説明

通信システム、送信機及び受信機

【課題】 通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させる。
【解決手段】 スマートキーレスエントリシステムでは、携帯機が、1kbpsの低速ビットレート及び20kbpsの高速ビットレートの2種類のビットレートで同一の解錠データを送信し、車載装置が、カットオフ周波数が1.4kHzの第1ローパスフィルタ、又は、カットオフ周波数が28kHzの第2ローパスフィルタを介して、携帯機から送信された解錠データを取得する。このため、解錠データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、低速ビットレートで送信された解錠データに妨害ノイズが重なったとしても、高速ビットレートで送信されたデータに妨害ノイズが重ならなければ、解錠データの通信を正常に行うことができる。したがって、同一の解錠データを複数のビットレートで送信しているので、スマートキーレスエントリシステムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データを送信する送信機、送信機から送信されたデータを受信する受信機、並びに送信機及び受信機を有する通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムは、送信機側から送信されたデータを受信機側で受信するものであり、この種の通信システムとしては、車両のドアを施解錠するためのキーレスエントリシステムが知られている。
【0003】
そして、例えば特許文献1に記載の発明では、利用者に所持される送信機及び車両に搭載された受信機等によりキーレスエントリシステムが構成されている。そして、送信機は、ドアを施解錠するための施解錠データを単一のビットレートで送信し、施解錠データを受信した受信機は、その受信結果に基づいて車両のドアを施解錠する。
【特許文献1】特開2005−120656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、キーレスエントリシステムでは、送信機と受信機との通信時に、例えば他のキーレスエントリシステムから送信される電波等の妨害ノイズが混信すると、受信機はその妨害ノイズの影響を受けてしまうので、受信機側で正常にドアを施解錠することができなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、通常は、妨害ノイズ除去用のフィルタ(ローパスフィルタ)を設けることにより、送信機と受信機との通信時に妨害ノイズの影響を受けないようにしている。
しかし、フィルタのカットオフ周波数は、施解錠データのビットレートに基づいて設定されるので、単にフィルタを設けただけでは、全ての妨害ノイズを除去することはできない。
【0006】
つまり、妨害ノイズのノイズ幅(パルス幅)が、ビットレートに応じた施解錠データのパルス幅よりも短い場合には、その妨害ノイズをフィルタで除去することができるが、逆に妨害ノイズのノイズ幅が、ビットレートに応じた施解錠データのパルス幅よりも長い場合には、その妨害ノイズをフィルタで除去することができない。
【0007】
このため、特許文献1に記載の発明では、送信機と受信機との通信時にノイズ幅の長い妨害ノイズが混信した場合には、その妨害ノイズがフィルタを通過してしまうので、施解錠データの通信を開始してから終了するまでの間に、フィルタを通過した妨害ノイズと施解錠データとが重なってしまい、受信機側では、施解錠データを正常に認識することができなくなる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記点に鑑み、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、データを送信する送信機及び送信機から送信されたデータを受信する受信機を有する通信システムであって、送信機側では、送信手段が、第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信し、受信機側では、送信手段から送信されたデータを受信手段が受信する。
【0010】
これにより、請求項1に記載の発明では、同一のデータを異なるビットレートで送信するので、データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、例えば、第1ビットレートで送信されたデータに妨害ノイズが重なってしまったとしても、第2ビットレートで送信されたデータに妨害ノイズが重ならなければ、データの通信を正常に行うことができ得る。
【0011】
これに対して、特許文献1に記載の発明では、1つのデータを単一のビットレートで送信しているので、データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、受信機が受信したデータに妨害ノイズが重なってしまうと、データの通信を正常に行うことができなくなる。
【0012】
したがって、請求項1に記載の発明によれば、1つのデータを単一のビットレートで送信する特許文献1に記載の発明に対して、1つのデータを複数のビットレートで送信しているので、特許文献1に記載の発明に比べて、データ通信の確実性を向上させることができ、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明では、データを送信する送信機及び送信機から送信されたデータを受信する受信機を有する通信システムであって、送信機に設けられ、第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信する送信手段と、受信機に設けられ、送信手段から送信されたデータを受信する受信手段と、受信機に設けられ、受信手段により受信されたデータを、送信手段から第1ビットレートで送信されたデータと、送信手段から第2ビットレートで送信されたデータとに分離するフィルタ手段とを備えたことを特徴としている。
