説明

透明容器の製造方法及び透明容器

【課題】ポリプロピレン系樹脂を主原料とし、透明度と透明度の均一性の優れた透明容器の製造方法の提供
【解決手段】
射出延伸ブロー成形によりポリプロピレン系樹脂から、透明容器を成形する透明容器の製造方法であって、射出成形機によりプリフォームを成形する際、射出成形機のランナ部の樹脂温度がシリンダ部樹脂温度以上で、且つ230〜300℃として樹脂を金型に射出することを特徴とする透明容器の製造方法。
製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明容器の製造方法及び透明容器に係り、詳しくは、ポリプロピレン系樹脂により成形される透明容器の製造方法及び透明容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体や粒子状物質などの漏れ出しやすい物質を収納する容器は各種知られており、その中でも成形性及び低コスト性の観点から樹脂容器が多用されている。また、液体製品等は、購入時に外部から内容物の有無、色等を確認する目的や、内容物の使用時には残量や変色等を確認する目的から胴部を透明にした容器(以下、透明容器という。)が用いられている。特に、化粧品や飲料等を収納する透明容器は、内容物を明瞭に、美しく見せるだけでなく、容器そのものの美観、清潔感も要求される。このため、透明容器は、透明度が高いだけでなく透明度にムラがなく均質な透明感があることが重要である。
【0003】
透明度の高い透明容器としては、ガラス瓶が知られているが、ガラス瓶には重く破損しやすいという欠点があった。最近は、ガラス瓶に代わって軽量で割れにくいプラスチックボトルが使用されることが多い。特に、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略称する。)製の容器(PETボトルと略称することがある。)は、透明性が高く、均質で強度もあり、多くの飲料ボトルや化粧品ボトルなどに利用されている。
【0004】
PETボトルは透明度が高く、肉厚が比較的厚い0.7〜1.0mm程度でも、透明度の指標であるヘイズ値を6%以下にすることが容易にできる。通常、肉厚0.7mm以上のPETボトルであれば、剛性補強のためのリブを設けたり、特別の形状設計をしなくても、200mlサイズのボトルにおいて100N以上の座屈強度を得ることができる。100Nの座屈強度を得ることができれば、流通段階においても積み重ね等や搬送時の圧力による座屈の恐れがなくなる。
【0005】
最近は、PETボトルに代えて、ポリプロピレン系樹脂(PPと略称することがある。)を使用した透明容器を用いることが提案されている。ポリプロピレン系樹脂はPETに比べて原料樹脂が安価であり、耐溶剤性などにも優れており、また、将来はバイオマス原料からの生産も比較的容易とされている。樹脂製の透明容器は、2.0mm以下の肉厚の透明ボトルであれば、PETボトルであってもPP製の透明ボトル(PPボトルという。)であっても射出延伸ブロー成形により製造されることが多い。しかし、射出延伸ブロー成形によるPPボトルは、一般にPETボトルに比べて透明度だけでなく透明度の均一性も劣る傾向がある。そこで、ポリプロピレン系樹脂から透明度が高い、例えばヘイズ値6.0%以下の高透明度の、均質な透明度の透明容器を製造することが期待されている。
【0006】
透明容器は、肉厚に対応して透明度が低くなる傾向にあるが、透明度が高いPP製の透明容器のうち、肉厚に対応して相対的に透明度が高い透明容器とその製造方法として、特許文献1〜5に記載されている発明が知られている。
【0007】
特許文献1には、胴部の肉厚が0.3mmで換算ヘイズ値0.7〜2.0%の延伸ブロー成形容器が開示されている。この延伸ブロー成形容器は、ポリプロピレン系樹脂として特定の物性を有するプロピレンエチレンランダム共重合体を使用している。
【0008】
特許文献2には、肉厚が0.4mmでヘイズ値1.2〜2.0%の延伸ブロー成形容器が開示されている。この延伸ブロー成形容器は、メタロセン系触媒を用いた特定の物性を有するプロピレンエチレンランダム共重合体のポリプロピレン系樹脂組成物を使用している。
【0009】
特許文献3には、胴部の肉厚が0.5mmでヘイズ値1.9%の延伸ブロー成形容器が開示されている。この延伸ブロー成形容器の樹脂としては、特定の物性を有するプロピレンエチレンランダム共重合体を使用して比較的薄肉に成形することにより透明性の向上を図っている。
【0010】
特許文献4には、胴部の肉厚が0.5mmでヘイズ値2.0%の延伸ブロー成形容器が開示されている。この延伸ブロー成形容器は、ポリプロピレン系樹脂として、透明性を向上させるシンジオタクティックポリプロピレンを80%とエチレンプロピレンランダム共重合体を20%使用することにより透明性の向上を図っている。
【0011】
特許文献5には、胴部の肉厚が0.8mmでヘイズ値2.0%の延伸ブロー成形容器が開示されている。この延伸ブロー成形容器の樹脂としては、特定の物性を有するプロピレンエチレンランダム共重合体を87.5%、プロピレン単独重合体を12.5%使用して成形することにより透明性の向上を図っている。
【0012】
肉厚が1mm以上のポリプロピレン系樹脂を用いた透明容器で、ヘイズ値4.0%以下の高い透明度を有するPPボトルの発明は見あたらない。しかし、PP樹脂のヘイズ値測定用に射出成形された肉厚が1mm以上の試験片の透明度が測定されている。透明度の高いポリプロピレン系樹脂として、例えば特許文献6、7に開示されているものがある。
【0013】
特許文献6には、肉厚が1.0mmでヘイズ値5.0%の射出成形試験片が開示されている。この射出成形試験片は、メタロセン系触媒を用いた特定の物性を有するプロピレンエチレンランダム共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を使用している。
【0014】
特許文献7には、肉厚が2.0mmでヘイズ値2.0%の射出成形試験片が開示されている。この射出成形試験片は、透明性を向上させるシンジオタクティックポリプロピレン樹脂とシンジオタクティックエチレンプロピレン共重合体を合計80〜90%含むポリプロピレン系樹脂組成物を使用している。
【0015】
但し、特許文献6、7に記載された発明は、ヘイズ値測定用に成形した比較的厚肉の試験片における測定値であり、肉厚0.8mmを超える容器としては透明度(ヘイズ値)6.0%以下のPP製の透明容器は見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許3970404号公報
【特許文献2】特開2006−307122号公報
【特許文献3】特公平6−39554号公報
【特許文献4】特開平7−112479号公報
【特許文献5】特開2002−179860号公報
【特許文献6】特開2009−209342号公報
【特許文献7】特開2005−344043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献1〜5に示すように、ポリプロピレン系樹脂から透明容器、特に射出延伸ブロー成形により製造される透明ボトルの場合、特定の物性を有するポリプロピレン系樹脂を使用することで優れた透明性を有する比較的薄肉の透明ボトルが得られる。また、比較的薄肉の透明ボトル(肉厚0.8mm以下の透明ボトル)においては、透明ボトルの肉厚とヘイズ値には一定の関係がみられ、肉厚が厚くなればヘイズ値も上昇する傾向があることが判る。
【0018】
ところで、射出延伸ブロー成形によりPPから製造された透明度の高い透明ボトルの肉厚やヘイズ値は、ボトルの位置によりバラツキがある。例えば、文献1、2には具体的数値は記載されていないが、透明ボトルのヘイズ値測定において、複数のサンプルの肉厚とヘイズ値を測定してその平均値としてヘイズ値を表している。本発明者の検討によると、通常の射出延伸ブロー成形により製造された透明度の高い透明ボトルでは、同じ透明ボトルの胴部であっても測定位置によって30%を超える透明度のバラツキが観測された。
【0019】
一方、ポリプロピレン系樹脂製の透明ボトルでは、100N以上の耐座屈強度を確保するためには肉厚を比較的厚くする必要があり、例えば胴部の肉厚は0.8mm程度必要とされていた。ところが、肉厚0.8mmを超え1.5mm程度までのPP製透明ボトルは、強度の点ではPETボトルに相当する100N以上の耐座屈強度を有していても、透明度ではヘイズ値が6.0%以下のPPボトルは知られていなかった。
