遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機
【課題】部分負荷運転時等、流量が減少した場合においても効率低下を招くことなく広い流量範囲において運転可能な遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機を提供する。
【解決手段】羽根車1段目の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路を備えた遠心圧縮機1において、該リターン流路に周方向複数枚設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンとして分割し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し後段羽根車に予旋回角を与える。
【解決手段】羽根車1段目の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路を備えた遠心圧縮機1において、該リターン流路に周方向複数枚設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンとして分割し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し後段羽根車に予旋回角を与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機とその制御方法に係り、特に部分負荷運転時に容量制御可能なガイドベーンを備えた遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機とその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調用等に用いられるターボ冷凍機は蒸気圧縮式の冷凍サイクルを原理とした冷凍装置であり、遠心圧縮機で動力を消費し、蒸発器を介して被冷却物より熱を取り入れ、凝縮器において高温部へ熱を排出することで低温から高温への熱輸送を実現している。ターボ冷凍機の運転状態は100%出力運転である定格運転(定格点)とそれ以外の出力運転である部分負荷運転に大別される。
【0003】
一般的に、ターボ冷凍機は定格運転での性能を満たすよう設計されるが、使用環境に応じ運転条件が逐次変化する為、定格運転以外でも安定的に作動し、かつ高効率であることが要求される。したがって、本発明は部分負荷運転におけるターボ冷凍機の作動範囲拡大および効率向上に関するものである。同様に作動範囲拡大および効率向上に関するものとして特許文献1及び2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−200797号公報
【特許文献2】特開2002−327700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ターボ冷凍機には通常、部分負荷運転での循環風量を制御する目的で遠心圧縮機の初段吸込部にインレットガイドベーン17が設置されている(図16)。インレットガイドベーン17は回転軸中心に可動する機構を備え、吸込部の断面積を変化させて流量制御するとともに、流体の流れ角を変化させることが可能である。一般的に羽根車は定格運転において流入角と羽根入口角がほぼ一致するよう設計され、この時圧縮機は安定作動かつ高効率を得られるが、部分負荷運転では流入角が変化するため作動範囲,効率ともに低下する。よって、上述のインレットガイドベーン17を導入することで流体の流れ角を転向し、流入角と羽根入口角とのずれを解消できるので、圧縮機は常時安定した運転が可能となる。
【0006】
しかしながら、このようなインレットガイドベーン17の効果は直後に設置された羽根車(初段羽根車)にのみ作用する為、後段羽根車では流入角と羽根入口角とのずれが解消されず作動不安定となり易い。また、一般的なターボ冷凍機用遠心圧縮機では図16に示す通り前段と後段を繋ぐリターン流路12に固定ガイドベーン18が設置されている。
【0007】
固定ガイドベーン18は、前段ディフューザから後段羽根車へ流入する流れの旋回成分を取り除く機能を持つ。図17に示す通り、定格運転のような旋回成分が必要でない運転状態では流れAを転向し軸方向の流れBを後段羽根車へ導く。しかしながら、固定ガイドベーン18は運転状態に関わらず羽根車への流入角が一定のため、部分負荷運転では後段羽根車の流入角と羽根入口角のずれを解消できず圧縮機性能が低下する。
【0008】
したがって、これらの課題を同時に解決するべく、固定ガイドベーン18後方の曲がり部、或いは固定ガイドベーン18と曲がり部の間に回転可能なガイドベーンを設置する方法はあるものの、スペースの問題から配置困難である。
【0009】
本発明の目的は、前段ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路に設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンとして分割し、定格運転では後段羽根車へ予旋回を与えることなく流体を導き、部分負荷運転では下流ガイドベーンを可動させ後段羽根車へ確実に予旋回を与え、かつ、あらゆる流量条件で低損失な遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、複数段の羽根車と、各羽根車の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐ多段のリターン流路とを備えた遠心圧縮機において、前記リターン流路の少なくとも1段に固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンを周方向複数枚設置し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し且つ上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁の間に隙間を形成し後段羽根車に予旋回角を与えるように構成され、上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの半径方向長さが同一であるように設定されることにより達成される。
【0011】
また上記目的は、前記下流ガイドベーンの回転軸支位置が下流ガイドベーン半径方向長さの中央から後縁の間にあることにより達成される。
【0012】
