説明

透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池

【課題】 積層数が少なくてもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有する透明ガスバリアフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、前記透明ガスバリア層が、亜酸化物無機層と炭素含有無機層とを含む積層体であり、前記樹脂基板上に、前記亜酸化物無機層と前記炭素含有無機層とがこの順に積層されており、前記炭素含有無機層が、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用いたスパッタリング法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、電子ペーパー、太陽電池、薄膜リチウムイオン電池等の各種エレクトロニクスデバイスは、近年、軽量化・薄型化が進んでいる。これらデバイスの多くは大気中の水蒸気によって変質して劣化することがわかっている。
【0003】
従来、これらデバイスにはその支持基板としてガラス基板が用いられてきたが、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えて樹脂基板の使用が検討されている。樹脂基板は、一般には、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質をもつ。したがって、上記用途においては、樹脂基板のガスバリア性を、その光透過性を維持しつつ向上させることが要求される。
【0004】
ところで、エレクトロニクスデバイスのガスバリア性は、食品包装でのそれに比べ、桁違いに高いレベルが要求されている。ガスバリア性は、例えば水蒸気透過速度(Water Vapor Transmission Rate 以下WVTR)で表される。従来の食品パッケージ用途でのWVTRの値は1〜10g・m−2・day−1程度であるのに対し、例えば薄膜シリコン太陽電池や化合物薄膜系太陽電池用途の基板に必要なWVTRは0.01g・m−2・day−1以下、さらには有機EL用途の基板に必要なそれは1×10−5g・m−2・day−1以下と考えられている。このような非常に高いガスバリア性の要求に対し、樹脂基板上にガスバリア層を形成させる方法が、種々提案されている。
【0005】
例えば、無機層とポリマー層とを交互に複数層積層させてハイブリッド化することによりガスバリア性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、異なる材料の層を異なるプロセスにより形成するため、生産効率やコストの観点からは好ましいものとはいえない。また、十分なガスバリア性を得るためには積層の数を増やしたり、各層を厚く形成する必要があり、そのために製造効率が低下するという問題があった。また、無機層とポリマー層との密着性が低く、経時劣化や屈曲による劣化が起こりやすいという問題もあった。
【0006】
一方、単層でガスバリア効果を得る手段として、炭化シリコンをスパッタした薄膜を形成することが提案されている。炭化シリコン薄膜は光吸収が大きいため着色が生じるが、スパッタ時に窒素や酸素を加えることで光透過性が付与できるとされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2996516号公報
【特許文献2】特開2004−151528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によると、スパッタ時に窒素を加えることで、ガスバリア性は向上するが光透過性の低い層が形成され、また、酸素を加えることで、光透過性は向上するが、ガスバリア性が低下するという問題が見出された。すなわち、ガスバリア性と光透過性とは、ガスバリア層形成条件においてトレードオフの関係にある。
【0009】
そこで、本発明は、透明ガスバリア層の積層数が少なくてもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有する透明ガスバリアフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、亜酸化物無機層と炭素含有無機層とを含む積層体であり、
前記樹脂基板上に、前記亜酸化物無機層と前記炭素含有無機層とがこの順に積層されており、
前記炭素含有無機層が、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用いたスパッタリング法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む層であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記樹脂基板上に、亜酸化物無機層を形成する亜酸化物無機層形成工程と、
炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応性ガスとして窒素含有ガスを用いるスパッタリング法で、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む無機層を、前記亜酸化物無機層の上に形成する炭素含有無機層形成工程と
を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
さらに、背面封止部材を有し、
前記積層体の少なくとも一部が前記背面封止部材で被覆されており、
前記基板および前記背面封止部材の少なくとも一方が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の太陽電池は、
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の薄膜電池は、
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂基板を用いて、透明ガスバリア層の積層数が少なくてもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有する透明ガスバリアフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリアフィルムを連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の透明ガスバリアフィルムにおいて、前記炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物が、炭化ケイ素であることが好ましい。
【0020】
