説明

運転支援表示装置

【課題】運転者にとって、現在車速が適正かどうかを余裕を持って確認でき、且つ、直感的に分かりやすい運転支援表示装置を提供する。
【解決手段】前方道路の形状、現在車速Vcurを逐次取得し、それらから理想走行軌跡32および予測走行軌跡33を逐次更新しつつ、車両走行中、常時、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とを表示器30に表示する。現在車速Vcurが前方のカーブを安全に走行するための理想的な速度である場合や、その理想的な速度をやや超えている程度であり、危険と判断するほどではない場合にも、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33を表示器30に表示することになる。そのため、運転者は、運転操作に余裕のあるときに表示を確認することができる。また、現在車速Vcurが適正かどうかを理想走行軌跡と予測走行軌跡とのずれから判断することができるので、直感的に分かりやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転を支援するための表示を行う運転支援表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運転を支援するための表示を行う装置として、車両が走行する道路の形状から適正速度を予測し、その予測した適正速度と車両の現在の走行速度とから速度異常を判定し、異常と判定したらその旨を表示する装置が知られている(たとえば特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、車両が走行する道路の形状と車両の過去の最大加速度とに基づいて最大曲率地点における適正旋回速度を計算する。また、上記最大曲率地点までの距離と、現在の前後加速度、現在の速度に基づいて、最大曲率地点における予測速度を計算する。そして、この適正旋回速度と予測速度との比較から、速度超過かどうかの判定を行う。そして、速度超過であると判定した場合には警報を出力する(段落0023−0035、0042)。
【0004】
特許文献2では、道路事象データベースに記憶されているカーブの推奨進入速度と、車速センサから入力される自車現在車速とを比較して超過速度を算出する。そして、速度が超過している場合には、超過速度に応じた長さの1本の直線を仮想標識の外縁から突き出すようにして表示する(段落0011−0013)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−116383号公報
【特許文献2】特開2005−122583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2では、速度が超過したとき、すなわち、危険と判定したときに初めて乗員に対する報知が行なわれるようになっている。つまり、危険と判定されなければ、乗員に対して何らの報知も行なわれない。
【0007】
しかし、危険と判定したときに急に運転者に対して報知を行っても、たとえば、他の操作に精一杯である場合など、その報知に対して運転者が即座に対応ができないことも考えられる。
【0008】
また、特許文献2のように、速度超過を示す表示が1本の直線のみであると、速度超過がどの程度かを直感的に認識することが困難であるという問題もあった。
【0009】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、運転者にとって、現在車速が適正かどうかを余裕を持って確認でき、且つ、直感的に分かりやすい運転支援表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
その目的を達成するための請求項1記載の発明では、現在車速にかかわらず、カーブの手前から、前方のカーブを走行する際の理想走行軌跡と、現在車速で前方のカーブを走行した場合の予測走行軌跡とを比較可能に表示し、且つ、予測走行軌跡を逐次更新してその表示を継続する。そのため、現在車速が前方のカーブを安全に走行するための理想的な速度である場合や、その理想的な速度をやや超えている程度であり、危険と判断するほどではない場合にも、理想走行軌跡と予測走行軌跡とを比較可能に表示することになる。従って、危険と判定したときに初めて表示を行う場合と比較して、運転者は、運転操作に余裕のあるときに表示を確認することができる。また、現在車速が適正かどうかを理想走行軌跡と予測走行軌跡とのずれから判断することができるので、直感的に分かりやすい。
【0011】
ここで、予測走行軌跡は、たとえば、請求項2、4、6に記載のようにして決定することができる。
【0012】
請求項2では、まず、道路形状に基づいて前方の道路を走行する際の目標車速を算出する。そして、その目標車速と現在車速との比に基づいて、理想走行軌跡を変形することで予測走行軌跡を決定する。