【0014】
これにより、請求項2に記載の発明によれば、1つのデータを複数のビットレートで送信しているので、請求項1で述べた効果と同様に、データ通信の確実性を向上させることができ、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明では、フィルタ手段が受信機に設けられているので、所定周波数帯域の妨害ノイズを除去することができ、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を更に向上させることができる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明では、フィルタ手段は、第1ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第1ローパスフィルタ、及び第2ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第2ローパスフィルタを有して構成されていることを特徴としている。
【0017】
これにより、第1ローパスフィルタは、第1ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させるので、第1ビットレートで送信されるデータのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズを除去することはできないものの、第1ビットレートで送信されるデータのパルス幅よりも短いノイズ幅の妨害ノイズを除去することができる。
【0018】
このため、その短いノイズ幅の妨害ノイズがデータの通信時に混信した場合には、第1ローパスフィルタがその短いノイズ幅の妨害ノイズを除去することができるので、データの通信を正常に行うことができる。
【0019】
ところで、第1ローパスフィルタは、第1ビットレートで送信されたデータのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズを通過させてしまうので、その長いノイズ幅の妨害ノイズがデータの通信時に混信した場合には、データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、その長いノイズ幅の妨害ノイズと第1ビットレートで送信されたデータとが重なってしまい、データの通信を正常に行うことができない可能性がある。
【0020】
これに対して、第2ローパスフィルタは、第2ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させるので、第1ビットレートで送信されたデータのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズを通過させてしまうが、同一のデータで通信が行われる場合には、当然の如く、ビットレートが高いほど、データの通信が開始されてから終了されるまでの通信時間は短くなる。
【0021】
このため、通信時間が短いほど、妨害ノイズのパルスが立ち下がってから次回そのパルスが立ち上がるまでの時間内(妨害ノイズの影響を受けない時間内)に、データの通信を正常に終了する可能性は高くなる。
【0022】
したがって、請求項3に記載の発明では、第1ビットレートで送信されたデータのパルス幅よりも短いノイズ幅の妨害ノイズが混信した場合には、第1ローパスフィルタを介してデータを取得することでデータの通信を正常に行うことができ、第1ビットレートで送信されたデータのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズが混信した場合には、第2ローパスフィルタを介してデータを取得することでデータの通信を正常に行うことができる。
【0023】
また、受信機は、請求項4に記載のように、受信手段により受信されたデータを、第1ローパスフィルタに入力する場合と第2ローパスフィルタに入力する場合とのうち何れかに切り替える切替手段と、第1ローパスフィルタ又は第2ローパスフィルタを通過したデータを取得するデータ取得手段とを有しており、さらに、切替手段は、受信手段により受信されたデータを最初に第1ローパスフィルタに入力させた後、第2ローパスフィルタに入力させるように構成されていてもよい。
【0024】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の通信システムに用いられる送信機であって、第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信する送信手段を備えたことを特徴としている。
【0025】
これにより、この送信機を、上述した請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の受信機とともに利用すれば、請求項1に記載の発明の効果で述べた理由により、特許文献1に記載の発明に比べて、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0026】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1に記載の通信システムに用いられる受信機であって、送信機の送信手段から送信されたデータを受信する受信手段を備えたことを特徴としている。
