遠隔監視システム
【課題】 地震発生時に通信回線の利用効率を高め、地震検知信号とは別の地震とは無関係な信号も確実に受信可能とする。
【解決手段】 地震発生時に時間差で伝わってくる第1および第2の信号を検知する地震センサ15,16と、前記第1の信号検知に基づいてエレベータの管制運転モードを起動させる切替え信号を運転制御部11に送出する管制運転起動信号発生手段122と、前記第2の信号検知に基づいてエレベータの停止指示信号を前記運転制御部に送出するエレベータ停止指示信号発生手段124と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線3に送信する地震検知信号送信手段125とを備えた監視対象物件の地震検知制御部12と、通信回線に接続され、広域に点在する監視対象物件の地震検知制御部から送信されてセンサ検知信号を監視する監視装置2とを設けた遠隔監視システムである。
【解決手段】 地震発生時に時間差で伝わってくる第1および第2の信号を検知する地震センサ15,16と、前記第1の信号検知に基づいてエレベータの管制運転モードを起動させる切替え信号を運転制御部11に送出する管制運転起動信号発生手段122と、前記第2の信号検知に基づいてエレベータの停止指示信号を前記運転制御部に送出するエレベータ停止指示信号発生手段124と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線3に送信する地震検知信号送信手段125とを備えた監視対象物件の地震検知制御部12と、通信回線に接続され、広域に点在する監視対象物件の地震検知制御部から送信されてセンサ検知信号を監視する監視装置2とを設けた遠隔監視システムである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視センタから遠隔地の物件を監視する遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔監視対象の物件における地震の影響を把握するために、監視対象物件の適宜な個所(例えばエレベータの昇降路内のピット底部、昇降路上部の機械室、昇降路壁など)にP波地震センサおよびS波地震センサが設置されている。図11の概念図で示すように、P波101は縦波または粗密波と呼ばれ、地盤崩壊等による震源102から岩盤103を伝わって最初に建物104に到達する小さな衝撃波である。S波105は横波と呼ばれ、P波が到達した後に岩盤103を伝わってくる大きな揺れの波である。P波は地盤の密度や剛性(堅さの一種)によって多少異なるが、P波の速度は1秒間に約6km、S波は1秒間に3.5kmと言われている。すなわち、P波はS波の2倍近く伝わる速度が速い。
【0003】
従来のエレベータ制御装置は、P波地震センサでP波を検知すると、地震による管制運転モードに切替わり、当該管制運転モードにより各エレベータ号機の運転を行う。エレベータ制御装置は、P波を検知した後、所定時間内にS波地震センサでS波を検知すると、各エレベータの号機の運転を停止させている。
【0004】
また、エレベータ制御装置は、P波およびS波を検知すると、そのP波検知信号およびS波検知信号を通信回線を通して遠隔地の監視センタの監視装置に送信する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に監視センタは、保守契約のもとに広い地域にわたって多数の監視対象物件(保守対象物件)を監視している。そのため、広域災害である地震が発生すると、広域にわたって点在する多数の監視対象物件に設置されるP波地震センサおよびS波地震センサが一斉に反応する。そして、各監視対象物件のエレベータ制御装置から通信回線を通してP波およびS波の検知信号が一斉に監視センタに送信される。その結果、監視センタは通信負荷オーバーにより通信不能に陥ってしまう。
【0006】
このような事態が発生すると、地震発生地域から比較的遠い地域で発生した信号(例えば乗りかご内からの非常呼び信号や、顧客からのカスタマーコール等)が発報されたとしても、監視センタ側の通信回線がパンク状態となっているので、これらの信号を受信できなくなる。したがって、遠隔監視システム全体に大きな影響の及ぶ可能性があり、監視対象物件の安全確保も難しくなる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、地震発生時であっても通信回線をできるだけ確保し、監視性能を維持することのできる遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る遠隔監視システムは、地震発生時に時間差をもって伝播する第1および第2の信号を検知する地震センサと、
前記第1の信号の検知に基づいて昇降機の管制運転モードを起動させるための切替え信号を運転制御部に送出する管制運転起動信号発生手段と、前記第2の信号の検知に基づいて昇降機の停止指示信号を前記運転制御部に送出する停止指示信号発生手段と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線を介して送信する地震検知信号送信手段とを備えた監視対象物件の地震検知制御部と、
前記通信回線に接続され、前記監視対象物件から送信されてくる前記センサ検知信号を受信する監視装置とを備えた構成である。
【0009】
前記監視装置は、前記監視対象物件の物件名を含む所定の監視対象物件情報をテーブル化して記憶する記憶手段と、前記各監視対象物件からセンサ検知信号を受けると、該当する物件名に対応付けて物件現在情報を書き込む物件情報受信書込み手段と、この物件現在情報の種別に応じたマーキング処理を施すマーキング処理手段と、このマーキング処理を施した後、前記テーブル上の監視対象物件情報を表示する物件情報表示手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震発生時に通信回線の利用回数を確保でき、監視性能を維持することのできる遠隔監視システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明に係る遠隔監視システムの一実施の形態を示す構成図である。
遠隔監視システムは、広域にわたって点在する多数の監視対象物件1,…と、遠隔地に設置される監視センタ内の監視装置2とが通信回線3で接続されている。ここで、監視対象物件1とは保守契約のもとに定期的または非常時の保守管理を行うエレベータ設備を意味する。各監視対象物件1,…にはそれぞれエレベータ制御装置4が設置されている。
【0012】
エレベータ制御装置4は、乗場呼びやかご呼びに応答して各エレベータ号機(図示せず)を目的階に向けて運転制御する運転制御部11と地震発生を検知する地震検知制御部12とを有する。
【0013】
運転制御部11は、速度指令に従って電力変換装置(図示せず)を制御し、当該電力変換装置から得られる可変の電圧,周波数の交流電力を用いて巻上機13を駆動制御する。この巻上機13には図示されていないがメインロープが巻き掛けられ、そのメインロープの一端部には乗りかご、当該メインロープの他端部には釣り合いおもりが吊下されている。また、運転制御部11は地震発生時にエレベータ利用者に所定の情報を提供するためのメッセージデータを格納するメッセージデータ設定部14を備えている。