【0013】
この請求項2の態様においては、さらに、請求項3のように、目標車速を、ユーザに応じて設定可能な個人特性定数を備えた式を用いて算出することが好ましい。このようにすると、個人の好みを反映して目標車速を決定することができる。
【0014】
請求項4では、形状情報として道路のカーブ半径を取得する。また、車速に基づいてカーブ半径が定まる式に現在車速を代入することで推定カーブ半径を算出する。そして、実際の道路のカーブ半径と推定カーブ半径との比に基づいて、理想走行軌跡を変形することで予測走行軌跡を決定する。
【0015】
この請求項4の態様においては、さらに、請求項5のように、推定カーブ半径を算出するために用いる式が、ユーザに応じて設定可能な個人特性定数を備えていることが好ましい。このようにすると、個人の好みを反映して目標車速を決定することができる。
【0016】
請求項6では、理想走行軌跡は、道路形状取得手段が逐次取得した道路形状に基づいて、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから選択する。また、予測走行軌跡は、車速取得手段が逐次取得した現在車速に基づいて、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから選択する。このように、理想走行軌跡および予測走行軌跡を、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから選択するようにすれば、演算処理負荷を軽減することができる。
【0017】
請求項7では、現在車速と目標車速との比較に基づいて減速が必要か否かを逐次判断する減速要否判断手段をさらに備えている。また、表示制御手段は、理想走行軌跡および予測走行軌跡とともに、自車両が走行している道路の左右の端の形状を示す一対の道路形状線を報知情報表示手段に表示し、減速要否判断手段において減速が必要であると判断したことに基づいて、予測走行軌跡が道路形状線と交差するように表示する。予測走行軌跡が道路形状線と交差するように表示されると、その表示を見た運転者は、今の車速では、前方のカーブを曲がることができないことを容易に認識することができる。
【0018】
請求項8では、理想走行軌跡および予測走行軌跡を表示する表示領域として矩形表示領域を有しており、減速が必要であると判断した場合、理想走行軌跡は、矩形表示領域の左右の辺のうち道路が曲がっている方向の辺に進行方向端が位置するように表示する一方、予測走行軌跡の進行方向端は矩形表示領域の上辺に位置するように表示する。このように表示することによっても、表示を見た運転者は、現在車速では、前方のカーブを曲がることができないことを容易に認識することができる。
【0019】
請求項9では、カーブの手前を走行していると判断した場合、理想走行軌跡および予測走行軌跡を、それらの自車方向端が矩形表示領域の幅方向中央よりもカーブ方向とは反対側に位置するように表示する。このようにすれば、理想走行軌跡および予測走行軌跡の進行方向端における相違が大きくなるので、速度超過に対する注意喚起効果が大きくなる。
【0020】
請求項10では、理想走行軌跡と予測走行軌跡とを、線種および色のいずれか一方が互いに異なる態様で表示する。このようにすると、理想走行軌跡と予測走行軌跡とを容易に区別することができる。
【0021】
上記理想走行軌跡および予測走行軌跡は、請求項11のように、車両走行中、常時表示することが好ましい。このようにすれば、車両走行中、常時、理想走行軌跡および予測走行軌跡との比較から、現在車速が適正かどうかを確認することができる。
【0022】
また、請求項12のように、報知情報表示手段として、運転者の視線移動量が少ないヘッドアップディスプレイを用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】車両システム1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】目標減速プロファイルを説明する図である。
【図3】車両システム1において、運転支援表示に関する制御内容をフローチャートにして示す図である。
【図4】ステップS8が否定判断である場合にステップS10で表示する軌跡の表示例である。
【図5】ステップS9を実行した場合にステップS10で表示する軌跡の表示例である。
【図6】前方にしばらくカーブがない直線道路を走行している際の表示器30の軌跡表示領域31の表示例である。
【図7】軌跡の自車方向端をカーブとは反対側に位置させる態様であって、右カーブを検出した場合の表示例である。
【図8】軌跡表示領域31に、理想走行軌跡32、予測走行軌跡33に加えて、一対の道路形状線34を表示した表示例である。
