説明

透明導電膜付きガラス板およびその製造方法

【課題】透明導電膜のヘイズ率を高くしても、その表面の表面粗さの上昇を抑制できる透明導電膜付きガラス板を提供する。
【解決手段】ガラス板11と、ガラス板11上に形成された透明導電膜15と、を備え、透明導電膜15が透明導電層(透明導電層A)13と透明導電層(透明導電層B)14を有し、透明導電層B14が透明導電層A13の上に形成され、透明導電膜15が複数の空孔13a(13b)を含み、複数の空孔13a(13b)の各々が、透明導電層A13の表面における凹部13hを透明導電層B14塞いだものである、透明導電膜付きガラス板10、を提供する。透明導電膜ガラス板10は、透明導電層A13の表面の一部の領域をエッチングによって膜厚方向に後退させるとともに、当該一部の領域を塞ぐように透明導電層A13の上に透明導電層B14を形成することで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換素子などに使用される透明導電膜付きガラス板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境への負担を抑制するという観点から、クリーンエネルギーを生成することができる太陽電池が注目されている。さらに省資源化の観点から、半導体材料の使用量が少ない薄膜太陽電池への期待が高まっている。薄膜太陽電池は、一般的には、ガラス板などの透明基板上に、酸化スズ(SnO2)などからなる透明導電膜(表面電極)、アモルファスシリコンやアモルファスシリコンゲルマニウムなどの非晶質半導体からなる光電変換層、ならびに導電膜(裏面電極)を順次積層して構成される。
【0003】
薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させるために種々の工夫がなされている。入射光が光電変換層に達する前に、ヘイズ率が高い透明導電膜において入射光を散乱させて光閉じ込め効果を得る技術はその一例である。例えば、特許文献1にはガラス板上に空孔を有する第1下地層、第2下地層、透明導電膜がこの順に形成された薄膜太陽電池が開示されている。第1下地層における空孔に第2下地層が陥没し、第2下地層において空孔に陥没した部分が透明導電膜を効率的に形成する成長核として作用する。その結果、透明導電膜の表面に大きな凹凸が形成され、この凹凸によって透明導電膜のヘイズ率が高くなり、透明導電膜での光閉じ込め効果が向上している。また、特許文献2には、酸化亜鉛によって形成された透明導電膜の表面を、塩酸を用いてエッチングすることで表面に凹凸を形成した薄膜太陽電池が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、透明導電膜の表面の凹凸上にさらに微小な凹凸を設けた薄膜太陽電池が開示されている。表面の凹凸が600nmから800nmの波長域の太陽光の光閉じ込めに寄与し、微小な凹凸が400nmから600nmの太陽光の光閉じ込めに寄与している。これにより、太陽光の広い波長域に対しての光電変換効率の改善を図っている。
【0005】
また、特許文献4に開示されている薄膜太陽電池では、表面の形状ではなく、透明基板と透明導電膜との間の無機バインダーマトリックス層に無機散乱粒子を分散させることで、光閉じ込め効果を得ることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−053307号公報
【特許文献2】特開2008−160165号公報
【特許文献3】特開2009−140930号公報
【特許文献4】特開2009−212507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させるためには、透明導電膜のヘイズ率を高くするとともに透明導電膜の表面の表面粗さが大きくなり過ぎないようにすることが望ましい。透明導電膜の表面と光電変換層の表面とは接するため、透明導電膜の表面の形状が光電変換層の特性に影響を与えるためである。具体的には、透明導電膜の表面の表面粗さが大き過ぎると、光電変換層に欠陥が生じやすくなる。特許文献1、2および3ではヘイズ率を高くするために透明導電膜の表面の凹凸が利用されている。このため、透明導電膜のヘイズ率が高くなるにつれて表面の表面粗さも大きくなる。特許文献4が開示する技術を用いると、ヘイズ率を高くしても透明導電膜の表面の表面粗さを低く保つことができる。しかし、特許文献4の技術は、バインダーマトリックス(例えばシリカ)とは別に無機散乱微粒子(例えばアルミナ微粒子)を要する。