【0020】
ヘイズ値測定用の射出成形試験片において透明度の高い樹脂であっても、実際に使用可能な容器の形状に成形した場合、同程度のヘイズ値を得られない場合が多い。一般に、ヘイズ値等の測定用の射出成形試験片においては均質性を確保できるような成形条件を選択して試験片を作製しているが、実際に透明容器として成形する場合は、製品の成形性や生産性を重視するため、製品の均質性はある程度犠牲にしている。例えば、特許文献6においても1mmの肉厚でヘイズ値が5.0%のPP製の射出成形試験片が開示されているが、同じ1mmの肉厚でヘイズ値が5.0%のPP製の透明容器は、特許文献6に記載されていないだけでなく、当業者にも知られていない。
【0021】
特許文献7には、2mmの肉厚でヘイズ値が2.0%のPP製の射出成形試験片が開示されているが、これは、試験片作製上の相違だけでなく、ポリプロピレン系樹脂として、透明性を向上させるシンジオタクティックポリプロピレン樹脂とシンジオタクティックエチレンプロピレン共重合体を80%以上の特殊な樹脂組成物を用いていることによるものと考えられる。
【0022】
引用文献1〜3に開示されているPP容器は透明度が高いと考えられる透明容器であるが、これらにおいても、一般に透明性を増すといわれているシンジオタクティックポリプロピレン樹脂や特別の特定物性を有するプロピレンエチレン共重合体といった樹脂を用いて透明度の向上を図っている。しかし、これらの容器においては、胴部の肉厚は0.8mmを超える透明ボトルを作ることは試みられておらず、上記の樹脂組成では何らかの問題があったものと考えられる。例えば、このような透明ボトルは射出延伸ブロー成形で作成される場合が多いが、上記の樹脂組成で製造した射出延伸ブロー成形ボトルでは、肉厚が厚くなるとボトルの位置によって肉厚やヘイズ値などの物性のバラツキが生じやすくなることが考えられる。
【0023】
本発明者の検討によれば、従来のPPボトルの製造方法(射出延伸ブロー成形法など)で製造したPPボトルは、PETボトルに比べ透明度が劣るだけでなく、透明度を必要とする胴部において透明度にムラ(バラツキ)が発生しやすいことが分かった。胴部の透明度にムラが発生することは、ボトルの外観特性の悪化だけでなく、内容物の量や色、透明性などの誤認を招く恐れがある。場合によっては、ボトルの強度などの品質ムラとなって耐圧縮性の低下をきたす恐れもある。このため、透明度にムラのない容器とすることは透明容器として重要な要素である。
【0024】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ポリプロピレン系樹脂を主原料とし、均一で高い透明性を有する透明容器の製造方法の提供、及び所望の透明度と均一な透明性を兼ね備えた透明容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の透明容器の製造方法は、射出延伸ブロー成形によりポリプロピレン系樹脂(PPともいう。)から、透明容器を成形する方法であって、射出成形機によりプリフォームを成形する際、射出成形機のランナ部の樹脂温度、言い換えれば射出成形用金型の入口の樹脂温度を、230〜300℃、好ましくは250〜290℃、さらに好ましくは260〜280℃として樹脂を金型に射出するものである。また、ランナ部の樹脂温度は、前記樹脂のランナ部の入口温度、すなわち、射出成形機のシリンダ内の樹脂温度(射出成形機のシリンダの設定温度)より高くする。
【0026】
本発明の透明容器の製造方法によれば、透明性が高く、透明度のバラツキの少ないPP製の透明容器が得られる。例えば、0.7mm前後の肉厚ではヘイズ値2.5%以下の透明ボトルが製造でき、1.0〜1.5mm前後の肉厚ではヘイズ値1.5〜4.8%の透明ボトルが製造でき、ヘイズ値/肉厚の比としては4.0%/mm以下とすることができる。透明度のバラツキについても、ヘイズ値/肉厚の差として、通常は1.0%/mm以下、又は1.5%/mm以下、大きい場合でも2.2%/mm以下のバラツキに抑えることができる。なお、ヘイズ値/肉厚のバラツキは、同一透明容器の任意の2箇所のヘイズ値/肉厚の差の最大値で表す。
【0027】
前記射出延伸ブロー成形は、コールドパリソン式の射出延伸ブロー成形であることが好ましく、射出成形機の金型から取り出されたホットなプリフォームは、強制冷却処理されることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の透明容器の製造方法においては、ポリプロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ系触媒により重合されたことが好ましく、ポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体、又はポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体を含むポリプロピレン系樹脂組成物であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、アイソタクティックポリプロピレン系樹脂が好ましく、シンジオタクティックポリプロピレン系樹脂の含有量が75質量%未満、好ましくは50質量%以下であることがよく、さらには実質的にシンジオタクティックポリプロピレン系樹脂を含まないポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂は、バイオマス原料を主体として製造されたことが好ましい。
【0029】
本発明の透明容器の胴部の肉厚の下限は、0.05mm以上、好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは0.85mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上であり、上限は1.5mm以下、好ましくは1.4mm以下である。肉厚が薄いと、座屈強度を始めとする透明容器の強度が十分でないことがあり使用範囲が限定される。透明容器の肉厚が厚すぎると、透明容器の重量が増し取り扱いに不便になり、樹脂使用量も増加するため経済的に好ましくない。
【0030】
本発明の透明容器は、ヘイズ値が6.0%以下、特に5.0%以下が好ましい。しかし、透明度の高い透明容器のヘイズ値は、肉厚に比例して増加する傾向にあり、肉厚(mm)に対するヘイズ値(%)の比(ヘイズ値/肉厚(%/mm))として表すことが好ましい。本発明の透明容器は、胴部の肉厚(mm)に対するヘイズ値(%)の比が、1.0〜5.0、好ましくは1.5〜4.5(%/mm)、特に好ましくは1.5〜4.0(%/mm)の範囲である。従来のPP製の透明容器は、ヘイズ値/肉厚の比が5.0%/mm未満のものはほとんどなく、また、1.0%/mm未満の透明容器は製造が困難である。
【0031】
本発明の透明容器の透明度の均一性を表す指標として、胴部のヘイズ値/肉厚のバラツキを用いることが好ましい。詳しくは後述するが、透明性のバラツキの指標として、胴部の2箇所のヘイズ値/肉厚の差とすることにより、肉厚の影響を受けないで透明容器の透明性を評価することができる。そこで、本発明の透明容器は、胴部のヘイズ値/肉厚のバラツキ(任意の2箇所のヘイズ値/肉厚の差(絶対値))を用い、このヘイズ値/肉厚の差を2.5%/mm以下、好ましくは1.5%/mm以下、さらに好ましくは1.2%/mm以下、特に好ましくは1.0%/mm以下とする。透明容器のヘイズ値/肉厚の差が上記より大きいことは、透明容器の透明感にムラが生じ、透明容器の内容物の形状や色、状態などを明確に視認し難くする恐れがある。
【0032】
