説明

配線の形成方法および形成装置

【課題】有機導電性材料を含む塗布組成物をプラスチック基板上に形成した後、高い電気電導度の配線を形成することができる配線の形成方法および形成装置を提供すること。
【解決手段】プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材を準備し、少なくとも前記配線パターンに電磁波を照射してアニールし、有機導電性材料からなる配線を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板に対し、塗布で配線を形成する配線の形成方法および形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、太陽電池や大型ディスプレイ等の大型デバイスにおいては、安価でフレキシブルな大面積プラスチック基板の上に素子を形成することが検討されている。このようなプラスチック基板を用いることにより、曲面への設置が可能であり、また、従来のガラス基板上に形成される大型デバイスと比較して破損しにくいという大きなメリットがあり、多岐に亘る用途への適用が期待されている。
【0003】
このようなプラスチック基板上に素子パターンを形成する場合、従来から用いられているフォトリソグラフィー法ではコストが極めて高いものとなることから、面積当たりのコストを低くして配線パターンを形成することが可能な塗布印刷を適用することが試みられている。
【0004】
塗布印刷に用いられる塗布組成物としては、金属粒子に分散剤や溶媒等を加えた金属ナノ粒子インクや、ポリマーに他のポリマーをドーピングした有機導電性材料等が知られているが、このような塗布組成物を塗布したのみではその中に含まれる分散剤や溶媒やポリマー等の存在により電気伝導性が低いものとなってしまうため、抵抗加熱によりこれらを除去する必要がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−243836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような抵抗加熱を用いて分散剤や溶媒を除去する方法は、基板が高温になるため、プラスチック基板に適用することは困難である。また、導電性材料として有機導電性材料を用いる場合には、抵抗加熱により加熱することにより有機材料の構造が壊れることがあり、この構造変化により電気伝導性が低下する。このように従来の塗布印刷による配線パターンの形成は、基板が高温になるため、プラスチック基板を適用することは困難であり、安価、フレキシブル、大型化に対応が容易であるといった利点が十分に生かせないのが現状である。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、有機導電性材料を含む塗布組成物をプラスチック基板上に形成した後、高い電気電導度の配線を形成することができる配線の形成方法および形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点では、プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材を準備し、少なくとも前記配線パターンに電磁波を照射してアニールし、前記有機導電性材料からなる配線を形成することを特徴とする配線の形成方法を提供する。
【0009】
上記第1の観点において、前記電磁波の周波数を、前記有機導電性材料に対する吸収性が高くなるように設定することが好ましい。この場合に、前記電磁波の周波数は、前記塗布組成物の誘電分散特性の吸収ピーク値またはその近傍の値であることが好ましい。
【0010】
前記塗布組成物は有機導電性材料の水溶液であり、前記配線パターンに電磁波を照射することにより、塗布組成物の乾燥および改質が行われるようにすることができる。この場合に、前記塗布組成物の乾燥の際には、乾燥に適した周波数の電磁波を照射し、前記改質の際には改質に適した周波数の電磁波を照射することが好ましい。
【0011】
また、前記有機導電性材料としてポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を好適なものとして用いることができる。さらに、前記プラスチック基板の耐熱温度以下の温度に基板を加熱しながら電磁波を照射するようにすることができる。さらにまた、前記プラスチック基板を冷却しながら電磁波を照射するようにすることもできる。さらにまた、前記電磁波の照射をパルス的に行なってもよい。電磁波は、その周波数が5KHz〜200GHzであることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の観点では、内部に所定の雰囲気が形成される処理容器と、プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材を前記処理容器内に配置する手段と、前記部材の少なくとも前記配線パターンに電磁波を照射する電磁波照射部とを具備し、前記配線パターンに前記電磁波照射部からの電磁波が照射されることにより、前記有機導電性材料からなる配線が形成されることを特徴とする配線の形成装置を提供する。