【0027】
これにより、この受信機を、上述した請求項1に記載の送信機とともに利用すれば、請求項1に記載の発明の効果で述べた理由により、特許文献1に記載の発明に比べて、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0028】
また、請求項7に記載の発明では、請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載の通信システムに用いられる受信機であって、送信機の送信手段から送信されたデータを受信する受信手段と、受信手段により受信されたデータを、送信手段から第1ビットレートで送信されたデータと、送信手段から第2ビットレートで送信されたデータとに分離するフィルタ手段を備えたことを特徴としている。
【0029】
これにより、この受信機を、上述した請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載の送信機とともに利用すれば、請求項1に記載の発明の効果で述べた理由により、特許文献1に記載の発明に比べて、通信システムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0030】
また、受信機は、上述したように、フィルタ手段が第1ローパスフィルタ及び第2ローパスフィルタを有して構成されていてもよいし、受信機がデータ取得手段及び切替手段を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本実施形態は、本発明に係る通信システムを、車両のドアを施解錠するためのスマートキーレスエントリシステムに適用したものであり、以下に実施形態を図面と共に説明する。
【0032】
なお、スマートキーレスエントリシステム(以下、スマートシステムという。)とは、車両のドアを施解錠するための携帯機を所持する使用者が車両に近づくと、車両側の制御装置がそれを検出してドアの解錠を自動的に行うものである。また、本実施形態では、車両のドアの外部に設けられている施錠用のボタンが操作されると、上記制御装置がドアの施錠を行う。
【0033】
(第1実施形態)
1.スマートシステムの全体構成
図1は、本実施形態に係るスマートシステムの構成を表す構成図であり、本実施形態のスマートシステムは、図1に示すように、車両の使用者により所持される携帯機10、及び車両に搭載された車載装置20等を有して構成されている。
【0034】
1.1.携帯機10
携帯機10は、車両のドアを解錠するための解錠データを送信するためのものであり、この携帯機10は、解錠データ(本実施形態では、100bitの情報量からなる。)が記憶された記憶手段としてのメモリ12、無線信号を送信する送信回路14、及びメモリ12に記憶された解錠データを読み出すとともにその解錠データを異なる2種類のビットレートで送信回路14へ送信(出力)する制御回路16等を有して構成されている。
【0035】
なお、携帯機10は、車載装置20側から車両周囲に送信される起動信号を受信するための受信回路(図示省略)を備えており、この携帯機10は、起動信号を受信したときに起動する。
【0036】
制御回路16は、図2に示すように、携帯機10が起動すると解錠データをメモリ12から読み出し、その解錠データを低速ビットレート(本実施形態では、1kbps)で複数回(例えば3回)送信回路14へ送信した後、低速ビットレートによる解錠データの送信回数と同じ回数だけ、低速ビットレートよりも高い高速ビットレート(本実施形態では、20kbps)で同一の解錠データを送信回路14へ送信する。
【0037】
送信回路14は、制御回路16から低速ビットレートで送信された解錠データ、及び高速ビットレートで送信された解錠データを用いて所定周波数帯(本実施形態では、312MHz)の搬送波を変調することでその解錠データを含んだ解錠用の無線信号を生成し、その生成した無線信号をアンテナ18を介して送信する。
【0038】
1.2.車載装置20
車載装置20は、図1に示すように、携帯機10から送信された無線信号(解錠データ)を受信するチューナ30、及びチューナ30に受信された受信結果に基づいて車両のドアを解錠したり、上記施錠用のボタン(図示省略)を介して入力される施錠信号に基づいて車両のドアを施錠する制御装置40等を備えている。
【0039】
チューナ30は、携帯機10から送信された無線信号(解錠データ)を受信する受信部50、及び受信部50にて受信された解錠データを低速ビットレートで送信された解錠データと高速ビットレートで送信された解錠データとに分離するためのフィルタ部60等を有して構成されている。
【0040】
受信部50の第1バントパスフィルタ(BPF)52では、アンテナ51で受信された受信信号(無線電波)のうち携帯機10から送信された解錠用の無線信号を選択的に通過させる。
【0041】
そして、第1BPF52を通過した受信信号は、第1増幅回路(AMP)53により増幅され、第1AMP53により増幅された受信信号は、局部発振器54から発生された周波数変換用の一定周波数(本実施形態では301.3MHz)の高周波信号と混合回路55で混合されることによって、所定の中間周波数帯に周波数変換される。
【0042】