また、本発明の透明容器は、透明性のバラツキの指標として直接ヘイズ値を用いることもでき、ひとつの容器の胴部における任意の2箇所のヘイズ値の比(小さいヘイズ値/大きいヘイズ値)が0.73以上、好ましくは0.77以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の透明容器においては、ポリプロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ系触媒により重合されたことが好ましく、ポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体、又はポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体を含むポリプロピレン系樹脂組成物であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、アイソタクティックポリプロピレン系樹脂であることが好ましく、シンジオタクティックポリプロピレン系樹脂の含有量が75質量%未満、50質量%以下、さらにシンジオタクティックポリプロピレン系樹脂を実質的に含まないポリプロピレン系樹脂であることが好ましく、バイオマス原料を主体として製造されたことが好ましい。
【0034】
本発明の透明容器は、胴部が略円柱、略楕円柱、断面が略多角形の多角柱、又は断面が略多角形の角部を滑らかな形状にした多角柱のいずれかのボトル形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂を主原料とし、均一で高い透明性を備えた透明容器の製造方法、及び所望の透明度と均一な透明性を兼ね備えた透明容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の透明容器の製造方法の一実施形態であるコールドパリソン式の射出延伸ブロー成形の説明図である。
【図2】図2は、図1における射出成形機の、ホットランナを設置したダイスプレート57の断面図である。
【図3】図3は、本発明のコールドパリソン式の射出延伸ブロー成形における成形樹脂の温度プロファイルの説明図である。
【図4】図4は、ホットパリソン式の射出延伸ブロー成形の説明図である。
【図5】図5は、本発明の透明容器の一実施形態の正面図(A)、側面図(B)、及び平面図(C)である。
【図6】図6は、本発明の透明容器の胴部の肉厚に対するヘイズ値の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の透明容器の肉厚に対する座屈強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[透明容器の製造方法]
(プリフォームの成形)
最初に、本発明の透明容器の製造方法について説明する。図1は、本発明の透明容器の製造方法の一形態であるコールドパリソン式の射出延伸ブロー成形を説明するための模式図である。射出延伸ブロー成形にはコールドパリソン式と後で説明するホットパリソン式があるが、まず、コールドパリソン式の透明容器の製造方法について説明する。
【0038】
コールドパリソン式の射出延伸ブロー成形により透明容器10を製造するには、まず、図1(A)に示すような射出成形機50を用意する。この射出成形機50は、プリフォーム(パリソンともいう。)を形成する射出成形用金型51を備えている。
【0039】
図1(A)において、射出成形機50は、加熱シリンダ52の内部に押し出しスクリュー53を有している。加熱シリンダ52の上部に設置されたホッパー54に装填されたポリプロピレン系樹脂ペレット55は、押し出しスクリュー53の回転に伴って、加熱シリンダ52内に導入され、加熱溶融されながら加熱シリンダ52の先端部(射出成形用金型51側)に移送される。射出成形用金型51は、射出成形機50に固定された固定ダイスプレート56と、この固定ダイスプレート56と対になっており移動可能な構成の移動ダイスプレート57との間に挟まれるように設置される。
【0040】
図2に示すように、固定ダイスプレート56には、加熱シリンダ52の樹脂出口から押し出された樹脂を射出成形用金型51内に導入するためのホットランナ58が設置されており、溶融樹脂は、ホットランナ58の樹脂通路70を加熱シリンダ52の出口側から射出成形用金型51の樹脂入口側に押し出されていく。この樹脂通路70をランナ部とも呼んでいるが、このランナ部を強制的に加熱又は保温するタイプのものをホットランナタイプ、特に加熱しないタイプのものをコールドランナタイプと呼んでいる。本発明の透明容器の製造方法においてはホットランナタイプのランナ部を備えたホットランナ58が使用される。
【0041】
加熱シリンダ52の樹脂出口から射出された溶融樹脂は、ホットランナ58の樹脂通路70を通って射出成形用金型51内に導入され、射出成形用金型51のプリフォーム(パリソン)60の形状をした内部空間(キャビティ)全体に行き渡り、キャビティ内にはプリフォーム60の前駆体であるプリフォーム60の形状をした溶融樹脂が形成される。
【0042】
射出成形用金型51は、循環水等により冷却されており、プリフォーム60の形状に成形されたキャビティ内の溶融樹脂は急冷されて固化し、ホットなパリソン60となる。このホットなパリソン60は、表面は冷却されて固化してプリフォーム60の形を保っているが、内部は十分に冷却されておらず内部の樹脂は完全には固化、結晶化はしていない状態である。
【0043】
本発明の透明容器の製造方法においては、溶融樹脂がランナ部(樹脂通路70)において、230〜300℃、好ましくは250〜290℃、さらに好ましくは260〜280℃に加熱されて射出成形用金型51内に射出される。このようにして、射出成形用金型51内に導入される樹脂の温度が厳密に制御される。従来のホットランナタイプの射出延伸ブロー成形におけるポリプロピレン系樹脂の成形では、ランナ部(樹脂通路70)を通過する樹脂の温度を上げるタイプのものではなく、ランナ部を通過する溶融樹脂の温度低下を防ぐ程度の保温用の加熱をするだけであった。
【0044】
本発明の透明容器の製造方法においては、ランナ部を通過する樹脂温度をランナ部の入口の樹脂温度すなわち、加熱シリンダ52内の樹脂温度より高温にしている。通常、ポリプロピレン系樹脂は射出成形機の加熱シリンダ52内で220℃、特に230℃を超える温度まで加熱すると、加熱シリンダ52内での温度ムラやスクリュー53による剪断力の影響により、溶融樹脂の熱分解や分子量低下が起こりやすくなる。このため、加熱シリンダ52内で樹脂温度(加熱シリンダ52の設定樹脂温度)は230℃以下、特に220℃以下としておくことが好ましい。そこで、本発明においては、加熱シリンダ52から押し出された樹脂を、ホットランナ58に配置したヒータ59によって加熱して、ランナ部(厳密には、ランナ部の射出成形用金型51への樹脂出口部分が好ましい)において230〜300℃として射出成形用金型51に導入している。なお、ランナ部にはスクリュウによる剪断力が作用せず、滞留時間も短いので、ランナ部のみで230〜300℃の範囲の高温にしても、上記のような溶融樹脂への悪影響は少ないものと考えられる。
【0045】
一方で、本発明においては、金型に射出される樹脂温度は高いことが望まれるので、加熱シリンダ52内の樹脂温度を260℃程度にしておくことが好結果を生ずることもある。樹脂の性質にもよるが、分解や分子量低下が起こらない範囲で、加熱シリンダ52内の樹脂温度を高温にすることにより、より透明度が高く、均一な透明性を有する透明容器が得られる。
【0046】
射出成形用金型51に導入される溶融樹脂が230〜300℃となっていることにより、溶融樹脂中の結晶が完全に消滅し、均質な溶融状態となっている。この高温の溶融樹脂が、冷却水により35〜10℃程度に冷却されている射出成形用金型51のキャビティ内に導入されると、急速に冷やされながらキャビティ内で固化を始める。溶融樹脂は、さらに所定時間キャビティ内で冷却された後、表面が固化し全体としてプリフォームの形状を保てるようになった段階で、ホットなプリフォームとして射出成形用金型51から離型される。そして、コールドパリソン式の射出延伸ブロー成形の場合は、一旦、内部まで室温となるまで放冷してプリフォームとする。通常は、室温に戻って保管されているプリフォーム60を必要なときに必要な場所で、再度加熱して延伸ブロー成形することで透明容器を製造する。なお、後述するが、ホットパリソン式の射出延伸ブロー成形の場合は、離型時に形状が保てる程度のホットなプリフォームをすぐに次の延伸ブロー成形工程に移送する。
【0047】
