説明

転がり軸受装置

【課題】突き当てられた二個の内輪の端面間を通って外輪と内輪の間に異物が侵入することを防止する密封装置を有し、その密封装置が組付容易な構成になっている転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪2と、二個の内輪3と、外輪2と各内輪3の間に設けられる複数の転動体4とを有する転がり軸受装置1であって、二個の内輪3の突き当てた端面3aの外周側に密封装置6が設けられる。そして密封装置6は、内輪3のいずれか一つの外周面に嵌合される環状の嵌合部6a1と、嵌合部6a1から連続して嵌合部6a1よりも径が大きい円筒部6a3とを備える金属環6aと、金属環6aの円筒部6a3から延出して他方の内輪3の外周面に摺接するシールリップ6bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関し、例えば自動車の車輪の懸架装置に取付けられるホイール用ハブユニットの転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な転がり軸受装置が知られており、例えば特許文献1,2に記載の転がり軸受装置が知られている。これら転がり軸受装置は、一個の外輪と、二個の内輪と、これら外輪と内輪の間に設けられる複数の転動体を有している。そして二個の内輪の突き当てられた端面間には、これらをシールするシール部材が設けられていた。したがって二個の内輪間から泥水などが軸受内に侵入することがシール部材によって防止され、泥水の侵入による軸受内のグリースの劣化や、泥水等に含まれる異物による軸受装置の破損などが防止されていた。しかしこの転がり軸受装置は、組付け性が悪いなどの問題を有していた。
【特許文献1】特開2001−289255号公報
【特許文献2】特開平11−321211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、突き当てられた二個の内輪の端面間を通って外輪と内輪の間に異物が侵入することを防止する密封装置を有し、その密封装置が組付容易な構成になっている転がり軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える転がり軸受装置であることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によると、二個の内輪の突き当てた端面の外周側に密封装置が設けられる。その密封装置は、内輪のいずれか一つの外周面に嵌合される環状の嵌合部と、その嵌合部から連続して嵌合部よりも径が大きい円筒部とを備える金属環と、その金属環の円筒部から延出して他方の内輪の外周面に摺接するシールリップとを有している。
【0005】
したがって密封装置は、一つの内輪の外周面に嵌合されることで、一つの内輪に組付けられる。そして他方の内輪をその内輪に突き合わせることで、他方の内輪の外周面にシールリップが摺接可能に当接する。そのため密封装置は、二つの内輪の外周側に容易に組付けられる。そして突き当てられた二個の内輪の端面間を通って外輪と内輪との間に侵入しようとするオイルや異物などの侵入を防止する。また密封装置は、金属環が内輪に嵌合されるために、安定良く内輪に組付けられる。
【0006】
請求項2に記載の発明によると、シールリップは、金属環を嵌合させた内輪の端面に他方の内輪の端面を突き当てる組付作業により、他方の内輪に押されて先端部が端面に向いた状態で他方の内輪の外周面に当接する構成になっている。したがってシールリップは、二個の内輪の組付作業によって確実に先端部が所望の方向に向く。そして先端部が端面側へ向くために、二個の内輪の端面間から侵入してきた異物等の軸受内への侵入を好適に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を図1〜4にしたがって説明する。図1に示すように転がり軸受装置1は、トラック用の駆動輪支持装置10などに使用される。駆動輪支持装置10は、フルフローティングタイプ(全浮動式)であって、車軸管11と、車軸管11の外周面に取付けられる転がり軸受装置1と、車軸管11に挿通される駆動軸12を有している。転がり軸受装置1の外輪2の外周面には、ハブ輪15が固定される。ハブ輪15は、駆動軸12の先端部に形成されたフランジ12aとボルト14を介して固定される。
【0008】