また上記目的は、遠心圧縮機により断熱圧縮され吐出した冷媒を放熱冷却する凝縮器と、冷却された冷媒を絞り膨張させる膨張手段と、膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備えるターボ冷凍機において、前記圧縮機の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数を測定する手段と、この測定手段からの出力を入力として後段羽根車への流入角と、前記流入角及びデータベースに基づき前記下流ガイドベーンのベーン回転角度とを計算する演算処理器と、この演算処理器からの出力を入力として前記下流ガイドベーンのベーン角度を変更する駆動装置とを備えることにより達成される。
【0013】
また上記目的は、測定手段からの出力に基づいて決定されるエンタルピを用いて冷媒循環量を求め、冷媒循環量と後段羽根車の入口部での冷媒の子午面速度とを用いて流入角を求めることにより達成される。
【0014】
また上記目的は、前記圧縮機の羽根車流入角が定格運転での羽根車流入角と同一となるよう下流ガイドベーンのベーン角度を変更することにより達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ターボ冷凍機用遠心圧縮機では、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路に設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーンと可動式の下流ガイドベーンに分割し、下流ガイドベーンを回転軸中心に可動な構成とした。これにより、定格運転では流体の旋回成分を取り除き、部分負荷運転では後段羽根車へ確実に予旋回を与えることで、いかなる流量条件においても広作動範囲かつ高効率なターボ冷凍機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る第1の実施形態を示す図であって、第1の実施の形態における遠心圧縮機の断面図である。
【図2】第1の実施の形態におけるターボ冷凍機用遠心圧縮機のシステム構成を示す概略図である。
【図3】第1の実施の形態における冷凍サイクル線図である。
【図4】第1の実施の形態における上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの配置及び下流ガイドベーンの軸支位置を示した図である。
【図5】必要予旋回角αと下流ガイドベーン回転角γの関係性を示した図である。
【図6】L1とL2の関係性が圧力損失に与える影響を示した図である。
【図7】第2の実施の形態におけるターボ冷凍機用遠心圧縮機のシステム構成を示す概略図である。
【図8】第2の実施の形態において状態点を決定する方法を説明するための冷凍サイクル線図である。
【図9】本発明に係る第2の実施形態を示す図であって、第2の実施の形態における遠心圧縮機の断面図である。
【図10】定格運転における羽根車入口での速度三角形を示した図ある。
【図11】部分負荷運転における羽根車入口での速度三角形を示した図ある。
【図12】部分負荷運転において下流ガイドベーンを制御した時の羽根車入口での速度三角形を示した図である。
【図13】第2の実施の形態において状態点を決定する処理の流れを示す図である。
【図14】第2の実施の形態における処理の流れを示す図である。
【図15】流量と効率の関係性を示す図である。
【図16】従来の遠心圧縮機の断面図である。
【図17】従来の遠心圧縮機における固定ガイドベーンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0018】
第1実施形態では蒸気圧縮式の冷凍サイクルを基本原理とした多段式ターボ冷凍機に本発明を適用する。
図2は本実施の形態におけるターボ冷凍機の構成図である。
図3はp−h線図に基づいた冷凍サイクル線図を模式的に示した図である。
図2,図3において、ターボ冷凍機は2段遠心圧縮機を備えるものであるならば、以下の原理によって作動する。つまり、状態点9において湿り蒸気である冷媒は蒸発器5にて被冷却物より熱を奪い状態点1に達する。過熱蒸気に状態変化した冷媒は遠心圧縮機の初段で断熱圧縮され内部エネルギーが増大し、より大きな過熱度の状態点2へ昇圧される。状態点2における冷媒はエコノマイザ4にて絞り膨張時に発生したフラッシュ蒸気を取り入れ、状態点3に至る。状態点3では圧縮機1段目によって図3に示す圧力P4まで昇圧され更なる過熱度を持つ状態点4となる。その後冷媒は凝縮器2を通過する過程で、輸送した熱量を冷却水へ受け渡し、冷却され,乾き飽和蒸気,湿り蒸気,飽和液と状態変化を経たのち過冷却液である状態点5へと達する。過冷却液となった冷媒は状態点5のまま受液器3を通過し、エコノマイザ4に流入する。
【0019】
エコノマイザ4では、中間圧力Peco(図3に示す)まで一旦減圧され、その際に生じたフラッシュ蒸気と高圧液に分離される。このうち高圧液のみが蒸発圧力P1まで絞り膨張され、状態点9にて湿り蒸気に戻り、再度同様のサイクルを繰り返す。
【0020】
図1に示す通り遠心圧縮機1は、2段式のターボ型遠心圧縮機が採用されており、初段吸込部にインレットガイドベーン17を備え、各段は回転駆動する回転軸9と、この回転軸9に保持され円周方向にほぼ等間隔で設けられた羽根を持つ羽根車10と、羽根車外周に取付けられ円周方向にほぼ等間隔で設けられたベーンを持つディフューザ11を有し、更に段と段とを連結する静止流路としてリターン流路12,冷媒を排出するスクロール16を備えている。
【0021】
リターン流路12には固定式の上流ガイドベーン13及び可動式の下流ガイドベーン14が設置され、それぞれ円形翼列を成す。なお、本発明の遠心圧縮機1では下流ガイドベーン14が下流ガイドベーン回転軸15を介して回転可能に支持され、ベーンに備え付けられた駆動装置7によって回転する。
【0022】
上記構成において、第1段羽根車の回転により吸込口からインレットガイドベーン17に導かれて吸入した冷媒は羽根車1段目10aの遠心作用により増速・昇圧され、第1段ディフューザ11を通過する過程で減速されることにより運動エネルギーを内部エネルギーに変換され、更にリターン流路12に設置された上流ガイドベーン13及び下流ガイドベーン14で減速され、定格運転では軸方向の流れを、部分負荷運転では運転状態に即した予旋回角を与えられて羽根車2段目10bへと導かれる。
【0023】
図4は本実施例における上流ガイドベーン13と下流ガイドベーン14の配置及び下流ガイドベーン回転軸支位置を示す図である。
【0024】
図4において、これによると定格運転時には上流ガイドベーン13の後縁と下流ガイドベーン14の前縁を結んだ線が半径方向を向くよう設置されており、上流ガイドベーン13及び下流ガイドベーン14は併せて1枚のガイドベーンとみなせる。この構成により、半径方向1枚の固定ガイドベーン18が設置された従来のターボ冷凍機用多段遠心圧縮機(図16)と同様、ディフューザから流入した流れの旋回成分を確実に取り除き後段羽根車へ導くというガイドベーンとしての基本機能を満たす。