また、高いヘイズ率を達成するためには、導電性の向上に寄与しない無機バインダーマトリックス層を厚膜化する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、透明導電膜自体を改善することにより、透明導電膜のヘイズ率を高くしても、その表面の表面粗さの上昇を抑制できる透明導電膜付きガラス板を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、ガラス板と、前記ガラス板上に形成された透明導電膜と、を備え、前記透明導電膜が透明導電層Aと透明導電層Bとを有し、前記透明導電層Bが前記透明導電層Aの上に形成され、前記透明導電膜が複数の空孔を含み、前記複数の空孔の各々が、前記透明導電層Aの表面における凹部を前記透明導電層Bが塞いだものである、透明導電膜付きガラス板、を提供する。
【0010】
また、本発明は、その別の側面から、ガラス板と、前記ガラス板上に形成された複数の空孔を含む透明導電膜と、を備えた透明導電膜付きガラス板の製造方法であって、前記ガラス板上に予め形成された透明導電層aの表面に、前記透明導電層aをエッチングすることができるエッチング成分を含むエッチングガスを供給することにより、前記透明導電層aの表面の複数の領域を前記エッチング成分によって膜厚方向に後退させて前記透明導電層aから複数の凹部を有する透明導電層Aを形成する工程と、前記透明導電層Aの表面に、酸化されて金属酸化物を生成可能な被酸化成分、および前記被酸化成分を酸化することができる酸化剤を含む成膜ガスを供給することにより、前記複数の凹部を塞ぐように前記透明導電層Aの上に前記金属酸化物を含む透明導電層Bを成膜して前記複数の空孔を形成する工程と、を含む、透明導電膜付きガラス板の製造方法、を提供する。
【0011】
また、本発明は、さらに別の側面から、ガラス板と、前記ガラス板上に形成された複数の空孔を含む透明導電膜と、を備えた透明導電膜付きガラス板の製造方法であって、前記ガラス板上に予め形成された透明導電層aの表面に、前記透明導電層aをエッチングすることができるエッチング成分、酸化されて金属酸化物を生成可能な被酸化成分、および前記被酸化成分を酸化することができる酸化剤を含む混合ガスを供給することにより、前記透明導電層aの表面の複数の領域を前記エッチング成分によって膜厚方向に後退させて前記透明導電層aから複数の凹部を有する透明導電層Aを形成するとともに、当該複数の凹部を塞ぐように前記透明導電層Aの上に前記金属酸化物を含む透明導電層Bを成膜して前記複数の空孔を形成する、透明導電膜付きガラス板の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明導電膜の表面の表面粗さの上昇を抑制しながら、薄膜太陽電池用基板に要求される高いヘイズ率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の透明導電膜付きガラス板の一例の断面模式図
【図2】本発明の透明導電膜付きガラス板の製造方法を説明するための模式図
【図3】走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した透明導電膜付きガラス板の断面図
【図4】SEMを用いて観察した透明導電膜付きガラス板の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1(A)は本発明の透明導電膜付きガラス板の一例の断面模式図である。図1(A)に示すように、透明導電膜付きガラス板10は、ガラス板11と、ガラス板11の表面に形成された下地膜12と、下地膜12の表面に形成された透明導電膜15とを有する。下地膜12は、ガラス板11側から順に、第1下地層12aと、第2下地層12bとを有する。透明導電膜15は、ガラス板11側から順に、第1透明導電層(透明導電層A)13と第2透明導電層(透明導電層B)14とを有する。
【0016】