【図9】カーブ半径の大きさが異なる3種類の軌跡形状パターンを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、車両システム1の全体構成を示すブロック図であり、この車両システム1は本発明の実施形態となる運転支援表示装置としての機能を備えている。
【0025】
図1に示すように、この車両システム1は、ナビゲーションシステム10と、知的速度適合システム(Intelligent Speed Adaptation、以下、ISAシステムという)20と、報知情報表示手段である表示器30とを備えている。
【0026】
ナビゲーションシステム10は、自車位置検出部11、車両情報取得部12、経路推定部13、カーブ検出部14などを備えている。自車位置検出部11は、たとえば、グローバルポジショニングシステム(GPS)のためのGPS受信機を備え、このGPS受信機が受信した衛星からの電波に基づいて車両の現在位置を示す絶対位置座標を逐次測定する。また、車両の絶対方位を検出するための地磁気センサ、車両の相対方位を検出するためのジャイロスコープ、車両の走行距離を検出する距離センサなど、車両の相対位置を検出するためのセンサ等を備え、これらのセンサ等の信号により上記絶対位置座標を補正して現在位置を決定してもよい。自車位置検出部11は、このようにして逐次決定した現在位置を経路推定部13およびカーブ検出部14へ出力する。
【0027】
車両情報取得部12は、自車両の現在車速、加速度、ドライバー操作信号(たとえば、ウィンカーの点灯状態を示す信号、アクセル開度、ブレーキのオンオフを示すブレーキ信号、ステアリング舵角を示す舵角信号)などの車両情報を逐次取得する。なお、この車両情報取得部12は、車速を取得することから、請求項の車速取得手段に相当する。
【0028】
経路推定部13は、自車位置検出部11から入力された自車両の現在位置、および、図示しない記憶装置に記憶されている地図情報を用いて、自車両の今後の経路を推定する。また、上述の車両情報も用いて今後の経路を推定してもよいし、また、案内経路が設定されている場合には、案内経路情報を用いて、自車両の今後の経路を推定してもよい。
【0029】
カーブ検出部14は、請求項の道路形状取得手段としても機能するものであり、自車位置から前方所定距離までの間の道路(以下、前方道路という)の形状情報として、その道路の曲率Cを取得し、この取得した曲率Cに基づいて前方道路にカーブ(曲率Cが所定値以上の道路)が存在するか否かを逐次検出する。なお、形状情報として曲率Cに代えて、その逆数である曲率半径Rを取得しても良い。
【0030】
このカーブ検出部14には、レーザセンサ等の自律センサからの信号や車載カメラの撮像画像を示す信号が入力される。カーブ検出部14は、たとえば、レーザセンサ等の自律センサからの信号や車載カメラからの信号を用いて道路区画線を検出し、その道路区画線の曲がり具合いから道路の曲率Cを算出する。また、経路推定部13が推定した推定経路を用いて道路の曲率Cを決定してもよい。なお、道路の曲率Cの算出に加えて、自律センサからの信号や車載カメラからの信号を用いて、勾配、路面μを決定してもよい。
【0031】
ナビゲーションシステム10とISAシステム20とは図示しない車内LAN等により接続されており信号の送受信が可能となっている。そして、ナビゲーションシステム10は、この車内LANを通じて、前方道路の曲率C、勾配、路面μなどの前方道路情報をISAシステム20に送る。
【0032】
次に、ISAシステム20について説明する。ISAシステム20は、目標車速演算部21、減速要否判断部22、軌跡演算部23、表示制御部24などを備えている。
【0033】
目標車速演算部21は、自車両が前方道路を走行する際に目標とすべき車速(目標車速)Vtgtを演算する。具体的には、ナビゲーションシステム10から送信された曲率Cを下記式1に代入することで目標車速Vtgtを演算する。なお、式1において、Kは車両定数、Jy、τ、αは適合定数である。具体的には、Kはスタビリティファクタ、Jyは目標横ジャーク、τはクロソイド(操舵)時間、αはその他の環境要因変数である。スタビリティファクタKは予め設定された一定値であり、目標横ジャークJyは個人毎に設定可能となっており、たとえば、スイッチ操作により、大、中、小の値が設定可能となっている。なお、この目標横ジャークJyが請求項の個人特性定数に想到する。クロソイド(操舵)時間は、ドライバーが直進の操舵状態から定常Rに向けてステアリングを操舵する時間であり、予め設定された一定値でもよいし、ナビゲーションシステム10からクロソイド長さや大きさが取得できる場合には、その取得したクロソイドの長さは大きさに応じて時間を切り替えるようにしてもよい。その他の環境要因変数αは、道路勾配、路面μなどの道路環境により変化するパラメータである。
【数1】

【0034】