【0014】
一方、地震検知制御部12にはP波地震センサ15およびS波地震センサ16が接続されている。これら地震センサ15,16は、監視対象物件1の適宜な個所(例えば昇降路内のピット底部、昇降路上部の機械室、昇降路の壁部その他エレベータを設置する建物の適宜な個所等)に設置される。
【0015】
P波地震センサ15は、地盤崩壊等による震源から岩盤を伝わって最初に到達するP波(縦波)を検知し、地震検知制御部12に送出する。S波地震センサ16は、P波が到達した後に岩盤を伝わってくる大きな揺れを伴ったS波(横波)を検知し、地震検知制御部12に送出する。
【0016】
地震検知制御部12は、各地震センサ15,16のP波検知の信号およびS波検知の信号に基づき、運転制御部11には運転変更指示信号を送出し、また監視装置2にはS波検知信号だけを送信(後述)する。
【0017】
監視装置2は、各監視対象物件1,…の地震検知制御部12,…から送信されてくるS波検知信号を受信すると、監視対象物件1ごとにS波検知によってエレベータが停止中であることを記憶し表示する機能を有する。
【0018】
図2は地震検知制御部12の内部構成を示す機能ブロック図である。
各地震検知制御部12は所定のプログラムデータに従って所定の制御を実行するCPUが設けられている。機能的には、P波レベル設定部121、管制運転起動信号発生手段122、S波レベル設定部123、エレベータ停止指示信号発生手段124、地震検知信号送信手段125、物件識別データ設定部126を有する。
【0019】
P波レベル設定部121にはP波を検知するための所定レベル(例えばマグニチュードM3以上M5未満(小地震)の間で発生すると予想される所定の信号レベル等)が設定される。管制運転指示信号発生手段122は、P波地震センサ15から送られてくる信号レベルとP波レベル設定部121に設定される所定の設定信号レベルとを比較し、センサ信号レベルが設定レベルを越えたとき、P波検知と判断し、地震による管制運転モードを起動するための信号を運転制御部11に送出する。ここで、地震による管制運転モードとは、各エレベータ号機を例えば最寄階まで運転し、最寄階に到着した後に戸開して乗客を降ろした後、戸閉して所定時間の間(例えばS波検知まで)一時休止する運転モードである。
【0020】
S波レベル設定部123にはS波を検知するための所定レベル(例えばマグニチュードM3以上M5未満(小地震)の間の所定の信号レベル等)が設定される。エレベータ停止指示信号発生手段124は、S波地震センサ16から送られてくる信号レベルとS波レベル設定部123の設定レベルとを比較し、センサ信号レベルが設定レベルを越えたとき、S波検知と判断し、エレベータ停止指示信号を運転制御部11に送出するとともに、S波検知信号を地震検知信号送信手段125に送出する。地震検知信号送信手段125は、S波検知信号を受け取ると、物件識別データ設定部126に設定される物件識別データと共に通信回線を介してS波検知信号を監視装置2に送信する。
【0021】
図3は監視装置2の一構成例を示す図である。
監視装置2は、処理手順を規定するプログラムデータを記憶するプログラムメモリ21、監視制御処理部22、入力部23、バッフアメモリ24、表示部25およびセンタデータベース26を備えている。
【0022】
監視制御処理部22は、各地震検知制御部12から物件識別データ付きS波検知信号を受信すると、図4に示す監視対象物件情報テーブルに物件現在情報として記憶し表示する。入力部23は所定のデータを入力し、図4に示す監視対象物件情報テーブルを作成するとともに、必要に応じて制御指令を入力する。監視対象物件情報テーブルは、表形式で表したもので、監視対象地域(例えば東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県等)ごとに対象物件識別データ、物件名(建物名)、物件住所、物件現在情報、マーキングデータ等に項目分けし、各監視対象物件1,…から発報される物件現在情報を記録する。
【0023】
バッフアメモリ24は、各監視対象物件1,…から送信されてくる物件識別データおよびS波検知信号の他、例えば物件識別データと共に乗りかごから送られてくる音声通話によるトスコールなどの点検信号、かご閉じ込めによる非常呼び信号その他必要な様々なデータを一時的に記憶する機能を持っている。表示部25は、図4に示す監視対象物件情報テーブルに記憶される物件情報のうち、例えばマーキングデータを除いた情報を表示する。
【0024】
前記監視制御処理部22としては、CPUで構成され、機能的には、図5に示すように、物件情報受信書込み手段221と、マーキング処理手段222と、物件情報表示手段223とで構成される。
【0025】
物件情報受信書込み手段221は、各地震検知制御部12から物件識別データ付きS波検知信号を受け取ると、センタデータベース26に格納されている監視対象物件情報テーブルから監視対象物件名を特定し、当該物件名に対応する物件現在情報エリアにエレベータ停止データを書き込む。マーキング処理手段222は、図4に示す監視対象物件情報を表示するに際し、物件現在情報の種別ごとにセンタデータベース26に規定されるマーキングデータに従ってマーキングを施す処理を行う。ここで、物件現在情報の種別とは、例えばエレベータ停止、かご閉じによる非常呼び、点検作業中、火災発生等々である。物件情報表示手段223は、マーキングデータを除く図4に示す監視対象物件情報を表示部25に教示する。
【0026】
次に、以上のように構成された遠隔監視システムの動作について、図6ないし図8を参照して説明する。
先ず、各監視対象物件1,…におけるエレベータ制御装置4の地震検知制御部12は、常時、P波地震センサ15およびS波地震センサ16の出力を取り込み、地震発生の有無を監視している。すなわち、地震検知制御部12は、P波地震センサ15から送られてくるP波信号を取り込み(S1)、この信号レベルとP波レベル設定部121の設定レベルとを比較し、地震発生によるP波を検知したか否かを判断する(S2)。ここで、受信信号レベルが設定レベルに達していない場合にはステップS1に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。
【0027】
また、受信信号レベルが設定レベルを越えたとき、P波を検知したと判断し、運転制御部11に対して地震による管制運転モードを起動させるための信号を送出する(S3)。これらステップS1〜S3は図2に示す管制運転起動信号発生手段122に相当する。
【0028】
運転制御部11は、地震検知制御部12から管制運転モードの起動信号を受けると、予め定める地震による管制運転モードに切替え、管制運転モードによる運転制御を行う。地震による管制運転モードとは、乗りかごを最寄階まで運転し、最寄階に到着したときに戸開し、乗客を降ろした後に戸閉し、一時休止するモードである。そこで、運転制御部11は、各エレベータ号機を最寄階に向けて運転中、メッセージデータ設定部14からメッセージデータを読み出し、乗りかご内に発報する。具体的には、図7(a)に示すメッセージ(例えば「地震発生の可能性有り。最寄階に一時休止します」等)を読み出し、各エレベータ号機の乗りかご内に設置する音声発生器から音声出力するか、或いはかご内に表示器が設置されている場合には表示機に表示する。このように乗りかご内にメッセージを発報することにより、乗りかご内の全ての乗客が最寄階で降りることを促す効果がある。