【0025】
一方、部分負荷運転など流量が変化した場合には、後段羽根車への流入角が羽根入口角に対して大きく(或いは小さく)なりすぎ、羽根車が作動不安定に陥る可能性がある。そのような状況を回避するため、下流ガイドベーン14を下流ガイドベーン回転軸15により回転して流体に旋回成分を与え、羽根車への流入角と羽根入口角のずれを解消する。本実施の形態における上流ガイドベーン13と下流ガイドベーン14の関係性は下記の通りである。
【0026】
上流ガイドベーン13の前後縁半径差L1を前縁半径r2及び後縁半径r2、下流ガイドベーン14の前後縁半径差L2を前縁半径r3及び後縁半径r4を用いて、式(1),式(2)
L1=r1−r2 (1)
L2=r3−r4 (2)
で表したとき、上流ガイドベーン13の前後縁半径差L1と下流ガイドベーン14の前後縁半径差L2を同じ長さとする。すなわち、式(3)
L1=L2 (3)
である。
【0027】
既述したように、部分負荷運転など流量が変化した場合には、後段羽根車に予旋回を与える必要が生じる。この時、例えばL1>L2ならば任意の運転状態における予旋回角を得るために必要な下流ガイドベーン回転角は増加する(図5)。その結果、流れに対する下流ガイドベーンの角度が大きくなりすぎ全流量域で圧力損失が増大する(図6)。
【0028】
ところで、流量が減少すると上流ガイドベーンへ流入する冷媒の迎え角が増大し、翼の後縁において流れが失速する為、その翼機能は低下する。本実施例では、下流ガイドベーンを回転させることで、上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁との間に隙間を作り、この隙間から上流ガイドベーン圧力面側の高エネルギー流体を負圧面側へと導き、死水域にエネルギーを供給する。
【0029】
このような隙間を通過した流れの作用により、上流ガイドベーン後縁における流れの剥離は解消され、圧力損失を低減することができる。この時、下流ガイドベーン回転軸の軸支位置半径をrrotとすれば、下流ガイドベーン前縁と軸支位置との差Lrotは式(4)
Lrot=r3−rrot (4)
で表され、下流ガイドベーンの前後縁半径差L2との関係性を式(5)
L2/2≧Lrot≧L2 (5)
として構成する。
【0030】
これ以上軸支位置を下流ガイドベーン前縁に近づけすぎると失速を解消するのに十分なエネルギーが供給されず、死水域での損失は改善されない。したがって、L2/2≧Lrot≧L2を満たす位置に回転軸を設置すれば、隙間の効果を十分得ることが可能である。
【実施例2】
【0031】
本発明の第2実施形態を図に基づき説明する。
第1実施形態と同等の部分には同一の符号を示し、説明を省略する。
図7は本実施の形態におけるターボ冷凍機の構成図である。
図8はp−h線図に基づいた冷凍サイクル線図である。
図9は2段遠心圧縮機本体及び、制御系を模式的に示した図である。
【0032】
図7に示すように、第2実施形態におけるターボ冷凍機では、遠心圧縮機1出入口,モータ6,凝縮器2及びエコノマイザ4に対してセンサが設けられており、遠心圧縮機1の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数,凝縮器2の出口温度及びエコノマイザ4の圧力が計測され、演算処理器8へ受け渡される。演算処理器8には図8に示すようなp−h線図が予め記憶されており、計測値に基づき、冷凍サイクル上の状態点を決定する。
【0033】
図9において、図9は上記第1実施例における図1に相当する図であり、本実施形態における遠心圧縮機は、リターン流路に備え付けられた下流ガイドベーン14が下流ガイドベーン回転軸15に支持され、ベーンに備え付けられた駆動装置7によって回転する。そして、ベーン回転を制御するために、前記ターボ冷凍機に備えられたセンサより検出した測定値を処理する演算処理器8が接続され、演算処理器8では下流ガイドベーン回転角を算出し、駆動装置7へ駆動信号を伝達する。このように構成した本発明の実施例のターボ冷凍機用遠心圧縮機において、下流ガイドベーン回転角を制御する考え方を説明する。
【0034】
図10,図11に示した速度三角形はともに第2段羽根車入口部における羽根車入口周速U1,冷媒の羽根車入口相対速度W1及び羽根車入口絶対速度C1の関係性を模式化したものであり、それぞれ定格点における速度三角形、部分負荷運転での速度三角形を表す。一般的に羽根車は定格点において安定作動かつ高効率を得られるよう設計されており、この時の相対流入角βDを満たせば安定作動と高効率を持続できる。
【0035】
しかしながら、定格点を外れ流量が変化した場合には羽根車入口絶対速度C1の変化に伴い、流入角もβDからずれるので、羽根車は効率の低下や動作不安定を引き起こす。これを回避するため、部分負荷運転等流量が変化した場合には図12のように定格点と同じ相対流入角βDを持つ速度三角形でなければならない。したがって本実施例では、任意の部分負荷運転におけるβ1を逐次演算し、羽根車流入角β1=βDとなるよう下流ガイドベーンを軸中心に可動させる。
【0036】
第2の実施の形態において、測定値より冷凍サイクルを決定するためのフローチャートを図13に示す。なおこの処理は演算処理器のデータ記憶部に予め記憶されたプログラムに基づいて自動的に実行されるものである。まず、演算処理器ではセンサから出力された遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4,回転数N,凝縮器出口温度T5及びエコノマイザ圧力Pecoの入力を受ける(ステップ101)。
【0037】
このうち、遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4及びエコノマイザ圧力Pecoより、図8に示したp−h線図から状態点1,状態点2,状態点3,状態点4を決定する。図8において等温線T1及びP1の交点を状態点1(ステップ102)、等温線T4及びP4の交点を状態点4とし(ステップ103)、これら状態点1及び状態点4が乗る断熱線をs1,s4とすればs1,s4と中間圧力Pecoの交点がそれぞれ状態点2(ステップ104)及び状態点3(ステップ105)である。続いて、蒸発器出口温度T5より状態点6を決定する。
【0038】
