説明

透明導電膜を形成する方法と装置

成膜装置は、220cm2以上の面積を有する下地(1)上にCVDによって透明導電膜を堆積するための成膜室(3)と、有機金属蒸気を含む第1のガスを輸送する第1のガス管と、酸化剤蒸気を含む第2のガスを輸送する第2のガス管と、第1と第2のガス管を結合させて第1と第2のガスを混合するためのガス混合空間(12)と、そのガス混合空間おいて混合された反応ガスを成膜室内へ導入するガス導入手段(10)と、成膜室から排ガスを排出するための排気装置(6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的大面積の透明導電膜を形成するための方法と装置に関する。そのような透明導電膜は、たとえば薄膜光電変換装置や液晶表示装置などにおいて好ましく利用され得るものである。なお、本願明細書において、半導体薄膜に関する「結晶質」と「微結晶」の用語は、当該技術分野において通常用いられているように、部分的に非晶質状態を含む場合にも用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえば多結晶シリコンや微結晶シリコンのような結晶質シリコンを含む薄膜を利用した光電変換装置の開発が精力的に行なわれている。これらの光電変換装置の開発では、比較的低温のプロセスで安価な基体上に良質の結晶質シリコン薄膜を形成することによる低コスト化と高性能化の両立が目的となっている。そのような光電変換装置は、太陽電池や光センサなどのさまざまな用途への応用が期待されている。
【0003】
一般的に、光電変換装置を作製するためには、その一部に透明導電膜を用いることが不可欠である。光電変換装置の一例として、基体上に、透明導電膜からなる表面電極と、一導電型層、結晶質シリコン系光電変換層および逆導電型層を含む光電変換ユニットと、光反射性金属層を含む裏面電極とを順次形成した構造を有するものが知られている。通常、光電変換装置に入射した光をより有効に利用するために、光入射側の表面電極に表面凹凸(表面テクスチャ)構造を設けて光を光電変換ユニット内へ散乱させ、裏面金属電極で反射した光をさらに乱反射させる工夫がなされている。また、光電変換装置内に光を閉じ込めて有効利用するために、透明導電膜を半導体層と裏面電極との間に挿入することが知られている。さらに、pnまたはpin接合の複数を含む積層構造を有するタンデム型の光電変換装置中の中間層として、透明導電膜を含めることが知られている。
【0004】
従来、シリコン系薄膜光電変換装置において、ガラス基板上の透明導電膜として、表面凹凸構造を有する酸化錫膜(たとえば旭硝子社製のU−type SnO2膜など)が広く用いられている。しかし、そのような酸化錫膜は、その形成のために500℃以上の高温プロセスを要するのでコストが高い。
【0005】
比較的小規模の成膜装置を用いて透明導電膜、特に酸化亜鉛膜を形成する方法として、高圧熱CVD(化学気相堆積)、真空蒸着、スパッタ、低圧熱CVDなどの利用が可能である。しかし、高圧熱CVDでは成膜温度が高いので耐熱性の低いガラスやプラスチックフィルムなどの安価な基体が使えず、また半導体膜からなる下地層上に透明導電膜を形成する場合には、その半導体膜中において欠陥の発生や不純物の拡散を生じさせて、その半導体膜を含む装置の特性に悪影響を及ぼす。真空蒸着では比較的低温で透明導電膜を堆積できるが、大面積の成膜が難しくかつ成膜速度が遅い。スパッタによっても比較的低温で透明導電膜を堆積できるが、ターゲット表面からイオンやラジカルを放出させて成膜するために数百Vから数kVの高電圧を用いるので、イオンやラジカルが大きな運動エネルギーで下地表面に衝突し、下地である基体や半導体膜に欠陥やダメージを発生させ、そのような下地を含む装置の特性に悪影響を及ぼす。
【0006】
上記のような問題を解決し得る透明導電膜の堆積方法として、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を用いる低圧熱CVD法(またはMOCVD(有機金属CVD)法とも呼ばれる)が検討されている。図20の概念図において、Wilson W. Wenasらによる非特許文献1に開示された典型的な低圧熱CVD法による酸化亜鉛膜の堆積装置が先行例として示されている。この成膜装置において、真空槽4の内部は、基板1が設置される成膜室3である。亜鉛を含む有機金属蒸気として、ジエチル亜鉛(DEZ)蒸気がArキャリアガスと混合された状態で、DEZ供給管7を通じて成膜室3内に供給される。同様に、酸化剤蒸気である水(H2O)蒸気がArキャリアガスと混合された状態で、H2O供給管8を通じて成膜室3内に供給される。
【0007】
ここで、有機金属蒸気と酸化剤蒸気とがそれぞれ個別のガス導入管7、8を介して成膜室3内に導入される理由は、有機金属蒸気と酸化剤蒸気とを同一のガス導入管で輸送すれば、成膜室に至る前にそのガス導入管内で反応が生じて、短時間内にそのガス導入管が反応堆積物によって閉塞してしまうからである。
【0008】
成膜室3内では、たとえばガラス基板1がヒータ2で加熱されて低圧熱CVDが行われ、ガラス基板1の表面上に透明導電膜として酸化亜鉛膜が堆積される。成膜時の基板温度は100℃〜300℃の範囲内に設定され、圧力は1から25torr(133Paから3325Pa)の範囲内に設定される。成膜室3内における反応後の廃ガスは、排気口5および排気管6を介して排気される。この成膜方法によれば、透明導電膜の堆積時の下地温度が比較的低いので、ガラスなどの安価な下地を用いることができる。また、原理的にスパッタの場合のようなイオンが発生しないので、下地としての基体や半導体膜においてイオンによるダメージが生じることもない。
【0009】
しかしながら、大面積の透明電極膜の形成のために図20に典型的に示された先行例を利用する場合、堆積された大面積の透明導電膜における面内均一性が問題となる。すなわち、大面積でかつ均一な透明導電膜を低圧熱CVDで堆積するためには、大面積の下地面上に有機金属蒸気と酸化剤蒸気を均一に供給しかつそこから排気する必要がある。ところが、図20においてはDEZとH2Oがそれぞれガス供給管7、8から別々に成膜室3内に導入されるので、大面積の基体1の表面上でDEZとH2Oを均一に供給することが困難である。その結果、堆積される大面積の透明導電膜の厚さおよび物性の均一性を保つことが困難である。
【非特許文献1】Wilson. W. Wenas, Akira Yamada, Makoto Konagai and Kiyoshi Takahashi; “Textured ZnO Thin Films for Solar Cells Grown by Metalorganic Chemical Vapor Deposition”, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 30, No. 3B, March 1991, pp.L441-L443.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記先行例における課題に鑑み、本発明は、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を用いる低圧熱CVDにおいて、大面積でかつ均一な透明導電膜を形成する方法と装置を提供することを目的とする。また、その大面積の透明導電膜を含む装置、たとえば大面積の光電変換装置や液晶表示装置などを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による成膜装置は、220cm2以上の面積を有する下地上にCVDによって透明導電膜を堆積するための成膜室と、有機金属蒸気を含む第1のガスを輸送する第1のガス管と、酸化剤蒸気を含む第2のガスを輸送する第2のガス管と、第1と第2のガス管を結合させて第1と第2のガスを混合するためのガス混合空間と、そのガス混合空間おいて混合された反応ガスを成膜室内へ導入するガス導入装置と、成膜室から排ガスを排出するための排気装置とを含んでいる。
【0012】
すなわち、下地を配置した成膜室に導入する前に有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合することによって、その下地上に大面積でかつ均一な透明導電膜を堆積することを可能にする。また、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を含む反応ガスをシャワー状に成膜室内へ導入することによって、大面積の透明導電膜の均一性をより向上させることができる。
【0013】
しかしながら、成膜室内へ導入される前にたとえば約80℃に加熱された外径1/4インチ(内径約4.4mm)の配管内で有機金属蒸気であるジエチル亜鉛蒸気と酸化剤蒸気である水蒸気を混合すれば、その配管中で有機金属蒸気と酸化剤蒸気の反応が始まって透明導電膜または粉体が配管中に堆積し、その配管が短時間で閉塞してしまう。具体的には、ガラス基板上に厚さ約1μmの酸化亜鉛膜を堆積するに要する時間内で配管が閉塞し、それ以降の成膜が不可能になる。なお、配管を加熱することを要するのは、ジエチル亜鉛蒸気や水蒸気が液化することを防止するためである。
【0014】