本発明の透明ガスバリアフィルムにおいて、前記亜酸化物無機層が、亜酸化ケイ素または亜酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0021】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法における、前記炭素含有無機層形成工程において、炭化ケイ素を含むターゲットを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法において、前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることが好ましい。
【0023】
本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法において、前記亜酸化物無機層形成工程が、蒸着法、スパッタリング法および化学気相堆積法(CVD)の少なくとも1つにより行われることが好ましい。
【0024】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0025】
上記において、炭化金属または炭化半金属のスパッタリングにおいて、反応ガスとして酸素を用いることで、透明であるがガスバリア性の低い層が形成されることを述べた。さらに、本発明者らは、前記層の形成時の雰囲気中や真空槽の内壁に残留する、微量な酸素や水分が樹脂基板近傍に存在していると、ガスバリア性の低い層が形成されることを見出した。そこで、樹脂基板上に、亜酸化物無機層を形成して、前記亜酸化物無機層上に炭素含有無機層を形成したところ、高いガスバリア性を有することがわかった。ここで、前記炭素含有無機層は、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用いたスパッタリング法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む層である。このように、樹脂基板上に、第1層として亜酸化物無機層を形成することで、前記樹脂基板近傍に存在する微量の酸素や水分を第1層中に取り込むことができ、その上に形成される前記炭素含有無機層は、前記微量の酸素や水分の存在に影響されることがなく層形成がされると推測される。これによって高いガスバリア性を発現させることができると考えられるが、本発明は、前記推測によって限定されるものではない。
【0026】
前記亜酸化物無機層における「亜酸化物」は、化学両論組成より酸素状態が低い状態の酸化物である。例えば、特許第3192249号公報によると、亜酸化物層は化学両論酸化物層に比べガスバリア性が高いことが知られている。本発明において、亜酸化物の材質は限定するものではない。例えば、亜酸化ケイ素(SiOx、ただし、X<2)、亜酸化アルミニウム(AlOx、ただし、X<1.5)、亜酸化チタン(TiOx、ただし、X<2)、亜酸化ニオブ(NbOx、ただし、X<2.5)、亜酸化インジウム(InOx、ただし、X<1.5)などが挙げられるが、透明性の面から亜酸化ケイ素または亜酸化アルミニウムを含んでいることが好ましい。また、前記亜酸化物の組成におけるXの値は、大きいとガスバリア性が低くなるが、逆に小さいと透明性が低下する。また、前記亜酸化物無機層の厚みは、好ましくは5〜100nmの範囲であり、さらに好ましくは10〜50nmの範囲である。
【0027】
前記亜酸化物無機層の形成方法は、ドライプロセスにより行われることが好ましく、蒸着法、スパッタリング法および化学気相堆積法(CVD法)の少なくとも1つにより行われることが好ましい。これらは非常に緻密な層を形成でき、かつ、酸素成分比率を層形成中の酸素流量で精密に制御できるためである。また、蒸着法やCVD法では、酸化反応やガスバリア性を高めるために、高周波やマイクロ波のプラズマによるアシストをさせることが好ましい。また、スパッタリング法では、精密な酸素流量をプラズマ発光強度により制御する、プラズマエミッションモニタリング方式(PEM方式)が好ましい。
【0028】
前記炭素含有無機層は、炭化物ターゲットと反応ガスとして窒素を用いたスパッタリング法により、高いガスバリア性と高い透明性を有する薄層が形成できることがわかった。この層厚は、0.01〜1μmが望ましく、さらに望ましくは0.1〜0.5μmである。あまり薄いと十分なガスバリア性は得られず、また層が厚くなると内部応力が高くクラックが発生しやすくなる。
【0029】
前記炭素含有無機層形成工程は、スパッタリング法によるものであり、ターゲットとしては、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むものを用いる。前記炭化金属としては炭化アルミニウムが好ましく、前記炭化半金属としては炭化ケイ素が好ましく、炭化ケイ素を含むターゲットを用いることがより好ましい。この材料は、透明ガスバリア層内におけるネットワーク構造(網目状の構造)を緻密に形成することが可能であり、透明ガスバリア層のガスバリア性の向上の点で好ましい。また、他の炭化金属および炭化半金属に比べ、透明ガスバリア層形成時の内部応力が高くない点でも好ましい。
【0030】
前記スパッタリング法による前記炭素含有無機層の形成は、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法で行うことが好ましい。前記パルスDCスパッタリング法は、通常のDCスパッタリング法と比較して、ターゲットの表面に窒化物や酸化物などの絶縁層ができるのを防ぐことができ、スパッタによる層形成が不安定になるのを防ぐことができる。RFスパッタリング法による場合、周波数は10kHz〜30MHzの範囲であることが好ましく、より好ましくは、30kHz〜20MHzの範囲である。放電出力は、例えば、1〜10W/cmの範囲であり、好ましくは3〜6W/cmの範囲である。前記パルスDCスパッタリング法での周波数や負バイアスとなるデューティー比には特に制限はないが、放電の時間は短いほうが好ましく、30〜95%の範囲であることが好ましい。
【0031】
前記炭素含有無機層形成時のスパッタリング条件に特に制限はない。例えば、真空槽内を10−4Pa以下に排気した後、放電ガスとしてアルゴンガスを、反応ガスとして窒素含有ガスを導入し、系の内圧が0.1〜1Paになるようにマスフローコントローラで流量制御(圧力制御)を行う。スパッタ時の放電出力は、1〜10W/cmを印加し、所望の厚みになるまでスパッタリングを行う。
【0032】
前記炭素含有無機層の厚みは、0.05〜1μmの範囲であることが好ましい。前記厚みを0.05μm以上とすることで、十分なガスバリア性を得ることができ、1μm以下とすることで、内部応力を低くすることができ、クラックの発生を防ぐことができる。前記厚みは、0.1〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。
【0033】
