説明

過電流保護回路

【課題】スイッチング素子SWを流れる電流をセンス電圧によって検出することで過電流を検出するに際し、スイッチング素子SWのオン操作直後には過電流を適切に検出することが困難なこと。
【解決手段】センス電圧は、RCフィルタ回路42を介して、過電流用比較器43及び貫通電流用比較器44のそれぞれの非反転入力端子に印加される。これら過電流用比較器43及び貫通電流用比較器44の反転入力端子には、閾値電圧Vref1,Vref2が印加されている。センス電圧が閾値電圧Vref1以上となる継続時間が規定時間Delay1以上となるときや、閾値電圧Vref2以上となる継続時間が規定時間Delay2以上となるときには、スイッチング素子SWを遮断する。規定時間Delay2及び閾値電圧Vref2は、貫通電流用に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動形のスイッチング素子を流れる電流を制限する過電流保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の保護回路としては、例えば下記特許文献1に見られるように、スイッチング素子としての絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)のセンス端子から出力される微少電流(センス電流)がIGBTのコレクタ電流と相関を有することを利用して、IGBTに流れる電流を検出する保護回路も提案されている。同保護回路では、センス端子及びエミッタ間に接続される抵抗体における電圧降下量に基づき、IGBTを流れる電流を間接的に検出する。そして、電圧降下量を閾値電圧と比較することで、IGBTを流れる電流が閾値以上であるか否かを判断する。
【0003】
更に、上記保護回路では、IGBTを流れる電流が閾値以上となる継続期間が規定時間となることでIGBTを遮断するに際し、複数の閾値を設定し、閾値が大きいほど規定時間を短く設定している。これは、IGBTに流れる電流が大きいほど同電流が流れる許容時間が短くなることに鑑みてなされる設定である。この設定により、IGBTの遮断を適切なタイミングで行なうことができる。
【特許文献1】特開平5−292656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばインバータ等にあっては、スイッチング素子が直列に接続された構成を有する。この場合、一対のスイッチング素子が同時にオン状態となるときには、これらを貫通する電流が流れることに起因して、スイッチング素子を流れる電流が特に大きくなる傾向にある。また、この際には、単一のスイッチング素子がオン状態であるときと比較して、スイッチング素子を流れる電流の増加速度が大きくなる傾向にある。このため、単一のスイッチング素子に基づき許容時間や閾値電圧を設定したのでは貫通電流が流れる際に適切に対処することができない。
【0005】
また、上記センス電流とコレクタ電流との関係は一義的な関係(略比例関係)となるとはいうものの、IGBTがオン操作された直後における関係は、ゲート電圧の安定状態における関係とは相違することが発明者らによって見出されている。このため、ゲート電圧の安定状態における上記関係に基づき短い規定時間に対応する閾値電圧を設定したのでは、IGBTがオン操作された直後において、同閾値電圧は適切なものとならないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電圧駆動形のスイッチング素子を流れる電流をスイッチング素子と接続される抵抗体の電圧降下量に基づき検出するものにあって、スイッチング素子に流れる電流をより適切に制限することのできる過電流保護回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量が第1の閾値電圧以上となる継続時間が第1の規定時間以上となるとき、前記スイッチング素子に過度の電流が流れると判断する過電流判断手段と、前記電圧降下量が第2の閾値電圧以上となる継続時間が第2の規定時間以上となるとき、前記スイッチング素子及びこれに隣接するスイッチング素子を貫通する電流が流れると判断する貫通電流判断手段と、前記貫通する電流又は前記過度の電流が流れると判断されるとき、前記スイッチング素子を遮断する遮断手段とを備え、前記第2の規定時間が前記第1の規定時間よりも短く設定されてなることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、電圧降下量が第2の閾値電圧以上となる継続時間が第2の規定時間以上となることで、貫通電流が流れたと判断される。この第2の規定時間を第1の規定時間よりも短くすることで、貫通電流に適切に対処することができる。そして、貫通電流が流れたと判断されるときにスイッチング素子を遮断することで、単にスイッチング素子の電流を制限する場合と比較してスイッチング素子を流れる電流量を低減することができ、ひいてはスイッチング素子の発熱量を低減することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第2の閾値電圧は、前記スイッチング素子の導通制御端子の電圧の安定時に対する前記スイッチング素子のオン操作直後の前記電圧降下量の変化分を補償しつつ設定されてなることを特徴とする。