減速要否判断部22は、現在車速Vcurと目標車速Vtgtとの比較に基づいて減速が必要か否かを逐次判断する。具体的には、(1)まず、上記目標車速Vtgtを用いて、減速度aの時間変化を示す目標減速プロファイルを生成する。(2)次いで、その目標減速プロファイルを2回積分することで目標減速距離Distdecを算出する。(3)そして、この目標減速距離Distdecからさらに減速余裕距離Disttgtを算出する。(4)そして、この減速余裕距離Disttgtと次カーブまでの現在の距離とに基づいて減速が必要か否かの判断を行う。以下、上記(1)〜(4)を詳しく説明する。
【0035】
(1)目標減速プロファイルの生成においては、まず、下記式2から目標最大減速度adecを算出する。なお、式2において、Vcurは現在車速、Vtgtは前述の目標車速である。また、Kdは減速度定数であり、前述の横ジャークと同様、ユーザが設定可能なパラメータである。ただし、過去の走行における最大減速度等に基づいて、自動的に設定するようにしてもよい。
【数2】

【0036】
目標最大減速度adecを算出したら、次に、事前に決定されている目標ジャークの最小値MinJdecおよび目標ジャークの最大値MaxJdecと、上記目標最大減速度adecとを用いて図2に例示する目標減速プロファイルにおける時間t1、t2を算出する。最後に、下記式3から図2に示す時間t3を算出する。
【数3】

【0037】
(2)目標減速距離Distdecは、前述のように、(1)で生成した目標減速プロファイルを2回積分することで算出する。
【0038】
(3)減速余裕距離Disttgtは、下記式4から算出する。式4において、Distdecは前述の目標減速距離、Vcurは現在車速である。また、Tdelayは車両応答遅れ時間、TDrはドライバー操作遅れ時間である。従って、減速余裕距離Disttgtは、車両応答遅れ、ドライバー操作遅れを考慮した減速に必要な距離を意味する。なお、車両応答遅れ時間Tdelayおよびドライバー操作遅れ時間TDrは予め設定された定数である。
【数4】

【0039】
(4)減速が必要か否かの判断は、下記式5、6に示す2つの条件がともに成立したときを減速が必要な時期と判断する。なお、式6において、Disttgtは前述の減速余裕距離、DistAlertは警報マージン距離、DnextCurveは次のカーブまでの現在の距離であり、現在位置とナビゲーションシステム10が有する道路地図データとから算出する。なお、警報マージン距離DistAlertを0mとすると介入制御が入るタイミングとなる。
【数5】

【数6】

【0040】
この式5、6を満たし、減速が必要と判断した場合には、次に説明する軌跡決定部23では、減速が必要であることが分かりやすい軌跡形状を決定する。次にこの軌跡決定部23を説明する。
【0041】
軌跡決定部23は、請求項の理想走行軌跡決定手段および予測走行軌跡決定手段に相当するものであり、理想走行軌跡および予測走行軌跡を逐次決定する。本実施形態においては、まず、理想走行軌跡を演算する。そして、予測走行軌跡は、現在車速Vcurと前述の目標車速Vtgtとの速度比に基づいて、先に演算した理想走行軌跡を変形することで決定する。
【0042】
そこで、まず、理想走行軌跡について説明する。理想走行軌跡は、ナビゲーションシステム10から送信される道路の曲率Cを用いて決定する。なお、ナビゲーションシステム10から送信される曲率Cは、道路地図情報に含まれている曲率であってもよいし、過去に自車が実際に走行した際の走行軌跡に基づく曲率でもよい。
【0043】
予測走行軌跡は、前述のように、現在車速Vcurと前述の目標車速Vtgtとの速度比に基づいて理想走行軌跡を変形することで求める。より詳しくは、現在車速Vcurと前述の目標車速Vtgtとの速度比から、表示器30に表示する理想走行軌跡と予測走行軌跡の互いの進行方向端の距離差Δdを決定し、両軌跡の進行方向端間の長さがこの距離差Δdとなるように、理想走行軌跡を上下方向に変形することで、予測走行軌跡を決定する。
【0044】
上記距離差Δdは下記式7から算出する。なお、式7において、dは表示設定距離であり、一定値でもよいし、個人によって変更できるようになっていてもよい。
【数7】

【0045】
また、上記距離差Δdは、次の式8から推定カーブ半径Rcalを算出し、その推定カーブ半径と実カーブ半径Rrealとを用い、式9から算出してもよい。なお、式8は前述の式1を変形することで導出できる。また、実カーブ半径Rrealは、理想走行軌跡と同様、ナビゲーションシステム10から送信される情報を用いる。
【数8】

【数9】

【0046】
表示制御部24は、表示器30の軌跡表示領域に、車両走行中、常時、軌跡決定部23が決定した理想走行軌跡および予測走行軌跡を表示する。ただし、予測走行軌跡については、前述の減速要否判断部22において減速が必要であると判断した場合には、減速が必要であることが分かりやすい態様で表示を行う(具体的な表示態様は後述する)。