本発明者は、有機金属蒸気と酸化剤蒸気の反応条件を詳細に調べることによって、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合しても配管が閉塞するまでの時間が工業的に許容できる範囲に納め得る条件を見出した。具体的には、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合する空間およびそこから成膜室内へ反応ガスを導入する経路の壁面の温度を適切な範囲に制御することによって、配管が閉塞することを抑制することができる。また、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合する空間およびそこから成膜室内へ反応ガスを導入する経路の断面積を十分大きくすることによって、すなわち配管のガス流コンダクタンスを大きくして管内圧力を低下させることによって、その配管の閉塞を抑制することができる。したがって、本発明によれば、下地としての基体または半導体膜に悪影響を与えることなく、大面積でかつ均一な透明導電膜を十分速い速度で堆積させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を用いた低圧熱CVDにおいて、大面積でかつ均一な透明導電膜を形成することが可能となる。その結果、大面積の透明導電膜を含む大面積の装置、特に大面積の光電変換装置の作製が可能になるとともにその特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】透明導電膜を形成するための従来の成膜装置の一例を示す概念図である。
【図2】図1の成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図3】透明導電膜を形成するための従来の成膜装置の他の例を示す概念図である。
【図4】図3の成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図5】本発明の一実施例による成膜装置の概念図である。
【図6】図5の成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図7】本発明の他の実施例による成膜装置の概念図である。
【図8】図7の成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図9A】本発明のさらに他の実施例による成膜装置の概念的縦断面図である。
【図9B】図9Aの成膜装置中の排気口配置を示す概念的平面図である。
【図10】図9Aの成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図11A】本発明のさらに他の実施例による成膜装置の概念的縦断面図である。
【図11B】図11Aの成膜装置中の排気口配置を示す概念的平面図である。
【図12】図11Aの成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図13A】本発明のさらに他の実施例による成膜装置の概念的縦断面図である。
【図13B】図13Aの成膜装置中の排気口配置を示す概念的平面図である。
【図14】図13Aの成膜装置で形成された透明導電膜の厚さ分布図である。
【図15】本発明のさらに他の実施例による光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図16】本発明のさらに他の実施例による光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図17】本発明のさらに他の実施例による光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図18】本発明のさらに他の実施例による光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図19】本発明のさらに他の実施例による大面積光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図20】従来の成膜装置のさらに他の例を示す概念図である。
【図21】本発明の成膜装置におけるガス混合空間近傍の配管を示す模式図である。
【図22】DEZ供給管中においてガス混合空間からの距離に依存して存在するH2Oの相対密度を示すグラフである。
【図23】蒸発気化器を示す概念図である。
【図24】バブリング気化器を示す概念図である。
【図25】噴霧気化器を示す概念図である。
【図26A】本発明のさらに他の実施例による成膜装置の概念的縦断面図である。
【図26B】図26Aの成膜装置中の排気口配置を示す概念的縦断面図である。
【図27A】本発明のさらに他の実施例による成膜装置の概念的縦断面図である。
【図27B】図27Aの成膜装置中の排気口配置を示す概念的縦断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ガラス基板、2 ヒータ、3 成膜室、4 真空槽、5、51、52、53 排気口、6 排気管、7 DEZ供給管、71 ヒータ、8 H2O供給管、81 ヒータ、9 拡散箱、10 シャワープレート、11 反応ガス配管、12 ガス混合空間、13 壁面ヒータ、14 邪魔板、15 分岐排気管、16 ガラス基板、17 表面電極、18 第一光電変換ユニット、18a 第一p型半導体層、18b 第一真性半導体層、18c 第一n型半導体層、19 第二光電変換ユニット、19a 第二p型半導体層、19b 第二真性半導体層、19c 第二n型半導体層、20 裏面電極、21 裏面反射層、22 中間層、23 下地層、24 DEZ供給バルブ、25 H2O供給バルブ、26 ヒータ、27 タンク、28 液体材料、29 蒸気、30 気体マスフローコントローラ、31 重量計、32 恒温槽、33 泡、34 気体マスフローコントローラ、35 液体マスフローコントローラ、36 混合器、37 Ar供給管、38 液体材料供給管、39 微小穴、40 霧状の液体材料、41 気化ガス供給管、101 集積型薄膜光電変換モジュール、102 ガラス基板、103 表面電極層、104a 第一光電変換ユニット、104b 第二光電変換ユニット、106 裏面電極層、110 光電変換セル、121 第一の分離溝、122 第二の分離溝、123 接続溝。
【0018】
なお、本願の図面において、同一の参照番号は同一部分または相当部分を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、成膜用ガスの原料に液体材料を用いる場合、その液体材料の少なくとも一つをバブリング気化器または噴霧気化器で気化することが好ましい。有機金属蒸気としてDEZ蒸気を用いて酸化剤蒸気としてH2O蒸気を用いる場合、液体状態のDEZとH2Oを気化して用いる。これらの蒸気を混合するためには、DEZの気化器の出口圧力と、H2Oの気化器の出口圧力をほぼ等しくする必要がある。両者の圧力に大きな差があれば、圧力の低い蒸気が押し戻されて流量が不安定になったり流れなくなる。
【0020】
蒸発気化器の出口圧力は液体材料の蒸気圧で決まるので、その出口圧力を制御する事が困難である。蒸発気化器を用いる場合、DEZ蒸気とH2O蒸気を成膜室に入れる前に混合しようとすれば、DEZの蒸気圧がH2Oの蒸気圧よりも低いので、DEZ蒸気が押し戻されて流れなくなる問題が生じる。
【0021】
バブリング気化器または噴霧気化器を用いる場合、成膜室内の圧力が一定の場合に気化器の出口圧力はほぼキャリアガスの圧力で決まるので、気化器の出口圧力を調整することが可能である。さらに、ガス混合空間12における粉体の発生を抑えるために(図5参照)、気化器、DEZ供給管7、およびH2O供給管8の温度はできるだけ低いほうが好ましい。この理由からも、比較的低温で気化可能なバブリング気化器または噴霧気化器が好ましい。
【0022】
図23は蒸発気化器の概念図である。液体材料28をいれたタンク27をヒータ26で加熱して蒸気29を発生させることによって、その液体材料を気化させる。気化したガスは、その流量が気体マスフローコントローラ30で定量的に制御されて供給される。この気体マスフローコントローラ30は入口と出口の差圧が0.05MPa未満でも動作する必要があり、一般的な0.05MPa以上の差圧で動作するマスフローコントローラよりも高価である。蒸発気化器の出口の圧力は、液体材料の蒸気圧で決まるので、制御することが困難である。したがって、成膜室に入る前に有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合することが容易ではない。
【0023】
図24はバブリング気化器の概念図である。Arキャリアガスを液体材料28中に流して泡33を発生させることにより、その液体材料を気化させる。Arは気体マスフローコントローラ34で流量制御しながら供給する。このマスフローコントローラ34は、差圧0.05MPa以上で動作する一般的なものである。タンク27は恒温槽32に入れられて、その温度が一定に制御される。バブリング気化器の出口からは、Arと気化したガスが混合して出てくる。バブリング気化器で気化するガスの流量は、Ar流量、液体材料の温度、液面の高さなどで決まり、定量的に制御するのは困難である。重量計31で測定したタンク27と液体材料28の合計重量の減少から、気化した液体材料の量の大まかな値を測定することができる。バブリング気化器の出口圧力はほぼキャリアガスの圧力で決まり、制御することが可能である。したがって、成膜室に入る前に有機金属蒸気と酸化剤蒸気の混合が可能である。
【0024】
