磁石ロータよりも外側に配置しているので、多極磁石ロータがダストなどにより汚れることを防止できて、検出精度の低下を回避できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組立て方法で組み立てられる軸受装置では、シール装置の第1シールリングの摩耗を抑制できるほか、多極磁石ロータと第2シールリングとを個別に簡単に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の断面図
【図2】図1の装置の要部を拡大して示す図
【図3】図2の回転検出器を示す正面図
【図4】磁気センサを正逆検知センサとする場合の説明図
【図5】図4の正逆検知センサから出力される検出信号を示す図
【図6】参考例で、図2に対応する図
【図7】他の参考例で、図2に対応する図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から図3に本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、自動車の駆動輪側に用いる転がり軸受装置1に、本発明の組立て方法により、シール装置を組み込んで軸受装置を組み立てた状態で説明する。図1において転がり軸受装置1の左側は車両アウタ側で、右側は車両インナ側である。
【0014】
非回転に固定される外輪部材2に、それぞれ冠形保持器6a,6bで円周等間隔に配置された二列の転動体(例えば玉)4,5を介して、内軸部材3が軸心回りに回転自在に支持されている。
【0015】
外輪部材2の外周面には、径方向外方に延びるフランジ部21が形成されている。このフランジ部21が車体の一部となるナックル9にボルト10で固定されることで、外輪部材2が非回転に固定される。
【0016】
内軸部材3は、内軸31と、単列アンギュラ玉軸受に用いられる内輪32とから構成されている。内輪32は、内軸31の胴部の車両インナ側に外嵌装着されるものであり、内軸31の車両インナ側端部を径方向外方にローリングかしめすることにより、内軸31に内輪32が一体化されている。
【0017】
二列の転動体4,5は、外輪部材2の内周面に軸方向隣り合わせに設けられる二つの軌道部と、内軸31の外周面に設けられる軌道部および内輪32の外周面に設けられる軌道部との各間に介装されている。
【0018】
内軸31の外周面において車両アウタ側には、径方向外方に延びるフランジ部34が一体的に形成されている。フランジ部34に、図示しないがブレーキディスクや車輪が取付けられる。内軸31の中心孔には、等速ジョイント(CVJ)の椀形外輪12に一体的に形成された軸部13がスプライン嵌合されていて、この軸部13の車両アウタ側端部にナット14が螺着されることで、椀形外輪12が内軸部材3に一体化されている。
【0019】
外輪部材2と内軸部材3との間の軸方向両側には、第1、第2シール装置7,8が取り付けられている。両シール装置7,8は、転動体4,5が配置される環状空間11内の潤滑剤が外部に漏れるのを防止するとともに、環状空間11内に外部の泥水等が浸入するのを防止する。
【0020】
車両アウタ側に配置される第1シール装置7は、詳細に図示していないが、外輪部材2に内嵌した金属環に、内軸31に摺接するゴム製リップを接着した構成である。
【0021】
車両インナ側に配置される第2シール装置8は、図2に示すように、第1シールリング81と、第2シールリング82とを組み合わせた構成であり、いわゆるパックシールと呼ばれるものである。この第2シール装置8に、内軸部材3(内軸31および内輪32)の回転状態(回転位相、回転速度、回転数、回転方向など)を検出する回転検出器として磁気センサ15およびパルサリング16を組み込んでいるので、以下で詳しく説明する。
【0022】
第1シールリング81は、外輪部材2に取り付けられるもので、第1金属環83に主リップ84および補助リップ85を被着した構成である。第1金属環83は、円筒部83aと、円筒部83aの軸方向内端から径方向内方に延びる鍔部83bとを有し、鍔部83bの内周に主リップ84および補助リップ85が加硫接着されている。第1金属環83における円筒部83aの外周面全周に所定厚みの樹脂製外装体17を積層して、樹脂製外装体17内に磁気センサ15を埋設している。樹脂製外装体17の円周所定位置には、磁気センサ15と車体の電子回路に接続されたハーネス(図示せず)とを接続するための雌型のコネクタ20が径方向外方に突出する状態で一体に形成されている。
【0023】
第2シールリング82は、内輪32に取り付けられるもので、第2金属環86に径方向リップ87を被着した構成である。第2金属環86は、円筒部86aと、円筒部86aの軸方向外端に径方向外方に延びるよう一体形成された鍔部86bとを有し、鍔部86bの外周に径方向リップ87が加硫接着されている。この第2シールリング82にパルサリング16が取り付けられている。
【0024】
なお、各リップ84,85,87は、ニトリルブタジエンラバー(NBR)などのゴムからなるが、適宜の樹脂とすることもできる。