【0047】
表示器30は、本実施形態では、フロントのウィンドシールドに情報を表示するヘッドアップディスプレイであり、前述の表示制御部24に制御されることにより、軌跡表示領域に理想走行軌跡および予測走行軌跡を表示する。
【0048】
図3は、上記車両システム1において、運転支援表示に関する制御内容をフローチャートにして示す図である。次に、この図3を用いて運転支援表示に関する制御内容を説明する。なお、この図3に示す処理は、車両走行中、一定周期で繰り返し実行する。
【0049】
図3に示すように、まず、ステップS1では、自車位置検出部11が自車両の現在位置を検出する。続くステップS2では、車両情報取得部12が前述の種々の車両情報を取得する。ステップS3では、経路推定部13が、ステップS1で検出した現在位置やステップS2で取得した車両情報をもとに、自車両の今後の経路を推定する。
【0050】
ステップS4では、カーブ検出部14が、ステップS1で検出した現在位置や、ステップS3で推定した推定経路から、自車位置から前方所定距離までの間の道路にカーブが存在するか否かを検出する。
【0051】
ステップS5では、目標車速演算部21が前述の式1を用いて目標車速Vtgtを演算する。ステップS6では、軌跡決定部23が、ナビゲーションシステム10から送信される曲率Cを用いて理想走行軌跡を決定する。ステップS7では、軌跡決定部23が、式7あるいは式9から距離差Δdを算出し、その距離差Δdに基づいてステップS6で決定した理想走行軌跡を上下方向に変形することで、予測走行軌跡を算出する。
【0052】
そして、ステップS8では、減速要否判断部22が前述の式5、式6に示す条件が成立するか否かを判断することで、減速が必要か否かの判断を行う。減速が必要であると判断した場合にはステップS9へ進み、ステップS7で算出した予測走行軌跡を変形した後に、ステップS10へ進む。一方、減速が必要ではないと判断した場合には、直接、ステップS10へ進む。
【0053】
ステップS8が否定判断である場合に実行するステップS10では、表示制御部24が、ステップS6、S7で決定した理想走行軌跡と予測走行軌跡とをそのまま表示器30の軌跡表示領域に表示する。
【0054】
図4は、ステップS8が否定判断である場合にステップS10で表示する軌跡の表示例である。図4の例では、軌跡表示領域31は、縦方向に長い矩形形状であり、その軌跡表示領域31に、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とが同時に表示されている。この図4に示す例では、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33は、自車方向端(図下側の端)が重なっている一方、進行方向端(図上側端)は、前述の距離差Δdだけ離れている。また、自車方向端は、軌跡表示領域の幅方向中央に位置している。
【0055】
この図4に例示されるように、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とが同時に表示器30に表示されると、運転者は、表示器30に表示されている理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とを比較することで、前方のカーブに入る前に、カーブを安全に走行するための理想的な車速である目標車速Vtgtと現在車速Vcurとの乖離の程度を、軌跡の形状の相違から直感的に判断することができる。なお、図4において、2本の一点差線は、それぞれ、矩形表示領域31の幅方向中央線、上下方向中央線であるが、説明の都合から示した線であり、実際には表示していない。
【0056】
ステップS8が肯定判断となった場合にはステップS9を実行する。ステップS9では、ステップS7で算出した予測走行軌跡33を、速度超過が分かりやすい態様に修正する。具体的には、図5に示すように、予測走行軌跡33の進行方向端が、矩形の軌跡表示領域31の上辺に位置する形状に変形とする。この変形のための演算は、具体的には次のようにして行う。まず、変形後の予測走行軌跡33の進行方向端の位置を決定し、その決定した変形後の予測走行軌跡33の進行方向端の位置と、変形前の予測走行軌跡33の進行方向端の位置とに基づいて、縦方向および横方向の変形率を決定する。そして、その決定した変形率によりステップS7で算出した予測走行軌跡を変形する。なお、変形後の予測走行軌跡33の進行方向端の位置は、予め設定されていてもよいし、現在車速Vcurと目標車速Vtgtとの差が大きいほど、幅方向中央側になるようにしてもよい。
【0057】