図25において(a)は噴霧気化器の全体的概念図であり、(b)は(a)に含まれる混合器36をより詳細に示す拡大概念図である。Arキャリアガスを気体マスフローコントローラ34で流量制御して供給しながら、液体材料を液体マスフローコントローラ35で流量制御して供給し、それらを混合器36で混合して気化させる。図25(b)に示されているように、Ar供給管37からArガスが供給される。液体材料は、液体材料供給管38を通って微小穴39から霧状の液体材料40として供給される。霧状の液体材料40は、勢いよく流れるArガスによって気化され、気化ガス供給管41によって導かれる。噴霧気化器の出口圧力は、キャリアガスの圧力でほぼ決まり、制御することが可能である。したがって、成膜室に入る前に有機金属蒸気と酸化剤蒸気を混合することが可能である。また、液体マスフローコントローラ35を通過した液体材料が全て気化されるので、気化したガスの定量制御が可能である。なお、噴霧気化器はバブリング気化器より高価であるが、蒸発気化器よりは安価である。
【0025】
図5の概念図は、本発明の一実施形態による透明導電膜の形成方法を示している。この図において、真空槽4の内部は基板1が配置される成膜室3である。亜鉛を含む有機金属蒸気であるジエチル亜鉛(DEZ)蒸気がArキャリアガスと混合された状態でガス混合空間12に供給されるとともに、酸化剤蒸気である水(H2O)蒸気がArキャリアガスと混合された状態でガス混合空間12に供給されることによって、DEZとH2OとArを含む反応ガスがガス混合空間12内で調製される。
【0026】
図21の模式図において、ガス混合空間12近傍の配管の一例が示されている。この図中で、DEZ供給管7とH2O供給管8の合流位置において破線で囲んだ領域がガス混合空間12である。DEZ供給管7はヒータ71で加熱され、H2O供給管はヒータ81で加熱される。ガス混合空間12で調製された反応ガスは、反応ガス配管11によって成膜室3に向けて導かれる。
【0027】
DEZ蒸気とH2O蒸気の合流位置はガス混合空間12であるが、実際には拡散によってDEZ供給管7中にある程度H2O蒸気が存在し、逆にH2O供給管8中にある程度DEZ蒸気が存在する。したがって、DEZ供給管7およびH2O供給管8の中にZnOの粉体が発生し得る。配管に比べてガス流コンダクタンスが小さいバルブがガス混合空間12の近傍に配置されていれば、発生する粉体によってそのバルブが短時間で閉塞してしまう。
【0028】
したがって、ガス混合空間12から上流側に向かってDEZ供給管7に設けられる最初のDEZ供給バルブ24は、ガス混合空間12から0.3m以上(図21中の距離A)離れていることが好ましく、1m以上離れていることがより好ましい。同様に、ガス混合空間12から上流側に向かってH2O供給管8に設けられる最初のH2O供給バルブ25は、ガス混合空間12から0.3m以上(図21中の距離B)離れていることが好ましく、1m以上離れていることがより好ましい。
【0029】
DEZ供給管7中のHOの密度は、次式1の拡散方程式で計算することができる。
【0030】
D・∂2H/∂x2−k・NH・ND=0 (式1)
ここで、DはH2Oの拡散定数、NHはH2Oの分子数密度、xはガス混合空間12からDEZ供給管7に沿った距離、kはDEZ蒸気とH2O蒸気の反応速度定数、NDはDEZ蒸気の分子数密度である。式1を解けば、次式2が得られる。
【0031】
H=NHO・exp[−√{k・ND/(NHO・D)}・x] (式2)
ここで、NHOはガス混合空間12におけるH2O分子数密度である。
【0032】
図22のグラフは、式2による計算結果の一例を示している。このグラフの横軸は混合空間12からDEZ供給管7に沿った距離xを表し、縦軸はガス混合空間12中のH2O濃度を1としたときの距離xにおけるH2Oの相対密度を表している。このとき、ガス混合空間12におけるDEZ蒸気の分圧を75Paとし、H2O蒸気の分圧を75Paとした。また、分子量から概算したH2Oの拡散速度D=0.01m2/sを仮定し、ZnOの成膜速度から概算した反応速度定数k=1.3×10-283/sを仮定した。
【0033】
図22から明らかなように、ガス混合空間12におけるH2O濃度に対して距離xが0.3m以上においてH2Oの相対濃度が1%以下になり、x=1mにおいて1ppm未満になる。すなわち、上述のように、ガス混合空間12からDEZ供給バルブ24までの距離Aを0.3m以上にすればZnO粉体の発生が抑制されてバルブの詰まりを防止することができ、1m以上にすればより好ましい。H2O供給管8中におけるDEZの濃度も距離に関して指数的に減少するので、ガス混合空間12からH2O供給バルブ25までの距離Bを0.3m以上にすることが好ましく、1m以上にすることがより好ましい。
【0034】
ガス混合空間12内で調製された反応ガスは、反応ガス配管11と拡散箱9とシャワープレート10からなる反応ガス経路を通じて成膜室3内へ供給される。反応ガスは、シャワープレート10に設けられた多数の穴からシャワー状に放出され、成膜室3内へ均一に供給される。ガス混合空間12の壁面および反応ガス経路(反応ガス配管11、拡散箱9、およびシャワープレート10)の壁面は、壁面ヒータ13によって温度制御される。ガラス基板1がヒータ2で加熱されて低圧熱CVDが行われ、基板面上に透明導電膜としての酸化亜鉛膜が堆積される。ヒータ2として、たとえばシースヒータを利用することができる。廃ガスは、排気口5および排気管6を介して、ポンプ(図示せず)によって排気される。また、図5に示されていないキャパシタンスマノメータとコンダクタンス可変バルブによって、真空槽4中の圧力は一定に保たれ得る。酸化亜鉛膜を堆積するとき、たとえば真空槽4の圧力は5〜200Pa、基板温度は100〜300℃、DEZ蒸気の流量は10〜1000sccm、H2O蒸気の流量は10〜1000sccm、そしてArの流量は100〜10000sccmの範囲内で設定し得る。
【0035】
図5の実施形態では、真空槽4外のガス混合空間12の壁面だけでなく真空槽4内に突出した反応ガス経路9、10の壁面も温度制御される。他方、後述する比較例1または3では、反応ガス経路のうちで真空槽外の部分だけが約80℃に加熱される。
【0036】
ガス混合空間または反応ガス経路の壁面の温度が高すぎれば、そこで有機金属蒸気と酸化剤蒸気が反応し、透明導電膜または粉体が堆積して閉塞を生じる。また、ガス混合空間または反応ガス経路の壁面の温度が低すぎれば、有機金属蒸気または酸化剤蒸気の蒸気圧を高く維持することが困難となり、最悪の場合は液化が生じ得る。これを避けるために、壁面ヒータ13を制御して、ガス混合空間および反応ガス経路の壁面の少なくとも一方の少なくとも一部の温度を20〜100℃、望ましくは50〜80℃、さらに望ましくは55〜65℃の範囲に制御する。壁面ヒータ13として、たとえば抵抗加熱式のヒータ(シースヒータ、テープヒータ、シリコンラバーヒータなど)、赤外線加熱ヒータ、温媒循環ヒータ(加熱した油や水などの流体を循環させるヒータ)などを利用し得る。
【0037】
ガス混合空間または反応ガス経路の断面積が小さい場合、ガス流コンダクタンスが小さくなり、成膜室内の圧力に比べて、ガス混合空間または反応ガス経路の圧力が非常に高くなってしまう。この場合、ガス混合空間でDEZとH2Oを混合すれば、配管中に膜や粉体が発生して短時間で閉塞を生じてしまう。
【0038】
配管の閉塞を避けるために、本発明では、ガス混合空間と反応ガス経路におけるガス流断面積を28mm2以上、好ましくは78mm2以上、より好ましくは300mm2以上に設定する。ガス混合空間または反応ガス経路が円筒形の配管の場合は、その内径を6mm以上、好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上に設定する。なお、析出粉末による閉塞を抑制するためにガス混合空間や反応ガス経路内の反応速度を成膜室内の反応速度の50倍以下に保つためには、成膜室内の圧力が200Paの場合において、配管内圧力を1330Pa(10torr)以下にする必要がある。このとき、配管内径6mmで透明導電膜を厚さ1μmに堆積する場合に、50バッチ以上の成膜が可能となる。
【0039】
また、ガス混合空間または反応ガス経路が閉塞しても容易に掃除できるように、ガス混合空間と反応ガス経路の少なくとも一部に、取外しおよび再取付けが可能な継ぎ手を介在させることが好ましい。継ぎ手としては、真空シールが十分可能であって有機金属蒸気と酸化剤蒸気に対して化学的に耐性のあるものが好ましい。具体的には、金属シール継ぎ手、たとえばシール材にステンレス鋼を用いたものが好ましい。また、Oリングシール継ぎ手、たとえばシール材にフッ素ゴムやテフロン(登録商標)を用いたものが好ましい。また、Oリングシール継ぎ手の一種であるクランプ継ぎ手(JIS B8365)は工具を用いずに簡便に取外し再取りつけが可能であるので、ガス混合空間や反応ガス経路の掃除を容易に行うことを可能にし得る。
【0040】
なお、本発明による透明導電膜は、酸化亜鉛膜に限定されない。有機金属蒸気と酸化剤蒸気の低圧熱CVDで形成可能な他の透明導電膜についても、同様に本発明の適用が可能である。また、有機金属蒸気は、DEZ蒸気に限定されない。DEZ以外の有機金属蒸気の例としてジメチル亜鉛蒸気が挙げられるが、透明導電膜形成に利用し得るその他の有機金属蒸気も同様に使用可能である。
【0041】