混合回路55により中間周波数帯に周波数変換された受信信号は、第2バントパスフィルタ(BPF)56を通過し、この第2BPF56を通過した受信信号は、第2増幅回路(AMP)57により増幅される。そして、第2AMP57に増幅された受信信号は、検波回路(DET)58により検波され、この検波回路58により検波された受信信号は、フィルタ部60に入力される。
【0043】
フィルタ部60は、カットオフ周波数fc1が1.4kHzの第1ローパスフィルタ(LPF)62、第1LPF62を通過した受信信号に含まれている解錠データを復元する第1コンパレータ(CMP)64、カットオフ周波数fc2が28kHzの第2ローパスフィルタ(LPF)66、及び第2LPF66を通過した受信信号に含まれている解錠データを復元する第2コンパレータ(CMP)68等を有している。
【0044】
第1LPF62は、図3に示すように、第1LPF62に入力された受信信号のうちカットオフ周波数fc1以上の高周波信号成分を除去するものであるので、第1LPF62を通過した受信信号のうち第1ビットレートに対応する周波数(1kHz)以下の受信信号は、第1LPF62を通過する。
【0045】
また、第2LPF66は、図3に示すように、第2LPF66に入力された受信信号のうちカットオフ周波数fc2以上の高周波信号成分を除去するものであるので、第2LPF66を通過した受信信号のうち第2ビットレートに対応する周波数(20kHz)以下の受信信号は、第2LPF66を通過する。
【0046】
つまり、第1LPF62では、携帯機10から第2ビットレートで送信された解錠データが除去され、携帯機10から第1ビットレートで送信された送信された解錠データが通過する。また、第2LPF66では、携帯機10から第1ビットレートで送信された解錠データ、及び携帯機10から第2ビットレートで送信された解錠データの両方の解錠データが通過する。
【0047】
2.車載装置20の特徴的作動
図4(a)は、第1CMP64からの出力信号(解錠データ)が制御装置40に入力されたときに、制御装置40が実行する制御フローを示すフローチャートである。
【0048】
図4(a)に示す制御フローが実行されると、まず制御装置40に設けられたメモリ(図示省略)から照合用データが読み出されて、この照合用データと第1CMP64から入力された解錠データとが照合され(S110)、この照合結果に基づいて、ドアを解錠してもよいか否かが判定される(S120)。
【0049】
そして、S120の処理でドアを解錠してもよいと判定された場合には(S120:YES)、低速ビットレートによる通信が正常に行われたと判断されてドアの解錠が実行され(S130)、本制御フローが終了する。
【0050】
一方、S120の処理でドアを解錠してはいけないと判定された場合には(S120:NO)、低速ビットレートによる通信が正常に行われなかったと判断されてドアの解錠は実行されず、本制御フローが終了する。
【0051】
次に、図4(b)は、第2CMP68からの出力信号が制御装置40に入力されたときに制御装置40が実行する制御フローを示すフローチャートである。
図4(b)に示す制御フローが実行されると、まず制御装置40に設けられたメモリから照合用データが読み出されて、この照合用データと第2CMP68から入力された解錠データとが照合され(S210)、この照合結果に基づいて、ドアを解錠してもよいか否かが判定される(S220)。
【0052】
すなわち、S210の処理では、携帯機10から第1ビットレートで送信された3個の解錠データの各々が、順次照合用データと照合された後、携帯機10から第2ビットレートで送信された3個の解錠データの各々が、順次照合用データと照合される。
【0053】
そして、S220の処理でドアを解錠してもよいと判定された場合には(S220:YES)、高速ビットレートによる通信が正常に行われたと判断されてドアの解錠が実行され(S230)、本制御フローが終了する。
【0054】
一方、S220の処理でドアを解錠してはいけないと判定された場合には(S220:NO)、高速ビットレートによる通信が正常に行われなかったと判断されてドアの解錠は実行されず、本制御フローが終了する。
【0055】
3.本実施形態に係るスマートシステムの特徴
本実施形態では、低速ビットレートに対応する周波数(1kHz)以下の受信信号が第1LPF62を通過するので、第1LPF62では、低速ビットレートで送信される解錠データのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズ(図5(b)参照)を除去することはできないものの、低速ビットレートで送信される解錠データのパルス幅よりも短いノイズ幅の妨害ノイズ(図5(a)参照)を除去することができる。
【0056】
このため、図5(a)に示すように、低速ビットレートで送信される解錠データのパルス幅よりも短いノイズ幅(=0.1ms)の妨害ノイズが、解錠データの通信時に混信した場合には、第1LPF62がその短いノイズ幅の妨害ノイズを除去することができるので、解錠データの通信を正常に行うことができる。
【0057】
ところで、第1LPF62は、図5(b)に示すように、低速ビットレートで送信された解錠データのパルス幅よりも長いノイズ幅(=30ms)の妨害ノイズを通過させてしまうので、その長いノイズ幅の妨害ノイズが解錠データの通信時に混信した場合には、解錠データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、その長いノイズ幅の妨害ノイズと低速ビットレートで送信された解錠データとが重なってしまい、解錠データの通信を正常に行うことができない。
【0058】