【0025】
パルサリング16は、環状芯金18に多極磁石ロータ19を接着したものからなる。環状芯金18は、径方向内外に同心配置される内筒部18aと外筒部18bとの各軸方向外端側を環状板部18cで一体に連接した構成である。多極磁石ロータ19は、環状芯金18の外筒部18bの外周面に磁性粉を含有した水素化ニトリルブタジエンラバー(H−NBR)などのゴムまたは樹脂を加硫接着して周方向交互にN極、S極を配置するように径方向から着磁したものである。この多極磁石ロータ19では、図3および図5に示すように、周方向で隣り合う各磁極間をループする磁力線が外径側へ放出されるようになっている。なお、多極磁石ロータ19の原料を環状板部18cの外側面を覆うように回り込ませているので、この環状芯金18と第2金属環86との嵌め合い面から外部の水分が染み込むことを防止できる。このような多極磁石ロータ19の原料の回り込み部分を設けないようにしてもよい。
【0026】
そして、環状芯金18の内筒部18aが第2金属環86の円筒部86aに嵌合されることで第2シールリング82にパルサリング16が取り付けられているとともに、パルサリング16が磁気センサ15に径方向で対向されている。これにより、図3に示すように、パルサリング16の多極磁石ロータ19において周方向で隣り合う各磁極間をループする磁力線が外径側に放出されて磁気センサ15の検出面に入るようになる。
【0027】
なお、第1金属環83は、磁気センサ15が取り付けられる関係より、例えば非磁性ステンレス鋼(JIS規格SUS304)などの非磁性材で形成されている。また、環状芯金18は、多極磁石ロータ19から内径側へ放出される磁力線を集束する磁路とするために、例えば磁性ステンレス鋼(JIS規格SUS430)などの磁性材で形成されている
。さらに、磁気センサ15をモールドする樹脂製外装体17は、非磁性の樹脂材、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)などのエンジニアリングプラスチックとされる。そして、第1シールリング81と第2シールリング82とで囲む空間には、図示しないがグリースなどの潤滑剤が封入されている。
【0028】
このような第2シール装置8は、第1シールリング81と、パルサリング16を一体的に取り付けた第2シールリング82とを抱き合わせる形に仮組みしておいて、第2金属環86を内輪32の外周面の肩部32aに圧入嵌合するとともに、第1シールリング81の樹脂製外装体17を外輪部材2の内周面の肩部2aに圧入嵌合し、樹脂製外装体17のフランジ部17aを外輪部材2の車両インナ側の端面2bに当接させることにより第1シールリング81を位置決めする。このように取り付けた状態で、第1シールリング81の主リップ84および補助リップ85が環状芯金18における内筒部18a外周面に接触され、第2シールリング82の径方向リップ87が第1金属環83の円筒部83aの内周面に接触される。径方向リップ87をパルサリング16よりも外側に配置しているので、このパルサリング16がダストなどにより汚れることを防止できて、検出精度の低下を回避できる。また、第1シールリング81の主リップ84および補助リップ85によって転動体5および軌道部から隔離されているので、転動体5の回転によって生じる金属摩耗粉などがパルサリング16に付着することを防止でき、検出精度の低下を回避できる。
【0029】
以上説明したように、第2シール装置8において、パルサリング16の多極磁石ロータ19を第2シールリング82の径方向リップ87と別々に設けて、径方向リップ87を研磨粒子となりうる磁性粉の混入していないゴムで形成しているので、径方向リップ87の接触相手である第1金属環83を摩耗させるような攻撃性を無くすことができる。これにより、長期にわたって安定した密封性を発揮できるようになる。
【0030】
この他、パルサリング16を第2シールリング82と別体にしているから、それらを個別に簡単に製造できるようになって、製造コストを低減できる。特に、上記実施形態では、環状芯金18の内筒部18aおよび外筒部18bを、第1シールリング81および第2シールリング82の軸方向幅内に配置しているので、第2シール装置8全体の軸方向幅を大きくする必要がなく、コンパクト化に貢献できる。また、パルサリング16の軸方向幅を、第1シールリング81と第2シールリング82との軸方向対向間隔に収まる範囲で最大にすれば、環状芯金18の環状板部18cの側面に接着するような場合に比べて、磁気センサ15に対する対向面積を大きく確保できて磁気センサ15による検出精度を可及的に高めることが可能になる。
【0031】
以下、本発明の他の実施形態や応用例を説明する。
【0032】
(1)上記第2シール装置8は、図示しないが自動車の従動輪側に用いる転がり軸受装置にも用いることができる他、いろいろな場所に用いることができる。
【0033】