本発明における酸化剤蒸気は、H2O蒸気に限定されない。H2O以外の酸化剤蒸気の例として、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸化二窒素、二酸化窒素、二酸化硫黄、五酸化二窒素、アルコール類(R(OH))、ケトン類(R(CO)R’)、エーテル類(ROR’)、アルデヒド類(R(COH))、アミド類((RCO)x(NH3-x)、x=1,2,3)、スルホキシド類(R(SO)R’)などを利用し得るとともに、透明導電膜の形成に有効な他の任意の酸化剤蒸気も同様に使用可能である。なお、ここでRおよびR’はアルキル基を表す。
【0042】
本発明におけるキャリアガスは、Arに限定されない。Ar以外のキャリアガスの例としてその他の希ガス(He、Ne、Kr、Xe、Rn)、窒素、水素などを使用し得る。また、有機金属蒸気および酸化剤蒸気に対して実質的に不活性な気体が、同様に使用可能である。
【0043】
本発明における基体は、ガラス基板に限定されない。ガラス基板以外の基体の例として、金属板、金属箔、有機フィルムなどが使用可能であり、成膜時の温度に耐えかつガス放出が少ない材料ならば同様に使用可能である。また、基体は板状である必要はなく、曲面などの不定形の表面を持つ基体に関しても、本発明は適用可能である。
【0044】
基体の大きさとしては、透明導電膜を堆積すべき基体の表面領域の面積が220cm2以上、特に1300cm2以上である場合に、本発明の適用が好ましい。後述する比較例2と比較例4では、基体中央領域に比べて95%以上の膜厚均一性を有する領域がそれぞれ約220cm2と約1300cm2までしか実現され得ない。すなわち、これより成膜面積の大きい基体に対しては、均一に透明導電膜を作製することができない。他方、後述する本発明の実施例1では、基体中央領域に比べて95%以上の膜厚均一性を有する領域を約9580cm2まで拡大することが可能である。
【0045】
透明導電膜の導電率を向上させるために、有機金属蒸気と酸化剤蒸気に加えて、3族元素を含むガスを混合することが有効である。そして、その導電率の向上した透明導電膜を適用した装置において、抵抗損失を低減させることができる。3族元素を含むガスとしては、たとえばジボラン、トリメチルボロン、三弗化ボロン、またはトリメチルアルミなどを含むガスを利用し得る。
【0046】
透明導電膜が、基板の裏面に形成されることを防止するために、図5の実施形態ではガラス基板1の裏面がヒータ2に接触させられる。基板の裏面をヒータに接触させるかわりに、板状の部材に基板の裏面を接触させることもその裏面への成膜の防止に有効である。たとえば、その板状の部材として熱伝導性のよい金属板や炭素板を用いれば、基板温度の均一化、ひいては基板上の透明導電膜の膜厚と物性の均一化のためにも好ましい。
【0047】
図5の実施形態では基体の加熱手段としてシースヒータが例示されたが、鋳込みヒータ、赤外ランプヒータ、温媒循環ヒータなども同様に用いることができる。
【0048】
図15の模式的断面図は、本発明の他の実施形態による光電変換装置を示している。この光電変換装置の作製においては、図5の成膜装置を用いて、ガラス基板16上に酸化亜鉛膜が表面電極17として形成される。表面電極17上には、pin接合を含む第一の薄膜半導体光電変換ユニット18および同様にpin接合を含む第二の薄膜半導体光電変換ユニット19がプラズマCVD法で形成される。その第二ユニット19上に、裏面電極20として金属層がスパッタ法で形成される。この光電変換装置では、ガラス基板16側から入射する光が、ハイブリッド型構造を構成する第一の光電変換ユニット18と第二の光電変換ユニット19によって光電変換される。
【0049】
第一光電変換ユニット18は、B(ボロン)をドープした非晶質シリコンカーバイドの第一p型半導体層18a、非晶質シリコンの第一真性半導体層18b、およびP(リン)をドープした微結晶シリコンの第一n型半導体層18cからなる。第二光電変換ユニット19は、Bをドープした微結晶シリコンの第二p型半導体層19a、多結晶シリコンの第二真性半導体層19b、およびPをドープした微結晶シリコンの第二n型半導体層19cからなる。第二真性半導体層に多結晶シリコンを用いる理由は、非晶質シリコンに比べて多結晶シリコンは長い波長の光まで吸収できるので、第一真性半導体層18bで吸収しきれない長波長の光が第二真性半導体層19bで吸収され得て、光電変換装置の最大電力(Pmax)を向上させることができるからである。
【0050】
表面電極17ではその厚さが大きいほどそのシート抵抗が低下し、それによって光電変換装置の抵抗損失が少なくなる。また、表面電極17の厚さが大きいほどその表面凹凸が大きくなって、光電変換装置に入射する光が散乱されて実質的な光路長が伸びることによって、光電変換装置の短絡電流(Isc)が増大し得る。しかし、表面電極17が厚すぎれば、表面電極17による光吸収損失が大きくなって、Iscが減少する。したがって、表面電極17に用いる透明導電膜の厚さには適切な範囲が存在し、好ましくは0.5ないし5μm、より好ましくは1ないし3μm、最も好ましくは1.5ないし2.5μmの範囲内である。
【0051】
図15に示した実施形態では、第一p型半導体層18aに非晶質シリコンカーバイドを用いたが、本発明はこれに限定されはしない。第一光電変換ユニット18に十分な拡散電位を生じさせるために、BまたはAlをドープした非晶質シリコンまたは広いバンドギャップの非晶質シリコン合金(非晶質シリコンカーバイド、非晶質シリコンオキサイト、非晶質シリコンナイトライド)なども用いられ得る。特に第一p型半導体層18aの光吸収損失を減らすために、広いバンドギャップの非晶質シリコン合金を用いることが好ましい。第一n型半導体層18cとしては、Pをドープした非晶質シリコンを用いることもできる。
【0052】
図15の実施形態では、真性半導体層に非晶質シリコンと多結晶シリコンを用いたが、その他の非単結晶シリコン系半導体である微結晶シリコン、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金、多結晶シリコン合金などを用いることもできる。シリコン合金としては、たとえばゲルマニウム、炭素、窒素、および酸素の少なくとも一元素を含有するシリコン合金が好ましく用いられ得る。
【0053】
図15の実施形態では、光電変換装置にシリコン系薄膜半導体が用いられたが、化合物半導体、たとえば銅インジウムセレン、銅インジウムガリウムセレン、硫化カドミウム、硫化テルルなどを用いることもできる。
【0054】
図15の実施形態の光電変換装置では、透明ガラス基板、透明導電膜、半導体層、および金属層の順に積層されたが、本発明はこれに限定されない。たとえば不透明な金属基板、半導体層、および透明導電膜の順に積層した光電変換装置においても、本発明は適用可能である。また、光電変換装置に含まれる光電変換ユニットは図15のように2段積層したものに限られず、1段以上の任意の段数の光電変換ユニット含む光電変換装置に関しても、本発明は適用可能である。
【0055】
図19の模式的断面図は、本発明のさらに他の実施形態による大面積薄膜光電変換装置を示す。大面積薄膜光電変換装置は、小面積に区切られた光電変換セルの複数個がガラス基板上で相互に直列接続された集積型光電変換モジュールの構造を有している。それぞれの光電変換セルは、図5の成膜装置を用いてガラス基板上に形成る透明導電膜の表面電極、1以上の薄膜半導体光電変換ユニットが積層された半導体部、および裏面電極層の成膜とパターニングとを順次行うことにより形成される。
【0056】
図19の集積型光電変換モジュール101は、ガラス基板102上に、透明導電膜の表面電極層103、非晶質シリコンの真性半導体層を含むpin接合からなる第一の光電変換ユニット104a、結晶質シリコンの真性半導体層を含むpin接合からなる第二の光電変換ユニット104b、および裏面電極層106を順次積層した構造を有している。
【0057】
図19に示すように、集積型光電変換モジュール101には、第1と第2の分離溝121、122および接続溝123が設けられている。これらの第1と第2の分離溝121、122および接続溝123は、互いに平行であって、図面の紙面に対して垂直な方向に延在している。なお、一つの光電変換セル110の発電領域は、第1と第2の分離溝121、122との間の領域である。
【0058】
第1の分離溝121は、表面電極層103をそれぞれの光電変換セル110に対応して分割している。すなわち、第1の分離溝121は、隣り合う透表面電極103同士を電気的に分離している。同様に、第2の分離溝122は、第一の光電変換ユニット104a、第二の光電変換ユニット104b、および裏面電極層106をそれぞれの光電変換セル110に対応して分割している。すなわち、第2の分離溝122は、隣り合う光電変換セル110間で裏面電極106同士を電気的に分離している。
【0059】
接続溝123は、第1の分離溝121と第2の分離溝122との間に設けられており、第一の光電変換ユニット104aおよび第二の光電変換ユニット104bを分割している。この接続溝123は、裏面電極層106を構成する金属材料で埋め込まれており、隣り合う光電変換セル110の一方の裏面電極106と他方セルの表面電極103とを電気的に接続している。すなわち、接続溝123およびそれを埋め込む金属材料は、ガラス基板102上に並置された光電変換セル110同士を電気的に直列接続する。
【0060】