【0029】
一方、地震検知制御部12は、P波検知後、S波地震センサ16から送られてくる信号を取り込み(S4)、この信号レベルとS波レベル設定部123の設定レベルとを比較し、地震発生によるS波を検知したか否かを判断する(S5)。ここで、受信信号レベルが設定レベルに達していない場合にはステップS1に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。一方、受信信号レベルが設定レベルを越えた場合にはS波を検知したと判断し、運転制御部11に対して運転停止指示信号を送出する(S6)。これらステップS4〜S6は図2に示すエレベータ停止指示信号発生手段124に相当する。
【0030】
また、地震検知制御部12は、S波を検知すると、物件識別データ設定部126から物件識別データ「例えば10001」を取り出し、S波検知信号(例えばオン・オフ信号等)に付加し、監視装置2に送信する(S7)。すなわち、地震検知制御部12は、P波を検知した段階では監視装置2に対してP波検知の旨を送信せず、S波検知と判断した段階で監視装置2に対してS波検知信号を送信する。これにより、通信回線3の利用回数をほぼ半減させると共に、監視装置2側では少なくともエレベータが停止状態に入っていることが認識できる。このステップS7は図2に示す地震検知信号送信手段125に相当する。
【0031】
前記運転制御部11は、地震検知制御部12からエレベータ停止信号を受けると、各エレベータ号機に対して運転停止を行うと共に、メッセージデータ設定部14からメッセージデータを読み出し、乗りかご内や各階乗場に発報する。具体的には、図7(b)に示すメッセージ(例えば「地震が発生しました。エレベータを停止します」とか、「地震発生のために○階に停止中です」等)を読み出し、各エレベータ号機の乗りかご内に設置する音声発生器から音声出力するとか、各階乗場の表示器に表示する。このように各階乗場に待機中のエレベータ利用者に対して、エレベータの運転状態を知らせることにより、冷静な行動を促す効果がある。
【0032】
このとき、監視センタ内の監視装置2は次のような処理を実行する。すなわち、監視装置2の監視処理制御部22は、各監視対象物件1,…から送信されてくる物件識別データ付きS波検知信号を取り込み、順次バッフアメモリ24等に記憶し、所定の処理を実行する(図8参照)。
【0033】
監視装置2の監視処理制御部22は、常時はプログラムメモリ21のプログラムデータに従い、初期化処理を行った後(S11)、各監視対象物件1,…からの物件情報(物件識別データ付きS波検知信号)を受信したか否かを判断する(S12)。受信していない場合には受信待機状態となる。一方、物件情報を受信した場合には当該物件情報の物件識別データ(例えば10001)に基づき、図4に示す監視対象物件情報テーブルの対象物件識別データを参照し、物件名「××Aビル」を特定する。そして、この物件名に対応する物件現在情報エリアにS波検知信号に基づくエレベータ停止中「物件現在情報種別01」を書き込む(S13)。これらステップS12,S13は図5に示す物件情報受信書込み手段221に相当する。
【0034】
引き続き、監視装置2は物件現在情報の書込み後、マーキング処理を行うか否かを判断する(S14)。ここで、マーキング処理を行うと判断した場合には、マーキングデータエリアのマーキングデータに基づき、該当物件名に対応する監視対象物件情報に対してマーキング処理を施す(S15)。マーキング処理とは、各監視対象物件1,…が現在どのような状態になっているかを一目瞭然に認識できるようにする為である。例えば現在エレベータ停止中なのか、かご閉じ込めによる非常呼びの状態なのかを認識可能にさせるものであり、逆にマーキングが施されていない場合には予め設定させる原因に該当せずに正常な運転状態にあることを把握できる。これらステップS14,S15は図5に示すマーキング処理手段222に相当する。
【0035】
監視装置2は、マーキング処理を施した後、図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報のうち、マーキングデータを除く監視対象物件情報を順次読み出して表示部25に表示する(S16)。このステップS16は図5に示す物件情報表示手段223に相当する。そして、監視対象物件を表示した後、継続表示するか否かを判断し(S17)、継続表示する場合にはステップS12に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。
【0036】
従って、以上のような実施の形態では、次のような効果を奏する。地震発生時にほとんど必ずP波とS波が発生するが、従来は各地震センサ15,16で検知したP波検知信号及びS波検知信号を両方とも監視装置2に送信していた。しかし、広域にわたって点在する各監視対象物件1,…から一斉に上記検知信号が通信回線3に送り込まれた場合、監視装置2に接続される通信回線3はパンク状態となる。これに対し、本発明に係る遠隔監視システムでは、P波を検知したとき、地震による管制運転モードの起動信号だけ運転制御部11に送出し、監視装置2への送信は行わない。そして、その後にS波を検知したときにS波検知信号を監視装置2に送信するので、通信回線3に対する利用回数がほぼ半減し、その減少分に相当する通信回線3の利用を地震発生以外の他の監視対象物件1,…からの物件情報に振り分けることができる。その結果、地震発生時であっても、地震発生地域外の地域に点在する監視対象物件1,…に関する様々な物件情報を確実に受信できる。このことは、地震以外の非常に重要な物件情報も確実に監視でき、現場に迅速に保守員を出動させることを意味する。
【0037】
また、この遠隔監視システムは、監視装置2が物件現在情報の種別に基づいて各監視対象物件1,…ごとにマーキングを施して表示することにより、各監視対象物件1,…が現在どのような状態にあるのか一目瞭然に認識でき、各監視対象物件1,…ごとに当該物件の状況に応じた保守用具等を持参の上、保守員を出動させることができる。つまり、迅速に保守作業を進めることが可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
この実施の形態は、相当広範囲の地域にわたる監視対象物件1,…を監視するとか、或いは各監視対象地域(例えば東京都、神奈川県等)ごとに多数の監視対象物件1,…を抱えている遠隔監視システムに有効な構成を実現することにあり、図3を参照して説明する。
【0039】
この遠隔監視システムは、監視センタ内に複数の監視装置2,…が設置されている。各監視装置2は、監視対象地域ごとに多数の監視対象物件1,…を抱えていることから、各監視対象地域に分けて、分散監視する。つまり、1つの監視装置2は、東京都地域を監視し、他の1つの監視装置2は神奈川県地域を監視する。
【0040】
そこで、本発明に係る遠隔監視システムとしては、内部ネットワーク(LAN等)31に各監視装置2,…を分散配置する。また、内部ネットワーク31には表示用コンピュータ32を介して大型表示ボード33が接続される。表示用コンピュータ32は、各監視装置2,…から転送されてくる監視対象物件情報を監視対象地域別に並べて大型表示ボード33に表示する。