【0011】
スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流と電圧降下量との関係は、スイッチング素子のオン操作直後におけるものと導通制御端子の電圧の安定時におけるものとで相違することがある。このため、導通制御端子の電圧の安定時におけるスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流とセンス端子から出力される電流との関係に基づき、貫通電流用の閾値電流に応じた第2の閾値電圧を設定したのでは、第2の閾値電圧となったと判断されるときの実際の電流が貫通電流用の閾値電流と一致しないおそれがある。この点、上記発明は、導通制御端子の電圧の安定時に対するオン操作直後の電圧降下量の変化分を補償しつつ閾値電圧を設定することで、こうした問題を回避することができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量と閾値電圧との比較に基づき、前記スイッチング素子を閾値以上の電流が流れるか否かを判断する判断手段を備え、前記閾値電圧は、前記スイッチング素子の導通制御端子の電圧の安定時に対する前記スイッチング素子のオン操作直後の前記電圧降下量の変化分を補償しつつ設定されてなることを特徴とする。
【0013】
スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流と電圧降下量との関係は、スイッチング素子のオン操作直後におけるものと導通制御端子の電圧の安定時におけるものとで相違することがある。このため、導通制御端子の電圧の安定時におけるスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流とセンス端子から出力される電流との関係に基づき、電流の閾値に応じた閾値電圧を設定したのでは、閾値電圧となったと判断されるときの実際の電流が閾値電流と一致しないおそれがある。この点、上記発明は、導通制御端子の電圧の安定時に対するオン操作直後の電圧降下量の変化分を補償しつつ閾値電圧を設定することで、こうした問題を回避することができる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記スイッチング素子は、直列接続された複数のスイッチング素子のうちの1つであり、前記設定のなされた閾値電圧が、前記スイッチング素子を流れる電流についての互いに異なる値を有する複数の閾値のうちの最大値と対応する閾値電圧であり、前記判断手段は、前記スイッチング素子に前記複数の閾値のいずれか以上の電流が当該閾値に応じた規定時間以上流れるか否かを判断するものであり、前記規定時間は、前記閾値が大きいほど短く設定されてなることを特徴とする。
【0015】
スイッチング素子が直列接続される場合には、隣接する2つのスイッチング素子が同時にオンするときにこれらスイッチング素子を貫通電流が流れる。この貫通電流は、隣接するスイッチング素子が同時にオンしないときに流れる電流よりも大きくなる傾向にある。しかも、貫通電流が流れるときには、単一のスイッチング素子がオン状態であるときよりも電流の増加速度が大きい。このため、貫通電流が流れるときにはスイッチング素子を流れる電流の制限を迅速に行なわないと、スイッチング素子に過度の電流が流れるおそれがある。
【0016】
この点、上記発明では、閾値が大きいほど規定時間を短く設定することで、貫通電流を判断する閾値、すなわち大きい閾値に対しては短い規定時間を設定することができ、ひいては貫通電流が流れた際、これを適切に制限することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、前記閾値が互いに異なる値を有する複数からなり、前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量と前記各閾値に応じた閾値電圧との比較に基づき、前記スイッチング素子に前記複数の閾値のいずれか以上の電流が当該閾値に応じた規定時間以上流れるか否かを判断する判断手段を備え、前記各閾値電圧は、前記スイッチング素子の許容電流に応じた値にマージンを付与することで設定され、前記閾値が大きいほど、前記マージンが大きく設定されてなることを特徴とする。