このように形成された集積型光電変換モジュールでは、小面積の光電変換セルが直列接続されているので、そのモジュールの発電電流は、最も発電電流の小さい光電変換セルによって限定される。したがって、一つのモジュールに含まれる複数のセルの発電電流を均一化するために、図5の成膜装置を用いて膜厚分布が均一な透明導電膜の表面電極層を形成することが特に重要である。
【0061】
図5の成膜装置を用いて形成される透明導電膜である酸化亜鉛膜は、光電変換装置の半導体層と裏面電極層との間で裏面反射層として用いることもできる。その裏面反射層が薄すぎれば反射性が十分でなくなり、また厚すぎればその裏面反射層による吸収損が大きくなるので、その厚さに適切な範囲がある。光電変換装置の半導体層として非晶質シリコンまたは結晶質シリコンを用い、裏面電極層に金属層を用い、半導体層と金属層の間の裏面反射層として酸化亜鉛の透明導電膜を用いる場合、その裏面反射層の厚さは、好ましくは10ないし150nm、より好ましくは30ないし120nm、最も好ましくは60ないし90nmの範囲内である。
【0062】
図5の成膜装置を用いて形成した透明導電膜である酸化亜鉛膜は、複数段の光電変換ユニットを含むタンデム型光電変換装置中の中間層として用いることもできる。たとえば、図15の光電変換装置の第一光電変換ユニット18と第二光電変換ユニット19の間に、透明導電膜である酸化亜鉛膜を中間層として設けることができる。そのような中間層は薄すぎれば光反射性および光散乱性が十分でなくなり、また厚すぎればその中間層による吸収損が大きくなるので、好ましい厚さ範囲が存在する。第一光電変換ユニット18の真性半導体層18bに非晶質シリコンを用い、中間層に酸化亜鉛膜を用い、そして第二光電変換ユニット19の真性半導体層19bに多結晶シリコンを用いる場合、その中間層の厚さは好ましくは2ないし150nm、より好ましくは10ないし100nm、最も好ましくは30ないし60nmの範囲内である。
【0063】
図15の実施形態では、2つのpin接合が積み重ねられているが、1以上のpin接合、nip接合、pn接合、またはnp接合を含む光電変換装置においても、本発明が適用可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0064】
以下において、本発明による実施例が比較例とともに詳細に説明される。
【0065】
(比較例1)
図1の概念図において、低圧熱CVDを用いた従来の透明導電膜の成膜装置の一例が、比較例1として示されている。この成膜装置において、真空槽4の内部が基板1の設置された成膜室3である。亜鉛を含む有機金属蒸気であるジエチル亜鉛(DEZ)蒸気が、Arキャリアガスと混合された状態でDEZ供給管7を通じて成膜室3内に供給される。なお、比較例1−5においては、蒸発気化器が用いられた。DEZ供給管7は外径1/4インチ(内径約4.4mm)のステンレス鋼製パイプである。DEZ蒸気の蒸気圧を高くして液化を防止するために、DEZ供給管7の一部はヒータ71で約80℃に加熱されている。酸化剤蒸気である水(H2O)蒸気が、Arキャリアガスと混合された状態でH2O供給管8を通じて成膜室3内に供給される。H2O供給管8も外径1/4インチ(内径約4.4mm)のステンレス鋼製パイプである。H2Oの蒸気圧を高くして液化を防止するために、H2O供給管8の一部はヒータ81で約80℃に加熱されている。
【0066】
ガラス基板1がヒータ2で加熱されて低圧熱CVDが行われ、ガラス基板1の表面に透明導電膜として酸化亜鉛膜が堆積される。ヒータ2はシースヒータである。廃ガスは排気口5と排気管6を通ってポンプ(図示せず)によって排気される。また、図1には示されていないキャパシタンスマノメータとコンダクタンス可変バルブによって、真空槽4中の圧力が一定に保たれ得る。酸化亜鉛膜を堆積するとき、たとえば真空槽4内の圧力は100Pa、基板温度は200℃、DEZ蒸気の流量は500sccm、H2O蒸気の流量は500sccm、そしてArの流量はDEZ供給管7とH2O供給管8を合わせて2000sccmである。
【0067】
(比較例2)
図2の概略的平面図は、図1の成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を比較例2として示している。図2中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。なお、透明導電膜の厚さは、ガラス基板上の透明導電膜の反射率の波長依存性を測定し、干渉による反射率の変化から膜厚を求めた。この測定と解析には、センテック・インスツルメンツ社製のウエハーマッピング・システムを用いた。
【0068】
図1と図2からわかるように、DEZ供給管7とH2O供給管8の真下に相当する部分において膜厚が大きく、周縁に向かって急激に膜厚が減少している。また、基板の周辺部分には全く膜が堆積されなかった。基板中央領域の膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の5.8%の580cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の僅かに2.2%の220cm2であった。このことから、DEZとH2Oの反応がDEZ供給管7とH2O供給管8の真下付近だけで起こって、膜厚分布が極端に不良になったと考えられる。この比較例2では、基板の周辺に膜が全く堆積していない領域が存在するので、透明導電膜を大面積光電変換装置の表面電極に適用することはできなかった。
【0069】
(比較例3)
図3の概念図において、低圧熱CVDを用いた従来の透明導電膜の成膜装置の他の例が、比較例3として示されている。図1の比較例1と同様に、図3においても真空槽4の内部が成膜室3であり、ガラス基板1がヒータ2によって加熱される。しかし、図3においては、DEZとArの混合ガスは、DEZ供給管7からいったん拡散箱9内に入り、シャワープレート10の穴から成膜室3内へシャワー状に供給される。DEZ供給管7は外径1/4インチ(内径約4.4mm)のステンレス鋼製パイプである。DEZ供給管7の一部はヒータ71で約80℃に加熱されている。H2OとArの混合ガスは、真空槽4の対向する壁面に対向配置された2つのH2O供給管8から成膜室3内に供給される。H2O供給管8も、外径1/4インチ(内径約4.4mm)のステンレス鋼製パイプである。H2O供給管8の一部もヒータ81で約80℃に加熱されている。ガラス基板1がヒータ2で加熱されて低圧熱CVDが行われ、ガラス基板1の表面に透明導電膜である酸化亜鉛膜が堆積される。なお、この比較例3において酸化亜鉛膜を堆積するときのガス圧力やガス流量は、比較例1の場合と同様である。
【0070】
(比較例4)
図4の概略的平面図は、図3の成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を比較例4として示している。図4中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。この図4の比較例4を図2の比較例2に比べれば、ガラス基板上で透明導電膜の堆積しいている領域が広がっている。しかし、図4の場合においても、依然として基板中央領域において透明電極膜の厚さが大きく、基板周縁に向かうにしたがってその膜厚が薄くなっている。また、膜厚の大きい領域の中心が基板のやや右側に寄っており、図3中の排気口5に近い側で膜厚が大きくなっていることがわかる。これは、ガスの流れが排気方向へ向けて基板1の右側へやや偏っているからであると考えられる。基板中央領域における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の38.6%の3860cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の13.1%の1310cm2であった。後述する比較例6に示すように、この透明導電膜を大面積の光電変換装置の表面電極に適用した場合に極めて低い光電変換特性しか得られず、その膜は大面積装置に適用するために十分に均一な膜厚分布を有していなかった。
【0071】
(比較例5)
比較例5では、図3の成膜装置において、DEZ蒸気とH2O蒸気とArを混合した反応ガスがDEZ供給管7へ供給された。この場合、DEZ供給管7が析出粉体によって約1〜2分で閉塞され、基板1上に透明導電膜を形成することができなかった。このとき、成膜室3の圧力が約100Paの場合にDEZとArの合計流量を1000sccmにすれば、DEZ供給管7の中の圧力は約5000Paに達した。
【0072】
原料ガスが十分に供給されている場合、DEZとH2Oの反応速度はDEZ蒸気とH2Oの蒸気のそれぞれの分圧に比例するので、その反応速度は全圧力の2乗に比例する。この比較例5の場合、ガス混合空間内の圧力が成膜室内の圧力の50倍になっていたので、ガス混合空間内では成膜室内に比べて2500倍の速度で反応が進み、配管内で透明導電膜や粉が発生して閉塞が生じたと考えられる。また、管内径が約4.4mmと小さいので、粉体が形成されるにつれてガス通路が細くなってますます圧力が上し、反応がさらに進んで管が短時間で閉塞したと考えられる。
【0073】
さらに、比較例5においては蒸発気化器を用いているので、同じ温度ではDEZ蒸気圧がH2O蒸気圧より低く、DEZ蒸気とH2O蒸気を良好に混合することができなかった。そして、閉塞した配管をよく観察すれば、H2Oの気化器に近い側の配管よりもDEZの気化器に近い側の配管の詰まりがひどく、H2O蒸気でDEZ蒸気が押し戻される傾向にあった考えられる。