【0013】
上記第2の観点において、前記処理容器内に配置された前記部材の前記プラスチック基板の温度を制御する温度制御機構をさらに具備するようにしてもよい。また、前記電磁波照射部は、前記電磁波の周波数を、前記有機導電性材料に対する吸収性が高くなるように設定することが可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材の少なくとも配線パターンに電磁波を照射してアニールすることにより、プラスチック基板はほとんど加熱されず、配線パターンの有機導電性材料は主に誘導損失により加熱されて構造変化を生じ、再配列を起こして、電気電導度が向上し、塗布したままの状態よりも高い電気電導度を有する配線を得ることができる。また、塗布組成物に有機導電性材料の水溶液を用いた場合に、電磁波照射によるアニールにより、プラスチック基板をほとんど加熱することなく水分を加熱して乾燥することができるので、塗布組成物の乾燥および改質の両方を行って高い電気電導度を有する配線を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る配線の形成方法を示すフローチャートである。
【図2】PEDOT/PSS(固体)の誘電分散を測定した結果を示すチャートである。
【図3】PEDOT/PSSの水溶液、PEDOT/PSSの水溶液にエチレングリコールを添加したもの、PET基板、PC基板、純水の誘電分散を示すチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る配線の形成方法を実施するための配線の形成装置を示す断面図である。
【図5】本発明の効果を確認するために用いたサンプルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る配線の形成方法を示すフローチャートである。
【0017】
まず、プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターン(電極パターンも含む)が形成された部材、例えばデバイスを形成するためのデバイスシートを準備する(工程1)。
【0018】
プラスチック基板としては特に制限はないが、安価なPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)等を好適に用いることができる。
【0019】
有機導電性材料としては、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)[略称:PEDOT/PSS]、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポロピール、ポリチオフェン等を挙げることができる。
【0020】
塗布組成物を塗布することにより配線パターンを形成するための印刷方式としては、微細パターンに対する追従性が良好なものを採用することが好ましく、例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷、マイクロコンタクトプリント(MCP)等を好適に用いることができる。
【0021】
塗布組成物としては、印刷方式に応じて、また有機導電性材料に応じて溶媒、および各種添加剤等を混合して粘度を適宜調製されたものを用いることができる。典型的には、このように粘度が調製されてインク状とされた塗布インクが用いられる。
【0022】
次に、このようにして準備した部材(デバイスシート)の少なくとも配線パターン部分に電磁波を照射してアニールする(工程2)。
【0023】
上記のような塗布材を塗布したままの状態では、有機導電性材料が十分に導電性が発揮されない構造であることが多く、また、塗布したままの配線パターンには溶媒や各種添加物が含まれているため、その電気伝導度は低い。このため、配線パターンに電磁波照射によるアニールを施して電気伝導性を上昇させた配線を形成する。電磁波照射によるアニールは、少なくとも配線パターンに電磁波を照射することにより実現されるが、典型的にはデバイスシートの全面に電磁波を照射するようにして行われる。