【0018】
スイッチング素子が直列接続される場合には、隣接する2つのスイッチング素子が同時にオンするときにこれらスイッチング素子を貫通電流が流れる。この貫通電流は、隣接するスイッチング素子が同時にオンしないときに流れる電流よりも大きくなる傾向にある。しかも、貫通電流が流れるときには、単一のスイッチング素子がオン状態であるときよりも電流の増加速度が大きい。このため、貫通電流が流れるときにはスイッチング素子を流れる電流の制限を迅速に行なわないと、スイッチング素子に過度の電流が流れるおそれがある。したがって、スイッチング素子を貫通電流を流れるか否かは、大きい閾値及び短い規定時間によって判断することが望ましい。
【0019】
一方、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流と電圧降下量との関係は、スイッチング素子のオン操作直後におけるものと導通制御端子の電圧の安定時におけるものとで相違することがある。このため、導通制御端子の電圧の安定時におけるスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流とセンス端子から出力される電流との関係に基づき、電流の閾値に応じた閾値電圧を設定したのでは、スイッチング素子のオン操作直後に閾値電圧となったと判断されるときの実際の電流が閾値電流よりも小さくなるおそれがある。この点、上記発明は、閾値電圧を定めるに際してのマージンを閾値が大きいほど大きくすることで、規定時間が短いほどマージンを大きく設定する。このため、スイッチング素子のオン操作直後にあって問題となる短い規定時間に対応した大きい閾値を適切に設定することができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5記載の発明において、前記複数の閾値が、2つの閾値であることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、2つの閾値を設けることで、当該スイッチング素子がオン状態であるが隣接するものはオフ状態である時において過度の電流が流れるときと、隣接するスイッチング素子を貫通電流が流れるときとの双方に適切に対処することができる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項3〜6のいずれかに記載の発明において、前記スイッチング素子を流れる電流の制限は、前記スイッチング素子を遮断することで行なわれることを特徴とする。
【0023】
上記構成では、スイッチング素子を流れる電流が閾値以上となるとき、スイッチング素子を遮断することで、スイッチング素子に過度の電流が流れる状況において、その消費電力を極力低減することができる。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項2〜7のいずれかに記載の発明において、前記抵抗体の電圧降下量をフィルタ処理するフィルタ手段を更に備え、前記判断手段は、フィルタ手段の出力を前記電圧降下量として取り込むことを特徴とする。
【0025】
スイッチング素子のオン操作直後には、電圧降下量にノイズが重畳しやすいため、正確な電流を検出することが困難となる。この点、上記発明では、フィルタ手段を備えることで、オン操作直後においてもスイッチング素子を流れる電流を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明にかかる過電流保護回路をハイブリッド車の高圧システムに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。
【0028】
図示されるように、モータジェネレータ10の3つの相(U相、V相、W相)には、インバータ12が接続されている。このインバータ12は、3相インバータであり、高圧バッテリ14の電圧をモータジェネレータ10の3つの相に適宜印加する。詳しくは、インバータ12は、3つの相のそれぞれと高圧バッテリ14の正極側又は負極側とを導通させるべく、スイッチング素子SW1、SW2(U相アーム)とスイッチング素子SW3,SW4(V相アーム)とスイッチング素子SW5,SW6(W相アーム)との並列接続体を備えて構成されている。そして、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2を直列接続する接続点がモータジェネレータ10のU相と接続されている。また、スイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW4を直列接続する接続点がモータジェネレータ10のV相と接続されている。更に、スイッチング素子SW5及びスイッチング素子SW6を直列接続する接続点がモータジェネレータ10のW相と接続されている。ちなみに、これらスイッチング素子SW1〜SW6は、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)によって構成されている。また、インバータ12は、各スイッチング素子SW1〜SW6に逆並列に接続されたフライホイールダイオードD1〜D6を備えている。