【0074】
(実施例1)
本発明の実施例1として、図5の成膜装置を用いて酸化亜鉛膜が形成された。この実施例1では、バブリング気化器が用いられ、ガス混合空間12および反応ガス経路の壁面は60℃に温度制御されていた。また、実施例1で使用された図21の配管における距離AとBはともに0.15mであった。反応ガス配管11は従来に比べて大きな内径約25mmの円筒管であって、その一部がNW25型のクランプ継ぎ手(図示せず)で接続されている。その管径が十分大きいことによってガス流コンダクタンスが大きくなり、ガス混合空間12および反応ガス経路の圧力が小さくなり、管の閉塞を抑制することができる。また、クランプ継ぎ手を外せば、管内の粉体または透明導電膜の掃除を容易に行うことができる。この実施例1の成膜装置を用いたところ、成膜室3内の圧力が100Paでガス混合空間内の圧力が300Paの下で延べ300時間以上の成膜を行っても配管は閉塞しなかった。すなわち、実施例1は工業的に十分使用可能な成膜方法であると言える。
【0075】
(実施例2)
図6の概略的平面図は、図5の成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を実施例2として示している。1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を堆積する場合、シャワープレート10の大きさはたとえば1.1m×1.1mであることが適当である。また、成膜時において、成膜室3内の圧力は100Pa、基板温度は200℃、DEZ蒸気の流量は500sccm、H2O蒸気の流量は500sccm、そしてArの流量は2000sccmであった。
【0076】
図6中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。基板の四隅の領域を除いて、均一な膜厚分布が得られている。図5の成膜装置の右側に排気口5があり、基板の四隅のうちで排気口5に近い右側の2つの隅に比べて遠い左側の2つの隅で膜厚の小さな領域が少し広くなっている。基板中央における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の98.6%の9860cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の95.8%の9580cm2であった。このことから、実施例2においては、比較例2および4に比べて膜厚の均一性が顕著に改善されていることがわかる。
【0077】
さらに透明導電膜の特性を調べたところ、光電変換装置に好ましい80%以上の光透過率(波長400nm〜1000nm)、15Ω/□以下のシート抵抗、および10%以上のヘイズ率の特性は、成膜室圧力が5〜200Paの範囲内で得られることがわかった。また、この範囲内の成膜室内圧力において、厚さ方向に1nm/s以上の速い成膜速度が得られた。なお、ヘイズ率とは、透明な基板の表面凹凸を光学的に評価する指標であって、(拡散透過率/全光線透過率)×100[%]で表される(JIS K7136)。
【0078】
成膜室内圧力を5Paより低くすれば、成膜速度が1nm/sより低くなり、透明導電膜の成膜時間が長くなって製造コストが高くなる。また、成膜室内圧力を低くするためには高い排気能力のポンプを要するので、成膜装置のコストが高くなる。
【0079】
他方、成膜室内圧力を200Paより高くすれば、上述のような光電変換装置に好ましい特性が得られなかった。また、成膜室内圧力が200Pa以下では、ガス混合空間の内径25mmの場合に、そのガス混合空間内の圧力が300Pa以下で成膜室内圧力によらずほぼ一定であったが、成膜室内圧力が200Paより大きくなればガス混合空間内の圧力が成膜室内圧力に比例して顕著に高くなった。そして、成膜室内圧力200Pa以上では、配管が閉塞しやすくなった。
【0080】
(実施例3)
図7の概念図は、実施例3における成膜装置を示している。図5の成膜装置に比べて、この図7の成膜装置は、ヒータ2の中央下方に排気口5と排気管6が配置されていることのみにおいて異なっている。排気口5をヒータ2の中央下方に配置することにより、成膜室3から排気されるガスの流れが基板1の中央に関して対称に近くなる。なお、この実施例3以後の実施例では、噴霧気化器が用いられている。
【0081】
(実施例4)
図8の概略的平面図は、図7の成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を実施例4として示している。この実施例4において酸化亜鉛膜を形成するとき、ガス圧力やガス流量は実施例2の場合と同様である。図8中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。図8を図6と比較すればわかるように、実施例2に比べても、本実施例4では膜厚均一性がさらに改善されている。図8においては、基板の四隅における膜厚の薄い領域は、基板の左側と右側でほぼ同じ大きさになっている。基板中央における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の99.0%の9900cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の96.9%の9690cm2であった。
【0082】
(実施例5)
図9Aの概念的縦断面図は実施例5における成膜装置を示しており、図9Bの概念的平面図は図9Aの成膜装置内の排気口配置を示している。図9Aに示されているように、ヒータ2の中央下方に、排気管6が配置されている。また、図9Aと図9Bから理解されるように、ヒータ2の下面の四辺に沿って、ガスの流れを遮る邪魔板14が配置されている。そして、ヒータ2の四辺に沿った4枚の邪魔板14の各々の中央に、排気口51が設けられている。シャワープレート10の穴からガラス基板1に向けて供給された反応ガスは、加熱された基板1上に透明導電膜を形成し、その後にガスは基板1の周辺に向かってほぼ対称に流れて、4つの排気口51から排気される。なお、邪魔板14とヒータ2との間の稜および邪魔板同士が接する稜の部分には、わずかな隙間があってもよい。
【0083】
(実施例6)
図10の概略的平面図は、図9Aの成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を実施例6として示している。この実施例6において酸化亜鉛膜を形成するとき、ガス圧力やガス流量は実施例2の場合と同様である。図10中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。図10を図6および図8と比較すればわかるように、実施例2および4に比べても、本実施例6では膜厚均一性がさらに改善されている。図10において、基板の四隅における膜厚の薄い領域は、その基板の左側と右側でほぼ同じ大きさになっている。基板中央における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の100%の10000cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の99.4%の9940cm2であった。
【0084】
(実施例7)
図11Aの概念的縦断面図は実施例7における成膜装置を示しており、図11Bの概念的平面図は図11Aの成膜装置内の排気口配置を示している。この場合、成膜室3内のガスは、分岐排気管15に設けられた複数の排気口52から吸い込まれ、分岐排気管15および排気管6を通って排気される。それら複数の排気口52はガラス基板1の対向する側辺の近傍にほぼ対称配置され、これによって、基板面の中央に関してガスの排気がほぼ対称に行われる。
【0085】
図7および図9Aではヒータ2の中央下方に排気管6が配置されたが、本実施例7では真空槽4の側面に排気管6を配置することができる。したがって、真空槽4の下に排気管6を配置することに何らかの制約がある場合、本実施例7が好ましい。また、複数の基板を水平方向に平行に並べて成膜を行う装置の場合、各基板面上のガス流の均一性を維持するためには基板の対向側面に沿って排気口を設けることが望まれ、排気管6も図11Aにおけるように真空槽4の側面にを配置することが好ましい。
【0086】
(実施例8)
図12の概略的平面図は、図11Aの成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を実施例8として示している。この実施例8において酸化亜鉛膜を形成するとき、ガス圧力やガス流量は実施例2の場合と同様である。図12中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。図12を図6、図8、および図10と比較すればわかるように、実施例2、4、および6に比べても、本実施例8では膜厚均一性がさらに改善されている。図12において、基板の四隅における膜厚の薄い領域は、その基板の左側と右側でほぼ同じ大きさになっている。基板中央における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の100%の10000cm2であり、95%以上の膜厚の領域は基板面積の99.7%の9970cm2であった。
【0087】
(実施例9)