図8において状態点4から状態点5は等圧過程すなわちP5=P4とすれば、等温線T5とP4の交点が状態点5(ステップ106)、また、状態点5から状態点6は絞り膨張(等エンタルピ過程)すなわちh5=h6のためh5と中間圧力Pecoとの交点が状態点6である(ステップ107)。最後に状態点7,状態点8及び状態点9を決定する。状態点7はエコノマイザ内で発生したフラッシュ蒸気(乾き飽和蒸気)を表し、中間圧力Pecoと乾き飽和蒸気線(b−c曲線)の交点である(ステップ108)。
【0039】
一方、状態点8は中間圧力Pecoと飽和液線(a−b曲線)の交点であり、エコノマイザにおいてフラッシュ蒸気と分離された飽和液を表す(ステップ109)。状態点8から状態点9は絞り膨張(等エンタルピ過程)すなわちh8=h9を経て蒸発圧力P1へ戻るので、h8とP1との交点を状態点9とする(ステップ110)。このようにして、測定値より状態点1から状態点9を求めることで、任意の運転状態における冷凍サイクル線図及び各状態点での圧力P,温度T,エンタルピhが決定する(ステップ111)。
【0040】
なお、各状態点における圧力P,温度T,エンタルピhは冷凍サイクルを確定する代わりに別途データベースを参照することで算出しても良いものとする。
【0041】
次に、上記にて決定された各状態点での圧力P,温度T,エンタルピhを用いて第2段羽根車への相対流入角β1を算出し、β1=βDを満たすベーン角度γを決定する。この時、相対流入角β1とベーン角度γの関係性及び定格点における相対流入角βDはデータベースとして予めプログラムに組み込まれており演算の過程で逐次参照する。図14は第2の実施の形態におけるベーン回転フローチャートを示す。
【0042】
以下、定圧比熱Cp,羽根径r,重力加速度g,羽根車入口の流路断面積A及びターボ冷凍機の冷凍能力Φは定数であり予めプログラムに組み込まれているものとし、圧力P,温度T,エンタルピhの添え字は全て図3(図8)での状態点に対応しているものとする。また、添え字2stは圧縮機2段目を表す。まず、羽根車入口部での冷媒の子午面速度Cm2stは冷媒循環量qと羽根車出口の流路断面積Aより、式(6)
Cm2st=q2st/A2st (6)
で求まる。ここで、圧縮機2段目での冷媒循環量q2stはエコノマイザでのフラッシュ蒸気量qecoを含むので、式(7)
q2st=q1st+qeco=Φ(h7−h8)/(h1−h9)(h7−h6) (7)
より求まる。
【0043】
この式(7)に状態点1でのエンタルピh1、状態点6でのエンタルピh6、状態点7でのエンタルピh7、状態点8でのエンタルピh8及び状態点9でのエンタルピh9を代入することで圧縮機2段目での冷媒循環量q2stが決定する(ステップ201)。以上、算出した圧縮機2段目における冷媒循環量q2stを式(6)に代入すれば、羽根車入口部での冷媒の子午面速度Cm2stが求まる(ステップ202)。したがって、相対流入角β1は、回転数N,羽根車径rから求めた羽根車入口周速U1=2πrN/60及び子午面速度Cm2stを用いて式(8)より
β1=tan-1(Cm2st/U1) (8)
で算出される(ステップ203)。
【0044】
ここで、算出したβ1=βDならば演算を終了し、そうでない場合には引き続き継続する(ステップ204)。続いて、式(8)にて求められたβ1と与えるべきベーン回転角γの関係が組み込まれたデータベースを参照してγを決定したのち(ステップ205,ステップ206)、それを駆動信号としてベーン回動機構へ伝達、ベーンを回転する(ステップ207,ステップ208)。
【0045】
上記したような一連の処理を部分負荷運転時等に作動させることで、図15に示す通りベーン制御を実施した場合には圧縮機効率が改善される。また、本実施例では測定項目として遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4及びエコノマイザ圧力Pecoを適用した。これらの項目は一般的なターボ冷凍機において運転状態を把握する為に使用されており、例えば従来機に対し新たなセンサを設置すること無く改良できるので、低コストかつ簡便な手法であると言える。
【符号の説明】
【0046】
1 遠心圧縮機
2 凝縮器
3 受液器
4 エコノマイザ
5 蒸発器
6 モータ
7 駆動装置
8 演算処理器
9 回転軸
10 羽根車
10a 羽根車1段目
10b 羽根車2段目
11 ディフューザ
12 リターン流路
13 上流ガイドベーン
14 下流ガイドベーン
15 下流ガイドベーン回転軸
16 スクロール
17 インレットガイドベーン
18 固定ガイドベーン
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機とその制御方法に係り、特に部分負荷運転時に容量制御可能なガイドベーンを備えた遠心圧縮機及びそれを用いたターボ冷凍機とその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調用等に用いられるターボ冷凍機は蒸気圧縮式の冷凍サイクルを原理とした冷凍装置であり、遠心圧縮機で動力を消費し、蒸発器を介して被冷却物より熱を取り入れ、凝縮器において高温部へ熱を排出することで低温から高温への熱輸送を実現している。ターボ冷凍機の運転状態は100%出力運転である定格運転(定格点)とそれ以外の出力運転である部分負荷運転に大別される。
【0003】
一般的に、ターボ冷凍機は定格運転での性能を満たすよう設計されるが、使用環境に応じ運転条件が逐次変化する為、定格運転以外でも安定的に作動し、かつ高効率であることが要求される。したがって、本発明は部分負荷運転におけるターボ冷凍機の作動範囲拡大および効率向上に関するものである。同様に作動範囲拡大および効率向上に関するものとして特許文献1及び2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−200797号公報
【特許文献2】特開2002−327700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ターボ冷凍機には通常、部分負荷運転での循環風量を制御する目的で遠心圧縮機の初段吸込部にインレットガイドベーン17が設置されている(図16)。インレットガイドベーン17は回転軸中心に可動する機構を備え、吸込部の断面積を変化させて流量制御するとともに、流体の流れ角を変化させることが可能である。一般的に羽根車は定格運転において流入角と羽根入口角がほぼ一致するよう設計され、この時圧縮機は安定作動かつ高効率を得られるが、部分負荷運転では流入角が変化するため作動範囲,効率ともに低下する。よって、上述のインレットガイドベーン17を導入することで流体の流れ角を転向し、流入角と羽根入口角とのずれを解消できるので、圧縮機は常時安定した運転が可能となる。
【0006】