本発明の透明容器の製造方法においては、射出成形用金型51から取り出されたホットなプリフォーム60は内部の樹脂までが結晶化し、実質的に結晶化がそれ以上進まなくなる温度になるまで放冷ではなく強制的な冷却処理(急冷処理)をして冷却速度を速めることが望ましい。実際には、プリフォームの温度を80℃以下、好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下とすることが望ましい。ホットなプリフォーム60を冷却処理することにより、射出成形用金型51内での冷却速度に近い冷却速度でプリフォーム60の内部の樹脂まで急冷し、キャビティ内で生成した結晶と同じような細かくて小さな結晶の生成を促すことができる。これにより、ブロー成形後の透明容器のヘイズ値及び肉厚のバラツキを抑えることができ、透明度も向上できる。なお、冷却処理としては、射出成形用金型51から取り出された直後のホットなプリフォーム60を冷水と接触させたり、冷蔵庫等に入れたり、風を当てて冷却したりすればよい。
【0048】
(コールドパリソン式延伸ブロー成形)
図1(B−1)〜(B−6)は、コールドパリソン式の延伸ブロー成形を説明する模式図である。本発明における延伸ブロー成形には、従来の延伸ブロー成形を適用することができる。これを図に従って説明すると、最初に例えば2個取りの射出成形機50によりプリフォーム60が2個ずつ成形される。成形されたプリフォーム60は室温まで冷却されて保管される。保管されていたプリフォーム60から透明容器10を作製するときは、図1(B−1)に示すように、室温のプリフォーム60に対してヒータ61を用いてPP樹脂の結晶化温度より少し高めの温度(プリフォームの形状を保てる程度の軟化状態の温度、例えば110〜150℃程度)で再加熱する。次ぎに、図1(B−2)に示すように、所定の温度に加熱されて軟化したプリフォーム60を延伸ブロー成形用金型62に装着する。ここで、プリフォーム60の首部25より下の部分は、ブロー成形用金型62の内部空間(キャビティ)に挿入されている。
【0049】
続いて図1(B−3)に示すように、プリフォーム60の上部開口部から延伸ロッド63が挿入され、軟化しているプリフォーム60の内側底部を下方(底部方向)に押圧して延伸させる。図1(B−4)に示すように、プリフォーム60の内側底部を延伸ブロー成形用金型62の下部(底部)まで押圧したら、図1(B−5)に示すように、延伸ロッド63の側部に設けられた小孔から空気をブローすることにより、プリフォーム60を側方に対しても広げて延伸させる。このようにして2軸延伸された樹脂は、ブロー成形用金型62の成形空間(キャビティ)の内壁と接触し、キャビティの内壁に沿った透明容器10の形状に成形され、ブロー成形用金型62の内壁に熱を奪われ冷却される。図1(B−5)は、透明容器10がブロー成形用金型62内の内壁全体に密着して透明容器10の形状が形成された状態を示している。
【0050】
透明容器10が形成され冷却されると、図1(B−6)に示すように、透明容器10はブロー成形用金型62から離型される。以上の工程を経ることにより、透明容器10が製造される。
【0051】
図3は、コールドパリソン式及び後述のホットパリソン式の延伸ブロー成形における樹脂の温度プロファイルの模式図である。好ましい本発明の実施形態のコールドパリソン式の延伸ブロー成形においては、図3に示すプリフォームの成形、プリフォームの冷却、ボトル成形の各工程において、樹脂温度が実線のような温度経過を辿る。図3に従えば、射出成形機50によるプリフォーム成形時には、まず、射出成形機内で樹脂が加熱溶融(樹脂温度t)され、加熱溶融された樹脂が射出成形用金型51へ挿入される。本発明の透明容器の製造方法においては、この加熱溶融され射出成形用金型51へ挿入される樹脂温度tが従来の樹脂温度よりも高く、250〜300℃に設定される。次ぎに、射出成形用金型51へ挿入された樹脂は、射出成形用金型内で溶融樹脂冷却され、ホットなプリフォーム60の形成(樹脂温度t)、形成したホットなプリフォーム60の射出成形用金型51からの離型、離型されたプリフォーム60への冷却水散布、プリフォーム60の氷水への投入、又は送風冷却等により、室温に冷却されたプリフォーム60が完成する。そして、室温に冷却され保管されていたプリフォーム60を延伸ブロー成形機のヒータ61により延伸ブロー成形温度(樹脂温度t)まで加熱し、延伸ブロー成形した後、室温まで冷却され透明容器10となる。
【0052】
通常のコールドパリソン式の延伸ブロー成形においては、図3におけるプリフォーム冷却段階において室温で放冷するため、樹脂温度tの位置から実線ではなく、点線に沿ってプリフォーム60はゆっくりと冷却される。冷却されたプリフォーム60の延伸ブロー成形の温度プロファイルは、上記の方法と同じである。プリフォーム60を室温で放冷すると、プリフォーム60中の樹脂の結晶が大きめになり易い。そうすると、最終的に製作された透明容器が高く均質な透明度が十分得られない恐れがある。
【0053】
ここで、射出成形用金型51に射出された樹脂が固化してプリフォームとなる際の、溶融樹脂からの結晶生成の状態とその効果について説明する。プリフォーム中の結晶は、延伸ブロー成形による透明容器の製造において、容器の透明性に影響を与える因子のひとつであり、細かい結晶が均一に生成していることが、透明度の向上及び透明度の均一性の向上に重要であると考えられる。
【0054】
射出成形用金型51のキャビティ内に射出された樹脂のうち、キャビティの樹脂入口から遠い部分に導入された樹脂(射出段階の前段に射出された樹脂)より、樹脂入口に近い部分に導入された樹脂(射出段階の後段に射出された樹脂)の方が射出成形用金型51内での冷却時間が少ない。そうすると、キャビティの樹脂入口から遠い部分に射出された樹脂の方が、射出成形用金型51による冷却時間が長いため樹脂の結晶化が進み易いと考えられる。そして、この結晶化においては、射出成形用金型51による急冷であるので細かい結晶が多数できているものと考えられる。ポリプロピレン系樹脂の結晶化温度は110〜140℃程度であるが、この結晶化温度以下に冷やされた樹脂が結晶化するものと考えられる。そうすると、射出成形用金型51内で結晶化する樹脂の量は、射出成形用金型51内での樹脂の滞留時間と射出成形用金型51内に導入された樹脂の温度に支配される。そして、同じ滞留時間でも高温の溶融樹脂の方が結晶生成量が少なく、高温の溶融樹脂の方が滞留時間の差に対する結晶生成量の変化が少ない。このため、キャビティの樹脂入口から遠い部分に射出された樹脂と樹脂入口に近い部分に射出された樹脂との滞留時間の差が同じ(射出継続時間が同じ)であっても、導入樹脂の温度が高温である方が、両者の結晶生成量の差が少ないことになる。
【0055】
このため、射出成形用金型51のキャビティ内へ射出される樹脂温度を230℃以上、好ましくは260℃以上とすることにより、金型内での樹脂の結晶生成量の差(バラツキ)は小さくなる。そうすれば、射出成形用金型51から離型されたホットなプリフォームは、キャビティの樹脂入口から遠い部分と樹脂入口に近い部分の急冷による細かい結晶生成量の差は小さくなる。
【0056】
射出成形用金型51から離型されたホットなプリフォームは、室温まで放冷されるが、離型後の大気中での放冷においては、金型内での冷却速度より遅いので比較的大きな結晶が生成する。プリフォーム中の位置による細かい結晶の生成量の差が小さいプリフォームは、細かい結晶と大きな結晶の比率や配置の差(結晶生成の構造的相違)が小さくなり、プリフォーム中の位置による結晶構造のバラツキが小さいことになる。
【0057】
延伸ブロー成形においては、プリフォームが軟化する結晶化温度に近い温度に加熱するだけなので、延伸処理段階では樹脂は完全に溶融せず、プリフォーム中の結晶の一部は残ったまま延伸ブローされ冷却されることになる。そうすると、プリフォームの結晶構造の均一性(不均一性、バラツキ)は、プリフォームの延伸の均一性(不均一性)に影響を与え、得られた透明容器の肉厚や結晶構造の均一性(不均一性)に影響を与える。このため、プリフォームの結晶構造(小さな結晶と大きな結晶の量や配置など)を均一にする、言い換えれば、射出成形用金型51に射出するランナ部出口の樹脂温度を、230℃以上と高くすることが重要である。本発明の透明容器の製造方法においては、このような原理によって透明度の均一な透明容器が得られているものと考えられる。なお、プリフォームの結晶構造が均一であれば、得られる透明容器の肉厚の均一性にも好影響があるものと考えられる。