前記亜酸化物無機層と前記炭素含有無機層とを積層した積層体である、本発明における透明ガスバリア層形成時の加熱温度は150℃以下であることが好ましく、より好ましくは80〜120℃の範囲である。この場合、前記透明ガスバリア層形成時には、前記樹脂基板(樹脂フィルム)を120℃以下で加熱することが好ましい。本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、透明で良好なガスバリア性能を有する層を低温形成することも可能であるので、基材が例えば樹脂の場合であっても、樹脂の性質や形状を損なわない条件設定をすることが可能となる。
【0034】
樹脂基板の材質は、透明であれば制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどがあげられる。また、前記樹脂基板の厚みは20〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜150μmの範囲である。
【0035】
透明ガスバリア層の厚みは、0.05〜1μmの範囲であることが好ましい。前記厚みを0.05μm以上とすることで、十分なガスバリア性を得ることができ、1μm以下とすることで、内部応力を低くすることができ、クラックの発生を防ぐことができる。前記厚みは、0.1〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。
【0036】
前記透明ガスバリア層は、バッチ方式でも連続生産方式でも製造することができる。連続生産方式の場合、前記透明ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明樹脂フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明樹脂フィルムの上に前記透明ガスバリア層を形成する。
【0037】
図1に、本発明の透明ガスバリアフィルムを連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。本例では、前記亜酸化物無機層と前記炭素含有無機層をともにスパッタリング法で形成する場合を示すが、これに限定されるものではない。図示のとおり、この製造装置10は、真空槽11、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、二つの補助ロール14aおよび14b、カソード16、真空ポンプ20、スパッタリング用ガス供給手段18、反応ガス供給手段19を主要な構成部材として有する。真空槽11内には、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、および二つの補助ロール14a、14bが配置されており、巻出ロール13aから、巻取ロール13bにわたり、キャンロール15および二つの補助ロール14a、14bを介して、透明樹脂フィルム12が掛け渡されている。前記カソード16は、前記キャンロール15と対向するように、前記真空槽11の底部に設置されている。前記カソード16の上面には、前記ターゲット17が装着されている。前記ターゲット17は複数装着しておき、形成する層の組成に応じて使用するターゲットを変更することもできる。前記真空ポンプ20は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽11内を減圧することが可能となっている。前記スパッタリング用ガス供給手段18および前記反応ガス供給手段19は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記スパッタリング用ガス供給手段18は、スパッタリング用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力のスパッタリング用ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記反応ガス供給手段19は、窒素を含有する反応ガス用ガスボンベ22および酸素を含有する反応ガス用ガスボンベ23に接続されており、これにより、適度な圧力の反応ガスを、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記キャンロール15には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、前記キャンロール15の表面温度を調整することで、前記透明樹脂フィルム12の温度を、前記所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0038】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でスパッタリングを行い、連続して透明ガスバリア層を形成する。反応ガスおよびターゲットを切り替えて、この工程を繰り返すことで、所定の積層体を形成することができる。本装置による連続生産は、フィルムを移動させながらスパッタリングを行うこと以外は、後述のバッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【0039】
図2に、本発明の透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、この製造装置30は、前記各種ロールに代えて、真空槽31内に、基板加熱ヒータ33が配置され、前記基板加熱ヒータ33に透明樹脂基板(例えば、透明樹脂フィルム)32が設置されている以外は、図1と同様の構成である。前記基板加熱ヒータ33としては、前記温度制御手段と同様のものがあげられる。
【0040】
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有するものであって、前記基板が本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。前記陽極層としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機発光層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極層としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層、マグネシウム/銀層等が形成される。この積層体を大気に曝さないようにこの上から金属、ガラス、樹脂等により封止を行う。
【0041】
本発明の有機EL素子は、さらに背面封止部材を有し、前記積層体の少なくとも一部が前記背面封止部材で被覆されており、前記基板および前記背面封止部材の少なくとも一方が、本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。すなわち、本発明の透明ガスバリアフィルムは有機EL素子の背面封止部材としても適用可能である。この場合、本透明ガスバリアフィルムを前記積層体上に接着剤を用いて、または、ヒートシールなどにより設置することで十分に封止性を保つことが可能である。