透明導電膜付きガラス板10は下地膜12を備え、透明導電膜15が下地膜12を介してガラス板11上に形成されることが好ましい。これにより、ガラス板11のアルカリ成分が透明導電膜15に侵入することを防ぐことができる。また、下地膜12は、1層から構成されていてもよく、その場合は酸化ケイ素、酸炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、またはスズドープ酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。また、下地膜12は、第1下地層12aと第2下地層12bの2層から構成されていてもよい。その場合は、第1下地層12aは、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸炭化ケイ素を主成分とすることが好ましく、特に酸化スズを主成分とすることが好ましい。また、第2下地層12bは、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを主成分とすることが好ましく、特に酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。なお、「主成分」とは、慣用に従い、組成成分含有率で50質量%以上の成分を指す。さらに、これら下地層12a,12bの膜厚と屈折率を適切に調整すれば、透明導電膜付きガラス板10の反射率および反射干渉色を低減させることが可能となる。第1下地層12aの膜厚は、10〜100nm、特に20〜70nmが好ましい。第1下地層12aの屈折率は、1.8〜2.4が好適である。第2下地層12bの膜厚は、5〜80nm、特に10〜40nmが好ましい。第2下地層12bの屈折率は、1.4〜1.7が好適である。
【0017】
透明導電膜15は少なくとも2層の透明導電層13,14から構成されている。透明導電層A13は酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。ただし、透明導電層A13を構成する材料は、導電性があり、後述するエッチング成分によってエッチング可能なものであれば、特に制限はない。エッチング成分は、エッチングするべき材料によって適宜選択すればよいが、塩化水素、塩化シュウ素などを用いるとよい。酸化亜鉛のエッチング成分としては、塩化水素が好適である。
【0018】
透明導電層A13の厚さは180nm以上600nm以下が好ましく、200nm以上600nm以下がさらに好ましく、300nm以上500nm以下が特に好ましい。透明導電層A13が薄過ぎると、空孔13a,13bの膜厚方向の大きさが後述のような散乱を発生させるべき太陽光の波長(用いる光電変換層によるが、例えば800nm程度の波長)と比較して、小さくなり過ぎる。他方、透明導電層A13の厚さを過度に厚くすると、可視光透過率が低下したり、膜中の応力が増大して、耐久性を劣化させたりするなどの弊害が大きくなるおそれがある。
【0019】
透明導電層A13には空孔13a,13bが形成されており、空孔13a,13bは、図1において下方から入射して透明導電膜15の上方に形成される光電変換層に達する光の散乱に寄与する。空孔13a,13bは、透明導電層A13の表面13sの一部が膜厚方向(具体的には図示下方)に後退することにより生じた凹部13hをその上方から透明導電層B14が塞ぐことにより形成されている。透明導電層A13の表面13sは、膜厚の全範囲にわたって後退していてもよく(空孔13a)、膜厚の一部の範囲にまで後退していてもよい(空孔13b)。効率的に光を散乱させるためには、複数の空孔の少なくとも一部の空孔が透明導電層A13の全膜厚にわたって拡がっていること、言い換えれば、複数の空孔の少なくとも一部の空孔が透明導電膜A13の膜厚と等しい高さを有していることが好ましい。
【0020】
図1(B)は図1(A)の透明導電膜15における領域13cを拡大した図である。空孔13aには、周囲の壁面から空孔13aの内部に向かって延びる針状体13dが存在する。針状体13dは、典型的には透明導電層B14の底面から垂れ下がるように形成される。針状体13dは透明導電層B14を構成する材料が析出して成長したものと推察される。ただし、透明導電膜15の成膜条件によっては針状体13dが形成されない場合もある。また、空孔13aの上方からではなく、空孔13aの側面から針状体が成長する場合もある。空孔13aのみならず空孔13bにも針状体が形成されることもある。
【0021】
以下、空孔13a,13bの大きさについて説明する。透明導電膜15を膜厚方向に沿って(換言すれば膜面に垂直な方向から)観察したときの空孔13a,13bの大きさは、その平均面積を円に換算して算出した直径(以下「直径A」という)により表示して0.5μm以上10μm以下、特に1.0μm以上5.0μm以下が好ましい。この直径は後述するEPMAを用いた方法により測定することができる。透明導電膜15を膜厚方向に沿って切断した断面に現れる空孔13a,13bの大きさは、その平均面積を円に換算して算出した直径(以下「直径B」という)により表示して0.1μm以上0.6μm以下が好ましい。この直径は、SEMによる断面観察により測定することができる。また、膜厚方向に沿って観察したときの透明導電層A13の面積に対する空孔13a,13bの総面積の割合は10%以上40%以下が好ましい。空孔13a,13bの大きさおよび面積の割合が適切な範囲にあると、入射光の散乱を効率的に行うことができるとともに透明導電層A13の強度を保つことができる。