つまり、100bitの情報量からなる解錠データを低速ビットレートで通信する場合には、解錠データの通信時間が100msかかるのに対して、図5(b)に示す長いノイズ幅の妨害ノイズは、ノイズ幅が30msで周期が60msであるので、解錠データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、その長いノイズ幅の妨害ノイズと低速ビットレートで送信された解錠データとが重なってしまい、解錠データの通信が正常に行うことができない。
【0059】
これに対して、第2LPF66は、高速ビットレートに対応する周波数(20kHz)以下の受信信号を通過させるので、第1ビットレートで送信されたデータのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズを通過させてしまうが、同一のデータで通信が行われる場合には、当然の如く、ビットレートが高いほど、解錠データの通信が開始されてから終了されるまでの通信時間は短くなる。
【0060】
このため、解錠データの通信時間が短いほど、妨害ノイズのパルスが立ち下がってから次回そのパルスが立ち上がるまでの時間内(妨害ノイズの影響を受けない時間内)に、解錠データの通信を正常に終了する可能性は高くなる。
【0061】
すなわち、100bitの情報量からなる解錠データを低速ビットレートで通信する場合には、通信時間が100msかかるのに対して、100bitの情報量からなる解錠データを高速ビットレートで通信する場合には、解錠データの通信時間が5msですむので、高速ビットレートで解錠データの通信が行われた場合には、図5(c)に示すように、長いノイズ幅の妨害ノイズの影響を受けない時間T内に、解錠データの通信を正常に終了することができる。
【0062】
したがって、本実施形態では、低速ビットレートで送信された解錠データのパルス幅よりも短いノイズ幅の妨害ノイズが混信した場合には、第1LPF62を介して解錠データを取得することで解錠データの通信を正常に行うことができ、低速ビットレートで送信された解錠データのパルス幅よりも長いノイズ幅の妨害ノイズが混信した場合には、第2LPF66を介して解錠データを取得することで解錠データの通信を正常に行うことができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、同一の解錠データを2種類の異なるビットレートで送信するので、解錠データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、低速ビットレートで送信された解錠データに妨害ノイズが重なってしまったとしても、高速ビットレートで送信された解錠データに妨害ノイズが重ならなければ、解錠データの通信を正常に行うことができ得る。
【0064】
これに対して、特許文献1に記載の発明では、1つのデータを単一のビットレートで送信しているので、データの通信が開始されてから終了されるまでの間に、受信機が受信したデータに妨害ノイズが重なってしまうと、データの通信を正常に行うことができなくなる。
【0065】
したがって、本実施形態によれば、1つのデータを単一のビットレートで送信する特許文献1に記載の発明に対して、1つの解錠データを複数のビットレートで送信しているので、特許文献1に記載の発明に比べて、データ通信の確実性を向上させることができ、スマートシステムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0066】
4.発明特定事項と実施形態との対応関係
本実施形態では、携帯機10が特許請求の範囲に記載された送信機に相当し、車載装置20が特許請求の範囲に記載された受信機に相当し、送信回路14が特許請求の範囲に記載された送信手段に相当し、受信部50が特許請求の範囲に記載された受信手段に相当し、フィルタ部60が特許請求の範囲に記載されたフィルタ手段に相当する。
【0067】
(第2実施形態)
第1実施形態では、受信部50により受信された受信信号を第1LPF62及び第2LPF66の両方に同時に入力するようにしていたが、本実施形態は、図6に示すように、受信部50により受信された受信信号を、第1LPF62に入力する場合と第2LPF66とのうち何れかに切り替えるスイッチ70を設けたものである。
【0068】
なお、図6は、本実施形態の車載装置20の構成を表す構成図である。また、初期状態では、受信部50により受信された受信信号が第1LPF62に入力されるようにされている。
【0069】
本実施形態の携帯機10は、解錠データを低速ビットレートで複数回送信回路14へ送信した後、スイッチ70を作動させるためのスイッチ切替コードを低速ビットレートで1回送信回路14へ送信するとともに、低速ビットレートによる解錠データの送信回数と同じ回数だけ、高速ビットレートで解錠データを送信回路14へ送信する。
【0070】
次に、図7は、第1CMP64からの出力信号(解錠データ)が制御装置40に入力されたときに、制御装置40が実行する制御フローを示すフローチャートである。
図7に示す制御フローが実行されると、まず制御装置40に設けられたメモリ(図示省略)から照合用データが読み出されて、この照合用データと第1CMP64から入力された解錠データとが照合され(S310)、この照合結果に基づいて、ドアを解錠してもよいか否かが判定される(S320)。
【0071】
そして、S320の処理でドアを解錠してもよいと判定された場合には(S320:YES)、低速ビットレートによる通信が正常に行われたと判断されてドアの解錠が実行され(S330)、本制御フローが終了する。