【0029】
上記スイッチング素子SW1〜SW6は、ドライバユニット16を介して、低圧バッテリ18を電力源とするマイクロコンピュータ(マイコン20)により操作される。図2に、ドライバユニット16のうち、スイッチング素子SW1〜SW6のいずれか1つ(以下、スイッチング素子SW)の駆動に関する構成部分を示す。
【0030】
図示されるように、ドライバユニット16は、スイッチング素子SWの駆動に関して、駆動回路30及び保護回路40を備えている。
【0031】
駆動回路30は、スイッチング素子SWの導通制御端子(ゲート)に電圧を印加するドライバ31を備えている。ドライバ31は、Pチャネルトランジスタ31p及びNチャネルトランジスタ31nの直列接続体である。ドライバ31の両端には、コンデンサ32が接続されている。そして、コンデンサ32の両電極間には、駆動電圧生成回路33が接続されている。駆動電圧生成回路33は、ドライバ31に印加する電圧を生成するものである。
【0032】
駆動電圧生成回路33は、トランス33aの1次側に、電源33b及びコンデンサ33cが並列接続されるとともに、これらトランス33aと電源33b及びコンデンサ33cとの間を導通及び遮断するスイッチング素子33dが設けられている。また、トランス33aの2次側の出力電圧は、ダイオード33eを介してコンデンサ32に印加される。
【0033】
上記ドライバ31は、上記マイコン20からのスイッチング指令信号に応じて駆動される。詳しくは、フォトカプラ34及び駆動IC35により電力変換されたスイッチング指令信号によって駆動される。駆動IC35では、スイッチング指令がオン指令であるときには、Pチャネルトランジスタ31pをオンして且つNチャネルトランジスタ31nをオフする。一方、スイッチング指令がオフ指令であるときには、Pチャネルトランジスタ31pをオフして且つNチャネルトランジスタ31nをオンする。これにより、スイッチング素子SWのオン指令時には、コンデンサ32の電圧がスイッチング素子SWのゲートGに印加され、スイッチング素子SWのオフ指令時には、スイッチング素子SWのゲートGはエミッタEと同電位とされる。
【0034】
スイッチング素子SWは、そのコレクタC及びエミッタE間を流れる電流(コレクタ電流)と相関を有する微少な電流(センス電流)を出力するセンス端子STを備えている。そして、センス端子STは、上記保護回路40と接続されている。
【0035】
保護回路40は、抵抗体(センス抵抗41)を備え、センス抵抗41を介してセンス端子STをエミッタEと接続する。センス抵抗41による電圧降下量(センス電圧)は、センス電流に応じて定まる。このため、図3に実線にて示すように、センス電圧は、スイッチング素子SWを流れる電流(コレクタ電流Ic)によって定まることとなる。
【0036】
センス抵抗41には、抵抗体42a及びコンデンサ42bからなるRCフィルタ回路42が並列接続されている。RCフィルタ回路42は、スイッチング素子SWのオン操作直後にセンス電圧に重畳するノイズを除去する手段である。センス抵抗41の両端の電圧、すなわちセンス電圧は、RCフィルタ回路42を介して過電流用比較器43及び貫通電流用比較器44のそれぞれの非反転入力端子に印加される。これら過電流用比較器43及び貫通電流用比較器44の反転入力端子には、互いに異なる2つの閾値電圧Vref1及びVref2がそれぞれ印加されている。これにより、過電流用比較器43の出力信号は、センス電圧が閾値電圧Vref1以上となることで論理「H」となり、貫通電流用比較器44の出力信号は、センス電圧が閾値電圧Vref2以上となることで論理「H」となる。
【0037】
過電流用比較器43の出力信号は、タイマラッチ45に取り込まれる。タイマラッチ45は、過電流用比較器43の出力信号が論理「H」となる継続時間が規定時間Delay1(例えば「4〜5μs」)となることで論理「H」の信号を出力する。一方、貫通電流用比較器44の出力信号は、タイマラッチ46に取り込まれる。タイマラッチ46は、貫通電流用比較器44の出力信号が論理「H」となる継続時間が規定時間Delay2(<Delay、例えば「0〜4μs」)となることで論理「H」の信号を出力する。