図13Aの概念的縦断面図は実施例9における成膜装置を示しており、図13Bの概念的平面図は図13Aの成膜装置内の排気口配置を示している。図9Aに示されているように、ヒータ2の中央下方に排気管6が配置されている。また、図9Aと図9Bから理解されるように、ヒータ2の下面の四辺に沿って、ガスの流れを遮る邪魔板14が配置されている。そして、ヒータ2の各角部下に、排気口53が設けられている。シャワープレート10の穴からガラス基板1に向けて供給された反応ガスは、加熱された基板1上に透明導電膜を形成し、その後にガスは基板1の四隅に向かってほぼ対称に流れて、4つの排気口53から排気される。なお、邪魔板14とヒータ2との間の稜の部分には、わずかな隙間があってもよい。
【0088】
(実施例10)
図14の概略的平面図は、図13Aの成膜装置で1m×1mのガラス基板1上に酸化亜鉛膜を形成した場合の厚さ分布を実施例10として示している。この実施例10において酸化亜鉛膜を形成するとき、ガス圧力やガス流量は実施例2の場合と同様である。図14中の数値は、膜厚の等高線をμm単位で表示している。図14を図6、図8、図10、および図12と比較すればわかるように、実施例2、4、6、および8に比べても、本実施例10では膜厚均一性がさらに改善されている。図14において、基板の四隅における膜厚の薄い領域は、ほとんどなくなっている。基板中央における膜厚に比べて75%以上の膜厚の領域は基板面積の100%の10000cm2であり、95%以上の膜厚の領域も基板面積の100%の10000cm2であった。
【0089】
(実施例11)
図15の模式的断面図は、実施例11による光電変換装置を示している。この光電変換装置は、図5の成膜装置を用いてガラス基板16上に形成された酸化亜鉛膜を表面透明電極17として含んでいる。その表面電極17上において、pin半導体接合を含む第一の薄膜光電変換ユニット18とpin半導体接合を含む第二の薄膜光電変換ユニット19がプラズマCVD法で形成されている。さらにその上に、裏面金属電極20がスパッタ法で形成されている。この光電変換装置では、ガラス基板16側から入射する光が、ハイブリッド型構造を構成する第一光電変換ユニット18と第二光電変換ユニット19とによって光電変換される。
【0090】
第一光電変換ユニット18は、Bをドープした非晶質シリコンカーバイドの第一p型半導体層18a、非晶質シリコンの第一真性半導体層18b、およびPをドープした微結晶シリコンの第一n型半導体層18cからなる。第二光電変換ユニット19は、Bをドープした微結晶シリコンの第二p型半導体層19a、多結晶シリコンの第二真性半導体層19b、およびPをドープした微結晶シリコンの第二n型半導体層19cからなる。非晶質シリコンに比べて、多結晶シリコンは長い波長の光まで吸収できるので、第一真性半導体層18bで吸収しきれない長波長の光が第二真性半導体層19bで吸収されて、最大出力電力(Pmax)が改善され得る。
【0091】
この実施例11の光電変換装置は91cm×45.5cmの面積を有するガラス基板を用いて形成され、その基板上の半導体積層構造をレーザでパターニングすることによって、図19に示された集積型光電変換モジュールの構造にされた。このとき、100段の光電変換セル110が電気的に直列接続された。この結果、本実施例11の大面積光電変換装置の特性としては、最大出力(Pmax)が38.7W、開放電圧(Voc)が131.9V、短絡電流(Isc)が0.432A、そして曲線因子(FF)が0.679であった。
【0092】
(比較例6)
比較例6として、図3の成膜装置で形成した透明導電膜を表面電極として含む光電変換装置が作製された。実施例11に比べて、この比較例6の光電変換装置はその透明導電膜の形成方法のみが異なっていた。その結果、比較例6の大面積光電変換装置の特性においては、Pmax=3.6W、Voc=84.5V、Isc=0.304A、そしてFF=0.140であった。すなわち、比較例6の光電変換装置の特性は非常に低いのに対して、実施例11の光電変換装置はその特性が大幅に改善されていることがわかる。
【0093】
(実施例12)
図16の模式的断面図は、実施例12による光電変換装置を示している。この実施例12の光電変換装置は、図3の成膜装置で形成された酸化亜鉛膜の裏面反射層21が第二n型半導体層19cと裏面電極20との間に挿入されていることのみにおいて図15の実施例11と異なっている。この裏面反射層21を設けたことによって、裏面の光反射率が大きくなる。したがって、第一真性半導体層18bまたは第二真性半導体層19bで吸収しきれなかった光が第二n型半導体層19cと裏面反射層21との界面で反射されて光電変換に利用されることにより、光電変換装置の特性が向上する。なお、実施例12では、裏面反射層21の厚さが80nmであった。この実施例12の大面積光電変換装置の特性は、Pmax=41.5W、Voc=132.5V、Isc=0.452A、およびFF=0.693であり、その特性は実施例11に比べても向上している。
【0094】
(実施例13)
図17の模式的断面図は、実施例13による光電変換装置を示している。この実施例13の光電変換装置は、図5の成膜装置で形成された酸化亜鉛膜の中間層22が第一n型半導体層18cと第二p型半導体層19aの間にに挿入されていることのみにおいて図16の実施例12と異なっている。この中間層22を設けることによって、第一真性半導体層18bで吸収しきれなかった光が、第一n型半導体層18cと中間層22との界面で反射されてその第一真性半導体層18b中で光電変換に利用される。また、中間層22を透過する光は、その中間層22の表面凹凸構造によって散乱されるので、第二真性半導体層19b中の実質的な光路長が伸びる。したがって、実施例13の光電変換装置においては光の利用効率が中間層22によって高くなり、光電変換特性がさらに向上する。なお、実施例13では、中間層22の厚さが50nmにされた。この実施例13の大面積光電変換装置の特性は、Pmax=43.3W、Voc=133.8V、Isc=0.463A、およびFF=0.699であり、その特性は実施例12に比べても向上している。
【0095】
(実施例14)
図18の模式的断面図は、実施例14による光電変換装置を示している。この実施例14の光電変換装置は、ガラス基板16と表面電極17との間に酸化シリコン微粒子を分散塗布して形成した下地層23を含むことのみにおいて図15の実施例11と異なっている。透明導電膜の表面電極17は、その表面凹凸が大きいほど光を散乱させて、光電変換装置の実質的な光路長を伸ばす。しかし、透明導電膜の厚さを大きくすれば、その透明導電膜の光吸収損も増加する。そこで、光電変換装置が利用できる波長の光に対してほぼ透明な酸化シリコンの微粒子を用いて、表面凹凸の大きな下地層23を形成する。下地層23の上に、図5の成膜装置を用いて透明導電膜の表面電極17を形成すれば、その表面電極17の吸収損失を抑制しながらその表面凹凸を大きくすることができる。下地層23は、ゲル状の溶媒に分散させた酸化シリコン微粒子をガラス基体に塗布して焼成することによって形成され得る。この実施例14の大面積光電変換装置の特性は、Pmax=41.9W、Voc=132.3V、Isc=0.461A、およびFF=0.687であり、その特性は実施例11に比べて向上している。
【0096】
(実施例15)
実施例15においては、実施例1と同様に図5の成膜装置を用いて透明導電膜が形成された。ただし、実施例1で使用された図21の配管における距離AとBがともに0.15mであったのに対して、実施例15では距離AとBがともにを1mに長く設定されたことのみにおいて異なる。
【0097】
実施例1では、成膜時間が延べ300時間になっても配管は閉塞しなかったが、延べ約400時間に達したときDEZ蒸気の流量が不安定になり、DEZ供給弁24中に粉体が付着して閉塞した。他方、実施例15では、延べ700時間以上の成膜を行っても配管は閉塞しなかった。そのとき、DEZ供給弁24とH2O供給弁25も、粉体による閉塞が起こらなかった。
【0098】
(実施例16)
実施例16においても、実施例1と同様に図5の成膜装置を用いて透明導電膜が形成された。ただし、実施例16においては、ガス混合空間12に合流する配管をもう1本追加し、B26とH2が付加混合された反応ガスが調製された。酸化亜鉛膜を形成するとき、真空槽4内の圧力は10Pa、基板温度は150℃、DEZ蒸気の流量は300sccm、H2O蒸気の流量は1000sccm、B26流量は1.5sccm、そしてH2流量は500sccmであった。Arの流量はDEZ供給管7とH2O供給管8を合わせて500sccmであった。この実施例16では、B26を供給することにより、透明導電膜のシート抵抗を低下させることができた。また、H2を供給することによって、低い成膜圧力下でも基板温度の均一性が良好になり、透明導電膜の厚さ均一性だけでなく光透過率やシート抵抗の均一性も向上した。
【0099】
(実施例17)
図26Aの概念的縦断面図は実施例17における成膜装置を示しており、図26Bの概念的縦断面図は図26Aの成膜装置内の排気口配置を示している。この実施例17の成膜装置は図13Aと図13Bに示された実施例9の成膜装置に類似しているが、実施例9の成膜装置が水平型であるのに対して本実施例17の成膜装置は縦型である。
【0100】