【0022】
また、直径Bに対する直径Aの比(直径A/直径B)は、3以上10以下が好ましい。直径Bに対する直径Aの比が上記範囲から外れると、入射光の散乱効果を十分に得ることができなくなるおそれがある。
【0023】
透明導電膜15を膜厚方向に沿って観察したときに、100μm×100μmの領域内における空孔の数は、100個以上1000個以下が好ましい。空孔の数がこれよりも多いと膜の機械的強度を保持し難くなるため好ましくない。他方、空孔の数がこれよりも少ないと光散乱の効果が低下するため好ましくない。
【0024】
透明導電層B14は、透明で導電性がある材料から構成される。透明導電層B14は酸化スズを主成分とするとともにフッ素を含有することが好ましい。フッ素を添加することにより、透明導電層B14の導電性を向上させることができる。透明導電層B14の導電性を高めるためにはフッ素とともに、または、フッ素に代えて、アンチモンのような他の微量成分を添加してもよい。化学気相法(CVD法)により、酸化スズを生成させるために成膜ガスに添加すべき被酸化成分(スズ原料)としては、塩化スズ、ジメチルスズジクロライド、モノブチルスズトリクロライドなどが挙げられる。スズ原料を酸化するために成膜ガスに添加すべき酸化剤としては、酸素、水蒸気が挙げられる。
【0025】
透明導電層B14の厚さは200nm以上1000nm以下、さらに200nm以上800nm以下、特に250nm以上700nm以下が好ましい。透明導電層B14が薄過ぎると、透明導電膜15の導電性が低くなり過ぎることがある。他方、透明導電層B14が厚過ぎると、透明導電膜付きガラス板の光線透過率が低下し過ぎたり、透明導電膜15の表面の表面粗さが過大となったり、膜中の残留応力が大きくなり、耐久性が劣化したりしてしまうことがある。
【0026】
本実施の形態では、透明導電膜15の表面が、透明導電層B14の表面により形成されている。透明導電膜15の表面における表面粗さRaは40nm以下が好ましく、5nm以上30nm以下がさらに好ましい。透明導電膜15の表面における表面粗さRaが40nmを超えると、透明導電膜15の表面が光電変換層に欠陥が発生させやすくなるため、好ましくない。なお、透明導電膜15の表面は、透明導電層B14の上にさらに積層させた透明導電層B14以外の透明導電層(透明導電層C)の表面により構成されていてもよいが、その場合も透明導電膜15の表面の表面粗さは上記の範囲にあることが好ましい。透明導電層Cは、例えばITO膜、アルミニウムをドープした酸化亜鉛膜であってもよい。
【0027】
また、透明導電膜15のヘイズ率は10%以上、さらに15%以上、特に20%以上が好ましい。なお、上記ヘイズ率は波長が400nm〜800nmの範囲のヘイズ率を意味する。
【0028】
また、透明導電膜15の表面のシート抵抗Rsは30Ω/□以下が好ましく、20Ω/□以下がさらに好ましく、5Ω/□以上15Ω/□以下が特に好ましい。
【0029】
図2を参照して透明導電膜55の形成の工程の一例を説明する。図2(A)は、ガラス板51上に下地膜52のみが形成された予備成形体50aである。下地膜52、すなわち下地層52a、52bは、スパッタリング法、CVD法などによってガラス板51上に形成可能である。ただし、下地膜52を形成する必要は必ずしもない。
【0030】
予備成形体50a上に透明導電層(透明導電層a)57を形成し、図2(B)に示す予備成形体50bを得る。透明導電層57は、スパッタリング法によって形成された酸化亜鉛膜が好ましいが、CVD法など他の方法で形成してもよい。
【0031】
その後、CVD法により、透明導電層57上に、透明導電層57をエッチングするためのエッチング成分と、追加の透明導電層を形成するための被酸化成分および酸化成分とを含む混合ガスを吹き付け、透明導電層57の表面の一部を後退させて凹部を有する透明導電層(透明導電層A)53を得るとともに透明導電層(透明導電層B)54を形成し、空孔53aを有する透明導電膜55を備えた透明導電膜付きガラス板50を得る(図2(D))。混合ガスを用いた成膜の途中では、図2(C)に示すように、透明導電層57の表面の一部が後退しながらその上に透明導電層Bが成長して、予備成形体50cが形成されていると考えられる。