しかしながら、このようなインレットガイドベーン17の効果は直後に設置された羽根車(初段羽根車)にのみ作用する為、後段羽根車では流入角と羽根入口角とのずれが解消されず作動不安定となり易い。また、一般的なターボ冷凍機用遠心圧縮機では図16に示す通り前段と後段を繋ぐリターン流路12に固定ガイドベーン18が設置されている。
【0007】
固定ガイドベーン18は、前段ディフューザから後段羽根車へ流入する流れの旋回成分を取り除く機能を持つ。図17に示す通り、定格運転のような旋回成分が必要でない運転状態では流れAを転向し軸方向の流れBを後段羽根車へ導く。しかしながら、固定ガイドベーン18は運転状態に関わらず羽根車への流入角が一定のため、部分負荷運転では後段羽根車の流入角と羽根入口角のずれを解消できず圧縮機性能が低下する。
【0008】
したがって、これらの課題を同時に解決するべく、固定ガイドベーン18後方の曲がり部、或いは固定ガイドベーン18と曲がり部の間に回転可能なガイドベーンを設置する方法はあるものの、スペースの問題から配置困難である。
【0009】
本発明の目的は、前段ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路に設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンとして分割し、定格運転では後段羽根車へ予旋回を与えることなく流体を導き、部分負荷運転では下流ガイドベーンを可動させ後段羽根車へ確実に予旋回を与え、かつ、あらゆる流量条件で低損失な遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、複数段の羽根車と、各羽根車の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐ多段のリターン流路とを備えた遠心圧縮機において、前記リターン流路の少なくとも1段に固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンを周方向複数枚設置し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し且つ上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁の間に隙間を形成し後段羽根車に予旋回角を与えるように構成され、上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの半径方向長さが同一であるように設定されることにより達成される。
【0011】
また上記目的は、前記下流ガイドベーンの回転軸支位置が下流ガイドベーン半径方向長さの中央から後縁の間にあることにより達成される。
【0012】
また上記目的は、遠心圧縮機により断熱圧縮され吐出した冷媒を放熱冷却する凝縮器と、冷却された冷媒を絞り膨張させる膨張手段と、膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備えるターボ冷凍機において、前記圧縮機の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数を測定する手段と、この測定手段からの出力を入力として後段羽根車への流入角と、前記流入角及びデータベースに基づき前記下流ガイドベーンのベーン回転角度とを計算する演算処理器と、この演算処理器からの出力を入力として前記下流ガイドベーンのベーン角度を変更する駆動装置とを備えることにより達成される。
【0013】
また上記目的は、測定手段からの出力に基づいて決定されるエンタルピを用いて冷媒循環量を求め、冷媒循環量と後段羽根車の入口部での冷媒の子午面速度とを用いて流入角を求めることにより達成される。
【0014】
また上記目的は、前記圧縮機の羽根車流入角が定格運転での羽根車流入角と同一となるよう下流ガイドベーンのベーン角度を変更することにより達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ターボ冷凍機用遠心圧縮機では、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐリターン流路に設置されたガイドベーンを固定式の上流ガイドベーンと可動式の下流ガイドベーンに分割し、下流ガイドベーンを回転軸中心に可動な構成とした。これにより、定格運転では流体の旋回成分を取り除き、部分負荷運転では後段羽根車へ確実に予旋回を与えることで、いかなる流量条件においても広作動範囲かつ高効率なターボ冷凍機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る第1の実施形態を示す図であって、第1の実施の形態における遠心圧縮機の断面図である。
【図2】第1の実施の形態におけるターボ冷凍機用遠心圧縮機のシステム構成を示す概略図である。
【図3】第1の実施の形態における冷凍サイクル線図である。
【図4】第1の実施の形態における上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの配置及び下流ガイドベーンの軸支位置を示した図である。
【図5】必要予旋回角αと下流ガイドベーン回転角γの関係性を示した図である。
【図6】L1とL2の関係性が圧力損失に与える影響を示した図である。
【図7】第2の実施の形態におけるターボ冷凍機用遠心圧縮機のシステム構成を示す概略図である。
【図8】第2の実施の形態において状態点を決定する方法を説明するための冷凍サイクル線図である。
【図9】本発明に係る第2の実施形態を示す図であって、第2の実施の形態における遠心圧縮機の断面図である。
【図10】定格運転における羽根車入口での速度三角形を示した図ある。
【図11】部分負荷運転における羽根車入口での速度三角形を示した図ある。
【図12】部分負荷運転において下流ガイドベーンを制御した時の羽根車入口での速度三角形を示した図である。
【図13】第2の実施の形態において状態点を決定する処理の流れを示す図である。
【図14】第2の実施の形態における処理の流れを示す図である。
【図15】流量と効率の関係性を示す図である。
【図16】従来の遠心圧縮機の断面図である。
【図17】従来の遠心圧縮機における固定ガイドベーンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0018】
第1実施形態では蒸気圧縮式の冷凍サイクルを基本原理とした多段式ターボ冷凍機に本発明を適用する。
図2は本実施の形態におけるターボ冷凍機の構成図である。
図3はp−h線図に基づいた冷凍サイクル線図を模式的に示した図である。