【0041】
よって、各監視装置2には個別的に表示部25が設けられているが、地震発生時には広域に被害を及ぼすことから、全体の監視装置2,…は大型表示ボード33を利用することを可能とする。
【0042】
図9は、かかる遠隔監視システムにおける各監視装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。各監視装置2は、図5と同様に、物件情報受信書込み手段221、マーキング処理手段222、物件情報表示手段223を有する他、新たに特定物件抽出表示手段224および特定物件全件転送手段225を備えている。なお、物件情報受信書込み手段221、マーキング処理手段222、物件情報表示手段223については図5の説明に譲る。
【0043】
特定物件抽出表示手段224は、図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報の中から特定の物件現在情報種別(例えばエレベータ停止中「01」等の物件名に関する監視対象物件情報を抽出する。特定物件全件転送手段225は抽出した全部の監視対象物件情報を内部ネットワーク31に転送し、表示用コンピュータ32を介して大型表示ボード33に表示する。
【0044】
次に、以上のような遠隔監視システムにおける監視装置2の動作について図10を参照して説明する。なお、動作の重複的な説明を避けるために、ステップS11〜S16については、既に図8で説明しているので省略する。
【0045】
監視装置2の監視処理制御部22は、表示部25に監視対象物件情報を表示した後、物件現在情報のうち、エレベータ停止中の種別の物件現在情報を表示するか否かを判断する(S21)。例えば地震発生時には地震の影響を受けている監視対象物件だけを表示したい要求があり、また地震発生以外の場合にはかご内閉じ込めの非常呼びを表示したい場合がある。
【0046】
そこで、監視員は、入力部23からエレベータ停止を表すデータ「01」および物件抽出指示を入力する。監視処理制御部22は、データ「01」を有する物件抽出指示を受けると、エレベータ停止中の種別の物件現在情報を表示すると判断する。そして、エレベータ停止中の物件情報だけを抽出し(S22)、表示部25に表示する(S23)。なお、特定の物件現在情報種別の抽出は、エレベータ停止中に限らないことは前述した通りである。これらステップS21〜S23は図9に示す特定物件抽出表示手段224に相当する。
【0047】
引き続き、監視処理制御部22は、表示用コンピュータ32に転送するか否かを判断する(S24)。ここで、予め設定されるフラグあるいは入力部23から転送指示入力があれば、抽出物件情報を転送すると判断し、エレベータ停止中に関する図4に示す全部の監視対象物件情報を表示用コンピュータ32に転送する(S25,S26)。これらステップS24〜S26は図9に示す特定物件全件転送手段225に相当する。
【0048】
表示用コンピュータ32は、各監視装置2,…から特定の監視対象物件情報を受けると、物件情報種別ごとおよび監視対象地域ごとに整順し、大型表示ボード33に表示する。この時、物件情報種別ごとに分けて交互にサイクリックに表示することができる。
【0049】
この実施の形態によれば、監視員が必要とする物件種別の監視対象物件情報だけを抽出し、表示部25に表示するので、各地域ごとにどの程度例えばエレベータが停止しているか直ちに把握できる。また、地域のどのエリアに地震発生によるエレベータ停止が多いかを容易に把握でき、保守員を出動させるときの人数を含めて万全の対策を講じることができる。
【0050】
また、監視員が必要とする物件種別の監視対象物件情報だけを抽出し、大型表示ボード33に表示させることにより、特定の地域を監視する監視員は他の地域の地震によるエレベータの影響を容易に把握できる。
【0051】
(その他の実施の形態)
(1) 上記実施の形態では、P波用とS波用の地震センサ15,16に分けたが、1つの地震センサで共用してもよい。また、P波レベル設定部121とS波レベル設定部123に分けて設けたが、1つのレベル設定部にP波用とS波用のレベルを設定してもよい。
【0052】
(2) 図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報は表示部25に表形式で表示するための情報配列例である。例えば監視対象地域の地図表示画面に監視対象物件を表示したい場合には、各物件名ごとに新たに緯度・経度情報を追加すれば、実現できる。
【0053】
(3) 上記実施の形態では、エレベータの遠隔監視を例にとって説明したが、エスカレータなどの他の昇降機設備や、その他あらゆる遠隔監視対象となり得る物件や機器に適用できる。
【0054】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る遠隔監視システムの全体構成を示す図。
【図2】図1に示す地震検知制御部を機能的に表した構成図。
【図3】図1に示す監視装置の一例を示す構成図。
【図4】図3に示すセンタデータベースに記憶される監視対象物件情報テーブルのデータ配列例を示す図。
【図5】図3に示す監視処理制御部を機能的に表した構成図。
【図6】地震検知制御部の動作手順を説明するフローチャート。
【図7】地震発生時の運転制御部から乗りかごや各階乗場に発報するメッセージの一例を示す図。
【図8】監視装置の動作手順を説明するフローチャート。
【図9】本発明に係る遠隔監視システムの他の実施の形態を説明するための監視装置の監視処理制御部を機能的に表した構成図。
【図10】他の実施の形態の動作を説明するフローチャート。
【図11】地震発生時のP波及びS波の伝播例を説明する概念図。
【符号の説明】
【0056】
1…監視対象物件、2…監視装置、3…通信回線、4…エレベータ制御装置、11…運転制御部、12…地震検知制御部、13…巻上機、15…P波地震センサ、16…S波地震センサ、22…監視処理制御部、25…表示部、26…センタデータベース、31…内部ネットワーク、32…表示用コンピュータ、33…大型表示ボード、122…管制運転起動信号発生手段、124…エレベータ停止指示信号発生手段、125…地震検知信号送信手段、221…物件情報受信書込み手段、222…マーキング処理手段、223…物件表示手段、224…特定物件抽出表示手段、225…特定物件全件転送手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視センタから遠隔地の物件を監視する遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔監視対象の物件における地震の影響を把握するために、監視対象物件の適宜な個所(例えばエレベータの昇降路内のピット底部、昇降路上部の機械室、昇降路壁など)にP波地震センサおよびS波地震センサが設置されている。図11の概念図で示すように、P波101は縦波または粗密波と呼ばれ、地盤崩壊等による震源102から岩盤103を伝わって最初に建物104に到達する小さな衝撃波である。S波105は横波と呼ばれ、P波が到達した後に岩盤103を伝わってくる大きな揺れの波である。P波は地盤の密度や剛性(堅さの一種)によって多少異なるが、P波の速度は1秒間に約6km、S波は1秒間に3.5kmと言われている。すなわち、P波はS波の2倍近く伝わる速度が速い。