【0032】
なお、厚い透明導電層54を形成する場合には、透明導電層54を2回以上に分けて成膜してもよい。その場合は、2回目以降の透明導電層54の成膜時には、上述の混合ガスからエッチング成分を除去した成膜ガスを吹き付けることが好ましい。2回目以降の透明導電層54の成膜時にこのようなエッチング成分を含まない成膜ガスを吹き付けると、2回目以降の透明導電層54の成膜時にエッチング成分を含む混合ガスを吹き付けた場合に比べて成膜速度が高まり、透明導電層54を十分な厚さにまで成長させ易くなる。また、2回目以降の透明導電層54の成膜時にエッチング成分を含まない成膜ガスを吹き付けることにより、透明導電層54の表面の表面粗さRaおよびシート抵抗などの表面特性を改善することができるとともに、透明導電層54における電子移動度を向上させることができる。
【0033】
また、透明導電層54の上に透明導電層Cをさらに形成する場合は、透明導電膜Cを、CVD法により形成してもよいが、スパッタリング法などの物理蒸着法(PVD法)により、形成することもできる。
【0034】
透明導電層53は酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。また、混合ガスを用いて透明導電層54を成膜する場合は、混合ガスが、被酸化成分であるスズ原料と酸化剤、さらには塩化水素を含むことが好ましい。混合ガスにおけるスズ原料に対する塩化水素のモル比は0.24以上0.72以下が好ましい。塩化水素のモル比がこれより小さいと、空孔が形成されにくくなって所望のヘイズ率を達成することが困難となる。他方、塩化水素のモル比がこれより大きいと、透明導電層57から副生成物が過剰に生成され、形成される透明導電膜55の導電性が低下したり、空孔53aが大きくなりすぎて透明導電膜55の機械的強度が低下したりすることがある。
【0035】
混合ガスを供給するときのガラス板の温度は400℃以上800℃以下、特に600℃以上750℃以下が好ましい。
【0036】
なお、上記ではエッチング成分と成膜成分(被酸化成分および酸化剤)とを含む混合ガスを用いて透明導電層54を形成したが、エッチング成分を含むエッチングガスと成膜成分を含む成膜ガスとを順次供給して透明導電層54を形成してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0038】
(実施例1)
CVD法により、ソーダライムシリカガラスからなるガラス板(厚さ3.2mm)上に、第1下地層(SnO2膜:厚さ25nm)、第2下地層(SiO2膜:厚さ25nm)をこの順に積層し、その後スパッタリング法により透明導電層a(ZnO膜:厚さ368nm)を形成して、予備成形体を得た。この予備成形体を基板搬送型大気圧CVD装置に投入し、ガラス板を660℃まで加熱して、ジメチルスズジクロライド(以下「DMT」と表記する)(1.68mol%)、水蒸気(DMTに対する水蒸気のモル比:10)、酸素(DMTに対する酸素のモル比:12)、塩化水素(DMTに対する塩化水素のモル比:0.72)、フッ化水素(DMTに対するフッ化水素のモル比:0.30)およびキャリアガスとしての窒素からなる混合ガスを供給した。これにより、透明導電層aの表面の一部を膜厚方向に後退させて凹部を有する透明導電膜Aを形成するとともに透明導電層A上に透明導電層B(フッ素ドープ酸化スズ膜)を形成し、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0039】
(実施例2)
混合ガスにおける塩化水素の濃度をDMTに対するモル比が0.48となるように変更した以外は実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0040】
(実施例3)
混合ガスにおける塩化水素の濃度をDMTに対するモル比が0.96となるように変更した以外は実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0041】
(実施例4)
混合ガスにおける塩化水素の濃度をDMTに対するモル比が1.20となるように変更した以外は実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0042】
(実施例5)
透明導電層aの厚さを231nmに変更した以外は実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0043】