【0038】
OR回路47は、タイマラッチ45,46の出力信号の論理和信号を、遮断指令回路48に出力する。遮断指令回路48は、OR回路47の出力信号が論理「H」であるときに、駆動IC35及びソフト遮断回路49を操作する。ソフト遮断回路49は、抵抗体50を介してスイッチング素子SWのゲートG及びエミッタE間を導通及び遮断するNチャネルトランジスタを備えて構成されている。そして、遮断指令回路48では、OR回路47の出力信号が論理「H」であるとき、駆動回路ICを操作することでドライバ31のPチャネルトランジスタ31p及びNチャネルトランジスタ31nの双方を強制的にオフ状態とするとともに、ソフト遮断回路49のNチャネルトランジスタをオン状態とする。これにより、抵抗体50の抵抗値を調節することで、マイコン20からのスイッチングのオフ指令に伴うスイッチング素子SWのオン状態からオフ状態への切り替えよりも緩やかな切り替えを行なう。これは、通常時よりも大きな電流が流れる際にスイッチング素子を通常時と同一の速度でオフ状態に切り替えると、サージ電圧が過度に大きくなるおそれがあることに鑑みてなされる設定である。
【0039】
こうした構成によれば、センス電圧が閾値電圧Vref1となる継続時間が規定時間Delay1以上となるときや、センス電圧が閾値電圧Vref2となる継続時間が規定時間Delay2以上となるときに、スイッチング素子SWを強制的にオフ状態(遮断状態)とすることができる。
【0040】
上記貫通電流用比較器44は、インバータ12のアームの双方のスイッチング素子SWがオンとなることで、これら直列接続された一対のスイッチング素子を貫通電流が流れる際、これを検出して対処するためのものである。これに対し、上記過電流用比較器43は、インバータ12のアームの一方のスイッチング素子SWがオン状態であるときであって、このスイッチング素子SWに過度の電流が流れる際、これを検出して対処するためのものである。ここで、スイッチング素子SWに貫通電流が流れるときには、そうでないときと比較して、電流の増加速度が大きくなる。このため、貫通電流が流れる際には、これを迅速に検出し、スイッチング素子SWを遮断することが望まれる。
【0041】
このため、貫通電流用の規定時間Delay2は、過電流用の規定時間Delay1よりも短く設定する。また、貫通電流が流れる際には、スイッチング素子SWを流れる電流が通常時よりも特に大きくなることから、貫通電流を判断するための電流の閾値Ith2(閾値電圧Vref2と対応)は、一対のスイッチング素子SWの一方がオン状態のときの電流の閾値Ith1(閾値電圧Vref1と対応)と比較して大きく設定する。これら閾値Ith1,Ith2は、スイッチング素子SWの許容電流にマージンを付与することで設定される。
【0042】
図4に、直列接続された一対のスイッチング素子SWの双方がオン状態であるとき、及び一方がオン状態であるときのそれぞれにおける本実施形態にかかる過電流保護の態様を示す。
【0043】
図中、ケース1は、直列接続された一対のスイッチング素子SWの一方がオン状態であるときに保護回路40によってスイッチング素子SWがオフ状態とされる際の電流の挙動を示す。図示されるように、コレクタ電流が閾値Ith1以上となる継続時間が規定時間Delay1となることでスイッチング素子SWが遮断される。これにより、コレクタ電流が減少していく。
【0044】
一方、ケース2は、直列接続された一対のスイッチング素子SWを貫通電流が流れるときに保護回路40によってスイッチング素子SWがオフ状態とされる際の電流の挙動を示す。図示されるように、この場合、コレクタ電流が急激に増加していく。そして、コレクタ電流が閾値Ith2以上となる継続時間が規定時間Delay2となることでスイッチング素子SWが遮断される。これにより、コレクタ電流が減少していく。
【0045】
このように、貫通電流用の規定時間Delay2を短くすることで、貫通電流に適切に対処することが可能となる。
【0046】
ところで、貫通電流用の閾値電圧Vref2を、先の図3に実線にて示した関係においてコレクタ電流が閾値Ith2となるときのセンス電圧(Vs1)としたのでは、コレクタ電流Icが閾値Ith2となるときを適切に判断することができない。これは、図3に実線にて示した関係は、スイッチング素子SWのゲートの電圧が安定しているときの関係であり、センス抵抗41が大きい場合についてのスイッチング素子SWのオン操作直後における関係(図3、一点鎖線)とは相違するからである。すなわち、スイッチング素子SWのオン操作直後においては、コレクタ電流Icが閾値Ith2となるときのセンス電圧は電圧Vs2となる。