【0003】
従来のエレベータ制御装置は、P波地震センサでP波を検知すると、地震による管制運転モードに切替わり、当該管制運転モードにより各エレベータ号機の運転を行う。エレベータ制御装置は、P波を検知した後、所定時間内にS波地震センサでS波を検知すると、各エレベータの号機の運転を停止させている。
【0004】
また、エレベータ制御装置は、P波およびS波を検知すると、そのP波検知信号およびS波検知信号を通信回線を通して遠隔地の監視センタの監視装置に送信する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に監視センタは、保守契約のもとに広い地域にわたって多数の監視対象物件(保守対象物件)を監視している。そのため、広域災害である地震が発生すると、広域にわたって点在する多数の監視対象物件に設置されるP波地震センサおよびS波地震センサが一斉に反応する。そして、各監視対象物件のエレベータ制御装置から通信回線を通してP波およびS波の検知信号が一斉に監視センタに送信される。その結果、監視センタは通信負荷オーバーにより通信不能に陥ってしまう。
【0006】
このような事態が発生すると、地震発生地域から比較的遠い地域で発生した信号(例えば乗りかご内からの非常呼び信号や、顧客からのカスタマーコール等)が発報されたとしても、監視センタ側の通信回線がパンク状態となっているので、これらの信号を受信できなくなる。したがって、遠隔監視システム全体に大きな影響の及ぶ可能性があり、監視対象物件の安全確保も難しくなる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、地震発生時であっても通信回線をできるだけ確保し、監視性能を維持することのできる遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る遠隔監視システムは、地震発生時に時間差をもって伝播する第1および第2の信号を検知する地震センサと、
前記第1の信号の検知に基づいて昇降機の管制運転モードを起動させるための切替え信号を運転制御部に送出する管制運転起動信号発生手段と、前記第2の信号の検知に基づいて昇降機の停止指示信号を前記運転制御部に送出する停止指示信号発生手段と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線を介して送信する地震検知信号送信手段とを備えた監視対象物件の地震検知制御部と、
前記通信回線に接続され、前記監視対象物件から送信されてくる前記センサ検知信号を受信する監視装置とを備えた構成である。
【0009】
前記監視装置は、前記監視対象物件の物件名を含む所定の監視対象物件情報をテーブル化して記憶する記憶手段と、前記各監視対象物件からセンサ検知信号を受けると、該当する物件名に対応付けて物件現在情報を書き込む物件情報受信書込み手段と、この物件現在情報の種別に応じたマーキング処理を施すマーキング処理手段と、このマーキング処理を施した後、前記テーブル上の監視対象物件情報を表示する物件情報表示手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震発生時に通信回線の利用回数を確保でき、監視性能を維持することのできる遠隔監視システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明に係る遠隔監視システムの一実施の形態を示す構成図である。
遠隔監視システムは、広域にわたって点在する多数の監視対象物件1,…と、遠隔地に設置される監視センタ内の監視装置2とが通信回線3で接続されている。ここで、監視対象物件1とは保守契約のもとに定期的または非常時の保守管理を行うエレベータ設備を意味する。各監視対象物件1,…にはそれぞれエレベータ制御装置4が設置されている。
【0012】
エレベータ制御装置4は、乗場呼びやかご呼びに応答して各エレベータ号機(図示せず)を目的階に向けて運転制御する運転制御部11と地震発生を検知する地震検知制御部12とを有する。
【0013】
運転制御部11は、速度指令に従って電力変換装置(図示せず)を制御し、当該電力変換装置から得られる可変の電圧,周波数の交流電力を用いて巻上機13を駆動制御する。この巻上機13には図示されていないがメインロープが巻き掛けられ、そのメインロープの一端部には乗りかご、当該メインロープの他端部には釣り合いおもりが吊下されている。また、運転制御部11は地震発生時にエレベータ利用者に所定の情報を提供するためのメッセージデータを格納するメッセージデータ設定部14を備えている。
【0014】
一方、地震検知制御部12にはP波地震センサ15およびS波地震センサ16が接続されている。これら地震センサ15,16は、監視対象物件1の適宜な個所(例えば昇降路内のピット底部、昇降路上部の機械室、昇降路の壁部その他エレベータを設置する建物の適宜な個所等)に設置される。
【0015】
P波地震センサ15は、地盤崩壊等による震源から岩盤を伝わって最初に到達するP波(縦波)を検知し、地震検知制御部12に送出する。S波地震センサ16は、P波が到達した後に岩盤を伝わってくる大きな揺れを伴ったS波(横波)を検知し、地震検知制御部12に送出する。
【0016】
地震検知制御部12は、各地震センサ15,16のP波検知の信号およびS波検知の信号に基づき、運転制御部11には運転変更指示信号を送出し、また監視装置2にはS波検知信号だけを送信(後述)する。
【0017】
監視装置2は、各監視対象物件1,…の地震検知制御部12,…から送信されてくるS波検知信号を受信すると、監視対象物件1ごとにS波検知によってエレベータが停止中であることを記憶し表示する機能を有する。
【0018】
図2は地震検知制御部12の内部構成を示す機能ブロック図である。
各地震検知制御部12は所定のプログラムデータに従って所定の制御を実行するCPUが設けられている。機能的には、P波レベル設定部121、管制運転起動信号発生手段122、S波レベル設定部123、エレベータ停止指示信号発生手段124、地震検知信号送信手段125、物件識別データ設定部126を有する。
【0019】
P波レベル設定部121にはP波を検知するための所定レベル(例えばマグニチュードM3以上M5未満(小地震)の間で発生すると予想される所定の信号レベル等)が設定される。管制運転指示信号発生手段122は、P波地震センサ15から送られてくる信号レベルとP波レベル設定部121に設定される所定の設定信号レベルとを比較し、センサ信号レベルが設定レベルを越えたとき、P波検知と判断し、地震による管制運転モードを起動するための信号を運転制御部11に送出する。ここで、地震による管制運転モードとは、各エレベータ号機を例えば最寄階まで運転し、最寄階に到着した後に戸開して乗客を降ろした後、戸閉して所定時間の間(例えばS波検知まで)一時休止する運転モードである。
【0020】
S波レベル設定部123にはS波を検知するための所定レベル(例えばマグニチュードM3以上M5未満(小地震)の間の所定の信号レベル等)が設定される。エレベータ停止指示信号発生手段124は、S波地震センサ16から送られてくる信号レベルとS波レベル設定部123の設定レベルとを比較し、センサ信号レベルが設定レベルを越えたとき、S波検知と判断し、エレベータ停止指示信号を運転制御部11に送出するとともに、S波検知信号を地震検知信号送信手段125に送出する。地震検知信号送信手段125は、S波検知信号を受け取ると、物件識別データ設定部126に設定される物件識別データと共に通信回線を介してS波検知信号を監視装置2に送信する。