【0042】
有機EL素子の基板として、本発明の透明ガスバリアフィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。したがって、ディスプレイとしての有機EL素子はフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。また、本発明の透明ガスバリアフィルムを背面封止部材として用いると、被覆が容易であり、また、有機EL素子の薄型化も可能となる。
【0043】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含み、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは、太陽電池の受光側フロントシートおよび保護用バックシートとしても好適に使用できる。太陽電池の構造の一例としては、薄膜シリコンやCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜により形成した太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂により封止し、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムにより挟み込むことで構成されるものがあげられる。前記樹脂による封止をせずに、本発明の透明ガスバリアフィルムで直接挟み込んでもよい。
【0044】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。薄膜電池としては、薄膜リチウムイオン電池などがあげられる。前記薄膜電池としては、基板上に金属を用いた集電層、金属無機膜を用いた陽極層、固体電解質層、陰極層、金属を用いた集電層を順次積層させた構成が代表的である。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは薄膜電池の基板としても使用することができる。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0046】
(組成分析)
第1層(亜酸化物無機層)の組成はX線光電子分光分析(XPS)装置(アルバックファイ社製、商品名PHI−5000)を用い、金属(半金属)原子のピーク強度と酸素原子のピーク強度の比から、酸素原子/金属(半金属)原子の組成比(x)を算出した。
【0047】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度(WVTR)は、JIS K7126に規定される水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)にて、温度40℃、湿度90%RHの環境下で測定した。
【0048】
(光線透過率)
光線(可視光)透過率は、株式会社日立製作所製のUV−可視光分光光度計(商品名:U4000)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0049】
[実施例1]
〔透明樹脂フィルムの準備〕
透明樹脂フィルム(樹脂基板)として、東レ(株)製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm、商品名「ルミラーT60」)を準備した。
【0050】
〔透明ガスバリア層形成工程〕
(第1層:亜酸化物無機層)
つぎに、前記PETフィルムを、図2に示す製造装置に装着した。カソード16の上面には、アルミニウムターゲット(純度4N:99.99%)17を装着した。真空ポンプ20により真空槽31内を減圧し、到達真空度1.0×10−4Pa以下を得た。その後、スパッタリング用ガス供給手段18および反応ガス供給手段19により、前記真空槽31内にスパッタリング用ガスとしてアルゴンガスおよび反応ガスとして酸素ガスを導入した。ついで、放電出力を10W/cmの条件下で、DCスパッタリング法により、前記PETフィルム上に厚み30nmの亜酸化アルミニウム(AlOx)層を形成した。この際、アルゴンガスの供給量(流量)は、20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)、酸素ガスの供給量(流量)は、10sccm(10×1.69×10−3Pa・m/秒)とした。また、このとき、系内圧力は0.5Paで、基板加熱ヒータ温度は60℃とした。得られた亜酸化アルミニウム(AlOx)層において、x(元素組成比O/Al)は1.4であった。
【0051】
(第2層:炭素含有無機層)
次に、ターゲットとして炭化ケイ素ターゲット(純度5N:99.999%)17を装着した。真空ポンプ20により真空槽31内を減圧し、到達真空度1.0×10−4Pa以下を得た。その後、スパッタリング用ガス供給手段18および反応ガス供給手段19により、前記真空槽31内にスパッタリング用ガスとしてアルゴンガスおよび反応ガスとして窒素ガスを導入した。ついで、DCパルスを200kHz、放電出力を20W/cmの条件下で、DCパルススパッタリング法により、前記第1の無機層上に厚み200nmの第2層を形成し、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。この際、アルゴンガスの供給量(流量)は、150sccm(150×1.69×10−3Pa・m/秒)、窒素ガスの供給量(流量)は、30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)とした。また、このとき、系内圧力は0.2Paで、基板加熱ヒータ温度は60℃とした。
【0052】
[実施例2]
第1層の亜酸化物無機層の形成において、ターゲットとしてシリコン(純度4N)を用いて亜酸化ケイ素(SiOx)層を形成した他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。得られた亜酸化ケイ素(SiOx)層において、x(元素組成比O/Si)は1.8であった。
【0053】
[比較例1]
第1層の形成において、酸素ガスを20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)導入した他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。得られた酸化アルミニウム(AlOx)層において、x(元素組成比O/Al)は1.5であった。
【0054】
[比較例2]
第1層の形成において、酸素ガスを20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)導入した他は、実施例2と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。得られた酸化ケイ素(SiOx)層において、x(元素組成比O/Si)は2.0であった。