【0024】
一般的に、この種の塗布材のアニールには抵抗加熱が用いられていたが、抵抗加熱の場合には、溶媒を揮発させて高い電気伝導度の構造を得るためには比較的高い温度が必要となる。このため、本実施形態のようにプラスチック基板を用いる場合には加熱温度がその耐熱温度以上となってしまう。また、抵抗加熱により高い温度に加熱すると、有機導電性材料の導電性を発現する構造が破壊されることがある。
【0025】
そこで、本実施形態では、配線パターンのアニールに電磁波照射による加熱(電磁波加熱)を用いる。電磁波加熱は、以下に説明するように抵抗加熱のようにプラスチック基板をほとんど加熱することなく配線パターンのみを加熱することができるため、プラスチック基板であっても問題なく適用可能である。ただし、プラスチック基板の材料の耐熱温度以下であれば、補助的に基板の温度を上げてもよい。
【0026】
電磁波加熱は、下記の(1)式に示すように、伝導による損失(誘導損失)、誘電損失、磁性損失の和で表される。
P=1/2×πfσ|E|+πfεε”r|E|+πfμμ”r|H| (1)
ただし
P:単位体積あたりのエネルギー損失[W/m
E:電場[V/m]、H:磁場[A/m]、σ:電気伝導度[S/m]
f:周波数[s−1]、ε:真空の誘電率[F/m]、ε”r:誘電損失
μ0 :真空の透磁率[H/m]、μ”r
:磁気損失
である。
【0027】
電磁波加熱では、材料の種類に応じた、誘導損失、誘電損失、磁性損失の差異を利用することにより選択加熱が可能となる。すなわち、配線に用いられる有機導電性材料は、導電性物質であることから、電磁波を照射すると主にうず電流による誘導損失により加熱される。一方、プラスチック基板は誘導損失も誘電損失も少ない高分子材料であるため、ほとんど加熱されない。
【0028】
配線パターンを構成する有機導電性材料、例えばPEDOT/PSSは、電磁波が照射されて主に誘導損失により加熱されると、再配列などの構造変化が生じ、材料自体の電気伝導度が上昇する。このとき、電磁波は必要に応じて添加された水や有機溶剤等の溶媒にも作用し、誘導損失や誘電損失によりこれらが加熱されて揮発する。このため、電磁波アニールにより得られた配線(電極を含む)は、アニール前よりも極めて高い電気伝導性を示すものとすることができる。
【0029】
また、有機導電性材料には材料に応じた吸収性の高い周波数が存在する。そのため、効率良くマイクロ波加熱を行うためには、材料に応じた吸収性の良い周波数を選択して照射することが好ましい。
【0030】
このような電磁波の周波数に対応した吸収性を把握するためには、有機導電性材料の導電性が発現する前の誘電体の状態において誘電分散を測定することが有効である。つまり、電子分極、イオン分極、配向分極等に起因して、電磁場の振動数(電磁波の周波数)により誘電体の誘電率が変化するが、電子分極、イオン分極、配向分極等が生じる周波数では誘電率が高くなり、その周波数で誘電損失が大きくなる。すなわち、電磁波の吸収が大きくなる。
【0031】
このように、ここで用いる有機導電性材料は、誘電分散特性において電子分極、イオン分極または配向分極による電磁波の吸収ピークをもつものである。例えばPEDOT/PSSは、PEDOT〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)]にPSS[ポリスチレンスルホン酸]をポリマードーピングして導電性を持たせているため、強いイオン結合をもつ。このため誘電分散特性において、イオン分極による電磁波の大きな吸収ピークをもつ材料となっている。
【0032】
図2はPEDOT/PSSの誘電分散特性を測定した結果を示すチャートであり、縦軸は複素誘電率の実部と誘電損を示す。PEDOT/PSSは水分を95%位含む液体(水溶液)であるが、図2に示したPEDOT/PSSはこれを乾燥させた固体(膜状)のPEDOT/PSSについてのものである。電磁波の周波数が1×1011Hzすなわち100GHz付近で比誘電率(誘電損失)のピークが現れているから、100GHzまたはその近傍(−50%〜+100%以内)の電磁波を照射することにより、より有効に電磁波が作用すると考えられる。
【0033】
図3は、PEDOT/PSSの水溶液、PEDOT/PSSの水溶液にエチレングリコール(EG)を添加したもの、PET基板、PC基板、および純水の誘電分散を示すチャートである。図3の縦軸は複素誘電率の虚部であり、これが電磁波の吸収特性を示す。したがって、図3において複素誘電率の虚部の値が高いほどその周波数の吸収エネルギーが高いこととなる。
【0034】