また、図26Aの成膜装置は平行な2枚のシャワープレート10を備えているので、それら2枚のシャワープレートに対面して複数の基板1を配置することによって、効率的に成膜することができる。両側のシャワープレート10から均一に反応ガスを噴出させるために、反応ガス配管11はシャワープレート10の中央付近まで延在させ、そこから反応ガスをシャワープレートに供給する。シャワープレート10の表面は温度制御されているので、シャワープレート内側に延びた反応ガス配管11の部分はそこに壁面ヒータ13を付与しなくても、シャワープレートとほぼ同じ温度に維持され得る。
【0101】
縦型の成膜装置では基板1の主面が垂直方向に配置されるので、成膜室の内壁、シャワープレート10、ヒータ2などに付着した堆積物が剥離したダストが発生しても、基板主面上にダストが落下して付着することがなく、基板1上に形成された透明導電膜にピンホールのような欠陥が生じることを抑制し得る。したがって、水平型成膜装置に比べて、垂直型成膜装置では長時間にわたって成膜室内の清掃を必要とせず、安定して成膜を継続することができる。
【0102】
なお、本実施例17の成膜装置において、1枚のシャワープレート10に対面して0.5m×1mの面積の基板を2枚配置することが可能で(図26B参照)、その場合には同時に4枚の基板1上に成膜が可能である。また、本実施例17の成膜装置によって形成される透明導電膜は、実施例9の場合と同様に均一な膜厚分布を有し得る。
【0103】
(実施例18)
図27Aの概念的縦断面図は実施例18における成膜装置を示しており、図27Bの概念的縦断面図は図27Aの成膜装置内の排気口配置を示している。この実施例18の縦型成膜装置は、図11A、図11B、および図26Aと比較すればわかるように、実施例7の一部の特徴と実施例17の一部の特徴を含んでいる。この実施例18の成膜装置によれば、4枚のシャワープレート10に対面してたとえば1m×1mの面積の基板の4枚を配置することができ、同時に4枚の大面積基板1上に成膜が可能である。また、本実施例18の成膜装置によって形成される透明導電膜は、実施例7の場合と同様に均一な膜厚分布を有し得る。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、本発明によれば、有機金属蒸気と酸化剤蒸気を用いた低圧熱CVDにおいて、大面積でかつ均一な透明導電膜を形成することが可能となる。その結果、大面積の透明導電膜を含む大面積の装置、特に特性の改善された大面積の光電変換装置を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
220cm2以上の面積を有する下地(1)上にCVDによって透明導電膜を堆積するための成膜室(3)と、
有機金属蒸気を含む第1のガスを輸送する第1のガス管(7)と、
酸化剤蒸気を含む第2のガスを輸送する第2のガス管(8)と、
前記第1と前記第2のガス管を結合させて前記第1と前記第2のガスを混合するためのガス混合空間(12)と、
前記ガス混合空間おいて混合された反応ガスを前記成膜室内へ導入するガス導入手段(11,9,10)と、
前記成膜室から排ガスを排出するための排気装置(6)とを含むことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ガス導入手段は複数のガス放出孔を含むシャワープレート(10)であり、前記反応ガスを20〜100℃の範囲内の温度に制御し得ることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス混合空間(12)は28mm2以上の断面積を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記第1と前記第2のガス管(7,8)中の前記第1と第2のガスの流量をそれぞれ制御する第1と第2のバルブ(24,25)のいずれもが前記ガス混合空間から30cm以上離れていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1と前記第2のガス管(7,8)内および前記ガス混合空間(12)内の清掃を可能にするために複数の継ぎ手が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記継ぎ手はクランプ継ぎ手であることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記下地の裏面上に膜が形成されないように、その下地裏面に接して配置され得る下地保持手段またはヒータ(2)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記下地を保持するための下地保持手段または前記下地を保持するためのヒータを含み、前記排気装置(6)は前記下地保持手段または前記ヒータの背面に面して設けられた排気口(5)に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記シャワープレート(10)の中心に関して対称に複数の排気口(51,52,53)が前記成膜室(3)内に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項10】
成膜室(3)内に配置された下地(1)上にCVDによって透明導電膜を堆積する方法であって、
有機金属蒸気を含む第1のガスと酸化剤蒸気を含む第2のガスが、前記成膜室内に導入される前にガス混合空間(12)において反応ガスになるように混合されることを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
前記透明導電膜が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記有機金属蒸気がアルキル亜鉛を含むことを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記酸化剤蒸気が、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸化二窒素、二酸化窒素、二酸化硫黄、五酸化二窒素、アルコール類(R(OH))、ケトン類(R(CO
)R’)、エーテル類(ROR’)、アルデヒド類(R(COH))、アミド類((RC
O)x(NH3-x)、x=1,2,3)、およびスルホキシド類(R(SO)R’)(ただし、RおよびR’はアルキル基である。)から選択された少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記ガス混合空間へ輸送される前記有機金属蒸気と前記酸化剤蒸気の少なくとも一方はキャリアガスと混合されていることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記有機金属蒸気と前記酸化剤蒸気の少なくとも一方はバブリングによって気化されることを特徴とする請求項14に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記有機金属蒸気と前記酸化剤蒸気の少なくとも一方は噴霧気化器によって気化されることを特徴とする請求項14に記載の成膜方法。
【請求項17】
前記ガス混合空間から前記成膜室内に至るまでのガス流経路が20〜100℃の範囲内の温度に制御されることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記反応ガスは複数のガス放出孔を含むシャワープレート(10)を介して前記成膜室(3)内に導入されることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記シャワープレート(10)は前記反応ガスを20〜100℃の範囲内の温度に制御し得ることを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記ガス混合空間(12)内の圧力は1300Pa以下に調整されることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
【請求項21】
請求項10の成膜方法によって形成された透明導電膜を表面電極(17)中に含むことを特徴とする光電変換装置。
【請求項22】
請求項10の成膜方法によって形成された透明導電膜を裏面電極(20,21)中に含むことを特徴とする光電変換装置。
【請求項23】
請求項10の成膜方法によって形成された透明導電膜が半導体層(18,19)中の中間層(22)として含められていることを特徴とする光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27A】
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【図27B】
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【国際公開番号】WO2005/081269
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510190(P2006−510190)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002131
【国際出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電技術研究開発委託事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】