【0072】
一方、S320の処理でドアを解錠してはいけないと判定された場合には(S320:NO)、低速ビットレートによる通信が正常に行われなかったと判断され、スイッチ切替コードが受信されたか否かが判定される(S340)。
【0073】
そして、スイッチ切替コードが受信されていないと判定された場合には(S340:NO)、本制御フローが終了し、逆にスイッチ切替コードが受信されたと判定された場合には(S340:YES)、受信部50により受信された受信信号が第2LPF66に入力されるように、スイッチ70が作動する(S350)。
【0074】
その後、第2CMP68から入力された解錠データと照合用データとが照合され(S360)、この照合結果に基づいて、ドアを解錠してもよいか否かが判定される(S370)。すなわち、S360の処理では、携帯機10から第2ビットレートで送信された3個の解錠データの各々が、順次照合用データと照合される。
【0075】
そして、S370の処理でドアを解錠してもよいと判定された場合には(S370:YES)、高速ビットレートによる通信が正常に行われたと判断されてドアの解錠が実行され(S330)、受信部50により受信された受信信号が第1LPF62に入力されるようにスイッチ70が作動して本制御フローが終了する。
【0076】
一方、S370の処理でドアを解錠してはいけないと判定された場合には(S370:NO)、高速ビットレートによる通信が正常に行われなかったと判断されてドアの解錠は実行されず、その後、受信部50により受信された受信信号が第1LPF62に入力されるようにスイッチ70が作動して本制御フローが終了する。
【0077】
以上説明した本実施形態においても、上記第1実施形態のスマートシステムと同様に、1つのデータを単一のビットレートで送信する特許文献1に記載の発明に対して、1つのデータを複数のビットレートで送信しているので、特許文献1に記載の発明に比べて、データ通信の確実性を向上させることができ、スマートシステムによる耐妨害ノイズ性能を向上させることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、スイッチ70が作動するタイミングをスイッチ切替コードを受信したときにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、低速ビットレートによる通信が正常に行われたと判断された場合に(S320:NO)、スイッチが作動するようにしてもよい。
【0079】
また、本実施形態では、制御装置40が特許請求の範囲に記載されたデータ取得手段に相当し、スイッチ70が特許請求の範囲に記載された切替手段に相当する。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、本発明の通信システムをスマートシステムに適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、遠隔操作によりエンジンを始動させるエンジンスタータシステムに適用してもよいし、車両用の通信機器以外の通信機器(例えば、携帯電話機)に適用してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、複数のビットレートで解錠データを送信するようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ドアを施錠するための施錠データを送信する際に複数のビットレートを用いるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、受信部50により受信された解錠データを、第1ビットレートで送信された解錠データと第2ビットレートで送信された解錠データとに分離するようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、受信部50により受信された解錠データを特に分離せずに、直接制御装置40に入力させてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、第1ビットレートで解錠データを送信した後に第2ビットレートで解錠データを送信していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2ビットレートで解錠データを送信した後に第1ビットレートで解錠データを送信するようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、第1LPF62及び第2LPF66を設けていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1LPF62及び第2LPF66に代えてバントパスフィルタを設けるようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、低速ビットレートと高速ビットレートとの2種類のビットレートで同一のデータ(解錠データ)を送信するようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、3種類以上のビットレートで同一のデータを送信するようにしてもよい。
【0085】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1実施形態に係るスマートシステムの構成を表す構成図である。
【図2】携帯機が送信するデータのビットレートを説明する説明図である。
【図3】第1LPF及び第2LPFの特性を説明する説明図である。