図3に示すように、誘電体であるPET基板、PC基板は、誘電分散特性は吸収ピークを持たず低いままであるから、どの周波数の電磁波エネルギーもほとんど吸収しない。これに対して、導体であるPEDOT/PSSの水溶液は80〜100MHz付近および10GHz付近に吸収ピークを有し、半導体である純水は10kHzおよび20GHz付近に吸収ピークを有し、これらの周波数の電磁波を照射することによりエネルギーを吸収することがわかる。したがって、照射する電磁波の周波数を適切に選択することにより、好ましくは誘電分散特性の吸収ピークまたはその近傍の周波数の電磁波を用いることにより、そのエネルギーを基板には吸収させずに塗布組成物であるPEDOT/PSSの水溶液のみに吸収させることができる。また、同等のピーク高さであれば周波数が高いほど吸収エネルギーが大きくなる傾向となる。すなわち、基板を低温のままにして塗布組成物であるPEDOT/PSSの水溶液のみにエネルギーを与えて短時間で乾燥を行い、さらに改質を行って低抵抗の配線を形成することができる。具体的には、最初に水に対して吸収性のよい第1の周波数の電磁波を照射し水成分を選択的に加熱して乾燥させ、引き続きPEDOT/PSSに対して吸収性のよい第2の周波数の電磁波を照射して改質させるようにすることができる。
【0035】
なお、図3には、PEDOT/PSSの水溶液の誘電分散特性の他に、吸収性を上昇させると言われているエチレングリコール(EG)を15%添加したPEDOT/PSSの水溶液の誘電分散特性も示すが、誘電分散特性のピークがEG添加なしの場合とは異なり1MHz付近であり、EG添加PEDOT/PSSの水溶液の場合にはそれに適した周波数の電磁波を使用する必要がある。
【0036】
このように電磁波照射により過渡的には選択加熱が可能であるが、照射時間が長くなると、熱平衡に近くなり、伝熱により基板が高温になって十分な選択加熱が行えないそれがある。このようなことを回避するためには、電磁波照射面の反対側から基板を冷却することや、電磁波照射をパルス的に行い、このパルスのデューティ比を制御することにより基板の加熱を抑えることが好ましい。
【0037】
次に、配線を形成するための装置について説明する。図4は本発明の実施形態に係る配線の形成方法を実施するための配線の形成装置を示す断面図である。この配線の形成装置1は、処理容器2、ガス導入機構3、排気機構4、載置台5、放射温度計6、電磁波供給部8、全体制御部9を有している。
【0038】
処理容器2は、例えばアルミニウムにより形成されており、接地されている。処理容器2の天井部は開口されており、この開口部にはシール部材21を介して、天板22が気密に設けられている。天板22の材料は、例えば石英、窒化アルミニウム等の誘電体である。
【0039】
プラスチック基板S上に有機導電性材料が塗布されて配線パターンCが形成されたアニール前のデバイスシート(部材)Dを搬入する搬入口23と、アニール後のデバイスシートDを搬出する搬出口24とが処理容器2の側壁の対向する位置に開口されている。
【0040】
搬入口23および搬出口24には、それぞれシャッタ2A、2Bが設けられている。シャッタ2A、2Bは、搬送機構(図示せず)がデバイスシートDの搬送を停止し、後述するように電磁波が照射されている場合、処理容器2内部の電磁波およびガスが外部へ漏れないように、それぞれ搬入口23および搬出口24を閉じる機能を有する。また、シャッタ2A、2Bは、軟らかい金属、例えばインジウム、銅等からなり、デバイスシートDが停止した際にデバイスシートDを圧接するようになっている。デバイスシートDは繰り出しロール(図示せず)に巻回した状態とされ、この繰り出しロールから繰り出したデバイスシートDが処理容器2内に搬入され、反対側に設けられた巻き取りロール(図示せず)に巻き取られるようになっている。
処理容器2底部の周縁部には、排気機構4と接続される排気口25が設けられている。
【0041】
ガス導入機構3は、処理容器2の側壁を貫通する例えば2本のガスノズル31A、31Bを有しており、図示しないガス供給源から処理に必要なガスを処理容器2に供給する。ここでのガスは、例えばアルゴン、ヘリウム等の希ガスや窒素等からなる不活性ガスである。なお、ガスノズルの本数は、2本に限るものではなく、適宜増減してもよい。
【0042】
排気機構4は、排気が流通する排気通路41、排気圧力を制御する圧力制御弁42および処理容器2内部の雰囲気を排出する排気ポンプ43を含む。排気ポンプ43は、排気通路41および圧力制御弁42を介して、処理容器2内部の雰囲気を、所定の真空度まで排気するようになっている。なお処理容器2内の雰囲気を排気せずに、その雰囲気を大気圧としてもよい。
【0043】