図2,図3において、ターボ冷凍機は2段遠心圧縮機を備えるものであるならば、以下の原理によって作動する。つまり、状態点9において湿り蒸気である冷媒は蒸発器5にて被冷却物より熱を奪い状態点1に達する。過熱蒸気に状態変化した冷媒は遠心圧縮機の初段で断熱圧縮され内部エネルギーが増大し、より大きな過熱度の状態点2へ昇圧される。状態点2における冷媒はエコノマイザ4にて絞り膨張時に発生したフラッシュ蒸気を取り入れ、状態点3に至る。状態点3では圧縮機1段目によって図3に示す圧力P4まで昇圧され更なる過熱度を持つ状態点4となる。その後冷媒は凝縮器2を通過する過程で、輸送した熱量を冷却水へ受け渡し、冷却され,乾き飽和蒸気,湿り蒸気,飽和液と状態変化を経たのち過冷却液である状態点5へと達する。過冷却液となった冷媒は状態点5のまま受液器3を通過し、エコノマイザ4に流入する。
【0019】
エコノマイザ4では、中間圧力Peco(図3に示す)まで一旦減圧され、その際に生じたフラッシュ蒸気と高圧液に分離される。このうち高圧液のみが蒸発圧力P1まで絞り膨張され、状態点9にて湿り蒸気に戻り、再度同様のサイクルを繰り返す。
【0020】
図1に示す通り遠心圧縮機1は、2段式のターボ型遠心圧縮機が採用されており、初段吸込部にインレットガイドベーン17を備え、各段は回転駆動する回転軸9と、この回転軸9に保持され円周方向にほぼ等間隔で設けられた羽根を持つ羽根車10と、羽根車外周に取付けられ円周方向にほぼ等間隔で設けられたベーンを持つディフューザ11を有し、更に段と段とを連結する静止流路としてリターン流路12,冷媒を排出するスクロール16を備えている。
【0021】
リターン流路12には固定式の上流ガイドベーン13及び可動式の下流ガイドベーン14が設置され、それぞれ円形翼列を成す。なお、本発明の遠心圧縮機1では下流ガイドベーン14が下流ガイドベーン回転軸15を介して回転可能に支持され、ベーンに備え付けられた駆動装置7によって回転する。
【0022】
上記構成において、第1段羽根車の回転により吸込口からインレットガイドベーン17に導かれて吸入した冷媒は羽根車1段目10aの遠心作用により増速・昇圧され、第1段ディフューザ11を通過する過程で減速されることにより運動エネルギーを内部エネルギーに変換され、更にリターン流路12に設置された上流ガイドベーン13及び下流ガイドベーン14で減速され、定格運転では軸方向の流れを、部分負荷運転では運転状態に即した予旋回角を与えられて羽根車2段目10bへと導かれる。
【0023】
図4は本実施例における上流ガイドベーン13と下流ガイドベーン14の配置及び下流ガイドベーン回転軸支位置を示す図である。
【0024】
図4において、これによると定格運転時には上流ガイドベーン13の後縁と下流ガイドベーン14の前縁を結んだ線が半径方向を向くよう設置されており、上流ガイドベーン13及び下流ガイドベーン14は併せて1枚のガイドベーンとみなせる。この構成により、半径方向1枚の固定ガイドベーン18が設置された従来のターボ冷凍機用多段遠心圧縮機(図16)と同様、ディフューザから流入した流れの旋回成分を確実に取り除き後段羽根車へ導くというガイドベーンとしての基本機能を満たす。
【0025】
一方、部分負荷運転など流量が変化した場合には、後段羽根車への流入角が羽根入口角に対して大きく(或いは小さく)なりすぎ、羽根車が作動不安定に陥る可能性がある。そのような状況を回避するため、下流ガイドベーン14を下流ガイドベーン回転軸15により回転して流体に旋回成分を与え、羽根車への流入角と羽根入口角のずれを解消する。本実施の形態における上流ガイドベーン13と下流ガイドベーン14の関係性は下記の通りである。
【0026】
上流ガイドベーン13の前後縁半径差L1を前縁半径r2及び後縁半径r2、下流ガイドベーン14の前後縁半径差L2を前縁半径r3及び後縁半径r4を用いて、式(1),式(2)
L1=r1−r2 (1)
L2=r3−r4 (2)
で表したとき、上流ガイドベーン13の前後縁半径差L1と下流ガイドベーン14の前後縁半径差L2を同じ長さとする。すなわち、式(3)
L1=L2 (3)
である。
【0027】
既述したように、部分負荷運転など流量が変化した場合には、後段羽根車に予旋回を与える必要が生じる。この時、例えばL1>L2ならば任意の運転状態における予旋回角を得るために必要な下流ガイドベーン回転角は増加する(図5)。その結果、流れに対する下流ガイドベーンの角度が大きくなりすぎ全流量域で圧力損失が増大する(図6)。
【0028】
ところで、流量が減少すると上流ガイドベーンへ流入する冷媒の迎え角が増大し、翼の後縁において流れが失速する為、その翼機能は低下する。本実施例では、下流ガイドベーンを回転させることで、上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁との間に隙間を作り、この隙間から上流ガイドベーン圧力面側の高エネルギー流体を負圧面側へと導き、死水域にエネルギーを供給する。
【0029】
このような隙間を通過した流れの作用により、上流ガイドベーン後縁における流れの剥離は解消され、圧力損失を低減することができる。この時、下流ガイドベーン回転軸の軸支位置半径をrrotとすれば、下流ガイドベーン前縁と軸支位置との差Lrotは式(4)
Lrot=r3−rrot (4)
で表され、下流ガイドベーンの前後縁半径差L2との関係性を式(5)
L2/2≧Lrot≧L2 (5)
として構成する。
【0030】
これ以上軸支位置を下流ガイドベーン前縁に近づけすぎると失速を解消するのに十分なエネルギーが供給されず、死水域での損失は改善されない。したがって、L2/2≧Lrot≧L2を満たす位置に回転軸を設置すれば、隙間の効果を十分得ることが可能である。
【実施例2】
【0031】
本発明の第2実施形態を図に基づき説明する。
第1実施形態と同等の部分には同一の符号を示し、説明を省略する。
図7は本実施の形態におけるターボ冷凍機の構成図である。
図8はp−h線図に基づいた冷凍サイクル線図である。
図9は2段遠心圧縮機本体及び、制御系を模式的に示した図である。
【0032】
図7に示すように、第2実施形態におけるターボ冷凍機では、遠心圧縮機1出入口,モータ6,凝縮器2及びエコノマイザ4に対してセンサが設けられており、遠心圧縮機1の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数,凝縮器2の出口温度及びエコノマイザ4の圧力が計測され、演算処理器8へ受け渡される。演算処理器8には図8に示すようなp−h線図が予め記憶されており、計測値に基づき、冷凍サイクル上の状態点を決定する。
【0033】