【0047】
図5に、スイッチング素子SWのオン操作に伴うセンス電圧の挙動を示す。詳しくは、図5(a)に、ゲート電圧(正確には、エミッタ及びゲート間の電圧Vge)の推移を示し、図5(b)に、センス電圧の推移を示し、図5(c)に、RCフィルタ回路42によるフィルタ処理後のセンス電圧の推移を示し、図5(d)に、コレクタ及びエミッタ間の電圧Vceとコレクタ電流Icとの推移を示す。また、図5(e)は、スイッチング素子SWのエミッタ及びゲート間の電圧Vgeとエミッタ及びコレクタ間の電圧Vceとコレクタ電流Icとの静特性を示す。
【0048】
図示されるように、時刻t1にスイッチング素子SWがオン操作されると、ゲート電圧が上昇する。そして、時刻t2にゲート電圧が閾値電圧Vthを超えることで、スイッチング素子SWがオン状態となり、コレクタ電流Icが増加していく。これにより、センス電圧も上昇する。ただし、ゲート電圧は、スイッチング素子SWのゲートに印加された電圧Vg_onとなる前に、一旦中間の電圧状態で停滞する(時刻t3〜t4)。この停滞期間が周知のミラー期間である。その後、ゲート電圧が上昇し、時刻t5に、ゲートに印加された電圧Vg_onとなる。
【0049】
ゲート電圧が閾値電圧Vthを超えることで、コレクタ電流Icは、ゲート電圧が電圧Vg_onとなるときの最終的な電流値まで増加する。ただし、図示されるように、スイッチング素子SWのオン操作直後においては、コレクタ電流Icが一定となっているにもかかわらず、センス電圧は変化している。これは以下の理由による。
【0050】
スイッチング素子SWが静特性に沿って動作する際には、エミッタ下流の抵抗値によって定まる負荷線と、図5(e)に示す静特性曲線との交点によって、スイッチング素子SWを流れるコレクタ電流Icとコレクタ及びエミッタ間の電圧Vceとが定まる。ただし、スイッチング素子SWのオン操作直後においては、コレクタ電流Icの増加に対してコレクタ及びエミッタ間の電圧Vceの低下が遅れ、スイッチング素子SWは飽和領域で動作することとなる。すなわち、ゲート電圧が閾値電圧Vthとなると、コレクタ電流Icが急激に増加し、例えば時刻t3頃に所定の値に落ち着く。この際、コレクタ及びエミッタ間の電圧Vceはほとんど減少しない。なお、ゲート電圧が定常となるときのスイッチング素子SWの動作点は、非飽和領域に設定されている。
【0051】
一方、センス端子については、スイッチング素子のゲート及びセンス端子間の電圧やスイッチング素子のコレクタ及びセンス端子間の電圧と、センス端子から出力されるセンス電流との間に、図5(e)に示したものと同様の静特性が成立する。ただし、本実施形態では、センス抵抗41として抵抗値の大きいものを用いているため、コレクタ及びセンス端子間の電圧とセンス電流とは、センス抵抗41による負荷線に略沿ったかたちで変化する。このため、コレクタ電流Icの増加に伴い、センス電流も増加し、コレクタ及びセンス端子間の電圧が減少する。
【0052】
しかし、上述したように、コレクタ電流Icが定常状態となる時刻t3まで、コレクタ及びエミッタ間の電圧Vceはほとんど変化しない。一方、時刻t3まで、ゲート電圧は増加し、エミッタの電位に対してセンス端子の電位が上昇していくこととなる。このときのセンス電圧は、コレクタ電流と先の図3に実線にて示したゲート電圧安定時の関係から定まるセンス電圧よりも高くなる。これがセンス電圧の一時的な盛り上がりのメカニズムである。
【0053】
このようにセンス電圧が一時的に盛り上がるため、先の図3に実線にて示したゲート電圧安定時の関係と、貫通電流用の閾値Ith2とによっては、閾値電圧Vref2を定めることができない。もっとも、この盛り上がりは、センス抵抗41の抵抗値を小さくすることで抑制することはできるが、そうした場合には、センス電圧が低下する。このため、ノイズに対する耐性が低下したり、過電流用比較器43や貫通電流用比較器44にセンス電圧を入力する前に増幅する必要が生じたりする等、不都合が生じる懸念がある。そこで本実施形態では、センス抵抗41の抵抗値を高く(例えば数kΩ)設定する一方、センス電圧の盛り上がりによって貫通電流が流れたと誤判断されることがないように、閾値電圧Vref2を、先の図2に示した関係と貫通電流用の閾値Ith2とによって定まる値よりも大きい値に設定する(図5(c))。これにより、貫通電流が流れたか否かを適切に判断することができる。
【0054】
なお、貫通電流を適切に判断するためには、貫通電流の判断を、ゲートの電圧が安定するまでに行うことが望ましい。より望ましくは、貫通電流の判断を、ミラー期間の終了までに行うことが望ましい。こうした観点から、規定時間Delay2を設定する。ここでは例えば、規定時間Delay2を、ミラー期間以下の長さとすればよい。