載置台5は、処理容器2の底部に形成された開口に、シール部材26を介在させて気密に取り付けられている。載置台5は接地されている。載置台5は、載置台本体51を有しており、載置台本体51上にデバイスシートDが載置される。載置台本体51の内部には抵抗加熱ヒーター52が埋設されており、ヒーター電源53から抵抗加熱ヒーター52に給電されることにより、プラスチック基板Sを加熱可能となっている。載置台本体51内には冷媒流路55が形成されている。冷媒流路55は、冷媒導入管56と冷媒排出管57とを介して、冷媒を循環させる冷媒循環器58に接続されている。冷媒循環器58が動作することにより、冷媒が冷媒流路55を流通循環し、プラスチック基板Sを冷却することができる。
【0044】
放射温度計6は、放射温度計本体61と光ファイバ62とを含んでおり、プラスチック基板Sの温度を測定可能となっている。光ファイバ62は、載置台本体51に垂直に形成された貫通孔54に挿通されており、載置台本体51の上面から載置台本体51の底面を突き抜けて下方へ延び、処理容器2外部に設けられた放射温度計本体61と接続されている。光ファイバ62は、プラスチック基板Sからの輻射光を放射温度計本体61に案内することができようになっており、プラスチック基板Sの温度を測定することができるようになっている。そして、この測定した温度に基づいて全体制御部9からの指令により、抵抗加熱ヒーター52と冷媒流路55を流れる冷媒により、プラスチック基板Sの温度を制御可能となっている。
【0045】
電磁波供給部8は、処理容器2の外部に設けられている。電磁波供給部8は、導波管82および入射アンテナ83を含む。電磁波発生源81は導波管82の一端と接続され、導波管82の他端は入射アンテナ83と接続されている。
【0046】
電磁波発生源81としては、RF電源、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロン等を用いることができる。これらの中ではRF電源、マグネトロンおよびジャイロトロンが好適である。ジャイロトロンはミリ波(1mm≦波長≦10mm)からサブミリ波(0.1mm≦波長≦1mm)にかけての電磁波を発生し、マグネトロンはセンチ波(1cm≦波長≦10cm)の電磁波を発生する。すなわち照射する電磁波としては、図3に示す誘電分散特性のピークとなる周波数10KHz〜100GHzの周波数帯をカバーできることが好ましい。さらに好ましくはその近傍(−50%〜+100%)の5KHz〜200GHzの周波数帯をカバーできることである。電磁波発生源81は、発生した電磁波を導波管82に出力する。導波管82は、電磁波発生源81で発生した電磁波を入射アンテナ83に伝搬させる金属製の管または同軸ケーブルであり、円形または矩形の断面形状を有している。なお、照射する電磁波の周波数レンジが広い場合には、電磁波発生源81として周波数レンジが異なる複数のものを設置し、周波数によってそれらを切り替えられるようにすることが好ましい。
【0047】
入射アンテナ83は、板状をなし天板22の上面に設けられており、例えば表面が銀メッキされた銅板またはアルミニウムで構成されている。入射アンテナ83には、図示しない複数の鏡面反射レンズや反射ミラーが設けられており、導波管82から導かれた電磁波を処理容器2の処理空間に向けて導入できるようになっている。なお、入射アンテナ83は、処理容器2の側壁に設けられていてもよい。
【0048】
全体制御部9はマイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えており、例えば放射温度計6等のセンサ類からの信号を受けて、配線の形成装置1における各構成部を制御するようになっている。全体制御部9は配線の形成装置1のプロセスシーケンスおよび制御パラメータであるプロセスレシピを記憶した記憶部や、入力手段およびディスプレイ等を備えており、選択されたプロセスレシピに従って装置1を制御するようになっている。
【0049】
次に、このように構成される配線の形成装置1の動作について説明する。
まず、PET、PEN、PC、PI等のプラスチック基板S上に、有機導電性材料を含む原料インク(塗布組成物)、例えばPEDOT/PSSの水溶液を、塗布して配線パターンCが形成されたデバイスシートDを準備し、電磁波発生源81から発生する電磁波の周波数を、配線パターンを構成する有機導電性材料に適合した周波数のものとする。
【0050】
そして、繰り出ロール(図示せず)から繰り出したデバイスシートDを、搬入口23から搬入し、載置台5に載置させる。そして、シャッタ2A、2Bにより搬入口23および搬出口24を閉じる。
【0051】