【0058】
230℃以上の高温の樹脂を射出成形用金型51で冷却してプリフォームを形成する場合、プリフォームの肉厚方向中心部分の樹脂温度が高いままなので、ホットなプリフォームの離型時にはその形状を維持するために表面部分の冷却を相対的に十分することになり、結晶化している表面付近の結晶化した部分の厚さを厚くする必要がある。そうすると、細かい結晶の生成量は相対的に多くなるので、室温に冷却した後のプリフォーム中の細かい結晶の比率が多くなり、透明容器とした場合に透明度が向上する効果もあると考えられる。
【0059】
(ホットパリソン式延伸ブロー成形)
次ぎに、ホットパリソン式の射出延伸ブロー成形でポリプロピレン系樹脂からなる透明容器10を製造した場合の透明容器の製造方法を説明する。
【0060】
図4は、ホットパリソン式の射出延伸ブロー成形による透明容器10の製造方法を説明するための実施形態の模式図である。なお、図4において、図1に示した構成部品と対応する構成部品については同一符号を付してその説明を省略する。
【0061】
コールドパリソン式に係る射出延伸式ブロー成形では、プリフォーム60の射出成形処理とブロー成形処理が完全に分離された操作であり、射出成形用金型51から取り出されたプリフォーム60は一旦室温まで冷却され、延伸ブロー成形時に室温からの加熱処理が実施される。これに対してホットパリソン式に係る射出延伸式ブロー成形では、射出形成処理時に樹脂に印加された熱を利用して延伸ブロー成形が実施される。即ち、射出成形機50においてプリフォーム60が形成された後、これを冷却することなく射出成形用金型51から取り外すと共に、すぐにブロー装置64に装着し、ホットなプリフォーム60の加熱処理及び延伸ブロー成形を続ける。ホットパリソン式の延伸ブロー成形の場合、延伸ブロー成形されるプリフォーム60の温度は高い温度のままなのでその分ヒータ61の加熱付加が低減される。
【0062】
図3を用いてホットパリソン式延伸ブロー成形の温度プロファイルを説明する。本実施形態のホットパリソン式延伸ブロー成形においては、射出成形用金型51内でホットなプリフォーム60を形成する行程はコールドパリソン式と同じである。ホットパリソン式延伸ブロー成形においては、図3におけるプリフォーム冷却工程が省略されて、射出成形用金型51内で形成されたホットなプリフォーム60は、そのまま延伸ブロー成形される。図3において、樹脂が射出成形用金型内で冷却されホットなプリフォームとして離型可能な状態(樹脂温度t近く)となったら、図の矢印のように、射出成形用金型から離型すると共に直ちに延伸ブロー成形機のヒータ61内に挿入し、樹脂温度t以上の温度のまま加熱して所定温度(樹脂温度t)とする。加熱後は、上記コールドパリソン式延伸ブロー成形と同様にプリフォームを延伸ブロー成形して透明容器10を作製する。
【0063】
(透明容器の形状設計)
上記のように延伸処理(延伸ブロー成形)を実施することにより、プリフォーム60の胴部分の肉厚は薄くなり、最終的に透明容器10が形成された状態においてその肉厚tは0.05〜1.5mmの厚さとなる。なお、透明容器10の胴部分の肉厚は、プリフォーム60の胴部の肉厚(射出成形機のキャビティの厚さ)と延伸ブロー成形用金型62のキャビティの形状、大きさを勘案して相対的に設計する。通常は、延伸ブロー成形時のプリフォーム60に対する縦横それぞれの遠心倍率で表す。
【0064】
(成形品の物性等)
上記のように本実施形態の射出延伸式ブロー成形により形成された肉厚tが0.05〜1.5mmの透明容器10に対し、JIS K7105に準拠してヘイズ値を測定したところ、この透明容器10のヘイズ値は、通常は4.0%以下、大きくても5.0%以下とすることができた。例えば、0.7mm前後の肉厚ではヘイズ値2.5%以下の透明容器が製造でき、1.3mm前後の肉厚ではヘイズ値3〜5%の透明容器が製造できる。
【0065】
胴部のヘイズ値/肉厚として評価すれば、本実施形態の製造方法による透明容器は4.0%/mm以下とすることができた。透明度のバラツキについても、ヘイズ値/肉厚の差として、通常は1.0%/mm以下、大きい場合でも1.5%/mm以下、特に大きい場合でも2.2%/mm以下のバラツキに抑えることができる。
【0066】
[本発明の透明容器]
次ぎに、本発明の透明容器について説明する。本発明の透明容器の製造方法により透明度が高く、透明性のバラツキの少ないPP製の透明容器を製造することができる。そこで、本発明の透明容器の製造方法により得ることのできる、従来にない、特に透明度と透明性のバラツキの少ないポリプロピレン系樹脂製の新規な透明容器について説明する。
【0067】
(本発明の透明容器の実施形態例)
図5に本発明の透明容器の実施形態例を示す。図5に示した本発明の実施形態例の透明容器は、略楕円柱状の胴部を有するポリプロピレン製の透明容器(PPボトルという。)10である。図5において、(A)は透明容器10の正面図であり、(B)は透明容器10の側面図、(C)は透明容器10の平面図である。図5に示した透明容器10は、例えば化粧品、飲料等の液状体を内容物とする容器である。この透明容器10は、射出延伸ブロー成形により成形したポリプロピレン系樹脂成形品であり、大略すると胴部11、首部12、肩部13,底部14を一体的に形成した構成とされている。なお、胴部11には、凹部17が形成されているが、これはなくてもよく、他の形状でもよい。本実施形態に係る透明容器10は、プロピレン−エチレンランダム共重合体を主体とし、好ましくはプロピレン系樹脂以外の樹脂を含まない樹脂組成物を原材料としている。
【0068】
本願発明において、肉厚やヘイズ値を測定する際の胴部11は、肩部13の胴部11との境目である角部15より下の、成形による樹脂の肉厚の明らかな変化等がなくなった部分より下、通常は5mm程度下から、底部14の胴部11との境目である角部16の上、成形による樹脂の肉厚等の大きな変化がなくなった部分より上の、通常は5mm程度上までの間の部分をいう。
【0069】
(胴部の肉厚)
本発明の透明容器は、胴部の肉厚(以下、単に「肉厚」という場合、特に断らない限り「透明容器の胴部の肉厚(mm)」を表す。)が0.05mm以上、好ましくは0.6mm以上、好ましくは0.7mm以上、好ましくは0.8mmを超え、特に好ましくは0.85mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上であり、且つ、1.5mm以下、好ましく1.4mm以下である。胴部の肉厚が上記下限値より薄くなると、透明容器の形状によっては所望の強度が保てなくなる恐れがあり、座屈しやすくなったり、衝撃や突起物等による破損が起こりやすくなる。また、胴部の肉厚が上記上限値より厚くなると、透明容器としての強度には問題はないが、樹脂使用量が増大し、容器重量が増えてしまい、PET容器などに比べ搬送、取り扱いが不便になり、製造コスト的にも不利になり、透明度の高い容器が製造し難くなる。なお、上記肉厚の範囲は、ひとつの透明容器の複数箇所を測定した場合は、それらの測定値の平均値であればよい。
【0070】
(透明容器のヘイズ値)
一般に、透明容器として求められる性能は、透明度がヘイズ値で表して8.0%以下、好ましくは5.0%以下、特に好ましくは4.5%以下である。本発明の透明容器の胴部のヘイズ値(以下、単に「ヘイズ値」という場合、特に断らない限り「透明容器の胴部のヘイズ値(%)」を表す。)は、従来から使用されているPET製の透明容器の肉厚0.8〜1.5mm程度のヘイズ値を勘案すれば、6.0%以下、好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下とすることが望まれる。なお、透明容器の胴部のヘイズ値は、ひとつの透明容器の複数箇所を測定した場合は、それらの測定値の平均値によって表す。なお、透明容器の肉厚は0.05〜1.5mm程度のものが求められるが、肉厚が0.6〜1.5mm、特に0.85〜1.5mmの透明容器においては、従来はヘイズ値が5.0%未満、特に4.5%以下のものが特に製造困難とされていた。
【0071】
(肉厚に対するヘイズ値の比)