【0055】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0056】
(1)センス電圧が閾値電圧Vref2以上となる継続時間が規定時間Delay2以上となるとき、一対のスイッチング素子SWを貫通する電流が流れると判断し、センス電圧が閾値電圧Vref1以上となる継続時間が規定時間Delay1以上となるとき、アームの単一のスイッチング素子SWがオン状態であるときにおいて過度の電流が流れると判断した。そして、上記いずれの判断がなされるときにも、スイッチング素子SWを遮断した。これにより、貫通電流に適切に対処することができる。
【0057】
(2)閾値電圧Vref2を、スイッチング素子SWのゲートの電圧の安定時に対するスイッチング素子SWのオン操作直後のセンス電圧の変化分を補償しつつ設定した。これにより、閾値電圧Vref2を適切に設定することができる。
【0058】
(3)スイッチング素子SWを流れる電流の制限を、スイッチング素子SWを遮断することで行った。これにより、スイッチング素子SWに過度の電流が流れる状況において、その消費電力を極力低減することができる。
【0059】
(4)RCフィルタ回路42を備えることで、スイッチング素子SWのオン操作直後においてもスイッチング素子SWを流れる電流を精度良く検出することができる。
【0060】
(5)スイッチング素子SWを、その動作点が非飽和領域内となるように設定した。これにより、スイッチング素子のゲートの電圧が安定した後には、非飽和領域にて動作させることができる。
【0061】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0062】
・センス電圧とコレクタ電流Icとの関係は、実際にはスイッチング素子SWの温度に応じて変化する。このため、閾値電圧Vref1,Vref2を、スイッチング素子SWの温度に応じて可変設定してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、直列接続された一対のスイッチング素子SWの双方がオンとなることによる貫通電流と、いずれか一方のスイッチング素子SWのみがオンとなるときの過度の電流とを制限すべく、閾値電圧Vref1,Vref2や規定時間Delay1,Delay2を設定したが、これに限らない。例えば上記特許文献1に見られるように、スイッチング素子SWに許容される電流とその電流が流れる許容時間との関係が、許容電流が増大するほど許容時間が短くなるというものであることに鑑みて、図6(a)に示すように、3つ以上の閾値及び規定時間を設定してもよい。この場合であれ、スイッチング素子のオン操作直後、ゲート電圧が最終的な印加電圧となって安定しない間は、センス電圧が、先の図2に示した関係によって定まる値よりも高い値となる。このため、図6(b)に示すように、短い規定時間に対しては、先の図2に示した関係によって定まる電圧と実際のセンス電圧との差を補償するように、閾値電圧を高く設定することが望ましい。
【0064】
・遮断指令回路48やソフト遮断回路49を用いなくても、貫通電流や過度の電流が流れるときにスイッチング指令をオフ指令に変更することで、スイッチング素子SWを遮断することはできる。
【0065】
・直列接続されたスイッチング素子を備える回路としては、インバータに限らない。例えば同期整流式のDC―DCコンバータであってもよい。
【0066】
・直列接続された一対のスイッチング素子に限らず、センス電圧を用いてスイッチング素子のオン操作直後に流れる電流を検出し、これに基づき過電流からスイッチング素子を保護するものにあっては、センス電圧と比較対象となる閾値電圧の設定に際して、本発明を適用することは有効である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】一実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す図。
【図2】同実施形態のドライバユニットの内部構成を示す図。
【図3】センス電圧及びコレクタ電流の関係を示す図。
【図4】上記実施形態にかかる過電流からの保護の態様を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態にかかるセンス電圧の挙動を示すタイムチャート。
【図6】上記実施形態の変形例における閾値電圧の設定態様を示す図。
【符号の説明】
【0068】