また、デバイスシートDの端部には配線パターンが形成されていないリード材が接続されており、リード材が巻き取りロール(図示せず)に取り付けられた状態とされる。これにより、デバイスシートDの最初の部分に対する電磁波照射が可能となる。
【0052】
このとき、載置台本体51内の抵抗加熱ヒーター52および/または冷媒流路55を流れる冷媒により、プラスチック基板Sの温度が所定の温度に制御される。この際に、冷媒流路55に冷媒を流すことによりプラスチック基板Sを十分に冷却しておくことが好ましい。
【0053】
また、ガスノズル31A、31Bから、例えばアルゴン、ヘリウム等の希ガスや窒素等の所定の不活性ガスが処理容器2内に導入されるとともに、排気機構4により排気されて、処理容器2内に減圧雰囲気が形成される。あるいは処理容器2内を排気せずに、大気圧雰囲気とする。
【0054】
この状態で、電磁波供給部8の電磁波発生源81から発生した所定波長の電磁波を、導波管82を経て入射アンテナ83に導き、天板22を透過して処理容器2内に導入する。
【0055】
処理容器2内に導入された電磁波は、デバイスシートDに照射され、塗布された配線パターンCがアニールされる。このとき、プラスチック基板Sは電磁波が吸収されないためほとんど加熱されず、配線パターンCは電磁波のエネルギーが吸収されて誘導損失により加熱される。すなわち、配線パターンCを構成する原料インクは例えばPEDOT/PSSの水溶液からなっており、PEDOT/PSSも水も電磁波の周波数を適切に選択することによりエネルギーを吸収するので、電磁波の照射によりまず原料インクが乾燥され、乾燥された後のPEDOT/PSSは、さらなる電磁波照射により加熱されると、有機材料構造の再配列などの構造変化(改質)が生じ、材料自体の電気伝導度が上昇する。このため、電磁波を照射してアニールすることにより、短時間でアニール前よりも極めて高い電気伝導性を示す配線が得られる。
【0056】
このとき、冷媒流路55に冷媒を流してプラスチック基板Sを十分に冷却しながら電磁波を照射することにより、より強い選択性で原料インクを加熱することができる。
【0057】
また、最初に水成分に吸収されやすい周波数(例えば、10kHz、または20GHz)の電磁波を照射して水成分を選択加熱し、短時間で乾燥させ、次にPEDOT/PSSに吸収されやすい周波数(例えば1MHz、100MHz、または5〜20GHz)の電磁波を照射してPEDOT/PSSを選択加熱して改質させることにより、極めて効率よく低抵抗の配線を形成することができる。
【0058】
このようにして、最初の電磁波アニールが終了した後は、電磁波の照射を停止し、処理容器2内が減圧の場合は常圧に戻した後、シャッタ2A、2Bを開けてデバイスシートDの次に処理する部分が載置台5に載置されるまでデバイスシートDを搬送する。そして、同様な処理を実施する。このような動作を順次繰り返し、デバイスシートDの最後まで電磁波アニールを行う。
【0059】
次に、原料インクとしてPEDOT/PSSの水溶液を用いて電磁波による選択加熱を確認した実験について説明する。
ここでは、図5に示すように、便宜的に基板として40mm□で厚さ725μmの合成石英基板を用い、その全面にPEDOT/PSS水溶液を塗布し、乾燥させて厚さ152〜155nmのPEDOT/PSS塗布膜とした後、基板温度を変えて、かつ照射する電磁波の周波数を140GHzと107GHzの2水準で変化させて電磁波をPEDOT/PSS塗布膜に照射してアニールを行った。その結果を表1に示す。表1に示すように、周波数がPEDOT/PSSに対する吸収の高い100GHz付近である107GHzであって、基板温度を100〜240℃にしたサンプル4において、処理前電気伝導度σに比較して2.2倍もの高い処理後電気伝導度σが得られた。従来の抵抗加熱ではPEDOT/PSSに100〜240℃もの温度をかけると構造が破壊されてほとんどの場合電気電導度が低下していたが、周波数および基板温度等の条件を最適化して電磁波アニールを行うことにより、電気伝導度を上げることができることが確認された。
【0060】
【表1】

【0061】
次に、上記表1のサンプル1〜4と、膜を形成しない合成石英基板に基板温度を変えて、かつ照射する電磁波の周波数を140GHzと107GHzの2水準で変化させて電磁波を照射したサンプル5〜8について、電磁波の吸収効率を算出した結果について表2に示す。
【0062】
吸収効率は、投入電力P1[W]と吸収電力P2[W]によりP2/P1で算出される。吸収電力P2については、全体の密度(石英の密度または石英+膜の合成密度)、体積、全体の比熱(石英の比熱(理科年表の値)または石英+膜の合成比熱(PEDOT/PSS膜の比熱は実験値))、および昇温速度(温度特性より算出した値)から算出した値を用いた。