本発明の透明容器は、胴部の肉厚に対するヘイズ値の比(ヘイズ値/肉厚として表す。)が、上限値は5.0(%/mm)、好ましくは4.5(%/mm)、さらに好ましくは4.0(%/mm)である。ヘイズ値の下限値は、小さい方が好ましいが、現状では製造上の制限から限界があり、ヘイズ値の下限値の設定には、ヘイズ値/肉厚を利用し、この値を1.0(%/mm)以上、好ましくは1.5(%/mm)以上、特に好ましくは2.0以上である。
【0072】
ヘイズ値(全ヘイズ値ともいう。)は、概念的には透明容器から切り出した試験片であるシート状成形体の表面の光散乱特性(表面ヘイズ値)と試験片内部の光散乱特性(内部ヘイズ値)の和として表される。本発明者の検討によると、ヘイズ値6.0%以下のような透明度の高いPP成形品においては、表面の光散乱(表面ヘイズ値)はほとんど抑えられて0%に近く、ヘイズ値(全ヘイズ値)は、ほとんど成形体の内部の光散乱特性(内部ヘイズ値)に依存する。そうすると、ヘイズ値測定サンプルが均質な成形体(同一の成型方法で均一に成形された成形体)であればその肉厚とヘイズ値の間に比例関係を有することが見出された。
【0073】
そこで、同一のPP樹脂から同じような成形条件で透明容器を成形した成形体の肉厚とヘイズ値に比例関係があるとき、例えば、肉厚1.3mmの場合にヘイズ値が4.2%の透明容器(ヘイズ値/肉厚=3.2%/mm)が製造できれば、肉厚0.7mmの場合にヘイズ値が約2.3%の透明容器、肉厚1.5mmの場合にヘイズ値が約4.8%の透明容器が同様の成形条件で製造できることになる。本発明の透明容器の成型方法を適用すれば、後述の実施例に示すように(図6参照)、同じ樹脂から同じ成形条件で製造した肉厚のみの異なる透明容器のヘイズ値が、上記想定を裏付けている。
【0074】
このように、ヘイズ値は、肉厚が薄ければ、1.0%以下の透明容器でも容易に製作できるが、肉厚が比較的厚い、例えば1.0mm程度の透明容器の場合、1.0%未満とすることは難しい。そこで、ヘイズ値の下限値の設定には、単なるヘイズ値の絶対値ではなく、ヘイズ値/肉厚を利用することが考えられる。本発明の透明容器の胴部のヘイズ/肉厚は、上限値が5.0%/mm、さら4.5%/mm、特に4.0%/mmであることが好ましい。ヘイズ/肉厚が5.0%/mm以下の透明容器はほとんど知られていなかった。特に、肉厚が0.85mm以上でヘイズ/肉厚の比が5.0%/mm以下の透明容器の公知例はなかった。
【0075】
本発明の透明容器の胴部のヘイズ値の下限値は、小さい方が好ましいが、現状では製造上の制限から限界があり、1.0%/mm、好ましくは1.5%/mm、特に好ましくは2.0である。図6に示すように、透明容器のヘイズ値の下限値を1.0%/mm以上、好ましくは1.5%/mm以上とすれば、すでに説明した本発明の透明容器の製造方法を適用して、これまでに製造できなかった透明容器が製造できることが判った。
【0076】
図6に示すように、PP製のヘイズ/肉厚が5.0%/mm以下の透明容器、特にヘイズ値6%以下のPP製の透明容器であれば、本発明の透明容器の製造方法を適用することにより、ほぼ同じ成形条件で肉厚のみを変更した透明容器を製造すれば、胴部のヘイズ値/肉厚が同じ程度の透明容器を製造することができる。
【0077】
(任意の2箇所の(ヘイズ値/肉厚)算出値同士の差)
本発明の透明容器は、任意の2箇所のヘイズ値/肉厚の算出値同士の差(以下(大きい値−小さい値)で表す。)が2.5%/mm以下、好ましくは1.5%/mm以下、特に好ましくは1.0%/mm以下である。一般に、透明容器は、場所による透明度のバラツキは目立ちやすく、透明度のバラツキがあると商品価値が低下する。特に、透明度の高い透明容器ではその傾向が強い。一方で、肉厚1.5mm以下の透明容器は、延伸ブロー成形で製造することが多く、延伸ブロー成形では、すでに説明したように、容器製造過程における樹脂の延伸状態や成形時の温度プロファイルの均質性が十分でない場合がある。そうすると、透明容器の場所による透明度のバラツキが生じやすくなる。
【0078】
ヘイズ値は、肉厚との関係で変化しやすい。そこで、肉厚の影響を考慮して、透明性のバラツキの指標として胴部の肉厚とヘイズ値の比の差として整理する。肉厚とヘイズ値の比の差とは、透明容器の任意の2箇所の肉厚とヘイズ値の比の差であり、2箇所の肉厚とヘイズ値の比の算出値(ヘイズ値/肉厚)の差の絶対値、又は(ヘイズ値/肉厚の大きい方の値)から(ヘイズ値/肉厚の小さい方の値)を引いた差として表す。
【0079】
例えば、2箇所のヘイズ値/肉厚の算出値の差を1.5以下と規定したとき、胴部の1箇所の肉厚とヘイズ値の測定値が1.0mmに対し4.0%であった場合、1.0mmの肉厚の部分に対するヘイズ値/肉厚の算出値は2.5〜5.5%/mmの範囲内であるが、他の部分の肉厚の測定値が1.1mmであれば、ヘイズ値は{(4.0/1.0)±1.5}×1.1=2.75〜6.05%/mmの範囲内であり、肉厚が0.8mmの部分では、ヘイズ値が{(4.0/1.0)±1.5}×0.8=2.0〜4.4%/mmの範囲内である必要がある。本発明の透明容器は、任意の2箇所のヘイズ値/肉厚の算出値同士の差が2.5%/mm以下、好ましくは1.5%/mm以下、特に好ましくは1.0%/mm以下である。
【0080】
図6は、本発明の透明容器の胴部の肉厚とヘイズ値の関係を表している。図6に示すように、同じPP製透明ボトルでも、測定位置によってヘイズ値だけでなく肉厚にもバラツキがある。しかし、肉厚とヘイズ値の関係を肉厚とヘイズ値の比(ヘイズ値/肉厚)として整理すると、そのバラツキは小さくなる。そして、本発明の透明容器は、肉厚が1.5mm以下でヘイズ値/肉厚が5.0%/mm以下、好ましくは4.0%/mm以下に収まる。又、ヘイズ値/肉厚の比が4.0%/mm以下に収まる透明容器では、測定位置によるヘイズ値/肉厚のバラツキは、ほとんど1.0%/mm以下である。一方で、本発明者の検討によると、ヘイズ値が4.0%/mmを超えるような透明容器では、胴部の肉厚とヘイズ値の比のバラツキは大きくなる傾向があることが判った。
【0081】
なお、従来のPP製の透明容器は、1つの透明容器について胴部の位置による肉厚とヘイズ値の比のバラツキは、これを記した文献がなく不明であるが、図6に示したように、従来のコールドパリソン式射出延伸ブロー成形により作製したと考えられる市販の透明性の高いPP製の透明容器についての3箇所の肉厚とヘイズ値の比の測定結果では、肉厚とヘイズ値の比の最大のバラツキは1.6%/mmであった。また、比較例1として示すように、従来のコールドパリソン式射出延伸ブロー成形により作製した透明容器についての3箇所の肉厚とヘイズ値の比の測定結果では、肉厚とヘイズ値の比の平均値は5.6%/mm、最大のバラツキは5.2%/mmであった。
【0082】
(ヘイズ値の比のバラツキ)
透明容器の透明性のバラツキは、透明容器のヘイズ値のバラツキとして評価することもできる。透明容器のヘイズ値のバラツキは、同じ透明容器の胴部の任意の2箇所のヘイズ値の比(小さいヘイズ値/大きいヘイズ値とする。)でとして表すとき、透明容器の胴部の任意の2箇所のヘイズ値の比は、0.73以上であることが好ましい。すなわち、胴部の任意の2箇所のヘイズ値のうち大きい測定値をA%、小さい測定値をB%としたとき、B/Aが0.73以上となる範囲であることが好ましい。なお、本願発明においては、胴部の任意の2箇所のヘイズ値の測定値の比は、{(小さい測定値)/(大きい測定値)}として表し、その値を0.73以上、特に0.77以上とすることが好ましい。
【0083】
表2に示したように、従来のコールドパリソン式射出延伸ブロー成形により作製した透明容器(市販品)についての3箇所の測定結果からは、2箇所のヘイズ値の比0.70があった。なお、本発明者の検討によると、ヘイズ値が4.0%を超えるような透明容器では、胴部の肉厚とヘイズ値の比のバラツキは大きくなることが判った。
【0084】
(座屈強度)
本発明の透明容器は、胴部の上下方向における座屈強度(以下、「座屈強度」は特に断らない限り「透明容器の胴部の上下方向における座屈強度」を表す。)が、肉厚0.7mm以上、好ましくは0.8mm以上において100N以上であることが好ましい。座屈強度は、容器を積み重ねたり、上部から圧縮したりした場合の耐性であり、通常、100N以上であれば、流通での搬送や保管、使用時の取り扱いに特別の注意が必要ないとされている。なお、通常、透明容器の座屈強度は、胴部が最も小さく、最初に座屈する場合が多いので、座屈強度の測定においては、胴部のみを取りだして実施してもよいが、透明容器そのものを上下方向に圧縮して座屈強度を測定してもよい。