41…センス抵抗、42…RCフィルタ回路、43…過電流用比較器、44…貫通電流用比較器、45,46…タイマラッチ、SW…スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列接続された複数のスイッチング素子のうちの任意の1つである電圧駆動形のスイッチング素子について、該スイッチング素子を流れる電流を制限する過電流保護回路において、
前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量が第1の閾値電圧以上となる継続時間が第1の規定時間以上となるとき、前記スイッチング素子に過度の電流が流れると判断する過電流判断手段と、
前記電圧降下量が第2の閾値電圧以上となる継続時間が第2の規定時間以上となるとき、前記スイッチング素子及びこれに隣接するスイッチング素子を貫通する電流が流れると判断する貫通電流判断手段と、
前記貫通する電流又は前記過度の電流が流れると判断されるとき、前記スイッチング素子を遮断する遮断手段とを備え、
前記第2の規定時間が前記第1の規定時間よりも短く設定されてなることを特徴とする過電流保護回路。
【請求項2】
前記第2の閾値電圧は、前記スイッチング素子の導通制御端子の電圧の安定時に対する前記スイッチング素子のオン操作直後の前記電圧降下量の変化分を補償しつつ設定されてなることを特徴とする請求項1記載の過電流保護回路。
【請求項3】
電圧駆動形のスイッチング素子を流れる電流が閾値以上となるとき、前記流れる電流を制限する過電流保護回路において、
前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量と閾値電圧との比較に基づき、前記スイッチング素子を閾値以上の電流が流れるか否かを判断する判断手段を備え、
前記閾値電圧は、前記スイッチング素子の導通制御端子の電圧の安定時に対する前記スイッチング素子のオン操作直後の前記電圧降下量の変化分を補償しつつ設定されてなることを特徴とする過電流保護回路。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、直列接続された複数のスイッチング素子のうちの1つであり、
前記設定のなされた閾値電圧が、前記スイッチング素子を流れる電流についての互いに異なる値を有する複数の閾値のうちの最大値と対応する閾値電圧であり、
前記判断手段は、前記スイッチング素子に前記複数の閾値のいずれか以上の電流が当該閾値に応じた規定時間以上流れるか否かを判断するものであり、
前記規定時間は、前記閾値が大きいほど短く設定されてなることを特徴とする請求項3記載の過電流保護回路。
【請求項5】
互いに直列接続された複数のスイッチング素子のうちの任意の1つである電圧駆動形のスイッチング素子について、該スイッチング素子を流れる電流が閾値以上となるとき、前記流れる電流を制限する過電流保護回路において、
前記閾値が互いに異なる値を有する複数からなり、
前記スイッチング素子の入力端子及び出力端子間の電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子及び前記出力端子間に接続される抵抗体の電圧降下量と前記各閾値に応じた閾値電圧との比較に基づき、前記スイッチング素子に前記複数の閾値のいずれか以上の電流が当該閾値に応じた規定時間以上流れるか否かを判断する判断手段を備え、
前記各閾値電圧は、前記スイッチング素子の許容電流に応じた値にマージンを付与することで設定され、
前記閾値が大きいほど、前記マージンが大きく設定されてなることを特徴とする過電流保護回路。
【請求項6】
前記複数の閾値が、2つの閾値であることを特徴とする請求項4又は5記載の過電流保護回路。
【請求項7】
前記スイッチング素子を流れる電流の制限は、前記スイッチング素子を遮断することで行なわれることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の過電流保護回路。
【請求項8】
前記抵抗体の電圧降下量をフィルタ処理するフィルタ手段を更に備え、
前記判断手段は、フィルタ手段の出力を前記電圧降下量として取り込むことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の過電流保護回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−141841(P2008−141841A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324413(P2006−324413)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】