ハブ輪15の車両側には、ブレーキロータ17が取付けられ、ハブ輪15のフランジ部には、駆動輪16が取付けられる。駆動軸12は、車軸管11を通ってデファレンシャルと連結されており、回転することで、ハブ輪15、駆動輪16、ブレーキロータ17および転がり軸受装置1の外輪2とともに回転する。
【0009】
転がり軸受装置1は、図2に示すように一個の外輪2と、二個の内輪3と、複数の転動体4と、二個の内輪3を締結する締結環5と、二個の内輪3の外周側に設けられる密封装置6を有している。外輪2は、内周面に二列の軌道面2aを有している。内輪3は、軌道面2aに対向する外周面に軌道面3bを有している。軌道面2aと軌道面3bの間には、複数の転動体4が転動可能に設けられている。これら転動体4は、円錐ころであって、保持器7によって周方向に所定間隔で保持される。
【0010】
二個の内輪3は、図2に示すように端面(内輪小端面)3a同士が突合わされる。端面3a寄りの外周面には、転動体4の小端面が摺接される小鍔3dが形成されている。内輪3の端面3a寄りの内周面には、締結環5が係合される係合部3cが形成されている。係合部3cは、内輪3の内周面に凹設されており、締結環5の係合片5bが係合される係合溝3c1を有している。そして二個の内輪3の係合部3c内に締結環5が収容される。
【0011】
締結環5は、金属板材から形成されており、図3に示すように本体5aと、本体5aの幅方向両端から径方向外向に延出する一対の係合片5bを有している。締結環5は、円周上の一箇所に切断部を有したC字状になっている。そのため締結環5は、縮径方向に弾性変形可能であり、縮径しつつ二個の内輪3の内周側に挿入され、弾性的に拡径される。これにより一対の係合片5bが各内輪3の係合溝3c1に係合し、締結環5が二個の内輪3を内周面側から締結する。
【0012】
密封装置6は、図3に示すように突き当てた二個の内輪3の端面3a間を通って内輪3と外輪2の間に侵入しようとするオイルや異物などの侵入を防止する装置であって、金属製の金属環6aと、弾性材料から形成されるシールリップ6bを一体に有している。金属環6aは、内輪3の一つ(左側)の外周面に嵌合される嵌合部6a1と、嵌合部6a1の一端から径方向外方に延出する立壁部6a2と、立壁部6a2の先端から他方の内輪3へ延出する円筒状の円筒部6a3を有している。
【0013】
嵌合部6a1は、図4に示すように内輪3の小鍔3dと端面3aの間に設けられる端部外周面3eに嵌合される。嵌合部6a1は、内輪3の小鍔3dに当たるまで挿入されて、小鍔3dによって位置決めがなされる。円筒部6a3は、径が嵌合部6a1よりも大きく、円筒部6a3と内輪3の外周面の間に隙間が形成され、その隙間にシールリップ6bが収容される。
【0014】
シールリップ6bは、弾性部材から形成されており、図3に示すようにシール部6b1と立壁部6a2とリップ部6b3を一体に有している。シール部6b1は、嵌合部6a1の一端部の内周面に形成された凹部に固着されており、嵌合部6a1と内輪3の外周面間をシールする。立壁部6a2は、立壁部6a2と円筒部6a3の内周面に渡って固着されている。リップ部6b3は、覆い部6b2の先端から他方の内輪3の外周面に延出し、他方の内輪3の外周面に摺接する。
【0015】
リップ部6b3は、図3,4に示すように密封装置6を取付けた内輪3の端面3aに他方の内輪3の端面3aを突き当てる組付作業時によって他方の内輪3によって押される。これによりリップ部6b3は、先端部が端面3aに向き、その向きのまま先端部が他方(右側)の内輪3の外周面に摺接する。
【0016】
図2に示すように外輪2の両端部には、ゴム製のシールリング8が取付けられる。シールリング8は、外輪2の端部と内輪3の端部の間をシールして軸受内をシールする。そしてシールされた外輪2と内輪3の間にグリースが封入される。
【0017】
転がり軸受装置1の内輪3は、図1に示すように車軸管11の外周側に設置され、ボルト13によって車軸管11に取付けられる。そのため車軸管11と内輪3の間には、わずかな隙間が形成され、ルーズな嵌め合いになっている。そのため車軸管11側からデフオイルがその隙間内に流れ込んだり、外部からの泥水がその隙間内に流れ込んだりすることがある。そのためオイルや泥水や、これらに含まれている異物などが内輪3の内周側から端面3a間を通って軸受内に侵入するおそれがある。これに対して転がり軸受装置1は、密封装置6を有しており、密封装置6によって軸受内へのデフオイルや異物などの侵入を防止することができる。
【0018】