【0085】
図7は、本発明の透明容器の実施例における肉厚と座屈強度との関係を示す。座屈強度は、容器の大きさ、形状、肉厚により大きく変動するが、図7においては、容量200mlであり図5に示すような胴部が略楕円柱状(凹部17はない)のPP製の透明ボトルの肉厚を変化させたときの座屈強度の値である。図7に示すように、この実施例の透明容器であれば、肉厚0.6mm以上、特に肉厚0.8mm以上であれば座屈強度100Nが確保できている。
【0086】
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂には、周知のようにホモポリマー(ポリプロピレン単体のみからなる重合体)とコポリマーがある。また。コポリマーには、ランダムコポリマー(ランダムコPP)、ブロックコポリマー、交互コポリマーなどが存在するが、これらを混合した組成物の場合もある。ランダムコPPはプロピレン以外のオレフィン系モノマーを含むPPであり、例えば少量のαオレフィンがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれた構造を有している。本実施形態ではコポリマーであるPPを透明容器10の原材料として用いた例について説明するが、ホモポリマーのPPを用いて透明容器10を製造することも可能である。
【0087】
本発明の透明容器に使用するポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(例えば、プロピレンエチレン共重合体)、又は前記ポリプロピレンとプロピレン−α−オレフィン共重合体(例えば、プロピレンエチレン共重合体)との混合物であることが好ましい。
【0088】
本発明の透明容器に使用するポリプロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ系触媒により重合されたものであることが好ましい。チーグラーナッタ系触媒により重合されたポリプロピレン系樹脂は、メタロセン系の触媒等により重合されたものとは配向特性が異なり、結晶生成のメカニズムが相違するため、座屈強度が高く、ヘイズ値が小さく、そのバラツキの少ない透明容器が得られるものと考えられる。
【0089】
本実施形態の透明容器は、アイソタクティックポリプロピレン系樹脂が好ましく、シンジオタクティックポリプロピレン系樹脂の含有量が75質量%未満であるポリプロピレン系樹脂を用いている。シンジオタクティックポリプロピレン系樹脂は、透明度を向上させるには適しているが、透明容器を製造する場合、強度が十分ではない。強いて強度を上げるためには、肉厚を厚くする必要があるが、透明容器が重くなるだけでなく、樹脂使用量が増加してコスト高となりやすい。シンジオタクティックポリプロピレン系樹脂は、75質量%未満、好ましくは60質量%未満、さらに好ましくは実質的に含有させないことが望ましい。
【0090】
本発明の透明容器に使用するポリプロピレン系樹脂はバイオマス原料を主体として製造されたものであることが好ましい。将来は、環境負荷の小さいバイオマス原料を主体とする植物原料から生成するポリプロピレン系樹脂が安価に入手できるようになると考えられる。例えば、トウモロコシのデンプンからプロパノールやエタノール等のアルコールを経由してプロピレン、エチレン等を生産し、これを重合すれば100%植物原料由来のポリプロピレン系樹脂が製造できる。
【0091】
(透明容器の形状)
本発明の透明容器は、胴部が略円柱、略楕円柱、断面が略多角形の多角柱、又は断面が略多角形の角部を滑らかな形状にした多角柱のいずれかのボトル形状であることが好ましい。なお、上記の形状に強度補強用のリブや凹凸模様、エンボス模様、波形模様、鋸歯紋などを形成してもよい。
【0092】
(透明容器の製造方法)
本発明の透明容器は、すでに説明した本発明の透明容器の製造方法により製造できる。必ずしも上述の透明容器の製造方法を用いなくても、透明容器の成形方法として射出延伸ブロー成形(射出成形+二軸延伸ブロー成形)における樹脂及びプリフォームの温度プロファイルを調製することにより、本発明の透明容器を製造できる。射出延伸ブロー成形にはホットパリソン式とコールドパリソン式があるが、本実施形態では本実施形態ではコールドパリソン式を用い、プリフォーム成形時の温度プロファイルを調製することにより、胴部11の透明度及び均一な透明性を実現している。
【実施例】
【0093】
[透明容器の物性測定]
(透明容器の肉厚)
透明容器の肉厚は、図5における透明容器10の上下の角部15、16から略5mmの部分を除く胴部11の比較的平らな部分を切り出し、マイクロメータにより測定する。同じ透明容器から複数箇所を取り出して肉厚(mm)を測定した場合は、それらの平均値を透明容器の肉厚とする。
【0094】
(透明容器のヘイズ値及びヘイズ値と肉厚の比)
透明容器のヘイズ値は、JIS K7105に準拠して測定する。試験片は上記肉厚を測定した試験片と同じものを用いて測定すればよい。同じ透明容器から複数箇所を切り出してヘイズ値を測定した場合は、それらの平均値を算出して透明容器のヘイズ値とする。
【0095】
ヘイズ値のバラツキを測定するときは、目視でヘイズ値のバラツキが大きいと推測される部分を、少なくとも2箇所切り取って試験片とする。ヘイズ値のバラツキを測定した肉厚とヘイズ値は、肉厚とヘイズ値の平均値を算出する基礎データとすると同時に、測定した肉厚とヘイズ値からそれぞれ「ヘイズ値(%)」/「肉厚(mm)」(%/mm)を算出する。
【0096】
(実施例1)
市販のポリプロピレン系樹脂組成物(プロピレン−エチレンランダムコポリマー:Melt Index(ASTM D−1238−L;230℃/2.16kg)5〜30g/10min、Heat Deflection Temperature(ASTM D−648;at455kPa)75〜100℃)を用いて、コールドパリソン式射出延伸ブロー成形機(KINGSTRONG M&E TECNOLOGY CO.,LTD社製ECOJET 180B52型射出成形機及びPOLYMAC TECNOLOGY LIMITED社製SPRA800HF2型二軸延伸ブロー成形機)により、下記の表1の実施例1の欄等に示した成形条件で、図5に示す透明容器10の凹部17がない透明容器1を複数個作製した。なお、シリンダ部樹脂温度は射出成形機の加熱シリンダ52の設定温度であり、ホットランナ部樹脂温度は、射出成形終了直後のホットランナ部の樹脂温度を測定した温度である。
【0097】
複数の透明容器10は、目視観察では肉厚や透明度の差異はほとんど認められなかった。図5(A)における1つの透明容器1の胴部11の離れた正面側部分3箇所から試験片を切り出した。各試験片につき肉厚及びヘイズ値を測定し、それぞれの測定値の平均値を透明容器1の肉厚及びヘイズ値として表2に示した。
【0098】
表2に、3個の試験片から得られた肉厚とヘイズ値の測定値から、それぞれ3つのヘイズ値の測定値同士の比、3つのヘイズ値/肉厚の算出値、及び3つのヘイズ値/肉厚の算出値同士の差を算出して示した。また、それぞれの実施例、比較例毎に3つのヘイズ値の比、及び3つのヘイズ値/肉厚同士の差の最大値を指標として表2に示した。なお、表2において、3つのヘイズ値の比は、上からヘイズ値の測定値の上段と中段の比、中段と下段の比、と下段と上段の比の順に、(小さい測定値)/(大きい測定値)として表している。一方、3つのヘイズ値/肉厚の差は、ヘイズ値/肉厚の算出値の差であり、上からヘイズ値/肉厚の算出値の上段と中段の差、中段と下段の差、下段と上段の差の順に、(大きい測定値)−(小さい測定値)として表している。
【0099】
【表1】

【0100】
(延伸ブロー成形条件)
キャビティ容量:200ml
延伸ブロー温度: 140℃
延伸倍率:縦2.0倍、横2.0倍
【0101】
【表2】

【0102】
(実施例2)
実施例1において、シリンダ部樹脂温度を表1に示すように変更して、プリフォームの肉厚を変更した以外は、実施例1と同様にして、透明容器を作成した。この透明容器の物性値等を実施例1と同様に測定及び算出して、測定値及び算出される物性値等を表2に示した。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0103】