(実施例6)
透明導電層aの厚さを458nmに変更し、混合ガスにおける酸素の濃度をDMTに対するモル比が24となるように増加させた以外は、実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0044】
(実施例7)
透明導電層aの厚さを540nmに変更し、混合ガスにおける水蒸気の濃度をDMTに対するモル比が15となるように増加させた以外は、実施例1と同様にして、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0045】
(実施例8)
透明導電層aの厚さを458nmに、混合ガスにおけるフッ化水素の濃度をDMTに対するモル比が0.10となるように変更した以外は実施例1と同様にして、第一回目の成膜を行った。続いて、第一回目の成膜で用いた混合ガスから塩化水素を除去して(つまり混合ガスから塩化水素を除去した成膜ガスを用いて)、第一回目と同様に第二回目の透明導電層Bの成膜を行い、透明導電膜に空孔を有する透明導電膜付きガラス板を得た。
【0046】
(比較例1)
混合ガスから塩化水素を除去した(つまり混合ガスから塩化水素を除去した成膜ガスを用いた)以外は実施例1と同様にして、透明導電膜付きガラス板を得た。
【0047】
(比較例2)
透明導電層aを形成しないこと以外は実施例2と同様にして、透明導電膜付きガラス板を得た。
【0048】
(比較例3)
混合ガスから塩化水素を除去した(つまり混合ガスから塩化水素を除去した成膜ガスを用いた)以外は実施例7と同様にして、透明導電膜付きガラス板を得た。
【0049】
実施例1〜8と比較例1〜3の透明導電膜付きガラス板につき、次のようにして透明導電層Bの厚さ、ヘイズ率、空孔の形状、表面粗さRa、シート抵抗、光線透過率、および耐久性を調べた。また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて透明導電膜付きガラス板の断面を撮影した。実施例1および比較例1に対応する写真を図3および4に示す。
【0050】
[透明導電層Bの厚さ]
SEMを用いて透明導電層Bの膜厚方向に沿った断面を観察することにより、透明導電層Bの厚さを測定した。なお、混合ガスを用いて透明導電層Bを形成した後も、透明導電層a(混合ガスの供給後は透明導電層Aとなる)の厚さが変わらないことは、別途SEMを用いた観察により確認済みである。
【0051】
[ヘイズ率]
ヘイズメーター(日本電色工業社製NDH 2000)を用い、ガラス板側から透明導電膜付きガラス板に光を入射させて、透明導電膜付きガラス板のヘイズ率を測定した。
【0052】
[空孔の形状および分布]
電子線プローブマイクロアナライザー(Electron Prove Micro Analyzer:EPMA)を用いて透明導電膜付きガラス板の透明導電膜の表面の100μm×100μmの領域を測定し、亜鉛のマッピングをして亜鉛が存在しない部分を検出した。EPMAのプローブ侵入深さは約1μmであるので、透明導電層Bの上方からであっても、透明導電層Aにおける亜鉛の有無を検出することができる。次いで、画像処理により亜鉛が存在しない部分を空孔と判定し、その個数を測定するとともに各々の空孔の面積を測定した。測定された各々の空孔の平均面積を真円とみなしたときの直径(直径A)を算出した。また、透明導電層A全体の面積に対する測定された空孔の総面積の割合(面積率)を算出した。次に、SEMによって透明導電膜付きガラス板の膜厚方向に沿った断面を観察し、断面方向4mmの範囲に現れた透明導電層A内の空孔について面積を測定し、この平均面積を真円とみなしたときの直径(直径B)を算出した。ただし、直径Aおよび面積率の算出においては、亜鉛が存在しない部分の面積が1μm2以上である部分のみを空孔とみなした。
【0053】
[表面粗さ]
原子間力顕微鏡(AFM、エスアイアイナノテクノロジー社製 SPA−400)を用いて、透明導電膜付きガラス板における透明導電膜の表面の10μm×10μmの領域を観測し、解析ソフト(AFM、エスアイアイナノテクノロジー製 Nano Navi)を用いて、透明導電膜Bの表面の表面粗さRaを測定した。
【0054】
[シート抵抗]
ダイアインスツルメンツ社製MCP−TESTER LORESTA−FPを用いて、透明導電層Bの表面のシート抵抗を測定した。
【0055】
[光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色工業社製 NDH2000)を用いて、JIS B 7107に基づき、透明導電膜付きガラス板の光線透過率の測定を行った。