図9において、図9は上記第1実施例における図1に相当する図であり、本実施形態における遠心圧縮機は、リターン流路に備え付けられた下流ガイドベーン14が下流ガイドベーン回転軸15に支持され、ベーンに備え付けられた駆動装置7によって回転する。そして、ベーン回転を制御するために、前記ターボ冷凍機に備えられたセンサより検出した測定値を処理する演算処理器8が接続され、演算処理器8では下流ガイドベーン回転角を算出し、駆動装置7へ駆動信号を伝達する。このように構成した本発明の実施例のターボ冷凍機用遠心圧縮機において、下流ガイドベーン回転角を制御する考え方を説明する。
【0034】
図10,図11に示した速度三角形はともに第2段羽根車入口部における羽根車入口周速U1,冷媒の羽根車入口相対速度W1及び羽根車入口絶対速度C1の関係性を模式化したものであり、それぞれ定格点における速度三角形、部分負荷運転での速度三角形を表す。一般的に羽根車は定格点において安定作動かつ高効率を得られるよう設計されており、この時の相対流入角βDを満たせば安定作動と高効率を持続できる。
【0035】
しかしながら、定格点を外れ流量が変化した場合には羽根車入口絶対速度C1の変化に伴い、流入角もβDからずれるので、羽根車は効率の低下や動作不安定を引き起こす。これを回避するため、部分負荷運転等流量が変化した場合には図12のように定格点と同じ相対流入角βDを持つ速度三角形でなければならない。したがって本実施例では、任意の部分負荷運転におけるβ1を逐次演算し、羽根車流入角β1=βDとなるよう下流ガイドベーンを軸中心に可動させる。
【0036】
第2の実施の形態において、測定値より冷凍サイクルを決定するためのフローチャートを図13に示す。なおこの処理は演算処理器のデータ記憶部に予め記憶されたプログラムに基づいて自動的に実行されるものである。まず、演算処理器ではセンサから出力された遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4,回転数N,凝縮器出口温度T5及びエコノマイザ圧力Pecoの入力を受ける(ステップ101)。
【0037】
このうち、遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4及びエコノマイザ圧力Pecoより、図8に示したp−h線図から状態点1,状態点2,状態点3,状態点4を決定する。図8において等温線T1及びP1の交点を状態点1(ステップ102)、等温線T4及びP4の交点を状態点4とし(ステップ103)、これら状態点1及び状態点4が乗る断熱線をs1,s4とすればs1,s4と中間圧力Pecoの交点がそれぞれ状態点2(ステップ104)及び状態点3(ステップ105)である。続いて、蒸発器出口温度T5より状態点6を決定する。
【0038】
図8において状態点4から状態点5は等圧過程すなわちP5=P4とすれば、等温線T5とP4の交点が状態点5(ステップ106)、また、状態点5から状態点6は絞り膨張(等エンタルピ過程)すなわちh5=h6のためh5と中間圧力Pecoとの交点が状態点6である(ステップ107)。最後に状態点7,状態点8及び状態点9を決定する。状態点7はエコノマイザ内で発生したフラッシュ蒸気(乾き飽和蒸気)を表し、中間圧力Pecoと乾き飽和蒸気線(b−c曲線)の交点である(ステップ108)。
【0039】
一方、状態点8は中間圧力Pecoと飽和液線(a−b曲線)の交点であり、エコノマイザにおいてフラッシュ蒸気と分離された飽和液を表す(ステップ109)。状態点8から状態点9は絞り膨張(等エンタルピ過程)すなわちh8=h9を経て蒸発圧力P1へ戻るので、h8とP1との交点を状態点9とする(ステップ110)。このようにして、測定値より状態点1から状態点9を求めることで、任意の運転状態における冷凍サイクル線図及び各状態点での圧力P,温度T,エンタルピhが決定する(ステップ111)。
【0040】
なお、各状態点における圧力P,温度T,エンタルピhは冷凍サイクルを確定する代わりに別途データベースを参照することで算出しても良いものとする。
【0041】
次に、上記にて決定された各状態点での圧力P,温度T,エンタルピhを用いて第2段羽根車への相対流入角β1を算出し、β1=βDを満たすベーン角度γを決定する。この時、相対流入角β1とベーン角度γの関係性及び定格点における相対流入角βDはデータベースとして予めプログラムに組み込まれており演算の過程で逐次参照する。図14は第2の実施の形態におけるベーン回転フローチャートを示す。
【0042】
以下、定圧比熱Cp,羽根径r,重力加速度g,羽根車入口の流路断面積A及びターボ冷凍機の冷凍能力Φは定数であり予めプログラムに組み込まれているものとし、圧力P,温度T,エンタルピhの添え字は全て図3(図8)での状態点に対応しているものとする。また、添え字2stは圧縮機2段目を表す。まず、羽根車入口部での冷媒の子午面速度Cm2stは冷媒循環量qと羽根車出口の流路断面積Aより、式(6)
Cm2st=q2st/A2st (6)
で求まる。ここで、圧縮機2段目での冷媒循環量q2stはエコノマイザでのフラッシュ蒸気量qecoを含むので、式(7)
q2st=q1st+qeco=Φ(h7−h8)/(h1−h9)(h7−h6) (7)
より求まる。
【0043】
この式(7)に状態点1でのエンタルピh1、状態点6でのエンタルピh6、状態点7でのエンタルピh7、状態点8でのエンタルピh8及び状態点9でのエンタルピh9を代入することで圧縮機2段目での冷媒循環量q2stが決定する(ステップ201)。以上、算出した圧縮機2段目における冷媒循環量q2stを式(6)に代入すれば、羽根車入口部での冷媒の子午面速度Cm2stが求まる(ステップ202)。したがって、相対流入角β1は、回転数N,羽根車径rから求めた羽根車入口周速U1=2πrN/60及び子午面速度Cm2stを用いて式(8)より
β1=tan-1(Cm2st/U1) (8)
で算出される(ステップ203)。
【0044】
ここで、算出したβ1=βDならば演算を終了し、そうでない場合には引き続き継続する(ステップ204)。続いて、式(8)にて求められたβ1と与えるべきベーン回転角γの関係が組み込まれたデータベースを参照してγを決定したのち(ステップ205,ステップ206)、それを駆動信号としてベーン回動機構へ伝達、ベーンを回転する(ステップ207,ステップ208)。
【0045】
上記したような一連の処理を部分負荷運転時等に作動させることで、図15に示す通りベーン制御を実施した場合には圧縮機効率が改善される。また、本実施例では測定項目として遠心圧縮機の入口圧力P1,入口温度T1,出口圧力P4,出口温度T4及びエコノマイザ圧力Pecoを適用した。これらの項目は一般的なターボ冷凍機において運転状態を把握する為に使用されており、例えば従来機に対し新たなセンサを設置すること無く改良できるので、低コストかつ簡便な手法であると言える。