【0021】
図3は監視装置2の一構成例を示す図である。
監視装置2は、処理手順を規定するプログラムデータを記憶するプログラムメモリ21、監視制御処理部22、入力部23、バッフアメモリ24、表示部25およびセンタデータベース26を備えている。
【0022】
監視制御処理部22は、各地震検知制御部12から物件識別データ付きS波検知信号を受信すると、図4に示す監視対象物件情報テーブルに物件現在情報として記憶し表示する。入力部23は所定のデータを入力し、図4に示す監視対象物件情報テーブルを作成するとともに、必要に応じて制御指令を入力する。監視対象物件情報テーブルは、表形式で表したもので、監視対象地域(例えば東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県等)ごとに対象物件識別データ、物件名(建物名)、物件住所、物件現在情報、マーキングデータ等に項目分けし、各監視対象物件1,…から発報される物件現在情報を記録する。
【0023】
バッフアメモリ24は、各監視対象物件1,…から送信されてくる物件識別データおよびS波検知信号の他、例えば物件識別データと共に乗りかごから送られてくる音声通話によるトスコールなどの点検信号、かご閉じ込めによる非常呼び信号その他必要な様々なデータを一時的に記憶する機能を持っている。表示部25は、図4に示す監視対象物件情報テーブルに記憶される物件情報のうち、例えばマーキングデータを除いた情報を表示する。
【0024】
前記監視制御処理部22としては、CPUで構成され、機能的には、図5に示すように、物件情報受信書込み手段221と、マーキング処理手段222と、物件情報表示手段223とで構成される。
【0025】
物件情報受信書込み手段221は、各地震検知制御部12から物件識別データ付きS波検知信号を受け取ると、センタデータベース26に格納されている監視対象物件情報テーブルから監視対象物件名を特定し、当該物件名に対応する物件現在情報エリアにエレベータ停止データを書き込む。マーキング処理手段222は、図4に示す監視対象物件情報を表示するに際し、物件現在情報の種別ごとにセンタデータベース26に規定されるマーキングデータに従ってマーキングを施す処理を行う。ここで、物件現在情報の種別とは、例えばエレベータ停止、かご閉じによる非常呼び、点検作業中、火災発生等々である。物件情報表示手段223は、マーキングデータを除く図4に示す監視対象物件情報を表示部25に教示する。
【0026】
次に、以上のように構成された遠隔監視システムの動作について、図6ないし図8を参照して説明する。
先ず、各監視対象物件1,…におけるエレベータ制御装置4の地震検知制御部12は、常時、P波地震センサ15およびS波地震センサ16の出力を取り込み、地震発生の有無を監視している。すなわち、地震検知制御部12は、P波地震センサ15から送られてくるP波信号を取り込み(S1)、この信号レベルとP波レベル設定部121の設定レベルとを比較し、地震発生によるP波を検知したか否かを判断する(S2)。ここで、受信信号レベルが設定レベルに達していない場合にはステップS1に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。
【0027】
また、受信信号レベルが設定レベルを越えたとき、P波を検知したと判断し、運転制御部11に対して地震による管制運転モードを起動させるための信号を送出する(S3)。これらステップS1〜S3は図2に示す管制運転起動信号発生手段122に相当する。
【0028】
運転制御部11は、地震検知制御部12から管制運転モードの起動信号を受けると、予め定める地震による管制運転モードに切替え、管制運転モードによる運転制御を行う。地震による管制運転モードとは、乗りかごを最寄階まで運転し、最寄階に到着したときに戸開し、乗客を降ろした後に戸閉し、一時休止するモードである。そこで、運転制御部11は、各エレベータ号機を最寄階に向けて運転中、メッセージデータ設定部14からメッセージデータを読み出し、乗りかご内に発報する。具体的には、図7(a)に示すメッセージ(例えば「地震発生の可能性有り。最寄階に一時休止します」等)を読み出し、各エレベータ号機の乗りかご内に設置する音声発生器から音声出力するか、或いはかご内に表示器が設置されている場合には表示機に表示する。このように乗りかご内にメッセージを発報することにより、乗りかご内の全ての乗客が最寄階で降りることを促す効果がある。
【0029】
一方、地震検知制御部12は、P波検知後、S波地震センサ16から送られてくる信号を取り込み(S4)、この信号レベルとS波レベル設定部123の設定レベルとを比較し、地震発生によるS波を検知したか否かを判断する(S5)。ここで、受信信号レベルが設定レベルに達していない場合にはステップS1に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。一方、受信信号レベルが設定レベルを越えた場合にはS波を検知したと判断し、運転制御部11に対して運転停止指示信号を送出する(S6)。これらステップS4〜S6は図2に示すエレベータ停止指示信号発生手段124に相当する。
【0030】
また、地震検知制御部12は、S波を検知すると、物件識別データ設定部126から物件識別データ「例えば10001」を取り出し、S波検知信号(例えばオン・オフ信号等)に付加し、監視装置2に送信する(S7)。すなわち、地震検知制御部12は、P波を検知した段階では監視装置2に対してP波検知の旨を送信せず、S波検知と判断した段階で監視装置2に対してS波検知信号を送信する。これにより、通信回線3の利用回数をほぼ半減させると共に、監視装置2側では少なくともエレベータが停止状態に入っていることが認識できる。このステップS7は図2に示す地震検知信号送信手段125に相当する。
【0031】
前記運転制御部11は、地震検知制御部12からエレベータ停止信号を受けると、各エレベータ号機に対して運転停止を行うと共に、メッセージデータ設定部14からメッセージデータを読み出し、乗りかご内や各階乗場に発報する。具体的には、図7(b)に示すメッセージ(例えば「地震が発生しました。エレベータを停止します」とか、「地震発生のために○階に停止中です」等)を読み出し、各エレベータ号機の乗りかご内に設置する音声発生器から音声出力するとか、各階乗場の表示器に表示する。このように各階乗場に待機中のエレベータ利用者に対して、エレベータの運転状態を知らせることにより、冷静な行動を促す効果がある。
【0032】
このとき、監視センタ内の監視装置2は次のような処理を実行する。すなわち、監視装置2の監視処理制御部22は、各監視対象物件1,…から送信されてくる物件識別データ付きS波検知信号を取り込み、順次バッフアメモリ24等に記憶し、所定の処理を実行する(図8参照)。
【0033】