【0056】
[耐久性]
恒温恒湿試験のひとつであるプレッシャークッカー試験(PCT)機(タバイエスペック社製、TPC−411)に、透明導電膜付きガラス板を投入し、温度125℃、湿度85%の条件で65時間放置した後に、透明導電膜の剥離の有無を目視で観察した。また、SPIE(SPIE - The International Society for Optical Engineering)で報告されたECDLテスト(Electrochemical delamination test)に基づき(Proceedings of SPIE, Reliability of Photovoltaic Cells, Modules, Components, and Systems, 11−13、Aug.2008 講演番号70480M 参照)、透明導電膜のガラス板面と透明導電層Bの表面との間に100Vの直流電圧を印加した状態で、185℃で15分保持した後に、透明導電膜の剥離の有無を目視で観察した。ECDLテストにおいては、透明導電膜が剥離するまでの保持回数を記録した。
【0057】
実施例1〜8と比較例1〜3の透明導電膜付きガラス板につき、上記のようにして透明導電層Bの厚さ、ヘイズ率、空孔の形状および分布、表面粗さRa、シート抵抗、光線透過率、耐久性を測定した結果を表1に示す。なお、実施例8の透明導電膜付きガラス板のヘイズ率、空孔の形状および分布、表面粗さRa、シート抵抗、光線透過率、耐久性については、第二回目の透明導電層Bの成膜後の測定結果のみを記載する。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜8の透明導電膜付きガラス板のいずれの透明導電膜にも空孔が形成された。他方、比較例1〜3の透明導電膜付きガラス板には空孔が形成されなかった。
【0060】
混合ガスに塩化水素を含む実施例1〜8と塩化水素を含まない比較例1、3とを比較すると、実施例1〜8の透明導電膜付きガラス板は比較例1、3の透明導電膜付きガラス板に比べて高いヘイズ率を示した。特に、実施例7の透明導電膜付きガラス板と比較例3の透明導電膜付きガラス板との差異は、製造工程における混合ガス中の塩化水素の有無だけであることを考慮すると、混合ガス中の塩化水素が空孔の形成に寄与していることが分かる。
【0061】
比較例2の透明導電膜付きガラス板には透明導電層Aが存在しないため、空孔も形成されていない。表面の凹凸がヘイズ率を定める主要因となるため、ヘイズ率が高くなるにつれて表面粗さRaも大きくなる。
【符号の説明】
【0062】
10 透明導電膜付きガラス板
11 ガラス板
12 下地膜
12a 第1下地層
12b 第2下地層
13 透明導電層A
13a,13b 空孔
13c 領域
13d 針状体
13h 凹部
13s 表面
14 透明導電層B
15 透明導電膜
50 透明導電膜付きガラス板
50a 予備成形体
50b 予備成形体
50c 予備成形体
51 ガラス板
52 下地膜
52a 第1下地層
52b 第2下地層
53 透明導電層A
53a 空孔
54 透明導電層B
57 透明導電層a

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された透明導電膜と、を備え、
前記透明導電膜が透明導電層Aと透明導電層Bとを有し、
前記透明導電層Bが前記透明導電層Aの上に形成され、
前記透明導電膜が複数の空孔を含み、
前記複数の空孔の各々が、前記透明導電層Aの表面における凹部を前記透明導電層Bが塞いだものである、
透明導電膜付きガラス板。
【請求項2】
前記複数の空孔の少なくとも一部の空孔が前記透明導電層Aの全膜厚にわたって拡がっている請求項1に記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項3】
前記ガラス板上に形成された下地膜をさらに備え、
前記透明導電膜が前記下地膜を介して前記ガラス板上に形成された、
請求項1または2に記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項4】
前記透明導電膜の表面の表面粗さRaが40nm以下であり、
ヘイズ率が10%以上である、
請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項5】