また、ステップS8で減速が必要と判断する状況では、通常、前方道路の曲率Cは比較的大きいので、ステップS6で決定する理想走行軌跡32は、形状を修正せずとも、その進行方向端が軌跡表示領域31の左右の辺に位置することになると思われる。しかし、形状を修正しない状態では、理想走行軌跡32の進行方向端が軌跡表示領域31の上辺に位置している場合には、このステップS9で、理想走行軌跡32の進行方向端が軌跡表示領域31の左右の辺のうちの道路が曲がっている方向の辺に位置するように理想走行軌跡32を修正する。理想走行軌跡32の形状の修正方法は、たとえば、前述の予測走行軌跡33と同様に、修正後の理想走行軌跡32の進行方向端を予め設定された位置とし、この位置となるように、ステップS6で決定した理想走行軌跡32を縦横に変形する。
【0058】
図5は、ステップS9を実行した後にステップS10で表示される軌跡の表示例である。図5に示す例では、理想走行軌跡32の進行方向端は軌跡表示領域31の右辺に位置している一方、予測走行軌跡の進行方向端は軌跡表示領域31の上辺に位置している。このように表示されることで、現在車速Vcurのままでは前方のカーブを曲がれないことが分かり易くなる。そして、この図5に例示される表示を見ることにより速度超過を認識した運転者が、減速操作を行うと、予測走行軌跡33は理想走行軌跡32に徐々に近づくことになる。従って、理想走行軌跡32に予測走行軌跡33が重なるように速度調整を行うことで、カーブを安全に走行できる。
【0059】
なお、本実施形態では、表示器30の軌跡表示領域31に、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とを常時表示する。そのため、直線道路を走行している際にも、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とを表示することになる。図6は、前方にしばらくカーブがない直線道路を走行している際の表示器30の軌跡表示領域31の表示例である。図6に示すように、前方にしばらくカーブがない直線道路を走行している場合には、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とは重なって表示されることになる。
【0060】
以上、説明した本実施形態によれば、前方道路の形状、現在車速Vcurを逐次取得し、それら逐次取得した前方道路の形状、現在車速Vcurから、理想走行軌跡32および予測走行軌跡33を逐次更新しつつ、車両走行中、常時、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33とを表示器30に表示する。従って、現在車速Vcurが前方のカーブを安全に走行するための理想的な速度である場合や、その理想的な速度をやや超えている程度であり、危険と判断するほどではない場合にも、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33を表示器30に表示している。そのため、危険と判定したときに初めて表示を行う場合と比較して、運転者は、運転操作に余裕のあるときに表示を確認することができる。また、現在車速Vcurが適正かどうかを理想走行軌跡と予測走行軌跡とのずれから判断することができるので、直感的に分かりやすい。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0062】
(変形例1)
たとえば、前述の実施形態では、理想走行軌跡32および予測走行軌跡33の自車方向端は、軌跡表示領域31の幅方向中央に固定されていたが、次のようにしてもよい。カーブ検出部14がカーブの存在を検出した場合、すなわち、カーブの手前を走行していると判断できる場合、理想走行軌跡32および予測走行軌跡33の自車方向端が、軌跡表示領域31の幅方向中央よりもカーブ方向とは反対側に位置するように、それら理想走行軌跡32および予測走行軌跡33の表示位置を変更してもよい。
【0063】
図7は、右カーブを検出した場合の表示例であり、図7に示すように、右カーブを検出した場合には、理想走行軌跡32および予測走行軌跡33の自車方向端は、カーブ方向(右方向)とは反対側(左方向)に位置している。このようにすると、曲率を同じとしたまま両軌跡32、33の自車方向端を軌跡表示領域31の幅方向中央に表示する場合に比較して、進行方向端における両軌跡32、33の距離差が大きくなる。そのため、速度超過に対する注意喚起効果が大きくなる。
【0064】
(変形例2)
また、前述の実施形態では、軌跡表示領域31には、理想走行軌跡32と予測走行軌跡33のみを表示していたが、さらに、図8に示すように、自車両が走行している道路の左右の端の形状を示す一対の道路形状線34を表示してもよい。なお、この道路形状線34が示す道路の左右の端とは、自車が走行している1本の走行車線、あるいは、複数の車線がある場合においては、自車が走行している側の車線全体の左右の端を示すものであることが好ましいが、それらの代用として、対向車線を含めた道路の形状を示すものであってもよい。