【0055】
[比較例3]
第1層を形成していない他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0056】
[比較例4]
第2層の形成において、窒素ガスを導入しなかった他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0057】
実施例1、2および比較例1〜4で得られた透明ガスバリアフィルムについて、水蒸気透過速度(WVTR)および550nmの波長における光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた透明ガスバリアフィルムは、水蒸気透過速度が0.1g・m−2・day−1以下の良好なガスバリア性と、82%以上の良好な光線透過率を有しており、好適な特性を有する透明ガスバリアフィルムが得られていることがわかる。一方、化学両論組成の酸化物である第1層を形成した比較例1、2では、水蒸気透過速度が0.2g・m−2・day−1以上と大きく、ガスバリア性に劣っていることがわかる。また、第1層と形成していない比較例3でも、水蒸気透過速度が0.2g・m−2・day−1であり、ガスバリア性に劣っていることがわかる。第2層の形成において、窒素ガスを導入していない比較例4では、水蒸気透過率は0.1g・m−2・day−1が得られているものの、光線透過率が70%と、光透過性は十分とはいえなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、樹脂基板を使用し、少ない積層数の透明ガスバリア層でガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有している。本発明の透明ガスバリアフィルムは、例えば有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、薄膜電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電気素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10、30 製造装置
11、31 真空槽
12、32 透明樹脂フィルム
13a 巻出ロール
13b 巻取ロール
14a、14b 補助ロール
15 キャンロール
16 カソード
17 ターゲット
18 スパッタリング用ガス供給手段
19 反応ガス供給手段
20 真空ポンプ
21 スパッタリング用ガスボンベ
22 反応ガス用ガスボンベ(窒素含有ガス)
23 反応ガス用ガスボンベ(酸素含有ガス)
33 基板加熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、亜酸化物無機層と炭素含有無機層とを含む積層体であり、
前記樹脂基板上に、前記亜酸化物無機層と前記炭素含有無機層とがこの順に積層されており、
前記炭素含有無機層が、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用いたスパッタリング法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む層であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物が、炭化ケイ素
であることを特徴とする請求項1記載の透明ガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記亜酸化物無機層が、亜酸化ケイ素または亜酸化アルミニウムを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の透明ガスバリアフィルム。
【請求項4】
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記樹脂基板上に、亜酸化物無機層を形成する亜酸化物無機層形成工程と、
炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応性ガスとして窒素含有ガスを用いるスパッタリング法で、金属および半金属の少なくとも一方と、炭素と、窒素とを含む無機層を、前記亜酸化物無機層の上に形成する炭素含有無機層形成工程と
を含むことを特徴とする透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記炭素含有無機層形成工程において、炭化ケイ素を含むターゲットを用いることを特徴とする、請求項4記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることを特徴とする、請求項4または5記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記亜酸化物無機層形成工程が、蒸着法、スパッタリング法および化学気相堆積法(CVD)の少なくとも1つにより行われることを特徴とする、請求項4から6のいずれか一項に記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか一項に記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項9】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、請求項1から3のいずれか一項または請求項8記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
さらに、背面封止部材を有し、
前記積層体の少なくとも一部が前記背面封止部材で被覆されており、
前記基板および前記背面封止部材の少なくとも一方が、請求項1から3のいずれか一項または請求項8記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、請求項1から3のいずれか一項または請求項8記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、請求項1から3のいずれか一項または請求項8記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする薄膜電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206381(P2012−206381A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73650(P2011−73650)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】