以上のようにして実施の形態が形成されている。すなわち図2に示すように二個の内輪3の突き当てた端面3aの外周側に密封装置6が設けられる。その密封装置6は、内輪3のいずれか一つの外周面に嵌合される環状の嵌合部6a1と、嵌合部6a1から連続して嵌合部6a1よりも径が大きい円筒部6a3とを備える金属環6aと、金属環6aの円筒部6a3から延出して他方の内輪3の外周面に摺接するシールリップ6bとを有している。
【0019】
したがって密封装置6は、一つの内輪3の外周面に嵌合されることで、一つの内輪3に組付けられる。そして他方の内輪3をその内輪3に突き合わせることで、他方の内輪3の外周面にシールリップ6bが摺接可能に当接する。そのため密封装置6は、二つの内輪3の外周側に容易に組付けられる。そして突き当てられた二個の内輪3の端面3a間を通って外輪2と内輪3との間に侵入しようとするオイルや異物などの侵入を防止する。また密封装置6は、金属環6aが内輪3に嵌合されるために、安定良く内輪3に組付けられる。
【0020】
またシールリップ6bは、図3に示すように金属環6aを嵌合させた内輪3の端面3aに他方の内輪3の端面3aを突き当てる組付作業により、他方の内輪3に押されて先端部が端面3aに向いた状態で他方の内輪3の外周面に当接する構成になっている。したがってシールリップ6bは、二個の内輪3の組付作業によって確実に先端部が所望の方向に向く。そして先端部が端面3aに向くために、二個の内輪3の端面3a間から侵入してきた異物等の軸受内への侵入を好適に防止することができる。
【0021】
(他の実施の形態)
本発明は、上記実施の形態に限定されず、以下の形態であっても良い。
(1)例えば上記実施の形態の転がり軸受装置1は、締結環5を有していたが、締結環5を有していない形態であっても良い。
(2)上記実施の形態の密封装置6のシールリップ6bは、シール部6b1と覆い部6b2とリップ部6b3を有していた。しかし覆い部を有さず、シール部とリップ部を別々に有している形態であっても良い。
(3)上記実施の形態の転がり軸受装置1は、転動体4として円錐ころを有していた。しかし転動体として円柱ころや球を有している形態であっても良い。
(4)上記実施の形態の転がり軸受装置1は、トラック用の駆動輪支持装置10に利用されていたが、他の車両用部品あるいは産業用部品に利用される転がり軸受装置であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】駆動輪支持装置の断面図である。
【図2】転がり軸受装置の一部断面図である。
【図3】密封装置近傍における転がり軸受装置の一部拡大断面図である。
【図4】密封装置の組付けの様子を示す密封装置近傍における転がり軸受装置の一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1・・・転がり軸受装置
2・・・外輪
2a,3b・・・軌道面
3・・・内輪
3a・・・端面
4・・・転動体
5・・・締結環
6b・・・シールリップ
6・・・密封装置
6a1・・・嵌合部
6a・・・金属環
10・・・駆動輪支持装置
11・・・車軸管
12・・・駆動軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に二列の軌道面を有する外輪と、外輪の各軌道面に対向する軌道面を外周面に有する二個の内輪と、前記外輪と前記各内輪の軌道面間に設けられる複数の転動体とを有する転がり軸受装置であって、
前記二個の内輪の突き当てた端面の外周側に密封装置が設けられ、その密封装置は、前記内輪のいずれか一つの外周面に嵌合される環状の嵌合部と、その嵌合部から連続して前記嵌合部よりも径が大きい円筒部とを備える金属環と、その金属環の円筒部から延出して他方の内輪の外周面に摺接するシールリップとを有していることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置であって、
シールリップは、金属環を嵌合させた内輪の端面に他方の内輪の端面を突き当てる組付作業により、前記他方の内輪に押されて先端部が前記端面に向いた状態で前記他方の内輪の外周面に当接する構成になっていることを特徴とする転がり軸受装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75834(P2008−75834A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258463(P2006−258463)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】