【0065】
この道路形状線34の形状は、たとえば、車載カメラやレーザセンサ等を備えており、これらから道路区画線を検出できる場合には、その検出結果から決定する。また、理想走行軌跡を変形することで道路形状線34を決定してもよい。
【0066】
そして、この道路形状線34を表示する態様においては、減速要否判断部22にて減速が必要ないと判断する場合には、道路形状線34と交差しないように予測走行軌跡33を表示する。一方、減速が必要であると判断する場合には、図8に示すように、道路形状線34と交差するように予測走行軌跡33を表示する。予測走行軌跡33が道路形状線34と交差するように表示されると、その表示を見た運転者は、今の車速では、前方のカーブを曲がることができないことを容易に認識することができる。
【0067】
(変形例3)
また、理想走行軌跡および予測走行軌跡を、予め記憶しておいた複数の軌跡形状パターンから選択してもよい。たとえば、図9に示すように、カーブ半径の大きさが異なる3種類の軌跡形状パターンを予め記憶しておく。そして、理想走行軌跡は、カーブ検出部14が取得した道路形状に応じて、上記3種類の軌跡形状パターンから1つのパターンを選択する。一方、予測走行軌跡は、たとえば、車両情報取得部12が取得した現在車速Vcurから、前述の式8を用いて推定カーブ半径Rcalを算出し、この算出した推定カーブ半径Rcalに応じて、上記3種類の軌跡形状パターンから1つのパターンを選択する。このように、理想走行軌跡および予測走行軌跡を、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから選択するようにすれば、演算処理負荷を軽減することができる。
【0068】
(変形例4)
また、前述の実施形態では、常時、理想走行軌跡32および予測走行軌跡33を表示していたが、必ずしも常時表示する必要はなく、カーブの手前において、減速が必要と判断する地点よりもさらに手前の表示開始距離Dstartから表示を行ってもよい。
【0069】
この表示開始距離Dstartは、前述の式6の左辺に、さらに、予め設定されたマージン距離Dmを加えた距離(=Disttgt+ DistAlert+Dm)である。この表示開始距離Dstartから表示を開始しても、運転者は、運転操作に余裕のあるときに表示を確認することができる。なお、この態様においては、表示終了時期は、例えば、カーブを曲がり終え、直線道路を走行することとなった時点とする。
【0070】
(その他の例)
前述の実施形態では、減速が必要と判断した場合には、ステップS9を実行して、ステップS7で算出した予想走行軌跡32を変形していたが、必ずしも、ステップS9を実行する必要はない。
【0071】
また、予測走行軌跡33は点線である必要はなく、実線でもよい。また、予測走行軌跡33と理想走行軌跡32の色を互いに異なる色としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:車両システム、 10:ナビゲーションシステム、 11:自車位置検出部、 12:車両情報取得部、 13:経路推定部、 14:カーブ検出部(道路形状取得手段)、 20:ISAシステム、 21:目標車速演算部(目標車速算出手段)、 22:減速要否判断部(減速要否判断手段)、 23:軌跡決定部、 24:表示制御部(表示制御手段)、 30:表示器(報知情報表示手段)、 31:軌跡表示領域、 32:理想走行軌跡、 33:予測走行軌跡、 34:道路形状線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方の道路の形状情報を逐次取得する道路形状取得手段と、
前記自車両の現在車速を逐次取得する車速取得手段と、
運転者に対して報知情報を表示する報知情報表示手段と、
前記道路形状取得手段が逐次取得した形状情報に基づいて、その形状情報を取得した道路を走行する際の理想的な走行軌跡である理想走行軌跡を決定する理想走行軌跡決定手段と、
前記道路形状取得手段が取得した形状情報と、前記車速取得手段が逐次取得した現在車速とに基づいて、前方の道路を自車両が走行する際の走行軌跡を予測した予測走行軌跡を逐次決定する予測走行軌跡決定手段と、
前記道路形状取得手段が道路形状を取得した道路にカーブが存在する場合に、前記車速取得手段が取得した現在車速にかかわらず、そのカーブの手前から、前記予測走行軌跡を逐次更新しつつ、その予測走行軌跡と前記理想走行軌跡とを比較可能に前記報知情報表示手段に表示させる表示制御手段と
を含むことを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記道路形状取得手段が取得した道路形状に基づいて、前方の道路を走行する際の目標車速を算出する目標車速算出手段を備え、