監視装置2の監視処理制御部22は、常時はプログラムメモリ21のプログラムデータに従い、初期化処理を行った後(S11)、各監視対象物件1,…からの物件情報(物件識別データ付きS波検知信号)を受信したか否かを判断する(S12)。受信していない場合には受信待機状態となる。一方、物件情報を受信した場合には当該物件情報の物件識別データ(例えば10001)に基づき、図4に示す監視対象物件情報テーブルの対象物件識別データを参照し、物件名「××Aビル」を特定する。そして、この物件名に対応する物件現在情報エリアにS波検知信号に基づくエレベータ停止中「物件現在情報種別01」を書き込む(S13)。これらステップS12,S13は図5に示す物件情報受信書込み手段221に相当する。
【0034】
引き続き、監視装置2は物件現在情報の書込み後、マーキング処理を行うか否かを判断する(S14)。ここで、マーキング処理を行うと判断した場合には、マーキングデータエリアのマーキングデータに基づき、該当物件名に対応する監視対象物件情報に対してマーキング処理を施す(S15)。マーキング処理とは、各監視対象物件1,…が現在どのような状態になっているかを一目瞭然に認識できるようにする為である。例えば現在エレベータ停止中なのか、かご閉じ込めによる非常呼びの状態なのかを認識可能にさせるものであり、逆にマーキングが施されていない場合には予め設定させる原因に該当せずに正常な運転状態にあることを把握できる。これらステップS14,S15は図5に示すマーキング処理手段222に相当する。
【0035】
監視装置2は、マーキング処理を施した後、図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報のうち、マーキングデータを除く監視対象物件情報を順次読み出して表示部25に表示する(S16)。このステップS16は図5に示す物件情報表示手段223に相当する。そして、監視対象物件を表示した後、継続表示するか否かを判断し(S17)、継続表示する場合にはステップS12に戻り、同様の処理を繰り返し実行する。
【0036】
従って、以上のような実施の形態では、次のような効果を奏する。地震発生時にほとんど必ずP波とS波が発生するが、従来は各地震センサ15,16で検知したP波検知信号及びS波検知信号を両方とも監視装置2に送信していた。しかし、広域にわたって点在する各監視対象物件1,…から一斉に上記検知信号が通信回線3に送り込まれた場合、監視装置2に接続される通信回線3はパンク状態となる。これに対し、本発明に係る遠隔監視システムでは、P波を検知したとき、地震による管制運転モードの起動信号だけ運転制御部11に送出し、監視装置2への送信は行わない。そして、その後にS波を検知したときにS波検知信号を監視装置2に送信するので、通信回線3に対する利用回数がほぼ半減し、その減少分に相当する通信回線3の利用を地震発生以外の他の監視対象物件1,…からの物件情報に振り分けることができる。その結果、地震発生時であっても、地震発生地域外の地域に点在する監視対象物件1,…に関する様々な物件情報を確実に受信できる。このことは、地震以外の非常に重要な物件情報も確実に監視でき、現場に迅速に保守員を出動させることを意味する。
【0037】
また、この遠隔監視システムは、監視装置2が物件現在情報の種別に基づいて各監視対象物件1,…ごとにマーキングを施して表示することにより、各監視対象物件1,…が現在どのような状態にあるのか一目瞭然に認識でき、各監視対象物件1,…ごとに当該物件の状況に応じた保守用具等を持参の上、保守員を出動させることができる。つまり、迅速に保守作業を進めることが可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
この実施の形態は、相当広範囲の地域にわたる監視対象物件1,…を監視するとか、或いは各監視対象地域(例えば東京都、神奈川県等)ごとに多数の監視対象物件1,…を抱えている遠隔監視システムに有効な構成を実現することにあり、図3を参照して説明する。
【0039】
この遠隔監視システムは、監視センタ内に複数の監視装置2,…が設置されている。各監視装置2は、監視対象地域ごとに多数の監視対象物件1,…を抱えていることから、各監視対象地域に分けて、分散監視する。つまり、1つの監視装置2は、東京都地域を監視し、他の1つの監視装置2は神奈川県地域を監視する。
【0040】
そこで、本発明に係る遠隔監視システムとしては、内部ネットワーク(LAN等)31に各監視装置2,…を分散配置する。また、内部ネットワーク31には表示用コンピュータ32を介して大型表示ボード33が接続される。表示用コンピュータ32は、各監視装置2,…から転送されてくる監視対象物件情報を監視対象地域別に並べて大型表示ボード33に表示する。
【0041】
よって、各監視装置2には個別的に表示部25が設けられているが、地震発生時には広域に被害を及ぼすことから、全体の監視装置2,…は大型表示ボード33を利用することを可能とする。
【0042】
図9は、かかる遠隔監視システムにおける各監視装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。各監視装置2は、図5と同様に、物件情報受信書込み手段221、マーキング処理手段222、物件情報表示手段223を有する他、新たに特定物件抽出表示手段224および特定物件全件転送手段225を備えている。なお、物件情報受信書込み手段221、マーキング処理手段222、物件情報表示手段223については図5の説明に譲る。
【0043】
特定物件抽出表示手段224は、図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報の中から特定の物件現在情報種別(例えばエレベータ停止中「01」等の物件名に関する監視対象物件情報を抽出する。特定物件全件転送手段225は抽出した全部の監視対象物件情報を内部ネットワーク31に転送し、表示用コンピュータ32を介して大型表示ボード33に表示する。
【0044】
次に、以上のような遠隔監視システムにおける監視装置2の動作について図10を参照して説明する。なお、動作の重複的な説明を避けるために、ステップS11〜S16については、既に図8で説明しているので省略する。
【0045】
監視装置2の監視処理制御部22は、表示部25に監視対象物件情報を表示した後、物件現在情報のうち、エレベータ停止中の種別の物件現在情報を表示するか否かを判断する(S21)。例えば地震発生時には地震の影響を受けている監視対象物件だけを表示したい要求があり、また地震発生以外の場合にはかご内閉じ込めの非常呼びを表示したい場合がある。
【0046】
そこで、監視員は、入力部23からエレベータ停止を表すデータ「01」および物件抽出指示を入力する。監視処理制御部22は、データ「01」を有する物件抽出指示を受けると、エレベータ停止中の種別の物件現在情報を表示すると判断する。そして、エレベータ停止中の物件情報だけを抽出し(S22)、表示部25に表示する(S23)。なお、特定の物件現在情報種別の抽出は、エレベータ停止中に限らないことは前述した通りである。これらステップS21〜S23は図9に示す特定物件抽出表示手段224に相当する。
【0047】
引き続き、監視処理制御部22は、表示用コンピュータ32に転送するか否かを判断する(S24)。ここで、予め設定されるフラグあるいは入力部23から転送指示入力があれば、抽出物件情報を転送すると判断し、エレベータ停止中に関する図4に示す全部の監視対象物件情報を表示用コンピュータ32に転送する(S25,S26)。これらステップS24〜S26は図9に示す特定物件全件転送手段225に相当する。