【図4】第1実施形態の制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の作用効果を説明する説明図である。
【図6】第2実施形態に係るスマートシステムの車載装置の構成を表す構成図である。
【図7】第2実施形態の制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0087】
10…携帯機、12…メモリ、14…送信回路、16…制御回路、18…アンテナ、20…車載装置、30…チューナ、40…制御装置、50…受信部、51…アンテナ、52…第1BPF、53…第1AMP、54…局部発振器、55…混合回路、56…第2BPF、57…第2AMP、58…検波回路、60…フィルタ部、62…第1LPF、64…第1CMP、66…第2LPF、68…第2CMP、70…スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを送信する送信機及び前記送信機から送信されたデータを受信する受信機を有する通信システムであって、
前記送信機に設けられ、第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信する送信手段と、
前記受信機に設けられ、前記送信手段から送信されたデータを受信する受信手段と
を備えたことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
データを送信する送信機及び前記送信機から送信されたデータを受信する受信機を有する通信システムであって、
前記送信機に設けられ、第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信する送信手段と、
前記受信機に設けられ、前記送信手段から送信されたデータを受信する受信手段と、
前記受信機に設けられ、前記受信手段により受信されたデータを、前記送信手段から第1ビットレートで送信されたデータと、前記送信手段から第2ビットレートで送信されたデータとに分離するフィルタ手段と
を備えたことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
前記フィルタ手段は、第1ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第1ローパスフィルタ、及び第2ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第2ローパスフィルタを有して構成されていることを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記受信機は、
前記受信手段により受信されたデータを、前記第1ローパスフィルタに入力する場合と前記第2ローパスフィルタに入力する場合とのうち何れかに切り替える切替手段と、
前記第1ローパスフィルタ又は前記第2ローパスフィルタを通過したデータを取得するデータ取得手段とを有しており、
さらに、前記切替手段は、前記受信手段により受信されたデータを最初に前記第1ローパスフィルタに入力させた後、前記第2ローパスフィルタに入力させることを特徴とする請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の通信システムに用いられる送信機であって、
第1ビットレート及び第1ビットレートよりも高い第2ビットレートの少なくとも2種類のビットレートで同一のデータを送信する送信手段を備えたことを特徴とする送信機。
【請求項6】
請求項1に記載の通信システムに用いられる受信機であって、
前記送信機の送信手段から送信されたデータを受信する受信手段を備えたことを特徴とする受信機。
【請求項7】
請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載の通信システムに用いられる受信機であって、
前記送信機の送信手段から送信されたデータを受信する受信手段と、
前記受信手段により受信されたデータを、前記送信手段から第1ビットレートで送信されたデータと、前記送信手段から第2ビットレートで送信されたデータとに分離するフィルタ手段を備えたことを特徴とする受信機。
【請求項8】
前記フィルタ手段は、第1ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第1ローパスフィルタ、及び第2ビットレートに対応する周波数以下のデータを通過させる第2ローパスフィルタを有して構成されることを特徴とする請求項7に記載の受信機。
【請求項9】
前記受信手段により受信されたデータを、前記第1ローパスフィルタに入力する場合と前記第2ローパスフィルタに入力する場合とのうち何れかに切り替える切替手段と、
前記第1ローパスフィルタ又は前記第2ローパスフィルタを通過したデータを取得するデータ取得手段とを有しており、
さらに、前記切替手段は、前記受信手段により受信されたデータを最初に前記第1ローパスフィルタに入力させた後、前記第2ローパスフィルタに入力させることを特徴とする請求項8に記載の受信機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−141473(P2008−141473A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325571(P2006−325571)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】