前記予測走行軌跡決定手段は、前記目標車速算出手段が算出した目標車速と前記車速取得手段が取得した現在車速との比に基づいて、前記理想走行軌跡を変形することで前記予測走行軌跡を決定することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記目標車速算出手段は、ユーザに応じて設定可能な個人特性定数を備えた式を用いて前記道路形状から前記目標車速を算出することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記道路形状取得手段は、前記形状情報として道路のカーブ半径を取得するものであり、
前記予測走行軌跡決定手段は、車速に基づいてカーブ半径が定まる式に前記車速取得手段が取得した現在車速を代入すること算出できる推定カーブ半径と、前記道路形状取得手段が取得した実際のカーブ半径との比に基づいて、前記理想走行軌跡を変形することで、予測走行軌跡を決定することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記予測走行軌跡決定手段において前記推定カーブ半径を算出するために用いる式が、ユーザに応じて設定可能な個人特性定数を備えていることを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記理想走行軌跡決定手段は、前記道路形状取得手段が逐次取得した道路形状に基づいて、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから前記理想走行軌跡を選択するものであり、
前記予測走行軌跡決定手段は、前記車速取得手段が逐次取得した現在車速に基づいて、予め記憶されている複数の軌跡形状パターンから前記予測走行軌跡を選択するものであることを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、
現在車速と目標車速との比較に基づいて減速が必要か否かを逐次判断する減速要否判断手段をさらに備え、
前記表示制御手段は、前記理想走行軌跡および前記予測走行軌跡とともに、前記自車両が走行している道路の左右の端の形状を示す一対の道路形状線を前記報知情報表示手段に表示し、前記減速要否判断手段において減速が必要であると判断したことに基づいて、前記予測走行軌跡が前記道路形状線と交差するように表示することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項において、
現在車速と目標車速との比較に基づいて減速が必要か否かを逐次判断する減速要否判断手段をさらに備え、
前記報知情報表示手段は、前記理想走行軌跡および前記予測走行軌跡を表示する表示領域として矩形表示領域を有し、
前記表示制御手段は、前記減速要否判断手段において減速が必要であると判断した場合、前記矩形表示領域の左右の辺のうち道路が曲がっている方向の辺に前記理想走行軌跡の進行方向端が位置するようにその理想走行軌跡を表示する一方、前記矩形表示領域の上辺に前記予測走行軌跡の進行方向端が位置するようにその予測走行軌跡を表示することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項において、
前記報知情報表示手段は、前記理想走行軌跡および前記予測走行軌跡を表示する表示領域として矩形表示領域を有し、
前記表示制御手段は、前記道路形状取得手段が取得した前方の道路形状に基づいて、カーブの手前を走行していると判断した場合、前記理想走行軌跡および前記予測走行軌跡を、それらの自車方向端が前記矩形表示領域の幅方向中央よりもカーブ方向とは反対側に位置するように表示することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項において、
前記表示制御手段は、前記理想走行軌跡と前記予測走行軌跡とを、線種および色のいずれか一方が異なる態様で表示することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項において、
前記表示制御手段は、前記理想走行軌跡及び前記予測走行軌跡を、車両走行中、前記報知情報表示手段に常時表示することを特徴とする運転支援表示装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項において、
前記報知情報表示手段としてヘッドアップディスプレイを用いることを特徴とする運転支援表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−70311(P2011−70311A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219473(P2009−219473)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】