(実施例3)
実施例1において、シリンダ部樹脂温度を表1に示すように変更して、プリフォームの肉厚を変更した以外は、実施例1と同様にして、金型内にホットなプリフォームを形成し、金型から離型したホットなプリフォームを直ぐに冷水につけて冷却処理した。室温まで冷却されたプリフォームを実施例1と同様にして、透明容器を作成した。この透明容器の物性値等を実施例1と同様に測定及び算出して、測定値及び算出される物性値等を表2に示した。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0104】
(実施例4)
実施例1において、シリンダ部樹脂温度を表1に示すように変更して、プリフォームの肉厚を変更して、金型冷却時間を120秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、透明容器を作成した。この透明容器の物性値等を実施例1と同様に測定及び算出して、測定値及び算出される物性値等を表2に示した。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0105】
(実施例5)
実施例1において、シリンダ部樹脂温度を表1に示すように変更して、プリフォームの肉厚を変更した以外は、実施例1と同様にして、透明容器を作成した。この透明容器の物性値等を実施例1と同様に測定及び算出して、測定値及び算出される物性値等を表2に示した。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0106】
(比較例1、2)
実施例1において、シリンダ部樹脂温度とホットランナ部樹脂温度を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、透明容器を作成した。この透明容器の物性値等を実施例1と同様に測定及び算出して、測定値及び算出される物性値等を表2に示した。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0107】
(比較例3:市販PP製透明容器の物性測定)
現在入手できる比較的肉厚で、最も透明度の優れていると考えられる、市販のPP製透明容器(ニッコー・ハンセン社製、商品名、JPボトルJP−250)を用いて、実施例1と同様にして肉厚及びヘイズ値を測定し、その平均値及びバラツキを算出した。得られた結果を表2に示す。また、図6に各試験片の肉厚とヘイズ値の関係を示した。
【0108】
表2及び図6に示すように、実施例1〜5において、透明容器のヘイズ値は容器の肉厚が厚くなるにつれて増大している。即ち、本発明の透明容器においては、容器の肉厚とヘイズ値は関係を有しており、肉厚が変化した以外は同じ製造方法で作成した透明容器(例えば、同じ実施例の容器の肉厚の異なる部分の測定値)は、肉厚(mm)とヘイズ値(%)の間にほぼ比例関係が見られ、肉厚が厚くなるのに比例して透明度は悪化し(ヘイズ値は大きくなる)、肉厚が薄くなるに従い透明度は良く(ヘイズ値は小さく)なる。また、実施例の透明容器の製造方法を用いているひとつの透明容器の部分によるヘイズ値(%)/肉厚(mm)の差の最大バラツキは2.2(%/mm)以下であった。これに対し、従来のコールドパリソン式射出延伸ブロー成形で製造したPP製の透明容器(比較例1、2)では、透明容器の肉厚(mm)とヘイズ値(%)の比の最大バラツキは4(%/mm)以上(5.2(%/mm)、及び35.1(%/mm))であった。比較例3として示した市販の透明度が高いとされているPP製透明容器においては、肉厚0.88mmに対しヘイズ値が4.8%であり、ヘイズ値/肉厚の最大バラツキは1.6(%/mm)であった。
【0109】
本発明の透明容器は、実施例1〜4に示されるように、本発明の透明容器の製造方法においても、さらに厳しい成形条件で成形することにより製造される。すなわち、シリンダ部の樹脂温度を高温にしたり、金型から離型したホットなプリフォームを急冷したり、金型でプリフォームを十分に冷却(急冷に相当する。)することにより、特に透明度が高く、均一な透明性を有する本発明の透明容器が得られる。ヘイズ値/肉厚で表した透明度のバラツキが1.5%/mm以下、1.0%/mm以下と非常に小さい透明容器は本発明がはじめて製造した透明容器である。なお、シリンダ温度を260℃と高温にした比較例2のヘイズ値の結果等から判るように、本発明においてはホットランナ部の温度制御が重要なことが判る。
【符号の説明】
【0110】
10 透明容器
11 胴部
12 首部
13 肩部
14 底部
15 肩部と胴部の角部
16 底部と胴部の角部
17 凹部
50 射出成形機
51 射出成形用金型
52 加熱シリンダ
53 押し出しスクリュー
54 ホッパー
55 樹脂ペレット
56 固定ダイスプレート
57 移動ダイスプレート
58 ホットランナ
59 ヒータ
60 プリフォーム(パリソン)
61 ヒータ
62 ブロー成形用金型
63 延伸ロッド
70 樹脂通路(ランナ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出延伸ブロー成形によりポリプロピレン系樹脂から、透明容器を成形する透明容器の製造方法であって、
射出成形機によりプリフォームを成形する際、射出成形機のランナ部の樹脂温度を、シリンダ部の樹脂温度以上とし、且つ230〜300℃として樹脂を金型に射出することを特徴とする透明容器の製造方法。
【請求項2】
前記射出延伸ブロー成形は、コールドパリソン式の射出延伸ブロー成形であることを特徴とする請求項1に記載の透明容器の製造方法。
【請求項3】
前記射出成形機により形成されたプリフォームは、前記樹脂の結晶化が実質的に進行しなくなるまで強制冷却処理されることを特徴とする請求項2に記載の透明容器の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂は、バイオマス原料から製造されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明容器の製造方法。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂を用いた透明容器であり、
胴部の肉厚の平均値が0.05〜1.5mm、
胴部の肉厚(mm)に対するヘイズ値(%)の比(ヘイズ値/肉厚)が1.0〜5.0%/mm、
胴部の任意の2箇所の肉厚に対するヘイズ値の比(ヘイズ値/肉厚)の差の絶対値が1.5%/mm以下である
ことを特徴とする透明容器。
【請求項6】
前記胴部の任意の2箇所のヘイズ値の比(小さい方のヘイズ値/大きい方のヘイズ値)が0.73以上であることを特徴とする請求項5に記載の透明容器。
【請求項7】
前記ポリプロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ系触媒により重合されたことを特徴とする請求項5又は6に記載の透明容器。
【請求項8】
前記ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体、又はポリプロピレン若しくはプロピレン−α−オレフィン共重合体を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の透明容器。
【請求項9】
胴部が略円柱、略楕円柱、断面が略多角形の多角柱、又は断面が略多角形の角部を滑らかな形状にした多角柱のいずれかのボトル形状であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の透明容器。
【請求項10】
前記ポリプロピレン系樹脂は、バイオマス原料を主体として製造されたことを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の透明容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136018(P2012−136018A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266122(P2011−266122)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】