【符号の説明】
【0046】
1 遠心圧縮機
2 凝縮器
3 受液器
4 エコノマイザ
5 蒸発器
6 モータ
7 駆動装置
8 演算処理器
9 回転軸
10 羽根車
10a 羽根車1段目
10b 羽根車2段目
11 ディフューザ
12 リターン流路
13 上流ガイドベーン
14 下流ガイドベーン
15 下流ガイドベーン回転軸
16 スクロール
17 インレットガイドベーン
18 固定ガイドベーン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の羽根車と、各羽根車の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐ多段のリターン流路とを備えた遠心圧縮機において、
前記リターン流路の少なくとも1段に固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンを周方向複数枚設置し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し且つ上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁の間に隙間を形成し後段羽根車に予旋回角を与えるように構成され、
上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの半径方向長さが同一であるように設定されることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の遠心圧縮機において、
前記下流ガイドベーンの回転軸支位置が下流ガイドベーン半径方向長さの中央から後縁の間にあることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の遠心圧縮機により断熱圧縮され吐出した冷媒を放熱冷却する凝縮器と、冷却された冷媒を絞り膨張させる膨張手段と、膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備えるターボ冷凍機において、
前記圧縮機の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数を測定する手段と、この測定手段からの出力を入力として後段羽根車への流入角と、前記流入角及びデータベースに基づき前記下流ガイドベーンのベーン回転角度とを計算する演算処理器と、この演算処理器からの出力を入力として前記下流ガイドベーンのベーン角度を変更する駆動装置とを備えることを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項4】
請求項3記載のターボ冷凍機において、
前記測定手段からの出力に基づいて決定されるエンタルピを用いて冷媒循環量を求め、
前記冷媒循環量と後段羽根車の入口部での冷媒の子午面速度とを用いて前記流入角を求めることを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項5】
請求項4記載のターボ冷凍機において、
前記遠心圧縮機の羽根車流入角が定格運転での羽根車流入角と同一となるよう下流ガイドベーンのベーン角度を変更することを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項1】
複数段の羽根車と、各羽根車の外周に配設されたディフューザと、ディフューザと後段羽根車とを繋ぐ多段のリターン流路とを備えた遠心圧縮機において、
前記リターン流路の少なくとも1段に固定式の上流ガイドベーン及び可動式の下流ガイドベーンを周方向複数枚設置し、定格運転では上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁を結んだ線が半径方向を向くよう配設され、部分負荷運転では下流ガイドベーンが回転軸中心に回転し且つ上流ガイドベーン後縁と下流ガイドベーン前縁の間に隙間を形成し後段羽根車に予旋回角を与えるように構成され、
上流ガイドベーンと下流ガイドベーンの半径方向長さが同一であるように設定されることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の遠心圧縮機において、
前記下流ガイドベーンの回転軸支位置が下流ガイドベーン半径方向長さの中央から後縁の間にあることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の遠心圧縮機により断熱圧縮され吐出した冷媒を放熱冷却する凝縮器と、冷却された冷媒を絞り膨張させる膨張手段と、膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器とを備えるターボ冷凍機において、
前記圧縮機の入口圧力,入口温度,出口圧力,出口温度,回転数を測定する手段と、この測定手段からの出力を入力として後段羽根車への流入角と、前記流入角及びデータベースに基づき前記下流ガイドベーンのベーン回転角度とを計算する演算処理器と、この演算処理器からの出力を入力として前記下流ガイドベーンのベーン角度を変更する駆動装置とを備えることを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項4】
請求項3記載のターボ冷凍機において、
前記測定手段からの出力に基づいて決定されるエンタルピを用いて冷媒循環量を求め、
前記冷媒循環量と後段羽根車の入口部での冷媒の子午面速度とを用いて前記流入角を求めることを特徴とするターボ冷凍機。
【請求項5】
請求項4記載のターボ冷凍機において、
前記遠心圧縮機の羽根車流入角が定格運転での羽根車流入角と同一となるよう下流ガイドベーンのベーン角度を変更することを特徴とするターボ冷凍機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−140963(P2012−140963A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52469(P2012−52469)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−116558(P2008−116558)の分割
【原出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2008−116558(P2008−116558)の分割
【原出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]