膜厚方向に沿って観察したときの前記複数の空孔の平均面積を円に換算して算出した直径Aが0.5μm以上10μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項6】
膜厚方向に沿って切断した断面に現れる前記複数の空孔の平均面積を円に換算して算出した直径Bが0.1μm以上0.6μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項7】
膜厚方向に沿って観察したときの前記透明導電膜の面積に対する前記複数の空孔の総面積の割合が10%以上40%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項8】
前記透明導電層Aが酸化亜鉛を主成分とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項9】
前記透明導電層Bが酸化スズを主成分とするとともにフッ素を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項10】
前記透明導電層Aの厚さが180nm以上600nm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項11】
前記透明導電層Bの厚さが200nm以上1000nm以下である請求項1〜10のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項12】
前記透明導電膜が、前記透明導電層Bの上に、透明導電層Cをさらに有する請求項1〜11のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項13】
前記複数の空孔の各々が、前記透明導電層Aの表面の一部の領域が膜厚方向に後退するとともに当該一部の領域を前記透明導電層Bが塞ぐことによって形成されたものである、請求項1〜12のいずれかに記載の透明導電膜付きガラス板。
【請求項14】
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された複数の空孔を含む透明導電膜と、を備えた透明導電膜付きガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板上に予め形成された透明導電層aの表面に、前記透明導電層aをエッチングすることができるエッチング成分を含むエッチングガスを供給することにより、前記透明導電層aの表面の複数の領域を前記エッチング成分によって膜厚方向に後退させて前記透明導電層aから複数の凹部を有する透明導電層Aを形成する工程と、
前記透明導電層Aの表面に、酸化されて金属酸化物を生成可能な被酸化成分、および前記被酸化成分を酸化することができる酸化剤を含む成膜ガスを供給することにより、前記複数の凹部を塞ぐように前記透明導電層Aの上に前記金属酸化物を含む透明導電層Bを成膜して前記複数の空孔を形成する工程と、を含む、
透明導電膜付きガラス板の製造方法。
【請求項15】
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された複数の空孔を含む透明導電膜と、を備えた透明導電膜付きガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板上に予め形成された透明導電層aの表面に、前記透明導電層aをエッチングすることができるエッチング成分、酸化されて金属酸化物を生成可能な被酸化成分、および前記被酸化成分を酸化することができる酸化剤を含む混合ガスを供給することにより、前記透明導電層aの表面の複数の領域を前記エッチング成分によって膜厚方向に後退させて前記透明導電層aから複数の凹部を有する透明導電層Aを形成するとともに、当該複数の凹部を塞ぐように前記透明導電層Aの上に前記金属酸化物を含む透明導電層Bを成膜して前記複数の空孔を形成する、
透明導電膜付きガラス板の製造方法。
【請求項16】
前記透明導電層Bの表面に、酸化されて金属酸化物を生成可能な被酸化成分、および前記被酸化成分を酸化することができる酸化剤を含む成膜ガスをさらに供給する請求項15に記載の透明導電膜付きガラス板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−212988(P2011−212988A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83847(P2010−83847)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】