(2)上記磁気センサ15としては、例えば、図4に示すように、ホール素子や磁気抵抗素子などの2個のセンサ素子22a,22bからなる正逆検知センサとすることができる。2個のセンサ素子22a,22bは、円周方向に離れて配置され、その配置間隔は、図5に示すように互いの出力位相が90度となる間隔(λ/4)である。λは多極磁石ロータ19の着磁ピッチである。着磁ピッチとはN極の周方向着磁長さとこれに隣り合うS極の周方向着磁長さとの合計長さである。一方のセンサ素子22aが図5(A)の矩形波信号を出力すると、他方のセンサ素子22bは、図5(A)の矩形波信号に対して90度位相がずれた図5(B)の矩形波信号を出力する。つまり、正逆検知センサに対する多極磁石ロータ19の対向状態が多極磁石ロータ19の回転速度や回転方向に応じて変化すると、その変化に対応して正逆検知センサ15の各センサ素子22a,22bからの矩形波信号の位相関係や位相の周期が変化するので、この両矩形波信号に対して信号処理を施すことにより、内軸部材3の回転位相、回転速度、回転数、回転方向などを求めることができる。
【0034】
参考例を図6に示す。この例では、第2金属環86について、鍔部86bの外周に円筒部86aと同心の外筒部86cを一体に連接した構成にしている。そして、外筒部86cの外周面に多極磁石ロータ19を直接、加硫接着しているとともに、この多極磁石ロータ19の車両インナ側に隣り合わせとなるように径方向リップ87を被着している。この実施形態でも、径方向リップ87を、図2に示した実施形態と同様、磁性粉を混入していないゴムまたは樹脂で形成している。
【0035】
他の参考例を図7に示す。この例では、第2金属環86について、円筒部86aの軸方向寸法を短くし、この円筒部86aの内側から径方向外方に延びる鍔部86bを一体に設け、この鍔部86bの外周を横向きU字形に屈曲して外筒部86cを形成した構成にしている。そして、この鍔部86bの内側面に第1金属環83の鍔部83bに接触する軸方向リップ88を加硫接着し、外筒部86cの外周面に多極磁石ロータ19を直接、加硫接着しており、さらに、第1シールリング81の主リップ84および補助リップ85を内輪32の外周面肩部に直接接触させるようにしている。この実施形態でも、軸方向リップ87を、図2に示した実施形態と同様、磁性粉を混入していないゴムまたは樹脂で形成している。
【符号の説明】
【0036】
2 外輪部材 3 内軸部材
32 内輪 8 第2シール装置
81 第1シールリング 82 第2シールリング
86 第2金属環 87 径方向リップ
15 磁気センサ 16 パルサリング
17 樹脂製外装体 18 環状芯金
19 多極磁石ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪部材と、前記外輪部材と同心で転動体を介して回転自在に設けられた内輪部材と、前記外輪部材に固定される第1シールリングおよび前記内輪部材に固定される第2シールリングを組み合わせたシール装置と、前記第1シールリングに固定されている磁気センサと、前記磁気センサと対向するよう前記第2シールリング側に設けられている多極磁石ロータとを備えた転がり軸受装置を組み立てる組立て方法であって、
前記多極磁石ロータは、環状芯金によって支持されており、
前記環状芯金の円筒部と前記第2シールリングの円筒部とを嵌合して前記多極磁石ロータを前記第2シールリング側に設けた状態で、前記第1シールリングと前記第2シールリングとを抱き合わせる形に仮組みしておいて、
前記環状芯金および前記第2シールリングを前記内輪部材に圧入嵌合するとともに、前記第1シールリングを前記外輪部材に圧入嵌合する、ことを特徴とする転がり軸受装置の組立て方法。
【請求項2】
前記環状芯金が、前記第2シールリングの外周に嵌合されている、請求項1に記載の転がり軸受装置の組立て方法。
【請求項3】
前記多極磁石ロータよりも軸方向外側において第2シールリングの径方向外方に延びる部分を前記第1シールリングに近接対向させることにより、前記多極磁石ロータの軸方向外側を密封する、請求項1または2に記載の転がり軸受装置の組立て方法。
【請求項4】
前記磁気センサを内部に埋設した部材を前記外輪部材の車両インナ側の端面に当接させることにより、前記第1シールリングの位置決めをする、請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受装置の組立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−107753(P2012−107753A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276854(P2011−276854)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【分割の表示】特願2009−218969(P2009−218969)の分割
【原出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】