【0048】
表示用コンピュータ32は、各監視装置2,…から特定の監視対象物件情報を受けると、物件情報種別ごとおよび監視対象地域ごとに整順し、大型表示ボード33に表示する。この時、物件情報種別ごとに分けて交互にサイクリックに表示することができる。
【0049】
この実施の形態によれば、監視員が必要とする物件種別の監視対象物件情報だけを抽出し、表示部25に表示するので、各地域ごとにどの程度例えばエレベータが停止しているか直ちに把握できる。また、地域のどのエリアに地震発生によるエレベータ停止が多いかを容易に把握でき、保守員を出動させるときの人数を含めて万全の対策を講じることができる。
【0050】
また、監視員が必要とする物件種別の監視対象物件情報だけを抽出し、大型表示ボード33に表示させることにより、特定の地域を監視する監視員は他の地域の地震によるエレベータの影響を容易に把握できる。
【0051】
(その他の実施の形態)
(1) 上記実施の形態では、P波用とS波用の地震センサ15,16に分けたが、1つの地震センサで共用してもよい。また、P波レベル設定部121とS波レベル設定部123に分けて設けたが、1つのレベル設定部にP波用とS波用のレベルを設定してもよい。
【0052】
(2) 図4に示す監視対象物件情報テーブルの物件情報は表示部25に表形式で表示するための情報配列例である。例えば監視対象地域の地図表示画面に監視対象物件を表示したい場合には、各物件名ごとに新たに緯度・経度情報を追加すれば、実現できる。
【0053】
(3) 上記実施の形態では、エレベータの遠隔監視を例にとって説明したが、エスカレータなどの他の昇降機設備や、その他あらゆる遠隔監視対象となり得る物件や機器に適用できる。
【0054】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る遠隔監視システムの全体構成を示す図。
【図2】図1に示す地震検知制御部を機能的に表した構成図。
【図3】図1に示す監視装置の一例を示す構成図。
【図4】図3に示すセンタデータベースに記憶される監視対象物件情報テーブルのデータ配列例を示す図。
【図5】図3に示す監視処理制御部を機能的に表した構成図。
【図6】地震検知制御部の動作手順を説明するフローチャート。
【図7】地震発生時の運転制御部から乗りかごや各階乗場に発報するメッセージの一例を示す図。
【図8】監視装置の動作手順を説明するフローチャート。
【図9】本発明に係る遠隔監視システムの他の実施の形態を説明するための監視装置の監視処理制御部を機能的に表した構成図。
【図10】他の実施の形態の動作を説明するフローチャート。
【図11】地震発生時のP波及びS波の伝播例を説明する概念図。
【符号の説明】
【0056】
1…監視対象物件、2…監視装置、3…通信回線、4…エレベータ制御装置、11…運転制御部、12…地震検知制御部、13…巻上機、15…P波地震センサ、16…S波地震センサ、22…監視処理制御部、25…表示部、26…センタデータベース、31…内部ネットワーク、32…表示用コンピュータ、33…大型表示ボード、122…管制運転起動信号発生手段、124…エレベータ停止指示信号発生手段、125…地震検知信号送信手段、221…物件情報受信書込み手段、222…マーキング処理手段、223…物件表示手段、224…特定物件抽出表示手段、225…特定物件全件転送手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生時に時間差をもって伝播する第1および第2の信号を検知する地震センサと、
前記第1の信号の検知に基づいて昇降機の管制運転モードを起動させるための切替え信号を運転制御部に送出する管制運転起動信号発生手段と、前記第2の信号の検知に基づいて昇降機の停止指示信号を前記運転制御部に送出する停止指示信号発生手段と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線を介して送信する地震検知信号送信手段とを備えた監視対象物件の地震検知制御部と、
前記通信回線に接続され、前記監視対象物件から送信されてくる前記センサ検知信号を受信する監視装置と
を設けたことを特徴とする遠隔監視システム。
【請求項2】
前記監視装置は、前記監視対象物件の物件名を含む所定の監視対象物件情報をテーブル化して記憶する記憶手段と、前記各監視対象物件からセンサ検知信号を受けると、該当する物件名に対応付けて物件現在情報を書き込む物件情報受信書込み手段と、この物件現在情報の種別に応じたマーキング処理を施すマーキング処理手段と、このマーキング処理を施した後、前記テーブル上の監視対象物件情報を表示する物件情報表示手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項3】
前記監視装置は、前記物件情報表示手段によって監視対象物件情報を表示した後、前記物件現在情報の種別に基づいて特定の監視対象物件情報だけを抽出し表示する特定物件抽出表示手段をさらに付加したことを特徴とする請求項2に記載の遠隔監視システム。
【請求項1】
地震発生時に時間差をもって伝播する第1および第2の信号を検知する地震センサと、
前記第1の信号の検知に基づいて昇降機の管制運転モードを起動させるための切替え信号を運転制御部に送出する管制運転起動信号発生手段と、前記第2の信号の検知に基づいて昇降機の停止指示信号を前記運転制御部に送出する停止指示信号発生手段と、前記第2の信号を検知した時点で前記センサ検知信号を通信回線を介して送信する地震検知信号送信手段とを備えた監視対象物件の地震検知制御部と、
前記通信回線に接続され、前記監視対象物件から送信されてくる前記センサ検知信号を受信する監視装置と
を設けたことを特徴とする遠隔監視システム。
【請求項2】
前記監視装置は、前記監視対象物件の物件名を含む所定の監視対象物件情報をテーブル化して記憶する記憶手段と、前記各監視対象物件からセンサ検知信号を受けると、該当する物件名に対応付けて物件現在情報を書き込む物件情報受信書込み手段と、この物件現在情報の種別に応じたマーキング処理を施すマーキング処理手段と、このマーキング処理を施した後、前記テーブル上の監視対象物件情報を表示する物件情報表示手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項3】
前記監視装置は、前記物件情報表示手段によって監視対象物件情報を表示した後、前記物件現在情報の種別に基づいて特定の監視対象物件情報だけを抽出し表示する特定物件抽出表示手段をさらに付加したことを特徴とする請求項2に記載の遠隔監視システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−119240(P2007−119240A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317640(P2005−317640)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
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