【0063】
表2に示すように、石英基板では吸収効率が0.0060〜0.0065であり、電磁波の周波数にも基板温度にも依存せずに低い値であったのに対し、PEDOT/PSS膜が塗布された基板では0.0140〜0.0637と基板単体よりも吸収効率が高く、その値は電磁波の周波数および基板温度に依存することが確認された。石英基板はプラスチック基板と同様の誘電体であるのでプラスチック基板を用いた場合も同様の結果が得られるものと推測される。
【0064】
【表2】

【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態における配線の形成装置はあくまでも一例であって、プラスチック基板に形成された配線パターンを電磁波でアニールできるものであれば上記装置に限るものではない。
【符号の説明】
【0066】
1…配線の形成装置
2…処理容器
3…ガス導入機構
4…排気機構
5…載置台
8…電磁波供給部
9…全体制御部
S…プラスチック基板
C…塗布された配線パターン
D…デバイスシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材を準備し、少なくとも前記配線パターンに電磁波を照射してアニールし、前記有機導電性材料からなる配線を形成することを特徴とする配線の形成方法。
【請求項2】
前記電磁波の周波数を、前記有機導電性材料に対する吸収性が高くなる周波数に設定することを特徴とする請求項1に記載の配線の形成方法。
【請求項3】
前記電磁波の周波数は、前記塗布組成物の誘電分散特性の吸収ピーク値またはその近傍の値であることを特徴とする請求項2に記載の配線の形成方法。
【請求項4】
前記塗布組成物は有機導電性材料の水溶液であり、前記配線パターンに電磁波を照射することにより、塗布組成物の乾燥および改質が行われることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項5】
前記塗布組成物の乾燥の際には、乾燥に適した周波数の電磁波を照射し、前記改質の際には改質に適した周波数の電磁波を照射することを特徴とする請求項4に記載の配線の形成方法。
【請求項6】
前記有機導電性材料がポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項7】
前記プラスチック基板の耐熱温度以下の温度に基板を加熱しながら電磁波を照射することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項8】
前記プラスチック基板を冷却しながら電磁波を照射することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項9】
前記電磁波の照射はパルス的に行なわれることを特徴とする請求項1から請求項6、および請求項8のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項10】
前記電磁波は、その周波数が5KHz〜200GHzであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の配線の形成方法。
【請求項11】
内部に所定の雰囲気が形成される処理容器と、
プラスチック基板上に有機導電性材料を含む塗布組成物が塗布されて配線パターンが形成された部材を前記処理容器内に配置する手段と、
前記部材の少なくとも前記配線パターンに電磁波を照射する電磁波照射部と
を具備し、前記配線パターンに前記電磁波照射部からの電磁波が照射されることにより、前記有機導電性材料からなる配線が形成されることを特徴とする配線の形成装置。
【請求項12】
前記処理容器内に配置された前記部材の前記プラスチック基板の温度を制御する温度制御機構をさらに具備することを特徴とする請求項11に記載の配線の形成装置。
【請求項13】
前記電磁波照射部は、前記電磁波の周波数を、前記有機導電性材料に対する吸収性が高くなるように設定することが可能であることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の配線の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191156(P2012−191156A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143093(P2011−143093)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】